説明

抗炎症剤としてのモノ−およびジアシルグリセロールのグリコシドの使用

【課題】本発明は、モノ−またはジアシルグリセロールのグリコシド、たとえば、3−β−D−ガラクトピラノシルオキシ−2−(オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノイルオキシ)プロパニル オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノエート(バラの実の成分(ロサ・カニナ・エルの果実の新規使用を提供することを課題とする。
【解決手段】バラの果実の抽出物から単離されたジアシルグリセロールのグリコシド、たとえば、3−β−D−ガラクトピラノシルオキシ−2−(オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノイルオキシ)プロパニル オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノエート(GOPO)(A)が、関節炎、骨関節症のような炎症性の病気を治療するための抗炎症剤として使用することができることが判明した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症病態の治療、たとえば、白血球の走化性(化学遊走)(chemotaxis)および活性酸素発生応答(oxidative burst response)を軽減・緩和することによって、炎症を治療するためのモノ−またはジアシルグリセロールのグリコシド、たとえば、3−β−D−ガラクトピラノシルオキシ−2−(オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノイルオキシ)プロパニル オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノエート(バラの実の成分(rose-hips)(ロサ・カニナ・エルの果実(the fruits of Rosa canina L.))の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
バラの果実・実(rose-hips)の水抽出物が抗炎症作用があることは、以前から報告されてきた(Winther, Rein, and Kharazmi, Inflammopharmacology, Vol.7,pp63−68(1999))。バラの実の抽出物はイン・ビトロにおいて、人の末梢血液の好中球のケモタキシス(chemotaxis)および化学発光を阻害すること、およびイン・ビボにおいて、ある炎症のパラメーターを減少させることも知られている(Kharazmi and Winther, Inflammopharmacology, Vol.7,pp377−386(1999))。
【0003】
米国特許6,024,960において、高濃度のビタミンCを有しているバラの実の濃縮物によって、炎症に関連している症状が軽減・緩和することが見出されている。詳細には、当該濃縮物は、相対的に高いビタミンC含量および他の多くのビタミンの含量を維持する方法にしたがって得られている。2000年10月23日に出願された出願人が関係している米国特許出願09/694,764では、バラの実の濃縮物と魚油の配合物を経口投与すると、特に関節炎に関連して、関節痛、関節の硬直の軽減・緩和に有益であると述べられている。しかしながら、これらの出願で有利な効果を得るのに有益であるとして述べられているバラの実の濃縮物の量は、毎日の使用には、比較的高く、幾分不便である。
【0004】
米国特許5,620,962および5,767,095では、海洋の藻から得られるモノガラクトシル ジエイコサペンタエノイル グリセロール(MGDG−EPA)が、局所剤形で使用される場合、抗炎症作用を有していると述べられている。これらの特許は、少なくても一つのエイコサペンタエン酸部分とエステル化されているガラクトシル グリセロールのみが局所的な抗炎症作用を有していることを述べている。
【0005】
ミリスチン酸、パルミチン酸およびパルミトレイン酸(palmotoleic acid)の1:10:10の混合物でエステル化されたβ−D−ガラクトピラノシルグリセロールは、活性酸素ラジカル形成(superoxide radical formation)を適度に阻害するということが言われてきた(Kikuchi,H., Tsukitani, Y., Shimizu, I., Kobayashi, M., Kitagawa,I:Chem.Pharm.Bull.Vol.31 pp552−556(1983))が、この化合物の混合物の抗炎症作用および可能性のある医薬用途については更に検討がなされてはいない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
出願人が、バラの実の濃縮物について継続して研究してきた中で、出願人は驚くべきことにバラの実の特定の成分が、抗炎症剤として高い活性を有していることを見い出した。経口で摂取されるバラの実は、関節炎に伴う痛みのような炎症の痛みを効率的に軽減・緩和するので、特定化された抗炎症剤を製剤化することは、炎症性の病気に伴う症状の治療に有益であると考えられる。単離された物質は、下記に示されるように3−β−D−ガラクトピラノシルオキシ−2−(オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノイルオキシ)プロパニル オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノエート(1,2−ジ−O−α−リノレノイル−3−O−β−D−ガラクトピラノシル−グリセロール)(3-β−D−galactopyranosyloxy-2-(octadeca-9Z,12Z,15Z−trienoyloxy)propanyl octadeca-9Z,12Z,15Z-trienoate(1,2-di−O−α−linolenoyl-3-O−β−D−galactopyranosyl-glycerol))であるガラクト脂質として確認された。驚くべきことに、この化合物は、白血球の多形核白血球のケモタキシスおよび化学発光(chemiluminescence)を強く阻害することが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明の目的は、エイコサペンタエン酸のエステルを除いて、グリセロールのモノ−またはジエステルのグリコシド、特に3−β−D−ガラクトピラノシルオキシ−2−(オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノイルオキシ)プロパニル オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノエート(省略すると”GOPO”)または関連化合物からなる薬剤を利用することにより、炎症病態の治療、軽減または予防する方法を提供するにある。本発明の特別な態様においては、薬剤は、経口投与に適しており、そして痛みの除去、炎症の減少、および運動能力の増加(increase of motion)を含む、関節炎および骨関節症(すなわち、関節の痛みまたは関節の硬直を引き起こす病気)のような炎症疾患の症状の軽減のために適している。
【0008】
本発明のこの目的および他の目的は、特に請求項1に定義されているように、エイコサペンタエン酸のエステルを除くグリセロールのモノ−またはジエステル類(またはエーテル類)のグリコシドによって成し遂げられる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ロサ・カニナエル(Rosa canina L.)のバラの実から抗炎症剤を単離するために独自に使用される分別のプロセスの最初のステップを説明している。
【図2】Hyben Vital International ApSから得られたドッグローズ(dog rose)(Rosa canina L.)の実の乾燥・粉砕した果皮をTHFによって抽出した抽出物の代表的な分析HPLCクロマトグラムを示す。さらに、活性化合物(GOPO)のリテンションタイム(保持時間)が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(発明の詳細な説明)
用語“モノ−またはジエステル化されたグリセロールのグリコシド(glycoside of a mono-or diesterified glycerol)”、“モノ−またはジアシルグリセロールのグリコシド(glycosides of mono-or diacylglycerol)”および類似の用語はここで種々の式で説明されているように植物から単離することができるようなモノまたはジアシルグリセロール(およびエーテル)のグリコシドの部類を意味することを意図しているが、エイコサペンタエン酸のエステルではない。“グリコシド”部分(part)は、典型的には、ペントース、ヘキソースまたはヘプトースであり、特にガラクトースおよびグルコース、たとえば、ガラクトースのようなヘキソースであるが、二つまたはそれ以上の糖部分を組み合わせて有している、特にたとえば6−O−(α−D−ガラクトピラノシル)−β−D−ガラクトピラノースであるジガラクトシドおよびジグルコシドのような二つまたはそれ以上の糖部分を組み合わせて含んでいるジ−およびオリゴサッカライド(オリゴ糖)であることもできる。
【0011】
したがって、本発明は哺乳動物の炎症病態の治療、軽減または予防する薬剤を製造するための式(I):
【化1】

