説明

意識低下判定装置

【課題】車両の走行状態を考慮し車両の逸脱危険度を加味して運転者の意識低下判定を行うことにより、運転者の意識低下状態を精度よく判定できる意識低下判定装置を提供すること。
【解決手段】逸脱危険度MLCの値の保持数が設定数aより大きい場合、かつ、車両Mにおいて操舵がやっと行われて、記憶保持された逸脱危険度MLCが減少する傾向にあると判定された場合、すなわち、操舵が行われず走行車線から逸脱してしまうおそれのある状態からハンドル操作の修正が大きく行われた無操舵後修正過大状態の場合、既に規定された閾値(破線で示された閾値)よりも、所定値(または所定割合)だけ低い値を、この閾値Tに変更して決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転者の意識低下状態を判定する意識低下判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の運転者の意識低下状態を判定する技術として、特表2008−542935号公報に記載されるように、車両の運転者の運転操作状態に基づいてその運転者の不注意状態を検出するものが知られている。すなわち、この公報に記載される技術は、ハンドル操作がない状態から所定以上の操舵角及び操舵速度におけるハンドル操作が行われた場合に、運転者が不注意状態にあると判定しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−542935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような検出技術にあっては、所定の運転操作において、運転者が意識低下状態であって無操舵状態であると仮定してこのままの状態で車両が車道の外に飛び出すかどうかを判定する判定基準を用いると、車両が車道の外に飛び出す前に意識状態に戻ってハンドル操作が正しく行われるという、意識低下状態に近く好ましくない状態を精度よく判定できないという問題点がある。これは、車両が車道の外に飛び出す前に意識状態に戻ってハンドル操作が正しく行われると、前述の判定基準が満たされないためである。
【0005】
そこで、本発明の目的は、車両の走行状態を考慮し車両の逸脱危険度を加味して運転者の意識低下判定を行うことにより、運転者の意識低下状態を精度よく判定できる意識低下判定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係る意識低下判定装置は、車両の運転者が意識低下状態であるか否かを判定する意識低下判定装置において、運転者の操舵量が予め設定される通常操舵量に対し設定値以上掛け離れているか否かを判定する操舵状態判定手段と、操舵状態判定手段により運転者の操舵量が予め設定される通常操舵量に対し設定値以上掛け離れていると判定された場合に、車両の走行車線に対する逸脱危険度を記憶する危険度記憶手段と、危険度記憶手段により記憶された逸脱危険度が減少する傾向にある場合に、危険度記憶手段により記憶された逸脱危険度に基づいて、運転者が意識低下状態であるか否かを判定するための閾値を決定する閾値決定手段と、危険度記憶手段により記憶された逸脱危険度が、閾値決定手段により決定された閾値以上である場合に、運転者が意識低下状態であると判定する意識低下判定手段と、を備えて構成されている。
【0007】
この発明によれば、運転者の操舵量が予め設定される通常操舵量に対し設定値以上掛け離れていると判定された場合に、車両の走行車線に対する逸脱危険度を記憶し、記憶された逸脱危険度が減少する傾向にある場合に、記憶された逸脱危険度に基づいて、運転者が意識低下状態であるか否かを判定するための閾値を決定し、記憶された逸脱危険度が、決定された閾値以上である場合に、運転者が意識低下状態であると判定する。これにより、運転者の操舵量が予め設定される通常操舵量に対し設定値以上掛け離れており、かつ、記憶された逸脱危険度が減少する傾向にある状態、すなわち、通常操舵でなかったことに気づいた運転者によって危険度を減少させる運転が行われて走行車線の逸脱から抜けだした状態に基づいて、閾値を決定することができる。このため、運転者が気づかなければ走行車線を逸脱しそうだった状態、すなわち、意識低下状態又はそれになりそうだった状態を、精度よく判定して検出できる。
【0008】
また本発明に係る意識低下判定装置において、閾値決定手段は、危険度記憶手段により記憶された逸脱危険度の記憶保持数が設定個数以上である場合に、閾値をより低く決定してもよい。
