説明

感熱記録媒体

【課題】 感熱発色方式を利用した感熱記録媒体において、サーマルヘッドによる印字適性を有し、偽造防止性が高く、またその偽造防止の検査用として特殊な器具を必要とせず、製造工程の特殊性や複雑性等による製造コストが高くなることを防止した感熱記録媒体を提供することを目的とする。
【解決手段】 基材上に、加熱により発色する感熱記録層と、円偏光選択性と選択反射性の2つの特性を有するコレステリック液晶層とを、異なる場所に設けていることを特徴とする感熱記録媒体とすることにより、上記の課題を解決することができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上の一部に加熱により発色する感熱記録層と、それと異なる部分に円偏光選択性と選択反射性の2つの特性を有するコレステリック液晶層とを設けた感熱記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クレジットカードや交通機関の定期券、身分証明書等には、通常、所有者各人の氏名や各種番号、有効期間、乗車区間等の情報が用途に合わせて選択され、目視情報として記録されている。この情報を記録する際には、短時間で記録ができ、大型の装置を要しない感熱発色方式が利用されることが多い。感熱発色方式は、通常、不可逆なものが用いられるため、改竄は難しいが、得られる目視情報は解像度があまり高くなく、発色濃度も一定であるため、カラー複写機等による偽造が試みられる可能性がある。
【0003】
偽造防止対策として、例えば、特許文献1にあるように、支持体の表面に透かしとして用いる模様を印刷し、さらにその上に乳白色の感熱発色層を形成した偽造防止感熱記録体があるが、コピーやスキャナーで簡単に偽造券を製造できてしまう。また、特許文献2にあるように、基材シートや基材シート上の感熱コーティング層に近赤外蛍光化合物が含有されている感熱記録材料で、感熱コーティング層の成分と近赤外蛍光化合物とが早期の反応をおこさないものがあるが、光子検出器等の特殊な器具を必要とする。また、特許文献3にあるように、基材にホログラム等の光輝性スレッドと磁気記録層と感熱記録層を設けた偽造防止用紙があるが、基材用紙の製造の段階でスレッドの抄造等で特殊な加工を伴うため製造工程が特殊、煩雑になり、製造コストの高騰となる。
【0004】
また、特許文献4には、基材上に設けた感熱記録層の少なくとも一部の上に、円偏光選択性と選択反射性の2つの特性を有するコレステリック液晶層を設けて、複写による偽造や文字の改竄、変造を効果的に防止でき、真偽判定を目視や偏光板を使用して容易に行うことができる表現性、意匠性に優れた情報記録媒体が記載されている。コレステリック液晶は、透明性があり、配向状態にある場合、入射した光のうち、左円偏光もしくは右円偏光のいずれか一方のみを反射する性質をもち、また、見る角度により色相が異なって見える効果も有する。配向状態を実現するには、延伸したプラスチックシートの表面にコレステリック液晶の溶剤溶液もしくは重合性のコレステリック液晶を用いて調製した紫外線重合性組成物を適用するが、液晶を配向させる基材の選定が必要となる。または、対象物の表面に配向膜を形成してからコレステリック液晶の溶剤溶液もしくは重合性のコレステリック液晶を用いて調製した紫外線重合性組成物を適用すればよいが、工程が多くなり、コストが高くなる。配向するためには、液晶高分子フィルムを転写する方法もあるが、特に多色の感熱記録層の場合には工程が複雑になる。さらに、液晶材料をインキ化して感熱記録媒体に直接印刷してもよいが、感熱記録層が発色しないようにインキ溶剤の種類の選定が必要となる。また、液晶は見る角度によっては感熱発色文字の色を異なる色に見せるため、2色サーマルの場合、記録情報の色の視認性に問題がある場合もある。
【0005】
【特許文献1】特開平11−344930号公報
【特許文献2】特開平11−314459号公報
【特許文献3】特開平11−78326号公報
