説明

扁平断面トンネルおよびその構築方法

【課題】 比較的安価な施工費で短期間に、扁平断面トンネルの天井に生じる曲げモーメントや撓みを軽減できる扁平断面トンネルとその構築方法を提供すること。
【解決手段】 扁平断面トンネル1の天井に、柱体2aを構築し、この柱体2aと天井を複数の吊部材3,3,3,…で繋ぐことにより、天井に生じる曲げモーメントや撓みを格段に低減することができる。柱体2aとしては、既設の立坑を利用することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下道の分合流部や地下鉄のホーム区間などの断面が横に長い扁平断面トンネルおよびその構築方法に係り、特に、比較的安価な施工費で短期間に、トンネルの天井に生じる曲げモーメントや撓みを軽減できる扁平断面トンネルとその構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
道路トンネルのうち、本線トンネルと車両の出入り線となるランプトンネルが分合流する区間(以下、分合流部とする)の施工方法に関しては、従来さまざまな技術が公表されるとともに実施工もおこなわれている(特許文献1,2,3,4など)。これらの施工方法は、分合流部を掘削する複合円シールドマシンとランプトンネルや本線トンネルを掘削する単円シールドマシンとをメカニカルドッキングさせたり、分離および連結自在の複合円シールドマシンで分合流部を掘削した後に、シールドマシンを分離させて本線トンネルとランプトンネルを並行して掘削する方法など多岐にわたるものである。
【0003】
ところで、上記する道路トンネルの分合流部や地下鉄のホーム区間などはトンネルの外郭形状が横に長い扁平断面トンネルとならざるを得ない。特に近時の地下トンネルは大深度化の傾向にあるため、トンネル断面が扁平形状であることによってトンネルの横断面には過大な曲げモーメントや撓みが生じることになる。かかる過大な曲げモーメントや撓みは、特に扁平断面の天井の中央付近に顕著に発生する。したがって、従来は、かかる扁平断面トンネルの天井の部材厚を厚くする必要がある一方で、トンネルの内空は建築限界を確保する必要もあることから、結果としてトンネル断面が大きくならざるを得なかった。また、扁平断面トンネルの天井の部材厚を過度に厚くするかわりに、トンネル軸線方向に多数の中柱を設置するといった措置も講じられていた。多数の中柱がトンネルの中央にその軸線方向にわたって設置されることにより、この中柱が障害となってトンネル供用時の自由度が制限されるといった問題がある。
【0004】
上記問題に対して、特許文献5に開示のトンネルの分岐・合流部構造によれば、扁平断面トンネルの天井の部材厚を厚くすることなく、また天井に生じる撓みを極めて小さくすることが可能となる。このトンネル構造は、分岐・合流部の外周において、水平ビームを形成し、分岐・合流部の長手方向に沿った一対のアーチ部をその両端が水平ビーム部に接続されるように形成し、このアーチ部の長手方向にわたって該アーチ部に一端を連結した複数の吊材でトンネルの天井を吊るように構成されたものである。
【0005】
なお、上記する水平ビーム部やアーチ部の構築に際しては、既に構築されたシールドトンネル内から発進立坑を構築し、この発進立坑からシールドマシンを発進させ、掘削孔内にコンクリートを充填することにより、水平ビーム部やアーチ部の構築がおこなわれるものである。
【0006】
【特許文献1】特開2003−148086号公報
【特許文献2】特開2002−13384号公報
【特許文献3】特開平8−60979号公報
【特許文献4】特開2004−211361号公報
【特許文献5】特開2004−211361号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示の分岐・合流部構造によれば、扁平断面トンネルの天井の部材厚を過度に厚くする必要はなく、さらにはトンネル内部の中柱も格段に低減することが可能となる。しかし、トンネルの天井を吊るために設けられる水平ビーム部やアーチ部の構築に際して、あらたに立坑を構築したり、水平ビーム部やアーチ部構築用のシールドマシンを用意する必要があること、さらには水平ビーム部やアーチ部を構築するために施工期間が長期化することなどから、工事コストの高騰と施工期間の長期化の招来が否めない。
