説明

成形材料及び成形体

【課題】透明性及び高強度を維持しつつ、生産性の向上に寄与した植物繊維の高分散化を実現し、かつ、硬化時に植物繊維が再凝集しない成形材料を提供する。
【解決手段】植物繊維を水溶性エポキシ樹脂に分散させ繊維含有分散液を調製する。ミキサーを用いて撹拌後、硬化剤を加え、ディスパーを用いて更に撹拌する。この成形材料を所定条件下で真空乾燥し、この成形材料中に含まれる水分を除去する。得られた成形材料に対して加熱加圧を行い、成形体を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物繊維を複合した成形材料及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、繊維強化プラスチックに使用される繊維として、優れた強度を有するガラス繊維が使用されてきた。しかしながら、このガラス繊維を複合化したプラスチックでは、混合したガラス繊維とマトリクス樹脂の屈折率が異なるため、生成された樹脂が不透明になるといった問題が生じる。この問題を解決すべく、これまでにもガラス繊維の屈折率とマトリックス樹脂の屈折率を揃え、透明性を高める方法が提案されているが(特許文献1及び2参照)、全ての波長や温度条件において屈折率を揃えるのは困難であり、生成された樹脂が不透明となるケースを確実に排除できないでいた。
【0003】
また、ガラス繊維を複合化した繊維強化プラスチックでは、このプラスチックを燃焼させることで熱エネルギーを回収するサーマルリサイクルを行う場合、ガラス繊維が不燃物であるが故に焼却炉を損傷させ、また、燃焼効率を低下させる等の問題が生じる。そのため、実際には、サーマルリサイクルは実施されずに、生成された樹脂のほとんどが埋め立て廃棄されるのが現状であった。
【0004】
これらの問題に対処する方法として、例えば、強化材に植物繊維を用いた複合材料が提案されている(特許文献3及び4参照)。植物繊維を用いた植物繊維強化プラスチックは、曲げ強度が200MPa以上であるが、高強度、高弾性率及び透明性を実現するためには、植物繊維を樹脂に複合化する際に、この植物繊維を樹脂中に高分散化させる必要が生じる。植物繊維を高分散化させた植物繊維強化プラスチックを作成する方法としては、特殊な分散装置を用いて長時間撹拌し、その撹拌物を濾過することでシートを作製し、そのシートを複数枚数積層することで形成する方法が採用される。また、水などの溶媒に、マトリックス樹脂と共に植物繊維を分散させ、その混合物を濾過により回収することでペレットを作製し、射出成形を行うといった方法も提案されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−207234号公報
【特許文献2】特開平7−156279号公報
【特許文献3】特開2003−201695号公報
【特許文献4】特開2006−312281号公報
【特許文献5】特開2008−239821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、強化材に用いられる植物繊維は、極めて親水性の高いセルロースであり、極性が樹脂の他組成物よりも高く凝集力が強いので、樹脂中に高分散させるのは難しい。そのため、上記のような特殊な分散装置により攪拌する方法では、この攪拌に長時間を要し、生産性が大きく制約されるだけでなく、製作可能な成形体の形状が板状に限られるといった課題を有する。
【0007】
また、水などの溶媒を用いて植物繊維を分散させる方法では、溶媒除去時に植物繊維の再凝集が起こるため、これにより、成形した繊維強化プラスチックの強度及び弾性率の低下や耐水性低下を招き得る。さらに、この方法では大量の溶媒を使用するので、この溶媒を除去するための多量のエネルギーを必要とし、コスト及び生産効率の面でも課題を有する。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するために提案されたものであって、その目的は、透明性、高強度及び高弾性率を維持しつつ、生産性の向上に寄与した植物繊維の高分散化を実現し、かつ、硬化時に植物繊維が再凝集しない成形材料及び成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、水溶性エポキシ樹脂を含むマトリックスに、植物繊維が分散されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、水溶性エポキシ樹脂が、水に3wt%以上溶解することが好ましい。
