説明

抗血栓性抱合体を使用したコーティング

【課題】物品の表面の少なくとも一部への塗布用、または物品内への植え込み用の材料を提供する。
【解決手段】ヘパリンおよび他の抗血栓性部分を有する生体分解性抗血栓性抱合体は、クリック化学によって修飾したポリマーの主鎖に側鎖として導入される。種々の生体吸収性モノマーおよびダイマー、例えばバレロラクトンは、モノマー誘導、単独−および共−重合、ならびにクリック化学による生物学的に活性な分子との抱合に使用することができる。生体適合性かつ生体吸収性のポリマー抗血栓性抱合体を含むコーティングは、植え込み可能な機器の表面での血栓症の形成を防止または低減するために、その植え込み可能な機器の少なくとも一部に塗布される。そのコーティングの第1の層すなわち底層は、ポリマー材料および生物学的に活性な薬剤を溶媒と混合し、それにより、均質な溶液を形成することによって調製される。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔発明の属する技術分野〕
本発明は、物品の表面の少なくとも一部への塗布用、または物品内への植え込み用の材料に関する。特に、本発明は、生体吸収性ポリマーに関し、当該生体吸収性ポリマーは、当該生体吸収性ポリマーと抱合された抗血栓性組成物を有し、ここで、抗再狭窄薬は、当該生体吸収性ポリマーのポリマーマトリックス内に含まれ得る。本発明はまた、機器にも関し、当該機器は、当該機器の表面にコーティングされるか、または当該機器自体の内部に含まれた抱合体(conjugate)を有する。
【0002】
〔発明の背景〕
狭窄は、脂肪、コレステロール、および他の物質の経時的な蓄積による血管の狭小化または収縮である。重症例では、狭窄により血管が完全に閉塞する可能性がある。狭窄血管を広げるためには、インターベンション処置が使用されてきた。インターベンション処置の一例は、経皮経管冠動脈形成術(PTCA)すなわちバルーン冠動脈形成術である。この処置では、閉塞を解くために、バルーンカテーテルを挿入し、血管の収縮部位で拡張させる。PTCAを受ける患者の約3分の1は、処置から約6ヶ月以内に、血管が再び閉塞する再狭窄を患うため、再狭窄動脈は、2度目の血管形成術を受けなければならないかもしれない。
【0003】
再狭窄は、血管形成術の代わりに、または血管形成術に加えて、動脈の罹患領域にステントを挿入することからなる一般的な処置によって抑制することができる。ステントは、中実の壁(solid walls)またはメッシュ壁を有し得る金属またはプラスチック製のチューブである。使われている大部分のステントは、金属製であり、自己拡張するか、またはバルーン拡張可能である。ステント挿入処置を受ける決定は、動脈狭窄のある特定の特徴に依存する。これらの特徴には、動脈のサイズおよび狭窄の位置が含まれる。ステントの機能は、血管形成術を用いて最近広げられた動脈を強化することであり、または、血管形成術を用いなかった場合には、動脈の弾性反跳を防止するためにステントが用いられている。ステントは、一般にカテーテルを介して植え込まれる。バルーン拡張可能なステントの場合、ステントを小直径に折りたたみ、バルーンカテーテル上をスライドさせる。次いで、患者の脈管構造を通して病変部位または最近広げられた領域までカテーテルを操作する。一度、適切な位置にくると、ステントを拡張し、所定位置に固定する。ステントは、動脈内に持続的にとどまり、動脈を広げ、動脈を通る血流を改善し、症状(通常は胸痛)を緩和する。
【0004】
ステントは、植え込み部位での再狭窄を防止するのに完全に効果的であるというわけではない。再狭窄は、ステントの長さにわたって、かつ/またはステントの末端を越えて起こり得る。医師は、最近、平滑細胞増殖(smooth cell proliferation)を阻害する薬物を添加した薄いポリマーフィルムでコーティングされている新しいタイプのステントを使用している。このコーティングは、動脈への挿入の前に、溶媒蒸発技術などの当技術分野で周知の方法を用いてステントに塗布される。この溶媒蒸発技術は、溶媒中でポリマーおよび薬物を混合することを必要とする。その後、ポリマー、薬物、および溶媒を含む溶液は、浸漬または吹き付けによりステントの表面に塗布され得る。次いで、ステントは、乾燥処理を受け、その間に溶媒は蒸発され、中に分散された薬物を有するポリマー材料がステント上に薄膜層を形成する。
【0005】
ポリマー材料からの薬物の放出機構は、ポリマー材料の性質および組み込まれるべき薬物によって異なる。薬物は、ポリマーを通してポリマー−流体界面に、続いて流体内に拡散する。また、放出は、ポリマー材料の分解を通じても起こり得る。ポリマー材料の分解は、加水分解または酵素消化プロセスを通じて起こる可能性があり、組み込まれた薬物の周囲組織への放出につながる。
【0006】
コーティングしたステントの使用について重視すべき事柄は、そのコーティングからの薬物の放出速度である。有効な治療量の薬物が、血管形成処置またはステントの植え込み後の生物学的プロセスの期間を包含するように適度に長い期間ステントから放出されることが望ましい。バースト放出(すなわち植え込み直後の高放出速度)は、望ましくなく、なかなか解決しない問題である。一般には、患者に害を及ぼさないが、バースト放出は、必要な有効量を数回放出することによって限られた供給量の薬物を「浪費し(wastes)」、放出期間を短くする。バースト放出を低減しようとして、いくつかの技術が開発された。例えば、Yang他の米国特許第6,258,121号では、異なる放出速度を有する2種のポリマーをブレンドし、それらのポリマーを単層に組み込むことによって放出速度を変更する方法が開示されている。
【0007】
薬剤溶出ステント(DES)の植え込みに伴う潜在的な不利益は、血栓症が植え込みまたは配備後の異なる時間に起こり得るということである。血栓症は、血管中において込まれた機器上または付近で血栓が形成されることである。血栓は、通常、血液因子、主として血小板およびフィブリンの凝集によって形成され、細胞成分が取り込まれる。血栓症は、狭窄のように、血栓形成の際に血管閉塞をよく引き起こす。再狭窄および血栓症は、医学的介入を必要とする、重篤で死に至る可能性がある2つの状態である。しかし、一方の状態を治療することで、もう一方の状態が起こることにつながる可能性がある。ステントの表面での血栓形成は致命的である場合が多く、血管の血栓症に罹患している患者では20〜40%間の高い死亡率に至っている。
【0008】
ステント血栓症の形成に対処する1つの方法は、ヘパリンなどの抗凝固薬を使用することによる。ヘパリンはその抗凝固能力でよく知られている物質である。溶媒蒸発技術を用いてステントの表面に、ヘパリンを添加した薄いポリマーコーティングを塗布することは当技術分野では既知である。例えば、Ding他の米国特許第5,837,313号では、ヘパリンコーティング組成物を調製する方法が記載されている。しかしながら、ヘパリンを使用することの不利益は、ヘパリンが再狭窄を防止する薬剤とともにうまく共存しないことである。例えば、ヘパリンがポリマーコーティング内で抗血栓薬と混合される場合には、ヘパリンの親水性は抗再狭窄薬の所望の溶出プロフィールに干渉するであろう。例えば、治療薬は溶媒処理によりポリマーコーティングのマトリックス中に埋め込まれる。抗凝固薬もそのポリマーマトリックス中に埋め込まれる場合には、抗凝固薬は制御されていない形で水を引き寄せる。これは製造中に、もしくはコーティングした機器が植え込まれるときに起こり得、薬剤の安定性もしくは効力に悪影響を及ぼし、かつ/または所望の溶出プロフィールに干渉するであろう。
【0009】
それでもなお、植え込み可能な医療機器のコーティング内で抗血栓薬と治療薬を組み合わせるためにいくつかのアプローチが提案されてきた。Whitbourneによる米国特許第5,525,348号では、医薬(ヘパリンを含む)を、第四アンモニウム成分または他のイオン性界面活性剤と複合体化し(complexing)、抗血栓性コーティング組成物としての水不溶性ポリマーと結合する方法が開示されている。この方法は、本質的に異種であり、かつ、植え込み部位で望ましくない炎症反応を引き起こし得る、セルロースなどの天然由来のポリマー、またはそれらの誘導体が導入される可能性を被る。また、ヘパリンなどの抗血栓薬と、逆帯電した担体ポリマーとの間のこれらのイオン性複合体は、コーティングの統合にも悪影響を及ぼし得、さらなる医薬が存在する場合には、これらの医薬の保存安定性および放出速度に影響を及ぼし得る。
【0010】