【0009】
この発明によれば、記憶された逸脱危険度の記憶保持数が設定個数以上である場合に、閾値は、より低く決定される。これにより、走行車線を逸脱しそうだった状態、すなわち、意識低下状態を、設定個数以上の情報に基づいて、より確からしく判定して、走行車線を逸脱する可能性をより低くすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、車両の走行状態を考慮し車両の逸脱危険度を加味して運転者の意識低下判定を行うことにより、運転者の意識低下状態を精度よく判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る意識低下判定装置の概要を示すブロック図である。
【図2】図1の意識低下判定装置において演算される逸脱危険度の説明図である。
【図3】閾値決定方法の説明図である。
【図4】閾値決定方法の説明図である。
【図5】図1の意識低下判定装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、同一要素又は同一相当要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る意識低下判定装置1の概要構成を示すブロック図である。意識低下判定装置1は、車両に搭載され、車両の運転者の意識が低下しているか否かを判定する装置である。
【0014】
この意識低下判定装置1は、前方検知センサ2、車速センサ3、操舵角センサ4、ECU(Electronic Control Unit)5、警報部6を備えて構成されている。
【0015】
前方検知センサ2は、車両の前方を検知する前方検知手段として機能するものであり、例えば車両の前方を撮像するカメラが用いられる。前方検知センサ2はECU5と接続され、その出力信号はECU5に入力される。前方検知センサ2の撮像画像ないし撮像映像は、障害物有無の検知、走行路の白線検知に用いることができる。また、前方検知センサ2として、ミリ波レーダ、レーザレーダなどの他のセンサを用いて障害物検出を行う場合もある。
【0016】
車速センサ3は、車速を検出する車速検出手段として機能するものであり、例えば車輪速センサが用いられる。車速センサ3は、ECU5と接続され、その出力信号はECU5に入力される。
【0017】
操舵角センサ4は、車両のハンドルの操舵角を検出する操舵角検出手段として機能するものである。この操舵角センサ4としては、例えば、ステアリングシャフトの回転角を検出する操舵角センサが用いられる。この操舵角センサ4は、ECU5と接続され、その出力信号はECU5に入力される。なお、操舵角センサ4に代えて、操舵トルクセンサを用いてもよい。この場合、操舵トルクが出力する操舵トルク値に基づいてハンドルの操舵角が演算される。また、ハンドルの操舵角が取得できるものであれば、操舵角センサ4に代えて、いずれのものを用いてもよい。
【0018】
ECU5は、意識低下判定装置の装置全体の制御を行う電子制御ユニットであり、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)を含むコンピュータを主体とし、入力信号回路、出力信号回路、電源回路を含んで構成される。
【0019】
ECU5は、通常操舵量演算部51、操舵乖離度演算部52、操舵乖離度判定部53、乖離回数演算部54、乖離状態判定部55、閾値決定部56、無操舵状態判定部57、逸脱危険度演算部58、逸脱危険度判定部59、意識低下判定部60、警報制御部61を少なくとも有している。
【0020】
通常操舵量演算部51は、車両の運転者の通常時(意識低下していない時)の運転における操舵量を演算するものであり、通常操舵量演算手段として機能する。通常操舵量演算部51は、例えば、通常運転時における操舵角のばらつき量を通常操舵量として演算する。
【0021】
具体的に説明すると、通常操舵量は、意識低下していない運転時のハンドルの操舵角の相対操舵角の分散として演算される。例えば、意識低下していない運転時のハンドルの操舵角の相対操舵角が複数ないし多数取得され、それらの相対操舵角データに基づき相対操舵角の分散として通常操舵量が演算される。
【0022】
