説明

情報記録媒体およびその製造方法

【課題】従来と同程度の高い屈折率と、安定した高い成膜レートとを併せ持つ優れた透過率調整層を備えた情報記録媒体を提供する。
【解決手段】本発明の情報記録媒体は、基板1上にN個の情報層(Nは2以上の整数)が設けられている。各情報層11,12にレーザビーム4が照射されることによって、情報の記録および再生が行われる。前記N個の情報層を、レーザビーム入射側と反対側から順に第1情報層〜第N情報層とした場合、N個の情報層に含まれる第L情報層(Lは、2≦L≦Nを満たす整数)が、少なくとも、レーザビームの照射によって相変化を起こしうる記録層135と、反射層132と、透過率調整層131とを、レーザビーム入射側からこの順で含んでいる。透過率調整層131は、TiおよびBiの少なくともいずれか一方と、Nbと、酸素(O)とを含む。透過率調整層131におけるNbの含有割合は、2.9原子%以上26.5原子%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザビームの照射によって情報の記録および再生を行う情報記録媒体とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基板上に成膜したカルコゲン材料等の薄膜にレーザビームを照射し局所的な加熱を行うとき、照射条件の違いにより光学定数の異なる状態間で相変化させることが可能であり、この現象を利用した情報記録媒体が広く研究開発・商品化されている。
【0003】
相変化を利用した情報記録媒体の中でも、光記録媒体は、レーザビームの出力を少なくとも2種類のパワーレベル間で変調することによって信号を記録することができる。パワーレベルを適当に選べば、すでに記録されている信号を消去しつつ、同時に新しい信号を記録できる。
【0004】
発明者は、光記録媒体を大容量化するための技術として、2つの情報層を有する光記録媒体を発表した。光記録媒体の片面側から当該光記録媒体に入射するレーザビームによって、2つの情報層に対する情報の記録および再生を行うことができる。このような構成によって、光記録媒体の記録容量をほぼ2倍にすることが可能となる。
【0005】
片面側から入射するレーザビームによって2つの情報層に対して情報を記録および再生をする情報記録媒体において、レーザビーム入射側(以下、単に入射側と記載することがある。)から遠くに配置された情報層(以下、第1情報層)に対する情報の記録および再生は入射側の情報層(以下、第2情報層)を透過したレーザビームによって行われる。従って、第2情報層はできるだけ高い透過率をもつことが好ましい。
【0006】
発明者は、透過率を高くする手段として、レーザビーム入射側から記録層と反射層とをこの順序で備えた情報層において、反射層に対してレーザビーム入射側と反対側に高い屈折率をもつ透過率調整層を配置することを検討してきた。
【0007】
近年発表した青色レーザを用いた2層書換型光記録媒体では、上記の透過率調整層にTiO2を使用することで第2情報層の透過率を46%より大きくし、第1情報層の効率的な記録・再生を可能とした(国際公開第03/025922号パンフレット参照)。
【0008】
TiO2は屈折率が2.7程度と大きく、青色レーザに対する吸収が小さく、Agを含む反射層と直付けしても耐湿度性がよい等の性質があり、透過率調整層として優れた材料である。
【0009】
また、記録層を直接被覆する保護層について、TiO2を主成分としてNb25をわずかに(例えば2.5重量%〜11重量%(≒4mol%以下、またはNbが2.5原子%以下)の範囲で)添加することで屈折率が高くなることが報告されている(例えば特開2003−013201号公報および特開2006−45666号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第03/025922号パンフレット
【特許文献2】特開2003−013201号公報
【特許文献3】特開2006−45666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、TiO2は、スパッタ時の成膜レートが低く、また、水分による成膜レート変動が大きいため、情報記録媒体の製造時間が長くなる、および、TiO2の膜厚を一定に保つことが難しいという課題を有していた。
【0012】
本発明は、上記問題点を解決するものであり、従来と同程度の高い屈折率と、安定した高い成膜レートとを併せ持つ優れた透過率調整層を備えた情報記録媒体を提供することを目的とする。本発明は、さらに、その情報記録媒体の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の情報記録媒体は、基板上にN個の情報層(Nは2以上の整数)が設けられており、レーザビームが照射されることによって前記各情報層に対して情報の記録および再生が行われる情報記録媒体であって、前記N個の情報層を、レーザビーム入射側と反対側から順に第1情報層〜第N情報層とした場合、前記N個の情報層に含まれる第L情報層(Lは、2≦L≦Nを満たす整数)は、少なくとも、レーザビームの照射によって相変化を起こしうる記録層と、反射層と、透過率調整層とを、レーザビーム入射側からこの順で含んでおり、前記透過率調整層が、TiおよびBiの少なくともいずれか一方と、Nbと、酸素(O)とを含み、かつ、前記透過率調整層におけるNbの含有割合が2.9原子%以上26.5原子%以下である。
【0014】
本発明の情報記録媒体の製造方法は、上記の本発明の情報記録媒体を製造する方法であって、前記第L情報層を製造する工程を含み、当該工程が、
(i)TiおよびBiの少なくともいずれか一方と、Nbと、酸素(O)とを含み、かつ、Nbの含有割合が2.9原子%以上26.5原子%以下である第1のスパッタリングターゲットを用いて、透過率調整層を成膜する透過率調整層成膜工程と、
(ii)反射層を成膜する反射層成膜工程と、
(iii)レーザビームの照射によって相変化を起こしうる記録層を成膜する記録層成膜工程と、を含んでおり、前記工程(i)〜(iii)が、工程(i)、工程(ii)、工程(iii)の順または工程(iii)、工程(ii)、工程(i)の順で行われる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の情報記録媒体およびその製造方法によれば、従来と同程度の高い屈折率を有する透過率調整層を安定的に効率よく成膜できるため、第L情報層(Lは、2≦L≦Nを満たす整数)の透過率が高く、記録再生特性が良好な多層情報記録媒体が効率よく得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の情報記録媒体の一構成例を示す断面図である。
【図2】本発明の情報記録媒体の別の構成例を示す断面図である。
【図3】本発明の情報記録媒体のさらに別の構成例を示す断面図である。
【図4】本発明の情報記録媒体のさらに別の構成例を示す断面図である。
【図5】本発明の情報記録媒体のさらに別の構成例を示す断面図である。
【図6】本発明の情報記録媒体のさらに別の構成例を示す断面図である。
【図7】本発明の情報記録媒体のさらに別の構成例を示す断面図である。
【図8】本発明の情報記録媒体のさらに別の構成例を示す断面図である。
【図9】本発明の情報記録媒体のさらに別の構成例を示す断面図である。
【図10】本発明の情報記録媒体のさらに別の構成例を示す断面図である。
【図11】本発明の情報記録媒体のさらに別の構成例を示す断面図である。
【図12】本発明の情報記録媒体のさらに別の構成例を示す断面図である。
【図13】本発明の情報記録媒体に対する情報の記録再生に使用可能な記録再生装置の一例を示す概略図である。
【図14】本発明の情報記録媒体に対する情報の記録再生に用いる記録パルス波形の一例を示す概略図である。
【図15】本発明の情報記録媒体の製造方法の一例であって、透過率調整層作製時に基板アニール工程を省略する例を示すフローチャートである。
【図16】基板アニール工程を含む従来の情報記録媒体の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態は一例であり、本発明は以下の実施の形態に限定されない。また、以下の実施の形態では、同一の部分については同一の符号を付して重複する説明を省略する場合がある。
【0018】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明の情報記録媒体の一例を説明する。実施の形態1における情報記録媒体の部分断面図を図1に示す。本実施の形態の情報記録媒体2は、対物レンズ5によって集光されたレーザビーム4が照射されることにより情報の記録再生が可能な光学的情報記録媒体である。
【0019】
情報記録媒体2には、基板1上に第1情報層11、分離層12、第2情報層13、透明層3がこの順に設けられている。すなわち、本実施の形態の情報記録媒体2は、本発明の情報記録媒体においてN=2およびL=2の場合の例であり、第2情報層13が第N情報層および第L情報層に相当する。また、本実施の形態の情報記録媒体2では、透明層3側がレーザビーム入射側となる。
【0020】
図2は、本実施の形態の情報記録媒体2について、第1情報層11および第2情報層13の膜構成を詳細に示した部分断面図である。図2に示すように、第1情報層11には、基板1に近い側(レーザビーム入射側と反対側)から反射層112、第1の誘電体層113、第1の界面層114、記録層115、第2の界面層116および第2の誘電体層117がこの順に設けられており、分離層12をはさんで配置される第2情報層13には、透過率調整層131、反射層132、第1の誘電体層133、第1の界面層134、記録層135、第2の界面層136および第2の誘電体層137がこの順に設けられている。すなわち、第2情報層13には、レーザビーム入射側から、記録層135、反射層132および透過率調整層131がこの順に含まれている。
【0021】
この情報記録媒体2に対して、透明層3側からレーザビーム4を対物レンズ5で集光し、第1情報層11の記録層115または第2情報層13の記録層135にレーザビームを照射することによって、情報の記録再生が行われる。このとき、第1情報層11に到達するレーザビームおよびその反射光は、第2情報層13を通過することにより減衰してしまう。そのため、第1情報層11は高い記録感度と高い反射率とを持つことが必要であり、第2情報層13は高い透過率を持つことが必要である。
【0022】
本実施の形態では、基板1は円盤状の形状をしており、第1情報層11をはじめ全ての層を保持するために設けられている。基板1の第1情報層11側の面には、レーザビーム4を導くための案内溝が形成されていてもよい。基板1の第1情報層11側の面およびその反対側の面は、平滑であることが好ましい。基板1の材料は、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリオレフィン樹脂、ノルボルネン系樹脂、ガラス、あるいはこれらを適宜組み合わせたもの等を用いることができる。
【0023】
次に、第1情報層11を構成する各層について説明する。
【0024】
