説明

抗菌性組成物、および口腔内衛生品

【課題】う蝕、歯周病などの口腔内の疾患の原因となる様々な細菌に対し強い抗菌活性を持つのみならず、生体に重大な悪影響を及ぼす各種の細菌にいたるまで広範囲に抗菌活性を有する抗菌性組成物、および、これよりなる口腔内衛生品を提供する。
【解決手段】 下記式(1)に示す化合物を有効成分として含有する抗菌性組成物、これよりなる口腔内衛生品により、上記の課題を解決する抗菌性組成物、および、これよりなる口腔内衛生品が提供される。


ただし、式(1)中、Rは、炭素数が1から4のアルキル基であり、Rは、アルキル基又は置換基を有しても良いフェニル基等である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性組成物、および口腔内衛生品に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、様々な細菌などの微生物が生体に対して様々な影響を及ぼす原因として指摘されている。例えば、病原性大腸菌や、黄色ブドウ球菌やセレウス菌などの細菌は、生体に摂取される製品(例えば食品など)や、生体に緊密に接触する製品(例えば歯磨粉、うがい液などといった口腔内衛生品など)に付着、混入することなどにより、これら各種の製品を汚染する原因となることが指摘されている。こうした細菌は、生体に重大な悪影響を及ぼす危険が大きく、これらの細菌の増殖を抑制、制御することが強く要請されている。
【0003】
また、細菌などの微生物のなかには口腔内の疾患の主な原因となるものが存在することが指摘されている。例えば、う蝕については、ストレプトコッカス・ソブリナスやストレプトコッカス・ミュータンス等がそれを誘発する原因菌として挙げられている。また、歯周病については、様々な病因があげられているものの、細菌が主要な病因に挙げられており、特に、歯周病患者の病巣から高率で検出されるポルフィロモナス・ジンジバリスが挙げられている。こうした口腔内の疾患の予防や治療にあたり、その原因菌や病原菌の増殖を抑制し、理想的には原因菌や病原菌が全く存在しない状態を維持し、すなわち細菌の増殖を制御することが強く要請される。
【0004】
ところで、不飽和環式炭化水素のなかには、生物の生育に強い影響を及ぼす物質が存在することが報告されている。例えば、ヒドロキシメチルシクロプロペノン(ペントリシン(Pentricin))は、グラム陰性菌及び一部のグラム陽性菌に対する増殖を抑制する可能性がある点で生物のなかでも細菌の生育に影響を及ぼすことが報告されている(非特許文献1)。また、シクロプロペン誘導体に属するシクロプロペンカルボン酸には、生物のなかでも植物の生育を制御する作用があることが報告されている(特許文献1)。
【0005】
シクロプロペン誘導体を構成するシクロプロペン環は、不飽和環式炭化水素のなかでも構造上大きな歪があり、シクロプロペン環に対して何らかの官能基を結合させた化合物には、その官能基の反応性とシクロプロペン環の反応性とが互いに影響し合う可能性を期待することができ、更に、複数の官能基をシクロプロペン環に結合させた化合物には、それらの官能基同士の反応性についても影響し合う可能性を期待することができる。そこで、シクロプロペン誘導体のなかに、細菌に対して強い反応性を示し相互作用する性質を有する化合物が期待される。
【0006】
【非特許文献1】T Okuda et al, Journal of Antibiotics, 37(7), 723-727(1984)
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/065033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、シクロプロペン誘導体に関して、上記した病原性大腸菌などのような増殖の制御を強く要請される様々な細菌に対する影響については不明な点が多く、特に、口腔内の疾患の原因菌や病原菌の増殖を十分に抑制し制御しうるか否かについては全く不明の状況であった。この点、不飽和環式炭化水素のなかでもシクロプロペノン誘導体については、上記のように細菌の生育に影響を与えうることが報告されているが、シクロプロペノン誘導体はシクロプロペン環に直接カルボニル基を形成して構成され、シクロプロペン誘導体とは構造的に全く異なるものであり、生物に対する影響も異なる。
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、シクロプロペン誘導体のうち所定の構造を有する化合物に、細菌の増殖を効果的に抑制する作用を奏するものが存在することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、う蝕、歯周病などの口腔内の疾患の原因となる様々な細菌に対し強い抗菌活性を持つのみならず、生体に重大な悪影響を及ぼす各種の細菌にいたるまで広範囲に抗菌活性を有する抗菌性組成物、および、これよりなる口腔内衛生品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、(1) 下記式(1)に示す化合物を有効成分として含有する抗菌性組成物である。
【0011】
【化1】

