説明

感光体ドラムの製造方法

【課題】 汚れを支持体から取り除くことができる感光体ドラムの製造方法を提供する。
【解決手段】 支持体12の上端を洗浄液の液面Wよりも上方に残して浸漬させる。支持体12の外周面から分離した汚れ50の一部は下降流Bに逆らって上昇し、横流れAに乗り洗浄槽18外へ導かれ、残りの汚れ50は、下降流Bに乗って洗浄槽18の底部から洗浄槽18外へ導かれる。分離した汚れ50は、支持体12の下端から支持体12の内部に洗浄液が流入するため支持体12の内部に留められる。さらに、支持体12の内部に満たされた洗浄液と共に内部に留められた汚れが洗浄液の液面Wの上方に吐出されないような速度で支持体12を洗浄液の液面Wに沈める。支持体12全体が洗浄液に浸漬されると、今度は、支持体12の内部に洗浄液の下降流Bが形成され、以後、下降流Bとほぼ同じ速度で、あるいは、下降流Bよりも遅い速度で支持体12を洗浄液中に沈めていく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は感光体ドラムの製造方法に関し、さらに詳細には、感光体ドラムの複数の製造工程のうちの一つである濯ぎ洗浄工程に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機やプリンタなどの電子写真装置に用いられる感光体ドラムは、筒状の支持体と、前記支持体の外周面に形成された感光層などで構成されている。そして、支持体の両端に歯車やフランジなどが取着されることで感光体ドラムユニットが組立てられる。
上記の感光体ドラムは次の工程を経て製造されている。
[機械加工]
まず、アルミビュレットといわれるアルミ製の中実丸棒を熱間押出加工により筒状に成形する。
次に、冷間引き抜き加工により、引き抜き油をかけながら所定内径および所定外径の筒体に成形する。
次に、ノコなどを用い油をかけながら筒体を所定長さに切断する。このとき油は筒体の内周面に付着する。
次に、切削油をかけながら切削加工を行ない、内径、外径、端面の加工や、歯車などを嵌合するためのインロー加工を行ない、さらに、研磨加工を施し、内径、外径、長さ、振れなどについてそれぞれ高い精度を持った筒状の支持体を得る。
[脱脂工程(洗浄工程)]
次に、洗浄剤(脱脂剤)を用いて支持体を洗浄し、支持体の外周面に付着している切削油などの油分や、アルミ粉、塵埃などの異物を取り除き、また、支持体の内周面に付着している引き抜き油や切削油などの油分や、アルミ粉、塵埃などの異物を取り除く。なお、この脱脂工程では、支持体に付着している油分や異物はほとんど除去されているものの完全には取り除かれない。
【0003】
[ブラシ洗浄]
次に、支持体の外周面および内周面に対してブラシを用いてブラシ洗浄を行なう。ブラシ洗浄は、一般的に拘持して行われ、拘持されている部位は洗浄水がかからない。
ブラシ洗浄では、支持体の外周面については、充分な洗浄水をかけつつブラッシングが行なえるため、支持体の外周面から油分や異物は分離しやすい。しかしながら、依然として支持体の外周面には、外周面から分離せずに分離しやすい状態になった油分や異物が残存している。また、支持体の内周面については、充分な洗浄水をかけられないことから油分や異物の大半は支持体の内周面から分離せずに、分離しやすい状態になるのみであり、したがって、支持体の内周面に付着している油分や異物の量は、外周面に付着している油分や異物の量よりも多い。
[濯ぎ洗浄工程(最終洗浄工程)]
次に、洗浄液を用いて洗浄剤や油分や異物を取り除く。この場合、洗浄槽中の洗浄液に支持体を浸漬することで行なわれ、浸漬する際の支持体と洗浄液との摩擦力により、分離しやすい状態となって付着している油分や異物が支持体から分離する。また、洗浄槽中に超音波器を設置しておき、支持体に超音波を掛けることでこの分離がより促進される。
[加熱工程]
次に、必要に応じて温純水乾燥を施した後、熱風乾燥を施す。すなわち、支持体を温水に浸した後ゆっくりと引き上げる。しかしながらこの湯上げ操作では粒子は除去されにくい。次に、支持体を熱風乾燥し、支持体の内外表面に付着された、あるいは吸着された水分を除去する。
[感光層製造工程]
次に、支持体の外周面に浸漬(ディッピング)法などの公知の塗布方法により、必要に応じて下引き層を形成した後、感光層となる塗液を塗布する。
