説明

抗ストレス剤

【課題】優れた抗ストレス剤を提供する。
【解決手段】ギャバはリラックス効果が得られることで知られている食品素材である。一方、ラフマ抽出物は抗うつおよび抗不安作用があると報告されている。ラフマ抽出物はギャバ受容体の作動剤として作用すると示唆されていることから、ギャバとラフマ抽出物の同時摂取により、リラックス効果が増強されることが期待される。ギャバとラフマ抽出物を組み合わせた組成物が優れた抗ストレス作用を示し、ストレスの治療薬、予防薬とするのに適していることを見出し、初めてヒトでのストレス低減効果を実証し、ギャバとラフマ抽出物を組み合わせた組成物は単独で使用するときよりも一層強い作用を示した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギャバとラフマ抽出物を組み合わせた新規な抗ストレス作用を有する食品、栄養補助食品、医薬品などに適した組成物を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
ストレス社会におかれている現代人の多くは、仕事環境、家庭的事情、人間関係など数々のストレスにさらされており、うつ、不眠、自殺などの健康被害が社会問題となっている。こうした現代社会に適応し、健全に暮らすために、ストレスを減らすことはもちろん、ストレスに対する耐性を高めることも重要である。日常摂取する食品が精神活動に影響を及ぼす可能性があると言われ、心の健康を助ける機能性食品が注目され、リラックス、抗ストレスのサプリメントなども手軽に利用できる時代となった。同時に、店頭に並ぶリラックス、抗ストレス効果を持つ機能性食品やサプリメントを複数種同時に摂取する可能性も高くなっていると言える。また、複数の食品素材の併用によって、より簡便でより効果的なストレス軽減、気分向上作用が望まれている。
【0003】
ギャバ(γ−アミノ酪酸)はアミノ酸のひとつで、脳内で主に抑制性の神経伝達物質として機能している物質である。ギャバはリラックス効果が得られることで知られている食品素材であり、ギャバ摂取による癒し、リラックス効果に関する研究が多く報告されている(非特許文献1、2、3、4)。
【0004】
ラフマは「中華人民共和国薬典」に心臓病、腎炎、高血圧、不眠症、神経衰弱などの治療薬として収載されており、心を安定させる茶葉として中国で利用されてきた。近年では、動物実験においてラフマ抽出物のリラックス効果について、ラフマ茶のアルコール抽出物投与は抗うつ作用を示す可能性があるという報告(非特許文献5)や、抗不安作用を示す可能性があるという報告がある(非特許文献6)。
【0005】
ラフマ抽出物は脳内抑制神経伝達物質ギャバ受容体の作動剤として作用すると示唆されていることから(非特許文献6)、ギャバとラフマ抽出物の同時摂取により、リラックス効果が増強されることが期待される。ラフマ抽出物とギャバの併用により一層効果的な抗ストレス作用を実証することにより、本発明に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−201139「抗欝剤」
【特許文献2】特許 US 6,737,085 B2「APOCYNUM VENETUM EXTRACT FOR USE AS ANTIDEPRESSANT」
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Abdou A M,Higashiguchi S,Horie K,Kim M,Hatta H,and Yokogoshi H.:Relaxation and immunity enhancement effects of γ−Aminobutyricacid(ギャバ)administration in humans,Biofactors 26(3):201−8,2006
【非特許文献2】森 久子,渡部 恭子,磯野 義員:茶抽出物中でγ−アミノ酪酸を生成する乳酸菌Lactobacillus brevis mh4219の分離とそれを用いた発酵茶飲料のストレス軽減効果,生物工学会誌85(12):521−526,2007
