説明

抗菌性光力学治療化合物およびその使用方法

【課題】電磁気的な照射によりコントロール可能でしかも選択的に活性化でき、グラム陽性およびグラム陰性の細菌の両方を殺すのに有効な方法であり、ヒトまたは動物の病者において有害な微生物特に細菌を有効かつ選択的に殺す方法の提供。特に、複雑な媒体例えば血液の血清、血液または唾液も存在する領域で有効である。
【解決手段】光増感剤としてサフラニンOを含む組成物を病者の治療域に導入する段階、該治療域の細菌に該サフラニンOを結合させるために予定された時間経過させる段階、該治療域に予め選択された波長の照射を当てて、該サフラニンOを活性化しそしてそれにより光力学反応を誘導して該細菌を殺す段階からなる病者の治療域の殺菌方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光力学治療の領域、特にヒトおよび動物の病者の選択的な殺菌における光力学治療の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
光力学治療(PDT)は周知であり、そしてガンおよび種々の皮膚の病気のような過剰増殖の組織に一般に伴う多数の疾患を治療するのに利用されてきた。PDTは、また抗菌の治療として利用されてきた。しかし、抗菌のPDTに伴う2つの大きな問題が存在する。第一の問題は、グラム陽性およびグラム陰性の細菌の両者に対して有効に使用できる光活性物質を見つけだす困難さから生ずる。グラム陰性の細菌は、それらの二重層の外側の膜物質に主として起因する遙かに困難な障害を生ずる。
【0003】
グラム陽性およびグラム陰性の細菌の間の主な相違は、図1および2に画かれたように細胞壁にある。図1に示されているように、グラム陽性の細胞は、細胞膜105を囲む多くの個々のペプチドグリカン層103(例えば20−40の層)からなる厚いペプチドグリカン細胞壁101を有する。逆に、図2に示されるように、グラム陰性の細胞は、細胞膜203を囲むペプチドグリカン201の薄い層のみを有し、その層は追加の外側の膜205によりさらに囲まれている。この追加の層は、グラムの方法を使用してグラム陽性およびグラム陰性の細胞を区別することを可能にする。グラム陰性の細菌の外側の膜のために、クリスタルバイオレット−ヨウ素の染料は、細胞壁のペプチドグリカン層に到達できず、そしてグラム陽性の細菌におけるようにグラムの方法後グラム陰性の細菌に保持される。外側の膜は、グラム陰性の細菌中への多くの物質の浸透を阻害するのに主として関係し、そして両方のタイプの細菌に対して有効な光増感剤を見つけることが困難な理由である。
【0004】
第二の問題は、複雑な媒体例えば血液の血清、血液または唾液の存在下で少なくともいくらかの活性を保持する好適な光増感化合物を見つけることが困難であることから生ずる。単純な媒体例えばリン酸塩緩衝塩水中の細胞懸濁物に対して良好な活性を示すほとんどの光増感化合物(光増感剤)は、血液の血清、血液または唾液の存在下ではほとんど効果を示さない。これは、これらの複雑な媒体(例えば蛋白、血液の細胞)中の成分がPDT化合物の親和性について細菌と競合するためである。
【0005】
サフラニン(Safranin)Oは、450−600nmの青−緑の範囲で吸収する赤色の染料である。それは、顕微鏡写真法のような方法において生物学的な染料として使用される。例えば、サフラニンOは、核、染色体、リグニン化およびケチン化の細胞壁を赤く染める。それはまた、細菌を区別するためにグラムヨウ素とともに使用され、そして電子顕微鏡で使用される。サフラニンは、また時間、圧力、エネルギーを含む条件、または滅菌法における或る化学物質の存在/不存在を示すのに使用されるインク組成物に利用されている(特許文献1)。
【0006】
サフラニンO、サフラニンおよび関連する染料は、歯および歯肉上およびそれらの周辺の微生物および虫歯の穴を検出し治療する歯周の治療に使用されてきた。特許文献2は、水、水混和性の溶媒または組み合わせ、歯の齲歯感染部分を染めることのできる染料、および抗菌剤を含む抗菌性の齲歯検出組成物を開示している。これは、虫歯の穴の検出および滅菌系の両方である。1種以上の溶媒に可溶なしかも虫歯の穴の存在および位置を肉眼で確認できる好適な染料であるサフラニンOのような染料が含まれる。この発明にとって、サフラニンは、染色剤としてのみ利用され、抗菌剤としては考えられていない。
【0007】
