説明

成形同時加飾用ポリエステルフィルム

【課題】成形加工性と表面性に優れ、立体的な樹脂成形部品に意匠性を付与する工程、特には成形同時加飾工程において、射出速度が高速な条件、射出圧力が高い条件でもフィルムが破れず、意匠を形成する層が変形されることの無い良好な外観を有する樹脂成形部品を製造するのに有用な成形同時加飾用ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】実質的に非配向構造のポリエステルからなるポリエステル層Bと、この層に接して両側に設けられた配向構造のポリエステルからなるポリエステル層Aとからなり、ポリエステル層Aを構成するポリエステルの固有粘度が0.70〜1.50dL/gであることを特徴とする成形同時加飾用ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成形同時加飾用ポリエステルフィルムに関し、さらに詳しくはフィルムに印刷を行い、成形加工を施し、印刷を成形部品に転写して意匠を付与する用途に特に有用な成形同時加飾用ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家具や屋内装飾品、電化製品、自動車等の意匠性が重要視される中、これらに用いられる立体的な樹脂成形部品においても表面に意匠を付与することは非常に重要視されている。立体的な樹脂成形部品の表面に装飾を施す方法としては、大きく分ければ、直刷り法と転写法がある。直刷り法は、成形部品に直接印刷する方法であり、パッド印刷法、曲面シルク印刷法、静電印刷法などがある。しかし、これらの方法は複雑な形状を有する成形部品の製造には不適であり、高度な意匠性を付与することも困難である。他方、転写法には、熱転写法や水転写法がある。これらの方法は比較的コストが高いという問題がある。
【0003】
これらの問題を解決するべく、立体的な樹脂成形部品に低コストで意匠性を付与する方法として、成形同時加飾法がある。この方法は、印刷したポリエステル樹脂(特開2001−354843号公報)、ポリカーボネート樹脂(特開2002−234955号公報)、アクリル樹脂(特開2002−80678号公報)などのシートもしくはフィルムを、あらかじめ真空成形などによって三次元の形状に成形した後、あるいは成形せずに、射出成形金型内にインサートし、成形樹脂を射出成形する方法である。これにより、フィルム上に形成されていた意匠を成形部品に付与することができる。成形同時加飾では、樹脂シートもしくはフィルムと成形樹脂を一体化させる場合と、印刷のみ転写させる場合がある。
また、特開2005−335276号公報には、成形性の高い二軸延伸ポリエステルフィルムが提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−354843号公報
【特許文献2】特開2002−234955号公報
【特許文献3】特開2002−80678号公報
【特許文献4】特開2005−335276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしこれらの方法においては、基材となるフィルムの特性によって得られる樹脂成形部品の意匠性が劣るものとなる場合があり、最適な基材フィルムを用いる必要がある。例えば、特開2001−354843号公報に記載の技術においては、基材フィルムの成形加工性が低く、単純な形状の樹脂成形部品しか作成することができない。また、フィルムを成形加工するのに、高い荷重が必要であり、その為に樹脂の射出速度を下げる必要が生じ、結果として生産性の劣るものとなってしまう。また、特開2002−234955号公報、特開2002−80678号公報に記載の技術においては、未延伸のフィルムの為に、二軸延伸ポリエステルフィルムと同等の耐溶剤性は備えておらず、インクによってはフィルムが白化、劣化する恐れがあると同時に、フィルム厚みが厚い為に不透明である。また、厚みの厚い基材を使用することは、不経済である。のみならず、延伸処理を施していない為に、厚み斑が悪く、色の濃淡が不均一になる問題を生じる。また、基材フィルムの表面が粗いと、印刷が明瞭でなくなる、印刷に基材フィルムの粗さが転写され外観が劣る問題を生じる。
また、従来技術では、成形同時加飾の工程において、樹脂射出孔付近の意匠が変形してしまう問題がある。
【0006】
本発明は、かかる問題点を改善することを目的とする。すなわち、本発明は、成形加工性と表面性に優れ、立体的な樹脂成形部品に意匠性を付与する工程、特には成形同時加飾工程において、射出速度が高速な条件、射出圧力が高い条件でもフィルムが破れず、意匠を形成する層が変形されることの無い良好な外観を有する樹脂成形部品を製造するのに有用な成形同時加飾用ポリエステルフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、実質的に非配向構造のポリエステルからなるポリエステル層Bと、この層に接して両側に設けられた配向構造のポリエステルからなるポリエステル層Aとからなり、ポリエステル層Aを構成するポリエステルの固有粘度が0.70〜1.50dL/gであることを特徴とする成形同時加飾用ポリエステルフィルムである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、成形加工性と表面性に優れ、立体的な樹脂成形部品に意匠性を付与する工程、特には成形同時加飾工程において、射出速度が高速な条件、射出圧力が高い条件でもフィルムが破れず、意匠を形成する層が変形されることの無い良好な外観を有する樹脂成形部品を製造するのに有用な成形同時加飾用ポリエステルフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
