説明

抗微生物活性ペプチド

【課題】グラム陽性および陰性の病原細菌を含む微生物に対して強い抗微生物活性を示し、既知の抗微生物ペプチドとは全く異なる新規な抗微生物活性ペプチドを提供すること。
【解決手段】本発明は、抗微生物ペプチド前駆体の前駆領域ペプチドのアミノ酸配列を改変した抗微生物活性を示す抗微生物活性ペプチドであって、前駆領域ペプチドに含まれる酸性アミノ酸残基の側鎖にあるカルボキシル基がアミド基に変換された抗微生物活性ペプチドである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗微生物活性ペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
抗微生物ペプチドは、真核多細胞生物には無害であるが、微生物に対して選択的に毒性を示すことが知られている。
かかる抗微生物ペプチドとしては、乳酸菌が作るナイシンが知られている。なお、ナイシンは、乳製品等の抗菌保存剤として実用化されている。
【0003】
ところで、近年、様々な動植物や微生物などから、新規の抗微生物ペプチドを分離し、遺伝子組み換え等を行って、抗微生物ペプチドを産生させる試みがなされている。
【0004】
例えば、タイワンカブトムシから抽出されるペプチドのC末端をアミド化することにより、優れた抗菌活性を示す抗微生物活性ペプチドが得られることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
なお、本発明者等は、平成19年9月27日(特願2007−251285号)に、それ自体は抗微生物活性を示さず、抗微生物活性を増強する抗微生物活性増強ペプチドの特許出願を行っている。
【特許文献1】特許第3273314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、細菌等の微生物は、従来の抗微生物剤に耐性を獲得すべく変異していることが知られている。このことにより、近年においては、従来は有効であった抗微生物剤の使用においても十分な抗微生物活性が得られない事態が生じている。
一方で、探索が進んだ今日では、既知のカテゴリーに属する抗微生物ペプチドしか見つからなくなっている。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、グラム陽性および陰性の病原細菌を含む微生物に対して強い抗微生物活性を示し、既知の抗微生物ペプチドとは全く異なる新規な抗微生物活性ペプチドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討したところ、動植物が抗微生物ペプチド前駆体を産生する際に除かれる前駆領域ペプチドが抗微生物活性をコントロールしていることに着目した。
そして、一般に抗微生物ペプチド前駆体は塩基性であるのに対し、前駆領域ペプチドにおいては酸性アミノ酸残基であるカルボン酸が多く存在していることを見出した。
そこで、本発明者等は、C末端以外の側鎖のカルボン酸をアミド基へ変換することを試みた結果、意外にも、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、(1)抗微生物ペプチド前駆体の前駆領域ペプチドのアミノ酸配列を改変した抗微生物活性を示す抗微生物活性ペプチドであって、前駆領域ペプチドに含まれる酸性アミノ酸残基の側鎖にあるカルボキシル基がアミド基に変換されたものである抗微生物活性ペプチドに存する。
【0010】
本発明は、(2)微生物の細胞膜を破壊する上記(1)記載の抗微生物活性ペプチドに存する。
【0011】
本発明は、(3)最小殺菌濃度が50μM以下である上記(1)記載の抗微生物活性ペプチドに存する。
【0012】
本発明は、(4)抗微生物ペプチド前駆体がセクロピン型に由来するものである上記(1)記載の抗微生物活性ペプチドに存する。
【0013】
本発明は、(5)抗微生物ペプチド前駆体が線虫由来のものである上記(1)記載の抗微生物活性ペプチドに存する。
【0014】
本発明は、(6)側鎖にあるすべてのカルボキシル基がアミド基に変換されている上記(1)記載の抗微生物活性ペプチドに存する。
【0015】
本発明は、(7)前駆領域ペプチドが下記(A)〜(C)のうちのいずれか1つのアミノ酸配列からなるペプチド断片を有するものである上記(1)記載の抗微生物活性ペプチドに存する。