【0008】
本発明の扁平断面トンネルおよびその構築方法は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、比較的安価な施工費で短期間に、トンネルの天井に生じる曲げモーメントや撓みを軽減できる扁平断面トンネルとその構築方法を提供することを目的としている。また、従来に比べて、扁平断面トンネルの内部に設けられる中柱を格段に低減することのできる扁平断面トンネルおよびその構築方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による扁平断面トンネルは、地下道の分合流部や地下鉄のホーム区間などの断面が横に長い扁平断面トンネルであって、前記扁平断面トンネルは、一つの鉛直材から延びる複数の吊部材、またはトンネル軸線方向に配設された複数の鉛直材から延びる複数の吊部材でトンネルの天井を支持することにより、トンネル構造体に生じる曲げモーメントおよび/または撓みを軽減可能としたことを特徴とする。
【0010】
扁平断面トンネルの形状は、断面が横に長い矩形断面、断面の左右端が湾曲形状を呈している横長の断面、外径の相違する2つの単円形断面からなる花弁形状の断面など、その具体的な形状は適宜の形状でよい。また、その施工方法は、上記するように公知の方法によっておこなうことができる。例えば、所定の離隔を備えた2つの併設する単円断面のシールドトンネルを構築し、トンネル間を防護しながら掘削することによって扁平断面トンネルの構築をおこなうことができる。
【0011】
地中に設置される鉛直材はコンクリート製や鋼製であって、直接扁平断面トンネルと接続している場合や扁平断面トンネルから離れた位置に設置される場合がある。さらに、扁平断面トンネルは、中実であっても中空の筒状であってもよいが、その内部に作業員が入り、該内部から扁平断面トンネルの天井へ吊部材を設置するための作業空間を備えた筒状であることが望ましい。この吊部材の設置に際しては、扁平断面トンネルおよび鉛直材の構築をおこなった後、例えば、鉛直材の内部から中空の推進管をトンネルの天井へ向けて押し出し、推進管の内部に吊部材を通して鉛直材とトンネルの天井を繋ぐ方法や、鉛直材の内部からトンネルの天井へケーシングなどにて削孔し、この孔に吊部材を通して鉛直材と天井を繋ぐ方法など、適宜の方法を選定できる。
【0012】
吊部材の仕様は、土水圧や扁平断面トンネルの天井の自重、低減させる撓み量および曲げモーメント量などを総合勘案して決定されるものであり、ワイヤー状の部材や鎖状の部材、棒状の鉄筋など、適宜の材質および仕様(引張強度、破断強度など)を選定できる。
【0013】
また、扁平断面トンネルの天井を吊部材で吊る実施形態においては、鉛直材と扁平断面トンネルとの相対位置等によっても相違してくるが、少なくとも、トンネルの天井の中央および中央付近を吊り上げるような実施形態であることが望ましい。
【0014】
また、本発明による扁平断面トンネルの他の実施形態において、前記鉛直材は、トンネルの底版から延びて天井を突き抜ける柱体であることを特徴とする。
【0015】
扁平断面トンネルが複数の併設するシールドトンネルから構成される場合においては、トンネル間を掘削しながらトンネル空間を形成させた後に、または該トンネル空間を形成させながら、トンネル内部に例えば上面がフラットなコンクリート製の底版が構築される。トンネルの側壁や天井は、既に設置されているセグメントの内側に、本設構造体としての壁や天井が施工される。この際、セグメントが本設構造体に含まれることがあることは勿論のことである。
【0016】
少なくとも底版が構築された段階で、扁平断面トンネルの断面中央部(または中央部付近)において、底版から延びて天井から上方へ突出する柱体が構築される。また、この柱体は扁平断面トンネルの長手方向の長さにより、1基の場合のほか、トンネル軸線方向に所定間隔をもって複数基設置される場合もある。
【0017】
