説明

抗精神病薬および神経保護薬としてのネボグラミン(neboglamine)(CR2249)の使用

統合失調症の処置用薬剤の製造のための、ネボグラミン(neboglamine) (S)-4-アミノ-N-(4,4-ジメチルシクロヘキシル)グルタミン酸(CR 2249) (CAS 登録番号 163000-63-3)、そのラセミ化合物、または医薬的に許容しうる塩の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は顕著な陰性症状の統合失調症、タイプII双極性障害(重篤なうつを伴う軽躁)、気分循環性障害(多くの軽躁の症状と軽微なうつ)の治療における、 (S)-4-アミノ-N-(4,4-ジメチルシクロヘキシル)グルタミン酸(CR 2249- neboglamine) (CAS 登録番号 163000-63-3)、その医薬的に許容しうる塩、およびその主要な代謝物である4,4-ジメチルシクロヘキシルアミン(CR 2863)の新規な治療的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
統合失調症は、例えば幻覚、妄想、思考の混乱、パラノイア〔非特許文献1, 非特許文献2〕等の陽性症状、および例えば感情や意欲の欠如としてまず現れる無気力、うつを伴う社会交流での障害および認知障害等の陰性症状に特徴づけられる精神状態である。
【0003】
統合失調症患者の症状の複雑な仕組みは個々の患者の脳の多様なレベルでの機能障害の存在を示唆し、それ故、単一の神経伝達物質系の機能不全が複合的な病的症状を説明すると仮定することは難しい。
【0004】
最近まで一般に認められていた仮説は、統合失調症の臨床症状の第一原因としてドーパミン作動系の活動過剰を示唆した。この仮説は主に、アンフェタミンが、偏執症患者の陽性症状(この症状の原因は中枢神経系(CNS)のドーパミン作動系の神経伝達物質の増加である。〔非特許文献3〕)に似た陽性症状を引き起こすという観察から由来している。
【0005】
しかしながら、多くの統合失調症患者、とりわけ顕著に陰性症状を現す統合失調症患者はドーパミン拮抗薬での処置に十分に反応しないので、ドーパミン作動系モデルはこの複雑な病気を部分的にしか説明できないことを示す。
【0006】
機能解剖学的研究は、統合失調症患者の、おそらく変性皮質発達より生じた大脳皮質の形態的変化を明らかにした。この層でグルタミン酸塩は主要な神経伝達物質であるゆえ、おそらくグルタミン酸作動系経路の機能障害が、双極性障害と同様に統合失調症においても重大に関与しているのであろう。この二つの神経伝達物質系間に重要な機能的相補作用があるため、ドーパミン作動系およびグルタミン酸作動系の仮説は互いに排他的ではない。
【0007】
抗精神病活性を有するであろう新規な分子を前臨床試験に付すうえでの一つの制限は、統合失調症におけるような複雑な病的症状を有意に再現しえる動物モデルの入手性が限られていることである。それにもかかわらず、特定の機能転換の可能性ある候補薬物の薬理活性を評価する目的で、このような病気の症状を十分にかつ効果的に再現することができるモデルがある。
【0008】
公開された前臨床データによると、化合物ネボグラミン(neboglamine)(CR 2249)は、多様な動物モデルで、記憶や学習を促進するという興味深い特性とともに〔非特許文献4〕、NMDAレセプター複合体〔非特許文献5〕に結合する(ストリキニーネ-無感)グリシン部に対する重要な調節特性を持つことが示されている。
【0009】
