説明

成形型および成形型の製造方法

【課題】レンズアレイの形状に制約を生じることなく、成形時の空気溜まりの発生を確実に防止して、安定な品質のレンズアレイを高い生産性で低コストにて製造する成形型を提供する。
【解決手段】成形型1の成形面1aの複数の光学機能面転写部1bが形成された転写形状刻設領域4の外側に、成形時に成形素材9としての円柱形状ガラス塊91を、複数の光学機能面転写部1bに対して対称な位置に据えつけて位置決めするためのシリンドリカル形据え付け凹部51を形成した。これにより、円柱形状ガラス塊91は、複数の光学機能面転写部1bの配列中心部1cから外側に向けて広がるように変形し、個々の光学機能面転写部1bの空気は配列中心部1cから外側へと排除され、空気溜まり等欠陥の発生を防止できる。シリンドリカル形据え付け凹部51の成形部位は転写形状刻設領域4の外側なので切除の必要もない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形型および成形型の製造技術に関し、たとえば、単一のガラス塊等の成形素材を使用してマイクロレンズアレイを成形する成形型等に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、複数のレンズの集合体であるレンズアレイは、照明用、光ファイバ通信用、センサー集光用などのレンズとして利用される。
このレンズアレイの製造方法としては、ガラスやプラスチックなどの材料からできた単一の平行平板状の成形素材を軟化させながら成形型で押圧し、レンズアレイを製造する方法が従来から知られている。
【0003】
このような型成形による一般的なレンズアレイの製造方法では、小レンズ部分に空気溜りが発生しやすいため、レンズアレイの品質が安定しにくく、歩留まりが良くないという技術的課題があった。
【0004】
このため、特許文献1には、金型における複数のマイクロレンズキャビティの配列領域の中心に球形や円筒形のガラスプリフォームが載置される略半球形または半円筒形の凹形状の中心ネストを設け、この中心ネストに単一のガラスプリフォームを配置し、加熱状態で金型を押圧し、溶融したガラスプリフォームが中心ネスト部分から周囲のマイクロレンズキャビティに広がるように変形させてレンズアレイを成形した後、中心ネスト部分がレンズアレイから取り除かれるように小レンズ部を切り出してマイクロレンズアレイを得る製造方法が提示されている。
【0005】
ところが、上述の特許文献1の技術では、ガラスプリフォームが配置される中心ネスト部分は光学機能面としては利用できないため、成形可能なマイクロレンズアレイの設計や成形可能な形状仕様に制約が生じるとともに、マイクロレンズアレイの中央に位置する中心ネスト部分を切除する場合には、ガラスプリフォームの歩留りが低下し、さらに切断工程の分だけサイクルタイムの増大や製造コストの上昇を招き、生産性が低下する、という技術的課題がある。
【0006】
また、中心ネスト部分を取り除かない場合には、マイクロレンズアレイの中心部に光学機能を有さない部位が混在してしまうため、マイクロレンズアレイの光学機能を著しく低下させる可能性がある。
【特許文献1】特開2001−48554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、成形工程におけるサイクルタイムの増大や製造コストの上昇を招くことなく、レンズアレイの形状に制約を生じることなく、成形時の空気溜まりの発生を確実に防止して、安定な品質のレンズアレイを高い生産性で低コストにて製造することが可能な成形型およびその製造技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点は、成形素材から光学機能面を有する光学素子を成形する成形型であって、
前記成形素材に臨む成形面に、
前記成形素材に前記光学機能面を転写する複数の光学機能転写部と、
複数の前記光学機能転写部の配置領域の外側に設けられ、前記成形素材が嵌合する成形素材配置部と、
を含む成形型を提供する。
【0009】
本発明の第2の観点は、成形素材から光学機能面を有する光学素子を成形する成形型の製造方法であって、
前記成形型の前記成形素材に臨む成形面に、同一の加工装置および加工工具を用いて、
前記成形素材に前記光学機能面を転写する複数の光学機能転写部と、
