成形材料
【課題】射出成形を行う際に強化繊維の成形品中への分散が良好であり、優れた耐熱性、力学特性を有する成形品を容易に環境汚染なく製造できる成形材料を提供する。
【解決手段】連続した強化繊維束(A)1〜50重量%、重量平均分子量が10,000以上であり、かつ重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度が2.5以下であるポリアリーレンスルフィド(B)0.1〜10重量%、および熱可塑性樹脂(C)40〜98.9重量%からなる成形材料であって、該成分(A)と該成分(B)からなる複合体に、該成分(C)が接着されてなる成形材料。
【解決手段】連続した強化繊維束(A)1〜50重量%、重量平均分子量が10,000以上であり、かつ重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度が2.5以下であるポリアリーレンスルフィド(B)0.1〜10重量%、および熱可塑性樹脂(C)40〜98.9重量%からなる成形材料であって、該成分(A)と該成分(B)からなる複合体に、該成分(C)が接着されてなる成形材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料に関する。さらに詳しくは、射出成形を行う際に強化繊維の成形品中への分散が良好であり、高い流動性と取扱性を兼ね備え、優れた耐熱性と力学特性を有する成形品を容易に環境汚染なく製造できる成形材料に関する。
【背景技術】
【0002】
連続した強化繊維束と熱可塑性樹脂をマトリックスとする成形材料として、熱可塑性のプリプレグ、ヤーン、ガラスマット(GMT)など多種多様な形態が公知である。このような成形材料は、熱可塑性樹脂の特性をいかして成形が容易であったり、熱硬化性樹脂のような貯蔵の負荷を必要とせず、また得られる成形品の靭性が高く、リサイクル性に優れるといった特徴がある。とりわけ、ペレット状に加工した成形材料は、射出成形やスタンピング成形などの経済性、生産性に優れた成形法に適用でき、工業材料として有用である。
【0003】
しかしながら、成形材料を製造する過程で、熱可塑性樹脂を連続した強化繊維束に含浸させるには、経済性、生産性の面で問題があり、それほど広く用いられていないのが現状である。例えば、樹脂の溶融粘度が高いほど強化繊維束への含浸は困難とされることはよく知られている。靱性や伸度などの力学特性に優れた熱可塑性樹脂は、とりわけ高分子量体であり、熱硬化性樹脂に比べて粘度が高く、またプロセス温度もより高温を必要とするため、成形材料を容易に、生産性よく製造することには不向きであった。
【0004】
一方、含浸の容易さから低分子量の、すなわち低粘度の熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂に用いると、得られる成形品の力学特性が大幅に低下するという問題がある。低分子量の熱可塑性重合体と連続した強化繊維からなる複合体に、高分子量の熱可塑性樹脂が接するように配置されてなる成形材料が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
この成形材料では、連続した強化繊維束への含浸には低分子量体、マトリックス樹脂には高分子量体を使い分けることで、経済性、生産性と力学特性の両立を図っている。また、この成形材料を射出成形法による成形をおこなうと、成形時の材料可塑化の段階で強化繊維の折損を最小限に抑えつつマトリックス樹脂と容易に混合され、繊維の分散性に優れた成形品を製造することができる。従って、得られた成形品は、強化繊維の繊維長を従来よりも上げることができ、良好な力学特性と、優れた外観品位を合わせ持つことができる。
【0006】
しかし、近年になり、繊維強化複合材料の注目度が大きくなり、また用途も多岐に細分化されるようになり、成形性、取扱性、得られる成形品の力学特性に優れた成形材料が要求されるようになり、また工業的にもより高い経済性、生産性が必要になってきた。例えば、繊維強化複合材料がより過酷な環境で使用されるようになり、マトリックス樹脂にはより高い耐熱性が要求されるようになってきた。
【0007】
かかる状況では、低分子量の熱可塑性樹脂は、成形加工のプロセス温度で熱分解反応を起こし、分解ガスを発生させて環境を汚染したり、分解ガスが成形品中にボイドとなって力学特性を低下させるなどの問題を生じる。従って、耐熱性に優れ、かつ成形設備周辺の環境汚染を引き起こさない成形材料が要望されるようになってきた。
【特許文献1】特開平10−138379号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の問題点の改善を試み、連続した強化繊維束と熱可塑性樹脂からなる成形材料において、含浸性と低ガス性を両立しうる熱可塑性樹脂を用いることで、射出成形を行う際には強化繊維の成形品中への分散が良好であり、優れた耐熱性、力学特性を有する成形品を容易に環境汚染なく製造できる成形材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる問題点を解決するための本発明は、以下の構成からなる。すなわち、
(1)連続した強化繊維束(A)1〜50重量%、重量平均分子量が10,000以上であり、かつ重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度が2.5以下であるポリアリーレンスルフィド(B)0.1〜10重量%、および熱可塑性樹脂(C)40〜98.9重量%からなる成形材料であって、該成分(A)と該成分(B)からなる複合体に、該成分(C)が接着されてなる成形材料。
【0010】
(2)前記成分(B)の、加熱した際の重量減少が下記式を満たす、(1)に記載の成形材料。
【0011】
△Wr=(W1−W2)/W1×100≦0.18(%)
(ここで、△Wrは重量減少率(%)であり、常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際に、100℃到達時点の試料重量(W1)を基準とした330℃到達時の試料重量(W2)から求められる値である。)
(3)前記成分(A)が、炭素繊維の単繊維を少なくとも10,000本含有してなる、(1)または(2)のいずれかに記載の成形材料。
【0012】
(4)前記成分(C)が、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂から選択される少なくとも1種である、(1)〜(3)のいずれかに記載の成形材料。
【0013】
(5)前記成分(A)が軸心方向にほぼ平行に配列されており、かつ該成分(A)の長さが成形材料の長さと実質的に同じである、(1)〜(4)のいずれかに記載の成形材料。
【0014】
(6)前記成分(A)と前記成分(B)からなる複合体が芯構造であり、前記成分(C)が該複合体の周囲を被覆した芯鞘構造である、(5)に記載の成形材料。
【0015】
(7)成形材料の形態が、長繊維ペレットである(6)に記載の成形材料。
【0016】
(8)長さが1〜50mmの範囲内である、(1)〜(7)のいずれかに記載の成形材料。
【発明の効果】
【0017】
本発明の成形材料を用いることにより、射出成形を行う際に強化繊維の成形品中への分散が良好であり、優れた耐熱性、力学特性を有する成形品を容易に環境汚染なく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の成形材料は、連続した強化繊維束(A)と、ポリアリーレンスルフィド(B)、および熱可塑性樹脂(C)から構成される。まず各構成要素について説明する。
【0019】
本発明で用いられる強化繊維としては、特に限定されないが、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、鉱物繊維、炭化ケイ素繊維等が使用でき、これらの繊維を2種以上混在させることもできる。
【0020】
とりわけ、炭素繊維は比強度、比剛性に優れ、成形品の力学特性を向上させる観点で好ましい。これらの中でも、軽量かつ高強度、高弾性率の成形品を得る観点から、炭素繊維を用いるのが好ましく、特に引張弾性率で200〜700GPaの炭素繊維を用いることが好ましい。さらには、炭素繊維や、金属を被覆した強化繊維は、高い導電性を有するため、成形品の導電性を向上させる効果があり、例えば電磁波シールド性の要求される電子機器などの筐体用途には特に好ましい。
【0021】
また、炭素繊維のより好ましい態様として、X線光電子分光法により測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面官能基量(O/C)が、0.05〜0.4の範囲にあることがあげられる。O/Cが高いほど、炭素繊維表面の官能基量が多く、マトリックス樹脂との接着性を高めることができる。一方、O/Cが高すぎると、炭素繊維表面の結晶構造の破壊が懸念される。O/Cが好ましい範囲内で、力学特性のバランスにとりわけ優れた成形品を得ることが出来る。
【0022】
表面官能基量(O/C)は、X線光電子分光法により、次のような手順によって求められる。まず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維をカットして銅製の試料支持台上に拡げて並べた後、光電子脱出角度を90゜とし、X線源としてMgKα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正としてC1Sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を969eVに合わせる。C1Sピーク面積は、K.E.として958〜972eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。O1Sピーク面積は、K.E.として714〜726eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。ここで表面官能基量(O/C)とは、上記O1Sピーク面積とC1Sピーク面積の比から、装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出する。
【0023】
強化繊維束は、強化繊維の単糸数が多いほど経済性には有利であることから、単繊維は10,000本以上が好ましい。他方、強化繊維の単糸数が多いほどマトリックス樹脂の含浸性には不利となる傾向があるため、強化繊維束として炭素繊維束を用いる場合、経済性と含浸性の両立を図る観点から、15,000本以上100,000本以下がより好ましく、20,000本以上50,000本以下がとりわけ好ましく使用できる。とりわけ、本発明の効果である、成形材料を製造する過程での熱可塑性樹脂の含浸性に優れている点、射出成形を行う際に強化繊維の成形品中への分散が良好である点は、より繊維数の多い強化繊維束に対応できる。
【0024】
さらに、単繊維を強化繊維束に束ねる目的で、本発明の成分(B)とは別に、集束剤を使用してもよい。これは強化繊維束に集束剤を付着させることで、強化繊維の移送時の取扱性や、成形材料を製造する過程でのプロセス性を高める目的で、本発明の目的を損なわない範囲で、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂や種々の熱可塑性樹脂など通常公知のサイジング剤を1種または2種以上併用することができる。
【0025】
本発明の成形材料に用いられる、連続した強化繊維束(A)とは、単繊維が一方向に配列された強化繊維束が長さ方向に亘り連続した状態であることを意味するが、強化繊維束の単繊維全てが全長に亘り連続している必要はなく、一部の単繊維が途中で分断されていても良い。このような連続した強化繊維束としては、一方向性繊維束、二方向性繊維束、多方向性繊維束などが例示できるが、成形材料を製造する過程での生産性の観点から、一方向性繊維束がより好ましく使用できる。
【0026】
本発明に用いられるポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略することもある)は、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。Arとしては下記の式(a)〜式(k)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(a)が特に好ましい。
【0027】
【化1】
【0028】
(R1,R2は水素、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリーレン基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。)
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(l)〜式(n)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
【0029】
【化2】
【0030】
また、本発明におけるPASは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物のいずれかであってもよい。
【0031】
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリフェニレンスルフィドエーテル、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいPASとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
【0032】
【化3】
【0033】
を80重量%以上、特に90重量以上含有するポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略すこともある)が挙げられる。
【0034】