【0012】
ただし、式(1)中、Rは、炭素数が1から4のアルキル基であり、Rは、下記式(2)に示す官能基、ベンジル基、炭素数が1から11のアルキル基のいずれかである。なお、下記式(2)におけるR3は、オルト位、メタ位もしくはパラ位の位置での置換基を示しており、当該置換基は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数が1から3のアルキル基のいずれかである。
【0013】
【化2】

【0014】
また、本発明は、(2) 上記(1)に記載の抗菌性組成物からなる口腔内衛生品である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、う蝕、歯周病などの口腔内の疾患の原因となる様々な細菌に対し強い抗菌活性を持つのみならず、生体に重大な悪影響を及ぼす各種の細菌にいたるまで広範囲に抗菌活性を有する抗菌性組成物を得ることができる。
【0016】
さらに、本発明においては、う蝕、歯周病などの口腔内の疾患の原因となる様々な細菌に対し強い抗菌活性を持つ口腔内衛生品を得ることができる。すなわち、式(1)に示す化合物を、歯磨粉やうがい液などを構成する混合物(ビヒクル)に配合して、抗菌性組成物を口腔内衛生品となすことができる。このような口腔内衛生品は、使用者の意思に応じて適宜長い時間にわたって口腔内に留められること等により、式(1)に示す化合物の細菌増殖抑制作用を発揮させることが可能であるとともに、口腔内衛生品による細菌増殖抑制効果を持続的に発揮させるように制御することも容易である。こうして、このような本発明の口腔内衛生品によれば、口腔内の疾患の原因となる細菌の増殖を効果的に抑制し制御することが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明における抗菌性組成物は、下記式(1)に示す化合物(化合物A)を有効成分として含有する。
【0018】
【化3】

【0019】
ただし、Rは、炭素数が1から4のアルキル基であり、Rは、下記式(2)に示す官能基、ベンジル基、あるいは、炭素数が1から11のアルキル基のいずれかである。なお、下記式(2)におけるRは、オルト位、メタ位もしくはパラ位の位置における置換基を示しており、当該置換基は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数が1から3のアルキル基のいずれかである。
【0020】
【化4】

【0021】
化合物Aにおいて、R、R、Rが、上記したような官能基であることで、その化合物Aをより容易に調整できるという効果を奏し、この効果の点で、Rは、炭素数が1または2のアルキル基、Rは、式(2)に示す官能基、ベンジル基、あるいは、炭素数が1から8のアルキル基のいずれか、Rは、水素原子、ハロゲン原子、メチル基のいずれかであることがより好ましい。
【0022】
この化合物Aは、公知方法を適宜用いて得られるものを用いることができるが、例えば、遷移金属触媒による環化反応を用いた製造方法(方法A)などにて得られるものを用いることが、実施の安全性及び化合物Aの合成の容易さや収率の点からは、好ましい。
【0023】
上記した方法Aは、次のように具体的に実施することができる。すなわち、まず、下記化5に示すような化合物Xと、化6に示すような化合物Y、および、遷移金属触媒として酢酸ロジウム2量体を準備する。
【0024】
【化5】

【0025】
ただし、化5において、Phは、フェニル基を示し、Rは、上記式(1)におけるRと同じ官能基を示す。また、化5中、「+」、「−」を丸印で囲ってなる記号は、それぞれ、正に帯電している状態、負に帯電している状態を示す記号であり、ここでは、I(ヨウ素)が正に帯電し、ヨウ素およびエステル基(-CO)に対して直接結合している脂肪族の炭素が負に帯電していることを示す。
【0026】
【化6】