【特許文献4】特開2002−67502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、感熱発色方式を利用した感熱記録媒体において、各種の偽造防止対策が施されているが、未だ充分に満足できるものがない状況である。したがって、上記のような課題を解決するために、本発明は、感熱発色方式を利用した感熱記録媒体において、サーマルヘッドによる印字適性を有し、偽造防止性が高く、またその偽造防止の検査用として特殊な器具を必要とせず、製造工程の特殊性や複雑性等による製造コストが高くなることを防止した感熱記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の状況を鑑み、鋭意研究開発を進め、本発明は感熱発色方式を利用した感熱記録媒体において、上記の課題を解決したものである。すなわち、請求項1に記載の発明は、基材上に、加熱により発色する感熱記録層と、円偏光選択性と選択反射性の2つの特性を有するコレステリック液晶層とを、異なる場所に設けていることを特徴とする。請求項2の発明は、前記の感熱記録層が発色の色相が異なる条件で、色相毎に異なる場所に設けられていることを特徴とする。請求項3の発明は、前記の感熱記録層とコレステリック液晶層の少なくとも一つが、2層以上から構成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項4の発明は、前記の基材の感熱記録層、コレステリック液晶層が設けられた側と反対面に粘着剤層が積層されていることを特徴とする。また請求項5の発明は、前記の感熱記録媒体において、磁気記録層またはRFIDタグによる情報記録手段が設けられていることを特徴とする。さらに請求項6の発明は、前記の感熱記録媒体において、磁気記録層またはRFIDタグによる情報記録の内容を、感熱記録層の発色記録として、サーマル表示できることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
加熱により発色する感熱記録層と、円偏光選択性と選択反射性との特性を有するコレステリック液晶層とを設ける感熱記録媒体で、コレステリック液晶層の上に感熱記録層がある場合、液晶の光沢感を損ない、また感熱発色文字の色を異なる色にみせるために記録情報の色の視認性に問題が生じる。また、感熱記録層の上に液晶層を印刷するには、感熱記録層が発色しないように、液晶層形成用インキの溶剤の選定が必要である。液晶高分子フィルムを転写する方法もあるが、特に多色の感熱記録層の場合には工程が複雑になってしまう。本発明では液晶を配向させる基材を選定し、コレステリック液晶層と感熱記録層を基材の一方に面に、別々に設けたものである。これにより上記の問題が無い。
【0010】
また、本発明では、液晶層形成用インキを、グラビア印刷等の凹版印刷、オフセット方式などの平版印刷、凸版印刷、スクリーン印刷、またはインクジェット印刷などで基材上に直接印刷可能であり、製造工程が削減できる。また、液晶層の形成が、転写方式ではないので、ラミネート時に問題となる気泡による印字不良の心配がない。コレステリック液晶層と感熱記録層とが、互いに直接、接する形態で積層されていないので、特殊環境下における液晶層内の残存溶媒による感熱記録層の発色の心配がない。色相ごとに異なる場所に感熱記録層を設けることにより、色かぶり等の心配なく鮮明な情報が印字できる。また、感熱記録層とコレステリック液晶層の少なくとも一つが、2層以上から構成されているので、コレステリック液晶層の光学的特性をより複雑なものとすることができ、あるいは、感熱記録層に記録された情報の部分の色相を二色以上とすることが可能な感熱記録媒体を提供することができる。これにより、より以上の高い偽造防止性を有したものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明の感熱記録媒体1の一つの実施形態を示す概略断面図であり、基材2上に、感熱発色性材料を含有する感熱記録層3と、円偏光選択性と選択反射性との特性を有するコレステリック液晶層4とが、異なる場所に設けられている。図1には示していないが、感熱記録層3とコレステリック液晶層4の上に、それらを覆うように保護層を設けて、サーマルヘッドによる適性向上や感熱記録媒体の取扱い上の耐久性の向上等を図ることができる。また、図1では感熱記録層3がコレステリック液晶層4の両側に分割されて、基材2の2箇所に形成されているが、感熱記録層3を1箇所のみに設けたり、3箇所以上設けたり、適宜変更することができる。
【0012】
