説明

抗菌性繊維、織布または編布、不織布、壁紙、および、断熱材

【課題】抗菌作用が発揮される微生物の種類が多く効率的な抗菌作用を発揮し人体や環境に影響のない水分散系表面処理剤を提供する。
【解決手段】イミダゾール系の有機系抗菌剤のみから選ばれた2種と無機系抗菌剤とを含む抗菌性組成物と、高分子材料とを適宜混合し、溶融紡糸や乾式紡糸、湿式紡糸などにて防止し、抗菌性繊維を作製する。抗菌性繊維を一部あるいは全部に織り込んで織布や不織布を作製する。著しく広い抗菌スペクトルを示し皮膚刺激性が認められず、人体や環境に影響がない抗菌性組成物を含有し、効率よく高い抗菌作用を発現する繊維が容易に得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機系抗菌剤および無機系抗菌剤を含有して繊維形状に成形された抗菌性繊維、さらにはこの抗菌性繊維を含む織布または編布、不織布、壁紙および断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌などの原核生物、カビ、酵母などの真核生物、さらには藻類などの微生物を除去や忌避する抗菌性組成物として、各微生物に対して2種類以上の薬剤を組み合わせることで、相乗効果が得られることが知られている。すなわち、2種類以上の薬剤を併用することで、抗菌スペクトルが拡大したり、最小生育阻止濃度(MIC値:Minimum Inhibitory Concentrationの略)(ppm)が各薬剤を単独使用する場合に比して減少したりするといった相乗効果を奏する。そして、異なる種類の薬剤を併用する方法として、有機系抗菌剤および無機系抗菌剤を用いる構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載のものは、銀、銅、亜鉛などの金属成分と、この金属成分以外の無機酸化物とからなり抗菌・防黴・防藻性作用を有する無機酸化物微粒子と、チアゾール系化合物およびイミダゾール系化合物のうちの少なくともいずれか一方の有機系抗菌・防黴・防藻剤と、を含有している。そして、無機酸化物微粒子は、分散性や被処理物の表面色調などに及ぼす影響により、平均粒子径を500nm以下としている。また、無機酸化物微粒子の含有量は、併用する効果のために0.001重量%以上としている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−339102号公報(第4頁−第10頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、抗菌性組成物は、生活環境中に使用されるものであることから、例えば、被処理物に抗菌性組成物を塗布するなどの際に皮膚に付着したり、抗菌性組成物を塗布あるいは含有した成形体に利用者が接触したりしても、かぶれるなどの人体に影響がない薬剤を用いる必要がある。また、抗菌性組成物を塗布あるいは含有した成形体を例えば焼却処理する際に、ダイオキシンなどの有害物質が発生しない薬剤を用いる必要がある。
【0006】
一方、抗菌性組成物を調製する際や抗菌性組成物を含有する成形体を成形する際などの製造工程において、混合する際の容器や成形時の金型など、製造設備の腐食を生じさせない薬剤が望ましい。すなわち、製造設備に耐腐食性の材料を用いるなど、製造設備に特別な装置が必要となって製造設備の構築性が低下したりコストが増大したりするなどの不都合が生じない薬剤を対象とすることが望ましい。
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1に記載のような従来の有機系および無機系を併用して効果を得る抗菌性組成物は、組み合わせによって十分な相乗効果が発揮できず、限られた微生物にのみしか相乗効果が得られない。すなわち、抗菌スペクトルを大きく拡大できない。さらには、抗菌スペクトルが拡大する抗菌性を発揮させるためには、MIC値が増大、すなわち添加量が増大し、効率的な抗菌作用が得られないとともに、添加量の増大による成形体の成形性が困難となるなどの不都合も生じるおそれがある。また、2−(n−オクチル)−4−イソチアゾール−3−オン(略称OIT)、1,2−ベンツイソチアゾリン−3−オン(略称BIT)などのアレルギ性物質も用いられている。
【0008】
本発明の目的は、抗菌作用が発揮される微生物の種類が多く効率的な抗菌作用が得られ人体や環境に影響のない抗菌性繊維、織布または編布、不織布、壁紙、および、断熱材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に記載の抗菌性繊維は、高分子材料と、イミダゾール系の有機系抗菌剤から選ばれた少なくとも2種、および無機系抗菌剤を含有する抗菌性組成物と、を含有した原料が、紡糸されたことを特徴とする。
この発明では、高分子材料に少なくとも2種のイミダゾール系の有機系抗菌剤と、無機系抗菌剤とを併用して含有させた繊維である。
このことにより、抗菌スペクトルを広げるために化学的に異種な抗菌剤を用いるという従来の公知知見からは全く予想できないイミダゾール系単一の有機系抗菌剤の組み合わせと、さらに無機系抗菌剤とを組み合わせるにより、著しく広い抗菌スペクトルを達成でき、かつ皮膚刺激性が認められず、人体や環境に影響がない本発明の抗菌性組成物を含有させることで、適宜紡糸した繊維に、皮膚刺激性が陰性で安全性が高く、人体や環境に影響が極めて少なく、かつ、相乗効果による低い最小育成素子濃度(MIC値)でも格段に広い抗菌スペクトルが得られ、効率よく高い抗菌作用を発現させることができる。
なお、本発明において、「抗菌性(抗菌効果)」とは、真菌や細菌などの菌類の生育や繁殖を阻止するといった抗菌効果そのものに加え、防カビ・抗カビ効果や、防藻効果といったものも含むものである。
【0010】
そして、高分子材料中に抗菌性組成物を0.01質量%以上10.0質量%以下で含有されたことが好ましい。抗菌性組成物の含有量を0.01質量%以上10.0質量%以下とすることで、例えば強度や外観などの特性を損なうことなく顕著な抗菌性を発揮する成形体として提供できる。
ここで、抗菌性組成物の含有量が0.01質量%より少なくなると、少ないMIC値での抗菌スペクトルの拡大が得られにくくなり、十分な抗菌性を発揮できなくなるおそれがある。一方、抗菌性組成物の含有量が10.0質量%より多くなると、成形体の特性が損なわれたり、成形時における作業性が低下したりするなどの不都合を生じるおそれがある。したがって、抗菌性組成物の含有量を0.01質量%以上10.0質量%以下とすることが好ましい。特に、0.05質量%以上2質量%以下とすることが好ましい。
【0011】
さらに、繊維全質量に対して無機系抗菌剤が0.5質量%未満の割合で含有される状態に抗菌性組成物を含有し、社団法人繊維評価技術協議会で規定された殺菌活性値(一般用途)を、以下の条件としていることが好ましい。
log(A/C)≧0
A:接種直後の標準布の菌数
C:18時間培養後の加工布の生菌数
