説明

成形機

【課題】簡単な構造で、スライドコアの停止位置精度を向上させ、スライドコアの移動距離を必要最小限とする。
【解決手段】先端に半球面23aを有するアンギュラピン23を固定型に設ける。可動型30の開閉方向と直交する方向にスライド移動するように可動型30の型板31にスライドコア33を設ける。スライドコア33にアンギュラピン23が摺動自在に挿通される傾斜孔35を設ける。傾斜孔35の開口縁36の少なくとも一部に、スライドコア33の移動方向に直交する平面によって形成された位置決め面37を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形機に関し、特に、固定型あるいは可動型の開閉方向と直交する方向にスライドするように設けられたスライドコアを有する成形機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スライドコアを用いた成形機は、下記特許文献1に示されているように射出成形する成形品にアンダーカット部がある場合に用いられる。成形品のアンダーカット部をスライドコアで形成し、熱可塑性樹脂を射出成形した後、固定型と可動型が開閉するときに、このスライドコアがアンダーカット部から引き抜かれる。スライドコアは可動型の開閉方向と直交する方向にスライド移動するように可動型に取付けられる。スライドコアには、固定型に角度を持って埋設されたアンギュラピンが挿通する傾斜孔が設けられ、可動型が開く際に、アンギュラピンに沿って傾斜孔が移動することでスライドコアがアンダーカット部から引き抜かれる。この後、押出しピンによって成形品が可動型より離される。
【0003】
成形空間に突き出された押出しピンは、次の型閉めの際に、リターンピンが固定型に当接することによって、初期位置に復帰する。型閉めのときは、前記アンギュラピンの先端が前記傾斜孔に挿入され、アンギュラピンと傾斜孔が嵌合して、前記スライドコアが、成形空間の一部を形成する所定位置までスライド移動する。前記アンギュラピンの先端は面取りが施されているか、あるいは半球面となっていることが多いが、前記アンギュラピンが前記傾斜孔に挿入される際にアンギュラピンの先端が傾斜孔の開口縁に衝突することがあり前記開口縁に衝突して前記開口縁に傷をつけてしまう。
【特許文献1】特開平05−301259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記スライドコアは、前記アンギュラピンの先端が前記傾斜孔の開口縁から離れたときにその移動を停止するので、金型開き時の前記スライドコアの停止位置は、前記アンギュラピンの先端と前記傾斜孔の開口縁の接触状態によることになる。つまり、前述のように、前記傾斜孔の開口縁が前記アンギュラピンの先端との衝突によって変形すると、金型開き時の前記スライドコアの停止位置が変化する。このため従来は、スライドコアの移動距離を十分に余裕をもって設定し、前記スライドコアの停止位置が多少ずれたとしても問題ないようにしていた。前記アンギュラピンの傾斜角度は一定以上に大きくすることは出来ないため、スライドコアの移動距離を大きくするためにはアンギュラピンの長さを長くしなければならないが、金型が大きくなる等の問題もあり、特に、レンズ鏡筒のような精密部品を成形する金型の場合などでは、スライドコアの移動量は必要最小限であることを要求される。
【0005】
図6に示すように、スライドコア73に設けられた傾斜孔75はアンギュラピン70と同一の角度をもって斜めに設けられており、そのため開口縁76の角は円周の半分が鋭角となる。この鋭角となった側が前記スライドコア73の停止位置を決めることになる。アンギュラピン70の先端は型閉めの際に前記傾斜孔75の開口縁76の鋭角部分に当接する事が多いので、前記アンギュラピン70の先端が繰り返し開口縁76の鋭角部分に衝突することで、前記開口縁76の鋭角部分は変形する。これによって前記スライドコア73の停止位置が変化するので、スライドコアの移動距離の余裕を小さくすることは非常に困難であった。
【0006】
本発明は、掛かる課題に対して、前記アンギュラピンと前記傾斜孔の開口縁との衝突を少なくし、たとえ前記傾斜孔の開口縁に傷がついたとしても、それによって前記スライドコアの停止位置が変化することがないようにすることで、前記スライドコアの停止位置精度を向上させ、前記スライドコアの移動距離を必要最小限とすることができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による成形機は、一対の固定型と可動型およびスライドコアによって成形空間を構成する。前記固定型あるいは可動方の一方には、可動型の開閉方向に対して所定の角度を有し先端に半球面を有するアンギュラピンを備える。前記スライドコアは、前記可動型の開閉方向と直交する方向にスライド移動するように前記固定型あるいは可動方の他方に設けられる。前記スライドコアには、前記アンギュラピンが摺動自在に挿通される傾斜孔が設けられ、該傾斜孔の開口縁の少なくとも一部に位置決め面を有する。前記位置決め面は、前記スライドコアの移動方向に直交する平面によって形成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡単な構造で、スライドコアの停止位置精度を向上させ、スライドコアの移動距離を必要最小限とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施形態である成形機の構造について説明する。図1および図2に示すように、成形機10は、固定型20および可動型30より構成され、成形空間15を形成している。固定型20は、型板21と、型板21に取付けられた入れ子型22、および型板21に角度を持って埋設されたアンギュラピン23とによって構成されている。アンギュラピン23の先端には半球面23aが形成されている。
【0010】
