説明

抗肥満用医薬組成物

【課題】腹痛などの副作用が少なく、かつ皮下脂肪及び内臓脂肪の減少に対して優れた効果を有する医薬組成物を提供する。
【解決手段】下記(A)成分及び(B)成分を含有する医薬組成物:
(A)防風通聖散および大柴胡湯からなる群から選択される少なくとも1種の漢方薬、
(B)パンテチン、パンテチンの塩、パントテン酸、パントテン酸の塩、パンテテイン及びパンテノールから選択される少なくとも1種のパンテチン類。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮下脂肪及び内臓脂肪を減少させる作用を有し、かつ副作用が軽減された抗肥満用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪の過剰な蓄積によって、糖尿病、高脂血症、動脈硬化等をはじめとする生活習慣病を引き起こす可能性があるとされており、特に内臓脂肪型肥満の場合にはこれらの疾患の発症率が高まることが指摘されている。
【0003】
そこで、肥満を改善するための医薬品の開発が盛んに行われており、例えば防風通聖散などの漢方薬が内臓脂肪の減少に効果があることが確認されている(例えば、非特許文献1を参照)。しかしながら、その反面、下痢や腹痛、肝障害という副作用があり(例えば非特許文献2を参照)、内臓脂肪減少効果を求めるがために投与量を上げることは問題があった。
【0004】
一方、ビタミンB5であるパンテチンはコレステロール減少効果、中性脂肪減少効果等の脂質代謝を促進する効果があることが知られている(例えば非特許文献3を参照)ただし、パンテチンが中性脂肪を減少させるといってもその効果は緩慢であり、医療現場において脂質代謝の用途に使用されることはほとんどない。
【0005】
この様な背景から、下痢や腹痛、肝障害といった副作用が少なく、肥満、特に内臓脂肪型肥満の予防、改善および/または治療に有効である医薬品の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】平成14年度 科学技術総合研究委託費 地域先導研究 研究成果報告書
【非特許文献2】ツムラ防風通聖散エキス顆粒(医療用)添付文書
【非特許文献3】老年医学 18 (9) 1275 (1980), 老年医学 18 (7) 967(1980)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、腹痛などの副作用が少なく、かつ皮下脂肪及び内臓脂肪の減少に対して優れた効果を有する抗肥満用医薬組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行い、皮下脂肪や内臓脂肪を減少させる効果を有する特定の漢方薬と、パンテチン類とを組み合わせて用いることによって、該漢方薬が原因で生じる腹痛などの副作用が軽減されることを見出した。また、上記漢方薬とパンテチン類を併用することによって当該漢方薬による皮下脂肪および/または内臓脂肪減少効果がより一層高められることを確認した。本発明はこの様な知見に基づいてさらに研究を重ねた結果完成されたものである。
【0009】
本発明は以下の抗肥満用医薬組成物を提供するものである。
項1.下記(A)成分及び(B)成分を含有する抗肥満用医薬組成物:
(A)防風通聖散および大柴胡湯からなる群から選択される少なくとも1種の漢方薬、
(B)パンテチン、パンテチンの塩、パントテン酸、パントテン酸の塩、パンテテイン及びパンテノールからなる群から選択される少なくとも1種のパンテチン類。
項2.(A)成分が防風通聖散である項1に記載の抗肥満用医薬組成物。
項3.(B)成分がパンテチンである項1または2に記載の抗肥満用医薬組成物。
項4.(A)成分の乾燥重量100重量部に対する(B)成分の配合比率が総量で0.01〜30重量部である項1〜3のいずれかに記載の抗肥満用医薬組成物。
項5.(A)成分の乾燥重量100重量部に対する(B)成分の配合比率が総量で0.2〜20重量部である項1〜4のいずれかに記載の抗肥満用医薬組成物。
項6.肥満が内臓脂肪型肥満である項1〜5のいずれかに記載の抗肥満用医薬組成物
項7.錠剤または散剤の形態である項1〜6のいずれかに記載の抗肥満用医薬組成物。
項8.(A)成分の配合割合が30〜80重量%である項1〜7のいずれかに記載の抗肥満用医薬組成物。
項9.(B)成分の配合割合が0.1〜40重量%である項1〜8のいずれかに記載の抗肥満用医薬組成物。
項10.(B)成分の配合割合が0.1〜15重量%である項1〜8のいずれかに記載の抗肥満用医薬組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の抗肥満用医薬組成物によれば、従来から問題となっていた防風通聖散及び/または大柴胡湯による腹痛等の副作用を低減させることができる。加えて、本発明の抗肥満用医薬組成物は、防風通聖散または大柴胡湯を単独で使用する場合に比べ、より優れた皮下脂肪及び内臓脂肪の減少作用を有し、特に内臓脂肪を顕著に減少させる効果を発揮し得るものである。
【0011】
従って、本発明の抗肥満用医薬組成物は、肥満の軽減、特に内臓脂肪型肥満の予防、改善および/または治療において有効である。さらには、内臓脂肪型肥満に加え、高血糖、高血圧および高脂血症のうち2つ以上を合併するメタボリックシンドロームの予防、改善および/または治療にも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】試験例3における各群の血清中の中性脂肪、遊離脂肪酸及びケトン体の測定結果を示すグラフである。
【図2】試験例3における各群の肝臓中脂質の測定結果を表すグラフである。
【図3】試験例5における各群の体重比変化を表すグラフである。
【図4】試験例5における各群の血清中の中性脂肪及び遊離脂肪酸の測定結果を表すグラフである。
【図5】試験例6における各群の体重の変化率を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の抗肥満用医薬組成物は、特定の漢方薬((A)成分)とパンテチン類((B)成分)を含有することを主な特徴とする。以下、本発明の構成について詳細に説明する。なお、以下、本発明の抗肥満用医薬組成物を単に医薬組成物と表記することがある。
【0014】
(A)成分
本発明の(A)成分としては、防風通聖散および大柴胡湯からなる群から選択される1種以上の漢方薬が挙げられ、好ましくは防風通聖散である。これらの漢方薬は、いずれも腹痛などの副作用が知られている。
【0015】
本発明の(A)成分として使用し得る漢方薬の原料としては、具体的には、マオウ(Ephedra sinica Stapf,Ephedra intermedia Schrenk et C.A. Meyer,Ephedra equisetina Bunge)、カンゾウ(Glycyrrhiza uralensis Fischer,Glycyrrhiza glabra Linne)、ショウキョウ(Zingiber officinale Roscoe)、ケイガイ(Schizonepeta tenuifolia Briquet)、レンギョウ(Forsythia suspense Vahl, Forsythia viridissima Lindley)、トウキ(Angelica acutiloba Kitagawa, Angelica acutiloba Kitagawa var. sugiyamae Hikino)、シャクヤク(Paeonia lactiflora Pallas)、センキュウ(Cnidium officinale Makino)、サンシン(Gardenia jasminoides Ellis)、ハッカヨウ(Mentha arvensis Linne var. piperascens Malinvaud)、ボウフウ(Saposhnikovia divaricata Schischkin)、ダイオウ(Rheum palmatum Linne, Rheum tanguticum Maximowicz, Rheum officinable Baillon, Rheum coreanum Nakaiまたはそれらの種間雑種)、ビャクジュツ(Atractylodes japonica Koidzumi ex Kitamura, Atractylodes ovata De Candolle)、キキョウ(Platycodon grandiflorum A. De Candolle)、オウゴン(Scutellariae baicalensis Georgi)、サイコ(Bupleurum falcatum Linne)、ハンゲ(Pinellia ternata Breitenbach)、