菌種:黄色ブドウ球菌と肺炎桿菌
本発明では、成形体中に本発明の抗菌性組成物を配合したときに、その成形体中に含まれる無機系抗菌剤が0.5質量%未満であっても、社団法人繊維評価技術協議会で規定された殺菌活性値がlog(A/C)≧0を満たし、広い抗菌スペクトルを示し低いMIC値の抗菌効果を発揮する。
特に、無機系抗菌剤が0.03質量%以上、好ましくは0.1質量%以上とすることで、この抗菌効果が良好に発揮される。このような抗菌性組成物が低濃度でも、本発明の抗菌性組成物は、従来の抗菌性組成物では到底得られない広い抗菌スペクトルを示し低いMIC値の優れた抗菌効果を示す。
【0012】
本発明の抗菌性繊維を構成する繊維としては、無機系高分子材料、有機系高分子材料、それらの混合物のいずれかから成る繊維が問題なく使用できる。例えば無機系高分子材料からなる繊維の一例としては、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、バサルトファイバーなどが挙げられる。有機系高分子材料からなる繊維の例としては、合成繊維、再生繊維、天然繊維などが挙げられる。そして、本発明では、前記有機系高分子材料が、熱可塑性樹脂でることが好ましい。
本発明では、高分子材料として例えばポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン、ナイロンなどのポリアミド、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルなどの熱可塑性樹脂を用い、溶融紡糸により繊維形状に成形することから、一般的な各種溶融紡糸方法にて、効率よく高い抗菌作用を発現する繊維が容易に得られる。
繊維の形状としては、通常の単独繊維や、海・島構造の繊維、芯鞘構造の繊維、2以上の成分が積層した繊維などの複合繊維のいずれのタイプでもよい。複合繊維にする場合、前記抗菌性組成物は芯と鞘どちらに入れてもよく、両方とも入れてもよい。また、芯または鞘部の片方に前記抗菌性組成物を、残り一方に帯電防止剤や、遠赤外線効果のある鉱石など、保温性物質、キシリトールなどの涼感性物質、などを入れて複合繊維とするなどしてもよい。
【0013】
また、本発明の抗菌性繊維は、前記高分子材料および抗菌性組成物が溶剤中に溶解または分散している溶液を用いて、公知の湿式紡糸法で製造した湿式繊維でもよい。
本発明では、湿式紡糸法の繊維に用いる前記高分子材料は、溶剤に溶解するものであれば特に制限はないが、好ましくは、セルロースと、セルロース系エステルと、ポリアクリロニトリルと、エチレンとビニルアルコールの共重合体と、のうちの少なくともいずれかを主骨格とするポリマであり、湿式紡糸された構成とすることが好ましい。
本発明では、一般的な各種湿式紡糸方法にて、効率よく高い抗菌作用を発現する繊維が容易に得られる。
【0014】
そして、本発明では、溶融紡糸、湿式紡糸などの周知の方法で紡糸されて得られた繊維や、その繊維の集合体(不織布、布帛、わたなど)に前記抗菌性組成物が含浸されたものも含まれる。
本発明では、紡糸されて得られた繊維に、さらに抗菌性組成物を含浸させるので、溶融紡糸法や湿式紡糸法などで繊維を製造し難い場合でも、本願の抗菌性繊維を得ることができる。例えば、ガラス繊維やバサルトファイバーなどのように湿式紡糸ができず、溶融紡糸は、前記抗菌性組成物の少なくとも有機系抗菌剤の耐熱温度を著しく超える温度でしかできない繊維にも抗菌性を簡単に付与することができる。また、高分子材料と混合する抗菌性組成物の配合割合を低減させることができることから、紡糸時における繊維の切断などの不都合を防止でき、製造効率の向上が容易に得られる。
【0015】
また、本発明では、前記抗菌性組成物は、1μm以下の平均粒径に粒度調整された構成とすることが好ましい。
本発明では、抗菌性組成物として、1μm以下の平均粒径に粒度調整しておくことで、高分子材料に対する分散性が向上するとともに、紡糸時の滑動性や繊維の表面の平滑性、紡糸安定性(紡糸時に糸切れし難い)が得られる。また、抗菌性組成物が繊維中、繊維表面に良分散することで、安定した高い抗菌作用を繊維に発揮させることが容易に得られる。
【0016】
本発明に記載の抗菌性繊維は、高分子材料と、無機系抗菌剤とを含有した原料が紡糸された紡糸繊維に、イミダゾール系の有機系抗菌剤から選ばれた少なくとも2種が含浸されたことを特徴とする。
この発明では、高分子材料に無機系抗菌剤を含有させた原料を紡糸して得られた紡糸繊維に、少なくとも2種のイミダゾール系の有機系抗菌剤を含浸させる、繊維中に少なくとも2種のイミダゾール系の有機系抗菌剤と、無機系抗菌剤とを併用して含有させる。
このことにより、高分子材料を基材として、抗菌スペクトルを広げるために化学的に異種な抗菌剤を用いるという従来の公知知見からは全く予想できないイミダゾール系単一の有機系抗菌剤の組み合わせにより、著しく広い抗菌スペクトルを達成でき、かつ皮膚刺激性が陰性で安全性が高く、人体や環境に影響が極めて少ない本発明の抗菌性組成物を含有させることで、適宜紡糸した繊維に、皮膚刺激性が陰性で安全性が高く、人体や環境に影響が極めて少なく、かつ、相乗効果による低い最小育成素子濃度(MIC値)でも格段に広い抗菌スペクトルが得られ、効率よく高い抗菌作用を発現させることができる。
【0017】
そして、本発明では、前記無機系抗菌剤は、1μm以下の平均粒径に粒度調整された構成とすることが好ましい。
本発明では、無機系抗菌剤として、1μm以下の平均粒径に粒度調整しておくことで、有機系抗菌剤に比して混ざりにくい高分子材料に対する分散性が向上するとともに、紡糸時の滑動性や繊維の表面の平滑性が得られるなど、良好な無機系抗菌剤の含有状態が容易に得られる。したがって、安定した高い抗菌作用を繊維に発揮させることが容易に得られる。
【0018】
また、本発明では、前記イミダゾール系の有機系抗菌剤から選ばれた2種は、ベンゾイミダゾール環にチアゾリル基を有するものと、ベンゾイミダゾール環にカーバメート基を有するものとであることが好ましい。
本発明では、イミダゾール系の有機系抗菌剤として、ベンゾイミダゾール環にチアゾリル基を有するものとカーバメート基を有するものとの2種、特に2種のみを併用することで、同一のイミダゾール系でも、人体や環境に影響がなく、かつ、相乗効果による低いMIC値でも格段に広い抗菌スペクトルが得られるという抗菌作用が容易に得られ、特にこれらの併用により顕著な抗菌性が得られる。