[乾燥工程]
次に、乾燥し、この乾燥により支持体の外周面に感光層が形成された感光体ドラムが得られる。
[組立工程]
つぎに、支持体の両端にそれぞれ歯車やフランジを嵌合固定して感光体ドラムユニットが組み立てられ、包装されて出荷される。
【0004】
感光体ドラムでは、脱脂工程で用いた洗浄剤や、油分、異物などの粒子(5〜50μm)が一つでも外周面に付着していると画像欠陥として点状欠陥などとなり、欠陥品となるため、これら洗浄剤や油分、異物などの粒子を外周面から完全に取り除く必要があり、この観点から上記の最終洗浄工程である濯ぎ洗浄が重要となる。
また、洗浄剤や油分、異物などの粒子が支持体の外周面や内周面に付着していると、ディッピング法により感光層となる塗液中に支持体を浸漬した際に、これら洗浄剤や油分、異物などが塗液中に混ざり込み、塗液を汚し、製品の欠陥率を高めてしまう不具合が生じ、この観点からも上記の濯ぎ洗浄が重要となる。
この種の濯ぎ洗浄として、従来、洗浄槽の上部から洗浄液を供給し、洗浄槽内に上下方向に循環する洗浄液の循環流を形成すると共に洗浄槽の上端から洗浄液の一部をオーバーフローさせ、このような洗浄槽中に支持体を浸漬させ、支持体に付着した洗浄剤や油分、異物を取り除いた後、支持体を上方に引き上げる技術が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平9−114118号公報
【特許文献2】特開2003−290724号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この技術では、支持体から分離された洗浄剤や油分、異物などが循環流に乗って洗浄槽中の洗浄液上面付近に漂ってしまうことが考えられ、支持体を引き上げる際に、これら洗浄剤や油分、異物などが支持体に再び付着してしまう可能性がある。
本発明は前記事情に鑑み案出されたものであって、本発明の目的は、洗浄剤や油分、異物などの汚れを支持体から確実に取り除くことができる感光体ドラムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため本発明は、機械加工を施した筒状の支持体を、下降流の洗浄液が流通する洗浄槽中で濯ぎ洗浄し、次いで乾燥させた後に、感光層を前記支持体の外周面に形成して感光体ドラムを得るようにした感光体ドラムの製造方法において、洗浄槽中の洗浄液の液面に、液面の実質上全域にわたり一方向に流れ洗浄槽外に導かれる洗浄液の横流れを形成すると共に、液面の下方における洗浄槽内の実質上全域において洗浄槽の底部に向って流れ洗浄槽外に導かれる洗浄液の下降流を形成しておき、前記濯ぎ洗浄処理を、前記支持体の軸心を略上下方向に向けて洗浄槽内に前記支持体を下降させ支持体全体を洗浄液中に浸漬させることで行うことを特徴とする。
また、本発明は、機械加工を施した筒状の支持体を、下降流の洗浄液が流通する洗浄槽中で濯ぎ洗浄し、次いで乾燥させた後に、感光層を前記支持体の外周面に形成して感光体ドラムを得るようにした感光体ドラムの製造方法において、洗浄槽中の洗浄液の液面に、液面の実質上全域にわたり一方向に流れ洗浄槽外に導かれる洗浄液の横流れを形成すると共に、液面の下方における洗浄槽内の実質上全域において洗浄槽の底部に向って流れ洗浄槽外に導かれる洗浄液の下降流を形成しておき、前記濯ぎ洗浄処理を、前記支持体の軸心を略上下方向に向けて洗浄槽内に該支持体の上端を残して洗浄液中に下降浸漬させ、続いて、前記支持体を下降させて支持体全体を洗浄液中に浸漬させることで行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
支持体の外周面から分離した汚れのうち、下降流に逆らって洗浄液中を上昇する汚れは、液面付近で横流れに乗り、洗浄槽外に導かれる。支持体の外周面から分離した残りの汚れは、下降流に乗って洗浄槽の底部から洗浄槽外に導かれる。
また、支持体の内周面から分離した汚れは、支持体の上端が洗浄槽の洗浄液の液面上の近傍に位置するまで、支持体の浸漬に伴って支持体の下端から支持体の内部に洗浄液が侵入することから、支持体の内部に留められる。
