説明

成膜装置

【課題】複雑な駆動制御構成としたり、設備を大きくすることなく、面積の大きな基板に対しても均一にミストを噴霧して、形成される膜の厚さを均一にすることを可能とした成膜装置を提供する。
【解決手段】本発明の成膜装置1は、スプレー熱分解法により被処理体2の一面上に薄膜を形成する成膜装置であって、前記被処理体を載置する支持手段11と、前記被処理体の一面に向けて、前記薄膜の原料溶液からなるミスト3を噴霧する吐出手段12と、を少なくとも備え、前記吐出手段が備えるノズル13は、エアー搬入側となる第一部位13aと、エアー搬出側となる第二部位13bとを有し、前記第二部位は、エアー搬出方向から見た吐出口13cの形状がスリット状であり、該第二部位の内部にミストを噴霧する第一導入手段とエアーを誘導する第二導入手段とを有し、両者は交互に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプレー熱分解法による成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スプレー熱分解法は、加熱された基板に向けて原料溶液を噴霧することにより、反応初期には基板表面に付着した液滴中の溶媒蒸発と、溶質の熱分解に続く加水分解反応、および熱酸化反応することにより結晶が形成する。反応が進むと基板上に形成した結晶(多結晶膜)上に液滴が付着、液滴中の溶媒の蒸発とともに溶質および下部の結晶間で結晶成長が進む、という一連の反応を応用した技術である。
【0003】
透明導電膜(酸化物透明導電膜:TCO:Transparent Conductive Oxide)は、絶縁体であるガラス表面にスズドープ酸化インジウム(ITO)や酸化スズ(TO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、酸化亜鉛(ZnO)などの半導体セラミックスの薄膜を形成することにより導電性を付与したガラスで、透明でかつ電気を流す性質を有する。これらの中で特にITOが透明導電膜として広く知られており、パソコン、テレビ、携帯電話などの液晶ディスプレイに応用されている。スプレー熱分解法は、成膜装置が簡易で原料も比較的安価なため低コストで透明導電膜等の形成が可能である。
【0004】
透明導電膜の出発原料には、金属無機塩の水溶液またはアルコール溶液、あるいは有機金属化合物や有機酸塩の有機溶剤系溶液等が用いられている。基板温度は出発原料、原料溶液によって異なるが、250〜700℃の範囲に設定される。
【0005】
スプレー熱分解法による従来の成膜装置を図10に示す。この成膜装置100は、基板110を載置する支持手段120と、原料溶液をスプレー状に噴霧する吐出手段130とを具備している。支持手段120は、載置された基板を所定の温度まで加熱する加熱手段を内蔵している(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
このような成膜装置において、例えば200cm角以上の大面積の基板に対し、均一にミストを噴霧するには、ミスト噴霧ノズルを多数本配置して駆動させる必要がある。
しかしながら、従来の円筒形ノズル(60φmm)でミストを噴霧する場合、ノズルを円形に駆動させるか、楕円形に駆動させると、ミストの噴霧量の分布が生じてしまう。この分布の影響を減ずるためには、さらに複雑な駆動制御を行う必要があった。
【特許文献1】特開平06−012446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて考案されたものであり、複雑な駆動制御構成としたり、設備を大きくすることなく、面積の大きな被処理体に対しても均一にミストを噴霧して、形成される膜の厚さを均一にすることを可能とした成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に記載の成膜装置は、スプレー熱分解法により被処理体の一面上に薄膜を形成する成膜装置であって、前記被処理体を載置する支持手段と、前記被処理体の一面に向けて、前記薄膜の原料溶液からなるミストを噴霧する吐出手段と、を少なくとも備え、前記吐出手段が備えるノズルは、エアー搬入側となる第一部位と、エアー搬出側となる第二部位とを有し、前記第二部位は、エアー搬出方向から見た形状がスリット状であり、該第二部位の内部にミストを噴霧する第一導入手段とエアーを誘導する第二導入手段とを有し、両者は交互に配置されていることを特徴とする。
