説明

手術用動力伝達アダプタ及び医療用マニピュレータシステム

【課題】清潔域と不潔域との交錯を防止可能な手術用動力伝達アダプタ、及びそれを備える医療用マニピュレータシステムを提供すること。
【解決手段】術具240とアーム200との間に介在される手術用動力伝達アダプタ220であって、滅菌処理が施される清潔域に接触する第1の部位と滅菌処理が施されない不潔域に接触する第2の部位とを有するロッド222a、222bを備え、ロッド222a、222bが直動運動しても第1の部位が清潔域に位置し、かつ、第2の部位が不潔域に位置するように、ロッド222a、222bの直動運動の範囲が設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用マニピュレータシステムに用いられる手術用動力伝達アダプタ及びそれを有する医療用マニピュレータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療施設の省人化を図るため、ロボットによる医療処置の研究が行われている。特に、外科分野では、多自由度アームを有する多自由度マニピュレータによって患者の処置をする医療用マニピュレータシステムについての各種の提案がなされている。このうち、特許文献1では、アームやその先端に装着される術具を駆動するための動力を直動運動によって伝達するコネクタ(手術用動力伝達アダプタ)についての提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−519665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アームの先端に装着される術具としては各種のものがある。この中で、メスや鋏等の外科手術器具は、患者の体腔に直接接触するものであるため、使用に先立って滅菌処理を施しておく必要がある。滅菌処理の方式としては、高温高圧の飽和水蒸気によって微生物の滅菌を行う高圧蒸気滅菌(オートクレーブ滅菌)や酸化エチレンガス(EOG)を用いたアルキル化によって微生物の滅菌を行うEOGガス滅菌等の各種の方式が存在するが、通常、医療用マニピュレータシステムのアーム等を駆動する動力部はこのような各種の方式の滅菌処理に耐え得る構造をしていない。このため、従来は、動力部等の滅菌処理に耐え得る構造をしていない部分を滅菌処理の必要がある部分から隔離した状態で滅菌処理を行うようにしている。
【0005】
ここで、アームの先端に滅菌処理が必要な術具を装着する場合において、特許文献1において提案されているような直動運動によって動力を伝達する手術用動力伝達アダプタを単純に用いると、手術用動力伝達アダプタ内の直動機構の直動運動によって滅菌処理が行われている清潔域と滅菌処理が行われていない不潔域とが交錯して清潔域が汚染されてしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、清潔域と不潔域との交錯を防止可能な手術用動力伝達アダプタ、及びそれを備える医療用マニピュレータシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の一態様の手術用動力伝達アダプタは、術具と該術具を駆動するための動力部との間に介在されて前記術具と前記動力部とを接続する手術用動力伝達アダプタであって、滅菌処理が施される清潔域に接する第1の部位と前記滅菌処理が施されない不潔域に接する第2の部位とを有し、前記動力部で発生した動力を前記術具に伝達するように直動運動する動力伝達部を具備し、前記動力伝達部の直動運動の範囲は、該動力伝達部が直動運動しても、前記第1の部位が前記清潔域に位置し、かつ、前記第2の部位が前記不潔域に位置するように設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、清潔域と不潔域との交錯を防止可能な手術用動力伝達アダプタ、及びそれを備える医療用マニピュレータシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の各実施形態に係る医療用マニピュレータシステムの第1の例を示す図である。
【図2】本発明の各実施形態に係る医療用マニピュレータシステムの第2の例を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る手術用動力伝達アダプタの構成を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の変形例の手術用動力伝達アダプタの構成を示す図である。
【図5】ロッド間の連結構造の変形例を示した図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る手術用動力伝達アダプタの構成を示す図である。
【図7】キーパターン部について示す図である。
【図8】本発明の第2の実施形態の変形例の手術用動力伝達アダプタの構成を示す図である。
【図9】術具にメモリを搭載した変形例を示す第1の図である。
【図10】術具にメモリを搭載した変形例を示す第2の図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
[第1の実施形態]
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。図1は、本発明の各実施形態に係る医療用マニピュレータシステムの第1の例を示す図である。図1は、マスタースレーブ方式の医療用マニピュレータシステムへの適用例を示している。ここで、マスタースレーブ方式の医療用マニピュレータシステムとは、マスターアームとスレーブアームとからなる2種のアームを有し、マスターアームの動作に追従させるようにしてスレーブアームを遠隔制御するシステムのことを言うものとする。
【0011】
図1に示す医療用マニピュレータシステムは、手術台100と、スレーブアーム200a〜200dと、スレーブ制御回路400と、マスターアーム500a,500bと、操作部600と、入力処理回路700と、画像処理回路800と、ディスプレイ900a,900bと、を有している。
【0012】
手術台100は、観察・処置の対象となる患者1が載置される台である。この手術台100の近傍には、複数のスレーブアーム200a、200b、200c、200dが設置されている。なお、スレーブアーム200a〜200dを手術台100に設置するようにしても良い。
【0013】
スレーブアーム200a、200b、200c、200dは、それぞれ複数の多自由度関節を有して構成されている。このようなスレーブアーム200a、200b、200c、200dは、各関節を湾曲させることによって、手術台100に載置された患者1に対してスレーブアーム200a〜200dの先端側(患者1の体腔に向かう側とする)に装着される処置具や観察器具といった各種の術具を位置決めする。スレーブアーム200a〜200dの各関節は、アーム内に設けられた動力部によって個別に駆動される。この動力部としては、例えばインクリメンタルエンコーダや減速器等を備えたサーボ機構を有するモータ(サーボモータ)が用いられる。このサーボモータの動作制御は、スレーブ制御回路400によって行われる。
【0014】
さらに、スレーブアーム200a〜200dは、各々の先端側に装着される術具240a〜240dを駆動するための複数の動力部も有している。この動力部も例えばサーボモータが用いられ、このサーボモータの動作制御もスレーブ制御回路400によって行われる。
【0015】
スレーブアーム200a〜200dの動力部が駆動された場合には、モータの駆動量が位置検出器によって検出される。位置検出器からの検出信号はスレーブ制御回路400に入力され、この検出信号により、スレーブアーム200a〜200dの駆動量がスレーブ制御回路400において検出される。
【0016】
手術用動力伝達アダプタ(以下、単にアダプタと言う)220a、220b、220c、220dは、スレーブアーム200a、200b、200c、200dと術具240a、240b、240c、240dとの間に介在されてスレーブアーム200a、200b、200c、200dと術具240a、240b、240c、240dとをそれぞれ接続する。詳細は後述するが、アダプタ220a〜220dは、それぞれが直動機構を有し、対応するスレーブアームの動力部において発生した動力を、直動運動によって対応する術具に伝達するように構成されている。
【0017】
術具240a〜240dは、複数の自由度を有する関節部を有し、患者1の体壁に開けられた図示しない挿入孔から患者1の体腔内に挿入される。また、術具240a〜240dは、先端部が湾曲駆動したり回転駆動したりできるように構成されている。この湾曲駆動は、例えばスレーブアーム200a〜200d内にそれぞれ設けられたサーボモータを駆動させて術具240a〜240d内に挿通配置されているワイヤやロッドを押し引き操作することによって行われる。また、回転駆動は、例えばスレーブアーム200a〜200d内にそれぞれ設けられたサーボモータを駆動させて術具240a〜240d内にそれぞれ設けられた回転機構を作動させたりすることによって行われる。さらに、術具の種類によっては、術具の先端に開閉機構が設けられている。この開閉機構も、例えばスレーブアーム200a〜200dにそれぞれ設けられたサーボモータを駆動させて術具内に挿通配置されたワイヤやロッドを押し引き操作することにより作動される。
【0018】
ここで、図1に示す4本のスレーブアーム200a〜200dのうち、例えば、スレーブアーム200a、200b、200dは処置用のスレーブアームとして用いられるものである。これら処置用のスレーブアーム200a、200b、200dには、術具240a、240b、240dとして各種の外科手術器具が装着される。なお、本実施形態における外科手術器具とは、例えばメスや鋏等の、患者1の体内の組織部位に対して処置や操作を行うための術具を言うものとする。また、スレーブアーム200cは観察用のカメラアームとして用いられるものである。スレーブアーム200cには、術具240cとして各種の観察器具が装着される。本実施形態における観察器具とは、電子内視鏡等の、患者1の体内の組織部位を観察するための術具を言うものとする。
【0019】
また、アダプタ220a〜220dに装着された術具240a〜240dは、交換用術具240eと交換可能になされている。このような術具の交換作業は、例えば助手2によって行われる。
ドレープ300は、本医療用マニピュレータシステムにおいて滅菌処理を行う部位(以下、清潔域と言う)と滅菌処理を行わない部位(以下、不潔域と言う)とを分けるためのものである。例えば、メスや鋏等の外科手術器具は患者1の体腔内に直接接触するものであり、洗浄処理や滅菌処理を十分に行っておく必要がある。これに対し、スレーブアーム200a〜200dの動力部等は各種の電子部品を備えているため、通常は滅菌処理に耐え得る構造をしていない。したがって、アダプタ220a〜220dを介してスレーブアーム200a〜200dに術具240a〜240dを装着した状態で滅菌処理を行う際には、滅菌処理が必要な術具240a〜240dの部分を露出させ、スレーブアーム200a〜200dの動力部が保護されるように、図1に示すように、スレーブアーム200a〜200dの動力部の部分をドレープ300によって包むようにした状態で滅菌処理を行う。なお、ドレープ300によって清潔域と不潔域とを分けておくことにより、滅菌処理後において清潔域と不潔域との交錯も防止される。図1のように必要最小限の範囲をドレープしても良いし、より広範囲に、例えばスレーブ制御回路400までドレープ300で覆っても良い。
【0020】
スレーブ制御回路400は、例えばCPUやメモリ等を有して構成されている。このスレーブ制御回路400は、スレーブアーム200a〜200bの制御を行うための所定のプログラムを記憶しており、入力処理回路700からの制御信号に従って、スレーブアーム200a〜200b又は術具240a〜240dの動作を制御する。即ち、スレーブ制御回路400は、入力処理回路700からの制御信号に基づいて、操作者3によって操作されたマスターアームの操作対象のスレーブアーム(又は術具)を特定し、特定したスレーブアーム(術具)に操作者3のマスターアームの操作量に対応した動きをさせるために必要な駆動量を演算する。そして、スレーブ制御回路400は、算出した駆動量に応じてマスターアームの操作対象のスレーブアームの動作を制御する。この際、スレーブ制御回路400は、対応したスレーブアームに駆動信号を入力するとともに、対応したスレーブアームの動作に応じて動力部の位置検出器から入力されてくる検出信号に応じて、操作対象のスレーブアームの駆動量が目標の駆動量となるように駆動信号の大きさや極性を制御する。
