説明

抄紙用フェノール樹脂組成物

【課題】 環境負荷の小さい、高耐熱性を有する抄紙用フェノール樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 ノボラック型フェノール樹脂と、エポキシ樹脂とを含む抄紙用フェノール樹脂組成物であって、上記ノボラック型フェノール樹脂は、未反応フェノール類の含有量が0.1重量%以下であり、かつ、上記組成物は、樹脂固形分に対する固定炭素が35重量%以上である。好ましくは、上記ノボラック型フェノール樹脂が有する水酸基に対する上記エポキシ樹脂が有するエポキシ基の割合が、0.05〜0.5である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙用フェノール樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維をシート状、ボード状に成形し、成形した形状を保持する方法として、バインダーとして樹脂を用いて、繊維同士を結合する方法が知られている。近年、この繊維に無機繊維や、高耐熱性を有する有機繊維などを使用することにより、高強度、高耐熱性を有する繊維の成形体を得ることができるようになり、バインダーに用いられる樹脂にも高強度、高耐熱性が要求されるようになってきた。特に、フィルターやパッキン、ブレーキパットなどの摩擦材や耐火ボードなど、過酷な高温の条件下で使用される一部の製品においては、高温状態における強度が重要視されている。
【0003】
フェノール樹脂は、強度、耐熱性に優れ、不飽和ポリエステル樹脂やエポキシ樹脂などの他の熱硬化性樹脂に比べ、特に高温処理後における樹脂歩留り、たとえばJIS M 8812に規定される固定炭素が高く、高温条件下においても機械的強度を保持しやすいという特徴を持っている。高温にさらされる用途においては、かねてから耐熱性、高温条件下における機械的強度の向上の目的から、バインダーとしてレゾール型フェノール樹脂が用いられてきた。
これらの製品は、有機繊維や無機繊維、充填材等が混合された懸濁液に歩留り剤を添加し、フロックを形成した後、抄造し、脱水または乾燥処理後の中間成形品に、液状のレゾール型フェノール樹脂を含浸する工程を経た後、加熱硬化することで製造されている。
【0004】
一方、上記の繊維や充填材等が混合された懸濁液に、レゾール型フェノール樹脂の粉末や乳濁液、あるいはノボラック型フェノール樹脂と硬化剤であるヘキサメチレンテトラミンとの混合物を添加した後、抄造し、脱水または乾燥処理後加熱硬化することで製造されるビータ添加と呼ばれる方法がある。この方法は、従来の液状のレゾール型フェノール樹脂を用いた方法では不可欠である液状樹脂の含浸工程を省くことができる。
【0005】
しかしながら、通常のレゾール型フェノール樹脂や、ノボラック型フェノール樹脂とヘキサメチレンテトラミンとの混合物を用いたビータ添加においては、フェノール樹脂中の未反応フェノール類や、ヘキサメチレンテトラミン由来のアルデヒド類などが多量に含まれているために、それらが抄造工程で発生する白水中へ流出し、環境を汚染するという問題がある。また、加熱硬化の際に、これらがガス化し、作業環境を汚染するという問題もある。
【0006】
これら環境に対する影響を低減する方法として、未反応フェノール類の少ないノボラック型フェノール樹脂と、エポキシ樹脂を用いる方法が知られているが(例えば、特許文献1参照)、一般にエポキシ樹脂とフェノール樹脂を用いる場合、最適な強度の発現のため、ノボラック型フェノール樹脂の水酸基に対するエポキシ樹脂のエポキシ基の割合をほぼ1対1に合わせなければならず、エポキシ樹脂を多量に使用する必要があるが、エポキシ樹脂は固定炭素が低いために、高温条件下での強度(以下、熱間強度と呼ぶことがある)が低いという問題点がある。上記のエポキシ樹脂とフェノール樹脂との組成物は、エポキシ樹脂の割合が高いため熱間強度に劣り、摩擦材や耐火ボードなど、耐熱性や難燃性を要求される用途には不向きであった。
【0007】
【特許文献1】特開平11−217793号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は環境負荷の小さい、高耐熱性を有する抄紙用フェノール樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、以下の本発明(1)〜(4)により達成される。
(1)ノボラック型フェノール樹脂と、エポキシ樹脂とを含む抄紙用フェノール樹脂組成物であって、上記ノボラック型フェノール樹脂は、未反応フェノール類の含有量が0.1重量%以下であり、かつ、上記組成物は、樹脂固形分に対する固定炭素が35重量%以上であることを特徴とする抄紙用フェノール樹脂組成物。
