説明

抗腫瘍リポソーム製剤およびその製造方法

【課題】
リポソーム構造の安定化と抗がん性化合物の保持安定性を図り、抗がん剤の効率的送達を達成する、安全性の高い抗腫瘍リポソーム製剤を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、平均粒径が0.05〜0.7μmであってリン脂質膜内またはその内部水相に抗が
ん性化合物を含む少なくとも1種以上の薬物を含有し、実質的に有機溶剤を含まないリポソームを含む抗腫瘍リポソーム製剤である。該リポソームは、必要であればヒドロキシル基を有する少なくとも1種の化合物が存在してもよい条件下で、リン脂質膜を構成する脂
質膜成分と超臨界もしくは亜臨界状態の二酸化炭素とを混合することにより作製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗腫瘍リポソーム製剤およびその製造方法に関し、詳しくは超臨界二酸化炭素法を使用してリン脂質膜内部に抗がん性化合物などを内包させたリポソーム、それを含む抗腫瘍リポソーム製剤ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がんの化学療法は、外科手術治療、放射線療法と並び、がんの有力な治療方法として評価され、抗がん剤の投与を基本とする。抗がん剤の投与は、投与形態から全身化学療法と局所注入療法とに大別される。全身化学療法は、血液のがん、あるいは血液、リンパを介して全身に転移しやすいがん、病巣が全身各所にある場合には特に適用されるべきである。抗がん剤が循環血流に乗って全身に分布し、その一部しか腫瘍に到達しないため、副作用と無駄な投与が問題になることも多い。全身化学療法に対する局所投与方法にも、各種の投与方式が提案されており、いずれも抗がん剤の直接な投与効果を高め、副作用をできるだけ回避するという狙いが根底にある。
【0003】
抗がん剤を集中的にがん病巣へ集積させ、かつ強い副作用を少しでも軽減することの要請は、抗がん剤においてとりわけ切実である。抗がん剤およびこれを用いる化学療法の分野においても、DDS(薬物送達システム)概念を具現する抗がん剤の剤形およびその投与方法の開発が精力的に進められてきた。その中心となる剤形は、リポソームを利用したDDS的改良製剤である。上記の要請に充分応え得る技術として、リポソームおよびその利用に対する期待が殊のほか高かったからである。しかし、これまでリポソームに関する多数の開示、提案があるにもかかわらず、抗がん剤を含有するリポソーム製剤を市場で入手することはできない。実用化の障害になっている理由として、安定性、内包効率、コストなどが挙げられた(特許文献1)。
【0004】
脂溶性の薬剤は容易にリポソーム中に封入されるが、その封入量は他の要因にも左右されるために必ずしも多くはない。また水溶性電解質である薬剤は、その薬剤の電荷と荷電した脂質の電荷との相互作用を通じてリポソーム内部の水相に封入できるが、薬剤が水溶性の非電解質である場合には、そうした手段を採ることはできない。
【0005】
特開2003-119120(特許文献2)では、リポソームを含有する化粧料、皮膚外用剤を、
超臨界二酸化炭素を用いて製造する方法が開示されており、親水性薬効成分や親油性薬効成分をリポソームに内包する皮膚外用剤の製造例が示されている。しかし、親水性薬効成分として、水溶性電解質の例は示されているが、同法により水溶性非電解質をリポソームに効率よく内包できるか不明であった。
【0006】
首尾良く抗がん剤をリポソーム内部に内包させても、時間経過とともに外部へ漏出する問題、あるいはリポソームそのものが不安定となる事態も考慮されねばならない。さらにリポソームを生体内へ投与しても、その多くが肝臓、脾臓などの網内系組織で捕捉されるため、所期の効果が得られないことも指摘されている(Cancer Res., 43, 5328(1983))

【0007】
最後に、実用化に立ちはだかる最大の課題として、製剤の安全性を指摘できる。実際、リポソームは、生体膜類似の脂質から構成されて低い抗原性ゆえに、人体に静注しても毒性がないとされてきた(特許文献1)。従来の調剤方法においては、素材としての安全性が高く、生体内で適度な分解性を有するリポソームを用いるにもかかわらず、リポソームの製造過程においてリポソーム膜を構成するリン脂質の溶剤として、例外なく有機溶媒、
特にクロロホルム、ジクロロメタンといったクロル系溶剤が使用されている(例えば特許文献3)。したがって、どうしても残存する溶剤の毒性が残る。したがってリポソーム製剤または造影物質を効率よく封入して安定的に保持でき、かつ安全性に問題のないリポソームの作製方法が望まれている。
【特許文献1】特許第2882607号
【特許文献2】特開2003-119120号公報
【特許文献3】特開平5-194191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の問題点を解決すべく本発明者らは鋭意研究を進めた。その結果、リポソーム製剤の実用化を阻む有機溶媒の使用に対して、有機溶媒を使用しないリポソームの作製方法ならびにリポソーム構造の安定化ならびに薬物の内包安定化に関する本発明を完成した。
【0009】
本発明は、抗がん性化合物などの薬物をリポソームに封入することにより、向腫瘍性であり送達の効率の高いリポソームの製剤ならびにその製造方法を提供することを目的とする。またそのリポソームは、毒性のある有機溶媒の代わりに超臨界二酸化炭素法を使用して作製され、上記薬物を安定的に保持できることを特徴としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ポリエチレングリコール(PEG)基を有する少なくとも1種の化合物が存
在する条件下で、リン脂質膜を構成する脂質膜成分と超臨界もしくは亜臨界状態の二酸化炭素とを混合することにより作製され、平均粒径が0.05〜0.7μmであってリン脂質膜内
またはその内部水相に少なくとも1種以上の薬物を含有し、実質的に有機溶剤を含まないことを特徴とするリポソームである。
【0011】
前記リン脂質膜は、好ましくは実質的に一枚膜もしくは数枚膜からなる。
さらに平均粒径は0.1〜0.2μmであることが望ましい。
前記リン脂質膜が、転移温度を有するリン脂質を少なくとも含むことが望ましい。
【0012】
前記のポリエチレングリコール基を有する化合物は、PEG-リン脂質であることを特
徴としている。
前記薬物が抗がん性化合物であり、シクロホスファミド、メクロレタミン、カルバジルキノン、メルファラン、チオテパ、ブスルファン、ニムスチン、カルムスチン、プロカルバジン、ダカルバジン、メトトレキサート、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、アザチオプリン、フルオロウラシル、フトラフール、フロクスウリジン、シタラビン、アンシタビン、テガフール、ドキシフルリジン、アクチノマイシンD、ブレオマイシン、マイトマイシンC、クロモマイシンA3、シネルビンA、アクラシノマイシンA、アドリア
マイシン、ペプロマイシン、ドキソルビシン、シスプラチン、ミトキサントロン、エピルビシン、ピラルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、エトポシド、シスプラチン、カルボプラチン、リン酸エストラムスチン、ミトタン、ポルフィリン、タキソールから少なくとも1種選ばれる。
【0013】
前記抗がん性化合物が、好ましくはアドリアマイシン、ビラルビシン、ビンクリスチン、タキソール、シスプラチン、マイトマイシン、5−フルオロウラシルから少なくとも1種選ばれる。
【0014】
本発明のリポソームは、前記薬物がホウ素化合物またはガドリニウム化合物であり、中性子捕捉療法に用いられる。
また前記薬物がポルフィリンまたはその誘導体であり、がんの光線力学療法に用いられ
てもよい。
