説明

抗菌性ペプチドおよびその類似体

広範囲にわたる作用および低い溶血性活性を有する、抗菌性ペプチドおよびその多量体の類似体が記載されている。特に、本ペプチド分子は、減少した細胞毒性および低い溶血率を有し、多数の細菌種に対して高い抗菌活性を示す。本発明の分子は、一般的な抗生物質に対して耐性を示す菌株により引き起こされた感染に対する、治療薬および補助薬として有効に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
緒言
本発明は、広範囲にわたる作用および低い溶血活性を有する、抗菌性ペプチドおよびその多量体類似体に関する。特に、本発明は、減少した細胞毒性および低い溶血率を有し、多数の細菌種に対して高い抗菌活性を示すペプチド分子に関する。有利には、本発明の分子は、一般的な抗生物質に対して耐性を示す菌株により引き起こされた感染に対する、治療薬および補助薬として使用できる。
【0002】
本発明のペプチドは、広いスペクトルを有する抗菌性剤として機能する、直鎖状および任意の化学的、物理的および/または生物学的な形で多量体化された合成および/または組換えペプチドの形である。
【背景技術】
【0003】
抗菌性ペプチドは、多くの生物種の先天的防御の重要な1つの構成成分であり、抗体および/または細胞媒介性応答が十分に活性化される前でも、感染に対する免疫系の防御の第一線を構成する。
【0004】
現在、天然抗菌性ペプチドは800を超える数になり、ほかにも多数、合成的に調製されている。(オンラインカタログは、次のウェブサイトで見出すことができる:http://www.bbcm.univ.trieste.it/~tossi/antimic.html)。
【0005】
天然配列由来の一部のペプチドは、医薬開発が行われている(1)。
【0006】
天然抗菌性ペプチドは、組成物およびアミノ酸の長さの両方で、多数で異質な群を構成する。最も広く知られている天然抗菌性ペプチドは、セクロピン、マガイニン(magainin)、タキプレシン(tachyplesin)、プロテグリン(protegrin)、インドリシジン(indolicidin)、デフェンシンおよびブホリン(buforin)である。ペプチドの長さは、通常アミノ酸12から35個の範囲で、様々な二次構造を有している。ペプチドの立体配置的特性に基づき、これらは5つの部類に分類された(2):
1.αヘリックス構造を有する:セクロピン(3)。
2.1つまたは2つの特異的な残基、例えばインドリシジンのトリプトファン(4)、またはペプチドPR39のアルギニンおよびプロリン(5)が前面に出て構成されている。
3.ジスルフィド架橋を有する:バクテニシン(bactenicin)(6)。
4.比較的強固なβシート形成に導く多数のジスルフィド架橋を有する:デフェンシン(7)。
5.GIP由来のペプチド(胃抑制ペプチド)(8)のような、他の生体機能に関して知られている、より大きな特質を有するポリペプチド誘導体。
【0007】
抗菌性ペプチドで示される二次構造とは無関係に、これらのペプチドが共有する特性は、両親媒性の性質であり、これは疎水性アミノ酸群と正に荷電したアミノ酸群は、異なる領域に空間的にまとまった構造をとる能力のためである。抗菌性ペプチドの疎水性ならびに陽イオン性の性質により、ペプチドを選択的に、主として負に荷電するリン脂質から成る細菌の細胞膜と相互作用させることができる。
【0008】
抗菌性ペプチドの作用機序は、まだ十分に説明されていないが、大部分のこれらの化合物の活性を説明する、Shai-Matsuzaki-Huang(SMH)(9、10、11)モデルとして知られる、モデルが提案されている。モデルは、ペプチドと外側の膜(カーペット(carpeting))との相互作用に続き、通過と、場合によっては細胞内標的へのペプチドの拡散を可能にする環状孔の形成を伴う脂質分子の置換による膜自体の構造の変化を提案する。いくつかのペプチドは、グラム陰性菌の外側の膜を不安定化する効果と解毒効果の両方に働く一定の親和力で、リポ多糖類(LPS)(12)を結合できることが明らかになっている。
【0009】
したがって、セクロピンのDとLの鏡像異性体が、同程度に活性を保持する(13、14、15)という事実で認められるように、抗菌活性を伴う大部分のペプチドは、非特異的メカニズムにより明らかに作用している。この事実は、レセプタ-リガンド型の立体特異的な相互作用があるのかもしれないという仮説を排除する結果となり、グラム陰性細菌およびグラム陽性細菌、酵母菌および真菌類、腫瘍細胞、ならびに一部のウイルス(HIVおよびHerpes Simplex)に対する、天然ペプチドの多様な作用を説明できるであろう。
【0010】
一般に、SMHモデルによると、膜レベルで作用するペプチドは、マイクロモルの濃度で微生物に対して有効である(1)。しかし、ナイシンのような一部の例外があり、ナイシンは、細菌膜のペプチドグリカンの前駆体であるLipid IIに高親和性で結合する、ラクトコッカス属の細菌により産生される14個のアミノ酸のペプチドである。この相互作用の特異性は、ナノモル濃度(16)においてさえもナイシンの抗微生物効果を立証する。
【0011】
臨床用に使用される抗菌性ペプチドに関しては、投与される生物に対する毒性から宿主を保護するために、作用機序での選択性が重要である。抗菌性ペプチドは、細菌および真菌類とは異なるリン酸脂質組成物を示す宿主生物の細胞の膜に対して、一般に親和力が弱い。特に、哺乳類の細胞質膜中に一般に存在する、双性イオンのリン脂質、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、またはスフィンゴミエリンに富む二重層は、正味電荷で一般に中性である(9、11)。さらに、一般に標的の膜中にコレステロールが存在することにより、脂質二重層の安定化か、またはコレステロールとペプチド間での相互作用のいずれかが原因で、抗菌性ペプチドの活性が減少する。
【0012】
臨床用の抗菌性ペプチドの重要性は、抗生物質耐性の差し迫った問題を解決するかもしれないペプチドの作用機序にも関連する。抗菌性ペプチドの標的が細菌膜なので、細菌は、細胞膜の脂質の組成および/または構成を変えて、膜を再設計する必要があり、これは多分大部分の細菌種に対して「犠牲の大きい」解決策であろう。したがって抗菌性ペプチドは、広範囲の抗生物質の新しいクラスになる一番の候補である。
【0013】
しかし、これらの天然ペプチドの一部(例えばメリチン)は、特に溶血性であり、またプロテアーゼ、特にペプチダーゼの存在により、血中でのペプチドの安定性が低いために短い半減期を示すので、抗菌性ペプチドのin vivoでの使用に関するいくつかの問題はまだ解決されていない。
【0014】
組合せライブラリーの使用は、抗菌活性を有する新しい「前駆化合物」を選択できる最新の効果的な方法で、「前駆化合物」を非常に多数の種々の有望なペプチドから選択する。ペプチドライブラリーが複雑であるほど、非常に有効な化合物を同定する可能性が高い。このために、3つの異なった組合せライブラリーが使用できるが、当業者はペプチドに関する他のレファレンス情報源を特定しうる。すなわち、
