説明

成形材料

【課題】
成形材料を製造する過程での経済性、生産性を損なうことなく、かつ、高い耐熱性と力学特性を有する成形品を容易に製造できる成形材料を提供する。
【解決手段】
連続した強化繊維束(A)1〜50重量%とポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)0.1〜30重量%からなる複合体に、熱可塑性樹脂(C)20〜98.9重量%が接着されてなる成形材料であって、前記成分(B)が、融点が270℃以下のポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)を重合触媒(D)で重合させて得られるポリフェニレンエーテルエーテルケトンである成形材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形材料に関する。さらに詳しくは、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを用いた、生産性、取扱性および成形性に優れ、得られる成形品の力学特性にも優れる成形材料に関する。
【背景技術】
【0002】
連続した強化繊維束と熱可塑性樹脂をマトリックスとする成形材料として、熱可塑性のプリプレグ、ヤーン、ガラスマット(GMT)など多種多様な形態が公知である。このような成形材料は、熱可塑性樹脂の特性を生かして成形が容易であったり、熱硬化性樹脂のような貯蔵の負荷を必要とせず、また得られる成形品の靭性が高く、リサイクル性に優れるといった特徴がある。とりわけ、ペレット状に加工した成形材料は、射出成形やスタンピング成形などの経済性、生産性に優れた成形法に適用でき、工業材料として有用である。
【0003】
しかしながら、成形材料を製造する過程で、熱可塑性樹脂を連続した強化繊維束に含浸させるには、経済性、生産性の面で問題があり、それほど広く用いられていないのが現状である。例えば、樹脂の溶融粘度が高いほど強化繊維束への含浸は困難とされることはよく知られている。靱性や伸度などの力学特性に優れた熱可塑性樹脂は、とりわけ高分子量体であり、熱硬化性樹脂に比べて粘度が高く、またプロセス温度もより高温を必要とするため、成形材料を容易に、生産性よく製造することには不向きであった。
【0004】
一方、含浸の容易さから低分子量の、すなわち低粘度の熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂に用いると、得られる成形品の力学特性が大幅に低下するという問題がある。
【0005】
特許文献1には、低分子量の熱可塑性重合体と連続した強化繊維からなる複合体に、高分子量の熱可塑性樹脂が接するように配置されてなる成形材料が開示されている。
【0006】
この成形材料では、連続した強化繊維束への含浸には低分子量体、マトリックス樹脂には高分子量体を使い分けることで、経済性、生産性と力学特性の両立を図っている。また、この成形材料を射出成形法による成形をおこなうと、成形時の材料可塑化の段階で強化繊維の折損を最小限に抑えつつマトリックス樹脂と容易に混合され、繊維の分散性に優れた成形品を製造することができる。
【0007】
しかし、近年になり、繊維強化複合材料の注目度が大きくなり、また用途も多岐に細分化されるようになったことで、成形性、取扱性、得られる成形品の力学特性に優れた成形材料が要求されるようになり、工業的にもより高い経済性、生産性が必要になってきた。例えば、繊維強化複合材料がより過酷な環境で使用されるようになり、マトリックス樹脂にはより高い耐熱性が要求されるようになってきた。
【0008】
かかる状況では、融点の低い、低分子量の熱可塑性樹脂の存在は、高温条件下での成形品の変形の原因となるため、好ましくなかった。従って、含浸性と耐熱性に優れる熱可塑性樹脂を用いた成形材料が要望されるようになってきた。
【0009】
特許文献2には、高分子量ポリアリーレンスルフィドと連続した強化繊維からなる複合体に、高分子量の熱可塑性樹脂が接するように配置されてなる成形材料が開示されている。ここでは、溶融粘度の低いポリアリーレンスルフィドプレポリマーを強化繊維に含浸させた後に重合させて、高分子量ポリアリーレンスルフィドとする、生産性に優れた成形材料の製造方法が記載されている。また、成形材料中のポリアリーレンスルフィドが高分子量であるために、得られる成形品の耐熱性にも優れる成形材料である。しかしながら、繊維強化複合材料へのニーズの多様化により、さまざまな熱可塑性樹脂がマトリクス樹脂に選択される中において、マトリクス樹脂との相溶性の観点から、ポリアリーレンスルフィド以外にも高耐熱な熱可塑性樹脂のプレポリマーを用いた成形材料が求められるようになってきた。
【0010】
特許文献3には、環式ポリ(アリールエーテル)オリゴマー、その製造方法、および環式ポリ(アリールエーテル)オリゴマーの重合方法が開示されている。ここでは、環式ポリ(アリールエーテル)オリゴマーを重合させることでポリ(アリールエーテル)とする方法が記載されている。しかしながら、この方法で公開されている環式ポリ(アリールエーテル)オリゴマーは、融点が340℃以上あり、経済性、生産性の観点から、より融点の低い環式ポリ(アリールエーテル)オリゴマーの開発が必要となってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−138379号公報
【特許文献2】特開2008−231292号公報
【特許文献3】特開平3−88828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる従来技術の問題点の改善を試み、連続した強化繊維束と熱可塑性樹脂からなる成形材料において、融解特性を改善したポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマーを用いることにより、生産性、取扱性および得られる成形材料の耐熱性に優れる成形材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる問題点を解決するための本発明は、以下の構成からなる。すなわち、
(1)連続した強化繊維束(A)1〜50重量%とポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)0.1〜30重量%からなる複合体に、熱可塑性樹脂(C)20〜98.9重量%が接着されてなる成形材料であって、前記成分(B)が、融点が270℃以下のポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)を重合触媒(D)で重合させて得られるポリフェニレンエーテルエーテルケトンである成形材料。
(2)前記成分(B’)が環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを60重量%以上含む(1)に記載の成形材料。
(3)前記成分(B’)が異なる繰り返し数mを有する環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの混合物である(1)または(2)のいずれかに記載の成形材料。
(4)前記成分(B)のDSCによる結晶融解エンタルピー△Hが40(J/g)以上である請求項(1)〜(3)のいずれかに記載の成形材料。
(5)前記成分(A)が、炭素繊維の単繊維を少なくとも10,000本含有してなる、(1)〜(4)のいずれかに記載の成形材料。
(6)前記成分(C)が、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂から選択される少なくとも1種である、(1)〜(5)のいずれかに記載の成形材料。
(7)前記成分(D)がアルカリ金属塩である(1)〜(6)のいずれかに記載の成形材料。
(8)前記成分(A)が軸心方向にほぼ平行に配列されており、かつ該成分(A)の長さが成形材料の長さと実質的に同じである、(1)〜(7)のいずれかに記載の成形材料。
(9)前記複合体が芯構造であり、前記成分(C)が該複合体の周囲を被覆した芯鞘構造である、(8)に記載の成形材料。
(10)成形材料の形態が、長繊維ペレットである(9)に記載の成形材料。
(11)長さが1〜50mmの範囲内である、(1)〜(10)のいずれかに記載の成形材料。
【発明の効果】
【0014】
本発明の成形材料を用いることにより、経済性、生産性に優れる成形材料の使用において、耐熱性および力学特性に優れた成形品を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】強化繊維束(A)とポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)と重合触媒(D)からなる複合体の形態の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の成形材料の好ましい態様の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図5】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図6】本発明の成形材料の好ましい態様の、軸心方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図7】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図8】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図9】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図10】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【図11】本発明の成形材料の好ましい態様の、直交方向断面の形状の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の成形材料は、連続した強化繊維束(A)と、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)、熱可塑性樹脂(C)、重合触媒(D)から構成される。まず各構成要素について説明する。
【0017】
<強化繊維束(A)>
本発明で用いられる強化繊維としては、特に限定されないが、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、鉱物繊維、炭化ケイ素繊維等が使用でき、これらの繊維を2種以上混在させることもできる。
【0018】
とりわけ、炭素繊維は比強度、比剛性に優れ、成形品の力学特性を向上させる観点で好ましい。これらの中でも、軽量かつ高強度、高弾性率の成形品を得る観点から、炭素繊維を用いるのが好ましく、特に引張弾性率で200〜700GPaの炭素繊維を用いることが好ましい。さらには、炭素繊維や、金属を被覆した強化繊維は、高い導電性を有するため、成形品の導電性を向上させる効果があり、例えば電磁波シールド性の要求される電子機器などの筐体用途には特に好ましい。
【0019】
また、炭素繊維のより好ましい態様として、X線光電子分光法により測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面官能基量(O/C)が、0.05〜0.4の範囲にあることがあげられる。O/Cが高いほど、炭素繊維表面の官能基量が多く、マトリックス樹脂との接着性を高めることができる。一方、O/Cが高すぎると、炭素繊維表面の結晶構造の破壊が懸念される。O/Cが好ましい範囲内で、力学特性のバランスにとりわけ優れた成形品を得ることが出来る。
【0020】
表面官能基量(O/C)は、X線光電子分光法により、次のような手順によって求められる。まず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維をカットして銅製の試料支持台上に拡げて並べた後、光電子脱出角度を90゜とし、X線源としてMgKα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正としてC1Sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を969eVに合わせる。C1Sピーク面積は、K.E.として958〜972eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。O1Sピーク面積は、K.E.として714〜726eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。ここで表面官能基量(O/C)とは、上記O1Sピーク面積とC1Sピーク面積の比から、装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出する。
【0021】