タイソウ(Zizypus jujube Miller var. inermis Rehder)、キジツ(Citrus aurantium Linne var. daidai Makino, Citrus aurantium Linne ,Citrus natsudaidai Hayata)、ボウショウ(芒硝:硫酸ナトリウム)、カッセキ(滑石:天然含水ケイ酸アルミニウム及び二酸化ケイ素含有物)およびセッコウ(石膏:含水硫酸カルシウム)である。
【0016】
防風通聖散及び大柴胡湯に用いられる上記原料の組み合わせを下記表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
これらの原料のうち、植物原料の使用部位は、日本薬局方に規定されており、これに従って適宜選択することができる。
【0019】
本発明の(A)成分として使用し得る漢方薬(防風通聖散および大柴胡湯)の調製は、「一般用漢方処方の手引き」(厚生省薬務局監修、日薬連漢方専門委員会編集、薬業時報社発行)に準じて行い得る。
【0020】
本発明でいう防風通聖散および大柴胡湯には、漢方生薬調査会により定められた「漢方製剤の基本的取扱い方針」に規定されるように、現在繁用されている漢方関係の書簡に記載されている漢方処方(生薬配合物)やこれらの漢方処方から得られるエキスが包含される。
【0021】
本発明の(A)成分として漢方薬のエキス製剤を用いることができる。エキス製剤の製法としては、前述の方法によって得られた抽出液を減圧下で濃縮し、スプレードライ法により乾燥エキスとするか、或いはエキスの濃度を高めた軟エキスに適当な吸着剤(例えば無水ケイ酸、デンプン等)を加えて吸着末とする方法などが挙げられる。
【0022】
(A)成分として、例えば、防風通聖散であれば、乾燥重量に換算してトウキ1.2(重量部、以下同じ)、シャクヤク1.2、センキュウ1.2、サンシシ1.2、レンギョウ1.2、ハッカ1.2、ショウキョウ1.2、ケイガイ1.2、ボウフウ1.2、マオウ1.2、ダイオウ1.5、ボウショウ1.5、ビャクジュツ2.0、キキョウ2.0、オウゴン2.0、カンゾウ2.0、セッコウ2〜3、カッセキ3〜5とされており、原則として、これを、その20倍重量(従って560〜620重量部)の湯で抽出した後、1/2容量になるまで濃縮し、固形分を除いたもの(エキス)が用いられる。
【0023】
ここで、書簡によっては、上記成分中、ビャクジュツを含まないもの(例えば「経験漢方処方分量集」、大塚敬節・矢数道明監集、医道の日本社発行)、オウゴンを含まないもの(例えば「続漢方あれこれ」大阪読売新聞社編、浪速社発行)、上記分量中、1.2重量部をすべて1.5重量部としているもの(例えば「明解漢方処方」、西岡一夫、高橋真太郎共著、浪速社発行)など、成分や成分比が多少異なるものもある。
【0024】
また、防風通聖散のエキスの製造方法についても、ボウショウ以外の上記各成分に水400重量部を加え、200重量部まで煎じて、カスを除き、次いでボウショウを加えるとしているもの(例えば「和漢薬ハンドブック」、久保道徳、森山健三共著、保育社発行)のように、作り方が上記と多少異なるものもある。
【0025】
本発明においては、これらの差異は特に制限されず、いずれも防風通聖散として包含される。
【0026】
防風通聖散のエキス製剤としては、例えば、防風通聖散乾燥エキスA、防風通聖散乾燥エキスAM、防風通聖散乾燥エキスEおよび防風通聖散乾燥エキスEM(いずれも日本粉末株式会社製)ならびに防風通聖散料乾燥エキス−Cおよび防風通聖散料乾燥エキス−F(いずれもアルプス薬品工業株式会社製)等がそれぞれ商品として知られており、商業的に入手することもできる。
【0027】
また、大柴胡湯であれば、乾燥重量に換算してサイコ6.0(重量部、以下同じ)、ハンゲ3.0〜4.0、ショウキョウ4.0〜5.0、オウゴン3.0、シャクヤク3.0、タイソウ3.0、キジツ2.0、ダイオウ1.0〜2.0とされており、原則として、これを、その20倍重量(従って500〜560重量部)の湯で抽出した後、1/2容量になるまで濃縮し、固形分を除いたもの(エキス)が用いられる。
【0028】
なお、書簡によっては、成分や成分比、作り方が上記と多少異なるものもある。本発明においては、これらの差異は特に制限されず、いずれも大柴胡湯として包含される。
【0029】
大柴胡湯のエキス製剤としては、大柴胡湯乾燥エキス、大柴胡湯乾燥エキスAM、大柴胡湯乾燥エキスSNおよび大柴胡湯乾燥エキス粉末(いずれも日本粉末株式会社製)ならびに大柴胡湯乾燥エキスF、大柴胡湯乾燥エキス−F(いずれもアルプス薬品工業製)等がそれぞれ商品として知られており、商業的に入手することもできる。
【0030】
本発明の医薬組成物中の上記(A)成分の配合割合は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、医薬組成物中に、乾燥重量に換算して、通常0.001〜98重量%程度、好ましくは0.1〜95重量%程度、より好ましくは1〜90重量%程度である。例えば(A)成分として防風通聖散または大柴胡湯の乾燥エキスを単独で用いる場合は、それぞれ、医薬組成物中に通常0.01〜95重量%程度、好ましくは1〜90重量%程度、より好ましくは5〜90重量%程度、さらに好ましくは10〜90重量%程度、とくに好ましくは30〜80重量%程度である。
【0031】
(B)成分
本発明の抗肥満用医薬組成物の(B)成分としては、パンテチン、パンテチンの塩、パントテン酸、パントテン酸の塩、パンテテイン及びパンテノールからなる群から選択される少なくとも1種のパンテチン類が挙げられ、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明においては、(B)成分としてパンテチンを用いることが好ましい。
【0032】
パンテチン(Pantethine)は、ビス(2−{3−[(2R)−2,4−ジヒドロキシ−3,3−ジメチルブタノイルアミノ]プロパノイルアミノ}エチル)ジスルフィドとして表され、パントテン酸(ビタミンB5)誘導体または活性型ビタミンB5とも呼ばれる。
【0033】
また、(B)成分として薬学的に許容されるパンテチンまたはパントテン酸の塩を用いることができ、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の鉱酸塩;酢酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩等の有機酸塩を挙げることができる。
【0034】
上記(B)成分はいずれも公知の化合物であり、従来公知の方法に従って合成することもできるが、例えば、パンテチンA(第一ファインケミカル株式会社)等の商品も知られており、商業的に入手することもできる。パンテチン以外の(B)成分として使用される化合物についても公知であり、従来の方法に従って得ることができる。
【0035】
本発明の医薬組成物において(B)成分の配合割合は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、通常、パンテチン量換算で0.0001〜95重量%程度、好ましくは0.001〜80重量%程度、より好ましくは0.01〜60重量%程度、さらに好ましくは0.1〜40重量%程度、とくに好ましくは0.1〜15重量%程度である。
【0036】
本発明の医薬組成物における上記(A)成分と(B)成分の配合比率は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、(A)成分の総量100重量部(乾燥重量)に対して(B)成分の総量(パンテチン量換算)0.01〜30重量部程度、好ましくは0.1〜30重量部程度、より好ましくは0.2〜20重量部程度である。例えば、(A)成分として防風通聖散または大柴胡湯の乾燥エキスを単独で用いる場合、それぞれ、(A)成分100重量部に対して(B)成分の総量0.1〜30重量部程度、好ましくは0.1〜25重量部程度、より好ましくは0.2〜25重量部程度である。
