説明

抗老化素材の評価方法及びそれを配合した化粧料の製造方法

【課題】シワや皮膚の弾力性低下といった老化症状の防止や改善の為の素材の評価法、及び該評価法により得られる素材を含有した抗老化化粧料を提供する。
【解決手段】塩基配列5’-GCCCACCTGGACACAACAC-3’を有するオリゴヌクレオチド及び塩基配列5’-GACCGGGTTGCTGAAAAGAC-3’を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとしてデコリンmRNAからDNAを増幅し、増幅生成物を測定してデコリン遺伝子の発現を調べる事により、化粧料及び素材を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老化症状の防止や改善の為の素材の評価法、及び該評価法により得られる素材を含有した抗老化化粧料を提供する。より詳細には、デコリンの産生を促進させることによって真皮マトリックス構造を強化しシワや皮膚の弾力性低下といった老化症状の防止や改善を目的とする素材の評価法、及び該評価法により得られる素材を含有したシワや皮膚の弾力性低下といった老化症状の防止や改善の為の化粧料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化社会が進行するにつれて、美しく年を重ねるために、化粧料に求められる役割が大きくなってきている。ところが、肌は、加齢などの内的因子や紫外線、活性酸素などの外的因子によって、皮膚が本来維持している収縮性、柔軟性、保湿性等の機能が衰え、様々なトラブルを発生する。
【0003】
これらのトラブルの一つである顔面や首等のシワ、たるみ等は典型的な皮膚老化の特徴であり、美容上の観点から、その予防や改善には関心が寄せられている。
【0004】
シワ、たるみ等は真皮の細胞外マトリックスを産生する細胞数の減少、細胞分裂速度の衰えなどの細胞機能の老化や、コラーゲン線維の減少及び変性、皮下脂肪組織の減少等により、弾力性の損失が起こることが原因となって発生する。
【0005】
従来、シワへの対処法としては、老化によって失われるコラーゲン、ヒアルロン酸等の物質を皮膚に塗布し補う組成物や、紫外線や活性酸素から皮膚を守るための防御物質を配合した間接的な老化防止剤が主流であった。(特許文献1〜3参照)また、生成したシワを根本的に改善しようとする試みとしては、レチノイン酸やグリコール酸に代表されるα -ヒドロキシ酸等がある。(特許文献4及び5参照)しかし、α -ヒドロキシ酸においては、高い配合量が必要となり、レチノイン酸においては、腫れを伴う炎症等を起こす等安全性に問題があり、長期使用に耐え得るものではなかった。
【0006】
一方、真皮構造の大部分を占めるのはコラーゲンであるが、真皮構造の維持や強化には、コラーゲン以外の成分も関与している。例えば、コラーゲンやエラスチンと並んで細胞外マトリックスを構成しているプロテオグリカンの一つに、デコリンがある。
【0007】
デコリンは、分子量約40から50kDaのコアタンパク質に1本のコンドロイチン硫酸あるいはデルマタン硫酸からなるグリコサミノグリカン鎖が共有結合してできた全体の分子量が約100kDaの複合生体高分子である。デコリンは、皮膚では真皮に存在し、そのコアタンパク質を介して他の細胞外マトリックス成分であるコラーゲン等と相互作用し、コラーゲンのフィブリル形成制御や線維径の制御に関わることが近年明らかになった。(非特許文献1及び2参照)デコリンの欠損はコラーゲン構造へ影響を与えることから、デコリンの産生を促進させることは、コラーゲン構造を強化しシワや皮膚の弾力性低下といった老化症状の防止や改善に有効であると考えられる。即ち、この様なデコリンの産生を促進させる物質を探し出せば、シワや皮膚の弾力性低下といった老化症状の防止や改善に対する有効手段となり得る。
【特許文献1】特開2001−192316号公報
【特許文献2】特開2004−75646号公報
【特許文献3】特開2006−262852号公報
【特許文献4】特許第2606711号公報
【特許文献5】特表2001−520652号公報
【非特許文献1】J.Struct.Biol.,106,82-90,1991
