説明

情報記憶媒体および情報記憶装置

【課題】記録磁場による磁化反転を記録原理としない新しい記録方式で磁化を記録可能な情報記憶媒体および情報記憶装置を提供する。
【解決手段】本件開示の情報記憶媒体は、記憶層と反強磁性層とを備えている。この記億層は、第1の波長の光の照射を受けると磁化が生じ、その第1の波長とは異なる第2の波長の光の照射を受けると磁化が消える、磁化の有無によって情報を記憶するものである。また、反強磁性層は、上記記憶層が重なった、その記憶層と磁気的に交換結合したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件開示は、情報記憶媒体および情報記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ハードディスク装置(HDD;Hard Disk Drive)に代表される、媒体に磁化で情報を記憶する情報記憶装置が知られている。この情報記憶装置には、パーソナルコンピュータやDVD(Digital Versatil Disc)レコーダ等に内蔵される内蔵型が知られている。また、パーソナルコンピュータ等に外付けされる外付け型も知られている。いずれの型の情報記憶装置に対しても、記憶容量の増大化、装置の小型化、コスト低減等の要求を満たすために、単位面積、若しくは単位体積辺りの記録容量を増加させることが求められている。
【0003】
近年、HDDにおいては、高記録密度においても記録ビットの安定性が高い垂直磁気記録方式の装置が実用化されている。さらに将来技術として、より高密度での記録を狙った技術についても研究開発が盛んである。そのような将来技術としては、記録ビットとして用いられる微細ビットを微細加工で媒体上に固定的に作りこむビットパターンドメディアの技術や記録ビットへ磁化情報を熱と磁界で書き込む熱アシストの技術などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−216673号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S.Ohkoshi et.al.,Chem.Mater.20,3048−3054(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、媒体に磁化で情報を記録する情報記憶装置における従来の記録方式では、記録磁場による磁化反転が、程度の差こそあれ原理的に用いられている。このため、媒体が有する磁性体の異方性磁界のばらつきや周りの記録ビットからの漏れ磁界による干渉等により、各々の記録ビットで磁化反転磁界が異なる。つまり、媒体の全体として磁化反転磁界の分布を持ってしまうことが原理的に避けられない。そして、このような磁化反転磁界の分布は記録精度の低下を招く。将来技術であるビットパターンメディアの技術や熱アシストの技術でも、この記録ビットの磁化反転磁界の分布が高密度記録化への大きな障害となっている。
【0007】
一方で、磁化によって情報を記録することには、特に情報再生の技術として高密度記録化に対応可能な優れた磁気ヘッドの技術が存在しているという点で大きな利点がある。
【0008】
理論的に言えば、記録磁場による磁化反転を記録原理とせずに磁化を記録することができる新しい記録方式であれば上記のような記録精度の低下は生じないはずであるが、そのような新しい記録方式で磁化を記録可能な情報記録媒体や情報記憶装置は知られていない。
【0009】
上記事情に鑑み、本件開示は、記録磁場による磁化反転を記録原理としない新しい記録方式で磁化を記録可能な情報記憶媒体および情報記憶装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する情報記憶媒体の基本形態は、基板と、その基板上に配置される反強磁性層と、その反強磁性層上に配置される記憶層とを有する。
【0011】
上記記憶層は、上記反強磁性層と交換結合し、かつ第1の波長の光の照射を受けると磁化が生じ、その第1の波長とは異なる第2の波長の光の照射を受けると磁化が消えるものである。
【0012】
また、上記目的を達成する情報記憶装置の基本形態は、上記情報記憶媒体と、光源と、光学系と、情報再生部とを備えている。