相対操舵角は、走行路に対する相対的な操舵角である。すなわち、走行路に沿ったハンドル操作の場合には相対操舵角は小さいものとなるが、走行路に沿わないハンドル操作の場合には相対操舵角は大きなものとなる。例えば、曲率の大きいカーブでハンドル操作した場合、ハンドルの操舵角の絶対値は大きくなるが、カーブに沿ってハンドル操作されていれば相対操舵角は小さいものとなる。このように、操舵角の絶対値でなく、相対操舵角に基づいて通常操舵量を演算することにより、カーブの多い走行路を走行する場合であっても運転者の操舵操作特性を的確に演算することができる。
【0023】
また、この通常操舵量を演算するための操舵角情報は、車両の運転開始初期に、例えば車両の運転開始時から設定時間内に、取得される。運転開示初期は運転者が覚醒状態にある確率が高く、意識低下していない時の操舵角情報を的確に取得することができる。
【0024】
なお、通常操舵量は、運転者の通常のハンドル操舵特性を表せるものであれば、操舵速度、操舵量積算値など、通常運転時におけるハンドルの操舵角のばらつき量以外の数値によって演算されてもよい。
【0025】
操舵乖離度演算部52は、車両の運転者の操舵量が通常操舵量との乖離度(掛け離れ度)を演算する操舵乖離度演算手段として機能するものである。例えば、操舵乖離度演算部52は、操舵角センサ4により取得される操舵角データを用いて運転者の現時点の操舵量を演算し、その現在の操舵量と通常操舵量演算部51により演算された通常操舵量の差又は比率に基づいて操舵乖離度を演算する。
【0026】
操舵乖離度は、意識低下していない通常時における操舵量に対する現時点の操舵角の掛け離れ度として演算されるものであって、現時点の操舵角と通常操舵量との距離として把握されるものである。
【0027】
具体的には、操舵乖離度をD、現時点の相対操舵角をψr、通常操舵量ψuとした場合、操舵乖離度Dは、次の式(1)に示すように、相対操舵角ψrの絶対値を通常操舵量ψuで除することより演算される。
【0028】
D=|ψr|/ψu ・・・(1)
相対操舵角ψrは、走行路に対する相対的な操舵角である。この相対操舵角ψrは、次の式(2)に示すように、実操舵角ψから推定操舵角ψeを引いて演算される。
【0029】
ψr=ψ−ψe ・・・(2)
推定操舵角ψeは、走行路のカーブ旋回に必要な操舵角であり、例えば次の式(3)により演算される。
【0030】
ψe=(1+Kh・v)・l・ρ・R ・・・(3)
この式(3)において、Khは車両のスタビリティファクタ、vは車速、lは車両のホイルベース、ρは走行路の曲率、Rは車両のステアリングギア比である。
【0031】
操舵乖離度判定部53は、運転者の操舵量が予め設定される通常操舵量に対し設定値以上掛け離れているか否かを判定する操舵状態判定手段として機能するものである。例えば、操舵乖離度判定部53は、前述した操舵乖離度演算部52により演算される操舵乖離度が、予めECU5に設定される設定値以上掛け離れているか否かを判定する。
【0032】
この操舵乖離度判定部53、後述する無操舵状態判定部57及び逸脱危険度判定部59は、運転者の意識が低下しているか否かを判定する意識低下判定手段として機能する。
【0033】
逸脱危険度演算部58は、車両の走行車線に対する逸脱危険度を演算する逸脱危険度演算手段として機能するものである。逸脱危険度は、少なくとも車両の車速、走行車線に対する進行方向及び走行車線に対する横位置に基づいて演算される。
【0034】
このように車両の車速、走行車線に対する進行方向及び走行車線に対する横位置に基づいて車両の走行車線に対する逸脱危険度を演算することにより、車両の物理的な走行状態ないし挙動状態に基づいて車両の客観的な逸脱危険度を演算することができる。また、単に車両の横位置だけで車両の逸脱危険度を演算する場合と比べ、車速や車両の進行方向が加味されているので、車両が走行路にある障害物を回避しようとしているのか、運転者の意識低下により逸脱しそうになっているのかを的確に識別することが可能となる。
【0035】
すなわち、単に車両の横位置だけで車両の逸脱危険度を演算する場合、車両の横位置が車線の端位置にあるときには逸脱危険度が高く判定されてしまう。しかしながら、本実施形態に係る意識低下判定装置では、逸脱危険度の演算に車速や車両の進行方向を加味することにより、車両の横位置が車線の端位置にあるとしても、車速が遅く車両の進行方向が走行路と平行であれば逸脱危険度が高くないと適切な判定が可能となる。
【0036】
この逸脱危険度としては、例えば、車両の逸脱回避に必要な最小限のヨーレートとして演算される。逸脱危険度MLCは、次の式(4)により演算することができる。