支持体全体が洗浄液に浸漬されると、支持体の内部に洗浄液の下降流が形成されるので、支持体の内周面から分離した汚れは、下降流に乗って支持体と共に下降し洗浄槽の底部に向かい、洗浄槽の底部から洗浄槽外に導かれる。また、支持体の内周面から分離した汚れのうち、下降流に逆らって洗浄液中を上昇する汚れは、液面付近で横流れに乗り洗浄槽外に導かれる。
なお、支持体の内周面から分離された汚れは、下降流に乗って下降し洗浄槽の底部に向って移動していくので、洗浄槽内における支持体の下降の速度は問わないが、汚れの洗浄液中への拡散をより一層防止する点からすると、洗浄槽内における支持体の下降の速度は、前記下降流の流通速度以下であることが好ましく、前記下降流の流通速度よりも遅い速度であるとより好ましい。
所定の時間の洗浄がなされたならば、支持体を洗浄液から引き上げる。この時、洗浄槽の上部には、汚れのない洗浄液が位置しているので、引き上げ時に汚れが支持体に再び付着することはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
洗浄槽内において液面の全域にわたり一方向に流れる洗浄液の横流れを形成すると共に、液面の下方における洗浄槽内の全域において洗浄槽の底部に向う洗浄液の下降流を形成しておき、この洗浄槽内に支持体を沈めていくことで上記の目的を達成した。
以下、本発明について詳細に説明するが、以下の説明における例示はあくまでも例として挙げたものであり、本発明はこれらの例示に何ら制限されるものではなく、任意に変更して実施することができる。
【実施例1】
【0009】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
図6に示すように、電子写真装置に用いられる感光体ドラム10は、筒状の支持体12と、支持体12の外周面に形成された感光層14などで構成されている。そして、支持体12の両端に歯車16Aやフランジ16Bが取着されることで感光体ドラムユニット10Aが組み立てられる。
感光体ドラム10を製造するに際しては、機械加工された支持体12について、従来と同様に脱脂工程(洗浄工程)、ブラシ洗浄が行なわれ、その後、実施例1による濯ぎ洗浄工程(最終洗浄工程)が行なわれる。
【0010】
図1は実施例1に用いる洗浄槽の断面正面図、図2は同平面図を示す。
洗浄槽18は、洗浄槽本体20と、洗浄槽本体20の上端に設けられた洗浄液供給部22および洗浄液排出部24と、洗浄槽本体20の底部に設けられた洗浄液排出部26などで構成されている。
洗浄槽本体20は、平面視矩形で水平に延在した底板2002と、底板2002の4辺からそれぞれ鉛直に起立する4枚の側板とを備え、説明の便宜上、4枚の側板のうちの互いに対向する1組の側板を、第1の側板2010および第2の側板2012とし、互いに対向する残りの1組の側板を、第3の側板2014および第4の側板2016とする。
【0011】
洗浄液供給部22は第1の側板2010の上端に設けられ、図2に示すように、第1の側板2010の全長にわたって延在している。
洗浄液供給部22は、第1の側板2010の内側と外側にわたって突出するように水平に設けられた底壁2202と、底壁2202の内側から鉛直に起立する越流壁2204と、底壁2202の外側から鉛直に起立する外壁2206とを有し、上部が開放状に形成されている。
越流壁2204は側板2004の内側に位置し均一の高さを有しており、外壁2206の高さは越流壁2204よりも大きい寸法で形成されている。
本実施の形態では、越流壁2204は第1の側板2010の上端を構成しており、越流壁2204の高さは第3、第4の側板2014、2016よりも低く、外壁2206の高さは第3、第4の側板2014、2016と同じ寸法に形成されている。
そして、底壁2202上を延在するように洗浄液供給管28が設置されている。
洗浄液供給管28は、管体2802と、この管体2802の下面に間隔をおいて形成された多数の孔2804とで構成されている。なお、洗浄液供給管28の各孔2804から均一流量の洗浄液が流出するように、例えば、管体2802の長手方向に沿って各孔2804の内径を異ならせるなどの対策が施され、洗浄液供給管28へ洗浄液を供給すると、洗浄液供給管28の各孔2804から均一流量の洗浄液が流出し、洗浄液が底壁2202上に供給され、洗浄液は越流壁2204から均一の流量で洗浄槽本体20の内部に流出する。