【0011】
また、本発明は、分散される植物繊維の平均繊維径が400nm以下であることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、この植物繊維の成形材料に対する含有量が、10wt%以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、成形材料が半硬化状態であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、上記の構成からなる成形材料を加熱及び加圧成形した成形体も包含する概念である。
【発明の効果】
【0015】
以上のような本発明によれば、水溶性エポキシ樹脂を必須成分とする成形材料に植物繊維を高分散化し、その状態を保持したまま成形することができるので、透明性及び優れた強度を有する植物繊維強化プラスチックを提供することが可能となる。また、多量の溶媒を除去する必要もなく、硬化時に植物繊維を再凝集することもないので、成形体の生産性の向上に寄与する。さらに、作製された植物繊維強化プラスチックである成形体は、ガラス繊維のような無機物を含有しないため、軽量かつ高強度を実現するだけでなく、廃棄時におけるサーマルリサイクルを可能とし、環境負荷を軽減させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[1.成形材料の構成]
まず、本発明を実施するための形態(以下、本実施形態と称する。)に係る成形材料の構成を説明する。本実施形態に係る成形材料は、下記に示す水溶性エポキシ樹脂と、硬化剤と、植物繊維と、から生成される。
【0017】
[エポキシ樹脂]
本実施形態に係る水溶性エポキシ樹脂は、分子内にエポキシ基を二つ以上有し、骨格に極性の高い結合を持つものを採用する。極性の高い結合としては、エーテル結合、エステル結合や水酸基による結合等が挙げられる。
【0018】
例えば、極性の高い結合を有するエポキシ樹脂としては、エチレンプロピレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレンポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ラウリルアルコールグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリコールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリコールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル等が挙げられる。市販されているものでは、例えば、デナコール(登録商標、以下同じ。)EX−611、デナコールEX−612、デナコールEX−614、デナコールEX−614B、デナコールEX−622、デナコールEX−512、デナコールEX−521、デナコールEX−421、デナコールEX−313、デナコールEX−314、デナコールEX−321、デナコールEX−810、デナコールEX−811、デナコールEX−850、デナコールEX−851、デナコールEX−821、デナコールEX−830、デナコールEX−832、デナコールEX−841、デナコールEX−861、デナコールEX−911、デナコールEX−941、デナコールEX−920、デナコールEX−931(以上、ナガセケムテック株式会社製)、SR−GLG、SR−16H、SR−TMP、SR−PG、SR−4PG、SR−EGM、SR−2EG、SR−8EG、SR−DGE、SR−4GL、SR−SEP(以上、阪本薬品工業株式会社製)が挙げられる。
【0019】
また、本実施形態では、上記の水溶性エポキシ樹脂の中から1種、あるいは2種以上を併用することも可能であり、加えて、この水溶性エポキシ樹脂と、極性の低いビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、アミン型エポキシ樹脂と、を併用することも可能である。
