説明

成膜用マスク

【課題】蒸着パターンの位置ずれを抑え所望の位置に精度よく蒸着を行うことができる成膜用マスクを提供する。
【解決手段】被処理基板上に蒸着源から蒸発した蒸着材料を成膜する蒸着パターンに対応するマスク開口部が形成されたチップと、チップを保持する支持基板とを有し、チップの一方面を被処理基板に重ね合わせた状態で蒸着に用いられる成膜用マスクにおいて、断熱層41が支持基板30の蒸着源の側に形成され、熱遮蔽層42が断熱層41の露出する部位全体を覆うように蒸着源の側の支持基板30の全体に亘って形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜用マスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種半導体装置や電気光学装置の製造工程においては、成膜パターンに対応するマスク開口部が形成された成膜用マスクを被処理基板に重ね合わせた状態で、真空蒸着法、スパッタ成膜、イオンプレーティング、CVD法などの成膜を行っている。例えば、有機EL装置の製造工程では、有機機能層を形成する有機材料の耐水性が低くウエットプロセスを利用することができないため、被処理基板に成膜用マスクを重ねた状態で真空蒸着を行うマスク蒸着法によって有機機能層を形成している。
【0003】
しかしながら、この方法では蒸着源からの輻射熱の影響で成膜用マスクの温度が上昇して膨張することになる。このため、成膜用マスクの温度上昇が大きいと膨張率も大きくなり、マスク開口部と被処理基板との相対位置がずれてしまう。このように、従来の成膜用マスクでは蒸着を行う際、蒸着パターンの位置ずれを抑えて精度よく成膜することは困難である。
【0004】
このような問題を解決するための技術として、例えば特許文献1では、蒸着材料を収納して蒸発させるるつぼの開口部と成膜用マスクとの間に、成膜用マスクへの放射熱を防ぐ放射阻止板を設ける技術が開示されている。これにより、成膜用マスクの熱膨張を抑制し、蒸着パターンの位置ずれを抑えて画素ずれが生じない成膜を可能にしている。
【0005】
一方、蒸着パターンを形成するマスク開口部を有する構造体をシリコンで形成し、この構造体を支持する支持基板をガラス(例えばホウ珪酸ガラス、石英ガラスなど)で形成した成膜用マスクがある。この成膜用マスクを構成するシリコンやガラスの熱膨張係数は、被処理基板としてガラス基板を用いた場合の熱膨張係数と同程度であり、この成膜用マスクを用いて蒸着を行っても、反りやひずみは無視できるほど小さい。これにより、熱膨張係数の差に起因する蒸着パターンの位置ずれを抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−214185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、るつぼの開口部に対応する領域には放射阻止板が設けられていない。このため、成膜用マスクの外周部ではるつぼからの放射熱を防ぐことができるものの、成膜用マスクの中央部(るつぼの開口部から飛散してくる蒸発材料の付着領域)ではるつぼからの放射熱を防ぐことができない。したがって、成膜用マスクの中央部が膨張してしまい蒸着パターンの位置ずれを十分に抑えることはできない。
また、従来の構造体をシリコンで形成し支持基板をガラスで形成した成膜用マスクでは、ガラスの熱伝導率とシリコンの熱伝導率との差が非常に大きい。これにより、支持基板はゆっくりと熱が伝導して徐々に伸びてゆくが、構造体はすぐに熱が伝導して急激に伸びる。このため、蒸着パターンを形成する場合の輻射熱により、蒸着回数を増やすにつれて支持基板と構造体との相対位置が徐々にずれていく。その結果、蒸着パターンの位置ずれが発生してしまい所望の位置に精度よく蒸着を行うことが困難となる。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、蒸着パターンの位置ずれを抑え所望の位置に精度よく蒸着を行うことができる成膜用マスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の成膜用マスクは、被処理基板上に蒸着源から蒸発した蒸着材料を成膜する蒸着パターンに対応するマスク開口部が形成されたチップと、該チップを保持する支持基板とを有し、前記チップの一方面を前記被処理基板に重ね合わせた状態で蒸着に用いられる成膜用マスクにおいて、断熱層が前記支持基板の前記蒸着源の側に形成され、熱遮蔽層が前記断熱層の露出する部位全体を覆うように前記蒸着源の側の前記支持基板の全体に亘って形成されていることを特徴とする。
