説明

抗菌・防かび性エポキシ樹脂組成物を含むライニング材、及びそれを用いた排水管のライニング工法

【課題】老朽化した排水管を、開削、取替工事を伴うスクラップ・アンド・ビルトする必要をなくし、短期間で、かつ低コストで老朽化排水管を延命化することができ、しかも悪臭・不快臭やかびの発生を長期にわたって防止することができるライニング材、及びそれを用いるライニング工法を提供する。
【解決手段】抗菌性ゼオライト、防かび剤を含有する抗菌・防かび性エポキシ樹脂組成物を含む排水管用ライニング材、及び排水管内部表面に前記ライニング材を塗布する排水管のライニング工法であって、抗菌剤としては銀イオンが好ましく、塗布方法としては、排水管内部を負圧下に維持してライニングを行う工法が好ましい。さらに、前記排水管内部表面に、予めプライマーを塗布し、その後、前記排水管用ライニング材を塗布することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新品の排水管、または建物に既設の排水管等の延命化を目的として、管内部表面に塗布するために用いられる、抗菌・防かび性エポキシ樹脂組成物を含むライニング材、及びそれを用いるライニング工法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、各地に建築以来20年以上経過したマンションやビルが多数あり、それらの排水管は経時使用により有機物や油脂等が徐々に管壁に付着、堆積して、内部が狭窄状態になっている。これを、そのまま放置すると、堆積が進行して、完全に閉塞したり、排水管の腐食が進行して孔(ピンホール)が貫通し、漏水に至る等の老朽化現象が起こる。
その対策として、定期的な洗浄が行われているが、排水管の肉厚が薄くなったり、孔が貫通する等の老朽化した排水管では、スクラップ・アンド・ビルトや、排水管内部表面の保護被膜の形成等の改修・更正が求められる。この状況は、マンションだけでなく、一般のビルや産業大型施設において設けられた埋設排水管や高層の排水管も同様である。
上記のうち、老朽化した排水管のスクラップ・アンド・ビルトは、開削、取替工事が伴うため、工期は長く、住民に長期間不便を与えるうえに、資材や経費がかさむ。一方、これら老朽排水管内部表面に保護被膜を形成させて延命化する更生工法は、短期間で、かつ低コストで老朽化排水管を延命化でき、かつ開削工事を伴わないため、建物の構造躯体に損傷を与えることがなく、注目されている。
この更生工法は、基本的には既存の老朽化した排水管内を洗浄、及び必要により予備研磨後、各種治具を用いて、合成塗料等をその表面にライニングして保護被膜を形成する工法であり、いままで多くの工法や、そのための治具等が提案されている。
【0003】
たとえば、建築物配管系における補修対象の施工配管の先端部から補修用樹脂を注入し、基端側に向けて気流で樹脂を送風、運搬しながら管内面に樹脂ライニング塗装を形成する工法が提案されている(特許文献1参照)。
また、吸引装置により排水管内部を負圧化し、塗料を投入した後に、バルーンを前記排水管内の上流端部より投入し、バルーンの排水管内の移動により、塗装を行って保護皮膜を形成する工法が提案されている(特許文献2参照)。
さらに、近年、老朽化配管からの悪臭・不快臭の発生防止等の要求がある。このような老朽化配管からの悪臭・不快臭の発生は、配管内に生息するバクテリアや菌類が原因であり、このようなバクテリアや菌類が発生しないように、抗菌剤入りの防腐塗料を塗布する方法も検討されているが、従来工法では、効果が一時的であった。
この一時的効果の原因が、添加された抗菌剤が塗膜中に均一に分散されているため、効果発現が期待される管の内壁表層部には一部しか抗菌剤が存在せず、大部分の抗菌剤は塗膜中に内包されてしまい、効果発現には寄与しない点にあるとして、ライニング塗装後に、抗菌成分を含むシリカ等の機能性フィラーを、その表層にさらに塗布する工法が提案されている(特許文献3参照)。
【0004】
しかし、上記特許文献1記載のライニング工法では、排水管内の塗料を単に気流で送風運搬するだけであるため、塗膜が厚くなると共に、塗膜表面が凹凸になり、塗膜形成後に有機物や油脂等が付着、堆積する。また、悪臭対策は考えられていない。
特許文献2記載のライニング工法では、排水管の口径がすべて同一であれば有効であるが、排水管が異なる口径の管材で連結されている場合、その部位で球体の移動が滞ってしまい、逆に球体に対し口径がかなり大きければ、その部位の塗膜が適正な肉厚に形成されないと言った課題がある。また、悪臭対策は考えられていない。
さらに特許文献3記載の工法では、悪臭・不快臭の発生防止には、効果が発揮されるが、下地塗装後にさらに機能性フィラーを塗布する工程が必要となるので、作業効率が良くなく、また工期もその分長くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−24783号公報