(2)上記ノボラック型フェノール樹脂が有する水酸基に対する上記エポキシ樹脂が有するエポキシ基の割合が、0.05〜0.5である上記(1)に記載の抄紙用フェノール樹脂組成物。
(3)上記ノボラック型フェノール樹脂は、2核体成分の含有量が5%以下である上記(1)又は(2)に記載の抄紙用フェノール樹脂組成物。
(4)上記エポキシ樹脂は、ノボラック型エポキシ樹脂を含むものである上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の抄紙用フェノール樹脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の抄紙用フェノール樹脂組成物は、従来の組成物に比べ、高い固定炭素を有し、ノボラック型フェノール樹脂中の未反応フェノール類の含有量が少ないため、高温条件下での機械的強度に優れる。また、使用時の抄紙工程で発生する白水中に含有される未反応フェノール類を減少させることができるため、環境への負荷を低減し、活性汚泥処理設備等を必要としないで排水処理を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の抄紙用フェノール樹脂組成物について説明する。
本発明の抄紙用フェノール樹脂組成物は、ノボラック型フェノール樹脂と、エポキシ樹脂とを含む抄紙用フェノール樹脂組成物であって、上記ノボラック型フェノール樹脂は、未反応フェノール類の含有量が0.1重量%以下であり、かつ、上記組成物は、樹脂固形分に対する固定炭素が35重量%以上であることを特徴とする。
【0012】
本発明の抄紙用フェノール樹脂組成物(以下、単に「組成物」ということがある)は、組成物中の水、溶剤等を除いた樹脂固形分に対する固定炭素が35重量%以上である。これにより、高温条件下における機械的強度、耐火性などを優れたものとすることができる。
【0013】
本発明の組成物において、固定炭素とは、JIS M 8812 に準拠して測定したものであり、具体的には、組成物を135℃で1時間加熱乾燥処理後、430℃で30分間炭化処理を行い、その後、800℃で30分間灰化処理し、各処理後の重量を測定し、下記式により算出したものである。
固定炭素(重量%)=100×[(炭化後の重量)−(灰化後の重量)]/(乾燥後の重量)
【0014】
上記固定炭素が大きいと、高温条件下においても組成物の熱分解による飛散が抑制されるので、例えば組成物を基材のバインダーに使用した場合でも機械的強度の低下を抑制することができる。これにより、高温条件下における機械的強度、耐火性などに優れたものとすることができる。固定炭素が上記下限値未満では、高温条件下において十分な強度が得られない場合がある。
また、本発明の組成物における固定炭素の上限値としては特に限定されないが、通常、60重量%とすることができる。
【0015】
本発明の組成物において、固定炭素を上記範囲内とする方法としては特に限定されないが、組成物中のノボラック型フェノール樹脂が有する水酸基に対する、エポキシ樹脂が有するエポキシ基の割合(エポキシ基/水酸基)を、0.05〜0.5とすることが好ましい。更に好ましくは、0.07〜0.4である。
これにより、組成物中におけるノボラック型フェノール樹脂の割合を高くでき、樹脂固形分に対する固定炭素を上記下限値以上とすることができる。エポキシ基の割合が上記下限値未満では、架橋密度の不足により機械的強度が低下する傾向がある。一方、上記上限値を越えると固定炭素が減少するため、高温条件下での充分な機械的強度を有することが難しくなることがある。
このほか、固定炭素の調整のために、必要に応じて、組成物に硬化促進剤や難燃化剤などを添加することもできる。
【0016】
本発明の組成物に用いられるノボラック型フェノール樹脂は、通常、フェノール類とアルデヒド類とを酸性触媒の存在下で反応させて得られるものである。
【0017】