【0020】
ここで、本実施形態で用いる水溶性エポキシ樹脂としては、室温で水に3wt%以上溶解するものが好ましく、植物繊維を高分散させるためには水に溶けるような極性の高い官能基を多く持つ必要がある。水に溶解しない、あるいはほとんど溶解しないようなエポキシ樹脂を使用すると、植物繊維の分散が困難になるだけでなく、硬化時に植物繊維が再凝集することにより成形体の強度及び耐熱性を低下させる原因となるからである。
【0021】
[硬化剤]
本実施形態に係る硬化剤は、上記のような水溶性エポキシ樹脂と三次元架橋して硬化物を形成できるものであれば特に制限はない。採用する硬化剤としては、例えば、酸無水物、有機リン化合物、多官能フェノール類、アミン類、イミダゾール化合物等が挙げられる。
【0022】
ここで、使用する水溶性エポキシ樹脂は、脂肪族化合物であり分子骨格が剛直でないので、ガラス転移温度は低く耐熱性能が優れていない。そのため、作製された成形体を水周り材料、自動車や家電用品に使用する場合、硬化剤には、骨格が剛直で、かつ、水溶性エポキシ樹脂を硬化させることで耐熱性を付与できるものが好ましい。例えば、多官能フェノール類であるカテコール、ヒドロキノン、ビスフェノールA、ナフタレンジオール類が挙げられる。
【0023】
特に、生成される成形体である植物繊維強化プラスチック材料が環境配慮型であることを考慮すると、硬化剤にはバイオマス由来材料を用いることが好ましい。例えば、1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する植物由来ポリフェノールである木本植物(マツ科、スギ科、ヒノキ科等の針葉樹、広葉樹)及び草本植物の樹皮、幹、茎、枝、葉等のタンニン酸や、お茶等に含まれるフラボノイドの一種であるエピガロカテキンガレートと呼ばれるポリフェノール類が挙げられる。
【0024】
また、この硬化剤の配合量としては、上記水溶性エポキシ樹脂のエポキシ基と硬化剤のフェノール性OH基の総数を等しくなるように配合することが好ましい。しかし、上記ポリフェノール類のフェノール性OH基の中には立体障害の影響で反応しないものが存在するので、OH基の総数に対してエポキシ基が70〜80%になるように配合することが好ましく、これにより水溶性エポキシ樹脂に高強度、高耐熱性を付与できるといった効果が得られる。
【0025】
[植物繊維]
本実施形態に係る植物繊維には、平均繊維径が400nm以下のものを使用することが好ましい。繊維径が400nm以下であると、この植物繊維を複合化した場合、形成された成形体の透明性を維持することができるからである。なお、繊維径が400nmを超える場合には、この植物繊維を高分散化しても繊維径が可視光吸収領域に近づくため、マトリックス樹脂と繊維の間で屈折が生じやすくなり透明性が低下してしまう。
【0026】
また、植物繊維の繊維長は、補強効果を考慮するとアスペクト比が大きいものが好ましいが、特に限定するものではない。植物繊維の含有量は、成形材料の10wt%以下であることが好ましく、さらには、3〜10wt%であることが好ましい。特に、8%である場合に、植物繊維の樹脂への分散性及び成形体の強度や弾性率の面で最適となる。植物繊維の含有量が10wt%を超えてしまうと、繊維が凝集することで成形体の強度及び弾性率や耐水性が低下してしまうからである。なお、植物繊維の繊維径の細いものになると少量(例えば3wt%)でも効果は発現する。
【0027】
本実施形態では、このような繊維径や繊維長を有する植物繊維として、例えば、ミクロフィブリル化セルロースを採用する。ミクロフィブリル化セルロースは、植物繊維中のセルロース以外の成分であるリグニン等を薬品で取り除き、その後の機械的処理によりせん断力を作用させることで取り出され、原料となる植物繊維よりもアスペクト比が2桁程度高いものである。
【0028】
また、本発明において使用される植物繊維は、化学修飾・物理修飾して分散性を上げたものであっても構わない。例えば、化学修飾・物理修飾としては、セルロース中の水酸基のアセチル化やイソシアネート化が挙がり、シランカップリング剤を用いた修飾等も可能である。
【0029】
[2.製造方法]