(式中、RおよびR’は水素、C10−24−アルキルおよびC10−24−アシルから独立して選択され、前記アルキルおよびアシル基は0から5個の不飽和結合を有しており、R、R、RおよびRは、水素、グリコシド部分から独立して選択され;最初の条件として、RおよびR’の両方とも水素である場合はなく、二番目の条件として、RおよびR’はいずれもエイコサペンタエノイルではない)の化合物の使用を提供する。
【0012】
ここで示される式において、“波形結合(wavy bonds)”は、当該置換基が配置されている炭素が(R)または(S)の立体配置であることができることを意味することを意図している。“糖(sugar)”部分(グリコシド)において、二つの異なる立体配置は、しばしばαおよびβで示される。特に関心のある組み合わせは、β−ピラノース型のグルコースまたはガラクトースである。
【0013】
ここに示されている式において、“糖(sugar)”部分はピラノース型が描かれているけれども、抗炎症剤は、フラノース型(または、ピラノース型とフラノース型の混合)も固体または液体で存在しうることが理解される。
【0014】
ここでは、用語“C10−24−アルキル”は、10から24の炭素原子を有する直鎖または分枝した炭化水素基、たとえば、デシル、ウンデシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコデシルなどを意味するものと意図される。
【0015】
ここでは、用語“C10−24−アシル”は、最初の炭素グループがカルボニル(C9−23−アルキル−C(=O)−)であること、すなわち、炭素数10から24を有する脂肪酸の残基である炭素数が10から24個を有する直鎖または分枝した炭化水素基を意味することを意図している。この例としては、ラウリル酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)、ステアリン酸(C18)などの残基がある。
【0016】
アルキルおよびアシル基は、二重結合または三重結合、特には二重結合のような不飽和結合を0から5個持つことができる。一つまたはそれ以上の不飽和結合を有しているアシル基の例は、パルトレイン酸(palitoleic acid)(C16:1)、オレイン酸(oleic acid)(C18:1)、リノール酸(linolenic acid)(C18:1)、アラキドン酸(arachidonic acid)(20:1)、レチノール酸(retinoic acid)(C20:5)などである。
【0017】
より詳しくは、グリセロールのモノ−またはジエステル(またはエーテル)は、ジエステル、ジエーテルまたは、モノエーテル−モノエステルであり、すなわち、RおよびR’は、C10−24−アルキルおよびC10−24−アシルから独立して選択される。現段階では、ジエステルのグリコシド、すなわち、RおよびR’は独立して、C10−24−アシルである場合がもっとも好ましい。すべての例において、アルキルおよびアシル基は0から5個の不飽和結合を有する。
【0018】
アルキルおよびアシル基がどの程度飽和されているかについては、1から3個の不飽和結合、たとえば2または3個の不飽和結合、特に3個の不飽和結合のように、0から4個の不飽和結合を有するいずれかのアルキルおよびアシル基が現段階では、RおよびR’としてもっとも好ましいと考えられている。
【0019】
また、現在、不飽和結合は、二重結合である場合が好ましいと考えられている。
【0020】
このようなことを考慮すると、特に関心のある抗炎症剤は、RおよびR’の両方が、3個の二重結合を有しているC18−アシルのような1−3個の二重結合を有しているC16−20−アシルであり、特に“糖”部分がグルコースまたはガラクトースであり、特別にはガラクトースである場合が想定される。
【0021】
上記に述べたように、R、R、RおよびRは、水素およびグリコシド部分から独立して選択されるが、R、R、RおよびRの多くても一つのみがグリコシド部分である場合が好ましい。後者の実施態様は、しばしば植物ソース(vegetable sources)で、R、R、RおよびRがすべて水素である化合物とともに見出される化合物に関係している。ある興味ある実施態様においては、R、R、RおよびRのすべては水素が選択される。
【0022】
用語“グリコシド部分”は、モノ−またはジサッカライド(単糖または二単糖)部分を意味することを意図しており、たとえば、O−ガラクトピラノース、O−グルコピラノース、O−ガラクトピラノシルガラクトピラノース、O−グルコピラノシルガラクトピラノース、O−ガラクトピラノシルグルコピラノースおよびO−グルコピラノシルグルコピラノースから誘導されるモノ−またはジサッカライド(単糖または二単糖)部分である。
【0023】
また、好ましい化合物(抗炎症剤)は、式(II):
【化2】