【0027】
ただし、化6において、Rは、上記式(1)におけるRと同じ官能基を示す。
【0028】
次に、化合物Xと化合物Yと触媒量の酢酸ロジウム2量体とを、ジクロロメタンなどの溶媒の中に、懸濁させて懸濁液を得る。触媒量としては、例えば、化合物Xのモル数を1とした場合のモル比率にして、0.03モル%〜0.1モル%が挙げられ、また、用いられる溶媒は、上記したジクロロメタンに限定されず、クロロホルム、トルエン、ベンゼンなどを適宜採用することができる。
【0029】
更に、得られた懸濁液を、アルゴン雰囲気または窒素雰囲気下にて攪拌させることで、化合物Xと化合物Yとを反応させて反応液となす。このとき、懸濁液の攪拌は、温度が−20℃から110℃、望ましくは0℃から−20℃にて行われ、また、懸濁液の攪拌時間は、12時間から24時間、望ましくは18時間から20時間である。このような攪拌温度、攪拌時間にて懸濁液の攪拌が行われることで、より効率的に化合物Xと化合物Yとを反応させることができる。
【0030】
そして、得られた反応液を濾過して濾液を得て、濾液の溶媒成分を減圧留去し、化合物Xと化合物Yの反応生成物の粗生成物を得て、この粗生成物から化合物Aを、シリカゲルカラムクロマトグラフィーなどにより分離精製する。こうして化合物Aを精製物として得ることができる。
【0031】
化合物Aは、抗菌性組成物の重量を100とした場合に、抗菌性組成物中に0.05重量%以上配合されていることが好ましく、より好ましくは0.1重量%以上である。化合物Aが0.05重量%以上であることで、細菌の増殖抑制作用を有効に発揮することが可能となる。
【0032】
抗菌性組成物は、化合物Aのみで構成することが可能ではあるが、通常、用途により良く適合させるべく、その用途に応じて選択された物質(化合物A以外の物質)の混合物に化合物Aを配合して構成される。このように混合物に化合物Aを配合して抗菌性組成物が構成されている場合、化合物Aの配合量は用途に応じて適宜選定される。具体的には、その「化合物A以外の物質の混合物」の機能を害しないようにするべく、化合物Aは、抗菌性組成物の重量を100とした場合に、抗菌性組成物中に5重量%以下で配合されていることが好ましく、より好ましくは1重量%以下である。
【0033】
抗菌性組成物の状態は、用途に応じて、具体的に粉体状、顆粒状、ペレット状とするほか、ペースト状、液体状の状態など、適宜選択可能である。
【0034】
抗菌性組成物は、例えば、口腔内衛生品の用途で用いられることができる。なお、口腔内衛生品は、生体の口腔内に含ませるもの(製品群A)、生体の口腔内で使用されるものに関連するもの(製品群B)のいずれも含まれるものとし、製品群Aの例としては練歯磨、歯磨粉、うがい液、洗口液などが挙げられ、製品群Bの例としては、義歯洗浄剤などを挙げることができるものとする。
【0035】
抗菌性組成物は、口腔内衛生品の用途で用いられる場合、口腔内衛生品を構成する材料の混合物(ビヒクル)に化合物Aを配合してなるものとして構成される。すなわち、口腔内衛生品は、抗菌性組成物にて構成される。
【0036】
ビヒクルを構成する材料は、口腔内衛生品の用途に応じて適宜選定されるが、具体的には、研磨剤、潤滑剤、粘結剤、界面活性剤、香料、甘味料、防腐剤、有機溶媒、水、色素等を挙げることができる。
【0037】
さらに具体的に、研磨剤としては、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、無水ケイ酸、含水ケイ酸、ケイ酸アルミニウム等、潤滑剤としては、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール、マルチトール、キシリトール等、粘結剤としては、メチルセルロース、アルギン酸塩、カラギーナン、アラビアゴム、ポリビニルアルコール、キサンタンガム、デンプン等、界面活性剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグリコシド類、ソルビタン脂肪酸エステル等、香料としては、スペアミント、ペパーミント、メントール等、甘味料としては、サッカリン、ステビア、アスパルテーム等、防腐剤としては、安息香酸、安息香酸塩類等、を例示することができる。