【特許文献2】特開2007−152186号公報
【特許文献3】特開2004−321953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、老朽化した排水管に対しては、開削、取替工事を伴うスクラップ・アンド・ビルトを行う必要をなくし、短期間で、かつ低コストで、老朽化排水管や新品排水管を延命化でき、しかも悪臭・不快臭の発生やかびの発生を長期にわたって防止することができるライニング材、及びそれを用いるライニング工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記先行技術の有する課題を解決するために、本発明者らが鋭意研究開発した結果、抗菌剤成分を担持したゼオライト及び防かび剤を用いることにより、エポキシ樹脂に混合しても、長期間抗菌・防かび効果を発揮することを見出し、本発明を完成させたものであり、
(1)抗菌剤を担持したゼオライト、及び防かび剤を含有する抗菌・防かび性エポキシ樹脂組成物を含むことを特徴とする排水管用ライニング材、
(2)ゼオライト中の抗菌剤の担持量が、0.01〜10質量%である上記1に記載の排水管用ライニング材、
(3)抗菌・防かび性エポキシ樹脂組成物中のゼオライトの含有量が、エポキシ樹脂組成物に対して0.1〜7質量%である上記1又は2に記載の排水管用ライニング材、
(4)抗菌・防かび性エポキシ樹脂組成物中の抗菌剤の含有量が、エポキシ樹脂組成物に対して0.001〜0.5質量%である上記1〜3のいずれかに記載の排水管のライニング材、
(5)抗菌剤が、銀化合物である上記1〜4のいずれかに記載の排水管用ライニング材、
(6)防かび剤が、有機系防かび剤、又は有機・無機複合防かび剤である上記1〜5のいずれかに記載の排水管用ライニング材、
(7)抗菌・防かび性エポキシ樹脂組成物が、アミン系、フェノール系、酸無水物系、ポリアミド系、及びイミダゾール系硬化剤から選ばれる少なくとも一種の硬化剤を含む上記1〜6のいずれかに記載の排水管用ライニング材、
(8)抗菌剤を担持したゼオライト、及び防かび剤を含有する抗菌・防かび性エポキシ樹脂組成物を含むライニング材を、排水管内部表面に塗布することを特徴とする排水管のライニング工法、
(9)ゼオライト中の抗菌剤の担持量が、0.01〜10質量%である上記8に記載の排水管のライニング工法、
(10)抗菌・防かび性エポキシ樹脂組成物中のゼオライトの含有量が、エポキシ樹脂組成物に対して0.1〜7質量%である上記8または9に記載の排水管のライニング工法、
(11)抗菌・防かび性エポキシ樹脂組成物中の抗菌剤の含有量が、エポキシ樹脂組成物に対して0.001〜0.5質量%である上記8〜10のいずれかに記載の排水管のライニング工法、
(12)抗菌剤が、銀化合物である上記8〜11のいずれかに記載の排水管のライニング工法、
(13)防かび剤が、有機系防かび剤、又は有機・無機複合防かび剤である上記8〜12のいずれかに記載の排水管のライニング工法、
(14)抗菌・防かび性エポキシ樹脂組成物が、アミン系、フェノール系、酸無水物系、ポリアミド系、及びイミダゾール系硬化剤から選ばれる少なくとも一種の硬化剤を含む上記8〜13のいずれかに記載の排水管のライニング工法、
(15)排水管内部を負圧下に維持して、ライニング材を塗布する上記8〜14のいずれかに記載の排水管のライニング工法、
(16)排水管内部表面に、予めプライマーを塗布し、その後、ライニング材を塗布する上記8〜15のいずれかに記載の排水管のライニング工法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、老朽化した排水管に対しては、開削、取替工事を伴うスクラップ・アンド・ビルトを行う必要をなくし、短期間で、かつ低コストで、老朽化排水管や新品排水管を延命化でき、しかも悪臭・不快臭の発生や、かびの発生を長期にわたって防止することができるライニング材、及びそれを用いるライニング工法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明は、抗菌剤を担持したゼオライト、防かび剤、エポキシ樹脂、及びその硬化剤を含有する抗菌・防かび性エポキシ樹脂組成物を含む排水管用ライニング材である。
本発明に使用することができる抗菌剤としては、ゼオライトに担持することができる抗菌剤であれば特に限定されない。例えば銀、銅、チタン、亜鉛等の金属化合物が挙げられるが、このうち、効果と持続性の観点から、特に銀化合物が好ましい。このような銀化合物としては、水溶性の銀化合物、例えば、硝酸銀、亜硝酸銀、酢酸銀、塩素酸銀、過塩素酸銀、乳酸銀、及びフッ化銀等が挙げられる。なお、炭酸銀、塩化銀、ヨウ化銀及び硫酸銀等、水難溶性銀化合物でも、アンモニア等を添加することによって銀錯体を形成して溶解する銀化合物も使用できる。
