説明

成形材料、プリフォームおよび繊維強化樹脂

【課題】優れた取扱性・樹脂含浸性・賦形性を有し、力学特性及び品位の優れたFRPを生産性よく得ることができる成形材料、プリフォーム、及びそれらを用いたFRPの提供。
【解決手段】多数本の強化繊維糸条2が並行に引き揃えられたシートの複数層が、該強化繊維糸条が交差するように積層されて積層体を構成し、該積層体が一体化された成形材料1であって、(イ)少なくとも前記シート間に複合材料のマトリックスを構成する第1の熱可塑性樹脂を成分とする帛体3が配置され、(ロ)前記積層体が第2の熱可塑性樹脂を成分とするステッチ糸4または第1の熱可塑性樹脂を成分とする帛体により一体化されており、(ハ)強化繊維糸条を横切る方向への切り込みが前記シートの全面に配され、強化繊維糸条がn軸配向された前記積層体を構成する強化繊維糸条のうち、(100−100/n)%以上について繊維長Laが10〜300mmの有限長にて切断されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた取扱性、樹脂含浸性、および賦形性を有する成形材料に関するものであって、力学特性および品位の優れた繊維強化樹脂(以下、FRPと記す。)を製造するにあたり、好適に用いられる成形材料、プリフォーム、および、それらからなるFRPに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、炭素繊維やガラス繊維を強化繊維としたFRPは、比強度、比弾性率に優れることから、FRPとして軽量化効果の大きいスポーツ用品やレジャー用品をはじめ、航空機用途や一般産業用に多く使われている。
【0003】
かかるFRPの成形方法としては、強化繊維基材に予めマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグを用い、これを型にセットしてバッグフィルムで覆い、オートクレーブ内で加熱・加圧し、熱硬化性樹脂を硬化させるオートクレーブ成形法や、ドライな状態の強化繊維基材を型内にセットし、型内を減圧した状態(真空状態)で液状の熱硬化性樹脂を注入する真空注入成形法が一般的に広く知られている。しかしながら、オートクレーブ成形法や真空注入成形法では、基材を積層する必要や、バッグフィルムで覆い真空に減圧する必要があり、特に真空注入成形においては熱硬化性樹脂を注入する必要もあった。また、これらの方法では前述した工程を含めて一回あたりの成形時間(サイクルタイム)が比較的長くなるため、例えば生産台数の多い自動車部材などへの適応は困難であった。
【0004】
かかる問題に対して、FRPを成形する時の積層工程を省略する手段として、強化繊維糸条を多方向に配向させた強化繊維層を積層してステッチ糸により一体化した多軸ステッチ基材が提案されている。しかしながら、かかる技術では、強化繊維層がステッチ糸にて拘束されているため、シングルコンター形状またはダブルコンター形状と呼ばれる円筒や半球の様な形状の曲面に賦形させることが困難であった。すなわち、この多軸ステッチ基材を成形型内に配置させようとした場合には、曲面部で突っ張って所望の形状に賦形できなかったり、材料が元の形状に回復しようとして正確な形状を保持できなかったり、仮に賦形できたとしても皺が発生するという問題があった。
【0005】
この問題を改善する手段として、低融点ポリマーでステッチ糸を構成することが提案されている(例えば、特許文献1など)。しかしながら、この方法では、低融点ポリマーでステッチ糸が構成されていることから、賦形時にステッチ糸を加熱溶融させることで見かけ上の賦形性を向上させることができるが、ステッチ糸を完全に溶融させてしまうと強化繊維糸条の拘束がなくなり、強化繊維層がばらばらになって形態を保持することができず、取り扱いできなくなる問題がある。
【0006】
また、プリプレグに切れ目を入れることで面内に自由端を形成し、賦形性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献2など)。しかしながら、この方法では、切れ目と切れ目周辺では賦形時の変形挙動が異なることから、プリプレグのように樹脂を含浸させたものでなければ皺が入り易いという問題がある。
【0007】
一方、樹脂の注入・硬化の工程を省略する手段として、強化繊維糸条に溶融含浸した後マトリックスとなる熱可塑性樹脂製の繊維を予め一体化して前記多軸ステッチ基材とした成形材料(例えば、特許文献3など)や、前記多軸ステッチ基材の層間に溶融含浸した後マトリックスとなる熱可塑性樹脂製のフィルムを挿入した成形材料(例えば、特許文献4など)が提案されている。
【0008】
かかる特許文献3に記載の方法では、多軸ステッチ基材における強化繊維の層の中にマトリックスとなる熱可塑性樹脂製の繊維を配置している成形材料であるため樹脂含浸性に劣り、樹脂の含浸には高い圧力が必要であるという問題があった。また、マトリックスとなる熱可塑性樹脂を強化繊維の中に含浸させる際には、含浸すべき箇所に存在する空気を効率的に系外に逃がす、すなわち空気の系外への経路を形成することが重要となるが、強化繊維に熱可塑樹脂製の繊維を予め一体化しているため、空気の系外への経路が狭く、加圧・加熱中に簡単に閉塞されてしまい、その結果、FRP中にボイドとして残存しやすいという問題があった。さらには、強化繊維に合成樹脂繊維を予め一体化する必要があるため、工程が増加することによりコストアップするという問題もあった。
【0009】
また、特許文献4に記載の方法では、強化繊維の層のそれぞれが厚く目付が大きいので、マトリックスとなる熱可塑性樹脂製のフィルムを溶融させた後、厚み方向に完全に含浸させるのが難しいという問題があった。
【0010】
なお、上記熱可塑性樹脂製の樹脂フィルムを用いた場合の問題に対して、強化繊維シートおよび熱可塑性樹脂の不織布を積層して加熱・加圧したプリプレグまたはセミプレグ状態の成形材料も提案されている(例えば、特許文献5など)。しかしながら、成形材料の面方向全面にわたって樹脂を強化繊維に含浸させてプリプレグまたはセミプレグ状態にしてしまうと、成形材料の取扱性・賦形性は大幅に低下する問題があった。
【0011】
すなわち、特許文献1〜5をはじめとした従来の技術では、優れた取扱性・樹脂含浸性・賦形性を有し、力学特性および品位に優れたFRPを生産性よく得ることができる成形材料、プリフォーム、および、それらからなるFRPは見出されておらず、かかる技術が渇望されている。
【特許文献1】特開2002−227066号公報
【特許文献2】特開昭63−267523号公報
【特許文献3】特開2001−073241号公報
【特許文献4】特開2004−346175号公報
【特許文献5】特開2003−165851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、優れた取扱性、樹脂含浸性、および賦形性を有し、力学特性および品位の優れたFRPを生産性よく得ることができる成形材料、プリフォーム、およびそれらを用いたFRPを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を達成するため、本発明は以下の構成を採用する。すなわち、
(1)多数本の強化繊維糸条が並行に引き揃えられたシートの複数層が、積層されて積層体を構成し、該積層体が一体化された成形材料であって、下記(イ)〜(ニ)の要件を満足することを特徴とする成形材料。
(イ)少なくとも前記シート間に複合材料のマトリックスを構成する第1の熱可塑性樹脂を成分とする帛体が配置され、
(ロ)前記積層体が第2の熱可塑性樹脂を成分とするステッチ糸および/または第1の熱可塑性樹脂を成分とする帛体により一体化されており、
(ハ)前記積層体を構成する強化繊維が並行に引き揃えられたシートに、強化繊維糸条を横切る方向への切り込みが前記シートの全面に配され、前記積層体を構成する強化繊維糸条の繊維長Laが10〜300mmの有限長にて切断されているシートを含み、
(ニ)前記積層体を構成する強化繊維糸条の少なくとも50%以上が、前記積層体を構成する強化繊維糸条の繊維長Laが10〜300mmの有限長である。
(2)
前記積層体を構成するシートのそれぞれが、強化繊維糸条が交差するように多軸配向にて積層されて積層体を構成しており、その配向する軸数をn軸、繊維長Laが10〜300mmの有限長にて切断されている強化繊維糸条の成形材料中の割合をN%とするとき、n,Nが、下記式の関係を満たす前記(1)に記載の成形材料。
(100−100/n)≦N
(3)前記積層体を構成するシートを、厚み方向25〜75%にある第1の熱可塑性樹脂を成分とする帛体を境に、第1の部分積層体、第2の部分積層体としたとき、第1の部分積層体、および、第2の部分積層体のそれぞれに厚み方向に貫通する切り込みが全面に渡って配され、第1の部分積層体、および、第2の部分積層体の切れ込みは、厚み方向の投影面上で重ならない前記(1)または(2に記載の成形材料。
(4)前記積層体を構成する全てのシートに、シート毎に厚み方向に貫通する切り込みが全面に渡って配され、隣接するシートの切り込みが、厚み方向の投影面上で重ならない前記(1)〜(3)のいずれかに記載の成形材料。
(5)前記シートの全面に強化繊維糸条を横切る方向への断続的な切り込みから構成される複数列が並行して配列しており、前記切り込みの個々のものは、切り込みの長さLbが1〜100mmである前記(1)〜(4)のいずれかに記載の成形材料。
(6)前記切り込みと前記ステッチ糸が延在する方向の直交方向とがなす角度θにおいて、成形材料の長手方向に並行するステッチ糸の間隔Wbと切り込みの長さLbとが|cosθ|<(Wb/Lb)であり、かつ、成形材料の長手方向に連続してあるステッチ糸を実質的に切断しない前記(1)〜(5)のいずれかに記載の成形材料。
(7)前記第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、(Tm1−150)≦Tm2≦(Tm1−20)の関係を満足する前記(1)〜(6)のいずれかに記載の成形材料。
(8)前記第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と前記第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、(Tm2−150)≦Tm1≦(Tm2−20)の関係を満足する前記(1)〜(6)のいずれかに記載の成形材料。
(9)前記第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と前記第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、(Tm2−20)<Tm1<(Tm2+20)の関係を満足する前記(1)〜(6)のいずれかに記載の成形材料。
(10)前記シートにおける、強化繊維の目付が50〜350g/mの範囲内であり、前記帛体の目付が15〜250g/mの範囲である前記(1)〜(9)のいずれかに記載の成形材料。
(11)前記(1)〜(10)のいずれかに記載の成形材料の1ないし複数枚が積層され、シングルコンター形状またはダブルコンター形状に賦形されていることを特徴とするプリフォーム。
(12)シングルコンター形状またはダブルコンター形状に賦形された箇所において、成形材料を構成する各シートの強化繊維糸条方向のそれぞれの断面における円弧の長さLcと繊維長LaがLc>Laである前記(11に記載のプリフォーム。
(13)前記(1)〜(11)のいずれかに記載の成形材料またはプリフォームを用いて成形されたことを特徴とする繊維強化樹脂。
【発明の効果】
【0014】
本発明の成形材料によれば、マトリックスとなる熱可塑性樹脂から構成された帛体を強化繊維糸条からなるシートの間に配置して積層体を構成し、該積層体をステッチ糸および/または第1の熱可塑性樹脂を成分とする帛体で一体化しているので、プリフォームやFRPの成形作業において、基材を積層したりマトリックス樹脂を注入したりする必要がなく、成形作業が簡易になり、短時間でかつ精度良く行うことができる。
また、積層体の層間に配置された帛体が溶融することで、積層体の層間においてせん断変形し易い態様となるうえ、切り込みにより強化繊維糸条が所定長に切断されていることで、積層体の各シートの面内において進展変形し易い態様となり、プリフォームやFRPの成形において優れた賦形性を発現させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の成形材料は、多数本の強化繊維糸条が並行に引き揃えられたシートの複数層が、積層されて積層体を構成し、該積層体が一体化された成形材料であって、下記(イ)〜(ニ)の要件を満足するものである。
(イ)少なくとも前記シート間に複合材料のマトリックスを構成する第1の熱可塑性樹脂を成分とする帛体が配置され、
(ロ)前記積層体が第2の熱可塑性樹脂を成分とするステッチ糸および/または第1の熱可塑性樹脂を成分とする帛体により一体化されており、
(ハ)前記積層体を構成する強化繊維糸条が並行に引き揃えられたシートが、強化繊維糸条を横切る方向への切り込みが前記シートの全面に配され、前記積層体を構成する強化繊維糸条の繊維長Laが10〜300mmの有限長にて切断されているシートを含み、
(ニ)前記積層体を構成する強化繊維糸条の少なくとも50%以上が、前記積層体を構成する強化繊維糸条の繊維長Laが10〜300mmの有限長である。
【0016】
本発明の成形材料を構成するシートは、多数本の強化繊維糸条を並行するように引き揃えてなる強化繊維糸条群を含むものである。かかるシートは、強化繊維糸条群のそれぞれが互いに接着して結合され、一枚のシートとして取り扱えるものに限定されるものでなく、多数本の強化繊維糸条が並行するように配置されただけの見かけ上のシートであってもよく、また、並行するように配置された強化繊維糸条群のそれぞれ、ないし、一部において間隙を有するものであってもよい。
