説明

抗アトピー性皮膚炎組成物

【課題】
アトピー性皮膚炎に対して、現在さまざまな治療法の開発が行われているが、残念ながら、まだ根本的に治すことのできる治療法は発見されていない。これらのため現状では、対処療法による症状改善が唯一の治療法となっている。本発明は、副作用などの問題が無く、アトピー性皮膚炎を改善することのできる安全性の高い新規な抗アトピー性皮膚炎組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 ガラクトマンナンを含有することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な抗アトピー性皮膚炎組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、ガラクトマンナンを含有する抗アトピー性皮膚炎組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アトピー性皮膚炎とは、顔面、四肢屈側や胸腹部を中心にかゆみの強い湿疹が現れて、よくなったり悪くなったりを繰り返す疾病である。かゆみのため皮膚をかくと、さらに皮膚の炎症を悪化させて、かゆみがより強くなるという悪循環を繰り返す。
一般にアトピー性皮膚炎は乳幼児期に発症し、多くは思春期までに自然に完治する子供の代表的なアレルギー疾患と考えられてきたが、10年ほど前から、20歳以上の成人型の増加が目立つようになった。現在、アトピー性皮膚炎は日本人の約2%に見られ、その4分の1は成人である。しかも、成人型の20%前後は重症例である。また、最近では犬や猫等の小動物におけるアトピー性皮膚炎も増えている。
この病気の原因については、以前はハウスダストやダニなどのアレルゲンに過敏に反応するアレルギー体質が原因と考えられていたが、最近の研究では、必ずしもそれだけではなく、皮膚のバリア機能の低下が大きく関係していることが分かってきた。つまり、アトピー性皮膚炎の人は、生まれつき皮膚を守るバリア機能が低下しており、ここにアレルゲンやストレスなどが加わって、症状が悪化すると考えられる。他には、カンジダ抗原がアトピー性皮膚炎を引き起こす重要因子であることも指摘されている。しかしながら、決定的な原因が不明であり、アトピー性皮膚炎に対して、現在さまざまな治療法の開発が行われているが、残念ながら、まだ根本的に治すことのできる治療法は発見されていない。これらのため現状では、対処療法による症状改善が唯一の治療法となっている。例えば、卵や牛乳などの食事アレルゲン物質の検察と除去する治療法、人間関係、多忙、進路葛藤や自立不安などの心理社会的ストレスといった心身医学的側面を改善する治療法、肌を清潔に保つ、充分な睡眠や栄養管理といった生活指導による治療法や抗ヒスタミン剤やステロイド剤といった薬物療法等がある。
アトピー皮膚炎の症状が重篤な場合は、薬剤療法が中心であり、特にその有効性が科学的に立証されている薬剤はステロイド外用剤である。その他の外用剤では、非ステロイド系消炎剤外用剤(NSAID外用剤)があるが、抗炎症作用は極めて弱く接触皮膚炎を生じることがあり適応範囲は狭い。さらに、最近使用が開始された外用剤として、移植免疫抑制薬タクロリムスの外用剤がある。本剤は、成人のアトピー性皮膚炎のみを対象疾患としているが、特に顔面の皮疹に対しては、ステロイド外用剤のミディアムクラス以上の有用性を有しており、一過性の刺激感は高頻度に出現するものの高い適応がある。しかし、本剤の薬効はステロイド外用剤のストロングクラスと同等であり、重症度の高い皮疹では十分な効果が得られない。また、現時点では小児のアトピー性皮膚炎には使用できないため、すべてのアトピー性皮膚炎患者の治療に使用できない。さらに、薬剤療法は、一時的に正常な皮膚に完治することが可能であるが、短期のうちに症状が再発する場合が多く長期に渡って治療を続ける必要がある。
しかし、薬剤に関しては、服用後の眠気、倦怠感や副腎皮質機能不全などの副作用が懸念されるため長期摂取をすることが困難である。すなわち、アトピー性皮膚炎患者や適当な内服用剤がないのが現状である。
このような背景から、安全に手軽にアトピー性皮膚炎改善を改善する改善剤が求められており、種々な方法が報告されている。例えば、アトピー性皮膚炎改善作用を有する天然物として、甜菜由来のオリゴ糖であるラフィノース(特許文献1参照)やエンメイソウなどから抽出された抽出物を含有する抗ヒスタミン剤(特許文献2参照)がある。しかし、ラフィノースは耐酸性が弱く、甘味も有するため種々の食品に応用することがでない。また。エンメイソウなどからの抽出は、抽出物の安定性、効果の安定性が悪く、さらに味が悪いといった問題があり患者が負担無く摂取することが非常に困難である。