【0038】
口腔内衛生品は、常法にて製造可能である。
【0039】
例えば、練歯磨を構成するビヒクルに化合物Aを含有させることで抗菌性組成物を口腔内衛生品となす場合、練歯磨は、リン酸カルシウムなどの研磨剤や、グリセリンなどの潤滑剤や、カラギーナンなどの粘結剤などを混合させてなるビヒクルに、化合物Aを添加することで、具体的に製造可能である。
【0040】
また、洗口液を構成するビヒクルに化合物Aを含有させることで抗菌性組成物を口腔内衛生品となす場合、洗口液は、例えば、エタノール、精製水、メントール、キシリトール、ステビアなどを混合してなるビヒクルに、化合物Aを添加することで、具体的に製造可能である。
【0041】
本発明における口腔内衛生品には所定量の化合物Aが配合されるので、例えば口腔内に含ませるなどにより、口腔内細菌の増殖を抑制する効果が得られる。
【0042】
なお、本発明の抗菌性組成物は、口腔内衛生品の用途で用いられる場合(すなわち口腔内衛生品をなす場合)に限られず、一般的に細菌の増殖の抑制、制御を要請されるものとしての用途で用いられることも可能であり、このような場合、抗菌性組成物は、例えば、殺虫剤、農薬、消毒液、消臭剤などをなす。より具体的には、例えば、ヘキサン、液体パラフィン、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ジオキサン、ジメチルエーテル、ベンゼン、トルエン、ジクロロメタン、ジクロロエタン等の液体有機物質や、これらに有機リン系化合物などを加えてなるビヒクルに、化合物Aを溶解させること等により、抗菌性組成物を殺虫剤となすことができる。
【0043】
本発明は、化合物Aが口腔内細菌などの細菌の増殖を抑制する作用を有することが見出されたことに基づきなされたものであるが、次に、こうした化合物Aの具体的な例を挙げ、その調整方法、化合物Aを用いた抗菌性組成物により口腔内細菌などの細菌の増殖が抑制される点について、実施例にて更に詳細に示す。
【実施例】
【0044】
[化合物Aの調整]
まず、化合物Aとして、下記化7の化合物(a)から(i)に示すように、1−アセチル−2−フェニルシクロプロプ−2−エンカルボン酸メチル(Methyl 1-Acetyl-2-phenylcycloprop-2-enecarboxylate)(化合物(a))、1−アセチル−2−(4−フルオロフェニル)シクロプロプ−2−エンカルボン酸メチル(Methyl 1-Acetyl-2-(4-fluorophenyl)-cycloprop-2-enecarboxylate)(化合物(b))、1−アセチル−2−(p−トリル)シクロプロプ−2−エンカルボン酸メチル(Methyl 1-Acetyl-2-p-tolylcycloprop-2-enecarboxylate)(化合物(c))、1−アセチル−2−(o−トリル)シクロプロプ−2−エンカルボン酸メチル(Methyl 1-Acetyl-2-o-tolylcycloprop-2-enecarboxylate)(化合物(d))、1−アセチル−2−ベンジルシクロプロプ−2−エンカルボン酸メチル(Methyl 1-Acetyl-2-benzylcycloprop-2-enecarboxylate)(化合物(e))、1−アセチル−2−n−ヘキシルシクロプロプ−2−エンカルボン酸メチル(Methyl 1-Acetyl-2-n-hexylcycloprop-2-enecarboxylate)(化合物(f))、1−アセチル−2−n−ブチルシクロプロプ−2−エンカルボン酸メチル(Methyl 1-Acetyl-2-n-butylcycloprop-2-enecarboxylate)(化合物(g))、1−アセチル−2−n−オクチルシクロプロプ−2−エンカルボン酸メチル(Methyl 1-Acetyl-2-n-octylcycloprop-2-enecarboxylate)(化合物(h))、1−アセチル−2−フェニルシクロプロプ−2−エンカルボン酸エチル(Ethyl 1-Acetyl-2-phenylcycloprop-2-enecarboxylate)(化合物(i))の9種類を調整した。なお、化7中、Me、Etは、それぞれメチル基、エチル基を示す。
【0045】
【化7】