【0021】
また、スレーブ制御回路400は、スレーブアーム200cに装着された観察器具から画像信号が入力されてきた場合には、入力された画像信号を画像処理回路800に出力することも行う。スレーブ制御回路400を介さず、観察器具と画像処理回路を直結しても良い。
マスターアーム500a、500bは複数のリンク機構で構成されている。リンク機構を構成する各リンクには例えばインクリメンタルエンコーダ等の位置検出器が設けられている。この位置検出器によって各リンクの動作を検知することで、マスターアーム500a、500bの操作量が入力処理回路700において検出される。
【0022】
なお、図1の例において、マスターアーム500aが操作者3の右手によって操作されるアームであり、マスターアーム500bが操作者3の左手によって操作されるアームである。このように、図1は、2本のマスターアーム500a、500bを用いて4本のスレーブアームを操作する場合の例を示している。この場合、マスターアームの操作対象のスレーブアームを適宜切り替える必要が生じる。このような切り替えは、例えば操作者3の操作部600の操作によって行われる。勿論、マスターアームの本数とスレーブアームの本数とを同数とすることで操作対象を1対1の対応とすれば、このような切り替えは不要である。
【0023】
操作部600は、マスターアーム500a、500bの操作対象のスレーブアームを切り替えるための切替ボタン(以下、切替ボタンと言う)や、マスターとスレーブの動作比率を変更するスケーリング変更スイッチ、システムを緊急停止させたりするためのフットスイッチ等の各種の操作部材を有している。操作者3によって操作部600を構成する何れかの操作部材が操作された場合には、対応する操作部材の操作に応じた操作信号が操作部600から入力処理回路700に入力される。
【0024】
入力処理回路700は、マスターアーム500a、500bからの操作信号及び操作部600からの操作信号を解析し、操作信号の解析結果に従って本医療用マニピュレータシステムを制御するための制御信号を生成してスレーブ制御回路400に入力する。
【0025】
画像処理回路800は、スレーブ制御回路400から入力された画像信号を表示させるための各種の画像処理を施して、操作者用ディスプレイ900a、助手用ディスプレイ900bにおける表示用の画像データを生成する。操作者用ディスプレイ900a及び助手用ディスプレイ900bは、例えば液晶ディスプレイで構成され、観察器具を介して取得された画像信号に従って画像処理回路800において生成された画像データに基づく画像を表示する。画像は二次元画像であれば簡便に表示でき、三次元画像であれば奥行き感を得ることができる。
【0026】
上述した図1の構成の医療用マニピュレータシステムにおいては、まず術具240a〜240dに対する滅菌処理が施される。本実施形態における滅菌処理としてはオートクレーブ滅菌やEOG滅菌等の各種の方式を用いることができる。
滅菌処理の後、操作者3は、スレーブアーム200cの先端に装着された観察器具を介して取り込まれた画像信号に基づいて操作者用ディスプレイ900aに表示された画像を見ながら、マスターアーム500a、500bを操作する。操作者3によるマスターアーム500a、500bの操作を受けて、マスターアーム500a、500bの各リンクに取り付けられた位置検出器からの検出信号が入力処理回路700に入力される。また、操作部600の切替ボタンが操作されることにより、操作部600からの操作信号が入力処理回路700に入力される。
【0027】
入力処理回路700は、操作部600の切替ボタンからの操作信号の入力回数をカウントしており、この操作信号の入力回数に従って、マスターアーム500a、500bの操作対象のスレーブアームの切り替えを行う。例えば、初期状態では、マスターアーム500aの操作対象をスレーブアーム200aとし、マスターアーム500bの操作対象をスレーブアーム200bとしておく。この初期状態において、切替ボタンが1回押された場合に、入力処理回路700は、マスターアーム500aの操作対象をスレーブアーム200cに切り替えるとともに、マスターアーム500bの操作対象をスレーブアーム200dに切り替える。以下、切替ボタンが1回押される毎に、入力処理回路700は、マスターアーム500aの操作対象をスレーブアーム200aとスレーブアーム200cとの間で切り替えるとともに、マスターアーム500bの操作対象をスレーブアーム200bとスレーブアーム200dとの間で切り替える。
【0028】
さらに、入力処理回路700は、マスターアーム500a、500bの何れかの位置検出器から検出信号が入力された場合に、検出信号の値からマスターアームの操作量を判別する。そして、入力処理回路700は、操作者3によって操作されたマスターアームの操作量を示す情報と、操作されたマスターアームの操作対象のスレーブアームを判別するための情報とを含む制御信号を生成し、生成した制御信号をスレーブ制御回路400に入力する。
【0029】
スレーブ制御回路400は、入力処理回路700からの制御信号に従って、操作者3によるマスターアームの操作に応じた動きをスレーブマニピュレータにさせるために必要な駆動量を演算する。そして、スレーブ制御回路400は、マスターアームの操作対象のスレーブアームの駆動量が演算した駆動量に達するように、操作対象のスレーブアームに入力する駆動信号の大きさや極性を制御する。
【0030】
また、スレーブ制御回路400は、操作者3によってフットスイッチが踏まれて入力処理回路700からシステムの緊急停止をさせる旨の制御信号が入力されたときには、スレーブアーム200a〜200dを停止させる。
図2は、本発明の各実施形態に係る医療用マニピュレータシステムの第2の例を示す図である。図2は、ハンディタイプの医療用マニピュレータシステムへの適用例を示している。ここで、ハンディタイプの医療用マニピュレータシステムとは、外科手術器具が装着されたアームを操作者3が直接操作するシステムのことを言うものとする。
