説明

成膜方法

【課題】膜剥離を確実に防止しつつ高圧電特性の緻密な膜を形成する。
【解決手段】材料粒子12が収容されたエアロゾル生成器10に、第1ガス供給管13から酸素ガスを吹き込み、第2ガス供給管16からヘリウムガスを吹き込んで、酸素とヘリウムとの混合ガスをキャリアガスとし、酸素ガスによる攪拌で材料粒子12の流動性を高め、ヘリウムガスによる破砕効果で材料粒子12の凝集塊を解いたエアロゾルを発生する。そして発生したエアロゾルを成膜室30に導いて、エアロゾル生成器10と成膜室30との差圧により、噴射ノズル21から基板31の表面に高速で吹き付け、基板31の表面に材料粒子12による膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアロゾルを高速で基板に吹き付けることによって成膜を行う成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばインクジェットプリンタ等に用いられる圧電アクチュエータにおける圧電膜を形成する成膜方法として、近年、エアロゾルデポジション法が注目されている。エアロゾルデポジション法は、気体中にセラミックス微粒子を分散してなるエアロゾルをノズルから噴射し、高速で基板表面に吹き付けることによって、当該基板上で微粒子を粉砕し堆積させてセラミックス薄膜を形成するものである(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−36255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術においては、エアロゾルに用いる気体(キャリアガス)として、例えば、ヘリウム、窒素、アルゴン、酸素、乾燥空気等を使用している。しかしながら、例えば、キャリアガスをヘリウムのように直進性の強いガスのみで構成した場合、低流量で吹き付けを行うと、成膜された膜の中央部が他の部位よりも厚い凸形状となり、厚膜部から膜剥離を生じやすい(膜厚制御、膜質制御の困難性)。逆に高流量で吹き付けを行うと、成膜された膜における上記の凸形状は解消され膜厚分布が均一化されるものの、基板への衝突力の増大によって膜応力が増大して膜剥離が生じやすくなる(膜質制御の困難性)。
【0005】
一方、キャリアガスを酸素のように分散性の強いガスのみで構成した場合、低流量で吹き付けを行うと、エアロゾル中に含まれる材料粒子の流動性が悪くエアロゾル中の材料粒子の濃度が安定しないため、所望の膜厚の成膜を行うことが困難となる(膜厚制御の困難性)。逆に高流量で吹き付けを行うと、均一な膜厚分布での成膜が可能となるが、エアロゾル中に粗大粒子を巻き込むため、成膜された膜中に圧粉体を形成しやすくなる(膜質制御の困難性)。
【0006】
すなわち、上記従来技術では、エアロゾルを用いた成膜において膜厚制御と膜質制御との両方を確実に実行し、膜剥離を確実に防止しつつ高圧電特性の緻密な膜を形成することは困難であった。ここで、緻密とは、膜中に隙間があって短絡してしまう圧粉体とは異なる良好な状態であり、圧電材料をよく含んだ膜密度が高い状態である。
【0007】
本発明の目的は、膜剥離を確実に防止しつつ高圧電特性の緻密な膜を形成することができる、成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1の発明は、材料粒子を含むキャリアガスからなるエアロゾルをエアロゾル流として基板に吹き付けることにより前記基板上に成膜を行う成膜方法であって、前記キャリアガスとして、前記エアロゾル中で前記材料粒子を分散させる分散性を有する第1ガスと、前記エアロゾル中で前記材料粒子を直進させる直進性を有する第2ガスとを少なくとも含む、混合ガスを用いることを特徴とする。
【0009】
第2発明は、上記第1発明において、前記混合ガスに含まれる前記第1ガスの分子量が、前記第2ガスの分子量より大きいことを特徴とする。
【0010】
第3発明は、上記第1又は第2発明において、前記第2ガスは、凝集した前記材料粒子を壊砕する機能を備え、前記第1ガスは、前記エアロゾル中における前記材料粒子の攪拌、又は、前記吹き付けのために前記エアロゾルを希釈分散する機能を備える。