また、図2は本発明の感熱記録媒体1の他の実施形態を示す概略平面図であり、基材2上に、赤色に発色する感熱発色性材料を含有する感熱記録層31と、黒色に発色する感熱発色性材料を含有する感熱記録層32、さらにコレステリック液晶層4とが、互いに異なる場所に設けられている。図2では、感熱記録層31、コレステリック液晶層4、感熱記録層32の形成場所が互いに離れていて、接触したり、重ね合った状態で設けられていない。このように、感熱記録層とコレステリック液晶層を離して形成すれば、液晶層形成の際のインキ溶剤が、感熱記録層の発色を生じさせることや、感熱記録層の感熱発色の色が、液晶層により変化して見づらくなったりすることがない。
【0013】
図3は、本発明の感熱記録媒体1の他の実施形態を示す概略断面図であり、基材2上に、感熱発色性材料を含有する感熱記録層31、感熱記録層31の発色色相とは異なる発色を有する感熱記録層32を積層した、すなわち2層からなる感熱記録層3と、円偏光選択性と選択反射性との特性を有するコレステリック液晶層41と、コレステリック液晶層41の円偏光選択性と選択反射性の少なくとも1つが異なる条件であるコレステリック液晶層42を積層した、すなわち2層からなるコレステリック液晶層4を設けたものである。図3では、感熱記録層とコレステリック液晶層との両方が2層から構成したものを示したが、これに限らず、感熱記録層のみを2層以上にして、コレステリック液晶層は単層にしたり、コレステリック液晶層のみを2層以上にして、感熱記録層は単層にしたり適宜変更することができる。また、図3には示していないが、感熱記録層同士や、コレステリック液晶層同士において、それらを直接に積層せずに、中間層を介して積層することができる。この中間層により、感熱記録層同士や、コレステリック液晶層同士の相互作用による、発色トラブル等の悪影響を防止することができる。以下、本発明の感熱記録媒体を構成する各層や、構成要素について、詳細に説明する。
【0014】
(基材)
本発明の感熱記録媒体における基材2は、シート状、フィルム状あるいは板状の材質からなり、材料としては特に制限されるものではなく、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン、セルロースジアセテート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネートなどのプラスチック、銅、アルミニウムなどの金属、紙、含浸紙などを単独あるいは組み合わせて、積層したりして用いることができる。基材の厚さは、0.005〜5mm程度が適当である。
【0015】
(感熱記録層)
本発明の感熱記録媒体は、加熱により発色する感熱発色性材料を有する部分として、感熱記録層3を設ける。この感熱記録層は、感熱発色性材料を含有するもので、詳細には熱融解反応により発色する電子供与性染料前駆体と電子受容性化合物が含まれ、さらに必要に応じて増感剤、退色防止剤、顔料や滑剤などの充填剤、分散剤、結着剤などが含まれる。感熱記録層は、基材へのコーティング、印刷などにより層として形成する。感熱記録層の形成方法としては、グラビア、ロールコート、スプレーコート、ディッピング、その他がある。電子供与性染料前駆体としては、ロイコ染料としてこの種の感熱材料に適用されているもの、フルカラーの場合には、イエロー、シアン、マゼンタ系に発色するものが選ばれる。その電子供与性染料前駆体として、具体的にはトリフェニルメタン系、フルオラン系、フェノチアジン系、オーラミン系、スピロピラン系、インドリノフタリド系などが使用でき、発色する色相に応じて適宜選択する。
【0016】
上記の電子受容性化合物としては、電子供与性染料前駆体と組み合わせられる顕色剤であり、ビスフェノールAなどのフェノール性物質、オクチルホスホン酸、ノニルホスホン酸、デシルホスホン酸、ドデシルホスホン酸、テトラデシルホスホン酸、オクタデシルホスホン酸、エロキシテトラデカノイック酸などの有機酸、金属錯体化合物、チオジフェニル尿素、キノン類などがある。
【0017】