複数の前記光学機能転写部の配置領域の外側に設けられ、前記成形素材が配置される成形素材配置部と、
を形成する成形型の製造方法を提供する。
【0010】
本発明の第3の観点は、成形素材から光学機能面を有する光学素子を成形する成形型の製造方法であって、
前記成形型の前記成形素材に臨む成形面に、異なる加工装置または加工工具を用いて、
前記成形素材に前記光学機能面を転写する複数の光学機能転写部と、
複数の前記光学機能転写部の配置領域の外側に設けられ、前記成形素材が配置される成形素材配置部と、
を形成する成形型の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、成形工程におけるサイクルタイムの増大や製造コストの上昇を招くことなく、レンズアレイの形状に制約を生じることなく、成形時の空気溜まりの発生を確実に防止して、安定な品質のレンズアレイを高い生産性で低コストにて製造することが可能な成形型およびその製造技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の一態様では、複数光学機能面を有する光学素子を成形するための成形型の形状において、光学機能を有する範囲の外側に成形用ガラス塊を据える為の形状を設ける。
この成形型の加工は、たとえば、同時2軸以上の直動軸を制御可能で3軸以上の移動軸を持ち、加工工具と被加工物を相対移動させて加工を行う加工装置により、光学機能面の加工と成形素材であるガラス塊を据える為の形状の加工とを同一工具により加工する。
【0013】
この場合、ガラス塊を据える形状を精密に加工することが出来、さらにガラス塊を据える形状が光学機能面の外側にあるため、光学機能面に影響を与えることは無く、成形した光学素子を切断する必要も無い光学素子成形用の成形型を提供することが出来る。
【0014】
また、別の態様として、成形型の加工は、同時2軸以上の直動軸を制御可能で3軸以上の移動軸を持ち加工工具と被加工物を相対移動させて加工を行う装置により光学機能面を加工する工程と、成形用ガラス塊を据える為の形状を加工する工程とを別工具もしくは別加工機により加工することもできる。
【0015】
この場合には、光学機能面の加工に最適な加工機および工具と、ガラス塊を据える為の形状を加工するのに最適な加工機および工具との使い分けが出来るため、ガラス塊を据える為の形状の自由度が増し効率的な形状に加工することが出来る。
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1、図2、図3および図4は、本発明の一実施の形態である成形型の構成例を示す斜視図である。
【0017】
図1に例示されるように、本実施の形態の成形型1は、成形面1aの中央部に設けられた転写形状刻設領域4に複数の光学機能面転写部1bが隣り合うように形成されている。この複数の光学機能面転写部1bの各々は、たとえばレンズアレイ等の光学素子を成形する場合における個々のレンズ要素に対応している。
【0018】
さらに、本実施の形態の場合には、成形型1の成形面1aには、複数の光学機能面転写部1bが配置された転写形状刻設領域4の外側に、成形時において成形素材9を位置決めするための据え付け凹部5(成形素材配置部)が形成されている。
【0019】
図1では、成形素材9として細長い円柱形状ガラス塊91を横向きの姿勢で使用する場合に、転写形状刻設領域4の範囲外に、据え付け凹部5として、円柱形状ガラス塊91を置く為の一対のシリンドリカル形据え付け凹部51を設けた例を示している。
【0020】
この一対のシリンドリカル形据え付け凹部51は、光学機能面転写部1bの配列中心部1cを通り、複数の光学機能面転写部1bを含む転写形状刻設領域4を対称に二等分する直線(対称軸線)上に形成されている。
【0021】
また、一対のシリンドリカル形据え付け凹部51の距離は、円柱形状ガラス塊91の軸方向の長さに対応している。
このシリンドリカル形据え付け凹部51の内半径R51は、円柱状ガラス塊の外半径R91と近い値とする。すなわち、R51≒R91とする。
【0022】
また、成形面1aにおけるシリンドリカル形据え付け凹部51の刻設深さは転写形状刻設領域4内の光学機能面転写部1bの転写機能に影響を与えない深さとする。
成形時には、円柱形状ガラス塊91は、両端が一対のシリンドリカル形据え付け凹部51に嵌合するように水平に配置されることにより、光学機能面転写部1bを含む転写形状刻設領域4を対称に二等分する対称軸線上に安定に位置決めされる。