【0011】
第4発明は、上記第1乃至第3発明のいずれかにおいて、前記キャリアガスに占める前記第2ガスの流量比を、50%以下としたことを特徴とする。
【0012】
本願発明では、材料粒子にキャリアガスを分散させてエアロゾルを形成し、このエアロゾルを所定の流速のエアロゾル流として基板に吹き付けて成膜を行う。本願発明においては、直進性の強い第2ガスと分散性の強い第1ガスとの両方を含む混合ガスを、キャリアガスとして用いる。これにより、直進性と分散性とを兼ね備えたキャリアガスを実現し、膜厚制御と膜質制御との両方を確実に実行することができる。この結果、均一な膜厚分布の成膜を行うことができ、さらに衝突時の膜応力増大の防止や圧粉体の発生防止を図ることができる。したがって、膜剥離を確実に防止しつつ、高圧電特性の緻密な膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、膜剥離を確実に防止しつつ、高圧電特性の緻密な膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態の成膜方法で使用する成膜装置を示す概略構成図である。
【図2】本発明の一実施例において、キャリアガスに占めるヘリウムガスの流量比を種々変化させて成膜した場合の膜厚分布を表す図である。
【図3】本発明の一実施例において、キャリアガスの流量を変化させたときの膜厚のバラツキ及び成膜品質を示した図である。
【図4】キャリアガスとして純ヘリウムガスを用いる第1比較例における膜厚分布を示す図である。
【図5】第1比較例と、キャリアガスとして純酸素ガスを用いる第2比較例とにおいて、キャリアガスの流量を変化させたときの膜厚のバラツキ及び成膜品質を示した図である。
【図6】第2比較例における膜厚分布を示す図である。
【図7】本発明の一実施例において、キャリアガス(ヘリウムガス+酸素ガス)の総流量を変化させたときの、ヘリウムガス流量比による膜厚バラツキの挙動を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0016】
(1)成膜装置及び成膜方法の概略
図1は、本実施形態の成膜方法で使用するエアロゾルデポジション成膜装置を示す概略構成図である。
【0017】
図1において、この成膜装置100は、キャリアガスに材料粒子12を分散させてエアロゾルを発生させるエアロゾル生成器10と、発生したエアロゾルを基板31に高速で吹き付けて、基板31の表面に膜を形成する成膜室30とを備えている。
【0018】
エアロゾル生成器10は、材料粒子12を収容する筒状の容器11を備えている。容器11は、混合ガス(後述)が吹き込まれることによって材料粒子12が分散され、その混合ガスをキャリアガスとした材料粒子12のエアロゾルが発生する。
【0019】
上記材料粒子12としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を初めとして、例えば酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、マグネシウムニオブ酸鉛(PMN)、ニッケルニオブ酸鉛(PNN)、亜鉛ニオブ酸鉛等のセラミックスや有機樹脂等を使用することができる。
【0020】
上記混合ガスとしては、エアロゾル中で材料粒子12を分散させる分散性を備えた第1ガスと、エアロゾル中で材料粒子12を直進させる直進性を備えた第2ガスとの、少なくとも2種類のガスを含むものを用いる。第1ガスとしては、酸素、窒素等、比較的分子量が大きい(少なくとも第2ガスよりは大きい)ガスを使用することができる。第2ガスとしては、ヘリウム、アルゴン等、比較的分子量が小さいガスを使用することができる。本実施形態では、以下、第1ガスとして酸素を用い、第2ガスとしてヘリウムを用いた場合を例にとって説明する。
【0021】
上記容器11には、第1ガス供給管13と、第2ガス供給管16と、エアロゾル供給管19とが取り付けられている。