(式中、R、R’、R、R、RおよびRは、すべて上記に定義されている。)を有する化合物であることが認識されている。
【0024】
特に関心のある抗炎症剤のより特定化された例は、β−D−ガラクトピラノシル誘導体、6−O−(α−D−ガラクトピラノシル)−β−D−ガラクトピラノシル誘導体など、β−D−ガラクトピラノシル誘導体、α−D−ガラクトピラノシル誘導体、β−D−グルコピラノシル誘導体、およびβ−D−ガラクトピラノシル誘導体から選択される。
【0025】
関心のある抗炎症剤のより特定化される例は、3−β−D−ガラクトピラノシルオキシ−2−(オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノイルオキシ)プロパニル オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノエート、3−β−D−グルコピラノシルオキシ−2−(オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノイルオキシ)プロパニル オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノエート、3−α−D−ガラクトピラノシルオキシ−2−(オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノイルオキシ)プロパニル オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノエート、3−α−D−グルコピラノシルオキシ−2−(オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノイルオキシ)プロパニル オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノエート、6−O−(α−D−ガラクトピラノシル)−3−β−D−ガラクトピラノシルオキシ−2−(オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノイルオキシ)プロパニル オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノエートおよび6−O−(α−D−ガラクトピラノシル)−3−α−D−ガラクトピラノシルオキシ−2−(オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノイルオキシ)プロパニル オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノエートであり、たとえば、バラの果実から単離することができる3−β−D−ガラクトピラノシルオキシ−2−(オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノイルオキシ)プロパニル オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノエートのような3−β−D−ガラクトピラノシルオキシ−2−(オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノイルオキシ)プロパニル オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノエートまたは3−β−D−グルコピラノシルオキシ−2−(オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノイルオキシ)プロパニル オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノエートである。
【0026】
すでに前述したごとく、抗炎症剤は、本技術分野知られている方法によって、全合成または一部合成によって製造しうる(たとえば、Nagatsu et al., Bioorg.and Medicinal Chem.Vol4, 1619−1622,1994; Ohta et al., Chem.Pharm., Vol 39, 1337−1339, 1991; Shibuya et al., Chem.Pharm., Vol.40,1166−1169,1992参照)。また抗炎症剤は、バラの実または他の植物ソースから単離することができる。代替的には、当該抗炎症剤は、植物抽出物または植物材料、好ましくは、抗炎症剤に関し、濃縮されるか(enriched)または標準(規格)化(standardised)された植物抽出物または植物材料の中に存在しうる。
【0027】
バラの果実・実から抽出するときは、バラの果実・実は、実が十分熟しているときに一般的に知られた方法で収穫される。ロサ・カニナ(Rosa canina(“dog rose-hip”),ロサ・ガリカ(Rosa gallica)、ロサ・コンディータ(Rosa condita)、ロサ・ルゴーサ(Rosa rugosa)ロサ・フゴニス(Rosa hugonis)、ロサ・ニティーダ(Rosa nitida)、ロサ・ペンデュリーナ(Rosa pendulina)、ロサ・ピムピネリフォリア(Rosa pimpinellifolia)およびロサ・セリシア(Rosa sericea)のような野バラの灌木の果実・実が、有利に使用することができる。抗炎症剤は、好ましくは、たとえばヘキサン、ジクロロメタン、エタノール、または水(他の溶媒も使用できるが)のような有機または無機の溶媒を使用して、溶媒抽出によって乾燥・粉砕したバラの果実・実から抽出して得られる。抽出後、得られた抽出物を、蒸発乾固し、抗炎症剤を含有する抽出画分(extract fraction)を回収するかまたは、抽出工程(extraction steps)次第では、下記で更に論ぜられるように、抗炎症剤自体が、単離生成物として得られる。
【0028】
ひとつの例として、3−β−D−ガラクトピラノシルオキシ−2−(オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノイルオキシ)プロパニル オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノエート(式III)が、ドッグーローズ(dog rose)の果実・実の乾燥した粉末から単離された。この単離された化合物は、人の活性酸素発生応答を強く阻害するのみならず、人の白血球のケモタキシス(走化性)をも阻害する。
式(III)
【化3】