【非特許文献3】吉國 義明,堀江 健二,谷川 鯉沙,横越 英彦:ギャバの製法・安全性・効能効果に関する最近の進捗,Foods & Food Ingred J Jpn 213(12):1145−1156,2008
【非特許文献4】藤林 真美,森谷 敏夫,神谷 智康,高垣 欣也:ギャバ経口摂取による自律神経活動の活性化,日本栄養・食糧学会誌61(3):129−133,2008
【非特許文献5】アレルギーとフラボノイド、日本補完代替医療学会誌3(1)pp.1−8 2006
【非特許文献6】Grundmann O.:Kaempferol from the leaves of Apocynum venetum possesses anxiolytic activities in the elevated plus maze test in mice.Phytomedicine,16,295(2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ストレス社会におかれている現代人の多くは、仕事環境、家庭的事情、人間関係など数々のストレスにさらされており、うつ、不眠、自殺などの健康被害が社会問題となっている中、心の健康を助ける機能性食品が注目され、抗ストレス効果を持つ機能性食品、または複数種の併用によって、より簡便で効果的なストレス軽減、気分向上作用が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ギャバはリラックス効果が得られることで知られている食品素材である。一方、ラフマ抽出物は抗うつ作用を示す可能性があるという報告(非特許文献5)や、抗不安作用を示す可能性があるという報告がある(非特許文献6)。ラフマ抽出物は脳内抑制神経伝達物質ギャバ受容体の作動剤として作用すると示唆されていることから(非特許文献6)、ギャバとラフマ抽出物の同時摂取により、リラックス効果が増強されることが期待される。ギャバとラフマ抽出物を組み合わせた組成物が優れた抗ストレス作用を示し、ストレスの治療薬、予防薬とするのに適していることを見出し、初めてヒトでのストレス低減効果を実証した。ギャバとラフマ抽出物を組み合わせた組成物は単独で使用するときよりも一層強い作用を示した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に使われるラフマ抽出物はラフマの葉、もしくはラフマ葉より水あるいはエタノールまたは含水エタノールあるいは有機溶剤で抽出、濃縮して得られる加工物のいずれかをいう。より具体的には、例えば特開2002−201139「抗欝剤」(特許文献1)および特許 US 6,737,085 B2 「APOCYNUM VENETUM EXTRACT FOR USE AS ANTIDEPRESSANT」 (特許文献2)に記載されている製造方法により得られる、固形分当たり4重量%以上のヒペロシド、イソクエルシトリンを含むラフマ抽出物である。
【0011】
ギャバとしては、ギャバ単一物質、ギャバを含有する混合物、ギャバを含有する食品、野菜、植物またはそれらの抽出物を使用することができる。
【0012】
本発明におけるギャバとラフマ抽出物を組み合わせた組成物は、純品ギャバとラフマ抽出物の配合比が重量比として1対10から10対1の間である。好ましくは3対7から7対3の間である。
【0013】
本発明におけるギャバとラフマ抽出物を組み合わせた組成物は1日の用量は1mgから1000mg、好ましくは配合比が5対5の組成物を50mgから500mg摂取することを特徴とする。
【0014】
本発明におけるギャバとラフマ抽出物を組み合わせた組成物はギャバとラフマ抽出物の混合物を製剤化しでもよいし、ギャバとラフマ抽出物を別々製剤化し、同時に摂取してもよい。
【0015】
本発明の抗ストレス剤は、利用の形態は限定されないが、たとえば粉末状、顆粒状などが挙げられ、食品または栄養補助品として、通常用いられる形態、たとえば懸濁剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、エリキシル剤、酒精剤に利用することができる。