次に、上記のような構成を有する本実施形態に係る成形材料の製造方法を説明する。なお、より詳細な説明は[実施例]にて記すため、ここでは製造方法の概要を説明する。
【0030】
まず、主剤である水溶性エポキシ樹脂と植物繊維と硬化剤を所定量に配分し、その上で植物繊維を水溶性エポキシ樹脂に分散し、繊維含有分散液を調製する。そして、ミキサー等を用いてこの繊維含有分散液を攪拌することで繊維を高分散化する。この攪拌時間は数分以下であり、従来技術と対比しても飛躍的に短く設定される。
【0031】
次に、この繊維が高分散化された繊維含有分散液に硬化剤を加え、ディスパー等を用いて攪拌する。このディスパーによる攪拌時間も上記と同様に、数分以下に設定される。そして、主剤、硬化剤、繊維を含む成形材料中の水分を除去するために、この成形材料を所定の条件下で真空乾燥させる。
【0032】
ここで、生成された成形材料は配合された植物繊維がより高分散した状態で保持される半硬化状態にある。その後、水分が除去された半硬化状態にある成形材料を金型等に入れ、所定の成形条件下で加熱加圧を行い、成形体を形成する。なお、本実施形態は、上記のような半硬化状態を経由せずに水分を除去し、成形体を形成する製造方法も包含する。
【実施例】
【0033】
次に、実施例1〜7と比較例1〜4を示し、本実施形態に係る成形材料をより詳細に説明する。なお、本発明は、下記のような実施形態に限定されるものではなく、それ以外の形態も包含する。
【0034】
[実施例1]
実施例1では、水溶性エポキシ樹脂に、SR−2EG(ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、149g/eq、阪本薬品工業(株)製)を用い、硬化剤に、タンニン酸AL(加水分解型、タンニン含有率96%以上、富士化学工業(株)製)を用い、植物繊維に、セリッシュ(登録商標、以下同じ。)FD−100G(ミクロフィブリル化セルロース、平均繊維長<400nm、ダイセル化学(株)製)を用いる。また、これらの配合量は、水溶性エポキシ樹脂であるSR−2EGを100質量部、硬化剤であるタンニン酸ALを50質量部、植物繊維であるセリッシュを2質量部とする。
【0035】
次に、成形材料の製造方法(成形体までを含む)について以下に説明する。まず、上記配合量で植物繊維であるセリッシュを主剤であるSR−2EGに分散させ、繊維含有分散液を調製した。そして、調製した繊維含有分散液をミキサー(ワーリング J−SPEC ブレンダー)を用いて1分間22000rpmで撹拌することにより、この繊維含有分散液中の繊維を高分散化した。
【0036】
繊維が高分散化されると、この繊維含有分散液に対して、硬化剤であるタンニン粉末(タンニン酸AL)を加え、ディスパーを用いて1分間3000rpmで撹拌した。その後、この攪拌された、主剤、硬化剤、繊維を含む成形材料を、80℃、0.1MPaの条件で真空乾燥し、当該成形材料中に含まれる水分を取り除いた。
【0037】
そして、このような水分除去処理により得られた成形材料を、厚さ30mm、縦100mm、横150mmの型に入れ、上下の両面にステンレス板を配して、温度180℃、圧力1.96MPa(20Kg/cm2)、120分間の成形条件で加熱加圧を行い、成形体を形成した。
【0038】
次に、上記処理により得られた成形体の透明性評価及び弾性率評価について説明する。まず、透明性評価については、形成された成形体から厚さ100μmの繊維強化プラスチックのフィルムを作製し、このフィルムの可視光(350〜700nm)による全光線透過率を(分光光度計 U4100)で測定することで評価した。特に、下記に示す表1では、繊維を含む試験体の全光線透過率が、繊維を含まない試験体の全光線透過率に比較して、60%以上であればその繊維を含む試験体を透明として「○」、40%以上60%未満であればその繊維を含む試験体を「△」、40%未満であれば不透明として「×」と評価した。
【0039】
弾性率の評価については、JIS K 7171に準拠し行った。上記処理に形成された成形体を、ダイヤモンドカッターを用いて100mm×10mm×3mmの形状に切り出し、それに対して、ヘッドスピード2mm/min、荷重10KN、支点間距離64mmに設定されたオートグラフAG−X((株)島津製作所製)用いて3点曲げ試験を行い、弾性率を測定評価した。