柱体は、その内部に作業員が入り、該内部から吊部材をトンネルの天井へ設置できる程度の内部空間を有する筒状であることが望ましい。また、柱体の材質はコンクリート製や鋼製などにて製造、製作され、その部材厚は、土水圧および吊部材から受ける引張力などによって決定される。柱体の設置方法ないし現場製造方法は、トンネル内部の底版から天井の間に関してはその内部空間を利用しておこなうことができる。一方、天井から上方の地中においては、地上から該天井に至る比較的大径の鋼管杭を打ち込むことにより、この鋼管杭を鉛直材とする方法や、地上から該天井に至る立坑を構築し、立坑内で鉛直材を製造もしくは設置した後に鉛直材と立坑の間を埋め戻す方法など、適宜の方法が選定できる。なお、天井の上下で分割施工された各柱体の軸心は、同一軸心となるように構築されるのがよい。
【0018】
柱体を構築した後は上記するように、該柱体の内部からトンネル天井まで貫通する孔を、ケーシング削孔もしくは推進管の押し出しなどによって造成し、この孔に吊部材を通して柱体とトンネルの天井(の特に、中央および中央付近)を繋ぐことができる。
【0019】
また、本発明による扁平断面トンネルの他の実施形態において、前記扁平断面トンネルは立坑と繋がっており、前記鉛直材が該立坑であることを特徴とする。
【0020】
例えば断面が矩形の立坑を構築し、対向する側壁の一方には扁平断面トンネルが接続しており、対向する側壁の他方には本線トンネルやランプトンネルが接続しているような場合には、この立坑と扁平断面トンネルの天井とを吊部材で繋ぐことができる。この場合には、本線トンネルやランプトンネル構築用のシールドマシンの発進用であって既に構築された立坑を利用できることから、吊部材の設置に要する工事コストの高騰を低く抑えることが可能となり、また、工期の長期化も最低限に抑えることができる。さらには、通常の立坑を利用することで、吊部材を設置するための作業スペースも十分に確保することができ、したがって作業の安全性も向上する。
【0021】
通常の立坑は土水圧などに抗するだけの強度を有しているが、この立坑を吊部材の吊り支点とすることから、吊り支点となる立坑の側壁部およびその周辺は、吊り荷重に耐え得るように強度補強を施しておくなどの対策が必要である。強度補強対策としては、コンクリートの増し打ちや鋼製プレートの設置などがある。
【0022】
また、本発明による扁平断面トンネルの他の実施形態において、前記扁平断面トンネルは立坑と繋がっており、前記鉛直材が該立坑およびトンネルの底版から延びて天井を突き抜ける柱体であることを特徴とする。
【0023】
扁平断面トンネルの一端が立坑と繋がっており、かつ扁平断面トンネルの長手方向の長さが比較的長い場合には、立坑からトンネル天井を吊部材にて吊ることに加えて、立坑から離れたトンネル部分においては、上記するような柱体を底版から上方へ立ち上げ、この柱体からトンネル天井を吊部材にて吊る実施形態とするものである。
【0024】
また、本発明による扁平断面トンネルの他の実施形態において、前記扁平断面トンネルは、その下端から下方地盤に延びるグラウンドアンカーを備えていることを特徴とする。
【0025】
扁平断面トンネルの天井は、吊部材にて支持されることで曲げモーメントが緩和される一方で、トンネルの下端には水圧などによるアップリフトが作用する場合があり、下端の中央において大きな曲げモーメントが生じ得る。そこで、特に扁平断面トンネルの下端にも大きな曲げモーメントが生じる場合においては、公知のグラウンドアンカーをトンネル内部から下方の定着層まで打ち込んで支持させることが好ましい。天井の曲げモーメントが緩和されるとともにトンネル下端の曲げモーメントも同時に緩和されることでトンネル全体としてバランスの取れた曲げモーメントの低減を図ることになり、トンネル断面全体の部材厚の低減を図ることが可能となる。
【0026】
さらに、本発明による扁平断面トンネルの他の実施形態は、前記吊部材が緊張部材であることを特徴とする。
【0027】
緊張部材としては、PC鋼線やPC鋼より線、PC鋼棒などが使用できる。かかる緊張部材を使用する場合には、緊張部材設置後に緊張力を導入することになる。緊張部材を使用することで、土水圧の変化に対応して導入緊張力を調整することが可能となる。また、導入緊張力を計測管理できるため、トンネル天井に作用する引張り力を確実に把握でき、したがってトンネルの天井に生じている内部応力(または曲げモーメント)の確実な同定がおこなえる。