【0029】
単離された化合物も使用されうるが、濃縮もしくは標準化された植物抽出物または単離を完全におこなう過程で得られる標準化された植物材料(material)も本発明において有益である。特に、抽出されかまたは標準化された生成物(product)は、化合物を単離する場合と比べて、安価で得られうる。加えて、抽出物または植物材料においては、抽出を一部(partial extraction)した後でも残存しているビタミン類(それらのうち、いくつかは抗酸化効果を有する)のように抽出または植物材料(原料)の他の成分は、抗炎症剤の効果を維持するかまたは高めることができる。炎症の治療を単離品または合成品を用いずに、濃縮もしくは標準化されている抽出物か、または標準化されている植物材料でおこなうかの選択は炎症病態がどの程度であるかによるところが多い。たとえば、ちょっとした不快感を持っている関節炎の人では、濃縮されているかもしくは標準化されている抽出物または標準化されている植物材料でも非常に有益である可能性は高いが、一方、より衰弱している重症の人には、単離品か合成品が求められる。
【0030】
ここに述べられている式(III)の化合物のような化合物群が、活性酸素発生応答を阻害し、ケモタキシスをも阻害するという本発明者らの考えは、この化合物が、乾燥したバラの果実の粉末の抗炎症効果に積極的に貢献していることが、理にかなっていることを確信させるものとなる。したがって、本発明者らは、単離された化合物としてであれ、濃縮されるかもしくは標準化された抽出物または成分が豊富な植物材料であれ、この発見により、ここで述べられている抗炎症剤は、炎症病態、たとえば関節炎に伴う炎症の治療に適切であることを確実なものにしたものである。
【0031】
抗炎症剤を含有する薬剤(医薬組成物)は、ウイルス性または細菌性の病気(通常“炎症性病態(inflammatory conditions)”と呼んでいる)のように、病気によって引き起こされたものであれ、病気の症状によって引き起こされものであれ、炎症を予防し、治療し、緩和するのに有用でありうる。“炎症(inflammation)”については、ステッドマンのメディカルディクショナリー 第26版(Stedman’s Medical Dictionary, 26th Edition)に、“物理的に、化学的にまたは生物学的に作用する物質によって引き起こされる損傷、または異常な刺激に対し応答したことにより、羅患した血管、および隣接する組織に起こる細胞学的および化学的反応の動的な複合体からなる基本的な病理学的プロセス(過程)であって、それは局部的な反応、およびその結果生ずる形態学的変化;有害な損害を与えた物質を破壊し、除去すること;および修復と治癒をもたらす応答を含むものである”と定義されている。該当する炎症病態の例は、肝炎、髄膜炎、関節リウマチ(rheumatoid arthritis)、クローン病のような炎症性腸疾患、アレルギー症候群、糖尿病、うっ血性心臓疾患、乾癬、反応性もしくは骨関節炎・変形性関節炎(osteo-arthritis)または骨関節症(osteoarthrosis)のような他の関節炎、多発性硬化症、アテローム性動脈硬化症、敗血症/敗血症ショック、皮膚炎症、移植拒絶、および悪性新生物の化学療法また放射線療法後の炎症である。
【0032】
本発明は、現段階で関節炎、骨関節症(osteoarthrotis)(変形性関節炎)の治療に特に適していると考えられる。
【0033】
製剤化
上記に述べたごとく、抗炎症剤は、純粋の化合物としてか、または濃縮されるかもしくは標準(規格)化された植物抽出物の成分としてか、または標準(規格)化された乾燥植物材料の成分として、直接的に使用されうる。
【0034】
したがって、本薬剤は植物材料の抽出物、典型的には、哺乳動物への投与量が制御されるほどまで知られている抽出物の形態で存在しうる。
【0035】
形態とは無関係であるが、特に化合物が純粋な化合物である場合は、それを必要としている哺乳動物にそれを適用することを容易にし、化合物の適切な生物学的利用性を確保するように製剤化することが通常必要である。
【0036】
抗炎症剤は、好ましくは、製薬学的に許容される担体(または賦形剤)、随意には抗酸化剤とともに製剤化される。それらはまた、他の活性成分を配合し、抗炎症効果の相乗効果を引き出したり、あるいは、使用する人に補足的な利益を与えることも可能である。
【0037】
したがって、抗炎症剤を含有する抗炎症剤または濃縮されるかもしくは標準化された抽出物または植物材料は、それだけでか(単独)、または他の成分と一緒に、散剤、顆粒剤、錠剤、懸濁剤、溶液、または乳化剤として、そのような製剤を製造するために、当該技術分野において知られている成分を包含して、製剤化することが可能であり、次いで一日、一回または複数回の投与形態で包装することが可能である。
【0038】
特に、医薬組成物(薬剤)は典型的には、製薬学的に許容される担体、好ましくは抗酸化剤をも配合した中で約0.1から50%(重量)の抗炎症剤からなる。
【0039】
投与は、経口投与、バッカル、非経腸、局所、直腸、皮膚または鼻腔内投与により進められうるが、好ましいのは、経口投与である。
【0040】
ここで使用されている“製薬学的に許容される担体(pharmaceutically acceptable carriers)”とは、人を含む哺乳動物に投与することに関連して、使用することが一般に許容されているこれらの媒質である。
【0041】
用語“哺乳動物(mammal)”とは、人および馬、羊、豚、牛、などのドメスティックアニマルまたはファームアニマルのような家畜類のようなより大きい哺乳類を包含することが意図されている。これらの哺乳動物の中で人が、特に関心を持っている対象であり、本発明から利益を得る。
【0042】
医薬組成物は、一般に通常の熟練した技術者の範囲内で決定し、その理由を説明できるいくつかの要素によって適切・効果的に製剤化される。その場合、それは制限はないが:特定の抗炎症剤、その濃度、安定性および意図されるバイオアベイラビリティ;薬剤で治療されている特定の炎症疾患、病気、病態(まとめて“病態(conditions)”とする);患者、その年齢、大きさ、および全身の状態、ならびにたとえば経口、バッカル、非経腸、局所、直腸、皮膚または鼻腔内投与である組成物が意図している投与ルートを含むものである。
【0043】
非経腸的に薬剤を投与する場合に使用される代表的な製薬学的に許容される担体は、たとえば、D5W、すなわち、5%(W/V)のブドウ糖(dextrose)を含む水溶液および生理食塩水を含む。製薬学的に許容される担体は、たとえば、保存剤および抗酸化剤などが含まれている活性成分の安定性を高める付加的な成分(付加剤)を含めることができる。
【0044】
ひとつの実施態様においては、薬剤は個々で定義されている化合物および製薬学的に許容される担体と一緒に抗酸化剤を含んでなる。抗酸化剤とは、たとえば、ビタミンCおよびその誘導体、ビタミンE、フラバノイド、パラ−ヒドロキシ安息香酸のメチル、エチル、またはn−プロピルエステル(methyl, ethyl, or p-hydroxybenzoate)のようなフェノールカルボン酸、カロテン(carotenes)、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、ノルジヒドログアヤレティック酸(nordihydroguaiaretic acid)などから選択される抗酸化剤である。この実施態様は抗炎症剤が、化合物が酸化による分解を受けやすい二重結合のような不飽和結合をひとつまたは二つ含んでいる場合に特に該当する。
【0045】
医薬(薬剤)組成物は、注射、点滴、または埋め込み(implantation)(静脈、筋肉内、皮下など)により、非経腸的に、非毒性な薬学的に許容できる担体および補助薬を含有する投与形態、製剤またはたとえば適切な送達デバイス(delivery device)または埋め込み製剤(implant)で投与することができる。
【0046】
そのような組成物を製剤化したり、調製することは、医薬製剤の分野で熟練した人によりよく知られている。特別な製剤は、レミントン(Remington:The Science and Practice of Pharmacy by Alfonso R. Gennaro(Editor), 20th edition (2000), Lippincott, Williams & Wilkins; ISBN:0683306472)で見出すことができる。
【0047】
抗炎症剤は、典型的には製薬学的に許容できる水溶性の媒体(medium)で製剤化される。
【0048】
したがって、医薬組成物は、滅菌された注射剤という形で抗炎症剤を包含することができる。そのような組成物を調製するには、適切な抗炎症剤を非経腸的に許容される液体の賦形剤に分散させ、その結果、好都合なことに懸濁剤、可溶化剤、安定化剤、PH−調節剤および/または分散剤にすることができる。使用されうる許容される賦形剤には、水があり、水は適切な量の塩酸、水酸化ナトリウムまたは適切な緩衝剤(buffer)、1,3−ブタンジオール、リンゲル液(Ringer's solution)、等浸透圧食塩水(生理食塩水)を加えることによって、適切なPHに調節される。
【0049】
抗炎症剤は、種々の投与ルートによって送達をするために製剤化することが可能である。経口投与は、使用が容易であるため好ましい。単位投与量は、一日一回投与(たとえば、経口または経腸栄養)するために治療的に有効な抗炎症剤の量によって構成されるか、または一日複数回の投与を提供するために製剤化がなされうる。単位投与量は、多くのファクターのよって左右されるが、そのファクターには、年齢、病態、および病気の状況が含まれるが、いずれにしても、一日の総投与量は、生理学的に個人が許容できる量であり、そして長期間毎日投与できる量である。
【0050】
依然として検討段階にあるが、一日あたり体重につき0.001−50mg/kg、たとえば一日あたり、体重につき(mg/kg/day)、0.005−20mg/kgの抗炎症剤の投与量が炎症病態の治療、特に関節炎および骨関節症の治療およびそれに伴う症状の除去・軽減に効果的であると考えられる。予防薬としては、一日量を基準として、同量からそれより少ない容量が投与される。好ましい単位投与量は、たとえば、0.001−20のような約0.001から約50mg/kg/dayである。総一日投与量は、たとえば0.5−500mg/dayのような約0.1から約5000mg/dayである。たとえば、単位投与量は、錠剤またはカプセル剤に混入することにより投与することができるが、それぞれの場合、0.01−500mgの3−β−D−ガラクトピラノシルオキシ−2−(オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノイルオキシ)プロパニル オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノエートをそれぞれ含有し、その結果使用者は一日に一つから四つのカプセルから服用することができる。
【0051】
上記に論じられたように、発明の焦点は人の治療に置かれてきたが、たとえば関節炎によって引き起こされた炎症病態治療を有しているドメスティックアニマルまたはファームアニマルを含むヒトでない哺乳動物の治療および予防において抗炎症剤を使用することも意図されている。熟練した技術者であれば、治療されるべき動物を基準として治療の方式および方法を突き止めることができるものである。たとえば、組成物は動物の水起源のもの(water source)または飼料に混ぜ込むことができるし、錠剤、カプセル剤、液体製剤、乳化剤などの形で、他の薬剤として投与することも可能である。
【0052】
人の天然医薬産物として使用される植物抽出物または材料を標準化することは、規制上の理由によりしばしば必要とされるが、本発明の更なる態様は、活性成分として、式(I)のあるひとつの化合物(one compound)について天然医薬産物(natural medicine product)を標準化するための方法に関するものであって、
【化4】