Byunによる米国特許第6,702,850号、同第6,245,753号、および同第7,129,224号では、ヘパリンなどの抗血栓薬は、コーティング調合品に使用する前に、ポリアリリック酸(polyarylic acid)などの非吸収性ポリマーに共有結合で抱合されるという少し異なったアプローチが開示されている。これらの抱合体の全体の疎水性は、オクタデシルアミン(長い炭化水素鎖を有するアミンである)などの疎水性物質を添加することによりさらに調整される。このアプローチでは、ヘパリンが生体内で代謝された後のポリアクリル酸の既知毒性などのいくつかの潜在的な欠点がある。また、疎水性アミンの添加は、組織適合性および各工程の置換反応の再現についての懸念も生む。さらに、コーティングの残りの成分は生体分解性ではない。
【0011】
もう1つの抗血栓性コーティングアプローチがHolmerの米国特許第6,559,132号、Scholanderの同第6,461,665号、およびEketropの同第6,767,405号に開示されており、そのアプローチによってキトサンなどの担体分子が医療機器の活性金属表面に抱合される。その後、ヘパリンが中間分子に共有結合で抱合される。この処理は、所望の抗血栓性層が得られるまで数回繰り返してよい。あるいは、このコーティングはバッチ処理モードで行うことができる。しかしながら、このアプローチは、1種/複数種の医薬を含有するポリマーコーティングでコーティングされる医療機器に容易には適用できない。これらの成功した抗再狭窄薬のうちのいくつか(例えばシロリムス)は、これらの抱合処理、特に水性処理を伴うこれらの処理中に損傷を受ける可能性がある。
【0012】
Stucke他によるPCT出願WO2005/097223 A1では、光活性架橋剤と抱合されたヘパリンの混合物が、他の耐久性ポリマー(例えばポリ(ブチルメタクリレート)およびポリ(ビニルピロリドン))で同じコーティング溶液中に溶解または分散され、その溶液中またはコーティングが塗布された後にUV光で架橋される、方法を開示している。このアプローチの潜在的な欠点は、組み込まれた1種/複数種の薬物が架橋処理中に高エネルギーUV光によって悪影響を受ける可能性があり、さらに悪くは、その1種/複数種の薬物が、UVエネルギーによって活性化され得る官能基を有している場合には、それらの薬物がマトリックスポリマーと架橋される可能性があることである。
【0013】
全てHsu、Li-Chienによる米国特許出願公開2005/0191333 A1、米国特許出願公開2006/0204533 A1、およびWO 2006/099514 A2、に開示されているように、もう1つの一般的なアプローチは、ヘパリンと対イオンとの低分子量複合体(ステアリルコニウムヘパリン(stearylkonium heparin))、または高分子量多価電解質複合体、例えばデキストラン、ペクチンを用いて、抗血栓性存在物の複合体形態を形成する。これらの抗血栓性複合体は、薬物をさらに含み得るポリマーマトリックス中にさらに分散される。そのようなアプローチでは、薬物と親水性種のヘパリンの異種マトリックスが作り出され、その異種マトリックスでは、親水性種が植え込み前後に水を引き寄せて、薬物の安定性および放出速度に悪影響を及ぼす。さらに、ヘパリンおよび同様の薬剤の所望の抗血栓機能は、好ましくは、コーティングした医療機器の表面から離れて溶出されるのではなく表面上に存在すべきである。
【0014】
よって、医療機器の少なくとも1つの表面に塗布するための、上記のような厳しい要件を満たし得るコーティング材料であって、コーティング中に注入される感受性医薬または治療薬に適合する処理により調製され得る、コーティング材料の必要性がまだある。これは、薬剤溶出ステントの外表面に塗布されると、再狭窄を処置し、かつ血栓症を防止するコーティングの必要性を満たすのに役立つ。
【0015】
〔発明の概要〕
本発明は、ヘパリンなどの生物学的に活性な分子を、クリック化学プロセスを介して生体適合性かつ生体吸収性のポリエステルにグラフトする(grafts)。特に、クリック化学プロセスを使用して、ペンダントの不飽和を利用し、変換におけるより少ない工程とより大きな汎用性を伴って、ヘパリン分子を介して抗血栓性特性などの機能性をブロックポリエステルの側鎖に導入する。一般に、クリック化学プロセスは、触媒剤の存在下でトリアゾールを形成するように末端アルキンとアジドとの反応を利用する。例えば、本明細書に記載の方法では、トリアゾール結合を形成するようにアジドおよびアルキンのCu(I)触媒Huisgen1,3−双極性付加環化(Cu(I)-catalyzed Huisgen 1,3-dipolar cycloaddition)の段階的な類似体を使用してよい。
【0016】
クリック化学は、トリアゾールの形成をもたらし、比較的穏やかな反応条件下でほとんど副生成物を伴わずに幅広い分子を部位特異的にカップリングするための方法を提供する。クリック化学は、アジド基およびアルキン基を有機分子およびポリマー分子へと容易に導入し、多くの反応条件に対してこれらの基に安定性を与え、他の官能基の存在に対して反応耐性を与える。よって、多くの従来型の有機変換およびカップリングに必要な条件に対するポリエステル主鎖の感受性を考えると、脂肪族ポリエステルにクリック化学を適用することは理想的である。例えば、本発明では、アジド末端生体分子、例えばヘパリン分子を有するペンダントアセチレンを含む脂肪族ポリエステルのクリック反応を使用してよい。
【0017】
また、本発明のポリエステルヘパリン抱合体が植え込み可能な医療機器の少なくとも一部に塗布されるコーティングおよび同様の処理も開示されている。本発明は、開環重合プロセスを介して作製されたほとんど全ての既知ポリエステルに適用されることから、幅広い適用を有している。アルキン官能基は、環状ラクトンのカルボニル基のα位に導入され得る。これらの修飾ラクトンモノマーは、次いで、重合して、ペンダントアルキン側基を有するホモポリマーポリエステルを生成し得る。ポリエステルは、一般に、それらの疎水性および半結晶特性と、ポリマー主鎖沿いに官能基が不在であることから範囲が制限されるが、そうでなければ、物理的および化学的特性を修飾し、生物活性部分を導入するために使用することができる。クリック化学によりポリマー鎖を修飾することにより官能基の特異的な生物学的機能がポリエステルコポリマーに与えられる。さらに、アルキン側基の密度は、修飾ラクトンモノマーと未修飾ラクトンモノマーとの比率を変更することによって調整され得る。また、その修飾ラクトンモノマーは、それらのコポリマーの物理的および化学的特性(the physical and chemistry properties)を調整するために、異なるラクトンモノマーまたはダイマー例えばラクチド、グリコリドなどと共重合され得る。
【0018】
脂肪族ポリエステルのペンダント官能基は、官能化ラクトンの重合、重合後修飾、またはこれらの2つのアプローチの組合せにより得ることができる。官能化ラクトンを重合する場合、官能基は、重合条件およびその後の任意の化学プロセスに適合していなければならない。官能基は、開環重合に干渉しないものであるべきであり、これらの全てのプロセスを乗り切るのに十分に強いものであるべきである。
【0019】
ヘパリンと生体吸収性ポリマーとの抱合体、および当該抱合体を有する機器も提供され、当該抱合体は、当該機器の表面に塗布されているか、または当該装置の構造内に埋め込まれている。コーティングの最も外側の層は本発明の抱合体を含み、これは血栓症の形成を妨げ、当該コーティングの内部層に含まれている薬剤の放出速度を調節するのにも役立つ。
【0020】
前記コーティングの第1の層すなわち底層(sub-layer)は、ポリマー材料および生物学的に活性な薬剤を溶媒と混合し、それにより、均質な溶液を形成することによって調製される。前記ポリマー材料は、幅広い合成材料から選択することができるが、1つの典型的な実施形態では、ポリ(ラクチド−トゥ−グリコリド)(poly(lactide-to-glycolide))(PLGA)が使用される。前記生物学的に活性な薬剤は、所望の治療結果に応じて選択される。例えば、抗増殖薬(パクリタキセルなど)、免疫抑制薬(ラパマイシンなど)および/または抗炎症薬(デキサメタゾンなど)が前記内部層に含められ得る。一度調製されれば、前記溶液は、浸漬または吹き付け処理により機器に塗布することができる。乾燥中に前記溶媒が蒸発し、前記生物学的に活性な薬剤が添加されたポリマー材料の薄い層がステント上にコーティングされる。生物学的に活性な薬剤を含むさらなる層を提供することによって、1種以上の異なる生物学的に活性な薬剤を添加することができる。
【0021】
第2の層すなわち外部層は、抗血栓性ヘパリン−生体吸収性ポリマー抱合体を含む。このコーティングは、例えば、浸漬コーティング処理または吹き付けコーティング処理を用いて前記内部薬物含有層上に塗布することができる。本発明の1つの典型的な実施形態では、前記外部層は、酢酸エチル(EA)およびイソプロパノール(IPA)を含む混合溶媒系に溶解されていてよい抗血栓性ヘパリン−生体吸収性ポリマー抱合体を含む。次に前記溶液は、上記のような薬剤含有層で既にコーティングされている機器の表面に吹き付けられる。乾燥後、前記抗血栓性ヘパリン生体吸収性ポリマー抱合体は、前記コーティング外部層に残り、前記内部層からの薬剤を、その外部層を通して溶出させる。
