説明

成膜装置およびターゲット装置

【課題】基板に対する成膜の生産性を向上させることが可能な成膜装置およびターゲット装置を提供する。
【解決手段】成膜装置1は、成膜材料であるターゲット25と当該ターゲット25に接触して冷却する板状の冷却板22とを備えており、ターゲット25と冷却板22とはクランプ27によって固定され、冷却板22は、ターゲット25と対向する面である第1の面22aとは反対側の面である第2の面22bが第1の面22aよりも高圧の雰囲気に曝されると共に、第1の面22bにおける中央部22cがターゲット25側に変位してターゲット25を押圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置およびターゲット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高速度の原子やイオンをターゲット表面に衝突させたときに、ターゲットを構成する原子が空間に放出される現象を利用して基板の表面に薄膜を形成するスパッタリング装置が広く開示されている。スパッタリング装置は、膜の原材料からなるターゲットを陰極、基板または真空容器壁を陽極として、これらの両電極間に電圧を印加して放電を発生させ、これにより発生するプラズマ中のイオンを当該ターゲットに向けて加速させる。そして、このイオンがターゲットに衝突することによって弾き出されたターゲット構成原子等を基板上に付着・堆積させることにより薄膜が形成される。
【0003】
このような成膜装置においては、ターゲットが、スパッタリングの際にイオンから衝撃を受けて高温となるため、融解したり割れたりするおそれがある。また、スパッタリング装置では、高い生産性を得るために成膜速度を上げることが不可欠であり、このためターゲットに投入する電力を大きくする必要がある。しかし、投入電力を大きくするとターゲットは高温となってしまう。このため、ターゲットの背面にターゲットに接触させるように冷却板を配置して、ターゲットを冷却することが一般的に行われている。例えば特許文献1には、冷却板(ターゲットホルダ)の上面にターゲットが載置され、冷却板とターゲットとが弾性クリップ式の留め具により固定されている成膜装置に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−193083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示すような、冷却板とターゲットとを留め具によって固定する方法では、留め具で固定する周縁部においては密着性を確保して効果的にターゲットを冷却することができるが、中央部においては密着性を確保することが難しく、効果的にターゲットを冷却することができない。このため、ターゲットに投入する電力が制限され、基板に成膜をする際の生産性を低下させてしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、基板に成膜をする際の生産性を向上させることが可能な成膜装置およびターゲット装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の成膜装置は、成膜材料であるターゲットと当該ターゲットに接触して冷却する板状の冷却板とを備える成膜装置であって、ターゲットと冷却板とはクランプによって固定され、冷却板は、ターゲットと対向する面である第1の面とは反対側の面である第2の面が第1の面よりも高圧の雰囲気に曝されると共に、第1の面における中央部がターゲット側に変位してターゲットを押圧することを特徴としている。
【0008】
このような成膜装置では、冷却板における第1の面および第2の面のそれぞれの面に作用する圧力に差を与えることにより、冷却板を低圧側である第1の面側に変位させる。さらに、第1の面における中央部をターゲット側に変位させることにより、冷却板をターゲットの中央部を押圧させる。これにより、ターゲットと冷却板とをクランプによって固定する場合に、ターゲットと冷却板との密着性を確保することが難しいターゲットの中央部においても、その密着性が確保されるようになるので、ターゲットに発生する熱を効率的に冷却板に伝熱することができる。この結果、ターゲットに投入する電力を高めることが可能となり、基板に成膜をする際の生産性を向上させることができる。
【0009】
また、冷却板は、第1の面および第2の面の少なくとも一方に溝部を有していてもよい。これにより、ターゲットに対する加圧力を向上させることができると共にターゲットに対する加圧力を均一化させることができる。
【0010】