本発明の請求項2に記載の成膜装置は、請求項1において、前記吐出手段は、前記第一導入手段として、異なる原料溶液からなるミストを噴霧する第一ノズルと第二ノズルとを、複数備え、前記第一ノズルと前記第二ノズルが交互に配されていることを特徴とする。
本発明の請求項3に記載の成膜装置は、請求項1において、前記吐出手段は、前記第一導入手段として、同一の原料溶液からなるミストを噴霧する第三ノズルと、前記第二導入手段として、エアーのみ誘導する第四ノズルとを、複数備え、前記第三ノズルと前記第四ノズルが交互に配されていることを特徴とする。
本発明の請求項4に記載の成膜装置は、請求項1において、前記吐出手段は、前記第一導入手段として、異なる原料溶液からなるミストを噴霧する第五ノズルと第六ノズル、及び、前記第二導入手段として、エアーのみ誘導する第七ノズルを、複数備え、前記第五ノズルと前記第六ノズルが交互に配されるとともに、前記第七ノズルに挟まれて配置されていることを特徴とする。
本発明の請求項5に記載の成膜装置は、請求項1乃至4のいずれか一項において、成膜時に、前記ノズルの先端を被処理体の一面に対し水平方向に移動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、前記吐出手段が備えるノズルは、スリット状をなす第二部位の内部にミストを噴霧する第一導入手段とエアーを誘導する第二導入手段とを有し、両者は交互に配置されているので、ノズルから被処理体へ向けて放出されるミストの分布が高度に均一化され、ひいては被処理体上に形成される膜厚分布の均一性をもたらす。しかも、前記ノズルは、簡易な構成であり、設備を大きくする必要もない。
【0010】
したがって、複雑な駆動制御構成を必要とせず、成膜装置の大型化も回避できるとともに、面積の大きな被処理体に対してもその全面に亘って均一にミストを噴霧して、形成される膜の厚さを均一にすることを可能とした成膜装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る成膜装置の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
<第一実施形態>
以下、本発明に係る成膜装置1の第一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1および図2は、本発明の成膜装置1A(1)を模式的に示す図であり、図1は正面図、図2は側面図である。
本発明の成膜装置1A(1)は、スプレー熱分解法により被処理体2上に薄膜を形成する成膜装置であって、前記被処理体2を載置する支持手段11と、前記被処理体2の一面の中心域に向けて、前記薄膜の原料溶液からなるミスト3を噴霧する吐出手段12と、を少なくとも備える。
【0013】
そして本発明の成膜装置1において、図3に示すように、前記吐出手段12が備えるノズル13は、エアー搬入側となる第一部位13aと、エアー搬出側となる第二部位13bとを有し、前記第二部位13bは、エアー搬出方向から見た形状がスリット状であり、該第二部位13bの内部にミスト3を噴霧する第一導入手段14とエアー4を誘導する第二導入手段15とを有し、両者は交互に配置されていることを特徴とする。
【0014】
吐出手段12が備えるノズル13の部分に第一導入手段14を複数取り付けミスト3を噴霧することにより、面積の大きな被処理体2に対してもその全面に亘ってミスト3を均一に噴霧することができる。また、第二導入手段15からは溶液を噴霧せず、エアー4のみ噴霧することにより、ノズル13からのミスト噴霧状態を調整することが可能となる。
【0015】
その結果、ノズル13から被処理体2へ向けて放出されるミスト3の分布が高度に均一化され、ひいては被処理体2上に形成される膜厚分布の均一性をもたらす。しかも、上記ノズル13は、簡易な構成であり、設備を大きくする必要もない。
【0016】
したがって、複雑な駆動制御構成を必要とせず、成膜装置の大型化も回避できるとともに、面積の大きな被処理体2に対してもその全面に亘って均一にミスト3を噴霧して、形成される膜の厚さを均一にすることを可能とした成膜装置1を提供することができる。
【0017】
支持手段11は、被処理体2の被成膜面を所定の温度に保ちながら薄膜を形成するため、被処理体2の加熱・保持・冷却機能を備えた温度制御手段を内蔵している。温度制御手段は、例えばヒータである。
【0018】
吐出手段12は、ミスト3を、成膜室10の空間に配置された被処理体2上に吹き付けるものである。吐出手段12は、ノズル13を備える。そして吐出手段12から噴霧する原料溶液は、ミスト3(液状微粒子)とされている。