記録層115は、レーザビーム4の照射によって結晶相と非晶質相との間で相変化を起こしうる層である。このような記録層115に用いられる材料として、例えば、Ge−Sb−Te、Ge−Bi−Te、Ge−Sn−Te、Ge−Sb−Sn−TeおよびGe−Bi−Sn−Teから選ばれる少なくともいずれか1つの材料を含んだものを用いることができる。記録層115は、非晶質相がレーザビーム照射時に容易に結晶相に変化できることと、レーザビーム非照射時には結晶相に変化しないことが好ましい。記録層115の膜厚は、薄すぎると十分な反射率および反射率変化が得られなくなり、また、厚すぎると熱容量が大きくなるため記録感度が低下する。そのため、記録層115の膜厚は5nm〜15nmの範囲内であることが好ましい。
【0025】
反射層112は、記録層115に吸収される光量を増やすという光学的な機能と、記録層115で生じた熱を拡散させるという熱的な機能とを持つ。反射層112の材料には、Ag、Au、CuおよびAlから選ばれる少なくとも1つの元素を含んだものを用いることができる。例えば、Ag−Cu、Ag−Ga−Cu、Ag−Pd−Cu、Ag−Nd−Au、AlNi、AlCr、Au−Cr、Ag−In等の合金を用いることができる。特にAg合金は熱伝導率が大きいため、反射層112の材料として好ましい。反射層112の膜厚が厚いほど熱拡散機能を高くできるが、あまり厚くしてしまうと熱拡散機能が高すぎて記録層115の記録感度が低下する。そのため、反射層112の膜厚は、30nm〜200nmの範囲内であることが好ましい。
【0026】
第1の誘電体層113は、記録層115と反射層112との間にあり、記録層115から反射層112への熱拡散を調節する熱的な機能と、反射率や吸収率等を調節する光学的な機能とを持つ。第1の誘電体層の材料としては、例えば、ZrO2、HfO2、ZnO、SiO2、SnO2、Cr23、TiO2、In23、Ga23、Y23、CeO2およびDyO2等の酸化物、ZnSおよびCdS等の硫化物の単体、あるいはこれらの混合物を使用できる。混合物としては、例えばZrO2−SiO2、ZrO2−SiO2−Cr23、ZrO2−SiO2−Ga23、HfO2−SiO2−Cr23、ZrO2−SiO2−In23、ZnS−SiO2を用いることができる。第1の誘電体層113の膜厚が厚すぎると、反射層112の冷却効果が弱くなり、記録層115からの熱拡散が小さくなってしまうため、記録材料が非晶質化しにくくなってしまう。また、第1の誘電体層の膜厚が薄すぎると、反射層112の冷却効果が強くなり、記録層115からの熱拡散が大きくなって記録感度が低下してしまう。第1の誘電体層113の膜厚は、5nm〜40nmの範囲内であることが好ましい。
【0027】
第1の界面層114は、繰り返し記録によって第1の誘電体層113と記録層115との間で生じる物質移動を防止する働きを持つ。第1の界面層114は、記録の際に溶けない程度の高融点を持ち、記録層115との密着性がよい材料であることが好ましい。第1の界面層114の材料としては、例えば、ZrO2、HfO2、ZnO、SiO2、SnO2、Cr23、TiO2、In23、Ga23、Y23、CeO2およびDyO2等の酸化物の単体、あるいはこれらの混合物、例えばZrO2−SiO2、ZrO2−SiO2−Cr23、ZrO2−SiO2−Ga23、HfO2−SiO2−Cr23、ZrO2−SiO2−In23を用いることができる。また、C等を用いることもできる。第1の界面層114の膜厚が薄すぎると界面層としての効果を発揮できなくなり、厚すぎると第1の誘電体層113の働きをさえぎってしまう。第1の界面層114の膜厚は、0.3nm〜15nmの範囲内であることが好ましい。
【0028】
第2の誘電体層117は、記録層115に対してレーザビーム入射側に配置されており、記録層115の腐食、変形等を防止する機能と、反射率や吸収率等を調整する光学的な機能とを持つ。第2の誘電体層117の材料としては、第1の誘電体層113と同様のものを用いることができる。第2の誘電体層117の膜厚は、記録層115が結晶相である場合と非晶質相である場合との間の反射率の変化が大きくなるように決定すればよい。第2の誘電体層117の膜厚は、20nm〜80nmの範囲内であることが好ましい。
【0029】
第2の界面層116は、第1の界面層114と同様に、繰り返し記録によって第2の誘電体層117と記録層115との間で生じる物質移動を防止する働きを持つ。従って、第1の界面層114と同様の性能を持つ材料であることが好ましい。第2の界面層116の膜厚は0.3nm〜15nmの範囲内であることが好ましい。
【0030】
上記、反射層112、第1の誘電体層113、第1の界面層114、記録層115、第2の界面層116および第2の誘電体層117によって、第1情報層11が形成されている。
【0031】
分離層12は、第1情報層11と第2情報層13のフォーカス位置を区別するために設けられる層である。分離層12の厚さは、対物レンズ5の開口数NAとレーザビーム4の波長λとによって決定される焦点深度以上であることが望ましい。一方、分離層12により分離されたすべての情報層(本実施の形態では第1情報層11および第2情報層13)が対物レンズ5により集光可能な範囲に収まる必要があり、そのためには分離層12が薄いほうがよい。仮に、λ=405nm、NA=0.85とした場合には、分離層12の厚さは5μm〜50μmの範囲内であることが好ましい。
【0032】
分離層12は、レーザビーム4に対して光吸収が小さいことが好ましい。分離層12の第2情報層13側の面には、レーザビーム4を導くための案内溝が形成されていてもよい。分離層12の材料は、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリオレフィン樹脂、ノルボルネン系樹脂、紫外線硬化性樹脂、遅効性熱硬化性樹脂、ガラス、あるいはこれらを適宜組み合わせたもの等を用いることができる。
【0033】
次に、第2情報層13を構成する各層について説明する。
【0034】
前述したように、第2情報層13には第1情報層11に近い側から透過率調整層131、反射層132、第1の誘電体層133、第1の界面層134、記録層135、第2の界面層136および第2の誘電体層137がこの順に設けられている。
【0035】
記録層135は、前述した第1情報層11の記録層115と同様の機能を持ち、同様の材料を用いることができる。ただし、第2情報層13の透過率を高くするために、記録層135の膜厚は15nm以下であることが好ましく、9nm以下であることがより好ましい。例えば、記録層135の厚さを1nm〜15nmの範囲内(より好ましくは1nm〜9nmの範囲内)にすることができる。
【0036】
反射層132は、前述した第1情報層11の反射層112と同様の機能を持ち、同様の材料を用いることができる。ただし、第2情報層13の透過率を高くするために反射層132の膜厚は18nm以下であることが好ましく、1nm〜15nmの範囲内であることがより好ましい。
【0037】
第1の誘電体層133は、前述した第1情報層11の第1の誘電体層113と同様の機能を持ち、同様の材料を用いることができる。第1の誘電体層133の膜厚は5nm〜30nmの範囲内であることが好ましい。
【0038】
第1の界面層134は、前述した第1情報層11の第1の界面層114と同様の機能を持ち、同様の材料を用いることができる。第1の界面層134の膜厚は0.3nm〜15nmの範囲内であることが好ましい。
【0039】
第2の誘電体層137は、前述した第1情報層11の第2の誘電体層117と同様の機能を持ち、同様の材料を用いることができる。第1の誘電体層137の膜厚は15nm〜60nmの範囲内であることが好ましい。
【0040】
第2の界面層136は、前述した第1情報層11の第2の界面層116と同様の機能を持ち、同様の材料を用いることができる。第2の界面層136の膜厚は0.3nm〜15nmの範囲内であることが好ましい。
【0041】
透過率調整層131は、第2情報層13の透過率を調整する機能を有する。この透過率調整層131によって、記録層135が結晶相である場合の第2情報層13の透過率Tc(%)と、記録層135が非晶質相である場合の第2情報層13の透過率Ta(%)とを、共に高くすることができる。
【0042】
透過率調整層131の屈折率ntおよび消衰係数ktは、第1情報層13の透過率TcおよびTaを高くするため、nt≧2.4、かつ、kt≦0.1であることが好ましい。透過率調整層131は、元素Mと、Nbと、酸素(O)とを含んでいる。透過率調整層131におけるNbの含有割合は、2.9原子%以上である。従って、透過率調整層131の材料には、Nbの酸化物と元素Mの酸化物との混合物を用いることができる。特に、Nbの酸化物であるNb25、またはNb25を含む材料を用いることが好ましい。Nb25を含む材料は、屈折率が大きいため第2情報層13の透過率を高くする効果が大きく、かつ、安定した高い成膜レートをもつため、情報記録媒体2の製造に有利である。さらに、Nb25に元素Mの酸化物を混ぜると、高温度・高湿度の条件下でも信頼性の高い透過率調整層131を実現できる。
【0043】
透過率調整層131の材料は、成膜レートを十分に高くし、かつ、水分による成膜レート変動をより小さくする(成膜レート安定性をより高くする)ために、Nbを8.6原子%以上(例えば、9原子%以上や15原子%以上)含むことが望ましい。例えば、下記の式(1)で表される材料を用いることが好ましい。
【0044】
Nbxy100-x-y(原子%)・・・(1)
ただし、上記式(1)において、xおよびyは、x≧8.6、y>0、x+y≦37を満たす。より確実な効果を得るために、xがx≧9やx≧15を満たすような材料を用いてもよい。
【0045】
なお、本明細書において「Nbxy100-x-y(原子%)」とは、「Nb」原子、「M」原子および「O」原子を合わせた数を基準(100%)として表された組成式であることを示している。
【0046】
また、透過率調整層131の好ましい材料を酸化物で表記する場合、透過率調整層131はNb25を10mol%以上含むことが好ましく、成膜レートを十分に高くし、かつ、成膜レート安定性をより高くするためにNb25を30mol%以上含むことがより好ましい。この場合、透過率調整層131に含まれる材料として、例えば下記の式(2)で表される材料を用いることが好ましい。
【0047】
(Nb25z(M−O)100-z(mol%)・・・(2)
ただし、上記式(2)において、M−Oは元素Mの酸化物を表しており、zはz≧30を満たす。
【0048】
なお、「(Nb25z(M−O)100-z(mol%)」は、zmol%のNb25と(100−z)mol%の元素Mの酸化物との混合物であることを示している。本明細書では、酸化物の混合物を同様の表記方法で示す場合がある。
【0049】
透過率調整層131は、元素M、Nbおよび酸素(O)のみからなる材料によって形成されていてもよく、元素M、Nbおよび酸素(O)以外の他の元素を含む材料によって形成されていてもよい。透過率調整層131が他の元素を含む場合、元素M、Nbおよび酸素(O)を合計で90原子%以上含むことが好ましい。また、酸化物で表記する場合は、透過率調整層131が、Nbの酸化物および元素Mの酸化物を合計で90mol%以上含むことが好ましい。