【0037】
MLC=v・(1−cosθ)/(w/2−y) ・・・(4)
図2に示すように、式(4)において、vは車両Mの車速、θは白線(レーンマーカ)に対する車両Mのヨー角、wは車線幅、yは車線中央に対する車両Mの横位置(横ずれ量)である。車速vは、車速センサ3の出力信号に基づく車速データを用いればよい。ヨー角θは、前方検知センサ2の出力画像に基づき白線に対する車両Mのヨー角の演算値を用いればよい。車線幅wは、前方検知センサ2の出力画像に基づき演算される車線幅値を用いてもよいし、図示しないナビゲーションシステムの地図情報ないし道路情報に基づいて取得される車線幅値を用いてもよい。横位置yは、前方検知センサ2の出力画像に基づき演算される車両Mのオフセット量を用いればよい。
【0038】
なお、逸脱危険度は、車両の車線逸脱の危険度が大きいほど大きい値又は小さい値となるようなものであれば、車両の逸脱回避に必要な最小限のヨーレート以外の値を用いてもよい。
【0039】
乖離回数演算部54は、操舵乖離度判定部53により操舵乖離度が設定値以上掛け離れていると判定された場合に、前述した逸脱危険度MLCを記憶する危険度記憶手段として機能するものである。例えば、乖離回数演算部54は、操舵乖離度が設定値以上掛け離れていると判定された場合に、現時点から所定時間(例えば数秒〜数分)前までの複数の逸脱危険度MLCのうち最大値及びその算出時刻を記憶保持するとともに、逸脱危険度MLCの値の記憶保持数を1だけカウントアップする。
【0040】
乖離状態判定部55は、記憶保持された逸脱危険度MLCの値の保持数が設定数a(aは整数で表される、予め設定された個数)より大きいか否かを判定するとともに、記憶保持された逸脱危険度MLCの値の保持数が設定数aより大きい場合に、記憶保持された逸脱危険度MLCが減少する傾向にあるか否かを判定する閾値決定手段として機能するものである。例えば、乖離状態判定部55は、記憶保持された逸脱危険度MLCの値の保持数が設定数aより大きいと判定した場合、記憶保持された逸脱危険度MLCが時間(算出時刻)の経過とともに減少する傾向にあるか否かを判定する。
【0041】
閾値決定部56は、乖離状態判定部55により逸脱危険度MLCの値の保持数が設定数aより大きく、かつ、記憶保持された逸脱危険度MLCが減少する傾向にあると判定された場合、これら記憶保持された逸脱危険度MLCに基づいて、運転者が意識低下状態であるか否かを判定するための閾値を決定する閾値決定手段として機能するものである。例えば、閾値決定部56は、逸脱危険度MLCの値の保持数が設定数aより大きく、かつ、記憶保持された逸脱危険度MLCが減少する傾向にあると判定された場合、これら記憶保持された逸脱危険度MLCのうちの最大値より所定値(または所定割合)だけ低い値を、この閾値に決定する。
【0042】
図3及び図4を用いて、閾値決定部56による閾値決定方法の詳細について説明する。図3は、記憶保持された逸脱危険度MLCが減少する傾向にあると判定されていない場合における閾値決定部56による閾値決定方法を説明するための説明図であり、図4は、図3の状態から、記憶保持された逸脱危険度MLCが減少する傾向にあると判定された状態に変わった場合における閾値決定部56による閾値決定方法を説明するための説明図である。図3及び図4とも、縦軸は逸脱危険度MLCの大きさを示し、横軸は時間の経過を示す。
【0043】
図3(a)に示すように、運転者が意識低下状態であって走行中の車両Mにおいてしばらくの間操舵が行われず、このままでは車両Mが車道の外に飛び出す状態にあり、図3(b)に示すように、記憶保持された逸脱危険度MLCが減少する傾向にあると判定されなかった場合、すなわち、操舵が行われず走行車線から逸脱してしまう危険度が増加するだけの無操舵逸脱状態の場合、閾値決定部56は、予めECU5に設定された大きさの値を閾値Tとして設定する。
【0044】
ここで、逸脱危険度MLCの値の保持数が設定数aより大きく、かつ、図4(a)に示すように、車両Mが車道の外に飛び出す前に運転者が意識状態に戻って車両Mにおいて操舵が行われて、図4(b)に示すように、記憶保持された逸脱危険度MLCが減少する傾向にあると判定された場合、すなわち、操舵が行われず走行車線から逸脱してしまうおそれのある状態からハンドル操作の修正が大きく行われた無操舵後修正過大状態の場合、閾値決定部56は、図3において実線で示された閾値(図4において破線で示された閾値)よりも、所定値(または所定割合)だけ低い値を、この閾値Tに変更して決定して設定する。この閾値Tは、記憶保持された逸脱危険度MLCのうちの最大値より所定値(または所定割合)だけ低い値である。