【0015】
本発明の抗腫瘍リポソーム製剤は、上記のリポソームを含んでなる製剤である。
該抗腫瘍リポソーム製剤は、さらに造影剤を含有してもよい。
また抗腫瘍リポソーム製剤は、患者に投与した後に、温熱療法を適用することを特徴としている。
【0016】
本発明のリポソームの製造方法は、ポリエチレングリコール基を有する少なくとも1種
の化合物が存在する条件下で、脂質膜成分として、少なくとも転移温度を有するリン脂質を含むリン脂質類とともに、カチオン性脂質およびステロール類から少なくとも1種選ば
れる化合物、さらには必要に応じて親油性の薬物を超臨界状態もしくは亜臨界状態の二酸化炭素に溶解もしくは分散させた後、少なくとも1種以上の薬物を含む溶液もしくは懸濁液を導入することによりミセルを形成させ、次いで水を加えて二酸化炭素を排出して、該化合物を内部に含有するリポソームを作製することを含む製造方法である。
【0017】
前記のポリエチレングリコール基を有する化合物を、超臨界状態もしくは亜臨界状態にする二酸化炭素に対して0.01〜1質量%の割合で溶解助剤として用いてもよい。
前記の薬物の溶液または懸濁液には、製剤助剤が含まれていてもよい。
[発明の具体的説明]
本発明の抗腫瘍リポソーム製剤は、平均粒径が0.05〜0.7μmであってリン脂質膜内ま
たはその内部水相に少なくとも1種以上の薬物を含有し、実質的に有機溶剤を含まないことを特徴とするリポソームを含有する。
【0018】
「リポソーム」は、通常、脂質二重膜からなるリポソーム膜により形成される構造物である。本明細書では、リポソーム膜を「リン脂質膜」もしくは単に「脂質膜」と言及することもある。リポソーム内に「内包」されるとは、リポソーム内に封入されてそのリン脂質膜と会合しているか、またはリン脂質膜内部に閉じ込められている水相(内部水相)中に存在している状態の両方を含むものとする。
【0019】
また、「薬物」とは、リポソームに内包させる薬剤物質である。リン脂質膜内またはその内部水相に含有される「薬物」には、抗がん性化合物、造影剤、中性子捕捉療法用物質、光線力学療法用物質、製剤助剤などが含まれる。本明細書では「抗がん性化合物」を単一物質の抗がん剤の意味で使用している。「がん」は、悪性腫瘍を指し、単に「腫瘍」ということもある。
【0020】
「実質的に」とは、製剤における残存有機溶媒の濃度の上限値が10μg/Lであることを意味する。
抗がん性化合物
本発明のリポソームに内包される抗がん性化合物は、がんの化学療法に用いられている化学物質であればよく、特に限定されるものではない。そうした抗がん性化合物として、具体的には以下の化学物質が例示される:
シクロホスファミド、メルファラン、クロラムブチル、メクロレタミン、カルバジルキノン、チオテパ、ブスルファン、ニムスチン、カルムスチン、プロカルバジン、ダカルバジンなどのアルキル化剤;メトトレキサート、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、アザチオプリン、5−フルオロウラシル、フトラフール、フロクスウリジン、シタラビン、アンシタビン、ゲムシタビン、テガフール、カルモフール、UFT、ドキシフルリジンなどの代謝拮抗物質;アクチノマイシンD、ブレオマイシン、マイトマイシンC、クロモマイシンA3、シネルビンA、アクラシノマイシンA、アドリアマイシン、ペプロマイ
シン、ミトキサントロン、エピルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、ピラルビシンなどの抗生物質;ビノレルビン、パクリタキセル、ドセタキセルなどの微小管作用薬;ビ
ンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、エトポシド、タキソールなどの植物成分;イリノテカン、シスプラチン、カルボプラチン、エトポシド、ネダプラチン、ミトタン、ポルフィリンなど。
【0021】
広義の抗がん剤であるメピチオスタン、タモキシフェン、ホスフェストロール、メドロキシプロゲステロンアセテート、リン酸エストラムスチンなどのホルモン剤、免疫賦活剤などの薬剤も抗がん性化合物に含まれる。
【0022】
これらの化合物は単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。また上記の例示に限定されるものではない。なお本明細書において、化合物は遊離形態の他に、その塩、水和物なども含めた形で言及することがある。上記抗がん性化合物のうち、好ましくはアドリアマイシン、ビラルビシン、ビンクリスチン、タキソール、シスプラチン、マイトマイシン、5−フルオロウラシルから少なくとも1種選ばれる化合物が用いられる。通常、水溶性の抗がん性化合物は、脂質膜内の水相に内包され、親油性の抗がん性化合物は、脂質膜二重層中に内包されて存在すると考えられる。
【0023】
本発明のリポソームでは、リポソーム内における抗がん性化合物の内包総量は、そのリポソームなどの性質、意図する製剤の投与経路および臨床上の指標といった諸要因に基づき任意に設定することができる。リポソーム内に封入される抗がん性化合物の量は、典型的にはリポソームにおける全抗がん性化合物の65〜98質量%、好ましくは75〜95質量%、より好ましくは85〜90質量%である。
リポソーム
上記抗がん性化合物は、本発明の抗腫瘍リポソーム製剤では、標的の臓器、組織のがん病巣へ選択的に効率よく送達されるようにマイクロキャリヤーとしてのリポソームに封入した形態で使用される。本発明のリポソームは、平均粒径が0.05〜0.7μmであって、リ
ン脂質膜内またはその内部水相に抗がん性化合物または他の薬物を含有し、好ましくはリン脂質膜が、実質的に一枚膜もしくは数枚膜からなるリポソームである。
【0024】
本発明のリポソームは、抗がん性化合物などを内包するリポソームの粒径およびその二分子膜を適切に設計することによりターゲティング機能を実現することができる。受動的ターゲティングおよび能動的ターゲティングいずれも考慮される。受動的ターゲティングは、リポソームの粒径、脂質組成、荷電などの調整を通じてその生体内挙動を制御することに基づく。リポソーム粒径の分布を狭い範囲に揃える調整は、後述する方法に基づき容易に行われる。リポソーム膜表面の設計は、リン脂質の種類と組成、共存物質を変えることにより所望の特性を付与することができる。
【0025】
投与されたリポソームの体内移動に関して、より高度な送達選択性と集積性を可能とする能動的ターゲティングの採用もまた検討されるべきである。一例として、リポソーム膜表面にポリアルキレンオキシド高分子鎖またはポリエチレングリコール(PEG)を導入することは、標的部位までの誘導過程を制御し得るため、極めて有益である。したがって本発明のリポソーム製剤に好適なリポソームとは、その表面にポリアルキレンオキシドまたはポリエチレングリコールを付加することによりその血中滞留性が一層高められ、肝臓などの細網内皮系細胞に貪食されにくくなったリポソームである。がん組織などに到達しなかったリポソームは正常部位には集積することなく、速やかに分解されて体外に排泄される。このことはリポソームを設計する際にその安定性を体外排出時間との関係で適切にコントロールすることにより可能である。抗がん性化合物などが、水溶性であれば、腎臓を経由して速やかに尿中に排泄される。したがって徒に体内に留まることによる弊害、遅発性の副作用などを防止できる。
【0026】
本発明の抗腫瘍リポソーム製剤に含まれるリポソームは、後記するようにポリエチレン
グリコール基を有する少なくとも1種の化合物が存在する条件下で、リン脂質膜を構成す
る脂質膜成分と超臨界もしくは亜臨界状態の二酸化炭素とを混合することにより作製される。リポソームのリン脂質膜を構成する脂質膜成分として、一般にリン脂質および/または糖脂質が好ましく使用される。さらに下記の脂質膜安定化物質もその成分として含められる。本発明のリポソームを構成する脂質膜成分の主たる成分として、大豆、卵黄などから得られるレシチン、リゾレシチンおよび/またはこれらの水素添加物、水酸化物の誘導体などの中性リン脂質を挙げることができる。