【0037】
(C)その他の成分
本発明の抗肥満用医薬組成物は、薬学的に許容される賦形剤、担体等と共に、従来公知の方法に従って、例えば、液剤(シロップ等を含む)等の液状製剤(懸濁剤含む)や、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)等の固形製剤形態の経口製剤;液剤等の液状製剤が挙げられる。本発明の組成物としては、素錠(裸錠)、フィルムコート錠、糖衣錠、甘味剤コート錠、カプセル剤、舌下錠等の形態が好ましい。
【0038】
本発明の医薬組成物が液状製剤である場合は、凍結保存することもでき、また凍結乾燥等により水分を除去して保存してもよい。凍結乾燥製剤やドライシロップ等は、使用時に滅菌水等を加え、再度溶解して使用される。
【0039】
固形剤として本発明の医薬組成物を調製する場合、例えば、錠剤の場合であれば、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用することができる。このような担体としては、例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、アルギン酸ナトリウム等の結合剤;乾燥デンプン、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、クロスポビドン、ポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、等の崩壊剤;ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン等保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等を使用できる。さらに錠剤は、必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠あるいは二重錠、多層錠とすることができる。また、前記有効成分を含有する組成物を、ゼラチン、プルラン、デンプン、アラビアガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等を原料とする従来公知のカプセルに充填して、カプセル剤とすることができる。
【0040】
また、丸剤の形態に調製する場合は、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用できる。その例としては、例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤、アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤、ラミナラン、カンテン等の崩壊剤等を使用できる。
【0041】
上記以外に、添加剤として、例えば、界面活性剤、吸収促進剤、吸着剤、充填剤、防腐剤、安定剤、乳化剤、可溶化剤、浸透圧を調節する塩を、得られる製剤の投与単位形態に応じて適宜選択し使用することができる。
【0042】
また、アミノ酸、ビタミン類、有機酸塩類等の他の活性成分を含有させても良い。他の活性成分としては、例えば、バリン、ロイシン、イソロイシン、トレオニン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、リジン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、システイン、シスチン、チロシン、プロリン、ヒドロキシプロリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒドロキシリジン、アルギニン、オルニチン、ヒスチジン等のアミノ酸;ビタミンA1、ビタミンA2、カロチン、リコピン(プロビタミンA)、ビタミンB6、ビタミンB1、ビタミンB2、アスコルビン酸、ニコチン酸アミド、ビオチン等のビタミン類;塩化ナトリウム、塩化カリウム等のアルカリ金属塩や、クエン酸塩、酢酸塩、リン酸塩等の有機酸塩類が挙げられる。
【0043】
本発明の医薬組成物は、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤などの形態に調製することができる。これらの形態には、当該分野における通常の方法を用いて調製でき、例えば、錠剤は、(A)成分、(B)成分及びその他錠剤を得るために必要な賦形剤等を適宜添加し、よく混合分散させたのち打錠して得ることができる。また、散剤は、(A)成分と(B)成分及びその他散剤を得る為に必要な賦形剤等を適宜添加し、好適な方法にて粉体化して得ることができる。
【0044】
本発明の医薬組成物を各種製剤に調製した場合の1日摂取量は、患者の状態や症状の程度によって適宜変更され得るが、大人一人(体重60kg)に対する1日あたりの投与量は、(A)成分の乾燥重量に換算して通常0.01〜12g程度、好ましくは0.05〜10g程度、より好ましくは0.07〜8g程度である。また、例えば(A)成分として防風通聖散または大柴胡湯を単独で用いる場合は、それぞれ、乾燥エキスとして通常0.1〜10g程度、好ましくは1〜8g程度、より好ましくは1.5〜6g程度である。また、本発明の医薬組成物は、通常一日2〜3回に分けて経口投与の形態で用いられる。服用時刻は、特に限定されないが、食前または食間が好ましい。
【0045】
本発明の医薬組成物は、従来から問題とされていた副作用(腹痛)を軽減(抑制)する作用を有する。また、優れた皮下脂肪減少効果及び内臓脂肪減少効果を発揮することが可能である。これらのことから、本発明の医薬組成物は、抗肥満用製剤(抗肥満剤)、内臓脂肪減少用製剤、皮下脂肪減少用製剤等として好適に使用され得る。内臓脂肪型肥満とは、内臓のまわりに脂肪が蓄積するタイプの肥満症であり、メタボリックシンドロームタイプの肥満として認識されている。内臓脂肪型肥満の判定基準は、日本肥満学会の肥満症治療ガイドライン2006によると、(i)「ウェスト径が男性85cm以上、女性90cm以上」(ii)「腹部CTスキャンによる内臓脂肪面積が100cm2以上」の2つの条件を満たしたものとされている。
【0046】
本発明の医薬組成物は、副作用の軽減と内臓脂肪減少に特に有効であることから、内臓脂肪の蓄積が原因となるメタボリックシンドロームの予防、改善および/または治療用としても好適である。
【実施例】
【0047】
以下に試験例等を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0048】
試験例1.ヒトにおける腹痛軽減効果
男性30名(平均年齢32.5歳)を、10名ずつ(1)防風通聖散群(防風通聖散のみを服用する群)、(2)パンテチン群(パンテチンのみを服用する群)、(3)防風通聖散・パンテチン群(防風通聖散とパンテチンを服用する群)の3群に分け、それぞれの群について、1日3回、食間または食前に、それぞれ被験薬を1週間服用させ、腹痛について毎日観察した。
【0049】
ここで、防風通聖散は、乾燥重量に換算して、トウキ1.2(重量部、以下同じ)、シャクヤク1.2、センキュウ1.2、サンシシ1.2、レンギョウ1.2、ハッカ1.2、ショウキョウ1.2、ケイガイ1.2、ボウフウ1.2、マオウ1.2、ダイオウ1.5、ボウショウ1.5、ビャクジュツ2.0、キキョウ2.0、オウゴン2.0、カンゾウ2.0、セッコウ2.0およびカッセキ3.0を、水20倍重量(560重量部)を用いて約100℃で1時間抽出し、遠心分離して抽出液を得、減圧下で濃縮してスプレードライを用いて乾燥した「防風通聖散エキス」(スプレードライヤーによる乾燥は、抽出液を回転数10000rpmのアトマイザーに落下させ、150℃の空気の熱風を供給して行った)を用いた。1回あたりの服用量は、前記防風痛聖散エキスの乾燥重量で0.83gとした。また、パンテチンは「パントシン錠100」(第一三共株式会社製)を用い、1回あたりの服用量は1錠(パンテチンとして100mg)とした。防風通聖散・パンテチン群は、防風通聖散エキス0.83g(乾燥重量)及びパントシン錠100(1回あたり1錠)を1日三回服用した。表2に、観察期間中に腹痛を感じた人の割合を示す。
【0050】
【表2】

