説明

抗アレルゲン機能を有するシート表皮

【課題】 自動車や鉄道車両等の椅子から発生するアレルゲン量を効率よく低減化し、アレルギー疾患患者の方にも安心して乗車頂けるシート表皮を提供することを目的とする。
【解決手段】 シート表皮を椅子に使用していると、アレルゲン物質は、シート表皮のパイル部の根元部分や地糸部を通過して椅子のクッション体内に集積してくることに注目し、シート表皮のバッキング樹脂層中にアレルゲン低減化剤を担持させることにより、パイル部の根元部分やクッション体内に入ったアレルゲンを効率的に低減することができる本発明に到達した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルゲン低減化剤を処理したシート表皮に関するものであり、自動車や鉄道車両等の室内における花粉やダニ等のアレルゲンを不活性化し、アレルギー疾患の症状を軽減化するシート表皮に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車や鉄道車両等の椅子に使用されるシート表皮は、一度装着すると、そのまま使用され続け、汚れたりした場合は、部分的にその汚れた箇所及びその周辺をふき取ったりして清潔さを保っているのが通常であって、シート表皮を剥がしてまで洗濯するようなことはおこなわれていない。また、自動車等の室内には、走行中花粉等のアレルゲンが入り込みやすく、カーペットマットやシート表皮に蓄積し、これらがアレルギーを引き起こす原因であるアレルゲンとなって、アレルギー疾患の症状を発症させることもあるといわれている。
【0003】
カーペットマットは、床からはずして、埃を叩いたり、洗濯することによって、清潔さを保つことができるが、シート表皮の場合は、表面から掃除機などで、花粉等のアレルゲンを吸引する程度であって、シート表皮の裏面やシート内部のクッション体に入ってしまったものまで完全に取り除くことができないことから、対策が望まれている。
【0004】
アレルゲンにはいろいろなタイプがあり、ダニ(虫体、死骸、抜け殻、糞)、カビ、ペット(毛、フケ)、花粉などがあげられ、アレルギー疾患の主な原因物質として考えられている。
【0005】
これに対応するため、エアコンや空気清浄機等を使った消臭、脱臭、集塵が行なわれるようになり、フィルター等によって空気中のアレルゲンを捕集する方法が提案されている。しかし、これらの方法は、室内の空気中に浮遊するアレルギー疾患の原因物質の駆除には有効ではあるが、シート表皮等の内部にある原因物質には効果は発揮されない。
【0006】
特許文献1〜3においては、アレルゲン低減化剤を繊維に固着し、アレルゲンを低減する技術が提案されているが、いずれも繊維等にアレルゲン低減化剤を浸漬、噴霧、印刷等の方法で塗布して担持させる方法が記載されているに過ぎず、シート表皮のように自動車や鉄道車両等の椅子に装着される状態で効率的にアレルゲン低減化性能を発現する技術は未だ開示されていない。
【特許文献1】特開2003−10089
【特許文献2】特開2003−96670
【特許文献3】特開2003−313778
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、自動車や鉄道車両等の椅子から発生するアレルゲン量を効率よく低減化し、アレルギー疾患患者の方にも安心して乗車頂けるシート表皮を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討の結果、シート表皮を椅子に使用しているとアレルゲン物質は、シート表皮のパイル部の根元部分や地糸部を通過して椅子のクッション体内に集積してくることに注目し、シート表皮のバッキング樹脂層中にアレルゲン低減化剤を担持させることにより、パイル部の根元部分やクッション体内に入ったアレルゲンを効率的に低減することができる本発明に到達し、以下の手段を提供する。
【0009】
[1]地糸部とパイル部とからなるシート表皮において、その裏面側にバッキング樹脂層を形成し、該バッキング樹脂層中にアレルゲン低減化剤を混入したことを特徴とするシート表皮。
【0010】
[2]前記アレルゲン低減化剤を混入したバッキング樹脂層は、バッキング樹脂100重量部に対し、アレルゲン低減化剤5〜30重量部と、充填剤0〜400重量部を混入してなる組成物からなることを特徴とする前項1に記載のシート表皮。
【0011】
[3]前記バッキング樹脂層に混入したアレルゲン低減化剤が5〜20g/m塗布された前項1または2に記載のシート表皮。
【0012】