【0027】
その他のリン脂質として、卵黄、大豆またはその他の動植物に由来するか、または半合成のホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、合成により得られるホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジミリストリルホスファチジルコリン(DMPC)、ジオレイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステアロイルホスファチジルセリン(DSPS)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール(DPPI)、
ジステアロイルホスファチジルイノシトール(DSPI)、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)、ジステアロイルホスファチジン酸(DSPA)などを挙げることができる。
【0028】
本発明のリポソームを構成する脂質膜のリン脂質には、転移温度を有するリン脂質が少なくとも含まれていることが望ましい。リン脂質の「(相)転移温度」とは、リン脂質がとり得るゲルと液晶との両状態間の相転移を生じる温度である。その測定は、示差走査熱量計(DSC)を使用する示差熱分析による。相転移点を有するリン脂質として、ジミリストイルホスファチジルコリン(転移温度、以下同じ、23〜24℃)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(41.0〜41.5℃)、水素添加大豆レシチン(53℃)、水素添加大豆ホスファチジルコリン(54℃)、ジステアロイルホスファチジルコリン(54.1〜58.0℃)、などが例示される。
【0029】
本発明において使用するカチオン性脂質は、1、2−ジオレオイルオキシ−3−(トリメチルアンモニウム)プロパン(DOTAP)、N、N−ジオクタデシルアミドグリシルスペ
ルミン(DOGS)、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、N−[1−(2、3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N、N、N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、2、3−ジオレイルオキシ−N−[2(スペルミン−カルボキサミド)エチ
ル]−N、N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)お
よびN−[1−(2、3−ジミリスチルオキシ)プロピル]−N、N−ジメチル−N−(2−ヒドロキシエチル)アンモニウムブロミド(DMRIE)などが挙げられる。
【0030】
カチオン性リン脂質として、ホスファチジン酸とアミノアルコールとのエステル、例えばジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)もしくはジステアロイルホスファチジン酸(DSPA)とヒドロキシエチレンジアミンとのエステルなどが挙げられる。これらのカチオン性脂質は全脂質量に対し0.1〜5質量%、好ましくは全脂質量に対し0.3〜3質量%、より好ましくは全脂質量に対し0.5〜2質量%の割合で含有するように添加すればよい。
【0031】
これらのリン脂質は通常、単独で使用してもよく、また2種以上併用してもよい。ただし2種以上の荷電リン脂質を使用する場合には、負電荷のリン脂質同士または正電荷のリン脂質同士で使用することが、リポソームどうしの凝集防止の観点から望ましい。中性リン脂質と荷電リン脂質を併用する場合、重量比として通常、200:1〜3:1、好ましくは100:1〜4:1、より好ましくは40:1〜5:1である。
【0032】
糖脂質としては、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド硫酸エステ
ルなどのグリセロ脂質、ガラクトシルセラミド、ガラクトシルセラミド硫酸エステル、ラクトシルセラミド、ガングリオシドG7、ガングリオシドG6、ガングリオシドG4などのスフィンゴ糖脂質などを挙げることができる。
【0033】
リポソームのリン脂質膜を構成する脂質膜成分として、上記脂質の他に必要に応じて他の物質を加えることもできる。例えば、脂質膜安定化物質として作用するステロール類、例えばコレステロール、ジヒドロコレステロール、コレステロールエステル、フィトステロール、シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、コレスタノール、ラノステロールまたは2,4−ジヒドロラノステロールなどが挙げられる。また1−O−ステロールグルコシド,1−O−ステロールマルトシドまたは1−O−ステロールガラクトシドといったステロール誘導体もリポソームの安定化に効果があることが示されている(特開平5-245357号公報)これらのうち、コレステロールが特に好ましい。
【0034】
ステロール類の使用量として、リン脂質1重量部に対して0.05〜1.5重量部、好ましく
は0.2〜1重量部、より好ましくは0.3〜0.8重量部の割合が望ましい。0.05重量部より少ないと混合脂質の分散性を向上させるステロール類による安定化が発揮されず、2重量部よ
り多すぎるとリポソームの形成が阻害されるか、形成されても不安定となる。
【0035】
リポソーム膜中のコレステロールは、ポリアルキレンオキシド導入用のアンカーにもなり得る。具体的にはリポソーム膜構成成分として膜中に含めるコレステロールには、必要に応じリンカーを介してその先にポリアルキレンオキシド基を結合させてもよい。リンカーには、短鎖のアルキレン基、オキシアルキレン基などを用いる。特開平09−3093号公報には、ポリオキシアルキレン鎖の先端に、効率よく種々の機能性物質を共有結合により固定化することができ、リポソーム形成用の成分として利用することができる新規なコレステロール誘導体が開示されている。
【0036】
上記ステロール類の他にリポソーム膜の構成成分として、グリコール類を加えてもよい。リポソームを作製する際に、リン脂質などともにグリコール類を脂質膜安定化物質として添加すると、リポソーム内での水溶性抗がん性化合物の保持効率が上昇する。グリコール類には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、
ピナコールなどが挙げられる。グリコール類の使用量は、脂質全質量に対して0.01〜20質量%、好ましくは0.5〜10質量%の割合が望ましい。
【0037】
他に添加できる化合物として、負荷電物質であるジセチルホスフェートといったリン酸ジアルキルエステルなど、正電荷を与える化合物としてステアリルアミンなどの脂肪族アミンが例示される。
【0038】
本発明では、リポソーム膜の一成分として、ポリアルキレンオキシド(PAO)基または類似の基を有するリン脂質または化合物をリポソーム製剤の意図する目的に応じて使用してもよい。リポソームが細網内皮系細胞により捕捉されてしまう問題ならびに崩壊、凝集といったリポソーム自体の不安定性を解決する方法として、これまでもリポソーム膜の表面に高分子鎖であるポリエチレングリコール(PEG)鎖、すなわち−(CH2CH2O)n−Hを導入することが試みられている(例えば、特開平1−249717号公報、FEBS letters, 268, 235(1990))。
【0039】
ポリアルキレンオキシド基(ポリオキシアルキレン鎖)またはPEG鎖をリポソーム膜表面に付けることにより、新たな機能をリポソームに付与することができる。例えば、P
