説明

扇風機

【課題】直接風による体感温度の減少や室内空気の循環に使用される扇風機において、消費電力を低減して省エネ性を確保しつつ、送風範囲を拡大させる扇風機を提供することを目的とする。
【解決手段】羽根車ガードに支持された対向する一対の曲板を羽根車の外周側に備えることにより、回転軸を中心とした旋回流れが崩壊し、気流は回転軸から離れた位置に放り出される。これにより、羽根車から生じる旋回流れが曲板で切り離されるため、羽根車に必要な軸動力は低下する一方、扇風機の吹出し気流は、曲板位置を短径とした楕円状のワイド気流となるので、消費電力を低減して省エネ性を確保しつつ、送風範囲を拡大させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接風による体感温度の減少や室内空気の循環に使用される扇風機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の扇風機は、特徴的な羽根形状により、気流をワイドに広げる構成のものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
以下、その扇風機について図13および図14を参照しながら説明する。
【0004】
図13および図14に示すように、羽根支持軸筒101から放射状に、かつ羽根102の回転方向に対して後方側で羽根の前面外周部に、任意の大きさや緩やかな曲面を持った煽り板103を設けている。羽根102の回転により起こされた気流が煽り板103に衝突することにより、羽根102の回転方向に大きく回転しながら進むことで、より広範囲に変化のある気流を送ることができる。
【0005】
また、この種の扇風機には、羽根の後段に案内翼を設けて気流をワイドに広げるものもある(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
以下、その扇風機について図15を参照しながら説明する。
【0007】
図15に示すように、扇風機の羽根102を回転させるモータ104と、モータ104の動力を羽根に伝達する回転軸105と、羽根を覆う後ガード106と、前ガード107とに分割し、前ガード107には、送風方向を変更せしめる案内翼108とを備え、前ガードは小型モータ109により回転される。また、扇風機の前ガード107を支える支持柱110と、扇風機の送風部111を支える支持台112から構成される。
【0008】
この構成により、案内翼108を備えた前ガード107を回転させることにより、風は左右上下広範囲に変更することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−121392号公報
【特許文献2】特開昭62−20696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1のような従来の扇風機においては、煽り板103が圧力面側に大きく傾いているため、羽根102を回転させるのに必要な軸動力が増大し、消費電力が高くなるという課題があった。
【0011】
また、特許文献2のような従来の扇風機においては、羽根102後段に案内翼108を設置すると、羽根102にかかる静圧が上昇する。扇風機に用いられている軸流型の羽根102は、一般に静圧を大きくとることができないため、羽根102の静圧を上昇させるような案内翼108の設置は風速の低下を招き、羽根102の効率を低下させて消費電力が高くなるという課題があった。
【0012】
そこで本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、消費電力を増加させず、送風範囲を拡大させる扇風機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そして、この目的を達成するために、本発明は、羽根車と、前記羽根車を駆動する電動機と、前記羽根車を覆う羽根車ガードとを備えた扇風機で、前記羽根車ガードに支持された対向する一対の曲板を前記羽根車の外周側に備えるようにしたものであり、これにより所期の目的を達成するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、羽根車と、前記羽根車を駆動する電動機と、前記羽根車を覆う羽根車ガードとを備えた扇風機で、前記羽根車ガードに支持された対向する一対の曲板を前記羽根車の外周側に備えるという構成にしたことにより、羽根車が回転して曲板を横切る際、羽根車の外周側で昇圧した気流は曲板に衝突し、気流の旋回成分が減少することで、回転軸を中心とした旋回流れが崩壊し、気流は回転軸から離れた位置に放り出される。これにより、羽根車から生じる旋回流れが曲板で切り離されるため、扇風機の吹出し気流は、曲板位置を短径とした楕円状のワイド気流となり、送風範囲を拡大させるという効果を得ることができる。さらに、曲板で旋回流れが切り離されることで羽根車の回転に必要な軸動力が低下するため、消費電力を低減して省エネ性を向上させるという効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1の扇風機を示す斜視図