【0012】
洗浄槽本体20の上端に設けられた洗浄液排出部24は第2の側板2012の上端に設けられ、図2に示すように、第2の側板2012の全長にわたって延在している。
洗浄液排出部24は、第2の側板2012の内側と外側にわたって突出するように水平に設けられた底壁2402と、底壁2402の内側から鉛直に起立する内壁2404と、底壁2402の外側から鉛直に起立する外壁2406とを有し、上部が開放状に形成されている。
内壁2404は側板2004の内側に位置し均一の高さを有しており、本実施の形態では、内壁2404は第2の側板2012の上端を構成しており、内壁2404の高さは越流壁2204よりも低く、外壁2406の高さは第3、第4の側板2014、2016と同じ寸法に形成されている。
そして、底壁2402上を延在するように排水管30が設置されている。
排水管30は、管体3002と、この管体2802の周面に形成された多数の孔3004とで構成されている。
【0013】
洗浄槽本体20の底部で底板2002の上方には、洗浄槽本体20の全域にわたり層流として均一の速さの洗浄液の下降流を作るための、すなわち偏流を防止するための整流板32が設置されている。
また、洗浄槽本体20の底部で整流板32の上方に超音波発振器34が設置されている。
洗浄液排出部26は、洗浄槽本体20の底板2002に開口する複数本の排水管2602と、排水管2602に連結されたポンプPなどを含んで構成されている。なお、排水管2602を底板2002に開口させず、底板2002寄りの側板2010、2012、2014、2016箇所に開口させるようにしてもよい。
なお、排水管2602、30で吸い込んだ洗浄液を、例えば、フィルターを経て油分や異物を取り除いた後、再度、洗浄液供給管28に供給することで洗浄液を循環して使用するようにしてもよく、あるいは、排水管2602、30で吸い込まれた洗浄液から油分や異物を取り除いた後に、洗浄液を河川などに放流するようにしてもよい。
【0014】
以上の構成からなる洗浄槽18において、洗浄液排出部26を閉塞して洗浄槽18内に洗浄液を満たした後(例えば、洗浄液排出部24の内壁2404の上端まで洗浄液を満たした後)、洗浄液供給管28へ洗浄液を供給し、洗浄液排出部24、26から洗浄液供給量と略同量で洗浄液を排出させる。なお、本実施例では、洗浄液として純水を用いている。
この場合、第2の側板2012の上端の洗浄液排出部24の内壁2404は越流壁2204や第3、第4の側板2014、2016よりも低いことから、洗浄槽18内の液面W付近の洗浄液は内壁2404を越えて洗浄液排出部24に流れ込み、排水管30から洗浄槽18外へ導かれる。この第2の側板2012の上端の洗浄液排出部24による洗浄液の吸い込みにより、洗浄槽18内の液面全域に洗浄液供給部22から洗浄液排出部24に向う、すなわち第1の側板2010から第2の側板2012に向う横流れAが形成される。
また、洗浄液は洗浄槽18の底部の洗浄液排出部26からも排出されるので、液面Wの下方の洗浄槽18内の全域に洗浄槽18の底部に向って流れる下降流Bが形成される。本実施例では、整流板32を通って洗浄液排出部26に至ることから、整流板32の近傍では下降流Bが層流として作られる。
なお、洗浄槽18内の液面全域に横流れAを作る方法や、液面の下方の洗浄槽18内の全域に下降流Bを作る方法は種々の方法が考えられるが、実施例のように洗浄槽18の上端に設けた洗浄液供給部22や洗浄液排出部24を利用すると、支持体12の昇降を支障なく行なえるなど装置を簡素化しコストダウンを図る上で有利となる。
【0015】
ブラシ洗浄された支持体12は、図3(A)に正面図で、図3(B)に平面図で示すパレット40に載せられて、複数本(この例では6×6=36本)が同時に洗浄液中に下降流Bとほぼ同じ速度で、あるいは下降流Bよりも遅い速度で浸漬される。
パレット40は、格子状に延在する複数の棒材や帯材により形成された平面視矩形の基体4002と、図3(C)に示すように、基体4002上に立設され外周に複数の欠部が形成された複数のロッド4004とで構成されている。複数本の支持体12は、その長手方向の一端にロッド4004が挿入され基体4002上においてその軸心を鉛直方向に向けた起立状態が維持されてパレット40に載せられている。