【0003】
【特許文献1】特開平11−255656
【特許文献2】特開2001−48766
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、副作用などの問題が無く、アトピー性皮膚炎を改善することのできる安全性の高い新規な抗アトピー性皮膚炎組成物を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、アトピー性皮膚炎の患者に対して、副作用や摂取困難などの問題が無く、アトピー性皮膚炎を改善することのできる安全性の高い新規な抗アトピー性皮膚炎組成物を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、ガラクトマンナンを有効成分とするものは、アトピー性皮膚炎をより効果的に改善することを新規に見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、ガラクトマンナンを有効成分として含有することを特徴とする抗アトピー性皮膚炎組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の抗アトピー性皮膚炎組成物は、アトピー性皮膚炎を効果的に改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明における前記ガラクトマンナンとしては、ガラクトマンナンを主成分とするグァーガム、ローカストビーンガム、タラガム、カシアガム、セスバニアガム、フェニグリーク、ガラクトマンナン分解物等の天然粘質物があげられる。粘度の面から特に好ましくはガラクトマンナン分解物である。ガラクトマンナン分解物は、前記のガラクトマンナンを加水分解し低分子化することにより得られるものである。加水分解の方法としては、酵素分解法、酸分解法等、特に限定するものではないが、分解物の分子量が揃い易い点から酵素分解法が好ましい。酵素分解法に用いられる酵素は、マンノース直鎖を加水分解する酵素であれば市販のものでも天然由来のものでも特に限定されるものではないが、アスペルギルス属菌やリゾープス属菌等に由来するβ−マンナナーゼが好ましい。
【0008】
本発明に使用されるガラクトマンナンは、2,000〜1,000,000の平均分子量を持つことが効果と使用面の点より望ましい。平均分子量2,000以上であれば本発明のアトピー性改善効果を有するが、一方、平均分子量が1,000,000を超えると、粘度が高く食品に加工する場合に不都合が生じる場合が多いため、ガラクトマンナン分解物平均分子量は、2,000〜1,000,000である事が望ましい。特に好ましくは8,000〜100,000である。市販品としては、サンファイバー(太陽化学株式会社製)、ファイバロン(大日本製薬株式会社製)などが挙げられる。
【0009】
平均分子量の測定方法は、特に限定するものではないが、ポリエチレングリコール(分子量;2,000、20,000、200,000)をマーカーに高速液体クロマトグラフ法(カラム;YMC−Pack Diol−120(株)ワイエムシィ)を用いて、分子量分布を測定する方法等を用いることにより求めることができる。
【0010】
ガラクトマンナンは、種々の工業製品に好ましい物性を付与することが知られているが、このものがアトピー性皮膚炎の改善を有することは従来知られていなかった。しかし、本発明者らの研究によると、上述のようなガラクトマンナンを食品組成物とし、これを成人1日当たり1〜70g、好ましくは5〜20gを継続して摂取をつづけるとき、アトピー性皮膚炎の改善が認められることが見出された。
【0011】
本発明では、ガラクトマンナンと配合する食品材料は特に限定されるものではなく、他の糖類、食物繊維、脂質、アミノ酸、蛋白質、さらにこれらに必要に応じて、乳酸菌、ビタミン、ミネラルのようなその他の機能性を有する物質を添加して炎症性腸疾患の予防・治療剤とすることができる。このようなガラクトマンナンの摂取方法としては、例えば、飲料、クッキー、スナック菓子、乳製品などの種々の食品とすることができるほか、例えば適当な増量剤、賦形剤などを用いて錠剤状、液状、シロップ状、顆粒状などの医薬品や健康食品の形態にすることもできる。ガラクトマンナンは、種々な食品に添加することが可能であることから容易に摂取することが可能であり、アトピー性皮膚炎の改善することができる。本発明におけるガラクトマンナンのアトピー性皮膚炎で改善効果を試験例に基づいて詳しく説明する。
【実施例】
【0012】
以下、調製例及び試験例をあげて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0013】