EG化リポソームには免疫系から認識されにくくなる効果が期待できる。さらにリポソームは親水的傾向を持つことにより血中安定性を増して、長時間にわたり血液中の濃度を維持できることが明らかになっている(Biochim. Biophys. Acta., 1066, 29-36(1991))。リポソームの血中滞留性を向上させるために、ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質をリポソームの脂質膜に含有させる手法が開示された(特開2002-37883号公報)。そのようなリポソームでは経時安定性も改善されていることが示されている。あるいは後述するようにリポソーム膜に向腫瘍性またはがん細胞認識性を付与する機能性物質を導入してもよい。
【0040】
上記の性質を利用してリポソームに臓器志向性を与えることもできる。一例として肝臓に散在するがん病巣にリポソーム製剤を選択的に送達する場合、脂質成分は肝臓に貯まりやすいことから、PEG基を使用しないか、あるいはPEG基含有量の少ないリポソームを用いるのが望ましい。他の臓器に送達する場合、PEG基を導入すればリポソームをステルス化して肝臓などに集まりにくくすることができるため、PEG化リポソームの使用が推奨される。
【0041】
PEG基の導入により水和層が形成されてリポソームは安定化し、血中滞留性も向上する。PEG基のオキシエチレン単位の長さと導入する割合を適宜変えることにより、その機能を調節することができる。PEG基として、オキシエチレン単位が10〜3500、好ましくは100〜2000のポリエチレングリコールが好適である。ポリエチレングリコールを使用
する場合の使用量は、該リポソームを構成する脂質に対して0.1〜30質量%、好ましくは1〜15質量%程度含むのがよい。
【0042】
リポソームのPEG化には、公知の技術を利用することができる。PEG基が結合するアンカー(例えばコレステロールなど)を膜構成成分であるリン脂質と混ぜてリポソームを作製し、そのアンカーに活性化PEG基を結合させてもよい。なお、リポソーム表面に導入されたPEG基は、後記「機能性物質」とは反応しないため、リポソーム表面上のその基に「機能性物質」を固定化することは困難である。代わりに、PEG先端に何らかの修飾をさらに施したポリエチレングリコールをリン脂質に結合させ、これをリポソーム構成成分として含めてリポソームを作製することもできる。
【0043】
上記ポリエチレングリコールに代わり、公知の各種ポリアルキレンオキシド基、−(AO)n−Yをリポソーム膜表面に導入してもよい。ここでAOは炭素数2〜4のオキシア
ルキレン基を表し、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数である。また、Yは、水素原子、アルキル基または機能性官能基を表す。
【0044】
炭素数2〜4のオキシアルキレン基(AOで表される)として、例えばオキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシトリメチレン基、オキシテトラメチレン基、オキシ−1−エチルエチレン基、オキシ−1,2−ジメチルエチレン基などが挙げられる。nは1〜2000、好ましくは10〜500、さらに好ましくは20〜200の正の整数である。
【0045】
nが2以上の場合、オキシアルキレン基の種類は、同一のものでも異なるものでもよい。後者の場合、ランダム状に付加していても、ブロック状に付加していてもよい。ポリアルキレンオキシド鎖に親水性を付与する場合、オキシアルキレン基としてはエチレンオキシドが単独で付加したものが好ましく、この場合、nが10以上のものが好ましい。また種類の異なるアルキレンオキシドを付加する場合、エチレンオキシドが20モル%以上、好ましくは50モル%以上付加しているのが望ましい。ポリアルキレンオキシド鎖に親油性を付与する場合には、エチレンオキシド以外のオキシアルキレン基の付加モル数を多くする。例えばポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシドとのブロック共重合物を含有するリポソームは、本発明の好ましい態様である。
【0046】
Yは、水素原子、アルキル基または機能性官能基である。アルキル基として、炭素数1〜5の、分岐していてもよい脂肪族炭化水素基が挙げられる。上記の機能性官能基は、ポリアルキレンオキシド鎖の先端に糖、糖タンパク質、抗体、レクチン、細胞接着因子といった「機能性物質」を付するためのもので、例えばアミノ基、オキシカルボニルイミダゾール基、N-ヒドロキシコハク酸イミド基といった反応性に富む官能基が挙げられる。
【0047】
先端に「機能性物質」を結合しているポリアルキレンオキシド鎖が固定化されたリポソームは、ポリアルキレンオキシド鎖導入の効果に加えて、ポリアルキレンオキシド鎖に妨げられることなく「機能性物質」の機能、例えば「認識素子」として特定臓器指向性、腫瘍組織指向性などの作用が充分に発揮される。腫瘍組織指向性を付与するには、腫瘍細胞のみに存在する腫瘍特異抗原に対応する抗腫瘍モノクローナル抗体を、機能性物質としてリポソーム膜に結合させると、よりターゲット選択性の高いリポソームとなる(例えば、特開平11-28087号公報)。
【0048】
ポリアルキレンオキシド基を有するリン脂質または化合物は、一種類を単独で使用することができ、あるいは二種以上のものを組み合わせて使用することもできる。その含有量は、リポソーム膜構成成分の合計量に対し、0.001〜50モル%、好ましくは0.01〜25モル
%、より好ましくは0.1〜10モル%である。0.001モル%未満では期待される効果が小さくなる。
【0049】
リポソーム膜へのポリアルキレンオキシド鎖の導入は、公知の技術を利用することができる。例えば原料のリン脂質類の中に、予めリン脂質ポリアルキレンオキシド誘導体などを含めてリポソームを作成してもよい。具体例として、ホスファチジルエタノールアミンなどのポリエチレンオキシド(PEO)誘導体、例えばジステアロイルホスファチルジルエタノールアミンポリエチレンオキシド(DSPE−PEO)などが挙げられる。さらに特開2002−37883号公報には、血中滞留性を高めた水溶性化高分子修飾リポソームを作製
するための高純度ポリアルキレンオキシド修飾リン脂質が開示されている。そうしたリポソームを作製する際にモノアシル体の含量が低いポリアルキレンオキシド修飾リン脂質を使用すると、リポソーム分散液の経時安定性が良好であったことが記載されている。
【0050】
上記のように受動的ターゲティング能力をリポソームに持たせるには、リポソームの作製の際に、その粒径のサイズを適切に揃えて調整することが重要である。特許2619037号
公報には、粒径3μm以上のリポソームを排除することにより、肺の毛細血管におけるリ
ポソームの不都合な滞留が回避されると記載されている。しかし、0.05〜3μmの粒径範囲にあるリポソームは、必ずしも自然に向腫瘍性とはならない。
【0051】
正常細胞とがん細胞とでは、血管系の発達度、血管の性状、リンパ管の分布などが相違している。このことが血行動態、灌流状態を通じて抗がん性化合物の生体内分布に影響する。抗がん性化合物を内包するリポソームを向腫瘍性とするためには、「EPR効果(Enhanced permeability and retention、透過性の亢進および滞留)」を利用する狙いから
、その平均粒径を0.1〜0.2μm 、より好ましくは0.11〜0.13μmとすることが望ましい。
固形がん組織にある新生血管壁の孔は、正常組織の毛細血管壁窓(fenestra)の孔サイズ、0.03〜0.08μm に比べて異常に大きく、概ね0.1μm 〜0.2μm の大きさの分子でも血管壁から漏れ出る。EPR効果は、がん組織にある新生血管壁では、正常組織の微小血管壁より透過性が高いことによるものである。
【0052】