(A)
ArgArgArgPheValAlaGluGlnAspAlaIleHisSerArgValSerArgGluValProThrLeuSerAspSerVal(配列番号1)
(B)
ArgArgArgPheValValGlnGlnAspThrIleSerProArgLeuGluValAspGluArgPheLeuProAsnSerValGlnGluGlnIle(配列番号2)
(C)
ArgArgArgSerValGlyGluGluAspAlaIleProSerHisIleGluValAsnLysPhePheLeuArgLysProAlaLysGluHisIle(配列番号3)
【0016】
本発明は、(8)下記(D)〜(F)のうちのいずれか1つのアミノ酸配列からなるペプチド断片を有する抗微生物活性ペプチドに存する。
(D)
ArgArgArgPheValAlaGlnGlnAsnAlaIleHisSerArgValSerArgGlnValProThrLeuSerAsnSerVal(配列番号4)
(E)
ArgArgArgPheValValGlnGlnAsnThrIleSerProArgLeuGlnValAsnGlnArgPheLeuProAsnSerValGlnGlnGlnIle(配列番号5)
(F)
ArgArgArgSerValGlyGlnGlnAsnAlaIleProSerHisIleGlnValAsnLysPhePheLeuArgLysProAlaLysGlnHisIle(配列番号6)
【0017】
なお、本発明の目的に添ったものであれば、上記(1)〜(8)を適宜組み合わせた構成も採用可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の抗微生物活性ペプチドは、グラム陽性および陰性の病原細菌を含む微生物に対して強い抗微生物活性を示す。
また、抗微生物ペプチド前駆体の前駆領域ペプチドに含まれる酸性アミノ酸残基の側鎖にあるカルボキシル基をアミド基に変換して得られる。換言すると、天然の抗微生物ペプチドとは無関係の配列を限定的に改変して得られる。このため、これらは新規な抗微生物活性ペプチドであり、既知の天然由来の抗微生物ペプチドとは配列に類似性がない。
なお、上記抗微生物活性ペプチドは、側鎖にあるすべてのカルボキシル基がアミド基に変換されていると、より強い抗微生物活性を示す。
【0019】
本発明の抗微生物活性ペプチドは、微生物の細胞膜を破壊することにより、抗微生物活性を発揮する。すなわち、上記抗微生物活性ペプチドは、細胞膜の破壊が抗微生物作用の分子機序である。
【0020】
本発明の抗微生物活性ペプチドは、最小殺菌濃度が50μM以下であると、微量で抗微生物活性を示すので、食品保存料、現行の抗生物質と同様の投与量における抗菌剤としての使用、遺伝子組換え動植物の作出による耐病性の付与等の用途に適用が可能となる。
【0021】
本発明の抗微生物活性ペプチドは、抗微生物ペプチド前駆体がセクロピン型に由来するもの、若しくは、抗微生物ペプチド前駆体が線虫由来のものであると、より強い抗微生物活性を示す。
【0022】
本発明の抗微生物活性ペプチドは、前駆領域ペプチドが上記(A)〜(C)のうちのいずれか1つのアミノ酸配列からなるペプチド断片を有するものであると、カルボキシル基をアミド基に変換することにより、より一層強い抗微生物活性を示す新規な抗微生物活性ペプチドが得られる。
【0023】
本発明の抗微生物活性ペプチドは、上記(D)〜(F)のうちのいずれか1つのアミノ酸配列からなるペプチド断片を有するので、既知の抗微生物ペプチドとは全く異なる新規な抗微生物活性ペプチドであり、グラム陽性および陰性の病原細菌を含む微生物に対して強い抗微生物活性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
本発明の抗微生物活性ペプチドは、抗微生物ペプチド前駆体の前駆領域ペプチドのアミノ酸配列を改変した抗微生物活性ペプチドである。
【0025】
ここで、本発明において、抗微生物ペプチド前駆体とは、動植物が免疫機構の一部として抗微生物ペプチドを産生するときに最初に作られるプロセシングを受ける以前の翻訳産物を意味し、前駆領域ペプチドとは、抗微生物ペプチド前駆体がプロセシングされて成熟した抗微生物ペプチドが生ずる際に、除去される前駆部分のペプチドを意味する。