【0017】
ここで、並行に引き揃えるとは、隣接する強化繊維糸条同士が、実質的に交差または交錯しないように並べて配置することである。より好ましくは隣接する強化繊維糸条同士が連続的に強化繊維糸条幅の20〜200%の一定間隔を隔てて配置し、または、強化繊維糸条幅を超えない範囲で一定幅重複して配置することである。なお、実質的に交差または交錯していないとは、強化繊維糸条に蛇行があって幅方向に重なっている部分が生じても、隣接する強化繊維糸条のいずれか細い方の繊維糸条幅を超えて重なっていない場合はこれに含まない。また、ここでの一定とは、幅や間隔がその平均値から±50%の範囲にあることである。さらに好ましくは、隣接する2本の強化繊維糸条を100mmの長さの範囲で直線に近似したとき、近似した直線が形成する角度が5°以下となるよう配置することであり、さらに好ましくは2°となるよう配置することである。なお、糸条を直線に近似するとは、100mmの長さの範囲の起点と終点とを結んで直線を形成することである。
【0018】
かかる態様を満足するシートを形成する手段として、例えば、強化繊維糸条を巻回したボビンから直接、強化繊維糸条を引き出して並行するように配列してもよいし、複数本のボビンから同時に引き揃えて引き出して配置してもよく、また、複数本の強化繊維糸条を予め引き揃えてテープ状またはシート状に加工したものを、別途配置してもよく、さらに、複数層の全てが同様の手段にて形成されてもよく、また、それぞれの層が上記の異なる手段にて形成されてもよい。
【0019】
本発明の成形材料を構成する積層体は、前記シートの複数層、すなわち、少なくとも2層以上が積層されてなるものであって、その層数、積層角度は特に限定されるものではない。かかる積層体の構成として、例えば、[0°]n、[0°/90°]、[+45°/−45°]、[0°/±60°]、[−45°/0°/+45°/90°]、等の構成があるが、賦形性を重視したい場合は、強化繊維糸条の配向が互いに直交する2軸配向積層(例えば、[0°/90°]、[+45°/−45°])が好ましく、かかる構成であると積層体の面内において優れたせん断変形を発現することができ、得られるFRPの異方性を小さくしたい場合は、強化繊維糸条を多方向に配向する(例えば、[0°/+45°/90°/−45°/・・・])ことで、FRPに疑似等方性を持たせることもでき、プリフォームないしFRPを生産性よく得たい場合は、より多層に積層することで、積層工程における省力化に貢献できる。
【0020】
ここで、本発明の積層体は、一方向積層体と交差積層体とに分類されるが、それぞれ以下の通りに定義する。一方向積層体は、積層体を構成するシートのそれぞれが、強化繊維方向が同一となるように積層されているもの(例えば、[0°]n、[90°]n、等)であって、それぞれのシートの強化繊維方向がなす角度が±5°以内である。また、交差積層体とは、積層体を構成するシートのそれぞれが、強化繊維方向が交差するように積層されているもの(例えば、[0°/90°]、[+45°/−45°]、等)である。なお、本発明において、強化繊維方向が交差するとは、隣接するシートのそれぞれの強化繊維方向がなす角度が±5°以上であって、好ましくは、30°〜60°の範囲内である。ここで、積層体に含まれる強化繊維層の配向の方向の数が、n個である場合、n軸配向であると表現する。すなわち、交差積層体とは2軸配向以上の積層体である。さらに、[−45/0/+45/90]、[0/±60]といった等方積層が好ましく、より好ましくは、[−45/0/+45/90]s、[0/±60]sといった対称積層である。かかる態様とすることで、FRPを均質な物性とし、熱応力による反りの発生を抑制することができる。なお、対称積層においては、折り返しとなる積層厚み方向中央部の2層において、繊維方向が同一となるが、この場合の2層は、上記定義の例外である。 前記(イ)について、少なくとも前記シート間に複合材料のマトリックスを構成する第1の熱可塑性樹脂を成分とする帛体が配置されていることで、成形材料の優れた樹脂含浸性および第1の賦形性を発現することができる。本要件において「複合材料のマトリックスを構成する熱可塑性樹脂」とは、成形して複合材料となった後、そのマトリックスとなる熱可塑性樹脂を示す。成形材料の成形時において、マトリックスとなる熱可塑性樹脂の溶融体を強化繊維糸条に含浸させるには、成形材料内に存在する空気を効率よく系外に逃がすことが重要であり、空気を逃がすための系外への経路を形成することが重要となる。かかる経路を形成できなければ、得られたFRP中において空気(ボイド)が残存し、FRPの品位や力学特性を低下させる原因となる。前記(イ)の態様は、少なくともシート間に帛体を配置することで、成形材料の平面方向の全面に延在するシートおよび/またはシートにおける強化繊維糸条の単糸同士の隙間を系外への経路とすることで、成形中に空気の系外への経路が閉鎖されてしまうのを回避することができる。すなわち、本発明は前記(イ)の態様を満足することで、低い圧力においてもマトリックスとなる熱可塑性樹脂の溶融体を容易に含浸でき、FRPをボイドなく成形することが可能となる。
【0021】
また、前記(イ)は、成形材料に第1の賦形性をもたらす。かかる第1の賦形性は、成形材料を加熱してFRPを成形する際に、層間に配置された帛体が溶融することで層間にスペースが形成され、隣接するシート同士が層間おいてせん断変形し易い態様になることをいう。詳しくは、成形材料を加熱しFRPを成形する際において、層間に配置された帛体が溶融することで、後述のステッチによる拘束が緩和されるか、もしくは、ステッチ糸までもが溶融することで、各層間における変形抵抗が低減し、僅かに外力を加えることでも容易にせん断変形可能な状態とされる。すなわち、第1の賦形性とは、成形材料の層間におけるせん断変形のことであり、成形材料の厚み方向における賦形性のことを示す。かかる第1の賦形性を有することで、特に円筒やU型、等のシングルコンター形状において、成形材料の厚み方向に発生する内外周長差を層間のせん断変形により吸収され、強化繊維糸条の突っ張りや皺の発生を抑制し、曲面部に沿った良好な品位のFRPを成形することができる。これは、成形材料の厚みが大きくなるほど、より効果的に機能する。なお、本発明でいうシングルコンター形状とは、曲面形状の種類を指し、積層体の表面を二次曲面として取り出してきた際、該二次曲面と接する接平面を仮定すると、該接平面と該二次曲面が1本の接線を有し、かつ、その接線が直線である二次曲面(すなわち、面内の一軸方向にのみ曲率変化がある面:微分幾何学上、可展面と呼ばれる曲面)をいい、具体的には円錐形状や円筒形状、それらの一部が該当する。
【0022】
なお、ここでいう帛体とは、一枚として取り扱えるものであれば、その形態は特に制限されるものではなく、不織布、フィルム、マット、メッシュ、織物、編物、等の種々の形態から選択することができる。特に不織布の形態であると、材料として安価である点、適度な変形性を有する点、成形材料の製造工程において、ニードルの通過性に優れる点、異方性が小さく取扱性に優れる点、ステッチ時のニードルへの負荷を小さくできる点、などから好ましい。
【0023】
前記(ロ)について、本発明の成形材料において、積層体は第2の熱可塑性樹脂を成分とするステッチ糸および/または第1の熱可塑性樹脂を成分とする帛体により一体化されていることで、成形材料の優れた取扱性と、FRPを成形する際の優れた含浸性をもたらすものである。
【0024】
本発明の成形材料の各層に用いられている多数本の強化繊維糸条が並行に引き揃えられたシートは、織物の様な組織が形成されていないため、何らかの拘束を付与しない限り、それぞれの構成要素が容易に分離してしまう。その機能を担うのが、第1の熱可塑性樹脂を成分とする帛体、および/または、第2の熱可塑性樹脂を成分とするステッチ糸である。これにより、成形材料としての取扱が可能となるうえ、外部との干渉により発生する強化繊維糸条の配向ズレや、目曲り、屈曲といった、取扱に際する外乱の影響を最小限に留めることができる。
【0025】
また、本発明の成形材料が前記(ロ)におけるステッチ糸により一体化されている態様を取ることで、FRPを成形する際に優れた樹脂含浸性をもたらす。かかる樹脂含浸性とは、前記(イ)におけるそれとは異なるものであり、次に詳述するとおりである。前記積層体の厚み方向にステッチ糸が貫通してあることで、成形材料の厚み方向に貫通孔が形成され、マトリックスとなる熱可塑性樹脂が含浸する際の樹脂流路として機能し、成形材料に優れた樹脂含浸性をもたらす。かかる貫通孔は、1層当たりの強化繊維目付が大きいほど効果的に機能し、すなわち、厚み方向への含浸距離がより長いほど、かかる態様は好適である。
【0026】
さらに、本発明の成形材料が多軸に積層されたものの場合、前記(ロ)におけるステッチ糸により一体化されている態様を取ることで、FRPを成形する際に優れた強化繊維糸条の真直性をもたらす。多軸成形材料を加熱加圧してFRPを成形する際において、積層体がステッチ糸にて拘束されていることで、多軸成形材料における強化繊維糸条の配向および真直性が、得られるFRPにおいても維持される。ステッチ糸が形成するループは、多軸成形材料において強化繊維糸条を物理的に規制する機能があることから、FRP成形時における成形圧や樹脂流動により誘発する強化繊維糸条の乱れを抑制することができる。
【0027】
前記ステッチ糸による一体化においては、成形材料の長手方向および幅方向のそれぞれにおいて貫通孔が4〜25列/25mmの範囲内で規則的に配列されていることが好ましい。より好ましくは、それぞれの方向において5〜13列/25mmの範囲内である。かかる範囲内にて貫通孔が配置されていると、ステッチ糸が強化繊維糸条を拘束してその配向方向(角度)、真直性を維持させること、強化繊維糸条の損傷を最低限に抑えること、FRPに成形する際の均一な賦形性を発現すること、さらには上述の樹脂含浸性を総合して、バランス的に勘案できることから好ましい。なお、長手方向と幅方向とで貫通孔を同一間隔に配置する必要はなく、FRPを成形する際の賦形性、樹脂含浸性の異方性、不均一性を嫌う場合は、同一間隔に配置することが好ましい。
【0028】
また、貫通孔は、成形材料の平面方向における密度が30,000〜250,000箇所/mの範囲内であるのが好ましい。より好ましくは60,000〜200,000箇所/m、さらに好ましくは65,000〜150,000箇所/mの範囲内である。前記貫通孔が4列/25mm未満であったり、30,000箇所/m未満であると、強化繊維糸条の拘束が緩くなることから取扱性に劣ったり、取扱時やFRP成形時において、強化繊維糸条の屈曲や目曲りを誘発したりする。そればかりか、前記貫通孔は、成形材料の厚み方向への樹脂の含浸流路として機能するため、その数が少なくなると樹脂含浸性に劣ったりする場合もある。一方で、前記貫通孔が25列/25mmを超えたり、250,000箇所/mを超えたりすると、樹脂含浸性には優れるが、ニードルにより強化繊維糸条が傷つけられる確率が高くなるほか、FRP内に含有されるステッチ糸の量が増加することから、力学特性に劣ったり、FRPの軽量化の効果を損なったりするうえ、強化繊維糸条の拘束が強くなり過ぎて賦形性に劣る場合がある。
【0029】
ここで、貫通孔の密度とは、100mm×100mmの正方形に切り出した成形材料から、ステッチ糸が厚み方向に貫通している貫通孔の数を1m当たりに比例換算したものをいい、貫通孔の数を数えることで容易に求められる。また、成形材料の長手方向または幅方向25mmあたりの貫通孔の列数とは、100mm×100mmの正方形に切り出した成形材料から長手方向または幅方向に関して、貫通孔が規則的に配列している列を数え、それぞれの数を1/4にした値の小数点以下1桁まで表したものを示す。貫通孔が規則的に配列しているかどうかの判断は、成形材料の当該方向において、互いに隣り合って存在する貫通孔25個の間の距離を求め、その平均値に対してそれぞれの距離の個別値が±10%以内であれば規則的と判断するものとする。なお、隣り合う貫通孔の距離のそれぞれが同一である必要はない。
【0030】
前記(ロ)について、本発明の成形材料は、第1の熱可塑性樹脂を成分とする帛体または第2の熱可塑性樹脂を成分とするステッチ糸の何れにて一体化されていてもよいが、FRPにおける力学特性、平滑性の観点からは、強化繊維糸条の損傷を最小限にできるという観点から、第1の熱可塑性樹脂を成分とする帛体により一体化されることが好ましく、成形材料の取扱性、形態安定性およびFRPの成形性の観点からは、第2の熱可塑性樹脂を成分とするステッチ糸にて一体化されていることが好ましい。
【0031】
第1の熱可塑性樹脂を成分とする帛体より一体化する態様としては、シート間に配置される第1の熱可塑性樹脂を成分とする帛体を熱融着または機械的に交絡させる等の手段により接着させる態様が挙げられるが、得られるFRPの表面品位、力学特性の観点から、前者が好ましい。一体化の範囲について、特に制限はないが、取扱性を考えた場合には前記シートの全面に渡って接着されていることが好ましく、最低条件として、成形材料としての形状を保持できること(持ち運びにおいて強化繊維糸条の配向が保持できる程度)である。かかる一体化の手段としては、例えば、帛体を含む成形材料をホットローラー、加熱プレス、などで圧熱処理する方法が挙げられ、間欠に連続処理ができるホットローラーによる方法が生産性の観点から好ましい。
【0032】
第2の熱可塑性樹脂を成分とするステッチ糸により一体化する態様としては、経編、緯編、タフティング、などが挙げられ、取扱性と生産性の両面から経編が好ましい。
【0033】