【非特許文献2】J.Dermatol.,30,655-664,2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、この様な状況下為されたものであり、シワや皮膚の弾力性低下といった老化症状の防止や改善の為の素材の評価法、及び該評価法により得られる素材を含有した抗老化化粧料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、係る実情に鑑み鋭意研究努力を重ねた結果、有効成分によるシワや皮膚の弾力性低下といった老化症状の防止や改善の指標として、真皮線維芽細胞によって産生されるデコリンをコードするmRNAの量を、当該mRNAの全部又は一部に対して相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドとハイブリダイゼーションさせることでその量を測定する、又はデコリンをコードするmRNAを鋳型にしたcDNAを増幅してその量を測定することが有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、真皮線維芽細胞中のデコリンをコードするmRNAを含むRNA画分を得る工程、デコリンをコードするmRNAを鋳型にしたcDNAを作成する工程、そのcDNAを、デコリンをコードするmRNAの一部と同一又はそれに対して相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いて増幅する工程、及び増幅産物の量を測定する工程を含むことを特徴とする、老化症状の防止や改善を目的とする素材の評価法、及び該評価法により得られる素材を含有した抗老化化粧料を提供する。
【0011】
本発明は、また、デコリンをコードするmRNAの一部と相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドであって、(a)塩基配列5’-GCCCACCTGGACACAACAC-3’( 配列番号:1)又はこの配列に対して4
個以下の塩基が、除去、付加及び/ 又は置換期より修飾されている塩基配列、あるいは( b )塩基配列5’-GACCGGGTTGCTGAAAAGAC-3’( 配列番号:2)又はこの配列に対して4
個以下の塩基が、除去、付加及び/ 又は置換期より修飾されている塩基配列、を有するオリゴヌクレオチドを有する。好ましくは、上記オリゴヌクレオチドは、(a’)塩基配列5’-GCCCACCTGGACACAACAC-3’(
配列番号:1)、あるいは(b’) 塩基配列5’-GACCGGGTTGCTGAAAAGAC-3’( 配列番号:2)を有する。
【0012】
本発明は、また、前記の塩基配列(a)又は(a’)を有するオリゴヌクレオチドと、塩基配列(b)又は(b’)を有するオリゴヌクレオチドとを一対として含むPCR増幅用プライマーを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シワや皮膚の弾力性低下といった老化症状の防止や改善の為の素材の評価法、及び該評価法により得られる素材を含有した抗老化化粧料を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に用いられるデコリンをコードするmRNAは、真皮線維芽細胞を含む生体試料より、公知の方法、例えば、フェノール法やグアニジンチオシアネート法などにより得られる。また、市販のRNA精製キットを用いて行うこともできる。
【0015】
本発明に用いられるcDNAの合成方法としては、公知の方法、例えば、RNAを鋳型にして逆転写酵素を用いてcDNAを合成する方法などが挙げられる。また、市販の逆転写キットを用いて行うこともできる。
【0016】
本発明に用いられるデコリンcDNA断片のPCRによる増幅の方法としては、公知の方法、例えば、デコリンの塩基配列を基に合成したオリゴヌクレオチドをプライマーとして、DNAポリメラーゼを用いて行うことができる。
【0017】
デコリンをコードする塩基配列中の増幅すべき領域の位置は特に限定されないが、イントロン前後のエキソンに上流プライマー、下流プライマーをそれぞれ設計し増幅することが好ましい。
【0018】
増幅される領域の長さは特に限定されないが、例えば50〜300塩基対程度、好ましくは80〜150塩基対程度である。プライマーの塩基配列は、デコリンをコードする塩基配列中の対応する領域の塩基配列に対して完全に相補的であることが望ましいが、必ずしもその必要はなく、例えばプライマーの塩基数20個当り4個以下、例えば3個以下、好ましくは2個以下、例えば2個又は1個の塩基が、除去、付加、若しくは他の塩基による置換により修飾されていてもよい。例えば、配列番号:1及び配列番号:2に記載の塩基配列を有する塩基数20のプライマーにおいて、4個以下、例えば4個、3個、2個又は1個の塩基が、付加、除去又は他の塩基による置換によって修飾されていてもよい。