【0050】
透過率調整層131の厚さdは、透過率Tc,Taをより効果的に高めるために、λ/32nt≦d≦λ/4ntを満たすことが好ましく、特にd=λ/8ntを満たすことがより好ましい。ただし、λはレーザビーム4の波長、ntは透過率調整層131の屈折率である。透過率調整層131の厚さは、反射率等他の条件も考慮して、例えば5nm〜36nmの範囲内であることが好ましい。
【0051】
上記、透過率調整層131、反射層132、第1の誘電体層133、第1の界面層134、記録層135、第2の界面層136および第2の誘電体層137によって、第2情報層13が形成される。
【0052】
透明層3は、第2情報層13に対してレーザビーム入射側に配置されており、情報層11,13を保護する役割を果たしている。透明層3はレーザビーム4に対する光吸収が小さいことが好ましい。透明層3の材料は、例えばポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリオレフィン樹脂、ノルボルネン系樹脂、紫外線硬化性樹脂、遅効性熱硬化性樹脂、ガラス、あるいはこれらを適宜組み合わせたもの等を用いることができる。また、これらの材料からなるシートを用いてもよい。透明層3の膜厚は、薄すぎると情報層を保護する機能が発揮できなくなり、また、厚すぎると情報記録媒体2のレーザビーム入射側から各情報層までの距離が対物レンズ5の焦点距離よりも長くなって、記録層にフォーカスできなくなってしまう。仮に、NA=0.85とした場合には、透明層の膜厚は5μm〜150μmの範囲内であることが好ましく、15μm〜50μmの範囲であることがより好ましい。
【0053】
情報記録媒体2は、以下に説明する方法によって製造できる。
【0054】
まず、基板1(厚さは例えば1.1mm)上に第1情報層11を積層する。第1情報層11は多層膜からなるが、それらの各層は、順次スパッタリングすることによって形成できる。なお、用いる材料によっては基板1が高い吸湿性を持つので、必要に応じて、スパッタリングをする前に、水分を除去するために基板をアニールする工程(以下、基板アニール工程、アニール工程または基板アニール処理という。)を実施してもよい。
【0055】
各層は、各層を構成する材料のスパッタリングターゲットをArガス、KrガスまたはXeガス等の希ガス雰囲気中または希ガスと反応ガス(酸素ガスおよび窒素ガスから選ばれる少なくとも一つのガス)との混合ガス雰囲気中でスパッタリングすることによって、形成できる。スパッタリング方法としてはDCスパッタリング法とRFスパッタリング法とを必要に応じて使い分ける。スパッタリングによって成膜される各層の組成はもともとのスパッタリングターゲットの組成と完全には一致しないため、材料によってはスパッタリングによる組成ずれを考慮してスパッタリングターゲットの組成を決定する必要がある。ただし、例えば本発明の情報記録媒体における透過率調整層に用いられる材料のように、スパッタリングによる組成ずれが生じにくい材料の場合は、このような組成ずれを考慮する必要がない。したがって、このような場合は、所望の組成の膜を得るために、目的とする膜の組成と同一組成のスパッタリングターゲットを用いることができる。また、例えば、酸化物の場合、スパッタリングによって酸素欠損がおこりやすい。その場合、反応ガスとして酸素ガスを用いることで酸素欠損を補うことができる。なお、スパッタリングターゲットおよびスパッタリングターゲットを成膜して得られた膜は、例えばX線マイクロアナライザーで分析して組成を確認することができる。
【0056】
第1情報層11の製造の手順として、具体的には、まず基板1上に反射層112を成膜する。反射層112は、反射層112を構成する金属または合金からなるスパッタリングターゲットを希ガス雰囲気中または希ガスと反応ガスとの混合ガス雰囲気中でスパッタリングすることによって形成できる。
【0057】
続いて、反射層112上に、第1の誘電体層113を成膜する。第1の誘電体層113は、第1の誘電体層113を構成する化合物からなるスパッタリングターゲットを希ガス雰囲気中または希ガスと反応ガスとの混合ガス雰囲気中でスパッタリングすることによって形成できる。
【0058】
続いて、第1の誘電体層113上に、第1の界面層114を成膜する。第1の界面層114は、第1の界面層114を構成する化合物からなるスパッタリングターゲットを希ガス雰囲気中または希ガスと反応ガスとの混合ガス雰囲気中でスパッタリングすることによって形成できる。
【0059】
続いて、第1の界面層114上に、記録層115を成膜する。記録層115は記録層115を構成する化合物からなるスパッタリングターゲットを希ガス雰囲気中または希ガスと反応ガスとの混合ガス雰囲気中でスパッタリングすることによって形成できる。
【0060】
続いて、記録層115上に、第2の界面層116を成膜する。第2の界面層116は、第2の界面層116を構成する化合物からなるスパッタリングターゲットを希ガス雰囲気中または希ガスと反応ガスとの混合ガス雰囲気中でスパッタリングすることによって形成できる。
【0061】
続いて、第2の界面層116上に、第2の誘電体層117を成膜する。第2の誘電体層117は、第2の誘電体層117を構成する化合物からなるスパッタリングターゲットを希ガス雰囲気中または希ガスと反応ガスとの混合ガス雰囲気中でスパッタリングすることによって形成できる。
【0062】
このようにして、基板1上に第1情報層11を積層し、その後、分離層12を形成する。
【0063】
分離層12は、例えば第1情報層11上に紫外線硬化性樹脂または遅効性熱硬化性樹脂を塗布し、次に全体を回転させて樹脂を均一に延ばし(スピンコート)、その後この樹脂を硬化させることによって作製できる。
【0064】
次に、第1情報層11と分離層12とが積層された基板1に、分離層12の側から(分離層12上に)第2情報層13を積層する。第2情報層13は第1情報層11と同じく多層膜からなるが、それらの各層は、順次スパッタリングすることによって形成できる。分離層12も基板1と同様に、材料によっては高い吸湿性を持つので、アニール工程を実施してもよい。
【0065】
まず、分離層12上に透過率調整層131を成膜する(透過率調整層成膜工程)。透過率調整層131は、透過率調整層131を構成する化合物からなるスパッタリングターゲット(第1のスパッタリングターゲット)を希ガス雰囲気中または希ガスと反応ガスとの混合ガス雰囲気中でスパッタリングすることによって形成できる。なお、透過率調整層131に用いられる材料は、スパッタリングによる組成ずれが生じにくい。そのため、目的とする透過率調整層131の組成と同様の組成を有するスパッタリングターゲットを用いることができる。具体的には、元素Mと、Nbと、酸素(O)とを含んでおり、Nbの含有割合が2.9原子%以上であるスパッタリングターゲットを用いる。従って、Nbの酸化物と元素Mの酸化物との混合物を含むスパッタリングターゲットを用いることができる。特に、Nbの酸化物であるNb25、またはNb25を含むスパッタリングターゲットを用いることが好ましい。Nb25を含む材料は、安定した高い成膜レートを実現できるため、情報記録媒体2の透過率調整層131の成膜に適している。また、水分による成膜レート変動が小さいため基板アニール工程を省略することも可能となり、さらなる高効率化が実現できる。また、成膜レートを十分に高くし、かつ、水分による成膜レート変動をより小さくする(成膜レート安定性をより高くする)ために、Nbを8.6原子%以上(例えば9原子%以上)含むスパッタリングターゲットを用いることが望ましい。例えば、前述の式(1)で表される材料を用いることが好ましい。透過率調整層131に用いられるスパッタリングターゲットを酸化物で表記する場合、Nb25を10mol%以上含むことが好ましく、成膜レートを十分に高くし、かつ、成膜レート安定性をより高くするためにNb25を30mol%以上含むことがより好ましい。この場合、例えば前述の式(2)で表される材料を用いることが好ましい。ここで用いられるスパッタリングターゲットは、元素M、Nbおよび酸素(O)のみからなる材料によって形成されていてもよく、元素M、Nbおよび酸素(O)以外の他の元素を含む材料によって形成されていてもよい。他の成分が含まれる場合は、元素M、Nbおよび酸素(O)が合計で90原子%以上含まれることが好ましい。また、このスパッタリングターゲットを酸化物で表記する場合は、Nbの酸化物および元素Mの酸化物を合計で90mol%以上含むことが好ましい。
【0066】
続いて、透過率調整層131上に反射層132を成膜する(反射層成膜工程)。反射層132は、第1情報層11の形成方法で説明した反射層112と同様の方法で形成できる。例えば、Ag、Au、CuおよびAlから選ばれる少なくとも1つの元素を含むスパッタリングターゲット(第3のスパッタリングターゲット)を用いることができる。
【0067】
続いて、反射層132上に第1の誘電体層133を成膜する(第1の誘電体層成膜工程)。第1の誘電体層133は、第1情報層11の形成方法で説明した第1の誘電体層113と同様の方法で形成できる。
【0068】
続いて、第1の誘電体層133上に第1の界面層134を成膜する(第1の界面層成膜工程)。第1の界面層134は、第1情報層11の形成方法で説明した第1の界面層114と同様の方法で形成できる。
【0069】
続いて、第1の界面層134上に記録層135を成膜する(記録層成膜工程)。記録層135は、第1情報層11の形成方法で説明した記録層115と同様の方法で形成できる。例えば、Ge−Sb−Te、Ge−Bi−Te、Ge−Sn−Te、Ge−Sb−Sn−TeおよびGe−Bi−Sn−Teから選ばれる少なくとも何れか1種の材料を含むスパッタリングターゲット(第2のスパッタリングターゲット)を用いることができる。
【0070】
続いて、記録層135上に第2の界面層136を成膜する(第2の界面層成膜工程)。第2の界面層136は、第1情報層11の形成方法で説明した第2の界面層116と同様の方法で形成できる。
【0071】
続いて、第2の界面層136上に第2の誘電体層137を成膜する(第2の誘電体層成膜工程)。第2の誘電体層137は、第1情報層11の形成方法で説明した第2の誘電体層117と同様の方法で形成できる。
【0072】
このようにして、分離層12上に第2情報層13を積層し、その後、第2情報層13上に透明層3を形成する。
【0073】
透明層3は、例えば、第2情報層13上に紫外線硬化性樹脂または遅効性熱硬化性樹脂を塗布してスピンコートした後、この樹脂を硬化させることによって形成できる。また、透明層3は、円盤状のポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリオレフィン樹脂、ノルボルネン系樹脂、ガラス等の基板を用いて形成することもできる。この場合、透明層3は、第2情報層13上に紫外線硬化性樹脂または遅効性熱硬化性樹脂を塗布して、基板を第2情報層13に密着させてからスピンコートした後、樹脂を硬化させることによって形成できる。
【0074】