また増感剤としては、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、シュウ酸ジベンジル、トリルビフェニルエーテル、脂肪酸アマイド類がある。退色防止剤としては、水酸基をブロックした顕色剤の類似物、亜鉛塩などの有機金属塩、ヒンダードフェノール類などがある。顔料を併用する場合、白色顔料であれば、可視光、近赤外光を周囲に散乱させる効果があり、光吸収剤への近赤外光吸収を促進および発熱効率を上昇させる。顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、珪酸塩、ゼオライト、シリカ、カオリンクレー、尿素ホルマリン樹脂などがある。
【0018】
感熱記録層の形成には、上記材料からなる層を形成するためにインキまたは塗料を調製する。インキまたは塗料の結着剤としては、主に水溶性樹脂が主成分となり、ポリビニルアルコール、デンプン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ゼラチン、カゼイン、尿素樹脂、メラニン樹脂、アミド樹脂、ポリウレタン樹脂などがある。また、必要に応じて各種補助剤を添加できる。
【0019】
本発明の感熱記録媒体は、1個の単位で、保有する感熱記録層を発色色相の異なる記録層である条件で、2層以上の構成で積層することができる。例えば、2層の感熱記録層を形成する場合、上層と下層とが、それぞれ発色温度が異なるようにして形成する。好ましくは上層に(サーマルヘッドと接する側に近い)、相対的に発色温度が低い発色剤(赤発色する発色剤等)を、下層には(サーマルヘッドと接する側に遠い)、相対的に発色温度が高い発色剤(黒発色する発色剤等)を使用する。この発色温度の異なる発色剤は、前記発色性化合物および顕色剤の選択によって当業者が容易に決められる。2層及び単層でも感熱記録層の厚さは通常、各層で約1〜20μm程度、乾燥時の塗工量で約1〜20g/m2程度である。
【0020】
(コレステリック液晶層)
本発明の感熱記録媒体で設けるコレステリック液晶層4は、コレステリック液晶の材料をインキ化して、印刷して形成することができる。まず、コレステリック液晶とは、液晶分子の配向構造が膜厚方向に螺旋を描くように規則的なねじれを有している。また、コレステリック液晶は、ピッチP(液晶分子が360°回転するのに必要な膜厚)と、入射光の波長λとがほぼ等しい場合に、選択反射性と円偏光選択性という2つの光学的性質を示すことが知られている。(参考文献;液晶とディスプレイ応用の基礎、コロナ社等)
【0021】
選択反射性とは、入射光のうち特定の波長帯域内にある光を強く反射する性質をいう。この選択反射性は、特定の波長帯域内に限定されて発現するため、コレステリック液晶のピッチPを適切に選択することで、反射光は色純度の高い有彩色となる。その帯域の中心波長をλS、帯域幅をΔλとすれば、これらは光学媒体のピッチP(=λ/nm)と平均屈折率nm(=√((ne2+no2)/2))によって、下記式(1)、(2)のように決まる。ここで、Δnは光学媒体の面内の異常光線屈折率neと、常光線屈折率noの差(Δn=ne−no)とする。
λS=nm・P ・・・(1)
Δλ=Δn・P/nm ・・・(2)
【0022】
上記式(1)、(2)に示した中心波長λsおよび波長帯域幅Δλは、コレステリック液晶層への入射光が垂直入射(0°入射、on−axis入射)の場合において定義されるが、入射光が斜め入射(off−axis入射)である場合、ピッチPが見かけ上、減少することから、中心波長λSは短波長側へ移行し、波長帯域幅Δλは減少する。この現象は、λSが短波長側に移行することから、ブルーシフトと呼ばれ、その移行量は入射角に依存するが、目視で観察しても容易に識別可能である。例えば、垂直(0°入射位置)から観察して赤色に呈色するコレステリック液晶の反射色は、視野角を大きくすることにつれ、オレンジ色、黄色、緑色、青緑色、青色と順次変化するように観察される。このように、コレステリック液晶層は観察する角度によって、色が短波長側にシフトし、カラーコピー等で再現することができない特殊な色を示す(変化する)ために、偽造防止には非常に有効なものである。
【0023】