【0010】
一方、前記抗菌剤を担持するゼオライトは、アルミノ珪酸塩による三次元骨格構造を持つもので、たとえばゼオライトA、ゼオライトP、ゼオライトX、ゼオライトY、モルデナイト等を適用することができるが、実用的にはゼオライトAが好ましい。
前記ゼオライトの平均粒径は、エポキシ樹脂と混合する際、ほぼ均一に分散させる必要があるため、0.1〜10μm程度、好ましくは0.5〜3.0μm程度とする。
ゼオライトに対する抗菌剤の担持量としては、前記金属化合物の場合、通常、金属として、0.1〜10質量%程度とする。
抗菌剤をゼオライトに担持させる方法としては、前記ゼオライトと抗菌剤を含む水溶液とを接触させてゼオライト中のカチオン成分と、水中の金属イオンとをイオン交換する方法が挙げられる。なお、この抗菌性ゼオライトの市販品としては、シナネン社製「ゼオミック」等があり、これを使用してもよい。本発明では、抗菌剤を担持したゼオライトを抗菌性ゼオライトと称することがある。
【0011】
本発明に使用することができる防かび剤としては、微生物を死滅させないまでも、それらの成長や発育を抑制・阻止する薬剤であり、各種市販の防かび剤を使用できる。防かび剤には大別すると、有機系防かび剤、無機系防かび剤、有機系防かび剤と無機系防かび剤を混合してなる有機・無機複合防かび剤がある。有機系防かび剤としては、イミダゾール系化合物、ベンゾイミダゾール系化合物、チアベンタゾール系化合物(TBZ)、オルトフェニルフェノール系化合物(OPP)、ピリジン系化合物、ピラゾール系化合物、チアゾール系化合物、有機ヨウ素系化合物、及びピロチオン系化合物等が挙げられる。無機系防かび剤としては、酸化亜鉛系金属化合物、マグネシウム溶融亜鉛系化合物等が挙げられる。有機・無機複合防かび剤としては、銀系防かび剤と上記有機防かび剤との混合物や、上記有機系防かび剤と無機系防かび剤の混合物等が挙げられる。
上記防かび剤については、長期間性能を維持できることから、有機系防かび剤や有機・無機複合防かび剤が好適に使用できる。
【0012】
上記の抗菌性ゼオライト等が配合されるエポキシ樹脂としては、特に限定されるものではなく、公知のエポキシ樹脂が使用できる。エポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、カテコール型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂等の二価のフェノール類から誘導されるエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン−フェノール変性型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール−フェノール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール−クレゾール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂型エポキシ樹脂、ビフェニル変性ノボラック型エポキシ樹脂等の三価以上のフェノール類から誘導されるエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0013】
またエポキシ樹脂として水系溶媒を含む場合には、水溶性エポキシ樹脂等を使用することも可能である。後述する硬化剤等にウレタン分解物を含む場合には、ウレタン分解物との相溶性の観点から、室温で液体の水溶性エポキシ樹脂を使用することが好ましい。
このような水溶性エポキシ樹脂の具体例としては、エチレンプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ラウリルアルコールグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリコールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリコールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル等が例示される。
これらのエポキシ樹脂は単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0014】
本発明では、上記抗菌性ゼオライト、及び防かび剤をエポキシ樹脂に添加・分散させるが、その際、必要に応じて、骨材、分散剤、塗膜強化剤、硬化促進剤、シランカップリング剤、粘度調節剤等の、公知の各種の添加剤を必要に応じて適宜配合してもよい。