【0045】
無操舵状態判定部57は、車両の運転者のハンドル操作において無操舵状態となっているか否かを判定するものであって、無操舵状態判定手段として機能するものである。例えば、車両のハンドルの操舵角が設定時間以上変化していない場合に無操舵状態であると判定され、ハンドルの操舵角が設定時間以内に変化している場合に無操舵状態でないと判定される。このとき、操舵角が変化しているか否かの判定は、例えば、操舵角が設定角度以上変化していないときには操舵角変化なしと判定し、操舵角が設定角度以上変化しているときには操舵角変化ありと判定される。設定時間及び設定角度は、予めECU5に設定される設定値が用いられる。この設定時間及び設定角度は、無操舵状態であるか否かを判定するための判定閾値となるものである。
【0046】
逸脱危険度判定部59は、車両の逸脱危険度が設定値以上であるか否かを判定する逸脱危険度判定手段として機能するものである。逸脱危険度の判定閾値となる設定値は、予めECU5に設定されるものが用いられる。
【0047】
意識低下判定部60は、乖離回数演算部54により記憶された逸脱危険度MLCが、閾値決定部56により決定された閾値以上である場合に、運転者が意識低下状態であると判定する意識低下判定手段として機能するものである。また、意識低下判定部60において、記憶された逸脱危険度MLCが、決定された閾値以上でないと判定された場合には、運転者が意識低下状態でないと判定される。
【0048】
例えば、この意識低下判定部60は、運転者が意識低下状態であると判定した場合に意識低下フラグをオンとして運転者が意識低下状態であることを認識し、運転者が意識低下状態でないと判定した場合に意識低下フラグをオフとして運転者が意識低下状態でないことを認識する。
【0049】
警報制御部61は、警報部6の作動を制御する警報制御手段として機能するものであり、車両の運転者が意識低下状態であると判定された場合に、警報部6に対し警報制御信号を出力する。
【0050】
前述した通常操舵量演算部51、操舵乖離度演算部52、操舵乖離度判定部53、乖離回数演算部54、乖離状態判定部55、閾値決定部56、無操舵状態判定部57、逸脱危険度演算部58、逸脱危険度判定部59、意識低下判定部60、及び警報制御部61は、これらの機能ないし処理を実行するプログラムなどのソフトウェアをECU5に導入することにより構成されている。
【0051】
なお、通常操舵量演算部51、操舵乖離度演算部52、操舵乖離度判定部53、乖離回数演算部54、乖離状態判定部55、閾値決定部56、無操舵状態判定部57、逸脱危険度演算部58、逸脱危険度判定部59、意識低下判定部60、及び警報制御部61は、それらの機能ないし処理が実行できるものであれば、個別のハードウェアによって構成されていてもよい。
【0052】
警報部6は、車両の運転者に警報を与える警報手段であって、ECU5から出力される警報制御信号に応じて作動する。この警報部6としては、運転者の聴覚、視覚、触覚を通じて運転者に警報を与えるものが用いられる。例えば、警報部6としては、スピーカ、ブザー、ナビゲーションシステムのモニタ、ディスプレイ、ランプ、LED、ハンドル又はシートに設置される振動装置などが用いられる。
【0053】
次に、本実施形態に係る意識低下判定装置1の動作について説明する。
【0054】
図3に意識低下判定装置1の動作を示すフローチャートである。このフローチャートに示される一連の制御処理は、例えばECU5によって予め設定された周期(例えば100ms)で繰り返し実行される。
【0055】
このフローチャートの制御処理は、例えば車両のイグニッションオンによって開始され、まずステップS01(以下、「S01」という。他のステップにおいても同様とする。)にて、センサ情報の読み込み処理が行われる。このセンサ情報の読み込み処理は、前方検知センサ2、車速センサ3、操舵角センサ4の出力信号に含まれるセンサ情報をそれぞれ読み込む処理である。
【0056】
次に、S02に処理が移行し、通常操舵量演算処理が行われる。通常操舵量演算処理は、車両の運転者の通常時(意識低下していない時)の運転における操舵量を演算する処理であり、通常操舵量演算部51により実行される。例えば、通常運転時における操舵角のばらつき量が通常操舵量として演算される。