コレステリック液晶層は、特有の反射色を示すことから、その液晶層を用いた感熱記録媒体を、目視でも容易に真偽判定を行うことができ、さらにその円偏光選択性を有しているため、左円偏光か右円偏光のどちらかを選択的に反射する。尚、円偏光選択性とは、特定の回転方向の円偏光だけを透過し、これと回転方向が反対の円偏光を反射する性質をいう。入射光のうちコレステリック液晶の配向構造のねじれ方向と同方向の円偏光成分は反射され、その反射光の回転方向も同一方向となるのに対し、逆方向に回転する円偏光成分は透過する点がコレステリック液晶に特有な特異な性質である。左ねじれ構造を有するコレステリック液晶の場合、左円偏光を反射し、かつ反射光は左円偏光のままであり、右円偏光は透過することになる。また、右ねじれ構造を有するコレステリック液晶の場合、右円偏光を反射し、かつ反射光は右円偏光のままであり、左円偏光は透過することになる。
【0024】
本発明の感熱記録媒体におけるコレステリック液晶層に使用される液晶材料は、例えば側鎖に液晶形成基を有するポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリシロキサン、ポリマロネート等の側鎖型ポリマー、主鎖に液晶形成基をもつポリエステル、ポリエステルアミド、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミドなどの主鎖型ポリマーを挙げることができる。
【0025】
コレステリック液晶層は、左回り偏光または右回り偏光のどちらを反射するタイプでもよく、同方向でも異なる反射色を示す複数の液晶材料を使用してもよい。また、コレステリック液晶層を基材上で、感熱記録層と異なる場所に、形成する方法としては、上記の液晶材料を、例えば分子配向させ、次に紫外線照射し、架橋させてから、粉砕して顔料化させた液晶顔料をビヒクル中に分散させて、つまり液晶材料をインキ化して、グラビア印刷等の凹版印刷、オフセット方式などの平版印刷、凸版印刷、スクリーン印刷、またはインクジェット印刷などで、感熱記録媒体に直接印刷することができる。このようなコレステリック液晶層の厚さは、1μm〜20μm程度が望ましい。単位面積当たりの質量では、乾燥時で約1〜20g/m2程度である。その厚さが少なすぎると、コレステリック液晶特有の円偏光選択性と選択反射性の2つの特性を充分に発揮できなくなり、また厚すぎると基材との密着性が低下したり、さらにコスト的にも不利である。尚、上記の液晶顔料は、例えばワッカーケミー社のコレステリック液晶「HELICONE(登録商標)」等で、市販されているものを使用することができる。
【0026】
(中間層)
本発明の感熱記録媒体は、感熱記録層を発色色相の異なる発色層として2層以上を有する場合、該感熱記録層の間に中間層を設けることができ、これにより複数の感熱記録層同士が直接に接することなく、層分離することで、酸性物質の他の発色層への移行を防止できる。また、層分離をすることで、感熱記録層の各色調が鮮明に発色し、また、二層間の厚みを制御することで、各層の発色感度を調整できる。前記の感熱記録層で説明したように、基材上に、高温で発色する感熱記録層(高温発色層)、低温で発色する感熱記録層(低温発色層)の順に形成した際に、低温発色層のみを発色させた場合、保存条件により低温発色層中の電子受容性化合物が、高温発色層に悪影響し、高温発色層が発色することを、高温発色層と低温発色層との間に中間層を設けて、防止することができる。
【0027】
中間層を構成する樹脂としては、デンプン類、セルロース類、ゼラチン、カゼイン、ポリビニルアルコール類、無水マレイン酸共重合体、アクリル類、スチレン−ブタジエン共重合体エマルジョン、尿素樹脂、メラミン樹脂、アミド樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。上記のような樹脂と、必要に応じて各種補助剤を添加して、インキを調整し、オフセット印刷、活版印刷や、グラビアコーティング等の既知の塗布方法で形成できる。中間層は、観察者から見て、その中間層よりも下に位置する感熱記録層の発色部を判別しやすくするために、透明性を損なわないように形成される。中間層の厚さは約0.1μm以上、好ましくは1〜10μmである。この場合も乾燥時の塗工量で約0.1〜10g/m2程度である。厚さが少なすぎると、中間層としての機能が不足し、また厚すぎるとサーマルカードの熱感度が低下したり、感熱記録層との密着性が低下し、さらにコスト的にも不利である。尚、上記の中間層の説明は、感熱記録層同士の間に形成する場合で、説明したが、それに限らずコレステリック液晶層同士の間にも、それらの液晶層同士の相互作用による、視認性に悪影響を及ぼすことを防止して、同様に形成することができる。