情報記録媒体2の各記録層は、通常、成膜したままの状態では非晶質状態であるため、必要に応じてレーザビームを照射する等して結晶化する初期化工程を行ってもよい。
【0075】
以上のようにして、本実施の形態の情報記録媒体2を製造できる。なお、上述したように、本実施の形態の情報記録媒体2では、水分による成膜レートの変動が小さい材料を用いて透過率調整層131を成膜しているため、透過率調整層131の成膜時に基板アニール処理(基板アニール工程)を省略することが可能である。本実施の形態における情報記録媒体2の製造方法において、透過率調整層131作製時に基板アニール工程を省略する例を、図15に示すフローチャートを参照しながら説明する。まず、基板1を準備し(ステップS1)、基板1上に、第1情報層11を構成する各層を順にスパッタリングによって成膜する(ステップS2)。次に、作製された第1情報層11上に分離層12を作製する(ステップS3)。次に、基板アニール工程を行うことなく、分離層12上に透過率調整層131をスパッタリングによって成膜し、続いて反射層132、第1の誘電体層133、第1の界面層134、記録層135、第2の界面層136および第2の誘電体層137を順に成膜して、第2情報層13を作製する(ステップS4)。次に、第2情報層13上に透明層3を作製し(ステップS5)、最後に初期化を行う(ステップS6)。比較のため、図16に、基板アニール工程が必須である従来の情報記録媒体の製造方法のフローチャートを示す。図16に示すように、従来の方法では、基板1の準備(ステップS11)、スパッタリングによる第1情報層11の成膜(ステップS12)および分離層12の作製(ステップS13)までは図15に示した本実施の形態の例と同じであるが、その後、基板アニール工程(ステップS14)が必要である。基板アニール工程終了後は、本実施の形態の例と同様に、スパッタリングによって透過率調整層131を成膜し、その後順に第2情報層13の各層を成膜して、第2情報層を作製する(ステップS15)。さらに、透明層3の作製(ステップS16)および初期化工程(ステップS17)が行われる。
【0076】
以上に説明した図1および図2に示す情報記録媒体2は2層の情報層を備えた情報記録媒体であるが、本実施の形態の情報記録媒体は、図3に示すような4層の情報層を備えた情報記録媒体6であってもよい。図3には、本発明の情報記録媒体においてN=4である場合の構成例、すなわち4層の情報層(第1情報層21、第2情報層23、第3情報層24および第4情報層25)が設けられた情報記録媒体6の構成例が示されている。このような情報記録媒体6の第1情報層21は、図1および図2に示した第1情報層11と同じ構成をもつことができる。また、このような情報記録媒体6の第2情報層23、第3情報層24および第4情報層25のうち少なくとも1つの情報層(本発明の情報記録媒体における第L情報層に相当する情報層)は、図1または図2に示した第2情報層13と基本的に同じ膜構成(透過率調整層を含む構成)を有する。なお、第2〜第4情報層23,24,25の全てが第2情報層13と同様の基本構成を備えていてもよいし、第2情報層13と異なる膜構成の情報層が含まれていてもよい。すなわち、第2〜第4情報層23,24,25の中に、反射層や透過率調整層が設けられていない情報層が含まれていてもよい。
【0077】
情報記録媒体6では、第4情報層25よりも基板1側に配置されている情報層に到達するレーザビームおよびその反射光は、その情報層よりもレーザビーム入射側に配置されている情報層を通過することによって減衰してしまう。そのため、第1情報層21、第2情報層23および第3情報層24は高い記録感度と高い反射率を持つことが必要であり、第2情報層23、第3情報層24および第4情報層25は高い透過率を持つことが必要である。
【0078】
また、本実施の形態の情報記録媒体は、より一般的に、N個の情報層(ここでは、Nは3以上の整数)を備えた情報記録媒体であってもよい。図4には、N個の情報層(第1情報層31、第2情報層33、・・・、第N−1情報層38および第N情報層39)が設けられた情報記録媒体7の構成例が示されている。このような情報記録媒体7の第1情報層31は、図1および図2に示した第1情報層11と同じ膜構成をもつことができる。また、このような情報記録媒体7の第2情報層33、…、第N−1情報層38および第N情報層39のうち少なくとも1つの情報層(本発明の情報記録媒体における第L情報層に相当する情報層)は、図1または図2に示した第2情報層13と基本的に同じ構成(透過率調整層を含む構成)を有する。なお、第2〜第Nの情報層33,…,38,39の全てが第2情報層13と同様の構成を備えていてもよいし、第2情報層13と異なる膜構成の情報層が含まれていてもよい。すなわち、第2〜第Nの情報層33,…,38,39の中に、反射層や透過率調整層が設けられていない情報層が含まれていてもよい。
【0079】
情報記録媒体7では、第N情報層39よりも基板1側に配置されている情報層に到達するレーザビームおよびその反射光は、その情報層よりもレーザビーム入射側に配置されている情報層を通過することにより減衰してしまう。そのため、第1情報層31、第2情報層33、…、第N−1情報層38は高い記録感度と高い反射率を持つことが必要であり、第2情報層33、第3情報層34、…、第N−1情報層38および第N情報層39は高い透過率を持つことが必要である。
【0080】
図3に示す4個の情報層を備えた情報記録媒体6は、図1および図2に示した2個の情報層を備えた情報記録媒体2と同様の方法によって作製できる。すなわち、基板1上に、第1情報層21、第2情報層23、第3情報層24および第4情報層25を分離層22を介して順次積層し、さらに第4情報層25上に透明層3を形成することによって、情報記録媒体6を作製できる。
【0081】
また、図4に示すN個の情報層を備えた情報記録媒体7についても、図1および図2に示した2個の情報層を備えた情報記録媒体2と同様の方法によって作製できる。基板1上に、第1情報層31、第2情報層33、…、第N−1情報層38および第N情報層39を分離層32を介して順次積層する。その後、第N情報層39上に透明層3を形成することによって、情報記録媒体7を作製できる。
【0082】
情報記録媒体6および情報記録媒体7の各記録層は、通常、成膜したままの状態では非晶質状態であるため、必要に応じてレーザビームを照射する等して結晶化する初期化工程をおこなってもよい。
【0083】
以上のようにして、情報記録媒体6および情報記録媒体7を製造できる。
【0084】
以上に、情報の記録再生が可能な情報層を2つ以上備えた情報記録媒体およびその製造方法を説明したが、本発明の情報記録媒体はこの構成および製造方法に限定されず、少なくとも1つの情報層(第L情報層(Lは、2≦L≦Nを満たす整数))が相変化を生じる記録層、反射層、透過率調整層をレーザビーム入射側からこの順序で含むものであればよい。
【0085】
例えば4個の情報層を有する情報記録媒体においては、4個の情報層のうち2つを再生専用の情報層とし、2つを相変化を生じる記録層、反射層、透過率調整層を含む情報層とすることも可能である。さらに、記録層は可逆的相変化を生じる記録層であっても、非可逆的相変化を生じる記録層であってもよい。
【0086】
なお、本実施の形態においては、情報層を構成する各層の成膜方法としてスパッタリング法を用いたが、これに限定されず、真空蒸着法、イオンプレーティング法、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法等を用いることも可能である。
【0087】
(実施の形態2)
実施の形態2では、本発明の情報記録媒体の別の例を説明する。実施の形態2における情報記録媒体の部分断面図を図5に示す。本実施の形態の情報記録媒体8は、実施の形態1で説明した情報記録媒体2と同様に、対物レンズ5で集光されたレーザビーム4が照射されることによって情報の記録再生が可能な光学的情報記録媒体である。
【0088】
情報記録媒体8は、第1の基板53上に第2情報層13、第2の基板51上に第1情報層11をそれぞれ積層し、第1情報層11と第2情報層13とを接着層52を介して接合した構成である。すなわち、本実施の形態の情報記録媒体8は、本発明の情報記録媒体においてN=2およびL=2の場合の例であり、第2情報層13が第N情報層および第L情報層に相当する。また、本実施の形態の情報記録媒体8では、第1の基板53側がレーザビーム入射側となる。
【0089】
第1の基板53および第2の基板51は、円盤状である。さらに、第1の基板53は略透明である。第1の基板53および第2の基板51の材料には、実施の形態1で説明した基板1と同様に、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリオレフィン樹脂、ノルボルネン系樹脂、ガラス、あるいはこれらを適宜組み合わせたもの等を用いることができる。第1の基板53の第2情報層13側の面および第2の基板51の第1情報層11側の面には、レーザビーム4を導くための案内溝が形成されていてもよい。なお、第1の基板53および第2の基板51の厚さは、十分な強度があり、かつ、情報記録媒体8の全体の厚さが1.2mm程度となるように、0.3mm〜0.9mmの範囲内であることが好ましい。
【0090】
接着層52の材料には、紫外線硬化性樹脂等を用いることができる。なお、接着層52の厚さは、実施の形態1の分離層12と同じ理由により、5μm〜50μmの範囲内であることが好ましい。
【0091】
第1情報層11と第2情報層13は、図6に示すように、実施の形態1で説明した情報記録媒体2に設けられた2つの情報層とそれぞれ同様の膜構成を有する。従って、ここでは第1情報層11および第2情報層13にそれぞれ含まれる各層の説明は省略する。
【0092】
情報記録媒体8は、以下に説明する方法によって製造できる。
【0093】
まず、第1の基板53(厚さが例えば0.6mm)上に、第2情報層13を形成する。具体的には、第1の基板53上に、第2の誘電体層137、第2の界面層136、記録層135、第1の界面層134、第1の誘電体層133、反射層132および透過率調整層131を順次スパッタリングにより成膜する。なお、各層は、実施の形態1の場合と同様の方法を用いて成膜できる。
【0094】
また、第2の基板51(厚さが例えば0.6mm)上に、第1情報層11を形成する。具体的には、第2の基板51上に、反射層112、第1の誘電体層113、第1の界面層114、記録層115、第2の界面層116および第2の誘電体層117を順次スパッタリングにより成膜する。なお、各層は、実施の形態1の場合と同様の方法を用いて成膜できる。
【0095】
最後に、それぞれの情報層が積層された第1の基板53および第2の基板51を、接着層52を用いて貼り合わせる。すなわち、第1情報層11と第2情報層13とを互いに貼り合わせる。具体的には、第2の基板51上に積層された第1情報層11上に、紫外線硬化性樹脂等を塗布して、第1の基板53上に積層された第2情報層13を第1情報層11に密着させてスピンコートした後、樹脂を硬化させるとよい。
【0096】
なお、上記に説明した例は、本発明の情報記録媒体の製造方法が、