【0019】
前記ノズル13は、その吐出口13cを前記被処理体2の一面の中心付近で、その上方近傍に配置される。吐出口13cからは、流速100〜100,000cm/分でミスト3が噴霧される。また、吐出口13cと被処理体2表面間の距離は、5〜200mmで制御されている。
【0020】
図3に示すように、前記ノズル13は、エアー搬入側となる第一部位13aと、エアー搬出側となる第二部位13bとを有する。
前記第一部位13aは、円筒形状であり、第二部位13bはエアー搬出方向から見た形状がスリット状である。吐出口13cとなる第二部位13bをスリット形状にすることにより、大面積の被処理体2に対してもミスト3を均一に噴霧して、膜を均一に形成することが可能になる。
【0021】
そして、この第二部位13bの内部に、ミスト3を噴霧する第一導入手段14とエアー4を誘導する第二導入手段15とを有し、両者は交互に配置されている。
第一導入手段14は、例えば、原料溶液のミスト3を生成するミスト発生スプレーである。
これら第一導入手段14および第二導入手段15の数や配置は特に限定されるものではないが、例えば、図3に示す例では、第一導入手段14を4本と、第二導入手段15を7本と、を備える。そして、第一導入手段14と第二導入手段15とは交互に配置されており、さらに両端に第二導入手段15が配されている。
【0022】
さらに、図2に示すように、本実施形態に係る成膜装置1A(1)は、前記吐出手段12において、前記第一導入手段として、異なる原料溶液からなるミスト3を噴霧する第一ノズル13A(13)と第二ノズル13B(13)とを、複数備え、前記第一ノズル13Aと前記第二ノズル13Bが交互に配されている。
【0023】
ノズル13の数や配置は特に限定されるものではないが、図2に示す例では、成膜装置1A(1)は、このようなノズル13を4本備え、該ノズル13が均等に間隔を開けて配されている。具体的には、原料溶液αと原料溶液βを用いて成膜する場合、原料溶液αからなるミストを噴霧する第一ノズル13Aを2本と、原料溶液βからなるミストを噴霧する第二ノズル13Bを2本とを備え、これら第一ノズル13Aと第二ノズル13Bとが交互に配されてなる。
【0024】
吐出手段12において、異なる原料溶液からなるミスト3を噴霧する第一ノズル13Aと第二ノズル13Bとを、複数備え、前記第一ノズル13Aと前記第二ノズル13Bを交互に配してミストを噴霧することにより、同時に複数の原料溶液からなるミストを均一に噴霧することができる。
【0025】
また、前記第一ノズル13A及び前記第二ノズル13Bにおいて、第二導入手段15からは溶液(ミスト3)を噴霧せず、エアー4のみ噴霧することにより、第一導入手段14からのミスト噴霧状態を調整することが可能となる。
その結果、ノズル13から被処理体2へ向けて放出されるミスト3の分布が高度に均一化され、ひいては被処理体2上に形成される膜厚分布の均一性をもたらす。
【0026】
また、成膜時において、前記ノズル13の先端を被処理体2の一面に対し水平方向に移動させる。ノズル13を移動させることで大面積の被処理体2に対しても膜を均一に形成することができる。
このとき、ノズル13の水平方向の移動を往復運動とすることで、より大面積の被処理体2に対する成膜が可能となるが、図4に示すように、噴霧量の分布が駆動の折り返し部(ターン部)に集中する傾向がある。これは折り返しの際のノズル制御に起因している。すなわち、ノズル13の折り返し制御に入る段階で、ノズル移動速度が遅くなるため、その領域での噴霧量が多くなってしまう。
【0027】
そこで、折り返し部におけるミスト噴霧量の集中を避けるため、折り返し制御に入る段階で、ノズル移動速度が遅くなるのに比例して、ノズル13の噴霧高さを制御した。
すなわち、成膜装置1では、前記ノズル13の水平方向の移動が往復運動である場合、図5に示すように、折り返し部の近傍において、前記ノズル13を被処理体2の一面に対し離隔する方向に移動させる。
【0028】
往復運動の折り返し部となる被処理体2の端部において、被処理体2の一面に対するノズル13の高さを高くして成膜を行うことで、ミスト噴霧量を被処理体2の全面に亘って均一化することができる。これにより形成される薄膜の膜厚のばらつきを小さくすることができる。
なお、実際には、吐出手段12が備える複数のノズル13を移動させるが、図4および図5では、ノズル13を1本のみ示している。
【0029】