そして、例えば、基体4002の4隅に設けられたワイヤ、あるいは、ロッドにより、基体4002の水平状態を維持しつつ下降させ、パレット40を洗浄槽18の洗浄液中に浸漬することで、図4に示すように、基体4002上に起立した複数本の支持体12が上記のように横流れAおよび下降流Bが作られた洗浄槽18の洗浄液中に浸漬され、洗浄されることになる。
【0016】
次に、図5を参照して本発明の原理について説明する。
図5(A)乃至(E)は、支持体12が洗浄液中に浸漬していく工程を示した図である。
図中、符号50で示す黒丸は、支持体12の外周面や内周面に付着している洗浄剤や油分、異物などの汚れを示している。なお、上述したように、支持体12の内周面に残存している汚れ50の量は、外周面に残存している汚れ50の量よりも多い。
【0017】
パレット40を洗浄槽18内に下降させ、図5(B)に示すように、支持体12の下端が洗浄液中に浸漬したところで超音波発振器34を駆動し超音波発振器34から超音波を発生させる。
そして、さらにパレット40を下降流Bとほぼ同じ速度で、あるいは下降流Bよりも遅い速度で下降させ、図5(C)に示すように、支持体12の上端を洗浄液の液面Wよりも上方に残して浸漬させる。
支持体12が下降し洗浄液中に浸漬されていくと、洗浄液との摩擦により、また、超音波により、支持体12の内周面と外周面のそれぞれに分離せずに分離しやすい状態になって付着している汚れ50が内周面と外周面から分離する。
そして、支持体12の外周面から分離した汚れ50は下降流Bに乗って洗浄槽18の底部へと導かれる。
この場合、支持体12の機械加工時に用いる引き抜き油や切削油の成分によっては、あるいは、脱脂工程で用いる洗浄剤の成分によっては、その一部に下降流Bに逆らって洗浄液中を上昇する汚れ50が混在しており、この下降流Bに逆らって洗浄液中を上昇する汚れ50は、液面W付近で横流れAに乗り洗浄槽18上端の洗浄液排出部24に吸い込まれ、洗浄槽18外に導かれる。
また、支持体12の内周面から分離した汚れ50は、支持体12の下端から支持体12の内部に洗浄液が流入してくることから、支持体12の内部に留められることになる。
【0018】
そして、図5(D)に示すように、支持体12の上端が洗浄液の液面W上の近傍に位置したならば、支持体12の内部に満たされた洗浄液が、洗浄液の液面Wの上方に吐出されないような速度で支持体12を下降させ支持体12の上端を洗浄液の液面Wに沈めていく。
これにより、支持体12の内周面から分離され外周面よりも量が多い汚れ50が、支持体12よりも上方に位置する洗浄液中に拡散されず、支持体12の内部に閉じ込められた状態で支持体12の上端は洗浄液の液面Wに沈められていく。
なお、本実施例のように、支持体12を下降流Bとほぼ同じ速度で、あるいは、下降流Bよりも遅い速度で下降させると、すなわち、支持体12を下降流Bの流通速度以下で下降させると、支持体12の上端が洗浄液の液面Wに沈む際に、支持体12の内部に満たされた洗浄液が洗浄液の液面Wの上方に吐出されることはないが、上記のように、支持体12の上端が洗浄液の液面W上の近傍に位置したならば、支持体12の内部に満たされた洗浄液が、洗浄液の液面Wの上方に吐出されないような速度で支持体12を下降させ支持体12の上端を洗浄液の液面Wに沈めるようにすると、支持体12の上端が洗浄液の液面W上の近傍に位置するまでの間、支持体12を下降流Bの速度よりも大きな速度で下降でき、洗浄工程に要する作業時間を短縮できる。
そして、支持体12全体が洗浄液に浸漬されると、今度は、支持体12の内部に洗浄液の下降流Bが形成される。
以後、下降流Bとほぼ同じ速度で、あるいは、下降流Bよりも遅い速度でパレット40を下降させ、すなわち、支持体12を下降流Bの流通速度以下で下降させ、支持体12を洗浄液中に沈めていく。厳密には、整流板32から上方に離れた箇所では、下降流Bの速度成分は、第2の側板2012に向う成分と底板2002に向う成分とを有しているので、下降流Bの速度成分のうち底板2002に向う速度成分とほぼ同じ速度で、あるいは、この速度成分よりも遅い速度でパレット40を下降させ、支持体12を洗浄液中に沈めていく。
【0019】
