説明

成膜装置

【課題】成膜工程において微細な粉末が発生し得る成膜装置において、成膜室内の粉末の付着を抑制する成膜装置を提供する。
【解決手段】基板保持具22上に載置された基板21の表面に対して成膜材料を吹き出すノズルを備えた成膜室1を有し、成膜室内の粉末が付着する部分を選択的に加熱する加熱手段を設け、また基板21の表面に存在する段差について、基板21から段差が立ち上がる点を中心とし、段差の高さまでの段差端部と、段差が立ち上がる点から段差の高さとほぼ同じ距離離れるまでの基板21の表面の範囲を選択的に加熱する加熱手段30を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧雰囲気あるいは真空中で、成膜過程において成膜室中に微細な粉末が存在する成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、緻密かつ高い透明度、高強度、高密着力のセラミックス被膜を常温で形成する薄膜の形成方法として、エアロゾルデポジション法(以下、AD法と呼ぶ。)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
このAD法は、減圧雰囲気中に、高速排気をしながら、主として数マイクロメーターからサブマイクロメーターの径を持つ微細な粉末を基板にあたる部材に吹き付けて基板上に成膜する技術である。このAD法では、成膜中及び成膜後に成膜室内に漂う多量の微細な粉末が、内壁面や基板ホルダーなどの成膜装置の内部の表面及び成膜された基板にあたる部材に付着する。
AD法は、通常、真空中で行われるので、成膜室は、エアロゾルを供給するエアロゾル供給手段や信号授受の配線や真空排気系を含め、全体が大気とは完全に遮断されており、成膜室内部に漂う粉末は大気中に漏れ出すことはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−152361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、成膜対象である基板にあたる部材を成膜装置の内外に出し入れするときや、事故や装置メンテナンスの際には、成膜室の扉を開ける必要があり、このときに成膜室の内部に漂う微細な粉末が成膜室外の大気中に漂い出すことがある。この漂い出す粉末の最大の供給源は、成膜処理中に成膜室内部や成膜基板あるいは成膜された膜に付着、堆積していた粉末である。
エアロゾルデポジションは微細な粉末を基板に吹きつけて成膜する技術であるから、成膜中には成膜室内は微細な粉末が多数飛び回っている状態となる。これらの粉末の一部は真空ポンプに吸い込まれるが、残りは成膜室内壁や成膜室内機器の表面に付着したり、成膜室底部に堆積したり、基板や成膜された膜に付着する。
【0005】
ところで、成膜室を開けるためには、成膜室をベントしなければならず、ベントの際の気流によって成膜室内や成膜基板あるいは成膜された膜に付着、堆積していた粉末が吹き上げられ漂うことになり、この漂う粉末は真空ポンプによって排出されることはないので長時間成膜室内で漂い続けることになる。その一部は成膜基板上に付着する。また、この漂っている粉末が成膜室扉を開けたときに漂い出す。
さらに、成膜基板あるいは成膜された膜に付着、堆積していた粉末は、成膜室から取り出され、次行程の処理に回される間も移動による振動や風によって微細な粉末をまき散らす。
【0006】
そのため、エアロゾルデポジション装置(以下、AD装置と呼ぶ。)の周辺においては、肉眼では見えない微細な粉末が漂うことになる。漂っている粉末の中でも大きめの粉末は時間の経過と共に周囲の床や装置の上に降り積もるが、直径がサブミクロンの粉末は空気中に数日から数週間漂う。また、人間の移動や装置の稼働に伴う振動や風によって、降り積もった粉末がまた舞い上がることもある。
このように、AD装置の周囲には、常時、微細な粉末が漂っているので、微細な塵埃等の存在を許さない半導体製造装置と共存して使用することは困難であると考えられてきた。
【0007】
一方、AD法で使う粉末は、主として数マイクロメーターからサブマイクロメーターの径を持つ微細な粉末であるが、これが成膜装置周辺の空気中に漂っているものは、空気中に漂うPM(Particulate Matter)2.5と呼ばれる直径2.5μm以下の粒子と定義上ほぼ同じものである。PM2.5の粒子は、のどや気管のべん毛など粒子を取り除く機構もすり抜けて直接肺の内胞に沈着し、健康被害を引き起こすとされる。したがって、AD装置の周囲に漂う微細な粉末は、AD装置の周囲で働く人間の健康に対して悪影響を及ぼす可能性がある。AD装置の作業者は通常マスクによって防護しているが、マスクを必要とする作業環境は労働安全衛生上好ましいものではない。
【0008】
そこで、本発明は上記の問題点に着目してなされたものであり、その目的は、成膜工程において微細な粉末が発生し得る成膜装置において、成膜室内壁や成膜基板あるいは成膜された膜あるいは成膜室内にある補機類の表面に付着、堆積する粉末量を低減させる成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の請求項1に係る成膜装置は、基板保持具上に載置された基板の表面に対して成膜材料を吹き出すノズルを備えた成膜室を有する成膜装置であって、
