説明

感温遮光資材

【課題】高温時には光を遮り、低温時には光を透過するように形成された感温遮光資材を提供する。
【解決手段】LCST挙動を示すポリマー溶液が分散された合成樹脂層を有することを特徴とする感温遮光資材。合成樹脂は紫外線架橋機能を有する紫外線架橋ゲル化樹脂が望ましい。たとえば、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、エステルアクリレート等が挙げられる。また、LCST挙動を示すポリマー溶液としては、アクリルアミド系誘導体水溶液、または多糖類誘導体水溶液が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温時には光を遮り、低温時には光を透過するように形成された感温遮光資材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、農業用ハウスや、透明窓を有する室内は、夏期の直射日光で必要以上に内部温度が上昇するため、感温遮光材の利用を試みられてきた。しかし、必要とする温度領域において感温変化を示す材料は、水を含有することが必要であったため、合わせガラスの中間に感温材料を組み込んだ実用例はあるものの、汎用フイルムでは、水分の透過が避けられず、経時で水分量が減少し、感温変化の耐久性に
乏しく、実用に適した資材は得られなかった。また、合わせガラスに使用した場合でも、感温変化の繰り返しにより、徐々に相分離による沈殿物が堆積し、遮光程度が低下していくという問題点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、高温時には遮光し、低温時には透明となる感温変化が長期間維持できる感温遮光資材を提供することにある。本発明者等は種々検討した結果、感温変化の耐久性に優れた感温遮光資材が得られることを見出し、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明の要旨は、LCST(下限臨界溶液温度)挙動を示すポリマー溶液が分散された合成樹脂層を有する感温遮光資材に存する。
【発明の効果】
【0005】
本発明の感温遮光資材を用いれば、感温遮光性が長期間保持できる。汎用フイルムに適用し農業用ハウスに使用した場合、夏期は充分な遮光被覆材、冬季は透明被覆材となり、また、ガラスに適用した場合でも、相分離を起こさず安定した感温遮光ガラスが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はかかる態様に限定されるわけではない。
【0007】
本発明におけるLCST挙動を示すポリマー溶液とは、低温で透明、高温で不透明となるポリマー溶液を意味し、(メタ)アクリルアミド系誘導体溶液や多糖類誘導体溶液が挙げられる。
【0008】
(メタ)アクリルアミド系誘導体:
本発明では、アクリルアミド系誘導体は、アクリルアミド誘導体若しくはメタクリルアミド誘導体より選ばれた1種以上の単量体を重合、又は共重合して得られる。また、前記1種以上の単量体と他のアクリル系単量体との共重合体を使用しても良い。
【0009】
(メタ)アクリルアミド誘導体とは例えば下記一般式(I)および(II)で表されるN−アルキルまたはN−アルキレン置換(メタ)アクリルアミドであり、具体的には例えばN−エチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−メタクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン,N−アクリロイルヘキサヒドロアゼピン、N−アクリロイルモルホリン等をあげることができる。
【0010】
【化1】