1.固相上で化学的合成により得られるペプチドライブラリー(17)。
2.溶液中で遊離化合物の混合物として化学合成により得られるペプチドライブラリー(18)。
3.フィラメントファージの表面で発現されるペプチドライブラリー(19)。
3の方法と固相でのペプチド化学的合成との組合せで、本発明の分子の発見が可能となった。
【特許文献1】米国特許第5,229,490号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の著者らは、細菌膜と相互作用でき、したがって天然抗菌性ペプチドに関して提案された作用機序に従う抗菌性効果を発揮する可能性のあるペプチド配列を同定した。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、本発明の目的は、アミノ末端からカルボキシル末端まで、以下のアミノ酸配列、QEKIRVRLSA、QAKIRVRLSA、QKKIRVRLSA、KIRVRLSAまたはこれらの任意の誘導体のうちの1つを有する抗菌性ペプチドであって、1つのアミノ酸残基が、1つのアラニン残基に置換されているか、もしくは1つの正に荷電するアミノ酸が、別の正に荷電するアミノ酸に置換されている抗菌性ペプチドである。
【0017】
好ましくは、このペプチドは、アミノ末端からカルボキシル末端まで、以下のアミノ酸配列、AKKIRVRLSA、QAKIRVRLSA、QKAIRVRLSA、QKKARVRLSA、QKKIAVRLSA、QKKIRARLSA、QKKIRVALSA、QKKIRVRASA、QKKIRVRLAAのうちの1つを有する。より好ましくは、ペプチドは、アミノ酸配列QKAIRVRLSAを有する。あるいはペプチドは以下のアミノ酸配列、QRKIRVRLSA、QKRIRVRLSA、QRRIRVRLSAのうちの1つを有する。
【0018】
ある実施形態では、ペプチドは、直鎖状であり、好ましくは、ポリアクリルアミドの骨格上で、デキストランユニットの骨格上で、またはエチレングリコールユニットの骨格上で多量体化している。好ましい実施例では、ペプチドは、以下の式で示される多抗原性ペプチド(MAP)の形状である。
【0019】
【化1】

【0020】
ここで、Rは請求項1から4に記載のペプチドであり、Xは三官能基分子であり、m=0または1であり、m=0ならばn=0であり、m=1ならばn=0または1である。
【0021】
好ましくは、Xは少なくとも2つの官能性アミノ基を有するアミノ酸であり、より好ましくは、Xはリジン、オルニチン、ノルリジンまたはアミノアラニンである。
【0022】
あるいは、Xはアスパラギン酸またはグルタミン酸である。
【0023】
あるいは、Xはプロピレングリコール、コハク酸、ジイソシアネートまたはジアミンである。
【0024】
本発明のペプチドは、抗菌活性を有する薬剤の調製に用いられる。当業者は、適切な投与形態および用量を選び、適切な希釈剤、補助剤および/または賦形剤を選択するであろう。好ましい形態は、目薬、うがい薬、局所用の溶液である。
【0025】
本発明のペプチドは、抗菌活性を有する消毒薬および/または洗浄薬製品の調製にも用いられる。
【0026】
本発明のペプチドは、食品および/または化粧品および/またはホメオパシー製品の調製のために防腐剤としても使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
結果
抗菌活性を有するペプチドの選択と改変
本著者らは、ランダムな配列を、大きな変動性(約1010)で有するペプチドのファージライブラリーを作成して用いた。個々のペプチドは10個のアミノ酸残基によって形成されている。特異的なリガンドの選択は、大腸菌TG1株の全細胞のPBS溶液(OD600は約0.1)とともに、全ライブラリーをインキュベートすることによって作成した。1時間インキュベートした後、細菌を遠心分離し上清を除去した。PBS-Tweenで数回洗浄した後、遠心分離および上清の除去を行って、非特異的に細菌表面に結合するかまたは、細菌膜に対し低親和性のペプチドを表示する全てのファージを除去した。膜に結合したファージの解離を促すため、グリシン溶液(0.2M、pH2.2)を、10分間、細菌と特異的なファージが入っている試験管に添加した。さらに遠心分離を行った後、溶出したファージが入っている上清を採取した。選択したファージを、細菌細胞で増幅し、さらに2回の選択に用いた。この過程の最後に、特異的なファージの存在を、ELISAアッセイによって確認した。DNA解析により、両親媒性特性および陽性の正味電荷を有する可能性のある配列、すなわちQEKIRVRLSA(L1)が優性であることが認められた。文字は、IUPAC-IUB命名法に従うアミノ酸の頭字語である。
【0028】
単離した配列は、疎水性残基および正に荷電する残基(KおよびR)を交互に変えること特徴とする抗菌性のペプチドの典型的パターンを有することに留意されたい。問題のペプチドは、直鎖状および4つの同一ペプチドがリジンのコアに結合した四分枝状多量体形状MAP(多抗原性ペプチド)(20)で合成された(米国特許第5,229,490号)。MAP多量体形状は、同じ分子に4つのペプチドが存在するため、抗菌活性の増強を示すことに注目されたい。さらに、MAP多量体形状は、血液のペプチダーゼ活性に対し、その同種の直鎖状ペプチド(22、23)と比べ抵抗性が強いペプチドを構成し、開発の障害を解決して、in vivoで新規ペプチド薬品の使用を可能にする。
【0029】
一度、溶液に再懸濁されると、M1の効力は、時間の経過とともに活性の低下を示した(図6)。この活性喪失は、おそらく2の位置のグルタミン酸(E)のカルボキシル基と、隣接したリジン(K)のアミン基間の、H2O分子の除去を伴うアミド結合形成に起因することが、様々な時点でペプチドに対して実施した質量分析から示された(図示せず)。
【0030】
元の配列QEKIRVRLSAの特性を改良できるように、元の配列から始めて、グルタミン酸(E)をアラニン(A)のような疎水性の残基、またはリジン(K)のような正に荷電する残基で置換し、最後にはアミノ末端の最初の2つのアミノ酸を削除して、3つのペプチドを合成した。このように改変したMAPペプチド配列は、QAKIRVRLSA(M4)、QKKIRVRLSA(M6))、KIRVRLSA(M5)である(表1)。
【0031】
【表1】

【0032】
M4、M5およびM6の制菌活性は、時間が経過しても安定であった(溶解後の144時間まで、図8)。
【0033】
抗菌活性
