説明

把持金具及び把持金具を用いた耐張装置交換工具並びに耐張装置交換方法

【課題】導体を傷付けることなく、安定した取り付けが可能で、耐張装置の交換作業を容易且つ短時間に行うことができるとともに、交換作業中の通電を可能とする把持金具及び把持金具を用いた耐張装置交換工具並びに耐張装置交換方法を提供する。
【解決手段】一方が鉄塔腕金部40に連結され、且つ他方が複数の導体35・・のクランプ部34・・に連結され、複数の導体35・・を鉄塔腕金部40に張設する耐張装置20を交換するための把持金具であって、鉄塔腕金部40と連結するための連結部材15を連結可能な連結部材取付手段と、複数の導体35・・のクランプ部34・・を連結可能なクランプ部取付手段とを備え、連結部材15を介して鉄塔腕金部40に連結され、且つ複数の導体35・・のクランプ部34・・に連結されることで、耐張装置20に代わって、複数の導体35・・を鉄塔腕金部40に張設している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄塔腕金部と導体との間に介在する耐張装置を交換する際に使用される把持金具及びこれを用いた耐張装置交換工具に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧電線等の導体は、鉄塔側ヨーク、碍子連や導体側ヨーク等からなる耐張装置を介して鉄塔腕金部に連結されている。そのため、耐張装置には、常に導体や耐張装置の自重による張力が生じているとともに、気象条件によって不規則な張力が加わるため、耐張装置を構成する碍子連や各ヨーク等に不具合が生じることがあった。
【0003】
そのため、従来より種々の交換用装置が実用化されており、これら交換用装置を用いて不具合の生じた部位を交換していた(例えば特許文献1及び特許文献2)。
【0004】
交換作業においては、作業を容易に、且つ作業時間を短縮するために、導体を鉄塔腕金部に張設したままで行われることが多いが、その場合、交換部分に加わっていた張力を交換用装置に伝達させるとともに、交換用装置から鉄塔腕金部側にその張力を伝達させる必要がある。
【0005】
特許文献1では、2つの工事用ヨークを連結ワイヤーで連結してなる交換用装置が用いられ、一方の工事用ヨークを鉄塔腕金部に連結するとともに、他方の工事用ヨークを、カムアロングを介して導体に連結し、耐張装置に加わっていた張力を、交換用装置を介して鉄塔に伝達させることで耐張装置の交換を行っている。
【0006】
また、特許文献2においては、多導体固定金具の両側に緊締ロープを連結してなる交換用装置が用いられ、一方の緊締ロープを鉄塔腕金部に連結するとともに、他方の緊締ロープを、カムアロングを介して導体に連結し、耐張装置に加わっていた張力を、交換用装置を介して鉄塔に伝達させることで耐張装置の交換を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実用新案登録第3068910号公報
【特許文献2】特開平01−222611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の特許文献1及び特許文献2によると、交換用装置と導体とをカムアロングを介して連結する構成とされているため、交換用装置によって張力の負荷されない状態となった耐張装置が、カムアロングから導体側ヨークに至るまでの導体にぶら下がることとなり、導体が下方に向かって折曲されるとともに、強く引っ張られた状態となるため、カムアロングとの接続部分において損傷する虞があった。また、カムアロングは、導体側に乗り出した状態で取付作業を行わなければならないため、足場が悪く、体勢を維持するのが困難で、作業時間が長くなってしまうとともに、作業の安全性にも問題を生じていた。
【0009】
また、特許文献1の交換用装置は、交換作業の途中、すなわち交換用装置を取り付けた状態で通電を再開させることができなかった。具体的には、交換用装置の導体側の工事用ヨークは、連結ワイヤーで鉄塔腕金部側に張設されることで、はじめて安定した取り付けとなるが、通電を再開するためには、連結ワイヤーを外し、鉄塔腕金部側との連結を断つ必要がある。この場合、工事用ヨークは、形状の安定しない導体にカムアロングを介して連結されるだけとなり、導体上に載せておくか、若しくは導体にカムアロングを介して吊り下げるしかなく、非常に不安定で不慮の事故を起こしてしまう虞があった。そのため、通電を再開する際は、必ず、全ての部材(工事用ヨーク及び連結ワイヤー)を外す必要があり、交換用装置を取り付けた状態で通電を再開させることはできなかった。