下降流Bとほぼ同じ速度で支持体12を洗浄液中に沈めていくと、図5(D)、(E)に示すように、支持体12の内周面から分離された量の多い汚れ50が、支持体12の内部に閉じ込められた状態で支持体12が洗浄液中に沈められていくことになり、支持体12の上端から支持体12の上方に位置する洗浄液中に拡散されない。
また、下降流Bよりも遅い速度で支持体12を洗浄液中に沈めていくと、支持体12の内周面から分離された量の多い汚れ50は、支持体12の上端から上方に拡散されることなく下降流Bに乗って支持体12の下端から支持体12の下方に移動し、洗浄槽18の底部に向って移動していくことになり、支持体12の上端から支持体12の上方に位置する洗浄液中に拡散されない。
なお、何れの場合も、支持体12の内周面から分離され下降流Bに逆らって洗浄液中を上昇する汚れ50は、液面W付近で横流れAに乗り洗浄槽18上端の洗浄液排出部24に吸い込まれ、洗浄槽18外に導かれる。
なお、上述のように支持体12の内周面に残存している汚れ50の量は多く、これに対して外周面に残存している汚れ50の量は少ないので、支持体12の内周面の量の多い汚れ50の洗浄液中への拡散を防止する点からすると、支持体12の上端が洗浄液の液面Wに浸漬するまでの間は、下降流Bよりも速い速度で支持体12を下降させるようにしてもよいが、汚れ50の洗浄液中への拡散をより厳密に防止する点からすると、実施例のように、支持体12の下端が洗浄液の液面Wに浸漬してからは、下降流Bとほぼ同じ速度で、あるいは、下降流Bよりも遅い速度で下降させることが好ましい。
【0020】
パレット40が下降していき、図4に示すように、洗浄槽18内の底部の所定位置に位置したならば、パレット40は所定の時間停止され、複数本の支持体12は、洗浄液の下降流B中に浸漬された状態に維持され、洗浄液の下降流Bにより洗浄される。
支持体12の外周面および内周面から分離した汚れ50の一部は下降流Bに逆らって洗浄液中を上昇し、液面W付近で横流れAに乗り洗浄槽18上端の洗浄液排出部24に吸い込まれて洗浄槽18外に導かれ、残りの汚れ50は、下降流Bに乗り洗浄液と共に整流板24を通って洗浄液排出部30から洗浄槽18外へ排出され、一方、汚れ50のない洗浄液が、越流壁2204を越えて洗浄槽18の上部に常時供給される。
やがて、所定の時間が経過したならば、パレット40を上昇させ、複数本の支持体12を洗浄液から引き上げる。
この場合、洗浄槽18の上部には、越流壁2204を乗り越えて供給された汚れ50のない洗浄液が位置しているので、引き上げ時に汚れ50が支持体12に再び付着することはない。
【0021】
なお、加熱工程で用いる温水、或いは濯ぎ工程で用いる洗浄液は、純水に限定されず、支持体表面の水和酸化を防止するための抑制剤と純水と混合したもの、或いは、汚れの再付着防止のため純水に約1ppmの割合でアンモニアを混合したものなどの、従来公知の様々な洗浄液が使用可能である。
また、実施例では、洗浄槽内18における支持体12の下降を、下降流Bよりも遅い速度で、あるいは、下降流Bとほぼ同じ速度で行なった場合について説明したが、すなわち、支持体12を下降流Bの流通速度以下で下降させた場合について説明したが、支持体12の内周面から分離された汚れ50は、下降流Bに乗って下降し洗浄槽18の底部に向って移動していくので、本発明では、洗浄槽18内における支持体12の下降の速度は問わない。ただし、実施例のような下降速度にすると、汚れの洗浄液中への拡散をより一層防止する上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例に用いる洗浄槽の断面正面図である。
【図2】実施例に用いる洗浄槽の平面図である。
【図3】パレットの説明図である。
【図4】洗浄槽に支持体を浸漬した状態の説明図である。
【図5】本発明の原理の説明図である。
【図6】感光体ドラムの説明図である。
【符号の説明】
【0023】
10……感光体ドラム、12……支持体、18……洗浄槽、20……洗浄槽本体、22……洗浄液供給部、24……洗浄液排出部、26……洗浄液排出部、32……整流板、34……超音波発振器、40……パレット、50……汚れ、A……横流れ、B……下降流、W……液面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械加工を施した筒状の支持体を、下降流の洗浄液が流通する洗浄槽中で濯ぎ洗浄し、次いで乾燥させた後に、感光層を前記支持体の外周面に形成して感光体ドラムを得るようにした感光体ドラムの製造方法において、
