説明

情報記録媒体用ガラス基板

【課題】 ガラスを結晶化させたり、イオン強化したりしなくても、十分な機械的強度を有する情報記録ディスク用のガラス基板を提供する。
【解決手段】 質量%表示でSiO2 50〜70%、Al23 7〜20%、B23 7〜17%、MgO 0〜10%、CaO 0〜15%、SrO 0〜15%、BaO 0〜30%含有し、実質的にアルカリ金属酸化物を含まず、(仮想温度-ガラス転移温度)が0℃以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク、光ディスク等の情報記録媒体の基板として用いられる情報記録媒体用ガラス基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータ等の外部記録媒体として、磁気ディスク、光磁気ディスク等の使用が増大している。更に今後の情報時代を迎え、高密度記録が可能な情報記録ディスクの開発が強く要望されている。高密度記録用の情報記録ディスク基板としては、次のような特性が要求される。
(1)ヘッドの浮上高さを低くするために平滑性に優れること。
(2)高速回転やヘッドの接触等に耐える機械的強度、弾性率を有すること。
(3)軽量であること。
(4)量産性に優れていること。
(5)磁性膜スパッタリングの熱処理に耐える高い耐熱性を有すること。
(6)磁性膜を腐食・劣化させないよう、ガラス材料中での移動度が大きいLi、Na、K等のアルカリ金属を含有しないこと。
【特許文献1】特開平11−157867号公報
【特許文献2】特開2005−41704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の情報記録ディスク用のガラス基板材料は、ガラスを結晶化させるか、イオン交換等により化学強化することによって機械的強度を改善することが一般的であった。しかし結晶化ガラスでは、析出した微小な結晶により、表面の平滑性が損なわれるという問題があった。また、化学強化ガラス基板の場合、イオン交換処理を行うためにはガラス中にアルカリ金属酸化物を含有する必要があり、そのアルカリ成分がガラス基板上に形成される磁性膜などに悪影響を及ぼす可能性があった。さらに、イオン交換処理などの工程が煩雑であり、生産性を低下させていた。
【0004】
本発明の目的は、ガラスを結晶化させたり、イオン強化したりしなくても、十分な機械的強度を有する情報記録ディスク用のガラス基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ガラスの理論強度は本来非常に高いのであるが、理論強度よりもはるかに低い応力でも破壊に至ること多い。これはガラス表面にグリフィスフローと呼ばれる小さな欠陥が他物体との接触により発生してしまうためである。
【0006】
本発明者らは、ガラス中に発生した微細なクラックがガラスの割れ・破壊に至る致命的な欠点になりやすく、ガラスの強度を向上させる根本的対策としてクラックを発生しにくくすればよいことに着目した。
【0007】
またクラックが進展する過程において、ガラスの塑性変形が起こりやすくなると、応力が緩和されやすくなり、クラックの進行を抑制する効果があることを見出した。更に、同一組成におけるガラスにおいても仮想温度を高くするような成形を行うことで塑性変形が起こりやすくなることを見出した。
【0008】
そして種々の実験を繰り返した結果、ガラスのクラック発生率を低減させ、かつ仮想温度を高める成形を行うことで、結晶化・イオン強化等を行わずとも磁気ディスク用の基板として使用しうる十分な強度を有し、その他にも高弾性率、耐熱性等、磁気ディスク用ガラスとして必要な特性を備え、さらに軽量で量産性にも優れた磁気ディスク用ガラスを見出し、それを提供するものである。
【0009】
即ち、本発明の情報記録媒体用ガラス基板は、質量%表示でSiO2 50〜70%、Al23 7〜20%、B23 7〜17%、MgO 0〜10%、CaO 0〜15%、SrO 0〜15%、BaO 0〜30%含有し、実質的にアルカリ金属酸化物を含まず、(仮想温度-ガラス転移温度)が0℃以上であることを特徴とする。
【0010】