サフラニンは、また抗菌のPDTの適用における光増感剤として使用されてきている。特許文献3(および特許文献4)は、歯の上の細菌および壊死組織を殺すためのPDTの方法および光増感剤化合物を記述している。この方法は、450−600nmの波長の光エネルギーを吸収するサフラニンのような染料組成物を適用することを含む。染料は、壊死組織、細菌および周囲の組織と接触して選択的に組織を染める。染められた感染した組織は、従って、適用される照射を容易に吸収しそして疾患のある組織および細菌を熱的に殺す。この発明は、光熱の作用を使用して歯周ポケット中の表面の細菌の治療に限定される。
【0008】
サフラニンOの光活性の特徴は、他の応用例えば殺虫の治療および組成物並びにヒト以外の抗菌の治療および組成物に利用されてきている。特許文献5は、光毒性の殺虫組成物におけるサフラニンOのような光活性染料の使用を記述している。組成物は、選択された光活性染料、餌、および助剤を含む。化合物は、望ましい虫により消化され、それにより助剤は光活性染料および虫の膜と相互に反応して組成物の毒性を変え、それは或る時間太陽光線に曝された後に虫を殺すように作用する。特許文献6は、魚における原生動物の感染を治療する方法を開示している。サフラニンOを含む光活性染料は、感染した魚を含む水性の環境中に導入され、例えば光活性染料の濃度は細菌のいくらかまたはすべてを殺すのに十分である。
【0009】
複雑な媒体例えば血液の血清、血液または唾液の存在下で有効な抗菌のPDT法および化合物について要望がある。この方法は、グラム陽性およびグラム陰性の細菌の両方に対して有効に使用されなければならない。本発明は、この要望を満たすものである。
【0010】
【特許文献1】米国特許5990199
【特許文献2】米国特許6337357
【特許文献3】米国特許6558653
【特許文献4】米国特許出願2003/0059379
【特許文献5】米国特許5798112
【特許文献6】米国特許6506791
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ヒトまたは動物の病者において有害な微生物特に細菌を有効かつ選択的に殺す方法を提供するのが本発明の目的である。
電磁気的な照射によりコントロール可能でしかも選択的に活性化できる抗菌方法を提供するのが本発明の他の目的である。
グラム陽性およびグラム陰性の細菌の両方を殺すのに有効な方法を提供するのが本発明の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
簡単にいえば、本発明は、電磁気的な照射に関連してサフラニンOを利用して身体における微生物特に細菌を殺すための方法および組成物を提供する。好ましい方法では、サフラニンOを含む組成物は、治療域に導入される。十分な時間が経過した後、好適な波長の照射は、治療域に適用されてサフラニンOを活性化しそして光力学反応によって細菌を殺す。好ましい照射は、約530nmの波長を有する。この方法は、グラム陽性およびグラム陰性の細菌の両者を殺すのに有効であり、そして複雑な媒体例えば血液の血清、血液または唾液も存在する領域で特に有効である。
本発明の上記および他の目的、特徴および利点は、図面とともに以下の記述から明らかになるだろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
従来の技術の方法および化合物に見いだされる困難さ、特にグラム陽性およびグラム陰性の細菌の両者を殺しそして複雑な媒体例えば血液の血清、血液または唾液の有害な作用を避ける方法を提供する困難さのために、これらの不利益を克服する化合物を見いだすことが望ましい。驚くべきことに、サフラニンOが、電磁気的照射とともにグラム陽性およびグラム陰性の細菌の両者を殺すのに有効に使用できることが分かった。示された他の利点は、他の光増感剤との場合とは異なり、媒体の複雑な成分(例えば血液の血清、血液または唾液)の存在が、目標とする細菌におけるサフラニンOの有効性を無効にしないことであった。サフラニンOは、従って、本発明による有効な抗菌の治療の一部である。サフラニンOを含む抗菌性PDT組成物は、また本発明の一部である。
【0014】
好ましい態様では、抗菌性の治療は、3つの一般的な段階を含む。第一の段階は、細菌を含む環境にサフラニンO組成物を導入することである。第二の段階は、サフラニンOが、治療域で細菌細胞中に侵入するかまたはそれらの細胞エンベロープの成分と少なくとも結合するのに十分な時間経過させる。最後の段階は、好適な波長の照射を適用してサフラニンOの活性化により光力学的メカニズムを開始させ、細菌の殺滅を導く反応性酸素種およびフリーラジカルを生成させる。