前記基板の表面に段差が存在し、該基板の表面から前記段差が立ち上がる点を中心とし、前記段差の高さまでの段差端部と、前記段差が立ち上がる点から前記段差の高さとほぼ同じ距離離れるまでの前記基板の表面の範囲と、前記成膜室の内壁表面と、前記成膜室内に設置された補機の表面との少なくともいずれかを選択的に加熱する加熱手段を設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る成膜装置によれば、成膜室内壁やAD法によって成膜された膜や基板あるいは成膜室内にある補機類の表面に対する粉末の付着量を低減させて、当該膜あるいは部材をAD装置から取り出して取り扱う際に、成膜室からの粉末の漂い出しや成膜された膜あるいは部材から飛散する粉末量を低減させることにより、AD装置の周囲に漂う微細な粉末を無くして、AD装置を微細なほこりの存在を許さない半導体製造装置とともに使用できるようになる。これにより、AD法によって成膜されたセラミックス膜を絶縁膜、光学回路などに用いて集積回路に組み込むことが可能となる。
【0011】
また、AD装置の周囲に漂う微細な粉末をなくすことにより、労働安全衛生上の懸念をなくすことにも寄与する。
さらに、膜や基板に付着する粉末量を減少させることにより、成膜された膜や基板にあたる部材を次処理行程に投入する前に必要とされる成膜部材の洗浄工程を省略したり、洗浄工程を簡易化したりすることが可能となるので、行程短縮やコスト削減ができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る成膜装置の一実施形態の構成を示す概略図である。
【図2】本発明に係る成膜装置の一実施形態における成膜中の成膜室内の微細な粉末の主要な流れの様子を示す概略図である。
【図3】従来において粉末塊が基板上に形成される状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る成膜装置の一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明に係る成膜装置の一実施形態における構成を示す概略図である。図2は、本発明に係る成膜装置の一実施形態における成膜中の成膜室内の微細な粉末の主要な流れの様子を示す概略図である。
<構成>
図1に示すように、成膜装置1は、成膜対象となる基板21(図2参照)を収容する成膜室2と、成膜用真空ポンプ3と、ベントバルブ4と、メインバルブ5とを有する。また、成膜室2は、基板21を成膜室2の内外へ出し入れするための扉2aを備えている。
【0014】
メインバルブ5は、成膜室2と成膜用真空ポンプ3との間に配設され、成膜室2に設けられた排気口2cを介して該排気口2cの開閉を決定する。具体的には、成膜室2とメインバルブ5とが配管11によって連結され、成膜用真空ポンプ3とメインバルブ5とが配管12によって連結される。配管11及び配管12によって連結された成膜室2の内部は、メインバルブ5の開により成膜室2の真空引きが開始される。
また、ベントバルブ4は、成膜室2内を大気圧状態に戻す(いわゆるベントする)ためにベントガスの導入量を調節するために成膜室2に配設される。具体的には、成膜室2とベントバルブ4の一方とが配管13によって連結され、ベントバルブ4の他方は大気圧に開放されている。
【0015】
図2に示すように、成膜室2内には、エアロゾルを供給するエアロゾル供給チューブ6と、該エアロゾル供給チューブ6の先端部に設置されたノズル7と、該ノズル7を保持し、その駆動を制御するノズル駆動機構(図示せず)とが設けられている。また、成膜室2内には、基板21を載置する基板保持具22及び該基板保持具22を載置するテーブル23が設けられている。ノズル7は、その吹き出し口が基板保持具22に載置された基板21の表面21aにエアロゾルを吹きつけるように設置される。すなわち、ノズル7は、その吹き出し口が基板21の表面(成膜面)21aに向けられて設置されている。排気口2cは、成膜室2の少なくとも1つの側壁2dに1つ以上設けられる。
【0016】
AD法においては、ノズル7からガス流に乗って吹き出された微細な粉末の内、一部は基板21上の膜となって成膜に寄与するが、成膜に寄与しなかった残りの粉末は微細な粉末の流れ50となって流れ、成膜室2内壁にぶつかると、その一部が内壁に付着する。その後、付着しなかった粉末は成膜室2内に漂ったり、成膜室2底面に堆積したり、排気口2c側に吸い込まれる。
【0017】
成膜の基板21上には別のメカニズムでの粉末の付着が起きる。図3は従来において粉末塊が基板上に形成される状態を示す概略図である。図3に示すように、基板21表面上に設計上不可避な段差120が存在する場合、粉末流50の一部がせき止められる形になり、段差120と基板21とで構成される角に粉末が付着して粉末塊110が形成される。基板表面21aは、平らであれば微細な粉末の流れ50がクリーニング効果を持つので、成膜中には粉末は堆積しないが、このようにして形成された粉末塊110は基板21の表面に沿って流れる粉末流50によっても除去されることは難しい。
【0018】
そこで、本実施形態では、熱泳動効果を用いて成膜室2内壁や成膜基板あるいは成膜された膜における微粒子の付着を防止する構成を有する。
本発明者らは、成膜室の内部に設置された照明用電球自体あるいはその近傍には、エアロゾル中の微粒子の付着が殆ど見られないことから、成膜室内壁や成膜基板上の突起や段差における微粒子の付着防止に熱泳動効果を用いることを知見した。熱泳動効果は、照明用電球等からの赤外線により加熱された成膜室の壁表面等が、微粒子を搬送するエアロゾル流の気体温度より高くなり、エアロゾル中のガスとの間に温度差が生じた結果、エアロゾル中のガスに圧力勾配が生じ、微粒子が温度の高いところから低いところに移動する現象である。