【0010】
特許文献2の多導体固定金具においては、導体に掛け止め可能な掛け止めフックが設けられているため、特許文献1の工事用ヨークに比べると安定性が増すが、導体の軸方向には摺動自在であり、また、導体が上下方向に振れた場合は、掛け止めフックが導体から外れる虞もあり、依然として不安定な取り付けであって、多導体固定金具を取り付けた状態で交換作業を中断し、通電を再開させることはできなかった。
【0011】
また、仮に、特許文献1の交換用装置の導体側の工事用ヨークや、特許文献2の多導体固定金具を種々の方法によって固定し、安定した取り付けとしたとしても、これらを取り付けた状態で、通電を再開させると、主に尖鋭部においてコロナ放電が発生し、騒音や閃光によって周辺環境に悪影響を与えてしまう虞があった。
【0012】
さらに、特許文献1の連結ワイヤーや特許文献2の緊締ロープが、碍子連に重なる若しくは内側に位置する構成であるため、連結ワイヤーや緊締ロープが耐張装置に干渉し、交換作業に支障をきたしていた。
【0013】
そこで、この発明は、上記の不具合を解消して、導体を傷付けることなく、安定した取り付けが可能で、耐張装置の交換作業を容易且つ短時間に行うことができるとともに、交換作業中の通電を可能とする把持金具及び把持金具を用いた耐張装置交換工具並びに耐張装置交換方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、この発明の把持金具2は、一方が鉄塔腕金部40に連結され、且つ他方が複数の導体35・・のクランプ部34・・に連結され、複数の導体35・・を鉄塔腕金部40に張設する耐張装置20を交換するための把持金具であって、把持金具2は、鉄塔腕金部40と連結するための連結部材15を連結可能な連結部材取付手段と、複数の導体35・・のクランプ部34・・を連結可能なクランプ部取付手段とを備え、連結部材15を介して鉄塔腕金部40に連結され、且つ複数の導体35・・のクランプ部34・・に連結されることで、耐張装置20に代わって、複数の導体35・・を鉄塔腕金部40に張設することを特徴としている。
【0015】
また、把持金具2は、連結部材15を連結するための連結部材取付点10を、耐張装置20の外側に位置するように備えている。また、複数の導体35・・のクランプ部34・・と接続するための複数のクランプ部取付点6・・を、導体35・・間の間隔と略同間隔に備えている。さらに、把持金具2は、通電時のコロナ発生を抑制するコロナ抑制金具14を備えている。
【0016】
さらに、把持金具2は、2枚の水平板4、4と、水平板4、4同士を繋ぐ垂直板7とからなる工事用固定ヨーク3と、水平板4、4間に位置されるように垂直板7に接合される工事用水平ヨーク9とからなり、2枚の水平板4、4の両端部に、それぞれクランプ部取付点6が設けられ、工事用水平ヨーク9の両端部に、それぞれ連結部材取付点10が設けられている。
【0017】
具体的には、垂直板7は、略中央部が導体35側に屈曲した略くの字状とされ、工事用水平ヨーク9は、この屈曲部に接合されているとともに、耐張装置20の上げ下げを行う荷吊ワイヤー53を掛け渡すための滑車52を取り付ける滑車取付点13を備えている。
【0018】
この発明の耐張装置交換工具1は、把持金具2と、連結部材15とを備えたことを特徴としている。
【0019】
この発明の耐張装置交換方法は、一方端部が鉄塔腕金部40に連結され、且つ他方端部が複数の導体35・・のクランプ部34・・に連結され、複数の導体35・・を鉄塔腕金部40に張設する耐張装置20を交換する耐張装置交換方法であって、把持金具2を、鉄塔腕金部40に連結部材15を介して連結し、且つ複数の導体35・・のクランプ部34・・に連結することで、耐張装置20に代わって、複数の導体35・・を鉄塔腕金部40に張設し、この張設状態で耐張装置20の一部又は全てを交換することを特徴としている。
【0020】