【0028】
(保護層)
本発明の感熱記録媒体は、サーマルヘッドと接する最表面側に保護層を設けることができ、サーマルヘッドによる適性向上や感熱記録媒体の取扱い上の耐薬品性、耐水性、耐摩擦性等の耐久性の向上等を図ることができる。保護層を形成する材料としては、表面保護層として所望の物性を有する樹脂組成を選定する。特に、表面の耐擦傷性、耐薬品性、耐汚染性を要する場合は、紫外線や電子線硬化性樹脂がよく用いられる。また、保護層には、サーマルヘッドとの適性をもたせるため、滑り剤として各種の無機フィラー、有機フィラーを保護層の透明性に阻害しない範囲で添加したり、各種ワックス類、シリコーン系成分、フッ素系成分等の剥離性成分を添加することもできる。保護層の膜厚は、所望の物性等により選定するが、通常0.1〜10μmである。保護層も上記の中間層と同様の方法で、形成できる。
【0029】
(粘着剤層)
本発明の感熱記録媒体は、基材の感熱記録層、コレステリック液晶層が設けられた側と反対面に、粘着剤層を積層させ、さらにその粘着剤層の上に離型シートを積層させることができる。この形態の感熱記録媒体は、いわゆるラベルであり、離型シートを剥がして、粘着剤層により任意の物品に、感熱記録媒体を貼り付けることができる。粘着剤層は、例えば、アクリル系樹脂、天然ゴム系樹脂、合成ゴム系樹脂、シリコーン系樹脂等からなる水性タイプまたは溶剤系タイプの塗工液を用いて、形成できる。塗工方法はロールコーター法、リバースコーター法、ナイフコーター法、コンマコーター法、グラビアコーター法などの一般的な方法で塗工する。その塗工量として0.1〜50g/m2(乾燥状態)が好ましい。
【0030】
離型シートは、ラベルを物品に貼り付ける迄の間、粘着剤層を保護する為に積層されるものであり、使用時には引き剥がされる。使用する離型シートは一般的なものが利用でき、特に限定されない。例えば、上質紙、コート紙、キャストコート紙、アルミニウム箔/紙、樹脂含浸紙、合成紙などの紙ベース基材やポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル樹脂、発泡ポリエステル樹脂、発泡ポリプロピレン樹脂などの高分子樹脂フィルムベース基材の一方の面に剥離剤としてシリコーン系樹脂を塗工したもの等が利用できる。紙ベースの場合、紙の坪量は30〜300g/m2のもの、フィルムベースの場合は厚みが10〜300μmの範囲のフィルムが使用できる。
【0031】
(磁気記録層)
本発明の感熱記録媒体は、加熱により発色する感熱記録層を利用した情報記録手段だけではなく、磁気記録層またはRFIDタグによる情報記録手段を設けることができる。情報記録される磁気記録層は、従来公知の材料、形成方法で設けることができる。この磁気記録層は、例えば、感熱記録媒体の所有者を特定する会員番号等の会員情報を記録することができる。
【0032】
(RFIDタグ)
本発明の感熱記録媒体で使用できる情報記録手段としてRFIDタグがある。このRFIDタグは、非接触ICタグ、無線タグ、ICカード、非接触IC等とも表現されるが、非接触通信機能を有するICメモリ媒体である。図4に示すように、このRFIDタグ5は、基材上にICチップ6とアンテナコイル7を設けて共振回路を形成し、非接触で外部リーダライタと交信できる機能を持たせてある。ICチップ自体が0.2〜0.5mm程度の厚みを有するシリコン板である。このRFIDタグは、そのメモリの高容量性を生かし、上記の会員情報等と共に、購買履歴の情報等の適宜、必要な情報を記録できる。上記の磁気記録層またはRFIDタグによる情報記録は、それぞれ専用のリーダを使用して読み取って、その記録内容が判読できるものであるが、本発明では磁気記録層またはRFIDタグによる情報記録の内容を、感熱記録層の発色部として記録して、専用リーダを用いなくても目視にて、判読できるように、サーマル表示できるようにすることができ、好ましく行なわれる。以上の本発明の感熱記録媒体は、プリペイドカード全般、定期券、預貯金用カード、クレジットカード、IDカードなど各種の用途に使用することができる。
【実施例】
【0033】