【0040】
[実施例2]
実施例2では、実施例1と同様に、水溶性エポキシ樹脂に、SR−2EG(ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、149g/eq、阪本薬品工業(株)製)を用い、硬化剤に、タンニン酸AL(加水分解型、タンニン含有率96%以上、富士化学工業(株)製)を用い、植物繊維に、セリッシュFD−100G(ミクロフィブリル化セルロース、平均繊維長<400nm、ダイセル化学(株)製)を用いる。但し、これらの配合量は実施例1と異なり、SR−2EGを100質量部、タンニン酸ALを50質量部、セリッシュを13質量部とする。以外は実施例1と同様にした。
【0041】
[実施例3]
実施例3では、実施例1及び2と同様に、水溶性エポキシ樹脂に、SR−2EG(ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、149g/eq、阪本薬品工業(株)製)を用い、硬化剤に、タンニン酸AL(加水分解型、タンニン含有率96%以上、富士化学工業(株)製)を用い、植物繊維に、セリッシュFD−100G(ミクロフィブリル化セルロース、平均繊維長<400nm、ダイセル化学(株)製)を用いる。但し、これらの配合量は実施例1及び2と異なり、SR−2EGを100質量部、タンニン酸ALを50質量部、セリッシュを16質量部(水は含まない)とする。以外は実施例1及び2と同様にした。
【0042】
[実施例4]
実施例4では、実施例1〜3と同様に、水溶性エポキシ樹脂に、SR−2EG(ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、149g/eq、阪本薬品工業(株)製)を用い、硬化剤に、タンニン酸AL(加水分解型、タンニン含有率96%以上、富士化学工業(株)製)を用い、植物繊維に、セリッシュFD−100G(ミクロフィブリル化セルロース、平均繊維長<400nm、ダイセル化学(株)製)を用いる。但し、これらの配合量は実施例1〜3と異なり、SR−2EGを100質量部、タンニン酸をAL50質量部、セリッシュを17質量部(水は含まない)とする。以外は実施例1〜3と同様にした。
【0043】
[実施例5]
実施例5では、実施例1〜4と同様に、水溶性エポキシ樹脂に、SR−2EG(ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、149g/eq、阪本薬品工業(株)製)を用い、硬化剤に、タンニン酸AL(加水分解型、タンニン含有率96%以上、富士化学工業(株)製)を用い、植物繊維に、セリッシュFD−100G(ミクロフィブリル化セルロース、平均繊維長<400nm、ダイセル化学(株)製)を用いる。但し、これらの配合量は実施例1〜4と異なり、SR−2EGを100質量部、タンニン酸をAL50質量部、セリッシュを25質量部(水は含まない)とする。以外は実施例1〜4と同様にした。
【0044】
[実施例6]
実施例4では、水溶性エポキシ樹脂に、SR−GLG(グリセリンポリグリシジルエーテル、170g/eq、阪本薬品工業(株)製)を用い、硬化剤に、縮合型タンニン酸(縮合型、タンニン含有率75%以上、富士化学工業(株)製)を用い、植物繊維に、セリッシュFD−100G(ミクロフィブリル化セルロース、平均繊維長<400nm、ダイセル化学(株)製)を用いる。また、これらの配合量は、水溶性エポキシ樹脂であるSR−GLGを100質量部、硬化剤である縮合型タンニン酸を50質量部、植物繊維であるセリッシュを2質量部とする。
【0045】
次に、成形材料の製造方法(成形体までを含む)について以下に説明する。まず、上記配合量で植物繊維であるセリッシュを主剤であるSR−GLGに分散させ、繊維含有分散液を調製した。そして、調製した繊維含有分散液をミキサー(ワーリング J−SPEC ブレンダー)を用いて1分間22000rpmで撹拌することにより、この繊維含有分散液中の繊維を高分散化した。
【0046】
繊維が高分散化されると、この繊維含有分散液に対して、硬化剤であるタンニン粉末(縮合型タンニン酸)を加え、ディスパーを用いて1分間3000rpmで撹拌した。その後、この攪拌された、主剤、硬化剤、繊維を含む成形材料を、80℃、0.1MPaの条件で真空乾燥し、この成形材料中に含まれる水分を取り除いた。