(I)第1の基板上に、第N情報層〜第m情報層(mは、2≦m≦Nを満たす整数)をこの順に製造する工程と、
(II)第2の基板上に、第1情報層〜第m−1情報層をこの順に製造する工程と、
(III)第m情報層と第m−1情報層とを互いに貼り合わせる工程と、
を含んでおり、Lがm≦L≦Nを満たす場合は、前記工程(I)が、第L情報層を製造する工程における前記工程(i)〜(iii)を、工程(iii)、工程(ii)、工程(i)の順で含んでおり、Lが2≦L≦m−1を満たす場合は、前記工程(II)が、第L情報層を製造する工程における前記工程(i)〜(iii)を、工程(i)、工程(ii)、工程(iii)の順で含んでいる方法である場合の具体例である。詳しくは、第2情報層13が第m情報層に相当し、第1情報層11が第m−1情報層に相当する場合の例である。なお、上記に示したように、工程(i)とは、本発明の製造方法における透過率調整層成膜工程であり、工程(ii)とは反射層成膜工程であり、工程(iii)とは記録層成膜工程である。
【0097】
情報記録媒体8の各記録層は、通常、成膜したままの状態では非晶質状態であるため、必要に応じてレーザビームを照射する等して結晶化する初期化工程を行ってもよい。
【0098】
以上のようにして、情報記録媒体8を製造できる。
【0099】
また、以上に説明した図5および図6に示す情報記録媒体8は2層の情報層を備えた情報記録媒体であるが、本実施の形態の情報記録媒体は、図7に示すような4個の情報層を備えた情報記録媒体9であってもよい。図7には、本発明の情報記録媒体においてN=4である場合の構成例、すなわち4個の情報層(第1情報層21、第2情報層23、第3情報層24および第4情報層25)が設けられた情報記録媒体9の構成例が示されている。このような情報記録媒体9の第1情報層21は、図5および図6に示した第1情報層11と同じ膜構成をもつ。また、このような情報記録媒体9の第2情報層23、第3情報層24および第4情報層25のうち少なくとも1つの情報層(本発明の情報記録媒体における第L情報層に相当する情報層)は、図5および図6に示した第2情報層13と基本的に同じ構成(透過率調整層を含む構成)を有する。第2〜第4情報層23,24,25の全てが第2情報層13と同様の構成を備えていてもよいし、第2情報層13と異なる膜構成の情報層が含まれていてもよい。すなわち、第2〜第4の情報層23,24,25の中に、反射層や透過率調整層が設けられていない情報層が含まれていてもよい。
【0100】
情報記録媒体9では、第4情報層25よりも第2の基板51側に配置されている情報層に到達するレーザビームおよびその反射光は、その情報層よりもレーザビーム入射側に配置されている情報層を通過することによって減衰してしまう。そのため、第1情報層21、第2情報層23および第3情報層24は高い記録感度と高い反射率を持つことが必要であり、第2情報層23、第3情報層24および第4情報層25は高い透過率を持つことが必要である。
【0101】
また、本実施の形態の情報記録媒体は、より一般的に、N個の情報層(ここでは、Nは3以上の整数)を備えた情報記録媒体であってもよい。図8には、N個の情報層(第1情報層31、第2情報層33、・・・、第N−1情報層38および第N情報層39)が設けられた情報記録媒体10の構成例が示されている。このような情報記録媒体10の第1情報層31は、図5および図6に示した第1情報層11と同じ構成をもつことができる。また、このような情報記録媒体10の第2情報層33、…、第N−1情報層38および第N情報層39のうち少なくとも1つの情報層(本発明の情報記録媒体における第L情報層に相当する情報層)は、図5および図6に示した第2情報層13と基本的に同じ構成(透過率調整層を含む構成)を有する。第2〜第Nの情報層33,…,38,39の全てが第2情報層13と同様の構成を備えていてもよいし、第2情報層13と異なる膜構成の情報層が含まれていてもよい。すなわち、第2〜第Nの情報層33,…,38,39の中に、反射層や透過率調整層が設けられていない情報層が含まれていてもよい。
【0102】
情報記録媒体10では、第N情報層39よりも第2の基板51側に配置されている情報層に到達するレーザビームおよびその反射光は、その情報層よりもレーザビーム入射側に配置されている情報層を通過することによって減衰してしまう。そのため、第1情報層31、第2情報層33、…、第N−1情報層38は高い記録感度と高い反射率を持つことが必要であり、第2情報層33、…、第N−1情報層38および第N情報層39は高い透過率を持つことが必要である。
【0103】
図7に示した4個の情報層を備えた情報記録媒体9は、図5および図6に示した2層の情報層を備えた情報記録媒体8と同様の方法によって作製できる。すなわち、まず、第1の基板53上に、第4情報層25、第3情報層24および第2情報層23(第m情報層)を分離層12を介して順次形成する。分離層12は、実施の形態1で説明した方法と同様の方法によって形成される。
【0104】
また、第2の基板51上に、第1情報層21(第m−1情報層)を形成する。
【0105】
最後に、それぞれの情報層が積層された第1の基板53および第2の基板51を、接着層52を用いて貼り合わせる。情報記録媒体8の場合と同様に、第2の基板51上に積層された第1情報層11上に、紫外線硬化性樹脂等を塗布して、第1の基板53上に積層された第2情報層13を第1情報層に密着させてスピンコートした後、樹脂を硬化させるとよい。
【0106】
また、図8に示したN個の情報層を備えた情報記録媒体10についても、図7に示した4層の情報層を備えた情報記録媒体9と同様の方法によって作製できる。
【0107】
まず、第1の基板53上に、第N情報層39、第N−1情報層38、…、第2情報層33(第m情報層)を分離層12を介して順次形成する。分離層12は実施の形態1で説明したものと同様の方法によって形成される。
【0108】
また、第2の基板51上に、第1情報層31(第m−1情報層)を形成する。
【0109】
最後に、それぞれの情報層が積層された第1の基板53および第2の基板51を、接着層52を用いて貼り合わせる。情報記録媒体8の場合と同様に、第2の基板51上に積層された第1情報層31上に、紫外線硬化性樹脂等を塗布して、第1の基板53上に積層された第2情報層33を第1情報層に密着させてスピンコートした後、樹脂を硬化させるとよい。
【0110】
情報記録媒体9および情報記録媒体10の各記録層は、通常、成膜したままの状態では非晶質状態であるため、必要に応じてレーザビームを照射する等して結晶化する初期化工程をおこなってもよい。
【0111】
以上のようにして、情報記録媒体9および情報記録媒体10を製造できる。
【0112】
以上に、情報の記録再生が可能な情報層を2個以上備えた情報記録媒体およびその製造方法を説明したが、本発明の情報記録媒体はこの構成および製造方法に限定されず、少なくとも1つの情報層(第L情報層(Lは、2≦L≦Nを満たす整数))が相変化を生じる記録層、反射層、透過率調整層をレーザビーム入射側からこの順序で含むものであればよい。
【0113】
例えば4個の情報層を有する情報記録媒体においては、4個の情報層のうち2つを再生専用の情報層とし、残りの2つを、相変化を起こしうる記録層、反射層、透過率調整層を含む情報層とすることも可能である。さらに、記録層は可逆的相変化を生じる記録層であってもよく、非可逆的相変化を生じる記録層であってもよい。
【0114】
なお、本実施の形態においては、情報層を構成する各層の成膜方法としてスパッタリング法を用いたが、これに限定されず、真空蒸着法、イオンプレーティング法、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法等を用いることも可能である。
【0115】
(実施の形態3)
実施の形態3では、本発明の情報記録媒体の別の例を説明する。実施の形態3における情報記録媒体の部分断面図を図9に示す。本実施の形態の情報記録媒体15は、実施の形態1で説明した情報記録媒体2と同様に、対物レンズ5で集光されたレーザビーム4が照射されることによって情報の記録再生が可能な光学的情報記録媒体である。
【0116】
情報記録媒体15は、基板55上に第2情報層13、分離層12、第1情報層11を積層し、第1情報層11とダミー基板60とを接着層52を介して接合することによって形成されている。すなわち、本実施の形態の情報記録媒体15は、本発明の情報記録媒体においてN=2およびL=2の場合の形態であり、第2情報層13が第N情報層および第L情報層に相当する。また、本実施の形態の情報記録媒体15では、基板55側がレーザビーム入射側となる。図10は、本実施の形態の情報記録媒体15について、第1情報層11および第2情報層13の膜構成を詳細に示した部分断面図である。
【0117】
基板55およびダミー基板60は、円盤状である。さらに、基板55は略透明である。基板55およびダミー基板60の材料には、実施の形態1で説明した基板1と同様に、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリオレフィン樹脂、ノルボルネン系樹脂、ガラス、あるいはこれらを適宜組み合わせたもの等を用いることができる。基板55の第2情報層13側の面には、レーザビーム4を導くための案内溝が形成されていてもよい。なお、基板55およびダミー基板60の厚さは、十分な強度があり、かつ、情報記録媒体15の全体の厚さが1.2mm程度となるように、0.3mm〜0.9mmの範囲内であることが好ましい。
【0118】
接着層52の材料には、紫外線硬化性樹脂等を用いることができる。なお、接着層52の厚さは、実施の形態1の分離層12と同じ理由により、5μm〜50μmの範囲内であることが好ましい。
【0119】
第1情報層11と第2情報層13は、図10に示すように、実施の形態1で説明した情報記録媒体2に設けられた2つの情報層とそれぞれ同様の膜構成を有するため、ここではそれぞれの情報層に含まれる各層の説明は省略する。
【0120】
情報記録媒体15は、以下に説明する方法によって製造できる。
【0121】
まず、基板55(厚さが例えば0.6mm)上に、第2情報層13を形成する。具体的には、基板55上に、第2の誘電体層137、第2の界面層136、記録層135、第1の界面層134、第1の誘電体層133、反射層132、透過率調整層131を順次スパッタリングによって成膜していく。このとき、必要であればスパッタリングの前にアニール工程を実施してもよい。なお、各層は、実施の形態1の場合と同様の方法を用いて成膜できる。
【0122】
このようにして、基板55上に第2情報層13を積層し、その後、実施の形態1の場合と同様に、分離層12を形成する。
【0123】
次に、分離層12上に第1情報層11を積層する。具体的には、分離層12上に、第2の誘電体層117、第2の界面層116、記録層115、第1の界面層114、第1の誘電体層113、反射層112を順次スパッタリングによって成膜していく。なお、各層は、実施の形態1の場合と同様の方法を用いて成膜できる。
【0124】