【0022】
第1ガス供給管13は、第1ガス源15に接続され、第1ガス源15からの酸素ガスを容器11に導く。第1ガス供給管13のうち、第1ガス源15からのガス流れに沿った上流側の端部は、調圧弁14b及び開閉バルブ14cを介して、上記第1ガス源15に接続されている。第1ガス供給管13のうち、第1ガス源15からのガス流れに沿った下流側は上・下供給管13a,13bに分岐する。
【0023】
下供給管13aは、流量制御器14a1(MFC:Mass Flow Controller)を介し、容器11の下端に位置する基部11aに接続されている。下供給管13aを介し、容器11の底部に収納された所定量の材料粒子12に対し、下方向から酸素ガスが吹き込まれる。この結果、分散性が強い酸素ガスが有する攪拌力によって材料粒子12を効率よく攪拌し、生成されるエアロゾルの流動性を高めることができる。
【0024】
上供給管13bは、流量制御器14a2を介し、エアロゾル供給管19に接続されている。上供給管13bを介し、容器11から導出されエアロゾル供給管19内を流れるエアロゾルの流れに対し、酸素ガスが吹き込まれる。この結果、第2ガスのヘリウムよりも分子量が重い酸素ガスが有する希釈分散性能によって、エアロゾルの流れを均一化することができる。
【0025】
第2ガス供給管16は、第2ガス源18に接続され、第2ガス源18からのヘリウムガスを容器11に導く。
【0026】
第2ガス供給管16のうち、ガス流れに沿った上流側は、流量制御器17a、調圧弁17b、及び開閉バルブ17cを介し、上記第2ガス供給源18に接続されている。第2ガス供給管16のうち、ガス流れに沿った下流側は、容器11の上端から挿入して容器11内を下部まで延設されている。その延設された端部は、容器11の下部に達し、この例ではさらに容器11の径方向内方に向けて折り曲げられた形状となっている。第2ガス供給管16を介し、容器11の底部に収納された材料粒子12に対しヘリウムガスが吹き込まれる。この結果、直進性が強いヘリウムガスが有する破砕力により材料粒子12の凝集塊を壊砕し、材料粒子12を、凝集塊がばらばらに解された細粒化粒子の状態にすることができる。なお、容器11の基部11a内に例えば超音波加振装置(図示せず)を設置して材料粒子12に下方から振動を加えることで、材料粒子12の凝集の壊砕を補助するようにしてもよい。
【0027】
以上のようにして、エアロゾル生成器10において、酸素ガスとヘリウムガスとを混合した混合ガスをキャリアガスとする、材料粒子12のエアロゾルが発生する。この際、流量制御器14a1,14a2によって酸素ガスの流量が制御され、また流量制御器17aによってヘリウムガスの流量が制御されることにより、酸素ガスとヘリウムガスの総流量及び流量比が制御される。発生したエアロゾルは、エアロゾル生成器10の容器11の圧力と成膜室30の圧力との差圧によって、エアロゾル供給管19に吸い込まれる。
【0028】
エアロゾル供給管19は、容器11の上部に一方側端部が挿入され、容器11で発生したエアロゾルを成膜室30に導く。エアロゾル供給管19の他方側(容器11と反対側)は、開閉バルブ20を介して成膜室30内に挿入されている。成膜室30内に挿入された、エアロゾル供給管19の先端には、噴射ノズル21が装着されている。噴射ノズル21は、成膜室30に設置された上記基板31に対し所定の傾斜角度で対向されている。
【0029】
成膜室30は、側壁に真空ポンプ32を連結した真空チャンバから構成されている。成膜室30の天井には、3次元方向のそれぞれに移動可能な移動ステージ33が設置されている。移動ステージ33には、基板ホルダ34が設置され、この基板ホルダ34に基板31が水平に取り付けられている。
【0030】