血管壁の孔から漏れ出たリポソームは、がん細胞の周辺にはリンパ管が充分に発達していないため、血管に再び戻らずその場に長く留まる。EPR効果は、血流を利用する受動的な輸送であることから、それが有効に発現するための要件として、血中滞留性の向上が
図られねばならない。つまりリポソーム粒子が、血中に長くとどまって、がん細胞近くの血管を何度も通過することが必要である。優れた薬物送達性を獲得するために有効とされる上記EPR効果を生じさせるためには、リポソームは、リポソーム構造の安定化および封入物質の保持安定性という、キャリヤーとしての担持効率を改善させた上で、血中安定性、血中滞留性といった特性をも有することが求められる。また平均粒径を0.2μm以上に大きくすると、肝臓Kupffer細胞の食作用により取り込まれる可能性が高くなり、肝臓の
その細胞部位に集積する。このためリポソームの平均粒径を0.11〜0.13μm の範囲に揃えることにより、がん組織へ選択的にリポソーム製剤を集中させることが可能となる。
リポソームの製造方法
本発明のリポソームの製造方法は、ポリエチレングリコール基を有する少なくとも1種
の化合物が存在してもよい条件下で、脂質膜成分として、少なくとも転移温度を有するリン脂質を含むリン脂質類とともに、カチオン性脂質およびステロール類から少なくとも1
種選ばれる化合物、さらには必要に応じて親油性の薬物を超臨界状態もしくは亜臨界状態の二酸化炭素に溶解もしくは分散させた後、少なくとも1種以上の薬物を含む溶液もしくは懸濁液を導入することによりミセルを形成させ、次いで水を加えて二酸化炭素を排出して、該化合物を内部に含有するリポソームを作製することを特徴としている。
リポソームを作製する方法として、これまで種々の方法が提案されている。作製方法が異なると、最終的にできあがったリポソームの形態および特性もまた著しく異なることが多い(特開平6-80560号公報)。そのため所望するリポソームの形態、特性に応じて製造方
法を適宜選択することが行なわれている。一般にリポソームは、リン脂質、ステロールといった脂質膜成分を、ほとんど例外なくまず有機溶媒、例えばクロロホルム、ジクロロメタン、エチルエーテル、四塩化炭素、酢酸エチル、ジオキサン、THFなどとともに容器中で混合、溶解することから始めて調製される。特にクロル系溶媒がよく用いられている。このようなリポソームの調製品は、必ず有機溶媒を含んでいる。残存するこれらの有機溶媒を除去するために、多段階の工程および長時間の処理を要しているのが現状である。そうした残留する有機溶媒、特にクロル系有機溶媒については、生体に及ぼす悪影響、例えば副作用が懸念される。
【0053】
本発明による製造方法では、有機溶媒、特にクロル系有機溶媒を使用せずに上記リポソームを作製するため、超臨界二酸化炭素もしくは亜臨界二酸化炭素を使用するリポソーム調製法を用いる。二酸化炭素の臨界温度が31.1℃、臨界圧力が75.3 kg/cm2と比較的扱い
やすく、不活性なガスゆえ残存しても人体に無害であり、高純度流体が安価で容易に入手できるなどの理由により好適である。この方法により作製されたリポソームは、後記するようにリポソーム内へ抗がん性化合物を封入するのに種々の好ましい特性および利点を有している。
【0054】
本発明の製造方法で使用する超臨界状態(亜臨界状態を含む)の二酸化炭素の温度は、通常25〜200℃、好ましくは31〜100℃、さらに好ましくは35〜80℃である。好適な圧力は、通常50〜500 kg/cm2、好ましくは100〜400 kg/cm2、特に好ましくは90〜150 kg/cm2
範囲である。
【0055】
超臨界状態もしくは亜臨界状態の二酸化炭素を使用してリポソームを作製する場合、上記脂質膜成分を、超臨界状態(亜臨界状態を含む)にある二酸化炭素に溶解、分散または混合することが必要となる。その際、溶解助剤(または助溶媒)としてヒドロキシル基を有する少なくとも1種の化合物の存在下で溶解、分散または混合をすることが好ましい。
実際に溶解助剤として使用できるヒドロキシル基含有化合物として、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール基を有する化合物、グリコール、グリコールエーテル(ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル類も含む)、ポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシドとのブロック共重合物、グリコール以外の多価アルコールまたは低級アルコールから少なくとも1つ選ばれる化合物である。リン脂質、コレステロールなどと
いった脂質膜成分と親和性を示し、これらと容易に混合するものが望ましい。さらに、脂質膜成分を極性の液体二酸化炭素中に良好に分散させ、溶解させるためには、適度の親水性と疎水性を兼ね備えた両親媒性のものが好適である。
【0056】
上記のヒドロキシル基を有する化合物にあって、さらに残存する溶解助剤の毒性をも懸念する場合には、安全性の観点から、低級アルコールなどを用いないことが望ましい。したがって効力および安全性を考慮してより好ましい溶解助剤は、ポリエチレングリコールまたはポリエチレングリコール基を有する化合物である。特にポリエチレングリコール基を有する脂質、例えばポリエチレングリコール基を有するリン脂質(PEG-リン脂質)
が好適である。そのオキシエチレン単位が10〜3500、好ましくは100〜2000のポリエチレ
ングリコールが適する。
【0057】
このような溶解助剤を1種または2種以上併用することは、超臨界二酸化炭素中への上記脂質膜成分の溶解性が一層向上し、溶解もしくは分散が加速するために望ましい。ヒドロキシル基を有する化合物を、超臨界状態もしくは亜臨界状態にする二酸化炭素の0.01〜1
質量%、好ましくは、0.1〜0.8質量%の割合で溶解助剤として使用するのがよい。
【0058】
本発明の抗腫瘍リポソーム製剤に使用するリポソームの作製方法は、具体的には以下のようにして行なわれる。圧力容器に液体二酸化炭素を加え、上記の好適な圧力および温度のもとにある超臨界状態もしくは亜臨界状態にする。超臨界(もしくは亜臨界)状態の二酸化炭素にリポソームの膜脂質成分としてリン脂質および脂質膜安定化物質、さらには水難溶性の薬物を溶解または分散させる。リン脂質には、転移温度を有する上記リン脂質を少なくとも含むことが望ましい。膜脂質成分としてカチオン性リン脂質、ポリアルキレンオキシド基を有する化合物(例えばポリアルキレンオキシド修飾リン脂質)、ポリエチレングリコール基を有する化合物、ステロール類、グリコール類から少なくとも1種選ばれ
た化合物を上記リン脂質とともに混合して溶解、分散させる。あるいは予めこれらの化合物を加えた圧力容器に液体二酸化炭素を加え、次いで温度、圧力を調整して超臨界状態にして混合してもよい。
【0059】
引き続き生成したリン脂質および脂質膜安定化物質などを含有する超臨界二酸化炭素中に、内包させる薬物の中で水溶性の抗がん性化合物、水溶性ヨウド系造影剤、中性子捕捉療法用薬物、必要に応じて前記製剤助剤を含む水溶液を導入することによりミセルを形成させる。なお、添加する側と加えられる側を逆にしてもよい。充分に混合した後に、系内に水を加えて減圧し二酸化炭素を排出すると、抗がん性化合物などを内包するリポソームが分散している水性分散液が生成する。この場合、該リポソーム膜内外の水相に抗がん性化合物が含まれていてもよい。リポソーム内部にも上記水溶液が封入されているため、抗がん性化合物はリポソームの外部水相(水性媒体)のほか、主としてリポソーム内部の水相に存在し、いわゆる「内包」の状態にある。さらに該リポソームを0.1〜1.0μm、好ま
しくは0.5〜1.0μmの孔径を有する濾過膜を通す。リポソームは、限外ろ過、遠心分離、
ゲルクロマトグラフィー、透析などの常套技術により分離することができる。その後、調製物は保存のため凍結乾燥に付してもよい。このような乾燥製剤は使用直前に水性媒体中に再懸濁して分散液とする。再構成後のリポソームの浸透圧モル濃度は、典型的には250