また、把持金具2は、2枚の水平板4、4と、水平板4、4同士を繋ぐ垂直板7とからなる工事用固定ヨーク3と、水平板4、4間に位置されるように垂直板7に接合される工事用水平ヨーク9とからなり、工事用水平ヨーク9は、荷吊ワイヤー53を掛け渡すための滑車52を取り付ける滑車取付点13を備えており、耐張装置20に代わって、複数の導体35・・を鉄塔腕金部40に張設した状態において、工事用水平ヨーク9の滑車取付点13と、耐張装置20とにそれぞれ滑車52を配設して、この滑車52に荷吊ワイヤー53を掛け渡すことで、把持金具2と耐張装置20とを仮連結した後、複数の導体35・・と耐張装置20とを切り離し、荷吊ワイヤー53を送り出すことによって、耐張装置20を下ろしている。
【発明の効果】
【0021】
この発明の把持金具においては、導体のクランプ部と連結されるため、導体を傷つけることなく鉄塔腕金部に張設することができるとともに、カムアロングのように、導体側に乗り出して取り付けを行う必要がないため、足場も良好で、作業時間の短縮を図ることができるとともに、作業の安全性向上を図ることができる。また、把持金具を形状の安定した導体のクランプ部と連結させることで、形状の安定しない導体と連結する場合に比べて格段に安定性が増し、連結部材によって把持金具と鉄塔腕金部とを連結させなくとも、安定した取り付けとすることができる。そのため、把持金具を導体のクランプ部と連結させた状態で、交換作業を中断することができ、把持金具を導体のクランプ部と連結させた状態で通電を再開させることが可能となり、停電時間の短縮を図ることができる。
【0022】
また、連結部材取付点を、耐張装置の外側に位置させたことで、連結部材と耐張装置とが干渉することが無くなり、作業性や安全性の向上を図ることができる。
【0023】
さらに、クランプ部取付点を、導体間の間隔と略同間隔で設けたことで、導体間の間隔を保った状態で交換作業が行え、導体同士の接触を防止するために配設されているスペーサーを取り外す必要がなく、作業時間のさらなる短縮を図ることができる。
【0024】
さらにまた、把持金具にコロナ抑制金具を備えることで、把持金具と導体のクランプ部とを連結した状態で通電を再開しても、把持金具からのコロナの発生を抑制することができる。
【0025】
また、把持金具を2枚の水平板と、水平板同士を繋ぐ垂直板とからなる工事用固定ヨークと、水平板間に位置されるように垂直板に接合される工事用水平ヨークとから構成し、2枚の水平板の両端部にクランプ部取付点を設け、工事用水平ヨークの両端部に連結部材取付点を設けている、すなわち、複数(例えば4本)の導体の重心と、連結部材の重心とが凡そ同じ位置となるように形成しているため、把持金具の捩れや回転を防止することができ、鉄塔腕金部に対して複数の導体をバランス良く、且つ一括して張設することができる。
【0026】
さらに、垂直板が、略中央部が導体側に屈曲した略くの字状とされ、この屈曲部に、工事用水平ヨークが接合されているため、工事用水平ヨークと耐張装置とが所定の距離をもって離れた状態となり、滑車取付点に滑車を取り付けた場合でも、滑車が耐張装置に干渉することはなく、交換作業を円滑に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明の実施形態に係る把持金具の取付状態を示す、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図2】把持金具を示す、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図3】(a)(b)コロナ抑制金具の取付状態を示した平面図及び側面図である。
【図4】耐張装置への把持金具の取付状態を示す、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図5】クランプ把持金具を用いた場合の耐張装置への把持金具の取付状態を示す、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図6】耐張装置を示す、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図7】金車の取付状態を示す、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。