【0022】
コーティングした機器は、機器の特性に応じた適当な手法を用いて体の患部、例えば、冠動脈のような血管に植え込まれ得る。前記機器は、血管を広げるスキャフォールド、例えば、ステントを含んでよい。前記生物学的に活性な薬剤は、前記第1の層から放出され、それにより、平滑細胞増殖の阻害などの所望の治療結果をもたらす。前記最も外側の層の前記抗血栓性ヘパリン−生体吸収性ポリマー抱合体は、部分的に水和した状態になり、前記機器の上および周囲での血液凝固を防止し、ゆえに血栓症および亜急性機器血栓症(sub-acute device thrombosis)を抑制する。加えて、前記最も外側の層の前記抗血栓性ヘパリン−生体吸収性ポリマー抱合体は、前記内部薬物含有層からの前記生物学的に活性な薬剤のバースト放出をさらに低減または防止し得、それにより比較的長期間にわたって放出を起こすことができる。
【0023】
もう1つの代替法は、前記ポリマーとヘパリンとの抱合体を、そのポリマーマトリックス内の治療薬の担体として利用して粒子を形成することである。この実施形態では、前記薬剤は、前記ポリマーの疎水性コアと少し結合している。前記薬剤を、溶媒を用いて前記抱合体と共溶解し、その溶媒を後に蒸発させて、コアに前記薬剤を含む粒子を作り出す。これらの粒子は、機器構造内での配置に理想的に適している。例えば、機器は、中に粒子を有するウェル、くぼみ、折り目、またはチャネルなどの構造的特徴部を有していてよい。これにより、異なる特性を有する粒子をその機器に沿った様々な位置に配置することが可能になる。さらに、少なくとも2種の異なる薬剤を有する粒子を同じ構造的特徴部内に置くことができる。薬剤は、前記粒子が崩壊するにつれて、前記構造的特徴部から放出される。同時に、ヘパリンが存在することにより前記機器の配置部位での血栓症を防止するであろう。
【0024】
本発明の特徴および利点は、次の詳細な説明により当業者には明らかであろう。
【0025】
〔発明の詳細な説明〕
次の定義は、本発明を容易に理解できるように示すが、本発明(then invention)の説明を限定するものと解釈すべきではない。
【0026】
本明細書において使用される、「ステント」とは、管腔を開いた状態に保ち、かつ狭窄または外部圧迫による閉鎖を防止するために導管に挿入される、任意の生体適合性材料から構築された一般に管状の構造物を意味する。
【0027】
本明細書において、「生物学的に活性な薬剤(biologically active agent)」とは、生物にとって治療的価値を有する薬物または他の物質を意味し、それらには、限定されるものではないが、抗血栓薬、抗癌薬、抗凝固薬、抗血小板薬、血栓溶解薬、抗増殖薬、抗炎症薬、再狭窄を抑制する薬剤、平滑筋細胞阻害薬、抗生物質など、および/またはそれらの混合物および/または別の物質が生物に治療的価値を与える機能を果たす手助けをし得る任意の物質が含まれる。
【0028】
典型的な抗癌薬としては、アシビシン、アクラルビシン、アコダゾール(acodazole)、アクロナイシン(acronycine)、アドゼレシン、アラノシン、アルデスロイキン、アロプリノールナトリウム、アルトレタミン、アミノグルテチミド、アモナフィド(amonafide)、アンプリゲン(ampligen)、アムサクリン、アンドロゲン類、アングイジン(anguidine)、アフィジコリングリシネート(aphidicolin glycinate)、アサリー(asaley)、アスパラギナーゼ、5−アザシチジン、アザチオプリン、カルメット・ゲラン菌(Bacillus calmette-guerin)(BCG)、Bakerのアンチフォル(Baker's Antifol)(可溶性)、β−2’−デオキシチオグアノシン(beta-2'-deoxythioguanosine)、ビサントレンhcl(bisantrene hcl)、ブレオマイシン硫酸塩、ブスルファン、ブチオニンスルホキシミン、セラセミド(ceracemide)、カルベチマー(carbetimer)、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、クロロキノキサリン−スルホンアミド(chloroquinoxaline-sulfonamide)、クロロゾトシン(chlorozotocin)、クロモマイシンA3、シスプラチン、クラドリビン、コルチコステロイド類、コリネバクテリウムパルバム(Corynebacterium parvum)、CPT−11、クリスナトール(crisnatol)、シクロシチジン、シクロホスファミド、シタラビン、シテムベナ(cytembena)、デイビスマレエート(dabis maleate)、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシンHCl、デアザウリジン(deazauridine)、デクスラゾキサン、ジアンヒドロガラクチトール(dianhydrogalactitol)、ジアジクォン(diaziquone)、ジブロモズルシトール(dibromodulcitol)、ジデムニンB(didemnin B)、ジエチルジチオカルバメート、ジグリコアルデヒド(diglycoaldehyde)、ジヒドロ−5−アザシチジン、ドキソルビシン、エキノマイシン、エダトレキサート、エデルホシン(edelfosine)、エフロミチン(eflomithine)、エリオットの溶液(Elliott's solution)、エルサミトルシン(elsamitrucin)、エピルビシン、エソルビシン、リン酸エストラムスチン、エストロゲン類、エタニダゾール、エチオホス(ethiofos)、エトポシド、ファドラゾール(fadrazole)、ファザラビン(fazarabine)、フェンレチニド、フィルグラスチム、フィナステリド、フラボン酢酸(flavone acetic acid)、フロクスウリジン、リン酸フルダラビン、5−フルオロウラシル、Fluosol(登録商標)、フルタミド、硝酸ガリウム、ゲムシタビン、ゴセレリン酢酸塩、ヘプスルファム(hepsulfam)、ヘキサメチレンビスアセトアミド、ホモハリングトニン(homoharringtonine)、ヒドラジン硫酸塩、4−ヒドロキシアンドロステンジオン、ヒドロジシウレア(hydrozyurea)、イダルビシンHCl、イホスファミド、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インターロイキン−1αおよびβ、インターロイキン−3、インターロイキン−4、インターロイキン−6、4−イポメアノール(4-ipomeanol)、イプロプラチン(iproplatin)、イソトレチノイン、ロイコボリンカルシウム、酢酸ロイプロリド、レバミゾール、リポソームダウノルビシン、リポソーム封入ドキソルビシン、ロムスチン、ロニダミン、マイタンシン、塩酸メクロレタミン、メルファラン、メノガリル、メルバロン(merbarone)、6−メルカプトプリン、メスナ(mesna)、カルメット・ゲラン菌のメタノール抽出残渣、メトトレキサート、N−メチルホルムアミド、ミフェプリストン、ミトグアゾン、マイトマイシン−C、ミトタン、ミトキサントロン塩酸塩、単球/マクロファージコロニー刺激因子、ナビロン、ナホキシジン、ネオカルチノスタチン、オクトレオチド酢酸塩、オルマプラチン(ormaplatin)、オキサリプラチン、パクリタキセル、パラ(pala)、ペントスタチン、ピペラジンジオン、ピポブロマン、ピラルビシン、ピリトレキシム(piritrexim)、ピロキサントロン塩酸塩(piroxantrone hydrochloride)、PIXY−321、プリカマイシン、ポルフィマーナトリウム、プレドニムスチン、プロカルバジン、プロゲスチン類、ピラゾフリン(pyrazofurin)、ラゾキサン、サルグラモスチム、セムスチン、スピロゲルマニウム、スピロムスチン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、スロフェヌル(sulofenur)、スラミンナトリウム(suramin sodium)、タモキシフェン、タキソテール、テガフール、テニポシド、テレフタルアミジン(terephthalamidine)、テロキシロン、チオグアニン、チオテパ、チミジン注射薬(thymidine injection)、チアゾフリン、トポテカン、トレミフェン、トレチノイン、塩酸トリフルオペラジン、トリフルリジン、トリメトレキサート、腫瘍壊死因子、ウラシルマスタード、ビンブラスチン硫酸塩、ビンクリスチン硫酸塩、ビンデシン、ビノレルビン、ビンゾリジン、Yoshi 864、ゾルビシン、およびそれらの混合物が含まれる。
【0029】