【0023】
そして、このように位置決めされた状態で、成形型1と相手方の図示しない成形型との間で円柱形状ガラス塊91を挟圧することで、円柱形状ガラス塊91を平坦な形状に押しつぶすとともに、複数の光学機能面転写部1bを転写することで、レンズアレイからなる光学素子を成形できる。
【0024】
このとき、本実施の形態の場合、円盤形状ガラス塊92が、一対のシリンドリカル形据え付け凹部51に嵌合して複数の光学機能面転写部1bの配列中心部1cを通る対称軸線上に位置決めされていることにより、円柱形状ガラス塊91は、複数の光学機能面転写部1bの対称軸線に直交する方向に配列中心部1cから外側に向かって押し広げられるように変形が進行するため、円柱形状ガラス塊91と光学機能面転写部1bとの間の空気は、配列中心部1cから外側に向かって順次押し出されるように排除される。
【0025】
このため、光学機能面転写部1bの中に空気が閉じ込められることに起因する空気溜りの発生を確実に防止でき、成形型1の光学機能面転写部1bが円盤形状ガラス塊92に精密に転写されることによって、空気溜まり等の欠陥のない高精度のレンズアレイからなる光学素子を成形できる。
【0026】
また、一対のシリンドリカル形据え付け凹部51は、転写形状刻設領域4の外側に設けられているので、光学機能面転写部1bの転写によって形成されるレンズアレイの光学的に機能には影響しないので、レンズアレイからなる光学素子におけるシリンドリカル形据え付け凹部51に対応する成形部位を成形後に切除する等の余分な工程も不要である。
【0027】
さらに、転写形状刻設領域4の内部に光学機能面転写部1bを自由に配置でき、成形型1から成形されるレンズアレイ等の光学素子の設計の自由度も増す。
図2は、成形素材9として円盤形状ガラス塊92を使用する場合における成形型1の成形面1aの構成例を示している。
【0028】
この場合、複数の光学機能面転写部1bからなる転写形状刻設領域4の範囲外に、円盤形状ガラス塊92を位置決めするための複数の円凹形据え付け凹部52を設けている。
すなわち、転写形状刻設領域4の外側において、複数の光学機能面転写部1bの配列中心部1cを通る二本の直交する対称軸線の各端部の4箇所に、円盤形状ガラス塊92の底部の輪郭に対応した円凹形据え付け凹部52が設けられている。
【0029】
この場合、円凹形据え付け凹部52の内径D52を円盤形状ガラス塊92の外径D92よりも、所定の余裕寸法だけ大きくする。すなわち、D52>D92とする。
このため、成形時において、円盤形状ガラス塊92は、底面の4箇所の各々を、転写形状刻設領域4の回りに設けられた4箇所の円凹形据え付け凹部52に嵌合して支持されることにより、転写形状刻設領域4の中央部の対称位置に確実に位置決めされた状態で配置される。
【0030】
また、複数の光学機能面転写部1bの外接円の外径は、円凹形据え付け凹部52の内径D52よりも大きい。このため、成形開始時には、円盤形状ガラス塊92の下端外縁部と、個々の光学機能面転写部1bの外縁部との間には空気の逃げ道となる隙間が形成されている。
【0031】
円凹形据え付け凹部52の深さは転写形状刻設領域4に影響を与えない深さとする。
この図2のように円盤形状ガラス塊92を円凹形据え付け凹部52に嵌合させて位置決めする場合も、成形時に、円盤形状ガラス塊92は、転写形状刻設領域4(複数の光学機能面転写部1b)の配列中心部1cから外側に向かって押し広げられるように変形するため、光学機能面転写部1bの空気は、配列中心部1cから外側に向かって移動し、円盤形状ガラス塊92の下端外縁部と光学機能面転写部1bとの隙間から排出されるので成形時における空気溜まり等の欠陥を確実に防止できる。
【0032】
また、複数の円凹形据え付け凹部52は、転写形状刻設領域4の外側に形成されているので、光学機能面転写部1bの転写によって形成されるレンズアレイからなる光学素子の機能には影響せず、円凹形据え付け凹部52に対応する成形部位を切除するための余分な工程も必要ない。
【0033】
図3は、成形素材9としてレンズ形ガラス塊93を使用する場合の成形型1の成形面1aの形状が例示されている。
この図3に例示されるように、成形面1aには、複数の光学機能面転写部1bを含む転写形状刻設領域4の範囲外に、レンズ形ガラス塊93を配置して位置決めするための球穴形据え付け凹部53を設けている。
