説明

抗腫瘍免疫性の強化と遺伝子治療のための組成物及び方法

【課題】腫瘍に対する免疫応答性を強化するための組成物を提供することを本発明の課題とする。
【解決手段】上記課題は、免疫増強ポリペプチドをコードしている第一の外来遺伝子と、プロモータの誘導によって細胞を死滅させることができるポリペプチドをコードしているDNAに機能的に連結したプロモータを含んでいる第二の外来遺伝子を有する細胞に由来する、腫瘍に対する免疫応答性を強化するための組成物を提供することによって、解決された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的にはガンの免疫療法に関し、特に、例えばインターロイキンー2のよ
うな、腫瘍に対する免疫応答性を強化するポリペプチドをコードする外来遺伝子を含む腫瘍細胞系の調製に関する。本発明は免疫的に強化された腫瘍細胞を用いて免疫化することによるガン療法を含む。
【0002】
本発明は、遺伝的に異なる細胞をin vitro及びin vivoにおいて選択的に除去する事が
できる方法も提供する。本発明のこの態様に対する好適な実施例には、免疫的に強化されたポリペプチドをコードする第一の外来遺伝子及び、好ましくは誘導的プロモータに制御された「致死」または「自殺」ポリペプチドをコードする第二の外来遺伝子を含む細胞が含まれる。第二の外来遺伝子を導入すると、致死ポリペプチドをコードする遺伝子に作用的に連動したプロモータを誘導してポリペプチドの転写を開始させることにより腫瘍細胞を選択的に殺す能力が付与される。ジフテリア毒または単純疱疹ウイルスのチミジンキナーゼは致死遺伝子の例である。例として採用されたプロモータは6-16プロモータであり、これは低レベルのインターフェロンにより誘導される。ガン療法において細胞を用いた方法も提供される。
【背景技術】
【0003】
活性化免疫療法は、治療法、特にヒトのガンの再発防止に有力なアプローチであると考えられている。特異的活性化免疫療法(現在研究されている最も有力なアプローチの一つ)には、免疫システムの特異的なエフェクタ細胞(Tリンパ球など)を活性化するため腫瘍細胞(変異導入、ハプテンによる処理、または外来遺伝子の発現により変化させることがで
きる)で免疫化して腫瘍細胞に対するホスト免疫応答を活性化することが含まれる。非特
異的活性化免疫療法では、ナチュラルキラー(NK)細胞・マクロファージ、またはリンフォカイン活性化キリング(LAK〉を活性化するために微生物由来または化学的な免疫モジュレ一夕を利用することができる。残念ながらこれらのアプローチの有望性はいまだ実現されていない。
【0004】
ガンの免疫学における最も決定的な疑問の一つは、なぜ免疫システムは腫瘍を除去できないかということである。1970年代にはHewittが、多くの腫瘍は腫瘍に特異的な抗原すなわち腫瘍抗原を発現せず、このため免疫システムにより「異物」であると認識されないと言明した。確かに、抗体に認識される、腫瘍細胞表面の抗原のうち腫瘍に特異的なものは事実上存在せず、さらに、最も自然発生的なマウス腫瘍を同系のホストに移植しても除去されなかったことからこの腫瘍は「免疫抗原性が低い」と見なされた(Hewittら)。しかし、これらの同一の腫瘍は変異導入により腫瘍細胞表面に新たな抗原が発現された時、「免疫抗原性が高く」なった(VanPel and Boon,1982)。
【0005】
免疫システムが腫瘍を除去できない原因が、腫瘍抗原の欠損によるものではなく、むしろこれらの腫瘍抗原に対する応答が不十分であることによる可能性もある。このため、ホストの免疫応答性を強化するために腫瘍細胞の免疫抗原性を強める方法が免疫療法の進展の鍵となり得る。
【0006】
腫瘍抗原に対する応答の欠損は、少なくとも部分的にはT細胞の助けが欠損していることによる。Th機能の分子的基盤は、CTLs(これらが有するT細胞受容体は当初適当な抗原
−MHC複合体により占めらている)に作用する、例えばインターロイキンー2(IL-2)のよう
なリンフォカインの局部的な分泌である(MoHerにより記述、1980)。NK及びLAK細胞の細胞毒としての可能性はIL-2によっても強化される(Grimmら、1982;Phillipsand Lanier,1986
; 0rtaldoら、1986)。インターロイキン2の全身注射による腫瘍免疫性の強化を試みても
、これらの研究は全身投与されたIL-2により妨害される。このため、補助的なT細胞の助けを施すことにより腫瘍に対する免疫性を強化する方法が、ガン治療に長らく求められていたより有望な選択肢であると思われる。
【0007】
免疫療法におけるその他の困難は、患者に、生きている腫瘍性細胞を投与することに固有の問題に起因する。過去においては、免疫化に使用される腫瘍細胞は、免疫化に先立ち、例えば放射線照射やマイトマイシンC処理により増殖能を低下させるよう処理された。
残念ながら、複製を阻害するこれらの方法はいずれも細胞の免疫抗原性をも大きく減少させる。8-10,000Radsにより照射された、変異原誘導変異体はもはや免疫抗原性を有しないことが示された(Sella,1989;Boon,1985)。同様に、IFN一γのIL-2を分泌するマウス腫瘍
細胞は放射線照射の後、免疫性を失う。さらに、腫瘍細胞を膜調製することによっても、免疫応答性の確固たる証拠を欠損する。このため、免疫応答を誘導した後除去することができる、活性型免疫抗原性腫瘍細胞を利用する手段の開発は有効性が高い。
【0008】
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Van Pel and Boon, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79:4718-4722 (1982)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、以下が提供される。
(項目1) 免疫増強ポリペプチドをコードする第一の外来遺伝子と、プロモータの誘導により細胞を死滅させることができるポリペプチドをコードするDNAに機能的に連結したプロモータを含む第二の外来遺伝子を有する細胞に由来する、腫瘍に対する免疫応答性を強化するための組成物。
(項目2) 前記プロモータが、選択的に誘導可能なプロモータであることを特徴とする項目1に記載の組成物。
(項目3) 前記プロモータが、6−16インターフェロン誘導性プロモータであることを特徴とする項目2に記載の組成物。
(項目4) 前記第二の外来遺伝子が、ジフテリア毒のアルファ鎖をコードする遺伝子に機能的に連結する選択的に誘導可能なプロモータを含むことを特徴とする項目2または項目3に記載の組成物。
(項目5) 前記第二の外来遺伝子が、単純疱疹ウイルスチミジンキナーゼをコードする遺伝子に機能的に連結する選択的に誘導可能なプロモータを含むことを特徴とする項目2または項目3に記載の組成物。
(項目6) 前記免疫強化性ポリペプチドが、サイトカインであることを特徴とする項目1、項目2または項目3に記載の組成物。
(項目7) 前記免疫強化性ポリペプチドがインターロイキンであることを特徴とする項目6に記載の組成物。
(項目8) 前記インターロイキンがインターロイキン−1であることを特徴とする項目7に記載の組成物。
(項目9) 前記インターロイキンがインターロイキン−2であることを特徴とする項目7に記載の組成物。
(項目10) 前記インターロイキンがインターロイキン−3であることを特徴とする項目7に記載の組成物。
(項目11) 前記インターロイキンがインターロイキン−4であることを特徴とする項目7に記載の組成物。
(項目12) 前記インターロイキンがインターロイキン−5であることを特徴とする項目7に記載の組成物。
(項目13) 前記インターロイキンがインターロイキン−6であることを特徴とする項目7に記載の組成物。
(項目14) 前記免疫強化性ポリペプチドが、腫瘍の宿主にとって異物の抗原であることを特徴とする項目1、項目2または項目3に記載の組成物。
(項目15) 前記抗原が、組織適合性抗原であることを特徴とする項目14に記載の組成物。
(項目16) 前記抗原が、ウイノレ癩蛋白質抗原であることを特徴とする項目14に記載の組成物。
(項目17) 前記抗原が、細菌性抗原であることを特徴とする項目14に記載の組成物。
(項目18) 前記抗原が、Mycobacterium tubercu1osisの65kDa抗原であることを特徴とする項目14に記載の組成物。
(項目19) 前記ゲノムが、第二の免疫強化性ポリペプチドをコードする第三の外来遺伝子を含むことを特徴とする項目1に記載の組成物。
(項目20) 前記第二の外来遺伝子が、第一の外来遺伝子が免疫強化性サイトカインをコードする場合は免疫強化性抗原をコードし、第一の外来遺伝子が免疫強化性抗原をコードする場合は免疫強化性サイトカインをコードすることを特徴とする項目1に記載の組成物。
(項目21) 前記選択されたポリペプチドをコードする第一の外来遺伝子と、細胞を死滅させることができる第二の選択されたポリペプチドをコードするDNAに機能的に連結したプロモータを含む第二の外来遺伝子を有する、脊椎動物由来の細胞。
(項目22) 前記プロモータが、選択的に誘導可能なプロモータであり、そのポリペプチドを誘導することにより第二のポリペプチドが細胞を死滅させることができることを特徴とする項目21に記載の細胞。
(項目23) 前記プロモータが、6−16インターフェロンプロモータであることを特徴とする項目22に記載の細胞。
(項目24) 前記ポリペプチドヘの基質の添加により、第二のポリペプチドが細胞を死滅させることができることを特徴とする項目21に記載の細胞。
(項目25)
a.選択されたポリペプチドをコードする第一の外来遺伝子の細胞への導入と、
b.細胞を死滅させることができる第二の選択されたポリペプチドをコードするDNAに機能的に連結したプロモータを含む第二の外来遺伝子の細胞への導入により、細胞内に第一及び第二の両方の外来遺伝子を保持する細胞を作製することを特徴とする、選択された疾病に対する遺伝的療法に用いる細胞を作製する方法。
(項目26) 前記プロモータが、選択的に誘導可能なプロモータであることを特徴とする項目25に記載の方法。
(項目27) 前記細胞を死滅させるためにプロモータを誘導する付加的な工程を有することを特徴とする項目26に記載の方法。
(項目28) 前記動物に項目21〜27に記載のいずれかの組成物を投与することを特徴とする、脊椎動物に対する遺伝的療法の方法。
(項目29)
a.選択されたポリペプチドをコードする第一の外来遺伝子の細胞への導入と、
b.細胞を死滅させることができる第二の選択されたポリペプチドをコードするDNAに機能的に連結したプロモータを含む第二の外来遺伝子の細胞への導入による、細胞内に第一及び第二の両方の外来遺伝子を保持する細胞の作製と、
c.細胞の、動物への投与を特徴とする、脊椎動物に対する遺伝的療法の方法。
(項目30) 前記プロモータが、選択的に誘導可能なプロモーダであることを特徴とする項目29に記載の方法。
(項目31) 前記プロモータを誘導するための付加的な工程を有することを特徴とする項目30に記載の方法。