また、被処理体2と前記吐出手段12とを含む空間は、フード16により包み込まれていることが好ましい。
フード16は、ステンレススチール等の耐食性金属により構成されている。
【0030】
成膜装置1では、フード16が吐出手段12と対向する位置に配される被処理体2との間の空間を包み込むように配置されているので、吐出手段12(ノズル13)の吐出口13cからスプレー状に噴射された原料溶液は外気の影響を受けることなく、吐出口13cから被処理体2に向かう放射状空間に噴霧された状態を安定に保つことができる。換言すると、フード16はその内部空間から装置への外部へ原料溶液が飛散し、無駄な使用量が増加するのも防ぐ働きもする、これにより、原料溶液は薄膜の形成に有効に使われる。
【0031】
また、吐出手段12と被処理体2との間を包み込むようにフード16が配置されているので、成膜時に、被処理体2からの放熱を抑制することができる。その結果、被処理体2の加熱に要する熱量を低減することが可能となり、被処理体2の表面温度の制御性が向上した。
【0032】
さらに、被処理体2は、上述した温度制御手段により、その裏面側から本体を通して表面が加熱されており、例えば200〜600℃の温度範囲に制御されている。その際、被処理体2は、支持手段11に内蔵された温度制御手段(不図示)からの伝熱の他に、被処理体2の表面側からの加熱法を採用してもよい。表面側からの加熱法としては、例えば、成膜室10内の上部空間に設けられたランプヒータ等(不図示)による被処理体2の表面への熱線照射や、被処理体2の表面に対する高温流(不図示)の照射あるいは暴露、等が挙げられる。
【0033】
次に、この成膜装置1を用いてスプレー熱分解法により被処理体2上に薄膜を形成する方法について説明する。
なお、以下の説明では、本発明の成膜装置1を用いて、被処理体2である基板上に、透明導電膜としてFTO膜を形成する場合を例に挙げて説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、様々な薄膜を形成するのに用いることができる。
【0034】
まず、表面が清浄面とされた基板を台板上に載置し、この基板を台板ごと所定の位置に保持する。
基板としては、例えば、ソーダガラス、耐熱ガラス、石英ガラスなどのガラスからなる厚さが0.3〜5mm程度のガラス板が好適に用いられる。
基板表面温度が所定の温度に到達し、安定したら、FTO膜の成膜を開始する。
【0035】
第一導入手段14(ミスト発生スプレー)によって、原料溶液のミスト3が生成され、基板上に向かって噴霧される。
ここで例えば図1及び図2に示す成膜装置1A(1)では、第一ノズル13Aから、塩化第二スズ・五水和物(SnCl4・5HO)水溶液(原料溶液α)からなるミストを、第二ノズル13Bから、フッ化アンモニウム(NHF)水溶液(原料溶液β)からなるミストを、それぞれ噴霧する。
【0036】
基板上に向かって噴霧されたミスト3が所定の温度に加熱された基板の表面に付着することにより、ミスト3中の溶媒が急速に蒸発するともに残った溶質が急速に化学反応してFTO等の導電性金属酸化物に変化する。これにより、基板の表面に導電性金属酸化物からなる結晶が速やかに生成し、短時間の間に透明導電膜(FTO膜)を形成することとなる。
【0037】
さらに、ノズル13を基板の一面に対し水平方向に移動させる。また、このノズル13の水平方向の移動が往復運動である場合、折り返し部の近傍において、前記ノズル13を基板の一面に対し離隔する方向に移動させる。
FTO膜の成膜が終了したら、基板温度が所定の温度になるまで冷却し、基板を取り出す。
以上のようにして、基板上にFTO膜からなる透明導電膜が形成される。
【0038】
この成膜装置1では、吐出手段12が備えるノズル13の部分に第一導入手段14を複数個取り付けミスト3を噴霧することにより、面積の大きな被処理体2に対してもその全面に亘ってミスト3を均一に噴霧することができる。また、第二導入手段15からは溶液(ミスト3)を噴霧せず、エアー4のみ噴霧することにより、ノズル13からのミスト噴霧状態を調整することが可能となる。これにより被処理体2の全面に亘ってミスト噴霧量を均一化し、成膜速度を向上することが可能となる。
【0039】
さらに、吐出手段12において、異なる原料溶液からなるミストを噴霧する第一ノズル13Aと第二ノズル13Bとを、複数備え、前記第一ノズル13Aと前記第二ノズル13Bを交互に配してミストを噴霧することにより、同時に複数の原料溶液からなるミストを均一に噴霧することができる。
【0040】