可動型30は、図1のAの方向に開閉する。可動型30は、型板31と、型板31に取付けられた入れ子型32、およびスライドコア33とによって構成され、スライドコア33の内側端面34は成形空間の一部を形成し、内側端面34の凸部34aが成形空間に突出して成形空間にアンダーカット部を形成している。また、スライドコア33には、前記アンギュラピン23が挿通する傾斜孔35が設けられ、傾斜孔35の開口縁36の一部分には位置決め面37が設けられている。この位置決め面37は、スライドコア33の移動方向(図2のBの方向)に直交する平面である。
【0011】
スライドコア33は、その一部に鍔部38を備え、可動型30の型板31にボルト41によって取付けられたガイド板42が、前記鍔部38を抱え込むようにガイドしている。これによって、スライドコア33は、可動型30の開閉方向(図1のAの方向)と垂直な方向(図2のBの方向)にのみ摺動移動する。
【0012】
また、スライドコア33の型板31との摺動面には位置決め用V溝45が設けられている。そして、型板31には穴47が設けられ、穴47に位置決めボール48とそれを押圧する圧縮バネ49が装填されている。位置決め用V溝45が位置決めボール48と係合してスライドコア33の位置決めをする。
【0013】
以上の他に、前記型板31には押出しピン51およびリターンピン52が設けられ、型板21および型板31の何れかにガイド軸あるいはガイド穴が設けられている(図示せず)が、これらについては従来技術であるので、詳しい説明を省略する。
【0014】
次に本発明による金型の作用について説明する。図3に示すように、可動型30を図中Cの方向に移動させて固定型20と可動型30を開く。固定型20に設けられたアンギュラピン23と嵌合している傾斜孔35によってスライドコア33は図中Dの方向に摺動移動すると、前記成形空間15に成形された成形品60のアンダーカット部を形成する溝部61から前記凸部34aが退避する。
【0015】
図4および図5に示すように、型板31の移動によってスライドコア33が摺動移動し、前記アンギュラピン23と前記傾斜孔34の係合が解除される直前で、前記アンギュラピン23の先端に形成された半球面23aが前記位置決め面37に接する。同時に、前記V溝45と前記位置決めボール48が係合して前記スライドコア33の停止位置が決まる。前記半球面23aは球面の一部であり前記位置決め面37は前記スライドコア33の移動方向に垂直な面であるから、前記可動型30の移動が継続し前記スライドコア33が図中Cの方向に移動し続けても、前記スライドコア33の図中Dの方向へのスライド移動は発生しない。
【0016】
ここで例えば、型閉じ時に、前記位置決め面37の角部37aに前記アンギュラピン23の先端の半球面23aが衝突して、前記角部37aに凹みが生じたとしても、前記位置決め面37の全てが変形するわけではないので、前記アンギュラピン23と前記傾斜孔34の係合が解除されて前記スライドコア33のスライド移動が停止する位置が変わることはない。
【0017】
前記実施形態では、アンギュラピン23を固定型20に、スライドコア33を可動型30に設けたが、本発明はこれに限るものではなく、アンギュラピンを可動型に、スライドコアを固定型に設けても良い。
【0018】
前記実施形態では、位置決めボール45によってスライドコア33を位置決めすることでスライドコア33を固定したが、前記アンギュラピン23と前記傾斜孔34の係合が解除されたときにマグネットによってスライドコア33を吸着して固定する方法を用いても良い。
【0019】
前記実施形態では、傾斜孔35の開口縁36はエッヂのついたままであるが、開口縁36および位置決め面37の角37aに面取りあるいはアールを設けても良い。
【0020】
前記実施形態では、固定型20および可動型30に入れ子型22および入れ子型32を用いた金型構造について説明したが、入れ子型22および入れ子型32を必ずしも用いる必要はなく、入れ子型22および入れ子型32の部分を型板21および型板31に一体に形成して製作しても良い。
【0021】
前記実施形態では、成形機について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、モールドプレス金型に採用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による成形機を閉じた時の断面図である。
【図2】本発明による可動型の斜視図である。
【図3】本発明による成形機を開いた時の断面図である。
【図4】本発明によるスライドコアの上面図である。
【図5】アンギュラピンが傾斜孔から抜ける直前を示す拡大した断面図である。
【図6】従来の金型構造によるアンギュラピンが傾斜孔の開口縁に衝突した時を示す拡大した断面図である。
【符号の説明】
【0023】
10 成形機
15 成形空間
20 固定型
23 アンギュラピン
30 可動型
33 スライドコア
35 傾斜孔
36 開口縁
37 位置決め面
45 V溝
48 位置決めボール
60 成形品
61 溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の固定型と可動型によって成形空間を構成する開閉自在な成形機において、
前記可動型の開閉方向に対して所定の角度となるように前記固定型と可動型の一方に設けられ先端に半球面を有するアンギュラピンと、
前記可動型の開閉方向と直交する方向にスライド移動するように前記固定型と可動型の他方に設けられて前記成形空間の一部を構成するスライドコアと、
前記スライドコアに設けられ前記アンギュラピンが摺動自在に挿通される傾斜孔と、
前記傾斜孔の開口縁の少なくとも一部に設けられ、前記スライドコアの移動方向に直交する平面によって形成された位置決め面と、
を備えたことを特徴とする成形機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−39864(P2009−39864A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203959(P2007−203959)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】