(式中、RおよびR’は水素、C10−24−アルキルおよびC10−24−アシルから独立して選択され、前記アルキルおよびアシル基は、0から5個の不飽和結合を有しており、R、R、RおよびRは、水素、グリコシド部分から独立して選択され、RおよびR’の両方とも水素である場合はないことを条件とする)
前記天然医薬産物は、哺乳動物の炎症病態の治療、軽減・緩和、予防のために意図されており、前記方法は:
(a)式(I)の化合物を包含する一回分の仕込み量(a batch)の植物抽出物または植物材料を提供し;
(b)前記仕込み量(batch)中の式(I)の化合物の濃度を決定し;
(c)あらかじめ決定された量の活性成分をそれぞれ含有する単位投与形態の形で、天然医薬産物を調製(preparing)することから成り;
前記あらかじめ決定された活性成分の量は、前記仕込み量(バッチ)によって提供され、前記バッチ(仕込み)量は、前記バッチの中の活性成分の濃度によって、割り算され(除され)たあらかじめ決定された量として決定される。式(I)の化合物は、好ましくは、3−β−D−ガラクトピラノシルオキシ−2−(オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノイルオキシ)プロパニル オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノエートである。この態様は、実施例4で更に説明されている。
【0053】
本発明の好ましい実施態様が示され、説明されてきたが、本技術分野に属する熟練した人であれば、種々の変更、改変が本発明の趣旨および範囲を変更することなくなされ、かつ本発明が与えられる実施例に限定されることがないことは、理解されるであろう。
【実施例1】
【0054】
この実施例はバラの果実(rose-hip)の活性成分がどのようにバラの果実の抽出物から活性に基づいた分別法(actvity guided fractionation)によって単離されるかおよび活性化合物(GOPO)の同定をするために使用される方法について説明する。この実施例はまた分析HPLC(高速液体クロマトグラフィー)によって、たとえばバラの果実の抽出物に中の活性化合物を定量する方法も説明する。
【0055】
活性に基づいた分別法(actvity guided fractionation)および活性化合物の同定
ドッグ・ローズの果実(dog rose fruits)中の活性化合物は、活性に基づく分別法で決定された。具体的には、1000mgの乾燥粉砕された果実を、連続的にヘキサン、ジクロロメタン、メタノール、水で抽出し、抽出物は蒸発させる(脱水する)。その結果生じた残渣をイン・ビトロでヒトの末梢血液の好中球のケモタキシスを阻害するか否か試験した。この結果から、活性成分が、ジクロロメタンに存在していることが決定された(図1)。この抽出物は、シリカゲルクロマトグラフィーによって、一つのグループ(集団)に分離した。この際、グラジエント溶離剤としては、ジクロロメタンおよびメタノール(最初はジクロロメタンのみでおこない、最後は、メタノールのみ)を用いた。個々のフラクションによって、イン・ビトロにおけるヒトの末梢血液の好中球のケモタキシスを阻害するか否かを試験した。これらの結果から、このアッセイでの活性は主として、全部ではないとしても一つの化合物に限定された。この化合物を分取HPLC(preparative HPLC)で精製し、構造が、1H−、13C−、NOESY−、COSY−、およびHECTOR−NMR(核磁気共鳴分析法)実験で、3−β−D−ガラクトピラノシルオキシ−2−(オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノイルオキシ)プロパニル オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノエート(GOPO)であることを同定した。化学構造式は、更にメタノールでの塩基性加水分解(basic hydrolysis in methanol(metanolysis))(メタノール分解)および酸性加水分解(acidic hydrolysis)で確認された。塩基性分解により、リノレンメチルエステル(methyl linolenate)であることが判明し、メチルエステルのみであることが、GC−MSによって示され、一方、酸性加水分解により、分析HPLC分析(analytical HPLC analysis)によって示されたように、D−ガラクトースおよびグリセロールの存在が示された。
【0056】
【化5】

【0057】
表1および表2は、単離された活性成分(GOPO)のNMRデータを示す。GOPOのNMRデータ(CDOD)は、ウエグナーらのよって見出された方法に完全にしたがっている(Wegner, C., M. Hamburger, O.Kunert, and E. Haslinger.2000.Tensioactive Compounds from the Aquatic Plant Ranunculus fluitans L. (Ranunculaceae).Helv.Chim.Acta 83:1454−1464(Ref.1)。
【0058】
GOPOの13C−NMRのスペクトルデータ(75MHz,CDClまたはCDOD,δ値(ppm))
【表1】

*多重度(Multiplicity)は、DEPTおよびHETCOR−NMR実験によって
決定された。多重度の略号:s=シングレット(singlet), d=ダブレット(doublet),t=トリプレット(triplet),q=クアルテット(quartet) 同一欄(column)のa,b,c:これらの帰属は、変更がありうる(These assignment may be interchanged)
【0059】
GOPOのH−NMRのスペクトルデータ(300MHz,CDOD,δ値(ppm))
【表2】