本発明のPASの分子量は、重量平均分子量で10,000以上、好ましくは15,000以上、より好ましくは18,000以上である。重量平均分子量が10,000未満では、より高温(例えば、360℃)での成形加工時に低分子量成分が熱分解反応を起こし、分解ガスを発生させて成形設備周辺の環境汚染を引き起こす場合がある。重量平均分子量の上限に特に制限は無いが、1,000,000以下を好ましい範囲として例示でき、より好ましくは500,000以下、さらに好ましくは200,000以下であり、この範囲内では高い成形加工性を得ることができる。
【0035】
本発明におけるPASの分子量分布の広がり、すなわち重量平均分子量と数平均分子量の比(重量平均分子量/数平均分子量)で表される分散度は2.5以下であり、2.3以下が好ましく、2.1以下がより好ましく、2.0以下がさらに好ましい。分散度が大きくなるにともない、PASに含まれる低分子成分の量が多くなる傾向があり、前記同様に成形設備周辺の環境汚染を引き起こす場合がある。なお、前記重量平均分子量および数平均分子量は例えば示差屈折率検出器を具備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を使用して求めることができる。
【0036】
また、本発明のPASの溶融粘度に特に制限はないが、通常、溶融粘度が5〜10,000Pa・s(300℃、剪断速度1000/秒)の範囲が好ましい範囲として例示できる。
【0037】
また、本発明のPASは実質的に塩素以外のハロゲン、すなわちフッ素、臭素、ヨウ素、アスタチンを含まないことが好ましい。本発明のPASがハロゲンとして塩素を含有する場合、PASが通常使用される温度領域においては安定であるために塩素を少量含有してもPASの力学特性、発生ガスの人体に与える影響は少ないが、塩素以外のハロゲンを含有する場合、それらの特異な性質が環境へ悪影響を及ぼす場合がある。なお、ここで言う「実質的に塩素以外のハロゲンを含まない」とは、例えば、ポリマーを燃焼させ、燃焼ガスを吸収させた、溶液を公知のイオンクロマト法などで定量分析を行い、塩素以外のハロゲンは検出限界以下であることを意味する。また、本発明のPASがハロゲンとして塩素を含有する場合でも、同様の観点で、その好ましい量は1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、さらに好ましくは0.2重量%以下である。
【0038】
本発明のPASは、成形時の分解ガスを低く抑える観点から、加熱した際の重量減少が下記式(1)を満たすことが好ましい。
【0039】
△Wr=(W1−W2)/W1×100≦0.18(%) ・・・(1)。
【0040】
ここで△Wrは重量減少率(%)であり、常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際に、100℃到達時点の試料重量(W1)を基準とした330℃到達時の試料重量(W2)から求められる値である。
【0041】
本発明のPASは△Wrが0.18%以下であり、0.12%以下であることが好ましく、0.10%以下であることが更に好ましく、0.085以下であることがよりいっそう好ましい。△Wrが前記範囲を超える場合は、たとえば、繊維強化樹脂部材が火災などにより加熱された際に、発生ガス量が多いといった問題や発生する場合がある。△Wrは一般的な熱重量分析によって求めることが可能であるが、この分析における雰囲気は常圧の非酸化性雰囲気を用いる。非酸化性雰囲気とは、酸素を実質的に含有しない雰囲気、すなわち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを示す。
【0042】
また、△Wrの測定においては50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で昇温して熱重量分析を行う。なお、本発明においては、50℃で1分間ホールドした後に昇温速度20℃/分で昇温して熱重量分析を行う。
【0043】
なお、一般に熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂を加熱した際の重量減少量は温度が高くなるほど大きくなる傾向があり、この傾向はPASにも当てはまることが知られている。このような傾向をふまえた上で、本発明者らは本発明のPASおよび公知のPASの加熱時の重量減少量の温度依存性を詳細に分析した結果、前記した熱重量分析条件に従ってPASの重量減少率を求める場合、重量減少率と温度Tにはおおむね下記式(2)および(3)の関係が成り立つことを見いだした。
【0044】
△Wr1=△Wt1−(1.0×10−3×T1) …(2)
△Wr2=△Wt2+(1.0×10−3×T2) …(3)。
【0045】
式(2)において△Wt1は常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃を超える任意の温度T1まで昇温(昇温速度20℃/分)した際に得られる熱重量分析値において、100℃到達時点の試料重量(W)を基準とした任意の温度T1における試料重量(Wt1)との差から下記式(1)’によって得られる重量減少率(%)である。
【0046】
△Wt1=(W−Wt1)/W×100 (%)・・・(1)’。
【0047】
本発明のPASの重量減少率△Wrは前記したように熱重量分析を行った分析値における330℃時点の試料重量を基準としているが、式(2)の関係を用いることで330℃を超える温度における試料重量を基準とした重量減少率△Wt1から△Wrの値を見積もることが可能である。
【0048】
式(3)において△Wt2は常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から270℃以上330℃未満の任意の温度T2まで昇温(昇温速度20℃/分)した際に得られる熱重量分析値において、100℃到達時点の試料重量(W)を基準とした任意の温度T2における試料重量(Wt2)との差から下記式(1)’’によって得られる重量減少率(%)である。
【0049】
△Wt2=(W−Wt2)/W×100 (%) ・・・(1)’’。
【0050】
本発明のPASの重量減少率△Wrは前記したように熱重量分析を行った分析値における330℃時点の試料重量を基準としているが、式(3)の関係を用いることで270℃以上330℃未満の温度領域における試料重量を基準とした重量減少率△Wt2から△Wrの値を見積もることが可能である。なお、熱重量分析における測定温度上限が270℃未満の場合、PASが溶融しない、または、溶融しても流動性が低い傾向にあるため、このような測定温度範囲は実使用に適した温度範囲とはいえず、PAS品質の評価基準として用いるとの観点で測定温度範囲に前記範囲を用いることが望ましい。
【0051】
なお、本発明のPASは、下記の式(o)で表される環式ポリアリーレンスルフィドを少なくとも50重量%以上含み、かつ重量平均分子量が10,000未満のポリアリーレンスルフィドプレポリマーを加熱して、重量平均分子量10,000以上の高重合度体に転化させることによって製造することができる。ポリアリーレンスルフィドプレポリマーのより好ましい態様としては、環式ポリアリーレンスルフィドを70重量%以上含み、さらに好ましくは80重量%以上含み、とりわけ好ましくは90重量%以上含むものである。また、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーに含まれる環式ポリアリーレンスルフィドの上限値には特に制限は無いが、98重量%以下、好ましくは95重量%以下が好ましい範囲として例示できる。
【0052】
【化4】
【0053】
通常、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーにおける環式ポリアリーレンスルフィドの重量比率が高いほど、加熱後に得られるPASの重合度が高くなる傾向にある。すなわち、本発明のPASの製造法においてはポリアリーレンスルフィドプレポリマーにおける環式ポリアリーレンスルフィドの存在比率を調整することで、得られるPASの重合度を調整し、加熱時の発生ガス量をより低く抑えることができ好ましい。
【0054】
従って、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを連続した強化繊維束に予め含浸させ後、加熱してポリアリーレンスルフィドプレポリマーをPASの高重合度体に転化させる方法(I)や、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを加熱させて重合をさせながら連続した強化繊維束に含浸させる方法(II)や、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを加熱させてPASの高重合度体に転化させた後に、連続した強化繊維束に含浸させる方法(III)などで、連続した強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)からなる複合体を形成させることができるが、成形材料を製造する過程での経済性、生産性の観点から、前記方法(I)が好ましい。
【0055】
ここで、前記ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを得る方法としては例えば以下の方法が挙げられる。
【0056】
(1)少なくともポリハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤および有機極性溶媒を含有する混合物を加熱してポリアリーレンスルフィド樹脂を重合することで、80meshふるい(目開き0.125mm)で分離される顆粒状PAS樹脂、重合で生成したPAS成分であって前記顆粒状PAS樹脂以外のPAS成分(ポリアリーレンスルフィドオリゴマーと称する)、有機極性溶媒、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を含む混合物を調製し、ここに含まれるポリアリーレンスルフィドオリゴマーを分離回収し、これを精製操作に処すことでポリアリーレンスルフィドプレポリマーを得る方法。
【0057】
(2)少なくともポリハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤および有機極性溶媒を含有する混合物を加熱してポリアリーレンスルフィド樹脂を重合して、重合終了後に公知の方法によって有機極性溶媒の除去を行い、ポリアリーレンスルフィド樹脂、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を含む混合物を調製し、これを公知の方法で精製することで得られるポリアリーレンスルフィドプレポリマーを含むポリアリーレンスルフィド樹脂を得て、これを実質的にポリアリーレンスルフィド樹脂は溶解しないがポリアリーレンスルフィドプレポリマーは溶解する溶剤を用いて抽出してポリアリーレンスルフィドプレポリマーを回収する方法。
【0058】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂(C)は、特に限定はなく公知の熱可塑性樹脂を使用することができる。すなわち、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PENp)樹脂、液晶ポリエステル等のポリエステル系樹脂や、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリブチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂や、スチレン系樹脂、ウレタン樹脂の他や、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリスルホン(PSU)樹脂、変性PSU樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、ポリケトン(PK)樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、これらの共重合体、変性体、および2種類以上ブレンドした樹脂などであってもよい。
【0059】
中でも、本発明の効果をより一層高める観点から、耐熱性に優れた樹脂が好ましく選択できる。ここで言う耐熱性とは、例えば、融点が200℃以上、好ましくは220℃以上、より好ましくは240℃以上、さらに好ましくは260℃以上である結晶性樹脂や、荷重たわみ温度が120℃以上、好ましくは140℃以上、より好ましくは160℃以上、さらに好ましくは180℃以上の非晶性樹脂が例示できる。従って、好ましい樹脂の一例としては、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、PPS樹脂が例示でき、さらにはポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂が好ましい樹脂として例示できる。なお、熱可塑性樹脂(C)がPPS樹脂の場合、前記成分(B)と同一のPAS樹脂を使用してもよいし、異なるPAS樹脂を使用してもよいが、本発明の目的から、前記成分(B)よりも高分子量であるPPS樹脂を用いることが好ましい。
【0060】
上記群に例示された熱可塑性樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、繊維強化剤、エラストマーあるいはゴム成分などの耐衝撃性向上剤、他の充填材や添加剤を含有しても良い。これらの例としては、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、あるいは、カップリング剤が挙げられる。
【0061】
本発明の成形材料は、強化繊維束(A)、ポリアリーレンスルフィド(B)および熱可塑性樹脂(C)で構成され、各構成成分の合計が100重量%となる。
【0062】
このうち、強化繊維束(A)は1〜50重量%、好ましくは5〜45重量%、より好ましは10〜40重量%である。強化繊維束(A)が1重量%未満では、得られる成形品の力学特性が不十分となる場合があり、50重量%を超えると射出成形の際に流動性が低下する場合がある。
【0063】