また、冷却板は、第1の面における中央部および第2の面における中央部の少なくとも一方を取り囲む環状の溝部を有していてもよい。これにより、より効果的にターゲットに対する加圧力を向上させることができると共にターゲットに対する加圧力を均一化させることができる。
【0011】
また、冷却板は、第2の面が大気圧雰囲気に曝され、第1の面が真空雰囲気に曝されてもよい。これにより、冷却板は、真空雰囲気と大気圧雰囲気との気圧差によって気圧の低い第1の面側に変位するようになる。基板に薄膜を形成する際、ターゲットの一方の面は、一般的に真空雰囲気下に配置されるので、ターゲットと対向する面である第1の面とは反対側の面である第2の面を大気圧に曝すことで第1の面と第2の面との間に圧力差を発生させることができる。この結果、容易な構成で冷却板をターゲット側に変位させることが可能となる。
【0012】
また、ターゲットと冷却板との間には、ターゲットと冷却板との互いの対向面に接触する熱伝導性薄膜部材が配置されていてもよい。このターゲット装置では、ターゲットおよび冷却板が互いに対向する対向面に凹凸がある場合でも、導電性薄膜部材が、その凹凸によって形成される空隙を埋めるので、ターゲットと冷却板との接触面積が十分に確保される。この結果、ターゲットと冷却板との間の良好な熱伝導性を得ることが可能となる。
【0013】
本発明のターゲット装置は、成膜材料であるターゲットと当該ターゲットに接触して冷却する板状の冷却板とを備えるターゲット装置であって、ターゲットと冷却板とはクランプによって固定され、冷却板は、ターゲットと対向する面である第1の面および第1の面とは反対側の面である第2の面の少なくとも一方に溝部を有することを特徴としている。
【0014】
このようなターゲット装置では、冷却板における第1の面および第2の面のそれぞれの面に作用する圧力に差を与えることにより、冷却板を低圧側である第1の面側に変位させる。さらに、第1の面における中央部をターゲット側に変位させることにより、冷却板をターゲットの中央部を押圧させる。これにより、ターゲットと冷却板とをクランプによって固定する場合に、ターゲットと冷却板との密着性を確保することが難しいターゲットの中央部においても、その密着性が確保されるようになるので、ターゲットに発生する熱を効率的に冷却板に伝熱することができる。この結果、ターゲットに投入する電力を高めることが可能となり、基板に成膜をする際の生産性を向上させることができる。さらに、本発明のターゲット装置では、第1の面および第2の面の少なくとも一方に溝部を有しているので、ターゲットに対する加圧力を向上させることができると共にターゲットに対する加圧力を均一化させることができる。
【0015】
また、冷却板は、第1の面における中央部および第2の面における中央部の少なくとも一方を取り囲む環状の溝部を有していてもよい。これにより、より効果的にターゲットに対する加圧力を向上させることができると共にターゲットに対する加圧力を均一化させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の成膜装置およびターゲット装置によれば、基板に成膜をする際の生産性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係る成膜装置の構成を示す側面断面図である。
【図2】図1に示すターゲット装置を示す側面断面図である。
【図3】図2に示す冷却板を示す平面図である。
【図4】図2に示す冷却板を示す側面断面図である。
【図5】図1に示す真空容器内を減圧した際の冷却板の形状を示す側面断面図である。
【図6】試験片1および試験片2を示す側面断面図である。
【図7】試験片1に加圧をした際のX軸方向およびY軸方向におけるZ軸方向の反り量を示す図である。
【図8】試験片2に加圧をした際のX軸方向およびY軸方向におけるZ軸方向の反り量を示す図である。
【図9】他の実施形態に係る冷却板を示す平面図である。
【図10】他の実施形態に係る冷却板を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るターゲット装置および成膜装置の好適な実施形態について、図面を参照して説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0019】
図1は、本実施形態に係る成膜装置の構成を示す側面断面図である。図2は、図1に示すターゲット装置を示す側面断面図である。図1〜図5中には、XYZ直交座標系が示され、Z軸方向が上下方向に対応する。
【0020】