【0031】
図2において、図1と同一又は対応する構成については図1と同一の参照符号を付すことで説明を省略する。ここで、図2に示すスレーブ制御回路400は、カメラアームとしてのアーム200cの動作をマスタースレーブ方式で制御するために設けられている。アーム200cについてもハンディタイプのアームとするのであれば、スレーブ制御回路400は不要である。
【0032】
ハンディアーム200fは、スレーブアーム200a〜200dと同様、手術台100の近傍に設置されている。ハンディアーム200fも、スレーブアーム200a〜200dと同様、先端側に接続される術具を駆動するための複数の動力部を有している。ハンディアーム200fの動力部は、ハンディアーム200fに設けられている図示しない操作部からの駆動信号に従って動力を発生する。また、図2に示すように、ハンディアーム200fの先端にも図1で示したのと同様のアダプタ220fが接続され、さらに、アダプタ220fの先端には術具240fが接続される。
【0033】
ハンディアーム200f、アダプタ220f、術具240fは、それぞれ、別のハンディアーム200g、アダプタ220g、術具240gと交換可能になされている。このような術具の交換作業は、例えば助手2によって行われる。
図2で示した構成の医療用マニピュレータシステムにおいては、操作者3がハンディアーム200fの図示しない操作部を操作することにより、ハンディアーム200fや術具240fが駆動される。その他の動作については図1で説明した動作が適用される。
【0034】
以下、本実施形態に係る手術用動力アダプタについてさらに説明する。図3は、本発明の第1の実施形態に係る手術用動力伝達アダプタの構成を示す図である。なお、図3のアダプタは、図1及び図2の何れの構成の医療用マニピュレータシステムにも適用可能である。また、図3は、アダプタの周辺の構成のみを示しており、例えばアーム200自体が有している関節については図示を省略している。
【0035】
図3に示すアーム200は、アーム本体201と、動力部202a,202bと、直動変換機構203a,203bと、ロッド204a,204bと、を有している。
アーム本体201は、金属材料や樹脂材料等から構成されており、動力部202a,202bと、直動変換機構203a,203bと、ロッド204a,204bとを内部に収容するための空間が形成されている。
【0036】
動力部202a、202bは、例えば、位置検出器や減速器等のサーボ機構を有するサーボモータとして構成されている。これら動力部202a、202bは、それぞれ、配線205a、205bを介してスレーブ制御回路400に電気的に接続されており、スレーブ制御回路400によってその動作が制御される。なお、図3では、配線205a、205bが1本の配線として図示されている。実際には、配線205a、205bは、駆動信号を伝送するための配線、位置検出器の検出信号を伝送するための配線、アースのための配線等の、複数の配線から構成されているものである。また、図3に示すアーム200は、アーム本体201内を挿通するように配置されたロッドを押し引きすることによって術具240の関節を駆動させるように構成されている。
【0037】
直動変換機構203a、203bは、それぞれ、ボールねじ等を有して構成され、動力部202a、202bのモータの回転動力を直動運動に変換する。直動機構としてのロッド204a、204bは、直動変換機構203a、203bに連結され、直動変換機構203a、203bでそれぞれ変換された直動動力をアダプタ220に伝達する。
【0038】
アダプタ220は、アダプタ本体221と、ロッド222a,222bと、を有している。
アダプタ本体221は、金属材料や樹脂材料等の滅菌処理に耐え得る材料(例えば、オートクレーブ滅菌の場合には高温高圧に耐え得る材料を用いる)から構成されており、動力伝達部としてのロッド204a,204bを内部に収容するための中空構造を有している。また、アダプタ本体221は、アーム本体201に対して着脱自在に構成されるとともに、術具本体241に対しても着脱自在に構成されている。アーム本体201又は術具本体241にアダプタ本体221が装着された際には、例えばアダプタ本体221に設けられた図示しない係止機構によってアダプタ本体221が保持される。また、本実施形態では、図3に示すように、ドレープ300に形成された開口部にてアダプタ本体221を保持するようにドレープ300が構成されている。例えば、図3に示すようにドレープ300の開口部にはゴムリング301が形成されており、このゴムリング301の弾性によってアダプタ本体221が保持される。なお、ドレープ300の開口部においてアダプタ本体221がより確実に保持されるよう、アダプタ本体221に溝等を形成しておくようにしても良い。
【0039】
このような構成において滅菌処理を行った場合、アダプタ本体221は、滅菌処理後はほぼ全て清潔域となるが、使用時などに不潔域と接触した部分は不潔域になっていく。このようにして、ドレープ300を境としてアダプタ本体221が清潔域と不潔域とに分けられる。
【0040】
動力伝達部としてのロッド222a、222bは、それぞれ、アーム本体201にアダプタ本体221が装着された際にアーム本体201内のロッド204a、204bと連結されるように構成されている。これらのロッド222a、222bはロッド204a、204bの直動運動に伴って直動運動し、動力部202a、202bで発生した動力を術具240に伝達する。
【0041】
術具240は、術具本体241と、ロッド242a,242bと、ワイヤ243a,243bと、関節244a、244bと、先端部245と、を有している。関節244aと244bは直交関節である。
術具本体241は、金属材料や樹脂材料等の滅菌処理に耐え得る材料から構成されており、ロッド242a,242bと、ワイヤ243a,243bとを内部に収容している。
【0042】