典型的な抗炎症薬としては、古典的な非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDS)、例えばアスピリン、ジクロフェナク、インドメタシン、スリンダク、ケトプロフェン、フルルビプロフェン、イブプロフェン、ナプロキセン、ピロキシカム、テノキシカム、トルメチン、ケトロラック、オキサプロジン(oxaprosin)、メフェナム酸、フェノプロフェン、ナブメトン(nambumetone)(レリフェン(relafen))、アセトアミノフェン(Tylenol(登録商標))、およびそれらの混合物;COX−2阻害薬、例えばニメスリド、NS−398、フロスリド(flosulid)、L−745337、セレコキシブ、ロフェコキシブ、SC−57666、DuP−697、パレコキシブナトリウム、JTE−522、バルデコキシブ、SC−58125、エトリコキシブ、RS−57067、L−748780、L−761066、APHS、エトドラク、メロキシカム、S−2474、およびそれらの混合物;グルココルチコイド類、例えばヒドロコルチゾン、コルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、メプレドニゾン、トリアムシノロン、パラメタゾン、フルプレドニゾロン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、フルドロコルチゾン、デスオキシコルチコステロン、およびそれらの混合物;ならびにそれらの混合物が含まれる。
【0030】
本明細書において使用される、「有効量」とは、無毒であるが、任意の医学的処置に伴って妥当な効果/リスク比で所望の局所または全身効果および成果を与えるのに十分である薬理学上活性な薬剤の量を意味する。
【0031】
本発明によれば、ポリマー組成物の1以上の層は、医療機器にコーティングを提供するためにその医療機器に塗布されるか、またはその医療機器の構造的特徴部内に装填される粒子に形成される。コーティングとして使用される場合、前記ポリマー組成物は異なる機能を果たす。例えば、1つの層はベースコートを含んでよく、そのベースコートは、そのベースコートへ追加の層を接着可能にする。1つ(複数)の追加の層は、それらの層のポリマーマトリックス内に生物活性剤を有していてよい。あるいは、単一被覆を塗布してよく、前記ポリマー組成物は、その被覆が複数の機能(例えば前記機器への前記コーティングの接着を可能にすること、および血栓症を防止する薬剤を収容すること)を果たすようなものである。他の機能には、再狭窄を防止する薬剤を収容することが含まれる。
【0032】
薬剤の化学的性質は、コーティングに含めてよい薬剤の数を制限し得る。例えば、抗血栓薬は親水性である傾向があるが、一方、抗増殖薬は比較的疎水性である傾向がある。そのため、疎水性物質をポリマーコーティングのマトリックス内に封入して、水へのその曝露を制限し、マトリックスからのその溶出を制御することが望ましい。本発明は、異なる特性を有する2種の薬剤を、ヘパリンなどの抗凝固薬と、遊離カルボキシル末端基を有する生体吸収性ポリマーとの抱合体を提供することによって、ごく接近して担持する。この配置により、親水性ヘパリン薬剤は前記ポリマーマトリックス内に存在する疎水性物質から実質的に離れて配向されることになるであろう。よって、医療機器に塗布される場合、前記抱合体を有するコーティングにより、抗血栓薬は確実に、前記ポリマーマトリックス内に含まれ得る任意の疎水性物質から実質的に離れて配向される。
【0033】
図4は、表面2に塗布された本発明の1つ(複数)のコーティングの典型的な実施形態を例示している。表面2は、例えば、植え込み可能な医療機器上に位置する。そのコーティングは、例えば、平滑細胞増殖および移動を防止する生物学的に活性な薬剤を添加したポリマーフィルムの第1の層すなわち内部層4を含む。第1の層すなわちコーティング4は2種以上の生物学的に活性な薬剤を含んでよい。
【0034】
前記薬剤を前記ポリマーのマトリックス内に入れる1つの方法は、溶媒または溶媒の混合物を使用することを伴い、それによって前記薬剤およびポリマーはその中で溶解される。その混合物が乾燥するにつれて、その溶媒が除去され、前記ポリマーのマトリックス内に封入された薬剤が残る。前記内部層/第1のポリマー層の作製に使用することができる典型的なポリマーには、ポリウレタン類、ポリエチレンテレフタレート(PET)、PLLA−ポリ−グリコール酸(PGA)コポリマー(PLGA)、ポリカプロラクトン(PCL)ポリ−(ヒドロキシブチレート/ヒドロキシバレレート)コポリマー(poly-(hydroxybutyrate/hydroxyvalerate) copolymer)(PHBV)、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、Teflon(登録商標))、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)(ポリ−HEMA)、ポリ(エーテルウレタン尿素)、シリコ−ン類、アクリル樹脂、エポキシド類、ポリエステル類、ウレタン類、パルレン類(parlenes)、ポリホスファゼンポリマー類、フルオロポリマー類、ポリアミド類、ポリオレフィン類、およびそれらの混合物が含まれる。前記内部フィルム/第1のポリマーフィルムの作製に使用することができる典型的な生体吸収性ポリマーには、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ−D,L−乳酸(DL−PLA)、ポリ−L−乳酸(L−PLA)、ポリ(ヒドロキシブチレート)(poly(hydroxybutyrate))、ポリジオキサノン、ポリオルトエステル(polyorthoester)、ポリ酸無水物(polyanhydride)、ポリ(グリコール酸)、ポリリン酸エステル(polyphosphoester)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(イミノカーボネート)(poly(iminocarbonate))、ポリアルキレンオキサレート類、ポリホスファゼン類、および脂肪族ポリカーボネート類が含まれる。
【0035】
第2の層すなわち最も外側の層6は、強力な抗凝固特性を有する抗血栓性ヘパリン‐生体吸収性ポリマー抱合体を含み得る。抗血栓性ヘパリン−生体吸収性ポリマー抱合体の第2の層は、前記第1の層すなわち内部層4に分散された前記生物学的に活性な薬剤のバースト放出を防止する効果をさらに有していてよく、結果的に、2種以上の生物学的に活性な薬剤を含み得る前記層4の放出期間が比較的長くなる。さらに、前記抱合体6は、前記親水性ヘパリン8を前記疎水性内部層4から実質的に離れて配向する。
【0036】
本発明を例示するためだけに、ステントなどの医療機器に塗布されている1つ(複数)のコーティングを論じる。本発明のコーティングは、血栓症の形成を止め、かつ/または適用部位を治療するために向けられる薬剤を送達することが望ましい場合、他の適用、例えば血管グラフト、創傷パッチ、閉鎖機器、シャントまたは任意の他の機器、カバーなどの上にも使用することができる。一般に、ステントは、金属例えばステンレス鋼またはコバルトクロム合金から製造されているものから作製されている。しかしながら、ステントは、ポリマー材料からも製造することができる。任意の基体、医療機器、または有機流体と接触しているそれらの一部などを本発明でコーティングすることができるということも理解すべきである。例えば、大静脈フィルターおよび吻合機器などの他の機器は、薬剤を中に有しているコーティングを用いて使用することができるし、またはそれらの機器自体を、薬物を中に含有しているポリマー材料を用いて製造することができる。本明細書に記載のステントまたは他の医療機器はいずれも、局所または領域性の薬物送達に利用することができる。バルーン拡張可能なステントは、任意の数の血管または導管に利用することができ、特に冠動脈での使用によく適している。一方、自己拡張型ステントは、特にクラッシュ回復が重要な要素である血管、例えば、頚動脈での使用によく適している。
【0037】
必須ではないが、前記第1のコーティングまたは層4、および第2のコーティングまたは層6は、前記ステント表面2全体の少なくとも一部を覆うことが望ましい。前記第1の層4の塗布は、溶媒蒸発処理またはいくつかの他の既知の方法、例えば溶媒キャスト吹き付けコーティング(solvent cast spray coating)によって行われる。その溶媒蒸発処理は、前記ポリマー材料および前記生物学的に活性な薬剤をテトラヒドロフラン(THF)などの溶媒と組み合わせることを必要とし、それらを攪拌して、混合物を形成する。前記第1の層の例示的なポリマー材料はポリウレタンを含み、例示的な生物学的に活性な薬剤はラパマイシンを含む。前記混合物は、前記溶液を前記ステント上に吹き付けること;または前記ステントを前記溶液に浸漬することにより前記ステントの表面2に塗布する。前記混合物が塗布されたら、前記ステントは乾燥処理を受け、その間に、前記溶媒は蒸発し、前記ポリマー材料および生物学的に活性な薬剤は前記ステント上に薄膜を形成する。あるいは、複数種の生物学的に活性な薬剤を前記第1の層4に添加してよい。