直鎖状(L1、L4、L5、L6)およびMAP形状(M1、M4、M5、M6)のペプチドの抗菌活性を、大腸菌TG1株に対して検定した。ペプチドを種々の濃度(2から1から0.5から0.25から0.12g/ml)で、大腸菌(OD600=0.2)の細胞とともに、37℃で約1時間培養した。次いで、細胞を個々の集落が数えられるように希釈して、寒天培地に播種した。合成したペプチドL1およびMlの抗菌活性を図1に示し、陰性対照として用いた無関連なMAPPペプチド(MNC)と比較する。前記無関連なMAPペプチドは、細菌集落の増殖に対して活性を示さないが、デンドリメリック形状ペプチドM1の阻害活性は、直鎖状のペプチドの1つであるL1より高いことを本著者らは観察した。このことは、本抗菌性ペプチドの効力は、ペプチドの1次配列のみに依存することを実証している。
【0034】
元のペプチドおよび改変したペプチドで処理後の、生存パーセンテージ(ペプチド不在の対照条件下での、コロニーの数に対する生存コロニーの数)を測定した(図2)。デンドリメリックMAP4形状では、ペプチドMl、M4、M5およびM6は、これらの直鎖状のペプチド(L1、L4、L5およびL6)より高い活性を示すことを、本著者らは観察した(図2AおよびB)。改変したペプチド(M4、M5、M6)は、優れた抗菌活性を示した。特に、M5およびM6(それぞれ、1つおよび2つの新たな正電荷を含む)は、濃度を6.25μg/mlまで低下しても、大腸菌TG1集落の増殖を阻止したが、M1およびM4は、同じ濃度で効果が劣るようであった(図2B)。
【0035】
M4、M5およびM6の最小発育阻止濃度(MIC)は、参照菌株について、すなわち黄色ブドウ球菌(S.aureus)ATCC25923、大腸菌 ATCC25922、クリセオバクテリウムメニンゴセプティカム(Chryseobacterium meningosepticum)CCUG 4310および緑膿菌(P.aeruginosa)ATCC27853、ならびにさまざまな種の多数の新しい臨床分離株(多剤耐性株も含む)について測定した(表2)。
【0036】
【表2】

【0037】
MICは、抗生物質の希釈範囲で、目視可能な細菌の増殖を阻害する最低濃度と定義する。MIC感受性テストの重要性は、in vitroでの感受性は、抗生物質治療でのin vivoの有効性の指標を提供するという原理に基づいている。値をモル濃度で表示し、アミカシン、セフトリアキソンおよびレボフロキサシン等の、市販の抗生物質で得られたMIC値と比較している(表3)。
【0038】
【表3】

【0039】
これらのデータから、文献で知られている最良の抗菌性ペプチドは、10-6M前後のMIC値(0.25から4μg/mL)であるのに対し、M4、M5およびM6に対するMIC値が低い(約10-6から10-7M)ことは極めて明らかである(25)。
【0040】
全てのペプチドは、黄色ブドウ球菌に対しては比較的低い活性を示し、グラム陰性菌に対してより強い活性を有すると思われ、M6は、全ての細菌種に対して最も活性が高い。またM6は多剤耐性表現型を示す臨床分離株を含む大腸菌、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、エンテロバクター属菌(Enterobacter spp)および緑膿菌に対して優れた阻害活性を示した。やや低い活性が、シトロバクターフロインディー(Citrobacter freundii)およびアシネトバクターバーマニー(Acinetobacter baumannii)に対して観察され、さらに低い活性が、プロテウスミラビリス(Proteus mirabilis)、モルガネラモルガニィ(Morganella morganii)、プロビデンシアスチュアルティイ(Providencia stuartii)、ステノトロフォモナスマルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)、バークホルデリアセパシア(Burkholderia cepacia)およびクリセオバクテリウムメニンゴセプティカム(Chryseobacterium meningosepticum)に対して観察された(表2)。続いて、最初に接種した細菌の99.9%を殺菌することができるM4、M5およびM6ペプチドの最小濃度(MBC)を調べた。MBCを、大腸菌株ATCC25922および緑膿菌株ATCC27853で算定して、同じ菌株に対するMICの算定値に等しいことがわかった。MICとMBCの値が等しいことは、M4、M5およびM6ペプチドは、殺菌性であり静菌性ではないことの指標になる。
【0041】
時間-殺菌試験では、M6は大腸菌ATCC25922および緑膿菌ATCC27853に対して速やかな殺菌活性を示し、107 CFUよりも多量の接種菌を、16μg/mlの濃度、4時間で、>99.9%減少することを証明した(図3)。殺菌性活性は、特に緑膿菌で濃度依存性であることが認められた。
【0042】
これらペプチドのMIC値が低いため、このペプチドは低用量で投与でき、患者のコンプライアンスを改善するが、またこのような治療のコスト効果比も改善する。
【0043】
細胞毒性
抗菌性MAPペプチドの細胞毒性を、比色検定(MTT)により、種々の真核生物細胞株で調べた。この検定は、可溶性のテトラゾリウム塩を不溶性析出物であるホルマザンに変換する細胞の能力を測定する。M1の細胞毒性を、マウスマクロファージ細胞(J774 A.1)、マウス骨髄腫細胞(SPO)およびチャイニーズハムスター卵巣上皮細胞(CHO K1)で調べた。図4に示すように、高濃度(1mg/ml)でさえも、CHO K1細胞およびSPO細胞に対する、M1の細胞毒性は低い(生存率は、80から90%である)。これとは対照的に、マウスマクロファージ細胞J774 A1は、M1に対してより感受性が高いことがわかった(生存率約50%)。
【0044】
マウスマクロファージ細胞J774.A1に対するM4、M5およびM6の毒性についてもMTTで調べて、図5Aに示す。M4、M5またはM6を30μg/ml用いた一晩の細胞処理では、細胞生存率に実質的には影響を及ぼさなかったが、250μg/ml以上の濃度で、ペプチドM4による処理、ならびに125μg/ml以上の濃度でペプチドM5およびM6による処理後の、細胞生存率の低下は明白だった。同じデンドリメリックペプチドは、高濃度(1mg/ml)で用いた場合でも、ヒトケラチノサイトHaCaT細胞(図5B)に対して低い毒性を示した。さらに、Pichia pastoris酵母菌X33株に対するM4、M5および6の効果を調べた。3つの抗菌性ペプチドで処理した酵母菌のコロニーの数は、陰性対照と変わらなく、本ペプチドの酵母菌に対する毒性がないことを示唆している(データは示さず)。
【0045】
血漿と血清中でのペプチドの安定性
治療薬としてのペプチドの使用は、ペプチドのin vivoでの半減期により著しく制約を受けるため、ヒト血清プロテアーゼに対する、直鎖状ペプチドL1ならびにMAPペプチドM1、M4、M5およびM6の安定性を測定した。ペプチドを10mMの濃度で、血漿およびヒト血清とともに2時間および24時間インキュベートし、次いで試料をカラムC18を用いHPLCで分析して(材料と方法を参照)、プロテアーゼにより消化されない直鎖状ペプチドおよびMAPペプチドの有無を調べた。本著者らは、単量体のペプチドL1は、血清中で2時間以内に完全に分解されるが、同ペプチドのデンドリメリック形状(M1)は、血漿と血清中に24時間後でもまだ検出できることを観察した(図7、表4)。同様の結果が、デンドリメリックペプチドM4、M5およびM6を用いて得られた(表4)。