【0010】
この成膜用マスクによれば、支持基板の蒸着源の側に熱遮蔽層が設けられているので、蒸着源からの輻射熱の原因となる電磁波を反射し支持基板に熱が伝わることを防止することができる。また、熱遮蔽層と支持基板との間に断熱層が設けられているので、熱遮蔽層で反射しきれずに吸収されたエネルギーから発生する熱が支持基板の側に伝導しにくい構造となっている。このため、支持基板に熱が蓄積されにくくなり、支持基板の変形(熱膨張による寸法変化)の速さを遅くすることができる。つまり、支持基板とチップ(マスク開口部)との単位時間当たりの相対位置のずれを無視できるほど小さくすることができる。したがって、蒸着パターンの位置ずれを抑え所望の位置に精度よく蒸着を行うことが可能な成膜用マスクが提供できる。また、特許文献1のように、るつぼの開口部と成膜用マスクとの間に、成膜用マスクへの放射熱を防ぐ放射阻止板を設けていないので、成膜用マスクの中央部が膨張して蒸着パターンの位置ずれが発生することがない。
【0011】
また、上記成膜用マスクは、隣り合う前記断熱層どうしが間隔を空けて配置されていてもよい。
【0012】
この成膜用マスクによれば、線膨張係数の高い断熱層を用いた場合でも、断熱層の熱膨張の影響で支持基板に「歪み」や「撓み」が生じることを防止することができる。例えば、断熱層の形成材料として用いられるエポキシ樹脂やシリコーン樹脂は、熱伝導率が低いものの線膨張係数が高い。このように、温度上昇に対する変位量が大きいものの、隣り合う断熱層どうしが間隔を空けて配置されているので、断熱層の形成材料としてエポキシ樹脂やシリコーン樹脂を用いた場合でも支持基板が寸法変化することが抑制される。
【0013】
また、上記成膜用マスクは、前記断熱層が前記支持基板の全体に亘って均等に配置されていてもよい。
【0014】
この成膜用マスクによれば、断熱層が局所的に配置された場合に比べて、支持基板への伝熱を偏りなくバランスよく抑制することができる。このため、支持基板に熱が局所的に蓄積されにくくなり、支持基板の変形(熱膨張による寸法変化)の速さを遅くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る成膜用マスクの概略構成を示す図である。
【図2】本発明に係る成膜用マスクの概略構成を示す断面図である。
【図3】成膜用マスクの製造工程を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。かかる実施の形態は、本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等が異なっている。
【0017】
(成膜用マスク)
図1は、本発明に係る成膜用マスクの一例を示す概略構成図である。図1(a)は、成膜用マスク全体の基本的構成を示す図である。図1(b)は、成膜用マスクの一部を拡大して示す図である。なお、図1(a)においては便宜上断熱層41及び熱遮蔽層42の図示を省略している。
【0018】
図1に示すように、成膜用マスク1は、図示略の被処理基板上に蒸着材料を成膜する蒸着パターンに対応するマスク開口部22が形成されたチップ20と、チップ20を保持する支持基板30と、断熱層41と、熱遮蔽層42と、を備えている。
【0019】
この成膜用マスク1は、ベース基板をなす矩形の支持基板30に、複数のチップ20を取り付けた構成を有している。本実施形態において、チップ20はシリコン製であり、複数枚が各々、支持基板30にアライメントされた状態で支持基板30の上面に陽極接合や紫外線硬化型接着剤などにより接合されている。
【0020】