[4]前記バッキング樹脂層に混入したアレルゲン低減化剤が鉱物性アレルゲン低減化剤であることを特徴とする前項1乃至3のいずれか1項に記載のシート表皮。
【発明の効果】
【0013】
[1]の発明では、バッキング樹脂層中にアレルゲン低減化剤を混入しているので、人が繰り返し着座してシート表皮のパイル部と人体との摩擦を繰り返してもバッキング樹脂層に影響は少なく、アレルゲン低減化効果は低下することなく、持続的にアレルゲン低減化の作用をするシート表皮とすることができる。更に、バッキング樹脂層中のアレルゲン低減化剤が地糸部からパイル部の根元に毛細管現象によりしみだしているので、パイル部の根元に集積するアレルゲンにも効果的に作用することができる。また、クッション体内に入ってしまったアレルゲンにもバッキング樹脂層中のアレルゲン低減化剤が効果的に作用し、地糸部を通過して室内にアレルゲンが拡散するのを防止することができる。
【0014】
[2]の発明では、前記アレルゲン低減化剤を混入したバッキング樹脂層は、バッキング樹脂100重量部に対し、アレルゲン低減化剤5〜30重量部と、充填剤0〜400重量部を混入してなる組成物からなっているので、適度な硬さと十分なアレルゲン低減化効果を有するシート表皮とすることができる。
【0015】
[3]の発明では、アレルゲン低減化剤が5〜20g/mバッキング樹脂層に混入して塗布されるので、十分なアレルゲン低減化効果を有するシート表皮とすることができる。
【0016】
[4]の発明では、アレルゲン低減化剤が鉱物性アレルゲン低減化剤であるので、有機系アレルゲン低減化剤よりも燃焼性能に優れたアレルゲン低減化効果を有するシート表皮とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、この発明に係る抗アレルゲン機能を有するシート表皮の一実施形態を図面に基づいて説明する。 この実施形態のシート表皮は、パイル部2と地糸部3とバッキング樹脂層4からなり、バッキング樹脂層4にはアレルゲン低減化剤が混入され、図に示すように、バッキング樹脂層4はパイル部2と地糸部3を固定すると同時に、パイル部2のパイル糸の根元に適度にしみだして固化し、パイル糸の根元に集積するアレルゲンに効果的に作用する。バッキング樹脂層4は、図の様に地糸部3の形状に沿って表面に薄く塗布されるもので、フィルム層のように完全な層をなすものではなく、地糸部3の経糸6及び横糸5とパイル糸に付着している。(図1参照)
【0018】
アレルゲン低減化剤は、アレルゲンを変成させるなどして不活性化し、抗原抗体反応を抑制する成分であれば特に限定されるものではなく、例えばタンニン酸、カテキンのような植物抽出物、2,5−ジヒドロキシ安息香酸のようなヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。本発明のような自動車や鉄道車両等の椅子に使用されるシート表皮においては、例えばモンモリロナイト、石英、長石等の鉱物由来の無機物からなるアレルゲン低減化剤、ペプチド配列を利用した有機系アレルゲン低減化剤を無機物に担持したアレルゲン低減化剤が加工性、耐久性、燃焼性から好適である。
【0019】
バッキング樹脂としては、パイル部のパイル糸の脱落を防ぐことのできる樹脂組成物やゴム組成物であれば特に限定されず、例えば樹脂組成物の樹脂成分としてはアクリル系、ウレタン系、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等の樹脂が挙げられる。ゴム組成物のゴム成分としてはSBR(スチレン−ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)MBR(メチルメタクリレート−ブタジエンゴム)あるいは天然ゴム等が挙げられる。自動車用シートの場合、耐熱性や耐光性、コスト面からアクリル酸エステル系の樹脂が多く用いられている。 また、自動車用シートの場合は、難燃性能の要求も強く、リン系やハロゲン系等の難燃剤を併用することが多い。
【0020】
アレルゲン低減化剤がバッキング樹脂100重量部に対し5重量部を下回る場合はアレルゲン低減化効果が発揮されず、30重量部を越えるとアレルゲン低減剤が凝固し好ましくない。より好ましくは7〜20重量部である。本発明においては、バッキング樹脂が地糸部3上のパイル糸の根元に適度にしみだすことが重要であって、バッキング樹脂の粘度を5,000〜25,000mpa・sに保つ必要があり、シート表皮に塗布する直前の粘度管理が大切である。
【0021】