【0034】
すなわち、転写形状刻設領域4の外側において、複数の光学機能面転写部1bの配列中心部1cを通る二本の直交する対称軸線の各端部の4箇所に、球穴形据え付け凹部53が設けられている。
【0035】
この場合、球穴形据え付け凹部53の曲率R53を、レンズ形ガラス塊93の曲率R93と近い値とする。すなわち、R53≒R93とする。
このため、成形時において、レンズ形ガラス塊93は、下面の4箇所の各々を、転写形状刻設領域4の回りに設けられた4箇所の球穴形据え付け凹部53に嵌合して支持されることにより、転写形状刻設領域4の中央部に確実に位置決めされた状態で配置される。
【0036】
なお、複数の光学機能面転写部1bの外接円の外径は、球穴形据え付け凹部53(レンズ形ガラス塊93)の外径よりも大きい。このため、成形開始時には、レンズ形ガラス塊93の下端外縁部と、個々の光学機能面転写部1bの外縁部との間には空気の逃げ道となる隙間が形成されている。
【0037】
また、球穴形据え付け凹部53の深さは転写形状刻設領域4の光学機能面転写部1bの転写機能に影響を与えない深さとする。
この球穴形据え付け凹部53の場合も、上述の図2に例示した円凹形据え付け凹部52と同様の効果が得られる。
【0038】
図4は、成形素材9として四角柱形ガラス塊94を使用する場合における成形型1の成形面1aの形状を例示している。
この図4に示す通り、成形面1aにおいて、転写形状刻設領域4の範囲外に、四角柱形ガラス塊94を置く為の複数の四角凹形据え付け凹部54を設けている。
【0039】
四角凹形据え付け凹部54の縦方向長さS54および横方向長さC54を、四角柱形ガラス塊94の縦方向長さS94および横方向長さC94よりも大きくする。すなわち、S54>S94かつC54>C94とする。
【0040】
また、四角凹形据え付け凹部54の縦方向長さS54および横方向長さC54は、いずれも、転写形状刻設領域4における複数の光学機能面転写部1bの外接円の直径よりも小さい。これにより、成形開始時には、四角柱形ガラス塊94の下端の各辺と、個々の光学機能面転写部1bとの間に隙間が形成されている。
【0041】
また、個々の四角凹形据え付け凹部54の深さは転写形状刻設領域4に影響を与えない深さとする。
この図4に例示した四角凹形据え付け凹部54の場合も、上述の図2および図3に例示した円凹形据え付け凹部52および球穴形据え付け凹部53の場合と同様の効果が得られる。
【0042】
次に、上述の図1から図4に例示した、シリンドリカル形据え付け凹部51、円凹形据え付け凹部52、球穴形据え付け凹部53、四角凹形据え付け凹部54等の据え付け凹部5を成形型1の成形面1aに形成する加工方法について説明する。
【0043】
なお、以下では、据え付け凹部5の一例として、上述のシリンドリカル形据え付け凹部51を形成する場合を例示する。
図5は本発明の一実施の形態である成形型の製造方法を実施する加工機における成形型の取り付け状態を示す斜視図である。図6は本実施の形態の成形型の製造方法に供される成形型の成形面の斜視図である。図7は本実施の形態の成形型の製造方法における光学機能転写部の加工状態を示す概念図である。
【0044】
本実施の形態の加工機3では、加工対象となる成形型1は、取り付けヤトイ2を介して当該加工機3に装着される。
ここで、本実施の形態の加工機3は、たとえば、数値制御により同時2軸以上の直動軸を制御可能で3軸以上の移動軸を持ち、砥石6等の加工工具とワークとしての成形型1を相対移動させて加工を行う装置である。
【0045】
ガラス成形用の成形型1は一般的に超硬材料が使用されており、加工工具には研削砥石等の砥石6が使用される。本実施の形態の場合も、成形型1として超硬材料を使用し、加工工具として砥石6を使用するが、成形型1の材料はセラミックなどの他の材料でもよく、加工工具も、砥石6に限らず、切削工具でも良い。
【0046】
取り付けヤトイ2は成形型1を加工機3に固定する治具である。加工機3は、図7のように、砥石6を数値制御により目的の軌跡で移動させることが出来る。
成形型1の転写形状刻設領域4には、複数の光学機能面転写部1bが隣り合うように配列形成されている。この転写形状刻設領域4は、成形型1によりガラス圧縮成形された光学素子にて、光学機能を果たすレンズアレイ等の部位を転写する領域である。