また、これら第1の熱可塑性樹脂を成分とする帛体と第2の熱可塑性樹脂を成分とするステッチ糸との両方により一体化された態様であると、とりわけ形態安定性に優れた成形材料とすることができる。かかる態様は、具体的には上述したそれぞれの手段の組合せであって、例えば、ニッティングにおいてニードルを貫通させる際に、積層体におけるシートと帛体を交絡により機械的に結束すると同時にステッチ糸を組織させる方法であったり、積層体をホットローラーにて融着処理した後、ステッチ糸にて一体化する方法であったりが挙げられる。特に、工程を簡略にできる前者が、生産性の観点から好ましい。
【0034】
前記(ハ)について、前記積層体を構成する強化繊維糸条が並行に引き揃えられたシートが、強化繊維糸条を横切る方向への切り込みが前記シートの全面に配されていることで、本発明の成形材料における第2の賦形性を発現することができる。ここで、第2の賦形性とは、前記シートの全面に配された切り込みにより、成形材料を所定の形状に賦形させようとした際に、切り込み箇所が開口し、前記シートの平面方向において進展変形すること、あるいは、し易い態様にあることである。
【0035】
かかる進展変形とは、前記シートの切り込み箇所において、強化繊維糸条の切断端が移動する(開口、横滑り、交差、等)ことにより発生する強化繊維糸条自体の変形であり、これに起因する成形材料の変形に相当するものである。FRPに好適に用いられる強化繊維として、炭素繊維やガラス繊維が挙げられるが、これら強化繊維は伸度が小さいため、シングルコンター形状またはダブルコンター形状に賦形させようとした場合、強化繊維糸条が突っ張ってしまい、所望の形状に沿わすことができなかったり、皺が生じたりといった問題がある。シングルコンター形状であれば、上述した第1の賦形性の発現により、かかる問題を緩和することも可能であるが、ダブルコンター形状となると、成形材料の厚み方向における賦形性のみでは形状に沿わすことができず、成形材料の平面方向の変形が必要となる。仮に成形材料の平面方向にてせん断変形したとしても、それには限界があり、強化繊維糸条の配向軸が増えるほどその変形量も制限されるため、多軸配向の材料においてその効果は望めない。一方、前記(ハ)の態様を取る成形材料であると、強化繊維糸条が切断されているため、ダブルコンター形状に賦形させようとした場合にも、切り込み箇所が開口することで、強化繊維糸条が突っ張る心配はないし、多軸配向されていても強化繊維糸条がそれぞれ自由端を有することで、強化繊維糸条の配向方向への拘束がないため、せん断変形をも発現し易い態様であるといえる。
【0036】
ここで、本発明で云うダブルコンター形状とは積層体の表面を二次曲面として取り出してきた際、該二次曲面上の点であって、該点を通るどのような平面を参照しても、該平面と該二次曲面の交線のうち該点を通る交線が曲線となる部分を少なくとも一部に含む曲面形状を指す。具体的には鞍型、半球形状や凹凸部を有する平板などが該当するが凹凸部のない平板、円錐形状や円筒形状は該当しない。
【0037】
また、前記(ハ)は、前記積層体を構成する強化繊維糸条の繊維長Laが10〜300mmの有限長にて切断されているものを含むことである。より好ましくは、30〜100mmの範囲内の有限長にて切断されているものを含むことである。かかる有限長にて強化繊維糸条が切断されているものを含むことで、成形材料の取扱性と賦形性を両立させることができる。強化繊維糸条の長さが10mm未満のものしか含まない場合には、強化繊維糸条の切断片のそれぞれが、細かくなり過ぎて、成形材料の取扱時に切断片が成形材料から脱落し易くなるうえ、僅かな力が加わっただけでも変形を誘発してしまうため、成形材料として取り扱うことすら困難となる。一方、強化繊維糸条の長さが300mmを超えるものしか含まない場合には、強化繊維糸条の切断端が少なくなることから、切断片が脱落することはなくなるものの、成形材料の平面方向における自由端の密度が小さくなることから、任意の形状に賦形させようとした時に、それぞれの間隔が大きすぎて所望の箇所において強化繊維糸条が移動せず、賦形が困難であり、局所的に厳しい形状であれば、かかる箇所において自由端が存在せず、上述の第2の賦形性が発現することすらない。また、FRP成形時において、断片化された強化繊維糸条が流動することで、第2の賦形性にて発生した開口に流入して補填するが、この流動性を低下させることにも繋がる。
【0038】
なお、切断された強化繊維糸条の繊維長Laとあるが、強化繊維糸条を並行に引き揃えてシートとした以降は、個々の強化繊維糸条の区別が難しいことから、厳密には、強化繊維糸条を構成する単糸のそれであり、本明細書中にて強化繊維糸条という場合においては、かかる意を含むものとする。
【0039】
前記(ニ)について、前記積層体を構成する強化繊維糸条の少なくとも50%以上が、前記積層体を構成する強化繊維糸条の繊維長Laが10〜300mmの有限長である。
【0040】
かかる割合の強化繊維糸条が切断されていることで、成形材料における賦形性を効果的に引き出すことができる。
【0041】
上述した通り、本発明の成形材料の賦形性は、第1の賦形性である層間のせん断変形と第2の賦形性である層内の進展変形との相乗効果であって、とりわけ面内方向の賦形性に関しては、第2の賦形性の寄与が大きい。
【0042】
しかし、連続繊維から構成される成形材料が、面内において全くの賦形性を備えていないわけではない。例として、二方向性織物であって、織物を非繊維方向に引き延ばした場合に、組織が正方形から菱形に変形する現象がそれである。この現象を本明細書では、面内のせん断変形と呼ぶ。
【0043】
かかる面内のせん断変形は、面内における構成要素の形態変化であって、強化繊維束の集束、間隙の閉塞、組織の緻密化により、歪みを吸収することで賦形性をもたらす。また、変形には限界があり、空間が密になった状態(面内での変形の余地がなくなった状態)であって、理論的には、強化繊維束が真円状に集束し、密接している状態である。逆を云えば、面内における変形の余地が多ければ多いほど変形量を大きくでき、賦形性に優れたものとできる。
【0044】
すなわち、前記(ニ)の本質は、連続繊維束と非連続繊維束とが共存した状態において、強化繊維方向に秩序を持たない非連続繊維束が、面内における変形の余地として存在することで、面内のせん断変形特性を向上させることである。本発明では、鋭意検討した結果、積層体を構成する強化繊維糸条の少なくとも50%以上が非連続繊維束であることで、前記効果を十分に発現できることを見出した。
【0045】
ここで、成形材料に切り込みを設ける方法として、カッターを用いて手作業や自動裁断機により切り込みを挿入する方法(a法)、所定の位置に刃を有する打ち抜き刃により打ち抜く方法(b法)、および所定の位置に刃を有する回転ローラを介して連続的に切り込みを挿入する方法(c法)、等が挙げられる。いずれの方法においても予めシートが積層され一体化された状態の成形材料を、成形材料の厚み方向に貫通するように切り込みを挿入することに変わりはない。切り込みのパターンが複雑である場合や、切り込みの位置を厳密に制御したい場合は、前記a法が好ましく、生産効率を考慮して大量に製造する場合には、前記b法が好ましく、より好ましくは前記c法である。
【0046】
本発明の成形材料は、前記積層体を構成するシートのそれぞれが、強化繊維糸条が交差するように多軸配向にて積層されて積層体を構成しており、その配向する軸数をn軸、繊維長Laが10〜300mmの有限長にて切断されている強化繊維糸条の成形材料中の重量割合をN%とするとき、n、Nが、下記式の関係を満たすことが好ましい。
【0047】
(100−100/n)≦N ・・・(1)
(1)式を満たすことにより、成形材料における賦形性、力学特性をバランス良く制御することができる。かかる(1)式を満たす具体的な態様として、次に示す2態様がある。それぞれの態様で期待できる効果については、以下に詳述するが、目標とする成形体の形状や設計によって、適宜使い分ければよい。 かかる(1)式を満たす第1の態様としては、強化繊維糸条が(0°/90°)に配向された成形材料の0°方向に沿って切り込みを挿入し、90°シートの強化繊維糸条を全面に渡って繊維長Laが10〜300mmの有限長にて切断したものを挙げることができる。この場合、nは2軸であって、N≧50となる。すなわち、0°方向に切り込みが挿入されるということは、0°シートの強化繊維糸条は実質的に切断されず、90°シートのみが切断されたものとなる。かかる場合において、0°、90°の各シートの単位面積あたりの重量(の合計)が等しい場合,N=50となり、切断される90°のシートの単位面積あたりの重量(の合計)が切断されない0°のシートの単位面積あたりの重量(の合計)より大きければ、50<Nとなる。
【0048】
これより得られる成形材料は、90°シートの強化繊維糸条のみが切断されているため、第2の賦形性についても90°シートのみに付与されることになるが、見方を変えれば、90°方向にのみ曲率を必要とする形状であれば賦形が可能であって、0°方向においては連続繊維と同等の強度発現を見込める。これは、繊維配向軸が増えても同様であって、積層体における特定配向のシートの強化繊維方向に平行な切り込みを挿入することにより得られる。すなわち、積層体における特定配向のシートを除く全てのシートが、強化繊維糸条を横切る方向への切り込みが全面に配されていることで、成形材料の賦形性に異方性を選択的に付与することができ、かつ、FRPの力学特性を最大限に残存させることができる。
【0049】
上記(1)式を満たす第2のとしては、強化繊維糸条が(0°/90°)に配向された成形材料の45°方向に沿って切り込みを挿入したものである。この場合もnが2軸であって、N≧50となるが、切り込みが45°方向に挿入されていることから、0°シートおよび90°シートのいずれの強化繊維糸条も切断される。かかる第2の態様においても、繊維長Laが10〜300mmの有限長にて切断されている強化繊維糸条の重量割合Nが、(1)式を満たすことが好ましい。
かかる成形材料は、積層体を構成する全てのシートに幾分かの切り込みを有しており、全てのシートにおいて第2の賦形性を幾らか発現するものである。あるいは、第2の賦形性の効果が十分でなくとも、近傍に自由端を有する強化繊維糸条が存在することで、上述した層内のせん断変形を発現するため、成形材料としての賦形性は十分に確保される。また、連続繊維の残存する割合ないし繊維長Laをシート毎に制限を持ってコントロールできるため、FRPにおける物性の異方性についても加味した処方を取ることができる。すなわち、成形材料における物性を均質にすることもでき、異方性を持たせることもできるが、とりわけ、成形材料の全シートのバランスを鑑みるに好ましい態様である。よって、好ましくは、繊維長Laが10〜300mmの有限長にて切断されている強化繊維糸条の割合が、各シートともN%以上にて同じであり、これより得られる成形材料は均質性に優れる。
【0050】
本発明の成形材料は、前記積層体を構成するシートを、厚み方向25〜75%にある第1の熱可塑性樹脂を成分とする帛体の特定の1層を境に、第1の部分積層体、第2の部分積層体としたとき、第1の部分積層体、および、第2の部分積層体のそれぞれに厚み方向に貫通する切り込みが全面に渡って配され、第1の部分積層体、および、第2の部分積層体の切れ込みは、厚み方向の投影面上で重ならないことが好ましい。
【0051】
成形材料の厚み方向とは、成形材料を成形するシートの積層方向である。
【0052】
これら、第1の部分積層体および第2の部分積層体のそれぞれに、厚み方向に貫通する切り込みが全面に渡って配され、第1の部分積層体、および、第2の部分積層体の切れ込みは、厚み方向の投影面上で重ならないものである。部分積層体を厚み方向に貫通するとは、一度に挿入される切り込みが部分積層体を貫いていることであって、この切り込みにより部分積層体を構成するシートの全てに切り込みが入れられる。この時、境にある帛体には切り込みが挿入されていても、いなくてもよいが、成形材料における賦形性を重視する場合は、挿入されている態様であり、成形材料における取扱性を重視する場合は、挿入されていない態様である。
【0053】
また、第1の部分積層体、および、第2の部分積層体の切れ込みは、厚み方向の投影面上で重ならない。ここで、厚み方向の投影面上で重ならないとは、切り込みが全く重ならない場合、交差する方向の切り込みが点で重なる場合は勿論であり、平行する方向の切り込みが切り込み長さLbの10%以下で重なる場合をいう。
【0054】
このような成形材料は、成形材料の厚み方向に切り込みを分散させることができ、成形材料における第2の賦形性を厚み方向においても均質化する効果がある。第2の賦形性は、強化繊維の切断端の開口であり、これが厚み方向に分散するということは、開口が一点に集中しないことを指し、FRPにおける表面品位の向上が見込まれる。別の観点からは、レジンスポットの形成、強化繊維の切断端における応力集中、該部での損傷の伝播を抑制できることから、FRPにおける力学特性の向上においても有利である。
【0055】
かかる効果から、境となる帛体は厚み方向に40〜60%に位置することが好ましく、さらに好ましくは50%である。
【0056】
ここで、かかる態様の成形材料を得る手段としては、基本的には前記a法、b法、c法と同様であって、刃と盤面のクリアランスおよび押圧にて、刃が一度に成形材料を貫通しないように制御するものである。好ましくは、前記b法ないしc法であって、これら方法において、片面から第1ないし第2の部分積層体に切り込みを挿入した後、もう一方の面から第1ないし第2の部分積層体に切り込みを挿入する方法である。かかる方法であると、連続して切り込みを挿入することが可能であり、生産安定性に優れるため、工業的な製造に向いている。なお、本発明の成形材料は、少なくともシート間に帛体が配置されているため、強化繊維糸条を切断する際に、隣接する帛体の厚みが猶予厚となり、切り込みをシート厚よりも深く挿入することができ、強化繊維の意図せぬ切り残しをごく僅かに抑えられる。このことから、本発明の成形材料は、切り込みの深さを制御するにおいて、好適な構成であり、すなわち、切り込み深さを制御し易い。