本実施形態に係るターゲット装置2は、いわゆるスパッタリング法による成膜を行う装置に適用することができる。このような成膜装置1は、図1に示すように、真空容器10、電源11、排気機構12、ガス導入機構13、基板ホルダ3およびターゲット装置2を主に備えている。
【0021】
真空容器10は、導電性の材料から形成されており、後述する電源11によりプラスの電圧が印加される。電源11は、真空容器10をプラスの電圧に印加し、ターゲット25にマイナスの電圧を印加する。排気機構12は、図示しない真空ポンプとバルブとを含んでおり、真空容器10の外側に配置されている。排気機構12は、真空容器10内を成膜に必要な状態にまで減圧する。ガス導入機構13は、真空容器10の外側に配置されている。ガス導入機構13は、スパッタリングに使用されるガス(例えばAr)を真空容器10内部へ導入する。基板ホルダ3は、真空容器10の内壁に取り付けられており、上下方向(図1に示すZ軸)おいて後述するターゲット装置2と対向する位置に配置されている。基板ホルダ3は、基板31を固定する部材であって、基板ホルダ3の上面に基板31を取り付ける。また、基板31は、真空容器10および基板ホルダ3を介して電源11によりマイナスの電圧が印加される。
【0022】
ターゲット装置2は、真空容器10の内部に配置されており、図2に示すように、インシュレータ21、フランジ23、冷却板22、グラファイトシート(熱伝導性薄膜部材)24、ターゲット25およびクランプ27を備えている。以下、図3〜図5を用いてターゲット装置2について詳述する。図3は、図2に示す冷却板の平面図、図4は、図2に示す冷却板を示す断面図である。図5は、真空容器内を減圧した際の冷却板の形状を示す図である。
【0023】
インシュレータ21は、真空容器10と後述するフランジ23との間に配置されており、真空容器10とターゲット25を固定するためのフランジ23とを絶縁している。これにより、真空容器10とターゲット25との電位差が確保される。
【0024】
フランジ23は、後述する冷却板22を支えるための部材であって、真空容器10にインシュレータ21を介して取り付けられている。
【0025】
冷却板22は、板状に形成された部材であって、フランジ23によって真空容器10に固定されている。冷却板22におけるフランジ23と接触する側の第2の面22bは、真空容器10の外部に面しており大気圧に曝されている。また、冷却板22における第2の面22bと反対側の面であり、後述するターゲット25と対向する側の第1の面22aは、真空容器10の内部に面している。また、真空容器10内が排気機構12によって排気され、成膜に必要な状態にまで減圧された場合には、第1の面22aは、真空雰囲気に曝される。このため、大気圧に曝される第2の面22bおよび成膜に必要な状態にまで減圧された雰囲気に曝される第1の面22aに作用するそれぞれの圧力に差が発生するようになる。
【0026】
冷却板22は、図3および図4に示すように、第2の面22b側の周縁部22e近傍に環状の溝部22fが形成されている。この溝部22fは、冷却板22に薄肉部を形成するための手段であって、上述したスパッタリング時における第1の面22aと第2の面22bとに作用する圧力差によって、第1の面22aがターゲット25側に変形(図5参照)するような寸法に形成されていることが好ましい。これにより、第1の面22aの中央部22cを含む一部の面22d、すなわち、溝部22fの内側の面22d(以下、押圧面22dと示す)をターゲット25側に均一に変位させ、ターゲット25における中央部とその周辺領域を押圧させることが可能となる。
【0027】
なお、ここでいう変位とは、図4に示すように、第1の面22aと第2の面22bとに作用する圧力に差がなく第1の面22aが直線状の維持された状態から、図5に示すように、第1の面22aと第2の面22bとに作用する圧力差によって第1の面22aが変形したときのZ軸方向の変位をいう。また、均一な変位とは、押圧面22dにおける任意の位置における図5に示すZ軸方向の変位量d〜dが、プラスマイナス20%の範囲に収まっているような変位をいう。
【0028】