ロッド242a、242bは、それぞれ、アダプタ本体221に術具本体241が装着された際にアダプタ本体221内のロッド222a、222bと連結されるように構成されている。これらのロッド242a、242bはロッド222a、222bの直動運動に伴って直動運動する。ワイヤ243a、243bは、ロッド242a、242bに取り付けられており、ロッド222a、222bの直動運動に伴って先端部245を押し引きする。関節244a、244bは、術具本体241と先端部245との間に介在されており、ワイヤ243a、243bの動作に伴って回転する。この関節244a、244bの回転に案内されて各種の外科出術器具や観察器具が装着された先端部245が湾曲駆動される。
【0043】
図3に示す構成において、例えば、ロッド204aを図示矢印B方向に駆動させ、ロッド204bを図示矢印A方向に駆動させた場合、ロッド204aの図示矢印B方向の直動運動に伴ってロッド222a、242aもB方向に直動運動する。同様に、ロッド204bの図示矢印A方向の直動運動に伴ってロッド222b、242bもA方向に直動運動する。これにより、ロッド242aに取り付けられたワイヤ243aは先端部245を牽引するように駆動され、ロッド242bに取り付けられたワイヤ243bは先端部245を押し出すように駆動される。このため、先端部245は、図示矢印C方向及び紙面表方向(図示せず)に駆動される。逆に、ロッド204aを図示矢印A方向に駆動させ、ロッド204bを図示矢印B方向に駆動させた場合には、先端部245は、図示矢印D方向及び紙面裏方向(図示せず)に駆動される。このようにして先端部245をピッチ方向及びヨー方向に沿って駆動させることが可能となる。
【0044】
なお、図3の例では、先端部245をピッチ方向およびヨー方向に駆動させる例についてのみ示している。しかしながら、先端部245の駆動方向はこれらの方向に限るものではなく、動力部、直動変換機構、ロッドの数を増やすようにすれば、駆動方向をより多くすることも可能である。また、回転機構等を設けるようにすれば、先端部245を回転させることも可能である。
【0045】
ここで、上述したように、アダプタ220のロッド222aは、アーム200のロッド204aと術具240のロッド242aの両方に連結され、これらのロッドは一体的に駆動されるようになっている。同様に、アダプタ220のロッド222bは、アーム200のロッド204bと術具240のロッド242bの両方に連結され、これらのロッドは一体的に駆動されるようになっている。
【0046】
本実施形態では、ロッド222a、ロッド204a、ロッド242aが牽引方向(図示矢印B方向)に向かって最大まで直動運動した場合であっても、ロッド222aにおけるロッド242aとの連結部である第1の部位がアダプタ本体221のアーム200側の壁面(即ち不潔域)と接触せず、かつ、ロッド222a、ロッド204a、ロッド242aが押出方向(図示矢印A方向)に向かって最大まで直動運動した場合であっても、ロッド222aにおけるロッド204aとの連結部である第2の部位がアダプタ本体221の術具240側の壁面(即ち清潔域)と接触しないように、ロッド222aの直動運動の範囲を設定する。ロッド222bの直動運動の範囲についても同様にして設定する。さらに、前記第1の部位と第2の部位の可動範囲も交錯しないようにする。
【0047】
実際には、術具240の種類毎に要求される先端部245の可動範囲が異なり、この先端部245の可動範囲によってロッド222a、222bの駆動範囲も異ならせる必要がある。このため、術具240の種類に応じてロッド222a、222bの駆動範囲を適宜設定したアダプタ220を用いることが望ましい。例えば、先端部245の可動範囲を広くする場合には、その分、ロッド222a、222bの駆動範囲を広くする必要がある。このため、まずは、先端部245の可動範囲の条件を満足するようにロッド222a、222bの駆動範囲を設定する。そして、第1の部位がアダプタ本体221における不潔域と接触せず、第2の部位がアダプタ本体221における清潔と接触しないように、アダプタ本体221におけるロッドの直動運動の方向に沿った寸法Lを設定する。
【0048】
以上説明したように、本実施形態においては、アーム200の駆動時において術具240のロッド242a、242bがアダプタ本体221のアーム200側の壁面(不潔域)と接触せず、アーム200のロッド204a、204bがアダプタ本体221の術具側の壁面(清潔域)と接触しないように、ロッド222a、ロッド222bの直動運動の範囲を設定している。さらに、前記第1の部位と第2の部位の可動範囲も交錯しないようにする。このため、動力を直動運動によって伝達する医療用マニピュレータシステムにおいて、アーム200の駆動時に清潔域と不潔域とが交錯することがない。これにより、術具240を清潔な状態に保つことが可能である。また、アーム200と術具240との間にアダプタ220を介在させることにより、術具240とアダプタ200を滅菌処理することで、滅菌処理に耐えられない構造を有するアーム200と組み合わせて手術に使用することが可能である。さらに、アダプタ220は、動力部で発生した動力を直動運動によって伝達するものであるため、細経化が比較的容易である。
【0049】
以下、第1の実施形態の変形例について説明する。図4(a)は、第1の実施形態の第1の変形例のアダプタ220の構成を示す図である。図4(a)に示すように、第1の変形例のアダプタ220のアダプタ本体221には、ロッド222a、221bが収容されるとともに、滅菌処理のための滅菌空間としても機能する中空部2211a、2211bが形成されている。さらに、アダプタ本体221には、中空部2211a、2211bに滅菌用ガス(オートクレーブ滅菌の場合には高温水蒸気、ガス滅菌の場合にはEOGガス)を流入させるための通気孔2212a、2212bが形成されている。このような通気孔2212a、2212bを形成しておくことにより、滅菌処理時において、アダプタ本体221の表面だけでなく、アダプタ本体221の内部のほぼ全域を滅菌処理することが可能となる。
【0050】
さらに、図4(a)に示すように、ロッド222aには、ロッド222aの駆動範囲を規制するとともに、中空部2211aにおける清潔域と不潔域とを分割するための分割部としても機能する隔壁2221a、2222aがロッド222aと一体的に形成されている。同様に、ロッド222bには、ロッド222bの駆動範囲を規制するとともに、中空部2211bにおける清潔域と不潔域とを分割するための分割部としても機能する隔壁2221b、2222bがロッド222bと一体的に形成されている。