[ポリエステル層A]
ポリエステル層Aは、配向構造のポリエステルの層である。このポリエステル層Aを構成するポリエステルの固有粘度は、0.70〜1.50dL/g、好ましくは0.75〜1.30dL/gである。固有粘度が0.70未満であると成形同時加飾における射出成形工程において、樹脂の射出速度が速い場合もしくは樹脂の射出圧力が高い場合においてフィルムの切断が発生してしまう問題が生じる。更には、樹脂射出孔付近において、インクなどの意匠を形成する層が変形したり、変色したりしてしまう問題を生じる。また、フィルムの厚み斑が劣るものとなり、好ましくない。他方、固有粘度が1.50を超えると、フィルムを製膜する上で溶融樹脂を押し出すことが困難となり、結果として製膜する速度を下げるなどにより生産性が劣る。
【0011】
本発明は、ポリエステル層Aに接して非配向構造のポリエステル層Bを有しているが、このポリエステルB層は後述の通り、一度形成した配向構造を熱処理によって非配向構造とする手法で形成される。つまり、熱処理によって樹脂を溶融することで非配向構造のポリエステル層Bを形成しており、従来の技術では、厚み斑の少ないフィルムを得ることが困難であった。本発明では配向構造のポリエステル層Aのポリエステルの固有粘度を通常より高い範囲の0.70〜1.50dL/gとすることで、厚み斑の少ないフィルムを得ることができる。
【0012】
ポリエステル層Aを構成するポリエステルは、配向構造を形成し得る結晶性のポリエステルを用い、好ましくは205〜270℃の融点の結晶性ポリエステルを用いる。このポリエステルとしては以下に説明するポリエステルを用いることができる。すなわち、配向構造のポリエステルの層を構成するポリエステルとしては、主たるジカルボン酸単位がテレフタル酸単位、もしくはテレフタル酸およびイソフタル酸単位、もしくはナフタレンジカルボン酸単位からなり、主たるグリコール単位がエチレングリコール単位からなるポリエステルが好ましい。このポリエステルは、必要に応じて、例えば2,6−ナフタレンジカルボン酸、オルトフタル酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、2,2−ビフェニルジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸,アゼライン酸,セバシン酸等の他のカルボン酸単位を含有していてもよく、また、例えばプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−へキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の他のグリコール単位を含有していてもよい。
【0013】
このポリエステルの具体例として、例えばポリエチレンテレフタレート、第3成分を少量共重合したポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、第3成分を少量共重合したポリエチレン−2,6−ナフタレートを挙げることができる。
【0014】
フィルムおよびその加工製品の寸法安定性、耐変形性および耐カール性の面から、ポリエステル層Aを構成するポリエステルのガラス転移温度は、好ましくは60℃以上、さらに好ましくは70℃以上である。
【0015】
ポリエステル層Aを構成するポリエステルの融点は、ポリエステル層Bを構成するポリエステルの融点より、少なくとも15℃高いことが好ましく、さらには18℃以上、特に25℃以上高いことが好ましい。融点差が15℃未満であるとポリエステル層Bを非配向構造とする為の熱処理を実施する温度の最適化が行いにくく好ましくない。即ち、熱処理温度が、ポリエステル層Bのポリエステルの融点に近すぎると、このポリエステルが充分に溶融しないため、実質的な非配向構造への変化が不充分となってしまう。他方、熱処理温度がポリエステル層Aのポリエステルの融点に近すぎると、このポリエステルの溶融が一部で起き始めるため、ポリエステル層Aの配向構造が破壊されてしまい、フィルムの厚み斑が損なわれる、耐溶剤性が損なわれるなどの問題を生じる。また、フィルム製造時においては、フィルムが切断しやすくなる、ロール状に巻き取ったフィルムが融着してしまう等の問題が生じる。
【0016】
[ポリエステル層B]
ポリエステル層Bは、実質的に非配向構造のポリエステルの層である。ポリエステル層Bを構成するポリエステルとしては、固有粘度が0.65〜1.50dL/gのポリエステルを用いることが好ましい。固有粘度が0.65未満であると成形同時加飾における射出成形工程において、樹脂の射出速度が速い場合もしくは樹脂の射出圧力が高い場合においてフィルムの切断が発生する可能性が高くなってしまい好ましくない。また、フィルムの厚み斑が劣るものとなり好ましくない。他方、固有粘度が1.50を超えるとフィルムを製膜する上で、溶融樹脂を押し出すことが困難となり、結果として製膜する速度を下げるなどにより生産性が劣る為好ましくない。