【0057】
本発明の成形材料は、前記積層体を構成する全てのシートに、シート毎に厚み方向に貫通する切り込みが全面に渡って配され、隣接するシートの切り込みが、厚み方向の投影面上で重ならないことが好ましい。
【0058】
かかる態様において、シート毎に厚み方向に貫通する切り込みが全面に渡って配されていることで、シート毎に物性をコントロールすることが可能であって、所望の物性を有する成形材料をテーラーメイドで得ることができる。上述した部分積層体単位での態様に比べ、自由度が高く、得られる効果もより高められたものである。
【0059】
ここで、かかる態様の成形材料を得る手段としては、部分積層体に切り込みを入れる方法と基本的に同様であって、成形材料の構成によって若干の応用を要する。
【0060】
例えば、2軸積層体(単軸配向、2軸配向)を考えた場合、成形材料の片面からシートの一層を貫通する切り込みを挿入した後、もう一方の面からもう一方のシートの厚み方向に貫通する切り込みを挿入することで得られる。
【0061】
別法1として、2軸配向の多層積層体(但し、交互積層されているものに限る)を考えた場合、2軸のうちのいずれか一方の強化繊維方向と平行な切り込みを成形材料の厚み方向に貫通して挿入することで、実質的に一方向のみの強化繊維糸条が切断できる。さらに、切断されていないもう一方の強化繊維方向と交差する角度にて、かつ、先に挿入した切り込みと重ならないように、厚み方向に貫通して切り込みを挿入することで、残るもう一方の配向の強化繊維糸条を切断することでき、目的の成形材料を得られる。
【0062】
別法2として、4軸配向の4層積層体を考えた場合、4層積層の2層目のシートと3層目のシートとに挟まれる帛体を境に、第1の部分積層体、第2の部分積層体として考える。この時、第1の部分積層体および第2の積層体のそれぞれは、2軸配向の2層積層体であって、上記2軸配向の多層積層体と同様の方法にて、シート毎に厚み方向に貫通する切り込みの入った部分積層体を得ることできる。これより得られる成形材料は、必然的にシート毎に厚み方向に貫通する切り込みの入った成形材料である。
【0063】
上記態様の成形材料を作製する手段としては、上述した通りである。適用される構成としては、2軸配向の多層積層体、3軸配向の3層ないし4層積層体、4軸配向の4層積層体である。なお、2軸の多層積層体および4軸の4層積層体の場合、隣接するシートの強化繊維配向が交差するように積層されている必要がある。
また、本発明における成形材料は、前記切り込みが、成形材料を構成するシートのそれぞれにおいて、各シートにおける強化繊維糸条の配向方向に対する切り込みの角度が同一であることが好ましい。
【0064】
成形材料における賦形性の発現は、上述した通りであるが、中でも、第2の賦形性は、切り込みの開口による進展変形であり、切り込みの態様が変形挙動に大きく寄与する。すなわち、積層体における各層において切り込みが異なることは、各層における変形挙動が異なることを意味し、進展変形において層間格差を生じることに繋がる。加えて、FRPの成形における流動性にも格差を生じる。よって、各シートにおける切り込みの角度は、強化繊維糸条に対し同一の角度に挿入されていることが好ましい。さらに好ましくは、切り込み長さおよび間隔についても同一であるとよい(切り込みの態様について、詳細は後述する)。これにより、各シートにおける賦形性および流動性を略均一なものとでき、FRPにおいて開口が略均一に分布することから、切り込みにより生成される強化繊維束端部の局所化が緩和され、力学特性の向上も見込まれる。
【0065】
ここで、各シートにおける強化繊維糸条の配向方向に対する切り込み角度が同一であるとは、各シート間の切り込みが、それぞれ±2°の範囲内であることを意味し、該範囲内であれば同一の角度とみなす。
【0066】
また、前記切り込みと強化繊維方向とがなす角度の絶対値が2〜25°の範囲内であることが好ましい。
【0067】
切り込みと強化繊維方向とがなす角度が小さくなると、所定の切り込みの長さに対して、実際に切断される強化繊維量が少なくなるが、言い換えれば、狙いの切断長に対して切り込みの長さを長くできるため、切り込みを安定して挿入するにおいては有効である。しかし、切り込みと強化繊維方向とがなす角度が2°よりも小さくなると、切り込みの制御が難しくなり、すなわち、切り込みを入れる際、強化繊維が刃から逃げ易く、成形材料において強化繊維の意図せぬ切り残しが増えるため、生産安定性に欠ける場合がある。一方、切り込み切り込みと強化繊維方向とがなす角度が25°よりも大きくなると、切り込みを挿入するにおいて、強化繊維を一気に分断するため、大きな力を加える必要があり、結果的に刃の耐久性が低下する場合がある。
【0068】
別の観点からは、切り込みの角度が小さくなるにつれ、ひとつの切り込みにて切断される強化繊維の絶対量を小さくすることができる。切り込みにより生成された強化繊維束端部は、応力伝達を阻害し、弾性率の低下や応力集中による破壊がおこる可能性が高いため、これらを小サイズ化できる上記態様であると強度向上効果が見込まれる。一方で、切り込みの角度が小さくなるということは、所望の繊維長Laを得るにおいて、切り込み同士の間隔を密に設定する必要が出てくるため、成形材料の取扱性を低下させることもまた然りである。よって、成形材料の生産性、取扱性およびFRPの力学特性を鑑みて、上記切り込みの角度の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、10〜20°の範囲内である。
【0069】
以下、本発明の成形材料について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0070】
図1は、本発明の成形材料の一実施態様を示す概略斜視図である。
【0071】
図1に示すとおり、成形材料1は、多数本の強化繊維糸条2を並行に引き揃えてなるシートの複数層からなり、強化繊維糸条2を0°に並行に引き揃えたシートからなる第1層と、強化繊維糸条2を90°に並行に引き揃えたシートからなる第2層と、強化繊維糸条2をα°に並行に引き揃えたシートからなる第3層と、強化繊維糸条2を−α°に並行に引き揃えたシートからなる第4層(最表層)との計4層が積層されて、それぞれの層間には帛体(不織布)3がそれぞれ配置されて積層体を構成し、該積層体の厚み方向に貫通して存在するステッチ糸4により一体化されている。また、成形材料1を構成する第1〜4層のそれぞれには、シート全面に切り込み(図示しない)が配されており、それぞれのシートを構成する強化繊維糸条を切断している。なお、図1におけるステッチ糸の組織は、鎖編と1/1トリコット編とを複合した変則1/1トリコット編であるが、鎖編や1/1トリコット編でもよく、積層体を厚み方向に貫通し、かつ、一体化できれば所望の組織とすることができる。図1のように、第1層(最表層)において0°に強化繊維糸条が配向されてある場合は、トリコット編のような成形材料の長手方向と交差する方向にもステッチ糸を有する組織とすることで、強化繊維糸条の表面からの脱落を防止できることから好ましい。ここで、第1層における強化繊維糸条方向(0°方向)5、ステッチ糸4が延在する方向6、および、成形材料の長手方向7とはそれぞれ同一の方向であり、以下いずれの方向をいう場合においてもこれに付随するものとする。
【0072】
ここで、本発明の成形材料は、前記シートの全面に強化繊維糸条を横切る方向への断続的な切り込みから構成される複数列が並行して配列しており、前記切り込みの個々のものは、切り込みの長さLbが1〜300mmである。
【0073】
かかる態様について、図2を参照しながらより詳細に説明する。
【0074】
図2は、本発明の成形材料の一実施態様を示す概略平面図である。
【0075】
図2において、成形材料8は、強化繊維糸条9を−45°に並行に引き揃えたシートからなる第1層と、強化繊維糸条9を+45°に並行に引き揃えたシートからなる第2層との計2層が積層され、第1層と第2層との層間には帛体(図示しない)が配置され、鎖編にて組織されるステッチ糸10により一体化されている。また、成形材料8を構成する第1〜2層のシート全面には、90°方向への切り込み11が配されている。
【0076】
本発明の切り込み11は、強化繊維糸条を横切る方向への断続的な切り込みから構成される列12が複数列並行して配列している。さらに、かかる切り込み11の個々のものは、切り込みの長さLbが1〜100mmの範囲内であることが好ましい。
【0077】
切り込みの長さLbが短すぎると、強化繊維糸条の切断片が細かくなり過ぎることから、強化繊維糸条が成形材料から脱落し易くなったり、成形材料として取り扱うことが困難であったりし、成形材料の生産安定性の観点からは、切り込みの制御が難しくなり、意図せぬ切り残しが増える可能性があり、製造において膨大な切り込みを挿入する必要が出てくることから、多大な製造時間を要する懸念もある。一方、切り込みの長さLbが長すぎると、強化繊維糸条の切断片が大きくなり過ぎて、任意の形状に賦形させようとした際、成形材料の平面方向において賦形性が均一に発現しない場合や、開口が極端に大きくなり、FRPとしたときの表面品位の低下、開口部における応力集中や樹脂リッチの形成による、力学特性の低下を引き起こす場合がある。すなわち、切り込みの長さLbが、かかる範囲内にて共存されていることで、成形材料の取扱性および賦形性を互いに損なうことなくバランスすることができ、また、成形材料の生産性においても優れたものとできる。かかる観点から、より好ましくは、切り込みの長さLbは3〜10mmの範囲内である。
【0078】
なお、図2においては、切り込み11は90°方向に一定の間隔にて断続的に配置された列12を形成しており、かかる列は0°方向に一定の間隔を有して並行に配置され、該列12に並行して隣接する列13、14のそれぞれの切り込みは、列12と互い違いに、かつ、互いの切り込みが一部重複するように配置されている。
【0079】
本発明において切り込みや、切り込みからなる列の配置パターンは特に制限されるものでないが、好ましくは前記態様である。かかる前記態様であると、シートを構成する強化繊維糸条の全てを確実に切断することができるうえ、多軸配向の材料において、一方向の切り込みにて各層の強化繊維糸条を切断する場合にも効率的に切断可能であることから、好ましい態様といえる。
【0080】
また、本発明の成形材料は、切り込みとステッチ糸が延在する方向の直交方向とがなす角度θにおいて、成形材料の長手方向に並行するステッチ糸の間隔Wbと切り込みの長さLbとが|cosθ|<(Wb/Lb)であり、かつ、成形材料の長手方向に延在してあるステッチ糸が実質的に切断されていないことが好ましい。なお、ここでいう角度θは、度単位をラジアン単位に変換した値とする。
【0081】
かかる態様について、図3を参照しながら、以下に詳細に説明する。
【0082】
図3は、本発明の成形材料の別の実施態様を示す概略平面図である。
【0083】
図3において、成形材料18は、強化繊維糸条19を0°に並行に引き揃えたシートからなる第1層と、強化繊維糸条19を90°に並行に引き揃えたシートからなる第2層との計2層が積層され、第1層と第2層との層間には帛体(図示しない)が配置され、1/1トリコット編にて組織されるステッチ糸20により一体化されている。かかるステッチ糸は、成形材料18の長手方向21に間隔Wb22にて並行しており、並行するそれぞれのステッチ糸間には、45°方向への切り込み23が配されており、前記シートの全面に亘って強化繊維糸条19を切断している。
【0084】
図3によると、切り込み23とステッチ糸が延在する方向の直交方向24とがなす角度は45°であるから、角度θはπ/4ラジアンとなり、|cosθ|は0.71と計算される。したがって、(Wb/Lb)は0.71以下となり、ステッチ糸の間隔Wb22は成形材料によって固定であることから、LbはWb/0.71以下となる。ここで、ステッチ糸の間隔Wb22を5mmとすると、切り込みの長さLb25は7.1mmであり、この切り込みの長さLb25をステッチ糸が延在する方向への長さLb26とステッチ糸が延在する方向の直交方向への長さLb27とに分解すると、Lb=5.0mm、Lb=5.0mmである。すなわち、Wb>Lbとなることから、成形材料の長手方向に並行するステッチ糸の間に切り込みを配置することが可能であり、すなわち、成形材料の長手方向に延在してあるステッチ糸28が実質的に切断されていない態様とすることができる。ここで、θ=0(0°)ないしπ(180°)の場合、|cosθ|=1であり、θ=π/2(90°)ないし3π/2(270°)の場合、ほぼ|cosθ|=0であるため、|cosθ|は0〜1の範囲内にて定義され、かかる範囲内において、|cosθ|<(Wb/Lb)を満足することで、如何なる角度においても、切り込みをステッチ糸の間隔内に納めることができる。なお、ほぼ|cosθ|=0の場合、Lbは無限に大きいとされるため、この場合のみ例外として、Lbは2〜50mmの範囲内において選択的に決定されるものとする。また、実質的に切断されていないとは、成形材料の表面を投影して見た場合において、成形材料の長手方向に延在してあるステッチ糸28と切り込み23とが交差していないことを示し、成形材料の長手方向と交差する角度に配置されるステッチ糸(図3における29、30)も含めて切断されていないという意味ではない。
【0085】
前記ステッチ糸は、成形材料の取扱性を向上させることは上述したとおりであるが、成形材料に切り込みを配することで賦形性が向上することもまた、上述したとおりである。すなわち、これら取扱性と賦形性とはトレードオフの関係であり、前記態様はこれら両特性を互いに満足させるための好ましい態様である。
【0086】