【0019】
PCR反応の具体例としては、2本鎖DNAの1本鎖DNAへの熱変性、増幅を目的とする部位の両端に相補的な2種類のオリゴヌクレオチドプライマーと前述の熱変性1本鎖DNAとのアニーリング、DNAポリメラーゼによる前記オリゴヌクレオチドプライマーからのDNA鎖伸長反応、からなる増幅サイクルを繰り返すことにより、デコリン
cDNA断片を指数関数的に増幅する方法が挙げられる。
【0020】
また、本発明における真皮線維芽細胞中デコリンの発現量の定量方法としては、上述のPCR法によって迅速に測定することができる。すなわちRNAを鋳型として逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、引き続きDNAポリメラーゼを用いたPCR反応を行って増幅産物を定量する方法が挙げられる。
【0021】
増幅されたDNA断片を検出又は定量するには、PCR 増幅産物を蛍光により検出するリアルタイムPCRが好適に例示される。この際、蛍光検出方法は特に限定されないが、例えば、SYBR
Green(アプライドバイオシステム社製)を使用するインターカレーター法や、TaqMan プローブ(アプライドバイオシステム社製)等を使用する蛍光標識プローブを用いる方法などが使用可能である。また、増幅されたDNAの検出又は定量方法はリアルタイムPCRに限定されるものではなく、公知の方法、例えば、増幅されたDNA断片特異的なプローブを用いた方法が挙げられる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1. 有効成分添加による、正常ヒト線維芽細胞のデコリンmRNAの定量
(1)細胞培養
正常ヒト線維芽細胞(HFSKF−II、RIKEN CELL BANKより入手)を、D−MEM培地に15% のFBSを添加したもので培養した。前記培地にて8×10cells/mLに調整した細胞を、滅菌プラスチック12穴プレートに1.0mLずつ播種し、24時間培養した。
(2)試験物質の添加
FBSを含まないD−MEM培地に交換した後、0.2μmメンブランフィルターにて濾過滅菌した対象物質を加え、一定時間培養した。
(3)RNAの抽出
正常ヒト線維芽細胞R N Aの抽出は、RNeasy MINI Kit(QIAGEN社製)を用いて行い、約1.5μgのmRNA画分を得た。
(5)逆転写反応
逆転写反応は、PrimeScript RT reagent Kit(タカラバイオ社製)を用いて行った。逆転写反応溶液を調製し、42℃で15分間、95℃で2分間保持した後、4℃まで急冷して逆転写を終了した。
(6)プライマー
デコリンcDNAの増幅には、上流プライマーとして5’-GCCCACCTGGACACAACAC-3’( 配列番号:1)を、下流プライマーとして5’-GACCGGGTTGCTGAAAAGAC-3’(
配列番号:2)を合成して用いた。内因性コントロール遺伝子のcDNAの増幅には、配列に特異的な上流プライマーと下流プライマーを合成して用いた。
(7)プライマーの増幅効率検討
プライマーの増幅効率検討には、ABI PRISM 7500システム(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて行った。(5)で得たcDNAを等倍希釈した系列おのおの1.0μLに、10μMの上流及び下流プライマーをそれぞれ0.5μL、滅菌水
10.5μL、SYBR Green PCR Master Mix(アプライドバイオシステムズ社製) 12.5μLを加え、50℃ で2分、95℃ で10分保持した後、95℃
で15秒、60℃ で1分の温度サイクルを40回繰り返して増幅反応を行った。プライマーの増幅効率は、2本鎖DNAに入り込み蛍光が増幅されたSYBR Greenの蛍光強度より、立ち上がりサイクル数をCt値として算出し下記計算式にしたがって算出した。ここで、立ち上がりサイクル数とは、SYBR
Greenの蛍光強度が指数関数的に増幅されている領域のサイクル数を指す。
【0023】
e=10-1/a−1
e:プライマーの増幅効率
a:横軸をlog[cDNA]、縦軸をCtとした時の、一次近似曲線の傾き
その結果を表1 に示す。
【0024】
【表1】

【0025】

表1から明らかなように、デコリンcDNA及び内因性コントロール遺伝子共に増幅され、増幅効率は同程度であることが明示された。
【0026】
(7)リアルタイムP C R