ここで用いられるフェノール類としては特に限定されないが、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等のクレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール等のキシレノール、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール等のエチルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール等のブチルフェノール、p−tert−アミルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−クミルフェノール等のアルキルフェノール、フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲン化フェノール、p−フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール等の1価フェノール置換体、および1−ナフトール、2−ナフトール等の1価のフェノール類、レゾルシン、アルキルレゾルシン、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン等の多価フェノール類が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0018】
また、アルデヒド類としては特に限定されないが、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0019】
上記ノボラック型フェノール樹脂の合成に用いられるフェノール類とアルデヒド類との反応モル比は特に限定されないが、フェノール類(P)に対するアルデヒド類(F)のモル比(F/P)が0.2〜0.95であることが好ましい。更に好ましくは、0.3〜0.9である。
【0020】
また、上記ノボラック型フェノール樹脂の合成に用いられる酸性触媒としては特に限定されないが、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、亜リン酸等の無機酸類、蓚酸、ジエチル硫酸、パラトルエンスルホン酸、有機ホスホン酸等の有機酸類、酢酸亜鉛等の金属塩類等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0021】
本発明の組成物に用いられるノボラック型フェノール樹脂は、樹脂中の未反応フェノール類の含有量が0.1重量%以下である。このように、硬化反応に関与できない未反応フェノール類の含有量が充分に少ないものを用いることにより、架橋密度を高めることができる。これにより、例えば組成物として上記の比率(エポキシ基/水酸基)が小さいものを用いた場合でも、充分な機械的強度を発現させることができる。
さらに、このようなノボラック型フェノール樹脂を用いることにより、組成物中の未反応フェノール類量を低減させることができるので、組成物の使用時の環境負荷を低減させることができる。
【0022】
本発明の組成物に用いられるノボラック型フェノール樹脂において、樹脂中の2核体成分の含有量としては特に限定されないが、5%以下であることが好ましい。2核体成分は硬化反応に関与することはできるが、反応性が高くないため、これを上記上限値以下とすることにより、硬化物の架橋密度を上げる効果を高めることができる。また、同様に組成物の使用時の環境負荷を低減させることができる。
【0023】
本発明の組成物において用いられる、未反応フェノール類の含有量が1重量%以下であり、好ましくは2核体成分の含有量が5%以下であるノボラック型フェノール樹脂の製造方法としては特に限定されないが、例えば、反応終了後、未反応フェノール類、二核体成分等を常圧蒸留、真空蒸留、水蒸気蒸留等の方法によって除去する方法のほか、その他公知の合成的手法を用いることにより得ることができる。
【0024】
なお、上記ノボラック型フェノール樹脂中の未反応フェノール類の含有量は、JIS K 0114 に準拠して、ガスクロマトグラフィー法を用い、3,5‐キシレノールを内部標準物質として内部標準法で測定した値である。
また、2核体成分の含有量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によりポリスチレン標準物質と、二核体であるビスフェノールFを用いて作成した検量線をもとに、分子量分布曲線の面積比率から算出した。
GPC測定はテトラヒドロフランを溶出溶媒とし、流量1.0ml/min、カラム温度40℃の条件で実施した。装置は下記のものを使用した。
1)本体:TOSOH社製・「HLC−8020」
2)検出器:波長280nmにセットしたTOSOH社製・「UV−8011」
3)分析用カラム:昭和電工社製・「SHODEX KF−802、KF−803、KF−805」
【0025】
本発明の組成物で用いられるエポキシ樹脂としては特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂等の臭素化型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアネートなどの複素環式エポキシ樹脂のほか、脂環式型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0026】