(上式でRは水素原子またはメチル基、Rは水素原子、メチル基またはエチル基、 Rはメチル基、エチル基またはプロピル基を表わす。)
【0011】
【化2】

(上式でRは水素原子またはメチル基、Aは(CHでnは4〜6または(CHO(CHを表す。)
【0012】
上記の(メタ)アクリルアミド系単量体と共重合可能な単量体としては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート等のアルキル基の側鎖が1〜5のアルキルアクリレート;エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート等のアルキル基の側鎖が1〜5のアルキルメタクリレート;ヒドロキシメチルアクリレート、ヒドロキシメチルメタクリレート、2ーヒドロキシエチルアクリレート、2ーヒドロキシエチルメタクリレート、2ーヒドロキシプロピルアクリレート、2ーヒドロキシプロピルメタクリレート、3ーヒドロキシプロピルアクリレート、3ーヒドロキシプロピルメタクリレート、2ーヒドロキシブチルアクリレート、2ーヒドロキシブチルメタクリレート、4ーヒドロキシブチルアクリレート、4ーヒドロキシブチルメタクリレート、2ーヒドロキシペンチルアクリレート、2ーヒドロキシペンチルメタクリレート、6ーヒドロキシヘキシルアクリレート、6ーヒドロキシヘキシルメタクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;分子内に1個もしくは2個以上のカルボキシル基を含むα,β−不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、アコニット酸、フマル酸、クロトン酸等の分子内に1個もしくは2個以上のカルボキシル基を含むα,β−不飽和カルボン酸;エチレンスルホン酸のようなα,β−エチレン性不飽和ホスホン酸類;アクリル酸又はメタクリル酸のヒドロキシエチル等の水酸基含有ビニル単量体;アクリロニトリル類;アクリルアマイド類;(メタ)アクリル酸のグリシジルエステル類等がある。これら単量体は単独で用いても、又は2種以上の併用でもよい。
【0013】
多糖類誘導体:
本発明の多糖類誘導体は、特に限定されることなく、セルロース、プルラン、デキストラン等があり広く利用でき、その誘導体の具体例としては、プロピレンオキサイドを高付加して得られるヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルプルラン、ヒドロキシプロピルデキストラン等がある。なかでもセルロース誘導体は、安定性が高く好ましい。
【0014】
本発明における溶液とは、溶媒として水を含んだ溶液であり、水以外に水と親和性のあるアルコール類、ケトン類、エステル類等の有機溶剤を含んでもよい。水は溶媒中50重量%以上含む方が好ましい。また、溶質としては、前述のアクリルアミド系誘導体、多糖類誘導体の他、水溶性高分子、金属塩、有機酸等、溶液に溶解する物質を含んでもよい。
【0015】
本発明におけるポリマー溶液が分散された合成樹脂層とは、前述のLCST挙動を示すポリマー溶液が多数の微小液滴として分散された状態で層形状が保持できる合成樹脂層を意味する。合成樹脂は本感温遮光資材の低温時の透明性を損なわない材質であれば特に制限はないが、ポリマー溶液を分散させる段階では合成樹脂組成物は流動性を有し、その後、ポリマー溶液が分散した合成樹脂層を形成する段階では層形状が保持できる程度に固化し、かつ合成樹脂層から外部へのポリマー溶液の放出を防ぐため、被膜形成機能や水保持機能が必要となる。そのため合成樹脂組成物は、常温では液状であり、外部刺激により架橋固化する材料が良く、無溶剤系又は水系紫外線硬化樹脂や、紫外線架橋ゲル化樹脂が望ましい。具体的には、ウレタンアクリレート型樹脂、エポキシアクリレート型樹脂、エステルアクリレート型樹脂等の無溶剤系又は水系紫外線硬化樹脂や、紫外線架橋によりハイドロゲルを形成する、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子が挙げられる。
【0016】
LCST挙動を示すポリマー溶液と、合成樹脂の重量比は、90/10〜10/90が好ましく、特に80/20〜30/70が好ましい。所定範囲外の場合、感温変化の耐久性が不足する。
【0017】
本発明の感温遮光資材にポリマー溶液の分散された合成樹脂層を組み込むには、2枚以上のフイルム又はガラスの中間に挿入したり、1枚のフイルム又はガラスの片面又は両面に積層すればよい。
【0018】
例えば2枚のフイルム、ガラスの中間に挿入するには、注入してもよいし、1枚の片面に公知の方法で塗布した後、塗布面にもう1枚を被覆してもよい。またエアーキャップのような凹凸を有するフイルムの凹部にポリマー溶液の分散された合成樹脂層を入れる方法でもよい。ポリマー溶液の分散された合成樹脂層を2枚のフイルム、ガラスに保持させるには、合成樹脂層の周囲を熱、接着剤、硬化剤等公知の方法によりシールすればよい。
【0019】
また、1枚のフイルム又はガラスの片面に積層するには、ポリマー溶液が分散された合成樹脂層を公知の方法で塗布した後、更にアクリル系樹脂等、合成樹脂層との親和性がよく皮膜を形成する層を塗布するか、合成樹脂にあらかじめ皮膜形成成分を添加してから、ポリマー溶液が分散された合成樹脂層を塗布すればよい。
【0020】
上記合成樹脂層を紫外線架橋させるには、公知の紫外線照射装置で、架橋に必要な紫外線量を照射させれば良いが、この際、合成樹脂層の温度が上がりすぎないようにする必要があり、50℃以下とするのが好ましい。