【0017】
ポリエステル層Bを構成するポリエステルとしては、延伸処理によりポリマーの配向構造(結晶構造)を形成し得るポリエステルであってもよく、延伸処理を施してもポリマーの配向構造(結晶構造)を形成しないポリエステルであってもよい。
【0018】
ポリエステル層Bを構成するポリエステルは、ポリエステル層Aを構成するポリエステルの融点よりも低い融点、好ましくは少なくとも15℃低い融点、さらに好ましくは少なくとも18℃低い融点、特に好ましくは少なくとも25℃低い融点を有するとともに、190℃以上の融点を有するポリエステルを用いるとよい。具体的には、好ましくは190〜250℃の融点のポリエステルを用いる。
【0019】
このポリエステルとしては、主たるジカルボン酸単位がテレフタル酸および/もしくは2,6−ナフタレンジカルボン酸および/もしくはイソフタル酸単位からなるコポリエステルが好ましい。このコポリエステルの従たる(主たる成分以外の成分、すなわち共重合成分)ジカルボン酸単位としては、ポリエステル層Aを構成するポリエステルの、他のジカルボン酸単位として例示したもの、グリコール単位としては、ポリエステル層Aを構成するポリエステルのグリコール単位として例示したものを挙げることができる。
【0020】
このコポリエステルの具体例としては1)テレフタル酸単位およびナフタレンジカルボン酸単位を主とするジカルボン酸単位とエチレングリコール単位を主とするグリコール単位からなるコポリエステル、2)テレフタル酸単位およびイソフタル酸単位を主とするジカルボン酸単位とエチレングリコール単位を主とするグリコール単位からなるコポリエステル、3)テレフタル酸単位およびナフタレンジカルボン酸単位およびイソフタル酸単位を主とするジカルボン酸単位とエチレングリコール単位を主とするグリコール単位からなるコポリエステルを挙げることができる。好ましいものとして、ジカルボン酸単位中、テレフタル酸単位が90〜60モル%、ナフタレンジカルボン酸単位が5〜20モル%、イソフタル酸単位が5〜20モル%であるコポリエステルを挙げることができる。
【0021】
ポリエステル層Bを構成するポリエステルのガラス転移温度は、夏期における車中での輸送および保管において、高温に製品等が曝されても品質が低下しないように、好ましくは50℃以上、さらに好ましくは70℃以上、特に好ましくは80℃以上である。
【0022】
ポリエステル層Aを構成するポリエステルのガラス転移温度とポリエステル層Bを構成するポリエステルのガラス転移温度との差は、フィルムの厚み斑を良好にするために、好ましくは20℃以下、さらに好ましくは10℃以下、特に好ましくは5℃以下である。
なお、本発明において融点とは、ポリエステルを一度溶融した後、急冷、固化したサンプルを、示差熱熱量計で20℃/分の速度で昇温したときの溶融吸熱ピーク温度をいう。
【0023】
本発明においてガラス転移温度とは、ポリエステルを一度溶融して後、急冷、固化したサンプルを、示差熱熱量計で20℃/分の速度で昇温したときの構造変化(比熱変化)温度をいう。
なお、本発明におけるポリエステル層Aおよび/またはポリエステル層Bは、本発明の目的を損なわない範囲で添加剤を含有させてもよい。例えば、必要に応じて、ポリブチレンテレフタレート−ポリテトラメチレングリコールブロックコポリマー等のエラストマー樹脂、顔料、染料、熱安定剤、難燃剤、発泡剤、紫外線吸収剤等の成分を含有させてもよい。
【0024】
[フィルム厚み]
本発明の成形同時加飾用ポリエステルフィルムのフィルム厚み(多層構成の場合は全ての層の厚みの和)は、好ましくは30〜300μm、さらに好ましくは40〜200μm、特に好ましくは50〜100μmである。フィルム厚みが30μm未満であるとフィルムの腰が弱く、成形同時加飾における樹脂を射出する工程において、射出樹脂の圧力によりフィルムが破断してしまうなどの問題が生じやすくなり好ましくない。また、該工程において、フィルムにしわが入ってしまう問題が生じやすくなり好ましくない。他方、フィルム厚みが300μmを超えると、フィルムの腰が強すぎ、成形加工時に必要な荷重が大きくなる為に、射出樹脂の押し出し圧力を高くする、もしくは射出速度を遅くする必要が生じ、結果として生産性が劣ってしまい好ましくない。
【0025】
[不活性粒子]
本発明の成形同時加飾用ポリエステルフィルムは、少なくとも2種類の不活性粒子を含有することが好ましく、これらの不活性粒子は表面のポリエステル層に含有されることが好ましい。不活性粒子としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリンなどの無機微粒子、触媒残渣の析出微粒子、シリコーン、ポリスチレン架橋体、アクリル系架橋体などの有機微粒子を用いることができる。
【0026】