骨材としては、溶融シリカ、結晶性シリカ、アルミナ、タルク、黒鉛、ガラス、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マグネシア、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、雲母等の無機粉体が挙げられ、これらの形状は、平板状(フレーク状)に形成されたものが好適に用いられる。
分散剤としては、ステアリン酸カルシウムやステアリン酸マグネシウム等が例示される。また、塗膜強化剤としては、炭素繊維や、ガラス繊維、アラミド繊維等の無機繊維が挙げられる。
上記硬化促進剤としては、例えば、1,8−ジアザ−ビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7、トリエチレンジアミン、トリス(2,4,6−ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン類、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラ−n−ブチルホスホニウム−o,o−ジエチルホスホロジチオエート等のリン化合物、4級アンモニウム塩、及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、あるいは、併用してもよい。
硬化促進剤の含有率は、上記エポキシ樹脂に対して、0.01〜8.0質量%であることが好ましく、より好ましくは、0.1〜3.0質量%である。
シランカップリング剤としては、例えば、シラン系、チタネート系等の、従来から公知のシランカップリング剤が挙げられる。
粘度調節剤は、例えば、日本アエロジル社製 商品名「アエロジル」のような活性シリカが挙げられる。
【0015】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂を硬化することができる硬化剤を含む。このような硬化剤としては、建築用の硬化剤として市販されているポリメルカプタンと三級アミン、ウレタン分解物、ジスルフィド系メルカプタン樹脂、アミン類、ポリサルファイド変性エポキシ樹脂、変性ポリオキシアルキレンアミン、ポリチオール樹脂、及びm−キシレンジアミンの変性ポリアミン等が、比較的低温で硬化反応を起こすので、好ましい例として示される。
なお、ウレタン分解物は、ウレタン樹脂を熱及びまたは分解剤によって分解して得られた物質であり、ウレタン分解物を硬化剤として含む場合には、粘度の高いウレタン分解物の粘度を調整するために、脂肪族アミン硬化剤を用いることが好ましい。また、エポキシ樹脂との反応速度を調整するためには、活性水素当量が150以下の脂肪族アミンを用いることが好ましい。このような脂肪族アミンとして、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ヘキサメチレンジアミン、ポリオキシエチレンジアミン、メチルペンタンジアミントリメチルヘキサメチレンジアミン、ジエチレングリコールジアミノプロピルエーテル等が挙げられる。
【0016】
本発明においては、前記の建築用硬化剤以外にも、一般にエポキシ樹脂用硬化剤として使用されるアミン化合物、フェノール系、酸無水物系、ポリアミド系、及びイミダゾール系硬化剤等を用いることも可能である。
そのようなアミン化合物としては、例えばN−アミノピペラジン、N−ベンジルエチレンジアミン、トリエチレングリコールジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミン、グリセリルポリオキシプロピレントリアミン、ビス(パラアミノヘキシル)メタン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジメチルアミン、ジエチルトルエンジアミン、ジシアンジアミド、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’―ジアミノジフェニルスルホン、m−キシリレンジアミン等が挙げられる。
【0017】
フェノール系硬化剤としては、例えばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、トリアジン変性フェノールノボラック樹脂等が挙げられる。
酸無水物系硬化剤としては、例えば、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水ナジック酸、無水グルタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
イミダゾール系化合物としては、2−エチル−4−メチルイミダゾール、及び、2−メチルイミダゾール等が挙げられる。