【0026】
上記動植物としては、例えば、節足動物(昆虫、甲殻類など)、軟体動物(貝など)、脊椎動物、原索動物、線虫等が挙げられる。
これらの中でも、線虫であることがより好ましい。換言すると、抗微生物活性ペプチドは、抗微生物ペプチド前駆体が線虫由来のものであることが好ましい。
この場合、ペプチド性抗微生物物質の抗微生物活性をより確実にさせることができる。
【0027】
上記抗微生物ペプチド前駆体としては、例えば、アルファヘリクス型(セクロピン型を含む)、富システイン型、富プロリン型、富トリプトファン型、富ヒスチジン型、富グリシン型等に由来するものが挙げられ、これらの中でも、セクロピン型に由来するものであることが好ましい。
【0028】
すなわち、抗微生物ペプチド前駆体は、線虫セクロピン由来のものであることがより好ましい。
【0029】
前駆領域ペプチドは、例えば、以下の方法によってアミノ酸配列が決定される。
例えば、動植物の抽出液から、抗微生物ペプチド前駆体を精製し、アミノ酸配列を決定する。そのアミノ酸配列をもとに、縮重プライマーを用いたRT−PCR法によって、精製した抗微生物ペプチド前駆体に対応するcDNAをクローニングする。cDNAから予測された前駆体のアミノ酸配列と、精製した抗微生物ペプチド前駆体とから直接決定された配列を比較して、ペプチドの成熟過程で除かれる前駆領域ペプチドのアミノ酸配列を決定する。
【0030】
なお、このとき、前駆領域ペプチドは、抗微生物ペプチド前駆体のC末端で除去されたものであることが好ましい。換言すると、上記前駆領域ペプチドは、C末端前駆領域ペプチドであることが好ましい。
【0031】
こうして得られる前駆領域ペプチドは、酸性アミノ酸残基を複数有しており、例えば、下記(A)〜(C)(配列番号1〜配列番号3)のうちのいずれか1つのアミノ酸配列からなるペプチド断片を有するものであることが好ましい。
(A)
ArgArgArgPheValAlaGluGlnAspAlaIleHisSerArgValSerArgGluValProThrLeuSerAspSerVal(配列番号1)
(B)
ArgArgArgPheValValGlnGlnAspThrIleSerProArgLeuGluValAspGluArgPheLeuProAsnSerValGlnGluGlnIle(配列番号2)
(C)
ArgArgArgSerValGlyGluGluAspAlaIleProSerHisIleGluValAsnLysPhePheLeuArgLysProAlaLysGluHisIle(配列番号3)
【0032】
ここで、上記アミノ酸配列において、Argはアルギニン、Pheはフェニルアラニン、Valはバリン、Alaはアラニン、Glnはグルタミン、Asnはアスパラギン、Ileはイソロイシン、Hisはヒスチジン、Serはセリン、Proはプロリン、Thrはトレオニン、Leuはロイシン、Glyはグリシン、Lysはリジン、Gluはグルタミン酸、Aspはアスパラギン酸を意味する。なお、グルタミンは、グルタミン酸側鎖のカルボキシル基をアミド基に変換したものであり、アスパラギンは、アスパラギン酸側鎖のカルボキシル基をアミド基に変換したものである。
【0033】
本発明の抗微生物活性ペプチドは、前駆領域ペプチドの酸性アミノ酸残基の側鎖にあるカルボキシル基がアミド基に変換されたものである。
例えば、前駆ペプチドが上記配列番号1〜3のアミノ酸配列からなるペプチド断片を有する場合、配列番号1〜3のアミノ酸配列中のGlu(グルタミン酸)及び/又はAsp(アスパラギン酸)のカルボキシル基がアミド基に変換されたものである。
【0034】
これらのカルボキシル基からアミド基への変換は、抗微生物活性ペプチドを化学的および生物的に合成する場合において、GluをGlnに、AspをAsnに置換することによって達成される。なお、かかる合成方法については後述する。
【0035】
こうして得られる本発明の抗微生物活性ペプチドは、グラム陽性および陰性の病原細菌を含む微生物に対して強い抗微生物活性を示す。なお、上記配列番号1〜配列番号3のペプチド断片を有する前駆領域ペプチドは、線虫セクロピン由来のものであり、それ自体は抗微生物活性を示さない。
【0036】
上記抗微生物活性ペプチドは、抗微生物ペプチド前駆体の前駆領域ペプチドに含まれる酸性アミノ酸残基の側鎖にあるカルボキシル基をアミド基に変換して得られる。換言すると、天然の抗微生物ペプチドとは無関係の配列を限定的に改変して得られる。このため、これらは既知の天然由来の抗微生物ペプチドとは配列に類似性がない。