【0028】
また、本発明による扁平断面トンネルの構築方法は、地下道の分合流部や地下鉄のホーム区間などの断面が横に長い扁平断面トンネルの構築方法であって、地下道や地下鉄などの本線トンネルを複数併設して構築する第一工程と、本線トンネル間の上部と下部を防護しながら掘削することによって本線トンネル間同士を繋ぐ第二工程と、トンネルの底版と天井を構築した後に、該底版から延びてトンネルの天井を突き抜ける柱体を構築する第三工程と、柱体とトンネルの天井を複数の吊部材で繋ぐ第四工程と、からなることを特徴とする。
【0029】
第一工程では、例えば2線以上のトンネルを構築する。トンネルの構築方法については、公知のNATM工法や山岳工法、シールド工法などを採用することで本線トンネルの構築がおこなわれる。次に、第二工程において、本線トンネル間の掘削をおこない、トンネル間を横方向に繋げる。このトンネル間掘削に際し、一方のトンネルの上端付近から他方のトンネルの上端付近まで、例えばアーチ状の土留め用鋼管などを押し出しながら設置する。双方のトンネルの下端同士も、同様にアーチ状の土留め用鋼管などで接続する。場合によっては、トンネル間に地盤改良を施しても良い。トンネル間の上下の防護施工をおこなった後は、トンネル間を繋ぐ際に障害となるセグメントの撤去をおこなう。ここで、セグメントが撤去された部分には、必要に応じて仮支柱を設置するのがよい。トンネル間の上下の防護と障害となるセグメントの撤去をおこなった後は、トンネル間の掘削をおこない。扁平断面トンネルのトンネル空間を形成させる。次に、第三工程において、トンネルの底版や天井を現場打ちによるコンクリート施工により構築する。ここで、少なくとも底版が構築された段階で、鋼製またはコンクリート製の柱体(底版から天井までの間の柱体)を立ち上げる。
【0030】
トンネル内の柱体が構築された後に、トンネル天井から上方に延びる柱体の構築をおこなう。かかる柱体の構築に際しては、地上からトンネル天井に通じる立坑を構築してからその内部に柱体の構築をおこなう方法や、地上から柱体となる鋼管杭をトンネル天井まで打ち込む方法などがある。
【0031】
柱体は、例えばその内部に作業員が入って作業をおこなえるだけの内部空間を備えている。必要に応じて、柱体内部には、昇降ラダーや昇降ステージが仮設される。柱体を構築後、この内部空間に作業員が入り、柱体の所定高さからトンネル天井の所定位置まで延びる所定本数のケーシング孔を削孔し、それぞれの孔に吊部材を通し、吊部材の一端は柱体の内部で、吊部材の他端は天井の内部でそれぞれ固定することにより柱体とトンネルの天井を繋ぐ第四工程が完了する。なお、トンネルの下端からグラウンドアンカーを設置する場合には、かかる施工は、本発明の第三工程における底版が構築された段階以降の適宜の段階でおこなうことが好ましい。
【0032】
また、本発明による扁平断面トンネルの構築方法の他の実施形態は、地下道の分合流部や地下鉄のホーム区間などの断面が横に長い扁平断面トンネルの構築方法であって、立坑を構築する第一工程と、該立坑と繋がる地下道や地下鉄などの本線トンネルを複数併設して構築する第二工程と、本線トンネル間の上部と下部を防護しながら掘削することによって本線トンネル間同士を繋ぐ第三工程と、トンネルの底版と天井を構築する第四工程と、立坑とトンネルの天井を複数の吊部材で繋ぐ第五工程と、からなることを特徴とする。
【0033】
本発明では、本線トンネル構築用のシールドマシンを発進させる立坑を第一工程にて構築する。ここで、柱体の構築もおこなう場合には、本発明の第四工程にて少なくともトンネルの底版が構築された段階で所定位置に柱体の構築をおこなうことができる。また、この場合には、第五工程において、立坑とトンネルの天井のみならず、柱体とトンネルの天井も吊部材にて繋ぐことになる。
【0034】
さらに、本発明による扁平断面トンネルの構築方法の他の実施形態において、前記吊部材が緊張部材の場合には、柱体または立坑とトンネルの天井を緊張部材で繋いだ後に、該緊張部材に緊張力が導入されることを特徴とする。
【0035】
本発明の構築方法では、ポストテンション方式により、PC鋼線などの緊張部材の設置後に緊張力の導入がおこなわれることになる。