なお、ベンゾイミダゾール環にチアゾリル基を有するものは、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールであり、前記ベンゾイミダゾール環にカーバメート基を有するものは、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルであることが好ましい。これらベンゾイミダゾール環にチアゾリル基を有する2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールと、カーバメート基を有する2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルとの2種を併用することで、特に併用による相乗効果にて顕著な抗菌性が得られる。さらに、これら2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールと、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルとは、比較的に製造しやすく入手が容易で、既に利用されている材料で安全性が認められたものであることから、容易に利用できる。
【0019】
また、本発明では、前記無機系抗菌剤は、銀系抗菌剤と酸化亜鉛とのうちの少なくともいずれか一方であることが好ましい。
本発明では、無機系抗菌剤として、銀系抗菌剤と酸化亜鉛とのうちの少なくともいずれか一方を用いるので、顕著な抗菌性が容易に得られる。そして、銀系抗菌剤と酸化亜鉛とを併用することにより、銀系抗菌剤および酸化亜鉛自体による抗菌作用とともに、これら同一の無機系抗菌剤でも併用することで抗菌作用の相乗効果も得られ、より顕著な抗菌性が容易に得られる。
なお、銀系抗菌剤は、銀を担持したジルコニウムまたはその塩あるいはゼオライトであることが好ましい。銀系抗菌剤として銀を担持したジルコニウムまたはその塩あるいはゼオライトを用いることで、貴金属である銀が抗菌作用を発揮する必要最小限の量となり、効率よく無機系抗菌剤による抗菌作用が得られるとともに有機系抗菌剤との抗菌作用の相乗効果が得られ、コストの低減も容易に図れる。
また、無機系抗菌剤としては、銀を担持したジルコニウムまたはその塩あるいはゼオライトと酸化亜鉛との配合割合が、質量比で1:1〜1:10であることが好ましい。銀を担持したジルコニウムまたはその塩あるいはゼオライトと、酸化亜鉛とを併用することで、同一の無機系抗菌剤でも併用による抗菌作用の相乗効果が得られ、より顕著な抗菌性が得られる。さらに、無機系抗菌剤自体による抗菌作用と、無機系抗菌剤の併用による抗菌作用の相乗効果と、有機系抗菌剤との抗菌作用の相乗効果とが損なわれることなく、貴金属である銀の使用量が低減し、コストの低減がより容易に図れる。そして、銀を担持したジルコニウムまたはその塩あるいはゼオライトと酸化亜鉛との配合割合が、質量比で1:1〜1:10であることから、抗菌性が損なわれることなく適切に銀の使用量が低減する。
ここで、銀を担持したジルコニウムまたはその塩あるいはゼオライトと酸化亜鉛との配合割合が、質量比で1:1より酸化亜鉛が少なくなると、銀の使用量の低減による十分なコストの低減が得られにくくなる。また、銀の酸化による変色が問題となるおそれもある。一方、質量比で1:10より酸化亜鉛が多くなると、銀による十分な抗菌作用が得られにくくなるおそれがある。したがって、銀を担持したジルコニウムまたはその塩あるいはゼオライトと酸化亜鉛との配合割合を質量比で1:1〜1:10とすることが好ましい。
さらに、イミダゾール系の有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との配合割合は、質量比で1:1〜5:1であることが好ましい。イミダゾール系の有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との配合割合を、質量比で1:1〜5:1とすることで、有機系抗菌剤や無機系抗菌剤自体の抗菌作用とともに、有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との併用による顕著な抗菌作用の相乗効果が適切に得られる。
ここで、有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との配合割合が、質量比で1:1より有機系抗菌剤が少なくなると、少ないMIC値での抗菌スペクトルの拡大が得られなくなるおそれがある。一方、質量比で5:1より有機系抗菌剤が多くなると、無機系抗菌剤に比して初期抗菌性能が遅く抗菌性能の持続性が低減しやすい有機系抗菌剤の割合が多くなり、使用当初から長期間に亘って安定した顕著な抗菌性が得られなくなるおそれがある。したがって、ベンゾイミダゾール系の有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との配合割合を、質量比で1:1〜5:1とすることが好ましい。
【0020】
本発明に記載の織布または編布は、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の抗菌性繊維が織り込まれたことを特徴とする。
本発明では、上述した本発明の抗菌性繊維を織り込んでいる。
このことにより、例えばエプロン、布巾、病院制服、家具張地、カーテン、カーペットなど、人体の接触が多い箇所に適用できるとともに、壁紙などのようにシート状に形成して貼り付けるなどすることで抗菌性を発現できない構造物などでも、効率よく高い抗菌作用を付与できる。
【0021】
本発明に記載の不織布は、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の抗菌性繊維を有したことを特徴とする。
本発明では、上述した本発明の抗菌性繊維を有している。
このことにより、例えば家具張地やカーペットなど、人体の接触が多い箇所に適用できるとともに、壁紙などのようにシート状に形成して貼り付けるなどすることで抗菌性を発現できない構造物などでも、効率よく高い抗菌作用を付与できる。さらには、織り込む必要がなく、布状物としての製造性の向上が容易に得られ、抗菌性繊維の歩留まりの有効利用によるコストの低減も容易に得られる。
【0022】
本発明に記載の壁紙は、請求項9に記載の織布または編布、および請求項10に記載の不織布のうちの少なくともいずれか一方と、フィルムまたはシートと、が積層されたことを特徴とする。
本発明では、上述した発明の抗菌性繊維を有する織布または編布や不織布の少なくともいずれか一方と、フィルムまたはシートとを積層して構成している。
このことにより、人体の接触が多い箇所で、また建造物の外物との温度差で生じる水滴や湿度などによりカビなどの発生しやすい利用形態でも、良好にカビなどの発生を防止でき、良好な居住空間の提供が容易に得られる。特に、表面側にフィルムやシートが被覆する状態に構成することで、刺激に敏感な人体への影響も防止できる。
【0023】
本発明に記載の断熱材は、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の抗菌性繊維の集合体からなることを特徴とする。
本発明では、上述した本発明の抗菌性繊維を、例えばガラスウールのような綿状の集合体としている。
このことにより、例えば建材の断熱材として利用され温度差で生じやすい水滴などによりカビなどの発生しやすい利用形態でも、良好にカビなどの発生を防止でき、良好な居住空間の提供が容易に得られる。