上記エポキシ樹脂の中でも、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂を含むものを用いることが好ましい。ノボラック型エポキシ樹脂は芳香環の含有量が高く、また、架橋密度を高めることができるので、組成物の高固定炭素を発現させることができる。
【0027】
本発明の組成物には、ノボラック型フェノール樹脂、エポキシ樹脂のほか、硬化促進剤を用いることができる。
ここで用いられる硬化促進剤としては特に限定されないが、例えば、窒素含有化合物、リン含有化合物が挙げられる。窒素含有化合物としては例えば、アミン類、イミダゾール類、イミン類、ピリジン類、リン含有化合物としては例えば、リン酸エステル化合物のような有機リン化合物を用いることができる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0028】
本発明の組成物の形態は、粉末状であることが好ましい。これにより、取り扱い性に優れるとともに、抄紙時における繊維に対する組成物の付着状態を均一にすることができ、また、付随設備への付着による汚れを防止することができる。
【0029】
本発明の組成物の調製方法としては特に限定されないが、ノボラック型フェノール樹脂、エポキシ樹脂、必要に応じて硬化促進剤を一緒に粉砕混合する方法、予め別々に粉砕したものを混合する方法のほか、溶融混合したものを粉砕する方法などが挙げられる。
なお、粉末状のノボラック型フェノール樹脂又はエポキシ樹脂を得る方法としては特に限定されないが、冷却し、固形化したものを粉砕する方法、乳濁物とした後、これを乾燥させたものを用いる方法、などが挙げられる。
【0030】
このようにして得られた本発明の組成物は、従来のノボラック型フェノール樹脂とエポキシ樹脂との組成物に比べ、高い固定炭素を有する。これにより、高温条件下での機械的強度に優れ、ノボラック型フェノール樹脂の水酸基に対するエポキシ樹脂のエポキシ基の割合が小さい場合でも、ノボラック型フェノール樹脂中の未反応フェノール類の含有量が少ないために、同じ(エポキシ基/水酸基)比率の組成物よりも高い機械的強度を発現することができる。
さらに、使用時の抄紙工程で発生する白水中に含有される未反応フェノール類を大幅に少なくできるとともに、ヘキサメチレンテトラミンに由来するホルムアルデヒドをなくすことができるので、環境への負荷を低減し、活性汚泥処理設備等を必要としないで排水処理を行うことができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ここで記載されている「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を示す。
【0032】
(実施例1)
三口フラスコ中に、フェノール1000部、蓚酸20部を添加して100℃に昇温し、37%ホルムアルデヒド水溶液700部(F/P=0.81)を1時間かけて逐次添加し、さらに1時間還流反応を行った後、常圧脱水し150℃まで昇温させ、さらに液温が220℃、減圧度が6000Paで溜出物がなくなるまで脱水反応を行った。次に、液温を220℃、減圧度が55000Paの樹脂中に水蒸気を導入し、その後液温を220〜240℃、減圧度を53000〜70000Paに保持して12時間継続し、ノボラック型フェノール樹脂Aを得た。
得られたノボラック型フェノール樹脂Aに、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬社製・「EOCN−103S」)を、ノボラック型フェノール樹脂Aの水酸基に対して、エポキシ樹脂のエポキシ基の割合が0.2となるように粉砕混合した。さらに、硬化促進剤として2−フェニルイミダゾール(四国化成工業社製・「キュアゾール2PZ」)を、組成物全体に対して1%となるように粉砕混合し、フェノール樹脂組成物Aを得た。
【0033】
(実施例2)
三口フラスコ中に、1−ヒドロキシエチリデン−1,1’−ジホスホン酸60%水溶液(ライオン社製・「フェリオックス115」)1500部を添加し常圧蒸留を行い80%の濃度とし、フェノール1000部を添加して100℃に昇温し、92%パラホルムアルデヒド255部を1時間かけて逐次添加し、さらに常圧蒸留を行い、130℃まで昇温させ反応系中の水分量を6%とした。その後、130℃に温度を維持し、水分量を約6%で一定として、常圧蒸留を行いながら37%ホルムアルデヒド水溶液90部(F/P=0.84)を1時間かけて逐次添加した。その後、140℃で1時間反応を行い、純水を2000部添加し、樹脂と分離した水相を除去する水洗工程を3回行った後、液温が200℃、減圧度が6000Paで溜出物がなくなるまで脱水反応を行い、ノボラック型フェノール樹脂Bを得た。