【0013】
上記光源は、上記第1の波長の光と上記第2の波長の光とを情報に応じて切り替えながら発光するものである。
【0014】
上記光学系は、上記光源が発光する光を導いて上記情報記憶媒体の記憶層に照射するものである。
【0015】
上記情報再生部は、上記記憶層における磁化の有無を磁気的に検知することで情報を再生するものである。
【発明の効果】
【0016】
情報記憶媒体および情報記憶装置の上記基本形態によれば、2種類の光の照射で磁化を記録することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】情報記憶装置の具体的な一実施形態を示す図である。
【図2】ヘッドアームアセンブリの先端近辺を示す図である。
【図3】情報記憶媒体の構造を示す図である。
【図4】情報記憶媒体に光で情報が記録される様子を示す図である。
【図5】情報記憶媒体から情報が消去される様子を示す図である。
【図6】情報が記録されていない情報記憶媒体に対する情報再生の様子を示す図である。
【図7】情報が記録されている情報記憶媒体に対する情報再生の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
基本形態について上記説明した情報記憶媒体および情報記憶装置に対する具体的な実施形態を、以下図面を参照して説明する。
【0019】
図1は、情報記憶装置の具体的な一実施形態を示す図である。
【0020】
図1に示す情報記憶装置100は、パーソナルコンピュータなどといったタイプのホスト装置の外部に接続され、あるいはDVDなどといったタイプのホスト装置の内部に組み込まれて利用される装置である。
【0021】
図1に示すように、情報記憶装置100のハウジング101には、情報記憶媒体200、スピンドルモータ110、ヘッドアームアセンブリ130、ボイスコイルモータ140、制御回路160、光源170が収容されている。
【0022】
情報記憶媒体200は、円盤(ディスク)状の形状を有している。この情報記憶媒体200は、後で詳述するように、情報が光によって記録される媒体であって、その情報を、ディスク表面に対して垂直な方向の磁化の有無で記憶する媒体である。この情報記憶媒体200は、上述した基本形態における情報記憶媒体の一例に相当する。
【0023】
スピンドルモータ110は情報記憶媒体200をディスク面に沿った方向に回転させるものである。
【0024】
ヘッドアームアセンブリ130は、先端にヘッドスライダ120(図2参照)を保持している。このヘッドスライダ120には、後述するように、情報記憶媒体200に対して情報を光で記録するための光学ヘッドと、情報記憶媒体200から情報を磁気的に再生するための再生ヘッドが搭載されている。ヘッドアームアセンブリ130がアーム軸131を中心に回転移動することで、このヘッドスライダ120は、情報記憶媒体200のディスク表面に沿って移動する。ボイスコイルモータ140は、ヘッドアームアセンブリ130の回転移動を駆動するものである。また、図示は省略するが、ヘッドアームアセンブリ130の表面には、再生ヘッドからの再生信号が通る配線パターンと、光学ヘッドへの記録光が通る導波路が設けられている。
【0025】
制御回路160は、フレキシブルプリント基板150によってヘッドアームアセンブリ130上の配線パターンと繋がっている。また、光源170は、光ファイバ155によってヘッドアームアセンブリ130上の導波路と繋がっている。
【0026】
制御回路160は、スピンドルモータ110による情報記憶媒体200の回転やボイスコイルモータ140によるヘッドアームアセンブリ130の駆動を制御することで、情報記憶媒体200のディスク表面におけるヘッドスライダ120の位置を制御する。また、制御回路160は、フレキシブルプリント基板150などを介して再生信号を再生ヘッドから得ることで、情報記憶媒体200からの情報再生を制御する。さらに、この制御回路160は、光源170の発光タイミングを制御することで情報記憶媒体200への情報記録も制御する。
【0027】