不活性粒子としては、平均粒子径1.0〜2.0μmの球状粒子と平均粒子径0.05〜0.5μmの球状粒子との2種類の球状粒子を併用することが好ましい。これらの球状粒子を併用することにより、フィルムの透明性を維持しながら効率的に滑性、すなわち巻取り性や取り扱い性を向上させることができる。これらの不活性粒子は表面のポリエステル層にのみに含有させると非常に高い透明性を発現することができて好ましい。
【0027】
[中心線平均表面粗さ]
本発明の成形同時加飾用ポリエステルフィルムは、少なくとも片方の面の中心線平均表面粗さ(Ra)が20nm以下であることが好ましい。本発明の成形同時加飾用ポリエステルフィルムを使用する際にはこの面に意匠となる印刷層が塗設される。フィルムの中心線平均表面粗さ(Ra)が20nmを越えるとフィルム表面の粗さが印刷層に転写してしまい、印刷層の中心線平均表面粗さが粗くなってしまい、印刷層は光沢性の劣ったものとなり、樹脂成形部品の高級感を損ねてしまうなどの問題が生じるので好ましくない。
ポリエステルフィルムにコーティング層が塗設されている場合は、コーティング層を含めた中心線平均表面粗さを20nm以下とすることが好ましい。
【0028】
[フィルムの層構成]
本発明の成形同時加飾用ポリエステルフィルムは、ポリエステル層Aが表層であり且つポリエステル層Bが内層である構造、すなわちA/B/A(ここで、/は層の構成を示す)タイプの3層構成をとる。A/B/Aの3層構成の構成体を含んでいれば、さらにB/Aを設けた構成であってもよい。例えばA/B/A/B/Aタイプの5層構成、さらにこれらの順序による7層、9層、2n+1(nは自然数)構成であってもよい。また、ポリエステル層Aを2層以上とする場合には必要に応じて、1以上の層を違うポリマーで構成することができる。ポリエステル層Bが2層以上の場合も同様である。例えば、ポリエステル層Aが2種のポリマー(A1、A2)、ポリエステル層Bが2種のポリマー(B1、B2)からなるとき、A1/B1/A2タイプの3層構成、A1/B1/A2/B2/A1タイプの5層構成をとってもよい。これら層構成のうち、3層構成、5層構成が好ましく、特に3層構成が好ましい。
【0029】
いずれの場合も1軸以上の延伸配向構造を有するポリエステル層Aが最表層を構成することが必要である。実質的に非配向構造であるポリエステル層Bが最表層を構成すると、フィルム製造の際、工程内の各種ロール等にフィルムが粘着しやすい等の問題がある。
【0030】
多層フィルムの構成とする場合、1軸以上の延伸配向構造を有するポリエステル層Aの総厚み(a)と、実質的に非配向構造であるポリエステル層Bの総厚み(b)の比(a/b)は好ましくは0.01〜1、さらに好ましくは0.03〜0.67、特に好ましくは0.05〜0.43である。この厚み比は、例えば層構成がA1(厚み:a1)/B(厚み:b)/A2(厚み:a2)の3層からなる場合、層Aと層Bの総厚み比(a/b)、すなわち(a1+a2)/(b)が0.01〜1であることを意味し、また層構成がA1(厚み:a1)/B1(厚み:b1)/A2(厚み:a2)/B2(厚み:b2)/A3(厚み:a3)の5層からなる場合、層Aと層Bの総厚み比(a/b)、すなわち(a1+a2+a3)/(b1+b2)が0.01〜1であることを意味する。この総厚み比(A/B)が0.01未満であるとポリエステル層Aの存在割合が少ないため、フィルム製造時の厚み制御が難しいなど問題を生じ、また、フィルムの寸法安定性が不充分であり好ましくない。総厚み比が1を超えると、実質的に非晶構造であるポリエステル層Bの存在割合が少ない為、フィルムの加工性が不充分となってしまい好ましくない。
【0031】
[表面処理]
本発明の成形同時加飾用ポリエステルフィルムは、離型層との接着性を向上させる目的、印刷用インクとの接着性を向上させる目的、その他表面加工層との接着性を向上させる目的、これらの層との離型性を発現する目的、滑り性を付与する目的で、片面もしくは両面にコーティング処理を施してもよい。
フィルムに離型層、意匠となる印刷層をこの順序で積層する場合は、離型層が樹脂成形部品側へ転写しないようにする目的で、離型層との接着力を高めるコーティングを施すことが好ましい。
【0032】
透明性を維持しながら滑り性を付与するためには、コーティング層に滑剤を含有し、滑り性を付与することが好ましい。これによりフィルム内部の滑剤含有量をより少なくすることができる。
コーティング層は公知の方法で設けることができる。例えば特許第3205271号公報、特開2003−49011号公報に記載されている方法でコーティングを行なうことができる。同様の目的で、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理等の表面処理を施してもよい。
【0033】
[フィルム物性]
本発明の成形同時加飾用ポリエステルフィルムのヘーズは、好ましくは5%以下である。ヘーズが5%を超えると印刷されたフィルムと成形樹脂を一体化させる成形同時加飾においてフィルムが印刷層よりも外側の層を形成した場合に意匠が不明瞭となり好ましくない。ヘーズは、滑剤の種類、添加量によって調整することができる。
【0034】