得られたノボラック型フェノール樹脂Bに、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬社製・「EOCN−103S」)を、ノボラック型フェノール樹脂Bの水酸基に対して、エポキシ樹脂のエポキシ基の割合が0.3となるように粉砕混合した。さらに、硬化促進剤としてトリフェニルホスフィンを、組成物全体に対して1%となるように粉砕混合し、フェノール樹脂組成物Bを得た。
【0034】
(実施例3)
三口フラスコ中に、フェノール1000部、85%リン酸水溶液1000部を仕込み、100℃に昇温し、92%パラホルムアルデヒド250部を2時間かけて逐次添加して、さらに常圧蒸留を行い、反応系中の水分量を10%として110℃まで昇温させた後、水分量を約10%で一定として、常圧蒸留を行いながら37%ホルムアルデヒド水溶液70部(F/P=0.80)を1時間かけて逐次添加して、さらに1時間還流させながら反応させた。その後、140℃で1時間反応を行い、純水を2000部添加し、樹脂と分離した水相を除去する水洗工程を3回行った後、液温が200℃、減圧度が6000Paで溜出物がなくなるまで脱水反応を行い、ノボラック型フェノール樹脂Cを得た。
得られたノボラック型フェノール樹脂Cに、硬化促進剤として、1,8−ジアザビシクロ−[5.4.0]−ウンデク−7−エンを後の樹脂組成物全体に対して1%となるように溶融混合した。さらに、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬社製・「EOCN−103S」)を、ノボラック型フェノール樹脂Cの水酸基に対して、エポキシ樹脂のエポキシ基の割合が0.1となるように粉砕混合し、フェノール樹脂組成物Cを得た。
【0035】
(比較例1)
三口フラスコ中にフェノール1000部、蓚酸20部を添加して100℃に昇温し、37%ホルムアルデヒド水溶液725部(F/P=0.84)を1時間かけて逐次添加し、さらに1時間還流反応を行った後、常圧脱水し120℃まで昇温させ、ノボラック型フェノール樹脂Dを得た。
得られたノボラック型フェノール樹脂Dに、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬社製・「EOCN−103S」)を、ノボラック型フェノール樹脂の水酸基に対して、エポキシ樹脂のエポキシ基の割合が0.2となるように粉砕混合した。さらに硬化促進剤として、トリフェニルホスフィンを樹脂組成物に対して含有量が1%となるように粉砕混合し、フェノール樹脂組成物Dを得た。
【0036】
(比較例2)
上記ノボラック型フェノール樹脂Aに、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬社製・「EOCN−103S」)を、ノボラック型フェノール樹脂Aの水酸基に対して、エポキシ樹脂のエポキシ基の割合が1.0となるように混合した。さらに硬化促進剤として、2−フェニルイミダゾール(四国化成工業社製・「キュアゾール2PZ」)を、組成物全体に対して1%となるように粉砕混合し、フェノール樹脂組成物Eを得た。
【0037】
実施例と比較例で得られたノボラック型フェノール樹脂(A〜D)について、未反応フェノールの含有量、二核体成分の含有量を測定した。なお、未反応フェノールと二核体成分の測定値は、各々の樹脂固形分中における含有量に換算したものである。
また、実施例と比較例で得られたフェノール樹脂組成物(A〜E)について、固定炭素を測定した。
以上の結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
評価方法
(1)ノボラック型フェノール樹脂中の未反応フェノールの含有量
JIS K 0114 に準拠して、3,5‐キシレノールを内部標準として内部標準法によって測定した。
【0040】
(2)ノボラック型フェノール樹脂中の二核体成分の含有量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によりポリスチレン標準物質と二核体であるビスフェノールFを用いて作成した検量線をもとに、分子量分布曲線の面積比率から算出した。GPC測定はテトラヒドロフランを溶出溶媒とし、流量1.0ml/min、カラム温度40℃の条件で実施した。装置は下記のものを使用した。