なお、繊維間や吹き付けるために被吹き付け物との接着のためなど、結合材や接着剤などを適宜混合して断熱材として利用することを除外するものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の抗菌性成形体に係る一実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態では、本発明の抗菌性繊維を含有する抗菌性布状物を例示して説明するが、本発明の抗菌性繊維としては、織布や不織布などの布状物への利用形態に限らず、例えば壁紙のようなシート状物としたり、ガラスウールなどのような綿状の集合体として断熱材に利用したりするなど、繊維を利用するいずれのものに適用できる。また、あらかじめ本発明における抗菌性組成物を含有する状態で紡糸した抗菌性繊維に限らず、例えば紡糸した繊維に本発明の抗菌性組成物を含浸させたり、本発明の抗菌性組成物における有機系抗菌剤または無機系抗菌剤のいずれか一方を含有する状態で紡糸した繊維に、いずれか他方を含浸させたりするなどしてもよい。
【0025】
〔抗菌性布状物の構成〕
抗菌性布状物は、特に適用制限はないが、例えば、微生物である菌類(真菌類、細菌類、藻類など)が繁殖しやすい環境に使われる部品や部位、具体的には、壁紙やハウスラップなどの建材、衣料品、食品包装材など、各種用途に直接、あるいは粘着テープなどのように粘着層を設けて接着あるいは貼着、または粘着層を設けずに単に挾持するなどして利用できる。
この抗菌性布状物は、例えば、溶融紡糸、乾式紡糸、湿式紡糸など、公知の紡糸方法を用いて得られた抗菌性繊維を、一部あるいは全部に織り込んだ織布や、一部あるいは全部に利用した不織布である。
そして、抗菌性布状物を構成する抗菌性繊維は、高分子材料と、イミダゾール系の有機系抗菌剤から選ばれた少なくとも2種、および無機系抗菌剤を含有する抗菌性組成物と、を含有する。
【0026】
高分子材料としては、例えば溶融紡糸する場合にはポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン、ナイロンなどのポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルなどの熱可塑性樹脂、乾式紡糸する場合には、溶剤に溶解するものであれば特に制限はないが、好ましくは、セルロースと、セルロース系エステルと、ポリアクリロニトリルと、エチレンとビニルアルコールの共重合体と、のうちの少なくともいずれかを主骨格とするポリマなどが例示できる。
また、壁紙のように抗菌性布状物にさらにフィルムやシートなどを積層する多層構造とした場合における表層側に設けられる層として用いられる材料としては、樹脂材料や木皮あるいは紙など、特に制限はないが、例えばポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ナイロン(ポリアミド)系樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(Acrylonitorile-Butadiene-Styrene:ABS)樹脂などの樹脂材料の一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。
なお、高分子材料や多層構造における表面側の層の樹脂材料として結晶性樹脂であれば、結晶化度が比較的に低い樹脂材料を用いることが好ましい。すなわち、結晶化度が低い樹脂材料の方が、樹脂材料中に存在する抗菌性組成物や表面側の層を介して下層の抗菌性組成物を含有する抗菌性布状物による抗菌作用が発揮されやすくなるためである。
【0027】
抗菌性組成物は、イミダゾール系の有機系抗菌剤のみから選ばれた2種と、無機系抗菌剤と、を含有、特にイミダゾール系の有機系抗菌剤のみから選ばれた2種と、無機系抗菌剤と、のみからなるものが好ましい。
この抗菌性組成物は、表1ないし表6に示す微生物である菌類(真菌類、細菌類、藻類など)に対して、低いMIC値でも抗菌効果を奏し格段に広い抗菌スペクトルを示す。
すなわち、MIC値を50ppm以下と厳しいレベルとしても、真菌類214種、細菌類131種、藻類27種(現時点で確認済み)を示す。なお、表1ないし表3に真菌類、表4および表5に細菌類、表6に藻類を示す。
なお、表1ないし表6において、実施例1は、後述する実施例1で用いた抗菌組成物の、Aはチアベンダゾールとカルベンダジムとが1:1で混合された抗菌性組成物、Bは銀担持リン酸ジルコニウム(東亞合成社製 商品名 ノバロン)と酸化亜鉛(関東化学株式会社試薬)が18:82で混合された抗菌性組成物のMIC値のデータである。また、表1ないし表6において、比較例における空白部分は、抗菌効果が認められなかったことを意味する。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
【表5】

【0033】
【表6】

【0034】
イミダゾール系の有機系抗菌剤としては、例えばベンゾイミダゾールカルバミン酸化合物、イオウ原子含有ベンゾイミダゾール化合物、ベンゾイミダゾールの環式化合物誘導体などが例示できる。
【0035】
ベンゾイミダゾールカルバミン酸化合物としては、1H−2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル、1−ブチルカルバモイル−2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル、6−ベンゾイル−1H−2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル、6−(2−チオフェンカルボニル)−1H−2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルなどが例示できる。
イオウ原子含有ベンゾイミダゾール化合物としては、1H−2−チオシアノメチルチオベンゾイミダゾール、1−ジメチルアミノスルフォニル−2−シアノ−4−ブロモ−6−トリフロロメチルベンゾイミダゾールなどが例示できる。
ベンゾイミダゾールの環式化合物誘導体としては、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾール、2−(2−クロロフェニル)−1H−ベンゾイミダゾール、2−(1−(3,5−ジメチルピラゾリル))−1H−ベンゾイミダゾール、2−(2−フリル)−1H−ベンゾイミダゾールなどが例示できる。
【0036】
そして、イミダゾール系の有機抗菌剤としては、イミダゾール系の有機系抗菌剤のみから選ばれた少なくとも2種のみを併用する。同一のイミダゾール系でも、異なる2種を併用することにより、微生物に対して抗菌作用の相乗効果が得られ、特に、ベンゾイミダゾール環にチアゾリル基を有するものと、ベンゾイミダゾール環にカーバメート基を有するものと、を使用することが、顕著な相乗効果が得られることから好ましい。