次に実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。以下、特に断りのない限り、部又は%は質量基準である。
【0034】
(実施例1)
厚さ188μの乳白色のポリエチレンテレフタレートを基材とし、該基材の一方の面に、図1に示すような位置で、下記組成のコレステリック液晶層インキを用いて、スクリーン印刷法により印刷し、印刷直後に紫外線を照射して、乾燥時で厚さ10g/m2のコレステリック層を形成した。
【0035】
(コレステリック液晶層インキ)
コレステリック液晶顔料(ワッカーケミー社製、HELICONE(登録商標)HCXL) 30部
メジウムインキ(ザ・インクテック(株)製、UVカード用) 70部
【0036】
また、上記のコレステリック層の設けられている場所と異なる箇所に、図1に示すような配置で、下記組成の感熱記録層インキ1を用いて、グラビア印刷法により印刷し、乾燥時で厚さ5g/m2の感熱記録層を形成し、実施例1の感熱記録媒体を作製した。
【0037】
(感熱記録層インキ1)
黒染料(3−(N−エチル−Nアシルアミノ)−6−メチル−7アニリノフルオラン)
10部
顕色剤(ビスフェノールA) 85部
溶剤(ポリビニルアルコール10%水溶液) 5部
【0038】
(実施例2)
厚さ188μの乳白色のポリエチレンテレフタレートを基材とし、該基材の一方の面に、図2に示すような位置で、実施例1で使用したコレステリック液晶層インキを用いて、スクリーン印刷法により印刷し、印刷直後に紫外線を照射して、乾燥時で厚さ10g/m2のコレステリック層を形成した。
【0039】
また、上記のコレステリック層の設けられている場所と異なる箇所で、図2に示す黒色に発色する感熱発色性材料を含有する感熱記録層32の位置に、実施例1で使用した感熱記録層インキ1を用いて、グラビア印刷法により印刷し、乾燥時で厚さ5g/m2の感熱記録層を形成した。さらに、図2に示す赤色に発色する感熱発色性材料を含有する感熱記録層31の位置に、下記組成の感熱記録層インキ2を用いて、グラビア印刷法により印刷し、乾燥時で厚さ5g/m2の感熱記録層を形成して、実施例2の感熱記録媒体を作製した。
【0040】
(感熱記録層インキ2)
赤染料(3−ジエチルアミノ−7−クロロフルオラン) 10部
顕色剤(3、3−ジクロロフェニチオ尿素) 85部
溶剤(ポリビニルアルコール10%水溶液) 5部
【0041】
(実施例3)
厚さ188μの乳白色のポリエチレンテレフタレートを基材とし、該基材の一方の面に、図3に示すような位置で、実施例1で使用したコレステリック液晶層インキを用いて、スクリーン印刷法により印刷し、印刷直後に紫外線を照射して、乾燥時で厚さ10g/m2のコレステリック層を形成した。尚、図3では、コレステリック液晶層が2層構成であるが、実施例3ではコレステリック液晶層を単層とした。
【0042】
また、上記のコレステリック液晶層の設けられている場所と異なる箇所で、図3に示す感熱記録層31の位置に、上記の感熱記録層インキ1を用いて、グラビア印刷法により印刷し、乾燥時で厚さ5g/m2の感熱記録層を形成した。さらに、図3に示す感熱記録層32の位置に、上記の感熱記録層インキ2を用いて、グラビア印刷法により印刷し、乾燥時で厚さ5g/m2の感熱記録層を形成し、実施例3の感熱記録媒体を作製した。但し、感熱記録層31の上に、ポリビニルアルコール10%水溶液からなる中間層コーティング剤を用いて、グラビアリバース法により全面に塗布して、乾燥時で厚さ3g/m2の中間層を形成し、その中間層の上に感熱記録層32を形成した。尚、実施例3で作製した感熱記録媒体は、感熱記録層31と感熱記録層32を比較すると、感熱記録層31の方が発色温度が高い発色剤(黒発色する発色剤)を使用し、感熱記録層32は、相対的に発色温度が低い発色剤(赤発色する発色剤)を使用したものである。
【0043】
(実施例4)
上記の実施例1で作製した感熱記録媒体において、基材の感熱記録層とコレステリック液晶層を形成した面と反対面に、アクリル系樹脂からなる強粘着用粘着剤を用いて、乾燥時の厚さ30g/m2になるように、グラビア印刷により、基材全面に粘着剤層を形成し、さらに、その粘着剤層の上に、離型シートとして、上質紙ベースでシリコーン樹脂の塗工がされた市販の坪量90g/m2の剥離紙を貼り合せて、ラベルを作製した。