【発明の効果】
【0036】
以上の説明から理解できるように、本発明の扁平断面トンネルおよびその構築方法によれば、簡易な方法で鉛直材を設置するとともにこの鉛直材からトンネルの天井を吊るだけの構成であるため、比較的安価に扁平断面トンネルに生じる曲げモーメントや撓みを低減することができる。特に、鉛直材として既存の立坑を利用できる場合には、工事期間や工費の面でさらなる効果を見込むことができる。また、本発明の扁平断面トンネルおよびその構築方法によれば、扁平断面トンネルの中央付近においてトンネル軸線方向に多数設置されていた中柱の本数を格段に低減することができ、したがって扁平断面トンネルの内部空間をさらに有効利用することができる。特に、扁平断面トンネルが道路トンネルの本線トンネルとランプトンネルの分合流部の場合には、中柱の低減により、分合流車線の障害物が低減できるためにその効果は絶大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の扁平断面トンネルの一実施形態を示した斜視図を、図2は、図1のII−II矢視図をそれぞれ示している。図3〜図6は、順に扁平断面トンネルの構築方法を示した図をそれぞれ示している。ここで、図6a〜cは、構築方法の実施形態が相違するものである。図7は、本発明の扁平断面トンネルの他の実施形態を示した斜視図である。なお、図示する鉛直材(柱体や立坑)は図示する実施形態に限定されるものではない。また、図示しないが、扁平断面トンネルはその下端から下方の定着層まで通じるグラウンドアンカーを備えた実施形態であってもよい。
【0038】
図1は、扁平断面トンネル1の一実施形態を示している。2つの本線トンネル1a,1aが所定間隔を置いて併設されており、ランプトンネル1bの一端側がその間に設置され、他端側が地上道路4に通じている。図示する本線トンネル1a、ランプトンネル1bはシールドマシンによって施工され、セグメントにてトンネルが構築されている実施形態を示しているが、その他、推進工法などの適宜の施工方法により構築される実施形態であってもよい。2つの本線トンネル1a,1aとランプトンネル1bが併設することによって形成される扁平断面トンネル1の天井から上方に2つの柱体2a,2aが立ち上がっており、それぞれの柱体2a,2aから放射状に吊部材3,3,3,…がトンネルの天井と繋がっている。なお、柱体2aの基数は、扁平断面トンネル1の長手方向の長さに応じて適宜の基数を設定できる。また、柱体2aは、コンクリート製や鋼製などの材質にて製作、製造することができる。
【0039】
扁平断面トンネル1の断面図を図2に示している。扁平断面トンネル1は、本線トンネル用のセグメントと仮設の土留め用支保工(鋼管5など)によって囲まれた内部に、本設構造体が形成されている。その下方は、砕石6などが敷き詰めされてレベル調整されており、その上に底版12が構築されている。底版12の上に構築された左右の側壁13,13に支持されるように天井11が構築される。図示する実施形態では、扁平断面トンネル1内には柱体2a,2a以外に中柱は構築されていないが、必要に応じて中柱を設置してもよい。なお、図2における鋼管5と側壁13との接合部は、剛結合構造やピン結合構造など適宜の結合構造を選定することができる。
【0040】
天井11と底版12の間に構築された柱体2aと軸心を一致させた柱体2aが天井11から上方に構築される。柱体2aから吊部材3,3,3,…にて天井11を垂下する。ここで、天井11の中央(中央付近)を特に吊りながら、扁平断面の横方向も必要に応じて吊るのがよい(図では、柱体2aから断面の横方向に左右それぞれ2本の吊部材3,3にて天井11を吊っている)。なお、天井11の上下に位置する柱体2a,2aの設置位置は、一般車道や車道の合流部など場所によって相違する。
【0041】
次に、図3〜図6に基づいて、扁平断面トンネルの構築方法を説明する。
【0042】
2つの本線トンネル1a,1aを図3に示すように、所定の間隔を置いて併設施工する(第一工程)。
【0043】