〜500 mosmol/L、好ましくは290〜350 mosmol/Lである。
【0060】
超臨界二酸化炭素もしくは亜臨界二酸化炭素を使用するリポソーム調製法は、従来法に比べてリポソームの生成率、封入する薬物の内包率、内包薬物のリポソーム内の保持率が高いことが示されている(特許文献2)。さらに工業的スケールでの応用も可能である。実質的に有機溶媒を使用せずに薬物を効率よくリポソームに封入することができる本法は、本発明の抗腫瘍リポソーム製剤の製造には有用な方法である。なお「実質的に」とは、リポソーム製剤における残存有機溶媒濃度の上限値が10μg/Lであることを意味する。
抗腫瘍リポソーム製剤
本発明の抗腫瘍リポソーム製剤は、血中安定性が改善された上記のリポソームを用いることにより薬物の血中滞留性を向上させて、効率的な送達ならびにターゲティングの実現を図っている。本発明のリポソームは、その脂質膜内またはその内部水相に少なくとも1
種以上の薬物を含有する。その薬物には、抗がん性化合物、造影剤、中性子捕捉療法用物質、光線力学療法用物質、製剤助剤などが含まれる。好ましい態様は、前記リポソームの脂質膜内部の水相およびリポソームを懸濁する水性媒体中に製剤助剤を含有している。この「製剤助剤」とは、リポソーム製剤の製剤化に際し、抗がん性化合物などとともに添加される物質であり、これまでの抗がん剤およびリポソーム製剤の製造技術に基づいて各種の物質が所望により使用される。具体的には生理学的に許容される各種の緩衝剤、EDTANa2−Ca、EDTANa2などといったエデト酸系のキレート化剤、薬理的活性物質(例えば血管拡張剤、凝固抑制剤など)、さらに必要に応じて、浸透圧調節剤、安定化剤、抗酸化剤(例えばα‐トコフェロール、アスコルビン酸)、粘度調節剤、保存剤などが挙げられる。好ましくは、水溶性アミン系緩衝剤およびキレート化剤をともに含めるのがよい。pH緩衝剤としては、アミン系緩衝剤および炭酸塩系緩衝剤が好ましく用いられるが、特に好ましくはアミン系緩衝剤であり、中でもトロメタモールが望ましい。キレート化剤は好ましくは、EDTANa2−Ca(エデト酸カルシウム2ナトリウム)である。
【0061】
また、「水性媒体」とは、抗がん性化合物、製剤助剤などを溶解する水をベースとする溶媒である。その水は、滅菌した発熱物質を含まない水を使用する。リポソームの脂質膜内部の水相(脂質膜により封入された水溶液)以外の水溶液(すなわち該リポソームが分散されている水性媒体)にも少なくとも抗がん性化合物の他に、製剤助剤(例えば水溶性アミン系緩衝剤、キレート化剤など)が含まれている場合には、該膜内外で著しい浸透圧差が生じることはなく、これによりリポソームの構造安定性が保たれる。
【0062】
本発明のリポソームは、実質的に一枚膜もしくは数枚膜からなるリポソームであることが望ましい。一枚膜のリポソームとは、リン脂質二重層が一層としてなる膜(unilamellar vesicle)で構成されるリポソームである。凍結かつ断(Freeze fracture )レプリカ
法による透過型電子顕微鏡(TEM)による観察において、レプリカが概ね1つの層とし
て認められるリン脂質二重層によりリポソームが構成されているものを一枚膜リポソームという。すなわち、観察したカーボン膜に残された粒子の跡について段差がないものが一枚膜と判定され、2つ以上の段差が認められるものは「多重層膜」と判定される。2枚もしくは3枚の膜で構成されるリポソームは、一枚膜リポソームより強度が増している。「実質的に」とは、本発明の抗腫瘍リポソーム製剤において、このような一枚膜のリポソームまたは数枚膜で構成されるリポソームを、リポソーム製剤中に含まれる全リポソームのうち、少なくとも80%、好ましくは90%以上含むことを意味する。
【0063】
上記の一枚膜リポソームまたは数枚膜からなるリポソームは、脂質類の溶媒として前記超臨界二酸化炭素もしくは亜臨界二酸化炭素を使用し、水による相分離方法により効率よく作製できる。これに対して従来のリポソーム作製方法によると、様々なサイズ、形態の多重層膜(multilamellar vesicles; MLV)からなるリポソームがかなりの割合で存在することが多い。一枚膜または数枚膜のリポソームの比率を高めるためには、さらに超音波を照射するか、一定孔サイズのフィルターに何度も通すなどの操作を必要としていた。一枚膜または数枚膜のリポソームは、MLVと比較して、リポソームの投与量、換言すると投与脂質量が大きくならないという利点もある。
【0064】
リポソーム膜の脂質膜枚数が少ないリポソーム、特に粒径の大きい一枚膜リポソームであるLUV(Large unilamellar veislcles)は、多重層膜リポソームに比べて、大きい
封入容量を提供するという利点がある。本発明の抗腫瘍リポソーム製剤に好ましく使用されるリポソームは、粒径が0.7〜1μm のLUVと、粒径が0.05μm 未満の小さい一枚膜リ
ポソームであるSUV(Small unilamellar vesicles)との中間に位置する。このため、保持容積もSUVより大きくなり、水溶性の抗がん性化合物のトラップ効率、換言すると内包効率も、後述するように格段に優れたものとなる。また、MLV、LUVと違い、細網内皮系細胞に取り込まれて急速に血流から消失することもない。反面、抗がん性化合物の内包効率が良好な一枚膜または数枚膜のリポソームでも、内包する抗がん性化合物の重量が相対的に多過ぎるとリポソームの安定性は低下する。特にイオン強度の急激な変化には脆弱である傾向が観察されていた。本発明の製剤に用いられるリポソームは、比較的小さい粒径に調整されている。さらにリポソーム膜にポリアルキレンオキシド基を有する化合物(例えばリン脂質)、ステロール類、グリコールから選ばれる少なくとも1種の化合物を含有させて、脂質膜の安定化を図っている。その結果、そうしたリポソームは、塩ショックに対しても安定的であることが判明した。
【0065】
本発明のリポソームにおいて、微細粒子としてのリポソームのサイズとその分布の調整は、高い血中滞留性、ターゲティング性、送達効率と密接に関わっている。粒径(粒子径)は抗がん性化合物を内包するリポソームを含む分散液を凍結し、その後破砕した界面をカーボン蒸着し、このカーボンを電子顕微鏡で観察することにより測定することができる(凍結破砕TEM法)。ここで「平均粒径」とは、観察されたリポソーム粒子の一定の個数、例えば20個の径の単純平均を指している。これは粒径分布で最も出現頻度の高い粒径を言う「中心粒径」と、通常一致するか、または概ね近似している。粒径の調整は、処方またはプロセス条件を変更することにより行なうことができる。例えば、上記の超臨界状態の圧力を大きくすると形成されるリポソーム粒径は小さくなる。作製するリポソームの粒径分布をより狭い範囲に揃えるには、ポリカーボネート膜、セルロース系の膜などで濾過してもよい。例えば濾過膜として0.1〜0.8μmの孔径のフィルターを装着したエクスト
ルーダーに通すことにより、平均粒径として0.7μm 以下のリポソームを効率よく調製す
ることができる。押出しろ過法については、例えばBiochim. Biophys.Acta 557巻,9ペー
ジ(1979)に記載されている。このような「押出し」操作を取り入れることにより、上記サイジングに加えて、リポソーム外に存在する抗がん性化合物の濃度の調整、リポソーム分散液の交換、望ましくない物質の除去も併せて可能になるという利点もある。
【0066】
本発明の抗腫瘍リポソーム製剤のように薬物をリポソームというマイクロキャリヤーに封入する場合には、抗がん性化合物などの送達効率および保持安定性に加えてリポソームの膜脂質の重量も考慮されねばならない。リポソームの膜脂質の重量が多くなると製剤の粘度が大きくなる。リポソーム内への薬物の封入量として、リポソーム内に封入された水溶液中に、親水性抗がん性化合物がリポソーム膜脂質に対して、0.5〜8、好ましくは3〜8、より好ましくは5〜8の重量比で含有されていることが望ましい。