また、ポリアリーレンスルフィド(B)は0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜8重量%、より好ましくは1〜6重量%である。ポリアリーレンスルフィド(B)が0.1重量%未満では、成形材料の成形性、すなわち成形時の強化繊維の分散が不十分となる場合があり、10重量%を超えると、マトリックス樹脂である熱可塑性樹脂の力学特性を低下させる場合がある。
【0064】
さらに、熱可塑性樹脂(C)は40〜98.9重量%、好ましくは47〜94.5重量%、より好ましくは54〜89重量%であり、この範囲内で用いることで、本発明の効果を達成することができる。
【0065】
本発明の成形材料は、連続した強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)からなる複合体に熱可塑性樹脂(C)が接着するように配置されて構成される成形材料である。
【0066】
強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)は、この2者で複合体が形成される。この複合体の形態は図1に示すようなものであり、強化繊維束(A)の各単繊維間にポリアリーレンスルフィド(B)が満たされている。すなわち、ポリアリーレンスルフィド(B)の海に、強化繊維(A)が島のように分散している状態である。具体的な複合体の形成については、前記した通りである。
【0067】
本発明の成形材料において、耐熱性、低ガス性に優れたポリアリーレンスルフィド(B)が強化繊維束(A)に良好に含浸した複合体とすることで、熱可塑性樹脂(C)とが接着されていても、例えば、本発明の成形材料を射出成形すると、射出成形機のシリンダー内で溶融混練された、流動性の良いポリアリーレンスルフィド(B)が熱可塑性樹脂(C)に拡散し、強化繊維束(A)が熱可塑性樹脂(C)に分散することを助け、同時に熱可塑性樹脂(C)が強化繊維束(A)に置換、含浸することを助ける、いわゆる含浸助剤・分散助剤としての役割を持つ。
【0068】
本発明の成形材料においての好ましい態様としては、図2に示すように、強化繊維束(A)が成形材料の軸心方向にほぼ平行に配列され、かつ強化繊維束(A)の長さは成形材料の長さと実質的に同じ長さである。
【0069】
ここで言う、「ほぼ平行に配列されて」いるとは、強化繊維束の長軸の軸線と、成形材料の長軸の軸線とが、同方向を指向している状態を示し、軸線同士の角度のずれが、好ましくは20°以下であり、より好ましくは10°以下であり、さらに好ましくは5°以下である。また、「実質的に同じ長さ」とは、例えばペレット状の成形材料において、ペレット内部の途中で強化繊維束が切断されていたり、ペレット全長よりも有意に短い強化繊維束が実質的に含まれたりしないことである。特に、そのペレット全長よりも短い強化繊維束の量について規定されているわけではないが、ペレット全長の50%以下の長さの強化繊維の含有量が30重量%以下である場合には、ペレット全長よりも有意に短い強化繊維束が実質的に含まれていないと評価する。さらに、ペレット全長の50%以下の長さの強化繊維の含有量は20重量%以下であることが好ましい。なお、ペレット全長とはペレット中の強化繊維配向方向の長さである。強化繊維束(A)が成形材料と同等の長さを持つことで、成形品中の強化繊維長を長くすることが出来るため、優れた力学特性を得ることができる。
【0070】
図3〜6は、本発明の成形材料の軸心方向断面の形状の例を模式的に表したものであり、図7〜10は、本発明の成形材料の直交方向断面の形状の例を模式的に表したものである。
【0071】
成形材料の断面の形状は、強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)からなる複合体に、熱可塑性樹脂(C)が接着するように配置されていれば図に示されたものに限定されないが、好ましくは軸心方向断面である図3〜5に示されるように、複合体が芯材となり熱可塑性樹脂(C)で層状に挟まれて配置されている構成が好ましい。
【0072】
また直交方向断面である図7〜9に示されるように、複合体を芯に対して、熱可塑性樹脂(C)が周囲を被覆するような芯鞘構造に配置されている構成が好ましい。図11に示されるような複数の複合体を熱可塑性樹脂(C)が被覆するように配置する場合、複合体の数は2〜6程度が望ましい。
【0073】
複合体と熱可塑性樹脂(C)の境界は接着され、境界付近で部分的に熱可塑性樹脂(C)が該複合体の一部に入り込み、複合体中のポリアリーレンスルフィド(B)と相溶しているような状態、あるいは強化繊維に含浸しているような状態になっていてもよい。
【0074】
成形材料の軸心方向は、ほぼ同一の断面形状を保ち連続であればよい。成形方法によってはこのような連続の成形材料をある長さにカットしてもよい。
【0075】
本発明の成形材料は、例えば射出成形やプレス成形などの手法により強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)からなる複合体に、熱可塑性樹脂(C)を混練して最終的な成形品を作製できる。成形材料の取扱性の点から、前記複合体と熱可塑性樹脂(C)は成形が行われるまでは分離せず、前述したような形状を保っていることが重要である。複合体と熱可塑性樹脂(C)では、形状(サイズ、アスペクト比)、比重、重量が全く異なるため、成形までの材料の運搬、取り扱い時、成形工程での材料移送時に分級し、成形品の力学特性にバラツキを生じたり、流動性が低下して金型詰まりを起こしたり、成形工程でブロッキングする場合がある。
【0076】
そのため、図7〜9に例示されるように、強化繊維である強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)からなる複合体に対して、熱可塑性樹脂(C)が該複合体の周囲を被覆するように配置されていること、すなわち、強化繊維である強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)からなる複合体が芯構造であり、熱可塑性樹脂(C)が該複合体の周囲を被覆した芯鞘構造とすることが好ましい。このような配置であれば、複合体が熱可塑性樹脂(C)をより強固な複合化ができる。また、熱可塑性樹脂(C)が強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)からなる複合体の周囲を被覆するように配置されるか、該複合体と熱可塑性樹脂(C)が層状に配置されているか、いずれが有利であるかについては、製造の容易さと、材料の取り扱いの容易さから、熱可塑性樹脂(C)が該複合体の周囲を被覆するように配置されることがより好ましい。
【0077】
前述したように、強化繊維束(A)はポリアリーレンスルフィド(B)によって完全に含浸されていることが望ましいが、現実的にそれは困難であり、強化繊維とポリアリーレンスルフィドからなる複合体にはある程度のボイドが存在する。特に強化繊維の含有率が大きい場合にはボイドが多くなるが、ある程度のボイドが存在する場合でも本発明の含浸・繊維分散促進の効果は示される。ただしボイド率が40%を超えると顕著に含浸・繊維分散促進の効果が小さくなるので、ボイド率は0〜40%の範囲が好ましい。より好ましいボイド率の範囲は20%以下である。ボイド率は、複合体の部分をASTM D2734(1997)試験法により測定する。
【0078】
本発明の成形材料は、好ましくは1〜50mmの範囲の長さに切断して用いられる。前記の長さに調製することにより、成形時の流動性、取扱性を十分に高めることができる。このように適切な長さに切断された成形材料としてとりわけ好ましい態様は、射出成形用の長繊維ペレットが例示できる。
【0079】
また、本発明の成形材料は、連続、長尺のままでも成形法によっては使用可能である。例えば、熱可塑性ヤーンプリプレグとして、加熱しながらマンドレルに巻き付け、ロール状成形品を得たりすることができる。このような成形品の例としては、液化天然ガスタンクなどが挙げられる。また本発明の成形材料を、複数本一方向に引き揃えて加熱・融着させることにより一方向熱可塑性プリプレグを作製することも可能である。このようなプリプレグは、耐熱性、高い強度、弾性率、耐衝撃性が要求されるような分野、例えば航空機部材などに適用が可能である。
【0080】
本発明の成形材料は、公知の成形法により最終的な形状の製品に加工できる。成形方法としてはプレス成形、トランスファー成形、射出成形や、これらの組合せ等が挙げられる。成形品としては、シリンダーヘッドカバー、ベアリングリテーナ、インテークマニホールド、ペダル等の自動車部品、モンキー、レンチ等の工具類、歯車などの小物が挙げられる。また、本発明の成形材料は、流動性に優れるため成形品の厚みが0.5〜2mmといった薄肉の成形品を比較的容易に得ることができる。このような薄肉成形が要求されるものとしては、例えばパーソナルコンピューター、携帯電話などに使用されるような筐体や、パーソナルコンピューターの内部でキーボードを支持する部材であるキーボード支持体に代表されるような電気・電子機器用部材が挙げられる。このような電気・電子機器用部材では、強化繊維に導電性を有する炭素繊維を使用した場合に、電磁波シールド性が付与されるためにより好ましい。
【0081】
また、上記した成形材料は射出成形用ペレットとして用いることができる。射出成形においては、ペレット状とした成形材料を可塑化する際、温度、圧力、混練が加えられるから、本発明によればその際にポリアリーレンスルフィド(B)が分散・含浸助剤として大きな効果を発揮する。この場合、通常のインラインスクリュー型射出成形機を用いることができ、たとえ圧縮比の低いような形状のスクリューを用いたり、材料可塑化の際の背圧を低く設定するなどしたりして、スクリューによる混練効果が弱い場合であっても、強化繊維がマトリックス樹脂中に良分散し、繊維への樹脂の含浸が良好な成形品を得ることができる。
【実施例】
【0082】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
【0083】
本発明に使用した評価方法を下記する。
【0084】
(1)ポリアリーレンスルフィドの平均分子量
ポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量は、ゲルパーミレーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を算出した。また、該分子量を用いて、分散度(Mw/Mn)を算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
【0085】
装置:センシュー科学 SSC−7100(カラム名:センシュー科学 GPC3506)
溶離液:1−クロロナフタレン、流量:1.0mL/min
カラム温度:210℃、検出器温度:210℃。
【0086】
(2)ポリアリーレンスルフィドの加熱による重量減少
熱重量分析機(パーキンエルマー社製TGA7)を用いて、下記条件にて重量減少率の測定を行った。なお、試料は2mm以下の細粒物を用いた。
【0087】
測定雰囲気:窒素(純度:99.99%以上)気流下
試料仕込み重量:約10mg
測定条件:
(a)プログラム温度50℃で1分保持
(b)プログラム温度50℃から400℃まで昇温。この際の昇温速度20℃/分
重量減少率△Wrは(b)の昇温において、100℃時の試料重量を基準として、330℃到達時の試料重量から前述の式(1)を用いて算出した。
【0088】
(3)成形材料を用いて得られた成形品に含まれる強化繊維の平均繊維長
成形品の一部を切り出し、電気炉にて空気中500℃で30分間加熱して熱可塑性樹脂を十分に焼却除去して強化繊維を分離した。分離した強化繊維を、無作為に少なくとも400本以上抽出し、光学顕微鏡にてその長さを1μm単位まで測定して、次式により重量平均繊維長(Lw)および数平均繊維長(Ln)を求める。
【0089】
重量平均繊維長(Lw)=Σ(Li×Wi/100)
数平均繊維長(Ln)=(ΣLi)/Ntotal
Li:測定した繊維長さ(i=1、2、3、・・・、n)
Wi:繊維長さLiの繊維の重量分率(i=1、2、3、・・・、n)
Ntotal:繊維長さを測定した総本数。
【0090】
(4)成形材料を用いて得られた成形品の密度
JIS K7112(1999)の5に記載のA法(水中置換法)に準拠し測定した。成形品から1cm×1cmの試験片を切り出し、耐熱性ガラス容器に投入し、この容器を80℃の温度で12時間真空乾燥し、吸湿しないようにデシケーターで室温まで冷却した。浸漬液にはエタノールを用いた。
【0091】
(5)成形材料を用いて得られた成形品の曲げ試験
ASTM D790(1997)に準拠し、3点曲げ試験冶具(圧子10mm、支点10mm)を用いて支持スパンを100mmに設定し、クロスヘッド速度5.3mm/分の試験条件にて曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。試験機として、"インストロン"(登録商標)万能試験機4201型(インストロン社製)を用いた。
【0092】
(6)成形材料を用いて得られた成形品のアイゾット衝撃試験
ASTM D256(1993)に準拠し、モールドノッチ付きアイゾット衝撃試験を行った。用いた試験片の厚みは3.2mm、試験片の水分率0.1重量%以下において、アイゾット衝撃強度(J/m)を測定した。
【0093】
(7)成形材料を用いて得られた成形品の外観評価
射出成形によって得られた幅150mm×長さ150mm×厚み1.2mmの薄肉平板成形品の表面を目視観察し、強化繊維の分散性不良欠陥(浮き、膨れ)の数を測定した。測定は、20サンプルについて行い、分散不良欠陥箇所の総数をサンプル数で除した平均欠陥数を判定基準とし、以下の4段階で評価した。
【0094】
○○:全成形品に分散不良欠陥が全く見られない。表面外観に特に優れる。
【0095】
○ :平均欠陥数が0.1個/枚未満である。表面外観に優れる。
【0096】
△ :平均欠陥数が0.1〜0.5個/枚である。表面外観にやや劣る。
【0097】
× :平均欠陥数が0.5個/枚を超え、全成形品に分散不良が見られる。表面外観に劣る。
【0098】
(8)成形材料を用いて射出成形した時の環境汚染評価