(項目32) 腫瘍由来の、免疫強化性インターロイキンをコードする外来遺伝子を有する細胞の調製を特徴とする、脊椎動物に対する免疫応答を強化するための細胞調製方法。(項目33) 腫瘍由来の、インターロイキン−2をコードする外来遺伝子を有する細胞の調製を特徴とする、脊椎動物に対する免疫応答を強化するための細胞調製方法。
(項目34) 前記外来遺伝子がトランスフェクションにより細胞に導入されることを特徴とする項目32または項目33に記載の組成物。
(項目35) 前記インターフェロンをコードする外来遺伝子を含有する細胞を調製することを特徴とする、脊椎動物の、腫瘍増殖に対する非特異的抵抗性を強化するための組成物。
(項目36) 前記インターフェロンがインターフェロンγであることを特徴とする項目35に記載の方法。
(項目37) 前記外来遺伝子がトランスフェクションにより腫瘍に導入されることを特徴とする項目35に記載の組成物。
(項目38) 前記細胞が、さらに、付加的な免疫強化性ポリペプチドをコードする外来遺伝子を含有する、項目32または項目35に記載の組成物。
(項目39) 前記付加的な免疫強化性ポリペプチドが、哺乳類に対して異物である抗原であることを特徴とする項目38に記載の組成物。
(項目40) 前記抗原が、ウイルス膜蛋白質であることを特徴とする項目38に記載の組成物。
(項目41) 前記抗原が、細菌細胞抗原であることを特徴とする項目38に記載の組成物。
(項目42) 前記抗原が、Mycobacterium tuberculosisの65kDa抗原であることを特徴とする項目38に記載の組成物。
(項目43) 前記免疫強化性ポリペプチドがサイトカインであることを特徴とする項目38に記載の組成物。
(項目44) 前記サイトカインがインターロイキン−1であることを特徴とする項目38に記載の組成物。
(項目45) 前記サイトカインがインターロイキン−3であることを特徴とする項目38に記載の組成物。
(項目46) 前記サイトカインがインターロイキン−4であることを特徴とする項目38に記載の組成物。
(項目47) 前記サイトカインがインターロイキン−5であることを特徴とする項目38に記載の組成物。
(項目48) 前記サイトカインがインターロイキン−6であることを特徴とする項目38に記載の組成物。
(項目49) 前記サイトカインがインターフェロンであることを特徴とする項目38に記載の組成物。
(項目50) 前記サイトカインがガンマインターフェロンであることを特徴とする項目38に記載の組成物。
(項目51) 項目32〜37に記載のいずれか1つの組成物の生存調製物を動物に導入する工程を有することを特徴とする、脊椎動物の、腫瘍に対する免疫応答性を強化する方法。
(項目52) 項目38に記載の組成物の生存調製物を動物に導入する工程を有することを特徴とする、脊椎動物の、腫瘍に対する免疫応答性を強化する方法。
(項目53) 調製物の導入に先立ち、脊椎動物内の腫瘍細胞の数を減少させるための付加的な工程を有することを特徴とする項目51に記載の方法。
(項目54) 前記減少が、外科手術による切除であることを特徴とする項目53に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】CT26細胞、及びIL−2にトランスフェクトされたCT26−IL−2細胞のin vivo注入後のCTLの誘導。CT26またはCT26−IL−2のいずれかの細胞(1x10)をBALB/cマウスの左脇腹に皮下注射した。2週間後、ひ臓細胞を採取し、IL−2存在下で、マイトマイシンCにより処理されたCT26と共に5日間培養した。培養終了時、異なるエフェクターターゲット比率で51Cr標識ターゲットと混合し、4時間51Cr放出活性測定を行なった。(a)CT26vsCT26−IL−2細胞により発生したCTL。
【図1B】CT26細胞、及びIL−2にトランスフェクトされたCT26−IL−2細胞のin vivo注入後のCTLの誘導。CT26またはCT26−IL−2のいずれかの細胞(1x10)をBALB/cマウスの左脇腹に皮下注射した。2週間後、ひ臓細胞を採取し、IL−2存在下で、マイトマイシンCにより処理されたCT26と共に5日間培養した。培養終了時、異なるエフェクターターゲット比率で51Cr標識ターゲットと混合し、4時間51Cr放出活性測定を行なった。(b)CT26−IL−2細胞により免疫化されたマウス由来のひ臓細胞による、CT26リシスの抗CD4及び抗CD8ブロッキング。
【図1C】CT26細胞、及びIL−2にトランスフェクトされたCT26−IL−2細胞のin vivo注入後のCTLの誘導。CT26またはCT26−IL−2のいずれかの細胞(1x10)をBALB/cマウスの左脇腹に皮下注射した。2週間後、ひ臓細胞を採取し、IL−2存在下で、マイトマイシンCにより処理されたCT26と共に5日間培養した。培養終了時、異なるエフェクターターゲット比率で51Cr標識ターゲットと混合し、4時間51Cr放出活性測定を行なった。(c)CT26−IL−2細胞により免疫化されたマウス由来のひ臓細胞による、CT26リシスの抗MHCクラス1及び抗MHCクラスIIブロッキング。
【図2】CT26−IL−2細胞の注入により誘導された、CT26細胞に対する防御的免疫。BALB/cマウスの左脇腹に1×10個のCT26−IL−2細胞を皮下注射し、ついで、2週間後または4週間後のいずれかに右脇腹に1×10個のCT26細胞を皮下的に免疫投与した。CT26−IL−2によりあらかじめ免疫化を行なわない場合のCT26の増殖も併せて示した。腫瘍の増殖は、毎週、触診及び測定により評価した。各グループにつき20匹のマウスについての共通の(pooled)結果を示した。データは、Kaplan−Meierplotにて表示した。
【図3】CT26−IL−2細胞及びCT26−HA細胞へのin vivo応答に対する、T細胞サブセット除去の影響。精製された抗CD4または抗CD8を腹腔内注射して、in vivoにおいてBALB/cマウスのCD4、CD8のいずれか、またはCD4とCD8の両方のT細胞を除去した。ついで、これらのマウスの左脇腹に1×10個のCT26−neo−IL−2+細胞を皮下注射した。インフルエンザ凝集素遺伝子を用いてトランスフェクトすることにより免疫抗原性を付与したCT26−HA系マウス(正常マウス、及びCD−4除去マウス)における増殖も併せて示した。腫瘍の増殖は毎週測定し、図2に示した。T細胞サブセットの特異的な除去は、実験法の中に記述した。
【図4】マウス抗H2KまたはH2Kによりそれぞれ前処理されたSP1またはCT26細胞への、標識ヤギ抗マウスイムノグロブリンの結合に基づく蛍光強度分布。
【図5】SP1細胞を、10U/m1のIFNγにより24時間処理した。細胞を洗浄し、FACS解析のための試料を採取した。細胞をIFNγ非存在下におけるin vitro培養に戻し、48、72、96時間目にFACS解析のための試料を採取した。図は、マウス抗H2Kにより前処理された、IFNγ処理SP1細胞への、標識ヤギ抗マウスイムノグロブリンの結合に基づく蛍光強度分布を示している。
【図6】マウスIFNγ遺伝子によりトランスフェクトされたSP1細胞の異なる3つのクローンについて、H2Kの発現を検討した。図は、マウス抗H2Kにより前処理された細胞への標識ヤギ抗マウスイムノグロブリンの結合に基づく蛍光強度分布を示している。
【図7】6匹のヌードマウスのグループに1x10個の6L細胞を皮下注射した。その結果生じた6つの腫瘍のうち2つを採取し、in vitroで培養してIFNγの生産及びH2Kの発現を検討した。個々の腫瘍、6L−A及び6L−Bを同系マウスに注入し、その腫瘍形成能を検討した。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、例えばインターロイキン−2のような、腫瘍抗原に対するホストの免疫応答
性を誘導することができ、選択された免疫強化遺伝子を有する新たな免疫強化腫瘍細胞変異体を提供する。また、本発明は、免疫強化性遺伝子及び致死遺伝子システムの両方を含んだ変異体を提供する。最初の一般的な実施例において、本発明は、ヒトまたはトリ、サカナなどの他の哺乳類のような脊椎動物による、腫瘍の免疫応答性を強化するための細胞の調製を提供する。調製物には、免疫強化性のあるインターロイキンをコードする外来遺伝子を有する腫瘍由来の細胞が含まれる(例えば、細胞外からの遺伝物質を挿入すること
により導入されたもの、例えばトランスフェクションされ、選択された安定な細胞系など)。好適な実施例においては、インターロイキンは、インターロイキン−2である。出願
人は原理に縛られることはないが、インターロイキン−2遺伝子が、恐らく初期的にはTリンパ球の媒介により、特異的な免疫応答性を誘導する能力を細胞に授けることが、証拠により示唆された。
【0013】
関連した実施例において、本発明はまた、腫瘍に対する非特異的抵抗性を強化する組成物を提供する。その実施例は、好ましくはインターフェロンガンマをコードする外来遺伝子を含む細胞の調製を提供する。本発明の実行には必要ないが、種々の遺伝子を組み合わせることにより、腫瘍に対する免疫性の強化に非常に有用な、あるいは相乗作用のある効果を生じる可能性もある。このため、本発明はまた、1つ以上の外来遺伝子を含む免疫療
法用の細胞を提供する。例えば、細胞は、インターロイキン遺伝子またはインターフェロン遺伝子のいずれか、または両方、及び別の免疫強化性ポリペプチドをコードする他の遺伝子を含む。
【0014】
免疫強化性ポリペプチドは、動物内に存在する腫瘍に対する、宿主の免疫システムの応答性を強化するポリペプチドとして定義できる。本発明の実行には、少なくとも2つのカ
テゴリーの免疫強化遺伝子が使用される。第一のカテゴリー「免疫強化性抗原」には、ウイルス膜蛋白質、細菌細胞抗原のような、動物に対して異物である種々の抗原、及びこのような抗原を発現する細胞によって免疫化された動物中で免疫応答性を引き出す可能性のある他の抗原をコードする遺伝子が含まれる。このカテゴリーの遺伝子は、ここでは「免疫強化性抗原」と呼ぶ。このカテゴリーにおいて好ましい種には、例えばウイルス膜蛋白質(例えば、インフルエンザ凝集素(HA)遺伝子、インフルエンザノイラミニダーゼ遺伝子
、ワクシニア遺伝子、または水疱性口内炎ウイルス遺伝子など)などが含まれる。適切な
細菌由来抗原には、例えばM.tubecurlosisの65kDa抗原及び他の細菌由来抗原が含まれる
。他の免疫強化性遺伝子には、宿主に対して異質遺伝子型の組織適合性抗原及び他の同種抗原をコードする遺伝子が含まれる。免疫強化性遺伝子の第二のカテゴリーには、宿主に対して免疫抗原性を示さないが免疫システムの細胞(Tリンパ球、ナチュラルキラー細胞、またはリンフォカイン活性化キラー細胞など)の活性を活性化または強化することにより
免疫性を強化する蛋白質をコードする遺伝子が含まれる。このカテゴリーに含まれる免疫強化性遺伝子は、「インターロイキン」として分類される数種のリンフォカイン(さらに
特定すると、インターロイキン−2、−4、−5、−6、−1、または−3)をコードする。同
じメカニズムで働く必要はないが、やはりこのカテゴリーに含まれるものとして、インターフェロンとして知られる蛋白質(さらに特定すると、インターフェロンガンマ)がある。
【0015】