【0047】
成形素材9の据え付け凹部5(この場合、シリンドリカル形据え付け凹部51)は、成形型1により成形素材9を圧縮成形する際に、成形素材9(この場合、円柱形状ガラス塊91)を据え置く形状となる。この部位は光学機能を持たない。
【0048】
本実施の形態の成形型の製造方法の作用を図8および図9を参照して説明する。
図8は転写形状刻設領域4の加工状態の一例を示す概念図である。図8に表示されている破線は砥石6の移動軌跡6aである。図9はガラス塊据え付け形状の加工状態図である。図9に表示されている破線は砥石6の移動軌跡6aである。
【0049】
まず、成形型1の加工前ブランクを取り付けヤトイ2に取り付けることにより、加工機3に固定する。
次に、図8の移動軌跡6aで示す様に、加工機3は数値制御により砥石6と成形型1の加工前ブランクを相対的に移動させ、成形面1aの転写形状刻設領域4に複数の光学機能面転写部1bを刻設する加工を行う。
【0050】
その後、図9の移動軌跡6aで示す様に、加工機3は数値制御により砥石6と成形型1の加工前ブランクを相対移動させ、成形面1aにおける転写形状刻設領域4の外側に、据え付け凹部5(シリンドリカル形据え付け凹部51)の形状を刻設する加工を行う。
【0051】
本実施の形態の成形型の製造方法に拠れば、成形型1の成形面1aに対して、成形素材9を据えるための据え付け凹部5の形状を精密に加工することが出来るとともに、成形素材9を据えるための据え付け凹部5が転写形状刻設領域4の外側にあるため、転写形状刻設領域4に影響を与えることは無い。
【0052】
すなわち、据え付け凹部5によって成形素材9を正確に位置決めして据えつけることにより、空気溜まり等の欠陥のない高精度のレンズアレイ等の光学素子を成形素材9の成形によって製造できるとともに、成形した光学素子に余分な切断加工を加える必要のない光学素子成形用の成形型1を製造することが出来る。
【0053】
上述の説明では、成形型1の成形面1aに対して、転写形状刻設領域4と据え付け凹部5の加工を、同一の加工機3および砥石6を用いて連続して行う場合を例示したが、以下の変形例ように、据え付け凹部5の加工を転写形状刻設領域4とは別の装置を用いて行うこともできる。
【0054】
すなわち、以下の変形例では、成形型1の成形面1aにおける据え付け凹部5の加工を、据え付け凹部5の形状の電極を取り付けた形彫り放電加工機を使用して別工程で行う例を示す。
【0055】
図10Aは、本発明の一実施の形態である成形型の製造方法の変形例を実施する形彫り放電加工機の構成を示す側面図であり、図10Bは、その加工工具としての電極の形状を示す斜視図である。
【0056】
図11は、本発明の一実施の形態である成形型の製造方法の変形例を実施する形彫り放電加工機の作用を示す斜視図である。
本変形例の形彫り放電加工機7は、成形型1が載置されるテーブル11と、このテーブル11に対向して配置され、加工工具としての工具電極8を保持して駆動するヘッド10を備えている。
【0057】
本変形例の形彫り放電加工機7は、テーブル11に載置された成形型1とヘッド10に保持された工具電極8との間でアーク放電を行うことにより、成形型1の成形面1aに工具電極8の形状を転写する加工を行う。
【0058】
図10Bに例示されるように、工具電極8の先端である成形型1への転写加工を行う部位は、成形素材9である円柱形状ガラス塊91の外半径R91と同一の半径R8を有する半円柱形を呈している。
【0059】
形彫り放電加工機7のヘッド10は、上下方向に移動制御することができ、また、工具電極8を取り付けることが出来る。ヘッド10は、成形型1に対して工具電極8を上下方向に相対移動させ、成形型1に対して意図した深さまで放電加工を行うことが出来る。
【0060】
形彫り放電加工機7のテーブル11は、前後左右方向に移動することが出来、また、テーブル11上に成形型1を取り付けることが出来る。テーブル11は、ヘッド10に取り付けられた工具電極8とテーブル11に取り付けられた成形型1との間で相対的に移動し、加工を行う部位に位置決めを行うことが出来る。
【0061】
本変形例の形彫り放電加工機7の作用を、図10A、図10Bおよび図11を参照して説明する。
図11は成形型1の成形素材9(円柱形状ガラス塊91)の据え付け凹部5(シリンドリカル形据え付け凹部51)の加工状態を示している。