所定温度によって射出成形を実施する際のガス発生について、射出ノズルからの異臭をともなう白煙の噴出状況と、射出成形によって得られた幅150mm×長さ150mm×厚み1.2mmの薄肉平板成形品の表面欠陥(焼け、ガス跡、ボイド)を目視観察により判定した。判定基準は、以下の4段階で評価し、○以上が合格である。
【0099】
○○:異臭も白煙もなく、成形品表面にも欠陥が見られない。
【0100】
○ :異臭はないが、白煙は少量確認される。成形品表面にも欠陥が見られない。
【0101】
△ :異臭をともなう白煙が確認される。成形品表面にも欠陥が見られない。
【0102】
× :異臭をともなう白煙が確認される。成形品表面にも欠陥が見られる。
【0103】
(参考例1)
<ポリフェニレンスルフィドプレポリマーの調製>
撹拌機付きの1000リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム118kg(1000モル)、96%水酸化ナトリウム42.3kg(1014モル)、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略する場合もある)を163kg(1646モル)、酢酸ナトリウム24.6kg(300モル)、およびイオン交換水150kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら240℃まで3時間かけて徐々に加熱し、精留塔を介して水211kgおよびNMP4kgを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。なお、この脱液操作の間に仕込んだイオウ成分1モル当たり0.02モルの硫化水素が系外に飛散した。
【0104】
次に、p−ジクロロベンゼン147kg(1004モル)、NMP129kg(1300モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封した。240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で270℃まで昇温し、この温度で140分保持した。水を18kg(1000モル)を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後220℃まで0.4℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷し、スラリー(A)を得た。このスラリー(A)を376kgのNMPで希釈しスラリー(B)を得た。
80℃に加熱したスラリー(B)14.3kgをふるい(80mesh、目開き0.175mm)で濾別し、粗PPS樹脂とスラリー(C)を10kg得た。スラリー(C)をロータリーエバポレーターに仕込み、窒素で置換後、減圧下100〜160℃で1.5時間処理した後、真空乾燥機で160℃、1時間処理した。得られた固形物中のNMP量は3重量%であった。
【0105】
この固形物にイオン交換水12kg(スラリー(C)の1.2倍量)を加えた後、70℃で30分撹拌して再スラリー化した。このスラリーを目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過した。得られた白色ケークにイオン交換水12kgを加えて70℃で30分撹拌して再スラリー化し、同様に吸引濾過後、70℃で5時間真空乾燥してポリフェニレンスルフィドオリゴマー100gを得た。ポリフェニレンスルフィドプレポリマーが所定量に達するまで上記操作を繰り返した。
【0106】
得られたポリフェニレンスルフィドオリゴマーを4g分取してクロロホルム120gで3時間ソックスレー抽出した。得られた抽出液からクロロホルムを留去して得られた固体に再度クロロホルム20gを加え、室温で溶解しスラリー状の混合液を得た。これをメタノール250gに撹拌しながらゆっくりと滴下し、沈殿物を目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過し、得られた白色ケークを70℃で3時間真空乾燥して白色粉末を得た。
【0107】
この白色粉末の重量平均分子量は900であった。この白色粉末の赤外分光分析における吸収スペクトルより、白色粉末はポリフェニレンスルフィド(PAS)であることが判明した。また、示差走査型熱量計を用いてこの白色粉末の熱的特性を分析した結果(昇温速度40℃/分)、約200〜260℃にブロードな吸熱を示し、ピーク温度は215℃であることがわかった。
【0108】
また高速液体クロマトグラフィーより成分分割した成分のマススペクトル分析、さらにMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末は繰り返し単位数4〜11の環式ポリフェニレンスルフィドおよび繰り返し単位数2〜11の直鎖状ポリフェニレンスルフィドからなる混合物であり、環式ポリフェニレンスルフィドと直鎖状ポリフェニレンスルフィドの重量比は9:1であることがわかった。
【0109】
(実施例1)
参考例1で調製したポリフェニレンスルフィドプレポリマーを、240℃の溶融バス中で溶融させ、ギアポンプにてキスコーターに供給する。230℃に加熱されたロール上にキスコーターからポリフェニレンスルフィドプレポリマーを塗布し、被膜を形成させた。
【0110】
このロール上に炭素繊維トレカ(登録商標)T700S−24K(東レ(株)製)を接触させながら通過させて、炭素繊維束の単位長さあたりに一定量のポリフェニレンスルフィドプレポリマーを付着させた。
【0111】
ポリフェニレンスルフィドプレポリマーを付着させた炭素繊維を、350℃に加熱された炉内へ供給し、ベアリングで自由に回転する、一直線上に上下交互に配置された10個のロール(φ50mm)間に通過させ、かつ葛折り状に炉内に設置された10個のロールバー(φ200mm)を通過させてポリフェニレンスルフィドプレポリマーを炭素繊維束に十分に含浸させながらPASに高重合度体に転化させた。次に、炉内から引き出した炭素繊維ストランドにエアを吹き付けて冷却した後、ドラムワインダーで巻き取った。
【0112】
なお、巻き取った炭素繊維束から、10mm長のストランドを10本カットし、炭素繊維とポリアリーレンスルフィドを分離するために、ソックスレー抽出器を用い、1−クロロナフタレンを用いて、210℃で6時間還流を行い、抽出したポリアリーレンスルフィドを分子量の測定に供した。得られたPPSの重量平均分子量(Mw)は26,800、数平均分子量(Mn)14,100、分散度(Mw/Mn)は1.90であった。次に、抽出したポリアリーレンスルフィドの重量減少率△Wrを測定したところ、0.09%であった。
【0113】
続いて、ウルテム1000R(日本ジーイープラスチックス(株)製PEI樹脂、荷重たわみ温度200℃、非晶性樹脂)を360℃で単軸押出機にて溶融させ、押出機の先端に取り付けたクロスヘッドダイ中に押し出すと同時に、得られた連続した強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)からなるストランドも上記クロスヘッドダイ中に連続的に供給することによって、溶融した成分(C)を成分(A)と成分(B)の複合体に被覆した。このとき、強化繊維の含有率を20重量%とするように成分(C)の量を調整した。
【0114】
上記記載の方法により得られたストランドを、冷却後、カッターにて7mmの長さに切断して芯鞘構造の柱状ペレット(長繊維ペレット)を得た。
【0115】
得られた長繊維ペレットは運搬による毛羽立ちもなく、良好な取扱性を示した。得られた成形材料を140℃、5時間以上真空下で乾燥させた。得られた成形材料を、日本製鋼所(株)製J150EII−P型射出成形機を用いて、各試験片用の金型を用いて成形を行った。条件はいずれもシリンダー温度:380℃、金型温度:140℃、冷却時間30秒とした。成形後、真空下で80℃、12時間の乾燥を行い、かつデシケーター中で室温、3時間保管した乾燥状態の試験片について評価を行った。評価結果を表1にまとめて記載した。
【0116】
(比較例1)
ポリフェニレンスルフィドプレポリマーを用いない以外は、実施例1と同様に、ウルテム1000Rを360℃で単軸押出機にて溶融させ、押出機の先端に取り付けたクロスヘッドダイ中に押し出すと同時に、連続した強化繊維束(A)も上記クロスヘッドダイ中に連続的に供給することによって、溶融した成分(C)を成分(A)に被覆した。このとき、強化繊維の含有率を20重量%とするように成分(C)の量を調整した。
【0117】
上記記載の方法により得られたストランドを、冷却後、カッターにて7mmの長さに切断して芯鞘構造の柱状ペレットとしたところ、成分(C)が強化繊維束に含浸せず、切断面から強化繊維が脱落し、ペレットの毛羽立ちが発生した。これを、射出成形に供するため運搬したところ、毛羽が一層多くなり、成形材料として取り扱えないレベルであったため、射出成形を断念した。
【0118】
(比較例2)
炉内温度を280℃とした以外は、実施例1と同様の方法で、芯鞘構造の柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。炭素繊維束から、同様にポリアリーレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。得られたPPSの重量平均分子量(Mw)は6,500、数平均分子量(Mn)3,100、分散度(Mw/Mn)は2.08であった。次に、抽出したポリアリーレンスルフィドの重量減少率△Wrを測定したところ、0.29%であった。
【0119】
また、得られた成形材料を、同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
【0120】
(実施例2)
熱可塑性樹脂(C)として、トレリナA900(東レ(株)製PPS樹脂、融点278℃)を使用して、実施例1と同様の方法で、芯鞘構造の柱状ペレット(長繊維ペレット)を得た。また、得られた成形材料を、同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
【0121】
【表1】
【0122】
表1の実施例および比較例より以下のことが明らかである。実施例1、2の成形材料は、ポリフェニレンスルフィド(B)を強化繊維束(A)に含浸させているため、比較例にくらべ、成形材料の取扱性に優れ、成形時の環境汚染がなく、得られる成形品の力学特性、外観品位に優れることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の成形材料は、射出成形を行う際に強化繊維の成形品中への分散が良好であり、耐熱性、力学特性に優れた成形品を容易に環境汚染なく製造することができるため、射出成形、ブロー成形、インサート成形などの成形方法に限らず、プランジャー成形、プレス成形、スタンピング成形など幅広い成形方法にも応用することができるが、その応用範囲がこれらに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)からなる複合体の形態の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の成形材料の好ましい態様の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図5】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図6】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図7】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図8】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図9】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図10】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図11】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0125】
1 強化繊維束(A)
2 ポリアリーレンスルフィド(B)
3 強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)からなる複合体
4 熱可塑性樹脂(C)
【技術分野】
【0001】
本発明は、長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料に関する。さらに詳しくは、射出成形を行う際に強化繊維の成形品中への分散が良好であり、高い流動性と取扱性を兼ね備え、優れた耐熱性と力学特性を有する成形品を容易に環境汚染なく製造できる成形材料に関する。
【背景技術】
【0002】
連続した強化繊維束と熱可塑性樹脂をマトリックスとする成形材料として、熱可塑性のプリプレグ、ヤーン、ガラスマット(GMT)など多種多様な形態が公知である。このような成形材料は、熱可塑性樹脂の特性をいかして成形が容易であったり、熱硬化性樹脂のような貯蔵の負荷を必要とせず、また得られる成形品の靭性が高く、リサイクル性に優れるといった特徴がある。とりわけ、ペレット状に加工した成形材料は、射出成形やスタンピング成形などの経済性、生産性に優れた成形法に適用でき、工業材料として有用である。
【0003】
しかしながら、成形材料を製造する過程で、熱可塑性樹脂を連続した強化繊維束に含浸させるには、経済性、生産性の面で問題があり、それほど広く用いられていないのが現状である。例えば、樹脂の溶融粘度が高いほど強化繊維束への含浸は困難とされることはよく知られている。靱性や伸度などの力学特性に優れた熱可塑性樹脂は、とりわけ高分子量体であり、熱硬化性樹脂に比べて粘度が高く、またプロセス温度もより高温を必要とするため、成形材料を容易に、生産性よく製造することには不向きであった。
【0004】