【0046】
これら化合物Aは、上記した方法Aに準じて、次のように製造された。
【0047】
参考例1<化合物(a)の合成>
化合物Xとしてカルボメトキシヨードニウムイリド(1.69g)(5.30mmol)と、化合物Yとしてエチニルベンゼン(2.71g)(26.5mmol)を用い、これらと酢酸ロジウム2量体(70mg、0.15mmol)とがジクロロメタン(34mL)に添加されて懸濁液を得た。次いで、この懸濁液をアルゴン雰囲気下で−20℃、18時間撹拌して反応液を得た。さらに、その反応液をろ過し、ろ液を減圧留去して粗生成物を得た後、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル−ヘキサンの混液(体積比1:4)で分離精製して黄色油状の精製物(765mg)を得た。精製物について、赤外吸収スペクトル(IR)、1H−NMRスペクトル、質量分析(MS)を用いた構造分析を行い、1−アセチル−2−フェニルシクロプロプ−2−エンペンカルボン酸メチル(化合物(a))が得られていることが確認された。なお、赤外吸収スペクトルのデータ、1H−NMRスペクトルのデータ、質量分析(MS)の結果については、表1に示す。
【0048】
参考例2<化合物(b)の合成>
化合物Xとしてカルボメトキシヨードニウムイリドと、化合物Yとして1−エチニル−4−フルオロベンゼンを用いたほかは、参考例1と同様にして黄色油状の精製物(化合物(b))を得た。
【0049】
参考例3<化合物(c)の合成>
化合物Xとしてカルボメトキシヨードニウムイリドと、化合物Yとして4−エチニルトルエンベンゼンを用いたほかは、参考例1と同様にして黄色油状の精製物(化合物(c))を得た。
【0050】
参考例4<化合物(d)の合成>
化合物Xとしてカルボメトキシヨードニウムイリドと、化合物Yとして2−エチニルトルエンを用いたほかは、参考例1と同様にして黄色油状の精製物(化合物(d))を得た。
【0051】
参考例5<化合物(e)の合成>
化合物Xとしてカルボメトキシヨードニウムイリドと、化合物Yとして3−フェニル−1−プロピンを用いたほかは、参考例1と同様にして黄色油状の精製物(化合物(e))を得た。
【0052】
参考例6<化合物(f)の合成>
化合物Xとしてカルボメトキシヨードニウムイリドと、化合物Yとして1−オクチンを用いたほかは、参考例1と同様にして黄色油状の精製物(化合物(f))を得た。
【0053】
参考例7<化合物(g)の合成>
化合物Xとしてカルボメトキシヨードニウムイリドと、化合物Yとして1−ヘキシンを用いたほかは、参考例1と同様にして黄色油状の精製物(化合物(g))を得た。
【0054】
参考例8<化合物(h)の合成>
化合物Xとしてカルボメトキシヨードニウムイリドと、化合物Yとして1−デシンを用いたほかは、参考例1と同様にして黄色油状の精製物(化合物(h))を得た。
【0055】
参考例9<化合物(i)の合成>
化合物Xとしてカルボエトキシヨードニウムイリドと、化合物Yとしてエチニルベンゼンを用いたほかは、参考例1と同様にして黄色油状の精製物(化合物(i))を得た。
【0056】
なお、参考例2から9において、化合物X,化合物Yの量については、参考例1の場合と同じモル数になるような量が用いられ、また、得られた精製物については、参考例1と同様に構造分析が行われ、それぞれ化合物(b)から(i)が得られていることが確認された。構造分析の際に測定された赤外吸収スペクトル(IR)のデータ、1H−NMRスペクトルのデータ、質量分析(MS)のデータは、表1にまとめて示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表5中、IRのデータ欄に示す各数値は、全反射法(ATR)で測定されたIRスペクトルのチャートのピーク位置(cm−1)を示し、各数値に続く括弧内の記載は、当該数値にて定められる官能基を示す。また、1H-NMRのデータ欄に示す数値は、CDCl中で記録される1H-NMRスペクトルのシグナル位置(TMSを基準としたδ値(ppm))を示し、数値に続く括弧内の記載に関しては、まず1H、2H・・・nH(nは正の整数)は、測定対象となる化合物の分子構造における等価なプロトンの数を示し、s、d、t、q、m、brs、dtなどは、シグナルの分裂(それぞれシングレット、ダブレット、トリプレット、カルテット、マルチプレット、ブロードシングレット、ダブルトリプレット)を示し、J(Hz)はスピン結合定数を示す。MSのデータ欄に示す数値(m/z(m:質量、z:電荷))は、FAB法によるMSチャートのピーク位置のうち分子イオンピークをなす位置に対応する値を示す。HR−MS(高分解能質量分析)(FAB法)のデータ欄に示す数値は、高分解能質量分析チャートにおける分子イオンピークの分子式を示す。