【0037】
上記抗微生物活性ペプチドにおいて、側鎖にあるすべてのカルボキシル基がアミド基に変換されていることが好ましい。なお、このときC末端カルボキシル基を有する場合は、かかるC末端カルボキシル基もアミド基に変換されていることが好ましい。
また、前駆領域ペプチドが上記配列番号1〜3のうちのいずれか1つのアミノ酸配列からなるペプチド断片を有する場合は、すべてのGluをGlnに、AspをAsnに置換することが好ましい。
これらの場合の抗微生物活性ペプチドは、より強い抗微生物活性を示す。
【0038】
また、本発明の抗微生物活性ペプチドは、化学的又は生物的に合成により、下記(D)〜(F)(配列番号4〜配列番号6)のうちのいずれか1つのアミノ酸配列からなるペプチド断片を有するものである。
(D)
ArgArgArgPheValAlaGlnGlnAsnAlaIleHisSerArgValSerArgGlnValProThrLeuSerAsnSerVal(配列番号4)
(E)
ArgArgArgPheValValGlnGlnAsnThrIleSerProArgLeuGlnValAsnGlnArgPheLeuProAsnSerValGlnGlnGlnIle(配列番号5)
(F)
ArgArgArgSerValGlyGlnGlnAsnAlaIleProSerHisIleGlnValAsnLysPhePheLeuArgLysProAlaLysGlnHisIle(配列番号6)
【0039】
上述したGluをGlnに、AspをAsnに置換する化学的な合成方法としては、固相法や液相法が挙げられる。
ここで、固相法とは、表面をアミノ基で修飾した直径0.1mm程度のポリスチレン高分子ゲルのビーズ等を固相として用い、ここから脱水反応によって1つずつアミノ酸鎖を伸長していき、目的とするペプチドの配列が出来上がったら固相表面から切り出し、目的の物質を得る方法である。
また、液相法とは、合成しようするペプチドを固相に固定せず、液相で合成を行なうものであり、アミノ酸残基を1つ伸長するたびに精製を行なう方法である。
【0040】
また、GluをGlnに、AspをAsnに置換する生物的な合成方法とは、大量発現にふさわしいプロモーターの支配下に合成しようとするペプチドの遺伝暗号をもつ翻訳領域を結合させた人工的なDNAを構築し、大腸菌、酵母、昆虫もしくは脊椎動物の培養細胞に合成させる方法である。なお、必ずしも生きた細胞を用いるとは限らず、遺伝子の転写および翻訳に関わる因子を全て含む細胞抽出物を用いた無細胞転写翻訳系を用いる場合を含む。
【0041】
上記(D)〜(F)のアミノ酸配列を有する抗微生物活性ペプチドは、既知の抗微生物ペプチドとは全く異なる新規な抗微生物活性ペプチドであり、グラム陽性および陰性の病原細菌を含む微生物に対して強い抗微生物活性を示す。
【0042】
本発明の抗微生物活性ペプチドは、抗微生物活性を示す。かかる抗微生物活性は、微生物の細胞膜を破壊することにより、達成される。すなわち、上記抗微生物活性ペプチドは、細胞膜の破壊が抗微生物作用の分子機序であるといえる。
【0043】
本発明の抗微生物活性ペプチドは、最小殺菌濃度が100μM未満であることが好ましく、50μM以下であることがより好ましく、10μM以下であることが特に好ましい。
ここで、最小殺菌濃度とは、最小殺菌濃度(MBC)は、OD600=0.02の微生物懸濁液20μlに生存する菌体を認めないために必要な最小のペプチドの濃度を意味する。
最小殺菌濃度が50μMを超えると、最小殺菌濃度が上記範囲内にある場合と比較して、抗微生物活性が弱く、実用上、十分な殺菌力(抗微生物活性)とは言い難い。
【0044】
本発明の抗微生物活性ペプチドが抗微生物活性を示す微生物(病原菌(日和見病原菌を含む))としては、例えば、各種の原核生物、又は、真核微生物が挙げられる。
【0045】
上記原核生物としては、黄色ブドウ球菌、レンサ球菌、炭疽菌、セラチア菌、枯草菌、破傷風菌、ボツリヌス菌、ジフテリア菌、乳酸桿菌、アクネ菌、放線菌、結核菌、らい菌等のグラム陽性の病原細菌、淋菌、緑膿菌、大腸菌、サルモネラ、赤痢菌、ペスト菌、レジオネラ、インフルエンザ菌、百日咳菌、コレラ菌、白葉枯病菌等のグラム陰性の病原細菌、ツツガムシ病菌、発疹チフス菌等のリケッチア、トラコーマや尿道炎等を引き起こすクラミジア、肺炎等を引き起こすマイコプラズマが挙げられる。