【0051】
隔壁2221a、2222aは、中空部2211aを隙間なく遮蔽するような形状を有して形成されている。また、隔壁2221aと隔壁2222aとは所定の間隙を有するようにロッド222aに形成されている。このような構成により、隔壁2221aの術具240側の面が隔壁2222aと接触せず、かつ、隔壁2222aのアーム200側の面が隔壁2221aと接触しないようになっている。隔壁2221b、2222bについても隔壁2221a、2222aと同様に形成されている。
【0052】
図4(a)に示すような構成において、滅菌処理の際には、ロッド222a、221bをアーム200側に移動させる。これにより、中空部2211a、2211bの容積を大きくしてアダプタ本体221内の広い範囲を滅菌処理することが可能である。
【0053】
また、アーム200の駆動時においては、隔壁2221a及び隔壁2221bによってロッド222a、222bの押出方向の直動運動が規制され、隔壁2222a及び隔壁2222bによってロッド222a、222bの牽引方向の直動運動が規制されるので、ロッド222a、222bの直動運動による清潔域と不潔域との交錯が生じない。
【0054】
図4(b)は、第1の実施形態の第2の変形例のアダプタ220の構成を示す図である。図4(a)は、ロッド222a、222bをアダプタ本体221内に収容した状態で滅菌処理を行うようにしている。このため、アダプタ本体221内の中空部2211a、2211bの全範囲を滅菌処理することはできない。これに対し、図4(b)に示すようにしてアダプタ本体221を分割可能なように構成すれば、ロッド222a、222bを取り外してから滅菌処理を施すことも可能である。この場合には、アダプタ本体221内の中空部2211a、2211bの全範囲を滅菌処理することが可能となる。なお、図4(b)の構成の場合には、アダプタ220をアーム200から取り外した状態で滅菌処理を行うことが望ましい。これは、より確実な滅菌をおこなうためである。
【0055】
図5は、ロッド間の連結構造の変形例を示した図である。なお、図5は、ロッド242aとロッド222aの連結部の構造を示しているが、ロッド242bとロッド222bの連結部についても同様の構造を持たせて良い。ロッド222aとロッド204aとの連結部及びロッド222bとロッド204bの連結部についても同様である。
【0056】
上述したように、本実施形態におけるアダプタ220のロッドは、アーム200のロッドと術具240のロッドの両方に連結され、このような構成によってアダプタ220のロッドと、アーム200のロッドと、術具240のロッドとは一体的に直動されるようになっている。このためのロッドの連結のための構成は、種々のものが考えられる。
【0057】
例えば、図5(a)に示すように、ロッド242aの先端部を鉤状に成形しておくとともに、ロッド222aの先端部をロッド242aの先端部と係合するような鉤状に成形しておく。このような構造を持たせることにより、アダプタ220に術具240が装着された際には、図5(b)に示すようにしてロッド242aの先端部とロッド222aの先端部とが係合してロッド242aとロッド222aとが連結される。
【0058】
この他、例えば、アダプタ220のロッドとアーム200のロッドとの間、及びアダプタ220のロッドと術具240のロッドとの間を磁石によって連結する構成としても良い。この場合には、アダプタ220のロッドの先端に磁石を取り付けておくとともに、アーム200のロッド及び術具240を鉄等の強磁性金属で構成しておけば良い。この他、電磁石等の電磁的な手法によって連結するようにしたり、アダプタ220のロッドとアーム200のロッドとの間に接着剤を塗布しておき、該接着剤を用いて両者を連結したりする等、連結の手法は各種の手法が適用され得る。
【0059】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態における手術用動力伝達アダプタは、第1の実施形態で説明した構成に加えてさらに術具の種類を特定するための情報を記憶できるようにしたものである。図6は、本発明の第2の実施形態に係る手術用動力伝達アダプタの構成を示す図である。図6に示すように、本実施形態のアダプタ220は、メモリ223を有している。このメモリ223には配線224が接続されている。メモリ223の配線224は、アダプタ220がアーム200に接続された際に、アーム200に設けられた配線206と結線されるように構成されている。配線206は、アーム本体201から引き出されており、動力部202a、202bを駆動するための配線205a、205bとともにスレーブ制御回路400に接続されている。この他の構成については第1の実施形態で説明した構成と同様の構成を適用可能である。
【0060】
術具識別部としてのメモリ223は、例えばEEPROM等の電気的に情報を読み書きできるメモリであって、術具240の種類毎の制御パラメータを記憶している。この制御パラメータとしては、例えば術具240の種類を示す情報が含まれる。
さらに、本実施形態のアダプタ本体221には、図7(a)に示すように、所定の形状のキーパターン部2213が形成されている。また、本実施形態の術具本体241には、図7(a)に示すように、所定の形状のキーパターン部2411が形成されている。ここで、キーパターン部2411は、同一種類の術具240については同一形状となるように形成しておく。このようなキーパターン部2213とキーパターン部2411とによっても術具識別部が構成されている。
【0061】
このような構成により、キーパターン部2213と対応したキーパターン部2411を有する術具本体241のみがアダプタ本体221に装着可能となる。例えば、図7(a)は、アダプタ本体221にキーパターン部2213としての突起部が形成され、術具本体241にアダプタ本体221に形成された突起部と嵌り合う構造を有する溝部がキーパターン部2411として形成されている例を示している。この場合には、図7(b)に示すようにして、キーパターン部2213とキーパターン部2411とが嵌り合ってアダプタ本体221に術具本体211が装着される。