多重度の略号: d=ダブレット(doublet),dd=ダブルダブレット(double doublet),m=マルチレット(multilet)、t=トリプレット(triplet),br=ブロード(broad)
【0060】
材料および方法
乾燥粉砕(粉末)されたドッグ・バラ(dog rose)(Rosa canina L.)果実をHyben Vital Interanational ApS(Tulleboelle, Denmark)から入手した。
HPLC−グレードのヘキサン、メタノール(CHOH)、アセトニトリル(CHCN)、ジクロロメタン(CHCl)およびテトラヒドロフラン(THF)は、Merck(Darmstadt, Germany)から得られた。シリカゲル60(Silica gel 60)(0.063−0.200mm)および分析用(Analytical) (0.1mm)シリカゲル60F254プレート(TLC plates)もまたメルク社(Merck)から得られた。分析用TLCプレートは、メタノール中の10%硫酸を用いて展開され、ついで加熱した。
【0061】
抽出処置(Extraction procedures)
ドッグ・バラの粉末(1000g)を24時間、ヘキサン中(2L)に浸し、ついで、ろ過し、粉末は、ヘキサンで洗浄した(2×500mL)。集められたヘキサン溶液を減圧下で蒸発乾燥(evaporated to dryness)した。粉末は、ジクロロメタン(2L)中に24時間浸し、ろ過し、ついで残渣の粉末をジクロロメタンで洗浄した(2×500mL)。集められたジクロロメタン溶液を減圧下で蒸発乾燥した。粉末は、メタノール(2L)中に24時間浸し、ろ過し、ついで粉末をメタノールで洗浄した(2×500mL)。集められたメタノール溶液を減圧下で蒸発乾燥した。最後に、粉末を水(2L)中に24時間浸し、ろ過し、ついで粉末を水で洗浄した(2×500mL)、集められた水溶液を減圧下で蒸発乾燥した(図1)。
【0062】
クロマトグラフィーの条件
ジクロロメタン溶液の蒸発させた残渣を、100mLのジクロロメタンに溶解し、ついでその溶液は、ヘキサン中のシリカゲルカラム(500×40mm i.d.)におかれた。カラムはジクロロメタン中のメタノールで段階的なグラジエント(1L)(0,1,2,5,10,20および100%メタノール)で溶出をおこなった。それぞれのフラクション(100mL)は、分析用TLCで分析をおこなったが、適切な場合は、減圧下で蒸発乾燥した。
【0063】
分取HPLC(Preparative HPLC)の条件
分取HPLCのために、Merck L−6200 インテリジェントポンプ(intelligent pump)およびMerck L−4200 UV−VIS 検出器(detector)が使用された。分離は、35℃で、カラムと同じ材料で包装されているガードカートリッジ(guard cartridge)(50×20mm i.d.)を取り付けたDevelosil ODS−HG−5(RP−18,粒子径(particle size)5μm;250×20mm i.d.,Nomura Chemical,Co., Japan)カラムで行われたが、使用したグラジエントは次のとおりである:150mL 25%アセトニトリル(CHCN(aq)); 150mL 50%アセトニトリル(CHCN(aq));150mL 60%アセトニトリル(CHCN(aq)); 150mL 70%アセトニトリル(CHCN(aq));150mL 80%アセトニトリル(CHCN(aq));150mL 90%アセトニトリル(CHCN(aq)および300mL 100%アセトニトリル(CHCN)。化合物は230nmで検出された。流速:5mL min−1、注入量:5mL。
【0064】
分析HPLC(analytical HPLC)の条件
分析HPLCは、フォトダイオードアレー検出器を取り付けたSUMMIT/Dionex HPLC システムで実施された(波長範囲(wavelength range) 195−700nm)。単離された化合物の純度は、35℃で、逆相分析HPLC(reversed phase analytical HPLC)によって、LiChrospher 100 RP−18(粒子サイズ 5μm;244×4mm i.d., Merck)カラムで、次のグラジエントを用いて決定された:0−10min(100% 溶媒B);10−25min(100−50% 溶媒B、0−50%溶媒A);25−55min(50−0% 溶媒B、50−100%溶媒A);55−64min(100%溶媒A);64−74min(100−80% 溶媒A、0−20%溶媒C);74−85min(80% 溶媒A、20%溶媒C);85−95min(80−100% 溶媒A、20−0%溶媒C);95−105min(100−0% 溶媒A、0−100%溶媒B);および105−110min(100% 溶媒B)。グラジエントのすべての変化は、直線勾配である。溶媒A:100%アセトニトリル(100%CHCN)、溶媒B:20%アセトニトリル(20%CHCN)(aq)、溶媒C:100%テトラヒドロフラン(THF)。化合物は、203nmで検出された。データコレクションタイム:0−75分。流速:1mL min-1、注入量:20μL。GOPOの保持時間(retention time):約54分(図2)。
【0065】
これらの試験から、ガラクト脂質構成物(galactolipid composition)を得るための抽出プロセスはたとえばバラの果実のような植物材料を得るための工程、植物材料(バラの果実)を乾燥・粉砕して粉末を形成する工程、粉末を最初の有機溶媒で処理する工程(この工程でガラクト脂質は不溶性である)、有機溶媒を取り除き、最初の残渣(残留物)を得る工程(残渣は画分(フラクション)を含んでいるガラクト脂質である)からなる。抽出好適において、最初に有機溶媒を使用すると、活性のない成分は除かれて、活性の在る抽出フラクションの濃度を増加させることになる。ガラクト脂質を単離するには、最初の残渣を有機/クロロ溶媒(organo/chloro solvents)で処理し、最初の残渣からガラクト脂質を抽出する工程、および有機/クロロ溶媒を除き、ガラクト脂質を豊富に含んでいる(galactolipid rich fraction)フラクション(画分)を沈殿させる工程を含有することによる。
【0066】
有機/クロロ溶媒を用い、そして、有機/クロロ溶媒(organo/chrloro solvent)を除き、ガラクト脂質を豊富に含んでいるフラクション(画分)を沈殿させることにより、ガラクト脂質抗炎症剤抽出物フラクションをバラの果実の粉末からの直接抽出して得ることも可能である。
【実施例2】
【0067】
この実施例は、実施例1の活性成分の活性を,異なった細胞機能アッセイ(cell function assay)により説明する。
【0068】
GOPOの生物学的データ
ジメチルスルホキサイド(DMSO)で調整された20mg/mlのGOPOを上記に述べられた方法で得、最小必須培地(minimal essential medium)(MEM)で細胞機能アッセイに使用するために、最終的には、100μg/ml、50μg/ml、10μg/ml、1μg/ml、および0.1μg/mlまで希釈した。
【0069】
多形核白血球
多形核白血球(PMNs)は、クエン酸を含むガラス管の中の健常人の末梢血液から単離された。細胞は、デキストラン密度勾配(dextran density gradient)およびヒト単核分離(lymphoprep separation)により、分離された。PMNsの純度は、98%より高く、細胞の生存能力はトリパンブルーダイエックスクルーション試験(trypan blue dye exclusion)によって決定されるように、98%以上であった。
【0070】
ケモタキシス
ケモタキシスアッセイが、Jensen, P. and Kharazmi, A., Computer−assisted image analysis assay of human nuetrophil chemotaxis in vitro. J. Immunol. Methods, 144, 43−48.1991に述べられているように、改変されたボイエンチャンバーテクニーク(Boyden chamber technique)を用いておこなわれた。純粋化されたPMNsは、異なる希釈度の抽出されたガラクト脂質で、30分間、37℃でプレインキュベイションされた(The purified PMNs were pre-incubated with different dilutions of the extracted galactolipid for 30min at 37℃)。プレインキュベーションのあと、生物学的に活性のある化学誘引因子(chemoattractant)C5aを含んでいる、細胞の走化性(遊走)因子であるザイモサンによって活性化される血清(ZAS)のほうへ細胞が走行するケモタキシスが測定された。遊走した細胞は、コンピューターによってアシストされたイメージ分析システムによってカウントされた。
【0071】
化学発光(Chemiluminescence)
活性化されたPMNs(多形核白血球)を用い、酸素ラジカル発生を測定するために化学発光アッセイが使用された。方法は、Kharazmi,A., Hoily, N., Doring, G., and Valerius, N.H.Pseudomonas aeruginosa exoproteases inhibit human neutrophil chemiluminescence.Infect.Immun.44,587,1984.に記載されているように実施された。PMNsを、異なる濃度の抽出されたガラクト脂質でプレインキュベートし、次いで、オプソニンを作用させたザイモサンで刺激を与えた(PMNs were pre-incubated with different concentrations of the extracted galactolipid and then stimulated with opsonized zymosan.)。活性化された細胞の酸化(活性水素)発生応答が、ルミノメーター(1250−LKB Wallace)によって測定された。
【0072】
結果
ケモタキシス
表3は、GOPO(100μg/mlおよび50μg/ml希釈)のヒトの末梢血液多形核白血球のケモタキシスに対する結果を示す。結果は、走化(遊走)した細胞の数および阻害(抑制)パーセントで示す。
【0073】
【表3】