かかる態様では、成形材料の長手方向に延在してあるステッチ糸が実質的に切断されていないため、成形材料における取扱性の低下を最小限に留めることができる。成形材料に含まれるステッチ糸の内、成形材料の長手方向に延在してあるステッチ糸は、成形材料の厚み方向に貫通してループを形成することで、積層体を一体化し、長手方向に連続して並行することで、成形材料の平面方向において強化繊維糸条を拘束してある。一方、成形材料の長手方向と交わる角度に配置されるステッチ糸は、編組織におけるよこ方向(成形材料の幅方向)の交絡を強めたり、成形材料において、積層体の表面に位置する強化繊維糸条を被覆したりと、成形材料の平面方向への取扱性を担っている。すなわち、成形材料の長手方向と交差する角度に配置されるステッチ糸のみを切断することで、成形材料の平面方向への賦形性を向上させるだけでなく、成形材料の厚み方向における取扱性を担う主要なステッチ糸は残存するため、取扱性の低下を最小限に留めることができる。賦形性に関しては、成形材料の長手方向に延在してあるステッチ糸が実質的に連続して残存していることで、賦形時の変形がステッチ糸を介して伝達されるため、切り込みが局所的に開口することなく、成形材料の平面方向において均一に賦形性を発現させることができることからも本態様が好ましい。
【0087】
なお、本態様では、成形材料のよこ方向におけるステッチ糸の連結が絶たれるわけであるが、成形材料の長手方向と交差する角度に配置されるステッチ糸の全てを切断しなくてもよく、特に最表面の強化繊維糸条方向が0°の場合、または、極端に深絞りの形状などに賦形する場合においては、一部残存させておく方が取扱性および賦形性の観点から好ましい。
【0088】
本発明の成形材料において、第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、以下(ホ)〜(ト)のいずれかの関係を満足する態様であると、FRPの成形および得られたFRPにおいて、それぞれに優れた効果をもたらす。
(ホ)第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、(Tm1−150)≦Tm2≦(Tm1−20)
(へ)第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と前記第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、((Tm2−150)≦Tm1≦(Tm2−20)
(ト)第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、(Tm2−20)<Tm1<(Tm2+20)
第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂の融点が前記(ホ)の関係であると、FRPを成形する時にステッチ糸を先に溶融させることができるため、帛体を溶融させて強化繊維糸条の層内に含浸させる前に、成形材料の厚み方向におけるステッチ糸の拘束を解き、各層間において、とりわけせん断変形し易い態様とすることができる。かかる(ホ)の関係において、ステッチ糸の機能が全く失われるのではなく、先に溶融しているステッチ糸が形態を替えて成形材料の厚み方向および平面方向に残存することで、強化繊維糸条同士が平面方向に糸割れを生じるのを防止し、強化繊維糸条の配向が著しく屈曲するのを抑制することができる。そのため複雑な形状に賦形する場合でも、成形材料に発生するシワを抑制して賦形することができるのである。すなわち、(ホ)の関係を満足する成形材料は、成形材料の層間におけるせん断変形に特化した態様であるといえ、このような特徴を有することから、シングルコンター形状(例えば、円筒形、U形など)に好ましく賦形される。かかる(ホ)の関係においては、複数枚の成形材料を積層する場合、帛体は溶融させずに第2の熱可塑性樹脂を成分とするステッチ糸を部分的に溶融させて成形材料同士を一体化(例えばプリフォームの態様)することが可能となるため、本発明において好ましい態様といえる。
【0089】
かかる(ホ)の関係を満足する具体的な組合せとしては、例えば、第1の熱可塑性樹脂がポリアミド6またはポリアミド66であり、第2の熱可塑性樹脂がポリアミド11、ポリアミド12または共重合ポリアミド(例えば、ポリアミド6/66/12、ポリアミド610/12、ポリアミド6/66/610/12、ポリアミド6/66/612/12など)である組合せや、第1の熱可塑性樹脂がポリアミド66であり、第2の熱可塑性樹脂がポリアミド6である組合せ、第1の熱可塑性樹脂がポリエステルであり、第2の熱可塑性樹脂が共重合ポリエステルである組合せ、第1の熱可塑性樹脂がポリエチレンまたはポリプロピレンであり、第2の熱可塑性樹脂が共重合ポリオレフィンである組合せ、第1の熱可塑性樹脂がポリプロピレンであり、第2の熱可塑性樹脂がエチレンである組合せ等が挙げられる。前記組合せであると、第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂とが類似の分子構造を有する樹脂で構成されるため両者の相溶性に優れ、FRPにおいて優れた力学特性を発現することができる。
【0090】
また、第1の熱可塑性樹脂がポリフェニレンサルファイドであり、第2の熱可塑性樹脂がポリアミドである組合せ等であると、第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂との融点の差を大きくでき、特に賦形性に優れる利点がある。
【0091】
第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂の融点が前記(へ)の関係であると、成形材料を加熱してFRPを成形する際に、第1の熱可塑性樹脂である帛体が先に溶融するため、第1の熱可塑性樹脂が強化繊維糸条の層内に含浸している最中に、強化繊維糸条で構成された各層は第2の熱可塑性樹脂であるステッチ糸によって拘束されているため、強化繊維糸条の配向をとりわけ規制することができる。また、ステッチ糸が成形材料の厚み方向に貫通していることにより、貫通孔が樹脂の含浸流路となって、溶融した第1の熱可塑性樹脂の含浸性を格段に向上させる効果をも奏する。なお、貫通孔による含浸性の向上は、ステッチ糸が溶融している/していないに関わらず奏するものであり、ステッチ糸が溶融している前述(ホ)や後述(ト)の関係においても、溶融したステッチ糸が形態を替えて貫通孔に存在するため、貫通孔は残存して含浸流路として機能する。なお、ステッチ糸が溶融していない本態様(へ)においては、ステッチ糸が糸条のまま存在することにより貫通孔の形状が完全に保たれ、より効率的に含浸流路としての機能を果たすことができ、本態様(へ)においてかかる効果がとりわけ大きく発現される。
【0092】
また、(へ)の関係においては、帛体を先に溶融させてマトリックスとなる熱可塑性樹脂を各層に含浸させるため、図5、図6に示すように、帛体(不織布)35が挿入されていた層間の厚みが薄くなってステッチ糸36の拘束が緩み、各層間における摩擦抵抗が低減することで、層間にてせん断変形し易い態様となる。そのため、曲面への賦形においてもシワの発生が抑制され、ステッチ糸が存在していることで強化繊維糸条の配向も維持されるため、優れた力学特性を発現できる品位のよいFRPを得ることができる。すなわち、(へ)の関係を満足する成形材料は、成形材料の層間におけるせん断変形し易さとステッチ糸による強化繊維糸条の拘束とが両立された態様であるといえ、このような特徴を有することから、ダブルコンター形状(例えば、ハット形、など)で、比較的緩やかな曲面を有するものや、大面積でかつ薄厚の形状に好ましく賦形される。かかる(へ)の関係において、第1の熱可塑性樹脂を成分とする帛体が成形材料の最表層の少なくとも一方に配置すると、複数枚の成形材料を積層するにあたって、ステッチ糸を溶融させずに、最表層の帛体を部分的に溶融させて成形材料同士を一体化(例えばプリフォームの態様)することが可能となるため、本発明において好ましい態様といえる。なお、図6はステッチ糸36の拘束がゆるんだ状態を分かりやすくするために模式的に表したものであり、実際に帛体が溶融している段階では、ステッチ糸はゆるんだ状態であってもマトリックスとなる熱可塑性樹脂中に浸漬する。
【0093】
かかる(へ)の関係を満足する具体的な組合せとしては、例えば、第1の熱可塑性樹脂がポリアミド11、ポリアミド12または共重合ポリアミド(例えば、ポリアミド6/66/12、ポリアミド610/12、ポリアミド6/66/610/12、など)であり、第2の熱可塑性樹脂がポリアミド6またはポリアミド66である組合せや、第1の熱可塑性樹脂がポリアミド6であり第2の熱可塑性樹脂がポリアミド66である組合せ、第1の熱可塑性樹脂が共重合ポリエステルであり、第2の熱可塑性樹脂はポリエステルである組合せ、第1の熱可塑性樹脂が共重合ポリオレフィンであり、第2の熱可塑性樹脂がポリエチレンまたはポリプロピレンである組合せ、第1の熱可塑性樹脂がポリエチレンであり、第2の熱可塑性樹脂がポリプロピレンである組合せ等が挙げられる。前記組合せであると、第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂とに類似の樹脂を使用すると両者の接着性が優れるため、優れた力学特性を発現することができる。また、第1の熱可塑性樹脂がポリオレフィンであり、第2の熱可塑性樹脂がポリエステルである組合せ等であると、第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂との融点の差を大きくでき、含浸が容易にできるため成形性に優れる利点がある。
【0094】
また、別の観点から、第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂の融点が前記(ト)の関係であると、FRPを成形する時にステッチ糸と帛体とをほぼ同時に溶融させることができる。かかる態様の成形材料は、前記(ホ)と(へ)との中間的な特性を有する、とりわけ優れる点として、成形時における加熱を1ステップにすることができ、成形サイクルを短くすることができる。また、1ステップの加熱でステッチ糸の痕跡を殆ど残さないように成形でき、表面平滑性に優れたFRPを得ることができる。さらに、第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂とを同じ樹脂で構成することもできるため、両者の相溶性に優れ、FRPにおいてとりわけ優れた力学特性を発現することができる。
【0095】
以上のとおり、本発明の成形材料は、所望のFRP形態に応じて(ホ)〜(ト)の関係のいずれかを満足する態様を任意に選択するとよい。
【0096】
ここで、融点とは、DSC(示差走査熱量計)を用いてJIS K7121(1987)に準拠し、絶乾状態で20℃/minの昇温速度にて測定した値を指す。なお、本発明においては、融点を示さないもの(例えば非晶性ポリマー)について、上記測定方法により得られるガラス転移温度+100℃を簡易的に融点とみなす。
【0097】
ここで、本発明の成形材料を構成する各シートにおける強化繊維の目付が50〜350g/mの範囲内であることが好ましい。
【0098】
かかる範囲内の強化繊維の目付であると、成形材料において、優れた表面品および賦形性を発現される。各層における強化繊維の目付が50g/m未満であると、隣り合う強化繊維糸条の間に隙間(ギャップ)が形成され、FRPとした際の品位に劣ったり、力学特性の低下を引き起したりといった懸念がある。一方、各層における強化繊維の目付が350g/mより大きいと、隣接する強化繊維糸条同士が重複する箇所が発生し、FRPとした際に表面凹凸の発生に起因するほか、シートの厚みが増すため、賦形性および含浸性にも影響する場合がある。含浸性に関しては、各シートに熱可塑性樹脂で構成される帛体を溶融させて完全に含浸させるために、過大な圧力が必要となり、かかる過大な圧力により強化繊維糸条の目曲りを誘発する場合がある。
【0099】
また、前記シート間に配置される帛体のそれぞれの目付が、15〜250g/mの範囲であることが好ましい。より好ましくは35〜150g/m、さらに好ましくは40〜100g/mである。
【0100】
帛体の目付が15g/m未満であると熱可塑性樹脂の量が強化繊維糸条の量に対して相対的に不足して十分に含浸ができないだけでなく、帛体が薄くなりすぎて成形材料の製造プロセスにおいて破れたり変形したりするといった問題が発生し易く、帛体の取扱性が著しく低下する。同様の観点から、より好ましくは35g/m以上、さらに好ましくは40g/m以上である。なお、この問題をさけるために各シートにおける強化繊維の目付を本発明の範囲を超えて低くすると、強化繊維糸条同士の間に隙間ができるためFRPにしたときの強度が低下するばかりか品位も悪くなる場合がある。一方、帛体の目付が250g/m2を越えると、強化繊維の含有量が相対的に少なくなり、FRPにしたときに十分な強度が発現できにくくなる。なお、この問題をさけるため各シートの強化繊維の目付を本発明の範囲を超えて高くすると強化繊維糸条どうしが重なり合うため表面に凸凹が発生し、賦形性や品位が劣るだけでなく、樹脂を含浸させるときに過大な外圧が必要となり強化繊維糸条の目曲がりが発生する場合がある。
【0101】
なお、各シートの強化繊維糸条および帛体の目付は、JIS R7602(1989)5.5項に準拠してサンプルを切り出し、局所的な融着を開放して成形材料を分解して各シートの強化繊維および帛体について測定した値とする。
【0102】
