説明

手術顕微鏡

【課題】複数の観察者による観察が可能な手術顕微鏡を提供する。
【解決手段】1つの対物光学系3を共有する第1及び第2立体顕微鏡部10、20を備え、対物光学系3の後方に、対物光学系3からの共通光路を第1立体顕微鏡部10及び第2立体顕微鏡部20に向かって分岐するビームスプリッタ4が設けられる。ビームスプリッタ4は、共通光路の一部を第1立体顕微鏡部10に向けて透過させると共にその残りを第2立体顕微鏡部20に向けて反射する反射透過面7を含む分岐部5と、分岐部5の両側に設けられ、共通光路を第1立体顕微鏡部10のみに導く透過部6とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は同一の観察対象に対して複数の観察者による観察が可能な手術顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な手術顕微鏡は、主に、観察対象である患部からの光を取り入れる対物光学系と、この対物光学系の後方に設置されるズーム光学系と、このズーム光学系の後方に設置される接眼部とを有する。接眼部は左目用と右目用に独立に設けられ、患部からの放出角に依存した光束がそれぞれに入射する。そのため、両目で観察した場合には視差が生じて立体的な像を見ることができる。
【0003】
脳外科手術などの微小な組織を操作する手術では、患部を立体的に観察できる上述の手術(立体)顕微鏡が多用されている。さらに、このような手術では術者が患部を観察するだけでなく、その患部を助手等が観察しつつ手術を補助することで患部の処置を効率良く行うことができる。この点に関して特許文献1は、複数の観察者が同一の患部を観察可能にした立体顕微鏡を開示しており、各観察者は倍率が異なった観察を独立して行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−208979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
術者と助手の両者が立体顕微鏡を用いて患部を観察する場合、それぞれの観察倍率を独立に変更できることは手術の効率的に進めるために有利である。ところが、特許文献1の立体顕微鏡では対物レンズと観察対象である患部との間に、2本の観察光路に分岐するハーフミラーが設けられており、分岐した観察光路のそれぞれに対物レンズを設けているため、実質的には2台の立体顕微鏡と同じ数の光学系が必要になり高価になる。
【0006】
また、光路を分岐する上では、対物レンズとその背後に位置するズーム光学系との間にビームスプリッタを設けることが考えられる。しかしながら、これらの間隔は光学的に広げることができず、実際には従来のビームスプリッタを設けることが困難であった。
【0007】
本発明は、このような問題に着目して成されたものであり、同一の観察対象に対して複数の観察者による観察が可能な手術顕微鏡の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は手術顕微鏡であって、1つの対物光学系を共有すると共に、それぞれが左目用及び右目用の光路を有する第1及び第2立体顕微鏡部を備え、前記対物光学系の後方に、前記対物光学系からの共通光路を前記第1立体顕微鏡部及び前記第2立体顕微鏡部に向かって分岐するビームスプリッタが設けられ、前記ビームスプリッタは、前記共通光路の一部を前記第1立体顕微鏡部に向けて透過させると共にその残りを前記第2立体顕微鏡部に向けて反射する反射透過面を含む分岐部と、前記分岐部の両側に設けられ、前記共通光路を前記第1立体顕微鏡部のみに導く透過部とを有し、前記反射透過面は、前記ビームスプリッタにおける前記共通光路の入射面から見て、矩形状に形成されており、前記対物光学系の光軸に沿った前記ビームスプリッタの高さは、前記分岐部と前記透過部の配列方向に沿った前記ビームスプリッタの幅よりも小さいことを要旨とする。
【0009】
前記第1及び第2立体顕微鏡部は前記対物光学系の光軸を中心軸として互いに回転可能に接続されていることが好ましい。
【0010】
また、透過部の入射面又は出射面に、反射透過面と同じ透過率のNDフィルタを設けてもよい。
【発明の効果】
【0011】
ビームスプリッタの一部を透過部とすることで全体の形状が扁平になり、対物レンズ光学系とズーム光学系との間に設置することが可能になる。従って、1つの対物光学系を共有しつつ、独立に倍率を変えることのできる2つの立体顕微鏡部を有する手術顕微鏡を提供することができる。
【0012】
また、第1及び第2立体顕微鏡部を対物光学系の光軸を中心軸として互いに回転可能にすることで、術者と助手の位置関係に制限が無くなり、手術が円滑になる。
【0013】
NDフィルターを設けることで、分岐部と透過部の透過率の差によって生じる明度ムラが無くなり、自然な観察像が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る手術顕微鏡の概略構成図。