成膜用マスク1は、所定の成膜パターンをマスク蒸着法により形成するためのマスクである。このマスクを構成するチップ20には、成膜パターンに対応する長孔形状のマスク開口部22が複数一定間隔で平行に並列した状態で形成されている。このため、チップ20には、マスク開口部22の各間に梁部27が形成されている。チップ20において、マスク開口部22の形成領域の周りには外枠部25が形成されており、かかる外枠部25が支持基板30に接合されている。
【0021】
支持基板30には、長方形の貫通孔からなる複数の開口領域32が平行、かつ一定間隔で設けられている。複数のチップ20は、支持基板30の開口領域32を塞ぐように支持基板30上に固定されている。この支持基板30の板厚T1(図2参照)は、例えば50μm程度になっている。
【0022】
この支持基板30には、アライメントマーク33が形成されている。このアライメントマーク33は、成膜用マスク1を使用して蒸着などを行うときに、成膜用マスク1の位置合わせを行うためのものである。なお、チップ20の外枠部25にアライメントマークを形成してもよい。
【0023】
支持基板30の形成材料は、チップ20の形成材料の熱膨張係数と同一又は近い熱膨張係数を有するものが好ましい。チップ20はシリコンであるので、シリコンの熱膨張係数と同等の熱膨張係数を有する材料で支持基板30を構成する。このようにすることにより、支持基板30とチップ20との熱膨張量の違いによる「歪み」や「撓み」の発生を抑えることができる。本実施形態では、支持基板30の形成材料としては、例えば、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、石英ガラスなどからなる透明基板が用いられている。
【0024】
チップ20は、例えば、面方位(100)を有する単結晶シリコン基板20aからなっている。このチップ20は、単結晶シリコン基板20aにフォトリソグラフィ技術やエッチング技術などを用いて、貫通溝からなるマスク開口部22を形成することにより、製造される。チップ20の下面(他方面)には大きな凹部29が形成されており、マスク開口部22は、凹部29の底部で開口している。これにより、マスク開口部22が形成された領域では基板厚(梁部27の厚さ)が薄く、その厚さは5μm〜50μmである。このため、マスク開口部22では、斜め方向に進行する蒸着粒子もマスク開口部22を通過しやすくなっている。
【0025】
成膜用マスク1において、支持基板30の上面には、開口領域32の長手方向に沿って一定間隔にアライメントマーク34が形成されている。また、複数のチップ20の各々において、外枠部25の下面には、アライメントマーク24が形成されている。アライメントマーク34及びアライメントマーク24は、チップ20を支持基板30に固定する際の位置合わせに使用される。
【0026】
支持基板30の蒸着源100の側(チップ20が固定された側と反対の側)には、断熱層41の露出する部位全体を覆うように支持基板30の全体に亘って、熱遮蔽層42が設けられている。熱遮蔽層42は支持基板30と平面視重なるように形成されている。つまり、熱遮蔽層42の開口の幅と支持基板30の開口領域32の幅とは略同一になっている。このように、熱遮蔽層42は支持基板30の開口領域32を遮らない程度に配置されている。これにより、蒸着源100から蒸発した蒸着材料がマスク開口部22に向かうことを遮ることがないようになっている。
【0027】
熱遮蔽層42は、例えば、Al(アルミニウム)やTi(チタン)などの金属、ITO(錫添加酸化インジウム)やATO(アンチモン添加酸化錫)などの複合材料によって形成されている。この熱遮蔽層42は支持基板30の開口領域32に対応した開口を有して平坦に形成されている。熱遮蔽層42の膜厚T3(図2参照)は、例えば100nm以上になっている。この熱遮蔽層42は、蒸着源100からの輻射熱を反射する機能を有する。
【0028】
蒸着源100からの輻射熱としては、例えば、可視光や赤外線の領域の電磁波(波長0.75μm〜100μm)によるものが挙げられる。熱遮蔽層42の形成材料は、上記波長の電磁波に対して、支持基板30よりも高い反射率を有するものである。成膜用マスク1において、熱遮蔽層42としてAlを用いた場合の反射率(0.95)は支持基板30としてガラスを用いた場合の反射率(0.05)よりも高くなっている。