本発明における強化繊維束(A)は、強化繊維の単糸数が多いほど経済性には有利であることから、単繊維は10,000本以上が好ましい。他方、強化繊維の単糸数が多いほどマトリックス樹脂の含浸性には不利となる傾向があるため、強化繊維束(A)として炭素繊維束を用いる場合、経済性と含浸性の両立を図る観点から、15,000本以上100,000本以下がより好ましく、20,000本以上50,000本以下がとりわけ好ましく使用できる。とりわけ、本発明の効果である、成形材料を製造する過程での熱可塑性樹脂の含浸性に優れている点、射出成形を行う際に強化繊維の成形品中への分散が良好である点は、より繊維数の多い強化繊維束に対して好適である。
【0022】
さらに、単繊維を強化繊維束に束ねる目的で、本発明におけるポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)とは別に、集束剤を使用してもよい。これは強化繊維束に集束剤を付着させることで、強化繊維の移送時の取扱性や、成形材料を製造する過程でのプロセス性を高める目的で、本発明の目的を損なわない範囲で、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂や種々の熱可塑性樹脂などのサイジング剤を1種または2種以上併用することができる。
【0023】
本発明の成形材料に用いられる、連続した強化繊維束(A)とは、単繊維が一方向に配列された強化繊維束が長さ方向に亘り連続した状態であることを意味するが、強化繊維束の単繊維全てが全長に亘り連続している必要はなく、一部の単繊維が途中で分断されていても良い。このような連続した強化繊維束としては、一方向性繊維束、二方向性繊維束、多方向性繊維束などが例示できるが、成形材料を製造する過程での生産
性の観点から、一方向性繊維束がより好ましく使用できる。
【0024】
<ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)>
本発明におけるポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)は重合触媒(D)存在下でポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)を加熱重合することにより転化することで得られる。
【0025】
本発明におけるポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)は融点が270℃以下であり、さらに、250℃以下であることが好ましく、230℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましく、180℃以下であることが特に好ましく例示できる。ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の融点が低いほど加工温度を下げることが可能であり、プロセス温度を低く設定可能となるため加工に要するエネルギーを低減し得るとの観点で有利となる。また、プロセス温度を低く設定できることにより、例えば、後述する重合触媒(D)とポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)を溶融させて混合する工程において、溶融混練の温度を重合温度よりも十分に低く設定できるようになる。かかる効果により、成形材料の製造プロセスにおいて、貯蔵中や強化繊維(A)への含浸の前にポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の重合が進行して溶融粘度が増加するといった好ましくない反応を抑制できる。なおここで、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の融点は示差走査型熱量測定装置を用いて吸熱ピーク温度を観測することにより測定することが可能である。
【0026】
本発明におけるポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)は、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを60重量%以上含むポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物であることが好ましく、65重量%以上含む組成物であることがより好ましく、70重量%以上含むことがさらに好ましく、75重量%以上含む組成物であることがよりいっそう好ましい。
【0027】
本発明における環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンとは、パラフェニレンケトン、およびパラフェニレンエーテルを繰り返し構造単位に持つ、下記一般式(I)で表される環式化合物である。
【0028】
【化1】

【0029】
式(I)における繰り返し数mの範囲は2〜40であり、2〜20がより好ましく、2〜15がさらに好ましく、2〜10が特に好ましい範囲として例示できる。繰り返し数mが大きくなるとポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の融点が高くなる傾向にあるため、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)を低温で溶融解させるとの観点から、繰り返し数mを前記範囲にすることが好ましい。
【0030】
また、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)は異なる繰り返し数mを有する環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの混合物であることが好ましく、少なくとも異なる3つ以上の繰り返し数mからなる環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物であることがさらに好ましく、4つ以上の繰り返し数mからなる混合物であることがより好ましく、5つ以上の繰り返し数mからなる混合物であることが特に好ましい。さらに、これら繰り返し数mが連続するものであることが特に好ましい。単一の繰り返し数mを有する単独化合物と比較して異なる繰り返し数mからなる混合物の融点は低くなる傾向にあり、さらに2種類の異なる繰り返し数mからなる環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物と比較して、3種類以上の繰り返し数mからなる混合物の融点はさらに低くなる傾向にあり、さらに不連続の繰り返し数mからなる混合物よりも連続する繰り返し数mからなる混合物の方がさらに融点が低くなる傾向にある。なおここで、各繰り返し数mを有する環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンは高速液体クロマトグラフィーによる成分分割により分析が可能であり、さらにポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の組成、すなわちポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)に含まれる各繰り返し数mを有する環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの重量分率は、高速液体クロマトグラフフィーにおける各環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンのピーク面積比率より算出することが可能である。
【0031】
ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)における不純物成分、即ち環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン以外の成分としては線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを主に挙げることができる。この線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンは融点が高いため、線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの重量分率が高くなるとポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の融点が高くなる傾向にある。従って、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)における環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの重量分率が上記範囲にあることで、融点の低いポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)となる傾向にある。
【0032】
上記のような特徴を有する本発明におけるポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の還元粘度(η)としては、0.1dL/g以下であることが好ましく例示でき、0.09dL/g以下であることがより好ましく、0.08dL/g以下であることがさらに好ましく例示できる。なお、本発明における還元粘度とは特に断りのない限り、濃度0.1g/dL(ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の重量/98重量%濃硫酸の容量)の濃硫酸溶液について、スルホン化の影響を最小にするために溶解完了直後に、25℃においてオストワルド型粘度計を用いて測定した値である。また、還元粘度の計算は下記式により行った。
η={(t/t0)−1}/C
(ここでのtはサンプル溶液の通過秒数、t0は溶媒(98重量%濃硫酸)の通過秒数、Cは溶液の濃度を表す。)。
【0033】
本発明で用いられるポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)を得る方法としては、例えば以下の(a)〜(c)の方法が挙げられる。
(a)少なくともジハロゲン化芳香族ケトン化合物、ジヒドロキシ芳香族化合物、塩基、および有機極性溶媒を含む混合物を加熱して反応させることによる製造方法。
(b)少なくとも線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトン、ジハロゲン化芳香族ケトン化合物、ジヒドロキシ芳香族化合物、塩基および有機極性溶媒を含む混合物を加熱して反応させることによる製造方法。
(c)少なくとも線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトン、塩基性化合物、有機極性溶媒を含む混合物を加熱して反応させることによる製造方法。
【0034】
以上に述べたポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の製造方法(a)、(b)、(c)の代表的な反応式を以下に示す。
【0035】
【化2】

【0036】
<重合触媒(D)>
本発明において、重合触媒(D)は、本発明におけるポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)のポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)への加熱重合を加速させる効果のある化合物であれば特に制限はなく、光重合開始剤、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、アニオン重合開始剤、遷移金属触媒など公知の触媒を用いることができるが、なかでもアニオン重合開始剤が好ましい。アニオン重合開始剤としては、無機アルカリ金属塩または有機アルカリ金属塩などのアルカリ金属塩を例示することができ、無機アルカリ金属塩としてはフッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム、塩化リチウムなどのアルカリ金属ハロゲン化物を例示でき、また有機アルカリ金属塩としては、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムtert−ブトキシド、カリウムtert−ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドまたは、ナトリウムフェノキシド、カリウムフェノキシド、ナトリウム−4−フェノキシフェノキシド、カリウム−4−フェノキシフェノキシドなどのアルカリ金属フェノキシド、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどのアルカリ金属酢酸塩を例示することができる。また、これらアニオン重合開始剤は、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)を求核攻撃することにより触媒作用を発現していると推測している。従って、これらアニオン重合開始剤と同等の求核攻撃能を有する化合物を触媒として用いることも可能であり、このような求核攻撃能を有する化合物としては、アニオン重合性末端を有するポリマーを挙げることができる。これらアニオン重合開始剤は単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の加熱重合をこれら好ましい触媒の存在下に行うことにより、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)が短時間で得られる傾向にあり、具体的には加熱重合の加熱時間として、2時間以下、さらには1時間以下、0.5時間以下が例示できる。