一方、含浸の容易さから低分子量の、すなわち低粘度の熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂に用いると、得られる成形品の力学特性が大幅に低下するという問題がある。低分子量の熱可塑性重合体と連続した強化繊維からなる複合体に、高分子量の熱可塑性樹脂が接するように配置されてなる成形材料が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
この成形材料では、連続した強化繊維束への含浸には低分子量体、マトリックス樹脂には高分子量体を使い分けることで、経済性、生産性と力学特性の両立を図っている。また、この成形材料を射出成形法による成形をおこなうと、成形時の材料可塑化の段階で強化繊維の折損を最小限に抑えつつマトリックス樹脂と容易に混合され、繊維の分散性に優れた成形品を製造することができる。従って、得られた成形品は、強化繊維の繊維長を従来よりも上げることができ、良好な力学特性と、優れた外観品位を合わせ持つことができる。
【0006】
しかし、近年になり、繊維強化複合材料の注目度が大きくなり、また用途も多岐に細分化されるようになり、成形性、取扱性、得られる成形品の力学特性に優れた成形材料が要求されるようになり、また工業的にもより高い経済性、生産性が必要になってきた。例えば、繊維強化複合材料がより過酷な環境で使用されるようになり、マトリックス樹脂にはより高い耐熱性が要求されるようになってきた。
【0007】
かかる状況では、低分子量の熱可塑性樹脂は、成形加工のプロセス温度で熱分解反応を起こし、分解ガスを発生させて環境を汚染したり、分解ガスが成形品中にボイドとなって力学特性を低下させるなどの問題を生じる。従って、耐熱性に優れ、かつ成形設備周辺の環境汚染を引き起こさない成形材料が要望されるようになってきた。
【特許文献1】特開平10−138379号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の問題点の改善を試み、連続した強化繊維束と熱可塑性樹脂からなる成形材料において、含浸性と低ガス性を両立しうる熱可塑性樹脂を用いることで、射出成形を行う際には強化繊維の成形品中への分散が良好であり、優れた耐熱性、力学特性を有する成形品を容易に環境汚染なく製造できる成形材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる問題点を解決するための本発明は、以下の構成からなる。すなわち、
(1)連続した強化繊維束(A)1〜50重量%、重量平均分子量が10,000以上であり、かつ重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度が2.5以下であるポリアリーレンスルフィド(B)0.1〜10重量%、および熱可塑性樹脂(C)40〜98.9重量%からなる成形材料であって、該成分(A)と該成分(B)からなる複合体に、該成分(C)が接着されてなる成形材料。
【0010】
(2)前記成分(B)の、加熱した際の重量減少が下記式を満たす、(1)に記載の成形材料。
【0011】
△Wr=(W1−W2)/W1×100≦0.18(%)
(ここで、△Wrは重量減少率(%)であり、常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際に、100℃到達時点の試料重量(W1)を基準とした330℃到達時の試料重量(W2)から求められる値である。)
(3)前記成分(A)が、炭素繊維の単繊維を少なくとも10,000本含有してなる、(1)または(2)のいずれかに記載の成形材料。
【0012】
(4)前記成分(C)が、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂から選択される少なくとも1種である、(1)〜(3)のいずれかに記載の成形材料。
【0013】
(5)前記成分(A)が軸心方向にほぼ平行に配列されており、かつ該成分(A)の長さが成形材料の長さと実質的に同じである、(1)〜(4)のいずれかに記載の成形材料。
【0014】
(6)前記成分(A)と前記成分(B)からなる複合体が芯構造であり、前記成分(C)が該複合体の周囲を被覆した芯鞘構造である、(5)に記載の成形材料。
【0015】
(7)成形材料の形態が、長繊維ペレットである(6)に記載の成形材料。
【0016】
(8)長さが1〜50mmの範囲内である、(1)〜(7)のいずれかに記載の成形材料。
【発明の効果】
【0017】
本発明の成形材料を用いることにより、射出成形を行う際に強化繊維の成形品中への分散が良好であり、優れた耐熱性、力学特性を有する成形品を容易に環境汚染なく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の成形材料は、連続した強化繊維束(A)と、ポリアリーレンスルフィド(B)、および熱可塑性樹脂(C)から構成される。まず各構成要素について説明する。
【0019】
本発明で用いられる強化繊維としては、特に限定されないが、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、鉱物繊維、炭化ケイ素繊維等が使用でき、これらの繊維を2種以上混在させることもできる。
【0020】
とりわけ、炭素繊維は比強度、比剛性に優れ、成形品の力学特性を向上させる観点で好ましい。これらの中でも、軽量かつ高強度、高弾性率の成形品を得る観点から、炭素繊維を用いるのが好ましく、特に引張弾性率で200〜700GPaの炭素繊維を用いることが好ましい。さらには、炭素繊維や、金属を被覆した強化繊維は、高い導電性を有するため、成形品の導電性を向上させる効果があり、例えば電磁波シールド性の要求される電子機器などの筐体用途には特に好ましい。
【0021】
また、炭素繊維のより好ましい態様として、X線光電子分光法により測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面官能基量(O/C)が、0.05〜0.4の範囲にあることがあげられる。O/Cが高いほど、炭素繊維表面の官能基量が多く、マトリックス樹脂との接着性を高めることができる。一方、O/Cが高すぎると、炭素繊維表面の結晶構造の破壊が懸念される。O/Cが好ましい範囲内で、力学特性のバランスにとりわけ優れた成形品を得ることが出来る。
【0022】
表面官能基量(O/C)は、X線光電子分光法により、次のような手順によって求められる。まず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維をカットして銅製の試料支持台上に拡げて並べた後、光電子脱出角度を90゜とし、X線源としてMgKα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正としてC1Sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を969eVに合わせる。C1Sピーク面積は、K.E.として958〜972eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。O1Sピーク面積は、K.E.として714〜726eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。ここで表面官能基量(O/C)とは、上記O1Sピーク面積とC1Sピーク面積の比から、装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出する。
【0023】
強化繊維束は、強化繊維の単糸数が多いほど経済性には有利であることから、単繊維は10,000本以上が好ましい。他方、強化繊維の単糸数が多いほどマトリックス樹脂の含浸性には不利となる傾向があるため、強化繊維束として炭素繊維束を用いる場合、経済性と含浸性の両立を図る観点から、15,000本以上100,000本以下がより好ましく、20,000本以上50,000本以下がとりわけ好ましく使用できる。とりわけ、本発明の効果である、成形材料を製造する過程での熱可塑性樹脂の含浸性に優れている点、射出成形を行う際に強化繊維の成形品中への分散が良好である点は、より繊維数の多い強化繊維束に対応できる。
【0024】
さらに、単繊維を強化繊維束に束ねる目的で、本発明の成分(B)とは別に、集束剤を使用してもよい。これは強化繊維束に集束剤を付着させることで、強化繊維の移送時の取扱性や、成形材料を製造する過程でのプロセス性を高める目的で、本発明の目的を損なわない範囲で、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂や種々の熱可塑性樹脂など通常公知のサイジング剤を1種または2種以上併用することができる。
【0025】
本発明の成形材料に用いられる、連続した強化繊維束(A)とは、単繊維が一方向に配列された強化繊維束が長さ方向に亘り連続した状態であることを意味するが、強化繊維束の単繊維全てが全長に亘り連続している必要はなく、一部の単繊維が途中で分断されていても良い。このような連続した強化繊維束としては、一方向性繊維束、二方向性繊維束、多方向性繊維束などが例示できるが、成形材料を製造する過程での生産性の観点から、一方向性繊維束がより好ましく使用できる。
【0026】
本発明に用いられるポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略することもある)は、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。Arとしては下記の式(a)〜式(k)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(a)が特に好ましい。
【0027】
【化1】
【0028】
(R1,R2は水素、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリーレン基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。)
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(l)〜式(n)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
【0029】
【化2】
【0030】
また、本発明におけるPASは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物のいずれかであってもよい。
【0031】
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリフェニレンスルフィドエーテル、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいPASとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
【0032】
【化3】
【0033】
を80重量%以上、特に90重量以上含有するポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略すこともある)が挙げられる。
【0034】
本発明のPASの分子量は、重量平均分子量で10,000以上、好ましくは15,000以上、より好ましくは18,000以上である。重量平均分子量が10,000未満では、より高温(例えば、360℃)での成形加工時に低分子量成分が熱分解反応を起こし、分解ガスを発生させて成形設備周辺の環境汚染を引き起こす場合がある。重量平均分子量の上限に特に制限は無いが、1,000,000以下を好ましい範囲として例示でき、より好ましくは500,000以下、さらに好ましくは200,000以下であり、この範囲内では高い成形加工性を得ることができる。
【0035】
本発明におけるPASの分子量分布の広がり、すなわち重量平均分子量と数平均分子量の比(重量平均分子量/数平均分子量)で表される分散度は2.5以下であり、2.3以下が好ましく、2.1以下がより好ましく、2.0以下がさらに好ましい。分散度が大きくなるにともない、PASに含まれる低分子成分の量が多くなる傾向があり、前記同様に成形設備周辺の環境汚染を引き起こす場合がある。なお、前記重量平均分子量および数平均分子量は例えば示差屈折率検出器を具備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を使用して求めることができる。
【0036】
また、本発明のPASの溶融粘度に特に制限はないが、通常、溶融粘度が5〜10,000Pa・s(300℃、剪断速度1000/秒)の範囲が好ましい範囲として例示できる。
【0037】
また、本発明のPASは実質的に塩素以外のハロゲン、すなわちフッ素、臭素、ヨウ素、アスタチンを含まないことが好ましい。本発明のPASがハロゲンとして塩素を含有する場合、PASが通常使用される温度領域においては安定であるために塩素を少量含有してもPASの力学特性、発生ガスの人体に与える影響は少ないが、塩素以外のハロゲンを含有する場合、それらの特異な性質が環境へ悪影響を及ぼす場合がある。なお、ここで言う「実質的に塩素以外のハロゲンを含まない」とは、例えば、ポリマーを燃焼させ、燃焼ガスを吸収させた、溶液を公知のイオンクロマト法などで定量分析を行い、塩素以外のハロゲンは検出限界以下であることを意味する。また、本発明のPASがハロゲンとして塩素を含有する場合でも、同様の観点で、その好ましい量は1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、さらに好ましくは0.2重量%以下である。
【0038】
本発明のPASは、成形時の分解ガスを低く抑える観点から、加熱した際の重量減少が下記式(1)を満たすことが好ましい。
【0039】
△Wr=(W1−W2)/W1×100≦0.18(%) ・・・(1)。
【0040】
ここで△Wrは重量減少率(%)であり、常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際に、100℃到達時点の試料重量(W1)を基準とした330℃到達時の試料重量(W2)から求められる値である。
【0041】