(調製例1)
水900gに0.1N塩酸を加えてpH4.5に調整し、これにアスペルギルス属由来のβ−マンナナーゼ(阪急バイオインダストリー製)0.2gとグァーガム粉末(Lucid製 高グレード品)100gを添加混合して40〜45℃で24時間酵素を作用させた。反応後90℃、15分間加熱して酵素を失活させた。濾過分離(吸引濾過)して、不溶物を除去して得られた透明な溶液を減圧濃縮(エバポレーター;Yamato製)した後(固形分20%)、噴霧乾燥(大川原化工機株式会社)し、本発明品の抗アトピー性皮膚炎組成物であるガラクトマンナン分解物(平均分子量 約20,000)の粉末65gが得られた。
【0014】
(調製例2)
水900gに0.1N塩酸を加えてpH3.0に調整し、これにアスペルギルス属由来のβ−マンナナーゼ(阪急バイオインダストリー製)0.15gとグァーガム粉末(Lucid製 中グレード品)100gを添加混合して40〜45℃で24時間酵素を作用させた。反応後90℃、15分間加熱して酵素を失活させた。濾過分離(吸引濾過)して、不溶物を除去して得られた透明な溶液を減圧濃縮(エバポレーター;Yamato製)した後(固形分20%)、噴霧乾燥(大川原化工機株式会社)し、本発明品の抗アトピー性皮膚炎組成物であるガラクトマンナン分解物(平均分子量 約25,000)の粉末68gが得られた。
【0015】
(調製例3)
水900gに0.1N塩酸を加えてpH4.0に調整した。これにバチルス属由来のβ−マンナナーゼ(阪急バイオインダストリー製)0.25gとグァーガム粉末(Lucid製 低グレード品)100gを添加混合して50〜55℃で12時間酵素を作用させた。反応後90℃、15分間加熱して酵素を失活させた。濾過分離(吸引濾過)して、不溶物を除去して得られた透明な溶液を減圧濃縮(エバポレーター;Yamato製)した後(固形分20%)、噴霧乾燥(大川原化工機株式会社)し、本発明品の抗アトピー性皮膚炎組成物であるガラクトマンナン分解物(平均分子量 約15,000)の粉末70gが得られた。
【0016】
(試験例1):
<動物試験>
アトピー性皮膚炎改善試験を、アトピー性皮膚炎モデル動物として汎用されているNC/NgaTndCrjマウス(日本チャールズ・リバー(株)、以下NCマウスと略)を用いて実施した。以下にその概要を示す。
【0017】
NCマウス(雄、6週齢、SPFグレード)を購入し、1週間の予備飼育終了後、マウスを対照群、調整例1のガラクトマンナン投与群、調製例2のガラクトマンナン投与群、調整例3のガラクトマンナン投与群、未分解のガラクトマンナン投与群(各群5匹)に分け試験に用いた。なお、全飼育期間中の餌〔MF固形飼料(オリエンタル酵母工業(株)製)〕と水は自由摂取とし、飼育は通常の環境下(温度23±1℃、湿度55%±5%)で実施した。群分けから2週間後、毛刈りしたNCマウス腹部に5%の2,4,6−トリニトロクロロベンゼン(以下、PiClと略)を塗布することにより、感作させた。更に、1週間後、毛刈りしたNCマウス背部に0.8%PiCl溶液を塗布し、アトピー性皮膚炎症状を誘発させた。誘発処理は週1回実施し、試験終了まで、5週間継続した。
【0018】
各サンプルは、ゾンデを用いて経口投与した。投与期間及び頻度は、群分け終了後から試験終了までの8週間の期間中、1回/日とした。また、1回の投与量は、精製水に溶解させた20%のガラクトマンナン200μl、或いは、精製水200μl(対照群)とした。
【0019】
試験期間終了後のマウス皮膚病変部の状態を観察し、下記基準に従って各マウスの皮膚炎症状のスコア判定を実施した。スコアは、1:掻痒症、2:発赤・出血、3:浮腫、4:擦傷・組織欠損、5:痂皮形成・乾燥の各項目について、症状の軽い順から1〜5の5段階評価の和とした。結果を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
ガラクトマンナン群において、アトピー性皮膚炎改善効果が見られた。
【0022】
(試験例2)
<ヒト試験>
調製例1のガラクトマンナンを用いて、以下の要領でヒト効果試験を実施した。思春期・成人のアトピー性皮膚炎患者20名(男性10名、女性10名、平均年齢24歳)を対象とした。1日7g量の調製例1のガラクトマンナンを3ヶ月間毎日経口投与し、臨床効果を調べた。3ヶ月後に、皮膚炎症状態を観察し、試験開始前と比較した。なお、判定基準は、著名改善、改善、やや改善、変化なし及び悪化の5段階とした。結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
ガラクトマンナン投与によりアトピー性皮膚炎が改善することが確認された。なお、ガラクトマンナン投与による副作用は認められなかった。