【0044】
(実施例5)
上記の実施例1で作製した感熱記録媒体において、基材上の感熱記録層とコレステリック液晶層の双方が存在しない位置で、それらの層が設けられている面と同じ側の基材に、γ−Fe23粉末が塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体とウレタン系樹脂とからなるバインダー溶液中に分散されてなる磁気インキを用いて、グラビア印刷によりストライプ状に乾燥時の厚さ15g/m2になるように、磁気記録層を形成した。
【0045】
上記の得られた実施例1〜5の感熱記録媒体に対して、サーマルヘッドによりダイレクトサーマル印字を行ったところ、実施例1、4、5では黒発色の印字で、また実施例2、3では、赤と黒の発色の混在した印字を行うことができ、より高い偽造防止性を付与することができた。但し、実施例3ではサーマルヘッドによる加熱温度条件を高低の2つに分けて、高温では黒発色、低温では赤発色の印字が得られた。実施例2では上記のサーマルヘッドによる加熱温度条件が、高い条件のみで行い、感熱記録層31では赤発色、感熱記録層32では黒発色の印字が得られた。かつ、実施例1〜5の全てにおいて、コレステリック液晶層の形成場所で、選択反射性と円偏光選択性の2つの光学的特性を再現できた。また、実施例4では、ラベルとして、離型シートを剥がして、任意の物品に貼り付けて使用することができた。さらに、実施例5では、磁気記録層による情報記録手段が設けられていたので、この磁気記録層に、その感熱記録媒体の所有者を特定する会員の氏名、生年月日、住所等の会員情報を記録することができた。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の感熱記録媒体の一つの実施形態を示す概略断面図である。
【図2】本発明の感熱記録媒体の他の実施形態を示す概略平面図である。
【図3】本発明の感熱記録媒体の他の実施形態を示す概略断面図である。
【図4】RFIDタグの概略の構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0047】
1 感熱記録媒体
2 基材
3 感熱記録層
4 コレステリック液晶層
5 RFIDタグ
6 ICチップ
7 アンテナコイル
31 感熱記録層
32 感熱記録層
41 コレステリック液晶層
42 コレステリック液晶層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、加熱により発色する感熱記録層と、円偏光選択性と選択反射性の2つの特性を有するコレステリック液晶層とを、異なる場所に設けていることを特徴とする感熱記録媒体。
【請求項2】
前記の感熱記録層が発色の色相が異なる条件で、色相毎に異なる場所に設けられていることを特徴とする請求項1に記載する感熱記録媒体。
【請求項3】
前記の感熱記録層とコレステリック液晶層の少なくとも一つが、2層以上から構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載する感熱記録媒体。
【請求項4】
前記の基材の感熱記録層、コレステリック液晶層が設けられた側と反対面に粘着剤層が積層されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の感熱記録媒体。
【請求項5】
前記請求項1〜4のいずれか一つに記載の感熱記録媒体において、磁気記録層またはRFIDタグによる情報記録手段が設けられていることを特徴とする感熱記録媒体。
【請求項6】
前記の感熱記録媒体において、磁気記録層またはRFIDタグによる情報記録の内容を、感熱記録層の発色記録として、サーマル表示できることを特徴とする請求項5に記載する感熱記録媒体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−142499(P2006−142499A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−331582(P2004−331582)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】