さらに、ノズル13を被処理体2の一面に対し水平方向に移動させる。このノズル13の水平方向の移動が往復運動である場合、折り返し部の近傍において、前記ノズル13を被処理体2の一面に対し離隔する方向に移動させる。これにより、ミスト噴霧量を被処理体2の全面に亘って均一化することができる。
【0041】
その結果、このようにして得られる透明導電膜は、膜厚分布のばらつきが抑制されたものとなり、例えば導電性等の薄膜特性の面内均一性が確保されたものとなる。また、異物混入が抑制され、これにより特性に優れた高品質のものとなる。
【0042】
<第二実施形態>
以下、本発明に係る成膜装置1の第二実施形態を図面に基づいて説明する。
図6は、本実施形態に係る成膜装置1B(1)の一例を示す側面図である。なお、本実施形態では、上述した第一実施形態との相違点を中心に述べ、同様の部分についてはその説明を省略する。
【0043】
本実施形態に係る成膜装置1B(1)は、前記吐出手段12において、前記第一導入手段として、同一の原料溶液からなるミスト3を噴霧する第三ノズル13C(13)と、前記第二導入手段として、エアー4のみ誘導する第四ノズル13D(13)とを、複数備え、前記第三ノズル13Cと前記第四ノズル13Dが交互に配されている。
【0044】
ノズル13の数や配置は特に限定されるものではないが、図6示す例では、成膜装置1は、ノズル13を4本備え、該ノズル13が均等に間隔を開けて配されている。具体的には、一種類の原料溶液γを用いて成膜する場合、同一の原料溶液γからなるミスト3を噴霧する第三ノズル13Cを2本と、エアー4のみ誘導する第四ノズル13Dを2本と、が交互に配されてなる。
【0045】
吐出手段12において、同一の原料溶液からなるミスト3を噴霧する第三ノズル13Cを取り付けミスト3を噴霧することにより、ミスト3を均一に噴霧することができる。また、第三ノズル13Cと交互に配された第四ノズル13Dからはミスト3を噴霧せず、エアー4のみ噴霧することにより、第三ノズル13Cからのミスト噴霧状態を調整することが可能となる。
【0046】
その結果、ノズル13から被処理体2へ向けて放出されるミスト3の分布が高度に均一化され、ひいては被処理体2上に形成される膜厚分布の均一性をもたらす。しかも、ノズル13は、簡易な構成であり、設備を大きくする必要もない。
したがって、複雑な駆動制御構成を必要とせず、成膜装置の大型化も回避できるとともに、面積の大きな被処理体2に対してもその全面に亘って均一にミスト3を噴霧して、形成される膜の厚さを均一にすることを可能とした成膜装置を提供することができる。
【0047】
<第三実施形態>
以下、本発明に係る成膜装置1の第三実施形態を図面に基づいて説明する。
図7は、本実施形態に係る成膜装置1の一例を示す側面図である。なお、本実施形態では、上述した第一実施形態との相違点を中心に述べ、同様の部分についてはその説明を省略する。
【0048】
本実施形態に係る成膜装置1C(1)は、前記吐出手段12は、前記第一導入手段として、異なる原料溶液からなるミスト3を噴霧する第五ノズル13E(13)と第六ノズル13F(13)、及び、前記第二導入手段として、エアー4のみ誘導する第七ノズル13G(13)を複数備え、前記第五ノズル13Eと前記第六ノズル13Fが交互に配されるとともに、前記第七ノズル13Gに挟まれて配置されている。
【0049】
ノズル13の数や配置は特に限定されるものではないが、図7に示す例では、成膜装置1C(1)は、ノズル13を4本備え、該ノズル13が均等に間隔を開けて配されている。具体的には、原料溶液αと原料溶液βを用いて成膜する場合、原料溶液αからなるミスト3を噴霧する第五ノズル13Eと、原料溶液βからなるミスト3を噴霧する第六ノズル13F、及び、エアー4のみ誘導する第七ノズル13Gを2本、を備え、前記第五ノズル13Eと前記第六ノズル13Fが交互に配されるとともに、前記第七ノズル13Gに挟まれて配置されている。
【0050】
吐出手段12において、異なる原料溶液からなるミスト3を噴霧する第五ノズル13Eと第六ノズル13Fとを、複数備え、前記第五ノズル13Eと前記第六ノズル13Fを交互に配してミスト3を噴霧することにより、同時に複数の原料溶液からなるミスト3を均一に噴霧することができる。
また、第五ノズル13Eと第六ノズル13Fの両脇に配された第七ノズル13Gからはミスト3を噴霧せず、エアー4のみ噴霧することにより、第五ノズル13E及び第六ノズル13Fからのミスト噴霧状態を調整することが可能となる。
【0051】