チアゾリル基としては、例えば2−チアゾリル、4−チアゾリル、5−チアゾリルなどが例示できる。また、カーバメート基としては、このカーバメート基における炭化水素基が、例えば、メチル、エチル、n−2プロピル、iso−プロピル、などのアルキル基が好ましく、特にメチル基あるいはエチル基を有するものが特に好ましい。
具体的には、チアゾリル基を有するものとして、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾール(チアベンダゾール:Thiabendazole(TBZ))などが例示できる。また、カーバメート基を有するものとして、メチル−2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル(カルベンダジム:Carbendazim(BCM))、エチル−2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルなどが例示できる。特に、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールと、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルとは、熱的安定性が比較的に高く、特に樹脂成形体として利用することが容易であり、また例えばグレープフルーツやオレンジ、バナナなどの防かび剤(食品添加物)としても既に利用され、人体への影響が比較的に小さい材料として確認されたものであることから、特に好ましい。
【0037】
そして、これらイミダゾール系の有機系抗菌剤はハロゲンを含まないため、抗菌性組成物や抗菌性成形体を例えば焼却処理した場合であってもダイオキシンなどの有害物質が生成せず、環境への影響がなく好ましい。また、抗菌性組成物を樹脂材料に含有させて成形する場合に成形金型などの製造ラインにおける金属部品を腐食するなどの不都合が生じず、製造設備に特別な材料を用いた装置が不要で製造設備の簡略化や製造性の向上、装置コストの低減なども容易に得ることができるので好ましい。
また、これらイミダゾール系の有機系抗菌剤は実質的に水に不溶であるため、例えば雨露に曝されるなどの使用条件でも流れ落ちて長期間安定した抗菌性を提供できなくなるなどの不都合がない。さらに、水に分散質の基材と良好に混合されて抗菌性を有したエマルジョンとして提供することが容易となり、汎用性の向上も容易に図ることができる。
【0038】
一方、無機系抗菌剤としては、亜酸化銅、銅粉、チオシアン酸銅、炭酸銅、塩化銅、硫酸銅、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、硫酸ニッケル、銅−ニッケル合金などの無機金属化合物や、リン酸ジルコニウム、金属を担持したゼオライト、またはその塩であるリン酸ジルコニウムなどを使用することができる。特に、金属として銀または銅を担持したリン酸ジルコニウムが好ましく、より好ましくは抗菌性の高い銀系抗菌剤である銀を担持したリン酸ジルコニウムを使用する。なお、銀系抗菌剤としては、担持した形態に限らず、金属単体の銀なども対象とすることができる。
銀や銅といった金属を担持したリン酸ジルコニウムやゼオライトは、人体への安全性に優れ、抗菌速度も速く抗菌性能に優れているとともに、リン酸ジルコニウムやゼオライトに貴金属である銀を担持させることによるコストの低減などが得られるために好ましい。
特に、銀担持リン酸ジルコニウムやゼオライトを利用する場合、酸化亜鉛を併用することがより好ましい。銀担持リン酸ジルコニウムと酸化亜鉛との併用により、銀担持リン酸ジルコニウム自体および酸化亜鉛自体の抗菌作用とともに、同一の無機系である無機系抗菌剤でも併用による抗菌作用の相乗効果が得られ、より顕著な抗菌性が得られることから好ましい。さらに、酸化亜鉛との併用により、銀担持リン酸ジルコニウムやゼオライトの含有量を低減でき、貴金属である銀の使用量の低減によりコストの低減も容易に得られるので好ましい。また、銀の酸化による変色を抑えることもできる。
【0039】
そして、抗菌性組成物は、イミダゾール系の有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との配合割合を、質量比で1:1〜5:1、特に2:1とすることが好ましい。
ここで、有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との配合割合が質量比で1:1より有機系抗菌剤が少なくなると、少ないMIC値での抗菌スペクトルの拡大が得られなくなるおそれがある。一方、質量比で5:1より有機系抗菌剤が多くなると、無機系抗菌剤に比して初期抗菌性能が遅くなるおそれがある。このことから、ベンゾイミダゾール系の有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との配合割合を、質量比で1:1〜5:1とし、有機系抗菌剤や無機系抗菌剤自体の抗菌作用とともに、有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との併用による顕著な抗菌作用の相乗効果を適切に発揮させることが好ましい。
【0040】
また、イミダゾール系の有機系抗菌剤として、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールと、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルとを併用する場合、これらの配合割合を質量比で1:1〜5:1とすることが好ましい。
ここで、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールと、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルとの配合割合が質量比で1:1より2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールが少なくなる、あるいは5:1より2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールが多くなると、低いMIC値で抗菌作用を示す抗菌スペクトルの数が減少、すなわち抗菌性組成物の添加量が増大するおそれがある。このことから、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールと、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルとの配合割合を質量比で1:1〜5:1とすることが好ましい。
【0041】
さらに、無機系抗菌剤として、銀を担持したリン酸ジルコニウムやゼオライトと酸化亜鉛とを併用する場合、これらの配合割合を質量比で好ましくは1:1〜1:10、より好ましくは約1:2とする。