本発明の成形同時加飾用ポリエステルフィルムの厚み斑は、好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下、特に好ましくは3%以下である。厚み斑が10%を超えると、印刷した際にインク層の厚みが不均一となり、結果として印刷の濃淡が不均一となるなどの問題が生じて好ましくない。
【0035】
本発明の成形同時加飾用ポリエステルフィルムの熱収縮率は、150℃で30分間の熱処理において、好ましくは0.0〜3.0%である。熱収縮率がこの範囲の外にあると、熱をかけて成形加工する際にポリエステルフィルムが変形してしまい、意匠の位置がずれてしまう、インクが剥離してしまう等の問題が生じる為、好ましくない。
【0036】
[製造方法]
以下、本発明の本発明の成形同時加飾用ポリエステルフィルムの製造方法を、3層構成の多層フィルムを例に説明する。ここで説明する多層フィルムは、配向構造を有するポリエステル層Aと実質的に非配向構造であるポリエステル層Bとの積層構造を有し、かつ表層がポリエステル層Aからなる。
【0037】
本発明において、ポリエステル層A、ポリエステル層Bを構成するポリエステル自体は、周知の方法で製造することができる。その具体的な例としては、1)ポリエステル製造の反応工程で、1種または複数のジカルボン酸エステル形成性誘導体と1種または複数のグリコ−ルを反応させる方法、2)2種以上のポリエステルを、単軸あるいは2軸押出し機を用い、溶融混合してエステル交換反応(再分配反応)させる等の方法が挙げられる。なお、これらの工程において、必要に応じて、粒子などの各種添加剤をポリエステル中に含有させることもできる。
【0038】
多層フィルムは、共押出製膜法で製造することができる。先ず、ポリエステル層A用に調製したポリエステルのチップを乾燥、溶融する。これと並行して、ポリエステル層B用に調製したポリエステルのチップを乾燥、溶融する。続いて、これら溶融ポリマーをダイ内部で3層に積層し、例えばフィードブロックを設置したダイ内部で3層に積層したのち、冷却ドラム上にキャスティングして未延伸多層フィルムにし、続いて、該多層フィルムを縦軸および/または横軸に1軸以上の方向に延伸して1軸以上の延伸配向構造を有する多層延伸フィルムを得る。なお、5層以上の場合も同様にして製造することができる。延伸処理はポリエステル層Aが所望の配向構造を形成する条件で行い、例えばポリエステル層Aを構成するポリエステルのTg(ガラス転移温度)−10℃からTg+50℃の温度(Tc)で、縦方向に2.5倍以上、好ましくは3〜6倍延伸し、更に好ましくは3〜4倍延伸し、次いでTg+10からTg+50℃の温度で、横方向に2.5倍以上、好ましくは3〜6倍延伸、更に好ましくは3〜4倍するのが、フィルムの厚み斑を良好にする観点から好ましい。
【0039】
以上の様にして得られる多層延伸フィルムに、さらに熱処理を実施する。この熱処理はポリエステル層Bの両面にポリエステル層Aを積層した状態で、ポリエステル層Aのポリエステルの融点より低く且つポリエステル層Bのポリエステルの融点より高い温度で行われる。熱処理は、ポリエステル層Aの融点より10℃以上低い温度、ポリエステル層Bの融点より5℃以上高い温度で行うことが好ましい。
【0040】
この熱処理によりポリエステル層Bが溶融して、1軸以上の延伸処理で形成された延伸配向構造が、実質的に無配向構造に変化する。ポリエステル層Bのポリエステルが一時溶融状態になるため、ポリエステル層Bのポリマー配向構造は1軸以上の延伸配向構造が存在していたとしても、実質的に無配向な構造になる。なお、この熱処理によって、ポリエステル層Aには、熱固定処理したのと同じ効果が得られる。
【0041】
熱処理方法はとしては、例えば、フィルム製造時において延伸後直ちに工程内で熱処理する方法、フィルム製造完了後フィルムをロール状に巻き取った後熱処理する方法を用いることができ、前者が好ましい。前者の方法においては、共押出製膜法における延伸処理後の熱固定処理時の温度を、ポリエステル層Aのポリエステルの融点より低くかつポリエステル層Bのポリエステルの融点より高い温度に設定することで、有効に行うことができる。
このようにして多層フィルムを製造することにより、本発明の成形同時加飾用ポリエステルフィルムを得ることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
なお、実施例および比較例において用いた特性の測定方法ならびに評価方法は、次のとおりである。
【0043】
(1)ガラス転移温度・融点
サンプル約10mgを測定用のアルミニウム製パンに封入して示差熱量計(TA Instruments社製、商品名「DSC2920 Modulated」)に装着し、25℃から20℃/分の速度で300℃まで昇温させ、300℃で3分間保持した後取り出し、直ちに氷の上に移して急冷した。このパンを再度示差熱量計に装着し、25℃から20℃/分の速度で昇温させてガラス転移温度Tg(単位:℃)と融点Tm(単位:℃)を測定した。
【0044】
(2)固有粘度
固有粘度([η])(単位:dl/g)は、35℃のo−クロロフェノール溶液で測定した。原料の固有粘度は原料ペレットについての測定値であり、ポリエステル層Aとポリエステル層Bを構成するポリエステルの固有粘度はフィルムを製膜する工程中ダイより押し出された樹脂を各々個別に採取し測定した値を用いた。