【0059】
次に、上記にて得られた化合物Aを用いて抗菌性組成物を調製した。
【0060】
<抗菌性組成物の調整について>
化合物Aとして製造された化合物(a)から(i)を、それぞれジクロロメタン(比重1.32)に溶解し、得られた溶液を抗菌性組成物の試験液(化合物Aの濃度が0.05モル/Lのもの、および0.25モル/Lのもの)とした。
【0061】
実施例1から19
上記抗菌性組成物の試験液について、各種細菌種に対する細菌増殖抑制力が測定された。細菌増殖抑制力は、ペーパーディスク法により測定され、阻止円直径(mm)の値として計測された。
【0062】
ペーパーディスク法は次のように実施された。
【0063】
[ペーパーディスク法による測定]
<試験用ペーパーディスクの調整>
抗菌性組成物の試験液を浸透させたペーパーディスク(試験用ペーパーディスク)を次のように作製した。まず、滅菌されたディスク状のろ紙(ペーパーディスク)(直径7mm)を準備した。このペーパーディスクに上記のように調整した試験液(20μL)を染み込ませ、室温で10分間乾燥させて、試験用ペーパーディスクを得た。試験用ペーパーディスクとしては、同様のものが9つ作製された。
【0064】
<試験用シャーレの調整>
試験用の一般細菌としてStaphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)(NBRC12732)、Bacillus cereus(セレウス菌)(NBRC3134)、Escherichia coli(大腸菌)(NBRC14237)の3種類を準備するとともに、ミュラーヒントン寒天培地(日水製薬(株)製、ミュラーヒントン寒天培地-N)の形成された滅菌シャーレを準備し、試験用の一般細菌をミュラーヒントン寒天培地上に略均一に塗布して、試験用シャーレとした。
【0065】
さらに、口腔内の疾患の原因菌や病原菌としてポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)(ATCC33277)、ストレプトコッカス・ソブリナス(Streptococcus sobrinus)(6715)の2種類を準備するとともに、変法GAM寒天培地(日水製薬(株)製)の形成された滅菌シャーレを準備し、口腔内の疾患の原因菌や病原菌を、それぞれ変法GAM寒天培地上に略均一に塗布して、試験用シャーレとした。
【0066】
また、口腔内の細菌を含むものとしてヒト唾液(20歳代、40歳代、50歳代のヒトより採取されたものの全唾液成分)を準備するとともに、ミュラーヒントン寒天培地(日水製薬(株)製、ミュラーヒントン寒天培地-N)の形成された滅菌シャーレを準備し、採取されたヒト唾液を、ミュラーヒントン寒天培地上に略均一に塗布して、ヒト唾液内細菌の接種された試験用シャーレとした。このとき、試験用シャーレとしては、20歳代、40歳代、50歳代のヒトより採取されたものの全唾液成分について3パターンが作成される。
【0067】
<細菌増殖抑制力の計測>
試験用シャーレと試験用ペーパーディスクを表3から表5に示す組み合わせにて選択し、試験用シャーレの各培地上に、上記調整された9枚の試験用ペーパーディスクを互いに間隔をあけて静置し、試験用シャーレに接種された細菌種に応じて表2に示すような培養時間、培養環境にて、37℃で細菌の培養を行った。
【0068】
すなわち、実施例1から10では、実施例に応じて表3と表4に示すように試験用シャーレが選択されるとともに、実施例に応じて表3と表4に示すように特定される化合物A(0.05モル/L)を含む抗菌性組成物の試験液を浸透させた試験用ペーパーディスクが選択され、各種細菌の接種された試験用シャーレの培地上に、化合物Aを含む抗菌性組成物の試験液を浸透させた9枚の試験用ペーパーディスクを配置して、表2に示す培養方法にて細菌の培養が行われる。
【0069】
また、実施例11から20では、ヒト唾液内細菌の接種された試験用シャーレとして3パターンの試験用シャーレが選択されるとともに、実施例に応じて表5に示すように特定される化合物Aを含む抗菌性組成物の試験液を浸透させた試験用ペーパーディスクが選択され、3パターンの試験用シャーレそれぞれの培地上に、化合物Aを浸透させた9枚の試験用ペーパーディスクを配置して、表2に示す培養方法にて細菌の培養が行われる。
【0070】
【表2】