【0047】
そして、このような水分除去処理により得られた成形材料を、厚さ30mm、縦100mm、横150mmの型に入れ、上下の両面にステンレス板を配して、温度180℃、圧力1.96MPa(20Kg/cm2)、120分間の成形条件で加熱加圧を行い、成形体を形成した。
【0048】
なお、上記処理により得られた成形体の透明性評価及び弾性率評価については、実施例1〜5と同様であるため、説明を省略する。
【0049】
[実施例7]
実施例7では、実施例1〜5と同様に、水溶性エポキシ樹脂に、SR−2EG(ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、149g/eq、阪本薬品工業(株)製)を用い、硬化剤に、タンニン酸AL(加水分解型、タンニン含有率96%以上、富士化学工業(株)製)を用い、植物繊維に、セリッシュFD−100G(ミクロフィブリル化セルロース、平均繊維長<400nm、ダイセル化学(株)製)を用いる。また、配合量も実施例1と同量とした。
【0050】
次に、成形材料の製造方法(半硬化状態を経由した製造方法)について以下に説明する。まず、上記配合量で植物繊維であるセリッシュを主剤であるSR−2EGに分散させ、繊維含有分散液を調製した。そして、調製した繊維含有分散液をミキサー(ワーリングJ−SPECブレンダー)を用いて1分間22000rpmで撹拌することにより、この繊維含有分散液中の繊維を高分散化した。繊維が高分散化されると、この繊維含有分散液に対して、硬化剤であるタンニン粉末(タンニン酸AL)を加え、ディスパーを用いて1分間3000rpmで撹拌した。その後、この攪拌された、主剤、硬化剤、繊維を含む成形材料を、120℃、0.1MPaの条件で真空乾燥し、当該成形材料中に含まれる水分を取り除きつつ、主剤と硬化剤の反応を進行させた。
【0051】
そして、このように得られた半硬化樹脂材料を、厚さ30mm、縦100mm、横150mmの型に入れ、上下の両面にステンレス板を配して、温度180℃、圧力1.96MPa(20Kg/cm2)、120分間の成形条件で加熱加圧を行い、成形体を形成した。
【0052】
なお、上記処理により得られた成形体の透明性評価及び弾性率評価については、実施例1〜6と同様であるため、説明を省略する。
【0053】
[比較例1]
比較例1では、水溶性エポキシ樹脂にSR−GLG(グリセリンポリグリシジルエーテル、170g/eq、阪本薬品工業(株)製)を用い、硬化剤にタンニン酸AL(加水分解型、タンニン含有率96%以上、富士化学工業(株)製)を用い、植物繊維は使用しない。また、これらの配合量は、水溶性エポキシ樹脂であるSR−GLGを100質量部、硬化剤であるタンニン酸ALを50質量部とする。
【0054】
次に、成形材料の製造方法(成形体までを含む)について以下に説明する。まず、主剤であるSR−GLGに硬化剤であるタンニン酸ALを加え、ディスパーを用いて1分間3000rpmで撹拌した。そして、これにより得られた主剤、硬化剤を含む成形材料を80℃、0.1MPaの条件で真空乾燥した。その後、上記処理により得られた成形材料を、厚さ30mm、縦100mm、横150mmの型に入れ、上下の両面にステンレス板を配して、温度180℃、圧力1.96MPa(20Kg/cm2)、120分間の成形条件で加熱加圧を行い、成形体を形成した。
【0055】
次に、上記処理により得られた成形体の透明性評価及び弾性率評価について説明する。まず、透明性評価については、形成された成形体から厚さ100μmの繊維強化プラスチックのフィルムを作製し、このフィルムの可視光(350〜700nm)による全光線透過率を測定することで評価した。全光線透過率の評価度合いを示す「○」、「△」、「×」は上述した通りである。
【0056】
弾性率の評価については、JIS K 7171に準拠し行った。上記処理に形成された成形体を、ダイヤモンドカッターを用いて100mm×10mm×3mmの形状に切り出し、それに対して、ヘッドスピード2mm/min、荷重10KN、支点間距離64mmに設定されたオートグラフAG−X((株)島津製作所製)用いて3点曲げ試験を行い、弾性率を測定評価した。
【0057】
[比較例2]