【0045】
(3)ヘーズ
JIS K7105に準じて、ヘーズ測定機(日本電色工業(株)製、商品名「NDH−2000」)を使用して全光線透過率Tt(単位:%)と散乱光透過率Td(単位:%)とを測定し、以下の式からヘーズ(単位:%)を算出した。
ヘーズ(%)=(Td/Tt)×100
【0046】
(4)熱収縮率
内部を150℃にした熱風循環型のオーブン中に、該フィルムの測定する方向に一定の間隔(約30cm)の評点をつけたサンプルを設置した。30分後に取り出したサンプルの評点間距離を測定し、下記式によって収縮率を算出した。
S=100×(L−L)/L
(S:熱収縮率(単位:%)、L:熱処理後の評点間間隔(単位:mm)、L:熱処理前の評点間間隔(単位:mm))
【0047】
(5)中心線平均表面粗さ(Ra)
JIS B0601に準じ、(株)小坂研究所製の高精度表面粗さ計 SE−3FATを使用して、針の半径2μm、荷重30mgで拡大倍率20万倍、カットオフ0.08mmの条件下にチャートを描かせ、表面粗さ曲線からその中心線方向に測定長さLの部分を抜き取り、この抜き取り部分の中心線をX軸、縦倍率の方向とY軸として、粗さ曲線をY=f(x)で表わした時、次の式で与えられた値をnm単位で表わした。
【数1】

この測定は、基準長を1.25mmとして4個測定し、平均値で表わした。なお、転写箔とする際に意匠を塗設する表面の中心線平均表面粗さを測定し、測定値とした。
【0048】
(6)100%伸張時応力
破断応力と破断伸度は、測定装置としてチャック部を加熱チャンバーで覆った引張試験機(東洋ボールドウィン社製、商品名「テンシロン」)を用いて測定した。得られたポリエステルフィルムから、縦方向(MD)と横方向(TD)について、それぞれ長手方向100mm×幅方向10mmのサンプルを採取し、間隔を50mmにセットしたチャックに挟んで固定した。その際、引張試験機のチャック部分に設置されている加熱チャンバーにより、サンプルの存在する雰囲気下は100℃に保った。100mm/分の速度で引張り、試験機に装着されたロードセルで荷重を測定した。荷伸曲線の100%伸張時の荷重を読取り、引張前のサンプル断面積で割って100%伸張時応力(F100)(単位:MPa)を計算した。MDとTDの内、数値の高い方を測定結果とした。
【0049】
(7)転写箔
特開2004−299091号公報の実施例1に記載の方法と同様に転写箔を作成した。すなわち、まず、得られたフィルムの片面(離型層と接着力に優れたコーティングが施されている場合は、コーティング面)に、グラビア印刷法でアミノアルキッド系樹脂からなる離型層を塗布した。この離型層上に4μmの二液硬化型ビニルエステル系樹脂からなる剥離層、2〜10μmのアクリル−塩化ビニル共重合体樹脂からなる絵柄層、2μmの塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂からなる接着層をグラビア印刷法で順次積層し、転写箔を作成した。
【0050】
(8)成形性
金型に、上記(7)で得られた転写箔を、絵柄層(インク)側が射出側となるように設置し、10cm角の大きさで、立ち上がり15mm、コーナー部のRが2mmのトレー状成形品を射出成形した。この時、成形用の樹脂には、ポリカーボネート/ABS樹脂アロイを用い、樹脂温度260℃、金型温度50℃、樹脂圧力約350MPaとした。トレー状成形品から、離型層と絵柄層の界面で転写箔を剥離し、加飾された成形部品を得た。
本工程における状況を、以下の指標により評価した。
○:フィルムが破れず、シワも無い。
△:フィルムは破れなかったが、若干のしわが見られた。
×:フィルムが破れた、もしくは大量のシワが発生した。
【0051】
(9)インク保持性
上記(8)で得られた成形部品の外観を目視で評価した。
○:インクの変形が全く見られなかった。
△:樹脂射出孔の付近インクが、わずかに変形した。
×:樹脂射出孔付近のインクが変形し、目的の意匠が得られなかった。
【0052】
(10)ポリエステルペレットの作成
出発原料としてテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールを用い、常法によりエステル交換反応、重縮合反応を実施し、得られたポリマーを反応釜から吐出、冷却して、ポリエチレンテレフタレートのペレット(以下「PET」と略記する)を得た。得られたPETのガラス転移温度は80℃、融点は256℃、固有粘度は0.65であった。得られたPETを用いて、定法により固相重合を行い、ガラス転移点温度が80℃、融点が256℃、固有粘度が0.90のポリエチレンテレフタレートのペレット(以下「PET−S」と略記する)を得た。
【0053】
出発原料としてテレフタル酸ジメチル85モル%(全酸成分に対し)およびイソフタル酸ジメチル15モル%(全酸成分に対し)とエチレングリコールを用いる以外は、上記PETと同様に、エステル交換反応、重縮合反応を実施し、得られたポリマーを反応釜から吐出、冷却して、共重合ポリエチレンテレフタレートのペレット(以下、「IA−PET」と略記する)を得た。得られたIA−PETのガラス転移温度は65℃、融点は223℃、固有粘度は0.69であった。得られたIA−PETを用いて、定法により固相重合を行い、ガラス転移点温度が80℃、融点が223℃、固有粘度が0.90の共重合ポリエチレンテレフタレートのペレット(以下「IA−PET−S」と略記する)を得た。