本発明のPASは△Wrが0.18%以下であり、0.12%以下であることが好ましく、0.10%以下であることが更に好ましく、0.085以下であることがよりいっそう好ましい。△Wrが前記範囲を超える場合は、たとえば、繊維強化樹脂部材が火災などにより加熱された際に、発生ガス量が多いといった問題や発生する場合がある。△Wrは一般的な熱重量分析によって求めることが可能であるが、この分析における雰囲気は常圧の非酸化性雰囲気を用いる。非酸化性雰囲気とは、酸素を実質的に含有しない雰囲気、すなわち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを示す。
【0042】
また、△Wrの測定においては50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で昇温して熱重量分析を行う。なお、本発明においては、50℃で1分間ホールドした後に昇温速度20℃/分で昇温して熱重量分析を行う。
【0043】
なお、一般に熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂を加熱した際の重量減少量は温度が高くなるほど大きくなる傾向があり、この傾向はPASにも当てはまることが知られている。このような傾向をふまえた上で、本発明者らは本発明のPASおよび公知のPASの加熱時の重量減少量の温度依存性を詳細に分析した結果、前記した熱重量分析条件に従ってPASの重量減少率を求める場合、重量減少率と温度Tにはおおむね下記式(2)および(3)の関係が成り立つことを見いだした。
【0044】
△Wr1=△Wt1−(1.0×10−3×T1) …(2)
△Wr2=△Wt2+(1.0×10−3×T2) …(3)。
【0045】
式(2)において△Wt1は常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃を超える任意の温度T1まで昇温(昇温速度20℃/分)した際に得られる熱重量分析値において、100℃到達時点の試料重量(W)を基準とした任意の温度T1における試料重量(Wt1)との差から下記式(1)’によって得られる重量減少率(%)である。
【0046】
△Wt1=(W−Wt1)/W×100 (%)・・・(1)’。
【0047】
本発明のPASの重量減少率△Wrは前記したように熱重量分析を行った分析値における330℃時点の試料重量を基準としているが、式(2)の関係を用いることで330℃を超える温度における試料重量を基準とした重量減少率△Wt1から△Wrの値を見積もることが可能である。
【0048】
式(3)において△Wt2は常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から270℃以上330℃未満の任意の温度T2まで昇温(昇温速度20℃/分)した際に得られる熱重量分析値において、100℃到達時点の試料重量(W)を基準とした任意の温度T2における試料重量(Wt2)との差から下記式(1)’’によって得られる重量減少率(%)である。
【0049】
△Wt2=(W−Wt2)/W×100 (%) ・・・(1)’’。
【0050】
本発明のPASの重量減少率△Wrは前記したように熱重量分析を行った分析値における330℃時点の試料重量を基準としているが、式(3)の関係を用いることで270℃以上330℃未満の温度領域における試料重量を基準とした重量減少率△Wt2から△Wrの値を見積もることが可能である。なお、熱重量分析における測定温度上限が270℃未満の場合、PASが溶融しない、または、溶融しても流動性が低い傾向にあるため、このような測定温度範囲は実使用に適した温度範囲とはいえず、PAS品質の評価基準として用いるとの観点で測定温度範囲に前記範囲を用いることが望ましい。
【0051】
なお、本発明のPASは、下記の式(o)で表される環式ポリアリーレンスルフィドを少なくとも50重量%以上含み、かつ重量平均分子量が10,000未満のポリアリーレンスルフィドプレポリマーを加熱して、重量平均分子量10,000以上の高重合度体に転化させることによって製造することができる。ポリアリーレンスルフィドプレポリマーのより好ましい態様としては、環式ポリアリーレンスルフィドを70重量%以上含み、さらに好ましくは80重量%以上含み、とりわけ好ましくは90重量%以上含むものである。また、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーに含まれる環式ポリアリーレンスルフィドの上限値には特に制限は無いが、98重量%以下、好ましくは95重量%以下が好ましい範囲として例示できる。
【0052】
【化4】
【0053】
通常、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーにおける環式ポリアリーレンスルフィドの重量比率が高いほど、加熱後に得られるPASの重合度が高くなる傾向にある。すなわち、本発明のPASの製造法においてはポリアリーレンスルフィドプレポリマーにおける環式ポリアリーレンスルフィドの存在比率を調整することで、得られるPASの重合度を調整し、加熱時の発生ガス量をより低く抑えることができ好ましい。
【0054】
従って、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを連続した強化繊維束に予め含浸させ後、加熱してポリアリーレンスルフィドプレポリマーをPASの高重合度体に転化させる方法(I)や、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを加熱させて重合をさせながら連続した強化繊維束に含浸させる方法(II)や、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを加熱させてPASの高重合度体に転化させた後に、連続した強化繊維束に含浸させる方法(III)などで、連続した強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)からなる複合体を形成させることができるが、成形材料を製造する過程での経済性、生産性の観点から、前記方法(I)が好ましい。
【0055】
ここで、前記ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを得る方法としては例えば以下の方法が挙げられる。
【0056】
(1)少なくともポリハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤および有機極性溶媒を含有する混合物を加熱してポリアリーレンスルフィド樹脂を重合することで、80meshふるい(目開き0.125mm)で分離される顆粒状PAS樹脂、重合で生成したPAS成分であって前記顆粒状PAS樹脂以外のPAS成分(ポリアリーレンスルフィドオリゴマーと称する)、有機極性溶媒、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を含む混合物を調製し、ここに含まれるポリアリーレンスルフィドオリゴマーを分離回収し、これを精製操作に処すことでポリアリーレンスルフィドプレポリマーを得る方法。
【0057】
(2)少なくともポリハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤および有機極性溶媒を含有する混合物を加熱してポリアリーレンスルフィド樹脂を重合して、重合終了後に公知の方法によって有機極性溶媒の除去を行い、ポリアリーレンスルフィド樹脂、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を含む混合物を調製し、これを公知の方法で精製することで得られるポリアリーレンスルフィドプレポリマーを含むポリアリーレンスルフィド樹脂を得て、これを実質的にポリアリーレンスルフィド樹脂は溶解しないがポリアリーレンスルフィドプレポリマーは溶解する溶剤を用いて抽出してポリアリーレンスルフィドプレポリマーを回収する方法。
【0058】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂(C)は、特に限定はなく公知の熱可塑性樹脂を使用することができる。すなわち、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PENp)樹脂、液晶ポリエステル等のポリエステル系樹脂や、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリブチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂や、スチレン系樹脂、ウレタン樹脂の他や、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリスルホン(PSU)樹脂、変性PSU樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、ポリケトン(PK)樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、これらの共重合体、変性体、および2種類以上ブレンドした樹脂などであってもよい。
【0059】
中でも、本発明の効果をより一層高める観点から、耐熱性に優れた樹脂が好ましく選択できる。ここで言う耐熱性とは、例えば、融点が200℃以上、好ましくは220℃以上、より好ましくは240℃以上、さらに好ましくは260℃以上である結晶性樹脂や、荷重たわみ温度が120℃以上、好ましくは140℃以上、より好ましくは160℃以上、さらに好ましくは180℃以上の非晶性樹脂が例示できる。従って、好ましい樹脂の一例としては、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、PPS樹脂が例示でき、さらにはポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂が好ましい樹脂として例示できる。なお、熱可塑性樹脂(C)がPPS樹脂の場合、前記成分(B)と同一のPAS樹脂を使用してもよいし、異なるPAS樹脂を使用してもよいが、本発明の目的から、前記成分(B)よりも高分子量であるPPS樹脂を用いることが好ましい。
【0060】
上記群に例示された熱可塑性樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、繊維強化剤、エラストマーあるいはゴム成分などの耐衝撃性向上剤、他の充填材や添加剤を含有しても良い。これらの例としては、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、あるいは、カップリング剤が挙げられる。
【0061】
本発明の成形材料は、強化繊維束(A)、ポリアリーレンスルフィド(B)および熱可塑性樹脂(C)で構成され、各構成成分の合計が100重量%となる。
【0062】
このうち、強化繊維束(A)は1〜50重量%、好ましくは5〜45重量%、より好ましは10〜40重量%である。強化繊維束(A)が1重量%未満では、得られる成形品の力学特性が不十分となる場合があり、50重量%を超えると射出成形の際に流動性が低下する場合がある。
【0063】
また、ポリアリーレンスルフィド(B)は0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜8重量%、より好ましくは1〜6重量%である。ポリアリーレンスルフィド(B)が0.1重量%未満では、成形材料の成形性、すなわち成形時の強化繊維の分散が不十分となる場合があり、10重量%を超えると、マトリックス樹脂である熱可塑性樹脂の力学特性を低下させる場合がある。
【0064】
さらに、熱可塑性樹脂(C)は40〜98.9重量%、好ましくは47〜94.5重量%、より好ましくは54〜89重量%であり、この範囲内で用いることで、本発明の効果を達成することができる。
【0065】
本発明の成形材料は、連続した強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)からなる複合体に熱可塑性樹脂(C)が接着するように配置されて構成される成形材料である。
【0066】
強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)は、この2者で複合体が形成される。この複合体の形態は図1に示すようなものであり、強化繊維束(A)の各単繊維間にポリアリーレンスルフィド(B)が満たされている。すなわち、ポリアリーレンスルフィド(B)の海に、強化繊維(A)が島のように分散している状態である。具体的な複合体の形成については、前記した通りである。
【0067】
本発明の成形材料において、耐熱性、低ガス性に優れたポリアリーレンスルフィド(B)が強化繊維束(A)に良好に含浸した複合体とすることで、熱可塑性樹脂(C)とが接着されていても、例えば、本発明の成形材料を射出成形すると、射出成形機のシリンダー内で溶融混練された、流動性の良いポリアリーレンスルフィド(B)が熱可塑性樹脂(C)に拡散し、強化繊維束(A)が熱可塑性樹脂(C)に分散することを助け、同時に熱可塑性樹脂(C)が強化繊維束(A)に置換、含浸することを助ける、いわゆる含浸助剤・分散助剤としての役割を持つ。
【0068】
本発明の成形材料においての好ましい態様としては、図2に示すように、強化繊維束(A)が成形材料の軸心方向にほぼ平行に配列され、かつ強化繊維束(A)の長さは成形材料の長さと実質的に同じ長さである。
【0069】
ここで言う、「ほぼ平行に配列されて」いるとは、強化繊維束の長軸の軸線と、成形材料の長軸の軸線とが、同方向を指向している状態を示し、軸線同士の角度のずれが、好ましくは20°以下であり、より好ましくは10°以下であり、さらに好ましくは5°以下である。また、「実質的に同じ長さ」とは、例えばペレット状の成形材料において、ペレット内部の途中で強化繊維束が切断されていたり、ペレット全長よりも有意に短い強化繊維束が実質的に含まれたりしないことである。特に、そのペレット全長よりも短い強化繊維束の量について規定されているわけではないが、ペレット全長の50%以下の長さの強化繊維の含有量が30重量%以下である場合には、ペレット全長よりも有意に短い強化繊維束が実質的に含まれていないと評価する。さらに、ペレット全長の50%以下の長さの強化繊維の含有量は20重量%以下であることが好ましい。なお、ペレット全長とはペレット中の強化繊維配向方向の長さである。強化繊維束(A)が成形材料と同等の長さを持つことで、成形品中の強化繊維長を長くすることが出来るため、優れた力学特性を得ることができる。