1)本体:TOSOH社製・「HLC−8020」
2)検出器:波長280nmにセットしたTOSOH社製・「UV−8011」
3)分析用カラム:昭和電工社製・「SHODEX KF−802、KF−803、KF−805」
【0041】
(3)固定炭素:JIS M 8812 に準拠して、組成物を135℃で1時間加熱乾燥処理後、430℃で30分間炭化処理を行い、その後、800℃で30分間灰化処理し、各処理後の重量より、下記式により算出した。
固定炭素(重量%)=100×[(炭化後の重量)−(灰化後の重量)]/(乾燥後の重量)
【0042】
2.抄紙用材料としての評価
純水1000g、アラミド繊維パルプ(DuPont社製 KEVLAR PULP 979)18gに、実施例及び比較例で得られた各フェノール樹脂組成物(A〜E)を、絶乾重量で対パルプ10%となるように添加した紙料を調製し、硫酸バンドを対パルプ10%添加して、パルプに定着させた。この紙料からサンプルシートマシン(第一クリエイティブ社製、型式;R25−1001)により米坪3000g/m2のフェノール樹脂混抄シートを作製した。この混抄シートを150℃で1時間加熱後、25×60mmに切断して試験片とし、室温条件下の強度である常態曲げ強度と、350℃で2時間処理後の熱間曲げ強度を測定した。
また、シートの作製に際し発生する白水を全量サンプリングし、均一に攪拌した白水中の未反応フェノール量を測定した。
これらについて特性評価を行った。結果を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
表の注:評価方法
(1)曲げ強度
東洋精機社製・「ストログラフE−S」(スパン:50mm、ヘッドスピード:5mm/分)を用い測定した。常態曲げ強度については作製した試験片を25℃で強度測定を行い、熱間曲げ強度については、試験片を350℃で2時間加熱処理を行い、その後25℃まで冷却して測定を行った。
【0045】
(2)白水中の未反応フェノールの含有量
JIS K 0102に準拠して、白水100mlをリン酸、塩化銅で処理したものを蒸留した試料の分析を行った。
【0046】
実施例1〜3はいずれも、未反応フェノール類の含有量が1重量%以下であるノボラック型フェノール樹脂を用いた、固定炭素が35重量%以上である本発明のフェノール樹脂組成物である。
これらを用いた抄紙用材料の評価の結果、常態曲げ強度、熱間曲げ強度がいずれも良好であり、白水中のフェノール類量も少ないものとすることができた。
比較例1は未反応フェノール類の含有量が多いノボラック型フェノール樹脂を用いたが、常態曲げ強度が低下し、白水中のフェノール類量は大きく増加した。
比較例2は、常態での曲げ強度は良好であったものの、組成物の固定炭素が低いため、熱間での曲げ強度が大きく低下した。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の抄紙用フェノール樹脂組成物は、機械的強度、耐熱性、低環境負荷性、作業性を兼ね備え、有機繊維や無機繊維を用いて抄紙を行う際のバインダーとして好適に用いられるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノボラック型フェノール樹脂と、エポキシ樹脂とを含む抄紙用フェノール樹脂組成物であって、前記ノボラック型フェノール樹脂は、未反応フェノール類の含有量が0.1重量%以下であり、かつ、前記組成物は、樹脂固形分に対する固定炭素が35重量%以上であることを特徴とする抄紙用フェノール樹脂組成物。
【請求項2】
前記ノボラック型フェノール樹脂が有する水酸基に対する前記エポキシ樹脂が有するエポキシ基の割合が、0.05〜0.5である請求項1に記載の抄紙用フェノール樹脂組成物。
【請求項3】
前記ノボラック型フェノール樹脂は、2核体成分の含有量が5%以下である請求項1又は2に記載の抄紙用フェノール樹脂組成物。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂は、ノボラック型エポキシ樹脂を含むものである請求項1ないし3のいずれかに記載の抄紙用フェノール樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−232899(P2006−232899A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−46401(P2005−46401)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】