【0067】
リポソーム水相にカプセル化された親水性抗がん性化合物の重量比が0.5未満であると
、比較的多量の脂質を注入することが必要となり、結果的に抗がん性化合物などの送達効率が悪くなる。この点、一枚膜もしくは数枚膜のリポソームは、その脂質量の割に保持容積および内包効率に優れることからも有利である。反対に、リポソーム膜脂質に対する親水性抗がん性化合物の封入重量比が8を超えると、リポソームは構造的にも不安定となり、リポソーム膜外への抗がん性化合物の拡散、漏出は、貯蔵中または生体内に注入された後でも避けられない。また、疎水性の抗がん性化合物である場合には、リポソーム膜脂質に対して、0.2〜2、好ましくは0.5〜1の重量比で含有されていることが望ましい。
【0068】
なお、リポソーム懸濁薬剤が製造され、分離した直後は100%の封入が達成されても、
浸透圧効果による不安定化に基づき、早くも短時間に封入成分が減少していくことが記載されている(特表平9−505821号公報)。
がん治療への抗腫瘍リポソーム製剤の利用
本発明の抗腫瘍リポソーム製剤は、注射剤または点滴注入剤として、非経口的に、具体
的には血管内投与、好ましくは静脈内投与により患者に投与される。比較的高濃度のリポソーム製剤を大量に短時間で投与する必要がある場合、このようなボーラス注入を可能とする要件は、製剤の流動性と低い粘度である。注入抵抗を少なくして患者の苦痛を軽減し、血管外漏出の危険を回避するため、本発明のリポソーム分散液の粘度(オストワルド法で測定した場合)は、37℃で、20 mPa・s以下、好ましくは18 mPa・s以下、より好ましくは15 mPa・s以下である。
【0069】
投与するリポソーム製剤のオスモル濃度が高いと、心臓・循環系の負担が大きい。血液と等張の分散液を得るには、等張液を提供する濃度で、リポソームを媒質中に懸濁させる。例えば抗がん性化合物などの溶解性が低いために抗がん性化合物などだけでは等張液を提供できない場合、等張の溶液もしくは懸濁液が形成されるように他の非毒性の水溶性物質、例えば塩化ナトリウムのごとき塩類、マンニトール、グルコース、ショ糖、ソルビトールなどの糖類を媒質中に添加してもよい。
【0070】
抗がん剤の至適投与量は、がんの種類、部位、症状、患者側の条件などを勘案して個々に設定するのが通例である。本発明のリポソーム製剤においてもリポソーム内の抗がん剤が、従来の投与量と同程度になるようにしてもよい。余りに高濃度の溶液とすると、リポソーム同士の凝集、粘度の増大という不都合な事態を考慮されねばならない。
【0071】
本発明のリポソーム、これを含有する抗腫瘍リポソーム製剤は、通常の全身化学療法に加えて光線力学療法、中性子捕獲療法を組み合わせた形態においても好ましく使用される。以下、発明を実施するための最良の態様を説明する。
【0072】
リポソームに内包させた抗がん性化合物が光増感性物質でもある場合には、光線力学療法(Photodynamic therapy;PDT)に好ましく用いられる。光増感性物質を内包させた
リポソームの製剤を患者に投与した後、レーザー光線を照射することにより励起した光増感性物質が発生するフリーラジカル、活性酸素が、がん細胞を殺傷する作用を利用するものである。ポルフィリン系のPDT用光増感物質として、ポルフィリン、ヘマトポルフィリンIX、フォトフリンII、verteporfin、purlytin、lutetium texaphyrinなどが挙げられる。これらをリポソームに内包させて、患者に投与して使用する。あらかじめ患者に光増感剤を含むリポソーム製剤を静注し、がん組織と正常組織における薬物濃度差が最大となる48〜72時間後に、光増感剤の励起波長と一致する波長のレーザー光をリポソームが集積した患部に照射する。PDTで使用するレーザーは、レーザーメスのほぼ1/100と低出
力なうえ、光増感物質は、がん組織に多く集積するため正常組織への障害を最小限に抑え、がん病巣のみを選択的に壊死させることができる。
【0073】
抗がん性化合物などの薬物をリポソームに内包する技術は、選択的な薬物送達により、無駄な投与を減らすDDS本来の意義の他に、遊離状態で存在する薬物と比較して副作用が低減されるという利点も大きい。しかし、薬物をリポソームに内包させた結果、その薬効が向上したという例はむしろ稀である。EPR効果などでリポソームががん細胞近傍に蓄積したとしても、そのリポソームから直ちに抗がん性化合物などが放出されないことが多いためである。この点、本発明のリポソームは、その脂質膜が、実質的に一枚膜もしくは数枚膜からなるリポソームであるため、多層膜リポソームと比べて抗がん性化合物などが放出されやすい。薬剤のリポソームからの放出をコントロールする技術として、pH、温度などに反応してリポソームの構造に変化を起こさせる技術が研究されている。いくつかの成果は公表されており、これを応用することも可能である。
【0074】
また、転移温度を有するリン脂質を含むリポソームとがん温熱療法との組合わせも可能である。温熱療法とは、がん細胞が正常細胞と比べ熱に弱いという性質を利用したがんの治療法である。がんに対する効果は41℃以上で表われ、特に42.5℃以上で強くなることが
知られている。本発明の抗腫瘍リポソーム製剤をがん患者に投与した後、この温熱療法を施行する。身体の表面に近いがんは目的の温度まで比較的容易に温めることができるが、身体の奥深いところにあるがんは脂肪、空気、骨が邪魔をして十分に温めることが難しい場合が多い。がん組織の中に数本の電極針を刺し入れて加温する方法も試みられる。
【0075】
がん細胞近傍に到達したリポソームが内包している薬物を放出しなくとも、別の機構によりがん細胞殺傷作用を発揮させることができたら、その目的は達成される。これを可能とする技術の一つが、「中性子捕獲療法(Neutron capture therapy)」である。リポソ
ームに内包させる化合物は、ホウ素化合物またはガドリニウム化合物が好ましい。正常組織よりもがん組織に集合しやすいホウ素化合物は、熱中性子を照射されると核反応10B(n,α)7Liを起こす。その結果、α粒子を放出し、そのα粒子が近傍のがん細胞を殺傷
する。周知のようにα線は極短飛程であっても、著しいがん細胞殺傷作用を発揮し、昔から放射線療法に利用されている。腫瘍集積性のホウ素化合物として、ボロカプテイト(BSH)、パラボロノフェニルアラニン(BPA)が例示される。ガドリニウム化合物の場合には、長飛程のγ線を放出し、同様にがん細胞殺傷作用を発揮する。がん細胞の殺傷に必要な腫瘍内ガドリニウム濃度は、150μgGd/g湿組織と推定されている。なおガドリ
ニウム化合物のうち、ガドペンテト酸は、MRI(Magnetic resonance imaging)造影剤として唯一実用化されている水溶性キレート物質である。したがってこのようなガドリニウム化合物を内包させたリポソームの製剤を中性子捕獲療法に利用する場合、MRI造影との併用も想定される。有効ながんの種類、必要な投与量、照射方法などの基礎的データが集積されている。
【0076】
本発明のリポソーム製剤は造影剤を含有しても良い。好適な造影剤として、水溶性の非イオン性ヨウド系化合物、油性造影剤といったX線検査用造影剤が挙げられる。これらの造影剤はリポソームに別個にまたは一緒に、上記抗がん性化合物とともにリポソームに内包させてもよい。水溶性ヨウド系化合物はもちろん、腫瘍親和性があるリピオドールでも、本発明のリポソームに内包させることによりがん病巣への送達がさらに向上する。また造影剤は、リポソームを懸濁する水性媒体にも存在してもよい。好ましいヨウド系化合物として、イオメプロール、イオパミドール、イオヘキソール、イオプロミド、イオキシラン、イオタスル、イオトロランまたはイオジキサノールが例示される。また油性造影剤として、ヨウド化ケシ油脂肪酸エチルエステルが挙げられる。特に肝細胞がんなどに対しては、肝腫瘍集積性の高いリピオドールが好適である。