【0051】
その結果、表2に示すように、防風通聖散群では70%もの被験者に副作用である腹痛が見られたが、防風通聖散とパンテチンを併用することによって、副作用の発生率を20%にまで低下させることができた。また、防風通聖散・パンテチン群において発生した腹痛も、防風通聖散群において発生した腹痛に比べると軽度であった。
【0052】
さらに、防風通聖散に代えて、大柴胡湯を用いた場合でも、試験例1と同様の傾向がみられた。
【0053】
試験例2.ラットにおける皮下脂肪および内臓脂肪減少効果
SDラット(4週齢)雄を普通飼料「CE−2」(日本クレア株式会社製)で1週間馴化した(馴化時平均体重:180g)。
【0054】
馴化後のラットを、(1)コントロール群、(2)防風通聖散群、(3)パンテチン群、(4)防風通聖散・パンテチン群の4群(8匹/群)に分け、それぞれの群について、表3に示す配合割合の高脂肪飼料にて21日間飼育した(飼育期間中、ラットにはエサおよび水を自由に摂取させた)。また、高脂肪飼料での飼育開始から21日目にCT装置LaThetaLCT−100(アロカ株式会社製)を用いて、内臓脂肪率と体脂肪率を測定した。結果を表4に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
ここで、表3中、防風通聖散乾燥エキスは、試験例1に記載の防風通聖散エキスを使用した。
【0057】
普通飼料は「CE−2」(日本クレア株式会社製)、パンテチンは80重量%パンテチン水溶液である「パンテチンA」(第一ファインケミカル株式会社製)、ラードおよびコーンスターチは日本クレア株式会社製のものをそれぞれ使用した。表中のパンテチン量は、パンテチンAのパンテチン含有率(80重量%)から算出した値である。
【0058】
【表4】