遺伝子は、分子生物学において既知の技術により取得することができ、特定の標的細胞に適したベクターとともにトランスフェクションまたはトランスフォーメーションされることにより、選択された標的細胞(通常腫瘍由来のもの)中に導入される。本発明のある種の態様の実行は、SambrookらによるMolecular Cloning, ALaboratory Manual Second Edition, Cold Spring Harbor Press、1989(参考文献に挙げられている)に記載された特定の技術により容易になるであろう。
【0016】
本発明の態様の一つにおいて、最低一つの、免疫強化性抗原をコードする遺伝子及び、
上述の第二の免疫強化性遺伝子のカテゴリーから選択された第二の免疫強化性遺伝子を含む、選択された標的細胞を使用することができる。本発明は、ここに記述する生存細胞調製物を脊椎動物に導入することにより、その動物の腫瘍に対する免疫応答性を強化する方法も含む。好適な実施例においては、例えば外科手術による切除、放射線照射、または適切な技術により腫瘍を減少させてから細胞を投与する。
【0017】
もちろん多くの状況において、投与された細胞が望ましい機能を達成した後、その細胞を除去または破壊することが望まれる。そのため、本発明の他の主たる実施例においては、免疫強化性遺伝子を含む細胞は、「致死遺伝子」も含み、これによりその遺伝子を含む細胞を望ましい時期に死滅させることができる。好適な実施例においては、致死遺伝子は特異的に誘導可能なプロモータに連結しており、このため、誘導物質により処理することにより、「致死蛋白質」をコードするmRNAの転写を特異的に促進することができ、その結果、例えば細胞内代謝の阻害などにより直接的、または間接的に宿主細胞を殺すことができる。
【0018】
この様に、この実施例に従い、本発明は、選択されたポリペプチドをコードする第一の外来遺伝子及び、第二の選択されたポリペプチドをコードするDNAに機能的に連結された
プロモータ(好ましくは選択的に誘導可能なプロモータ)を含む第二の外来遺伝子(「致死
遺伝子」)を有する細胞を提供する。第二の選択されたポリペプチド、「致死ポリペプチ
ド」、は、例えば選択的に誘導可能なプロモータの誘導、または、その致死ポリペプチドの基質の添加(この基質は致死ポリペプチドにより細胞に対して毒性を示す分子に変換さ
れる)によって、細胞を死滅させることができる。「機能的な連結」とは、プロモータが
、致死ポリペプチドをコードするDNAに関連した部位に位置しており、これによりそのプ
ロモータが致死ポリペプチド構造遺伝子の転写を効果的に制御することができることを意味する。
【0019】
ガンの免疫療法に関する、より特異的な実施例においては、本発明は腫瘍に対する免疫応答を強化する組成物を提供する。この組成物は腫瘍由来の細胞を含有し、この細胞には、免疫強化性ポリペプチドをコードする第一の遺伝子と、細胞死滅能を有するポリペプチドコードするDNAに機能的に連結されたプロモータを含む第二の外来遺伝子が含まれてい
る。このプロモータは特異的に誘導可能なプロモータであり、プロモータの誘導により致死ポリペプチドが細胞を死滅させることが好ましい。
【0020】
本発明のこの態様には、SV40、サイトメガロウイルス、またはアクチンプロモータなどの多くの適当なプロモータを使用することができるが、後述の6-16インターフェロンα/
βプロモータが特に有用である。代替的に、細胞内毒性のために外来基質の添加が必要なポリペプチドをコードする遺伝子を使用する場合(例えば、gancyclovirを必要とする単純疱疹チミジンキナーゼなど)、単純疱疹プロモータのような構成的プロモータを使用でき
る。
【0021】
多くの適当な致死遺伝子が使用され得る。適当な例には、単純疱疹ウイルスチミジンキナーゼ遺伝子、及びジフテリア毒A鎖が含まれる。
【0022】
免疫強化性遺伝子及び致死遺伝子を含む細胞は、さらに、第二の免疫強化性ポリペプチドをコードする第三の外来遺伝子を含有することもできる。好適な実施例においては、第三の外来遺伝子は、第一の免疫強化性ポリペプチドがサイトカインである場合免疫強化性抗原をコードし、第一の免疫強化性ポリペプチドが抗原である場合サイトカインをコードする。
【0023】
本発明は、新たな細胞派生物を作製する方法も含む。本発明は、例えば、選択された疾
病の治療に用いられる細胞の作製を含む。ここには、選択されたポリペプチドをコードする第一の外来遺伝子の細胞への導入、及び細胞死滅能を有する。ポリペプチドをコードするDNAと機能的に連結したプロモータ(好ましくは選択的に誘導可能なプロモータ)を含む
第二の外来遺伝子の細胞への導入による、第一及び第二の両方の外来遺伝子を有する細胞の作製が含まれる。選択的に誘導可能なプロモータを使用することにより、そのプロモータを誘導することによって細胞を死滅させることができる。上述の細胞、遺伝子、プロモータ、及び致死遺伝子は、本発明のこの態様においても使用することができる。
【0024】
もちろん、本発明は、遺伝子療法、さらに特定するとガンの免疫療法に使用される方法も含む。脊椎動物の遺伝子療法のための方法には、選択されたポリペプチドをコードする第一の外来遺伝子の細胞への導入、及び細胞死滅能を有するポリペプチドをコードするDNAと機能的に連結したプロモータを含む第二の外来遺伝子の細胞への導入による、第一及
び第二の両方の外来遺伝子を安定に保持する細胞の作製1及び好ましくは注射による、動
物への細胞の投与が含まれる。プロモーターが選択的に誘導可能なプロモータである好適な実施例においては、致死ポリペプチドの合成を促進するためのプロモータの誘導という工程が付加される。代替的には、例えば単純疱疹チミジンキナーゼ遺伝子などと連結して構成的プロモータが使用される場合、例えばgancyclovirのような第二の毒性媒体の投与
が、付加的な工程としてこの方法に追加される。もちろん、単純疱疹チミジンキナーゼ遺伝子を選択的に誘導可能なプロモータの制御下に置くこともでき、この場合、プロモーターの誘導と第二媒体の添加の両方を行なうことができる。
【0025】
この方法は、例えば、黒色腫、乳ガン、肉腫、結腸ガン、及び卵巣ガンなどを含む種々の腫瘍に対する免疫療法に使用することができる。本発明の、これら、及び他の態様は、特定の実施例の記述を図面と併せて読むことにより、より明白となる。
【実施例】
【0026】
以下の例は、本発明の選択された態様を説明しているが、特許請求の範囲に特定されているもの以外はこれに限定されるものではない。
【0027】
(例1:インターロイキン−2をコードする外来遺伝子によりトランスフェクトされた細胞を用いて免疫化することによる抗腫瘍免疫の強化)
以下の例は、本発明の態様の一つの応用により得られた結果を記述している−−外来の免疫強化サイトカイン、この場合、インターロイキン−2、をコードする遺伝子によりト
ランスフェクトされた細胞を投与することによる抗腫瘍免疫の強化。
【0028】
(A.実験方法)
(1.細胞)
CT26細胞はM.Brattainより取得した(Brattainら,1980)。B16黒色腫細胞のF10サブライ
ン(Fidler,1975)NITDCT tumor repositoryより取得した。RENCAは、MurphyとHaushesky(1973)により最初に記述されたマウス腎細胞ガンである。SS-5は我々の研究室の一つ(P,F.)においてmethylcholantheneにより誘発された目然発生哺乳類アデノカントーマ(adenocanthoma)である。MHCNK標的細胞系であるYAC-1(Kiessingら,1975)は、Johns Hopkins UniversityのJ,Wagnerの好意により提供された。
【0029】
(2.トランスフェクション)
DNAは、リン酸カルシウムとの共沈殿により細胞内に導入した(Grahamand van der Eb, 1973; Wiglerら,1979)。CT26-IL-2+細胞系は、ウサギβ−グロビンイントロン、スプライス、及びpoly(A)付加シグナルを有し、サイトメガロウイルスプロモータの転写制御を受
けるマウスIL-2cDNAクローンを含むウシパピローマウイルス発現ベクターであるプラスミドベクターpBCMG-neo-mIL-2 5μgを用いてトランスフェクトすることにより取得した;こ
れはTh5ネオマイシン抵抗性遺伝子も含む(Karasuyamaand Melchers,1988; Karasuyamaら,1989)。細胞に沈殿物を14〜16時間暴露し、Ca2+またはMg2+を含まないHanks'balanced salt solutionを用いて一回洗浄し、10%FCSを含むDulbecco's modified Eagle's培地を再度添加し、37℃で培養した。400μg/m1のG418中での選択は細胞を沈殿物に暴露してから48
時間後に開始した。CT26-neo-IL-2系は、pBCMG-neo-IL-2からサイトメガロウイルス初期
プロモータ、ウサギβ−グロビンイントロン、及びmIL-2配列を除去したプラスミドを用
いてCT26細胞をトランスフェクトすることにより作製した。血球凝集素を発現するCT26-HA+細胞系(Fearonにより記載、1988)は、G418選択に先立ち、CT26に5μgのプラスミドベクターpBV1-MTHA及びpSV2-neoを同時にトランスフェクトすることにより作製した。本研究
ではFACS3、クローン5を使用した。B16-IL-2+トランスフェクト細胞は、CT26-IL-2+トラ
ンスフェクト細胞と同様に(しかしG418選択後は限定された希釈によりクローニングされ
た)作製した。
【0030】
(3.IL-2活性測定)
トランスフェクトされた細胞のIL-2活性は既に報告されている方法(Janisら,1989)で、ウエルにつき3000個のCTLL-2を含む96穴マイクロタイタープレートに希釈液を移すことにより測定した。24時間後、[3H]チミジンを12時間添加し、その後PHD細胞ハーベスタによ
り取り込み量を測定した。IL-2 1m1あたりのユニット数は、CTLL-2の最大増加量の半数
を与える上清希釈液の逆数として計算した。
【0031】
(4.CTL活性測定)
CTL活性測定においては、BALB/cマウスに1x106個のCT26またはCT26-IL-2+細胞を左脇腹に皮下注射してから2週間後にひ臓を除去した。CT26細胞のマイトマイシンC処理は、それらの細胞を50μg/m1のマイトマイシンC中で37℃ 45分間インキュベートした後RPMI-10FCSで3回洗浄することにより行なった。in vitro刺激は、各ウエルにつき2×105 CT26ス
ティミュレータと6×106ひ臓細胞レスポンダ及び20-50U/ml組み換えマウスIL-2の入った24穴プレート中で行なった。51Cr放出活性測定は、96穴V底プレート中で種々の数のエフェクタ細胞を各ウエルにつき5000個の51Cr標識ターゲットと混合することにより行なった。37℃4時間後、各ウエルにつき100μ1を採取してガンマカウンタ中で計測した。比リシス
パーセント([cpmexp-cpmmin]/[cpmmax-cpmmin]x100)を種々のエフェクターターゲット比
率についてy一軸にプロットした。51Cr標識B16ターゲットとのインキュベーションを8時
間とする以外は同様の方法で、B16黒色腫システムについてのCTL活性測定を行なった。抗体ブロッキングは、以下の抗体の硫酸アンモニウム精製調製物の1;100希釈液を51Cr放出