NMDAレセプター複合体のレベルでネボグラミンによって発揮される促進活性は、グルタミン酸作動性機能低下を含む症状の治療に用いうるにちがいなく、それは上述したように、統合失調症の陰性症状に貢献しうる。
【0010】
精神病を誘発するフェニルシクリジン(PCP)は、その病気の病態生理をよりよく反映するモデルである。事実、実験動物と人間の両者で、PCPは 統合失調症の症状と相当に類似する行動的影響を誘発する〔非特許文献6〕。それに従って、人間で、PCPの慢性投与(例えば薬物中毒で起こるように) 陽性および陰性の両病型でみられる持続的神経生物学的障害の変化を引き起こす。
【0011】
それ故、ネボグラミンとその主要代謝産物CR2863は、PCPを使って、抗精神病薬の評価を予測できると認識されている動物実験モデルで評価されている。事実、このようなモデルは、陽性タイプの精神病しか引き起こさないアンフェタミン−誘導モデルとは異なり、統合失調症に近似した精神異常状態を伴ったグルタミン酸作動性機能低下とドーパミン作動系活動過剰(活動過剰と常同的行動)の両方を再現する。
【0012】
使用された初めてのモデルは、ラットの聴覚前刺激(PPI)のPCP−誘導阻害の研究であった。
【0013】
〔非特許文献1〕Andreson, Mod. Probl. Pharmacopsychiatry 24, 73-88 (1990)
〔非特許文献2〕Peralta et al., Br. J. Psychiatry 161, 335-343 (1992)
〔非特許文献3〕Sayed et al., Psychopharmacol. Bull. 3J3, 283-288 (1983)
〔非特許文献4〕Garofalo et al. J. Pharm. Pharmacol. 48, 1290-97 (1996)
〔非特許文献5〕Lanza et al., Neuropharmacology 36, 1057-64 (1997)
〔非特許文献6〕Jentsch et al., Neuropsychopharmacology 20,1 201-225 (1999)
〔非特許文献7〕J. Pharmacol. Exp. Ther. 256 530-536 (1991)
〔非特許文献8〕Arch. Int. Pharmadyn. 229, 327-336 (1977)
【発明の開示】
【0014】
方法の原理
それ自体では著しい驚愕反応を引き起こさないような弱い刺激が先にあれば、音刺激に対する驚愕反応の程度は減少する。この現象は「プレパルス阻害」(PPI)として知られている。PPI反応は多くの動物および人間にあるが、それとは逆に、統合失調症患者は一般的にPPI欠損を示すとの報告がある。このような欠損はドーパミン作動薬やNMDA拮抗薬のような精神病の症状を誘発する薬剤で、実験的に再現できうる。
【0015】
その方法は、Swerdlowらの報告〔非特許文献7〕に基づき、若干の修正を加えたものである。アクリルのシリンダーの下にシリンダーの動きを検出して変換する圧電センサーを取り付ける。60dBの暗騒音のもと、続いて500msで区切られた2つの聴刺激を与える。最初の聴刺激は暗騒音の上に20dB、一方、2番目(驚愕刺激)は120dB で40ms間である。30秒間隔で繰り返し30回のセッションと、合計約15分間の間に、低刺激を与えずにまたは先に低刺激を与えた実験動物に,無作為に驚愕反応を加える。PPIは、聴覚の前刺激なしのときと比較して、前刺激があった場合の驚愕のレベルの割合の減少として計算する。体重約250gのラットを使用し、実験開始30分前に腹腔内(i.p.)に試験薬剤を投与し、その15分後にPCP3mg/kgを皮下(s.c.)投与する。結果は表1に示される。
【表1】