【0077】
抗がん性化合物と造影剤とを内包させたリポソーム製剤を投与することにより、目標とするがん病巣の造影およびがん治療が可能となる。本発明のリポソーム製剤を患者に投与した後、リポソーム内に内包させた造影剤によりがん病巣の描出がなされれば、同じくリポソームに内包されていた抗がん性化合物もまたそのがん病巣に到達して存在することが考えられ、それによる治療効果が期待される。
[発明の効果]
本発明の抗腫瘍リポソーム製剤は、抗がん性化合物などをマイクロキャリヤーのリポソームに担持させることによってターゲティング性を付与し、リポソームの平均粒径を0.05〜0.7μmに揃えることによりがん病巣への送達効果を増強している。
【0078】
本発明のリポソーム製剤は、抗がん性化合物などの一層の低用量化を可能とし、従来のリポソーム製剤のように、実質的にクロル系有機溶媒を含まない。これにより被検者の負担が一層軽減される。
[実施例]
以下、本発明を具体な例を示してさらに詳細に説明する。以下の実施例中で用いる装置名、示された使用材料、その濃度、使用量、処理時間、処理温度等の数値的条件、処理方法などはこの発明の範囲内の好適例にすぎない。
リポソームの粒径
粒径(粒子径)は、抗がん性化合物などを内包するリポソームを含む分散液を液体窒素にて急速に凍結し、その後破砕した界面をカーボン蒸着し、形成されたこのカーボンを透過型電子顕微鏡で観察すること(凍結破砕TEM法)により測定した。
【0079】
粒径は、観察されたリポソーム粒子、20個の径の単純平均とした。
【実施例1】
【0080】
リポソーム製剤の作成
ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)86mgと、コレステロール38.4mg、PEG−リン脂質(日本油脂株式会社製、SUNBRIGHT DSPE-020CN)19.2mg、アドリアマイシン45mgの混合物をステンレス製の特製オートクレーブに仕込み、オートクレーブ内を60℃に加熱し、次いで液体二酸化炭素13gを加えた。撹拌を行いながら、50kg/cm2であったオート
クレーブ内の圧力を、オートクレーブ内の体積を減ずることにより、120kg/cm2にまで上
げて、二酸化炭素を超臨界状態にし、撹拌しながら脂質類を分散・溶解させた。さらに撹拌しながら、生理食塩水5mLを定量ポンプで連続的に50分間かけて注入した。注入終了後、系内を減圧して二酸化炭素を排出し、抗がん性化合物を含有するリポソームの分散液を得た。得られた分散液を60℃まで加熱し、アドバンテック社製のセルロース系フィルター、1.0μmおよび0.45μmで加圧濾過した。
【0081】
ゲルろ過法により、リポソーム外に遊離しているアドリアマイシンとリポソーム内に包含されているアドリアマイシンを定量した結果、仕込んだアドリアマイシンに対して、90%のアドリアマイシンがリポソーム中に内包されていた。また、透過型電子顕微鏡(TEM)により、観察したところリポソーム周辺に結晶などは見られなかった。また観察されたリポソーム粒子の粒径は、0.05〜0.7μmであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレングリコール(PEG)基を有する少なくとも1種の化合物が存在する条件
下で、リン脂質膜を構成する脂質膜成分と超臨界もしくは亜臨界状態の二酸化炭素とを混合することにより作製され、平均粒径が0.05〜0.7μmであってリン脂質膜内またはその
内部水相に少なくとも1種以上の薬物を含有し、実質的に有機溶剤を含まないことを特徴とするリポソーム。
【請求項2】
前記リン脂質膜が、実質的に一枚膜もしくは数枚膜からなることを特徴とする請求項1に記載のリポソーム。
【請求項3】
平均粒径が0.1〜0.2μmであることを特徴とする請求項1または2に記載のリポソーム

【請求項4】
前記リン脂質膜が、転移温度を有するリン脂質を少なくとも含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項5】
前記のポリエチレングリコール基を有する化合物が、PEG-リン脂質であることを特
徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項6】
前記薬物が抗がん性化合物であり、シクロホスファミド、メクロレタミン、カルバジルキノン、メルファラン、チオテパ、ブスルファン、ニムスチン、カルムスチン、プロカルバジン、ダカルバジン、メトトレキサート、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、アザチオプリン、5−フルオロウラシル、フトラフール、フロクスウリジン、シタラビン、アンシタビン、テガフール、ドキシフルリジン、アクチノマイシンD、ブレオマイシン、マイトマイシン、クロモマイシンA3、シネルビンA、アクラシノマイシンA、アドリ
アマイシン、ペプロマイシン、シスプラチン、ミトキサントロン、エピルビシン、ピラルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、エトポシド、シスプラチン、カルボプラチン、リン酸エストラムスチン、ミトタン、ポルフィリン、タキソールから少なくとも1種選ばれることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項7】
前記抗がん性化合物が、アドリアマイシン、ビラルビシン、ビンクリスチン、タキソール、シスプラチン、マイトマイシン、5−フルオロウラシルから少なくとも1種選ばれることを特徴とする請求項6に記載のリポソーム。
【請求項8】
前記薬物が、ホウ素化合物またはガドリニウム化合物であり、中性子捕捉療法に用いられることことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項9】
前記薬物が、ポルフィリンまたはその誘導体であり、がんの光線力学療法に用いられることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載のリポソームを含んでなる抗腫瘍リポソーム製剤。
【請求項11】
さらに造影剤を含有することを特徴とする請求項10に記載の抗腫瘍リポソーム製剤。
【請求項12】
患者に投与した後に、温熱療法を適用することを特徴とする請求項10に記載の抗腫瘍リポソーム製剤。
【請求項13】
ポリエチレングリコール基を有する少なくとも1種の化合物が存在する条件下で、脂質
膜成分として、少なくとも転移温度を有するリン脂質を含むリン脂質類とともに、カチオ
ン性脂質およびステロール類から少なくとも1種選ばれる化合物、さらには必要に応じて
親油性の薬物を超臨界状態もしくは亜臨界状態の二酸化炭素に溶解もしくは分散させた後、少なくとも1種以上の薬物を含む溶液もしくは懸濁液を導入することによりミセルを形成させ、次いで水を加えて二酸化炭素を排出して、該化合物を内部に含有するリポソームを作製することを含む前記リポソームの製造方法。
【請求項14】
前記のポリエチレングリコール基を有する化合物を、超臨界状態もしくは亜臨界状態にする二酸化炭素に対して0.01〜1質量%の割合で溶解助剤として用いることを特徴とする
請求項13に記載のリポソームの製造方法。
【請求項15】
前記の薬物の溶液または懸濁液には、製剤助剤が含まれていることを特徴とする請求項13または14に記載のリポソームの製造方法。


【公開番号】特開2006−63009(P2006−63009A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−246737(P2004−246737)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】