【0070】
図3〜6は、本発明の成形材料の軸心方向断面の形状の例を模式的に表したものであり、図7〜10は、本発明の成形材料の直交方向断面の形状の例を模式的に表したものである。
【0071】
成形材料の断面の形状は、強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)からなる複合体に、熱可塑性樹脂(C)が接着するように配置されていれば図に示されたものに限定されないが、好ましくは軸心方向断面である図3〜5に示されるように、複合体が芯材となり熱可塑性樹脂(C)で層状に挟まれて配置されている構成が好ましい。
【0072】
また直交方向断面である図7〜9に示されるように、複合体を芯に対して、熱可塑性樹脂(C)が周囲を被覆するような芯鞘構造に配置されている構成が好ましい。図11に示されるような複数の複合体を熱可塑性樹脂(C)が被覆するように配置する場合、複合体の数は2〜6程度が望ましい。
【0073】
複合体と熱可塑性樹脂(C)の境界は接着され、境界付近で部分的に熱可塑性樹脂(C)が該複合体の一部に入り込み、複合体中のポリアリーレンスルフィド(B)と相溶しているような状態、あるいは強化繊維に含浸しているような状態になっていてもよい。
【0074】
成形材料の軸心方向は、ほぼ同一の断面形状を保ち連続であればよい。成形方法によってはこのような連続の成形材料をある長さにカットしてもよい。
【0075】
本発明の成形材料は、例えば射出成形やプレス成形などの手法により強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)からなる複合体に、熱可塑性樹脂(C)を混練して最終的な成形品を作製できる。成形材料の取扱性の点から、前記複合体と熱可塑性樹脂(C)は成形が行われるまでは分離せず、前述したような形状を保っていることが重要である。複合体と熱可塑性樹脂(C)では、形状(サイズ、アスペクト比)、比重、重量が全く異なるため、成形までの材料の運搬、取り扱い時、成形工程での材料移送時に分級し、成形品の力学特性にバラツキを生じたり、流動性が低下して金型詰まりを起こしたり、成形工程でブロッキングする場合がある。
【0076】
そのため、図7〜9に例示されるように、強化繊維である強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)からなる複合体に対して、熱可塑性樹脂(C)が該複合体の周囲を被覆するように配置されていること、すなわち、強化繊維である強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)からなる複合体が芯構造であり、熱可塑性樹脂(C)が該複合体の周囲を被覆した芯鞘構造とすることが好ましい。このような配置であれば、複合体が熱可塑性樹脂(C)をより強固な複合化ができる。また、熱可塑性樹脂(C)が強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)からなる複合体の周囲を被覆するように配置されるか、該複合体と熱可塑性樹脂(C)が層状に配置されているか、いずれが有利であるかについては、製造の容易さと、材料の取り扱いの容易さから、熱可塑性樹脂(C)が該複合体の周囲を被覆するように配置されることがより好ましい。
【0077】
前述したように、強化繊維束(A)はポリアリーレンスルフィド(B)によって完全に含浸されていることが望ましいが、現実的にそれは困難であり、強化繊維とポリアリーレンスルフィドからなる複合体にはある程度のボイドが存在する。特に強化繊維の含有率が大きい場合にはボイドが多くなるが、ある程度のボイドが存在する場合でも本発明の含浸・繊維分散促進の効果は示される。ただしボイド率が40%を超えると顕著に含浸・繊維分散促進の効果が小さくなるので、ボイド率は0〜40%の範囲が好ましい。より好ましいボイド率の範囲は20%以下である。ボイド率は、複合体の部分をASTM D2734(1997)試験法により測定する。
【0078】
本発明の成形材料は、好ましくは1〜50mmの範囲の長さに切断して用いられる。前記の長さに調製することにより、成形時の流動性、取扱性を十分に高めることができる。このように適切な長さに切断された成形材料としてとりわけ好ましい態様は、射出成形用の長繊維ペレットが例示できる。
【0079】
また、本発明の成形材料は、連続、長尺のままでも成形法によっては使用可能である。例えば、熱可塑性ヤーンプリプレグとして、加熱しながらマンドレルに巻き付け、ロール状成形品を得たりすることができる。このような成形品の例としては、液化天然ガスタンクなどが挙げられる。また本発明の成形材料を、複数本一方向に引き揃えて加熱・融着させることにより一方向熱可塑性プリプレグを作製することも可能である。このようなプリプレグは、耐熱性、高い強度、弾性率、耐衝撃性が要求されるような分野、例えば航空機部材などに適用が可能である。
【0080】
本発明の成形材料は、公知の成形法により最終的な形状の製品に加工できる。成形方法としてはプレス成形、トランスファー成形、射出成形や、これらの組合せ等が挙げられる。成形品としては、シリンダーヘッドカバー、ベアリングリテーナ、インテークマニホールド、ペダル等の自動車部品、モンキー、レンチ等の工具類、歯車などの小物が挙げられる。また、本発明の成形材料は、流動性に優れるため成形品の厚みが0.5〜2mmといった薄肉の成形品を比較的容易に得ることができる。このような薄肉成形が要求されるものとしては、例えばパーソナルコンピューター、携帯電話などに使用されるような筐体や、パーソナルコンピューターの内部でキーボードを支持する部材であるキーボード支持体に代表されるような電気・電子機器用部材が挙げられる。このような電気・電子機器用部材では、強化繊維に導電性を有する炭素繊維を使用した場合に、電磁波シールド性が付与されるためにより好ましい。
【0081】
また、上記した成形材料は射出成形用ペレットとして用いることができる。射出成形においては、ペレット状とした成形材料を可塑化する際、温度、圧力、混練が加えられるから、本発明によればその際にポリアリーレンスルフィド(B)が分散・含浸助剤として大きな効果を発揮する。この場合、通常のインラインスクリュー型射出成形機を用いることができ、たとえ圧縮比の低いような形状のスクリューを用いたり、材料可塑化の際の背圧を低く設定するなどしたりして、スクリューによる混練効果が弱い場合であっても、強化繊維がマトリックス樹脂中に良分散し、繊維への樹脂の含浸が良好な成形品を得ることができる。
【実施例】
【0082】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
【0083】
本発明に使用した評価方法を下記する。
【0084】
(1)ポリアリーレンスルフィドの平均分子量
ポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量は、ゲルパーミレーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を算出した。また、該分子量を用いて、分散度(Mw/Mn)を算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
【0085】
装置:センシュー科学 SSC−7100(カラム名:センシュー科学 GPC3506)
溶離液:1−クロロナフタレン、流量:1.0mL/min
カラム温度:210℃、検出器温度:210℃。
【0086】
(2)ポリアリーレンスルフィドの加熱による重量減少
熱重量分析機(パーキンエルマー社製TGA7)を用いて、下記条件にて重量減少率の測定を行った。なお、試料は2mm以下の細粒物を用いた。
【0087】
測定雰囲気:窒素(純度:99.99%以上)気流下
試料仕込み重量:約10mg
測定条件:
(a)プログラム温度50℃で1分保持
(b)プログラム温度50℃から400℃まで昇温。この際の昇温速度20℃/分
重量減少率△Wrは(b)の昇温において、100℃時の試料重量を基準として、330℃到達時の試料重量から前述の式(1)を用いて算出した。
【0088】
(3)成形材料を用いて得られた成形品に含まれる強化繊維の平均繊維長
成形品の一部を切り出し、電気炉にて空気中500℃で30分間加熱して熱可塑性樹脂を十分に焼却除去して強化繊維を分離した。分離した強化繊維を、無作為に少なくとも400本以上抽出し、光学顕微鏡にてその長さを1μm単位まで測定して、次式により重量平均繊維長(Lw)および数平均繊維長(Ln)を求める。
【0089】
重量平均繊維長(Lw)=Σ(Li×Wi/100)
数平均繊維長(Ln)=(ΣLi)/Ntotal
Li:測定した繊維長さ(i=1、2、3、・・・、n)
Wi:繊維長さLiの繊維の重量分率(i=1、2、3、・・・、n)
Ntotal:繊維長さを測定した総本数。
【0090】
(4)成形材料を用いて得られた成形品の密度
JIS K7112(1999)の5に記載のA法(水中置換法)に準拠し測定した。成形品から1cm×1cmの試験片を切り出し、耐熱性ガラス容器に投入し、この容器を80℃の温度で12時間真空乾燥し、吸湿しないようにデシケーターで室温まで冷却した。浸漬液にはエタノールを用いた。
【0091】
(5)成形材料を用いて得られた成形品の曲げ試験
ASTM D790(1997)に準拠し、3点曲げ試験冶具(圧子10mm、支点10mm)を用いて支持スパンを100mmに設定し、クロスヘッド速度5.3mm/分の試験条件にて曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。試験機として、"インストロン"(登録商標)万能試験機4201型(インストロン社製)を用いた。
【0092】
(6)成形材料を用いて得られた成形品のアイゾット衝撃試験
ASTM D256(1993)に準拠し、モールドノッチ付きアイゾット衝撃試験を行った。用いた試験片の厚みは3.2mm、試験片の水分率0.1重量%以下において、アイゾット衝撃強度(J/m)を測定した。
【0093】
(7)成形材料を用いて得られた成形品の外観評価
射出成形によって得られた幅150mm×長さ150mm×厚み1.2mmの薄肉平板成形品の表面を目視観察し、強化繊維の分散性不良欠陥(浮き、膨れ)の数を測定した。測定は、20サンプルについて行い、分散不良欠陥箇所の総数をサンプル数で除した平均欠陥数を判定基準とし、以下の4段階で評価した。
【0094】
○○:全成形品に分散不良欠陥が全く見られない。表面外観に特に優れる。
【0095】
○ :平均欠陥数が0.1個/枚未満である。表面外観に優れる。
【0096】
△ :平均欠陥数が0.1〜0.5個/枚である。表面外観にやや劣る。
【0097】
× :平均欠陥数が0.5個/枚を超え、全成形品に分散不良が見られる。表面外観に劣る。
【0098】
(8)成形材料を用いて射出成形した時の環境汚染評価
所定温度によって射出成形を実施する際のガス発生について、射出ノズルからの異臭をともなう白煙の噴出状況と、射出成形によって得られた幅150mm×長さ150mm×厚み1.2mmの薄肉平板成形品の表面欠陥(焼け、ガス跡、ボイド)を目視観察により判定した。判定基準は、以下の4段階で評価し、○以上が合格である。
【0099】
○○:異臭も白煙もなく、成形品表面にも欠陥が見られない。
【0100】
○ :異臭はないが、白煙は少量確認される。成形品表面にも欠陥が見られない。
【0101】
△ :異臭をともなう白煙が確認される。成形品表面にも欠陥が見られない。
【0102】
× :異臭をともなう白煙が確認される。成形品表面にも欠陥が見られる。
【0103】
(参考例1)
<ポリフェニレンスルフィドプレポリマーの調製>
撹拌機付きの1000リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム118kg(1000モル)、96%水酸化ナトリウム42.3kg(1014モル)、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略する場合もある)を163kg(1646モル)、酢酸ナトリウム24.6kg(300モル)、およびイオン交換水150kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら240℃まで3時間かけて徐々に加熱し、精留塔を介して水211kgおよびNMP4kgを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。なお、この脱液操作の間に仕込んだイオウ成分1モル当たり0.02モルの硫化水素が系外に飛散した。
【0104】
次に、p−ジクロロベンゼン147kg(1004モル)、NMP129kg(1300モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封した。240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で270℃まで昇温し、この温度で140分保持した。水を18kg(1000モル)を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後220℃まで0.4℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷し、スラリー(A)を得た。このスラリー(A)を376kgのNMPで希釈しスラリー(B)を得た。
80℃に加熱したスラリー(B)14.3kgをふるい(80mesh、目開き0.175mm)で濾別し、粗PPS樹脂とスラリー(C)を10kg得た。スラリー(C)をロータリーエバポレーターに仕込み、窒素で置換後、減圧下100〜160℃で1.5時間処理した後、真空乾燥機で160℃、1時間処理した。得られた固形物中のNMP量は3重量%であった。
