説明

成形体表面の導電化方法及び表面導電性成形体

【課題】 樹脂を含む成形体の表面に、簡易な方法により密着性に優れた金属皮膜を形成して、この成形体を導電化する。
【解決手段】 樹脂を含む成形体の表面の少なくとも一部の面に、コールドスプレー法により金属粒子を投射し、金属皮膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体表面の導電化方法及び表面導電性成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチック等の樹脂を含む樹脂基複合材は、軽量で高強度であるため、航空機、自動車、船舶等の構造部材として広く用いられている。このような樹脂基複合材は、導電性の低い樹脂をマトリックスとして含んでいるため、例えば航空機主翼構造体として用いる場合、耐雷性を持たせるために表面に導電性を付与する必要がある。複合材の表面に導電性を付与する方法としては、複合材の成形と同時に銅箔を加熱接着成形することにより、複合材表面に銅箔を露出させる手法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−138669号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、樹脂基複合材の表面に銅箔を同時加熱接着成形する上記の方法は、熱膨張係数の大きく異なる樹脂と銅箔とを貼り合せることから、密着性に劣る問題があった。また、樹脂と銅箔とでは熱膨張係数が異なることから、樹脂基複合材表面の広い面積に銅箔を貼り合わせることも困難であった。また、薄い銅箔を樹脂基複合材に表面に貼り合せ作業は、技術的に困難であった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、樹脂基複合材等の樹脂を含む成形体を形成後に、その表面に簡易な方法により密着性に優れた金属皮膜を形成して、前記成形体を導電化する方法及び樹脂を含む成形体の表面に密着性に優れた金属皮膜を設けた表面導電性成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の成形体表面の導電化方法は、樹脂を含む成形体の表面の少なくとも一部の面に、コールドスプレー法により金属粒子を投射し、金属皮膜を形成する方法とした。
この方法によれば、成形体表面に直接金属粒子を投射する簡易な方法により、密着性に優れた金属皮膜を形成して、成形体を導電化することができる。
【0007】
また、本発明の表面導電性成形体は、樹脂を含む成形体と、該成形体表面の少なくとも一部の面にコールドスプレー法により形成された金属皮膜とを有する構成とした。
この表面導電性成形体は、成形体表面に直接金属粒子を投射する簡易な方法により製造され、密着性に優れた金属皮膜を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複合材等の樹脂成形体表面の凹凸に金属粒子が高速で衝突して金属皮膜を形成することから、簡易な装置を用いて、密着性に優れた金属皮膜を成形体表面に直接形成することにより、成形体表面を導電化することが出来る。また、本発明によれば、密着性に優れた金属皮膜を有する表面導電性成形体が簡易な方法により得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の成形体表面の導電化方法及び表面導電性成形体にかかる実施形態について説明する。
【0010】
本発明において表面に金属皮膜が形成される樹脂成形体としては、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維又はボロン繊維等の無機繊維やナイロン繊維、ビニロン繊維、又はアラミド繊維等の有機繊維を不飽和ポリエステル又はエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂に配合させた繊維強化プラスチック(FRP)や、前記各繊維をポリカーボネート樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、又はABS樹脂等の熱可塑性樹脂に配合した熱可塑性強化プラスチック(FRTP)等の、樹脂をマトリックスとした複合材料が好適に採用される。特に耐雷性を付与した航空機主翼構造体等に本発明を適用する場合は、樹脂成形体として炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)を用いるのが好ましい。ただし、本発明はこれに限定されず、樹脂のみからなる成形体も本発明の導電化の対象となり得る。
【0011】
前記樹脂成形体は、成形後、金属皮膜を形成する前処理として、微粒子を用いたショットブラストにより表面を粗面化しておくことが好ましい。ショットブラストにおいて用いられる粒子(投射材)としては、金属、セラミックス、ガラス等の硬質粒子が挙げられ、なかでもアルミナ、シリカ、炭化ケイ素、ジルコニア粒子等のセラミックス粒子を好適に用いることができる。ショットブラストに用いられる粒子の形状は特に限定されず、略球形の粒子を用いてもよいし、また前記アルミナ、炭化ケイ素粒子等の尖鋭な稜角を有する粒子を用いてもよい。
【0012】
また、投射材の平均粒径は200μm以下であり、10μm以上100μm以下が特に好ましい。投射材の平均粒径が200μmより大きいと、投射材粒子の過大な運動エネルギーにより成形体表面を損傷してしまい、特に成形体が前述の複合材料の場合は内部の繊維を損傷してしまうので、好ましくない。また、投射材の平均粒径が10μmより小さいと、安定した噴射状態を得ることが困難となる。
【0013】
前記投射材粒子を、樹脂を含む成形体の表面の少なくとも一部の面に投射することにより、ショットブラストによる成形体表面の粗面化が行われる。ショットブラストの際の噴射速度は、例えば圧縮空気の噴射圧力により規定される。本発明において金属皮膜を形成する前処理としてショットブラストを行う際の噴射圧力は0.1MPa以上1MPa以下が好ましく、0.3MPa以上0.6MPa以下がより好ましい。噴射圧力が1MPaより大きいと、投射材粒子の過大な運動エネルギーにより成形体表面を損傷してしまい、特に成形体が前述の複合材料の場合は内部の繊維を損傷してしまうので、好ましくない。また、噴射圧力が0.1MPaより小さいと安定した噴射状態を得ることが困難となる。
【0014】