基板31は、移動ステージ33によって高さ方向及び前後左右の水平方向に位置調整され、上記噴射ノズル21に対し、所定の間隔をあけて対向配置される。また、基板31は、成膜中、2列(2枚)の基板31の成膜を同一バッチにて行えるように、移動ステージ33によって水平面内で前後左右方向に往復動される。すなわち、噴射ノズル21の噴射方向に対して2つの基板31,31を対向して並列配置する。そして、まず、(a)噴射ノズル21を一方の基板31に向かって近づけて対向させる。その後、(b)噴射ノズル21を噴射方向とほぼ直角に他方の基板31側へと移動して他方の基板31に対向させた後、(c)他方の基板31から一旦遠ざかるように移動させる。その後、(d)噴射ノズル21を再び他方の基板31に向かって近づけて対向させる。そして、(e)噴射ノズル21を噴射方向とほぼ直角に上記一方の基板31側へと移動させて当該一方の基板31に対向させる。その後、(f)一方の基板31から遠ざかるように移動させた。以降、(a)〜(f)の動き(いわゆる「コの字」の移動)を繰り返すように、移動ステージ33を移動させる。なお、基板31の材料としては、ステンレス(SUS)を初めとして、例えば他の金属、シリコン、半導体、樹脂等を使用することができる。
【0031】
成膜室30は、基板31への成膜に先立って、真空ポンプ32により、内部が10〜20Pa程度の所定の高真空度に減圧される。その後、エアロゾル生成器10からエアロゾル供給管19を介し成膜室30に導かれたエアロゾルが、噴射ノズル21の先端から高速のエアロゾル流35となって噴出し、基板31の表面に向けて吹き付けられる。基板31の表面に吹き付けられたエアロゾルは、材料粒子12が基板31の表面に高速で衝突することにより、局所的な衝撃エネルギを発生する。この衝撃エネルギにより、材料粒子12に誘起されるメカノケミカル反応によって、材料粒子12の膜が、基板31の表面に形成(成膜)される。
【0032】
(2)本発明の原理
上述したように、本実施形態では、エアロゾル中で分散性を備えた第1ガス(この例では酸素)と、エアロゾル中で直進性を備えた第2ガス(この例ではヘリウム)の2種類のガスを容器11に吹き込む。これにより、この2種類のガスを混合した混合ガスをキャリアガスとしてエアロゾルを発生させる。これは、分散性の強い酸素ガスと直進性の強いヘリウムガスとを混合することによって、直進性と分散性とを兼ね備えたキャリアガスを実現し、膜厚制御と膜質制御との両方を確実に実行可能とするためである。
【0033】
すなわち、キャリアガスを、直進性の強いガス、例えばヘリウムのみで構成した場合は、エアロゾルを低流量で吹き付けを行うと、基板31に成膜された膜の中央部が他の部位よりも厚い凸形状となり、厚膜部から膜剥離を生じやすい(膜厚制御、膜質制御の困難性)。逆に、高流量で吹き付けを行うと、基板31に成膜された膜における上記の凸形状は解消され膜厚分布が均一化されるものの、基板への衝突力の増大によって膜応力が増大して膜剥離が生じやすくなる(膜質制御の困難性)。
【0034】
一方、キャリアガスを分散性の強いガス、例えば酸素のみで構成した場合、低流量で吹き付けを行うと、エアロゾル中に含まれる材料粒子12の流動性が悪く、エアロゾル中の材料粒子12の濃度が安定しないため、所望の膜厚の成膜を行うことが困難となる(膜厚制御の困難性)。逆に高流量で吹き付けを行うと、均一な膜厚分布での成膜が可能となるが、エアロゾル中に粗大粒子を巻き込むため、成膜された膜中に圧粉体を形成しやすくなる(膜質制御の困難性)。
【0035】
これに対し、本実施形態では、分散性の強い酸素ガスと直進性の強いヘリウムガスとを混合した混合ガスをキャリアガスとして用いる。直進性を備えたヘリウムガスが有する、凝集した材料粒子12を壊砕する機能により、事前に粗大粒子を細かくすることができるので、エアロゾル中に粗大粒子が巻き込まれることがなく、成膜された膜中に圧粉体が形成されるのを防止することができる。一方、分散性を備えた酸素ガスが有するエアロゾルの希釈分散機能により、高速の吹き付けによって膜厚分布を均一化することができる。また、分散性を備えた酸素ガスが有する材料粒子12の攪拌機能により、エアロゾル中に含まれる材料粒子12の流動性を増大させ、エアロゾル中の材料粒子12の濃度を安定化することができる。
【0036】