【0037】
使用する触媒の量は、目的とするポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)の分子量ならびに触媒の種類により異なるが、通常、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の主要構成単位である式
【0038】
【化3】

【0039】
の繰り返し単位1モルに対して、0.001〜20モル%、好ましくは0.005〜15モル%、さらに好ましくは0.01〜10モル%である。この好ましい範囲の触媒量を添加することによりポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の加熱重合が短時間で進行する傾向にある。
【0040】
重合触媒(D)の添加方法に際しては、特に制限は無いが、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)と重合触媒(D)からなる混合物を予め調製し、この混合物を連続した強化繊維(A)と複合化させる方法などが例示できる。
【0041】
ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)と重合触媒(D)との混合物を得る方法に、特に制限は無いが、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)に重合触媒(D)を添加した後、均一に分散させることが好ましい。均一に分散させる方法として、例えば機械的に分散させる方法、溶媒を用いて分散させる方法などが挙げられる。機械的に分散させる方法として、具体的には粉砕機、撹拌機、混合機、振とう機、乳鉢を用いる方法などが例示できる。溶媒を用いて分散させる方法として、具体的にはポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)を適宜な溶媒に溶解または分散し、これに重合触媒(D)を加えた後、溶媒を除去する方法などが例示できる。また、重合触媒(D)の分散に際して、重合触媒(D)が固体である場合、より均一な分散が可能となるため重合触媒(D)の平均粒径は1mm以下であることが好ましい。
【0042】
<ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)>
本発明におけるポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)は重合触媒(D)存在下でポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)を加熱重合することにより転化することで得られる。なお、ここでのポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)とは、パラフェニレンケトン、およびパラフェニレンエーテルを繰り返し構造単位に持つ、下記一般式(II)で表される線状化合物である。
【0043】
【化4】

【0044】
本発明におけるポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)の還元粘度(η)に特に制限はないが、好ましい範囲として0.1〜2.5dL/g、より好ましくは0.2〜2.0dL/g、さらに好ましくは0.3〜1.8dL/gを例示できる。かかる好適な粘度範囲に調整することにより、成形性と成形品の力学特性に優れた成形材料が得られる。
【0045】
本発明におけるポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)の融点は、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の組成や分子量、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)に含まれる環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの重量分率、さらには加熱時の環境により変化するため、一意的に示すことはできないが、好ましい範囲として、270〜450℃、より好ましくは280〜400℃、さらに好ましくは300〜350℃を例示できる。かかる好適な温度範囲に調整することにより、成形性と耐熱性に優れた成形材料が得られる。なおここで、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)の融点は、本発明の成形材料からポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)に当たる部位を物理的に取り出し、このサンプルから示差走査型熱量測定装置を用いて吸熱ピーク温度を観測することにより測定することが可能である。
【0046】
ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)を加熱重合することによりポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)へと転化する際の加熱温度は、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の融点以上であることが好ましく、このような温度条件であれば特に制限はない。加熱温度がポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の融点未満では加熱重合によりポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)を得るのに長時間が必要になる、もしくは加熱重合が進行せずにポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)が得られなくなる傾向にある。加熱温度の下限としては、160℃以上が例示でき、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上、さらに好ましくは270℃以上である。この温度範囲では、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)が溶融し、短時間でポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)を得ることができる傾向にある。
【0047】
一方、加熱重合の温度が高すぎるとポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)間、加熱により生成したポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)間、およびポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)とポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)間などでの架橋反応や分解反応に代表される好ましくない副反応が生じやすくなる傾向にあり、得られるポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)の特性が低下する場合があるため、このような好ましくない副反応が顕著に生じる温度は避けることが望ましい。加熱温度の上限としては、450℃以下が例示でき、好ましくは400℃以下、より好ましくは350℃以下、さらに好ましくは300℃以下である。この温度範囲以下では、好ましくない副反応による得られるポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)の特性への悪影響を抑制できる傾向にある。公知のポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマーを用いた場合、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマーの融点が高いため、上記の好適な温度範囲では加熱重合に長時間を要する、もしくは加熱重合が進行せずポリフェニレンエーテルエーテルケトンが得られない傾向になるのに対し、本発明における融点が270℃以下という特徴を有するポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)は上記好適な温度範囲において、効率よく加熱重合が進行し、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)が得られる。
【0048】
また、本発明におけるポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)は、得られるポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)の融点以下の温度で、加熱重合させることも可能である。かかる重合条件で得られたポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)は、公知のポリフェニレンエーテルエーテルケトンに比べて、融解エンタルピー、ひいては結晶化度が高くなる傾向がある。これはポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の加熱重合と重合によって得られたポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)の結晶化が同時に進行する現象、いわゆる結晶化重合が進行しているためと考えている。結晶化重合により得られたポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)の融解エンタルピーの下限としては、40J/g以上が例示でき、好ましくは45J/g以上、より好ましくは50J/g以上である。なおここで、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)の融解エンタルピーは、本発明の成形材料からポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)に当たる部位を物理的に取り出し、このサンプルから示差走査型熱量測定装置を用いて吸熱ピーク面積を観測することにより測定することが可能である。
【0049】
反応時間は、使用するポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)における環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの重量分率や組成比、加熱温度や加熱重合方法などの条件によって異なるため一様には規定できないが、前記した架橋反応などの好ましくない副反応が起こらないように設定することが好ましく、0.001〜100時間の範囲が例示でき、0.005〜20時間が好ましく、0.005〜10時間がより好ましい。これら好ましい反応時間とすることにより、架橋反応などの好ましくない副反応の進行による得られるポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)の特性への悪影響を抑制できる傾向にある。
【0050】
<熱可塑性樹脂(C)>
本発明に用いられる熱可塑性樹脂(C)は、特に限定はなく、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PENp)樹脂、液晶ポリエステル等のポリエステル系樹脂や、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリブチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂や、スチレン系樹脂、ウレタン樹脂の他や、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリスルホン(PSU)樹脂、変性PSU樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、ポリケトン(PK)樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、これらの共重合体、変性体、および2種類以上ブレンドした樹脂などであってもよい。
【0051】