【0029】
このように、支持基板30の蒸着源100の側に熱遮蔽層42を設けることによって、蒸着源100からの輻射熱の原因となる電磁波を反射し支持基板30に熱が伝わることを防止することができる。
【0030】
熱遮蔽層42と支持基板30との間には、島状の断熱層41が複数一定間隔で設けられている。断熱層41は、支持基板30よりも熱伝導率の低い材料から構成されている。例えば、支持基板30としてホウ珪酸ガラス(1.2W/(m・K))を用いた場合、断熱層41としてはエポキシ樹脂(0.17〜0.21W/(m・K))やシリコーン樹脂(0.14〜0.31W/(m・K))を用いる。断熱層41の膜厚T2(図2参照)は、例えば100nm以上になっている。この断熱層41は、熱遮蔽層42で受けた熱が支持基板30の側に伝導することを抑制するためのものである。
【0031】
このように、熱遮蔽層42と支持基板30との間に断熱層41を設けることによって、熱遮蔽層42で反射しきれずに吸収されたエネルギーから発生する熱が支持基板30の側に伝導することを抑制することができる。
【0032】
具体的には、蒸着回数を増やすにつれて、熱遮蔽層42の表面に蒸着源100から飛散した蒸着粒子が付着し徐々に積み重なっていく。すると、この蒸着粒子に起因する熱遮蔽層42の反射率の低下、蒸着粒子の熱容量に起因する熱遮蔽層42の熱容量の変化などによって、熱遮蔽層42で電磁波を反射しきれずに熱が蓄積する。本実施形態では、熱遮蔽層42と支持基板30との間に断熱層41が設けられているので、熱遮蔽層42に熱が蓄積されたとしても、この熱が支持基板30に伝わることを抑制することができる。このため、支持基板30に熱が蓄積されにくくなり、支持基板30の変形(熱膨張による寸法変化)の速さを遅くすることができる。
【0033】
図2は、成膜用マスク1の断面構成を示す図である。図2において、符号T1は支持基板30の板厚、符号T2は断熱層41の膜厚、符号T3は熱遮蔽層42の膜厚、符号Wは隣り合う断熱層41どうしの間隔である。なお、図2においては便宜上チップ20の図示を省略している。
【0034】
図2に示すように、支持基板30の下面(蒸着源100の側の面)には複数の断熱層41が形成されており、隣り合う断熱層41どうしが間隔Wを空けて配置されている。この間隔Wは、断熱層41が熱遮蔽層42からの熱を受けて膨張した場合、膨張した断熱層41がその隣の断熱層41に接触しない程度の大きさになっている。
【0035】
これにより、線膨張係数の高い(温度上昇に対する変位量が大きい)断熱層41を用いた場合でも、断熱層41の熱膨張の影響で支持基板30に「歪み」や「撓み」が生じることを防止することができる。
【0036】
また、複数の断熱層41は支持基板30の全体に亘って均等に配置されている。これにより、複数の断熱層41が局所的に配置された場合に比べて、支持基板30への伝熱を偏りなくバランスよく抑制することができる。
【0037】
また、断熱層41は支持基板30の全体に亘って、例えば100〜1000程度に分割された島状になっている。島状に分割された複数の断熱層41の大きさはそれぞれ同じでもよいし、それぞれ異なっていてもよい。また、支持基板30に対する断熱層41の遮蔽率(支持基板30の下面の面積に対する断熱層41の接触面積)は、例えば50%〜95%程度となっている。これにより、断熱層41の熱膨張の影響による支持基板30の寸法変化を抑制しつつ、熱遮蔽層42の蓄熱による支持基板30への伝熱を抑制することができる。なお、支持基板30に対する断熱層41の遮蔽率が50%よりも小さいと十分な断熱効果が得られず、95%よりも大きいと断熱層41の熱膨張の影響で支持基板30の寸法が生じる可能性がある。
【0038】
(成膜用マスクの製造方法)
図4は、成膜用マスク1の製造工程の一例を示す工程図である。なお、図4においては便宜上蒸着源100の側を紙面上側にしている。また、チップ20及びアライメントマーク34(蒸着源100の側と反対の側の構成)の図示を省略している。
【0039】