上記真核微生物としては、カンジダ等の酵母、白癬菌、稲熱病菌等の糸状菌、が挙げられる。
【0046】
これらの中でも、微生物が黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、サルモネラ菌(Salmonella thyphimurium)、マイクロコッカス菌(Micrococcus luteus)又は大腸菌(Escherichia coli)であると、確実に抗微生物活性を示す。すなわち、微生物が黄色ブドウ球菌であると、黄色ブドウ球菌に起因する食中毒等を抑制することができ、微生物が緑膿菌であると、緑膿菌に起因する日和見感染症を抑制することができ、微生物がサルモネラ菌であると、サルモネラ菌に起因する食中毒等を抑制することができ、微生物がマイクロコッカス菌であると、マイクロコッカス菌に起因する食物腐敗等を防止でき、微生物が大腸菌であると、大腸菌に起因する腸管出血等を抑制することができる。
【0047】
本発明の抗微生物活性ペプチドは、医薬品、食品保存料、遺伝子組換え作物等に好適に用いられる。
【0048】
例えば、本発明の抗微生物活性ペプチドは、医薬製剤担体を配合して製剤組成物の形態に調製され得る。
この製剤担体としては、製剤の具体的な形態に応じて、公知の製剤担体を適宜選択して用いることができる。かかる製剤担体としては、例えば、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、界面活性剤等の賦形剤が挙げられる。なお、これには、pHバッファー、希釈剤等が含まれていてもよい。
【0049】
かかる製剤組成物の形態は、抗微生物活性を発揮し得る形態であれば特に限定されないが、例えば、錠剤、粉末剤、顆粒剤、丸剤等の固形剤であってもよく、液剤、懸濁剤、乳剤等の注射剤の形態であってもよい。また、使用前に適当な担体の添加によって液状となし得る乾燥品としてもよい。
【0050】
上記製剤組成物中の抗微生物活性ペプチドの投与量は、具体的な剤形、対象となる疾患の種類、症状等を勘案して、適宜選択すべきものであり、特に限定されるべきものではない。
【0051】
また、抗微生物活性ペプチドは、必須アミノ酸からなるので、経口摂取しても、ヒトに対する毒性は殆ど認められないと考えられる。
したがって、抗微生物活性ペプチドは、ヒト乃至動物用の食品や飼料等としても利用することが可能である。すなわち、抗微生物活性ペプチドは、食品や飼料添加物としての抗菌剤(可食性抗菌剤)としても有用である。
【0052】
さらに、抗微生物活性ペプチドは、遺伝子組換えにより、作物に導入することで、作物の抗微生物活性を向上させることができる。すなわち、イネであれば、白葉枯病、稲熱病等を事前に防ぐことが可能となる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例で具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0054】
[前駆領域ペプチドのアミノ酸配列の決定]
線虫セクロピンの成熟領域のアミノ酸配列をもとに、RT−PCR法によって、抗微生物ペプチド前駆体に対応するcDNAをクローニングした。cDNAから予測された前駆体のアミノ酸配列と、抗微生物ペプチド前駆体から直接決定された配列を比較して、ペプチドの成熟過程で除かれる前駆領域ペプチドのアミノ酸配列を決定した。
【0055】
次いで、前駆領域ペプチドをコードするcDNAのアミノ酸配列を、コンピューター上で翻訳したところ、下記配列番号1〜3のアミノ酸配列を有していることを確認した(以下、配列番号1のアミノ酸配列に相当するペプチドを「P1P」、配列番号2のアミノ酸配列に相当するペプチドを「P2P」、配列番号3のアミノ酸配列に相当するペプチドを「P3P」という。)。
ArgArgArgPheValAlaGluGlnAspAlaIleHisSerArgValSerArgGluValProThrLeuSerAspSerVal(配列番号1)
ArgArgArgPheValValGlnGlnAspThrIleSerProArgLeuGluValAspGluArgPheLeuProAsnSerValGlnGluGlnIle(配列番号2)