この発明の一実施形態に係る把持金具2は、図1(a)(b)に示すように、一方が鉄塔腕金部40に連結され、他方が導体35のクランプ部34と連結され、4本の導体35・・を鉄塔腕金部40に張設する耐張装置20の一部又は全てを交換する際に用いられるものであって、鉄塔腕金部40と連結するための連結部材15を連結可能な連結部材取付手段と、複数の導体35・・のクランプ部34・・を連結可能なクランプ部取付手段とを備え、鉄塔腕金部40に連結部材15を介して連結され、且つ複数の導体35・・のクランプ部34・・に連結されることで、耐張装置20に代わって、複数の導体35・・を鉄塔腕金部40に張設するものである。なお、これより、把持金具2の具体的な構成について説明する。
【0029】
把持金具2は、図2(a)(b)に示すように、2枚の水平板4、4と2枚の垂直板7、7とを井桁状に組むことでなる工事用固定ヨーク3と、2枚の水平板4、4の間に配設される工事用水平ヨーク9とを備えている。
【0030】
工事用固定ヨーク3の2枚の水平板4、4は、図1(a)に示すように、その幅が、平面視、導体35、35の間隔と略同等とされている。また、水平板4、4の両端部からは、下方に向かってそれぞれクランプ部取付部5、5が延出されている。このクランプ部取付部5には、クランプ部取付手段として、図2(b)に示すように、水平方向に複数のクランプ部取付孔(クランプ部取付点)6・・が穿設されており、連結位置の調整を行うことができるようになっている。また、水平板4、4同士の上下方向の間隔は、図1(b)に示すように、導体35、35の上下方向の間隔と略同等とされている。従って、4本の導体35・・を、その間隔を保った状態で工事用固定ヨーク3に取り付ける(一括把持させる)ことが可能な構成となっている。なお、導体35の本数は4本に限らず、複数本であれば良く、また、クランプ部取付孔6の個数も、導体35の本数に合わせて適宜変更可能である。
【0031】
工事用固定ヨーク3の2枚の垂直板7、7は、側面視略くの字状に屈曲され、且つ上方側が鉄塔腕金部40側に突出するように傾けられた状態で水平板4、4と組み合わされている。そのため、垂直板7、7の上方に接続された水平板4は、下方に接続された水平板4より鉄塔腕金部40に近くなっている。これは、耐張装置20に連結されている4本の導体35・・のクランプ部34・・のうち、上方側の2本の導体35、35のクランプ部34、34が、下方側の2本の導体35、35のクランプ部34、34より鉄塔腕金部40側に位置するためである。また、垂直板7、7には、2枚の水平板4、4の間で、且つ屈曲部に、工事用水平ヨーク9を接続するための取付孔8・・が複数穿設されている。
【0032】
工事用水平ヨーク9は、図1(a)に示すように、その幅が、平面視、鉄塔側ヨーク21、碍子連23、導体側ヨーク25等を備える耐張装置20より大とされており、工事用水平ヨーク9の両端部、すなわち、耐張装置20の外側となる位置には、連結部材取付手段として、それぞれ2つの連結部材取付孔(連結部材取付点)10、10が穿設されている。また、工事用水平ヨーク9の導体35側からは、図2(a)に示すように、工事用固定ヨーク3の2枚の垂直板7、7をそれぞれ挟む挟持板11が4枚延設されており、挟持板11・・に穿設された複数の取付孔12・・と、工事用固定ヨーク3の取付孔8・・とを重ね合わせ、ボルト等で接合することにより、工事用固定ヨーク3と工事用水平ヨーク9とが着脱可能に接続される。また、工事用水平ヨーク9の中央部近傍には、複数の孔13・・が穿設されている。これは、耐張装置20を地上に下ろす場合や、地上から新たな耐張装置20を上げる場合に用いる滑車52(金車)を取り付けるための滑車取付孔(滑車取付点)である。なお、工事用水平ヨーク9の両端部に穿設された連結部材取付孔10は、耐張装置20の幅に合わせて、内外どちらかを選択できるよう端部に2つ設けられているが、選択の必要がない場合は、工事用水平ヨーク9の端部に1つずつ設けておけば良い。また、工事用固定ヨーク3と工事用水平ヨーク9は、予め一体に形成されていても良い。
【0033】