先ず、支持基板30となるホウ珪酸ガラスにチップ20を接合する際に使用するアライメントマーク34(図1(a)参照)を形成する。アライメントマーク34は、クロムなどの金属薄膜を用いて、フォトリソグラフィやウエットエッチングにより形成することができる。また、アライメントマーク34は、レーザーやドライエッチング、ウエットエッチングにより、支持基板30上に凹部を形成することによっても作製可能である。
【0040】
次に、チップ20のマスク開口部22に対応する位置に開口領域32を形成する。この開口領域32は、切削などの機械加工によって形成することができる。このようにアライメントマーク34及び開口領域32を形成することで、支持基板30の加工は終了する(図4(a)参照)。
【0041】
次に、支持基板30の蒸着源100の側に断熱層41を形成する(図4(b)参照)。断熱層41の形成材料としては、上述したエポキシ樹脂やシリコーン樹脂など、支持基板30(ホウ珪酸ガラス)よりも熱伝導率の低い材料を用いる。断熱層41は、連続した膜状に形成するのではなく、島状に複数分割して形成する。断熱層41を島状に複数分割した状態に形成する方法としては、例えばフォトリソグラフィがあり、これにより容易に形成することができる。
【0042】
次に、断熱層41の露出する部位全体を覆うように支持基板30の全体に亘って熱遮蔽層42を形成する(図4(c)参照)。熱遮蔽層42の形成材料としては、上述したAlやTiなどの金属若しくはITOやATOなどの複合材料など、支持基板30(ガラス)よりも高い反射率を有する材料を用いる。以上の工程により、本発明に係る成膜用マスク1が作製される。
【0043】
本発明に係る成膜用マスク1によれば、支持基板30の蒸着源100側に熱遮蔽層42が設けられているので、蒸着源100からの輻射熱の原因となる電磁波を反射し支持基板30に熱が伝わることを防止することができる。また、熱遮蔽層42と支持基板30との間に断熱層41が設けられているので、熱遮蔽層42で反射しきれずに吸収されたエネルギーから発生する熱が支持基板30の側に伝導しにくい構造となっている。このため、支持基板30に熱が蓄積されにくくなり、支持基板30の変形(熱膨張による寸法変化)の速さを遅くすることができる。つまり、支持基板30とチップ20(マスク開口部22)との単位時間当たりの相対位置のずれを無視できるほど小さくすることができる。したがって、蒸着パターンの位置ずれを抑え所望の位置に精度よく蒸着を行うことが可能な成膜用マスクが提供できる。また、特許文献1のように、るつぼの開口部と成膜用マスクとの間に、成膜用マスクへの放射熱を防ぐ放射阻止板を設けていないので、成膜用マスクの中央部が膨張して蒸着パターンの位置ずれが発生することがない。
【0044】
また、この成膜用マスク1によれば、隣り合う断熱層41どうしが間隔を空けて配置されているので、線膨張係数の高い断熱層41を用いた場合でも、断熱層41の熱膨張の影響で支持基板30に「歪み」や「撓み」が生じることを防止することができる。例えば、断熱層41の形成材料としてのエポキシ樹脂やシリコーン樹脂は、熱伝導率が低いものの線膨張係数が高い。このように、温度上昇に対する変位量が大きいものの、隣り合う断熱層41どうしが間隔を空けて配置されているので、断熱層41の形成材料としてエポキシ樹脂やシリコーン樹脂を用いた場合でも支持基板30が寸法変化することが抑制される。
【0045】
また、この成膜用マスク1によれば、断熱層41が支持基板30の全体に亘って均等に配置されているので、断熱層41が局所的に配置された場合に比べて、支持基板30への伝熱を偏りなくバランスよく抑制することができる。このため、支持基板30に熱が局所的に蓄積されにくくなり、支持基板30の変形(熱膨張による寸法変化)の速さを遅くすることができる。
【0046】
なお、上記実施形態では、支持基板30の形成材料として、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、石英ガラスなどを挙げたがこれに限らない。例えば、支持基板30の形成材料として金属を用いることもできる。この場合、支持基板30として上述したガラス基板を用いた場合に比べて熱膨張が大きくなるので、本実施形態の構造を適用することで、支持基板30の寸法変化をさらに抑制できる効果がある。