ArgArgArgSerValGlyGluGluAspAlaIleProSerHisIleGluValAsnLysPhePheLeuArgLysProAlaLysGluHisIle(配列番号3)
【0056】
[抗微生物活性ペプチドのデザイン]
得られたP1P〜P3Pのアミノ酸配列に含まれる酸性アミノ酸残基であるGluおよびAspを、それぞれGlnおよびAsnに置換し、下記配列番号4〜6のアミノ酸配列をデザインした。
ArgArgArgPheValAlaGlnGlnAsnAlaIleHisSerArgValSerArgGlnValProThrLeuSerAsnSerVal(配列番号4)
ArgArgArgPheValValGlnGlnAsnThrIleSerProArgLeuGlnValAsnGlnArgPheLeuProAsnSerValGlnGlnGlnIle(配列番号5)
ArgArgArgSerValGlyGlnGlnAsnAlaIleProSerHisIleGlnValAsnLysPhePheLeuArgLysProAlaLysGlnHisIle(配列番号6)
【0057】
[ペプチド合成(固相法)]
次に、表面をアミノ基で修飾した直径0.1mm程度のポリスチレン高分子ゲルのビーズを固相として用い、ここから脱水反応によって1つずつアミノ酸鎖を伸長していき、上記配列番号4〜6のアミノ酸配列を合成した。そして、固相表面から切り出し、抗微生物活性ペプチドを得た(以下、配列番号4のアミノ酸配列に相当するペプチドを「NP1P」、配列番号5のアミノ酸配列に相当するペプチドを「NP2P」、配列番号6のアミノ酸配列に相当するペプチドを「NP3P」という。)。
【0058】
(実施例1)
側鎖のカルボキシル基がアミド基に変換されたNP1P〜NP3Pを実施例とした。
【0059】
(比較例1)
側鎖のカルボキシル基がアミド基に変換されていないP1P〜P3Pを比較例とした。
【0060】
(参考例1)
参考例として、下記のアミノ酸配列を合成した。かかるペプチドは、同出願人が平成19年9月27日(特願2007−251285号)に出願した、それ自体は抗微生物活性を示さず、抗微生物活性を増強する抗微生物活性増強ペプチドである(以下、下記のアミノ酸配列に相当するペプチドを「NP4P」という。)。
HisArgArgSerValAlaHisGlnGlnGlnAlaSerLeuHisValLysThrAsnGlnLeuProSerProAsnThrValArgGlnGlnLeu
【0061】
(評価1)
上記サンプルNP1P〜NP4P及びP1P〜P3Pを用いて、最小殺菌濃度を測定した。すなわち、10mM Tris/HCl(pH7.5)に、試験する対数増殖期の微生物(表1に示す)をOD600=0.02の濃度に調製した。
その微生物懸濁液に、サンプルNP1P〜NP4P及びP1P〜P3Pを終濃度100μM(NP1P,P1P)又は80μM(NP2P〜NP4P及びP2P〜P3P)を上限として3倍希釈列で混合した。
2時間室温で放置後、100倍に希釈し、寒天平板培地に播種した。生存している菌をコロニーとして検出した。ペプチドの殺菌力は、対象微生物のコロニーが全く検出されない最小の濃度(最小殺菌濃度)として評価した。
得られた結果を表1に示す。表1中の「−」は、試験をしていない。
【0062】
【表1】

【0063】
表1に示すように、NP4Pは、抗微生物活性を示さなかった。それに対して、NP1P〜NP3Pは、グラム陽性および陰性の病原細菌に対して強い抗微生物活性を示した。
【0064】
(評価2)
上記サンプルNP3P及びNP4Pを用いて、膜破壊について調査した。
グラム陽性菌の細胞膜を模した脂質組成(phosphatidyl glycerol:cardiolipin=3:1)となるように調製したリポソーム1μMの内部に、蛍光色素calceinを70mM封入した。
そして、これにNP3Pを600秒後に3μg/ml(終濃度)、700秒後に10μg/ml、770秒後に30μg/ml、加え、蛍光色素の漏出を指標に、脂質二重膜の破壊を測定した。
得られた結果を図1に示す。なお、図1中、蛍光強度(Fluorescence intensity)の増加は、膜が破壊されたことを意味する。
【0065】
(評価3)(参考データ)