【0046】
【表4】

【0047】
溶血活性
M5およびM6の溶血活性も測定し図9に示す。新鮮ヒト赤血球の溶血を、1から125μg/mlの範囲のペプチド濃度で測定した。125μg/mlの濃度で30分インキュベート後、全てのデンドリメリックペプチドは、非常に低い溶血活性(5%未満)を示した。これとは対照的に、19時間のインキュベート後に125μg/mlのM6およびM5により誘発される溶血は、それぞれ7%と19%である。19時間後の未処理血液の溶血の割合(対照)は、非常に限られている(<1%)。
【0048】
作用機序
a)透過化処理
MAPペプチドの細菌膜穿孔能力を、ペプチドとともにインキュベートした大腸菌ML-35株上清中の細胞質のβ-ガラクトシダーゼ活性を、パラニトロフェニル-β-D-ガラクトピラノシド(pNPG)を基質に用いて測定して(24)調べた。pNPGは、β-ガラクトシダーゼによって消化され、その結果、分光光度計での420nmの測定で検出可能なp-ニトロ-フェノラートを放出する(図10)。透過化処理アッセイでは、大腸菌透過酵素陰性変異株ML1-35で、ペプチドM4、M5およびM6は、細菌内膜を透過化処理して、細胞質のβ-ガラクトシダーゼを暴露することを示した。内膜に対するデンドリメリックペプチド活性を、濃度16、32および64μg/m1で測定した。全てのデンドリメリックペプチドが、16μg/mlで細菌内膜を透過化処理した(図9)。透過化処理は1分も経ずに生じ、透過化処理率はペプチド濃度に依存していた(図示せず)。
【0049】
さらに、M6 MAPペプチドの細菌の質多糖体(LPS)結合能力を、本著者らが確立したプロトコル(26)を用いて、Biacore 1000 instrumentのPlasmon Surface Resonanceで分析した(図11)。センサグラムは、M6がLPSに速やかに結合することを示している。この実験は、M6が解毒活性を有する可能性を示唆している。
【0050】
b)DNA結合アッセイ
分子的作用機序を明らかにするために、本著者らは、M6デンドリメリックペプチドおよび細胞膜上で穿孔活性を有する抗菌性ペプチドであるマゲイニン2が及ぼす、DNAへの結合特性を調べた。M6およびマゲイニン2のDNA結合能力を、1%アガロースゲル(w/v)上で、DNAに対するペプチドの様々な重量比で、DNAバンドの電気泳動移動度の分析により調べた。M6は、重量比0.2以上のDNAの移動を阻害したが(図12)、マゲイニン2は、重量比5のまでDNAの移動を阻止しなかった。この結果は、M6はマゲイニン2より少なくとも25倍以上密接にDNAと結合することを示している。
【0051】
c)共焦点レーザー走査顕微鏡実験(CLSM)
CLSM実験は、ローダミン標識化M6は5分以内に細胞に侵入でき、細菌内で均一に分散しないで、多くの場合、細胞極に位置する分離したパッチで群がる傾向があることを示した(図13)。さらに、20μg/mlのM6とともにインキュベートし、5分後(図13A)または240分後(図13B)に撮った大腸菌の顕微鏡像の間に大な差異が存在しない。
【0052】
さらに本著者らは、M6の膜混乱活性を可視化するために、低分子量(389.4Da)緑色蛍光プローブであるFITCを用いた。FITCは、対照の無傷細胞の細胞質膜を通過することができなかった。実際に、ペプチドで前処理しないで、大腸菌TG1細胞をプローブとともにインキュベートした場合、測定可能な蛍光発光は認められなかった(データは示さず)。これに対して20μg/mlのM6へ細菌を暴露した後には、FITCは細菌中に容易に蓄積し、CLSM分析によって評価されたように、M6は細菌膜の透過性を増加させた(図14)。FITC-PIの2重染色法で得られた結果を、図15に示す。大腸菌細胞を、M6の5μg/ml(図15A)および40μg/ml(図15B)でそれぞれインキュベートした。本著者らは、最も高いペプチド濃度で処理した細菌細胞は、FITCとPIの両方に対して膜透過性の増加を示すことを観察した(図15B)。M6の最も低い濃度では、一定の限られた細菌膜変化をもたらす(15A図)。意外なことに、膜は比較的小さい色素(FITC、389.4Da)をほとんど通さないが、さらに大きい色素(PI、668.4Da)に対しては浸透性であった。この観察結果は、細菌外膜と色素の静電的相互作用で説明できるであろう。すなわち、溶液中のFITCは負に荷電するが、PIは取り込みを促進する2つの正電荷を有する。全ての処理細菌は、DNAとプロピジウムヨウ素の結合に起因する核酸の鮮明な強い赤色蛍光によって示されるように、細菌の核酸内容物を失うことなく、典型的「桿」形態を保持している。
【0053】
M6ペプチド活性の改善
M6の抗菌活性にとって重要な必須の残基を同定するために、M6の配列を「アラニンスキャニング」に付した。「アラニンスキャニング」とは、問題のペプチドのすべてのアミノ酸を、アラニンで順番に置換する方法である。このために、9個のペプチドでMAP形状のミニライブラリーを合成した(表5)。
【0054】
【表5】

【0055】
次いでそれぞれのMAPペプチドに関して、MICを3つの参照菌株、すなわち大腸菌ATCC25922、緑膿菌ATCC27853(グラム陰性)およびATTC25923(グラム陽性)で評価した(表6)。
【0056】
【表6】

【0057】
M6誘導体ペプチドに関して得られたMIC値は、アラニンを任意の疎水性残基で置換することにより、抗菌活性の減少を反映する(?)MICが著しく増加したことを示している。
【0058】
ミニライブラリーから、ペプチドM33が、グラム陰性菌である大腸菌ATCC25922および緑膿菌ATCC27853に対して、モル濃度表示で両菌に対して1.5×10-6MのMIC値を有し、特に活性であると同定された。
【0059】
最後に、M6ペプチドのリジンを別の正に荷電するアミノ酸であるアルギニン(R)で置換した効果を評価した。アルギニンは、グアニジウム基が存在するためリジンより広がった正電荷を有する。リジンの第1アミンとアルギニンのグアニジウム基は、細菌のリン脂質との相互作用が異なるようである(27)。このために、MAP形状の3つのペプチドを合成した(表7)。
【0060】
【表7】

【0061】
それぞれのペプチドに対して、MICを3つの参照菌株、大腸菌ATCC25922、緑膿菌ATCC27853(グラム陰性)および黄色ブドウ球菌ATTC25923(グラム陽性)で評価した。M6のリジンをアルギニンで置換して得られるMIC値は、位置2のリジンをアルギニンで置換しても、MAPの抗菌活性に影響を与えないことを示す(表8)。
【0062】
【表8】

【0063】