【0016】
実験において薬剤で前処理したラットのPPIのデータ解析により、どのようにネボグラミンが用量依存的にPCPによるPPI阻害を抑制するかが示される。この抑制は3 mg/kg (i.p.)で既に顕著である。代謝産物CR 2863はこの実験モデルにおいて、「ペアレント」の約3分の1の活性を示す。
【0017】
うつ(統合失調症の陰性症状として見なせる)の動物モデルは、既にPorsolt らのマウスの水泳試験〔非特許文献8〕で、ネボグラミンのPCP-誘導のうつ作用に対する活性の研究に使用されていた。
【0018】
方法
この試験は逃げ場のないガラスシリンダー中で泳ぐことを強要して、動物のうつ状態を誘発することからなる。一日あたりPCP 10 mg/kgの (s.c.)注射を14日間、前処理することで、うつ状態は強調された。15日目に、さらに試験30分前に生理溶液またはネボグラミンを前処理した(i.p.)。実験の全継続時間360秒における、数秒間の静止時間(うつの兆候)を評価する。この方法で得られた、実験の3分から6分の間、つまり240秒間に算出された結果は表2に示される。
【表2】

【0019】
表2のデータから 2週間のPCP 3 mg/kgの長期間処理は、統合失調症の陰性症状のモデルとして可能と考えられる実験において、動物に行動変化を引き起こすと推測される。実際、PCP-処理群の静止時間はほぼ増加した。無処理であるコントロール群と比較して3倍のうつ作用において、ネボグラミンは3-10 mg/kgの範囲で、十分にこの作用を抑制し、10 mg/kgの用量で統計上顕著となり、事実上、うつ作用の抑制(87.8%)を達成した。
【0020】
また、PCPの作用を転換するニューロンレベルでのネボグラミンの働きは、ラットの前頭葉の薄片でのインビトロ試験で評価された。
【0021】
その方法は薄さ0.4 mmの皮質の薄片を調製し、0.1 μM 6- ニトロキパジン および 0.1 μM ニソセチン(選択的セロトニンおよびノルアドレナリン再取り込み阻害剤)を含む95%O2 + 5%CO2、37℃で曝気した生理溶液中、3H-ドーパミンで20分間培養し、人工脳脊髄液(aCSF)で適当に洗浄し、状態を釣り合わせるため、流量1 ml/分でaCFSを30分間、超かん流する。その後、実験の間かん流させる規定濃度のかん流液に、PCPとネボグラミンを添加し、45分後に、NMDA (100 μM)刺激を5分間与える。5分間の4溶出画分を採取し、ラジオアクティビティーを検出する。
【0022】
薬剤の作用は、最大作用に相当する溶出画分と最初の溶出画分のラジオアクティビティーの間の比率を計算して評価される。結果は表3に示される。
【表3】

【0023】
表3のデータから、ネボグラミンが強力に用量依存的にPCP-誘導のNMDA-誘発のドーパミン分泌の阻害を抑制すると推測される。この抑制は10 uMの添加から有効と考えられる。更に注目すべきことは、ネボグラミンは基礎のドーパミン分泌に影響しないことである。
【0024】
神経保護作用試験
ネボグラミンと主要代謝産物(CR 2863)が更に神経保護作用活性を示すかについて調査することが決定された。事実、多数の統合失調症患者の亜集団は進行性の脳構造的変性(神経変性)を患っており、認知機能の維持または回復のためその防止が必須であり、かかる特性は非常に有用であることは、明らかである。
【0025】
更に、アレチネズミについての頸動脈の両側性閉塞によっておこる海馬領域の虚血モデルにおいて、ネボグラミンと主要代謝産物(CR 2863)の神経保護活性の可能性を調査することが決定された。
【0026】
概要は、ハロタン麻酔した動物を5分間の頸動脈の両側性閉塞にする。7日後、その動物を解剖し、脳を採取して凍結し、海馬領域をクレシルバイオレットで染色して10 μmのセクションを調製する。CHl錐体神経が占める領域の定量(mm2)をイメージアナライザーで行う。この虚血モデルから生じる海馬神経変性のタイプはニューロン核の領域で有意な変形からなる。虚血の1時間前に薬剤を腹腔内投与した。この方法で得られた結果は表4および表5に示される。
【表4】