【実施例】
【0016】
これより本発明を以下の実施例で詳しく説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0017】
実施例で使用するラフマ抽出物は特開2002−201139「抗欝剤」(特許文献1)および特許 US 6,737,085 B2「APOCYNUM VENETUM EXTRACT FOR USE AS ANTIDEPRESSANT」(特許文献2)に記載されている製造方法により得られる固形分当たり合計4重量%以上のヒペロシドとイソクエルシトリンを含むラフマ抽出物(ベネトロン、(株)常磐植物化学研究所製)である。ギャバは(株)ファーマフーズ製の単一物質を用いた。
【0018】
ギャバとラフマ抽出物の併用によるストレス低減効果を、ギャバおよびラフマ抽出物を含有するカプセルを人に経口摂取前後の唾液中クロモグラニンA(CgA)濃度の動態により評価を行った。
CgAは副腎髄質クロム親和性細胞や交感神経ニューロンから分泌される主要なタンパク質の一種で、ストレス反応で交感神経−副腎髄質系と深く関連し、微弱な精神的ストレスに対しても早期に反応する優れた指標と考えられでいる。
【0019】
静岡県立大学の学生の中で、ボランティアとして協力を申し出た者に対し、あらかじめ実験の目的、内容、そしてこの実験の参加による身体の危険性がなく、被験者の意思により途中でやめることによるデメリットがないなどについて十分に説明し、インフォームド・コンセントを得た。男子学生(12名)に実験に参加してもらった。
【0020】
被験者にすべての実験実施日の前日21時から当日の実験終了までは水以外の飲食、喫煙、激しい運動を控え、十分に睡眠をとるようにしてもらった。ギャバ、ラフマ抽出物およびプラセボは、それぞれギャバ粉末((株)ファーマフーズ製)25mg、ラフマ抽出物末(ベネトロン、(株)常磐植物化学研究所製)25mg、精製植物澱粉25mgをセルロースカプセルに充填したものを用いた。サンプルの組み合わせは、▲1▼ギャバ+プラセボ、▲2▼ラフマ抽出物+プラセボ、▲3▼ギャバ+ラフマ抽出物、▲4▼プラセボ+プラセボの計4セットを準備し、1日1セット、連続した4日に分けてそれぞれ被験者に150mlのナチュラルミネラルウォーター(「森の水だより」、コカ・コーラナショナルビバレッジ(株))と共に経口摂取させた。また、摂取するサンプルの順番については、▲1▼→▲2▼→▲3▼→▲4▼、▲2▼→▲4▼→▲1▼→▲3▼、▲3▼→▲1▼→▲4▼→▲2▼、▲4▼→▲3▼→▲2▼→▲1▼、計4通りの組み合わせを、ランダムに3名ずつの被験者に振り分けるようにした。
【0021】
実験は平均室温25.7±0.7℃、平均湿度64.8±3.7%の教室内で、9月の下旬に行った。午前9時にすべての被験者が入室完了後、座位安静にしてもらい、実験を開始した。15分間の安静後、水道水でうがいさせ、唾液サンプルをサリベット(Salivette製、(株)アシスト販売)により採取し、サンプルを摂取させた。ギャバの経口摂取は速やかに吸収され、30分から1時間をピークに達し、その後血中濃度が急激に減少すると報告されていることから、摂取後30分の唾液採取に合わせるようにした。つまり、摂取15分後に15分間の内田クレペリンテストによりストレスを負荷し、直後に再度唾液サンプルを採取した。実験が全て終了した後に冷凍保存した唾液サンプル中のCgAをYK070 Human Chromogranin A EIA Kit(矢内原研究所製)により定量した。
【0022】
表1は各サンプル摂取前後における唾液中CgAの増加倍数を示した。
【表1】

【0023】
図1は表1の数字を図表に反映したもの。縦軸は唾液中のCgA増加倍数を示し、図中の*マークは、プラセボを摂取した場合のCgA増加倍数に対する有意な差(p<0.05)があることを示す。


【0024】
この結果、プラセボ摂取条件は、ストレスの増加に伴い、ストレスマーカーであるCgA濃度が平均約1.61倍に増加したのに対して、ギャバとラフマ抽出物の併用条件ではストレス負荷後も、CgA濃度は摂取前安静時とほぼ変わらない1.01倍であって、統計的に有意差があった。単独ギャバまたはラフマ抽出物を摂取した場合は有意差が観測されなかった。