光源170は、波長が840nmの第1光を発する第1光源171と、波長が532nmの第2光を発する第2光源172とを有している。また、それら第1光および第2光の双方を光ファイバ155の方へと向かわせるビームスプリッタ173と、それら第1光および第2光を光ファイバ155に入射させるフォトカプラ174も有している。第1光源171と第2光源172は、制御回路160による制御に従って、情報に応じたオンオフ発光を行う。これら第1光源171と第2光源172の発光は、一時には一方のみが発光するように制御される。そして、第1光と第2光との両方で1つの情報を担持した記録光を構成している。この光源170は、上述した基本形態における光源の一例に相当する。
【0028】
図2は、ヘッドアームアセンブリ130の先端近辺を示す図である。
【0029】
ヘッドアームアセンブリ130の先端は、ロードビーム132と称される板バネとなっている。このロードビーム132には、SAS板からなるジンバル133が溶接されている。そして、ジンバル133にはヘッドスライダ120が固定されている。ジンバル133は、ロードビーム132に設けられたディンプル134と点状に接触している。このためヘッドスライダ120の向きは変更自在となっている。
【0030】
このヘッドスライダ120は、情報記憶媒体200が図の矢印の方向に回転移動することで生じる風を受けることによって情報記憶媒体200のディスク面から浮上している。但し、この図2では図示の便宜上、浮上量が実際よりも極めて大きく描かれている。上述したようにヘッドスライダ120の向きが変更自在であるため、ヘッドスライダ120の底面(即ち情報記憶媒体200側の面)はディスク面にほぼ平行となって安定する。
【0031】
ヘッドスライダ120上には対物レンズ321と固定浸レンズ322からなる光学ヘッド320が搭載されている。また、ヘッドアームアセンブリ130上には、図1に示す光源170からの光を導いてくる導波路135が設けられている。導波路135で導かれてきた記録光は導波路135の先端で反射されて対物レンズ321へと向かう。対物レンズ321は記録光を収束させて固定浸レンズ322へと入射させる。固定浸レンズ322に入射した記録光は固定浸レンズ322の底面(即ち情報記憶媒体200側を向いた面)で集光スポットを形成する。そして、固定浸レンズ322の底面では集光スポットによって近接場光が発生する。その近接場光は情報記憶媒体200に照射される。この光学ヘッド320から図1に示す光ファイバ155までの要素によって、上述した基本形態における光学系の一例が構成されている。
【0032】
情報記憶媒体200のディスク面は保護膜210となっており、その保護膜210の下には記録層220が設けられている。但し、この図2では図示の便宜上、保護膜210や記録層220の厚さが実際よりも極めて厚く描かれている。この記録層220は、光の照射を受けることで磁化の有無が変化する材料で形成されている。詳細は後で述べるが、光学ヘッド320から近接場光が照射されることにより、記録層220には、情報に応じた状態に磁化が形成される。
【0033】
ヘッドスライダ120の一端にはTMR(Tunneling Magneto Resistive)素子を内蔵した再生ヘッド310が設けられている。この再生ヘッド310は、記録層220に形成された磁化の状態に応じたTMR素子の抵抗変化によって再生信号を出力する。この再生ヘッド310から図1に示す制御回路160まで要素によって、上述した基本形態における情報再生部の一例が構成されている。
【0034】
ここで、上述した基本形態に対し、以下のような応用形態は好適な形態である。この応用形態は、上記情報再生部が、再生ヘッドと再生回路とを備えたものである。この再生ヘッドは、外部磁界に応じた抵抗を生じる磁気抵抗効果素子を有する。また、この再生回路は、その磁気抵抗効果素子の抵抗変化を検知することで情報を得る。また、この応用形態は、上記光学系が、上記光源から導かれた光を集光して近接場光を発生させ、その近接場光を上記記憶層に照射する固体浸レンズを備えためものである。また、この応用形態は、上記再生ヘッドおよび上記固定浸レンズを上記情報記憶媒体に近接あるいは接触させて保持する保持具を備えたものである。更に、この応用形態は、上記保持具を駆動して上記再生ヘッドおよび上記固定浸レンズを上記記憶層に沿って移動させる駆動部を備えたものである。
【0035】