このミニライブラリーから、ペプチドM28が、グラム陰性菌である大腸菌ATCC25922および緑膿菌ATCC27853に対して、モル濃度表示でそれぞれ3.8×10-7Mおよび7.6×10-7MのMIC値を有し、特に活性であると同定された。
【0064】
(実施例)
(実施例1)
1つの実施例においては、アミノ酸配列、QAKIRVRLSA、KIRVRLSA、QKKIRVRLSAを有する4分枝状MAPペプチドを、細菌集落の増殖阻止試験に単独で使用する。試験は、大腸菌(TG1株)とともに種々の濃度のMAPペプチドをインキュベートし、細菌細胞を個々の集落が数えられるように希釈し、寒天培地に播種して実施する。次の日に、3つのMAPペプチドで処理後、生育したコロニーの数を比較する。配列KIRVRLSAおよびQKKIRVRLSAを有するMAPペプチドは、6.25μg/mlの濃度まで、TG1細胞に対し殺菌活性を示す。
【0065】
(実施例2)
さらなる実施例においては、QAKIRVRLSA、KIRVRLSA、QKKIRVRLSA配列を有する、4分枝状MAPペプチドの最小発育阻止濃度(MIC)を、別のグラム陰性細菌株に対して評価した。KIRVRLSAおよびQKKIRVRLSAのMIC値は、グラム陰性菌の大腸菌ATCC25922および緑膿菌ATCC27853に対し、モル濃度表示で約10-6から10-7Mである。
【0066】
(実施例3)
その他の実施例においては、QAKIRVRLSA、KIRVRLSA、QKKIRVRLSA配列を有する、4分枝状MAPペプチドの最小発育阻止濃度(MIC)を、黄色ブドウ球菌ATTC25923等の別のグラム陽性細菌株に対して算定した。3つのMAPペプチドに対して算定されたMIC値は、約10-5Mである。
【0067】
(実施例4)
別の実施例においては、細菌の99.9%を殺菌できる、QAKIRVRLSA、KIRVRLSA、QKKIRVRLSA配列を有する4分枝状MAPペプチドの最小濃度(MBC)を調べた。MBCは、大腸菌ATCC25922および緑膿菌ATCC27853の菌株に対して算定し、同じ菌株に対する対応するMIC値と等しいことがわかった。
【0068】
(実施例5)
さらに別の実施例では、KIRVRLSA、QKKIRVRLSA配列を有する4分枝状MAPのヒト赤血球に対する溶血活性を算定した。溶血のパーセンテージは、NaCl濃度を増して赤血球をインキュベートすることで得られた検量線により、パルパート法を用いて算定する。濃度125μg/mlで、QKKIRVRLSAおよびKIRVRLSAは、30分インキュベート後に非常に低い溶血活性(5%未満)を示した。これとは対照的に、19時間インキュベート後、125μg/mlでQKKIRVRLSAおよびKIRVRLSAにより誘発された溶血は、それぞれ7%および19%である。
【0069】
(実施例6)
別の実施例では、QAKIRVRLSA、KIRVRLSA、QKKIRVRLSA配列を有する4分枝状MAPペプチドを、in vitroアッセイで試験し、このアッセイで、マウスマクロファージJ774 A.1細胞およびヒトHaCaTケラチノサイトに対するペプチドの細胞毒性を、比色検定(MTT)で測定する。MAPペプチドの濃度が増加するにつれ、J774 A.1細胞の生存細胞は減少するのに対して、特にヒトHaCaTケラチノサイトは、1mg/mlの濃度で投与した場合でも、ペプチドに耐性である。
【0070】
(実施例7)
さららなる実施例では、MAPペプチドM6(配列QKKIRVRLSA)は、このペプチドを、あらかじめ同じMAPペプチドM6で感作した、BIACORE instrumentのセンサチップに移したとき、細菌の脂質多糖体に効果的に結合することを示した。
【0071】
(実施例8)
その他実施例では、M6ペプチドの配列で実施した「アラニンスキャニング」由来のMAPペプチド(表6)を、大腸菌ATCC25922、緑膿菌ATCC27853および黄色ブドウ球菌ATTC25923の細菌株に対する、それぞれのペプチドの最小発育阻止濃度(MIC)を算定するために用いる。M6の全てのアミノ酸を、順番にアラニンで置換するアラニンスキャニングにより、ペプチドの殺菌活性を担う重要な残基を同定することができる。このミニライブラリーから、1つのペプチド(M33)が同定され、本ペプチドは特にグラム陰性菌である大腸菌ATCC25922および緑膿菌ATCC27853に対し、両菌株に対するMIC値1.5×l0-6Mで、活性であることが認められた(表6)。
【0072】
(実施例9)
さらにその他実施例では、MAPペプチドM6のリジン(K)をアルギニン(R)で置換して得たMAPペプチド(表7)を、それぞれの細菌株、大腸菌ATCC25922、緑膿菌ATCC27853および黄色ブドウ球菌ATTC25923に対するこれらのペプチドの最小発育阻止濃度(MIC)を算定するために用いる。このミニライブラリーから、1つのペプチド(M28)が同定され、本ペプチドは特にグラム陰性菌である大腸菌ATCC25922および緑膿菌ATCC27853に対し、MIC値がそれぞれ3.8×10-7Mおよび7.6×10-7Mで活性であることが認められた(表8)。
【0073】
材料と方法
ファージライブラリーからの抗菌性ペプチドの選択
抗菌性効果を持ち得るペプチドを、10merのランダムペプチドのファージライブラリーを用いて、これらのライブラリーを使用するための標準的なプロトコルに従って選択した。ペプチドを、3回のパンニングにより選択した。OD600=0.1の大腸菌TG1株細胞、1ml(約0.8×107細胞)を、17000×gで3分間遠心分離した。ペレットを1mlのPBSに再懸濁し、約1014ファージに対して穏やかな攪拌下、周囲温度で60分間インキュベートした。17000×gで3分間遠心分離した後に、細胞とファージを回収した。上清を吸引し、ペレットをPBS-tween 0.1%で10回洗浄して、第1回目の選択で結合しなかったファージを除去し、その後の回ではPBS-tween 0.5%で洗浄した。ファージが付着した細胞を、17000×gで3分間遠心分離し、ペレットを1mlの溶離緩衝液[0.2Mグリシン-HCl(pH2.2)]に再懸濁して、周囲温度で約5分間穏やかな攪拌下に置いた。試料を前回同様に遠心分離し、上清をエッペンドルフチューブへ移して、150μLの1Mトリス-HCl(pH9.1)で中和した。溶出したファージ100μLを用いて、指数成長期大腸菌TG1の10mlに、37℃で30分間感染させた。感染後、細菌を3300×gで10分間遠心分離し、1mlの2×TY(DESCRIVERE)に再懸濁して、アンピシリン(100μg/mL)-ブドウ糖(1%)を含む寒天培地に播種した。一晩(またはほぼ一晩)30℃でインキュベート後、均一な懸濁液が得られるように、5から10mLの2×TYを添加して、集落を平板からから回収した。100mLの2×TY-アンピシリン(100のμg/ml)-ブドウ糖(1%)に、OD600=0.4から0.5が得られるまで細菌懸濁液100μlを接種し、10mlの培養菌を取り出して、100μlのファージヘルパーVCS.M13(>1011形質転換ユニット (tu)/ml)を感染させた。感染させた細菌を、3300×gで10分間遠心分離し、次いで回収したペレットを、100mlの2×TY-アンピシリン(100μl/ml)-カナマイシン(25μg/ml)に再懸濁して、30℃で一晩撹拌した。このファージを、PEG/NaCl(20%ポリエチレングリコール6000-2.5M NaCl)を用いる沈降で精製し、濃縮して、PBS 2mlに再懸濁した。溶出したファージを回収し、増殖して、さらに2回の選択サイクルに用いた。この処理の終了時に、細菌表面に関して特異的なファージの存在を、ELISAアッセイによって確認した。