ここで、銀担持リン酸ジルコニウムやゼオライトと酸化亜鉛との配合割合が質量比で1:1より酸化亜鉛が少なくなると、貴金属である銀の使用量の低減による十分なコストの低減が得られにくくなる。また、銀の酸化による変色のおそれも考えられる。一方、質量比で1:10より酸化亜鉛が多くなると、銀による十分な抗菌作用が得られにくくなって、抗菌性組成物の添加量が増大するおそれがある。このことから、銀担持リン酸ジルコニウムやゼオライトと酸化亜鉛との配合割合を質量比で1:1〜1:10として、併用による顕著な抗菌作用の相乗効果を適切に発揮させることが好ましい。
【0042】
そして、抗菌性布状物の抗菌性繊維は、抗菌性組成物を0.01質量%以上10.0質量%以下で含有することが好ましく、0.05質量%以上2.0質量%以下で含有することが特に好ましい。
ここで、抗菌性組成物の含有量が0.01質量%より少なくなると、十分な抗菌性を発揮できなくなるおそれがある。一方、抗菌性組成物の含有量を10.0質量%より多くしても、抗菌性能はほとんど変化がない一方、例えば抗菌性繊維の強度が低下したり、表面の平滑性などの外観が損なわれるなどの特性に影響を及ぼしたり、紡糸時における作業性や紡糸性などが低下したりするなどの不都合を生じるおそれがある。このように、必要最小限の含有量で十分な抗菌性を発揮させつつ、抗菌性組成物の含有量の増大によるコストの増大を抑えるため、抗菌性組成物の含有量を0.01質量%以上10.0質量%以下にすることが好ましい。
【0043】
〔実施の形態の作用効果〕
この抗菌性布状物を構成する本発明の抗菌性繊維では、ハロゲン基を有さず皮膚刺激性が認められない少なくとも2種のイミダゾール系の有機系抗菌剤と、無機系抗菌剤とを併用した抗菌性組成物を含有している。このことにより、有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との併用による相乗効果に加え、同一のイミダゾール系でも2種の有機系抗菌剤、特に2種のみを併用することによる相乗効果を得ることができる。
このため、この抗菌性組成物を含有する抗菌性繊維では、高分子材料を基材として、抗菌スペクトルを広げるために化学的に異種な抗菌剤を用いるという従来の公知知見からは全く予想できないイミダゾール系単一の有機系抗菌剤の組み合わせにより、著しく広い抗菌スペクトルを達成でき、かつ皮膚刺激性が陰性で安全性が高く、人体や環境に影響が極めて少ない本発明の抗菌性組成物を含有させることで、適宜紡糸した繊維に、皮膚刺激性が陰性で安全性が高く、人体や環境に影響が極めて少なく、かつ、相乗効果による低い最小育成素子濃度(MIC値)でも格段に広い抗菌スペクトルが得られ、効率よく高い抗菌作用を発現させることができる。
【0044】
そして、抗菌性組成物のイミダゾール系の有機系抗菌剤として、ベンゾイミダゾール環にチアゾリル基を有するものとカーバメート基を有するものとの2種を併用するので、同一のイミダゾール系でも、皮膚刺激性が陰性で安全性が高く、人体や環境に影響が極めて少なく、かつ、相乗効果による低いMIC値でも格段に広い抗菌スペクトルが得られるという抗菌作用が容易に得られ、特にこれらの併用により顕著な抗菌性が得られる。
特に、ベンゾイミダゾール環にチアゾリル基を有する2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールと、カーバメート基を有する2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルとの2種を併用するので、併用による相乗効果にて顕著な抗菌性を発揮できる。さらに、これら2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールおよび2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルは、比較的に製造しやすく入手が容易で、既に利用されている材料で安全性が認められたものであることから、容易に利用でき、汎用性を向上できる。
【0045】
また、無機系抗菌剤として、イミダゾール系の有機系抗菌剤との相乗効果が得られる銀担持リン酸ジルコニウムと酸化亜鉛とのうちの少なくともいずれか一方を用いるので、顕著な抗菌性が容易に得られる。特に、銀担持リン酸ジルコニウムと酸化亜鉛とを併用することにより、銀担持リン酸ジルコニウム自体および酸化亜鉛自体による抗菌作用とともに、これら同一系である無機系抗菌剤でも、併用することで抗菌作用の相乗効果も得られ、より顕著な抗菌性を発揮できる。また、銀担持リン酸ジルコニウムと酸化亜鉛との併用により、抗菌性を損なうことなく、貴金属である銀の使用量を低減でき、コストをより容易に低減できる。
さらに、高い抗菌性を示す銀の使用形態として、リン酸ジルコニウムに銀を担持させた形態としている。このため、必要最小限の量で貴金属である銀による抗菌作用を発揮でき、無機系抗菌剤による抗菌作用および有機系抗菌剤との抗菌作用の相乗効果を効率よく発揮でき、コストをより容易に低減できる。
【0046】
そして、抗菌性組成物としては、1μm以下の平均粒径に粒度調整したものを用いる。
このことにより、高分子材料に対する分散性が向上するとともに、紡糸時の滑動性などの良好な紡糸性や繊維の表面の平滑性が得られるなど、良好な抗菌性組成物の含有状態が容易に得られる。したがって、表面の平滑性の向上による織り込み作業性も良好で、歩留まりの向上が得られるとともに、安定した高い抗菌作用を繊維に発揮させることが容易に得られる。
また、抗菌性組成物を0.01質量%以上10.0質量%以下で含有されたことが好ましい。抗菌性組成物の含有量を0.01質量%以上10.0質量%以下とすることで、例えば強度や外観などの特性を損なうことなく顕著な抗菌性を発揮する成形体として提供できる。
【0047】
そして、高分子材料として、熱可塑性樹脂を用い、一般的な各種溶融紡糸方法にて、効率よく高い抗菌作用を発現する繊維が容易に得られる。
また、高分子材料として、例えば、セルロースと、セルロース系エステルと、アクリロニトリルと、エチレンとビニルアルコールの共重合体と、のうちの少なくともいずれかを主骨格とするポリマを用い、一般的な各種湿式紡糸方法にて、効率よく高い抗菌作用を発現する繊維が容易に得られる。
【0048】
そして、本発明の抗菌性繊維を織り込んだ織布または編布、抗菌性繊維が含まれる不織布とすることで、例えばエプロン、布巾、病院制服、家具張地、カーテン、カーペットなど、人体の接触が多い箇所に適用できるとともに、壁紙などのようにシート状に形成して貼り付けるなどすることで抗菌性を発現できない構造物などでも、効率よく高い抗菌作用を付与できる。
【0049】
〔実施の形態の変形例〕
なお、以上に説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的および効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。また、本発明を実施する際における具体的な構造および形状などは、本発明の目的および効果を達成できる範囲内において、他の構造や形状などとしても問題はない。