【0062】
本実施形態におけるスレーブ制御回路400は、メモリ223に記憶された制御パラメータを読み出して術具240の種類を特定し、特定した術具240に対応した制御プログラムに従って術具240の動作制御を行う。
以上説明したように、第2の実施形態によれば、アダプタ220にメモリ223を設けたことにより、スレーブ制御回路400において術具240の種類を特定し、特定した術具240に対して最適な制御を行うことが可能となる。第1の実施形態でも説明したように、アダプタ220は、ロッド222a、222bを収容するだけの比較的簡易な構造であるため、メモリ223を搭載するだけの空間を確保しやすく、メモリ223を搭載してもアダプタ本体221がそれほど大型化することはない。
【0063】
また、特定の形状のキーパターン部2411が形成されている術具240のみをアダプタ220に装着可能とすることにより、アダプタ220において術具240の種類を識別する必要がない。このため、アダプタ220が対応している術具240の制御パラメータのみをメモリ223に記憶させておけば良く、メモリ223の容量を少なくすることが可能である。また、アダプタ220において術具240の種類を識別する必要がないため、術具240とアダプタ220との間の電気接点等を設ける必要もない。
【0064】
また、アダプタ220に装着可能な術具240を制限することにより、例えばスレーブ制御回路400が対応した制御プログラムを有していない術具240が装着されて誤動作が発生する等の不具合も回避できる。
ここで、術具240の種類をアダプタ220において識別できるように構成しても良い。例えば、複数の形状のキーパターン部2213をアダプタ本体221に設けるようにすれば、複数の術具240の種類を機械的に判別することが可能である。この場合において、キーパターン部2213とキーパターン部2411との接触時にキーパターン部2213の形状に応じた識別信号がスレーブ制御回路400に出力されるように構成しておくとともに、複数の種類の術具240のそれぞれに対応した制御パラメータをメモリ223に記憶させておく。このような構成とすれば、キーパターン部2213からの識別信号に応じて術具240の種類を判別し、判別した術具240の種類に対応した制御パラメータをメモリ223から読み出してアーム200の制御を行うようにスレーブ制御回路400を構成することも可能となる。
【0065】
さらに、術具240とアダプタ220との間に電気接点を設けるようにして、電気的に術具240の種類を判別できるようにしても良い。ただし、この場合には、滅菌処理の際に電気接点が滅菌用ガスにさらされる可能性があるため、滅菌処理に耐え得る金属材料を用いて電気接点を構成する等の滅菌処理に対する対策を施しておくことがより望ましい。
【0066】
ここで、図6に示した構成において、アダプタ220におけるメモリ223を配置する位置については特に限定されるものではない。しかしながら、アダプタ220は滅菌用ガスにさらされるものであるため、メモリ223はアダプタ本体221において滅菌用ガスにさらされることのない部位に配置したり、例えばアダプタ本体221に埋め込んだり、コーティングを施しておく、などが望ましい。
【0067】
また、図6の構成では、メモリ223を設けた分だけ図3の構成よりも配線数が増加する。これに対し、例えば配線206、配線205a、配線205bをバンド等で束ねた状態でスレーブ制御回路400に接続するようにすれば配線数の増加による配線面積の増大等の影響を軽減することも可能である。
【0068】
以下、第2の実施形態の変形例について説明する。図8は、本発明の第2の実施形態の変形例のアダプタの構成を示す図である。図6の例では、メモリ223に接続された配線224をアーム200から引き出す構成となっている。これに対し、図8は、メモリ223に接続された配線224をアダプタ220のアダプタ本体221から引き出すものである。図8に示すような構成とすることにより、アーム200の配線数を減らすことが可能である。また、配線224と、配線205aや配線205bとの距離を十分保つことが可能であるため、配線205aや配線205bの信号伝送に伴って配線224にノイズが混入する可能性も低減される。
【0069】
図6及び図8は、アダプタ220におけるメモリを設けた例を示している。これに対し、図9及び図10は、術具240にメモリ246を設けた例を示している。図9は、図6に対応しており、メモリ246の配線をアーム200から引き出す例である。図9に示すように、術具240にはメモリ246が設けられている。メモリ246には、術具240の製造時の製造ばらつき等による駆動量のずれを補正するための校正情報や術具240の使用時間、使用回数といった術具240毎の固有情報を記憶させておく。なお、メモリ246もメモリ223と同様、術具本体241における滅菌用ガスにさらされることのない部位に配置することが望ましい。
【0070】
メモリ246の配線247は、術具240がアダプタ220に接続された際に、アダプタ220に設けられた配線224と結線されるように構成されている。また、配線224は、アダプタ220がアーム200に接続された際に、アーム200に設けられた配線206と結線されるように構成されている。さらに、配線206は、アーム本体201から引き出されており、動力部202a、202bを駆動するための配線205a、205bとともにスレーブ制御回路400に接続されている。
【0071】
図9に示すようにして術具240にメモリ246を設けることにより、術具毎に固有の情報をメモリ246に記憶させて使用することが可能となる。これにより、術具240の個々の仕様等に応じた最適な駆動制御をスレーブ制御回路400において行うことが可能となる。また、術具240の使用時間や使用回数をメモリ246に記憶させておくことにより、個々の術具240のメンテナンス時間の管理等を行うことも可能となる。
【0072】