最後に、第1情報層11および第2情報層13が積層された基板55とダミー基板60とを、接着層52を用いて貼り合わせる。具体的には、基板55上に積層された第1情報層11上に紫外線硬化性樹脂等を塗布して、ダミー基板60を第1情報層11に密着させてスピンコートした後、樹脂を硬化させるとよい。
【0125】
情報記録媒体15の各記録層は、通常、成膜したままの状態では非晶質状態であるため、必要に応じてレーザビームを照射する等して結晶化する初期化工程をおこなってもよい。
【0126】
以上のようにして、本実施の形態の情報記録媒体15を製造できる。
【0127】
また、実施の形態1および2と同様に、本実施の形態の情報記録媒体は、図11に示すような4個の情報層を備えた情報記録媒体16であってもよく、図12に示すようなN個の情報層を備えた情報記録媒体17であってもよい。例えば4個の情報層を有する情報記録媒体においては、4個の情報層のうち2つを再生専用の情報層とし、残りの2つを、相変化を起こしうる記録層、反射層および透過率調整層を含む情報層とすることも可能である。さらに、記録層は、可逆的相変化を生じる記録層であってもよく、非可逆的相変化を生じる記録層であってもよい。
【0128】
(実施の形態4)
実施の形態4では、実施の形態1、2および3で説明した情報記録媒体に対して情報の記録再生を行う方法の一例について説明する。
【0129】
図13に、本発明の情報記録媒体に対して情報の記録および再生を行うための記録再生装置の一例の概略図を示す。この記録再生装置には、情報記録媒体506を回転させるためのモーター505と、レーザダイオード501と、ハーフミラー503と、対物レンズ504と、フォトディテクター507とが含まれている。レーザダイオード501から出射されたレーザビーム502は、ハーフミラー503および対物レンズ504を通じて、モーター505によって回転されている情報記録媒体506の情報層上にフォーカスされる。情報の再生は、情報記録媒体506からの反射光をフォトディテクター507に入射させ、信号を検出することによって行われる。なお、情報記録媒体506は、実施の形態1〜3で説明した何れかの構成を有する媒体である。
【0130】
情報の記録を行う際には、レーザビーム502の強度を複数のパワーレベル間で変調する。レーザビーム502の強度を変調する手段としては、例えばレーザダイオード501の駆動電流を変調する電流変調手段を用いることができる。記録マークを形成する部分に対しては、ピークパワーPpの単一矩形パルスを印加してもよいが、特に長いマークを形成する場合は、過剰な熱を省いてマーク幅を均一にする目的で、図14に示すようにピークパワーPpおよびボトムパワーPb(ただし、Pp>Pb)との間で変調された複数のパルス列からなる記録パルス列を用いるとよい。また、最後尾のパルスの後に冷却パワーPcの冷却区間を設けてもよい。マークを形成しない部分に対しては、バイアスパワーPe(ただし、Pp>Pe)で一定に保つ。
【実施例】
【0131】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【0132】
(実施例1)
実施例1では、Nb25またはTiO2からなるスパッタリングターゲットについて、それぞれ、成膜の効率および安定性について調べた。表1に、Nb25またはTiO2からなる直径200mmのスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングした際の成膜レートを、基板のアニール工程の有無で分けて示す。
【0133】
【表1】

【0134】
成膜レートの測定は以下のようにしておこなった。まず、ガラス片を貼り付けたポリカーボネート基板を用意し、必要に応じて基板のアニール工程を行った。次に、このポリカーボネート基板をスパッタリング装置に設置し、ポリカーボネート基板上のガラス片が貼り付けられた側にDCスパッタリング法によってスパッタ膜を成膜した。なお、DCスパッタリングの条件は、Arと酸素の混合ガス0.5Paの雰囲気(酸素濃度は3%)で、投入電力2.5kWとした。次に、ガラス片をポリカーボネート基板から取り外し、ガラス片のスパッタ膜をナイフで削り取ることで、スパッタ膜の膜厚に相当する段差を作り、この段差を段差計を用いて測ることによって膜厚を測定した。成膜レートは、スパッタ膜の膜厚と成膜時間との関係から計算した。
【0135】
基板アニール工程を実施する場合は、ポリカーボネート基板を80℃かつ乾燥の条件の炉に10時間保管してポリカーボネート基板に吸着した水分を除去した後に、スパッタリングを行った。基板アニール工程を実施しない場合には、ポリカーボネート基板を実験室内にて常温で大気中に10時間おいた後、スパッタリングを行った。
【0136】
Nb25からなるスパッタリングターゲットは成膜レートが高く、かつ、アニール工程の有無によって成膜レートが変化しないので、スパッタリングを効率よく安定して行うことができることが確認できた(サンプル1−1,1−2)。一方、TiO2からなるスパッタリングターゲットは成膜レートがNb25に比べて低く、かつ、アニール工程を行った場合は成膜レートが2nm/sec、アニール工程を行わない場合は成膜レートが1nm/secと、アニール工程の有無によって成膜レートが大きく変化した(サンプル1−3,1−4)。よって、TiO2からなるスパッタリングターゲットは、スパッタリングの効率が悪く不安定であることがわかった。なお、本実施例における成膜レート安定性の判定は、ポリカーボネート基板のアニールの有無で成膜レートが変わらなければ「○」、変われば「×」とした。
【0137】
(実施例2)
実施例2では、図2に示した情報記録媒体2と同様の構成の情報記録媒体について、高温度高湿度の条件下における腐食を調べた。
【0138】
本実施例において用いた情報記録媒体は、以下のようにして製造した。まず、基板1として、レーザビームを導くための案内溝が形成されたポリカーボネート基板(直径120mm、厚さ1.1mm)を用意した。そして、そのポリカーボネート基板上に、反射層112としてAg−Pd−Cu層(厚さ:80nm)をArガス0.5Paの雰囲気で、投入電力0.2kWでDCスパッタリング法により成膜した。ただし、反射層112の成膜前に10時間の基板アニール工程を実施した。
【0139】
続いて、第1の誘電体層113として、ZrO2−SiO2−In23層(厚さ:21nm)を、Arガス0.5Pa雰囲気で、投入電力2kWでRFスパッタリング法により成膜した。続いて、記録層115として、Ge40Sn5Bi4Te51層(厚さ:11nm)を、Arガス0.5Pa雰囲気で、投入電力0.2kWでDCスパッタリング法により成膜した。記録層115のスパッタリングでは、各原子のスパッタリング率の違いを考慮し、成膜状態で狙いの組成となるように調節した直径200mmのGe−Sn−Bi−Teスパッタリングターゲットを用いた(以下、すべての実施例も同様である。)。続いて、第2の界面層116として、ZrO2−SiO2−Cr23層(厚さ:5nm)を、Arガス0.5Pa雰囲気で、投入電力2kWでRFスパッタリング法により成膜した。続いて、第2の誘電体層117として、ZnS−SiO層(厚さ:48nm)を、Arガス0.5Pa雰囲気で、投入電力5kWでRFスパッタリング法により成膜し、第1情報層11を形成した。
【0140】
その後、第1情報層11上に紫外線硬化性樹脂を塗布し、スピンコートした後、紫外線を照射して樹脂を硬化させることによって、分離層12(厚さ25μm)を形成した。
【0141】
さらに、分離層12上に、透過率調整層131(厚さ:22nm)を、Arと酸素の混合ガス0.5Paの雰囲気(酸素濃度は3%)で、投入電力2kWでDCスパッタリング法により成膜した。透過率調整層131は、Nb25、TiO2またはNb25とTiO2との混合物であり、組成が(Nb25z(TiO2100-z(mol%)(ただし、z=0、2、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、98、100)と表される直径200mmのスパッタリングターゲットを用いて成膜した。ただし、透過率調整層131の成膜前に10時間の基板アニール工程を実施した。
【0142】
続いて、反射層132として、Ag−Pd−Cu層(厚さ:10nm)を、Arガス0.5Pa雰囲気で、投入電力0.2kWでDCスパッタリング法により成膜した。次に、第1の誘電体層133として、ZrO2−SiO2−In23層(厚さ:12nm)を、Arガス0.5Pa雰囲気で、投入電力2kWでRFスパッタリング法により成膜した。次に、記録層135としてGe40Sn5Bi4Te51層(厚さ:7nm)をArガス0.5Pa雰囲気で、投入電力0.2kWでDCスパッタリング法により成膜した。記録層135のスパッタリングでは、第1情報層11の場合と同様に、各原子のスパッタリング率の違いを考慮し、成膜状態で狙いの組成となるように調節した直径200mmのGe−Sn−Bi−Teスパッタリングターゲットを用いた。次に、第2の界面層136として、ZrO2−SiO2−Cr23層(厚さ:5nm)を、Arガス0.5Pa雰囲気で、投入電力2kWでRFスパッタリング法により成膜した。次に、第2の誘電体層137として、ZnS−SiO2層(厚さ:37nm)をArガス0.5Pa雰囲気で、投入電力5kWでRFスパッタリング法により成膜し、第2情報層13を形成した。
【0143】
最後に、紫外線硬化性樹脂を第2情報層13上に塗布し、スピンコートした後、紫外線を照射して樹脂を硬化させることによって、透明層3(厚さ75μm)を形成した。
【0144】
以上のように、情報記録媒体2と同様の膜構成の15種類のサンプル(サンプル2−1〜2−15)を作製した。これらの各サンプルに対して透明層3側からレーザビームを入射し、記録層全面を初期化した。
【0145】
製造したサンプルを温度90℃、湿度80%の条件の炉に200時間置いた後、透過率調整層付近の腐食を確認した。なお、腐食の確認は、光学顕微鏡を使用して、情報記録媒体の表面を200倍に拡大し観測することで行った。結果を表2に示す。
【0146】
【表2】

【0147】
Nb25のみから透過率調整層が形成されている情報記録媒体(サンプル2−15)は、腐食が発見された。透過率調整層にTiO2が含まれる情報記録媒体(サンプル2−1〜2−14)は、使用が困難となる程度の腐食の発生は見られなかった。また、Nb25の含有割合を90mol%以下(サンプル2−1〜2−12)とすることによって、腐食がより確実に除けることも確認された。なお、耐湿性の判定は、光学顕微鏡で観測して、情報記録媒体としての使用が困難となる程度に腐食や剥離が発生していれば「×」、無ければ「○」とした。
【0148】
(実施例3)
実施例3では、実施例2と同様に、図2に示した情報記録媒体2と同様の構成の情報記録媒体の高温度高湿度の条件下における腐食を調べた。情報記録媒体の製造方法は実施例2と同様である。ただし、実施例3では透過率調整層131を、Nb25、Bi23またはNb25とBi23との混合物であり、組成が(Nb25z(Bi23100-z(mol%)(ただし、z=0、2、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、98、100)と表される直径200mmのスパッタリングターゲットを用いて成膜した。