中でも、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂といったエンジニアプラスチック、あるいはスーパーエンジニアリングプラスチックが好ましく用いられ、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)との相溶性に優れ、繊維分散性が良く、外観に優れた成形品が得られる為にポリエーテルエーテルケトン樹脂が特に好ましく用いられる。
【0052】
かかる熱可塑性樹脂(C)を用いることにより、本発明における成形品の力学特性の改善効果をより一層引き出すことが可能となる。
【0053】
また、本発明で用いられる熱可塑性樹脂(C)の分子量は、成形材料を成形して得られる成形品の力学特性の観点から、重量平均分子量で好ましくは10,000以上であり、より好ましくは20,000以上であり、とりわけ好ましくは30,000以上である。これは重量平均分子量が大きいほど、マトリックス樹脂の強度や伸度が高くなる観点で有利である。一方、重量平均分子量の上限については特に制限は無いが、成形時の流動性の観点から好ましくは1,000,000以下であり、より好ましくは500,000以下を例示できる。なお、前記重量平均分子量は前記SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)などの一般的なGPC(ゲルパーミレーションクロマトグラフィー)を使用して求めることができる。
【0054】
上記群に例示された熱可塑性樹脂(C)は、本発明の目的を損なわない範囲で、繊維強化剤、エラストマーあるいはゴム成分などの耐衝撃性向上剤、他の充填材や添加剤を含有しても良い。これらの例としては、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、あるいは、カップリング剤が挙げられる。
【0055】
<成形材料>
本発明の成形材料は、強化繊維束(A)、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)、熱可塑性樹脂(C)および重合触媒(D)で構成される。
【0056】
このうち、(A)〜(C)の各構成成分の合計が100重量%とした際の、強化繊維束(A)は1〜50重量%、好ましくは5〜45重量%、より好ましくは10〜40重量%である。強化繊維束(A)が1重量%未満では、得られる成形品の力学特性が不十分となる場合があり、50重量%を超えると射出成形の際に流動性が低下する場合がある。
【0057】
また、(A)〜(C)の各構成成分の合計が100重量%とした際の、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)は0.1〜30重量%、好ましくは1〜18重量%、より好ましくは5〜15重量%である。この範囲内で用いることで、成形性と取扱性に優れた成形材料が得られる。
【0058】
さらに、(A)〜(C)の各構成成分の合計が100重量%とした際の、熱可塑性樹脂(C)は20〜98.9重量%、好ましくは37〜94重量%、より好ましくは45〜85重量%であり、この範囲内で用いることで、成形性と取扱性に優れた成形材料が得られる。
【0059】
さらに、重合触媒(D)は、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の主要構成単位である式
【0060】
【化5】

【0061】
の繰り返し単位1モルに対して、0.001〜20モル%、好ましくは0.005〜15モル%、さらに好ましくは0.01〜10モル%である。
【0062】
本発明の成形材料は、連続した強化繊維束(A)とポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)からなる複合体に熱可塑性樹脂(C)が接着するように配置されて構成される成形材料である。
【0063】
強化繊維束(A)とポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)と重合触媒(D)とは、この3者で複合体が形成される。この複合体の形態は図1に示すようなものであり、強化繊維束(A)の各単繊維間にポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)が満たされている。すなわち、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)の海に、強化繊維(A)が島のように分散している状態である。さらに重合触媒(D)は、その役割から、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)の海中、および/又は強化繊維束(A)とポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)との界面に存在することが好ましい。
【0064】
本発明の成形材料において、耐熱性に優れたポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)が強化繊維束(A)に良好に含浸した複合体とすることで、熱可塑性樹脂(C)とが接着されていても、例えば、本発明の成形材料を射出成形すると、射出成形機のシリンダー内で溶融混練された、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)が熱可塑性樹脂(C)に拡散し、強化繊維束(A)が熱可塑性樹(C)に分散することを助け、同時に熱可塑性樹脂(C)が強化繊維束(A)に置換、含浸することを助けるいわゆる含浸助剤・分散助剤としての役割を持つ。
【0065】
本発明の成形材料においての好ましい態様としては、図2に示すように、強化繊維束(A)が成形材料の軸心方向にほぼ平行に配列され、かつ強化繊維束(A)の長さは成形材料の長さと実質的に同じ長さである。
【0066】
ここで言う、「ほぼ平行に配列されて」いるとは、強化繊維束の長軸の軸線と、成形材料の長軸の軸線とが、同方向を指向している状態を示し、軸線同士の角度のずれは、好ましくは20°以下であり、より好ましくは10°以下であり、さらに好ましくは5°以下である。また、「実質的に同じ長さ」とは、例えばペレット状の成形材料において、ペレット内部の途中で強化繊維束が切断されていたり、ペレット全長よりも有意に短い強化繊維束が実質的に含まれたりしないことである。特に、そのペレット全長よりも短い強化繊維束の量について規定されているわけではないが、ペレット全長の50%以下の長さの強化繊維の含有量が30重量%以下である場合には、ペレット全長よりも有意に短い強化繊維束が実質的に含まれていないと評価する。さらに、ペレット全長の50%以下の長さの強化繊維の含有量は20重量%以下であることが好ましい。なお、ペレット全長とはペレット中の強化繊維配向方向の長さである。強化繊維束(A)が成形材料と同等の長さを持つことで、成形品中の強化繊維長を長くすることが出来るため、優れた力学特性を得ることができる。
【0067】
図3〜6は、本発明の成形材料の軸心方向断面の形状の例を模式的に表したものであり、図7〜10は、本発明の成形材料の直交方向断面の形状の例を模式的に表したものである。
【0068】
成形材料の断面の形状は、強化繊維束(A)とポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)と重合触媒(D)からなる複合体に、熱可塑性樹脂(C)が接着するように配置されていれば図に示されたものに限定されないが、好ましくは軸心方向断面である図3〜5に示されるように、複合体が芯材となり熱可塑性樹脂(C)で層状に挟まれて配置されている構成が好ましい。
【0069】
また直交方向断面である図7〜9に示されるように、複合体を芯として、熱可塑性樹脂(C)が周囲を被覆するような芯鞘構造に配置されている構成が好ましい。図11に示されるような複数の複合体を熱可塑性樹脂(C)が被覆するように配置する場合、複合体の数は2〜6程度が望ましい。
【0070】
複合体と熱可塑性樹脂(C)の境界は接着され、境界付近で部分的に熱可塑性樹脂(C)が該複合体の一部に入り込み、複合体中のポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)と相溶しているような状態、あるいは強化繊維に含浸しているような状態になっていてもよい。
【0071】
成形材料の軸心方向は、ほぼ同一の断面形状を保ち連続であればよい。成形方法によってはこのような連続の成形材料をある長さにカットしてもよい。
【0072】
本発明の成形材料は、例えば射出成形やプレス成形などの手法により強化繊維束(A)とポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)と重合触媒(D)からなる複合体に、熱可塑性樹脂(C)を混練して最終的な成形品を作製できる。成形材料の取扱性の点から、複合体と熱可塑性樹脂(C)は成形が行われるまでは分離せず、前述したような形状を保っていることが重要である。複合体と熱可塑性樹脂(C)では、形状(サイズ、アスペクト比)、比重、重量が全く異なるため、成形までの材料の運搬、取り扱い時、成形工程での材料移送時に分離し、成形品の力学特性にバラツキを生じたり、流動性が低下して金型詰まりを起こしたり、成形工程でブロッキングする場合がある。
【0073】
そのため、図7〜9に例示されるように、強化繊維である強化繊維束(A)とポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)と重合触媒(D)からなる複合体に対して、熱可塑性樹脂(C)が該複合体の周囲を被覆するように配置されていること、すなわち、強化繊維である強化繊維束(A)とポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)と重合触媒(D)からなる複合体が芯構造であり、熱可塑性樹脂(C)が該複合体の周囲を被覆した芯鞘構造とすることが好ましい。
【0074】
このような配置であれば、複合体と熱可塑性樹脂(C)とを強固に複合化できる。また、熱可塑性樹脂(C)が強化繊維束(A)とポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)と重合触媒(D)からなる複合体の周囲を被覆するように配置されるか、該複合体と熱可塑性樹脂(C)が層状に配置されているか、いずれが有利であるかについては、製造の容易さと、材料の取り扱いの容易さから、熱可塑性樹脂(C)が該複合体の周囲を被覆するように配置されることがより好ましい。
【0075】
前述したように、強化繊維束(A)はポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)によって完全に含浸されていることが望ましいが、現実的にそれは困難であり、強化繊維束(A)とポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)からなる複合体にはある程度のボイドが存在する。特に強化繊維束(A)の含有率が大きい場合にはボイドが多くなるが、ある程度のボイドが存在する場合でも本発明の含浸・繊維分散促進の効果は示される。ただしボイド率が40%を超えると顕著に含浸・繊維分散促進の効果が小さくなるので、ボイド率は0〜40%の範囲が好ましい。より好ましいボイド率の範囲は20%以下である。ボイド率は、複合体の部分をASTM D2734(1997)試験法により測定する。
【0076】
本発明の成形材料は、好ましくは1〜50mmの範囲の長さに切断して用いられる。前記の長さに調製することにより、成形時の流動性、取扱性を十分に高めることができる。このように適切な長さに切断された成形材料としてとりわけ好ましい態様は、射出成形用の長繊維ペレットが例示できる。
【0077】
また、本発明の成形材料は、連続、長尺のままでも成形法によっては使用可能である。例えば、熱可塑性ヤーンプリプレグとして、加熱しながらマンドレルに巻き付け、ロール状成形品を得たりすることができる。このような成形品の例としては、液化天然ガスタンクなどが挙げられる。また本発明の成形材料を、複数本一方向に引き揃えて加熱・融着させることにより一方向熱可塑性プリプレグを作製することも可能である。このようなプリプレグは、高い強度、弾性率、耐衝撃性が要求されるような分野、例えば航空機部材などに適用が可能である。
【0078】
<成形材料の製造方法>
本発明の成形材料は、前述した形状を容易に製造できると言った観点から、以下の(I)〜(III)の工程を経て製造することが好ましい。
工程(I)ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)および重合触媒(D)からなる混合物を得る工程。
工程(II)前記混合物を連続した強化繊維束(A)に含浸させた複合体を得る工程。
工程(III)前記複合体を熱可塑性樹脂(C)と接着させる工程。
【0079】
<工程(I)>