【0050】
すなわち、本発明の抗菌性繊維を布状物とした抗菌性布状物について例示したが、上述したように、織布や不織布などの布状物としての利用形態に限らず、例えば壁紙のようなシート状物としたり、ガラスウールなどのような綿状の集合体として断熱材に利用したりするなど、繊維を利用可能ないずれの利用形態に適用できる。具体的には、衝撃吸収材(靴の中敷きなど)、繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastic:FRP)などのように各種成形体の強度向上のためのガラスファイバのような繊維物、など、生活用品から建材、業務用など各種用途に利用できる。
なお、断熱材として、単に抗菌性繊維のみの集合体として構成したものに限らず、抗菌性繊維間や吹き付けるために被吹き付け物との接着のためなど、結合材や接着剤などを適宜混合して断熱材として利用してもよい。
【0051】
また、高分子材料に抗菌性組成物を適宜混合して成形する構成を例示したが、例えばポリエチレンなどの紡糸した化学繊維や綿糸などの各種繊維に、抗菌性組成物を含浸させてもよい。さらには、本発明の抗菌性組成物における有機系抗菌剤または無機系抗菌剤のいずれか一方を含有する状態で紡糸した繊維に、菌性組成物における有機系抗菌剤または無機系抗菌剤のいずれか他方を含浸させたり、本発明の抗菌性組成物における有機系抗菌剤におけるイミダゾール系の有機系抗菌剤から選ばれた少なくとも2種のうちのいずれかをあらかじめ含有させて紡糸した後に残りの有機系抗菌剤を含浸させたりするなとしてもよい。特に抗菌性組成物を1μm以下の平均粒径に粒度調整したものを用いることで、ポリエチレンなどにも抗菌性組成物が容易に浸透でき、あらかじめ混合して成形する抗菌性成形体と同等の機能を発揮できる。
ここで、抗菌性組成物の溶液として、水や有機溶剤など、抗菌性組成物を分散あるいは溶解可能ないずれの溶媒を利用できる。
なお、含浸させる方法としては、例えば刷毛塗りやロール塗り、スプレー塗布などの塗布や、いわゆるどぶ付けなどによる浸漬、さらには減圧下による浸漬、ナイフコーティングやスプレーコーティング、グラビアコーティング、フローコーティング、ダイコーティング、コンマコーティングなどの各種コーティング手段、あるいは、スクリーン印刷、パッド印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷などの各種印刷などにより、抗菌性組成物の溶液を繊維の表面に付着させる各種方法が利用できる。
【0052】
また、イミダゾール系の有機系抗菌剤としては、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールと、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルとに限らず、上述した各種ベンゾイミダゾール系の組成物を組み合わせた構成として適用することができる。
さらに、各配合割合についても、利用部位や用途などに対応して適宜設定することができる。
【0053】
さらには、前記抗菌性組成物と他の機能付与材、例えば撥水剤、SR加工剤、柔軟剤、天然有機物を併用しても構わない。天然有機物としては、蛋白質(およびその分解物)系ではシルクやコラーゲン、ケラチン、羽毛、セリシン、卵殻膜、アミノ酸、多糖類系ではキチン、キトサン、茶葉、コンドロイチン、ヒアルロン酸などが挙げられる。他に、ビタミン、ポリフェノールなどの生理活性物質でもよい。特に、シルクや卵殻膜といったプロテイン加工との併用は、本願の優れた抗菌性に加え、肌の保湿性を向上させる効果も期待できる。
【0054】
その他、本発明の実施における具体的な構造および形状などは、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造等としてもよい。
【0055】
[実施例1、比較例1〜4]
以下、実施例および比較例などを挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例などの内容に何ら限定されるものではない。
【0056】
〔実験1〕
(湿式紡糸繊維)
本発明の抗菌性繊維として、湿式紡糸により繊維状に成形した湿式紡糸繊維について、各成分で調製して、抗菌作用を確認した。
【0057】
(試料)
分散剤としてのアニオン性界面活性剤(第一工業製薬株式会社社製)を3%濃度となるように添加した水に、イミダゾール系の有機系抗菌剤としてチアベンダゾールおよびカルベンダジム(関東化学株式会社より試薬として購入)、無機系抗菌剤として銀担持リン酸ジルコニウムおよび酸化亜鉛を、それぞれ33:33:6:28の割合として調製された抗菌性組成物を、2.5質量%になるように添加し、アジホモミキサ(プライミクス株式会社製、商品名;T.K.ロボミックス)により、平均粒子径0.8μm以下(測定機;マイクロトラック MT3300、日機装株式会社)になるように攪拌混合し、抗菌組成物水分散液を調製した。
一方、液体状の硫酸銅五水和物5gを28%アンモニア水50mlおよび2M水酸化ナトリウム水溶液20mlに溶解させ、攪拌しつつ脱脂綿2.5gを徐々に加えて溶解させて高分子材料の主剤を調製した。この主剤に、さらに28%アンモニア水と、抗菌組成物水分散液0.25gとを添加し、十分に攪拌し、セルロース水溶液である基材を調製した。
そして、基材を注射器に充填し、2M希硫酸水溶液2リットル中に静かに押し出し、抗菌性繊維のセルロース繊維を作製した。この作製したセルロース繊維を水道水で十分に洗浄して水分を落とし、60℃で一晩乾燥した後、ケント紙に隙間無く巻き取り、実施例1の試験片とした。本方法で作製した糸中の抗菌組成物は、固形分比で約0.25%である。
また、比較例1として実施例1に抗菌性組成物を添加せずに作製したもの、比較例2として実施例1の抗菌性組成物に代えて実施例1のチアベンダゾールを用いて作製したもの、比較例3として実施例1の抗菌性組成物に代えて実施例1のカルベンダジムを用いて作製したもの、比較例4として実施例1の抗菌性組成物に代えて実施例1の銀担持リン酸ジルコニウムと酸化亜鉛とを18:82の割合とした無機系抗菌剤を用いて作製したものを用いた。
【0058】
(評価方法)
(1)無機塩培地の調製
表7に示す無機塩培地を調製し、これを121℃で20分間オートクレーブ殺菌後、苛性ソーダ水溶液(NaOH水溶液)によりpHが6.0〜6.5となるように調整した。
【0059】
【表7】

【0060】
(2)混合胞子液の調製
以下の表8に示した菌株(77混合菌種)からなるカビの胞子を減菌水に懸濁させ、ろ過して濃度が約1×106cell/mlの混合胞子液を調製した。なお、胞子の懸濁には、ラウリル硫酸ナトリウムを用いて分散を行うようにした。
【0061】
【表8】

【0062】
(3)評価の方法