【0059】
表4に示されるように、コントロール群に対して防風通聖散・パンテチン群では、皮下脂肪および内臓脂肪に有意な減少が認められた。また、防風通聖散群およびパンテチン群と比較しても高い効果があった。なお、各群間において、摂餌量、摂水量ともに差はみられなかった。
【0060】
さらに、防風通聖散に代えて、大柴胡湯を用いた場合でも、試験例2と同様の傾向がみられた。
【0061】
上記試験例において(B)成分として用いられたパンテチンは、2分子のパンテテイン(N−D−パントテノイル−β−アミノエタンチオール)がジスルフィド結合することで生成される化合物である。このパンテテインはパントテン酸が酵素的活性化を受けることにより生成され、さらにパントテン酸はパンテノールから生成される。このように、これらはすべて同じ基本骨格を持ち、生体内に入ると、すべてCoAへと変換されるものである。従って、上記パンテチンに代えて、パントテン酸、パンテテイン、パンテノールを用いた場合であっても、同様の効果が得られると予想される。
【0062】
試験例3.ラットにおける肝臓中脂質への効果
SDラット(4週齢)雄を普通飼料「CE−2」(日本クレア株式会社製)で1週間馴化した(馴化時平均体重:174g)。
【0063】
馴化後のラットを、3群((i)コントロール群、(ii)防風通聖散群、(iii)防風通聖散・パンテチン群)(8匹/群))に分け、それぞれの群について、表5に示す配合割合の高脂肪飼料にて115日間飼育した。飼育期間中、水は自由に摂取させたが、餌は群間で脂肪負荷量を統一する為に毎日の摂餌量を計り、1日の摂取量が一番少ない群に合わせて全群の摂餌量をそろえた(ペアフィーディング)。
【0064】
【表5】