リアルタイムPCRは、ABI PRISM 7500システムを用いて行った。(5)で得たcDNA 1.0μLに、10μMの上流及び下流プライマーをそれぞれ0.5μL、滅菌水
10.5μL、SYBR Green PCR Master Mix 12.5μLを加え、50℃ で2分、95℃ で10分保持した後、95℃ で15秒、60℃ で1分の温度サイクルを40回繰り返して増幅反応を行った。増幅産物は、2本鎖DNAに入り込み蛍光が増幅されたSYBR
Greenの蛍光強度より、下記計算式にしたがって算出した。
【0027】
R=2-ΔΔCt
R:遺伝子発現増加率、対象物質無添加時と比較した増加率
ΔΔCt=ΔCt1−ΔCt0
ΔCt1=(対象物質添加時の立ち上がりサイクル数)−(対象物質添加時の内因性コントロールの立ち上がりサイクル数)
ΔCt0=(対象物質無添加時の立ち上がりサイクル数)−(対象物質無添加時の内因性コントロールの立ち上がりサイクル数)
その結果を表2に示す。無添加時の遺伝子発現増加率は2=1である。
【0028】
【表2】

【0029】
以上の結果より、被検物質1、及び3に効果があり、被検物質2には効果がないと判断した。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明により、真皮線維芽細胞中のデコリンをコードするm R N Aを測定することで、シワや皮膚の弾力性低下といった老化症状の防止や改善の為の抗老化化粧料及び素材評価法を提供が可能となるため、広く老化症状防止化粧料及び素材開発に応用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚構成細胞のデコリンのmRNA量を測定し、これを指標とすることを特徴とする老化症状の防止及び改善の為の素材の評価法。
【請求項2】
請求項1に記載の老化症状の防止や改善の為の素材の評価法により抗老化化粧料を選択する工程、及び選択された素材を用いて製剤化する工程を含むことを特徴とする、抗老化化粧料の製造方法。
【請求項3】
皮膚構成細胞が、真皮線維芽細胞及び/又は表皮角化細胞であることを特徴とする請求項1に記載の評価法。
【請求項4】
真皮線維芽細胞中のデコリンをコードするmRNAを含むRNA画分を得る工程、デコリンをコードするmRNAを鋳型にしたcDNAを作成する工程、そのcDNAを、デコリンをコードするmRNAの一部と同一又はそれに対して相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いて増幅する工程、及び増幅産物の量を測定する工程を含むことを特徴とする抗老化化粧料及び素材評価法。
【請求項5】
デコリンをコードするmRNAの一部と相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドであって、(a)塩基配列5’-GCCCACCTGGACACAACAC-3’(配列番号:1)又は、この配列に対して4個以下の塩基が、除去、付加及び/又は置換期より修飾されている塩基配列、或いは(b)塩基配列5'-GACCGGGTTGCTGAAAAGAC-3'(配列番号:2)又は、この配列に対して4個以下の塩基が、除去、付加及び/又は置換期より修飾されている塩基配列を有することを特徴とするオリゴヌクレオチド。
【請求項6】
デコリンをコードするmRNAの一部と相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドであって、(a’)塩基配列5’-GCCCACCTGGACACAACAC-3’(配列番号:1)、あるいは(b’)塩基配列5’-GACCGGGTTGCTGAAAAGAC-3’(配列番号:2)を有することを特徴とするオリゴヌクレオチド。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の、塩基配列(a)または(a’)を有するオリゴヌクレオチドと、塩基配列(b)または(b’)を有するオリゴヌクレオチドとを一対として含むことを特徴とするPCR増幅用プライマー。

【公開番号】特開2008−245558(P2008−245558A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89935(P2007−89935)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(591230619)株式会社ナリス化粧品 (200)
【Fターム(参考)】