また本発明のガラス基板は、クラック発生率が70%以下、ヤング率が65GPa以上、密度が2.7g/cm3以下、熱膨張係数が50×10-7/℃以下、液相粘度が105.0dPa・s以上、歪点が550℃以上であり、オーバーフローダウンドロー法で成形されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の情報記録媒体用ガラス基板は、高弾性率、耐熱性等、磁気ディスク基板等に必要な特性を備え、またクラック発生率が低く、かつそのクラックが進展しづらいガラスからなる。それゆえガラスを結晶化させたり、イオン強化したりしなくても、十分な機械的強度を有しており、磁気ディスク等の情報記録媒体用基板として好適に使用し得る。
【0012】
さらに、結晶化、イオン強化等の工程が不要となり、生産性が向上する。またガラスのクラック抵抗が高いことから、穴開け加工時のチッピングが生じにくくなると考えられ、これに起因する強度低下が起こりにくくなる。
【0013】
更に液相粘度が高いガラスからなるために、オーバーフローダウンドロー法を利用したガラス成形が可能となる。従って、表面品位の高いガラス基板を大量に生産可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
ガラスは、高温では粘性が低く液体状であり、この時のガラスの構造は粗の状態である。そして、冷却していくとガラスの構造は密になりながら固化する。このガラスの構造変化は、ガラスがその温度において最も安定な状態に移ろうとすることにより起こる。ところが、ガラスの冷却速度が大きいと、ガラスの構造が、その温度に対応する密な構造になる前にガラスが固化してしまい、高温側の状態でガラスの構造が固定されてしまう。この固化したガラスの構造に相当する温度を仮想温度という。仮想温度が高いガラスにおいては比較的構造が粗な状態で固化しているために、塑性変形によって応力を緩和しやすいという特徴がある。
【0015】
この仮想温度はガラスの熱収縮を測定することによって知ることができる。ガラス基板の熱収縮率(S)は、ガラス基板(1)の所定箇所に直線状のマーキング(2)を入れた後、ガラス板をマーキングに対して垂直に折り、2つのガラス板片(1a、1b)に分割する。一方のガラス板片(1a)のみに熱処理を施した後、熱処理を施したガラス板片(1a)と、未処理のガラス板片(1b)を並べて接着テープで両者を固定してから、マーキングのずれを測定し、下記の数1に示す式で求めることができる。
【0016】
【数1】

【0017】
熱処理温度条件を変化させ、それぞれの温度条件における熱収縮率(s)を測定する。その結果、熱収縮率が0となる温度がそのガラスの仮想温度となる。
【0018】
本発明の情報記録媒体用ガラス基板を構成するガラスの”仮想温度-ガラス転移温度”の値は0℃以上、好ましくは10℃以上、20℃以上、30℃以上、40℃以上、特に50℃以上であり、この値が大きいほど、塑性変形が起こり易い、即ちクラックが進展しにくいと考えられる。
【0019】
上記値を得るためには、ガラスの冷却速度が380℃/分以上、400℃/分以上、420℃/分以上、特に450℃/分以上となるように成形後の徐冷条件を調節することが好ましい。この徐冷条件の調整は、オーバーフローダウンドロー法等の板引き成形法でガラスを板状に成形する場合、板引き速度をコントロールすることにより行うことが望ましい。なお冷却速度の上限は、特に制限されるものではないが、1000℃/分を超えると、ガラスの歪みが大きくなりすぎて割れやすくなる。またオーバーフローダウンドロー法の場合には成形体に負荷がかかりすぎる。それゆえ1000℃/分以下にすることが好ましい。
【0020】
本発明の情報記録媒体用ガラス基板を構成するガラスのクラック発生率は、70%以下であることが好ましく、さらには50%以下、40%以下、30%以下、特に20%以下であることが望ましい。尚、本発明におけるクラック発生率とは次の方法によって得られた値を指す。
【0021】
その方法とは、湿度30%、温度25℃に保持された恒温恒湿槽内において、荷重1000gに設定したビッカース圧子をガラス表面(光学研磨面)に15秒間打ち込み、その15秒後に圧痕の4隅から発生するクラックの数をカウント(1つの圧痕につき最大4とする)する。これを20回繰り返し(即ち、圧子を20回打ち込み)、総クラック数を計数した後、総クラック発生数/80にて得られた値を求める方法である。
【0022】
本発明の情報記録媒体用ガラス基板を構成するガラスは、オーバーフローダウンドロー成形法を採用して成形した場合に、成形中にガラスが失透しないように、ガラスの液相温度が1200℃以下、1150℃以下、1130℃以下、1110℃以下、1090℃以下、特に1070℃以下であることが好ましく、液相温度における粘度が105.0dPa・s以上、105.6dPa・s以上、105.8dPa・s以上、特に106.0dPa・s以上であることが望ましい。