【0074】
表3に示されている実験と同様な実験が、活性化合物(GOPO)の新しいバッチ(batch)で繰り返しおこなわれた。表4は、GOPO,(100μg/ml,10μg/ml,1μg/mlおよび0.1μg/ml希釈)のヒトの末梢血液多形核白血球のケモタキシスに対する結果を示す。結果は、走行した細胞の数および阻害パーセントで示されている。
【0075】
【表4】

【0076】
表5は、ヒトの末梢血液多形核白血球の化学発光の結果を示す。結果は、ミリボルト(millivolts)として示されている。
【0077】
【表5】

【0078】
表6は、細胞の生存能力の結果を示す。細胞の生存能力は、トリパンブルーダイエックスクルーション試験によって決定された。細胞は、トリパンブルー(trypan blue)でインキュベートされた。死細胞の場合は、色素を取り込み顕微鏡下で青色が現れる。結果は、生存能力のある細胞の百分率をとして示されている。
【0079】
【表6】

【0080】
結論
表3および4に示されているように、単離された化合物(GOPO)は、C5aを包含する生物学的に活性な走行(遊走)性の化学誘引因子、ザイモサンを活性化する血清の方向へ、ヒトの末梢血液の白血球が走行(遊走)することをかなり低い濃度で阻害(抑制)した。
【0081】
表5に示されるように、単離された化合物はヒトの末梢血液の白血球の化学発光をかなり低い濃度で阻害(抑制)した。化学発光は、酸化(活性酸素)発生応答の尺度である。これにより、単離された化合物は抗酸化作用を発揮することが示される。たとえばPMN'sおよびモノサイト/マクロファージのような炎症細胞によって引き起こされる実際の組織として、蛋白分解および加水分解酵素および組織および関節で活性化される毒性のある反応性酸素ラジカルの放出(遊離)(release)を介して、単離された化合物は、最も重要でかつ豊富である炎症細胞であるヒトの末梢血液の多形核白血球の活性酸素派生応答の強い阻害剤(抑制剤)であるものである。
【0082】
表6に示されているように、細胞は、ケモタキシスおよび化学発光性を阻害・抑制する化合物の濃度で生存可能であり、細胞の走行性および活性酸素の発生を阻害することが、毒性とは、無関係であることをも示している。換言すれば、活性化合物は、試験された濃度では、毒性がないと考える。
【実施例3】
【0083】
この実施例は、市販されているバラの果実の製品である実施例1および2の活性成分の濃度(mg/kg)を説明する。
【0084】
分析HPLCによるドッグ・ローズの市販品(商業製品)におけるGOPOの分析
セクション`分析HPLC条件´で述べられた分析HPLC法は、欧州委員会(European Commission(Volume 3A Guidelines; Medicinal products for human use;Quality and biotechnology 1998 Edition))からのICH−ガイドラインによる特異性(specificity)、併行精度(Repeatability)、室内再現精度(intermediate precision)、真度(accuracy)、直線性(linearity)、範囲および頑健性(range and robustness)に関して、バリデイションされており、ドッグ・ローズ製品として商業的に手に入る製品のGOPOを定量化するために使用されてきた。表7は、GOPOの市販されている10個のドッグ・ローズ製品の分析の結果が示されている。
【0085】
【表7】