上記に示したように、把持金具2が、2枚の水平板4、4と、水平板4、4同士を繋ぐ2枚の垂直板7、7とからなる工事用固定ヨーク3と、水平板4、4間に位置されるように垂直板7、7に接合される工事用水平ヨーク9とからなり、2枚の水平板4、4の両端部に、それぞれクランプ部取付孔6・・が設けられ、工事用水平ヨーク9の両端部に、それぞれ連結部材取付孔10、10が設けられる、すなわち、4本の導体35・・の重心と、連結部材15、15の重心とが凡そ同じ位置となるように、クランプ部取付孔6・・と連結部材取付孔10・・が設けられているため、把持金具2の捩れや回転を防止することができ、鉄塔腕金部40に対して4本の導体35・・をバランス良く、且つ一括して張設することができる。
【0034】
また、把持金具2は、図3(a)(b)に示すように、棒状又はリング状のコロナ抑制金具14を備えている。具体的には、工事用水平ヨーク9の両端部近傍に穿設されている連結部材取付孔10、10に、コロナ抑制金具14、14がボルト等で着脱可能に取り付けられている。なお、コロナ抑制金具14を取り付けるための取付孔は、連結部材取付孔10とは別に穿設されていても良い。また、コロナ抑制金具14の形状は、上記棒状やリング状に限らず、適宜変更可能である。さらに、ボルト等で着脱可能とせず、予め溶接等で、工事用水平ヨーク9の両端部近傍に固着されていても良いし、その取付箇所も工事用水平ヨーク9に限らず、工事用固定ヨーク3でも良い。
【0035】
上記において詳細な説明を行った把持金具2は、図1(a)(b)に示すように、鉄塔腕金部40と連結部材15を介して連結されるとともに、図4(a)(b)に示すように、導体35のクランプ部34と接続部材18を介して連結される。そして、把持金具2と連結部材15とで耐張装置交換工具1が構成される。以下に、連結部材15及び接続部材18の詳細な説明を述べる。
【0036】
連結部材15は、例えば張設ワイヤー16の一方端部と、伸縮手段として例えばタンバックル17の一方端部とを連結することで構成されている。また、張設ワイヤー16の他方端部は、鉄塔腕金部40に連結され、タンバックル17の他方端部は、把持金具2の工事用水平ヨーク9の連結部材取付孔10に連結されている。なお、張設ワイヤー16の他方端部を把持金具2に、タンバックル17の他方端部を鉄塔腕金部40に連結しても良い。また、伸縮手段としては、タンバックル17に限らず、レバーブロックや油圧工具等、伸縮可能(複数の導体35・・を牽引可能)なものであれば良い。
【0037】
接続部材18は、図4(a)(b)に示すように、例えば複数の孔19・・が穿設されたリンクであり、把持金具2と導体35のクランプ部34との間に介在して、両者を連結させている。具体的には、リンクの一方側に穿設された孔19と、把持金具2のクランプ部取付孔6とがボルト等で接合され、他方側に穿設された孔19と、導体35のクランプ部34に予め穿設されている取付孔36とがボルト等で接合されることで、把持金具2と導体35のクランプ部34とが連結されている。なお、接続部材18は、リンクの他にも、図5(a)(b)に示すように、導体35のクランプ部34を両側から覆うようにして把持するクランプ把持金具18aであっても良い。なお、把持金具2と導体35のクランプ部34との接続にあたっては、接続部材18を用いることなく、把持金具2のクランプ部取付孔6と、導体35のクランプ部34の取付孔36とを、直接ボルト等で接合しても良い。
【0038】
次に、耐張装置20について詳細に説明する。なお、耐張装置20についてはあくまで例示であり、下記の構成に限定されるわけではなく、種々の構成の耐張装置であっても良い。耐張装置20は、図6(a)(b)に示すように、鉄塔側ヨーク21と2連碍子連23、23と導体側ヨーク25とを備え、これらを種々の金具で連結することで構成されている。
【0039】
鉄塔側ヨーク21は、平面視、略二等辺三角形の形態をなしており、その頂点部が、鉄塔腕金部40に配設された先端金具50にボルト51を介して連結されている。
【0040】
2連碍子連23、23は、鉄塔側ヨーク21の両端部にそれぞれ連結された直角クレビス22、22を介して鉄塔側ヨーク21と連結されている。
【0041】
導体側ヨーク25は、2連碍子連23、23と直角クレビス24、24を介して接続される碍子側ヨーク26と、鉄塔腕金部40側で碍子側ヨーク26と直角クレビス27を介して連結され、導体35側で導体35のクランプ部34と連結される導体固定用ヨーク28とから構成されている。また、導体固定用ヨーク28は、導体35のクランプ部34とリンク33及び直角クレビス32を介して接続された上下2枚の水平ヨーク31、31と、その2枚の水平ヨーク31、31と直角クレビス30、30を介して接続される垂直ヨーク29とから構成されている。