【0071】
細菌の培養の結果、培地上において、細菌の生育が阻止されない領域では細菌が増殖してコロニーを形成し、細菌の生育が阻止された領域ではコロニーが形成されない。したがって、試験用ペーパーディスクに染み込んだ試験液の細菌増殖抑制力がより強いほど、略円形状の試験用ペーパーディスクの周囲に細菌の増殖の阻止された領域(阻止像)がより大きく略円形状に形成される。そこで、細菌の培養の後、各試験用シャーレの培地上に静置した試験用ペーパーディスクごとに阻止像の直径(コロニーの形成されない領域の直径(阻止円直径))を計測し、その平均値(mm)を算出することで、細菌増殖抑制力が測定された。ただし、ヒト唾液内細菌に対する増殖抑制力については、3パターンの試験用シャーレについてそれぞれ算出された阻止円直径の平均値を更に平均した値を求めることで、細菌増殖抑制力が測定された。結果は、一般細菌に対する増殖抑制力については表3に、口腔内の疾患の原因菌や病原菌に対する増殖抑制力については表4に、ヒト唾液内細菌に対する増殖抑制力については表5に示されるとおりである。
【0072】
【表3】

【0073】
【表4】

【0074】
【表5】

【0075】
比較例1から3
抗菌性組成物の試験液に代えてジクロロメタンを用いたほかは、比較例1,2については実施例1から10の場合と同様に、比較例3については実施例11から20の場合と同様にして、細菌増殖抑制力が測定された。結果は表3から5に示す。
【0076】
表3から表5より、本発明の抗菌性組成物によれば、大腸菌、黄色ブドウ球菌、セレウス菌や、口腔内の細菌、口腔内の疾患の原因菌や病原菌の増殖が効果的に抑制されることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)に示す化合物を有効成分として含有する抗菌性組成物。
【化1】

ただし、式(1)中、Rは、炭素数が1から4のアルキル基であり、Rは、下記式(2)に示す官能基、ベンジル基、あるいは、炭素数が1から11のアルキル基である。なお、下記式(2)におけるRは、オルト位、メタ位もしくはパラ位の位置での置換基を示しており、当該置換基は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数が1から3のアルキル基のいずれかである。

【化2】

【請求項2】
請求項1に記載の抗菌性組成物からなる口腔内衛生品。

【公開番号】特開2008−308439(P2008−308439A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157575(P2007−157575)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(505363237)学校法人 晴川学舎 奥羽大学 (4)
【Fターム(参考)】