このような応用形態によれば、近接場光によって微小領域への情報記録が可能であると共に、記録再生の位置が保持具および駆動部によって精密に制御されるので、高記録密度の情報記憶装置が実現する。図2に示す再生ヘッド310は、この応用形態における再生ヘッドの一例に相当する。図1に示す制御回路160は、この応用形態における再生回路の一例に相当する。図2に示す固体浸レンズ322は、この応用形態における固体浸レンズの一例に相当する。図1に示すヘッドアームアセンブリ130は、この応用形態における保持具の一例に相当する。図1に示すボイスコイルモータ140は、この応用形態における駆動部の一例に相当する。
【0036】
以下、情報記憶媒体200の構造について詳細に説明する。
【0037】
図3は、情報記憶媒体の構造を示す図である。
【0038】
情報記憶媒体200は、非磁性基板260上に非磁性シード層250、非磁性下地層240、反強磁性層230、記録層220、および保護膜210がこの順に積層された構造を有する。また、保護膜210上には図示を省略した潤滑剤が塗布されている。
【0039】
非磁性基板260は、本実施形態では一例としてガラス基板を採用している。この非磁性基板260としては、ガラス基板以外にも、化学強化ガラス基板、結晶化ガラス基板、NiPメッキを施されたAl基板又はAl合金基板、プラスチック基板、Si基板、熱酸化Si基板等を採用することができる。
【0040】
非磁性シード層250は、非磁性下地層240の結晶性、配向性を制御する為に設けられた層である。本実施形態では非磁性シード層250として単層構造のTa層が採用されている。この非磁性シード層250は、Taをスパッタ法により0.7PaのAr雰囲気中にて100Wの投入電力により3nm堆積させることで作成されている。非磁性シード層250の膜厚や材料は、直上の非磁性下地層240の結晶性、配向性を制御できる範囲であれば、上記に制限されない。非磁性シード層250の膜厚が1nm以下であると連続膜にならないので、直上の非磁性下地層240の結晶性、配向性が劣化する。また非磁性シード層250が20nm以上の厚膜であると、結晶粒成長により表面凹凸が増大してしまうので直上の非磁性下地層240の配向性が劣化する。なお、非磁性シード層250としては2層以上の積層構造の層を採用することもできる。あるいは、非磁性シード層250は、所望の反強磁性層230の結晶性、配向性が得られるならば省略してもかまわない。
【0041】
非磁性下地層240は、直上の反強磁性層230の結晶性、配向性を制御する為に設けられた層である。本実施形態では非磁性下地層240としてNiCr合金層が採用されている。この非磁性下地層240は、NiCr合金をスパッタ法により0.7PaのAr雰囲気中にて200Wの投入電力により8nm堆積させることで作成されている。非磁性下地層240の膜厚や材料は、直上の反強磁性層230の結晶性、配向性を制御できる範囲であれば、上記に制限されない。また、非磁性下地層240の材料としては、反強磁性層230の結晶性、配向性を向上させる為に適切な結晶構造及び格子定数をもつ材料を選択することが好ましい。なお、非磁性下地層240の膜厚が1nm以下であると連続膜にならないので、直上の反強磁性層230の結晶性、配向性が劣化する。また非磁性下地層240が20nm以上の厚膜であると、結晶粒成長により表面凹凸が増大してしまうので直上の反強磁性層230の配向性が劣化する。
【0042】
反強磁性層230は直上の記録層220の磁化容易軸を制御する為に設けられた層である。本実施形態では反強磁性層230としてIrMn合金層が採用されている。この反強磁性層230は、IrMn合金をスパッタ法により0.7PaのAr雰囲気中にて200Wの投入電力により8nm堆積させることで作成されている。この反強磁性層230の材料としては、記録層220と大きな交換結合を持つものがよいので、IrMnの他にはPtMn、PdPtMnなどが使用できる。この反強磁性層230は、上述した基本形態における反強磁性層の一例に相当する。
【0043】