CP=市販品(匿名)
【実施例4】
【0086】
標準化された製剤品を調製するための本発明の使用
デンマーク医薬品局(Danish Medicidines Agency(Laegeniddelstyrelsen)によって発行されているガイドラインによると、天然医薬産物は、製造される植物性または動物性の物質に特有である特定の量のある化合物を包含するように標準化されなければならない。薬剤の臨床効果を説明する義務があると認められる化合物の場合は、活性化合物として定義され、標準化をおこなうために使用されなければならない。もし、どんな活性化合物も知られていなければ、生産者は、標準化するためのマーカー化合物として、別の特徴的な化合物を選択することができる。本発明はGOPOが、関節炎ための痛みを軽減することができるローズ・ヒップ(バラの果実)製剤の活性化合物であるので、天然医薬産物として登録されているいかなるローズ・ヒップ製剤品をも標準化するために使用されなければならない。植物起源の製品(herbal product)などの標準化された製剤を登録するための同様な規制が他の国でも存在する。
【0087】
GOPOのような化合物によって製品が標準化されている場合、これは、たとえば錠剤、カプセル剤のような各単位が所定量のGOPOを提供するのに十分な植物材料を含有することを意味する。たとえば、単位投与量が0.1mgとして規定され、製品中の濃度が実施例3の表7に記載されているように303mg/kgと測定される場合、このバッチの材料から製造された各単位は粗製品0.330gを含んでいなければならない。
【0088】
それぞれの錠剤、カプセル剤中に使用されている量を調節するためというより、実際的な理由で、粗製物は、希望する濃度を得るために、必要である量で希釈され、そして固定された量の希釈された生成物が錠剤、カプセル剤にそれぞれ使用される。たとえば、ひとつ材料が303mg/kgを含有している一つのバッチから含有量500mgを有し、かつ、0.1mgのGOPOの単位投与量のカプセル剤を作るには、200mg/kgの濃度まで希釈しなければならない。このことは、粗生成物に51.1%(重量)に対応するある量のチョーク粉(chalk powder)または他の不活性な材料を添加することにより果たすことができる。それにより、500mgの希釈された材料を含有するそれぞれひとつひとつのカプセル剤は、0.1mgのGOPOを包含することにもなり、それによって、標準化された製品の要件を満たすことになる。
【0089】
代替的には、たとえば、上記のように303mg/kgを含有しているような高い品質のバッチは、たとえば75.8mg/kgを含有しているような低い品質のバッチで混合することが可能である。
【0090】
このケースの場合、全体で200mg/kgの標準化された希望濃度を得るためには、混合物は、高い品質のバッチを54.6%含有しており、その結果、165.6mgGOPO/kgを提供し、そして低い品質のバッチを45.4%有しており、その結果、34.4mg/kgを提供することになる。
【0091】
いずれにせよ、活性化合物が標準化のために使用される場合は、標準濃度は、最も良好な未加工の材料に比べて最終製品は、活性化合物の濃度は低くなるように選択されねばならない。ここで説明した一般原則は、テキストで述べられているどのタイプの化合物にも適用され、どんな資料にも存在する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、RおよびR’はそれぞれ独立して水素、C10−24−アルキルおよびC10−24−アシルから選択され、前記アルキルおよびアシルは0から5個の不飽和結合を有しており、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素およびグリコシド基から選択される;ただし、第1の条件として、RおよびR’の両方とも水素であることはなく、第2の条件として、RおよびR’はいずれもエイコサペンタエノイルではない。)
で示される化合物を有効成分とする、哺乳類における関節リウマチ、炎症性腸疾患、反応性または骨関節炎および他の関節炎から選択される疾患を治療、軽減または予防するための薬物。
【請求項2】
RおよびR’がそれぞれ独立してC10−24−アルキルおよびC10−24−アシルから選択され、前記アルキルおよびアシルは0から5個の不飽和結合を有している、請求項1に記載の薬物。
【請求項3】
アルキルおよびアシルが0から4個の不飽和結合を有している、請求項1または2に記載の薬物。
【請求項4】
不飽和結合が二重結合である、請求項1〜3のいずれかに記載の薬物。
【請求項5】
RおよびR’の両方とも1から3個の二重結合を有しているC16−20−アシルである、請求項1〜4のいずれかに記載の薬物。
【請求項6】
有効成分である化合物が式(II):
【化2】

(式中、R、R’、R、R、RおよびRは請求項1〜5のいずれかに定義のとおりである。)
で示される、請求項1〜5のいずれかに記載の薬物。
【請求項7】
化合物がβ−D−ガラクトピラノシル誘導体、α−D−ガラクトピラノシル誘導体、β−D−グルコピラノシル誘導体およびα−D−グルコピラノシル誘導体より選択される、請求項1〜6のいずれかに記載の薬物。
【請求項8】
化合物が3−β−D−ガラクトピラノシルオキシ−2−(オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノイルオキシ)プロパニル オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノエート、3−β−D−グルコピラノシルオキシ−2−(オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノイルオキシ)プロパニル オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノエート、3−α−D−ガラクトピラノシルオキシ−2−(オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノイルオキシ)プロパニル オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノエートおよび3−α−D−グルコピラノシルオキシ−2−(オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノイルオキシ)プロパニル オクタデカ−9Z,12Z,15Z−トリエノエートから選択される、請求項1〜7のいずれかに記載の薬物。
【請求項9】
経口、バッカル、非経腸、局所、直腸、皮膚または鼻腔内投与に適している、請求項1〜8のいずれかに記載の薬物。
【請求項10】
1日につき体重kgあたり0.005〜50mgを単回または複数回投与するのに適した投与量形態である、請求項1〜9のいずれかに記載の薬物。
【請求項11】
疾患が関節炎である、請求項1〜10のいずれかに記載の薬物。
【請求項12】
疾患が骨関節炎である、請求項1〜10のいずれかに記載の薬物。
【請求項13】
抗酸化剤と共に使用される、請求項1〜12のいずれかに記載の薬物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の薬物の1種またはそれ以上を、全重量を基準にして総濃度0.1〜50%で含んでなる、医薬組成物。
【請求項15】
抗酸化剤を含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
薬学的に許容される担体を含む、請求項14または15に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−215660(P2010−215660A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142945(P2010−142945)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【分割の表示】特願2003−545294(P2003−545294)の分割
【原出願日】平成14年11月21日(2002.11.21)
【出願人】(504197628)
【氏名又は名称原語表記】Danmarks Jordbrugsforskning
【出願人】(504197592)リグスホスピタレット (2)
【氏名又は名称原語表記】Rigshospitalet
【出願人】(504197606)ダンマークス・ファーマセウティスケ・ウニヴェアシテート (1)
【氏名又は名称原語表記】Danmarks Farmaceutiske Universitet
【Fターム(参考)】