【0065】
飼育開始から115日目に前日から16時間の絶食を行った後採血を行い、血清中の中性脂肪、遊離脂肪酸およびケトン体の量について、それぞれ酵素法に従って測定した。また、採血後に解剖を行って肝臓を摘出し、肝臓中の中性脂肪とコレステロールを酵素法に従って測定した。
【0066】
表5に示される飼料の成分については、試験例2と同様である。
各群の血清中の中性脂肪、遊離脂肪酸、ケトン体の測定結果を表6および図1、肝臓中脂質(中性脂肪・コレステロール)の測定結果を表7および図2にそれぞれ示す。
【0067】
【表6】

【0068】
【表7】

【0069】
防風通聖散には、血清中中性脂肪、遊離脂肪酸および肝臓中中性脂肪の増加抑制効果が見られた。防風通聖散とパンテチンを併用することにより、これらの増加抑制効果のさらなる増強が見られた。また、肝臓中コレステロールについては、防風通聖散単独では増加抑制効果は見られなかったが、防風通聖散とパンテチンを併用することによって、優れた増加抑制効果が認められた。特に肝臓中脂質(中性脂肪・コレステロール)については、防風通聖散・パンテチン群と防風通聖散群の間に有意な差が得られ、パンテチン配合により、肝臓中脂質に対する効果が飛躍的に増強した。また、ケトン体は、主に肝臓にて脂肪のβ酸化が必要以上に促進された場合に合成され、それがエネルギー源として利用できなかった場合に血中に増量するものであるが、血清中のケトン体についても防風通聖散・パンテチン群がより低く抑えられた。
【0070】
このことから、防風通聖散は脂肪を有効に分解することができるが、パンテチンを配合することにより、分解された後の脂質をエネルギーとして有効に利用、代謝することができており、防風通聖散・パンテチン配合剤は脂質代謝改善薬としてより有効であり、抗肥満効果に優れた配合剤といえる。
試験例4.ラットにおける肝機能上昇効果
SDラット(4週齢)雄を普通飼料「CE−2」(日本クレア株式会社製)で1週間馴化した(馴化時平均体重:180g)。
【0071】
馴化後のラットを、表9に記載の被験薬投与成分別に5群((i)ノーマル群、(ii)コントロール群、(iii)パンテチン群、(iv)防風通聖散群、(v)防風通聖散・パンテチン群)(9匹/群)に分け、それぞれの群について、表8に示す配合割合の普通飼料または高脂肪・低食物繊維飼料にて85日間飼育した(飼育期間中、ラットにはエサおよび水を自由に摂取させた)。また各群について、一日1回、表9に示す被験薬(パンテチン、防風通聖散)を経口投与した。コントロール群には、蒸留水を投与した。
【0072】
普通飼料は「CE−2」(日本クレア株式会社製)、パンテチンは80重量%パンテチン水溶液である「パンテチンA」(第一ファインケミカル株式会社製)、ラードは日本クレア株式会社製のものをそれぞれ使用した。表9中のパンテチン量は、パンテチンAのパンテチン含有率(80重量%)から算出した値である。
【0073】
本試験例において防風通聖散は、試験例1の防風通聖散エキスを用いた。
【0074】
【表8】

【0075】
【表9】

【0076】
飼育開始から85日目に採血と解剖を実施し、JSCC標準化対応法に従って血清中のAST値の測定と、剖検による肝臓の肉眼観察を行った。結果を下記表10及び11に示す。
【0077】
なお、ASTはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの略称である。血清中のAST値は、肝細胞の破壊(障害)が進むと血液中の値が異常に上昇してくるため、肝機能の評価因子として用いることができ、この値に必要下限値はなく、値は小さいほど肝障害のリスクが低くなる。また、肉眼観察においては、肝臓の退色により脂肪肝、肝障害の進行を推測できる。
【0078】
【表10】

【0079】
【表11】

【0080】
表10にあるように、コントロール群は、高脂肪低食物繊維の飼料を与えたことにより、ノーマル群と比べてAST値の上昇が見られた。
【0081】
一方、パンテチン群においては、コントロール群に対してそのAST値に変化は見られず、防風通聖散群においては、若干の減少傾向が見られた。さらに、防風通聖散・パンテチン群では、大きく値を減少させた。この値を、コントロール群を1として比較すると、防風通聖散・パンテチン群においては大きなAST値の減少が見られ、防風通聖散とパンテチンの併用によって肝機能が向上していると考えられる。
【0082】
また、表11のように、肝臓の肉眼観察においても、ノーマル群と比べコントロール群に肝臓の退色がみられているが、防風通聖散・パンテチン群においては、その退色が抑えられている。肝臓の性状からも、防風通聖散とパンテチンの併用効果が確認できた。
【0083】
肥満の場合、脂肪肝になるなどして肝臓の機能が落ちやすくなる。また、防風通聖散には、肝機能障害を引き起こすおそれのあるオウゴンが含まれており、肝機能が低下している傾向にある肥満者に防風通聖散を使用する場合、注意を要する。しかしながら、防風通聖散とパンテチン類を組み合わせて用いることによって優れた肝機能向上効果を発揮し得ることから、肝機能が低下傾向にある肥満者に対しても安心して使用することができる。