その結果、ノズル13から被処理体2へ向けて放出されるミスト3の分布が高度に均一化され、ひいては被処理体2上に形成される膜厚分布の均一性をもたらす。しかも、ノズル13は、簡易な構成であり、設備を大きくする必要もない。
したがって、複雑な駆動制御構成を必要とせず、成膜装置の大型化も回避できるとともに、面積の大きな被処理体2に対してもその全面に亘って均一にミスト3を噴霧して、形成される膜の厚さを均一にすることを可能とした成膜装置を提供することができる。
【0052】
以上、本発明の成膜装置について説明してきたが、本発明は上記の例に限定されるものではなく、必要に応じて適宜変更が可能である。
【実施例】
【0053】
次に、本発明の実施例について説明する。これらの実施例は、本発明をより理解するために具体的になされたものであり、本発明は、これらの実施例に限定されない。
上述したような本発明の成膜装置を用いて、基板上に透明導電膜としてFTO膜を形成した。
【0054】
まず、以下のようにして、原料溶液を調製した。
<FTO原料溶液の調製>
塩化第二スズ・五水和物(SnCl・5HO)の0.6mol/l水溶液を調製し、原料溶液αとした。また、フッ化アンモニウム(NHF )の1.6mol/l水溶液を調製し、原料溶液βとした。
また、塩化第二スズ・五水和物の0.3mo1/l水溶液と、フッ化アンモニウムの0.8mol/l水溶液をそれぞれ調製し、混合して原料溶液γとした。
【0055】
(実施例1)
<FTO成膜>
500mm×500mm×2mmの硼珪酸ガラス基板(TEMPAX#8330)を支持台上に設置し、室温から300〜450℃の表面温度に達するまで加熱した。なお、加熱方法は、ガラス基板の下部に配された加熱基板からの伝熱に加えて、フード上部に配された赤外線ランプからの熱線照射によるものとした。
基板表面温度が安定したことを確認してから、FTO成膜を開始した。
【0056】
成膜には、図1及び図2に示すような成膜装置を用いて行った。
この成膜装置において、吐出手段が備えるノズルは、エアー搬入側となる第一部位と、エアー搬出側となる第二部位とを有し、前記第二部位は、エアー搬出方向から見た形状がスリット状であり、出ロサイズが7×270mmであった。
【0057】
図1及び図2に示す成膜装置の吐出手段において、第一ノズルから上記原料溶液αからなるミストを、第二ノズルから上記原料溶液βからなるミストを、それぞれ噴霧した。ミストの粒径は0.1〜100μmである。このとき、ノズル出口におけるミストの温度は40℃であり、ノズル出口におけるミストの流速は、22500cm/分であった。
また、500mm角成膜を実現するため、噴霧ノズルとガラス間距離は20mmとし、図8に示すように、ノズル側でX方向に±600mm、基板側でY方向に±150mmずつ揺動させることで噴霧濃度の偏りを防いだ。FTO成膜に要した時間は15分であった。
【0058】
(実施例2)
図6に示す成膜装置及び上記原料溶液γを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてFTOを成膜した。
すなわち、図6に示す成膜装置の吐出手段において、第三ノズルから原料溶液γからなるミストを噴霧した。また、第三ノズルと交互に配された第四ノズルからはミストを噴霧せず、エアーのみ噴霧した。
【0059】
(実施例3)
図7に示す成膜装置を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてFTOを成膜した。
すなわち、図7に示す成膜装置の吐出手段において、第五ノズルから上記原料溶液αからなるミストを、第六ノズルから上記原料溶液βからなるミストを、それぞれ噴霧した。
また、第五ノズルと第六ノズルの両脇に配された第七ノズルからはミストを噴霧せず、エアーのみ噴霧した。
【0060】
(比較例1)
図9に示す成膜装置及び上記原料溶液γを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてFTOを成膜した。
すなわち、この成膜装置は、予め原料溶液を噴霧することにより前記ミスト3を生成する調整室20と、前記ミスト3を前記調整室20から吐出手段まで移動させる空間からなる搬送手段21とをさらに備えている。
調整室20では、上記の第一導入手段(ミスト発生スプレー)とは異なる噴霧手段により原料溶液γを予備噴霧し、ミストとする。このミストを搬送手段21によって誘導しながら吐出手段12まで搬送し、ミストを噴霧した。
【0061】