バッキング樹脂の粘度が5,000mpa・sを下回る場合は、バッキング樹脂がパイル上部までしみだしてシート表皮が固くなり好ましくなく、25,000mpa・sを越えるとバッキング樹脂がパイルまでしみださないのでアレルゲン低減化効果が発揮されない。より好ましくは7,500mpa・s〜15,000mpa・sが好ましい粘度である。
【0022】
また、乾燥温度はパイル部と地糸部の材質、バッキング樹脂の塗布量にもよるが、100〜180℃、3〜10分で乾燥するのが好適である。
【0023】
また、アレルゲン低減化剤は、シート表皮に対し5〜20g/m塗布されることが好適である。アレルゲン低減化剤が5g/mを下回る場合はアレルゲン低減化効果が発揮されないので好ましくなく、20g/mを越えるとアレルゲン低減化効果が経済的に得られない。より好ましくは7〜15g/mがよい。
【0024】
バッキング樹脂層の充填剤としては、特に限定されず、例えば炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、フライアッシュ等を添加してバッキング樹脂として使用するのが一般的である。また、充填剤の混入量は、バッキング樹脂100重量部に対し、充填剤0〜400重量部を混入するのが好ましい。また本発明のバッキング樹脂には、分散剤、増粘剤を添加してもよいし、更にシート表皮の諸性質の向上を目的として、抗菌剤、消臭剤、難燃剤等の添加剤を発明の効果を妨げない範囲で適宜配合することができる。
【0025】
コーティング方法としては、ナイフコート、ロールコート、グラビアコート等いずれの方法でもよいが、ナイフコート法が通常多く行われている。
【0026】
地糸部3としては、どのような素材、形態のものでもよく、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維等の熱可塑性繊維、またこれら各繊維の複合化繊維、アセテート等の半合成繊維、レーヨン等の再生繊維、麻、綿等の天然繊維、あるいはこれらの混綿したもの等が挙げられる。
【0027】
また、本発明におけるパイル部のパイル糸の素材としても特に限定されるものではなく、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維、レーヨン繊維等の繊維からなるもの等を好適に使用でき、その他麻、綿、羊毛等の天然繊維からなるもの等も使用できる。
【実施例】
【0028】
次に、この発明の実施例として使用したシート表皮の材質、構造、アレルゲン低減化剤の種類、試験評価方法は次の通りである。
【0029】
<使用材料>
地経糸及び地緯糸・・・ポリエステル繊維65重量%とレーヨン繊維35重 量%とが混紡された30番双糸
パイル糸・・・ポリエステルフィラメント200dtex
構造・・・筬密度27羽/in 織組織1越 地経密度57本/in 地緯密度45本/in パイル長1.2mm パイル目付330g/m
バッキング樹脂・・・アクリル酸エステル系樹脂(充填剤として炭酸カルシウム)
アレルゲン低減化剤・・・チロシン(和光純薬工業株式会社製有機系アレルゲン低減化剤)
【0030】
<アレルゲン性能測定試験>
アレルゲン測定キット(アサヒビール薬品株式会社製 商品名「ダニスキャン」)を用いアレルゲン性を測定する。シート表皮を塵採取器でこすり、現像液をたらし、現われる赤い線の濃淡と位置で汚染状況を判定する。ダニスキャンの判定基準は以下の通りで2以下を合格とした。
1・・ダニアレルゲンの汚染はない。
2・・ややダニアレルゲンに汚染されているが、あまり影響はない。
3・・ダニアレルゲンの汚染が進んでいる。
4・・非常にダニアレルゲンに汚染されている。
【0031】
<粘度測定>
BM粘度測定機にて、4号ローター、6rpmにて測定した。
【0032】
<燃焼試験>
鉄道車両用材料燃焼試験「A−A基準」に基づいて燃焼性を確認した。サンプルサイズは182×257mm、試料ステージ角度は45度、火源はエチルアルコール0.5ccとし、燃料が燃え尽きるまで放置し自己消火、炭化変形等を評価した。
【0033】
<実施例1>
アクリル酸エステル系樹脂(固形分50重量%)100重量部と炭酸カルシウム100重量部にアレルゲン低減化剤を15重量部添加分散させ、粘度が15,000mpa・sのバッキング樹脂を1.2倍発泡させ、ローラーコーティングによってウェット300g/m塗布し、150℃、10分間乾燥処理してアレルゲン低減化シートを得た。アレルゲン低減化剤の塗布量は10.9g/mであった。
【0034】