【0074】
ペプチドの合成
直鎖状ペプチドの固相合成は、p-(2,4-ジメトキシフェニル-Fmoc-アミノメチル)-フェノキシアセトアミドノルロイシル-(4-メチルベンジドリルアミン)(Rink-MBHA)のレジンと、フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)の化学を用いる、Syro MultiSynTech(WittenBochum、D)ペプチドシンセサイザによって実施した。脱保護反応は、N-メチルピロリドン中で40%のピペリジンの添加により得られ、開始反応に関しては、in situで調製したF-moc-アミノ酸のN-ヒドロキシベンゾトリアゾールエステルを、共役結合反応に用いた。ペプチドを樹脂から分離し、同時にトリフルオロ酢酸/チオアニソール/エタンジチオール/水混合物(93/2/3/2)を用い、周囲温度で3時間脱保護した。ペプチドを、Vydac C18半分取カラムの逆相HPLCにより、30分の緩衝液Bの0%から100%勾配(緩衝液A:0.1%のトリフルオロ酢酸/水;緩衝液B:0.1%のトリフルオロ酢酸/メタノール)を用いて精製した。
【0075】
多元四分枝型抗原性ペプチド(MAP)の合成は、Fmoc化学を用いて、Wang Fmoc4-K2-K-Aレジンので固相方法によって達成した。MAPペプチドを標準的な技術を用いて支持体から分離し、逆相HPLCにより精製した。ペプチドを質量分析によって調べた。
【0076】
大腸菌TG1株に対する抗菌活性試験
抗菌性試験を、OD600が0.2の大腸菌25μLと、種々の濃度でPBSに溶解した25μlのMAPペプチドを、37℃で75分間インキュベートして実施した。別のインキュベートを、2×TY培地で1:1000にさらに希釈し、100μlを2×TY固体培地に播種した。プレートを30℃で一晩置き、生育した個々の集落を計数して、MAPペプチドで処理していない対照と比較した。
【0077】
最小発育阻止濃度(MIC)の決定
参照菌株(大腸菌ATCC25922、緑膿菌ATCC27853、黄色ブドウ球菌ATCC25923およびクリセオバクテリウムメニンゴセプティカムCCUG 4310)、ならびに種々の細菌種のいくつかの新しい臨床分離株(多剤耐性株を含む)(表2)を、通常の感受性試験の実験に用いた。最小発育阻止濃度(MIC)を、陽イオン補充ミューラー-ヒントン(MH)ブロス(Oxoid Ltd.Basingstoke、英国)および5×104CFU/ウェルの接種菌を最終容量100μlを用いて、National Commitee for Clinical Laboratory Standards(NCCLS)によって推奨されている標準的な微量希釈アッセイで測定した。結果を、37℃で24時間培養後に目視により記録した。接種菌の≧99.9%を殺菌する濃度と定義される最小殺菌濃度(MBC)を、MIC試験後にNCCLSによって推奨されているように測定した。
【0078】
最小殺菌濃度(MBC)の算出
MBCとは、問題の細菌種の、当初接種菌の99.9%を殺菌できる抗生物質の最低濃度と定義される。MBCを、大腸菌ATCC25922および緑膿菌ATCC27853の菌株に対して、National Commitee for Clinical Laboratory Standards(NCCLS)によって推奨されているように測定した。
【0079】
時間-殺菌カイネティクス
時間-殺菌試験における殺菌性活性のアッセイを、次の通り行った。全接種菌量5×107CFU(1×107CFU/ml)を含むMHブロス中、37℃で指数的に増殖中の試験菌株培養に、ペプチドを所望の濃度で添加した。試料を時間ごとに取り出し、適切に希釈して、MH寒天培地に播種して、残存するCFU数を記録した。ペプチドを含まない培養を、対照として常に平行して増殖させた。
【0080】
MTTによる細胞毒性試験
細胞毒性試験には、別の細胞株、すなわちマウス骨髄腫細胞SPO、ハムスター卵巣上皮細胞CHO K1、マウスマクロファージ細胞J774 A1およびヒトケラチノサイトHaCaTを用いた。96穴プレート中の抗生物質およびウシ胎児血清10%を含む培地、RPMI 1640(SPOおよびCHO K1)ならびにDMEM(J774 A.1およびHaCaT)に、細胞を6×104(SPO、CHO K1およびJ774 A.1)ならびに3×104(HaCaT)の濃度で蒔いた。あらかじめ0.2μmの濾紙ディスク(Whatman)で濾過したペプチドを、種々の濃度で種々の細胞株に添加し、37℃で一晩インキュベートした。細胞生存度は、MTTテトラゾリウム塩を濃度0.5mg/mlで添加し、90分間インキュベートして測定した。細胞を10%SDSおよび45%ジメチルホルムアミドを含む、pH4.5の溶液で可溶化し、プレート読み取り装置で595/650nmの2重波長を用いて測定した。
【0081】
Pichia pastoris酵母菌X33株に対するQAKlRVRLSA(M4)、KIRVRLSA(M5)およびQKKIRVRLSA(M6)の効果
YPD(酵母エキス/ペプトン/デキストロース)培地で、30℃、24時間生育したPichia pastorisの培養50μlに、MAPペプチド(2mg/ml)50μlを添加し、37℃で150分間インキュベートした。次いで、それぞれの培養の50μlを、YPD固形培地に播種し、30℃で48時間生育させた。生育したコロニーの数を、酵母菌をMAPで処理していない対照と比較した。
【0082】
血清および血漿のプロテアーゼに対する安定性
MAP形状の種々のペプチドおよび直鎖状ペプチド(L1)を、10mMの濃度でH2Oに溶解し、血漿およびヒト血清10μlとともに、37℃で2時間および24時間インキュベートした。それぞれの試料に、タンパク分解反応を遮断するため、メタノール150μlを添加した。次いでそれぞれの試料を、2分間13,000rpmで遠心分離し、上清に0.1%のトリフルオロ酢酸0.75mlを添加した。本試料を、Vydac C18半分取カラムの逆相HPLCで、30分の緩衝液Bの20%から95%勾配(緩衝液A:0.1%のトリフルオロ酢酸/水;緩衝液B:0.1%のトリフルオロ酢酸/メタノール)を用いて分析して、タンパク分解処理後の直鎖状およびMAPペプチドの存在を調べた。
【0083】
溶血