【図2】本発明の実施の形態1の扇風機を示す上面図
【図3】本発明の実施の形態1の曲板を示す斜視図
【図4】本発明の実施の形態1の扇風機を示す斜視図
【図5】本発明の実施の形態1の扇風機を示す斜視図
【図6】(a)は曲板のない扇風機の気流の流れを示す斜視図、(b)は本発明の実施の形態1の扇風機の気流の流れを示す斜視図
【図7】本発明の実施の形態2の扇風機を示す斜視図
【図8】本発明の実施の形態2の扇風機を示す側面図
【図9】本発明の実施の形態2の支持装置を示す断面図
【図10】本発明の実施の形態2の扇風機を示す断面図
【図11】本発明の実施の形態2の扇風機を示す上面図
【図12】本発明の実施の形態1の扇風機と曲板なしの扇風機の風速分布を示すグラフ
【図13】従来の扇風機の羽根を示す正面図
【図14】図13に示す同羽根のA−A断面図
【図15】従来の扇風機を示す要部断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の請求項1に記載の扇風機は、羽根車と、前記羽根車を駆動する電動機と、前記羽根車を覆う羽根車ガードとを備えた扇風機で、前記羽根車ガードに支持された対向する一対の曲板を前記羽根車の外周側に備えるという構成となる。これにより、羽根車が回転して曲板を横切る際、羽根車の外周側で昇圧した気流が曲板に衝突し、気流の旋回成分が減少することで、回転軸を中心とした旋回流れが崩壊し、気流は回転軸から離れた位置に放り出される。これにより、羽根車から生じる旋回流れが曲板で切り離されるため、羽根車に必要な軸動力は低下する一方、扇風機の吹出し気流は、曲板位置を短径とした楕円状のワイド気流となるので、消費電力を低減して省エネ性を確保しつつ、送風範囲を拡大させるという効果を奏する。
【0017】
また、前記曲板が、前記羽根車の同心円上に配置されるという構成にしてもよい。これにより、羽根車が曲板に沿って回転するため、曲板を含む扇風機頭部を正面から見た時の面積を最小とすることができ、頭部をコンパクト化できるという効果を奏する。
【0018】
また、前記曲板の短手方向の形状が、前記羽根車の回転方向に対して傾斜しているという構成にしてもよい。これにより、羽根車の外周側で昇圧した気流が曲板に衝突するタイミングに時間差をつけることで、気流が曲板に衝突する際に生じる渦を細かくすることができ、騒音を低減することができるので、送風範囲を拡大し、かつ低騒音となるという効果を奏する。
【0019】
また、前記曲板が、前記羽根車ガードに着脱できる着脱部を備えるという構成にしてもよい。これにより、ワイド気流の方向を自在に切り替えることができるという効果を奏する。
【0020】
また、前記曲板を収納する収納部を備えるという構成にしてもよい。これにより、曲板の保管を可能にするという効果を奏する。
【0021】
また、前記曲板の配置を切り替える切替手段を備えるという構成にしてもよい。これにより、生活シーンに応じて、ワイド気流のワイド方向を短時間で切り替えることができるという効果を奏する。
【0022】
また、前記切替手段は、1対の前記曲板を回転可能に支持する支持装置と、前記支持装置を駆動する駆動手段とを備えるという構成にしてもよい。これにより、生活シーンに応じて、ワイド気流のワイド方向を自動で切り替えるという効果を奏する。
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0024】
(実施の形態1)
まず実施の形態1の構成について説明する。
【0025】
図1、図2に示すように、本実施の形態の扇風機は、羽根車1と、羽根車1を駆動する電動機2と、羽根車1を覆う羽根車ガード3を有し、羽根車ガード3に支持された対向する一対の曲板4を羽根車1の外周側に備えている。曲板4は羽根車1の同心円上に配置されており、羽根車ガード3の外周に沿うような形状となっている。すなわち、曲板4の曲率と羽根車ガード3の外周の曲率を同じにしている。このため、曲板4の両端が羽根車ガード3の外縁から飛び出さず、曲板4を含む扇風機の頭部5を正面から見た時の面積を最小とすることができ、頭部5をコンパクト化している。
【0026】
図1、図2では曲板4を羽根車1の外周の上側と下側に対向して配置している。本実施の形態では一例として、羽根車1の直径は30cm、羽根車ガード3は金属製とし、羽根車ガード3の外周径は37cmとしている。