活性測定開始時にマイクロウエルに添加することにより行なった:CD4に対するGK1,5,モ
ノクローナル抗体(MAb)(Dialynisら,1983);CD8.2に対する2.43,1-Ad+1-Edに対するMAb(Battacharayaら,1891);28-14-8,Ldに対するMAb (Ozatoら,1980);35-1-2,Kd+Ddに対するMAb(Ozatoら,1982)。すべてのブロッキング抗体は、段階希釈した抗体をフロー血球計測
解析により測定したひ臓リンパ球に対する飽和結合を示す最低濃度の5〜10倍の濃度を用
いて慎重に活性測定した。使用に先立ち、ブロッキング特異性を以下のように評価した:invitroにおいて抗CD4及び抗MHCクラス1互抗体は二次PPD一増殖応答を80%以上阻害し、allo-CTLリシス(B6抗BALB/c)を5%以上阻害する1抗CD8及び抗MHCクラス1抗体は二次PPD増殖応答を5%以上阻害し、allo-CTLリシスを80%以上阻害する。
【0032】
(5.invivo抗体除去)
in vivo抗体除去は、腫瘍注入の1〜2日前に開始した。CD4の除去にはMAb GK1.5を、CD8の除去にはMA b2.43を使用した。硫酸アンモニウムにより精製した腹水(FACS上で>1:2000にて胸腺細胞を染色することによりタイター測定した)を、最初の3週間は一日おき、
その後は週に一回腹腔内に注入した(各マウスにつき0.1m1)。T細胞サブセットの除去は
腫瘍注入当日、注入後3週間目、5週間目に2.43またはGK1.5により染色後、フルオロセイ
ンイソチオシアネート標識ヤギ抗体をラットIgGに結合することによりリンパ筋細胞をフ
ロー血球計測解析して計測した。各解析時、正常濃度の対合(opposite)サブセット存在下で適当なサブセットの>99%が除去された(単一除去の場合)。
【0033】
(B.結果)
(1.lL-2にトランスフェクトされたCT26細胞の生産)
研究のために選択された、N−ニトロソ−N−メチルレタン誘発性マウス結腸腫瘍系CT26の免疫抗原性は低い;少量の細胞(1×103〜1×104)を同系(BALB/c)マウスに注入することにより、致死的な腫瘍が引き起こされ、検出可能量の腫瘍特異的CTLは誘導されない(Fearonら,1988)。CT26細胞に、ネオマイシン抵抗性遺伝子及びマウスIL-2cDNAを含むウシパピローマウイルス(BPV)ベクターをトランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞を
、ネオマイシンアナログG418中で選択し、ほぼ同じ大きさの50個以上の保存クローンから調製されたG418抵抗性系(CT26-IL-2+)をその後の研究のために選択した。
【0034】
IL-2生産を測定するために、CT26-IL-2系を各ウエルにつき5x104細胞ずつ24穴プレートに入れ、3日後上清(各ウエルにつき1.5ml)を採取して段階希釈後、IL-2−依存性CTLL-2細胞系に移した。それらは40UのIL-2活性を有し(1Uは、24時間の活性測定において最大CTLL刺激の50%を誘導する量として定義される)、これによりCT26-IL-2+細胞が大量のIL-2を分泌していることが示された。CT26細胞親株及びIL-2 cDNA挿入物断片を有するBCMGベクターによりトランスフェクトされたCT26細胞のいずれの上清も検出可能なIL-2活性を示さなかった。
【0035】
(2.CT26-IL-2+細胞に誘導されたCTLの生成)
CT26細胞を皮下注射しても、IL-2存在下で二次的なinvitro刺激の後でも検出可能な全
身的CTL活性をほとんど引き起こさないことが過去に示されていた(Fearonら,1988)。しかし、IL-2を生産するCT26-IL-2+細胞を皮下注射した後、二次的なinvitro刺激を行なうと
大量の抗CT26CTL活性がひ臓において検出された(図1a)。in vitro CTL活性の大部分はCD8及びMHCクラスIに対する抗体によりブロックされるが、CD4またはMHCクラスIIに対する抗体によってはブロックされない(図1b及び1c)。これは、CT26-IL-2+細胞が、内因性の、MHCクラス1抵抗性CD8+CTLを実際に活性化することを示している。事実上、他のBALB/c由
来腫瘍ターゲット(SS-5)またはMHCクラスI NKターゲット、YAC-1(エフェクターターゲット比率が100:1においてく5%の比リシス)に対する細胞溶解は認められなかった。これら
の結果はCT26-IL-2+免疫化により誘導されるエフェクタ細胞の大部分が抗原特異的及びMHCクラスI特異的であり、また、invitroにおいて測定される微弱な活性はNK及びLAK細胞
によるものであることが示される。
【0036】
(3.CT26-IL-2+細胞に誘導されるinvivo免疫応答)
次に、CT26-IL-2+細胞により引き起こされるCTL応答がinvivo免疫に関連するかどうか
を調べた。CT26-IL-2+細胞を1×106個までの最大量皮下注射しても、注射後8週間までに
腫瘍は認められなかった。これに対して、CT26親株細胞を注射したすべての動物において注射後2週間までに腫瘍が存在した(表1)。このように、BALB/cマウスは、CT26-1L-2+をCT26親株の3〜4けた多い量除去することができる。CT26-lL-2+細胞の除去が、局部的に生産されたIL-2によるCT26特異的エフェクタ細胞の活性化によって起こることを示すために、IL-2挿入断片を除去し全BPVベクター配列のみを有するプラスミドを用いてCT26細胞をト
ランスフェクトした。CTLL機能的活性測定によりlL-2を分泌しないことを確認したこれらのトランスフェクト細胞(CT26-neo-IL-2)は、トランスフェクトされていないCT26細胞と
同程度の割合でBALB/cマウス中に腫瘍を作った(表1)。さらに、左脇腹への1×106個のCT26-IL-2+細胞の注射は、反対側の脇腹における1×105個のCT26細胞の増殖を阻害しないこ
とが観察された。このように、CT26-IL-2によるIL-2生産の効果は当初は全身的というよ
り、むしろ局部的な免疫応答を刺激すると思われる。
【0037】
in vitroで測定したとおり、CT26-IL-2+細胞を用いた免疫化により2週間後には全身的
なCTLが誘導されるという結果を得たため、これがinvivoにおけるCT26親株細胞に対する
抗腫瘍応答と関連するかどうかを調べた。実際、CT26-IL-2手細胞の注入により、1x105個のCT26細胞に侵されたマウスは2週間完全に防御された(図2)。この防御は永続的ではなく、約50%のマウスにおいて免疫後4週間で腫瘍が発生した(図2)。CT26-lL-2+により免疫化
してから2週間後に他のBALB/c腫瘍(SS-5、RENCA)を注入したところ正常に増殖したことから、この防御は腫瘍特異的であると考えらる(データ示さず)。
【0038】
(4.CT26-IL-2+細胞はCD4+Tヘルパー機能をバイパスする)
T細胞ヘルペー機能の大部分はTリンパ球のCD4+8-サブセットの働きによるものであり
、MHCに制限されたCTL機能の大部分はCD4−8+サブセットの働きによるものであるため、次にCT26-IL-2+細胞の除去に対するこれらのサブセットのinvivoにおける選択的欠損の効果を検討した。過去の研究でCT26細胞が、インフルエンザ凝集素のような外来遺伝子によりトランスフェクトされることにより免疫抗原性を示すことが示されている(CT26-HA+;Fearon etal,,1988)。「助けられない」仮説は、CT26-IL-2+細胞により誘導される免疫応答の強化が、少なくとも部分的には、導入された外来の凝集素遺伝子産物に対してMHCク
ラスIIに制限されたエピトープに応答するCD4+ヘルパーT細胞に媒介されることを示している。CT26-HA+細胞が、CD4除去マウスから除去されないことはこの仮説を支持している(図3)。総括すると、これらの結果により、免疫化は抗腫瘍CTL応答の発生においてTh機能
を効果的にバイパスするという概念が支持される。
【0039】
(5.CD8+細胞はinvivoにおける腫瘍除去に必要である)
CD4-8+細胞を欠損したマウスはCT26-IL-2+細胞を除去することができず、これは、このT細胞サブセットがinvivoにおいて抗腫瘍応答に関与していることを示している(図3)。
しかし、腫瘍の増殖キネティクスにおいては、正常なBALB/cマウスにおけるCT26の増殖キネティクスと比較して大きな遅延があることは特筆すべきである。この部分的な応答が残存CD48+細胞の働きによるものである可能性はあるが、これらは初期腫瘍注入時及びinvivo抗体処理中のいずれにおいても、フロー血球計測解析により検出されなかった。CD4及びCD8の両方が欠損している場合でも腫瘍増殖において同様の遅延が認められた。このため
、IL-2応答性CD4+8-エフェクタ細胞集団も、invivo抗腫瘍応答に関与していると思われる。3種のIL-2応答性候補は、NK細胞、LAK細胞、及びγδT細胞受容体を有するT細胞である(PardoH eta1.,1987;Brenner et al。,1988;Raulet,1989)。これらの集団の細胞の大部分はCD4-8-であるため、これらはCD8欠損マウスにおいてまだ存在している可能性があ
る。退行腫瘍の組織学的解析に基づき、抗腫瘍応答に関与する他の潜在的エフェクタ細胞にはマクロファージやマスト細胞などがあることが判明した(データ示さず)。
【0040】
(6.IL-2生産黒色腫細胞によるCTLの発生及びinvivo免疫誘導)
全身的な免疫の誘導が、IL-2を分泌するよう構築された腫瘍の一般的な特徴であるかどうかを検討するため、BCMG-IL-2ベクターを用いて第二の低免疫抗原性腫瘍、B16黒色腫をトランスフェクトした。B16黒色腫は、C57BL/6由来の非常に悪性のメラニン細胞腫瘍である。トランスフェクション後、CTLL細胞に対する場合と同様の条件下で活性測定し、細胞と同等またはそれ以上の生物活性を有するIL-2を生産するG418抵抗性クローンを選択した(B16-IL-2+)。表2は代表的なクローンの結果を示している。少量のB16黒色腫細胞は同系
のC57BL/6マウス中に腫瘍を引き起こすが、B16-IL-2+細胞は完全に除去された。CT26腫瘍共存下では、B16-IL-2+細胞を注入されたマウスにおいて、Bl6親株腫瘍に対してより多くのCTL活性を生じた。B16-IL-2+細胞を注入されたC57BL/6マウスは、invivoにおいて、B16細胞に対して用量依存的に防御的免疫を形成する。この防御はCT26システムにおいて見られたものほどは大きくなく、1×106個のB16-IL-2+細胞で免疫化したマウスのうち約半数
において1x105個のB16親株細胞に暴露された後、最終的に腫瘍が発生した(表2)。
【0041】
B16黒色腫細胞におけるMHCクラスIの発現が非常に低い(CT26細胞における場合の約5〜10倍低い)ことは特筆すべきである(データ示さず)。これは、B16黒色腫細胞の増殖速度が速いこともある程度関与するが、B16においては、CT26システムと比較して、親株腫瘍に
対する防御効率が明白に低いことに起因すると思われる。
【0042】