【0042】
次に、耐張装置交換工具1を用いた耐張装置20の交換作業について詳細に説明する。まず、工事用固定ヨーク3と導体35のクランプ部34とを接続部材18(18a)を介して連結する。次に、工事用固定ヨーク3と工事用水平ヨーク9とを接合し、把持金具2を形成する。次に、工事用水平ヨーク9の連結部材取付孔10、10に、連結部材15、15の一方を連結し、他方を鉄塔腕金部40に連結する。この際、鉄塔腕金部40の先端部側に適当な取付孔がない場合は、図1(a)に示すように、鉄塔腕金部40に、鉄塔腕金部40の先端部を延長し、且つ取付孔43を有する延設金具42を配設しておく。延設金具42の配設にあたっては、鉄塔腕金部40の既設の取付孔41と、延設金具42の取付孔43との間隔が、平面視、耐張装置20より広くなるように、且つ先端金具50が2つの取付孔41、43の凡そ中心に位置するようにしておく。また、鉄塔腕金部40と先端金具50とを繋ぐピン44を交換する場合でも、ピン44と延設金具42とが干渉しないように、延設金具42がピン44の軸線上に位置しないよう、上方又は下方に位置するようにしておくか、平面視、鉄塔腕金部40と同幅としておく。
【0043】
次に、図7(a)(b)に示すように、耐張装置20の導体側ヨーク25の碍子側ヨーク26と、把持金具2の工事用水平ヨーク9の滑車取付孔13・・とにそれぞれ2個ずつ、平面視左右対称となる位置に金車52・・を取り付け、金車52・・間に、一端が鉄塔腕金部40を介して地上のリール(図示せず)に巻かれた荷吊ワイヤー53を掛け渡し、把持金具2と耐張装置20とを仮連結する。この際、工事用水平ヨーク9は、工事用固定ヨーク3の屈曲部に接合されているため、工事用水平ヨーク9と耐張装置20とが所定の距離をもって離れた状態となり、工事用水平ヨーク9に取り付けられた金車52、52が耐張装置20に干渉することはなく、交換作業を円滑に行うことができる。さらに、金車52・・間に掛け渡される荷吊ワイヤー53が、導体固定ヨーク28の上下の水平ヨーク31、31間を通るため、水平ヨーク31に荷吊ワイヤー53が干渉することはなく、交換作業を円滑に行うことができる。
【0044】
そして、連結部材15、15のタンバックル17、17を収縮させ、耐張装置20に加わっていた張力を接続部材18・・と把持金具2と連結部材15、15とに負担させる、すなわち耐張装置交換工具1によって4本の導体35・・を鉄塔腕金部40に張設させる。耐張装置20に加わっていた張力が抜け、耐張装置20が僅かに撓んだ状態となった段階で、導体側ヨーク25の碍子側ヨーク26と導体固定用ヨーク28とを連結していた直角クレビス27を外す。そして、地上のリールから荷吊ワイヤー53を除々に送り出して弛めていき、ピン44を軸に回転させるようにして下ろしていく。そして、碍子側ヨーク26とピン44とが略垂直となった状態で、2連碍子連23、23の上方に、新たに荷吊ワイヤーを種々の方法で取り付け、僅かに耐張装置20を吊り上げる。そして、耐張装置20の鉄塔側ヨーク21と鉄塔腕金部40の先端金具50とを連結するボルト51を抜き、荷吊ワイヤーを弛めて耐張装置20を地上に下ろし、耐張装置20の取り外しを完了する。
【0045】
次に、導体用固定ヨーク28を除いた交換用の耐張装置20に荷吊ワイヤーを取り付け、鉄塔腕金部40まで吊り上げる。なお、交換用の耐張装置20の碍子側ヨーク26には、予め、金車52、52を取り付けておき、この金車52、52と、工事用水平ヨーク9に取り付けられた金車52、52とに荷吊ワイヤー53を掛け渡しておく。そして、耐張装置20の鉄塔側ヨーク21と鉄塔腕金部40の先端金具50とをボルト51で連結するとともに、碍子側ヨーク26に取り付けられた金車52、52と、工事用水平ヨーク9の滑車取付孔13・・に取り付けられた金車52、52とに掛け渡された荷吊ワイヤー53を巻き取って、碍子側ヨーク26と導体固定用ヨーク28とを近接させる。そして、耐張装置20の導体側ヨーク25の碍子側ヨーク26と、導体固定用ヨーク28とを直角クレビス27で連結し、連結部材15、15のタンバックル17、17を弛めることで、連結部材15、15と、把持金具2と、接続部材18・・とが負担していた張力を耐張装置20に戻す。その後、把持金具2と導体35のクランプ部34とを連結していた接続部材18・・を取り外すとともに、把持金具2と鉄塔腕金部40とを連結していた連結部材15、15とを取り外すことで、交換作業を完了する。なお、作業に用いた金車52・・や荷吊ワイヤー53等は使用後、適宜取り外しておく。