KIRVRLSA(M5)およびQKKIRVRLSA(M6)ペプチドの溶血活性を、NaCl中でパルパート赤血球浸透圧抵抗試験により調べた。溶血のパーセンテージは、NaCl濃度を増して赤血球をインキュベートし、溶血による540nmの吸光度の増加を測定することで得られた検量線により算定した。次に種々の濃度の本MAPペプチドを含む0.9%NaCl溶液を調製し、ヒト血液を1:100の比率(v/v)で添加した。この試料を、30分および19時間周囲温度で放置し、続いて、それぞれのインキュベート試料から一部分を取り出し、5分間1500rpmで遠心分離して、上清の540nmの吸光度を分光光度計で測定した。
【0084】
β-ガラクトシダーゼ活性アッセイ
QAKIRVRLSA(M4)、KIRVRLSA(M5)およびQKKIRVRLSA(M6)MAPペプチドの細菌膜を穿孔する能力は、基質としてp-ニトロフェニル1-β-D-ガラクトピラノシド(pNPG)を用いて、細胞質のβ-ガラクトシダーゼ活性を測定して調べた。この基質は、β-ガラクトシダーゼにより消化され、420nmでの分光光度計測定で検出可能な、p-ニトロ-フェノラートを遊離する。このアッセイには、大腸菌ML-35株の細胞を用いた。この株は構成的にβ-ガラクトシダーゼを産生し、ラクトーストランスポータは不活性化されている。細菌細胞を、対数増殖期(OD600=0.4から0.5)に取り出し、NaCl 100mM(pH7.4)とpNPG 1.5mMを含む、10mM リン酸塩緩衝液に再懸濁した。時間ゼロ時点に、MAP形状のペプチドを、最終濃度16、32および64μg/mlで添加し、420nmの吸光度変化を測定した。
【0085】
DNA結合アッセイ
ゲル遅延試験は、20μlの結合緩衝液(5% グリセロール、10mM トリス-HCl(pH8.0)、1mM EDTA、1mM DTT、20mM KClおよび50μg/ml BSA)中で、200ngの大腸菌プラスミドベクターpCEP4(Invitrogen)と、M6ペプチドを量を増やしながら混合することにより実施した。反応混合物は、室温で1時間インキュベートした。次いで、ネイティブローディング緩衝液(40%のショ糖、0,25%ブロモフェノールブルー)4μlを添加し、12μlのアリコートを、1mMトリスホウ酸-EDTA緩衝液での1%アガロースゲル電気泳動に適用した。
【0086】
共焦点レーザー走査顕微鏡検査
大腸菌細胞TG1を2×TYで一晩培養した。細胞培地で1:10に希釈後、5×1mlのアリコートを調製し、10mMナトリウムリン酸塩緩衝液(PBS)pH7.4で2回洗浄し、200μlのテトラメチルローダミン(TMR)標識化ペプチド溶液(PBS中、20μg/ml)中で37℃、5分間インキュベートした。PBSで洗浄後、細胞のそれぞれのアリコートを、PBS200μlに再懸濁し、それぞれ37℃で、2、30、60、120、240分間暗所に保った。次いで細胞をスライドガラスにマウントし、Bio-Rad MRC600共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)で観察した。蛍光イメージを、TMRの励起に対し568nmの帯域通過フィルターを用いて得た。イメージのソフトウェアによるマージは、COMOSソフトウェアを用いて実施した。M6により細菌で誘発される膜を混乱させる活性を、同時に2つの標識で可視化するために、2重染色法を開発した。次の蛍光色素、すなわち、(i)DNA染色蛍光剤であるヨウ化プロピジウム(PI)、および(ii)ペプチドで透過化処理しないと細胞の細胞質膜を通り抜けできない、緑色蛍光プローブのフルオレセインイソチオシアネート(FITC)を用いた。大腸菌細胞を上記のように調製し、5、10、20、40μg/mLのペプチドで、37℃、30分間処理した。次いで細胞をPBSで洗浄し、FITC溶液(PBS中、6μg/ml)を添加した。37℃で30分後に、FITC溶液を除去し、細胞をPBSで再度洗浄した。次にDAPI溶液(PBS中、6μg/ml)を細胞に添加した。TMRの励起に対し568nmの帯域通過フィルター、およびFITCに対し488nm帯域通過フィルターを用いて蛍光イメージを得た。
(参考文献)



【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】陰性対照として使用された無関連なMAP(MNC)と比較した、大腸菌(E.coil)(TG1菌株)に対するL1およびM1の抗菌活性を示す図である。細菌増殖に対する効果を、種々の濃度(2から0.12mg/mL)で評価した。M1およびL1は、有意に大腸菌の増殖を阻害したが、MNCは、予期したように抗菌活性を示さなかった。
【図2】(A)単量体直鎖状ペプチドL1(■)、L4(☆)、L5(☆)およびL6(□)、ならびに(B)4分枝MAP4形状M1(■)、M4(☆)、M5(☆)およびM6(□)の抗菌活性を示す図である。実験は、大腸菌TG1細胞(8×107 CFU/ml)を、指示したペプチド量を用いてインキュベートして実施した。生存パーセンテージは、ペプチド無添加対照のコロニーの数に対する、生きているコロニーの数である。
【図3】大腸菌ATCC25922(A)および緑濃菌(P.aeruginosa)ATCC27853(B)に対する、M6の時間-殺菌カイネティクスを示す図である。記号:◆、増殖対照;■、大腸菌ATCC25922に対し、2×MIC濃度(16μg/ml)および緑濃菌ATCC27853に対しMIC(8μg/ml);▲、大腸菌ATCC25922に対し、4×MIC(32μg/ml)および緑濃菌ATCC27853に対し、MIC(16μg/ml)。
【図4】J774 A.1、CHOおよびSPO細胞に対するM1の細胞毒性を示す図である。図は、マウスマクロファージ細胞(J774 A.1)、マウス骨髄腫(SPO)およびチャイニーズハムスター卵巣上皮細胞(CHO K1)に対し、比色定量分析(MTT)により評価した、生存パーセントで表したMAP M1ペプチドの細胞毒性を示す。M1を、種々の細胞株(6×104細胞/ウェル)に、3つの異なる濃度で添加し、37℃で24時間培養した。次いでMTT100μlを、各ウェルに添加し、37℃で90分間培養した。595nmおよび650 nmの吸収値を測定した。
【図5】(A)マウスマクロファージ細胞株J774.A1および(B)ヒトHaCaTケラチノサイトに対する、M4(*)、M5(▲)およびM6(●)デンドリメリックペプチド(dendrimeric peptides)の毒性を示す図である。細胞生存度は、比色定量分析(MTT)で測定した。データポイントは、反復試験3回の平均値を示す。
【図6】溶液中でのM1ペプチドの安定性。大腸菌株TG1に対する、M1の抗菌活性の経時変化を示す図である。MAP M1プチドをPBSに0.5mg/mlの濃度で溶解し、PBSに再懸濁後、1時間、48時間および72時間に殺菌活性を測定した。
【図7】血清中での直鎖状の(L1)およびデンドリメリック(M1)ペプチドのHPLCプロファイルを示す図である。(A)血清中で0時間のL1。(B)血清中で2時間インキュベートの後のL1。ペプチドは、もはや検出可能でない。(C)血清中で0時間のM1。(D)血清中で24時間インキュベート後のM1。ペプチドはまだ存在している。垂直線は、ペプチド保持時間(分)を示す。血漿で実施した実験は、比較し得るものであった。