【0062】
形彫り放電加工機7のヘッド10に工具電極8を、テーブル11に成形型1を取り付け、工具電極8の形状を転写する位置までテーブル11を移動させることにより成形型1を移動させ、工具電極8と成形型1とを位置決めし、ヘッド10を据え付け凹部5(シリンドリカル形据え付け凹部51)の必要深さになるまで放電加工を行いつつ下方向に移動させることにより、工具電極8の形状をシリンドリカル形据え付け凹部51として成形型1に転写させる。
【0063】
図11に示すとおり、据え付け凹部5としてのシリンドリカル形据え付け凹部51が加工された後、成形型1を形彫り放電加工機7から取り外す。その後、上述の図5に例示した加工機3と同一の加工法により、転写形状刻設領域4の光学機能面転写部1bを、砥石6を用いて研削加工し、最終的に、上述の図1に例示したような転写形状刻設領域4と据え付け凹部5を備えた成形面1aを有する成形型1を製造する。
【0064】
この変形例のように、成形型1の成形面1aにおける転写形状刻設領域4と据え付け凹部5を異なる加工機3および形彫り放電加工機7等の装置や、砥石6および工具電極8等の加工工具を用いて加工する場合には、上述の図5の加工機3および砥石6で転写形状刻設領域4および据え付け凹部5を共通に加工する場合の効果に加えて、さらに、成形素材9の形状に最適な工具電極8等の加工工具を用いて据え付け凹部5を加工することが出来、転写形状刻設領域4と据え付け凹部5の各々の形状の組合せの自由度が向上する。
【0065】
以上の説明から明らかなように、本発明の各実施の形態によればレンズアレイ等の複数の光学機能面を有する光学素子を圧縮成形する成形型1において、レンズアレイを成形するための光学機能面転写部1bが形成される転写形状刻設領域4の中心部に光学機能を持たない形状を設けることなく、また、成形後の光学素子から光学機能を持たない形状を切断する必要もない成形型1を提供することが出来る。
【0066】
すなわち、本発明の各実施の形態によれば、成形工程におけるサイクルタイムの増大や製造コストの上昇を招くことなく、レンズアレイの形状に制約を生じることなく、成形時の空気溜まりの発生を確実に防止して、安定な品質のレンズアレイを高い生産性で低コストにて製造することが可能な成形型およびその製造技術を提供することができる。
【0067】
なお、本発明は、上述の実施の形態に例示した構成に限らず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
たとえば、転写形状刻設領域4の外側に、異なる形状の成形素材9の各々に対応した複数種の据え付け凹部5を互いに干渉しないように併置し、複数種の成形素材9に共用可能な構成としてもよい。
(付記1)複数光学機能面を有する光学素子を成形するための成形型の形状において、光学機能を有する範囲の外側に成形用ガラス塊を据える為の形状を設けたことを特徴とする光学素子成形用成形型形状。
(付記2)複数光学機能面を有する光学素子を成形するための成形型の加工において、同時2軸以上の直動軸を制御可能で3軸以上の移動軸を持ち、加工工具と被加工物を相対移動させて加工を行う装置により、光学機能面の加工と成形用ガラス塊を据える為の形状の加工とを同一工具により加工することを特徴とした複数光学面を有する光学素子を成形するための成形型の加工方法。
(付記3)複数光学機能面を有する光学素子を成形するための成形型の加工において、同時2軸以上の直動軸を制御可能で3軸以上の移動軸を持ち加工工具と被加工物を相対移動させて加工を行う装置により光学機能面を加工する工程と、成形用ガラス塊を据える為の形状を加工する工程とを別工具もしくは別加工機により加工する事を特徴とした複数光学面を有する光学素子を成形するための成形型の加工方法。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の一実施の形態である成形型の構成例を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施の形態である成形型の構成例を示す斜視図である。
【図3】本発明の一実施の形態である成形型の構成例を示す斜視図である。
【図4】本発明の一実施の形態である成形型の構成例を示す斜視図である。
【図5】本発明の一実施の形態である成形型の製造方法を実施する加工機における成形型の取り付け状態を示す斜視図である。