【0023】
本発明の情報記録媒体用ガラス基板を構成するガラスは、ヤング率が65GPa以上、67GPa以上、68GPa以上、69GPa以上、最適には70GPa以上であることが望ましい。
【0024】
本発明の情報記録媒体用ガラス基板を構成するガラスは、磁気ディスク等のデバイスの軽量化をはかるために、ガラスの密度ができるだけ低いほうが望ましく、具体的には2.7g/cm3以下、2.6g/cm3以下、2.5g/cm3以下、特に2.4g/cm3以下であることが望ましい。
【0025】
本発明の情報記録媒体用ガラス基板を構成するガラスは、デバイスの温度変化により、ディスクの体積変化が起こらないように、30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数が50×10-7/℃以下、45×10-7/℃以下、特に40×10-7/℃以下であることが望ましい。
【0026】
本発明の情報記録媒体用ガラス基板を構成するガラスは、ガラスの耐熱性の指標である歪点が550℃以上、580℃以上、600℃以上、特に630℃以上であることが望ましい。
【0027】
上記した種々の特性を満たすガラスは、例えば質量百分率で、SiO2 50〜70%、Al23 7〜20%、B23 7〜17%、MgO 0〜10%、CaO 0〜15%、SrO 0〜15%、BaO 0〜30%の組成範囲内で作製可能である。このように組成範囲を決定した理由を以下に述べる。
【0028】
SiO2の含有量は50〜70%である。SiO2の含有量が多くなると、ガラスの溶融、成形が難しくなったりするので、70%以下、好ましくは64%以下、62%以下、特に61%以下であることが望ましい。一方、含有量が少なくなると、ガラス網目構造を形成しにくくなりガラス化が困難になるとともにクラックの発生率が高くなるので、50%以上、好ましくは55%以上、特に57%以上であることが望ましい。また特に基板の低密度化をはかりたい場合にはSiO2の下限を58%以上、特に60%以上とし、上限を70%以下、68%以下、特に65%以下とすることが望ましい。
【0029】
Al23の含有量は7〜20%である。Al23の含有量が多くなると、ガラスに失透結晶が析出しやすくなり、液相粘度が低下したりするので、20%以下、好ましくは18%以下、17.5%以下、特に17%以下であることが望ましい。Al23の含有量が少なくなると、ガラスの歪点が低下したり、ヤング率が低下したりするため7%以上、好ましくは8%以上、8.5%以上、10%以上、12%以上、13%以上、13.5%以上、14%以上、特に14.5%以上であることが望ましい。また特に基板の低密度化をはかりたい場合にはAl23の下限を14%以上、特に15%以上とし、上限を18%以下、特に17%以下とすることが望ましい。
【0030】
23は7〜17%である。B23の含有量が高くなると、歪点が低下したり、ヤング率が低くなったりするため、17%以下、好ましくは15%以下、13%以下、12%以下、11%以下、特に10.4%以下であることが望ましい。またB23の含有量が低くなると、高温粘度が高くなり溶融性が悪化したり、クラック発生率が高くなったり、液相温度が高くなったり、密度が高くなったりするため、7%以上、好ましくは7.5%以上、8%以上、8.2%以上、8.4%以上、8.6%以上、8.8%以上、特に9%以上であることが望ましい。また特に基板の低密度化をはかりたい場合には下限を9%以上、特に9.5%以上とし、上限を12%以下、11%以下、10.8%以下、特に10.6%以下とすることが望ましい。
【0031】
MgOはガラスのヤング率や歪点を向上させ、高温粘度を低下させる成分であり、クラック発生率を低減させる効果はある。しかし多量に含有すると液相温度が上昇し、耐失透性が低下するため10%以下、好ましくは5%以下、2%以下、特に1%以下であることが望ましい。また特に基板の低密度化をはかりたい場合には3%以下、2.5%以下、2%以下、1%以下、特に0.5%以下とすることが望ましい。
【0032】
CaOの含有量は0〜15%である。CaOの含有量が高くなると密度や熱膨張係数が高くなったりするため、15%以下、好ましくは12%以下、10%以下、9%以下、7%以下、特に6%以下であることが望ましい。一方、CaOの含有量が少なくなると溶融性が悪化したり、ヤング率が低くなったりするため、好ましくは2%以上、2.5%以上、3%以上、特に5%以上含有させることが望ましい。また特に基板の低密度化をはかりたい場合には下限を5%以上、5.5%以上、特に5.8%以上とし、上限を10%以下、8.5%以下、特に8%以下とすることが望ましい。
【0033】
SrOの含有量は0〜15%である。SrOの含有量が高くなると密度や熱膨張係数が高くなるため、15%以下、好ましくは12%以下、10%以下、8%以下、7%以下、特に6.5%以下であることが望ましい。一方SrOの含有量が少なくなると溶融性が悪化するため、好ましくは0.5%以上、1%以上、2%以上、3%以上、特に5%以上含有することが望ましい。また特に基板の低密度化をはかりたい場合には下限を0.1%以上、特に0.5%以上とし、上限を5%以下、3%以下、特に2.5%以下とすることが望ましい。
【0034】
BaOの含有量は0〜30%である。BaOの含有量が高くなると密度や熱膨張係数が高くなるため、30%以下、好ましくは25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、特に3%以下であることが望ましい。一方BaOの含有量が少なくなると溶融性が悪化するため、好ましくは0.5%以上、1%以上、特に2%以上含有することが望ましい。また特に基板の低密度化をはかりたい場合には10%以下、5%以上、3%以下、1%以下、0.5%以下、0.3%以下とすることが望ましい。
【0035】
MgO、CaO、SrO、BaOの各成分は混合して含有させると、ガラスの液相温度を著しく下げ、ガラス中に結晶異物を生じさせ難くすることにより、ガラスの溶融性、成形性を改善する効果がある。しかしながら、これらの合量が少ないと融剤としての働きが充分ではなく溶融性が悪化するため、5%以上、8%以上、9%以上、11%以上、特に13%以上含有することが望ましい。一方、MgO、CaO、SrO、BaOの各成分の合量が多くなると、密度が上昇し、ガラスの軽量化が図れなくなる上、クラック発生率が高くなる傾向にあるため、合量で30%以下、20%以下、18%以下、特に15%以下であることが望ましい。また特に基板の低密度化をはかりたい場合には合量の下限を5%以上、8%以上とし、またその上限を13%以下、11%以下、10%以下とすることが望ましい。
【0036】
ZnOは、溶融性を改善し、ヤング率を高める成分であるが、多量に含有するとガラスが失透しやすくなり、歪点も低下する上、密度が上昇するため好ましくない。従って、その含有量は15%以下、10%以下、5%以下、3%以下、1%以下、特に0.5%以下であることが好ましい。
【0037】
ZrO2は、ヤング率を向上させる成分であるが、5%より多くなると、液相温度が上昇し、ジルコンの失透異物が出易くなるため好ましくない。ZrO2の好ましい範囲は3%以下、より好ましくは1%以下である。
【0038】
また、上記成分以外にも、本発明では、Y23、Nb23、La23を5%程度まで含有することができる。これらの成分は歪点、ヤング率等を高める働きがあるが、多く含有すると密度が増大してしまうので好ましくない。
【0039】
更に本発明のガラスには、ガラス特性が損なわれない限り、As23、Sb23、Sb25、F2、Cl2、SO3、C、あるいはAl、Siなどの金属粉末等の清澄剤を5%まで含有させることができる。また、CeO2、SnO2、Fe23なども清澄剤として5%まで含有させることができる。
【0040】
ところで本発明のような無アルカリガラスを溶融する場合、高温で清澄剤として働くAs23が広く用いられてきた。しかし、近年、環境に配慮する意味からAs23のような環境負荷化学物質は使用しにくくなってきた。SnO2は、As23と同様に高温で清澄力があり、本発明の無アルカリガラスを溶融するための清澄剤として非常に効果的である。しかし、多く含有させると失透を生じるため、その含有量は5%以下、望ましくは2%以下、より望ましくは1%以下に規制される。
【0041】
さらにSb23やSb25も有効であるが、Sb23やSb25を5%以上含有すると密度の上昇を招くため、好ましくは2%以下、より好ましくは1.5%以下、更に好ましくは1%以下に限定される。
【0042】
そこで清澄剤としてAs23を用いない場合には、Sb23、Sb25、及びSnO2の群から選択された1種又は2種以上を0.1〜3.0%含有させることが好ましく、特にSb23+Sb25 0.05〜2.0%、SnO2 0.01〜1.0%の割合で含有させるのが最も好ましい。
【0043】
次に、本発明の情報記録媒体用ガラス基板を製造する方法を述べる。
【0044】
まず所望の特性、又は組成となるようにガラス原料を調合する。
【0045】
次いでガラスを溶融し、成形する。ガラスの成形には種々の方法が採用可能であるが、溶融ガラスを直接板状に成形する場合は、オーバーフローダウンドロー法を採用することが好ましい。その理由は、この方法で成形された板ガラスは、表面平滑性に優れており、研磨を殆ど必要としなくても、情報記録媒体用基板の用途に供することができるためである。またこの方法に代表される板引き成形では、板引き速度を調節することにより、ガラスの仮想温度を容易に調整することができる。
【0046】
続いて得られた板状ガラスを切断し、所定の形状に加工する。さらに必要に応じて表面研磨、端面加工等の処理を施し、本発明の情報記録媒体用ガラス基板を得ることができる。
【実施例】
【0047】
本発明の実施例を以下に記載する。
【0048】
まず、表1の組成となるようにガラス原料を調合し、ガラス溶融炉に供給して1500〜1600℃で溶融した。次いで、溶融ガラスをオーバーフローダウンドロー成形装置に供給し、板状に成形した。このとき冷却速度が約400℃/分となるように板引き速度を調整した。
【0049】
【表1】

【0050】
このようにして得られた基板について、各種の特性を評価した。結果を表1に示す。
【0051】
なお仮想温度は次のようにして測定した。まず得られた板状ガラスから、160mm×30mmの基板を切り出し、短冊状の試料1を数枚用意した。この短冊状試料1の端から20mm〜40mm付近にそれぞれマーキング2を行い、マーキング2と垂直方向に折り割った。折り割った試験片の一方1aを、それぞれ710℃、730℃、750℃、770℃、790℃で1時間熱処理を行った。熱処理後の試験片1aは金属板の上に乗せ急冷を行った。熱処理を行っていない試験片1bと熱処理後の試験片1aとを並べてマーキングの位置ズレ量(△L1、△L2)をレーザー顕微鏡によって観察した。それぞれの温度における熱収縮率を式1に基づいて算出したところ、表2の通りとなった。
【0052】
【表2】

【0053】
温度と熱収縮率の関係は直線関係にあるので、横軸に熱処理温度、縦軸に熱収縮率をとったグラフを作成し、最小二乗法によって近似直線を引き、熱収縮率が0になる温度を読み取ると実施例1は760℃、実施例2は800℃であった。即ち、実施例のガラスの仮想温度はそれぞれ760℃、及び800℃であった。実施例1、2のガラス転移温度はそれぞれ710℃、730℃であるため、”仮想温度‐ガラス転移温度”の値は50℃、70℃となる。
【0054】
密度は、周知のアルキメデス法によって測定した。
【0055】
歪点は、ASTM C336−71の方法に基づいて測定した。この値が高いほど、ガラスの耐熱性が高くなる。
【0056】
軟化点は ASTM C338−93の方法に基づいて測定を行った。
【0057】
粘度104.0、103.0、102.5のdPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した。この温度が低いほど、溶融性に優れていることになる。
【0058】
液相温度の測定は、ガラスを粉砕し、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定したものである。液相粘度は液相温度における各ガラスの粘度を示す。液相粘度が高く、液相温度が低いほど、耐失透性に優れ、成形性に優れている。
【0059】
熱膨張係数は、ディラトメーターを用いて、30〜380℃における平均熱膨張係数を測定したものである。
【0060】
ガラス転移温度は熱膨張曲線からJIS R3103−3の方法に基づいて測定した。
【0061】
ヤング率は、共振法により測定した。
【0062】
クラック発生率は”湿度30%、温度25℃に保持された恒温恒湿槽内において、荷重1000gに設定したビッカース圧子をガラス表面(光学研磨面)に15秒間打ち込み、その15秒後に圧痕の4隅から発生するクラックの数をカウント(1つの圧痕につき最大4とする)する。20回圧子を打ち込み、総クラック発生数/80×100”として評価した。
【0063】
このように、本発明の実施例は仮想温度、ヤング率、液相粘度が高い。更にクラック発生率、密度が低く、情報記録媒体用ガラス基板として好適である。