本発明において、ショットブラストのカバレージは、好ましくは100%以上1000%以下、より好ましくは100%以上500%以下である。カバレージが100%未満では、成形体表面が十分に粗面化/活性化されず、成形体の被処理面と接着対象物又は塗膜との密着性の向上効果が得られない。また、カバレージが1000%を超えると、成形体表面を損傷してしまい、特に成形体が前述の複合材料の場合は内部の繊維を損傷してしまうので、好ましくない。
【0015】
上記の条件で前処理を行った成形体の被処理面の算術平均表面粗さRaは、0.3μm以上2μm以下となることが好ましい。被処理面の表面粗さが0.3μmより小さいと、成形体表面が十分に粗面化/活性化されず,成形体の被処理面と接着対象物又は塗膜との密着性の向上効果が得られないので好ましくない。また、被処理面の表面粗さが2μmより大きいと、前述の複合材料の場合は内部の繊維を損傷してしまうので好ましくない。
【0016】
こうして必要に応じて樹脂成形体の表面を粗面化するための前処理を行った後に、樹脂成形体表面にコールドスプレー法により金属粒子を投射して金属皮膜が形成される。
コールドスプレー法は、皮膜材料粒子を、その融点又は軟化温度より低い温度に加熱し、噴射ガスにより超音速で噴射して、固相のまま基材に打ち付けて皮膜を形成する技術である。基材に打ち付けられた粒子は、塑性変形を起こして基材表面に堆積し、皮膜を形成する。
本発明においては、皮膜材料粒子として比較的軟質の金属粒子を用いる。このような金属粒子としては、例えばスズ、銅、亜鉛及びこれらの合金等の粒子を採用することができる。中でもスズ粒子又は亜鉛粒子を用いて形成した皮膜は樹脂成形体との密着性が良好なので、スズ粒子又は亜鉛粒子を用いたコールドスプレーを少なくとも初期の皮膜形成として行うことが好ましい。これらの中でも、スズ粒子が特に好ましい。
金属粒子の粒径は、10μm以上50μm以下程度とすることが好ましい。粒径が10μm未満では、安定した噴射状態が得られないので好ましくない。また、粒径が50μmを超えると、粒子が堆積しにくくなるため好ましくない。
【0017】
金属粒子を噴射するために用いられる噴射ガスとしては、ヘリウム、窒素、空気等を用いることができるが、実機施工を考慮すると、操作性に優れ安価な空気を用いることが好ましい。但し、状況によっては、金属粒子の酸化や変質を起こしにくいことから不活性ガスを用いることが好ましい。その場合、ヘリウムは高い流速が得られることから特に好ましい。
噴射した粒子の衝突速度が一定速度以上になると、粒子の運動エネルギーにより粒子が塑性変形して皮膜を形成し始める。この一定速度のことを臨界速度という。この臨界速度は、粒子と基材の材料、粒径などによって異なる。本発明において、上記噴射ガスの噴射圧力は金属粒子の成形体へ衝突速度が臨界速度に達する範囲で選択され、例えば、0.5〜0.6MPa以上とすることができる。
上記金属粒子を含む噴射ガスの加熱温度は、その材料に応じて適宜選択されるが、例えば100℃以上500℃以下とされる。
【0018】
上記の方法により、成形体表面の少なくとも一部の面に金属皮膜が形成され、成形体表面が導電化される。
こうして得られた表面導電性成形体において、金属皮膜の厚さは30μm以上2mm以下とされる。特に表面導電性成形体を耐雷性を有する航空機主翼構造体として用いる場合には、金属皮膜の厚さを50μm以上500μm以下とすることが好ましい。
金属皮膜は1層からなる皮膜でもよいが、2種類以上の層を積層した構成としてもよい。この場合は、樹脂との密着性が優れたスズ又は亜鉛を成形体基材側の層とすることが好ましく、スズを成形体基材側の層とすることが特に好ましい。特に高い導電性を得るためには、スズ又は亜鉛を成形体基材側の層として本発明の導電化方法により形成し、その上に銅の層を本発明の導電化方法により形成することが好ましい。
以上、本発明の成形体表面の導電化方法及び表面導電性成形体の実施の形態について説明したが、本発明においては、上記「コールドスプレー法」に代えて溶射法等のスプレー法を採用することも可能である。
【0019】
以下、実施例によって本発明をさらに詳述する。
[実施例1]
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)からなる成形体に対して以下の条件でコールドスプレー処理を行い、成形体表面の導電化を行った。
金属粒子: スズ粒子、平均粒径40μm
噴射条件: 噴射圧力0.5MPa、ガス加熱温度300℃
【0020】
上記導電化により得られた表面導電性成形体の断面写真を図1に示す。
図1より、成形体表面の凹凸に追従してスズ皮膜が形成されていることが分かる。
【0021】
[実施例2]
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)からなる成形体に対して以下の条件で2段階のコールドスプレー処理を行い、成形体表面の導電化を行った。
(第1コールドスプレー処理)
金属粒子: スズ粒子、平均粒径40μm
噴射条件: 噴射圧力0.5MPa、ガス加熱温度300℃
(第2コールドスプレー処理)
金属粒子: 銅粒子、平均粒径30μm
噴射条件: 噴射圧力0.6MPa、ガス加熱温度400℃
【0022】
上記導電化により得られた表面導電性成形体の断面写真を図2に示す。
図2より、成形体表面の凹凸に追従してスズ皮膜が形成され、さらにその上に銅皮膜が形成されていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1の導電化により得られた表面導電性成形体の断面写真である。
【図2】実施例2の導電化により得られた表面導電性成形体の断面写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含む成形体の表面の少なくとも一部の面に、コールドスプレー法により金属粒子を投射し、金属皮膜を形成する成形体表面の導電化方法。
【請求項2】
樹脂を含む成形体と、
該成形体表面の少なくとも一部の面にコールドスプレー法により形成された金属皮膜とを有する表面導電性成形体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−246967(P2007−246967A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−70795(P2006−70795)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】