【0027】
図3に、本実施の形態の曲板4を示す。曲板4の内周側には、羽根車ガード3への着脱を可能にする着脱部6を備えている。本実施の形態では一例として、曲板4の内周径を羽根車ガード3に沿うよう32cmとしている。また、曲板4で覆う羽根車ガード3の割合は、羽根車ガード3の円周の長さの34%としているが、20〜45%の範囲内にあることが望ましく、この割合の数値は気流を広げる範囲との関係で決められる。さらに曲板4の短手方向の長さは、羽根車1の厚み方向の長さに対し、1.9倍としているが、1〜3倍の範囲内であることが望ましい。
【0028】
また着脱部6は、金属製の羽根車ガード3に磁力で固定し着脱可能な磁石である。他の固定方法としては、樹脂製のツメを着脱部6に設け、羽根車ガード3に着脱してもよい。
【0029】
図4は、図1、図2に示す羽根車1外周の上側と下側に対向して配置した曲板4を、着脱部6により曲板4を着脱して、羽根車1外周の左側と右側に対向して配置した扇風機を示している。
【0030】
また図5は、曲板4を使用しない場合に曲板4の保管場所となる収納部7に曲板4を収納した図を示す。本実施の形態では一例として、扇風機の台座8の内側に磁石を備え、曲板4を扇風機の台座8に磁力で固定し、収納するようにしているが、台座8内に収納スペースを確保し、保管してもよい。
【0031】
次に実施の形態1の作用について説明する。
【0032】
図6に、曲板4のない扇風機と本実施の形態の扇風機の気流の流れを比較した図を示す。図中の矢印は気流の流れを示している。
【0033】
曲板4のない扇風機の気流は、電動機2の回転軸を中心に旋回しながら直線的に流れる。一方、曲板4を上側と下側に対向して配置した本実施の形態の扇風機では、羽根車1が回転して曲板4を横切る際、羽根車1の外周側で昇圧した気流が曲板4に衝突し、気流の旋回成分が減少することで、回転軸を中心とした旋回流れが崩壊し、気流は回転軸から離れた位置に放り出される。これにより、羽根車1から生じる旋回流れが曲板4で切り離されるため、羽根車1に必要な軸動力は低下する一方、扇風機の吹出し気流は、曲板4位置を短径とした楕円状のワイド気流となる。
【0034】
このように本発明の実施の形態1の扇風機によれば、軸動力が低下することにより消費電力が低減するため、省エネ性を確保しつつ、送風範囲を拡大させることができる。図6(b)では曲板4が上側と下側に対向しているため、水平方向にワイド気流となり、例えば複数の人が並んでいる際に、複数の人に対して同時に気流を送風できる。
【0035】
また、曲板4が左側と右側に対向している場合は垂直方向にワイド気流となるため、頭から足元まで均一に送風することができる。一般に、体の各部に偏った風速をあてるよりも、均一な風速をあてた場合の方が、快適性が向上することが知られており、垂直方向にワイド気流とすることで、使用者の快適性を向上することができる。
【0036】
(実施の形態2)
図7に示すように、本実施の形態の扇風機は曲板4の配置を切り替える切替手段9を備えている。実施の形態1と同様の構成要素については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0037】
図8に切替手段9の斜視図、図9に支持装置14の断面図を示す。図9に示すように、切替手段9は、羽根車ガード3と一体化した2本の固定レール12と、固定レール12上を回転可能に支持し、曲板4と一体化した可動レール10とからなる支持装置14を備えている。可動レール10は車輪13によって固定レール12に据付けられている。
【0038】
図8の左側の可動レール10は、曲板4と一体となった可動レール10を駆動する駆動装置15と嵌合するように溝11を備えている。図10は切替手段9の断面図を示している。駆動装置15は可動レール10と嵌合し、曲板4の駆動、停止を制御することができる。本実施の形態では一例として、駆動装置15にステッピングモーターを使用している。
【0039】
上記構成において、曲板4を羽根車1の上下方向に配置した場合には、水平方向に広がるワイド気流となるため、複数人同時に直接風による涼を得たい時に有効である。また、曲板4を羽根車1の左右方向に配置した場合には、垂直方向に広がるワイド気流となるため、風呂上り等、体全体に風を浴びたい場合に有効である。
【0040】
このように本発明の実施の形態2の扇風機によれば、切替手段9に駆動装置15を備えたことにより生活シーンに応じて、ワイド気流のワイド方向を自動で切り替えることができる。
【0041】