【0149】
製造したサンプルを温度90℃、湿度80%の条件の炉の中に200時間おいた後、光学顕微鏡を使用して情報記録媒体の表面を200倍に拡大して腐食を観測した。結果を表3に示す。
【0150】
【表3】

【0151】
耐湿性の判定基準は、実施例2の場合と同様である。この結果によれば、透過率調整層の材料としてBi23またはNb25とBi23との混合物を用いた場合に、腐食の発生が抑制できることがわかった(サンプルNo.3−1〜3−14)。また、実施例2の結果と同様に、Nb25の含有割合を90mol%以下(サンプル3−1〜3−12)とすることによって、腐食がより確実に除けることも確認された。
【0152】
(実施例4)
実施例4では、本発明の情報記録媒体における透過率調整層をスパッタリングによって成膜する際に用いられる材料について、それぞれ成膜効率および安定性を調べた。実施例4で調べたのは、Nb25と元素Mの酸化物(Ti、Zr、Hf、Y、Cr、Zn、Ga、Co、Bi、In、TaおよびCeの酸化物(M−O))との混合物(ただし、モル比はすべて50%:50%であり、(Nb2550(M−O)50と表される)からなる直径200mmのスパッタリングターゲットの成膜レートである。成膜レートの測定方法は実施例1と同様である。
【0153】
表4には、透過率調整層に上記の各スパッタリングターゲットをスパッタリングした際の、成膜レートを示す。
【0154】
【表4】

【0155】
なお、参考として実施例1で調べたTiO2のレートを表4に併せて示す。Nb25とTi、Zr、Hf、Y、Cr、Zn、Ga、Co、Bi、In、TaおよびCeの酸化物との混合物は、ポリカーボネート基板のアニールの有無にかかわらず成膜レートが安定していることがわかった。なお、本実施例における成膜レート安定性の判定は、ポリカーボネート基板のアニールの有無で成膜レートが変わらなければ「○」、変われば「×」とした。
【0156】
この結果によれば、成膜レートの観点からは、元素MはTi、Zr、Hf、Y、Cr、Zn、Ga、Bi、InおよびTaから選ばれる少なくとも1つの元素であることが好ましく、より好ましくは元素MがTi、Zr、Hf、Zn、Ga、Bi、InおよびTaから選ばれる少なくとも1つの元素であり、さらに好ましくは元素MがZn、Ga、Bi、InおよびTaから選ばれる少なくとも1つの元素であり、さらに好ましくは元素Mが、BiおよびInから選ばれる少なくとも1つの元素であることが確認された。
【0157】
(実施例5)
実施例5では、本発明の情報記録媒体における透過率調整層をスパッタリングによって成膜する際に用いられる材料について、成膜効率および安定性を調べた。実施例5で調べたのは、Nb25、Ta25またはNb25とTa25との混合物であり、組成が(Nb25z(Ta25100-z(mol%)(ただし、z=0、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100)と表される直径200mmのスパッタリングターゲットの成膜レートである。成膜レートの測定方法は実施例1と同様である。
【0158】
表5−Aに、透過率調整層に上記のスパッタリングターゲットをスパッタリングした際の、成膜レートを示す。
【0159】
【表5−A】

【0160】
Nbが2.9原子%以上(Nbの酸化物(Nb25)として10mol%以上)含まれる材料は、Ta25のみからなる材料(サンプル5A−1、5A−2)と比較して、成膜レートが高くなることが確認された。さらに、Nbの含有割合が増加するに従い、ポリカーボネート基板のアニールの有無による成膜レートの差が小さくなる、すなわち成膜レート比((アニール無しの成膜レート)/(アニール有りの成膜レート))が1に近づくことが確認された。さらに、Nbが8.6原子%以上(Nbの酸化物(Nb25)として30mol%以上)含まれることによって、成膜レートがより高くなると共に、ポリカーボネート基板のアニールの有無による成膜レートの変動を十分に抑制できる(成膜レートを安定化できる)ことが確認された。なお、成膜レート安定性の判定は、ポリカーボネート基板のアニールの有無で成膜レートが変わらなければ「○」、成膜レート比が0.5を超えていれば「△」、成膜レート比が0.5以下であれば「×」とした。
【0161】
また、元素MとしてTiを用いた場合についても同様に成膜効率および安定性を調べたところ、表5−Bに示すような結果が得られた。この結果から、Tiの場合もTaと同様の効果が得られることが確認された。
【0162】
【表5−B】

【0163】
(実施例6)
実施例6では、本発明の情報記録媒体における透過率調整層をスパッタリングによって成膜する際に用いられる材料について、それぞれ成膜効率および安定性を調べた。実施例6で調べたのはNb25とTiO2とからなる混合物、または、Nb25、TiO2およびLaF3とからなる混合物であり、組成が[(Nb2580(TiO220100-a(LaF3a(mol%)(ただし、a=0、5、10、15、20)と表される直径200mmのスパッタリングターゲットの成膜レートである。成膜レートの測定方法は実施例1と同様である。
【0164】
表6には、上記の各スパッタリングターゲットをスパッタリングした際の、成膜レートおよび成膜レート安定性を示す。なお、成膜レート安定性の評価は実施例5と同様である。
【0165】
【表6】

【0166】
[(Nb2580(TiO220100-a(LaF3a(mol%)と表される組成でa≦10のときは、ポリカーボネート基板のアニールの有無によって成膜レートが安定になることがわかった(サンプル6−1〜6−6)。
【0167】
(実施例7)
実施例7では、図2に示した情報記録媒体2のうち第1情報層11と分離層12を有せず、基板1上に第2情報層13と透明層3のみを形成したサンプルを製造し、透過率調整層131の屈折率nt、消衰係数ktおよび厚さdと、第2情報層13の透過率Tc,Taとの関係を調べた。
【0168】
サンプルは以下のようにして製造した。まず、基板1として、レーザビームを導くための案内溝が形成されたポリカーボネート基板1(直径120mm、厚さ1.1mm)を用意した。
【0169】
そして、そのポリカーボネート基板上に、透過率調整層131を、Arと酸素の混合ガス0.5Paの雰囲気(酸素濃度は3%)で、投入電力2kWでDCスパッタリング法により成膜した。ただし、透過率調整層131の成膜前に10時間の基板アニール工程を実施した。なお、作製した透過率調整層の組成は、表7に示すとおりである。
【0170】
続いて、反射層132として、Ag−Pd−Cu層(厚さ:10nm)を、Arガス0.5Pa雰囲気で、投入電力0.2kWでDCスパッタリング法により成膜した。第1の誘電体層133として、ZrO2−SiO2−In23層(厚さ:12nm)を、Arガス0.5Pa雰囲気で、投入電力2kWでRFスパッタリング法により成膜した。記録層135として、Ge40Sn5Bi4Te51層(厚さ:7nm)を、Arガス0.5Pa雰囲気で、投入電力0.2kWでDCスパッタリング法により成膜した。第2の界面層136として、ZrO2−SiO2−Cr23層(厚さ:5nm)を、Arガス0.5Pa雰囲気で、投入電力0.2kWでRFスパッタリング法により成膜した。第2の誘電体層137として、ZnS−SiO2層(厚さ:37nm)を、Arガス0.5Pa雰囲気で、投入電力2kWでRFスパッタリング法により成膜した。このようにして、第2情報層13を形成した。
【0171】
最後に、紫外線硬化性樹脂を第2情報層13上に塗布し、スピンコートした後、紫外線を照射して樹脂を硬化させることによって、透明層3(厚さ100μm)を形成した。
【0172】
以上のようにして、6種類のサンプルを作製した。
【0173】
これらのサンプルに対して透明層3側からレーザビームを照射し、記録層の一部を初期化した。
【0174】
各サンプルについて、記録層135が非晶質相である場合の透過率Ta、さらには記録層が結晶相である場合の透過率Tcを測定した。透過率の測定には分光器を用い、波長405nmの透過率を調べた。
【0175】
表7に、透過率調整層131の屈折率nt、消衰係数ktおよび第2情報層13の透過率Tc,Taの関係を示す。
【0176】
【表7】

【0177】
表7に示したサンプルにおいては透過率調整層131の膜厚はすべて22nmであり、材料としてはNb25、Ta25、TiO2、(Nb2550(Ta2550(mol%)、(Nb2550(TiO250(mol%)または(Nb2550(Bi2350(mol%)の直径200mmのスパッタリングターゲットを用いた。なお、屈折率および消衰係数は、エリプソメーターを用いて測定した。
【0178】
情報記録媒体2の構成の場合、第2情報層13は透過率Taおよび透過率Tcがともに45%以上であることが好ましく、透過率は透過率調整層131の屈折率が大きいほど高くなることがわかっている。表7より、本実施例で製造したサンプルの場合は、透過率調整層131の屈折率ntが2.4以上が好ましいことがわかった。透過率の判定はTa、Tcともに45%以上であれば「○」、いずれか一方が35%以上45%未満であれば「△」、何れか一方が35%未満であれば「×」とした。
【0179】
また、透過率調整層131の膜厚dと透過率Tc,Taとの関係も調べた。結果を表8に示す。なお、透過率の判定基準は表7の場合と同様である。
【0180】
【表8】

【0181】
(表8)に示したサンプルおいては透過率調整層131の材料として(Nb2550(Bi2350(mol%)の直径200mmのスパッタリングターゲットを用いて、膜厚を2nm、5nm、9nm、18nm、36nm、42nmとして成膜した。表8より、透過率調整層131の膜厚dがλ/32nt〜λ/4nt(λはレーザビームの波長であり、本実施例ではλ=405nm)の範囲内の場合(膜厚dが5nm〜36nmの場合)に、透過率Tc,Taが共に45%以上となり、良好な結果が得られた。特に、膜厚dがλ/8ntの時に、高い透過率が得られた。
【0182】
(実施例8)
実施例8では、図3に示した情報記録媒体6の高温度高湿度の条件下における腐食を調べた。情報記録媒体6は4個の情報層を備えている。
【0183】
本実施例における情報記録媒体6は以下のようにして製造した。まず、実施例2の手順と同様にして基板1上に第1情報層21、分離層12(厚さ:10μm)を形成した。さらに、分離層12上に、第2情報層23を形成した。なお、本実施例において作製した第2情報層23は、図2に示した情報記録媒体2の第2情報層13と同様の膜構成なので、各層の符号は情報記録媒体2の第2情報層13を構成する各層の符号と同じにして、以下で第2情報層23の形成方法を説明する。
【0184】
分離層12上に、透過率調整層131(厚さ:22nm)をスパッタリングにより成膜した。透過率調整層131の材料は、Nb25、TiO2またはNb25とTiO2との混合物であり、組成が(Nb25z(TiO2100-z(mol%)(ただし、z=0、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100)と表される直径200mmのスパッタリングターゲットを用いて成膜した。ただし、透過率調整層131の成膜前に10時間の基板アニール工程を実施した。