次に、2つの本線トンネル1a,1a間の掘削に際して、図4に示すようにトンネル間の上下の防護施工をおこなう。この防護施工は公知の推進管工法などにておこなうことができる。一方の本線トンネル1aから他方の本線トンネル1aに向かって、上下それぞれに湾曲した推進管(鋼管5,5)を扁平断面トンネル1の長手方向にわたって併設させる。なお、この防護施工レベルが地下水位以下となる場合には、適宜、地盤改良などの止水対策を施すことが望ましい。鋼管5,5をトンネル間の上下に設置した後、トンネル間の掘削の障害となるトンネル部分(セグメント)の撤去をおこなった後に(図4の2点鎖線)、該トンネル間の掘削をおこない、扁平断面トンネル1の内部空間が形成される(第二工程)。
【0044】
トンネル間の掘削完了後、図5に示すように、トンネル内部の下方に砕石6などを敷き固めることで底版構築用の基礎を施工する。なお、必要に応じて、撤去されたトンネル部分(セグメント)箇所に、仮支柱7を仮設することもできる。
【0045】
本設トンネル用の底版12、側壁13、天井11を施工し、仮支柱7がある場合はその撤去をおこなう(第三工程)。
【0046】
次に、底版12と天井11に挟まれた柱体2aの構築をおこなう(図6a)。天井11の上方に設けられる柱体2aが例えば鋼管杭2a1の場合を図6aに示している。この場合は、杭芯を底版12と天井11に挟まれた柱体2aの軸心に一致させ、鋼管杭2a1を重機91に装着した回転駆動装置によってX方向に回転させながらY方向に天井11まで回転圧入させる(第三工程)。
【0047】
一方、天井11の上方に設けられる柱体を構築するにあたって立坑8を構築する実施形態を図6bに示している。地上からトンネルの天井11まで貫通する立坑8を構築し、その内部に既製の柱体2a2を吊り込みながら設置したり、立坑8内で現場打ちコンクリート施工により柱体2a2の構築をおこなうことができる。柱体2a2を構築後、立坑8と柱体2a2の間は十分に埋め戻しておく。
【0048】
また、図6cに示すように、扁平断面トンネル1内から上向きシールドマシン92を発進させ、セグメントを組み付けながら柱体2a3を構築することもできる。
【0049】
図6a〜cの方法によって柱体2aを構築後、該柱体2aの内部空間を利用しながら、柱体2aの所定高さからトンネル天井11の所定位置まで延びる所定本数のケーシング孔を削孔する。それぞれの孔に吊部材3,3,3,…を通し、吊部材3の一端は柱体2aの内部で、吊部材3の他端は天井11の内部でそれぞれ固定することにより、図2に示すような扁平断面トンネル1が構築される(第四工程)。
【0050】
吊部材3として、PC鋼線のような緊張部材を使用する場合には、該緊張部材の両端を柱体2aおよび天井11にそれぞれ固定した後、緊張部材に所定量の緊張力を導入させる。
【0051】
図7には、柱体として既設の立坑2bを使用する場合の扁平断面トンネル1が示されている。
【0052】
図示する実施形態では、矩形断面の立坑2bが構築され(第一工程)、対向する一側面からは地上に向かってランプトンネル1bが構築され、他側面からは、併設する2つの本線トンネル1a,1aが構築されている(第二工程)。立坑2bに接続する、2つの本線トンネル1a,1aの間に鋼管5,5,5,…を設置しながらトンネル間の掘削をおこない(第三工程)、本設構造体の構築をおこなう(第四工程)。
【0053】
第五工程において、立坑2b内からトンネル天井11の所定位置まで延びる所定本数のケーシング孔を削孔し、吊部材3,3,3,…を孔に通して立坑2bと天井11を繋ぐ。
【0054】
本実施形態では、既設の立坑2bを柱体として利用できるため、柱体を別途構築する手間を省くことができ、工費や工期の面で効果的ある。
【0055】
なお、立坑2bの側壁が吊部材(または緊張部材)からの引張力を考慮した構造となっていない場合には、吊部材の設置に際して壁厚を増し厚補強したり、鉄板を装着するなどの適宜の補強施工を実施する必要がある。
【0056】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の扁平断面トンネルの一実施形態を示した斜視図。
【図2】図1のII−II矢視図。
【図3】扁平断面トンネルの構築方法を示した図。
【図4】図3に続き、扁平断面トンネルの構築方法を示した図。
【図5】図4に続き、扁平断面トンネルの構築方法を示した図。