ここに示した結腸腫瘍及び黒色腫のデータに加えて、IL-2にトランスフェクトされたマウスCBA-SP1肉腫及びラットDunning前立腺ガンにおいても同様の結果が近年観察された(
データ示さず)。広く異なる細胞起源の2種の腫瘍において類似の効果が認められたという事実は、ここに概説した原理が種々のガンに対して一般化できることを示唆している。しかし他の研究で、CBAマウス由来の自然発生哺乳類腺ガンにIL-2遺伝子をトランスフェク
トし、親株腫瘍の増殖に対してCBAマウスを免疫化するのに使用したところ、これらの研
究においては、IL-2+トランスフェクト細胞は親株腫瘍に対する際立った免疫性を誘導し
なかった。
【0043】
さらに、HAを発現する及び/またはIL-2またはIFN一γを分泌するいくかのトランスフェクト細胞も調製した。二重にトランスフェクトされた細胞は、腫瘍の免疫抗原性を強化すると考えられている。
【0044】
(例II:ガンマインターフェロンをコードする外来遺伝子によりトランスフェクトされた腫瘍細胞の作製および非特異的腫瘍抵抗性強化の実験)
以下の例は本発明の他の態様、恐らくTリンパ球以外の細胞に依存するメカニズムを通
して腫瘍抵抗性を非特異的に強化することが可能なサイトカインをコードする遺伝子による細胞のトランスフェクションを示している。以下の例では、ガンマインターフェロンをコードする遺伝子によりトランスフェクトされた腫瘍細胞をマウスに注射することにより腫瘍抵抗性の非特異的強化を行なった。さらに特定すると、IFNγを発現するマウスIFNγ遺伝子によりトランスフェクトされたSPIマウス腺ガン細胞(SP1/IFNγ)は同系の宿主中では増殖できず、ヌードマウス中で増殖する。SP1/IFNγ細胞の除去はlFNγ生産量に関連し、この応答の求心性アームにおけるT細胞の関与も考えられるが、初期的には非特異的細胞メカニズムにより媒介されると思われる。SP1はH2KKネガティブであるが、IFNγ生産時にクラスI抗原を発現する。しかし、クラスI MHCの発現は、発現の必要性はあると思われるが、腫瘍増殖を阻害するには不十分である。なぜなら、8U/m1のIFNγがクラス1抗原
を誘導可能であるにもかかわらず、腫瘍形成の阻害には>64U/m1のIFNγの分泌が必要だからである。同様の結果はマウス結腸ガンCT26(この腫瘍は構成的にクラスI MHC抗原を発
現する)についても得られ、これによりクラスI MHCの発現は、lFNγにより誘導される除去応答に対して必須ではないという主張が支持された。SP1/IFNγ細胞が親株SP1細胞に対して防御されないことにより、微弱または非免疫抗原性腫瘍細胞に対する防御応答の誘導には、IFNγ生産またはクラスIMHC発現以外の因子が必要であると考えられる。
【0045】
(A.材料および方法)
(1.マウス)
6週令〜8週令の雌CBA及びBALB/cマウスはFrederickAnimal Facility of National Cancer Instituteから入手した。
【0046】
(2.腫瘍)
SP1目然発生哺乳類腺ガンの起源は既に報告されている(Frostet al,1987)。SP1は、同
系マウス中で、皮下注射後即座に増殖し、その免疫抗原性は低く、クラスIMHC抗原を微量にしか発現しない。CT26結腸腺ガンはM.Brattainから入手した(Brattain et a1,!980)。MDW1はMDAY-D1リンパ腫の免疫抗原変異体である(Kerbe1、1979)。
【0047】
(3,培養条件)
細胞は、50,000Uのペニシリン及びストレプトマイシン、150mg L−グルタミン、20mM
4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、375mg重炭酸ナトリ
ウム、及び10%ウシ胎児血清(lrvineScientific, Santa Ana, CA)を含有するGIBCO RPMI1640培地中で培養した。すべての腫瘍は、Gen Probe RNAハイブリダイゼーション法により
周期的にMycoplasmaの存在を試験した;Mycoplasmaの混入は見られなかった。さらに、細
胞のマウス抗体生産も試験し(MicrobiologicalAssociates, Bethesda, MD)、13種のマウ
ス病原性ウイルスを検出した。
【0048】
(4.抗血清)
本研究に使用したモノクローナル抗体は以下のとおりである:マウス抗Dk/Kd(クローン15-5-SS)はDr. B. E. Elliott(Queen's University,Kingston, Ontario, Canada)の好意により取得した。マウス抗Kd(クローン16-1-11N)はLittonCompany(Charles, SC)から購入した。マウス抗Kd/Dkab(クローンH 100-27/55)、抗1-Ak(クローン14V18)、及び抗DkはCedarlaneCompany(Ontario, Canada)から購入した。マウス抗1-Ak抗血清はBecton Dickinson(San Jose, CA)より入手した。
【0049】
(5.invitro IFNγ処理)
組み換えマウスIFNγはGenentech,lnc.(San Francisco, CA)より入手した。3x105個の
腫瘍細胞を10cmプラスチック皿5枚に入れ、1〜100U/m1のIFNγと共に4日間培養した。4日目、IFNγ処理細胞を採取し、1〜100U/m1のIFNγと共にさらに3日間培養した。ついで、
それらの細胞についてクラス1またはクラスIIMHC抗原の発現を解析した。
【0050】
(6.フロー血球計測)
細胞表面のMHC発現の定量的解析はFACSを用いて行なった。ゴム製ポリスマンを使用し
て細胞を組織培養プレートからかきとり、マウス抗Dk、Dd、またはIAkまたはIAd抗体と共に4℃で30分間インキュベートした。洗浄後、細胞をFITC−結合ヤギ抗マウスIgG抗体と共に4℃で30分間インキュベートし、1%パラホルムアルデヒドで固定後一週間以内に血球計
測器を用いて観察した。
【0051】
(7.DNAによる細胞のトランスフェクション)
リン酸カルシウムとの共沈殿(Graham and van der Eb,1973)またはリポフェクチン試薬の使用(Felgner et al.,1987)のいずれかの方法でDNAをSP1またはCT26細胞にトランスフ
ェクトした。SP1-neo及びCT26/neo細胞系は、1μgのプラスミドベクターpSV2neoと1μgのマウス肝臓DNAの混合物をトランスフェクトすることにより取得した。SP1-IFNγ系は、SP1細胞を1μgのpSV2neo及び10μgのpGEM3-SVMuIFNγをトランスフェクトすることにより取得した。後者はSV40プロモータ及びマウスIFNγ遺伝子を含むpGEMベクターであり、Department ofImmunology at the M. D. Aderson Cancer CenterのDr. R. Suzukiの好意により提供された。geneticin中で選択した後、各プレートからのコロニーをプールし、IFNγ生産を検討した。
【0052】
(8.インターフェロン活性検討のための抗ウイルス活性測定)
IFN活性測定にはMoryらの方法(Moryet al.,1981)を使用した。この活性測定は、マウスLTK細胞中での水疱性口内炎ウイルスの増殖阻害に基づいている。対照群のウエルは、組
み換えIFNγまたは培地のみで処理した。実験に用いた細胞培養物の上清を採取して2倍希釈し、いくつのウエルが生存LTK細胞を含有しているかを計測することによりVSVウイルスの増殖阻害能を評価した。
【0053】
(9.細胞が媒介する細胞毒の評価)
細胞毒は、既に報告されているIIIIn-放出活性測定法(Wiltrout et al.,1978)により測定した。
【0054】
(10.ひ臓細胞の分離)
ナイロンウール吸着性(NWA)及び非吸着性細胞(NWNA)は、Juliusらにより報告された方
法(1973)で取得した。
【0055】
(B.結果)
トランスフェクション実験に先立ち、1FNγに応答してSP1細胞がMHCクラス1抗原を発現するかどうかを確定した。さらに、外来IFNγの添加が、SP1またはCT26細胞系に対して細胞増殖抑制効果を有するかどうかを決定した。1〜100UのIFNγを4日間、SP1またはCT26細胞の半融合性培養物に添加した。ついで、クラスI MHCの発現を測定し、細胞の生存及び複製を5日間毎日測定して非IFNγ処理細胞と比較した。CP1細胞は100U/mlものIFNγ中で
も正常に増殖する;しかし、CT26細胞の増殖は1000U/mlIFNγ中では17%阻害される。トラ
ンスフェクトされ、256U/mlIFNγ(6L)を分泌するSP1細胞の増殖速度は、SP1親株細胞のものと同じである。同様に、64U/mlIFNγを生産するCT26細胞は、CT26親株細胞と同じ増殖
速度を有する。
【0056】
図4は、特異的マウスモノクローナル抗体を使用してFACSにより評価した、SP1細胞におけるH2Kkの発現及びCT26細胞におけるH2Kdの発現を示している。H2Kkを発現するSP1は6〜7%以下にとどまったが、すべてIAkを発現した(データ示さず)。これと比較して、CT26細
胞は、クラス1及クラスII MHC抗体の両方を発現した(クラスIIのデータは示さず)。SP1
細胞を外来IFNγで処理しても、クラスII抗原の発現は変化しないが、抗Kk抗体について
は、FACS曲線の右側への著しい移行が即座に検出された。CT26細胞において構成的に発現しているクラス1またはlI抗原に、IFNγ処理を行なってもなんら効果はなかった。
【0057】
ついで、SP1細胞のクラス1発現に対する、外来IFNγの効果の持続性を決定した。これ
らの実験は、IFNγの持続的な生産及びクラスIMHC抗原の発現のための手段としてのIFNγによるトランスフェクションの実行の基礎となった。SP1細胞を、3日間100U/m1のIFNγで処理した。細胞を洗浄し、H2Kk発現を評価するか、または再度培養した。これを、IFNγ
を培地から除去してから24、48、72及び96時間後に繰り返した。図5はIFNγを培地から除去してから48時間以内にH2Kk発現がベースラインレベルに戻っていることを示している。lFNγ処理細胞をinvivoに注入した時、H2の発現が同様の減少を示すと考えるのが妥当で
ある。
【0058】
(1.クラスI MHC発現におけるIFNγトランスフェクションの影響)
トランスフェクション後、SP1及びCT26系の両方のIFNγ分泌を試験した。IFNγの分泌
量に基づき、3種のSP1-IFNγ細胞集団(1C、3C及び6L)を研究用に選択した。この結果を表3に示す。CT26/IFNγ細胞は同じ様にIFNγを生産したが、生産の度合いはSP1/IFNγ細胞
と比較して少なかった(256U/m1に対して8U/m1)。興味深いことに、3種のSP1/IFNγ細胞系すべてにおいて、MHCクラス1発現が同じ様に増加した(図6、CT26細胞に対する結果は以下に示す)。さらに、3種の系はすべて、トランスフェクトされていない親株細胞と同程度のクラスII MHC抗原(IAk)を発現した(データ示さず)。neoR遺伝子のみにトランスフェクトされたSP1細胞は、クラスI MHC抗原を発現しなかった。
【0059】