【0054】
出発原料としてテレフタル酸ジメチル85モル%(全酸成分に対し)および2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル15モル%(全酸成分に対し)とエチレングリコールを用いる以外は、上記PETと同様に、エステル交換反応、重縮合反応を実施し、得られたポリマーを反応釜から吐出、冷却して、共重合ポリエチレンテレフタレートのペレット(以下「NDC−PET」と略記する)を得た。得られたNDC−PETのガラス転移温度は82℃、融点は223℃、固有粘度は0.69であった。得られたNDC−PETを用いて、定法により固相重合を行い、ガラス転移点温度が82℃、融点が223℃、固有粘度が0.90の共重合ポリエチレンテレフタレートのペレット(以下「NDC−PET−S」と略記する)を得た。
ポリブチレンテレフタレート(以下「PBT」と略記する)ペレットとしては、ウィンテックポリマー(株)製デュラネックス500FPを使用した。
【0055】
[実施例1]
上記で得られたPET−Sを単独で用いた樹脂(フィルムとした後にポリエステル層Aとなる)、およびIA−PETとNDC−PETを(IA−PET)/(NDC−PET)=50/50重量%となるように混合した混合物(フィルムとした後にポリエステル層Bとなる)を別々に乾燥、表1に示す溶融押出温度において単軸スクリュー押出し機で溶融した後、ダイ内部で(PET−S樹脂)/(IA−PETとNDC−PET混合物)/(PET−S樹脂)の3層に溶融ポリマーを積層し、この状態で冷却ドラム上にキャスティングし、未延伸多層フィルムを得た。続いて、該多層フィルムを縦方向に110℃で3.0倍延伸した後、25℃の金属ロールに接触させ冷却した。ここで、ロールコーターを用い、特許第3205271号の実施例1に記載の塗液、すなわち、テレフタル酸、イソフタル酸、5−Naスルホイソフタル酸、エチレングリコール及びビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物からつくられた固有粘度0.53の共重合ポリエステル(Tg=79℃)を用いた固形分濃度10%、平均粒径65nmの水分散液A 80重量%、シリカ粒子(平均粒子径90nm)の水分散体(濃度10重量%)10重量%及び界面活性剤であるポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルの水溶液(濃度10重量%)10重量%からなるプライマー塗液、をフィルム片面に塗布した。
【0056】
次いで、ステンターに投入して横方向に120℃で3.2倍に延伸した後、235℃で熱固定し、3層フィルムを得た。この3層フィルムの厚み構成は、PET−Sからなる両面の表層(ポリエステル層A)が各3.8μm、IA−PETとNDC−PETからなる内層(ポリエステル層B)が67.4μmの合計75μmであった。得られた3層フィルムの構成と特性を表1に示す。なお、滑剤としてポリエステル層Aに平均粒子径1.2μmの真球状シリコーンを100ppm、平均粒子径0.1μmの真球状シリカを600ppm含有している。
【0057】
[実施例2]
ポリエステル層Aを形成する樹脂として、PET−SとIA−PET−Sを(PET−S)/(IA−PET−S)=67/33重量%となるように混合した混合物とし、押出溶融温度を表1に示す通りとした以外は実施例1と同様の方法で3層フィルムを得た。この3層フィルムの厚み構成は、PET−SとIA−PET−Sからなる両面の表層(ポリエステル層A)が各3.8μm、IA−PETとNDC−PETからなる内層(ポリエステル層B)が67.4μmの合計75μmであった。得られた3層フィルムの構成と特性を表1に示す。なお、滑剤としてポリエステル層Aに平均粒子径1.2μmの真球状シリコーンを100ppm、平均粒子径0.1μmの真球状シリカを600ppm含有している。
【0058】
[実施例3]
ポリエステル層Bを形成する樹脂として、IA−PET−SとNDC−PET−Sを(IA−PET−S)/(NDC−PET−S)=50/50重量%となるように混合した混合物とし、押出溶融温度を表1に示す通りとした以外は実施例2と同様の方法で3層フィルムを得た。この3層フィルムの厚み構成は、PET−SとIA−PET−Sからなる両面の表層(ポリエステル層A)が各3.8μm、IA−PET−SとNDC−PET−Sからなる内層(ポリエステル層B)が67.4μmの合計75μmであった。得られた3層フィルムの構成と特性を表1に示す。なお、滑剤としてポリエステル層Aに平均粒子径1.2μmの真球状シリコーンを100ppm、平均粒子径0.1μmの真球状シリカを600ppm含有している。
【0059】
[実施例4]