また図11に示すように、曲板4の短手方向の形状が羽根車1の回転方向に対して傾斜している。これにより、羽根車1の外周側で昇圧した気流が曲板4に衝突するタイミングに時間差をつけることで、気流が曲板4に衝突する際に生じる渦を小さくすることができ、騒音を低減することができるので、送風範囲を拡大し、かつ低騒音とすることができる。
【実施例】
【0042】
実施の形態1に示した扇風機(改善モデル)について、その性能を実測した。羽根車1は当社製扇風機(F−CD325)のものを利用し、モータは当社製DCモータを使用した。比較対象は改善モデルの曲板4なしのものとし、これを比較モデルとする。
【0043】
評価方法は日本工業規格(JIS)C9601「扇風機」に記載の風量測定方法に準じて送風性能を評価した。評価結果を図12に示す。
【0044】
図12は、電動機2の回転軸を中心とした水平方向の各位置における風速値を示している。比較モデルでは中心から20cmの地点で風速の減衰が始まるが、改善モデルでは中心から35cmの地点まで風速が減衰せず、比較モデルに対して気流の広がりが格段に向上している。
【0045】
また、表1に各モデルの性能一覧を示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示すように、比較モデルに曲板4を取り付けた改善モデルの方が、軸動力及び消費電力が低下するという新たな知見を得た。
【0048】
この軸動力の低下の要因としては、羽根車1が曲板4近傍を通過する時、羽根車1の吸込みが曲板4によって阻害されるため、羽根車1の回転に伴う昇圧作用が制限されることに起因する。また、本実施例で示された消費電力の低減は、軸動力の低下に伴って電動機2の仕様点が変化し、電動機の効率が向上したことによる。つまり、本実施例における消費電力の低下は電動機の特性に起因するものであるが、一般に軸動力の低下は電動機2の出力低減につながるため、電動機2の効率が大幅に低下しない限りは、曲板4により消費電力が低下するという効果を得ることができる。
【0049】
また、風量も増えており、ワイド気流とすることで風量を向上することができた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明にかかる扇風機は、羽根車ガード3に支持された対向する一対の曲板4を羽根車1の外周側に備えることで、羽根車1から生じる旋回流れが曲板4で切り離されるようになる。このため、羽根車1に必要な軸動力は低下する一方、扇風機の吹出し気流は曲板4位置を短径とした楕円状のワイド気流となるので、消費電力を低減して省エネ性を確保しつつ、送風範囲を拡大させることができ、家庭用や事務所用などの扇風機としての活用が期待されるものである。
【符号の説明】
【0051】
1 羽根車
2 電動機
3 羽根車ガード
4 曲板
5 頭部
6 着脱部
7 収納部
8 台座
9 切替手段
10 可動レール
11 溝
12 固定レール
13 車輪
14 支持装置
15 駆動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
羽根車と、前記羽根車を駆動する電動機と、前記羽根車を覆う羽根車ガードを備えた扇風機で、
前記羽根車ガードに支持された対向する一対の曲板を前記羽根車の外周側に備えることを特徴とする扇風機。
【請求項2】
前記曲板が、前記羽根車の同心円上に配置されることを特徴とする請求項1に記載の扇風機。
【請求項3】
前記曲板の短手方向の形状が、前記羽根車の回転方向に対して傾斜していることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の扇風機。
【請求項4】
前記曲板が、前記羽根車ガードに着脱できる着脱部を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の扇風機。
【請求項5】
前記曲板を収納する収納部を備えることを特徴とする請求項4に記載の扇風機。
【請求項6】
前記曲板の配置を切り替える切替手段を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の扇風機。
【請求項7】
前記切替手段は、
1対の前記曲板を回転可能に支持する支持装置と、前記支持装置を駆動する駆動部とを備えることを特徴とする請求項6に記載の扇風機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−113246(P2013−113246A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261418(P2011−261418)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】