試験例5.ラットにおける抗肥満効果
SDラット(6ヶ月齢)雄を普通飼料「CE−2」(日本クレア株式会社製)で1週間馴化した(馴化時平均体重:563g)。
【0084】
馴化後のラットを、(i)ノーマル群と、表12に記載の飼料別に4群((ii)コントロール群、(iii)防風通聖散群、(iv)パンテチン群、(v)防風通聖散・パンテチン群)(8匹/群)に分け、(ii)〜(v)群については、表12に示す配合割合の高脂肪飼料にて40日間飼育した(飼育期間中、ラットにはエサおよび水を自由に摂取させた)。また。(i)ノーマル群については、普通試料を用いて40日間、同様に飼育した。
【0085】
【表12】

【0086】
ここで、表12中、防風通聖散乾燥エキスは、試験例1と同じものである。
【0087】
普通飼料は「CE−2」(日本クレア株式会社製)、パンテチンは80重量%パンテチン水溶液である「パンテチンA」(第一ファインケミカル株式会社製)、ラードおよびコーンスターチは日本クレア株式会社製のものをそれぞれ使用した。表中のパンテチン量は、パンテチンAのパンテチン含有率(80重量%)から算出した値である。
【0088】
飼育開始から32日目に採血を行い、血清中の中性脂肪、遊離脂肪酸およびケトン体の量について、それぞれ酵素法に従って測定した。また、高脂肪飼料での飼育開始から40日目にCT装置LaThetaLCT−100(アロカ株式会社製)を用いて、内臓脂肪率と体脂肪率を測定した。
【0089】
各群の体重比変化を図3(縦軸:各群において飼育初日の体重を1としたときの比、横軸:飼育期日数)、血清中の中性脂肪、遊離脂肪酸、ケトン体の測定結果を表13に示す。さらに血清中の中性脂肪および遊離脂肪酸については図4にグラフとして示す。また、内臓脂肪率及び皮下脂肪率の変化を表14に示す。
【0090】
【表13】

【0091】
【表14】

【0092】
これらの結果より、防風通聖散とパンテチンを組み合わせることによって、体重、中性脂肪、遊離脂肪酸、相乗的な増加抑制効果が見られた。また、血清中のケトン体量の上昇が、パンテチンを併用することによって効果的に抑えられた。
【0093】
内臓脂肪及び皮下脂肪については、防風通聖散又はパンテチン単独ではほとんど増加抑制効果が認められなかったが、防風通聖散及びパンテチンを併用することによって、内臓脂肪及び皮下脂肪の増加が顕著に抑制されていた。
【0094】
ケトン体量の上昇は、体内で脂質から作られたケトン体がうまくエネルギーとして使用されていないことを示しており、また、ケトン体量の上昇が続くと、酸性血症(ケトアシドーシス)へとつながる。従って、防風通聖散及びパンテチンを組み合わせることによるケトン体量の上昇の抑制は、内臓脂肪及び皮下脂肪の低下において、より効果的に脂質代謝が行われることを示しており、さらには酸性血症の予防として大変好ましい。
【0095】
試験例6.ヒトにおける抗肥満効果
肥満傾向にある男性30名;女性 8名(BMI25以上35未満、ウェスト男性85cm以上、女性90cm以上、試験開始時平均体重:81kg)を、BMI(体重(kg)/(身長(m)の2乗))とウエスト径が均等に分散するよう2群((i)防風通聖散群17名、(ii)防風通聖散・パンテチン群21名)に分け、それぞれの群について、1日3回、食間または食前に、それぞれの被験薬を24週間服用させ、試験初日から4週間ごとに体重を測定し、試験初日と24週目に「全身用X線コンピューター断層装置 Pronto Xi・Si」(株式会社日立メディコ社製)にて臍部CT撮影を行い、内臓脂肪面積と、皮下脂肪面積を測定した。また、試験初日と16週目に採血を行い、酵素法に則って血清中中性脂肪を、JSCC標準化対応法に則ってASTとALTを測定した。
【0096】
ここで被験薬は、(i)防風通聖散群で1回あたりに「ナイシトール85」(小林製薬社製)を4錠、(ii)防風通聖散・パンテチン群では1回あたりに「ナイシトール85」(小林製薬社製)を4錠と、「パントシン錠100」(第一三共株式会社製)を1錠服用させた。各群の体重の初期値からの変化率を図5に、内臓脂肪面積と皮下脂肪面積の初期値からの変化率を表15に、血清中成分の試験期間中の変化率を表16にそれぞれ示す。
【0097】
まず、図5(体重)の結果より、防風通聖散群は試験開始より体重減少がほとんど確認できないのに対し、防風通聖散・パンテチン群では、有意に体重が減少している。これを漢方独特の体質をはかる概念「証」別に解析した。漢方医の診断により、被験者を証別(実証、中間証又は虚証)に分類し、分類別に体重変化を比較した。
【0098】
漢方医学においては、病理や体力の状態を分類する概念として、『虚実』の概念が適用される。実証とは、体力に余力がある状態、機能の異常亢進といった体質が強壮である人を表す。一方、虚証とは、体力に余力がない、人体の構成成分の量や生理機能が不足している体質虚弱な人を表す。なお、実証と虚証の中間を中間証と呼ぶ。(例えば、MR漢方研修テキスト MR漢方教本I(日本漢方生薬製剤協会 編)を参照。)
体重変化を実証と、虚証及び中間証に分けて図5に示す。これらの図に示されるように、防風通聖散群は、防風通聖散の適応証とされている実証においては体重減少効果を確認できたものの、中間証および虚証ではほとんど効果がないことが示された。一方、防風通聖散・パンテチン群では、実証で防風通聖散群を上回る体重減少効果を発揮した。さらに、実証のみならず中間証や虚証においても高い体重減少効果を発揮した。
【0099】
加えて、内臓脂肪面積や皮下脂肪についても同様の傾向が見られた。
【0100】
【表15】