記録層220はCo[W(CN)]・HOの層である。この記録層220は以下の手順で作成されている。まず、上記の非特許文献1に記載されているような手法にて作成されたCo[W(CN)]・HO微粒子を含む溶液をスピンコートにより反強磁性層230上に塗布する。このCo[W(CN)]・HOは、波長が840nmの第1光が照射されることで強磁性状態となり、波長が532nmの第2光が照射されることで常磁性状態となる材料である。ついで、記録層220に垂直方向の異方性を付与する為に、真空中にてランプヒータで基板温度を280°Cまで昇温させた後、基板面に垂直に10kOeの磁場を印加したまま80°CまでH(水素)雰囲気中にて冷却する。このような加熱と磁場中冷却とを経ることにより、反強磁性層230の内部磁化が、層面に対して垂直な方向で反平行となる。そして、そのような方向の内部磁化を有する反強磁性層230と交換結合していることで、記録層220も、層面に対して垂直な方向の磁化容易軸を持つ。即ち、この記録層220には、第1光が照射されて強磁性状態となったときに磁化が生じるが、この磁化と反強磁性層230中の磁化との間に垂直方向の交換結合磁界が発生する。その結果、記録層220中の磁化は、層面に対して垂直な方向を向き易い。このように、反強磁性層230との交換結合によって異方性が与えられていることにより、Co[W(CN)]・HOの層は、磁化状態を再生ヘッドで検知可能な記録層220となる。また、磁化容易軸が層面に対して垂直な方向を向いているため記録層220に生じる磁化は安定度が高い。この記録層220は、上述した基本形態における記憶層の一例に相当する。
【0044】
ここで、上述した基本形態に対し、上記記憶層がCo[W(CN)]・HOの層であるという応用形態は好適である。この好適な応用形態によれば、上述したような簡便な手法で記憶層を形成することができる。図3に示す記録層220は、この応用形態における記憶層の一例にも相当する。
【0045】
また、上述した基本形態に対し、上記反強磁性層が、内部磁化が層面に交わる方向を向いたものであるという応用形態も好適である。この好適な応用形態によれば、反強磁性層と磁気的に交換結合した記憶層に、層面に交わる方向の磁化容易軸が生じることとなる。図3に示す反強磁性層230は、この応用形態における反強磁性層の一例にも相当している。
【0046】
記録層220上の保護膜210は、本実施形態ではカーボンの膜が採用されている。この保護膜210は、記録層220上にカーボンを3nm堆積させて作成されている。なお、この保護膜210としては、カーボン以外にもSiO等も採用可能である。
【0047】
保護膜210上に塗布される潤滑剤としては、一例としてフッ素系潤滑剤が採用されている。この潤滑剤は、膜厚が例えば1.0nmの薄膜状に塗布されている。
【0048】
上述した記録層220を有する情報記憶媒体200では、情報を担持した記録光で情報を磁化状態として書き込むという新しい記録方式が実現される。この記録方式では、外部磁界による磁化反転が不要であるため、反転磁界分布による書き込み不良も生じない。従って記録精度が高いので、高記録密度の情報記憶媒体が実現され、大記録容量の情報記憶装置も実現される。
【0049】
以下、本実施形態における情報の記録方法および再生方法について説明する。
【0050】
以下、図1および図2を参照して、情報記憶装置100における情報記録と情報再生の具体的な方法を説明する。
【0051】
情報記憶媒体200に情報が記録される際には、図示しないホスト装置から情報記憶装置100に向けて、情報記憶媒体200への記録情報と、記録位置のアドレスが送られてくる。制御回路160は、アドレスに基づいて、情報記憶媒体200上の具体的な記録位置を算出する。制御回路160は、スピンドルモータ110を駆動させるとともに、ボイスコイルモータ140を駆動させることで、光学ヘッド320を、その記録位置を通る円周上に移動させる。スピンドルモータ110による情報記憶媒体200の回転で光学ヘッド320が記録位置を通過するタイミングに合わせて制御回路160は、第1光源171と第2光源172とを記録情報に応じて交互にオンオフさせる。これにより、光源170から、記録情報を担持した記録光が発せられる。
【0052】
図4は、情報記憶媒体に光で情報が記録される様子を示す図である。
【0053】