実施例および比較例でFTO膜が形成された基板の特性比較を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1から、比較例に比べて各実施例の場合は、基板面に吹き付けたミストの噴霧量の内面分布が改善されることにより、作製されたFTO膜の膜厚分布を狭めることができる。そのため、各実施例では、シート抵抗分布や透過率分布の小さなFTO膜を形成できる。
この結果から、本発明に係る成膜装置は、複雑な駆動制御構成としたり、設備を大きくすることなく、面積の大きな被処理体に対しても均一にミストを噴霧して、形成される膜の厚さを均―化を図れることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、スプレー熱分解法により透明導電膜等の薄膜を形成する成膜装置に適用可能であり、大面積の透明導電膜を必要とする分野、たとえば液晶表示装置やEL表示装置などの分野に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の成膜装置の一例を模式的に示す正面図である。
【図2】図1に示す成膜装置の側面図である。
【図3】図1に示す成膜装置において吐出手段が備えるノズルを抜き出して示す図である。
【図4】ノズルの駆動とミスト噴霧量分布を示す図である。
【図5】ノズルの駆動とミスト噴霧量分布を示す図である。
【図6】本発明の成膜装置の他の一例を模式的に示す側面図である。
【図7】本発明の成膜装置の他の一例を模式的に示す側面図である。
【図8】ノズルの配置と駆動を示す図である。
【図9】比較例で用いた成膜装置の一例を模式的に示す図である。
【図10】従来の成膜装置の一例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0066】
1A,1B,1C(1) 成膜装置、2 被処理体、3 ミスト、4 エアー、10 成膜室、11 支持手段、12 吐出手段、13 ノズル、13a 第一部位、13b 第二部位、13c 吐出口、14 第一導入手段、15 第二導入手段、16 フード。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプレー熱分解法により被処理体の一面上に薄膜を形成する成膜装置であって、
前記被処理体を載置する支持手段と、
前記被処理体の一面に向けて、前記薄膜の原料溶液からなるミストを噴霧する吐出手段と、を少なくとも備え、
前記吐出手段が備えるノズルは、エアー搬入側となる第一部位と、エアー搬出側となる第二部位とを有し、
前記第二部位は、エアー搬出方向から見た形状がスリット状であり、該第二部位の内部にミストを噴霧する第一導入手段とエアーを誘導する第二導入手段とを有し、両者は交互に配置されていることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記吐出手段は、前記第一導入手段として、異なる原料溶液からなるミストを噴霧する第一ノズルと第二ノズルとを、複数備え、前記第一ノズルと前記第二ノズルが交互に配されていることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記吐出手段は、前記第一導入手段として、同一の原料溶液からなるミストを噴霧する第三ノズルと、前記第二導入手段として、エアーのみ誘導する第四ノズルとを、複数備え、前記第三ノズルと前記第四ノズルが交互に配されていることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記吐出手段は、前記第一導入手段として、異なる原料溶液からなるミストを噴霧する第五ノズルと第六ノズル、及び、前記第二導入手段として、エアーのみ誘導する第七ノズルを、複数備え、前記第五ノズルと前記第六ノズルが交互に配されるとともに、前記第七ノズルに挟まれて配置されていることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項5】
成膜時に、前記ノズルの先端を被処理体の一面に対し水平方向に移動させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−229536(P2008−229536A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74393(P2007−74393)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】