【0015】
サフラニンO組成物の適用と照射との間の好ましい時間は変動し、処理されるべき細菌のタイプ、治療されるべき身体の面積およびサフラニンO組成物を導入する方法のようなファクターに応じて変化するだろう。通常、この時間は、少なくとも15分間であろう。内部の細菌の感染を治療するには、組成物は、全身的な適用のために血流中に注入されるか、またはもし感染が特定の領域に限定されているならば、狭い領域に注入される。皮膚の上または皮膚に近い感染では、組成物は、局所的な適用のための溶液、クリーム、ゲルまたはローションの形であろう。
【0016】
予め選択された時間後、照射は、治療部位に適用されてサフラニンOを活性化しそして細菌を殺す。活性化照射の好ましい波長は、500−580nmであり、そしてさらに好ましくは約530nmである。照射は、非干渉照射例えばランプからのもの、または干渉レーザー照射である。表面または表面下の治療では、ランプは特定の感染された領域を照射するのに有効であり、一方身体内の深い感染された領域では、或る内部の領域を照射するのに必要に応じてディヒューザーまたは他の装置をさらに含む1つ以上の光ファイバーを含む光ファイバー装置が、レーザー照射をこれらの内部の領域に伝達するのに好ましい。好ましいレーザー源は、532nmレーザーを備えたダイオードである。
【0017】
本発明は、以下の実施例によりさらに説明されるが、それにより本発明を限定するものではない。
〔実施例〕
【実施例1】
【0018】
サフラニンOによる細菌細胞懸濁物の光力学不活性化
いくつかの研究は、グラム陽性の細菌(例えば、Staphylococus aureus)が光力学不活性化を特に受けやすいが、一方グラム陰性の細菌(例えば、Escherichia coli、Pseudomonas aeruginosa)が、多くの普通に使用される光増感剤に対して遙かに抵抗性があることを立証している。さらに、本発明者は、さらに複雑な媒体(例えば、血液、血漿、血液の血清、唾液)中のグラム陽性およびグラム陰性の細菌細胞の両者が、また光力学的作用からさらに保護されていることを見いだした。
【0019】
本発明の研究で使用される生物は、創傷の微小植物群の3つのメンバーすなわちStaphylococus aureus DSM1104(ATTCC 25923)、グラム陽性;Escherichia coli DSM8698、グラム陰性;Pseudomonas aeruginosa DSM1117(ATCC 27853)、グラム陰性であった。すべての菌株をTryptic Soy Broth(Merck KGaA Darmstadt、ドイツ)で37℃で一晩好気的に成長させた。細胞を遠心分離により回収し、そしてそれぞれ10%滅菌ウマ血液血清(Oxoid)、10%ヒト血漿、または10%ヒト血液(両者ともドナーから新しく得られた)を補給した滅菌リン酸塩−緩衝塩水(PBS)または滅菌PBSに再懸濁した。すべての場合に1cm、600nmで最終のOD(光学密度)は0.03であった。
【0020】
細菌の懸濁物の一部(190μL)を、底が透明な滅菌ブラック96穴プレート(Costar(商標)3603、Corning Inc.米国)中に入れた。10μLの3つの異なるサフラニンO原溶液を加えて、それぞれ10μM、100μMおよび1mMの最終の光増感剤の濃度を得た。プレートを室温で暗所で30分間インキュベートした。
【0021】
インキュベーション後、サンプルを、プレートの底から光ファイバーをへて85秒の照射時間で、0.5Wに設定した電力で532nmで、レーザーCeralas G2(Biolitec AG、ドイツ)からの光に曝した。これらの設定に関するフルエンス率は、約1.2W/cm(Optometer P−9710、Gigaherz−Optik GmbH、Puchheim、ドイツにより測定)であった。照射時間により、得られるエネルギーフルエンスは、約100J/cmであった。
【0022】
コントロールの穴は、サフラニンOを含まず、レーザー光に曝されなかった。暗(dark)毒性に関するコントロールサンプルは、照明なしにサフラニンO(最終濃度1mM)にのみ曝された。
【0023】
照明後、サンプルをプレートの穴から取り出し、Tryptic Soy Brothにより希釈し、そしてTryptic Soyアガープレート上にらせんプレーターEddy Jet(iul Instruments、Barcelona、スペイン)を使用して接種した。コロニーカウンターCountermat Flash(iul Instruments、Barcelona、スペイン)を使用することによって適切なインキュベーション後、コロニーを形成する単位の数(CFU/mL)を数えた。