この図4の上段には、記録層220に情報が記憶されていない状態が示されている。この状態の記録層220に対し、第1光と第2光とが時間的に切り替わる記録光が照射される。その結果、この図4の下段に示すように、第1光が照射されて磁化が生じた強磁性部分222と、第2光が照射されたので磁化が生じなかった常磁性部分221とが交互に形成される。なお、強磁性部分222の磁化の向きは、上述したように、記録層220の層面に対して垂直な方向となっている。
【0054】
各強磁性部分222、および常磁性部分221の長さは、実際には情報に応じた長さとなるが、この図4の図示では単純に「1,0,1,0,…」という情報が記録されている。
【0055】
次に、情報の消去について説明する。情報記憶媒体200の情報が消去される場合には、ホスト装置から情報記憶装置100に向けて、消去位置のアドレスが送られてくる。制御回路160は情報記録時と同様な制御で磁気ヘッド300の再生ヘッド310を位置決めする。スピンドルモータ110による情報記憶媒体200の回転で光学ヘッド320が記録位置を通過するタイミングに合わせて制御回路160は、第2光源172のみをオンさせる。
【0056】
図5は、情報記憶媒体から情報が消去される様子を示す図である。
【0057】
この図5の上段に、常磁性部分221と強磁性部分222とを有することで情報を記憶している状態の記憶層220が示されている。この記憶層220に対して第2光源172からの第2光のみが照射されると、その第2光が照射された強磁性部分222は常磁性部分221に変化する。この結果、この図5の下段に示すように、常磁性部分221のみが残るので情報が消去される。
【0058】
なお、情報を記憶している情報記憶媒体200に対して別の情報を上書きする場合には、図4に示す記録の様子と同様に、第1光と第2光とが時間的に切り替わる記録光の照射で情報を上書きすることができる。
【0059】
このように、本実施形態では、磁化で情報が記憶されるにも拘わらず、情報の記録、消去、上書きは、いずれも第1光と第2光の照射によって実現でき、外部磁場による強磁性体の磁化反転過程を利用しない。従って、情報記憶装置における従来の記録方式で高密度記録化への大きな障害となっていた記録ビットの磁化反転磁界のバラツキが生じない。この結果、従来の記録方式による情報記録よりも正確な情報記録を行うことができる。つまし、本実施形態では情報の記録精度が高い。
【0060】
情報記憶媒体200に記録された情報が再生される際には、ホスト装置から情報記憶装置100に向けて、情報の再生位置のアドレスが送られてくる。制御回路160は情報記録時と同様な制御で磁気ヘッド300の再生ヘッド310を位置決めする。再生ヘッド310は、上述したTMR素子によって、情報記憶媒体200から発生する磁界の有無に応じた抵抗値を生じる。制御回路160が再生ヘッド310に電流を流すと、再生ヘッド310では、磁界の有無に応じた抵抗値により再生信号が生じる。この再生信号は制御回路160で処理されて再生情報が得られる。そしてその再生情報がホスト装置に送られる。
【0061】
図6は、情報が記録されていない領域での情報再生の様子を示す図である。図7は、情報が記録されている領域での情報再生の様子を示す図である。
【0062】
図6の上段に示すように、情報が記録されていない領域では全体が常磁性部分221となっているので記録層220に磁化が存在しない。このため、図6の下段に示すように、再生ヘッド310から出力される信号S1はノイズ出力のみの信号となる。そして、制御回路160では、再生ヘッド310および制御回路160自身からのノイズ出力のみが検知されることとなる。一方、図7の上段に示すように、情報が記録されている領域では常磁性部分221と強磁性部分222とが混在している。このため、図7の下段に示すように、再生ヘッド310から出力される信号S2には、強磁性部分222に対応した出力増加が生じる。この出力増加は、ノイズレベルからの信号の立ち上がりであるため再生信号品質が高い。従って、本実施形態では、記録精度のみならず、再生精度も高いことが分かる。
【0063】
上記説明した実施形態では、光学系の一例として、固定浸レンズで近接場光を発生させるものを例示したが、上記基本形態における光学系としては、近接場光を発生させる既知の他の光学系を採用してもよい。そのような他の光学系としては、例えば、光ファイバーの先端を尖らせて波長以下の小径から光を出射させる光学系や、光導波路の先端部分を波長以下の層厚の層構造とした光学系などがある。