【0101】
表15に示されるように、実証、中間証及び虚証の全体においては、防風通聖散群に、わずかに内臓脂肪面積および皮下脂肪面積の両方を減少させる効果がみられたが、証別に解析すると、顕著な効果があるのは実証であり、中間証および虚証では内臓脂肪に対してのみ効果が見られた。一方、防風通聖散・パンテチン群は防風通聖散群を上回る減少効果を発揮し、証別解析においても、実証のみならず中間証や虚証でも高い減少効果を有していた。
【0102】
また、血清中中性脂肪、ALT及びASTの初期値に対する変化率を解析した。結果を下記表16に示す。
【0103】
なお、ALT及びASTは肝機能を評価する指標として用いられる。ALTは、ALTとはアラニンアミノトランスフェラーゼという酵素の略称である。この酵素は主に肝臓に多く含まれる。ウイルス感染、薬物等によって肝細胞が破壊されるとALTが血液中に漏出することから、血液中のALT濃度を測定すると肝細胞の傷害の有無や程度を判断することができる。ALTの値が小さいほど肝傷害のリスクが低いことを表す。ASTについては、上記試験例4に記載の通りである。
【0104】
【表16】

【0105】
ここで、血清中中性脂肪値150mg/dl以上の異常値の被験者について、その中性脂肪値を解析すると、防風通聖散・パンテチン群のみに減少効果を確認できた。
【0106】
血清中ALTおよびASTは、すべての被験者において、正常値(ALT:5-40IU/L;AST:10-35IU/L)内にあったが、防風通聖散とパンテチン類との組み合わせは、防風通聖散単独での使用に比べて優れていることが示された。すなわち、防風通聖散とパンテチンを組み合わせて用いることにより、ALT及びASTの減少効果に優れることが確認された。
【0107】
以上のように、これまで動物実験で得られた結果と同様、ヒトにおいても、防風通聖散にパンテチンを配合することによる、体重、脂肪(内臓脂肪、皮下脂肪、血中脂肪)の飛躍的な減少効果と、ALT、ASTの減少を確認できた。このような結果より、防風通聖散とパンテチンを併用した場合に、例えばメタボリックシンドローム等の予防、改善及び/又は治療において優れた効果があることが確認された。
【0108】
加えて、防風通聖散はもともと実証にのみ有効な処方であるが、パンテチンを加えることにより、実証に限定させることなく中間証および虚証にも有効であることが示された。
【0109】
<処方例>
以下に処方例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0110】
処方例1〜30に記載の処方に従って錠剤を、処方例31〜42に記載の処方に従って散剤を常法により錠剤を製した。
【0111】
【表17】

【0112】
【表18】

【0113】
【表19】

【0114】
【表20】

【0115】
【表21】

【0116】
【表22】

【0117】
【表23】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)成分及び(B)成分を含有する抗肥満用医薬組成物:
(A)防風通聖散および大柴胡湯からなる群から選択される少なくとも1種の漢方薬、
(B)パンテチン、パンテチンの塩、パントテン酸、パントテン酸の塩、パンテテイン及びパンテノールからなる群から選択される少なくとも1種のパンテチン類。
【請求項2】
(A)成分が防風通聖散である請求項1に記載の抗肥満用医薬組成物。
【請求項3】
(B)成分がパンテチンである請求項1または2に記載の抗肥満用医薬組成物。
【請求項4】
(A)成分の乾燥重量100重量部に対する(B)成分の配合比率が総量で0.01〜30重量部である請求項1〜3のいずれかに記載の抗肥満用医薬組成物。
【請求項5】
肥満が内臓脂肪型肥満である請求項1〜4のいずれかに記載の抗肥満用医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−196990(P2009−196990A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14815(P2009−14815)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】