【図2】手術顕微鏡を示す斜視図。
【図3】ビームスプリッタを示す断面図示を含む平面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1〜図3は本実施形態に係る手術顕微鏡1を示す図である。手術顕微鏡1は、図示せぬスタンド装置の先端リンクに吊り下げ状態で支持されている。
【0016】
手術顕微鏡1の下部には光取入口2が設けられ、この光取入口2の上部に対物光学系3が設けられている。光取入口2はは図示せぬカバーガラスが取付けられている。手術顕微鏡1は、この対物光学系3を共有する第1立体顕微鏡部10及び第2立体顕微鏡部20によって構成される。第1立体顕微鏡部10及び第2立体顕微鏡部20は、例えば図1の接合面Kにおいて互いに回転可能に接続されている。このため、第2立体顕微鏡部20は図2に示すように、対物光学系3の光軸3aを中心軸として矢印Cの方向に回動することができる。なお、この接続には周知の構造・部材を用いる。また、詳細を後述する対物光学系3及びビームスプリッタ4は第2立体顕微鏡部20内に固定されている。従って、第2立体顕微鏡部20の回転時にはこれらも回転することになる。
【0017】
(第1立体顕微鏡部)
第1立体顕微鏡部10について説明する。
【0018】
患部Tには図示せぬ光源からの光が照射され、この反射光(又は蛍光)が対物光学系3に取り込まれる。対物光学系3は取り込んだ光を、平行光として後方(図1、2における上方)に出射する。この平行光は第2立体顕微鏡部20と共通の光路を形成する。
【0019】
対物光学系3の後方にはビームスプリッタ4が設けられている。ビームスプリッタ4は、分岐部5とその両側に設けられた透過部6とを有する。これらは一体的に形成され、全体として扁平な角柱状となっている。なお、この材質は周知のガラスである。透過部6に入射した平行光はそのまま直進し、ビームスプリッタ4の上方に設けられた結像光学系11に入射する。一方、分岐部5は、その内部に反射透過面7を有しており、平行光の一部はこの反射透過面7による反射によって第2立体顕微鏡部20の結像光学系21に導かれる。残りの平行光は反射透過面7を透過して直進し、透過部6を通過する平行光と同様に結像光学系11に入射する。
【0020】
結像光学系11は、ズーム光学系12や接眼光学系13によって構成されている。結像光学系11は左目用の光路L1を形成する結像光学系11Lと右目用の光路R1を形成する結像光学系11Rに分かれており、これらは光軸3aに沿って互いに平行に位置している。各結像光学系11R、11Lは対物光学系3の光軸3aを挟む形で対称に設けられており、対物光学系3からの平行光がそのまま入射する。具体的には、図3に示す領域A1付近を通過した平行光が結像光学系11Lに、領域A2付近を通過した平行光が結像光学系11Rにそれぞれ入射する。従って、各結像光学系11L、11Rに入射する光は、観察対象である患部Tからの反射光や蛍光の放出角の情報を失っておらず、観察者が接眼光学系13、13から観察した場合には視差が生じて立体的な像を観ることができる。
【0021】
ビームスプリッタ4について詳述する。上述の通り、ビームスプリッタ4は、分岐部5とその両側に設けられた透過部6と有する。分岐部5と透過部6は光軸3aに垂直な平面上に配列していており、これらは一体に形成されている。透過部6を設けることによって、ビームスプリッタ4の形状は全体として扁平になり、対物光学系3の光軸3aに沿った高さHは、分岐部5と透過部6の配列方向に沿った幅よりも小さい。具体的には、例えば高さHが24mmで、幅Wが45mmである。
【0022】
図3に示すように、ビームスプリッタ4は、対物光学系からの平行光が入射する入射面4aと、直進した平行光が出射する出射面4bと、反射透過面7によって反射した光が出射する出射面4cとを有する。このうち、出射面4bは入射面4aに対して平行であり、出射面4cは入射面4aに対して垂直である。
【0023】
分岐部5の反射透過面7は入射面4aに対して45°に且つ出射面4cに向かって傾斜している。反射透過面7は例えば誘電多層膜によって形成され、誘電多層膜は斜面全体に形成される。従って、入射面から見て、反射透過面7は矩形状に形成されることになる。
【0024】
本実施形態のビームスプリッタ4は、例えば、直角プリズムの反射面を貼り合わせて立方体状に形成した所謂キューブタイプのビームスプリッタにおいて、対向する2つの平面を、互いの方向に向かって研磨することで形成できる。
【0025】
尚、図3に示すように、各結像光学系11L、11Rに入射する光の一部は反射透過面7を透過しているため、観察像に明度のムラが生じる場合がある。そこで、この明度ムラを無くすために、入射面4a又は出射面4bの何れかの透過部6を構成する面に、反射透過面7と同じ透過率のND(Neutral Density)フィルタ8を設けてもよい。これにより自然な観察が可能になる。