【0025】
一般的には、2種の薬剤を組み合わせて使用したとき生ずる効果は相加作用、拮抗作用、相乗作用のいずれかであるが、通常は相加作用であり、拮抗作用と相乗作用とはまれであり、かつそれらが生ずることは予想できない。
【0026】
ラフマ抽出物とギャバを組み合わせた組成物は単独で使用するときよりも一層強い作用を示し、その作用の強さは単純にラフマ抽出物とギャバの効力の合計からは予想できるものではなかった。これについて、以下のように説明する。
【0027】
実験データを再記すると、

【0028】
ラフマ抽出物とギャバを組み合わせた組成物の予測される相加効果はコルビー(Colby)の式(R.S.Colby,Weeds,15,20−22,1967)を用いて計算した結果、
70%+65%−70%×65%=90%
即ち、ラフマ抽出物とギャバの相加効果は唾液中のCgA抑制率が90%程度である。
【0029】
コルビー(Colby)の式を用いて計算された相加効果と、観察された効果と比較し、観察された効果(唾液中のCgA抑制率98%)がコルビーの式を用いて予測された効果(唾液中のCgA抑制率90%)より高く、つまり、より強い抗ストレス効果があることを示している。
【0030】
従って、ラフマ抽出物とギャバの併用効果は単なるラフマ抽出物とギャバの相加作用ではなく、予想できない相乗作用であると意外な効果を表した。
【産業上の利用可能性】
【0031】
ストレス社会におかれている現代人の多くは、仕事環境、家庭的事情、人間関係など数々のストレスにさらされており、うつ、不眠、自殺などの健康被害が社会問題となっている中、心の健康を助ける機能性食品が注目され、抗ストレス効果を持つ機能性食品、または複数種の併用によって、より簡便で効果的なストレス軽減、気分向上作用が望まれているところであり、本発明は抗ストレス剤としての好適な素材の一つとなり得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラフマ抽出物とギャバ(γ−アミノ酪酸、ギャバ)を含むことを特徴とする抗ストレス剤。
【請求項2】
ギャバとラフマ抽出物の配合比が重量比として1対10から10対1の範囲であることを特徴とする抗ストレス剤。
【請求項3】
ラフマ抽出物とギャバを含有する組成物を用いてストレスを低減させる方法。
【請求項4】
ラフマ抽出物がラフマ(Apocynum venetumL.)の葉もしくは葉の加工物である請求項1に記載の抗ストレス剤。
【請求項5】
ラフマ抽出物が固形分当たり合計4重量%以上のヒペロシドとイソクエルシトリンを含むことを特徴とする請求項1に記載の抗ストレス剤。
【請求項6】
ギャバとして、ギャバ単一物質、ギャバを含有する混合物、ギャバを含有する食品、野菜、植物またはそれらの抽出物を使用することを特徴とする上記請求項1記載の抗ストレス剤。
【請求項7】
ギャバとラフマ抽出物の摂取量は合計1日1mgから1000mgの範囲であることを特徴とする上記請求項1記載の抗ストレス剤。
【請求項8】
ラフマ抽出物が固形分当たり合計4重量%以上のヒペロシドとイソクエルシトリンを含み、ギャバとの合計摂取量は1日1mgから1000mgの範囲であることを特徴とする上記請求項1記載の抗ストレス剤。

【公開番号】特開2011−93842(P2011−93842A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249480(P2009−249480)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本生理人類学会誌 14巻(3号)55〜59(2009) 発行所:日本生理人類学会 発行年月日:平成21年 8月25日 著者:陽東 藍、石原 茂正、李楊 金緯、V.Butterweck、横越 英彦 題目:唾液クロモグラニンA濃度測定によるγ−アミノ酪酸とラフマエキスのストレス低減効果の検証
【出願人】(595132360)株式会社常磐植物化学研究所 (10)
【Fターム(参考)】