【0038】
前記ステントコーティングの前記第2の層すなわち最も外側の層6は、抗血栓性ヘパリン−生体吸収性ポリマー抱合体を含む。この抗血栓性ヘパリン−生体吸収性ポリマー抱合体は、有機溶媒または様々な極性の有機溶媒の混合物に溶解し得る。ヘパリン8は、未分画ヘパリン(a unfracationated heparain)、分画ヘパリン、低分子量ヘパリン、脱硫酸ヘパリン(desulfated heparin)および様々な哺乳類起源のヘパリンを含み得る。典型的な抗血栓薬には、ビタミンK拮抗薬、例えばアセノクマロール、クロリンジオン、ジクマロール、ジフェナジオン、ビスクマ酢酸エチル、フェンプロクモン、フェニンジオン、チオクロマロール、ワルファリン;ヘパリン群抗血小板凝集抑制薬(Heparin group anti-platelet aggregation inhibitor)、例えばアンチトロンビンIII、ベミパリン、ダルテパリン、ダナパロイド、エノキサパリン、ヘパリン、ナドロパリン、パルナパリン、レビパリン、スロデキシド、チンザパリン;他の血小板凝集抑制薬、例えばアブシキマブ、アセチルサリチル酸(アスピリン)、アロキシプリン、ベラプロスト、ジタゾール、カルバサラートカルシウム、クロリクロメン、クロピドグレル、ジピリダモール、エプチフィバチド、インドブフェン、イロプロスト、ピコタミド、プラスグレル、プロスタサイクリン、チクロピジン、チロフィバン、トレプロスチニル、トリフルサル;酵素抗凝固薬、例えばアルテプラーゼ、アンクロッド、アニストレプラーゼ、ブリナーゼ、ドロトレコギンアルファ、フィブリノリジン、タンパク質C、レテプラーゼ、サルプラーゼ、ストレプトキナーゼ、テネクテプラーゼ、ウロキナーゼ;直接型トロンビン阻害薬、例えばアルガトロバン、ビバリルジン、ダビガトラン(Dabigatran)、デシルジン、ヒルジン、レピルジン、メラガトラン、キシメラガトラン;および他の抗血栓薬、例えばダビガトラン、デフィブロチド、デルマタン硫酸、フォンダパリヌクス、リバロキサバン(Rivaroxaban):が含まれ得る。
【0039】
図1および図2に示されるように、典型的な抗血栓性ヘパリン‐生体適合性コポリマー抱合体は次のように調製される。第1に、図1に示されるように、アセチレン基を環状モノマーバレロラクトン(a cyclic monomer valeroclatone)のα位に導入し、それを錫触媒Sn(OTf)、および開環開始剤としての所定量のエタノールの存在下でカプロラクトンと共重合する。この開環重合により、ペンダントアセチレン基を有するポリ(バレロラクトン−コ−カプロラクトン)(poly(valerolactone-co-caprolacone))のコポリマーポリエステルが生成する。ポリマー鎖沿いのペンダントアセチレン基の密度は、重合処理に使用される官能化バレロラクトンとカプロラクトンとの間の比率によって決まる。前記コポリマーの分子量は、前記2つのモノマーの合計と開始剤のエタノールとの間の比率によって決まる。前記2つのモノマーの合計と開始剤のエタノールとの間の比率が高いほど、最終的なコポリマーの分子量は高くなる。
【0040】
本発明の一実施形態では、前記コポリマーのペンダントアセチレン基は、図2に示されるスキームに従って調製されたアジド基を有するヘパリン分子とさらに反応される。トリアゾール結合を形成するためのCu(I)触媒の存在下でのアセチレン基とアジド基との間の反応は図3に示している。任意のヘパリン分子、組換えヘパリン、ヘパリン誘導体またはヘパリン類似体(好ましい重量1.66×10−21g(1,000ダルトン)〜1.66×10−18g(1,000,000ダルトン)を有している)を、最終的な抗血栓性ヘパリン−生体吸収性ポリマー抱合体を作製するためにカップリング反応に使用してよいが、前記反応のカップリング効率を高めるように脱硫酸ヘパリンを使用することが好ましい。
【0041】
一度、前記抗血栓性ヘパリン−生体吸収性ポリマー抱合体を調製したら、それを溶媒蒸発法または他の適切な方法を用いて第1の層に直接塗布してよい。その溶媒が植え込み可能な医療機器の表面から蒸発した後、前記抗血栓性ヘパリン−生体吸収性ポリマー抱合体を含む薄膜が前記機器の最も外側の表面上に残る。
【0042】
次の実施例により、本発明の原理に従う前記抱合体の作製および使用を例示する。
【0043】
実施例1:アセチレン含有バレロラクトンモノマーの調製
図1に示されるように、所定量のδ−バレロラクトン(Aldrich社(米国)製の工業用)を、テトラヒドロフラン(THF)中、−78℃でN,N−ジイソプロピルアミド(LDA、99.5+%、Aldrich, 米国)と反応させ、続いて、臭化プロパルギルのトルエン溶液(80重量%トルエン溶液、Aldrich, 米国)でクエンチを行う。この粗生成物を140℃でクーゲルロール蒸留を行うことにより粘性ある無色の液体としてラクトン1を得た。
【0044】
実施例2:開始剤としてエタノールを用いた開環重合によるアセチレン側鎖を有するバレロラクトンのカプロラクトンとの共重合
実施例Iで作製した精製バレロラクトンモノマー(Purified valerolacone monomer)を、磁気攪拌子を備えた乾燥した丸底ガラス反応器内で、開始剤としてのエタノール(無水品、Aldrich, 米国)および開環触媒としてのSn(OTf)を用いてε−カプロラクトン(99+%、Aldrich, 米国)と共重合する。この反応スキームは図1に示している。この開環重合は、希釈せずに(neat)、または溶媒としてトルエンを用いて、室温でまたは昇温で行う。コポリマーの分子量は反応時間とともに増加し、オクタン酸第一錫などのより一般的な錫系触媒に比べて、Sn(OTf)を使用することによって、最終的なコポリマーの多分散性をより良く制御する。このブロックポリエステルコポリマー中のペンダントアセチレン基の密度は、バレロラクトンモノマーとε−カプロラクトン(CL)との間のモル比を変更することによって調整する。
【0045】
同様に、官能化ポリエステルコポリマーの物理的特性を調整するために、共重合にラクチド(LA)およびグリコリド(GA)などの他のラクトンモノマーを使用してよい。アセチレン基の最終的な取り込み率は、4.03でのシグナル(モノマー1およびCLからのポリマー主鎖のCHO)に対する2.01でのH1−NMRスペクトルシグナル(モノマー1からのアセチレンプロトン)の比率に基づいて算出することができる。
【0046】
実施例3:ヘパリン分子へのアジド末端基の導入
アジド末端ヘパリンを図2に示される経路によって合成する。簡潔には、ブロモヘキサン酸および1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt、<5%水、Aldrich, 米国)の溶液を乾燥DMFに加える。その溶液にN、N’−ジイソプロピルカルボジイミド(N, N'-diisoporprylcarbodiimide)(DIC、99%、Aldrich, 米国)を滴加し、20分間攪拌する。この活性化溶液をDMF中ヘパリン溶液に加え、1時間攪拌する。次いで、この反応物を濾過して、固体を除去する。続いて、この粗生成物を回転蒸発により濃縮し(concentration)、エーテル中で沈殿させる。その後、この沈殿物をエーテルで3回洗浄し、一晩真空乾燥させる。さらに、この臭化物末端ヘパリンをDMSOに溶かし、この溶液にアジ化ナトリウムを加える。この反応を室温で12時間進行させた後、溶液を濾過する。DMSOを除去するために回転蒸発およびクーゲルロール蒸留を行った後、粗生成物を最少量のメタノールに溶かし、溶けない沈殿物を濾過により除去する。この残留溶液をジエチルエーテルから沈殿させ、濾過して、アジド末端ヘパリンを得る。
【0047】
実施例4:クリック化学によるポリエステルコポリマーのアセチレン側鎖へのアジド末端ヘパリンのグラフト。
クリック化学によるポリエステルコポリマーのアセチレン側鎖への、アジドでキャッピングされたヘパリン分子のグラフトは、次の条件により実施する。ヘパリン−アジドを、まず、反応槽内で水に溶かす。アセチレン側鎖を有するポリエステルコポリマーを最少量のアセトンに溶かし、迅速に攪拌した反応混合物にシリンジにより加える。次いで、この反応槽にアスコルビン酸ナトリウムおよび硫酸銅(II)五水和物を加える。続いて、この反応混合物を、アセトンの蒸発による泡立ちが終了するまで、80℃に加熱する。その後、この反応槽に凝縮装置を取り付け、加熱還流し、一晩攪拌する。次いで、この反応混合物を室温まで冷却し、飽和NaCl水溶液で希釈し、CHClで5回抽出する。続いて、合わせた有機層をMgSOで乾燥させ、回転蒸発により濃縮する。その後、得られた生成物を真空下で一晩乾燥させて、最終的なポリマーヘパリン抱合体を得る。