【表5】

【0027】
表4および表5に示されるデータから、ネボグラミンがいかに用量依存的に神経変性から保護するかが示される。実際、対照動物における虚血の死亡率は50%だが、投与量が多い場合は、死亡率は完全になくなる。更に、このモデルでは、代謝産物CR 2863は16 mgの投与で「ペアレント」より高い活性も持つことが明らかとなった。この結果、ネボグラミンの神経保護活性作用は主としてその主要代謝産物CR 2863に起因することが示唆された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の当該化合物の製剤処方は従来技術を用いて調製できる。当該剤型は、カプセル、タブレット、懸濁液、乳剤、液剤、のような経口使用、非経口(皮下、筋肉、静脈を含む)、局所または直腸使用の滅菌溶液、あるいは、他の期待する治療効果を得るための剤型例えば固形剤や、有効成分をゆっくりと放出して遅延作用をもたらす経口使用のような、適当な剤型を含む。賦形剤、結合剤、崩壊剤、経皮吸収を促進する物質のような、医薬品業界で通常に使用される物質は、当該有効成分とともに製剤処方に使用し得る。更に、ネボグラミン化合物とCR 2863化合物はそのままで、またはその医薬的に許容しうる塩として使用し得る。ネボグラミンでは、ナトリウム、カリウム塩または塩酸塩が好ましく、CR 2863では塩酸塩が好ましい。
【0029】
統合失調症の治療に効果的なネボグラミンの用量は、患者の症状、個々の反応、年齢および体重により、1日あたり有効成分量として10から600 mg、好ましくは30から300 mgの範囲で選ばれる。
【0030】
以下の実施例で本発明をより詳細に説明するが、これらは単なる例であり、これらに限定されない。
【実施例1】
【0031】

【実施例2】
【0032】

【実施例3】
【0033】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
統合失調症の処置用薬剤の製造のための、ネボグラミン(neboglamine) (S)-4-アミノ-N-(4,4-ジメチルシクロヘキシル)グルタミン酸(CR 2249) (CAS 登録番号 163000-63-3)、そのラセミ化合物、または医薬的に許容しうる塩の使用。
【請求項2】
活性物質として請求項1に記載の化合物の少なくとも1種を含有し、統合失調症の陰性症状の治療処置に用いる医薬製剤。
【請求項3】
タイプII双極性障害(躁うつ病)の治療処置に用いる請求項2に記載の医薬製剤。
【請求項4】
気分循環性障害の治療処置に用いる請求項2に記載の医薬製剤。
【請求項5】
脳の進行性構造変性を特徴とする病的状態の神経保護療法に用いる請求項2に記載の医薬製剤。
【請求項6】
担体、結合剤、フレーバー、甘味料、崩壊剤、保存剤、湿潤剤およびこれらの混合物からなる群から選ばれる医薬的に許容しうる不活性成分、または非経口吸収、経皮吸収、経粘膜吸収、直腸吸収を促進し、時間経過の活性物質の制御放出を可能ならしめる成分を更に含有する請求項2に記載の医薬製剤。
【請求項7】
うつ病の処置用薬剤の製造のための、4,4-ジメチルシクロヘキシルアミン(CR 2863) または医薬的に許容しうる塩の使用。
【請求項8】
統合失調症の処置用薬剤の製造のための、4,4-ジメチルシクロヘキシルアミン(CR 2863) または医薬的に許容しうる塩の使用。
【請求項9】
活性物質として4,4-ジメチルシクロヘキシルアミン(CR 2863)または医薬的に許容しうる塩および適宜医薬的に許容しうる担体を含む医薬製剤。
【請求項10】
統合失調症の陰性症状の治療処置に用いる請求項9に記載の医薬製剤。
【請求項11】
タイプII双極性障害(躁うつ病)の治療処置に用いる請求項9に記載の医薬製剤。
【請求項12】
脳の進行性構造変性を特徴とする病的状態の神経保護療法に用いる請求項9に記載の医薬製剤。

【公表番号】特表2008−500309(P2008−500309A)
【公表日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−513918(P2007−513918)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【国際出願番号】PCT/EP2005/052340
【国際公開番号】WO2005/115373
【国際公開日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(598105824)ロッタファルム・ソシエタ・ペル・アチオニ (18)
【氏名又は名称原語表記】ROTTAPHARM S.p.A.
【Fターム(参考)】