【0185】
続けて、反射層132としてAg−Pd−Cu層(厚さ:8nm)、第1の誘電体層133としてZrO2−SiO2−In23層(厚さ:10nm)、記録層135としてGe40Sn5Bi4Te51層(厚さ:6nm)、第2の界面層136としてZrO2−SiO2−Cr23層(厚さ:5nm)、第2の誘電体層137としてZnS−SiO2層(厚さ:33nm)をスパッタリングにより順次積層して、第2情報層23を形成した。その後、第2情報層23上に分離層12(厚さ:15μm)を形成し、この分離層12上に第3情報層24、分離層12(厚さ:20μm)、第4情報層25を形成した。作製された第3情報層24および第4情報層25は透過率調整層と反射層とを有しておらず、記録層の厚さを4nmと薄くすることで透過率を高めたが、それ以外の膜構成は第2情報層23と同じであった。最後に、紫外線硬化性樹脂を第4情報層25上に塗布し、スピンコートした後、紫外線を照射して樹脂を硬化させることによって、透明層3(厚さ55μm)を形成した。
【0186】
以上のようにして、本実施例の各サンプルを作製した。
【0187】
各サンプルに対して透明層3側からレーザビームを照射し、記録層全面を初期化した。
【0188】
製造したサンプルを温度90℃、湿度80%の条件の炉に200時間置いた後で、光学顕微鏡を使用して情報記録媒体の表面を200倍に拡大し、腐食を観測した。結果は実施例2で得られたものと同等であり、透過率調整層131をNb25のみから作製した場合は腐食の発生が見られたが、Nb25にTiO2を混ぜることで腐食の発生が抑制できることがわかった。
【0189】
(実施例9)
実施例9では、図4に示した情報記録媒体7について、高温度高湿度の条件下における腐食を調べた。図4に示す情報記録媒体7はN個の情報層を備えているが、本実施例ではN=6の場合として、6個の情報層を備えた情報記録媒体を作製した。
【0190】
本実施例のサンプルは以下のようにして製造した。まず、実施例2の手順と同様にして基板1上に第1情報層31、分離層12(厚さ:10μm)を形成した。さらに、分離層12上に、第2情報層33を形成した。なお、本実施例において作製した第2情報層33を図2に示した情報記録媒体2の第2情報層13と同様の膜構成としたので、各層の符号を情報記録媒体2の第2情報層13を構成する各層の符号と同じにして、以下に本実施例における第2情報層33の形成方法を説明する。
【0191】
分離層12上に、透過率調整層131(厚さ:22nm)をスパッタリングにより成膜した。透過率調整層131の材料はNb25、TiO2またはNb25とTiO2との混合物であり、組成が(Nb25z(TiO2100-z(mol%)(ただし、z=0、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100)と表される直径200mmのスパッタリングターゲットを用いて成膜した。ただし、透過率調整層131の成膜前に10時間の基板アニール工程を実施した。
【0192】
続けて、反射層132としてAg−Pd−Cu層(厚さ:7nm)、第1の誘電体層133としてZrO2−SiO2−In23層(厚さ:10nm)、記録層135としてGe40Sn5Bi4Te51層(厚さ:5nm)、第2の界面層136としてZrO2−SiO2−Cr23層(厚さ:5nm)、第2の誘電体層137としてZnS−SiO2層(厚さ:30nm)をスパッタリングにより順次積層し、第2情報層33を形成した。その後、第2情報層33上に分離層12(厚さ:12μm)を形成し、分離層12上に第3情報層、分離層12(厚さ:14μm)、第4情報層、分離層12(厚さ:16μm)、第5情報層、分離層12(厚さ:18μm)、第6情報層を形成した。この時、第3情報層、第4情報層、第5情報層および第6情報層は透過率調整層と反射層とを有しておらず、さらに、透過率を高めるために第3情報層および第4情報層の記録層の厚さを3nm、第5情報層38および第6情報層39の記録層の厚さを2nmと薄くしたが、それ以外の膜構成は第2情報層23と同じであった。最後に、紫外線硬化性樹脂を第6情報層39上に塗布し、スピンコートした後、紫外線を照射して樹脂を硬化させることによって、透明層3(厚さ30μm)を形成した。
【0193】
以上のように作製した各サンプルに対して透明層3側からレーザビームを照射し、記録層全面を初期化した。
【0194】
製造したサンプルを温度90℃、湿度80%の条件の炉の中に200時間置いた後、光学顕微鏡を使用して情報記録媒体の表面を200倍に拡大し、腐食を観測した。結果は実施例2で得られたものと同等であり、透過率調整層131がNb25のみから形成された場合は腐食の発生が見られたが、Nb25にTiO2を混ぜることで腐食の発生が抑制できることがわかった。
【0195】
(実施例10)
実施例10では、図2に示した情報記録媒体2と同様の構成の情報記録媒体を作製し、第2情報層13の透過率調整層131の成膜前に行うアニール工程の実施時間と、第2情報層13の透過性能との関係を調べた。具体的には、透過率調整層131の組成がTiO2である情報記録媒体と(Nb2550(Bi2350(mol%)である情報記録媒体とについて、それぞれ、透過率調整層131の成膜前にアニール工程を実施したものと実施しないものを作製し、すべての情報記録媒体について第2情報層13の透過性能を確認した。アニール工程の時間は2時間、5時間、10時間および24時間とした。第2情報層13の透過性能は、第1情報層11の反射率および記録感度を調べることで確認した。第1情報層11の記録および再生は、第2情報層13を透過したレーザビームによって行われるため、第1情報層の反射率および記録感度は第2情報層13の透過性能によって変化するからである。
【0196】
本実施例における情報記録媒体の製造方法は実施例2と同様である。ただし、第2情報層13の透過率調整層131のスパッタリング時の成膜レートは、10時間のアニール工程を実施した場合のレートを使っている。
【0197】
第2情報層13の透過性能の測定は、図13に示す記録再生装置を用いて行った。レーザビーム502の波長は405nm、対物レンズ504の開口数は0.85、測定時の情報記録媒体506の線速度は4.9m/s、最短マーク長(2T)は0.149μmとした。
【0198】
反射率はレーザビーム502を対物レンズ504によって第1情報層11にフォーカスさせ、第1情報層11からの反射光をフォトディテクター507に入射させ信号強度を測定することで調べた。なお、反射率は記録層115が結晶相の場合の反射率を調べた。
【0199】
記録感度は図14に示すようにレーザピームのパワーを0〜Pp(mW)の間で変調して、マーク長0.149μm(2T)から0.596μm(8T)までのランダム信号を記録し、記録マークの前端ジッター(記録マーク前端部におけるマーク位置の誤差)、後端ジッター(記録マーク後端部におけるマーク位置の誤差)をタイムインターバルアナライザで測定することで評価した。なお、ジッター値は小さいほど記録性能が良い。Pp、Pe、PcおよびPbは平均ジッター(前端ジッターと後端ジッターの平均値)が最小となるように決定し、この時の最適Ppを記録感度とした。
【0200】
表9に、作製した情報記録媒体について第1情報層11の記録感度(Pp)、反射率Rcおよび第2情報層13の反射率Rc、透過率Tcを示す。
【0201】
【表9】

【0202】
ただし、2層の情報層を持つ情報記録媒体2では、第2情報層13の透過率を測定することができないので、実施例7のように基板1上に第2情報層13と保護層3のみを形成したサンプルを製造し、透過率を調べた。
【0203】
反射率、透過率はすべて記録層が結晶相の場合の値である。また、測定は情報記録媒体2の中心から半径40mmの円周上でおこなった。なお、性能安定性の判定は基板アニール工程の有無で情報記録媒体の性能が変わらなければ「○」、変われば「×」とした。
【0204】
透過率調整層131が(Nb2550(TiO250(mol%)の場合は記録感度(Pp)、反射率および透過率に基板アニール工程の有無で変化が無く性能が安定していることが確認された(サンプル9−1〜9−5)。TiO2の場合は、基板アニール工程を10時間以上実施すれば性能が安定するが(サンプル9−6,9−7)、基板アニール工程時間が10時間未満では記録感度(Pp)、反射率Rcおよび透過率Tcの全てで基板アニール工程の有無による変化が見られ、性能が安定しなかった(サンプル9−7〜9−10)。
【産業上の利用可能性】
【0205】
本発明の情報記録媒体およびその製造方法は、透過率調整層が安定して効率よく成膜できるため、記録再生特性が良好な多層情報記録媒体を効率よく得るために有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にN個の情報層(Nは2以上の整数)が設けられており、レーザビームが照射されることによって前記各情報層に対して情報の記録および再生が行われる情報記録媒体であって、
前記N個の情報層を、レーザビーム入射側と反対側から順に第1情報層〜第N情報層とした場合、前記N個の情報層に含まれる第L情報層(Lは、2≦L≦Nを満たす整数)は、少なくとも、レーザビームの照射によって相変化を起こしうる記録層と、反射層と、透過率調整層とを、レーザビーム入射側からこの順で含んでおり、
前記透過率調整層が、TiおよびBiの少なくともいずれか一方と、Nbと、酸素(O)とを含み、かつ、前記透過率調整層におけるNbの含有割合が2.9原子%以上26.5原子%以下である、
情報記録媒体。
【請求項2】
前記透過率調整層が、TiO2またはBi23と、Nbとを含む、
請求項1に記載の情報記録媒体。
【請求項3】
請求項1に記載の情報記録媒体を製造する方法であって、
前記第L情報層を製造する工程を含み、当該工程が、
(i)TiおよびBiの少なくともいずれか一方と、Nbと、酸素(O)とを含み、かつ、Nbの含有割合が2.9原子%以上26.5原子%以下である第1のスパッタリングターゲットを用いて、透過率調整層を成膜する透過率調整層成膜工程と、
(ii)反射層を成膜する反射層成膜工程と、
(iii)レーザビームの照射によって相変化を起こしうる記録層を成膜する記録層成膜工程と、
を含んでおり、
前記工程(i)〜(iii)が、工程(i)、工程(ii)、工程(iii)の順または工程(iii)、工程(ii)、工程(i)の順で行われる、
情報記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−81909(P2011−81909A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14762(P2011−14762)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【分割の表示】特願2008−510819(P2008−510819)の分割
【原出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】