本発明で用いる強化繊維糸条としては、例えば、炭素繊維、黒鉛繊維、ガラス繊維、および、アラミド、パラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリアリレートおよびポリイミド、等の有機繊維が挙げられ、これらの1種または2種類以上を併用して使用することができる。中でも、炭素繊維は、比強度、比弾性率に優れており、FRP成形体の軽量化にも有効であることから好ましく用いられる。炭素繊維として、好ましくは、その糸条の引張強度が4GPa以上7GPa以下、より好ましくは4.5GPa以上6.5GPa以下、引張弾性率が200GPa以上500GPa以下であると、特に構造材に好適である。なお、該糸条の引張強度は、炭素繊維糸条に下記組成の樹脂を含浸させ、130℃で35分間硬化させた後、JIS R−7601に規定する引張試験方法に従って求めることができる。樹脂組成としては、脂環式エポキシ樹脂(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−シクロヘキシル−カルボキシレート):100重量部、3フッ化ホウ素モノエチルアミン:3重量部、アセトン:4重量部である。また、該糸条の引張弾性率は、上記引張強度測定方法と同様の方法で引張試験を行い、荷重−伸び曲線の傾きから求めることができる。
【0103】
かかる強化繊維糸条は、取扱性やニッティング時の耐ニードル擦過性の観点から、0.2〜2.5重量%の集束剤が付着されていることが好ましい。上記範囲内にて集束剤が付着していることで、毛羽の発生を抑制することができる。
【0104】
また、強化繊維糸条は、無撚糸でも有撚糸でもよいが、引張強度や圧縮強度、等の力学特性の面からは、実質的に無撚(1ターン/m未満)のものが好ましい。かかる観点から、本発明の成形材料の製造においては、強化繊維糸条をたて取解舒して解舒撚を混入させてもよいが、よこ取解舒して解舒撚が入らないようにし、成形材料中に強化繊維糸条を実質的に無撚(1ターン/m未満)の状態で存在させるのが好ましい。かかるよこ取解舒により、本発明の範囲内の強化繊維目付において、高品位のシートを容易に得られるだけでなく、FRPとしても強化繊維体積配合率(Vf)や力学特性を高めることができる。特に、シートの目付が190g/m以下であると、シート中に強化繊維糸条同士の隙間(ギャップ)が形成され易く、シートの品位に劣る場合があるのでよこ取解舒が好ましい。上記効果は、強化繊維糸条の繊度が以下の範囲内である場合により顕著に発現する。強化繊維糸条の繊度として、好ましくは500〜7,000texであり、より好ましくは1,000〜2,000texである。繊度が小さすぎると、撚りの混入による影響が殆どないため、本発明の効果が発揮されない場合があり、繊維糸条が高価となるうえ、細繊度の強化繊維糸条を多数本使用することになるので、多軸基材そのものが高価になる。一方、繊度が大きすぎると、例えば、1層当たりの強化繊維糸条の目付が100g/m以下の低目付の成形材料を得る際に、僅かな力で糸条幅が変動し易く、安定した糸条幅の維持が困難な場合がある。
【0105】
本発明の成形材料は、その1ないし複数枚が積層され、シングルコンター形状またはダブルコンター形状に賦形されたプリフォームとすることで、その優れた賦形性を最大限に発揮することができる。
【0106】
図4は、本発明の成形材料をアーチ形状に賦形したプリフォームの概略断面図である。
【0107】
図4のとおり、本発明の成形材料31は、アーチ形状を有する金型(図示しない)に賦形されており、成形材料31が厚み方向にせん断変形することで、金型の表面に位置する内周部から外周部にかけての内外周長差を緩和し、皺の発生が抑制されている。さらに、成形材料を構成する各シート32に注目してみると、それぞれのシート内において強化繊維糸条が開口33していることが分かる。かかる開口33は成形材料における切り込み箇所に相当し、かかる強化繊維糸条の自由端において進展変形が誘発されることで、成形材料の平面方向における歪みが解放され、金型に沿って賦形されている。すなわち、成形材料における第1の賦形性と第2の賦形性との互いの相乗効果により、ダブルコンター形状またはダブルコンター形状においても、皺や強化繊維糸条の突っ張りが発生することなく、所望の形状に沿ったプリフォームを得ることができる。
【0108】
また、成形材料がシングルコンター形状またはダブルコンター形状に賦形された箇所において、成形材料を構成する各シートの強化繊維糸条方向のそれぞれの断面における円弧の長さLcと繊維長LaがLc>Laであることが好ましい。ここで、成形材料を構成する各シートの強化繊維糸条方向のそれぞれの断面とは、成形材料を形成する各シートにおいて、強化繊維糸条が並行に引き揃えられている方向に沿って切り出した断面のことであり、円弧の長さLcとは、かかる断面における形状において成形材料と接する線分の長さであり、繊維長Laとは、かかる断面と同一方向に引き揃えられてある強化繊維糸条の繊維長である。なお、形状において断面は無数に存在するため、賦形対象である形状において最も大きい円弧の長さLcに対し、1/10以内にある円弧について、前記態様を満足すればよいものとする。
【0109】
かかる態様であると、強化繊維糸条が少なくとも円弧よりも短い距離で切断されているため、賦形する金型上に必ず強化繊維糸条の自由端が配置されることから、強化繊維糸条が突っ張ることがなく、成形材料における第2の賦形性を発現させることが可能である。すなわち、かかる態様であると、賦形される形状に左右されることなく、上述した成形材料の賦形性を発現することが可能である。かかる理由から、Lc>Laである。なお、Laは上述にて10〜300mmの範囲であることから、下限値はLa=10mmとなり、Lc<10mmにおいては、微少な形状変化であることから、近傍の強化繊維糸条の自由端により緩和されるため、Lc>Laの範囲外であっても特に問題にならない。
【0110】
本発明のFRPは、前述の成形材料またはプリフォームを用いて成形したものであって、少なくとも前記帛体を構成していた第1の熱可塑性樹脂を溶融・固化させてマトリックス樹脂としたものである。
【0111】
予めマトリックスとなる熱可塑性樹脂と一体となっている本発明の成形材料またはプリフォームであると、RTMのようにマトリックス樹脂を注入する工程などを省略できるため、成形サイクルを短くでき、FRPの生産性に優れる。また、本発明の成形材料またはプリフォームを用いると、シングルコンター形状またはダブルコンター形状にもシワの発生を抑えながら賦形することができ、強化繊維糸条の配向の乱れを抑制したFRPを成形することができる。
【0112】
かかるFRPは、上述(ホ)の熱可塑性樹脂から構成される帛体、ステッチ糸を用いた場合には、まず第2の熱可塑性樹脂を成分とするステッチ糸が溶融した後、第1の熱可塑性樹脂から構成された帛体が溶融・固化してマトリックスを構成するため、ステッチ糸の痕跡が残らないFRPとなる。そして、上述したとおり、複雑な形状でもシワを抑制しながら賦形することができ、その結果、表面平滑性、力学特性に優れたFRPとすることができる。また、成形材料を複数枚積層してプリフォームを形成・成形する場合において、成形材料同士を予め一体化することができるので、成形サイクルが短く、生産性に優れたものとできる。
【0113】
また、上述(へ)の熱可塑性樹脂から構成される帛体、ステッチ糸を用いた場合には、第1の熱可塑性樹脂を成分とする帛体が溶融・固化してマトリックスを構成し、第2の熱可塑性樹脂を成分とするステッチ糸がその形態を実質的に維持して存在しているFRPとなり、上述したとおり溶融していないステッチ糸によって強化繊維糸条の配向の乱れが抑制され、優れた力学特性を発現できるFRPとなる。
【0114】
さらに、上記態様(ト)の熱可塑性樹脂から構成される帛体、ステッチ糸を用いた場合には、第1の熱可塑性樹脂を成分とする帛体と第2の熱可塑性樹脂を成分とするステッチ糸とが同時に溶融・固化してマトリックスを構成するFRPとなる。これにより、上述したとおり、成形サイクルを短くでき、表面平滑性、力学特性に優れたFRPとすることができる。
【0115】
かかるFRPの製造において、成形材料を加熱・加圧する手段としては、特に制限されるものではないが、オートクレーブ、オーブンと大気圧との組合せ、プレス機などを用いるのが好適であり、中でも成形時間の早さからプレス機がより好ましい。
【実施例】
【0116】
実施例および比較例における原材料として、次のものを用いた。
<強化繊維糸条>
PAN系炭素繊維糸条、12,000フィラメント、繊度800tex、引張強度4,900MPa、引張弾性率240GPa、0ターン/m。
<ステッチ糸>
ステッチ糸A:共重合ポリアミド(東レ株式会社製、“エルダー”(登録商標))、10フィラメント、繊度56dtex、融点115℃。
ステッチ糸B:ポリアミド66、10フィラメント、繊度33dtex、融点255℃。
<帛体>
不織布A:ポリアミド6、目付80g/m、融点220℃。
不織布B:共重合ポリアミド(東レ株式会社製、“エルダー”(登録商標))、目付80g/m、融点115℃。
<成形材料>
以下(1)〜(6)の手順にて、1.27m幅の成形材料を作製した。
【0117】
まず、強化繊維糸条で構成された各シート間、および、最外層の何れにも不織布Aを有する積層体を形成した。
(1)最外層に配置する不織布Aを、不織布Aとベルトコンベアとの長手方向が平行になるように連続的に供給した。かかるベルトコンベアは、以降の強化繊維糸条の層および不織布を積層する間も1m/minの一定速度にて、その長手方向(0°方向)に移動し続け、後述の接着手段へ連続的に搬送するものである。
(2)前記不織布Aの上に、解舒撚を混入させないようによこ取解舒した強化繊維糸条を、長手方向(0°方向)に対して−45°に並行に引き揃え、かつ、層当たりの強化繊維の目付が150g/mとなるように配列して、−45°シートを形成した。かかる−45°シートの強化繊維糸条の配置はキャリッジ装置にて行った。本工程におけるキャリッジ装置は、−45°方向に往復運動するものであり、その内の往運動(または復運動)する時に強化繊維糸条をベルトコンベア上に配置する装置であり、ベルトコンベアが長手方向へ搬送している速度に同調して強化繊維糸条同士が重ならず、並行に隣り合うように制御した。
(3)前記−45°シートの上に2枚目の不織布Aを配置し、その上に、−45°シート形成と同様の方法で、強化繊維糸条を長手方向に対して+90°に並行に、かつ、150g/mとなるように配列し、+90°シートを形成した。
(4)前記+90°シートの上に3枚目の不織布Aを配置し、その上に、−45°シート形成と同様の方法で、強化繊維糸条を長手方向に対して+45°に並行に、かつ、150g/mとなるように配列し、+45°シートを形成した。
(5)前記+45°シートの上に4枚目の不織布Aを配置し、その上に、−45°シート形成と同様の方法で、強化繊維糸条を長手方向に対して0°に並行に、かつ、150g/mとなるように配列し、0°シートを形成した。
(6)前記0°シートの上に5枚目の不織布Aを配置し、積層体を形成した。
続いて、上記のとおり形成したベルトコンベア上の積層体を、ステッチ糸Aにてステッチにより一体化させた。かかるステッチにおいては、ステッチ糸Aを巻出装置にて巻き出し、ニードルを積層体に貫通させながら編成した。ステッチ糸の編組織は鎖編と1/1トリコット編とを複合した変則1/1トリコット編とし、ステッチ糸による貫通孔を成形材料の長手方向に8.3列/25mm、幅方向に5列/25mm(Wb=5.0mm)となるように規則的に配列した。なお、貫通孔の密度は66,666箇所/mであった。不織布Aはニードル貫通性に優れ、不織布の繊維がニードルに絡まることはなかった。ステッチ糸Aにより一体化された成形材料を、ブランクとして巻取装置にて巻き取った。
【0118】
(実施例1)
前記(1)〜(6)の手順にて作製した成形材料(ブランク)のシートの全面に、成形材料の長手方向に対して90°方向に切り込みを挿入した。また、切り込みのそれぞれは、切り込みの長さLbが25.0mmであって、90°方向に12.5mmの間隔となるように直線上に並べて切り込みの列とし、該切り込みの列を平行に配列して成形材料Aを得た。また、隣接する切り込みの列は、90°方向に18.75mmずつ交互にずれており、隣接する列のそれぞれの切り込みの両端は、0°方向に互いに6.25mmずつ重複するように配置した。成形材料Aは、強化繊維糸条の75%が切断されており、各シートのそれぞれの繊維長Laは、−45°シートのうち、50%が35.3mm、50%が106.1mm、+45°シートのうち、50%が35.5mm、50%が106.1mm、0°シートのうち50%が25.0mm、50%が50.0mmであった。なお、切り込みの挿入は、成形材料(ブランク)の製造プロセスとはオフラインにおいて、自動裁断装置を用いて行った。
【0119】
得られた成形材料Aは、ステッチ糸による強化繊維糸条の拘束が適度に残っており、成形材料として十分に取り扱えるレベルであった。
【0120】
得られた成形材料Aを、最大直径における曲率半径:300mmを有する半球状の雌型上に配置し、その上から曲率半径:305mmの同形状の雌型にて挟んで加圧し、プリフォームを得た。
【0121】
得られたプリフォームは、切り込みに箇所において強化繊維糸条の自由端が開口することで、成形材料の面内における歪みを解放し、皺が発生することなく良好なプリフォームであったが、ステッチ糸が部分的に切断されているため、開口の分布に若干のムラが確認できた。
【0122】
さらに、得られたプリフォームを再度金型上に配置し、一旦、150℃に加熱した状態でステッチ糸Aを溶融させながら金型に追従させ、25MPaで180秒間加圧(プレス)した。加圧したまま金型温度を250℃に昇温して更に180秒間保持し、金型温度を50℃に冷却してから放圧・脱型してFRPを得た。
【0123】