【図6(a)】図5に続き、扁平断面トンネルの構築方法を示した図。
【図6(b)】図5に続き、扁平断面トンネルの構築方法を示した図。
【図6(c)】図5に続き、扁平断面トンネルの構築方法を示した図。
【図7】本発明の扁平断面トンネルの他の実施形態を示した斜視図。
【符号の説明】
【0058】
1…扁平断面トンネル、1a…本線トンネル、1b…ランプトンネル、2…鉛直材、2a…柱体、2a1…鋼管杭、2a2…柱体、2b…立坑、3…吊部材、4…地上道路、5…土留め用支保工(鋼管)、7…仮支柱、8…立坑、11…天井、12…底版、13…側壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下道の分合流部や地下鉄のホーム区間などの断面が横に長い扁平断面トンネルであって、
前記扁平断面トンネルは、一つの鉛直材から延びる複数の吊部材、またはトンネル軸線方向に配設された複数の鉛直材から延びる複数の吊部材でトンネルの天井を支持することにより、トンネル構造体に生じる曲げモーメントおよび/または撓みを軽減可能としたことを特徴とする扁平断面トンネル。
【請求項2】
前記鉛直材は、トンネルの底版から延びて天井を突き抜ける柱体であることを特徴とする請求項1に記載の扁平断面トンネル。
【請求項3】
前記扁平断面トンネルは立坑と繋がっており、前記鉛直材が該立坑であることを特徴とする請求項1に記載の扁平断面トンネル。
【請求項4】
前記扁平断面トンネルは立坑と繋がっており、前記鉛直材が該立坑およびトンネルの底版から延びて天井を突き抜ける柱体であることを特徴とする請求項1に記載の扁平断面トンネル。
【請求項5】
前記扁平断面トンネルは、その下端から下方地盤に延びるグラウンドアンカーを備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の扁平断面トンネル。
【請求項6】
前記吊部材が緊張部材であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の扁平断面トンネル。
【請求項7】
地下道の分合流部や地下鉄のホーム区間などの断面が横に長い扁平断面トンネルの構築方法であって、
地下道や地下鉄などの本線トンネルを複数併設して構築する第一工程と、本線トンネル間の上部と下部を防護しながら掘削することによって本線トンネル間同士を繋ぐ第二工程と、トンネルの底版と天井を構築した後に、該底版から延びてトンネルの天井を突き抜ける柱体を構築する第三工程と、柱体とトンネルの天井を複数の吊部材で繋ぐ第四工程と、からなることを特徴とする扁平断面トンネルの構築方法。
【請求項8】
地下道の分合流部や地下鉄のホーム区間などの断面が横に長い扁平断面トンネルの構築方法であって、
立坑を構築する第一工程と、該立坑と繋がる地下道や地下鉄などの本線トンネルを複数併設して構築する第二工程と、本線トンネル間の上部と下部を防護しながら掘削することによって本線トンネル間同士を繋ぐ第三工程と、トンネルの底版と天井を構築する第四工程と、立坑とトンネルの天井を複数の吊部材で繋ぐ第五工程と、からなることを特徴とする扁平断面トンネルの構築方法。
【請求項9】
前記吊部材が緊張部材の場合には、柱体または立坑とトンネルの天井を緊張部材で繋いだ後に、該緊張部材に緊張力が導入されることを特徴とする請求項7または8に記載の扁平断面トンネルの構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6(a)】
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【図6(b)】
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【図6(c)】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−118318(P2006−118318A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−309883(P2004−309883)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】