洗浄槽中の洗浄液の液面に、液面の実質上全域にわたり一方向に流れ洗浄槽外に導かれる洗浄液の横流れを形成すると共に、液面の下方における洗浄槽内の実質上全域において洗浄槽の底部に向って流れ洗浄槽外に導かれる洗浄液の下降流を形成しておき、
前記濯ぎ洗浄処理を、前記支持体の軸心を略上下方向に向けて洗浄槽内に前記支持体を下降させ支持体全体を洗浄液中に浸漬させることで行う、
ことを特徴とする感光体ドラムの製造方法。
【請求項2】
機械加工を施した筒状の支持体を、下降流の洗浄液が流通する洗浄槽中で濯ぎ洗浄し、次いで乾燥させた後に、感光層を前記支持体の外周面に形成して感光体ドラムを得るようにした感光体ドラムの製造方法において、
洗浄槽中の洗浄液の液面に、液面の実質上全域にわたり一方向に流れ洗浄槽外に導かれる洗浄液の横流れを形成すると共に、液面の下方における洗浄槽内の実質上全域において洗浄槽の底部に向って流れ洗浄槽外に導かれる洗浄液の下降流を形成しておき、
前記濯ぎ洗浄処理を、前記支持体の軸心を略上下方向に向けて洗浄槽内に該支持体の上端を残して洗浄液中に下降浸漬させ、
続いて、前記支持体を下降させて支持体全体を洗浄液中に浸漬させることで行う、
ことを特徴とする感光体ドラムの製造方法。
【請求項3】
前記洗浄槽は、該洗浄槽を平面視した場合に矩形の4辺を呈するように並べられた4枚の側板を有し、前記液面は4枚の側板のうちの互いに対向する第1の側板と第2の側板の上縁近傍に位置し、前記4枚の側板のうちの残りの互いに対向する第3の側板と第4の側板は前記第1の側板と第2の側板よりも大きい寸法の高さで形成されており、洗浄液が第1の側板を乗り越えて洗浄槽内に供給されると共に第2の側板を乗り越えて洗浄槽外に導かれることで、前記横流れが形成されることを特徴とする請求項1または2記載の感光体ドラムの製造方法。
【請求項4】
前記洗浄槽には層流形成用の整流板が設けられると共に、この整流板の下方の洗浄槽の底部に洗浄槽内の洗浄液を洗浄槽の外部に導く洗浄液排出部が設けられ、洗浄槽中の洗浄液が前記整流板を通って洗浄液排出部から洗浄槽の外部に導かれることで、前記下降流が液面の下方の全域に形成されることを特徴とする請求項1または2記載の感光体ドラムの製造方法。
【請求項5】
前記洗浄槽には超音波発信器が設置され、支持体が洗浄液に浸漬される際に前記超音波発振器から超音波が発せられることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の感光体ドラムの製造方法。
【請求項6】
前記支持体の上端が前記洗浄槽内の洗浄液の液面に沈められる際に、前記支持体は、この支持体の内部に満たされた洗浄液が支持体の上端から洗浄槽内の洗浄液の液面の上方に吐出されないような速度で下降されることを特徴とする請求項1または3乃至5に何れかに記載の感光体ドラムの製造方法。
【請求項7】
前記支持体の前記洗浄槽内での下降は、前記下降流の流通速度以下で行なわれることを特徴とする請求項1または3乃至5に何れかに記載の感光体ドラムの製造方法。
【請求項8】
前記支持体の上端を残して洗浄液中に浸漬させた後の前記支持体の下降は、前記下降流の流通速度以下で行なわれることを特徴とする請求項2乃至5にいずれかに記載の感光体ドラムの製造方法。
【請求項9】
前記支持体の上端を残して洗浄液中に浸漬させた後、前記支持体の下端から流入し前記
支持体の内部に満たされた洗浄液が、洗浄液の液面の上方に吐出されないような速度で前記支持体を下降させて前記支持体の上端を洗浄液の液面に沈め、以後の前記支持体の下降は、前記下降流の流通速度以下で行なわれることを特徴とする請求項2乃至5にいずれかに記載の感光体ドラムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−3884(P2006−3884A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−145147(P2005−145147)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】