また、冷却板22の内部には、配管22gが、図2に示すXY平面に対して2次元状に配置されている。配管22gは、図2に示すZ軸方向において、第2の面22bおよび第1の面22aのそれぞれからの距離がほぼ等しくなる位置に配置されている。これにより、配管22gから冷却板22の外部に冷却液が漏れ出るおそれを低減している。配管22gの内部に冷却液が流れることで、冷却板22自体を冷却する。なお、冷却板22は、例えば、銅やアルミニウムといった熱伝導性に優れた金属材料であると、冷却効率を向上させることができる。また、冷却板22がアルミニウムからなる場合には、その表面にアルマイト処理がなされていればより好適である。また、冷却板22に用いられる冷却液としては、水よりも凝固点が低い液体(例えば、フロリナートやガルデンなど)であると、冷却効率を更に向上させることができる。また、配管22gは、例えば、銅やアルミニウムといった熱伝導性に優れた金属材料であると、冷却効率を更に向上させることができる。
【0029】
ターゲット25は、薄膜の1種の材料であるITO(Indium Tin Oxide)により形成されている。なお、ターゲット25は、ITOターゲット以外に、金属酸化物材料で形成されているターゲットを用いることもできるし、亜酸化物材料を含んで形成されているターゲットを用いることもできる。ターゲット25は、成膜装置1において陰極に設定される。そして、成膜装置1において陽極として設定された真空容器10とターゲット25との間に電圧が印加されると、発生するプラズマ中のイオンがターゲット25に向けて加速し、このイオンがターゲット25に衝突するようになる。そして、この衝突により弾き出されたITO構成原子等を基板31上に付着・堆積させることにより薄膜が形成される。
【0030】
グラファイトシート24は、熱伝導性薄膜部材の1種であり、グラファイトシート24は、冷却板22とターゲット25との間に配置されている。グラファイトシート24は、ターゲット25と冷却板22との対向面に直接挟まれている。ここで、冷却板22およびターゲット25の対向面には凹凸がある場合があり、この対向面どうしが互いに接する部分には、その凹凸によって空隙が形成される場合がある。グラファイトシート24は、互いの対向面に接触することによりこのような空隙を埋めている。これにより、ターゲット25と冷却板22との接触面積が十分に確保されるようになり、ターゲット25から冷却板22への伝熱効率が高まる。
【0031】
クランプ27は、ボルト等(図示せず)によって冷却板22に固定されている。クランプ27は、ターゲット25を冷却板22に押し付けて、ターゲット25を冷却板22に固定している。また、クランプ27は、ターゲット25の周縁部22eと当接して、ターゲット25を冷却板22に押し付けている。
【0032】
次に、本実施形態の成膜装置1による成膜方法について説明する。まず、排気機構12は、真空容器10内を減圧する。続いて、ガス導入機構13は、真空容器10内に不活性ガス(主にAr)を導入する。次に、電源11を作動させて、真空容器10にプラスの電圧、ターゲット25にマイナスの電圧を印加してグロー放電を発生させる。これにより、不活性ガスがプラズマ化され、イオン原子がマイナス電位のターゲット25の表面に高速で衝突するようになる。
【0033】
ターゲット25が、イオン原子から衝突を受けると、ターゲット25の表面からターゲット材料の粒子(原子・分子)が飛び出すようになる。そして、ターゲット25と対向する位置に配置された基板31の被成膜面に、ターゲット25から飛び出した成膜材料の粒子が膜状に付着する。基板31は、このような成膜材料の粒子に所定時間曝されることにより、基板31の表面に所定の厚さの膜が形成される。
【0034】
次に、図4、図5を参照しながら、真空容器10内を減圧した際の冷却板22の動作について説明する。
【0035】
冷却板22は、真空容器10内を減圧する前、すなわち、第2の面22bおよび第1の面22aの両方が大気圧に接触している状態のとき、図4に示すようにX軸方向に直線状に保たれている。
【0036】
真空容器10内が排気機構12によって減圧され真空状態に維持されると、冷却板22は、第2の面22bが大気圧雰囲気に曝され、第1の面22aが真空雰囲気に曝されるようになる。これにより、第1の面22aよりも第2の面22bの方が高圧の雰囲気に曝されるようになるので、第2の面22bに作用する圧力と第1の面22aに作用する圧力とに差が発生する。冷却板22における溝部22fは、上述した第2の面22bと第1の面22aとの圧力差によって、ターゲット25側に変形するような寸法(厚み、幅)に形成されている。このため、冷却板22は、図5に示すように、溝部22fよりも内側の面22dがターゲット25側に均一に変位する。この結果、溝部22fの内側の面22dは、ターゲット25を押圧するようになり、冷却板22とターゲット25との密着性が高まる。
【0037】
〔実施例〕