【0048】
実施例5:吸収性ポリエステル−ヘパリン抱合体を含む最も外側の層を備えた薬剤溶出ステントのコーティング
図4に示されるように、コバルトクロムステントの表面10を、例えば、PLGAおよびラパマイシンを含有する酢酸エチル(EA)を含み得る薬物含有ポリマー溶液を用いて吹き付けコーティングする。PLGAとラパマイシンとの間の重量比は2:1である。この薬物含有層20を乾燥させた後、その第1の薬物含有層20上に本発明の吸収性ポリエステル−ヘパリン抱合体を含有するコーティング溶液を吹き付けコーティングする。この層を乾燥させた後、最も外側の表面上に吸収性ポリエステル−ヘパリン抱合体を含有する薄膜30が形成する。
【0049】
上記のもののようなコーティングは薄くてよく、一般に深さ5〜8μmであってよい。ステントなどの機器の表面積は、比較して非常に大きいため、有益な薬剤の全量が周囲組織へと放出するための非常に短い拡散経路を有する。得られる累積薬物放出プロフィールは、所望の「一様な持続放出」または線形放出ではなく、初期の大きなバーストの後、漸近線へと急接近することを特徴とする。多くの場合、ステントなどの機器からの治療薬の溶出パターンを変更することが望ましい。さらに、機器沿いの異なる位置における薬剤の量を変更することも望ましい。これは、その機器の構造的特徴部内に薬剤を入れることによって成し遂げることができる。
【0050】
図6に示されるように、拡張可能な機器は、その機器上への少なくとも1種の薬剤の配置を容易にする複数の構造的特徴部を有する。図6に例示される拡張可能な医療機器10は、円筒型の拡張可能な機器を形成するための材料のチューブから切り取ることができる。この拡張可能な医療機器10は、複数のブリッジング要素14によって相互連結された複数の円筒型部分12を含む。このブリッジング要素14は、配備部位まで脈管構造の曲がりくねった通路を通るときにはその機器が軸方向に曲がることを可能にし、管腔の湾曲に合わせる必要があるときにはその機器が軸方向に曲がることを可能にする。延性ヒンジ20および外周の支柱22によって相互連結された細長い支柱18のネットワークは円筒型チューブ12を含んでいる。医療機器10の拡張中に延性ヒンジ20は変形するが、一方、細長い支柱18は変形しない。拡張可能な医療機器の例についてのさらなる詳細は、米国特許第6,241,762号に記載されており、これは参照して本明細書にそのまま組み入れられる。
【0051】
細長い支柱18および外周の支柱22は、開口部30などの構造的特徴部を含み、それらのいくつかには、拡張可能な医療機器が植え込まれる管腔への送達のために薬剤が選択的に充填される。開口部30の深さは支柱22の厚さによって決まる。他の構造的特徴部には、隆起部分またはくぼみ、スリット、細長い開口部、追加材料、および拡張可能な機器上に配置されることが望ましい材料をとらえ得るかまたは含み得る任意の特徴部が含まれ得る。さらに、機器10の他の部分、例えばブリッジング要素14も構造的特徴部を含み得る。図5に示される特定例では、機器10の非変形部分、例えば細長い支柱18に開口部30が備わっており、それらの開口部は変形せず、機器の拡張中の破砕、排出、あるいは別様の損傷の危険性なしに薬剤が送達されるようになっている。有益な薬剤を開口部30内に装填し得る方法の一例のさらなる説明は、米国特許第6,764,507号に記載されており、これは参照して本明細書にそのまま組み入れられる。
【0052】
図5に示されるような機器構造的特徴部内に1種の薬剤または複数種の薬剤を入れることを容易にするために、図4に示されるような、前記ポリマーとヘパリンとの抱合体を治療薬の担体として利用して、粒子40を作り出すことができる。この実施形態では、薬剤42は、櫛形ポリマー(comb polymer)44の疎水性コア46と少し結合している。薬剤42を、溶媒を用いてこの抱合体と共溶解し、その溶媒は後に蒸発して、コアに前記薬剤を含む粒子を作り出す。これらの粒子は、図6に例示されているような機器構造内での配置に理想的に適している。例えば、機器は、中に粒子を有するウェル、刻み目、折り目、またはチャネルなどの構造的特徴部を有していてよい。これにより、異なる特性を有する粒子をその機器に沿った様々な位置に配置することが可能になる。さらに、少なくとも2種の異なる薬剤を有する粒子を同じ構造的特徴部内に置くことができる。薬剤は、前記粒子が崩壊するにつれて、前記構造的特徴部から放出される。同時に、ヘパリンが存在することにより前記機器の配置部位での血栓症を防止するであろう。
【0053】
図7では、図5の機器10における開口部50の横断面図を例示している。複数の粒子40は2つの層52と54との間に配置されている。層52および54は、水環境への粒子40の曝露を制御するために組成および厚さを変更することができる。これにより、粒子40のコア内部からの薬剤の放出が制御される。さらに、それらの粒子を単一材料内でブレンドし、機器10の開口部50内に配置してよい。
【0054】
機器の構造的特徴部上または内部へ配置するためのナノ粒子および微粒子の形成方法の例を以下に示す。
【0055】
実施例6:櫛型吸収性ポリマー−ヘパリンおよびパクリタキセルを用いたナノ粒子の形成
20mgのパクリタキセルおよび200mgのポリ(ラクチド−トゥ−グリコリド)、PLGA50/50をゆっくりと攪拌しながら16mLの塩化メチレンに溶かす。生成した溶液を、乳化剤として4%の(ポリビニルアルコール)(PVA)を含有する水溶液250mLに移す。合わせた溶液をソニケーターのパルスモードにおいて出力50mWで90秒間超音波処理する。次いで、このエマルジョンを室温で一晩攪拌して、溶媒を除去する。これによりパクリタキセルを含有するナノスフェアが形成し、それらを12000rpmで30分間の遠心分離により集め、さらに脱イオン水で4回洗浄して、過剰な乳化剤を除去する。さらに、この生成物を凍結乾燥した後適用する。
【0056】
実施例7:櫛型吸収性ポリマー−ヘパリンおよびパクリタキセルを用いた微粒子の形成
20mgのパクリタキセルおよび200mgのポリ(ラクチド−トゥ−グリコリド)、PLGA50/50をゆっくりと攪拌しながら16mLの酢酸エチル(EA)に溶かす。80mLの水(注射用水)を50℃まで加熱し、磁気攪拌プレートにより攪拌状態を保つ。所定量の乳化剤(PVA、0.4g)を加えて、水溶液を形成する。次いで、この溶液を常に攪拌しながら室温まで冷却する。この水溶液に酢酸エチル(3.2mL)をゆっくりと攪拌しながら加える。続いて、500rpmで攪拌しているこの乳化水溶液にパクリタキセルおよびPLGA溶液を注ぐ。このエマルジョンを室温で4時間さらに攪拌して、ミクロスフェアを固化する。その後、最終的なミクロスフェアを濾過により集め、WFI水で2回洗浄する。最終的なミクロスフェアを一晩凍結乾燥し、その後使用する。
【0057】
図5では、図6に示される機器の開口部内に配置された、上記実施例に従って作製された粒子を示している。これらのような粒子は、乾燥粉末沈着法、例えば静電沈着処理によりこれらの開口部内に配置することができる。これらの粒子を含有する機器は、放出速度をさらに調節するように溶媒吹き付け処理などの処理を用いて、前記薬物の放出速度を調節するためにさらに処理してよく、さらに開口部も、前記薬物の放出速度を調節するようにさらなるカバーによって覆ってよい。
【0058】
本発明を特定の好ましい実施形態に関して記載してきたが、本発明の精神または本質的特性を逸脱することなくこれらの設計に対して数多くの修飾および変更を行うことができるということは当業者には明らかであろう。よって、本発明の範囲を示すものとして、前述の明細書ではなく添付の特許請求の範囲を参照すべきである。記述した説明は例示するためのものであって、本発明を制限することを意図するものではないし、使用範囲、分野を制限するか、または排除についての明白な言葉を構成することを意図するものでもない。
【0059】
〔実施の態様〕
本発明の実施態様は以下の通りである。
(1)抱合体材料において、
生体適合性かつ生体吸収性のポリマーと、
クリック化学プロセスを介して側鎖として付着された抗血栓薬と、
を含む、抱合体材料。
(2)実施態様1に記載の抱合体材料において、
前記抗血栓薬は、ヘパリンである、抱合体材料。
(3)実施態様2に記載の抱合体材料において、
前記ヘパリンは、低分子量ヘパリンである、抱合体材料。
(4)実施態様2に記載の抱合体材料において、
前記ヘパリンは、脱硫酸ヘパリンである、抱合体材料。
(5)実施態様1に記載の抱合体材料において、