以上の結果、均一な膜厚分布の成膜を行うことができ、さらに衝突時の膜応力増大を防止や圧粉体の発生防止を図ることができる。したがって、膜剥離を確実に防止しつつ、高圧電特性の緻密な膜を形成することができる。
【0037】
また本実施形態では特に、キャリアガスに含まれる酸素ガスの分子量32は、ヘリウムガスの分子量18よりも大きくなっている。
【0038】
ヘリウムガスよりも分子量が大きい酸素ガスを用いることで、直進性よりも分散性の強い性質を確実に実現することができる。
【0039】
また本実施形態では特に、ヘリウムガスが、エアロゾル中において凝集した材料粒子12を壊砕する機能を備え、酸素ガスが、エアロゾル中における材料粒子12の攪拌、又は、吹き付けのためにエアロゾルを希釈分散する機能を備える。
【0040】
ヘリウムガスによる、凝集した材料粒子12を壊砕する機能により、事前に粗大粒子を細かくすることができるので、エアロゾル中に粗大粒子が巻き込まれることなく、成膜された膜中に圧粉体が形成されるのを防止することができる。また、酸素ガスによるエアロゾルの希釈分散機能により、高速の吹き付けによって膜厚分布を均一化することができる。さらに、酸素ガスによる材料粒子12の攪拌機能により、エアロゾル中に含まれる材料粒子12の流動性を増大させ、エアロゾル中の材料粒子12の濃度を安定化することができる。
【0041】
また、本実施形態では特に、キャリアガスに占めるヘリウムガスの流量比を50%以下としている。これにより、膜厚のバラツキを抑制できる。
【0042】
なお、上記では、酸素ガスを用いたが、分散性を備えたガスであれば、酸素ガス以外のガスを第1ガスとして用いてもよい。同様に、直進性を備えたガスであれば、ヘリウムガス以外のガスを第2ガスとして用いてもよい。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
1.拡散防止層及び下部電極の形成
幅15mm、奥行き35mm、厚さ0.4mmである拡散接合SUS板(ヘッド)及び評価用SUS板に対して、上述した実施形態に基づくエアロゾルデポジション法に基づいた成膜装置100にて、拡散防止層としてこの例ではAl膜を約2μm厚で形成した。
【0045】
以下本工程を具体的に説明する。エアロゾル生成器10にAl粉末(昭和電工製AL−160SG−4):140gを投入した。基板ホルダ34にSUSの基板31をセットし、成膜範囲以外をテープで貼付した。基板ホルダ34を成膜室30内の移動ステージ33にセットし、往復スキャンを開始した。なお、ステージ移動は前述した態様の移動を繰り返しており、2列(2枚)成膜を同一バッチにて行った。成膜室30を真空ポンプ32により真空引きして、到達真空圧:10〜20Paとした。キャリアガスとして前述したヘリウムガス及び酸素ガスを、上記上供給管13b、下供給管13a、及び第2ガス供給管16の3系統から導入した。なお、第1ガス上供給管13bは希釈分散、第1ガス下供給管13aは原料粉体の流動攪拌、第2ガス供給管16は原料粉体の壊砕する用途にて導入している。所定の総流量(3系統の合計)に合わせ、流動状態を見ながら流動ガス流量を一定に定めた後、ヘリウムガスと酸素ガスの比率を変更することで所望のエアロゾル濃度に調整した。成膜範囲外で5分の空噴射を行った後、所定の成膜時間でSUS基板31上にエアロゾル噴射した。所定の成膜時間が終了した後、成膜ガスを止め、成膜室30を真空開放した。基板ホルダ34を移動ステージ33から取り外し、所望の成膜条件のAl膜を形成した。
【0046】
Al膜が上部に形成されたSUS基板31に対して1分間の超音波洗浄を行い、当該SUS基板31に付着した粉体を除去した。150℃での乾燥処理を30分行い、水分除去した。段差計を用いて、各SUS基板31上におけるAl厚を測定した。その後スパッタ装置を用いて、Al膜の表面に、下部電極として0.05μmのTi層及び0.5μmのPt層をこの順序で積層して形成した。さらにマッフル炉を用いて、500℃でのアニール処理を30分間行い、Pt残留応力を開放した。このようにして、SUS基板31による拡散防止層とAl膜による下部電極との積層構造を形成した。