これらの硬化剤は1種のみを使用しても2種以上を併用してもよい。
【0018】
本発明のライニング材は、エポキシ樹脂と硬化剤、抗菌性ゼオライト、及び防かび剤を、スタティックミキサー等の適当な混合手段を用いて混合することにより得られる。
エポキシ樹脂と硬化剤との配合割合は、エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対して、硬化剤におけるエポキシ基と反応可能な酸無水基や水酸基等の活性基が0.5〜1.5当量、好ましくは、0.7〜1.2当量となるような割合とする。
抗菌剤を担持したゼオライトは、予めエポキシ樹脂に混合しておいてもよく、また、エポキシ樹脂と硬化剤とを混合する際、前記ゼオライトを同時に、または順次添加しても良い。
エポキシ樹脂組成物中の、抗菌剤を担持したゼオライトの含有量は、エポキシ樹脂組成物に対して、通常、0.1〜7質量%、好ましくは、2〜5質量%とする。
前記エポキシ樹脂組成物中に含まれる抗菌剤の含有量は、エポキシ樹脂組成物に対して0.001〜0.5質量%、好ましくは、0.001〜0.1質量%である。
また、エポキシ樹脂組成物中に含まれる防かび剤の含有量は、エポキシ樹脂組成物に対して0.1〜7.質量%、好ましくは、2〜5質量%である。
【0019】
本発明は、前述した抗菌性ゼオライト、及び防かび剤を含有する抗菌・防かび性エポキシ樹脂組成物を含む排水管用ライニング材を用いて、排水管内部表面に塗布する排水管のライニング工法であり、以下に、そのライニング工法を説明する。
本発明のライニング工法の対象となる排水管の材質としては、鋳鉄管や、亜鉛メッキ鋼管、炭素鋼管、ステンレス鋼管、銅管等の金属系の他に、硬質塩化ビニル管等の樹脂系、硬質塩化ビニルライニング鋼管等が挙げられる。
排水管は、上記のような老朽化した排水管でもよいし、新品の排水管でもよいが、以下では、マンションの既設の老朽化排水管を対象に、負圧下にライニング材を塗布するライニング工法を例にとって、本発明のライニング工法を説明する。
【0020】
マンション排水管は、各階層を縦貫し、各階層に排水管より左右方向に延びる横引き配管には、台所や洗面所の排水口に接続された排水枝管を分岐している。
本発明のライニング工法においては、先ず延命化の対象となる排水管の上方、及び下方の部位に開口部を設けて、好ましくは最初に、排水管内面をクリーニングする。
このクリーニングにあっては、先ず、前記の排水管の下方側の開口部に管内を吸引する吸引装置を接続し、該吸引装置を作動させ、排水管内部に空気を高速で流通させて排水管内周面の付着物を乾燥させる。その後、排水管の上部開口部より研磨材(天然石、アルミナ、ケイ砂、及びセラミック粉末等)を投入して、吸引装置の吸引力によって生ずる高速気流で上流から下流へと搬送し、その搬送過程で、排水管内を回転させながら排水管内周面を研磨する。除去された排水管内周面の付着物及び研磨材は、系外に取り出される。
ついで、洗浄水を排水管内に投入する。クリーニングにより、管内面をより滑らかにする。
なお、クリーニングは、上述した研磨材を高速気流によって排水管内周面を研磨する手法に限定されず、治具洗浄法や、高圧洗浄法等の他のクリーニング法を採用してもよい。しかし、高圧洗浄法等、加圧方式では、生成したピンホールをさらに拡大する可能性があるので、上記の負圧式洗浄法が好ましい。
上記洗浄後、吸引装置により、排水管内に空気を高速流通させて排水管の研磨された内周面を乾燥させる。
【0021】
次に、好ましくはプライマー塗装を行う。この場合、対象排水管が、硬質塩化ビニル管や硬質塩化ビニルライニング鋼管等の場合には、塩化ビニル用プライマーを、それ以外の場合には、エポキシ樹脂用プライマーを選択する。
プライマー塗装は、前記同様に管内に負圧を与えながら、前記上部開口部からプライマーを供給し、管内を均一に流すことにより行われ、これにより、管内にプライマーのライニング層が形成される。
【0022】
前記プライマー層が半乾き状態になったところで、本発明のライニング材を用いて、ライニング塗装を施工する。上部開口部に、ギアポンプ付スタティックミキサー等のライニング材供給装置を連結し、所定の割合となるように、エポキシ樹脂と硬化剤とを計量して供給する。その際、抗菌性ゼオライトや、前記の任意成分を同時又は順次供給する。
前記エポキシ樹脂組成物中に含まれる抗菌剤の含有量は、エポキシ樹脂組成物に対して0.001〜0.5質量%、好ましくは、0.001〜0.1質量%である。
また、エポキシ樹脂組成物中に含まれる防かび剤の含有量は、エポキシ樹脂組成物に対して0.1〜7質量%、好ましくは、2〜5質量%である。
こうして得られたライニング材が、上記排水管内部を前記吸引装置で吸引することにより発生した負圧によって、管内を均一に分散して、薄く引き延ばされると同時に、硬化反応が起きる。その結果、排水管内周面全体に、平滑で薄肉なライニング材による塗膜が形成される。