ここでは、大気圧雰囲気下において、図6(a)に示すような形状を有する冷却板(試験片1)および図6(b)に示すような形状を有する冷却板(試験片2)について、一方の面を真空雰囲気(1Pa)、他方の面を大気圧雰囲気(10Pa)に曝した場合の形状の変化についてシミュレーションを行った。図6(a)、(b)は、試験片1および試験片2を示す側面断面図である。図6には、XYZ直交座標系が示され、Z軸方向が上下方向に対応する。
【0038】
試験片1および試験片2の条件は、以下のとおりである。
(試験片1)
外形寸法:300mm×1600mm×15mm(厚さ)
材質:無酸素銅
外周溝寸法:外周溝は形成されていない
【0039】
(試験片2)
外形寸法:300mm×1600mm×15mm(厚さ)
材質:無酸素銅
外周溝寸法:20mm(幅)×12mm(深さ)
外周溝位置:外周端から溝中心までの距離が30mm
【0040】
このシミュレーションを行った結果、試験片1および試験片2のZ軸方向への反り量について、図7および図8に示すような結果を得た。図7(a)は、試験片1に上記加圧をした際のY軸方向におけるZ軸方向の反り量、図7(b)は、試験片1に上記加圧をした際のX軸方向におけるZ軸方向の反り量を示す図である。図8(a)は、試験片2に上記加圧をした際のY軸方向におけるZ軸方向の反り量、図8(b)は、試験片2に上記加圧をした際のX軸方向におけるZ軸方向の反り量を示す図である。
【0041】
これによれば、試験片1の中央部における反り量は、図7(a)および図7(b)に示すように0.2mmであり、X軸方向およびY軸方向におけるそれぞれのZ軸方向の反り量の変化は、いずれも外周端から75mmの位置までほぼ直線状に反り量が大きくなっていくことが分かった。
【0042】
一方、試験片2の中央部における反り量は、図8(a)および図8(b)に示すように0.4mmであり、X軸方向およびY軸方向におけるそれぞれのZ軸方向の反り量の変化は、外周端から外周溝の中心位置(外周端から30mm)まで急激に大きくなり、外周溝の中心位置から中央部にかけてほぼ直線的に反り量が大きくなっていくことが分かった。
【0043】
また、外周溝によって取り囲まれた中央部を含む押圧面のZ軸方向への反り量(中央部を含む押圧面のターゲット側への変位d)の平均は0.34mm、最小の変位は0.28mm、最大の変位は0.40mmであり、そのばらつきは、プラスマイナス18%であった。このため、試験片2における押圧面のZ軸方向への変位は、上述した均一の変位の範囲の目安であるプラスマイナス20%の範囲に収まっており、押圧面の変位は均一な変位と言えることが分かった。
【0044】
以上のシミュレーションの結果により、外周溝のない冷却板(試験片1)よりも、外周溝が設けられた冷却板(試験片2)の方が、冷却板の中央部における変位を大きくすることができるので、ターゲットに対する加圧力を高められることが分かった。また、外周溝のない冷却板(試験片1)よりも、外周溝が設けられた冷却板(試験片2)の方が、外周端に近い部分での反り量、すなわちターゲット側への変位を大きくすることができるので、外周端に近い部分においてもターゲットに対する加圧力を高められることが分かった。この結果、冷却板に溝部を設けることにより、ターゲットに対する加圧力を向上させることができると共にターゲットに対する加圧力を均一化させることができることが証明された。
【0045】
以上に説明した上記実施形態の成膜装置1では、第1の面22aを真空雰囲気に曝し、第2の面22bを大気圧雰囲気に曝すことにより、冷却板22を低圧側である第1の面22a側に変位させている。さらに、第1の面22aの中央部22cを含む押圧面22dをターゲット25側に均一に変位させることにより、冷却板22にターゲット25の中央部を含む領域を押圧させている。これにより、ターゲット25と冷却板22とをクランプ27によって固定する場合に、ターゲット25と冷却板22との密着性を確保することが難しいターゲット25の中央部においても、その密着性が確保されるようになるので、ターゲット25に発生する熱を効率的に冷却板22に伝熱することができる。この結果、ターゲット25に投入する電力を高めることが可能となり、基板31に対する成膜の生産性を向上させることができる。
【0046】
以上、本発明を上記実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で以下のような様々な変形が可能である。
【0047】