(2.invivoでの、腫瘍増殖におけるIFNγ遺伝子のトランスフェクション効果)
SP1/IFNγは皮下注射によりDBAマウスに注入した。これらの実験のいくつかからのデータを表3にまとめた。これらの細胞系は、さらにスクリーニングして得た5つの細胞集団(H2Kkを発現しないことからIFNγを生産しないと推測された)と比較して、著しいレベルのH2Kkを発現することから(図6)選択された。1C及び3Cは1×105の抗原投与用量で増殖した。これに対して、6L細胞は、1×106細胞を注入された14〜15動物中で増殖できなかったlSP1親株細胞系は103細胞を皮下注射しただけで増殖した。3種の細胞系すべてがMHC抗原を同レベル発現するにもかかわらず1C及び3C細胞系のみが活発に増殖することから、免疫抗原性はH2Kk発現よりはむしろIFNγ生産レベルに関与している(表3及び図6)。6L細胞はヌードマウス中で増殖しなかった。neoR遺伝子のみによりトランスフェクトされたSP1細胞は、トランスフェクトされていないSP1細胞と同様に増殖した(Kerbelet al.,1987)。
【0060】
(3.6Lに対する非特異的細胞毒応答)
表4は、生存6L細胞が、自己及び親株SP1腫瘍に反応して細胞毒応答を誘導することを示している。この応答は、ナイロンウール吸着性(NWA)ひ臓細胞に媒介されるが、ナイロン
ウール非吸着性(NWNA)細胞には媒介されない。SP1及び6L双方に対するNWAひ臓細胞の細胞毒性は、全ひ臓細胞集団が生成する細胞毒性よりも常に高かった。さらに、NWA細胞は、
非関連MDWl腫瘍細胞系に反応性を有した(その度合いは低かったが)。これらの結果は、非特異的メカニズムが6L細胞の除去に関連していることを示唆している。この見解は、我々の実験で抗CD4、抗CD8及び抗CD3抗体プラス補体によって免疫ひ臓細胞が除去された後、
ひ臓細胞毒応答が減少しなかったことによって支持された(データ示さず)。
【0061】
6L細胞の非特異的除去特性をさらに検討するために、1×106個の6L細胞を1×105個のSP1細胞と混合してCBAマウスの左脇腹に注入した。5週間後10匹のうち5匹において腫瘍が形成された。1×104個のSP1細胞を注入した同系CBAマウスにおいては2週間以内に腫瘍が形
成された。増殖した5つの腫瘍を採取し、組織培養を行ない2日間増殖させた後、geneticinに暴露した。すべてのケースにおいて、培養細胞はgenecitin存在下では増殖できなかったことから、これらは500μg/m1のgenecitinに感受性を示すSP1親株細胞であることが示
された(6L細胞は、もともとIFNγ遺伝子との共沈殿に使用されたneoRを有する)。SP1細胞と混合された6Lの増殖が著しく阻害されるという事実は、6L細胞に誘導された非特異的メカニズムが、invivoにおける増殖の阻害に、部分的には関与している可能性を示唆している。
【0062】
この結論は、CBAマウスを6Lにより免疫化してもSP1親株細胞の抗原投与に対する防御ができなかったという実験(表5)にも間接的に支持された。免疫化された動物の50%は、反対側の脇腹への1×104個の細胞の注入に対して防御された。しかし、免疫化された動物の100%において、わずか5×104個のSP1細胞により腫瘍が誘発された。さらに、左脇腹に6L、
右脇腹にSP1を同時に注入した動物においては、6L細胞は増殖できなかったが、SP1は、SP1細胞の増殖になんら影響を示さなかった。
【0063】
(4.クラスIMHC抗原発現の役割)
IFNγ生産の効果はクラスIMHC発現の強化に限られるのか、または局部的なIFNγの生産は宿主に対して他の効果を有するのかを検討した。6L細胞を6匹のヌードマウスに注入し
、腫瘍を形成させた。これら腫瘍のうち2腫瘍(6L-A及び6L-B)を採取して、再培養した。
ついでこれらの細胞系についてIFNγ生産及びH2発現を検討した。6L-BはIFNγを64倍多く生産しているにもかかわらず、6L-Aと6L-Bは同レベルのH2Kkを発現した(図7)。6L-A及び6L-Bを6つのCBAマウス群に再注入したところ、低レベルにIFNγを生産する6L-A細胞は、H2Kkを発現しているにもかかわらずすべての動物中で増殖した。これに対して、IFNγを高
生産する6L-B細胞は増殖しなかった。
【0064】
(5.CT26腫瘍)
ついで、クラスI MHC抗原を構成的に発現するマウス腫瘍細胞のIFNγ発現の効果を決
定した。CT26マウス腺ガン細胞にpGEM-SVMu-IFNγプラスミドをトランスフェクトしたと
ころ、トランスフェクトされた細胞の初期プールは8U/m1のIFNγを分泌した。皮下注射で1×105、または静脈注射で1×104注入した場合、CT26/IFN7細胞は最終的には増殖したが
、その速度はCT26親株細胞と比較して非常に遅かった。
【0065】
CT26/IFNγ細胞がinvivoで増殖できないことは、それらがIFNγを生産することに直接
関与しており、in vitroにおいて8U/m1のIFNγがCT26の増殖に影響を与えないことからIFNγが細胞変性に直接影響することによるという説明はできない。CT26/IFNγは、invivo
において増殖が抑制され、それと同時に、免疫化されたマウスのひ臓中で検出される細胞毒性応答を誘導した(データ示さず)。CT26親株細胞は検出可能な細胞毒性応答を示さない。
【0066】
(例III:選択された免疫強化ポリペプチドをコードする外来遺伝子と、特異的な誘導
により宿主細胞を破壊できるポリペプチドをコードする第二の外来遺伝子により同時にトランスフェクトされた免疫強化腫瘍細胞の作製)
以下の例は、本発明の他の態様、すなわち望ましい場合に選択的に破壊される免疫抗原性腫瘍細胞の作製、について記述している。本発明のこの態様においては、細胞は、望ましいポリペプチド(例えば免疫強化ポリペプチド)をコードする選択された遺伝子と、宿主細胞を破壊(死滅)することができるポリペプチドをコードする第二の遺伝子によりトランスフェクトされる。「破壊遺伝子」または「致死遺伝子」と呼ばれる第二の遺伝子は、非常に誘導性の高いプロモータにより制御されていることが望ましい。このように、トランスフェクトされた細胞の一部またはすべてを宿主細胞から除去することが望まれた時点で(例えば、トランスフェクトされた腫瘍細胞の投与から約14日後)、誘導可能なプロモータを直接的または間接的に活性化して致死ポリペプチドの合成を刺激することにより(例え
ば、ポリペプチドの転写を開始するのに十分な量の誘導物質を宿主に投与する)、このよ
うな除去を開始することができる。この態様に特異的な例を以下に記述する。
【0067】
(A.免疫強化ポリペプチドをコードする遺伝子の選択及びトランスフェクション)
所定の状況における使用に最も有利な免疫強化遺伝子の選択は、例えば腫瘍の型、局在、及び患者の免疫特性などを含む、いくつかのパラメータに依存する。このようなポリペプチドをコードする遺伝子は、現在入手可能であるか、または例えばSambrookらによるMolecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold SpringHarbor Press,1989(本発明の参考
文献に挙げられている)において記載されている技術のような現在の分子生物学的技術を
用いて取得することができる。一般に、標的細胞型のトランンスフェクションは、基本的には上述の例1に記載の方法に従って行なった。以下にさらに詳細に記載した例において
は、トランスフェクションのために選択された遺伝子は、免疫強化ポリペプチド、IL-2、インターフェロンガンマ、及びインフルエンザ凝集素をコードしている。
【0068】
(B.特異的に誘導される致死遺伝子システムの選択及びトランスフェクション)
(1.適切なプロモータの選択)
本発明に関連して、恐らく、例えば、サイトメガロウイルス、SV40、またはアクチンなどのようなプロモータを使用することができるが、ここでは好適な実施例として、インターフェロン誘導性6-16プロモータを選択した。正常な血液中のIFNレベルは非常に低いた
め、このプロモータを使用にはいくつかの利点がある。このため、IFNの注入は、非常に
高い特異性でこの遺伝子に働く。
【0069】
ヒトの、IFNに制御された遺伝子6-16は、IFNα/βに強く制御される。6-16の0.9Kb cDNAは、アミノ末端にシグナル配列を有する13キロダルトンの蛋白質をコードしている;し
かし、その機能及び細胞内における局在(分泌型または膜結合型)は不明である(Kelly、1986)。未処理細胞においては、細胞質においても、核においても6-16 mRNAは検出されな
い。6-16 mRNAの合成は、インターフェロンアルファ処理の後5分で検出される;核における合成は3時間でピークに達し、8〜12時間後に元のレベルまで低下する(Friedman,1984,KelIy,1986)。しかし、6-16mRNAは、転写後制御を受け、核における合成終了後12時間経過しても細胞質内でその存在が検出された(Friedman,1984)。6-16プロモータの強い制御は
、6-16プロモータに選択マーカー遺伝子を連結することによりIFN抵抗性変異株を取得す
る手段として使用した(また、これにより低レベルの非制御発現の戻し選択を行なうこと
もできる)(PeIlegrinL1989)。
【0070】
6-16のプロモータ領域(Porter,1988)、cis-acting lFN制御配列及びtrans-acting因子(これにより相互作用を起こす)をクローニングし、5'デリーション解析、トランスフェクション実験、DNaseフットプリンティング、ゲル分離、invitro転写、及びプロモータのレポ一夕遺伝子への連結によりこれらの部分の特定を行なった(Dale,1989. Porter,1988)、(Chemajovsky,1989)。
【0071】
6-16プロモータは、IFN制御配列を含む40塩基のダイレクトリピート(-168〜-89)を有し、これによりIFNが異種プロモータにより誘導されることが確認された(Chernajovsky,1989,Porter,1988)。この領域は、分子量55キロダルトンの核蛋白質を結合しており、in vitroにおいて、IFNの制御を受けるDNA一蛋白質複合体を形成することができる(Chernajovsky,1990)。
【0072】
-450に位置する他のcis-acting因子は、80キロダルトンの核蛋白質と構成的に結合しており、ダイレクトリピートと結合することによりこのプロモータの制御発現を低下するよう作用する。この因子自体嫌いかなる転写機能も示さないものと思われる。
【0073】
さらに、6-16のプロモータは、プロモータの非コード鎖に位置するCCAATボックス及びTATAボックスを有する(Porter,1988)(Chernajovsky,1989)(Chernajovsky,1990)。
【0074】
(2.致死遺伝子の選択)
本発明に使用できる致死遺伝子には、細胞内代謝を阻害または停止する(特にDNA合成、転写及び複製のような重要な細胞機能の阻害、または他の必要な細胞機能の停止につながるもの)種々の蛋白質をコードする遺伝子が含まれる。本発明の例において有用と思われ