排水管内周面全体に塗膜が形成された後には、自然乾燥してもよいが、必要に応じて、排水管内に温風を送り、乾燥を早めてもよい。その結果、排水管内に形成された塗膜が乾燥し、硬化した塗膜が形成される。
前記塗膜厚は、通常0.2〜5mm程度とする。なお、前記のクリーニング、乾燥、プライマー塗装、及びライニング塗装において、系内に発生させる負圧としては、いずれも0.01〜0.05MPa程度が好ましい。また、必要に応じて、各種治具を補助的に使用することができる。
【0023】
以上のように、本発明においては、排水管内部に形成された抗菌性ゼオライト、防かび剤を含むライニング層により、排水管の延命化が図られ、しかもライニング層が水と接触すると、水中のミネラル分とイオン交換されて、極微量の銀イオン等の抗菌剤成分が水中に放出される。放出された抗菌剤成分の微生物に対する抗菌作用により、微生物の増殖を抑制することが可能となり、悪臭の発生も防止される。この抗菌剤成分の極微量の放出は長期間続くので、抗菌・防臭効果や防かび効果も長期間続く等、極めて優れた効果を発揮する。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を実施例、比較例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらによってなんら限定されるものではない。
実施例1
以下の成分をスタティックミキサーに供給し、室温下に約5分間混合攪拌して、ほぼ均一なライニング材を得た。
・エポキシ樹脂(JAWWA−K−138相当品、 商品名:T24-SL−トルネードライニング塗料・エポキシ樹脂、つまりぬきにじゅうよん社製) 4.5kg
・硬化剤(商品名:T24-SL−トルネードライニング塗料・硬化剤、つまりぬきにじゅうよん社製) 0.9kg(エポキシ樹脂:硬化剤=5:1)
・銀担持ゼオライト(銀担持率 2.5質量%、平均粒径2μm、商品名:ゼオミック、シナネンゼオテック社製)、 0.135kg (銀:610ppm 組成物全 体に対する含有量)
・防かび剤 (メチル=ベンゾイミダゾール−2−イルカーバメートが担持された酸化 亜鉛 商品名:アモルデンTSM−32、大和化学工業社製) 0.135kg
・分散剤(ステアリン酸カルシウム) 0.54g
・骨材(ガラスフレーク、日本板硝子社製) 0.1kg
次に、こうして得られたライニング材を、長さ10cm、幅5mのステンレス鋼表面に、塗膜厚が5mmとなるように、はけ塗りし、1日間立てた状態で放置した。その後、塗膜状態を観察した結果を表1に示す。
なお、曲げ試験はJIS K7203、及び衝撃試験はJIS K5400による。
【0025】
【表1】

【0026】
次に、上記で得られたライニング材を用いて抗菌性能の試験を行った。
試験法はJIS Z2801,5・2項プラスチック製品等の試験方法による。
試験菌株は黄色ブドウ球菌(NBRC12732)、及び大腸菌(NBR3972)である。
前記ライニング材を塗布した試験片の表面に、1/500NB普通ブイヨンで調整した前記菌液を滴下し、フイルムで密着させて35℃で保存した。24時間後、供試片上の菌液について、生菌数を測定した。
結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

ここで、
検体1:本発明の抗菌剤を担持したゼオライトを添加しない試験片
検体2:本実施例1に従って得られたライニング材を塗布した試験片
【0028】
以上の表1及び表2から、本発明のライニング材により形成された塗膜は、強度が十分であり、かつ銀の担持量が1質量%の抗菌ゼオライトを、エポキシ樹脂組成物に対して2質量%添加した場合において、抗菌作用が十分に発揮されていることが分かる。
【0029】
実施例2
実施例1にて用いたライニング材により防かび効果の評価試験を実施した。試験方法はJIS Z2911(2000年度版)A法により、使用したかびは「黒こうじかび(UBRC6341)」で、けん濁溶液滴下量0.1mlで、保存温度29±1℃、保存日数4週間で行った。この試験片を検体4した。検体3はブランクであり、結果を表3に示す。
【0030】
【表3】

評価0:肉眼及び顕微鏡下でかびの発育が認められない。
評価2:菌糸の発育が肉眼で認められるが、発育部分の面積は試料全面積の25%を超えない。
【0031】
表3から、有機系の防かび材を使用した本発明のライニング材は優れた防かび効果を有することが分かる。
実施例3
実施例1で用いたライニング材で抗菌性ゼオライトの添加量を3質量%、防かび剤の添加量を3質量%とした検体5、抗菌性ゼオライトの添加量を3質量%、防かび剤の添加量を5質量%とした検体6について「かび抵抗性試験」を行った。