【0047】
2.圧電層の形成
上記のようにして形成した基板31のAl膜の上面に対して、上述と同様のエアロゾルデポジション法(ただしAl粉末:140gの代わりに堺化学工業製PZT−LQからなるPZT粉末:200gを使用)にてPZT膜からなる圧電層を形成した。その後、表面をエアブローし、付着した粉体を除去した。
【0048】
3.膜厚の検出
得られたPZT膜について、段差計を用いて膜厚を測定した。
【0049】
4.アニール処理
マッフル炉を用いて、850℃でのアニール処理を30分行い、SUS基板31上に形成された上記PZT膜の結晶粒を成長させた。
【0050】
5.膜質の判定
アニール後のPZT膜の外観形状を目視観察し、膜剥離の有無と、膜剥離があった場合には全面剥離であるか一部剥離であるかを判定した。また、膜中に圧粉体を含むかどうかも目視観察により判定した。
【0051】
6.データ収集
キャリアガスの流量(すなわちエアロゾル流の流速)と、成膜時間を種々変更しながら、「2.圧電層の形成」〜「5.膜質の判定」の工程を繰り返し、薄膜の膜厚及び膜質についてのデータを収集した。
【0052】
収集したデータに基づき算出した膜厚分布を、横軸に基板31の中心からの距離(右方向をプラス、左方向をマイナスとする)をとり、縦軸に全サンプルの膜厚平均値を100としたときの各サンプルの膜厚相対値をとった図2にまとめた。また、上記収集したデータに基づき算出した膜質変化を、横軸にキャリアガス(ヘリウムガス及び酸素ガス)の総流量をとり、縦軸に基板31への成膜時における全サンプルの膜厚バラツキをとった図3にまとめた。
【0053】
なお、このバラツキは、膜厚最大値max、膜厚最小値:minとして、
膜厚バラツキ(%)={(max−min)÷(max+min)}×100
・・(式1)によって算出したものである。
【0054】
(第1比較例)
各成膜工程において、キャリアガスとして、前述したヘリウムガス及び酸素ガスに代えてヘリウムガスのみをエアロゾル生成器10に導入し、それ以外は実施例と同様にして、同様の工程を繰り返し、データ収集を行った。上記と同様、収集したデータに基づき算出した膜厚分布及び膜質変化をそれぞれ図4及び図5にまとめた。
【0055】
(第2比較例)
各成膜工程において、キャリアガスとして、前述したヘリウムガス及び酸素ガスに代えて酸素ガスのみをエアロゾル生成器10に導入し、それ以外は実施例と同様にして、同様の工程を繰り返し、データ収集を行った。上記と同様、収集したデータに基づき算出した膜厚分布及び膜質変化をそれぞれ図6及び上記図5にまとめた。
【0056】
(実施例と第1及び第2比較例との考察結果)
以上において、第1比較例では、図4に示すように、基板中心側を略中心とする概ね凸形状の膜厚分布となっている。この第1比較例では、前述したように、キャリアガスとして直進性を備えたヘリウムのみを使用している。この結果、単位時間当たりに流れるガスの容積である流量について、4.2L/min→5.6L/min→7.0L/min→11.2L/min→…と概ね高流量になるほど、ヘリウムガスによる凝集塊の破壊効果により材料粒子が細粒化され、低流量のときよりも膜厚分布のバラツキが小さくなっている。しかしながら、図5中に△や×で示されるように、第1比較例では、低流量及び高流量のいずれの場合でも基板31からの膜の一部剥離又は全面剥離が生じている。そして、キャリアガスの流量を低流量側から高流量側まで種々制御しても、膜剥離する成膜条件しか得られていないことがわかる。
【0057】
一方、図6において、第2比較例でも、基板中心側を略中心とする概ね凸形状の膜厚分布となっており、全体的に、第1比較例よりも膜厚分布のバラツキが小さくなっている。しかしながら、この第2比較例では、キャリアガスとして分散性を備えた酸素のみを使用している。この結果、上記図5に□印で示されるように、高流量となると、酸素ガスによる材料粒子の攪拌効果に基づく流動化によって、エアロゾル中への粗大粒子の巻き込みが生じ、成膜された膜が圧粉体を含むようになる。すなわち、膜密度が粗で高電圧に対する耐性が低い、低品質の膜しか得られないことがわかる。