【0057】
具体的に説明すると、通常操舵量は、意識低下していない運転時のハンドルの操舵角の相対操舵角の分散として演算される。例えば、意識低下していない通常運転時のハンドルの操舵角の相対操舵角が複数ないし多数取得され、それらの相対操舵角データに基づき相対操舵角の分散として通常操舵量が演算される。相対操舵角は、前述したように、走行路に対する相対的な操舵角である。なお、このS02の通常操舵量演算処理は、図5に示す一連の制御処理とは別の処理として実行されてもよい。
【0058】
次に、操舵乖離度演算処理が行われる(S03)。操舵乖離度演算処理は、車両の運転者の操舵量が通常操舵量との乖離度(掛け離れ度)を演算する処理であり、操舵乖離度演算部54により実行される。例えば、操舵角センサ4により取得される操舵角データに基づき運転者の現時点の操舵量が演算され、その現在の操舵量とS02にて演算された通常操舵量の差又は比率に基づいて操舵乖離度が演算される。操舵乖離度は、意識低下していない通常時における操舵量に対する現時点の操舵角の掛け離れ度として演算されるものであって、現時点の操舵角と通常操舵量との距離として把握されるものである。具体的には、前述した式(1)を用いて、操舵乖離度が演算される。
【0059】
そして、S04に処理が移行し、運転者の操舵量が予め設定される通常操舵量に対し設定値以上掛け離れているか否かが判定される。この判定処理は、操舵乖離度判定部53により実行される。例えば、操舵乖離度判定処理において、S03により演算される操舵乖離度が、予めECU5に設定される設定値以上掛け離れているか否かが判定される。このS04及び後述するS14の操舵乖離判定処理、後述するS10の無操舵状態判定処理、及びS12の逸脱危険度判定処理は、運転者の意識が低下しているか否かを判定する意識低下判定処理として機能するものである。
【0060】
S04にて運転者の操舵量が予め設定される通常操舵量に対し設定値以上掛け離れていないと判定された場合には、運転者が意識低下状態でないと判断され、S05に処理が移行する。
【0061】
一方、S04にて運転者の操舵量が予め設定される通常操舵量に対し設定値以上掛け離れていると判定された場合には、S06に処理が移行する。S06では、乖離回数演算部54が、現時点から所定時間(例えば数秒〜数分)前までの複数の逸脱危険度MLCのうち最大値及びその算出時刻を記憶保持する。そして、S07に処理が移行し、乖離回数演算部54が、逸脱危険度MLCの値の記憶保持数を1だけカウントアップする。
【0062】
そして、S08に処理が移行し、乖離状態判定部55が、記憶保持された逸脱危険度MLCの値の保持数が設定数aより大きいか否かを判定する。記憶保持された逸脱危険度MLCの値の保持数が設定数aより大きいと判定されなかった場合、S06に戻って処理が移行する。一方、記憶保持された逸脱危険度MLCの値の保持数が設定数aより大きいと判定され、かつ、記憶保持された逸脱危険度MLCが減少する傾向にあると判定された場合、S09に処理が移行する。
【0063】
S09では、閾値決定部56が、これら記憶保持された逸脱危険度MLCのうちの最大値より所定値(または所定割合)だけ低い値を、この閾値に決定する。そして、S10に処理が移行し、車両が無操舵状態であるか否かが判定される。この判定処理は、車両の運転者のハンドル操作において無操舵状態となっているか否かを判定する処理であり、無操舵状態判定部57により実行される。例えば、車両のハンドルの操舵角が設定時間以上変化していない場合に無操舵状態であると判定され、ハンドルの操舵角が設定時間以内に変化している場合に無操舵状態でないと判定される。このとき、操舵角が変化しているか否かの判定は、操舵角が設定角度以上変化していないときには操舵角変化なしと判定され、操舵角が設定角度以上変化しているときには操舵角変化ありと判定される。設定時間及び設定角度としては、予めECU5に設定される設定値が用いられる。
【0064】
S10にて無操舵状態でないと判定された場合には、運転者が意識低下状態でないと判断され、S05に処理が移行する。一方、S10にて無操舵状態であると判定された場合には、逸脱危険度演算処理が行われる(S11)。
【0065】
逸脱危険度演算処理は、車両の走行車線に対する逸脱危険度MLCを演算する処理であり、逸脱危険度演算部58により実行される。この逸脱危険度MLCは、少なくとも車両の車速、走行車線に対する進行方向及び走行車線に対する横位置に基づいて演算される。逸脱危険度MLCとしては、例えば、車両の逸脱回避に必要な最小限のヨーレートとして演算される。逸脱危険度MLCは、例えば、前述した式(4)により演算される。