上記実施形態の成膜装置1においては、図5に示すような、冷却板22の中央部22cを取り囲む溝部22fを設け、溝部22fに取り囲まれた押圧面22dをターゲット25側に均一に変位させる例を挙げて説明したがこれに限定されるものではない。例えば、図9に示すように、第2の面22bに長手方向に沿って2つの溝部41を形成してもよい。また、溝部41は、第1の面22bおよび第2の面22cの少なくとも一方に形成されていてもよい。この場合であっても、第1の面22bにおける中央部22cをターゲット25側に変位させてターゲット25を押圧させることができる。
【0048】
上記実施形態においては、冷却板22に形成された溝部22fが矩形に形成されている例を挙げて説明したがこれに限定されるものではない。例えば図10に示すように、溝部42は円弧状に形成されていてもよい。
【0049】
上記実施形態においては、第1の面22aを真空雰囲気に曝し、第2の面22bを大気圧雰囲気に曝すことにより、冷却板22を低圧側である第1の面22a側に変位させる例を挙げて説明したがこれに限定されるものではない。例えば第1の面22aおよび第2の面22bのそれぞれが曝される雰囲気を制御できるような構成とし、第2の面22bが第1の面22aよりも高圧の雰囲気に曝されるようにしてもよい。
【0050】
上記実施形態においては、冷却板22は、図3に示すような矩形に形成された例を挙げて説明したがこれに限定されるものではなく、例えば円形や楕円形や多角形等に形成されていてもよい。
【0051】
上記実施形態においては、グロー放電によって発生させたプラズマを利用する成膜装置1にターゲット装置2を適用した例を挙げて説明したがこれに限定されるものではない。例えば、高周波によって発生させたプラズマを利用する成膜装置や、ターゲットの裏面にマグネットを配置するマグネトロンスパッタリング成膜装置等、各種成膜装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1…成膜装置、2…ターゲット装置、3…基板ホルダ、10…真空容器、11…電源、12…排気機構、13…ガス導入機構、21…インシュレータ、22…冷却板、22b…第2の面、22a…第1の面、22c…中央部、22d…押圧面、22e…周縁部、22f,41,42…溝部、22g…配管、23…フランジ、24…グラファイトシート、25…ターゲット、27…クランプ、31…基板、d…変位量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜材料であるターゲットと当該ターゲットに接触して冷却する板状の冷却板とを備える成膜装置であって、
前記ターゲットと前記冷却板とはクランプによって固定され、
前記冷却板は、前記ターゲットと対向する面である第1の面とは反対側の面である第2の面が前記第1の面よりも高圧の雰囲気に曝されると共に、前記第1の面における中央部が前記ターゲット側に変位して前記ターゲットを押圧することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記冷却板は、前記第1の面および第2の面の少なくとも一方に溝部を有することを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記冷却板は、前記第1の面における中央部および前記第2の面における中央部の少なくとも一方を取り囲む環状の溝部を有することを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記冷却板は、前記第2の面が大気圧雰囲気に曝され、前記第1の面が真空雰囲気に曝されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記ターゲットと前記冷却板との間には、前記ターゲットと前記冷却板との互いの対向面に接触する熱伝導性薄膜部材が配置されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項6】
成膜材料であるターゲットと当該ターゲットに接触して冷却する板状の冷却板とを備えるターゲット装置であって、
前記ターゲットと前記冷却板とはクランプによって固定され、
前記冷却板は、前記ターゲットと対向する面である第1の面および前記第1の面とは反対側の面である第2の面の少なくとも一方に溝部を有することを特徴とするターゲット装置。
【請求項7】
前記冷却板は、前記第1の面における中央部および前記第2の面における中央部の少なくとも一方を取り囲む環状の溝部を有することを特徴とする請求項6に記載のターゲット装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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