工程(I)において、混合物を得る装置は、投入したポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)と重合触媒(D)を混合させる機構を具備した物であれば特に制限は無いが、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)と重合触媒(D)とを均一に混合させる観点から、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)を加熱溶融させるための加熱源を具備することが好ましい。また、溶融混合物を得た後に、速やかに工程(II)に移す為に、送液機構を具備することがより好ましい。送液の駆動方式としては、自重式、圧空式、スクリュー式、およびポンプ式などが例示できる。
【0080】
工程(I)において、溶融混合物を得る際は、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の加熱重合をなるべく起こさないように温度や時間を設定するのが好ましい。溶融混合物を得る際の温度は160〜340℃、好ましくは180〜320℃、より好ましくは200〜300℃、特に好ましくは230〜270℃である。160℃より低い温度で加熱した場合、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)が溶融しない、あるいは溶融に長時間を要する傾向があり望ましくない。340℃より高温で加熱した場合は、ポリフェニレンエーテルエーテルケトオリゴマー(B’)の重合が急速に進み、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)の生成による粘度上昇が起こり、続く工程(II)における含浸性に悪影響を生じる。
【0081】
工程(I)において、溶融混合物を得る際の時間は、特に制限は無いが、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の重合が進み、増粘することを避ける為に、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)と重合触媒(D)を加熱後できるだけ速やかに工程(II)に移ることが好ましい。かかる時間の範囲としては、0.01〜300分、好ましくは0.1〜60分、より好ましくは0.3〜30分、さらに好ましくは0.5〜10分となる。0.01分より加熱時間が短い場合は、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)への重合触媒(D)の分散が不十分となる。300分より加熱時間が長い場合は、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の生成による粘度上昇が起こり、続く工程(II)における含浸性に悪影響を生じる場合がある。
【0082】
また、加熱の際の雰囲気は非酸化性雰囲気下で行うことが好ましく、減圧条件下で行うことも好ましい。ここで、非酸化性雰囲気とは、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指す。また、減圧条件下とは系内が大気圧よりも低いことを指し、例えば0.1kPa〜50kPaの範囲が好ましい範囲として例示できる。これによりポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)間、加熱により生成したポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)間、及びポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)とポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)間などで架橋反応や分解反応などの好ましくない副反応の発生を抑制できる傾向にある。
【0083】
<工程(II)>
工程(II)において、用いる装置は、工程(I)において得られた混合物を連続した強化繊維束(A)に含浸させる機構を具備したものであれば特に制限は無く、溶融混合物をTダイやスリットダイなどの金型ダイに供給しつつ該金型ダイ中に強化繊維束を通過させる装置や、溶融混合物をギアポンプにて溶融バスに供給し、該溶融バス内で強化繊維束(A)をしごきながら通過させる装置や、溶融混合物をプランジャーポンプでキスコーターに供給し、強化繊維束(A)に塗布する装置や、溶融混合物を加熱した回転ロールの上に供給し、このロール表面に強化繊維束(A)を通過させる方法が例示できる。これらの装置は、含浸性を向上させる目的で、組み合わせて使用しても良く、また得られた複合体をループさせて、複数回同じ装置を通過させても良い。
【0084】
工程(II)において、溶融混練物を含浸させる際の温度は160〜450℃、好ましくは200〜400℃、より好ましくは230〜350℃、特に好ましくは270〜300℃である。160℃より低い温度で加熱した場合、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)が凝固し、増粘、あるいは固化してしまい、含浸性を低下させる傾向がある。450℃より高温で加熱した場合は、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)間、加熱により生成したポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)間、及びポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)とポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)間などで架橋反応や分解反応などの好ましくない副反応が発生する傾向にある。
【0085】
工程(II)において、溶融混練物を含浸させる際の時間は、特に制限は無いが、溶融混練物が強化繊維束(A)に十分に含浸できるだけの時間を確保することが好ましい。かかる時間の範囲としては、0.001〜1000分、好ましくは0.01〜300分、より好ましくは0.1〜60分、さらに好ましくは0.3〜30分、特に好ましくは0.5〜10分となる。0.001分より含浸時間が短い場合は、溶融混練物の強化繊維束(A)への含浸が不十分となる。1000分より含浸時間が長い場合は、成形材料の生産性の面で好ましくない。
【0086】
<工程(III)>
工程(III)において、用いる装置は、工程(II)で得られた複合体に熱可塑性樹脂(C)を接着させる機構を具備したものであれば特に制限は無く、溶融させた熱可塑性樹脂(C)をTダイやスリットダイなどの金型ダイに供給しつつ該金型ダイ中に複合体を通過させる装置や、溶融させた熱可塑性樹脂(C)をギアポンプにて溶融バスに供給し、該溶融バス内に複合体を通過させる装置や、溶融させた熱可塑性樹脂(C)をプランジャーポンプでキスコーターに供給し、複合体に塗布する装置や、溶融させた熱可塑性樹脂(C)を加熱した回転ロールの上に供給し、このロール表面に複合体を通過させる方法が例示できる。
【0087】
工程(III)において、複合体と熱可塑性樹脂(C)を接着させる際の温度は、使用する熱可塑性樹脂(C)の分子構造や分子量、組成といった各種特性によって異なるため一概ではないが、下限としては、使用する熱可塑性樹脂(C)の融点が例示できる。上限としては前記融点に加えて80℃、好ましくは50℃、より好ましくは30℃、さらに好ましくは20℃が例示できる。かかる温度範囲において、熱可塑性樹脂(C)は、複合体との接着が容易に行え、かつ熱可塑性樹脂(C)が熱分解するといった製造上好ましくない現象を抑えることができる。なおここで、熱可塑性樹脂(C)の融点は示差走査型熱量測定装置を用いて吸熱ピーク温度を観測することにより測定することが可能である。
【0088】
工程(III)において、複合体が、複合体と熱可塑性樹脂とを接着させる装置を通過する時間としては、特に制限は無いが、0.0001〜120分、好ましくは0.001〜60分、より好ましくは0.01〜10分が例示できる。0.0001分より時間が短い場合は、複合体と熱可塑性樹脂との接着が困難となる傾向がある。120分より時間が長い場合は、成形材料の生産性の面で好ましくない。
【0089】
本発明の成形材料の製造工程において、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)をポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)に転化させるのは、工程(I)〜(III)のいずれの工程で行っても良いが、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の強化繊維束(A)への含浸を効率良く行う為には、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)を工程(II)と同時およびそれ以降に選択的に重合させることが好ましい。かかる要件を満たすためにも、前記した工程(I)〜工程(III)の装置、温度、及び時間といった条件が好適となる。
【0090】
また、工程(I)〜(III)を経た後、さらに160〜450℃、好ましくは200〜400℃、より好ましくは230〜350℃、特に好ましくは270〜300℃で熱処理し、成形材料中に残存したポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)を加熱重合させることも有意である。160℃より低い温度で、熱処理した場合、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の重合が進行せず、長時間を要する場合がある。450℃より高温で熱処理した場合は、熱可塑性樹脂(C)が短時間で溶融し、成形材料の形態が崩れる場合がある。
【0091】
<成形品の製造方法>
本発明の成形材料は、加熱することで溶融させて所定の形状に成形することができる。成形材料を溶融させる温度は、選択する原料によって異なるが、好ましい範囲として160〜450℃、より好ましくは230〜430℃、さらに好ましくは270〜400℃を例示できる。160℃より低い温度では、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)および/または熱可塑性樹脂(C)が溶融せずに成形性に問題がある場合がある。450℃より高い温度では、熱可塑性樹脂(C)が熱分解して成形品物性の低下やボイドが生じる場合がある。
【0092】
また、本発明の成形材料は、本発明の目的を損なわない範囲で、成形工程の前に、前処理を行っても良い。これらの例としては、乾燥、脱脂、脱気、裁断、賦形、積層、配列、あるいは、接着が挙げられる。
【0093】
本発明の成形材料は、各種成形方法によって最終的な形状の成形品に加工できる。成形方法としてはプレス成形、スタンパブル成形、トランスファー成形、射出成形や、これらの組合せ等が挙げられる。
【0094】
本発明の成形材料はリブ、ボス、歯車といった複雑形状の成形品や平板、角板、丸板といった幅広の成形品といった多様な形状に成形することが可能である。複雑形状の成形品の場合、射出成形およびトランスファー成形が好ましく用いられ、生産性の面から射出成形がより好ましく用いられる。幅広の成形品にはプレス成形、スタンピング成形が好ましく用いられる。
【0095】
本発明の成形材料を射出成形に用いる場合は、ペレット形状とした成形材料を用いることが好ましい。射出成形においては、ペレット状の成形材料を可塑化する際、温度、圧力、混練が加えられることから、本発明によれば、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)が含浸・分散助剤として大きな効果を発揮する。この場合、通常のインラインスクリュー型射出成形機を用いることができ、たとえ圧縮比の低いような形状のスクリューを用いたり、材料可塑化の際の背圧を低く設定するなどしたりして、スクリューによる混練効果が弱い場合であっても、強化繊維がマトリックス樹脂中に良分散し、繊維への樹脂の含浸が良好な成形品を得ることができる。
【0096】
また、本発明で得られる成形品は、本発明の目的を損なわない範囲で、前記成形工程とは別に、後処理を行っても良い。これらの例としては、アニール、研磨、裁断、研削、接着、あるいは、塗装が挙げられる。
【0097】
<成形品>
成形品としては、スラストワッシャー、オイルフィルター、シール、ベアリング、ギア、シリンダーヘッドカバー、ベアリングリテーナ、インテークマニホールド、ペダル等の自動車部品、シリコンウエハーキャリアー、ICチップトレイ、電解コンデンサートレイ、絶縁フィルム等の半導体・液晶製造装置部品、ポンプ、バルブ、シール等のコンプレッサー部品や航空機のキャビン内装部品といった産業機械部品、滅菌器具、カラム、配管等の医療器具部品や食品・飲料製造設備部品が挙げられる。また、本発明の成形材料は、流動性に優れるため成形品の厚みが0.5〜2mmといった薄肉の成形品を比較的容易に得ることができる。このような薄肉成形が要求されるものとしては、例えばパーソナルコンピューター、携帯電話などに使用されるような筐体や、パーソナルコンピューターの内部でキーボードを支持する部材であるキーボード支持体に代表されるような電気・電子機器用部材が挙げられる。このような電気・電子機器用部材では、強化繊維に導電性を有する炭素繊維を使用した場合に、電磁波シールド性が付与されるためにより好ましい。