る致死遺伝子の例として、レシン ベ一夕鎖、百日咳毒などをコードする遺伝子がある。以下に記述するとおり、ある特定の致死遺伝子の選択は、その遺伝子が導入される細胞の生理学的特性に制限されることが多い。
【0075】
増殖の速い腫瘍または細胞に対しては、DNA合成を特異的に阻害する媒体が有効である
。しかし、例えば増殖速度が遅く、活発に増殖しない腫瘍などに対しては、このようなDNAインヒビタはあまり有効ではない。このような場合は、例えば蛋白質の翻訳のような、
細胞の他の機能を特異的に阻害する媒体がより適している。このような細胞型のそれぞれに適した致死遺伝子システムの例を以下に記述する。
【0076】
DNA合成阻害に対しては、単純疱疹ウイルス由来の酵素、チミジンキナーゼをコードする遺伝子が好ましい。この酵素はチミジンアナログのgancyclovir(GANC)(1-(-deoxy-2-fluoro-β-D-arabinofuranosyl)-5-ethyluracyl)、をリン酸化し、この物質はその後細胞細胞キナーゼによって5'三リン酸に変換されDNAポリメラーゼを阻害する(Mansour,1988,Manuri, 1987)。HSV-tk及び細胞内亡k酵素を発現する細胞に対するGANCの選択的効果は、HSV-tk蛋白質の基質要求性が、細胞内tkの基質要求性よりも緩いという事実に基づいている。このため、HSV-tkを発現する細胞はGANCの毒性効果に対して感受性がある;正常細胞は抵抗性がある。
【0077】
蛋白質合成阻害に対しては、ジフテリア毒(DT-A)のα鎖をコードする遺伝子が好ましい。DT-A ADP-ribosylates elongation factor2は蛋白質合成を阻害し、細胞を死亡させる。この遺伝子は、エラスターゼ1遺伝子のエンハンサ/プロモータに連結した時、トランスジェニックマウス中ですい臓細葉細胞を特異的に破壊するのに効果的である(PalmiteL1987)。
【0078】
(3.選択的に誘導可能な致死遺伝子構築物の構築)
以下の予言的な例は、本発明に関連して選択された細胞のトランスフェクションに適した遺伝子構築物の構築について記述している。
【0079】
(a.6-16プロモータにより制御される単純疱疹ウイルスtk遺伝子の構築)
プラスミドpAGO由来の、k遺伝子のコーディング配列及びポリァデニレーションシグナ
ルの全領域(57塩基からなる5'非翻訳領域を含む)を含有するBglII-PvuII(1775bp)断片を
単離し、塩基一4までの全プロモータ領域を制御する6-16プロモータを有するXhoI-HpaII(2.3Kb)断片と共にクローニングした。クローニングは3つの工程により行なった。まず、HSVtkのBglII-PvuII断片をpUC18のBamHI一SmaI部位にサブクローニングし、プラスミドTKprを作製した。SmaI及びEcoRIを用いて消化し、360及び4Kbの二つの断片が得られることを確認した。
【0080】
ついで、6-16プロモータのXhoI(その上流にpUC18のHindIIIからSalIまでのポリリンカ
ー部位を有する)一HpaII断片をpUC18のAccI-HindIII部位にサブクローニングして、プラ
スミド6-16-XhoI-HpaIIを作製した。最後に、プラスミド6-16-XhoI-HpaIIからHindIII-XbaI断片(2。3Kb)を単離し、TKprのXbaI一HindIII部位に挿入してプラスミド6-16TKを作製
することにより6-16のプロモータをtk遺伝子の上流にクローニングした。このプラスミドにおいては、tk遺伝子は6-16プロモータの制御を受ける。
【0081】
(b.6-16プロモータにより制御されるジフテリア毒α遺伝子の構築)
6-16プロモータにより制御されるDT-A遺伝子の作製にも6-16TKのクローニングと同様の方法を用いた。まず、プラスミドpDT-A(Universityof ColoradoのDr. I. Maxwellの好意
により提供された)から795bpのBglII断片(EcoRI及びHindIIIに挟まれている)をサブクロ
ーニングした。pDT-Aはジフテリアαの全コーディング配列を有する。毒性ポリペプチド
は、α鎖(24キロダルトン)及びβ鎖(38キロダルトン)の両方を有するポリ蛋白質であるため(Maxwell,1987,Leong,1983)、α鎖のみを発現するよう以下のとおりDNAを改変した。
【0082】
イニシエ一夕メチオニンコドンを、GTGからATGに置換し、最初の2アミノ酸をAsp-Proに改変した。さらに、DNAのカルボキシ末端に、small SV40t抗原由来の合成Ser-Leu一終始
コドンとスプライスシグナル(ポリアデニレーションシグナルは含まない)を含むようにした(Maxwell,1986, Palmiter,1987)。
【0083】
DT-A挿入物をクローニングするために、DT-AをHindIIIで消化し、ついでSV40の940bpHindIII-EcoRI断片(T抗原のポリアデニレーション配列を有する)に連結した。挿入物をEcoRIで再度消化した。その結果、挿入物は両端にEcoRI部位を有し、DT-A断片はその3’に
ポリアデニレーションシグナルを含むことになる。この1.7Kb断片を6-16プロモータプラ
スミドのEcoRI部位にクローニングした。挿入の方向性はBglIIで消化することにより確認した。6-16プロモータ中の一603、及びDT-A795bp断片の両端に各1個の計3個のBglII部位
がある。正しい方向で挿入されている場合、BglII消化物は、6-16プロモータの600断片、DT-Aの795断片、及び残りのプラスミドとなる。逆向きの場合は、消化断片は、795(DT-A
断片)及びL5Kb(940bpのSV40 3'及びポリアデニレーション配列、及び603bpの6-16プロモータ、及び残りのプラスミドを含む)となる。
【0084】
(4,選択された遺伝子の標的細胞への導入)
選択された免疫強化及び致死遺伝子は、当業者に既知のいかなる方法で細胞に導入されてもよい。しかし好適な実施例においては、細胞へのトランスフェクションにはリン酸カルシウム共沈殿法(Graham, 1973)、リポフェクションまたはエレクトロポレーションを用いた。選択された免疫強化遺伝子(例えばHAまたはサイトカイン)によりトランスフェクトされた細胞は、次に致死遺伝子によりトランスフェクトされる。または、逆に、最初に致死遺伝子構築物をトランスフェクトしてもよい。致死遺伝子構築物は、致死遺伝子に加えて、トランスフェクト細胞を検出及び選択するための適当なマーカー及び選択遺伝子を含むことが好ましい。これらの中でも細菌由来β一ガラクトシダーゼ遺伝子を含むマーカープラスミドpHC110(HaH,1983〉、及び選択マーカーpSV2hygro(Blochlinger,1984)が好ましい。分子比15=15;1で、細胞にこれらのマーカrをトランスフェクトし、400μg/m1のハイグロマイシンB中で選択した。さらに、選択されたクローンは、gancyclovirまたはIFNに感受性を示し、X-ga1で発色する(Price,1987,Thompson,1989)。
【0085】
(5.前臨床的研究)
ジフテリア毒とgancyclovirの毒性の分子メカニズムは異なるため、異なる細胞型にお
いて細胞毒応答を得るのに必要なgancyclovirまたはIFN濃度を決定するために、数種の異なる活性測定法を行なう必要があると思われる。以下に記述する生物活性測定法を行なった。
【0086】
(a.野生型tkによりトランスフェクトされた細胞を死滅するのに必要なgancyclovir濃
度の検討)
1コピーのHSVtk遺伝子を含むマウス胚幹部(stem)細胞のプレーティング効率に影響する(90%以上)ことが知られているganeyclovir濃度は10-6〜5×10-6Mである。HSV-tkによりトランスフェクトされた腫瘍細胞の90%以上を死滅させるのに必要なgancyclovir濃度は、プレーティング効率活性測定、及び[3H]チミジンの取り込み活性測定により決定することができる。プレーティング効率活性測定は、段々に濃度を上げたgancyclovirと共に104個の細胞を10cm2プレートにプレーティングすることにより行なった。3日毎に培地を取換え、新たなgancyciovirを添加した。9日後、細胞をGiemsaにより染色し、各プレートにつき数個のコロニーについて検討を行なった。[3H]チミジンの取り込み活性測定は、HSV-tk腫瘍細胞を用いて、生体液について行なった以下の実験と同様の方法で行なった。
【0087】
(b.6-16tk破壊ベクターによりトランスフェクトされた細胞を死滅させるのに必要なg&ncyclovir及びIFN濃度の検討)
GANCのDNAへの取り込みは、細胞外及び細胞内HSVtk酵素濃度の両方に依存すると思われる。IFNの添加によりtk高生産が誘導された細胞は、GANCに対する感受性が増加している
。この相乗作用は、これら細胞毒媒体の両方の濃度を増加させていく実験(この時片方の
濃度は一定にしておく)により検討された。毒性の増加は、[3H]チミジンの取り込み活性
測定とプレーティング効率活性測定の両方により評価した。
【0088】
(c.生体液中のgancyclovir濃度の決定)
血清などのような生物試料中のgancyclovir濃度を迅速に検討するために、HSVtk遺伝子によりトランスフェクトされ、HAT培地中で選択されたLTK細胞を用いて[3H]チミジンの取り込み活性測定を行なった。活性測定は、チミジン合成酵素によるdUMPからのdTMPの合成を阻害するが、HGPRTプリンサルベージ経路を経由してAMP及びGMPを合成することができ
るよう、アミノプテリン(1.8ng/m1)及びヒポキサンチン(1.36ng/m1)存在下で行なった。
このような条件下では、[3H]チミジンの取り込みは、リン酸化され、DNAポリメラーゼを
阻害する三リン酸派生物へとプロセシングされた後のgancyclovirによるDNA合成阻害の量に主に依存し、[3H]チミジンの取り込みは内因性のUMP/TMPプールには依存しない。細胞
はgancyclovirに対して極度に感受性が高いため、これらの細胞が、内因性の哺乳類tk遺
伝子を含んでいないという事実は非常に有用性が高い。
【0089】
DNA合成の活性測定は以下の通り行なった。細胞を、96穴マイクロプレートに、各ウエルにつき15〜25×103細胞ずつ接種した。細胞を3連で、ヒポキサンチンとアミノプテリン存在下で、既知濃度のgancyclovirを添加するか、または添加せずに培養した。24〜28時間後、細胞を[3H]チミジン915mCi/m1;25Ci/m1;1 Ci+37GBq;(Amersham)により1時間標識した。ついで、細胞をリン酸緩衝生理食塩水により2回洗浄し、5%トリク口口酢酸により4℃で30分間処理し、5%トリクロロ酢酸を用いて3回洗浄した。沈殿物を0.1m1の0.2MNaOHに37℃で30分間溶解し、0.01m1の2MCH1で中和した;放射活性はβ一シンチレーションカウンタを用いて決定した。生物試料由来のgancyclovir濃度は、試料の2倍希釈液中で検出することができ、標準物質の阻害曲線と比較することにより阻害の程度を求めた。
【0090】
(d.6-16DT-Aプラスミドによりトランスフェクトされた細胞の蛋白質合成阻害及び死滅に必要なIFN濃度の検討)