【0025】
(試験例3)
<ヒト試験>
調製例1のガラクトマンナンを用いて、以下の要領でヒト効果試験を実施した。アトピー性皮膚炎の症状を持つ妊婦10名(平均年齢27歳)を対象とした。これらを5名ずつ対照群(サンファイバー無摂取)とサンファイバー摂取群の2群に分けた。サンファイバー摂取群には1日7g量の調製例1のガラクトマンナンを出産前の平均3ヶ月間毎日経口投与した。生まれてきた子供の幼児期における皮膚炎症状態を観察し、アトピー症状が確認された人数を対照群と比較した。なお、結果を表3に示す。
【0026】
【表3】

【0027】
ガラクトマンナン投与により生まれてきた子供のアトピー性皮膚炎の発症が抑制されることが確認された。なお、ガラクトマンナン投与による副作用は認められなかった。
【0028】
(調製例4)
調製例3で得られたガラクトマンナン分解物5gに粉糖93.5g、アラビアガム1.0g、ステアリン酸マグネシウム0.5g、香料適量の割合で混練して乾燥した後打錠し、アトピー性皮膚炎の改善に有用な錠菓の製品100gを得た。なお、味と物性面でガラクトマンナン分解物無添加品と違いは認められなかった。
【0029】
(調製例5)
調製例3で得られたガラクトマンナン分解物粉末5gにローファットミルク95.0gを加えアトピー性皮膚炎の改善に有用な乳飲料の製品100gを得た。なお、味と物性面でガラクトマンナン分解物無添加品と違いは認められなかった。
【0030】
(調製例6)
調製例3で得られたガラクトマンナン分解物粉末3.0gにピーチピューレ40.0g、果糖ブドウ糖液糖10.0g、クエン酸0.1g、ビタミンC0.03g、フレーバー適量、水46.8gを加えアトピー性皮膚炎の改善に有用な清涼飲料水の製品100gを得た。なお、味と物性面でガラクトマンナン分解物無添加品と違いは認められなかった。
【0031】
(調製例7)
調製例3で得られたガラクトマンナン分解物粉末5.0gに強力粉51.0g、砂糖15.0g、食塩7.0g、イースト8.0g、イースト1.0g、バター10.0g、水30.0gの配合でパン焼き機を利用してアトピー性皮膚炎の改善に有用な食パンの製品110gを得た。なお、味と物性面でガラクトマンナン分解物無添加品と違いは認められなかった。
【0032】
(調製例8)
調製例3で得られたガラクトマンナン分解物粉末4.0gにグラニュー糖30.0g、水あめ35.0g、ペクチン1.0g、1/5アップル果汁2.0g、水28.0gで混合し85℃まで加熱した後、50℃まで冷却しアトピー性皮膚炎の改善に有用なゼリーの製品100gを得た。なお、味と物性面でガラクトマンナン分解物無添加品と違いは認められなかった。
【0033】
(調製例9)
調製例3で得られたガラクトマンナン分解物粉末4.0gにグラニュー糖30.0g、水あめ35.0g、ペクチン1.0g、1/5アップル果汁2.0g、水28.0gで混合し85℃まで加熱した後、50℃まで冷却しアトピー性皮膚炎の改善に有用なゼリーの製品100gを得た。なお、味と物性面でガラクトマンナン分解物無添加品と違いは認められなかった。
【0034】
(調製例10)
調製例3で得られたガラクトマンナン分解物粉末2.0gとアラビノガラクタン粉末2.0gにグラニュー糖30.0g、水あめ35.0g、ペクチン1.0g、1/5アップル果汁2.0g、水28.0gで混合し85℃まで加熱した後、50℃まで冷却しアトピー性皮膚炎の改善に有用なゼリーの製品100gを得た。なお、味と物性面でガラクトマンナン分解物無添加品と違いは認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の抗アトピー性皮膚炎組成物は、ガラクトマンナンの効果により、アトピー皮膚炎を効果的に改善することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラクトマンナンを含有することを特徴とする抗アトピー性皮膚炎組成物。
【請求項2】
ガラクトマンナンがガラクトマンナン分解物であることを特徴とする請求項1記載の抗アトピー性皮膚炎組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の抗アトピー性皮膚炎組成物を含有する飲食品

【公開番号】特開2006−160623(P2006−160623A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−350956(P2004−350956)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000204181)太陽化学株式会社 (244)
【Fターム(参考)】