比較例2では、エポキシ樹脂にエピクロン(登録商標、以下同じ。)850S(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、185g/eq、DIC(株)製)を用い、硬化剤にメチルヘキサヒドロ無水フタル酸(ナガセケムテック(株)製)を用い、植物繊維及び水溶性のエポキシ樹脂は使用しない。また、これらの配合量は、エポキシ樹脂であるエピクロン850Sを100質量部、硬化剤であるメチルヘキサヒドロ無水フタル酸を100質量部とする。
【0058】
次に、成形材料の製造方法(成形体までを含む)について以下に説明する。まず、主剤であるエピクロン850Sに硬化剤であるメチルヘキサヒドロ無水フタル酸を加え、ディスパーを用いて1分間3000rpmで撹拌した。そして、これにより得られた主剤、硬化剤を含む成形材料を80℃、0.1MPaの条件で真空乾燥した。その後、上記処理により得られた成形材料を、厚さ30mm、縦100mm、横150mmの型に入れ、上下の両面にステンレス板を配して、温度180℃、圧力1.96MPa(20Kg/cm2)、120分間の成形条件で加熱加圧を行い、成形体を形成した。
【0059】
なお、上記処理により得られた成形体の透明性評価及び弾性率評価については、比較例1と同様であるため、説明を省略する。
【0060】
[比較例3]
比較例3では、エポキシ樹脂にエピクロン850S(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、185g/eq、DIC(株)製)を用い、硬化剤にメチルヘキサヒドロ無水フタル酸(ナガセケムテック(株)製)に用い、植物繊維にセリッシュFD−100G(ミクロフィブリル化セルロース、平均繊維長<400nm、ダイセル化学(株)製)を用い、水溶性のエポキシ樹脂は使用しない。また、これらの配合量は、エポキシ樹脂であるエピクロン850Sを100質量部、硬化剤であるメチルヘキサヒドロ無水フタル酸を100質量部、植物繊維であるセリッシュを1質量部とする。
【0061】
次に、成形材料の製造方法(成形体までを含む)について以下に説明する。まず、硬化剤であるセリッシュを主剤のエピクロン850Sに分散させ、繊維含有分散液を調製した。そして、調製した繊維含有分散液を、ミキサー(ワーリング J−SPEC ブレンダー)を用いて1分間22000rpmで撹拌することにより、この繊維含有分散液中の繊維を高分散化した。
【0062】
繊維が高分散化されると、この繊維含有分散液に対して、硬化剤であるタンニン粉末を加え、ディスパーを用いて1分間3000rpmで撹拌した。その後、この攪拌された、主剤、硬化剤、繊維を含む成形材料を、80℃、0.1MPaの条件で真空乾燥し、この成形材料中に含まれる水分を取り除いた。
【0063】
そして、このような水分除去処理により得られた成形材料を、厚さ30mm、縦100mm、横150mmの型に入れ、上下の両面にステンレス板を配して、温度180℃、圧力1.96MPa(20Kg/cm2)、120分間の成形条件で加熱加圧を行い、成形体を形成した。
【0064】
なお、上記処理により得られた成形体の透明性評価及び弾性率評価については、比較例1及び2と同様であるため、説明を省略する。
【0065】
[比較例4]
比較例4では、水溶性エポキシ樹脂にSR−GLG(グリセリンポリグリシジルエーテル、170g/eq、阪本薬品工業(株)製)を用い、縮合型タンニン(縮合型、タンニン含有率75%以上、富士化学工業(株)製)を用い、植物繊維は使用しない。また、これらの配合量は、水溶性エポキシ樹脂であるSR−GLGを100質量部、硬化剤であるタンニン酸ALを50質量部とする。
【0066】
次に、成形材料の製造方法(成形体までを含む)について以下に説明する。まず、主剤であるSR−GLGに硬化剤であるタンニン酸ALを加え、ディスパーを用いて1分間3000rpmで撹拌した。そして、これにより得られた主剤、硬化剤を含む成形材料を80℃、0.1MPaの条件で真空乾燥した。その後、上記処理により得られた成形材料を、厚さ30mm、縦100mm、横150mmの型に入れ、上下の両面にステンレス板を配して、温度180℃、圧力1.96MPa(20Kg/cm2)、120分間の成形条件で加熱加圧を行い、成形体を形成した。