【図6】本発明の一実施の形態である成形型の製造方法に供される成形型の成形面の斜視図である。
【図7】本発明の一実施の形態である成形型の製造方法における光学機能転写部の加工状態を示す概念図である。
【図8】本発明の一実施の形態である成形型における転写形状刻設領域の加工状態の一例を示す概念図である。
【図9】本発明の一実施の形態である成形型におけるガラス塊据え付け形状の加工状態図である。
【図10A】本発明の一実施の形態である成形型の製造方法の変形例を実施する形彫り放電加工機の構成を示す側面図である。
【図10B】その加工工具としての電極の形状を示す斜視図である。
【図11】本発明の一実施の形態である成形型の製造方法の変形例を実施する形彫り放電加工機の作用を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0069】
1 成形型
1a 成形面
1b 光学機能面転写部
1c 配列中心部
2 取り付けヤトイ
3 加工機
4 転写形状刻設領域
5 据え付け凹部
6 砥石
6a 移動軌跡
7 形彫り放電加工機
8 工具電極
9 成形素材
10 ヘッド
11 テーブル
51 シリンドリカル形据え付け凹部
52 円凹形据え付け凹部
53 球穴形据え付け凹部
54 四角凹形据え付け凹部
91 円柱形状ガラス塊
92 円盤形状ガラス塊
93 レンズ形ガラス塊
94 四角柱形ガラス塊

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形素材から光学機能面を有する光学素子を成形する成形型であって、
前記成形素材に臨む成形面に、
前記成形素材に前記光学機能面を転写する複数の光学機能転写部と、
複数の前記光学機能転写部の配置領域の外側に設けられ、前記成形素材が嵌合する成形素材配置部と、
を含むことを特徴とする成形型。
【請求項2】
請求項1記載の成形型において、
前記光学素子は、隣り合う複数の前記光学機能面を備えたレンズアレイであり、
前記成形素材配置部は、複数の前記光学機能転写部の対称位置に、前記成形素材が位置決めされる位置に設けられていることを特徴とする成形型。
【請求項3】
請求項1記載の成形型において、
前記成形面には、外観形状の互いに異なる複数種の前記成形素材の各々に対応した異なる形状の複数の前記成形素材配置部が併せ設けられていることを特徴とする成形型。
【請求項4】
成形素材から光学機能面を有する光学素子を成形する成形型の製造方法であって、
前記成形型の前記成形素材に臨む成形面に、同一の加工装置および加工工具を用いて、
前記成形素材に前記光学機能面を転写する複数の光学機能転写部と、
複数の前記光学機能転写部の配置領域の外側に設けられ、前記成形素材が配置される成形素材配置部と、
を形成することを特徴とする成形型の製造方法。
【請求項5】
成形素材から光学機能面を有する光学素子を成形する成形型の製造方法であって、
前記成形型の前記成形素材に臨む成形面に、異なる加工装置または加工工具を用いて、
前記成形素材に前記光学機能面を転写する複数の光学機能転写部と、
複数の前記光学機能転写部の配置領域の外側に設けられ、前記成形素材が配置される成形素材配置部と、
を形成することを特徴とする成形型の製造方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5記載の成形型の製造方法において、
前記光学素子は、隣り合う複数の前記光学機能面を備えたレンズアレイであり、
複数の前記光学機能転写部に対して対称に前記成形素材が位置決めされる位置に前記成形素材配置部を形成することを特徴とする成形型の製造方法。
【請求項7】
請求項4または請求項5記載の成形型の製造方法において、
外観形状の互いに異なる複数種の前記成形素材の各々に対応した異なる形状の複数の前記成形素材配置部を形成することを特徴とする成形型の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−209012(P2009−209012A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−54486(P2008−54486)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】