【0021】
ポリマー溶液が分散された合成樹脂層の厚みは、合成樹脂層の遮光能力と必要とする遮光程度により調整すればよいが、通常2μm〜5mmであり、5μm〜3mmが好ましい。
【0022】
(実施例)
以下、本発明を実施例にもとづいて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
(1)LCST挙動を示すポリマー溶液(a−1)
ヒドロキシプロピルセルロース 25重量部
(ヒドロキシプロピル基:62.4%、重量平均分子量:約60、000)
ポリプロピレングリコール(平均分子量600) 6重量部
純水 67重量部
塩化ナトリウム 2重量部
を室温で攪拌し、ポリマ−溶液(a−1)を調製した。
【0024】
(a−1)は35℃でLCST挙動を示す。
(2)合成樹脂組成物(A−1)
エポキシ・ウレタンアクリレート 50重量部
(荒川化学 AQ−9)
純水 50重量部
を室温で攪拌し、合成樹脂組成物(A−1)を調製した。
(3)ポリマー溶液を分散した合成樹脂
50cc試薬ガラス瓶にポリマー溶液(a−1)/合成樹脂組成物(A−1)を重量比1/1で室温で計30g入れ、激しく攪拌することで分散液を得た。
(4)感温耐久性評価
1.耐相分離試験
(3)で調製した分散液を試薬ガラス瓶ごとコンベア式紫外線照射装置に導入し、高圧水銀ランプで積算UV照射量800mJ/cm照射させ、架橋固化させた。
ついで、冷温サイクル試験(*)をおこなった。
【0025】
(*)15℃×1時間保持
↓↑ 昇降温速度 30℃/30分
40℃×1時間保持
1ヶ月毎に15℃での沈殿物の堆積有無を評価した。
【0026】
評価基準: ○・・沈殿物なし
△・・わずかに沈殿物有り
×・・沈殿物の堆積有り
結果を第1表に示す。
2.感温性試験
厚み0.1mmのLDPEフイルム上の10cm四方に上記(3)合成樹脂層を計0.5g塗布し、その上に同一のLDPEフイルムを密着させ、周囲をヒートシールした。
ついで、ヒートシールしたフイルムをコンベア式紫外線照射装置に導入し、高圧水銀ランプで
積算UV照射量500mJ/cm2照射させ、架橋硬化させた。
上記冷温サイクル試験をおこない、1ヶ月毎に15℃、40℃での外観を観察した。
結果を第1表に示す。
【実施例2】
【0027】
(1)LCST挙動を示すポリマー溶液(a−2)
ポリN−イソプロピルアクリルアミド 15重量部
(20℃水溶媒固有粘度[η]3.58)
純水 85重量部
を室温で攪拌し、ポリマ−溶液(a−2)を調製した。
【0028】
(a−2)は32℃でLCST挙動を示す。
(2)合成樹脂組成物(A−2)
ポリビニルアルコール 15重量部
(日本合成化学 Z−200)
イルガキュアー184 (チバガイギー) 1重量部
2−ヒドロキシエチルアクリレート 5重量部
N−メチロールアクリルアミド 5重量部
純粋 74重量部
を室温で攪拌し、合成樹脂組成物(A−2)を調製した。
(3)ポリマー溶液を分散した合成樹脂
50cc試薬ガラス瓶にポリマー溶液(a−2)/合成樹脂組成物(A−2)を重量比1/1で室温で計30g入れ、激しく攪拌することで分散液を得た。
(4)感温耐久性評価
1.相分離試験
(3)で調製した分散液を試薬ガラス瓶ごとコンベア式紫外線照射装置に導入し、高圧水銀ランプで積算UV照射量1,500mJ/cm照射させ、架橋ゲル化させた。
ついで、冷温サイクル試験(*)をおこなった。
【0029】
(*)15℃×1時間保持
↓↑ 昇降温速度 30℃/30分
40℃×1時間保持
1ヶ月毎に15℃での沈殿物の堆積有無を評価した。
【0030】
評価基準: ○・・沈殿物なし
△・・わずかに沈殿物有り
×・・沈殿物の堆積有り
結果を第1表に示す。
2.感温性試験
厚み0.1mmのLDPEフイルム上の10cm四方に上記(3)合成樹脂層を計0.5g塗布し、その上に同一のLDPEフイルムを密着させ、周囲をヒートシールした。
ついで、ヒートシールしたフイルムをコンベア式紫外線照射装置に導入し、高圧水銀ランプで
積算UV照射量1,000mJ/cm照射させ、架橋ゲル化させた。
上記冷温サイクル試験をおこない、1ヶ月毎に15℃、40℃での外観を観察した。
結果を第1表に示す。
【0031】
(比較例1)
実施例1のポリマー溶液(a−1)のみを用い、同様の感温耐久試験をおこなった。
【0032】
(比較例2)
実施例2のポリマー溶液(a−2)のみを用い、同様の感温耐久試験をおこなった。
【0033】
【表1】

【0034】
以上の実施例から明らかなように本発明の感温遮光資材は、感温耐久性の優れた感温遮光資材とすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LCST挙動を示すポリマー溶液が分散された合成樹脂層を有することを特徴とする感温遮光資材。
【請求項2】
ポリマー溶液が、アクリルアミド系誘導体水溶液、又は多糖類誘導体水溶液であることを特徴とする請求項1に記載の感温遮光資材。
【請求項3】
合成樹脂が、紫外線架橋機能を有することを特徴とする請求項1に記載の感温遮光資材。

【公開番号】特開2007−211153(P2007−211153A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−33321(P2006−33321)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(504137956)MKVプラテック株式会社 (59)
【Fターム(参考)】