【実施例】
【0098】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
【0099】
本発明に使用した評価方法を下記する。
【0100】
(1)環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの定量
高速液体クロマトグラフィーによって、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)中の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの定量を行った。測定条件を下記する。
装置 :島津株式会社製 LC−10Avpシリーズ
カラム :Mightysil RP−18GP150−4.6
検出器 :フォトダイオードアレイ検出器(UV=270nmを使用)
カラム温度 :40℃
サンプル :0.1重量%THF溶液
移動相 :THF/0.1w%トリフルオロ酢酸水溶液。
【0101】
(2)融点測定
JIS K7121(1987)に準拠し、示差走査型熱量測定装置、DSCシステムTA3000(メトラー社製)を用い、昇温速度10℃/分で測定し、融解ピーク温度を融点とした。
【0102】
(3)赤外分光分析装置
下記条件により、赤外分光における吸収スペクトルの測定を行った。
装置 :Perkin Elmer System 2000 FT−IR
サンプル調製:KBr法。
【0103】
(4)粘度測定
下記条件により、還元粘度の測定を行った。
粘度計 :オストワルド型粘度計
溶媒 :98重量%硫酸
サンプル濃度:0.1g/dL(サンプル重量/溶媒容量)
測定温度 :25℃
還元粘度計算式 :η={(t/t0)−1}/C
t :サンプル溶液の通過秒数
t0 :溶媒の通過秒数
C :溶液の濃度。
【0104】
(5)成形材料の生産性評価
得られた成形材料の形状を目視で観察し、不良品(樹脂の割れ、強化繊維の素抜け)を測定した。測定は、得られた成形材料から20gを無作為に抽出し、その内の不良品の総数に当たる不良品率を判断基準とし、以下の3段階で評価し、○以上を合格とした。
○○:不良品率が1個/20g未満である。成形材料の生産性に特に優れる。
○ :不良品率が1個/20g以上、5個/20g未満である。成形材料の生産性に優れる。
× :不良品率が5個/20g以上である。成形材料の生産性に劣る。
【0105】
(6)成形材料を用いて得られた成形品に含まれる強化繊維の平均繊維長
成形品の一部を切り出し、400℃で加熱プレスし、30μm厚のフィルムを得た。得られたフィルムを光学顕微鏡にて150倍に拡大観察し、フィルム内で分散した繊維を観察した。その長さを1μm単位まで測定して、次式により重量平均繊維長(Lw)および数平均繊維長(Ln)を求めた。
重量平均繊維長(Lw)=Σ(Li×Wi/100)
数平均繊維長(Ln)=(ΣLi)/Ntotal
Li:測定した繊維長さ(i=1、2、3、・・・、n)
Wi:繊維長さLiの繊維の重量分率(i=1、2、3、・・・、n)
Ntotal:繊維長さを測定した総本数。
【0106】
(7)成形材料を用いて得られた成形品の密度
JIS K7112(1999)の5に記載のA法(水中置換法)に準拠し測定した。成形品から1cm×1cmの試験片を切り出し、耐熱性ガラス容器に投入し、この容器を80℃の温度で12時間真空乾燥し、吸湿しないようにデシケーターで室温まで冷却した。浸漬液にはエタノールを用いた。
【0107】
(8)成形材料を用いて得られた成形品の曲げ試験
ASTM D790(1997)に準拠し、3点曲げ試験冶具(圧子10mm、支点4mm)を用いて支持スパンを100mmに設定し、クロスヘッド速度2.8mm/分の試験条件にて曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。試験機として、"インストロン"(登録商標)万能試験機4201型(インストロン社製)を用いた。
【0108】
(9)成形材料を用いて得られた成形品のアイゾット衝撃試験
ASTM D256(1993)に準拠し、モールドノッチ付きアイゾット衝撃試験を行った。用いた試験片の厚みは3.2mm、試験片の水分率0.1重量%以下において、アイゾット衝撃強度(J/m)を測定した。
【0109】
<ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の調製>
(参考例1)ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の製造方法(a)
攪拌機、窒素吹き込み管、ディーン・スターク装置、冷却管、温度計を具備した4つ口フラスコに、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン2.40g(11mmol)、ヒドロキノン1.10g(10mmol)、無水炭酸カリウム1.52g(11mmol)、ジメチルスルホキシド100mL、トルエン10mLを仕込んだ。混合物中のベンゼン環成分1.0モルに対するジメチルスルホキシドの量は3.13リットルである。窒素を通じながら140℃まで昇温し、140℃で1時間保持、その後160℃にまで昇温し160℃で4時間保持して反応を行った。反応終了後、室温にまで冷却して反応混合物を調製した。
【0110】
得られた反応混合物を約0.2g秤取り、THF約4.5gで希釈、濾過によりTHF不溶成分を分離除去することにより高速液体クロマトグラフィー分析サンプルを調製、反応混合物の分析を行った。結果、繰り返し数m=2〜6の連続する5種類の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの生成を確認、ヒドロキノンに対するポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の収率は15.3%であった。
【0111】
このようにして得られた反応混合物50gを分取し、1重量%酢酸水溶液150gを加えた。撹拌してスラリー状にした後、70℃に加熱して30分間撹拌を継続した。スラリーをガラスフィルター(平均孔径10〜16μm)で濾過して固形分を得た。得られた固形分を脱イオン水50gに分散させ70℃で30分間保持して濾過して固形分を得る操作を3回繰り返した。得られた固形分を70℃で一晩真空乾燥に処し、乾燥固体約1.24gを得た。
【0112】
さらに、上記で得られた乾燥固体1.0gをクロロホルム100gを用いて、浴温80℃で5時間ソックスレー抽出を行った。得られた抽出液からエバポレーターを用いてクロロホルムを除去して固形分を得た。この固形分にクロロホルム2gを加えた後、超音波洗浄器を用いて分散液として、メタノール30gに滴下した。これにより生じた析出成分を平均ポアサイズ1μmの濾紙を用いて濾別後、70℃で3時間真空乾燥に処し、白色固体を得た。得られた白色固体は0.14g、反応に用いたヒドロキノンに対する収率は14.0%であった。
【0113】
この白色粉末は赤外分光分析における吸収スペクトルよりフェニレンエーテルケトン単位からなる化合物であることを確認、また高速液体クロマトグラフィーにより成分分割したマススペクトル分析(装置;日立製M−1200H)、さらにMALDI−TOF−MSによる分子量情報により、この白色粉末は繰り返し数mが2〜6の連続する5種類の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物を主要成分とするポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)であることが分かった。また、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)中における環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物の重量分率は81%であった。なお、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)における環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン以外の成分は線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマーであった。
【0114】
このようなポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の融点を測定した結果、163℃の融点を有することが分かった。また、還元粘度を測定した結果、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)は0.02dL/g未満の還元粘度を有していることが分かった。
【0115】
また、上記したソックスレー抽出によるポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の回収における、クロロホルム不溶の固形成分を70℃で一晩真空乾燥に処しオフホワイト色の固形分約0.85gを得た。分析の結果、赤外分光分析における吸収スペクトルより線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンであることを確認した。また、還元粘度の測定を行った結果、この線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンは0.45dL/gの還元粘度を有していることが分かった。
【0116】
(参考例2)ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の製造方法(b)
ここでは、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の製造方法により副生する線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを用いたポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の製造方法(b)について記す。
【0117】
攪拌機を具備した100mLのオートクレーブに4,4’−ジフルオロベンゾフェノン0.22g(1mmol)、ヒドロキノン0.11g(1mmol)、無水炭酸カリウム0.14g(1mmol)、参考例1記載の方法により得られた線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(還元粘度;0.45dL/g)1.15g(4mmol)、N−メチル−2−ピロリドン50mLを仕込んだ。混合物中のベンゼン環成分1.0モルに対するN−メチル−2−ピロリドンの量は3.33リットルである。
【0118】
反応容器を室温・常圧下にて窒素ガス下に密閉した後、400rpmで撹拌しながら、室温から140℃まで昇温し140℃で1時間保持、その後180℃にまで昇温し180℃で3時間保持、次いで230℃にまで昇温し230℃で5時間保持し反応を行った。
【0119】
得られた反応混合物を約0.2g秤取り、THF約4.5gで希釈、濾過によりTHF不溶成分を分離除去することにより高速液体クロマトグラフィー分析サンプルを調製、反応混合物の分析を行った。結果、繰り返し数m=2〜8の連続する7種類の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの生成を確認、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物の収率は8.3%であった。
【0120】
また、参考例1記載の方法により上記反応混合物からポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の回収を行った結果、収率8.0%でポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)を得た。得られたポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の分析を行った結果、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)中における環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物の重量分率は77%であり、165℃の融点を有することが分かった。また、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の還元粘度は0.02dL/g未満であることも分かった。
【0121】
(参考例3)
ここでは、特許公表2007−506833の実施例に記載の一般的な方法によるポリフェニレンエーテルエーテルケトンの製造方法に準じた合成について記す。
【0122】
攪拌機、窒素吹き込み管、ディーン・スターク装置、冷却管、温度計を具備した4つ口フラスコに4,4’−ジフルオロベンゾフェノン22.5g(103mmol)、ヒドロキノン11.0g(100mmol)、およびジフェニルスルホン49gを仕込んだ。混合物中のベンゼン環成分1.0モルに対するジフェニルスルホンの量は約0.16リットルである。窒素を通じながら140℃にまで昇温したところ、ほぼ無色の溶液を形成した。この温度で無水炭酸ナトリウム10.6g(100mmol)及び無水炭酸カリウム0.28g(2mmol)を加えた。温度を200℃に上げて1時間保持し、250℃に上げて1時間保持、次いで315℃に上げて3時間保持した。
【0123】
得られた反応混合物を高速液体クロマトグラフィーにて分析した結果、ヒドロキノンに対する環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物の収率は1%未満と痕跡量であった。
【0124】
反応混合物を放冷して粉砕し、水およびアセトンで洗浄することにより、副生塩及びジフェニルスルホンを洗浄除去した。得られたポリマーを熱風乾燥機中、120℃で乾燥させて粉末を得た。
【0125】
得られた粉末約1.0gを、クロロホルム100gを用いて浴温80℃で5時間ソックスレー抽出を行った。得られた抽出液からエバポレーターを用いてクロロホルムを除去して少量のクロロホルム可溶成分を得た。この回収したクロロホルム可溶成分の、反応に用いたヒドロキノンに対する収率は1.2%であった。高速液体クロマトグラフィーにより、回収したクロロホルム可溶成分の分析を行った結果、このクロロホルム可溶成分中には環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンおよび線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマーが含まれていることが分かった。この線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマーは溶剤溶解性などの特性が環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンと類似しており、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンからの分離が困難な化合物である。また、上記の回収したクロロホルム可溶成分中に含まれる環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物は、繰り返し数m=4、5からなり、さらに繰り返し数m=4の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの重量分率が80%以上を占めるものであった。また、この回収したクロロホルム可溶成分の融点は約320℃であった。これは、この方法により得られたクロロホルム可溶成分を占める環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン4量体(m=4)の含有率が高いことに起因すると推測している。
【0126】
また、上記したソックスレー抽出において、クロロホルムに不溶の固形成分を70℃で一晩真空乾燥に処しオフホワイト色の固形分約0.98gを得た。分析の結果、赤外分光分析における吸収スペクトルより線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンであることを確認した。また、還元粘度の測定を行った結果、この線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンは0.75dL/gの還元粘度を有していることが分かった。
【0127】
(参考例4)ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の製造方法(c)
ここでは、参考例3による方法で得られた線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(還元粘度;0.75dL/g)を用いた環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの製造方法(c)について記す。
【0128】
攪拌機を具備した1リットルのオートクレーブに参考例3記載の方法により得られたポリフェニレンエーテルエーテルケトン14.4g(50mmol)、フッ化セシウム1.52g(10mmol)、N−メチル−2−ピロリドン500mLを仕込んだ。混合物中のベンゼン環成分1.0モルに対するN−メチル−2−ピロリドンの量は3.33リットルである。
【0129】
反応容器を室温・常圧下にて窒素ガス下に密閉した後、400rpmで撹拌しながら、室温から140℃まで昇温し140℃で1時間保持、その後180℃にまで昇温し180℃で3時間保持、次いで230℃にまで昇温し230℃で5時間保持し反応を行った。
【0130】
得られた反応混合物を約0.2g秤取り、THF約4.5gで希釈、濾過によりTHF不溶成分を分離除去することにより高速液体クロマトグラフィー分析サンプルを調製、反応混合物の分析を行った。結果、繰り返し数m=2〜8の連続する7種類の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物の生成を確認、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物の収率は13.7%であった。(ここでの環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物の収率は、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの生成量と、反応に用いたポリフェニレンエーテルエーテルケトンの量の比較により算出した。)。
【0131】
また、参考例1記載の方法により上記反応混合物からポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の回収を行った結果、収率13.7%でポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)を得た。得られたポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)中における環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物の重量分率は79%であり、165℃の融点を有することが分かった。また、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)は0.02dL/g未満であることも分かった。
【0132】
<成形材料>
(実施例1)
参考例1で調製したポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)に、重合触媒(D)としてフッ化セシウムをポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の主要構成単位である式−(O−Ph−O−Ph−CO−Ph)−の繰り返し単位に対して5モル%となるよう添加し、230℃の溶融バス中で溶融させ溶融混合物を得た。得られた溶融混合物をギアポンプにてキスコーターに供給した。230℃に加熱されたロール上にキスコーターから溶融混合物を塗布し、被膜を形成させた。
【0133】
このロール上に炭素繊維トレカ(登録商標)T700S−24K(東レ(株)製)を接触させながら通過させて、強化繊維束(A)の単位長さあたりに一定量の溶融混合物を付着させた複合体を得た。
【0134】
この複合体を、300℃に加熱された炉内へ供給し、ベアリングで自由に回転する、一直線上に上下交互に配置された10個のロール(φ50mm)間に通過させ、かつ葛折りに炉内に設置された10個のロールバ(φ200mm)を複数回ループさせて通過させ、合計30分間かけてポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)を強化繊維束(A)に十分含浸させながらポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)に転化させた。
【0135】
続いて、熱可塑性樹脂(C)として、VICTREX(登録商標)PEEKTM151G(ビクトレックス・エムシー(株)製ポリエーテルエーテルケトン樹脂、融点343℃)を400℃で単軸押出機にて溶融させ、押出機の先端に取り付けたクロスヘッドダイ中に押し出すと同時に、得られた複合体も上記クロスヘッドダイ中に連続的に供給することによって、溶融した熱可塑性樹脂(C)を複合体に被覆した。このとき、熱可塑性樹脂(C)の吐出量を調整し、強化繊維束(A)の含有率を所定の値に調整した。
【0136】
上記記載の方法により得られたストランドを、冷却後、カッターにて7mmの長さに切断して芯鞘構造の柱状ペレット(長繊維ペレット)を得た。得られた長繊維ペレットは運搬による毛羽立ちもなく、良好な取扱性を示した。
【0137】
得られた長繊維ペレットから、熱可塑性樹脂(C)の被覆を剥がし、さらに強化繊維(A)を取り除くことで、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)を分離した。ここで得られたポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)を融点測定および粘度測定に供した。
【0138】
得られた長繊維ペレットを150℃、5時間以上真空下で乾燥させた。乾燥させた長繊維ペレットを、日本製鋼所(株)製J150EII−P型射出成形機を用いて、各試験片用の金型を用いて成形を行った。条件はいずれも射出成形温度:400℃、金型温度:160℃、冷却時間30秒とした。成形後、真空下で80℃、12時間の乾燥を行い、かつデシケーター中で室温、3時間保管した乾燥状態の試験片について評価を行った。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
【0139】
(実施例2)
参考例2で調製したポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、芯鞘構造の柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様の方法で、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)を分離し、融点測定および粘度測定に供した。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
【0140】
(比較例1)
参考例3で調製したポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)を用い、溶融バス温度、ロール温度および炉内温度を350℃に代えた以外は、実施例1と同様の方法で、芯鞘構造の柱状ペレット(長繊維ペレット)の製造を試みたところ、多数の成形材料が不良品となった。これは、溶融バス内でポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の重合が進行し、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)となったことで、連続した強化繊維束(A)への含浸が困難になったためであった。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様の方法で、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)を分離し、融点測定および粘度測定に供した。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を試みたところ、スクリューへの噛み込み不良により成形ができなかった。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
【0141】
(実施例3)
参考例4で調製したポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、芯鞘構造の柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様の方法で、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)を分離し、融点測定および粘度測定に供した。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
【0142】