【0047】
また、チップ20は、チップ20のマスク開口部22の形成面に平行に張力が付与された状態で支持基板30に保持されていてもよい。例えば、蒸着パターンの高精彩化及び成膜用マスクの軽量化を図るためチップ20を薄肉化したり、蒸着パターンのサイズを大きくするためにチップ20を大型化したりする場合がある。この場合、チップ20の強度が低下しチップ20が変形するおそれがあるが、チップ20に張力が付与された状態で支持基板30に固定することで変形を抑制することができる。
【0048】
本発明に係る成膜マスクは、例えば、有機EL装置を構成する正孔注入輸送層、有機発光層、電子注入輸送層、さらに陰極を選択的に蒸着することにより形成する場合に用いることが可能である。また、有機EL装置に限らず、有機EL装置以外の蒸着技術全般においても用いることができる。
【実施例】
【0049】
本願発明者は、本発明に係る成膜用マスクの効果を確認するための実験を行った。本実験は、蒸着材料として金属材料を用い回転成膜により連続して蒸着を行った。
【0050】
実施例としては本発明に係る成膜用マスク(図1及び図2参照)を用いた。具体的には、熱遮蔽層としてAl(反射率0.95)を用い支持基板としてガラス(反射率0.05)を使用した成膜用マスクを用いた。
比較例としては熱遮蔽層と断熱層とを配設していない構造(図1及び図2に示す成膜用マスクにおいて熱遮蔽層と断熱層とを取り除いたもの)を用いた。
比較した特性は、連続して金属材料を成膜する際の支持基板の温度変化である。
【0051】
評価の結果、比較例の支持基板の温度変化は、蒸着前の25℃から連続して蒸着を行った後65℃程度まで上昇することが確認された。
これに対し、実施例の支持基板の温度変化は、蒸着前から連続して蒸着を行った後において温度上昇を約3℃まで低減できることが確認された。
【0052】
すなわち、初期状態(熱遮蔽層の表面に蒸着粒子の付着が少ない状態)で支持基板の温度上昇を抑えることは可能である。しかしながら実際には、長期的な使用により熱遮蔽層の表面に蒸着粒子の付着が積層されていく。つまり、この蒸着粒子に起因する熱遮蔽層の反射率の低下や蒸着粒子の熱容量に起因する熱遮蔽層の熱容量の変化などがあるため、評価結果の通りにはならないと考えられる。しかしながら、実施例においては熱遮蔽層と支持基板との間に断熱層が設けられているので、熱遮蔽層で電磁波を反射しきれずに蓄積された熱は断熱層により断熱され、支持基板に熱が伝わることが遅延される。
【0053】
このように、本発明に係る成膜用マスクによって、支持基板の単位時間当たりの温度変化が小さくなることが認められる。つまり、支持基板の単位時間当たりの変形の速さが遅くなる。したがって、蒸着パターンの位置ずれを抑え所望の位置に精度よく蒸着を行うことが可能な成膜用マスクが実現していることがわかる。
【符号の説明】
【0054】
1…成膜用マスク、20…チップ、22…マスク開口部、30…支持基板、41…断熱層、42…熱遮蔽層、100…蒸着源、W…隣り合う断熱層どうしの間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基板上に蒸着源から蒸発した蒸着材料を成膜する蒸着パターンに対応するマスク開口部が形成されたチップと、該チップを保持する支持基板とを有し、前記チップの一方面を前記被処理基板に重ね合わせた状態で蒸着に用いられる成膜用マスクにおいて、
断熱層が前記支持基板の前記蒸着源の側に形成され、熱遮蔽層が前記断熱層の露出する部位全体を覆うように前記蒸着源の側の前記支持基板の全体に亘って形成されていることを特徴とする成膜用マスク。
【請求項2】
隣り合う前記断熱層どうしが間隔を空けて配置されていることを特徴とする請求項1に記載の成膜用マスク。
【請求項3】
前記断熱層が前記支持基板の全体に亘って均等に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の成膜用マスク。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate