説明

情報記録装置

【課題】装置の構成を大きく変更することなく、情報記録媒体に対して近接場光を用いた記録を行い、高密度記録を可能にする情報記録装置を低コストで提供する。
【解決手段】記録層12を有する光記録媒体1に対して光ビームを出射して、情報の記録を行うための近接場光を発生する光発生部が設けられた光ヘッド3と、光記録媒体1を経た光ビームより情報を読み取るための光検出素子4と、光記録媒体1を回転させるディスク駆動部2を備え、光記録媒体1の回転時の面振れを安定化させるために設置される距離安定化部材5を前記記録層12から遠い面側に配する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報記録媒体を用いて記録を行う情報記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光記録媒体として、コンパクトディスクに代表されるようにディスク状光記録媒体が良く知られているが、デジタル放送などの時代を迎え、さらなる大容量の記録システムが必要とされている。高密度化のためには情報が記録されている記録ピットを小さくする必要があり、そのためには、光をより小さく絞り光のスポットを小さくする必要がある。光のスポット径は波長をλ、レンズの開口率をNA とするとλ/NAに比例するため、スポット径を小さくするには、波長を小さくするか開口率を大きくすることが考えられる。
【0003】
さらなる将来の高密度化の方法として、近接場光(エバネッセント光)を利用した微小スポットを用いることが考えられているが、その実現方法としてはソリッドイマージョンレンズ(SIL)を用いる方法と微小開口を用いる方法とがある。
【0004】
SILを利用したものは対物レンズの開口率を大きくしたものと同様と考えられる。SILを光記録に応用したものとしてスタンフォード大学のG.Kinoらの提案による特許文献1などがあり、この提案では、入射光はソリッドイマージョンレンズの球面に対して垂直に入射され、出射側の平面の中心に収束する。この方式ではSILの屈折率をnとすると、最小ビーム径は回折限界ビーム径のn分の1まで小さくすることができる。記録媒体をレンズに近づけることにより、この微小ビームが近接場光的に伝播し、微小スポットの光を媒体に照射することができる。
【0005】
また、小さな開口に光を照射すると、その開口近傍では近接場光が発生する。その近接場光を用いて小さいピットを記録する試みもなされている(特許文献2など)。近接場光を用いると、光スポットの収束限界以下のスポットを形成することが可能であり、100Gbit/in以上の記録密度に相当する小さいスポットを光磁気記録媒体上、あるいは相変化記録媒体上に形成できたという報告もある。
【0006】
これらの方法を用いた場合、収差などの影響で光記録媒体の傾きに対する許容度が小さくなるが、光ヘッドと光記録媒体との距離を小さくする必要が生じるため、光記録媒体の面振れなどが大きくなったり、距離の制御が不充分であると良好な記録ができないことになる。光ヘッドと光記録媒体との距離の制御法としては、圧電素子を用いたもの、あるいはトンネル電流を検出するものなどがある。
【0007】
また、例えば特許文献3,4に記載されているように、平面を有する安定化板上で可撓性を有する光ディスクを回転させて、光ディスクにおける面振れを安定化させる方法が知られている。
【特許文献1】特許第2553275号公報
【特許文献2】特開平7−191046号公報
【特許文献3】特開平7−105657号公報
【特許文献4】特開平10−308059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の圧電素子の振動を用いて光ヘッドと光記録媒体との距離制御を行う方法を、光記録のような高速回転を行う従来の光記録媒体を用いたシステムに用いても距離の制御が不充分であるという問題がある。
【0009】
本発明の目的は、従来のこの種の装置の構成を大きく変更することなく、情報記録媒体に近接場光を用いた記録を行い、高密度記録を可能にする情報記録装置を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、情報の記録層を備える情報記録媒体に対して光ビームを入射して情報の記録を行うための光発生手段と、前記情報記録媒体を経た光ビームより情報を読み取るための光検出手段と、前記情報記録媒体を回転させる回転駆動手段と、前記情報記録媒体の回転時の面振れを安定化させる前記情報記録媒体の記録層から遠い面側に備えられた安定化手段とを設けた情報記録装置であって、前記光発生手段に近接場光を生じる光発生部を設け、前記近接場光により情報を記録することを特徴とし、この構成により、近接場光を用いた情報記録装置において、安定化手段を備えることにより光発生手段と情報記録媒体間の距離が安定化し、また安定化手段を情報が記録されている面とは反対側に設けたため、万一、安定化手段と情報記録媒体とが接触したとしても、その接触により傷が付くのは記録面ではないため、その傷によるエラーへの影響が小さくなり、安定して良好な記録が行われる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の情報記録装置において、光発生手段を情報記録媒体の記録層に近い面側に設置したことを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2記載の情報記録装置において、光検出手段を情報記録媒体に対して光発生手段とは反対側に設置したことを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3いずれか1項記載の情報記録装置において、情報記録媒体が可撓性を有するものであることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4いずれか1項記載の情報記録装置において、安定化手段が空気流の圧力差によって情報記録媒体の回転時の面振れを安定化させる構成のものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、近接場光を用いた情報記録装置において、安定化手段を備えて光発生手段と情報記録媒体間の距離を安定化させることができ、また安定化手段を情報が記録されている面とは反対側に設けたため、万一、安定化手段と情報記録媒体とが接触したとしても、その接触により傷が付くのは記録面ではないため、その傷によるエラーへの影響を小さくすることができ、安定して良好な記録が行われることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1は本発明の実施形態を説明するための参考例である光学的情報記録/再生装置の概略構成図であり、1は可撓性を有する情報記録媒体としての光記録媒体、2は光記録媒体1をスピンドルシャフト2aに設けられたチャッキング部にセットして回転駆動するスピンドルモータなどの回転駆動手段としてのディスク駆動部、3は光記録媒体1に対して情報の書き込みを行う記録手段を備えた光発生手段としての光ヘッド、4は光記録媒体1に書き込まれた情報の読み取りを行う再生手段を備えた光検出手段としての光検出素子、5は、光記録媒体1を介して光ヘッド3に対向設置され、回転時の光記録媒体1の面振れをベルヌーイの法則に基づく空気流の圧力差によって安定化させることで、光ヘッド3と光記録媒体1との距離を安定にするための安定化手段としての距離安定化部材である。
【0018】
6は装置全体の制御を行うコントローラ、7は、各部の動作駆動制御、および光ヘッド3,光検出素子4,距離安定化部材5を光記録媒体1の半径方向に移動する位置決め機構の移動駆動などを制御するサーボ制御部、8は記録/再生信号を処理するための信号処理部である。
【0019】
参考例は、距離安定化部材5に光ヘッド3を内設し、両者の機能を1つの部材に具備させた構成例である。
【0020】
図2は本発明の実施形態を説明するための光学的情報記録/再生装置の概略構成図であり、図1にて説明した部材に対応する部材には同一符号を付して詳しい説明は省略するが、本実施形態では、距離安定化部材5に光検出素子4を内設して、両者の機能を1つの部材に具備させた構成例を示している。
【0021】
本実施形態の光記録媒体1における基本構成の具体例を説明する。
【0022】
可撓性を有する光記録媒体1の基板11として0.1mm程度の薄いシートを用いた。例えばポリエチレンテレフタレート製の厚さ80μmのシートに熱転写で、スタンパのピッチが0.6μm、幅0.3μmのグルーブを転写し、その後、スパッタリング法により記録層12を製膜したものを光記録媒体1とした。また基板であるシートにUV樹脂をスピンコートし、紫外線照射で硬化させて厚さ5μmの透明保護膜を形成したものも本発明の光記録媒体として用いることが可能である。
【0023】
図3は光記録媒体1の一部を示す断面図であり、可撓性を有する基板11上に形成した記録層12が光ヘッド3に対向するように、図1,図2に示すスピンドルシャフト2aに設けられたチャッキング部にセットされる。
【0024】
記録層12として、R,M,Oの各元素(ただし、RはY,Bi,Inおよびランタン系列元素より選ばれる一種以上の元素を示し、MはAl,Cr,Mn,Sc,In,Ru,Rh,Co,Fe,Cu,Ni,Zn,Li,Si,Ge,Zr,Ti,Hf,Sn,Pb,Mo,VおよびNのうちより選ばれる一種以上の元素、Oは酸素を示す)からなる材料、X,Y,Oの各元素(ただし、XはMg,Fe,Zn,Mn,Ni,Liのうちから選ばれる一種以上の元素を示し、YはAl,Fe,Cr,Ti,Mn,Ni,Co,Cu,Vのうちから選ばれる一種以上の元素、Oは酸素を示す)からなる材料、炭素または炭素化合物からなる材料、Te,Sb,Mo,Geの酸化物などを用いることができる。
【0025】
また、光記録媒体1としては、図4のように記録層12の上に保護層13を設けた構成のものを用いることも可能である。保護層としてはSiO2,SiN,SiCなど酸化物、窒化物、炭化物などが挙げられる。
【0026】
光記録媒体1への情報の記録方法は、信号処理部8で光記録媒体1の記録層12への記録に適したデジタル信号を作り出し、その信号に対応するような光を光ヘッド3から照射する。近接場光を発生するため本実施形態では微小開口を有する後述するような平面型プローブを光ヘッド3の光出射側に設置した。近接場光を発生する光ヘッド3には波長550nm以下の光を発生する光源を設置することで良好な記録が可能となる。
【0027】
また、情報の再生は、光ヘッド3から発生した光を光記録媒体1の記録層12に照射し、透過した光を光検出素子4で検出し、信号処理部8で情報信号に変換し再生を行う。
【0028】
次に、光ヘッド3における光出射側に設けられて、微小開口にて近接場光を発生する平面型プローブの形成工程の一例を図5(a)〜(d)に従って説明する。
【0029】
まず、図5(a)に示すように、ガラス基板21に化学増幅型レジストを塗布して電子ビームを用いて円柱状のレジストパターン25を形成する。そして、図5(b)に示すように、円柱状のレジストパターン25をマスクとし、ドライエッチングによって断面形状が台形になるように円錐状にエッチングを行い突起部24を形成する。さらに図5(c)に示すように、レジストパターン25を残したまま、遮光部としての金属膜22を成膜する。最後に、図5(d)に示すように、ウェットエッチングによりレジストパターン25を除去することによって、開口23を有する平面型プローブ10を形成する。
【0030】
このように、平面型プローブ10を形成する方法を用いることにより、平面型プローブ10における開口10aの径の寸法を精度よく制御することができ、また図5(a)において円錐状にドライエッチングを行う際、エッチングガスの構成等を変化させることにより円錐の形状を容易に変えることができるので、各種の高効率な平面型プローブを形成することができる。
【0031】
また、Siを基板として用いて加工することにより、近接場光発生素子を簡単に作製することもでき、また水酸化カリウム水溶液でSiを異方性エッチングすることでピラミッド状の微小の開口10aを形成することができる。
【0032】
図6は本実施形態の光学的情報記録/再生装置における光記録媒体と光ヘッドとの距離を制御して記録/再生を行う動作の説明図であり、記録/再生時、前記構成の可撓性を有する光記録媒体1を、光ヘッド3と距離制御のための距離安定化部材5との間で回転させる。回転している光記録媒体1は、それ自体、小さいながら剛性を持ち、また回転すると遠心力の作用により、真っ直ぐな状態になろうとする力を持つ。したがって、光記録媒体1に対して距離安定化部材5を近づけて、ベルヌーイの法則に基づく空気流の圧力差よる反発力を生成して光記録媒体1に与えることにより、光記録媒体1が真っ直ぐになろうとする力と、距離安定化部材5からの反発力の釣り合いによって、大きな面振れ(ディスク回転軸方向の振れ)を減少させることができ光記録媒体1が安定して回転するようになる。
【0033】
光記録媒体1の膜面側には、平面型プローブ10が設けられた光ヘッド3が設置され、平面型プローブ10にて近接場光を発生する。距離安定化部材5と光ヘッド3の距離が一定になるように設置されており、距離安定化部材5を光記録媒体1に近づけ安定に回転させることにより、光ヘッド3と光記録媒体1との距離が一定に保たれるようになる。このように光記録媒体1と光ヘッド3との距離を一定に保ちつつ、光ヘッド3と光記録媒体1とを光記録媒体1の半径方向に移動させることにより、安定した状態の光記録媒体1に対して近接場光により記録を行うことが可能となる。この記録時、信号処理を施された情報信号に対応した電気信号がレーザーダイオード9に入力し、レーザーダイオード9を駆動して光を出射することにより平面型プローブ10において近接場光を生成することで記録を行う。
【0034】
また、再生時、光ヘッド3から一定強度の光を照射し、光記録媒体1の記録層12を透過した光を光検出素子4で検出することにより信号処理部8を経て情報の再生を行う。本実施形態では、光記録媒体1の記録層12には距離安定化部材5を対向設置させないようにしてする。例えば図6に示す構成例では、光記録媒体1との対向面が透明な円弧状をなす円柱状の距離安定化手段5を用いており、距離安定化部材5は光検出素子4を内蔵して記録信号検出機能も有している。
【0035】
図7に図6の要部の拡大図を示したが、光記録媒体1における距離安定化部材5によるベルヌーイの法則に基づいて生じる空気圧の作用による面振れが安定する部位Aにおけるディスク回転方向上流側と下流側とに前記空気圧の作用が生じさせない領域(距離安定化部材5がない空間部)B,Cを設け、面振れを安定化させた部位Aの前後位置に光記録媒体1に「逃げ」となる部分を存在させることによって、面振れを安定化させた部位Aにおける光記録媒体1における反発力を小さくするようにしている。このようにしたことによって、空気力による安定化力の効果が増大することになる。近接場光の光発生部である平面型プローブ10の開口10aにレーザーダイオード9から光を照射し、平面型プローブ10の開口10aから発生した近接場光を光記録媒体1の記録層12に照射することで記録/再生を行う。
【0036】
上述したように、光記録媒体1に照射された光は透過し、距離安定化部材5に内設された光検出素子4により検出され、信号処理部8を経て情報の再生が行われる。図7に示すように、距離安定化部材5は光記録媒体1における記録層12側ではなく基板11側に設置されている。
【0037】
なお、前記実施形態では近接場光を発生させるために開口10aが形成された平面型プローブ10を用いた例を説明したが、光ヘッド3の光出射側にソリッドイマージョンレンズ(SIL)を設置することによって近接場光を発生させるようにしてもよい。
【0038】
また、装置の仕様によっては、前記距離安定化部材5内に、近接場光を生じる光発生手段である光ヘッド3と、光検出素子4の機能を備えた光検出部とを設置することも考えられる。
【0039】
また、前記実施形態では光学的情報記録/再生装置を例にして説明したが、光情報記録単機能の装置、あるいは光情報再生単機能の装置など、可撓性を有する光記録媒体を使用する装置に適用して同一効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、デジタル複写機やファクシミリ、イメージスキャナ等の情報記録装置に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態を説明するための参考例の光学的情報記録/再生装置の概略構成図
【図2】本発明の実施形態の光学的情報記録/再生装置の概略構成図
【図3】本実施形態に適用できる光記録媒体の構成の一例を示す断面図
【図4】本実施形態に適用できる光記録媒体の構成の一例を示す断面図
【図5】本実施形態における近接場光を発生する光ヘッドの平面型プローブの形成工程の一例を示す説明図
【図6】本実施形態における光学的情報記録/再生装置の動作の説明図
【図7】図6に示す光学的情報記録/再生装置の要部の拡大図
【符号の説明】
【0042】
1 光記録媒体
2 ディスク駆動部
3 光ヘッド
4 光検出素子
5 距離安定化部材
6 コントローラ
7 サーボ制御部
8 信号処理部
9 レーザーダイオード
10 平面型プローブ
10a 開口
11 基板
12 記録層
13 保護層
21 ガラス基板
22 金属膜
24 突起部
25 レジストパターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報の記録層を備える情報記録媒体に対して光ビームを入射して情報の記録を行うための光発生手段と、前記情報記録媒体を経た光ビームより情報を読み取るための光検出手段と、前記情報記録媒体を回転させる回転駆動手段と、前記情報記録媒体の回転時の面振れを安定化させる前記情報記録媒体の記録層から遠い面側に備えられた安定化手段とを設けた情報記録装置であって、
前記光発生手段に近接場光を生じる光発生部を設け、前記近接場光により情報を記録することを特徴とする情報記録装置。
【請求項2】
前記光発生手段を前記情報記録媒体の記録層に近い面側に設置したことを特徴とする請求項1記載の情報記録装置。
【請求項3】
前記光検出手段を前記情報記録媒体に対して前記光発生手段とは反対側に設置したことを特徴とする請求項1または2記載の情報記録装置。
【請求項4】
前記記録媒体が可撓性を有するものであることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の情報記録装置。
【請求項5】
前記安定化手段が空気流の圧力差によって前記情報記録媒体の回転時の面振れを安定化させる構成のものであることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の情報記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−12276(P2007−12276A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−286439(P2006−286439)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【分割の表示】特願2001−395861(P2001−395861)の分割
【原出願日】平成13年12月27日(2001.12.27)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】