【0066】
そして、S12に処理が移行し、車両の逸脱危険度MLCが閾値以上であるか否かが判定される。この判定処理は、逸脱危険度判定部59により実行される。例えば、S11にて演算された車両の逸脱危険度MLCが、S09にて予め設定された閾値以上であるか否かが判定される。この場合、逸脱危険度MLCが大きいほど車両が逸脱する危険度が高いことを意味している。
【0067】
このS12にて車両の逸脱危険度MLCが設定値以上でないと判定された場合には、運転者が意識低下状態でないと判断され、S05に処理が移行する。一方、S12にて車両の逸脱危険度MLCが設定値以上であると判定された場合には、操舵乖離度演算処理が行われる(S13)。
【0068】
操舵乖離度演算処理は、車両の運転者の操舵量が通常操舵量との乖離度(掛け離れ度)を演算する処理であり、操舵乖離度演算部52により実行される。例えば、操舵角センサ4により取得される操舵角データに基づき運転者の現時点の操舵量が演算され、その現在の操舵量とS02にて演算された通常操舵量の差又は比率に基づいて操舵乖離度が演算される。操舵乖離度は、意識低下していない通常時における操舵量に対する現時点の操舵角の掛け離れ度として演算されるものであって、現時点の操舵角と通常操舵量との距離として把握されるものである。具体的には、前述した式(1)を用いて、操舵乖離度が演算される。
【0069】
そして、S14に処理が移行し、運転者の操舵量が予め設定される通常操舵量に対し設定値以上掛け離れているか否かが判定される。この判定処理は、操舵乖離度判定部53により実行される。例えば、操舵乖離度判定処理において、S13により演算される操舵乖離度が、予めECU5に設定される設定値以上掛け離れているか否かが判定される。前述のS04及びこのS14の操舵乖離判定処理、前述したS10の無操舵状態判定処理、及びS12の逸脱危険度判定処理は、運転者の意識が低下しているか否かを判定する意識低下判定処理として機能するものである。
【0070】
S14にて運転者の操舵量が予め設定される通常操舵量に対し設定値以上掛け離れていないと判定された場合には、運転者が意識低下状態でないと判断され、S05に処理が移行する。
【0071】
S05では意識低下でないとの認識処理が行われる。例えば、運転者の意識低下状態を認識するためのフラグがオフとされる。
【0072】
一方、S14にて運転者の操舵量が予め設定される通常操舵量に対し設定値以上掛け離れていると判定された場合には、意識低下判定処理が行われる(S15)。意識低下判定処理は、車両が無操舵状態であって、車両の逸脱危険度が設定値以上であって、かつ、操舵乖離度が設定値以上であると判定されたことから、運転者が意識低下状態であると判定し認識する処理である。例えば、運転者の意識低下状態を認識するためのフラグがオンとされ、そのフラグにより運転者が意識低下状態であることが認識される。
【0073】
そして、S16に処理が移行し、警報処理が行われる。警報処理は、警報部6に対し警報制御信号を出力する処理である。この警報処理により、警報部6が運転者に対し警報動作、例えば音声もしくは警報音を発したり、モニタもしくはディスプレイに警報表示を行ったり、ハンドルもしくはシートに警報振動を与えたりする。これにより、運転者は意識低下状態から覚醒状態となる。S05及びS16の処理を終えたら、一連の制御処理が終了する。
【0074】
以上のように、本実施形態に係る意識低下判定装置によれば、まず、運転者の操舵量が、予め設定される通常操舵量に対し設定値以上掛け離れていると判定された場合に、車両Mの走行車線に対する逸脱危険度MLCを記憶する。ここで、記憶された逸脱危険度MLCが減少する傾向にある場合に、記憶された逸脱危険度MLCに基づいて、運転者が意識低下状態であるか否かを判定するための閾値Tを決定する。そして、記憶された逸脱危険度MLCが、決定された閾値T以上である場合に、運転者が意識低下状態であると判定する。
【0075】
これにより、運転者の操舵量が、予め設定される通常操舵量に対し設定値以上掛け離れており、かつ、図4(b)に示すように、記憶された逸脱危険度MLCが減少する傾向にある状態、すなわち、通常操舵でなかったことに気づいた運転者によって危険度を減少させる運転が行われて走行車線の逸脱から抜けだした状態に基づいて、閾値を決定することができる。このため、運転者が気づかなければ走行車線を逸脱しそうだった状態、すなわち、意識低下状態又はそれになりそうだった状態を、精度よく判定して検出できる。