【図8】溶液中でのM4、M5およびM6ペプチドの安定性を示す図である。大腸菌TG1株に対するM4、M5およびM6の抗菌活性の経時変化。M4、M5およびM6ペプチドを、0.5mg/mlの濃度でPBSに溶解し、殺菌活性はPBSで再懸濁後、1時間、48時間および144時間に測定した。
【図9】ヒト赤血球の溶血に対するM5およびM6の効果を示す図である。図は、NaCl中でパルパート法の赤血球浸透圧抵抗によって評価した、ヒト赤血球に対するMAP M5およびM6ペプチドの溶血活性を示す。溶血のパーセンテージは、NaCl濃度を増加させて赤血球をインキュベートして得た検量線により算出した。30分インキュベート後、M5とM6(テストした最大濃度で)は、わずかに弱い溶血活性(<5%)を示した。19時間インキュベート後、125μg/mlでM6およびM5により誘導された溶血は、それぞれ7%と19%であった。19時間後の未処理の血液(対照)の溶血パーセンテージは、非常に限られている(<1%)。
【図10】M4(*)、M5(▲)、M6(●)および未処理の細胞(□)による、大腸菌ML-35の膜透化性カイネティクスを示す図である。膜透化性は、細菌細胞の細胞質ゾル内のβ-ガラクトシダーゼの基質であるp-ニトロフェニル-β-D-ガラクトピラノシドの加水分解の分光測光法記録により測定した。細菌は、デンドリメリックペプチド16μg/mlで処理した。
【図11】BIACOREでのMAP M6ペプチドおよびLPS間の結合分析を示す図である。図は、BIACOREセンサチップのデキストランマトリックスに不動化した、MAP M6に対するLPSの結合に由来するセンサグラムを示す。y軸上には、LPSおよびM6間の結合に由来する反応ユニットが、秒で表した時間の関数(x軸上)として示されている。
【図12】ゲル遅延アッセイを示す図である。結合は、DNAの移動に及ぼすペプチドの抑制効果により分析した。種々の量のM6ペプチドを、200ngの大腸菌プラスミドベクターpCEP4と室温で1時間インキュベートし、反応混合物を、1%(w/v)のアガロースゲル電気泳動に適用した。
【図13】(A)5分および(B)240分インキュベート後の、ローダミン標識化M6で処理した大腸菌TG1細胞のCLSM画像である。
【図14】M6により誘導し、FITC蛍光により可視化した細菌内膜の浸透性を示す図である。
【図15】FITCとPI蛍光プローブの二重染色を用いた膜混乱(membrane-perturbed)細菌の検出を示す図である。(A)M6 5μg/mlおよび(B)M6 40μg/ml。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ末端からカルボキシル末端まで、以下のアミノ酸配列、QEKIRVRLSA、QAKIRVRLSA、QKKIRVRLSA、KIRVRLSAまたはこれらの誘導体のうちの1つからなる抗菌性ペプチドであって、1つのアミノ酸残基が、1つのアラニン残基に置換されているか、もしくは1つの正に荷電するアミノ酸が、別の正に荷電するアミノ酸に置換されている抗菌性ペプチド。
【請求項2】
アミノ末端からカルボキシル末端まで、以下のアミノ酸配列、AKKIRVRLSA、QAKIRVRLSA、QKAIRVRLSA、QKKARVRLSA、QKKIAVRLSA、QKKIRARLSA、QKKIRVALSA、QKKIRVRASA、QKKIRVRLAAのうちの1つからなる、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
アミノ酸配列QKAIRVRLSAからなる、請求項2に記載のペプチド。
【請求項4】
以下のアミノ酸配列、QRKIRVRLSA、QKRIRVRLSA、QRRIRVRLSAのうちの1つからなる、請求項1に記載のペプチド。
【請求項5】
直鎖状である、請求項1から4のいずれかに記載のペプチド。
【請求項6】
ポリアクリルアミドの骨格上で、デキストランユニットの骨格上で、またはエチレングリコールユニットの骨格上で多量体化している、請求項5に記載のペプチド。
【請求項7】
以下の式で示される多抗原性ペプチド(MAP)の形状を有する、請求項1から4に記載のペプチド。
【化1】

(ここで、Rは請求項1から4に記載のペプチドであり、Xは三官能基分子であり、m=0または1であり、m=0ならばn=0であり、m=1ならばn=0または1である。)
【請求項8】
Xが、少なくとも2つの官能性アミノ基を有するアミノ酸である、請求項7に記載のMAPペプチド。
【請求項9】
Xがリジン、オルニチン、ノルリジンまたはアミノアラニンである、請求項8に記載のMAPペプチド。
【請求項10】
Xがアスパラギン酸またはグルタミン酸である、請求項7に記載のMAPペプチド。
【請求項11】
Xがプロピレングリコール、コハク酸、ジイソシアネートまたはジアミンである、請求項7に記載のMAPペプチド。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の、抗菌剤としての医薬的用途のペプチド。
【請求項13】
請求項12に記載の、薬学上許容可能であり有効量のペプチドを含む医薬組成物。
【請求項14】
目薬、うがい薬、軟膏、または局所用の溶液の形態である、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
請求項1から11に記載のペプチドを含む、抗菌活性を有する消毒薬および/または洗浄薬の調製。
【請求項16】
食品および/または化粧品および/またはホメオパシー製品の調製のための防腐剤としての、請求項1から11に記載のペプチドの使用。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図2】
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【図6】
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【図12】
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【公表番号】特表2008−507478(P2008−507478A)
【公表日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−520978(P2007−520978)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【国際出願番号】PCT/IT2005/000397
【国際公開番号】WO2006/006195
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(504414721)ユニバーシタ・デグリ・スタディ・ディ・シエナ (4)
【Fターム(参考)】