試験方法
JIS Z2911 プラスチック製品の試験(方法A)。無機塩寒天培地上に試料を貼付し、湿潤剤添加無機塩溶液の入った5菌株の混合胞子懸濁液を噴霧した。28±1℃、90%RH以上で28日間培養し、試料上のかびの生育を観察し評価した。結果を表4に示した。
【0032】
【表4】

【0033】
評価法
表中:(−);かびの生育は肉眼、顕微鏡下ともに認められない。
(±):かびの生育は肉眼では認められないが、顕微鏡下では認められる。
かび抵抗性
表示:0=肉眼、顕微鏡下ともにかびの発育は認められない。
1=肉眼ではかびの発育が認められないが、顕微鏡下で認められる。
この試験では、防かび剤の添加量を5質量%とした検体6では防かび性を完全に発揮することが判明できた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のライニング材及びライニング工法は、排水管内部に強固な抗菌・防かび性ライニング塗膜を形成することができるので、長期間にわたって排水管の延命化が図られ、しかも水中に放出された極微量の抗菌剤、防かび剤成分により、微生物の増殖や悪臭発生、かびの発生が防止される等、優れた効果を発揮し、既設または新品の排水管に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌剤を担持したゼオライト、及び防かび剤を含有する抗菌・防かび性エポキシ樹脂組成物を含むことを特徴とする排水管用ライニング材。
【請求項2】
ゼオライト中の抗菌剤の担持量が、0.01〜10質量%である請求項1に記載の排水管用ライニング材。
【請求項3】
抗菌・防かび性エポキシ樹脂組成物中のゼオライトの含有量が、エポキシ樹脂組成物に対して0.1〜7.0質量%である請求項1又は2に記載の排水管用ライニング材。
【請求項4】
抗菌・防かび性エポキシ樹脂組成物中の抗菌剤の含有量が、エポキシ樹脂組成物に対して0.001〜0.5質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の排水管のライニング材。
【請求項5】
抗菌剤が、銀化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の排水管用ライニング材。
【請求項6】
防かび剤が、有機系防かび剤、又は有機・無機複合防かび剤である請求項1〜5のいずれかに記載の排水管用ライニング材。
【請求項7】
抗菌・防かび性エポキシ樹脂組成物が、アミン系、フェノール系、酸無水物系、ポリアミド系、及びイミダゾール系硬化剤から選ばれる少なくとも一種の硬化剤を含む請求項1〜6のいずれかに記載の排水管用ライニング材。
【請求項8】
抗菌剤を担持したゼオライト、及び防かび剤を含有する抗菌・防かび性エポキシ樹脂組成物を含むライニング材を、排水管内部表面に塗布することを特徴とする排水管のライニング工法。
【請求項9】
ゼオライト中の抗菌剤の担持量が、0.01〜10質量%である請求項8に記載の排水管のライニング工法。
【請求項10】
抗菌・防かび性エポキシ樹脂組成物中のゼオライトの含有量が、エポキシ樹脂組成物に対して0.01〜10質量%である請求項7または8に記載の排水管のライニング工法。
【請求項11】
抗菌・防かび性エポキシ樹脂組成物中の抗菌剤の含有量が、エポキシ樹脂組成物に対して0.001〜0.5質量%である請求項8〜10のいずれかに記載の排水管のライニング工法。
【請求項12】
抗菌剤が、銀化合物である請求項8〜11のいずれかに記載の排水管のライニング工法。
【請求項13】
防かび剤が、有機系防かび剤、又は有機・無機複合防かび剤である請求項8〜12のいずれかに記載の排水管のライニング工法。
【請求項14】
抗菌・防かび性エポキシ樹脂組成物が、アミン系、フェノール系、酸無水物系、ポリアミド系、及びイミダゾール系硬化剤から選ばれる少なくとも一種の硬化剤を含む請求項8〜13のいずれかに記載の排水管のライニング工法。
【請求項15】
排水管内部を負圧下に維持して、ライニング材を塗布する請求項8〜14のいずれかに記載の排水管のライニング工法。
【請求項16】
排水管内部表面に、予めプライマーを塗布し、その後、ライニング材を塗布する請求項8〜15のいずれかに記載の排水管のライニング工法。

【公開番号】特開2011−133037(P2011−133037A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293242(P2009−293242)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(511056552)株式会社タイコー (2)
【Fターム(参考)】