次に、上記同様に、グラム陽性菌の細胞膜を模した脂質組成(phosphatidyl glycerol:cardiolipin=3:1)となるように調製したリポソーム1μMに、蛍光色素calceinを70mM封入した。
そして、これに20μg/mlのNP4P存在下または非存在下において、抗微生物ペプチドASABF−αを0.1μg/ml(終濃度)ずつ段階的に加え、蛍光色素の漏出を指標に、脂質二重膜の破壊を測定した。
得られた結果を図2に示す。なお、蛍光の増加は、膜が破壊されたことを意味する。
【0066】
図1及び図2に示すように、NP3Pは膜を破壊する活性を示したが、NP4PはむしろASABF−αによる膜破壊を阻害した。
したがって、膜に対する作用において、NP1P〜NP3PとNP4Pは、正反対の活性を示した。
【0067】
以上より、本発明の抗微生物活性ペプチドによれば、グラム陽性および陰性の病原細菌を含む微生物に対して強い抗微生物活性を示すことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1は、本発明の実施例における評価2の結果を示したグラフである。
【図2】図2は、本発明の実施例における評価3の結果を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗微生物ペプチド前駆体の前駆領域ペプチドのアミノ酸配列を改変した抗微生物活性を示す抗微生物活性ペプチドであって、
前記前駆領域ペプチドに含まれる酸性アミノ酸残基の側鎖にあるカルボキシル基がアミド基に変換されたものであることを特徴とする抗微生物活性ペプチド。
【請求項2】
微生物の細胞膜を破壊することを特徴とする請求項1記載の抗微生物活性ペプチド。
【請求項3】
最小殺菌濃度が50μM以下であることを特徴とする請求項1記載の抗微生物活性ペプチド。
【請求項4】
前記抗微生物ペプチド前駆体がセクロピン型に由来するものであることを特徴とする請求項1記載の抗微生物活性ペプチド。
【請求項5】
前記抗微生物ペプチド前駆体が線虫由来のものであることを特徴とする請求項1記載の抗微生物活性ペプチド。
【請求項6】
側鎖にあるすべてのカルボキシル基がアミド基に変換されていることを特徴とする請求項1記載の抗微生物活性ペプチド。
【請求項7】
前記前駆領域ペプチドが下記(A)〜(C)のうちのいずれか1つのアミノ酸配列からなるペプチド断片を有するものであることを特徴とする請求項1記載の抗微生物活性ペプチド。
(A)
ArgArgArgPheValAlaGluGlnAspAlaIleHisSerArgValSerArgGluValProThrLeuSerAspSerVal(配列番号1)
(B)
ArgArgArgPheValValGlnGlnAspThrIleSerProArgLeuGluValAspGluArgPheLeuProAsnSerValGlnGluGlnIle(配列番号2)
(C)
ArgArgArgSerValGlyGluGluAspAlaIleProSerHisIleGluValAsnLysPhePheLeuArgLysProAlaLysGluHisIle(配列番号3)
【請求項8】
下記(D)〜(F)のうちのいずれか1つのアミノ酸配列からなるペプチド断片を有することを特徴とする抗微生物活性ペプチド。
(D)
ArgArgArgPheValAlaGlnGlnAsnAlaIleHisSerArgValSerArgGlnValProThrLeuSerAsnSerVal(配列番号4)
(E)
ArgArgArgPheValValGlnGlnAsnThrIleSerProArgLeuGlnValAsnGlnArgPheLeuProAsnSerValGlnGlnGlnIle(配列番号5)
(F)
ArgArgArgSerValGlyGlnGlnAsnAlaIleProSerHisIleGlnValAsnLysPhePheLeuArgLysProAlaLysGlnHisIle(配列番号6)

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−196937(P2009−196937A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−40590(P2008−40590)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【Fターム(参考)】