得られたFRPから幅が2cmになるように切り出した断面を光学顕微鏡で観察すると、強化繊維糸条の内部にまで樹脂が含浸しており、わずかに最外層付近にボイドがみられるものの観察面の96%に樹脂が含浸していた。また、長手方向に連続するステッチ糸が部分的に切断されているため、繊維配向の乱れや表面の凸凹が僅かに発生したものの、皺の発生はみられなかった。
【0124】
(実施例2)
前記(1)〜(6)の手順にて作製したブランクのシートの全面に、ブランクの長手方向に対して0°方向に切り込みを挿入した。また、切り込みのそれぞれは、切り込みの長さLbが25.0mmであって、0°方向に12.5mmの間隔となるように直線上に並べて切り込みの列とし、該切り込みの列を平行に配列して成形材料Bを得た。これら切り込みの全ては、成形材料Bの長手方向に並行するステッチ糸の間に配置されており、成形材料Bの長手方向に延在するステッチ糸は全て切断されていなかった。
成形材料Bは、強化繊維糸条の75%が切断されており、各シートのそれぞれの繊維長Laは、−45°シートのうち、75%が35.5mm、25%が106.1mm、90°シートのうち50%が25.0mm、50%が50.0mm、+45°シートのうち、75%が35.5mm、25%が106.1mmであった。
【0125】
得られた成形材料Bは、連続するステッチ糸が残存してあるため、実施例1と比較し、成形材料として安定して取り扱うことが可能であった。
【0126】
得られた成形材料Bを、最大直径における曲率半径:300mmを有する半球状の雌型上に配置し、その上から曲率半径:305mmの同形状の雌型にて挟んで加圧し、プリフォームを得た。
【0127】
得られたプリフォームは、切り込みに箇所において強化繊維糸条の自由端が開口することで、成形材料の面内における歪みを解放し、皺が発生することなく、また、ステッチ糸が連続して残存していることから、開口の分布も均質な良好なプリフォームであった。
【0128】
さらに、得られたプリフォームを再度金型上に配置し、一旦、150℃に加熱した状態でステッチ糸Aを溶融させながら金型に追従させ、25MPaで180秒間加圧(プレス)した。加圧したまま金型温度を250℃に昇温して更に180秒間保持し、金型温度を50℃に冷却してから放圧・脱型してFRPを得た。
【0129】
得られたFRPから幅が2cmになるように切り出した断面を光学顕微鏡で観察すると、強化繊維糸条の内部にまで樹脂が含浸しており、わずかに最外層付近にボイドがみられるものの観察面の96%に樹脂が含浸していた。また、繊維配向の乱れや表面の凸凹が僅かに発生したが皺の発生はみられなかった。
【0130】
(実施例3)
用いるステッチ糸Aをステッチ糸Bに替えた以外は、実施例1と同様の仕様にて、成形材料Cを得た。
【0131】
得られた成形材料Cは、ステッチ糸による強化繊維糸条の拘束が適度に残っており、成形材料として十分に取り扱えるレベルであった。
【0132】
得られた成形材料Cを、最大直径における曲率半径:300mmを有する半球状の雌型上に配置し、その上から曲率半径:305mmの同形状の雌型にて挟んで加圧し、プリフォームを得た。
【0133】
得られたプリフォームは、切り込みに箇所において強化繊維糸条の自由端が開口することで、成形材料の面内における歪みを解放し、皺が発生することなく良好なプリフォームであったが、ステッチ糸が部分的に切断されているため、開口の分布に若干のムラが確認できた。
【0134】
さらに、得られたプリフォームを再度金型上に配置し、230℃に加熱した状態で不織布Aを溶融させながら型に追従させ、25MPaで240秒間加圧(プレス)し、加圧したまま金型温度を50℃に冷却してから放圧・脱型してFRPを得た。
【0135】
得られたFRPは、ステッチ糸が残存しているため、成形時における樹脂含浸性に優れ、強化繊維糸条の内部にまで樹脂が含浸しており、観察面の99%に樹脂が含浸していた。また、ステッチ糸により繊維が拘束されているため、繊維配向の乱れや皺の発生が全く見られず、表面の凸凹が僅かに発生した程度であった。
【0136】
(実施例4)
用いる不織布Aを不織布Bに替えた以外は、実施例1と同様の仕様にて、成形材料Dを得た。
【0137】
得られた成形材料Dは、ステッチ糸による強化繊維糸条の拘束が適度に残っており、成形材料として十分に取り扱えるレベルであった。
【0138】
得られた成形材料Dを、最大直径における曲率半径:300mmを有する半球状の雌型上に配置し、その上から曲率半径:305mmの同形状の雌型にて挟んで加圧し、プリフォームを得た。
【0139】
得られたプリフォームは、切り込みに箇所において強化繊維糸条の自由端が開口することで、成形材料の面内における歪みを解放し、皺が発生することなく良好なプリフォームであったが、ステッチ糸が部分的に切断されているため、開口の分布に若干のムラが確認できた。
【0140】
さらに、得られたプリフォームを再度金型上に配置し、150℃に加熱した状態で不織布Bおよびステッチ糸Aを溶融させながら発生したシワを伸ばして型に追従させ、25MPaで180秒間加圧(プレス)し、加圧したまま金型温度を50℃に冷却してから放圧・脱型してFRPを得た。
【0141】
得られたFRPは、強化繊維糸条の内部にまで樹脂が含浸しており、わずかに最外層付近にボイドがみられるものの観察面の96%に樹脂が含浸していた。また、ステッチ糸の痕跡がほとんど残っていなかったが、繊維配向の乱れや皺は殆どみられず、表面品位にも優れていた。
【0142】
(実施例5)
前記(1)〜(6)の手順にて作製したブランクのシートについて、シートの片表面から−45°シートと90°シートとを貫通する0°方向の切り込みをシートの全面に挿入した。さらに、もう一方の表面から0°シートと+45°シートとを貫通する90°方向の切り込みをシートの全面に挿入した。この時、それぞれの切り込みは、90°シートと+45°シートに挟まれる不織布Aが境となるように厚み方向に切り込んだ。
【0143】
0°方向の切り込みのそれぞれは、切り込みの長さLbが25.0mmであって、0°方向に12.5mmの間隔となるように直線上に並べて切り込みの列とし、該切り込みの列を平行に配列した。また、隣接する切り込みの列は、0°方向に18.75mmずつ交互にずれており、隣接する列のそれぞれの切り込みの両端は、90°方向に互いに6.25mmずつ重複するように配置した。
【0144】
90°方向の切り込みのそれぞれは、切り込みの長さLbが25.0mmであって、90°方向に12.5mmの間隔となるように直線上に並べて切り込みの列とし、該切り込みの列を平行に配列した。また、隣接する切り込みの列は、90°方向に18.75mmずつ交互にずれており、隣接する列のそれぞれの切り込みの両端は、0°方向に互いに6.25mmずつ重複するように配置した。
【0145】
なお、それぞれの切り込みは、厚み方向の投影面上において、それぞれの切り込みの中点にて交わるように配置した。これにより、成形材料Iを得た。
【0146】
成形材料Iは、強化繊維糸条の100%が切断されており、各シートのそれぞれの繊維長Laは、−45°シートのうち、75%が35.5mm、25%が106.1mm、90°シートのうち50%が25.0mm、50%が50.0mm、+45°シートのうち、75%が35.5mm、25%が106.1mm、0°シートのうち50%が25.0mm、50%が50.0mmであった。
【0147】
ここで、それぞれの切り込みは、90°シートと+45°シートに挟まれる不織布Aを貫通して切断しないようにした。なお、切り込みの挿入は、刃が成形材料の厚み方向に貫通しないよう、自動裁断装置の刃の挿入厚を調整した以外は、上述した(実施例1)〜(実施例4)と同様の方法にて行った。
【0148】
得られた成形材料Iは、ステッチ糸による強化繊維糸条の拘束が適度に残っているうえ、成形材料の中間層にあたる不織布が連続した状態で存在していることで、取扱性に優れた。
【0149】
得られた成形材料Iを、最大直径における曲率半径:300mmを有する半球状の雌型上に配置し、その上から曲率半径:305mmの同形状の雌型にて挟んで加圧し、プリフォームを得た。
【0150】
得られたプリフォームは、切り込みに箇所において強化繊維糸条の自由端が開口することで、成形材料の面内における歪みを解放すると共に、強化繊維糸条の100%切断されていたことで、皺が発生することなく良好なプリフォームであった。また、実施例1〜4と比較して、切り込みが成形材料の厚み方向に分散されていたため、開口のムラも僅かであった。
【0151】
さらに、得られたプリフォームを再度金型上に配置し、一旦、150℃に加熱した状態でステッチ糸Aを溶融させながら金型に追従させ、25MPaで180秒間加圧(プレス)した。加圧したまま金型温度を250℃に昇温して更に180秒間保持し、金型温度を50℃に冷却してから放圧・脱型してFRPを得た。
【0152】
得られたFRPから幅が2cmになるように切り出した断面を光学顕微鏡で観察すると、強化繊維糸条の内部にまで樹脂が含浸しており、わずかに最外層付近にボイドがみられるものの観察面の96%に樹脂が含浸していた。また、長手方向に連続するステッチ糸が部分的に切断されているため、繊維配向の乱れや表面の凸凹が僅かに発生したものの、皺の発生はみられなかった。さらに、厚み方向において開口が分散されていたことで、局所的な大きな開口は見られず、表面品位にも優れていた。
【0153】
(実施例6)
前記(1)〜(6)の手順にて作製したブランクのシートについて、シートの片表面から−45°シートと90°シートとを貫通する−45°方向の切り込みをシートの全面に挿入した後、−45°シートのみを貫通する90°方向の切り込みをシートの全面に挿入した。さらに、もう一方の表面から0°シートと+45°シートとを貫通する0°方向の切り込みをシートの全面に挿入した後、0°シートのみを貫通する+45°方向の切り込みをシートの全面に挿入した。これにより、全てのシート毎に強化繊維方向に対して+45°方向の切り込みを配した態様とした。
【0154】
−45°方向の切り込みのそれぞれは、切り込みの長さLbが25.0mmであって、45°方向に25.0mmの間隔となるように直線上に並べて切り込みの列とし、該切り込みの列を平行に配列した。
【0155】
90°方向の切り込みのそれぞれは、切り込みの長さLbが25.0mmであって、90°方向に25.0mmの間隔となるように直線上に並べて切り込みの列とし、該切り込みの列を平行に配列した。
【0156】
0°方向の切り込みのそれぞれは、切り込みの長さLbが25.0mmであって、0°方向に25.0mmの間隔となるように直線上に並べて切り込みの列とし、該切り込みの列を平行に配列した。
【0157】
+45°方向の切り込みのそれぞれは、切り込みの長さLbが25.0mmであって、0°方向に25.0mmの間隔となるように直線上に並べて切り込みの列とし、該切り込みの列を平行に配列した。
【0158】
なお、それぞれのシートの切り込みは、厚み方向の投影面上において、それぞれの切り込みの中点にて交わるように配置した。これにより、成形材料Jを得た。
【0159】
成形材料Jは、強化繊維糸条の100%が切断されており、各シートのそれぞれの繊維長Laは、−45°シートのうち、100%が25.0mm、90°シートのうち100%が25.0mm、+45°シートのうち、100%が25.0mm、0°シートのうち100%が25.0mmであった。
【0160】
ここで、それぞれの切り込みは、90°シートと+45°シートに挟まれる不織布Aを貫通して切断しないようにした。なお、切り込みの挿入は、実施例5と同様に行った。
【0161】
得られた成形材料Jは、ステッチ糸による強化繊維糸条の拘束が適度に残っているうえ、成形材料の中間層にあたる不織布が連続した状態で存在していることで、取扱性に優れた。
【0162】
得られた成形材料Jを、最大直径における曲率半径:300mmを有する半球状の雌型上に配置し、その上から曲率半径:305mmの同形状の雌型にて挟んで加圧し、プリフォームを得た。
【0163】
得られたプリフォームは、切り込みに箇所において強化繊維糸条の自由端が開口することで、成形材料の面内における歪みを解放すると共に、強化繊維糸条の100%切断されていたことで、皺が発生することなく良好なプリフォームであった。また、実施例5と比較して、繊維長Laが全て同一長であったこと、切り込みが成形材料の厚み方向により分散されていたことで、プリフォームにおいて開口が均等であり、ムラの発生もなかった。
【0164】
さらに、得られたプリフォームを再度金型上に配置し、一旦、150℃に加熱した状態でステッチ糸Aを溶融させながら金型に追従させ、25MPaで180秒間加圧(プレス)した。加圧したまま金型温度を250℃に昇温して更に180秒間保持し、金型温度を50℃に冷却してから放圧・脱型してFRPを得た。
【0165】
得られたFRPから幅が2cmになるように切り出した断面を光学顕微鏡で観察すると、強化繊維糸条の内部にまで樹脂が含浸しており、わずかに最外層付近にボイドがみられるものの観察面の96%に樹脂が含浸していた。また、長手方向に連続するステッチ糸が部分的に切断されているため、繊維配向の乱れや表面の凸凹が僅かに発生したものの、皺の発生はみられなかった。さらに、厚み方向において開口が分散されていたことで、局所的な大きな開口は見られず、表面品位にもとりわけ優れていた。
【0166】
(比較例1)
前記(1)〜(6)の手順にて得られた成形材料(ブランク)を、切り込みを挿入しないままの状態で、成形材料Eとして用いた。成形材料Eは、強化繊維糸条の100%が連続した状態で残存していた。
【0167】
得られた成形材料Eは、ステッチ糸により強化繊維糸条が完全に保持されているため、成形材料として抜群の取扱性であった。
【0168】
得られた成形材料Eを用いて、実施例1と同様の方法でプリフォームおよびFRPを作製した。
【0169】
得られたプリフォームは、全ての強化繊維糸条が連続して存在していることから、賦形時において強化繊維糸条が突っ張ってしまい半球状に追従させることができず、無理に賦形させたため皺が多発した。