次に10年間使用した鉄道車両シートから採取した塵ゴミ(3mg)を前記アレルゲン低減化シート(5cm×5cm)に乗せ、表面に塵ゴミが見えなくなるように擦りつけ、25℃×70%R.H.で2日間放置した後、シート表面をダニスキャン(商品名 アサヒビール薬品株式会社製)でアレルゲン性を測定し、1の結果を得た。
【0035】
<実施例2>
アレルゲン低減化剤25重量部添加し、アレルゲン低減化剤の塗布量を17.1g/mとした以外は、実施例1と同様にしてアレルゲン低減化シートを得た。ダニスキャンでの判定は1の結果を得た。
【0036】
<実施例3>
実施例1において炭酸カルシウム0重量部にアレルゲン低減化剤を5重量部添加分散させ、粘度が10,000mpa・sとした以外は、実施例1と同様にしたところ、アレルゲン低減化剤の塗布量は7.5g/mで、ダニスキャンでの判定は1の結果を得た。また、アレルゲン低減化シートは非常に柔らかな風合いであった。
【0037】
<比較例1>
アレルゲン低減化剤を混入していないバッキング樹脂を使用した以外は、実施例1と同様にしてシートを得、ダニスキャンで判定したところ4という結果を得た。
【0038】
<比較例2>
アレルゲン低減化剤3重量部添加し、アレルゲン低減化剤の塗布量を2.4g/mとした以外は、実施例1と同様にしてアレルゲン低減化シートを得た。ダニスキャンでの判定は3の結果を得た。
【0039】
<比較例3>
実施例1において、粘度を32,000mpa・sとした以外は、実施例1と同様にしたところ、バッキング樹脂がパイル糸の根元にまでしみ出ることはなく、アレルゲン低減化剤の塗布量は10.9g/mであるが、ダニスキャンでの判定は3の結果を得た。
【0040】
<実施例4>
ウレタン製クッション体を用意し、該クッション体上に10年間使用した鉄道車両シートから採取した塵ゴミ(3mg)を5cm×5cmの広さに乗せ、表面に塵ゴミが見えなくなるように擦りつけ、さらに実施例1において得たアレルゲン低減化シートを置いて、25℃×70%R.H.で2日間放置した後、シート表面をダニスキャンでアレルゲン性を測定し、1の結果を得た。
【0041】
<比較例4>
実施例4において、比較例1で用いたシートを使用した以外は、実施例4と同様にして、ダニスキャンで判定したところ3という結果を得た。
【0042】
<実施例5>
実施例1において、アレルゲン低減化剤として、モンモリロナイトを主成分とする鉱物性アレルゲン低減化剤を15重量部添加分散させた以外は、実施例1と同様にしたところ、ダニスキャンでの判定は1の結果を得、燃焼試験では、難燃剤を添加しなくても残炎、残塵はなく、着火、着炎はあるが周りに広がらず自己消失し、炭化変形は10cmでシート表皮として良好な燃焼性を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】この発明の一実施形態に係る抗アレルゲン機能を有するシート表皮を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0044】
1・・シート表皮
2・・パイル部
3・・地糸部
4・・バッキング樹脂層
5・・地緯糸
6・・地経糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地糸部とパイル部とからなるシート表皮において、その裏面側にバッキング樹脂層を形成し、該バッキング樹脂層中にアレルゲン低減化剤を混入したことを特徴とするシート表皮。
【請求項2】
前記アレルゲン低減化剤を混入したバッキング樹脂層は、バッキング樹脂100重量部に対し、アレルゲン低減化剤5〜30重量部と、充填剤0〜400重量部を混入してなる組成物からなることを特徴とする請求項1に記載のシート表皮。
【請求項3】
前記バッキング樹脂層に混入したアレルゲン低減化剤が5〜20g/m塗布されたことを特徴とする請求項1または2に記載のシート表皮。
【請求項4】
前記バッキング樹脂層に混入したアレルゲン低減化剤が鉱物性アレルゲン低減化剤であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシート表皮。

【図1】
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【公開番号】特開2009−197346(P2009−197346A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−37449(P2008−37449)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(390014487)住江織物株式会社 (294)
【Fターム(参考)】