【0026】
(第2立体顕微鏡部)
次に、第2立体顕微鏡部20について説明する。
【0027】
第2立体顕微鏡部20は、ビームスプリッタ4によって反射された光による結像を行う点が第1立体顕微鏡部10と異なるだけで、その他の構成は第1立体顕微鏡部10と同様である。即ち、第1立体顕微鏡部10と同様に、第2立体顕微鏡部20も患部Tからの反射光(又は蛍光)を対物光学系3で取り込み、この光のうち、ビームスプリッタ4によって反射されたものを結像光学系21で結像する。
【0028】
第2立体顕微鏡部20の結像光学系21も、左目用の光路L2を形成する結像光学系21Lと右目用の光路R2を形成する結像光学系21Rに分かれており、これらは参照軸3bに沿って互いに平行に位置している。なお、参照軸3bは、対物光学系3の光軸3aが交わる反射透過面7の中心点を通る軸であって、その方向は光軸3a上を進行する光が反射透過面7によって鏡面反射した後の進行方向に等しい。図2に示す形態では、反射透過面7が光軸3aに対して45°傾斜しているので、参照軸3bは光軸3aに対して垂直である。
【0029】
各結像光学系21L、21Rはこの参照軸3bを挟む形で対称に設けられており、反射透過面7からの平行光がそのまま入射する。具体的には、図3に示す領域B1、B2付近で反射した平行光が各結像光学系21L、21Rに入射する。従って、各結像光学系21L、21Rに入射する光は、観察対象である患部Tからの反射光や蛍光の放出角の情報を失っておらず、観察者が接眼光学系23、23から観察した場合には視差が生じて立体的な像を観ることができる。
【0030】
なお、第2立体顕微鏡部20が第1立体顕微鏡部10に対して回転可能に接続されているので、第2立体顕微鏡部20の回転に合わせて、第1立体顕微鏡部10の領域A1、A2は移動する。なお、第2立体顕微鏡部20を90°回転させると、第1立体顕微鏡部10用の領域はB1、B2のようになり、第1立体顕微鏡部20の領域はA1、A2のようになるが、この場合でも、両方とも前述のように視差が生じて立体的な像を観ることができる。
【0031】
以上説明したように、本実施形態によれば、ビームスプリッタ4の一部を透過部6とすることで全体の形状が扁平になったため、狭小であった対物レンズ光学系3とズーム光学系12との間でも光路を分岐することが可能になる。従って、1つの対物光学系3を共有しつつ、独立に倍率を変えることのできる手術顕微鏡を提供することができる。
【0032】
なお、本発明に係る第1立体顕微鏡部10及び第2立体顕微鏡部20内の各結像光学系11、21の光路は、図1及び2に示す直線のみに限られない。即ち、必要に応じてプリズムやミラー等により光路を屈曲させてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1…手術顕微鏡、2…光取入口、3…対物光学系、3a…対物光学系の光軸、3b…参照軸、4…ビームスプリッタ、5…分岐部、6…透過部、7…反射透過面、8…NDフィルタ、10…第1立体顕微鏡部、11…結像光学系、20…第2立体顕微鏡部、21…結像光学系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの対物光学系を共有すると共に、それぞれが左目用及び右目用の光路を有する第1及び第2立体顕微鏡部を備え、
前記対物光学系の後方に、前記対物光学系からの共通光路を前記第1立体顕微鏡部及び前記第2立体顕微鏡部に向かって分岐するビームスプリッタが設けられ、
前記ビームスプリッタは、前記共通光路の一部を前記第1立体顕微鏡部に向けて透過させると共にその残りを前記第2立体顕微鏡部に向けて反射する反射透過面を含む分岐部と、前記分岐部の両側に設けられ、前記共通光路を前記第1立体顕微鏡部のみに導く透過部とを有し、
前記反射透過面は、前記ビームスプリッタにおける前記共通光路の入射面から見て、矩形状に形成されており、
前記対物光学系の光軸に沿った前記ビームスプリッタの高さは、前記分岐部と前記透過部の配列方向に沿った前記ビームスプリッタの幅よりも小さいことを特徴とする手術顕微鏡。
【請求項2】
前記ビームスプリッタは前記第2立体顕微鏡部に固定され、
前記第1及び第2立体顕微鏡部は前記対物光学系の光軸を中心軸として互いに回転可能に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の手術顕微鏡。
【請求項3】
前記透過部の入射面又は出射面に、反射透過面と同じ透過率のNDフィルタが設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の手術顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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