実施例1〜3の結果より、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の製造方法によらず、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の融点を270℃以下とすることで、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の連続した強化繊維束(A)への含浸性に優れ、成形材料の製造が容易になることは明らかである。得られた成形材料中ではポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)はポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)に重合しており、この成形材料を用いた成形品は、力学特性に優れていた。
【0143】
比較例1より、融点が270℃より大きいポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物を用いた場合、プロセス温度を高く設定する必要があり、溶融バス内でポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物の重合が進行し、強化繊維束(A)への含浸性が大きく低下することは明らかである。この成形材料は、生産性と成形性で大きく劣るだけでなく、プロセス温度を高く設定する必要があるため、経済性の面でも劣ることは明らかである。
【0144】
(実施例4)
参考例1で調製したポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の量を18重量%に代えて、熱可塑性樹脂(C)の量を62重量%に代えた以外は、実施例1と同様の方法で、芯鞘構造の柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様の方法で、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)を分離し、融点測定および粘度測定に供した。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
【0145】
(実施例5)
参考例1で調製したポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の量を30重量%に代えて、熱可塑性樹脂(C)の量を50重量%に代えた以外は、実施例1と同様の方法で、芯鞘構造の柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様の方法で、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)を分離し、融点測定および粘度測定に供した。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
【0146】
(比較例2)
重合触媒(D)としてのフッ化セシウムを用いない以外は、実施例5と同様の方法で、芯鞘構造の柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様の方法で、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)を分離し、融点測定および粘度測定に供した。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
【0147】
(比較例3)
ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)、重合触媒(D)としてのフッ化セシウムおよび溶融バスを使用せず、熱可塑性樹脂(C)の量を80重量%に代えた以外は、実施例1と同様の方法で、芯鞘構造の柱状ペレット(長繊維ペレット)の製造を試みたところ、多数の成形材料が不良品となった。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を試みたところ、スクリューへの噛み込み不良により成形ができなかった。各プロセス条件を表1に記載した。
【0148】
実施例4および5より、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の量を18重量%および30重量%としても、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の連続した強化繊維束(A)への含浸性に優れ、成形材料の製造が容易であることは明らかである。得られた成形材料中ではポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)はポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)に重合しており、この成形材料を用いた成形品は、力学特性に優れていた。
【0149】
比較例2および実施例5の比較より以下のことが明らかである。比較例2は重合触媒(D)としてのフッ化セシウムを用いない為に、得られた成形材料中ではポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)がポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)に重合していないことが明らかである。さらに比較例2は実施例5に比べて力学特性が大きく劣ることは明らかである。
【0150】
比較例3より、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)および重合触媒(D)を用いない場合は、高粘度の熱可塑性樹脂(C)では連続した強化繊維束(A)への含浸が不十分である為に、成形材料の生産性および成形性で大きく劣ることは明らかである。
【0151】
(実施例6)
炉内温度を350℃に代えて、炉内時間を10分に代えた以外は、実施例1と同様の方法で、芯鞘構造の柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様の方法で、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)を分離し、融点測定および粘度測定に供した。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
【0152】
(実施例7)
炉内温度を400℃に代えて、炉内時間を10分に代えた以外は、実施例1と同様の方法で、芯鞘構造の柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様の方法で、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)を分離し、融点測定および粘度測定に供した。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
【0153】
実施例6および7より、炉内温度を350℃および400℃としても、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の連続した強化繊維束(A)への含浸性に優れ、成形材料の製造が容易であることは明らかである。得られた成形材料中ではポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)はポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)に重合しており、この成形材料を用いた成形品は、力学特性に優れていた。さらに、この条件で製造された、成形材料中のポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)の融解エンタルピーは40kJ/g未満であり、公知のポリフェニレンエーテルエーテルケトン同等であった。
【0154】
(実施例8)
参考例1で調製したポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の量を3重量%に代えて、熱可塑性樹脂(C)の量を87重量%に代えて、強化繊維束(A)の量を10重量%に代えた以外は、実施例1と同様の方法で、芯鞘構造の柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様の方法で、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)を分離し、融点測定および粘度測定に供した。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
【0155】
(実施例9)
参考例1で調製したポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の量を15重量%に代えて、熱可塑性樹脂(C)の量を55重量%に代えて、強化繊維束(A)の量を30重量%に代えた以外は、実施例1と同様の方法で、芯鞘構造の柱状ペレット(長繊維ペレット)を製造した。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様の方法で、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)を分離し、融点測定および粘度測定に供した。得られた長繊維ペレットを用いて、実施例1と同様に射出成形を行い、各評価に供した。各プロセス条件および評価結果を表1に記載した。
【0156】
実施例8および9より成形材料の繊維含有量を10重量%および30重量%としても、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)の連続した強化繊維束(A)への含浸性に優れ、成形材料の製造が容易であることは明らかである。得られた成形材料中ではポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)はポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)に重合しており、この成形材料を用いた成形品は、力学特性に優れていた。
【0157】
【表1】

【符号の説明】
【0158】
1 強化繊維束(A)
2 ポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)および重合触媒(D)
3 強化繊維束(A)とポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)と重合触媒(D)からなる複合体
4 熱可塑性樹脂(C)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続した強化繊維束(A)1〜50重量%とポリフェニレンエーテルエーテルケトン(B)0.1〜30重量%からなる複合体に、熱可塑性樹脂(C)20〜98.9重量%が接着されてなる成形材料であって、前記成分(B)が、融点が270℃以下のポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマー(B’)を重合触媒(D)で重合させて得られるポリフェニレンエーテルエーテルケトンである成形材料。
【請求項2】
前記成分(B’)が環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを60重量%以上含む請求項1に記載の成形材料。
【請求項3】
前記成分(B’)が異なる繰り返し数mを有する環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの混合物である請求項1または2のいずれかに記載の成形材料。
【請求項4】
前記成分(B)のDSCによる結晶融解エンタルピー△Hが40(J/g)以上である請求項1〜3のいずれかに記載の成形材料。
【請求項5】
前記成分(A)が、炭素繊維の単繊維を少なくとも10,000本含有してなる、請求項1〜4のいずれかに記載の成形材料。
【請求項6】
前記成分(C)が、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂から選択される少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれかに記載の成形材料。
【請求項7】
前記成分(D)がアルカリ金属塩である請求項1〜6のいずれかに記載の成形材料。
【請求項8】
前記成分(A)が軸心方向にほぼ平行に配列されており、かつ該成分(A)の長さが成形材料の長さと実質的に同じである、請求項1〜7のいずれかに記載の成形材料。
【請求項9】
前記複合体が芯構造であり、前記成分(C)が該複合体の周囲を被覆した芯鞘構造である、請求項8に記載の成形材料。
【請求項10】
成形材料の形態が、長繊維ペレットである請求項9に記載の成形材料。
【請求項11】
長さが1〜50mmの範囲内である、請求項1〜10のいずれかに記載の成形材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−6352(P2013−6352A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140690(P2011−140690)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】