【0064】
また、上記説明した実施形態では、再生ヘッドの一例として、TMR素子を有するヘッドを例示した。しかし、再生ヘッドとしては、GMR(Giant Magneto Resistive)素子を有するものであってもよい。このGMR素子を有する再生ヘッドの場合は、特に、CPP(Current Perpendicular to Plate)構造のGMR素子が好ましい。
【0065】
また、上記説明した実施形態では、情報記憶媒体の一例として、いわゆる連続記録媒体形式の連続記録媒体を例示したが、本件開示の情報記憶媒体は、ディスクリートトラック型の媒体やビットバターン型の記録媒体などといった非連続記録媒体にも応用できる。特にビットバターン型の記録媒体における高記録密度化への障害となっている記録ビットの反転磁界分布による書込み不良対策には効果的である。
【符号の説明】
【0066】
100 情報記憶装置
110 スピンドルモータ
120 ヘッドスライダ
130 ヘッドアームアセンブリ
135 導波路
140 ボイスコイルモータ
150 フレキシブルプリント基板
155 光ファイバ
160 制御回路
170 光源
171 第1光源
172 第2光源
173 ビームスプリッタ
174 フォトカプラ
200 情報記憶媒体
210 保護膜
220 記録層
221 常磁性部分
222 強磁性部分
230 反強磁性層
240 非磁性下地層
250 非磁性シード層
260 非磁性基板
310 再生ヘッド
320 光学ヘッド
321 対物レンズ
322 固定浸レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に配置される反強磁性層と、
前記反強磁性層上に配置される記憶層と、
を有する情報記憶媒体であって、
前記記憶層は、前記反強磁性層と交換結合し、かつ第1の波長の光の照射を受けると磁化が生じ、該第1の波長とは異なる第2の波長の光の照射を受けると磁化が消えるものであることを特徴とする情報記憶媒体。
【請求項2】
前記記憶層がCo[W(CN)]・HOの層であることを特徴とする請求項1記載の情報記憶媒体。
【請求項3】
前記反強磁性層は、内部磁化が層面に交わる方向を向いたものであることを特徴とする請求項1または2記載の情報記憶媒体。
【請求項4】
基板と、
前記基板上に配置される反強磁性層と、
前記反強磁性層上に配置される記憶層と、
を有する情報記憶媒体であって、
前記記憶層は、前記反強磁性層と交換結合し、かつ第1の波長の光の照射を受けると磁化が生じ、該第1の波長とは異なる第2の波長の光の照射を受けると磁化が消えるものである情報記憶媒体と、
前記第1の波長の光と前記第2の波長の光とを情報に応じて切り替えながら発光する光源と、
前記光源が発光する光を導いて前記情報記憶媒体の記憶層に照射する光学系と、
前記記憶層における前記磁化の有無を磁気的に検知することで情報を再生する情報再生部とを備えたことを特徴とする情報記憶装置。
【請求項5】
前記情報再生部が、
外部磁界に応じた抵抗を生じる磁気抵抗効果素子を有する再生ヘッドと、
前記磁気抵抗効果素子の抵抗変化を検知することで情報を得る再生回路とを備えたものであり、
前記光学系が、前記光源から導かれた光を集光して近接場光を発生させ、その近接場光を前記記憶層に照射する固体浸レンズを備えたものであり、
前記再生ヘッドおよび前記固定浸レンズを前記情報記憶媒体に近接あるいは接触させて保持する保持具と、
前記保持具を駆動して前記再生ヘッドおよび前記固定浸レンズを前記記憶層に沿って移動させる駆動部とを備えたことを特徴とする請求項4記載の情報記憶装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−211876(P2010−211876A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58003(P2009−58003)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】