実験の結果は、図3、4および5に示される。
【0024】
本発明者は、PBSおよびさらに複雑な媒体(PBS+10%ウマ血液血清、PBS+10%ヒト血漿、図4参照)中のグラム陽性のStaphylococus aureus細胞の懸濁物の場合のサフラニンOによるPDT処理による非常に良好な殺菌の効果を見いだした。その上、処理懸濁物中の血液の血清または血漿の存在下のグラム陰性のPseudomonas auruginosaおよびEscherichia coli細胞の細胞懸濁物の十分な殺菌も存在した(それぞれ、図4および5参照)。
【0025】
図に関連して本発明の好ましい態様を記載したが、本発明がそれらの態様に限定されないこと、そして種々の変化および改変が、請求の範囲に規定された本発明の範囲または趣旨から離れることなく、当業者により実施できることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】グラム陽性の細菌細胞の細胞エンベロープの断面図である。
【図2】グラム陰性の細菌細胞の細胞エンベロープの断面図である。
【図3】サフラニンOによるStaphylococus aureus DSM1104の光力学不活性化を示すグラフである。
【図4】サフラニンOによるPseudomonas aeruginosa DSM1117の光力学不活性化を示すグラフである。
【図5】サフラニンOによるEscherichia coli DSM8698の光力学不活性化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0027】
101 ペプチドグリカン細胞壁
103 ペプチドグリカン層
105 細胞膜
201 ペプチドグリカンの層
203 細胞膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.光増感剤としてサフラニンOを含む組成物を病者の治療域に導入する段階、
b.該治療域の細菌に該サフラニンを結合させるために予定された時間経過させる段階、
c.該治療域に予め選択された波長の照射を当てて、該サフラニンOを活性化しそしてそれにより光力学反応を誘導して該細菌を殺す段階からなることを特徴とする病者の治療域の殺菌方法。
【請求項2】
該予め選択された波長が約500nmと約580nmとの間にある請求項1の殺菌方法。
【請求項3】
該予め選択された波長が約530nmである請求項1の殺菌方法。
【請求項4】
該治療域が複雑な媒体を含み、そして該複雑な媒体が血液の血清、血液および唾液からなる群から選ばれる請求項1の殺菌方法。
【請求項5】
該導入段階が、全身的な適用、狭い域への適用および局所的な適用からなる群から選ばれる請求項1の殺菌方法。
【請求項6】
該全身的な適用が静脈内注入である請求項5の殺菌方法。
【請求項7】
該狭い域への適用が、非管組織中への狭い域の注入である請求項5の殺菌方法。
【請求項8】
局所的な適用のための該組成物が、溶液、クリーム、ゲルおよびローションからなる群から選ばれる形である請求項5の殺菌方法。
【請求項9】
該予定された時間が少なくとも約15分である請求項1の殺菌方法。
【請求項10】
該照射が、非干渉ランプおよび干渉レーザーからなる群から選ばれる照射源によりもたらされる請求項1の殺菌方法。
【請求項11】
該照射を適用する段階が、照射源に結合された少なくとも1つの光ファイバーにより達成される請求項1の殺菌方法。
【請求項12】
光力学治療のための活性光増感剤成分としてサフラニンOを含むことを特徴とする抗菌性光力学治療組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−503917(P2007−503917A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525379(P2006−525379)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/028180
【国際公開番号】WO2005/021094
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(502359666)セラムオプテック インダストリーズ インコーポレーテッド (20)
【Fターム(参考)】