【0076】
例えば、本実施形態に係る意識低下判定装置に対する比較例として、記憶保持された逸脱危険度MLCのうちの最大値より所定値(または所定割合)だけ低い値を、閾値に決定する機能が備わっていない場合、図4(b)の破線で示される閾値のままとなるため、操舵が行われず走行車線から逸脱してしまうおそれのある状態からハンドル操作の修正が大きく行われた無操舵後修正過大状態(図4(a)の状態)を判定して検出できない。
【0077】
これに対し、本実施形態に係る意識低下判定装置では、記憶保持された逸脱危険度MLCのうちの最大値より所定値(または所定割合)だけ低い値を、閾値に決定する機能(学習機能)が備わっているため、図4(b)に示すように、操舵が行われず走行車線から逸脱してしまうおそれのある状態からハンドル操作の修正が大きく行われた無操舵後修正過大状態における閾値超過事象を判定して検出できる。
【0078】
また、本実施形態に係る意識低下判定装置においては、記憶された逸脱危険度MLCの記憶保持数が設定個数以上である場合に、閾値Tは、前述のように、より低く決定される。これにより、走行車線を逸脱しそうだった状態、すなわち、意識低下状態又はそれになりそうだった状態を、設定個数以上の情報に基づいて、より確からしく判定して、走行車線を逸脱する可能性をより低くすることができる。
【0079】
なお、前述した実施形態は本発明に係る意識低下判定装置の実施形態を説明したものであり、本発明に係る意識低下判定装置は本実施形態に記載したものに限定されるものではない。本発明に係る意識低下判定装置は、各請求項に記載した要旨を変更しないように実施形態に係る意識低下判定装置を変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0080】
例えば、図5のS10、S12、及びS14の判定処理は、その順番を入れ替えて処理を実行してもよい。また、図5の一連の制御処理において、本実施形態に係る意識低下判定装置の作用効果が得られれば、その一部の処理を省略し又は追加の処理を行って実行してもよい。
【符号の説明】
【0081】
1…意識低下判定装置、2…前方検知センサ、3…車速センサ、4…操舵角センサ、5…ECU、6…警報部、51…通常操舵量演算部、52…操舵乖離度演算部、53…操舵乖離度判定部、54…乖離回数演算部、55…乖離状態判定部、56…閾値決定部、57…無操舵状態判定部、58…逸脱危険度演算部、59…逸脱危険度判定部、60…意識低下判定部、61…警報制御部、M…車両。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転者が意識低下状態であるか否かを判定する意識低下判定装置において、
前記運転者の操舵量が予め設定される通常操舵量に対し設定値以上掛け離れているか否かを判定する操舵状態判定手段と、
前記操舵状態判定手段により前記運転者の操舵量が予め設定される通常操舵量に対し設定値以上掛け離れていると判定された場合に、前記車両の走行車線に対する逸脱危険度を記憶する危険度記憶手段と、
前記危険度記憶手段により記憶された前記逸脱危険度が減少する傾向にある場合に、前記危険度記憶手段により記憶された前記逸脱危険度に基づいて、前記運転者が意識低下状態であるか否かを判定するための閾値を決定する閾値決定手段と、
前記危険度記憶手段により記憶された前記逸脱危険度が、前記閾値決定手段により決定された閾値以上である場合に、前記運転者が意識低下状態であると判定する意識低下判定手段と、
を備えたことを特徴とする意識低下判定装置。
【請求項2】
前記閾値決定手段は、前記危険度記憶手段により記憶された前記逸脱危険度の記憶保持数が設定個数以上である場合に、前記閾値をより低く決定する、
請求項1に記載の意識低下判定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−234294(P2012−234294A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101593(P2011−101593)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】