【0046】
上記の交換作業は、一度に交換作業を終えた場合であるが、次に複数回に亘って交換作業を行う場合について説明する。交換作業を複数回に分けて行う場合、すなわち、交換作業の間に通電を再開させる場合においては、工事用固定ヨーク3を、導体35のクランプ部34と接続部材18を介して連結し、工事用固定ヨーク3と工事用水平ヨーク9とを接合し、把持金具2を形成した段階で、工事用水平ヨーク9の連結部材取付孔10、10にコロナ抑制金具14、14を取り付けて交換作業を中断する。この場合、把持金具2は、形状の安定した導体35のクランプ部34に接続された状態であるため、連結部材15で鉄塔腕金部40と連結されていなくとも安定した取り付け状態となる。さらに、コロナ抑制金具14、14が取り付けられているから、通電が再開された場合でも把持金具2からコロナが発生することはない。そして、交換作業を再開する際には、通電を止め、コロナ抑制金具14、14を取り外し、上記の手順に従って交換作業を行う。このように、把持金具2を取り付けた状態で通電が可能となるため、例えば、1日目、把持金具2を取り付けた段階で作業を中断して通電を再開し、2日目に再び通電を止め、耐張装置20の交換を行うといった工程が可能となり、終日停電の日数を減らすことができ、電力の安定供給に貢献することができる。
【0047】
以上に、この発明の把持金具2について詳細に説明を行ったが、この把持金具2によれば、導体35のクランプ部34と接続部材18を介して連結されているため、カムアロングでの連結とは異なり、耐張装置20が導体35にぶら下がることはなく、導体35の損傷を防止することができる。また、カムアロングのように、導体側に乗り出して取り付けを行う必要がないため、足場も良好で、作業時間の短縮を図ることができるとともに、作業の安全性向上を図ることができる。
【0048】
また、連結部材取付孔10、10を、耐張装置20の外側、すなわち平面視、耐張装置20の両側に位置させたことで、連結部材15と耐張装置20とが干渉することが無くなり、作業性や安全性の向上を図ることができる。
【0049】
さらに、クランプ部取付孔6・・を、導体35間の間隔と略同間隔で設けたことで、導体35間の間隔を保った状態で交換作業が行え、導体35同士の接触を防止するために配設されているスペーサーを取り外す必要がなく、作業時間のさらなる短縮を図ることができる。
【0050】
以上に、この発明の具体的な実施の形態について説明したが、この発明は上記実施形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することが可能である。例えば、上記実施例のように、耐張装置20の交換範囲を、鉄塔側ヨーク21から導体側ヨーク25の碍子側ヨーク26までとする必要はなく、導体固定用ヨーク28を含めた交換も可能である。この場合、上記実施例において、碍子側ヨーク26に取り付けられていた金車52・・を、導体固定用ヨーク28に取り付け、導体35のクランプ部34と導体固定用ヨーク28の水平ヨーク31とを連結するリンク32又は直角クレビス33を外せば良い。
【符号の説明】
【0051】
2・・把持金具、3・・工事用固定ヨーク、4・・水平板、6・・クランプ部取付孔、7・・垂直板、9・・工事用水平ヨーク、10・・連結部材取付孔、13・・滑車取付孔、14・・コロナ抑制金具、15・・連結部材、20・・耐張装置、34・・クランプ部、35・・導体、40・・鉄塔腕金部、52・・金車、53・・荷吊ワイヤー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方が鉄塔腕金部(40)に連結され、且つ他方が複数の導体(35・・)のクランプ部(34・・)に連結され、複数の導体(35・・)を鉄塔腕金部(40)に張設する耐張装置(20)を交換するための把持金具であって、把持金具(2)は、鉄塔腕金部(40)と連結するための連結部材(15)を連結可能な連結部材取付手段と、複数の導体(35・・)のクランプ部(34・・)を連結可能なクランプ部取付手段とを備え、連結部材(15)を介して鉄塔腕金部(40)に連結され、且つ複数の導体(35・・)のクランプ部(34・・)に連結されることで、耐張装置(20)に代わって、複数の導体(35・・)を鉄塔腕金部(40)に張設することを特徴とする把持金具。