【0058】
これに対して、実施例では、キャリアガスとして、直進性を備えたヘリウムガスと分散性を備えた酸素ガスとを混合した、混合ガスを用いている。これにより、酸素ガスによる材料粒子12の攪拌効果と、ヘリウムガスによる材料粒子12の凝集塊の破壊効果とにより、材料粒子12が細粒化されかつ流動化されたエアロゾルを得ることができる。この結果、図2に示されるように、成膜された膜は、ヘリウムガスの流量比の相違に拘わらず、バラツキが非常に少ない膜厚分布になる。このときの膜厚分布のバラツキは、図3に示されるように、30%以下となっている。またこのとき、各サンプルにおいて、膜の緻密性、高圧電特性に優れた良品の膜が得られていることがわかる。
【0059】
(実施例の追加考察)
【0060】
図7は、横軸にキャリアガス流量に占めるヘリウムガス流量比(%)をとり縦軸に図3と同様の膜厚バラツキをとった図である。図7に示すように、キャリアガス中に占めるヘリウムガスの流量比を増大させるほど、膜厚のバラツキが増大する傾向となる。一方、同一のヘリウムガスの流量比の値でみたときのバラツキの値(横軸同一値でみたときの縦軸の値)は、キャリアガスの総流量の値に依存して変化する。ヘリウムガスと酸素ガスをあわせたキャリアガスの総流量の値を、総流量4.6[L/min]→5.8[L/min]→6.8[L/min]と徐々に増加させていくとまずバラツキが低下する傾向となる。しかしながら、その低下はある総流量の値で下げ止まり、その後は、キャリアガスの総流量6.8[L/min]→8.7[L/min]→10.8[L/min]という増加と共に逆にバラツキが再び増加する傾向となる。
【0061】
図7によれば、上記のような挙動の中でも、キャリアガス総流量に対するヘリウムガスの流量比が50%以下であれば、膜厚バラツキを、少なくともほぼ30%以下に抑制できることがわかる。なお、図7には、参考値として、キャリアガスに純ヘリウムガスを用いた場合についても併せて示している(第1比較例に相当。図中×印)。
【0062】
その他、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0063】
10 エアロゾル生成器
11 容器
12 材料粒子
30 成膜室
31 基板
35 エアロゾル流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料粒子を含むキャリアガスからなるエアロゾルをエアロゾル流として基板に吹き付けることにより前記基板上に成膜を行う成膜方法であって、
前記キャリアガスとして、
前記エアロゾル中で前記材料粒子を分散させる分散性を有する第1ガスと、前記エアロゾル中で前記材料粒子を直進させる直進性を有する第2ガスとを少なくとも含む、混合ガスを用いる
ことを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記混合ガスに含まれる前記第1ガスの分子量が、前記第2ガスの分子量より大きいことを特徴とする請求項1記載の成膜方法。
【請求項3】
前記第2ガスは、
前記エアロゾル中において凝集した前記材料粒子を壊砕する機能を備え、
前記第1ガスは、
前記エアロゾル中における前記材料粒子の攪拌、又は、前記吹き付けのために前記エアロゾルを希釈分散する機能を備える
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の成膜方法。
【請求項4】
前記キャリアガスに占める前記第2ガスの流量比を、50%以下とした
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−229533(P2010−229533A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80938(P2009−80938)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】