前記生体吸収性ポリマーは、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ−D,L−乳酸(DL−PLA)、ポリ−L−乳酸(L−PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)(PLGA)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(ヒドロキシブチレート−コ−バレレート)、ポリジオキサノン、およびポリ(グリコール酸−コ−トリメチレンカーボネート)からなる群から選択される、抱合体材料。
【0060】
(6)実施態様1に記載の抱合体材料において、
前記生体適合性ポリマーは、ポリバレロラクトン/ポリカプロラクトンコポリマーを含み、
前記抗血栓薬は、ヘパリン分子を含み、
前記抱合体は、次の構造を有し:
【化1】

式中、nおよびmは、各々、2〜5000の整数である、抱合体材料。
(7)コーティングにおいて、
表面に塗布された第1の生体吸収性ポリマーと、
前記第1の生体吸収性ポリマー内に含まれた薬剤と、
生体適合性かつ生体吸収性のポリマー、およびクリック化学プロセスを介して側鎖として付着された抗血栓薬を含む抱合体材料と、
を含み、
前記抱合体材料は、前記第1の生体吸収性ポリマーの上面に塗布される、コーティング。
(8)実施態様7に記載のコーティングにおいて、
前記抱合体の抗血栓性分子は、前記第1の生体吸収性ポリマー層から遠位に実質的に位置する、コーティング。
(9)実施態様7に記載のコーティングにおいて、
前記抗血栓性分子は、ヘパリンを含む、コーティング。
(10)実施態様7に記載のコーティングにおいて、
前記薬剤は、ラパマイシン、パクリタキセル、およびピメクロリムスからなる群から選択される抗再狭窄薬である、コーティング。
【0061】
(11)実施態様7に記載のコーティングにおいて、
前記第1の生体吸収性ポリマーは、第1のコポリマーを含み、
第2の生体吸収性ポリマーは、生体吸収性ポリマーであって、少なくとも1つの抗血栓薬が、クリック化学プロセスによるトリアゾール結合を介して前記ポリマーの主鎖に抱合されている、生体吸収性ポリマーを含む、コーティング。
(12)実施態様11に記載のコーティングにおいて、
前記第1のコポリマーおよび第2のコポリマーは、同じであり、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ−D,L−乳酸(DL−PLA)、ポリ−L−乳酸(L−PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)(PLGA)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリバレレートポリ(ヒドロキシブチレート−コ−バレレート)、ポリジオキサノン、およびポリ(グリコール酸−コ−トリメチレンカーボネート)からなる群から選択される、コーティング。
(13)実施態様7に記載のコーティングにおいて、
前記第1の生体吸収性ポリマーは、ホモポリマーである、コーティング。
(14)実施態様7に記載のコーティングにおいて、
前記コーティングは、植え込み可能な医療機器に塗布される、コーティング。
(15)実施態様14に記載のコーティングにおいて、
前記医療機器は、ステントを含む、コーティング。
【0062】
(16)抗血栓性抱合体を形成するための方法において、
少なくとも1つの環状ラクトン分子を提供する工程と、
前記環状ラクトン分子のカルボニル基のα位にアルキン基を導入する工程と、
前記環状ラクトンを開環重合により重合する工程と、
抗血栓薬をアジド末端基により誘導体化する工程と、
前記アルキン基と前記アジド基との間でのクリック化学プロセスによるトリアゾール結合を介して抗血栓性抱合体を形成する工程と、
を含む、方法。
(17)実施態様16に記載の方法において、
前記少なくとも1つの環状ラクトン分子は、グリコリドを含む、方法。
(18)実施態様16に記載の方法において、
前記少なくとも1つの環状ラクトン分子は、カプロラクトンを含む、方法。
(19)実施態様16に記載の方法において、
第2のラクトン分子を提供する工程、
をさらに含む、方法。
(20)実施態様16に記載の方法において、
前記クリック化学プロセスは、ポリエステルの側鎖とヘパリンとの間のトリアゾール結合を介して行われる、方法。
【0063】
(21)複数の粒子を作製する方法において、
クリック化学プロセスを介して生体適合性かつ生体吸収性のポリマーと抗血栓薬との間で抱合体を形成する工程と、
第1の溶液を形成するために治療薬およびポリマー抗血栓薬抱合体を少なくとも1種の溶媒に溶解する工程と、
エマルジョンを形成するために前記第1の溶液を、水および少なくとも1種の界面活性剤を含む第2の水溶液と混合する工程と、
複数の粒子を形成するために前記エマルジョンから前記溶媒を除去する工程と、
を含む、方法。
(22)実施態様21に記載の方法において、
前記抗血栓薬は、ヘパリンである、方法。
(23)実施態様22に記載の方法において、
前記ヘパリンは、低分子量ヘパリンである、方法。
(24)実施態様22に記載の方法において、
前記ヘパリンは、脱硫酸ヘパリンである、方法。
(25)実施態様21に記載の方法において、
前記生体吸収性ポリマーは、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)(PLGA)、ポリ(乳酸−コ−カプロラクトン)、ポリ(乳酸−コ−バレレート)、ポリ(乳酸−コ−ヒドロキシブチレート)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(ヒドロキシブチレート−コ−バレレート)、およびポリ(グリコール酸−コ−トリメチレンカーボネート)からなる群から選択される、方法。
【0064】
(26)実施態様21に記載の方法において、
前記生体適合性かつ生体吸収性のポリマーは、ポリバレロラクトン/ポリカプロラクトンコポリマーを含み、
前記抗血栓薬は、ヘパリン分子を含み、
前記抱合体は、次の構造を有し:
【化2】

式中、nおよびmは、各々、2〜5000の整数である、方法。
(27)実施態様21に記載の方法において、
前記生体適合性かつ生体吸収性のコポリマーは、バレロラクトン、d,l−ポリラクチド、およびグリコリドのターポリマーを含み、
前記抗血栓薬は、ヘパリン分子を含む、方法。
(28)実施態様21に記載の方法において、
前記生体適合性かつ生体吸収性のコポリマーは、バレロラクトン、d,l−ポリラクチド、およびカプロラクトンのターポリマーを含み、
前記抗血栓薬は、ヘパリン分子を含む、方法。
(29)実施態様21に記載の方法において、
前記複数の粒子は、微粒子を含む、方法。
(30)実施態様20に記載の方法において、
前記複数の粒子は、ナノ粒子を含む、方法。
【0065】
(31)装置において、
第1の直径から第2の直径まで拡張可能なフレームであって、前記フレームは、内表面および外表面を有し、前記表面間の距離は、前記フレームの肉厚を定めている、フレームと、
前記フレームに沿って配置された複数の構造的特徴部と、
前記複数の構造的特徴部とともに位置している複数の生体吸収性ポリマー抗血栓性抱合体粒子と、
を含む、装置。
(32)実施態様31に記載の装置において、
前記複数の構造的特徴部は、前記フレームの前記表面に配置された隆起を含む、装置。
(33)実施態様31に記載の装置において、
前記複数の構造的特徴部は、前記フレーム内に形成された複数のウェルを含む、装置。
(34)実施態様31に記載の装置において、
前記ウェルは、前記外表面から前記内表面まで延びる、装置。
(35)実施態様31に記載の装置において、
前記複数のウェルは、前記粒子で充填されている、装置。
【0066】
(36)実施態様31に記載の装置において、
前記複数のポリマー抗血栓性抱合体粒子は、治療薬の担体としての機能を果たす、装置。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】開始剤としてエタノールを用いた開環重合を介して官能化ポリエステルコポリマーを形成するための、アセチレン官能基のラクトンモノマーへの導入およびその後のカプロラクトンコモノマーとの共重合についての模式図である。
【図2】アジド末端基をヘパリン分子に導入する反応スキームである。
【図3】クリック化学によりポリ(バレロラクトン−コ−カプロラクトン)(poly(valerolactone-co-caprolactone))の側鎖にヘパリン分子をグラフトする反応スキームである。
【図4】植え込み可能な医療機器の表面に塗布された本発明の生体分解性ポリエステルヘパリン抱合体を示す概略図である。
【図5】ナノ粒子またはミクロスフェアを形成するために薬物と組み合わされた本発明の生体分解性ポリエステルヘパリン抱合体を示す概略図である。
【図6】拡張可能な医療機器の等角図であり、当該機器の構造的特徴部内に選択的に配置された粒子を有する。