【請求項2】
把持金具(2)は、連結部材(15)を連結するための連結部材取付点(10)を、耐張装置(20)の外側に位置するように備えている請求項1に記載の把持金具。
【請求項3】
把持金具(2)は、複数の導体(35・・)のクランプ部(34・・)と接続するための複数のクランプ部取付点(6・・)を、導体(35・・)間の間隔と略同間隔に備えている請求項1又は2に記載の把持金具。
【請求項4】
把持金具(2)は、通電時のコロナ発生を抑制するコロナ抑制金具(14)を備えている請求項1乃至3のいずれかに記載の把持金具。
【請求項5】
把持金具(2)は、2枚の水平板(4)(4)と、水平板(4)(4)同士を繋ぐ垂直板(7)とからなる工事用固定ヨーク(3)と、水平板(4)(4)間に位置されるように垂直板(7)に接合される工事用水平ヨーク(9)とからなり、2枚の水平板(4)(4)の両端部に、それぞれクランプ部取付点(6)が設けられ、工事用水平ヨーク(9)の両端部に、それぞれ連結部材取付点(10)が設けられている請求項1乃至4のいずれかに記載の把持金具。
【請求項6】
垂直板(7)は、略中央部が導体(35)側に屈曲した略くの字状とされ、工事用水平ヨーク(9)は、この屈曲部に接合されているとともに、耐張装置(20)の上げ下げを行う荷吊ワイヤー(53)を掛け渡すための滑車(52)を取り付ける滑車取付点(13)を備えている請求項5に記載の把持金具。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかの把持金具(2)と、連結部材(15)とを備えたことを特徴とする耐張装置交換工具。
【請求項8】
一方端部が鉄塔腕金部(40)に連結され、且つ他方端部が複数の導体(35・・)のクランプ部(34・・)に連結され、複数の導体(35・・)を鉄塔腕金部(40)に張設する耐張装置(20)を交換する耐張装置交換方法であって、把持金具(2)を、鉄塔腕金部(40)に連結部材(15)を介して連結し、且つ複数の導体(35・・)のクランプ部(34・・)に連結することで、耐張装置(20)に代わって、複数の導体(35・・)を鉄塔腕金部(40)に張設し、この張設状態で耐張装置(20)の一部又は全てを交換することを特徴とする耐張装置交換方法。
【請求項9】
把持金具(2)は、2枚の水平板(4)(4)と、水平板(4)(4)同士を繋ぐ垂直板(7)とからなる工事用固定ヨーク(3)と、水平板(4)(4)間に位置されるように垂直板(7)に接合される工事用水平ヨーク(9)とからなり、工事用水平ヨーク(9)は、荷吊ワイヤー(53)を掛け渡すための滑車(52)を取り付ける滑車取付点(13)を備えており、耐張装置(20)に代わって、複数の導体(35・・)を鉄塔腕金部(40)に張設した状態において、工事用水平ヨーク(9)の滑車取付点(13)と、耐張装置(20)とにそれぞれ滑車(52)を配設して、この滑車(52)に荷吊ワイヤー(53)を掛け渡すことで、把持金具(2)と耐張装置(20)とを仮連結した後、複数の導体(35・・)と耐張装置(20)とを切り離し、荷吊ワイヤー(53)を送り出すことによって、耐張装置(20)を下ろす請求項8に記載の耐張装置交換方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−244586(P2011−244586A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114281(P2010−114281)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(391001538)日本カタン株式会社 (20)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(000141015)株式会社かんでんエンジニアリング (16)
【Fターム(参考)】