(1)で調製した無機塩培地に(2)で調製した混合胞子液をまいた後、その上からあらかじめ作製した試験片を乗せ、それぞれを載せた後、温度を28℃、湿度を85%RH以上とした状態で28日間カビを培養させた。そして、カビの生育状況を目視で確認し、表9に示す判定基準を用いて評価した。その結果を表10に示す。
【0063】
【表9】

【0064】
【表10】

【0065】
(評価結果)
表10に示すように、2週間培養後では、有機系抗菌剤を用いた比較例2および比較例3は、無機抗菌剤を用いた比較例4より多少の抗菌作用が認められたが、4週間培養後では、比較例1ないし比較例4とも試験片の全面に対して60%以上でカビが繁殖しており、有機系抗菌剤のみや無機系抗菌剤のみでは十分に防カビ性が認められなかった。一方、本発明の抗菌性繊維である実施例1のものでは、4週間の培養後でもカビの発育は全く見られず、明確に強い防かび性を発揮することが認められた。
【0066】
[実施例2、比較例5〜8]
〔実験2〕
(溶融系紡糸繊維)
本発明の抗菌性繊維として、溶融法紡糸により繊維状に成形した溶融系紡糸繊維について、各成分で調製して、抗菌作用を確認した。
【0067】
(試料)
イミダゾール系の有機系抗菌剤として実験1で用いたチアベンダゾールおよびカルベンダジムと、無機系抗菌剤として実験1で用いた銀担持リン酸ジルコニウムおよび酸化亜鉛とを、それぞれ33:33:6:28の割合として抗菌性組成物を調製する。
一方、硬化性材料としての熱可塑性樹脂であるメルトフローが18g/10分の繊維用ポリプロピレン(出光興産株式会社製 商品名;IDEMITSU PPY−2000GV)に、滑剤としてステアリン酸カルシウムを適宜配合するとともに抗菌性組成物を0.25質量%となる状態に配合し、ミキサ(プライミクス株式会社製 商品名;T.K.ロボミックス)にて攪拌混合し、基材を調製した。
そして、基材を口径65mmの押出機にて240℃で押し出し、ペレットを作製した。このペレットを、直径0.7mmの孔が198設けられた紡糸ノズルが装着された口径40mmの押出機にて240℃、空冷しながら巻き取り、紡糸した。紡糸した繊維をケント紙に隙間無く巻き取り、実施例2の試験片とした。
また、比較例5として実施例2に抗菌性組成物を添加せずに作製したもの、比較例6として実施例2の抗菌性組成物に代えて実験1のチアベンダゾールを用いて作製したもの、比較例7として実施例2の抗菌性組成物に代えて実験1のカルベンダジムを用いて作製したもの、比較例8として実施例2の抗菌性組成物に代えて実験1における比較例4の無機系抗菌剤を用いて作製したものを用いた。
【0068】
(評価方法)
上述した実験1の(1)で調製した無機塩培地に(2)で調製した混合胞子液をまいた後、その上からあらかじめ作製した試験片を乗せ、実験1と同様に培養させた。そして、実験1と同様に、表9に示す判定基準を用いて評価した。その結果を表11に示す。
【0069】
【表11】

【0070】
(評価結果)
表11に示すように、2週間培養後では、有機系抗菌剤を用いた比較例6および比較例7は、無機抗菌剤を用いた比較例8より多少の抗菌作用が認められたが、4週間培養後では、比較例5および比較例8は試験片の全面に対して60%以上、比較例6は試験片の全面に対して10%〜30%、比較例7は試験片の全面に対して30%〜60%で菌が繁殖しており、有機系抗菌剤のみや無機系抗菌剤のみでは十分に防カビ性が認められなかった。一方、本発明の抗菌性繊維である実施例2のものでは、4週間の培養後でもカビの発育は全く見られず、明確に強い防かび性を発揮することが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料と、イミダゾール系の有機系抗菌剤から選ばれた少なくとも2種、および無機系抗菌剤を含有する抗菌性組成物と、を含有した原料が、紡糸された
ことを特徴とした抗菌性繊維。
【請求項2】
請求項1に記載の抗菌性繊維であって、
前記高分子材料は、熱可塑性樹脂であり、
溶融紡糸された
ことを特徴とした抗菌性繊維。
【請求項3】
請求項1に記載の抗菌性繊維であって、
前記高分子材料は、セルロースと、セルロース系エステルと、ポリアクリロニトリルと、エチレンとビニルアルコールの共重合体と、のうちの少なくともいずれかを主骨格とするポリマであり、
湿式紡糸された
ことを特徴とした抗菌性繊維。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の抗菌性繊維であって、
前記抗菌性組成物が含浸された
ことを特徴とした抗菌性繊維。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の抗菌性繊維であって、
前記抗菌性組成物は、1μm以下の平均粒径に粒度調整された
ことを特徴とした抗菌性繊維。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の抗菌性繊維であって、
前記無機系抗菌剤は、1μm以下の平均粒径に粒度調整された
ことを特徴とした抗菌性繊維。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の抗菌性繊維であって、
前記イミダゾール系の有機系抗菌剤から選ばれた2種は、ベンゾイミダゾール環にチアゾリル基を有するものと、ベンゾイミダゾール環にカーバメート基を有するものとである
ことを特徴とした抗菌性繊維。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の抗菌性繊維であって、
前記無機系抗菌剤は、銀系抗菌剤と酸化亜鉛とのうちの少なくともいずれか一方である
ことを特徴とした抗菌性繊維。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の抗菌性繊維が織り込まれた
ことを特徴とした織布または編布。
【請求項10】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の抗菌性繊維を有した
ことを特徴とした不織布。
【請求項11】
請求項9に記載の織布または編布、および請求項10に記載の不織布のうちの少なくともいずれか一方と、
フィルムまたはシートと、が積層された
ことを特徴とした壁紙。
【請求項12】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の抗菌性繊維の集合体からなる
ことを特徴とした断熱材。

【公開番号】特開2007−191801(P2007−191801A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−8083(P2006−8083)
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【出願人】(500242384)出光テクノファイン株式会社 (55)
【Fターム(参考)】