ポリエステル層Bを形成する樹脂として、IA−PET−Sを単独で用いた樹脂とし、押出溶融温度を表1に示す通りとした以外は実施例2と同様の方法で3層フィルムを得た。この3層フィルムの厚み構成は、PET−SとIA−PET−Sからなる両面の表層(ポリエステル層A)が各3.8μm、IA−PET−Sからなる内層(ポリエステル層B)が67.4μmの合計75μmであった。得られた3層フィルムの構成と特性を表1に示す。なお、滑剤としてポリエステル層Aに平均粒子径1.2μmの真球状シリコーンを100ppm、平均粒子径0.1μmの真球状シリカを600ppm含有している。
【0060】
[実施例5]
3層フィルムの厚み構成を、PET−SとIA−PET−Sからなる両面の表層(ポリエステル層A)が各2.5μm、IA−PETとNDC−PETからなる内層(ポリエステル層B)が45μmの合計50μmとする以外は、実施例2と同様の方法で3層フィルムを得た。得られた3層フィルムの構成と特性を表1に示す。なお、滑剤としてポリエステル層Aに平均粒子径1.2μmの真球状シリコーンを100ppm、平均粒子径0.1μmの真球状シリカを600ppm含有している。
【0061】
[実施例6]
ポリエステル層Aを形成する樹脂のジカルボン酸成分に対して、正燐酸を0.025モル%添加した以外は、実施例2と同様の方法で3層フィルムを得た。この3層フィルムの厚み構成は、PET−SとIA−PET−Sからなる両面の表層(ポリエステル層A)が各3.8μm、IA−PETとNDC−PETからなる内層(ポリエステル層B)が67.4μmの合計75μmであった。得られた3層フィルムの構成と特性を表1に示す。なお、滑剤としてポリエステル層Aに平均粒子径1.2μmの真球状シリコーンを100ppm、平均粒子径0.1μmの真球状シリカを600ppm含有している。
【0062】
実施例1〜6で得られたフィルムは、成形加工時にフィルム破れやしわが発生せず、また、インク保持性の優れたものであり、成形同時加飾用ポリエステルフィルムとして好適であった。
【0063】
[比較例1]
ポリエステル層Aを形成する樹脂として、PETとIA−PETを(PET)/(IA−PET)=67/33重量%となるように混合した混合物とし、押出溶融温度を表1に示す通りとした以外は実施例2と同様の方法で3層フィルムを得た。この3層フィルムの厚み構成は、PETとIA−PETからなる両面の表層(ポリエステル層A)が各3.8μm、IA−PETとNDC−PETからなる内層(ポリエステル層B)が67.4μmの合計75μmであった。得られた3層フィルムの構成と特性を表1に示す。なお、滑剤としてポリエステル層Aに平均粒子径1.2μmの真球状シリコーンを100ppm、平均粒子径0.1μmの真球状シリカを600ppm含有している。
【0064】
比較例1で得られたフィルムは、成形加工時にフィルムが破断する場合が見られ、また、樹脂射出孔付近のインクが流動したように変形し、成形同時加飾用フィルムとして不適なものであった。
【0065】
[比較例2]
ポリエステル層Aを形成する樹脂として、PETとIA−PETを(PET)/(IA−PET)=67/33重量%となるように混合した混合物とし、押出溶融温度を表1に示す通りとした以外は実施例2と同様の方法で3層フィルムを得た。なお、ポリエステル層Aは、溶融押出機の直前で、微小量の蒸留水を添加し、固有粘度を表1の通りとした。この3層フィルムの厚み構成は、PETとIA−PETからなる両面の表層(ポリエステル層A)が各3.8μm、IA−PETとNDC−PETからなる内層(ポリエステル層B)が67.4μmの合計75μmであった。得られた3層フィルムの構成と特性を表1に示す。なお、滑剤としてポリエステル層Aに平均粒子径1.7μmの凝集シリカを650ppm含有している。
【0066】
比較例2で得られたフィルムは、成形加工時にフィルムが破れてしまい、また、樹脂射出孔付近のインクは、変色し、且つ流れるように変形しており、成形同時加飾用フィルムとして不適なものであった。また、フィルムの表面が粗い為に、得られた部品の表面の光沢が好ましくないものであった。
【0067】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の成形同時加飾用ポリエステルフィルムは、成形同時加飾により製造される樹脂成形部品の表面に意匠を付与する為の部材として用いることができる。例えば、家具や屋内装飾品、電化製品、自動車等に用いられる立体的な樹脂成形部品の表面を構成する部材に意匠を付与する為の部材として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に非配向構造のポリエステルからなるポリエステル層Bと、この層に接して両側に設けられた配向構造のポリエステルからなるポリエステル層Aとからなり、ポリエステル層Aを構成するポリエステルの固有粘度が0.70〜1.50dL/gであることを特徴とする成形同時加飾用ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2007−203571(P2007−203571A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24313(P2006−24313)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】