図10は、図8に対応しており、メモリ246の配線をアダプタ220から引き出す例である。この場合には、図10に示すように、メモリ246の配線247は、術具240がアダプタ220に接続された際に、アダプタ220に設けられた配線224と結線されるように構成されている。さらに、配線224は、アダプタ220のアダプタ本体221から引き出されてスレーブ制御回路400に接続されている。図10に示すような構成とすることにより、術具毎に固有の情報をメモリ246に記憶させて使用することが可能となるのに加えて、アーム200の配線数を減らすことが可能である。また、配線224と、配線205aや配線205bとの距離を十分保つことが可能であるため、配線205aや配線205bの信号伝送に伴って配線224にノイズが混入する可能性も低減される。
【0073】
以上実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形や応用が可能なことは勿論である。
さらに、上記した実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件の適当な組合せにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、上述したような課題を解決でき、上述したような効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成も発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0074】
100…手術台、200a〜200d…スレーブアーム、201…アーム本体、202a,202b…動力部、203a,203b…直動変換機構、204a,204b…ロッド、205a,205b,206…配線、220a〜220d…手術用動力伝達アダプタ(アダプタ)、221…アダプタ本体、222a,222b…ロッド、223…メモリ、224…配線、240a〜240d…術具、241…術具本体、242a,242b…ロッド、243a,243b…ワイヤ、244a,244b…関節、245…先端部、246…メモリ、300…ドレープ、400…スレーブ制御回路、500a,500b…マスターアーム、600…操作部、700…入力処理回路、800…画像処理回路、900a…操作者用ディスプレイ、900b…助手用ディスプレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
術具と該術具を駆動するための動力部との間に介在されて前記術具と前記動力部とを接続する手術用動力伝達アダプタであって、
滅菌処理が施される清潔域に接する第1の部位と前記滅菌処理が施されない不潔域に接する第2の部位とを有し、前記動力部で発生した動力を前記術具に伝達するように直動運動する動力伝達部を具備し、
前記動力伝達部の直動運動の範囲は、該動力伝達部が直動運動しても、前記第1の部位が前記清潔域に位置し、かつ、前記第2の部位が前記不潔域に位置するように設定されていることを特徴とする手術用動力伝達アダプタ。
【請求項2】
前記第1の部位は前記術具と接する部位であり、前記第2の部位は前記動力部と接する部位であることを特徴とする請求項1に記載の手術用動力伝達アダプタ。
【請求項3】
前記滅菌処理を施すための滅菌空間を有するように前記動力伝達部を収容するアダプタ本体を具備することを特徴とする請求項1に記載の手術用動力伝達アダプタ。
【請求項4】
前記滅菌処理は、前記動力伝達部を前記アダプタ本体における前記第2の部位の側に直動運動させた状態で行われることを特徴とする請求項3に記載の手術用動力伝達アダプタ。
【請求項5】
前記滅菌処理は、前記動力伝達部を前記アダプタ本体から取り外した状態で行われることを特徴とする請求項3に記載の手術用動力伝達アダプタ。
【請求項6】
前記動力伝達部には、該動力伝達部の前記直動運動の範囲を規制し、かつ、前記アダプタ本体内において前記清潔域と前記不潔域とを分割するための分割部が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の手術用動力伝達アダプタ。
【請求項7】
前記術具を識別するための術具識別部をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の手術用動力伝達アダプタ。
【請求項8】
前記術具識別部は、前記術具を識別するための情報を記憶したメモリであることを特徴とする請求項7に記載の手術用動力伝達アダプタ。
【請求項9】
前記メモリの配線と前記動力部の配線とが束ねられた状態で前記メモリ及び前記動力部の制御回路に接続されていることを特徴とする請求項8に記載の手術用動力伝達アダプタ。
【請求項10】
前記メモリの配線と前記動力部の配線とが分離された状態で前記メモリ及び前記動力部の制御回路に接続されていることを特徴とする請求項8に記載の手術用動力伝達アダプタ。
【請求項11】
前記術具識別部は、特定の種類の前記術具のみを当該手術用動力伝達アダプタと装着可能とするように当該手術用動力伝達アダプタに形成された装着部であることを特徴とする請求項7に記載の手術用動力伝達アダプタ。
【請求項12】
前記術具識別部は、前記術具を識別するための情報を記憶したメモリと、特定の前記術具のみを当該手術用動力伝達アダプタと装着可能とするように当該手術用動力伝達アダプタに形成された装着部であることを特徴とする請求項7に記載の手術用動力伝達アダプタ。
【請求項13】
請求項1乃至12の何れかに記載の手術用動力伝達アダプタと、
前記手術用動力伝達アダプタに接続され、発生した動力が前記動力伝達部の直動運動によって伝達される動力部と、
前記手術用動力伝達アダプタに接続され、前記動力伝達部の直動運動によって伝達された動力によって駆動される術具と、
前記動力部に接続され、前記動力部を制御することにより前記術具の動作を制御する制御回路と、
を有することを特徴とする医療用マニピュレータシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−55377(P2012−55377A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199231(P2010−199231)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】