【0170】
さらに、得られたFRPから幅が2cmになるように切り出した断面を光学顕微鏡で観察すると、強化繊維糸条の内部にまで樹脂が含浸しており、わずかに最外層付近にボイドがみられるものの観察面の96%に樹脂が含浸していた。また、ステッチ糸Aおよび不織布Aが溶融することで、変形に自由度が生じたため、プリフォームにおける皺は多少なり緩和されたものの、FRPにおいても表面凹凸、繊維配向の乱れとして残存し、品位にかなり劣るものであった。
【0171】
(比較例2)
前記(1)〜(6)の手順にて作製した成形材料(ブランク)のシートの全面に、成形材料の長手方向に対して90°方向に切り込みを挿入した。また、切り込みのそれぞれは、切り込みの長さLbが25.0mmであって、90°方向に75.0mmの間隔となるように直線上に並べて切り込みの列とし、該切り込みの列を平行に配列して成形材料Fを得た。成形材料Fは、強化繊維糸条の25%が切断されており、各シートのそれぞれの繊維長Laは、−45°シートのうち25%が35.4mm、+45°シートのうち25%が35.4mm、0°シートのうち50%が50.0mmであった。
【0172】
得られた成形材料Fは、連続する強化繊維糸条が多く残存していたため、成形材料として安定して取り扱うことが出来た。
【0173】
得られた成形材料Fを用いて、実施例1と同様の方法にてプリフォームおよびFRPを作製した。
【0174】
得られたプリフォームは、連続する強化繊維糸条が多く残存していたため、賦形時において強化繊維糸条が突っ張ってしまい半球状に追従させることができず、比較例1よりは若干優れるものの、同様に皺が多発した。
【0175】
さらに、得られたFRPから幅が2cmになるように切り出した断面を光学顕微鏡で観察すると、強化繊維糸条の内部にまで樹脂が含浸しており、わずかに最外層付近にボイドがみられるものの観察面の96%に樹脂が含浸していた。また、ステッチ糸Aおよび不織布Aが溶融することで、変形に自由度が生じたため、プリフォームにおける皺は多少なり緩和されたものの、FRPにおいても表面凹凸、繊維配向の乱れとして残存し品位に劣るものであった。
【0176】
(比較例3)
前記(1)〜(6)の手順にて作製した成形材料(ブランク)のシートの全面に、成形材料の長手方向に対して90°方向に切り込みを挿入した。また、切り込みのそれぞれは、切り込みの長さLbが2.5mmであって、90°方向に1.25mmの間隔となるように直線上に並べて切り込みの列とし、該切り込みの列を平行に配列して成形材料Gを得た。また、隣接する切り込みの列は、90°方向に1.875mmずつ交互にずれており、隣接する列のそれぞれの切り込みの両端は、0°方向に互いに0.625mmずつ重複するように配置した。成形材料Gは、強化繊維糸条の75%が切断されており、各シートのそれぞれの繊維長Laは、−45°シートのうち、50%が3.5mm、50%が10.6mm、+45°シートのうち、50%が3.5mm、50%が10.6mm、0°シートのうち50%が2.5mm、50%が5.0mmであった。
【0177】
得られた成形材料Gを用いて、実施例1と同様の方法にてプリフォームおよびFRPを作製した。
【0178】
得られた成形材料Gは、強化繊維糸条が細かく切断されているうえに、ステッチ糸までもが殆ど連続して存在していなかったため、手に取っただけで形状を崩してしまい、成形材料として取り扱うことすら出来なかった。
【0179】
(比較例4)
前記(1)〜(6)の手順にて作製した成形材料(ブランク)のシートの全面に、成形材料の長手方向に対して90°方向に切り込みを挿入した。また、切り込みのそれぞれは、切り込みの長さLbが400mmであって、90°方向に200mmの間隔となるように直線上に並べて切り込みの列とし、該切り込みの列を平行に配列して成形材料Hを得た。また、隣接する切り込みの列は、90°方向に300mmずつ交互にずれており、隣接する列のそれぞれの切り込みの両端は、0°方向に互いに100mmずつ重複するように配置した。成形材料Hは、強化繊維糸条の75%が切断されており、各シートのそれぞれの繊維長Laは、−45°シートのうち、50%が565.7mm、50%が1697.1mm、+45°シートのうち、50%が565.7mm、50%が1697.1mm、0°シートのうち50%が400.0mm、50%が800.0mmであった。
【0180】
得られた成形材料Hは、ステッチ糸および強化繊維糸条がともに長く残存していたため、成形材料としての取扱性に優れるものであった。
【0181】
得られた成形材料Hを用いて、実施例1と同様の方法にてプリフォームおよびFRPを作製した。
【0182】
得られたプリフォームは、強化繊維糸条の繊維長が長かったため、半球形状に皺なく賦形できたものの、切り込み箇所における開口が局所に集中してしまい、プリフォームに穴が空いてしまった。
【0183】
さらに、得られたFRPから幅が2cmになるように切り出した断面を光学顕微鏡で観察すると、強化繊維糸条の内部にまで樹脂が含浸しており、わずかに最外層付近にボイドがみられるものの観察面の96%に樹脂が含浸していた。また、プリフォームにおける大きな開口がFRPにおいても残存しており、問題外の品位であった。
【0184】
上記の各実施例および比較例の結果を、表1に示す。
【0185】
【表1】

【0186】
【表2】

【0187】
表1、2に結果を示すとおり、積層体を構成する強化繊維が並行に引き揃えられたシートに、強化繊維糸条を横切る方向への切り込みがシートの全面に配され、積層体を構成する強化繊維糸条の繊維長Laが10〜300mmの有限長にて切断されているシートを含み、かつ、積層体を構成する強化繊維糸条の少なくとも50%以上が、積層体を構成する強化繊維糸条の繊維長Laが10〜300mmの有限長であることにより、成形材料として取扱可能なレベルであって、かつ、賦形性にも優れた効果を示すことが確認された。中でも実施例2、5、6の態様であると、成形材料の取扱性および賦形性の両面において優れることから、好ましい態様であるといえる。
【0188】
また、FRPの成形においては、実施例1、3、4のそれぞれにおいて優れた特徴を示し、FRPの優れた力学特性を追究する場合には実施例3、FRPの優れた意匠性を追究する場合には実施例4、また、これらバランスを鑑みた場合には実施例1であった。
【0189】
中でも実施例5、6は、全ての特性において高い水準にてバランスしており、複雑構造でかつ、意匠性、力学特性を要求される部材において、好適な態様であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0190】
本発明の成形材料によると、取扱性に優れ、複雑な形状のFRPの成形において、シワや強化繊維糸条の配向の乱れを抑制することができるため、力学特性に優れ、かつ、樹脂含浸性に優れるため品位のよいFRPを生産性よく得られることができる。このような成形材料は、自動車、航空機、船舶等の輸送機器の構造部材や、建築部材などに好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0191】
【図1】本発明の成形材料の一実施態様を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の成形材料の一実施態様を示す概略平面図である。
【図3】本発明の成形材料の別の実施態様を示す概略平面図である。
【図4】本発明の成形材料をアーチ形状に賦形したプリフォームの概略断面図である。
【図5】本発明における帛体(不織布)が溶融する前の成形材料の一実施態様を示す概略断面図である。
【図6】本発明における帛体(不織布)が溶融した状態の成形材料の一実施態様を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0192】
1、8、18、31、34:成形材料
2、9、19:強化繊維糸条
3、35:帛体(不織布)
4、10、20、36:ステッチ糸
5:強化繊維糸条方向(0°方向)
6:ステッチ糸が延在する方向
7、21:成形材料の長手方向
11、23:切り込み
12、13、14:断続的な切り込みの列
15:切り込み方向と直交する方向
17、25:切り込みの長さ(Lb)
22:ステッチ糸の間隔(Wb)
24:ステッチ糸が延在する方向の直交方向
26:ステッチ糸が延在する方向への切り込み長さ(Lb1)
27:ステッチ糸が延在する方向の直交方向への切り込み長さ(Lb2)
28:成形材料の長手方向に延在してあるステッチ糸
29、30:成形材料の長手方向と交差する角度に配置されるステッチ糸
32:成形材料を構成するシート
33:開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数本の強化繊維糸条が並行に引き揃えられたシートの複数層が、積層されて積層体を構成し、該積層体が一体化された成形材料であって、下記(イ)〜(ニ)の要件を満足することを特徴とする成形材料。
(イ)少なくとも前記シート間に複合材料のマトリックスを構成する第1の熱可塑性樹脂を成分とする帛体が配置され、
(ロ)前記積層体が第2の熱可塑性樹脂を成分とするステッチ糸および/または第1の熱可塑性樹脂を成分とする帛体により一体化されており、
(ハ)前記積層体を構成する強化繊維が並行に引き揃えられたシートに、強化繊維糸条を横切る方向への切り込みが前記シートの全面に配され、前記積層体を構成する強化繊維糸条の繊維長Laが10〜300mmの有限長にて切断されているシートを含み、
(ニ)前記積層体を構成する強化繊維糸条の少なくとも50%以上が、前記積層体を構成する強化繊維糸条の繊維長Laが10〜300mmの有限長である。
【請求項2】
前記積層体を構成するシートのそれぞれが、強化繊維糸条が交差するように多軸配向にて積層されて積層体を構成しており、その配向する軸数をn軸、繊維長Laが10〜300mmの有限長にて切断されている強化繊維糸条の成形材料中の割合をN%とするとき、n,Nが、下記式の関係を満たす請求項1に記載の成形材料。
(100−100/n)≦N
【請求項3】
前記積層体を構成するシートを、厚み方向25〜75%にある第1の熱可塑性樹脂を成分とする帛体を境に、第1の部分積層体、第2の部分積層体としたとき、第1の部分積層体、および、第2の部分積層体のそれぞれに厚み方向に貫通する切り込みが全面に渡って配され、第1の部分積層体、および、第2の部分積層体の切れ込みは、厚み方向の投影面上で重ならない請求項1または2に記載の成形材料。
【請求項4】
前記積層体を構成する全てのシートに、シート毎に厚み方向に貫通する切り込みが全面に渡って配され、隣接するシートの切り込みが、厚み方向の投影面上で重ならない請求項1〜3のいずれかに記載の成形材料。
【請求項5】
前記シートの全面に強化繊維糸条を横切る方向への断続的な切り込みから構成される複数列が並行して配列しており、前記切り込みの個々のものは、切り込みの長さLbが1〜100mmである請求項1〜4のいずれかに記載の成形材料。
【請求項6】
前記切り込みと前記ステッチ糸が延在する方向の直交方向とがなす角度θにおいて、成形材料の長手方向に並行するステッチ糸の間隔Wbと切り込みの長さLbとが|cosθ|<(Wb/Lb)であり、かつ、成形材料の長手方向に連続してあるステッチ糸を実質的に切断しない請求項1〜5のいずれかに記載の成形材料。
【請求項7】
前記第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、(Tm1−150)≦Tm2≦(Tm1−20)の関係を満足する請求項1〜6のいずれかに記載の成形材料。
【請求項8】
前記第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と前記第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、(Tm2−150)≦Tm1≦(Tm2−20)の関係を満足する請求項1〜6のいずれかに記載の成形材料。
【請求項9】
前記第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と前記第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、(Tm2−20)<Tm1<(Tm2+20)の関係を満足する請求項1〜6のいずれかに記載の成形材料。
【請求項10】
前記シートにおける、強化繊維の目付が50〜350g/mの範囲内であり、前記帛体の目付が15〜250g/mの範囲である請求項1〜9のいずれかに記載の成形材料。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の成形材料の1ないし複数枚が積層され、シングルコンター形状またはダブルコンター形状に賦形されていることを特徴とするプリフォーム。
【請求項12】
シングルコンター形状またはダブルコンター形状に賦形された箇所において、成形材料を構成する各シートの強化繊維糸条方向のそれぞれの断面における円弧の長さLcと繊維長LaがLc>Laである請求項11に記載のプリフォーム。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれかに記載の成形材料またはプリフォームを用いて成形されたことを特徴とする繊維強化樹脂。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−19201(P2009−19201A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153857(P2008−153857)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】