【0064】
続いて、本発明における情報記録媒体用ガラス基板の作製方法を説明する。
【0065】
まず、表1の組成となるようにガラス原料を調合し、ガラス溶融炉に供給して1500〜1600℃で溶融した。次いで、溶融ガラスをオーバーフローダウンドロー成形装置に供給し、板状に成形した。このとき冷却速度が約400℃/分となるように板引き速度を調整した。
【0066】
次に、得られた板状ガラスを300mm×300mmに切断し、0.38mmの肉厚になるまで表面を研磨する。この時板状ガラスの表面粗さはRaで0.4nm以下となるようにする。
【0067】
このようにして作られた40枚の板ガラスをホットメルト型の接着剤を介して積層する。
【0068】
次にツール部が同心配置された長尺の同心コアドリルを使用し、前記板ガラス積層体をコアリング加工し、外径27.6mm、内径6.8mmのドーナツ状板ガラス積層体を複数個得る。
【0069】
次いで、上記ドーナツ状板ガラス積層体を、弗硫酸を含むエッチング液を満たしたエッチング槽に所定の時間浸漬し、外径27.4mm、内径7.0mmのドーナツ状板ガラス積層体を得る。この時、個々のドーナツ状板ガラスのエッジ部には面取りが施され、かつエッチングによってエッジ部に存在していた極微小のクラックが除去されている。
【0070】
次いで、エッチング処理されたドーナツ状板ガラス積層体を、溶剤で満たされた溶解槽に浸漬して接着剤を溶解、除去することにより、面取りされたドーナツ状板ガラスを取り出す。その後、面取りされたドーナツ状板ガラスを洗浄し、乾燥して、情報記録媒体用ガラス基板を製造する。
【0071】
上記の製造方法により、エッチングによって外内周に欠け難いエッジ部、面取り部が形成されており、外内周に欠けや発塵の原因となる極微小のクラックが存在せず、欠けを生じにくく、かつ優れた強度を有する情報記録媒体用ガラス基板を製造することが出来る。また、本製造方法で製造したガラス基板は、研磨後に加工を行っているために、通常研磨工程の最外周に生じるスキージャンプ、ロールオフが存在しないという点も有効的である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】仮想温度の測定方法を説明する図であり、(a)は熱処理前の試験片を、(b)は熱処理後の試験片を示している。
【符号の説明】
【0073】
0 マーキング間の距離
△L1、△L2 マーキングの位置ズレ量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%表示でSiO2 50〜70%、Al23 7〜20%、B23 7〜17%、MgO 0〜10%、CaO 0〜15%、SrO 0〜15%、BaO 0〜30%含有し、実質的にアルカリ金属酸化物を含まず、(仮想温度-ガラス転移温度)が0℃以上であることを特徴とする情報記録媒体用ガラス基板。
【請求項2】
クラック発生率が70%以下のガラスからなることを特徴とする請求項1の情報記録媒体用ガラス基板。
【請求項3】
ヤング率が65GPa以上のガラスからなることを特徴とする請求項1又は2の情報記録媒体用ガラス基板。
【請求項4】
密度が2.7g/cm3以下のガラスからなることを特徴とする請求項1〜3の何れかの情報記録媒体用ガラス基板。
【請求項5】
30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数が50×10-7/℃以下のガラスからなることを特徴とする請求項1〜4の何れかの情報記録媒体用ガラス基板。
【請求項6】
液相粘度が105.0dPa・s以上であるガラスからなることを特徴とする請求項1〜5の何れかの情報記録媒体用ガラス基板。
【請求項7】
歪点が550℃以上のガラスからなることを特徴とする請求項1〜6の何れかの情報記録媒体用ガラス基板。
【請求項8】
オーバーフローダウンドロー法により成形されてなることを特徴とする請求項1〜7の何れか記載の情報記録媒体用ガラス基板。

【図1】
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【公開番号】特開2007−161552(P2007−161552A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−363151(P2005−363151)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】