90%以上の細胞毒性を発生させるのに必要なIFNの用量と、暴露時間を検討するために、高感度の比色定量法を用いて、6-16 DT-Aプラスミドによりトランスフェクトされた細胞における蛋白質の合成阻害を測定した。6-16 DT-Aプラスミド、pSV2neo(G418中における選択用)、及びpCH110(初期SV40プロモータの制御を受けている、細菌由来のβ一ガラクトシダーゼ酵素を含有する)によりトランスフェクトされた腫瘍細胞をG418中で培養するこ
とにより選択した。抵抗性を示す細胞クローンを単離し、サザンプロッティングにより、すべてのプラスミドが存在することを確認した。選択されたクローンは、IFNにより死滅
し、検出可能なレベルのβ一ガラクトシダーゼ活性を有する。
【0091】
ジフテリア毒の活性化に起因する蛋白質合成の阻害により、β一ガラクトシダーゼ量が減少するが、これは、基質pNPG(p-nitrophenyl一β一D-galactopyranosie)を用いた比色
定量法により検出ずることができる。この、β一ガラクトシダーゼ基質は、β一ガラクトシダーゼにより分解されると黄色く発色し、この黄色い生成物の蓄積は、Elisaプレート
中で220nmの波長により測定することができる。この酵素的システムはinvivoにおいても
有用である。β−ガラクトシダーゼ遺伝子を含有する細胞の存在は、基質X-ga1(分解すると、細胞中に青い沈殿物を生成する)を用いることにより、組織学的試料中で目で確認す
ることができる。このたあ、この定量法により、IFN処理の後、動物組織中に致死遺伝子
構築物を有する腫瘍細胞が存在するかどうかをその場(組織中)で決定することができる。
【0092】
(6.invivo実験)
以下の予言的な例では、種々のマウス腫瘍モデルにおける本発明の応用を記述している。
【0093】
CT26細胞を、免疫強化遺伝子及び/または致死遺伝子存在下、または非存在下で同系BALB/c動物に注入する。同様に、SP1及び以下に記述するRENCA細胞を、それらの同系宿主で
あるCBA及びBALB/cマウスにそれぞれ注入する。致死遺伝子を発現する細胞の免疫抗原性
を評価するために、1×103〜107個の細胞を、動物の右脇腹に注入し、同時にトランスフ
ェクトされていない親株細胞を左脇腹に注入する。動物の50%を死亡させるのに必要な腫
瘍細胞の数を、Reedand Muenchの方法(Reed,1938)により、既に報告されている通りに行
なった(Fearon,1988)。
【0094】
(7.モデル)
(a.H4A)
H4A細胞系は、哺乳類腺ガンにインフルエンザウイルス凝集素(HA)遺伝子をトランスフ
ェクトすることにより作製した。HAを発現する細胞を、既に報告されている通り、FluorescenceActivated Cell Sorting(FACS)(Fearon et al,1989)を用いて4回選択し、H4A細胞
系を取得した。H4Aは、同系宿主中で、1×104用量の抗原投与に対して増殖することがで
きないが、1×105H4A細胞を皮下注射した場合、増殖することができる。細胞が増殖する
にもかかわらず、動物は細胞毒性T細胞応答を示すが、この応答は不十分であるか、または腫瘍の増殖を相殺するには遅すぎる。
【0095】
CBAマウスにH4Aまたは、HSV-tkまたはDTAのいずれかでトランスフェクトされたH4Aを注射する。その結果生じる腫瘍が異なる大きさ(2〜4mm,6〜8mm,1mmまたは2mm)になった時、すべての動物を以下のように処理することにより、注入された細胞を殺す。
【0096】
注入腫瘍細胞 処理
H4A なし
H4A GANC
H4A IFN一α
H4A GANC+IFN-α
H4A-HSVtk なし
H4A-HSVtk GANC
H4A-HSVtk IFN-α
H4A-HSVtk GANC+IFN-α
H4A-DTA なし
H4A-DTA GANC
H4A-DTA IFN-α
H4A-DTA GANC+IFN-α
IFN一α(Hoffman-LaRoche,Nutley N.J.)の初期用量は、連続した2週間において週に3回、5×104ユニット/皮下注射を与えることとする。GANC(Syntex,Palo Alto, CA)は、当初、20mg/kg/日を皮下注射で投与する。
【0097】
ついで、初期腫瘍が除去された動物について:
a)ひ臓の細胞毒性T細胞応答を検討する:
b)1×104、1×105、または5×105の親株細胞による抗原投与を行ない、親株腫瘍の抗原投与に対する免疫性を検出する。
【0098】
(b.CT26/IFNγ)
CT26マウス結腸ガンにIFNγをトランスフェクトし、1FNγを発現させると、部分的に免疫抗原性を示す。用量1×105個のCT26細胞の抗原投与により、正常動物は3週間以内に死
亡する;しかし、CT26/IFNγ細胞を注入した動物の60%は、8週以上生存する。これらの細
胞は免疫抗原性を有すると思われるが、これらが生じる応答は、腫瘍の増殖を阻害するには不十分であることがある。さらに、活性型CT26/IFNγにより免疫された動物は、親株CT26の抗原投与に対して防御されない。さらに、放射線照射されたCT26/IFNγ細胞も、親株細胞の抗原投与に対して防御されない。
【0099】
(c.RENCAモデル)
RENCAは、BALB/cマウスの腎細胞ガンである。同系マウスの副腎に5×104RENCA細胞を注入すると、2週間でau1cmの腫瘍が形成する。腫瘍を有する腎臓を外科手術により除去すると、すべての動物において2週間以内に肺への広範囲な転移が起きる。
【0100】
(C.ヒトの免疫療法)
ヒトの治療には必要な制限があるため、本発明は、ヒト患者にはまだ試験していない。しかし、例えば、結腸、乳房、卵巣、黒色腫、及び肉腫のような選択された腫瘍を有するヒトにおける本発明の使用はよく検討する余地がある。一般に、本発明は、個別の初期腫瘍を除去されているが、再発の危険性が高い患者の治療に選択されることが好ましい6通
常の状況では、患者からの腫瘍細胞は単離され、適切な免疫強化遺伝子及び致死遺伝子によりトランスフェクトされる。もちろん、免疫強化遺伝子が、インターロイキンー2のよ
うなサイトカインである場合、ヒトのサイトカインをコードする遺伝子を使用することが望ましい。トランスフェクションの後、細胞を選択し、選択された遺伝子により適切にトランスフェクトされている細胞系を取得する。
【0101】
腫瘍細胞抗原の投与に先立ち、外科手術による切除・放射線照射などの、腫瘍を軽減する処置が施されていることが理想的である。ついで、選択された期間(通常、約2週間)、
宿主を細胞により免疫化する。この期間中、懸案となっている特定の腫瘍に対する患者の免疫状況を評価するために適切なアッセイを行なう。免疫化が局部的である場合、すべての症例で全身的な免疫性が観察されるとは限らないことは認識されるべきであり、そのため、このような研究のためには、腫瘍部位からリンパ球を取得する必要がある。いかなる場合においても、宿主がその腫瘍細胞に対して効果的に免疫化される所定の期間経過後、残存している免疫化用腫瘍細胞は、致死遺伝子により除去される。使用される、選択的に誘導可能なプロモータがここに記述した6-16プロモータである場合、致死遺伝子の転写開始には十分であるが、患者に対して急性毒性を示すほど高くない用量のアルファインターフェロンを患者に投与する。アルファインターフェロンは、ワクチンを導入した部位に局部的に投与することもできる。単純疱疹チミジンキナーゼ遺伝子が使用される場合、gancyclovirの投与が必要である。チミジンキナーゼ遺伝子が6-16プロモータにより制御され
ている場合、gancyclovir及びインターフェロンアルファの両方の投与が保証される。こ
れらの投与のそれぞれについての絶対的なパラメータは現在までに確認されていないが、ここに提供されたことを助けとして当業者により容易に確認されるであろう。
【0102】
前述の本発明の説明は、特許事情の都合上、また説明及び解説を目的とするために、特定の実施例に関している。しかし、本発明の範囲と精神に反することなく多くの改変及び変更を行なうことができることは当業者に明白である。
【0103】
例えば、外来遺伝子を標的細胞に導入するのに多くの方法を使用することができる。さらに、本発明に関連して、種々の選択された遺伝子をトランスフェクションに使用できる。例えば・選択的に誘導可能な致死遺伝子の調製のような、本発明の特定の態様は、免疫療法に限らず、in vivoにおいて、遺伝子組み換え細胞を特異的に破壊したい場合に広範
囲に応用することができる。さらに、本発明によるトランスフェクトされた細胞系は、exvivoにおける免疫化にも有用である。例えば、Rosenbergにより発行された米国特許第4,690,915号に記載の方法による、患者への注入のためのLAK細胞の活性化、または、細胞毒
性を示すTリンパ球のinvitroでゐ活性化や、IL-2依存性細胞系などのサイトカイン依存性細胞系の増殖促進などである。単に、致死遺伝子の転写及び翻訳を誘導するだけで、トランスフェクトされた細胞のinvitro培養物を一掃することができることは、さらなる有用
性がある。このため、技術の範囲内で適切に変更を行なうことにより、利用することができることは明白である。以下の特許請求の範囲において、本発明の真の精神及び範囲の中でこのようなすべての同様な改変及び変更を網羅することは、出願人の望むところである。
【0104】
(参考文献)
以下の参考文献は、本発明の特定の態様を理解または実行する上で助けになるであろう。このリストに含まれる参考文献は、本発明に関連する従来の技術を代表するものではない。
【0105】
【化1】

【0106】
【化2】

【0107】
【化3】

【0108】
【表1】

【0109】
【表2】

【0110】
【表3】

【0111】
【表4】

【0112】
【表5】

【0113】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択されたポリペプチドをコードする第一の外来遺伝子と、細胞を死滅させることができる第二の選択されたポリペプチドをコードするDNAに機能的に連結したプロモータを含む第二の外来遺伝子を有する、脊椎動物由来の細胞。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−165490(P2009−165490A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105739(P2009−105739)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【分割の表示】特願2007−188896(P2007−188896)の分割
【原出願日】平成3年9月12日(1991.9.12)
【出願人】(591217403)ボード オブ リージェンツ, ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム (49)
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【出願人】(398076227)ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティー (35)
【Fターム(参考)】