【0067】
[評価結果]
上記のような実施例1〜7及び比較例1〜4に係る透明性及び弾性率の評価結果を表1に示した。なお、表1では、透明性及び弾性率評価に加えて、成形材料を構成する各成分の混練又は加熱混練時における植物繊維の凝集状態についても評価した。
【0068】
【表1】

【0069】
表1の評価結果によれば、実施例1〜5は、比較例1〜3と比して、弾性率が非常に高いことが把握される。特に、実施例1〜5のうちの実施例1〜3では、弾性率が高いことに加え、硬化物が透明であり、さらに、混練又は加熱混練時においても植物繊維が凝集することはなかった。
【0070】
これに対し、実施例4及び5では、実施例1〜3よりも植物繊維であるセリッシュが多く添加されているため、硬化物の弾性率は高いが、硬化物がやや半透明となってしまう。そのため、実施例1〜3の評価結果を加味すれば、植物繊維の含有量は生成された成形材料の10wt%以下が好ましいと把握される。これは植物繊維の含有量が10wt%を超えると、繊維が凝集することで成形体の強度や耐水性が低下してしまうからである。
【0071】
なお、比較例1をみても、水溶性エポキシ樹脂を使用しているが植物繊維を用いていないので、植物繊維以外の主剤と硬化剤が一致する実施例1〜3に比して硬化物の強度は大幅に低いことがわかる。
【0072】
また、比較例2及び3において水溶性ではないエポキシ樹脂を使用しているため、混練又は加熱混練時に繊維が不均一となり、少量の繊維を加えたにも関わらず硬化物が不透明となる。
【0073】
実施例6は、主剤と硬化剤が同条件である比較例4と比して、弾性率が高いことがわかる。さらに、この実施例6では、硬化物の透明性を維持し、混練又は加熱混練時においても植物繊維が凝集することはなかった。しかしながら、実施例6では、硬化剤として、加水分解型ではなくタンニン含有率の低い縮合型のタンニン酸を使用しているため、硬化物の強度が実施例1〜5、7と比較してやや低いことが把握される。
【0074】
また、実施例7は、実施例1による成形体の製造過程において半硬化状態を経由したものであり、実施例1よりも若干弾性率が高いことがわかる。実施例1のような成形材料の真空乾燥時に水のみを除去する方法より実施例7のような真空乾燥しつつ半硬化状態を経由して成形体を形成する方法の方が弾性率が高いのは、半硬化状態とすることでハンドリング性能及びプレス成形の性能が高くなることに起因すると考えられる。なお、この実施例7は、実施例1と同様に、硬化物の透明性を維持し、植物繊維が凝集することもなかった。
【0075】
以上の通り、実施例1〜3、7のような、水溶性エポキシ樹脂に適正量の植物繊維を高分散させ、さらに硬化物を加えて分散してなる成形材料は、透明度及び弾性率が高く、さらに、混練又は加熱混練時における植物繊維の凝集も発生しないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性エポキシ樹脂を含むマトリックスに、植物繊維が分散されていることを特徴とする成形材料。
【請求項2】
前記水溶性エポキシ樹脂は、水に3wt%以上溶解するものであることを特徴とする請求項1に記載の成形材料。
【請求項3】
前記植物繊維は、平均繊維径が400nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の成形材料。
【請求項4】
前記植物繊維の含有量は、10wt%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の成形材料。
【請求項5】
半硬化状態であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の成形材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の成形材料を加熱及び加圧成形してなる成形体。

【公開番号】特開2011−246592(P2011−246592A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120770(P2010−120770)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】