【0105】
この固形物にイオン交換水12kg(スラリー(C)の1.2倍量)を加えた後、70℃で30分撹拌して再スラリー化した。このスラリーを目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過した。得られた白色ケークにイオン交換水12kgを加えて70℃で30分撹拌して再スラリー化し、同様に吸引濾過後、70℃で5時間真空乾燥してポリフェニレンスルフィドオリゴマー100gを得た。ポリフェニレンスルフィドプレポリマーが所定量に達するまで上記操作を繰り返した。
【0106】
得られたポリフェニレンスルフィドオリゴマーを4g分取してクロロホルム120gで3時間ソックスレー抽出した。得られた抽出液からクロロホルムを留去して得られた固体に再度クロロホルム20gを加え、室温で溶解しスラリー状の混合液を得た。これをメタノール250gに撹拌しながらゆっくりと滴下し、沈殿物を目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過し、得られた白色ケークを70℃で3時間真空乾燥して白色粉末を得た。
【0107】
この白色粉末の重量平均分子量は900であった。この白色粉末の赤外分光分析における吸収スペクトルより、白色粉末はポリフェニレンスルフィド(PAS)であることが判明した。また、示差走査型熱量計を用いてこの白色粉末の熱的特性を分析した結果(昇温速度40℃/分)、約200〜260℃にブロードな吸熱を示し、ピーク温度は215℃であることがわかった。
【0108】
また高速液体クロマトグラフィーより成分分割した成分のマススペクトル分析、さらにMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末は繰り返し単位数4〜11の環式ポリフェニレンスルフィドおよび繰り返し単位数2〜11の直鎖状ポリフェニレンスルフィドからなる混合物であり、環式ポリフェニレンスルフィドと直鎖状ポリフェニレンスルフィドの重量比は9:1であることがわかった。
【0109】
(実施例1)
参考例1で調製したポリフェニレンスルフィドプレポリマーを、240℃の溶融バス中で溶融させ、ギアポンプにてキスコーターに供給する。230℃に加熱されたロール上にキスコーターからポリフェニレンスルフィドプレポリマーを塗布し、被膜を形成させた。
【0110】
このロール上に炭素繊維トレカ(登録商標)T700S−24K(東レ(株)製)を接触させながら通過させて、炭素繊維束の単位長さあたりに一定量のポリフェニレンスルフィドプレポリマーを付着させた。
【0111】
ポリフェニレンスルフィドプレポリマーを付着させた炭素繊維を、350℃に加熱された炉内へ供給し、ベアリングで自由に回転する、一直線上に上下交互に配置された10個のロール(φ50mm)間に通過させ、かつ葛折り状に炉内に設置された10個のロールバー(φ200mm)を通過させてポリフェニレンスルフィドプレポリマーを炭素繊維束に十分に含浸させながらPASに高重合度体に転化させた。次に、炉内から引き出した炭素繊維ストランドにエアを吹き付けて冷却した後、ドラムワインダーで巻き取った。
【0112】
なお、巻き取った炭素繊維束から、10mm長のストランドを10本カットし、炭素繊維とポリアリーレンスルフィドを分離するために、ソックスレー抽出器を用い、1−クロロナフタレンを用いて、210℃で6時間還流を行い、抽出したポリアリーレンスルフィドを分子量の測定に供した。得られたPPSの重量平均分子量(Mw)は26,800、数平均分子量(Mn)14,100、分散度(Mw/Mn)は1.90であった。次に、抽出したポリアリーレンスルフィドの重量減少率△Wrを測定したところ、0.09%であった。
【0113】
続いて、ウルテム1000R(日本ジーイープラスチックス(株)製PEI樹脂、荷重たわみ温度200℃、非晶性樹脂)を360℃で単軸押出機にて溶融させ、押出機の先端に取り付けたクロスヘッドダイ中に押し出すと同時に、得られた連続した強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)からなるストランドも上記クロスヘッドダイ中に連続的に供給することによって、溶融した成分(C)を成分(A)と成分(B)の複合体に被覆した。このとき、強化繊維の含有率を20重量%とするように成分(C)の量を調整した。
【0114】
上記記載の方法により得られたストランドを、冷却後、カッターにて7mmの長さに切断して芯鞘構造の柱状ペレット(長繊維ペレット)を得た。
【0115】
得られた長繊維ペレットは運搬による毛羽立ちもなく、良好な取扱性を示した。得られた成形材料を140℃、5時間以上真空下で乾燥させた。得られた成形材料を、日本製鋼所(株)製J150EII−P型射出成形機を用いて、各試験片用の金型を用いて成形を行った。条件はいずれもシリンダー温度:380℃、金型温度:140℃、冷却時間30秒とした。成形後、真空下で80℃、12時間の乾燥を行い、かつデシケーター中で室温、3時間保管した乾燥状態の試験片について評価を行った。評価結果を表1にまとめて記載した。
【0116】
(比較例1)
ポリフェニレンスルフィドプレポリマーを用いない以外は、実施例1と同様に、ウルテム1000Rを360℃で単軸押出機にて溶融させ、押出機の先端に取り付けたクロスヘッドダイ中に押し出すと同時に、連続した強化繊維束(A)も上記クロスヘッドダイ中に連続的に供給することによって、溶融した成分(C)を成分(A)に被覆した。このとき、強化繊維の含有率を20重量%とするように成分(C)の量を調整した。
【0117】
上記記載の方法により得られたストランドを、冷却後、カッターにて7mmの長さに切断して芯鞘構造の柱状ペレットとしたところ、成分(C)が強化繊維束に含浸せず、切断面から強化繊維が脱落し、ペレットの毛羽立ちが発生した。これを、射出成形に供するため運搬したところ、毛羽が一層多くなり、成形材料として取り扱えないレベルであったため、射出成形を断念した。
【0118】
(比較例2)
炉内温度を280℃とした以外は、実施例1と同様の方法で、芯鞘構造の柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。炭素繊維束から、同様にポリアリーレンスルフィドを抽出し、各測定に供した。得られたPPSの重量平均分子量(Mw)は6,500、数平均分子量(Mn)3,100、分散度(Mw/Mn)は2.08であった。次に、抽出したポリアリーレンスルフィドの重量減少率△Wrを測定したところ、0.29%であった。
【0119】
また、得られた成形材料を、同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
【0120】
(実施例2)
熱可塑性樹脂(C)として、トレリナA900(東レ(株)製PPS樹脂、融点278℃)を使用して、実施例1と同様の方法で、芯鞘構造の柱状ペレット(長繊維ペレット)を得た。また、得られた成形材料を、同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
【0121】
【表1】
【0122】
表1の実施例および比較例より以下のことが明らかである。実施例1、2の成形材料は、ポリフェニレンスルフィド(B)を強化繊維束(A)に含浸させているため、比較例にくらべ、成形材料の取扱性に優れ、成形時の環境汚染がなく、得られる成形品の力学特性、外観品位に優れることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の成形材料は、射出成形を行う際に強化繊維の成形品中への分散が良好であり、耐熱性、力学特性に優れた成形品を容易に環境汚染なく製造することができるため、射出成形、ブロー成形、インサート成形などの成形方法に限らず、プランジャー成形、プレス成形、スタンピング成形など幅広い成形方法にも応用することができるが、その応用範囲がこれらに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)からなる複合体の形態の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の成形材料の好ましい態様の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図5】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図6】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図7】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図8】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図9】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図10】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図11】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0125】
1 強化繊維束(A)
2 ポリアリーレンスルフィド(B)
3 強化繊維束(A)とポリアリーレンスルフィド(B)からなる複合体
4 熱可塑性樹脂(C)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続した強化繊維束(A)1〜50重量%、重量平均分子量が10,000以上であり、かつ重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度が2.5以下であるポリアリーレンスルフィド(B)0.1〜10重量%、および熱可塑性樹脂(C)40〜98.9重量%からなる成形材料であって、該成分(A)と該成分(B)からなる複合体に、該成分(C)が接着されてなる成形材料。
【請求項2】
前記成分(B)の、加熱した際の重量減少が下記式を満たす、請求項1に記載の成形材料。
△Wr=(W1−W2)/W1×100≦0.18(%)
(ここで、△Wrは重量減少率(%)であり、常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際に、100℃到達時点の試料重量(W1)を基準とした330℃到達時の試料重量(W2)から求められる値である。)
【請求項3】
前記成分(A)が、炭素繊維の単繊維を少なくとも10,000本含有してなる、請求項1または2のいずれかに記載の成形材料。
【請求項4】
前記成分(C)が、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂から選択される少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載の成形材料。
【請求項5】
前記成分(A)が軸心方向にほぼ平行に配列されており、かつ該成分(A)の長さが成形材料の長さと実質的に同じである、請求項1〜4のいずれかに記載の成形材料。
【請求項6】
前記成分(A)と前記成分(B)からなる複合体が芯構造であり、前記成分(C)が該複合体の周囲を被覆した芯鞘構造である、請求項5に記載の成形材料。
【請求項7】
成形材料の形態が、長繊維ペレットである請求項6に記載の成形材料。
【請求項8】
長さが1〜50mmの範囲内である、請求項1〜7のいずれかに記載の成形材料。
【請求項1】
連続した強化繊維束(A)1〜50重量%、重量平均分子量が10,000以上であり、かつ重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度が2.5以下であるポリアリーレンスルフィド(B)0.1〜10重量%、および熱可塑性樹脂(C)40〜98.9重量%からなる成形材料であって、該成分(A)と該成分(B)からなる複合体に、該成分(C)が接着されてなる成形材料。
【請求項2】
前記成分(B)の、加熱した際の重量減少が下記式を満たす、請求項1に記載の成形材料。
△Wr=(W1−W2)/W1×100≦0.18(%)
(ここで、△Wrは重量減少率(%)であり、常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際に、100℃到達時点の試料重量(W1)を基準とした330℃到達時の試料重量(W2)から求められる値である。)
【請求項3】
前記成分(A)が、炭素繊維の単繊維を少なくとも10,000本含有してなる、請求項1または2のいずれかに記載の成形材料。
【請求項4】
前記成分(C)が、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂から選択される少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載の成形材料。
【請求項5】
前記成分(A)が軸心方向にほぼ平行に配列されており、かつ該成分(A)の長さが成形材料の長さと実質的に同じである、請求項1〜4のいずれかに記載の成形材料。
【請求項6】
前記成分(A)と前記成分(B)からなる複合体が芯構造であり、前記成分(C)が該複合体の周囲を被覆した芯鞘構造である、請求項5に記載の成形材料。
【請求項7】
成形材料の形態が、長繊維ペレットである請求項6に記載の成形材料。
【請求項8】
長さが1〜50mmの範囲内である、請求項1〜7のいずれかに記載の成形材料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−231292(P2008−231292A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74254(P2007−74254)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
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