【0019】
従って、この熱泳動効果を用いて、エアロゾル中の微粒子が成膜室の内壁あるいは基板の表面あるいは成膜室内の補機類の表面に付着することを防ぐことが可能となる。
特に、このような熱泳動効果を用いた基板への微粒子の付着防止は、段差の形成が止むを得ない箇所において、気流が乱れる部位への微粒子の付着低減を図る場合に効果的で、このような段差部位だけを選択的に加熱する加熱手段を設けることで、確実に微粒子の付着をなくすことが可能になる。
【0020】
すなわち、赤外線ランプなどの光照射源を成膜室内に設け、あるいは、成膜室外に光照射源を設けるとともに、当該波長の光を透過する窓を成膜室壁に設ける。光照射源からの光を集光し、微粒子の付着を防ぎたい部位に照射して加熱する。また、別の装置としては、成膜室内壁の外側や成膜基板の裏側や中に設けた穴などにヒーターを接触させ、微粒子の付着を防ぎたい部位を直接加熱してもよい。また、より効率的に付着を防ぐには、エアロゾルの通過経路中に冷却装置を設けて、エアロゾル中の搬送ガスの温度を低温化し、加熱部位との温度差をより大きくしてもよい。
【0021】
このエアロゾル中の微粒子の成膜室2の内壁や基板への付着を防ぐのに必要な温度差(ΔT)は、50℃〜500℃が好ましく、100℃〜350℃がより好ましい。エアロゾルの温度が上昇すると温度差が縮小するので、エアロゾルは滞留せずに流れるようにすることが望ましい。
加熱すべき部分は、成膜室内壁あるいは成膜室内の補機類の表面については、室内の補機や排気口などの配置により粉末の付着する位置が変わるので、実際に成膜して粉末の付着する位置を見いだして決定するのが好ましい。もちろん、粉末付着の可能性の低いところを加熱しても、粉末付着の低減という目的に対して害はない。したがって、加熱部分を厳密に特定することは必要ではなく、加熱すべき部分を含む広めの範囲を加熱すればよい。
【0022】
基板上で加熱すべき部分は、成膜基板上でエアロゾルの気流が乱れ、粉末が付着する部分である。従って、図3において示す付着した粉末(粉末塊)110が基板21の表面21aおよび段差に接する部分(設計上不可避な基板21の表面21a上の段差120)を加熱することができる基板21上の位置(例えば裏面21b)に加熱手段30が設けられる。すなわち、基板21から段差が立ち上がる点を中心とし、段差の高さまでの段差端部と、段差が立ち上がる点から段差の高さとほぼ同じ距離離れるまでの基板21の表面21aの範囲である。もちろん、成膜室内壁の場合と同様に、加熱部分を厳密に特定することは必要ではなく、上述の加熱すべき部分を含む広めの範囲を加熱すればよい。
【0023】
このように、本実施形態によれば、段差部位だけを選択加熱する加熱手段を設けることで、設計上基板表面の段差が不可避で、気流が乱れる部位への微粒子の付着を低減させることができる。
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、以上の実施形態は、それぞれ単独に実施することも、あるいは組み合わせて実施することも可能であり、全てを実施すれば、成膜室内壁や成膜基板および膜を含む成膜室内への粉末付着を最も少なくできる。また、本発明はこれに限定されずに、種々の変更、改良を行うことができる。
【符号の説明】
【0024】
1 成膜装置
2 成膜室
2a 扉
2b 排気口
2c 排気口
3 成膜用真空ポンプ(減圧手段)
4 ベントバルブ
5 メインバルブ
6 エアロゾル供給チューブ
7 ノズル
11 配管
12 配管
13 配管
21 基板
21a 基板の表面
21b 基板の裏面
22 基板保持具
23 テーブル
30 加熱手段
50 微細な粉末の流れ
110 付着した粉末(粉末塊)
120 設計上不可避な基板表面上の段差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板保持具上に載置された基板の表面に対して成膜材料を吹き出すノズルを備えた成膜室を有する成膜装置であって、
前記基板の表面に段差が存在し、該基板の表面から前記段差が立ち上がる点を中心とし、前記段差の高さまでの段差端部と、前記段差が立ち上がる点から前記段差の高さとほぼ同じ距離離れるまでの前記基板の表面の範囲と、前記成膜室の内壁表面と、前記成膜室内に設置された補機の表面との少なくともいずれかを選択的に加熱する加熱手段を設けたことを特徴とする成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−208221(P2011−208221A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77087(P2010−77087)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「次世代半導体材料・プロセス基盤(MIRAI)プロジェクト/次世代半導体材料・プロセス基盤(MIRAI)プロジェクト(一般会計)/新探求配線技術開発・特性ばらつきに対し耐性の高いデバイス・プロセス技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】