【図7】第1の複数の孔の内に本発明に従う粒子を有する拡張可能な医療機器の横断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抱合体材料において、
生体適合性かつ生体吸収性のポリマーと、
クリック化学プロセスを介して側鎖として付着された抗血栓薬と、
を含む、抱合体材料。
【請求項2】
請求項1に記載の抱合体材料において、
前記抗血栓薬は、ヘパリンである、抱合体材料。
【請求項3】
請求項2に記載の抱合体材料において、
前記ヘパリンは、低分子量ヘパリンである、抱合体材料。
【請求項4】
請求項2に記載の抱合体材料において、
前記ヘパリンは、脱硫酸ヘパリンである、抱合体材料。
【請求項5】
請求項1に記載の抱合体材料において、
前記生体吸収性ポリマーは、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ−D,L−乳酸(DL−PLA)、ポリ−L−乳酸(L−PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)(PLGA)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(ヒドロキシブチレート−コ−バレレート)、ポリジオキサノン、およびポリ(グリコール酸−コ−トリメチレンカーボネート)からなる群から選択される、抱合体材料。
【請求項6】
請求項1に記載の抱合体材料において、
前記生体適合性ポリマーは、ポリバレロラクトン/ポリカプロラクトンコポリマーを含み、
前記抗血栓薬は、ヘパリン分子を含み、
前記抱合体は、次の構造を有し:
【化1】

式中、nおよびmは、各々、2〜5000の整数である、抱合体材料。
【請求項7】
コーティングにおいて、
表面に塗布された第1の生体吸収性ポリマーと、
前記第1の生体吸収性ポリマー内に含まれた薬剤と、
生体適合性かつ生体吸収性のポリマー、およびクリック化学プロセスを介して側鎖として付着された抗血栓薬を含む抱合体材料と、
を含み、
前記抱合体材料は、前記第1の生体吸収性ポリマーの上面に塗布される、コーティング。
【請求項8】
請求項7に記載のコーティングにおいて、
前記抱合体の抗血栓性分子は、前記第1の生体吸収性ポリマー層から遠位に実質的に位置する、コーティング。
【請求項9】
請求項7に記載のコーティングにおいて、
前記抗血栓性分子は、ヘパリンを含む、コーティング。
【請求項10】
請求項7に記載のコーティングにおいて、
前記薬剤は、ラパマイシン、パクリタキセル、およびピメクロリムスからなる群から選択される抗再狭窄薬である、コーティング。
【請求項11】
請求項7に記載のコーティングにおいて、
前記第1の生体吸収性ポリマーは、第1のコポリマーを含み、
第2の生体吸収性ポリマーは、生体吸収性ポリマーであって、少なくとも1つの抗血栓薬が、クリック化学プロセスによるトリアゾール結合を介して前記ポリマーの主鎖に抱合されている、生体吸収性ポリマーを含む、コーティング。
【請求項12】
請求項11に記載のコーティングにおいて、
前記第1のコポリマーおよび第2のコポリマーは、同じであり、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ−D,L−乳酸(DL−PLA)、ポリ−L−乳酸(L−PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)(PLGA)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリバレレートポリ(ヒドロキシブチレート−コ−バレレート)、ポリジオキサノン、およびポリ(グリコール酸−コ−トリメチレンカーボネート)からなる群から選択される、コーティング。
【請求項13】
請求項7に記載のコーティングにおいて、
前記第1の生体吸収性ポリマーは、ホモポリマーである、コーティング。
【請求項14】
請求項7に記載のコーティングにおいて、
前記コーティングは、植え込み可能な医療機器に塗布される、コーティング。
【請求項15】
請求項14に記載のコーティングにおいて、
前記医療機器は、ステントを含む、コーティング。
【請求項16】
抗血栓性抱合体を形成するための方法において、
少なくとも1つの環状ラクトン分子を提供する工程と、
前記環状ラクトン分子のカルボニル基のα位にアルキン基を導入する工程と、
前記環状ラクトンを開環重合により重合する工程と、
抗血栓薬をアジド末端基により誘導体化する工程と、
前記アルキン基と前記アジド基との間でのクリック化学プロセスによるトリアゾール結合を介して抗血栓性抱合体を形成する工程と、
を含む、方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法において、
前記少なくとも1つの環状ラクトン分子は、グリコリドを含む、方法。
【請求項18】
請求項16に記載の方法において、
前記少なくとも1つの環状ラクトン分子は、カプロラクトンを含む、方法。
【請求項19】
請求項16に記載の方法において、
第2のラクトン分子を提供する工程、
をさらに含む、方法。
【請求項20】
請求項16に記載の方法において、
前記クリック化学プロセスは、ポリエステルの側鎖とヘパリンとの間のトリアゾール結合を介して行われる、方法。
【請求項21】
複数の粒子を作製する方法において、
クリック化学プロセスを介して生体適合性かつ生体吸収性のポリマーと抗血栓薬との間で抱合体を形成する工程と、
第1の溶液を形成するために治療薬およびポリマー抗血栓薬抱合体を少なくとも1種の溶媒に溶解する工程と、
エマルジョンを形成するために前記第1の溶液を、水および少なくとも1種の界面活性剤を含む第2の水溶液と混合する工程と、
複数の粒子を形成するために前記エマルジョンから前記溶媒を除去する工程と、
を含む、方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法において、
前記抗血栓薬は、ヘパリンである、方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法において、
前記ヘパリンは、低分子量ヘパリンである、方法。
【請求項24】
請求項22に記載の方法において、
前記ヘパリンは、脱硫酸ヘパリンである、方法。
【請求項25】
請求項21に記載の方法において、
前記生体吸収性ポリマーは、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)(PLGA)、ポリ(乳酸−コ−カプロラクトン)、ポリ(乳酸−コ−バレレート)、ポリ(乳酸−コ−ヒドロキシブチレート)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(ヒドロキシブチレート−コ−バレレート)、およびポリ(グリコール酸−コ−トリメチレンカーボネート)からなる群から選択される、方法。
【請求項26】
請求項21に記載の方法において、
前記生体適合性かつ生体吸収性のポリマーは、ポリバレロラクトン/ポリカプロラクトンコポリマーを含み、
前記抗血栓薬は、ヘパリン分子を含み、
前記抱合体は、次の構造を有し:
【化2】

式中、nおよびmは、各々、2〜5000の整数である、方法。
【請求項27】
請求項21に記載の方法において、
前記生体適合性かつ生体吸収性のコポリマーは、バレロラクトン、d,l−ポリラクチド、およびグリコリドのターポリマーを含み、
前記抗血栓薬は、ヘパリン分子を含む、方法。
【請求項28】
請求項21に記載の方法において、
前記生体適合性かつ生体吸収性のコポリマーは、バレロラクトン、d,l−ポリラクチド、およびカプロラクトンのターポリマーを含み、
前記抗血栓薬は、ヘパリン分子を含む、方法。
【請求項29】
請求項21に記載の方法において、
前記複数の粒子は、微粒子を含む、方法。
【請求項30】
請求項20に記載の方法において、
前記複数の粒子は、ナノ粒子を含む、方法。
【請求項31】
装置において、
第1の直径から第2の直径まで拡張可能なフレームであって、前記フレームは、内表面および外表面を有し、前記表面間の距離は、前記フレームの肉厚を定めている、フレームと、
前記フレームに沿って配置された複数の構造的特徴部と、
前記複数の構造的特徴部とともに位置している複数の生体吸収性ポリマー抗血栓性抱合体粒子と、
を含む、装置。
【請求項32】
請求項31に記載の装置において、
前記複数の構造的特徴部は、前記フレームの前記表面に配置された隆起を含む、装置。
【請求項33】
請求項31に記載の装置において、
前記複数の構造的特徴部は、前記フレーム内に形成された複数のウェルを含む、装置。
【請求項34】
請求項31に記載の装置において、
前記ウェルは、前記外表面から前記内表面まで延びる、装置。
【請求項35】
請求項31に記載の装置において、
前記複数のウェルは、前記粒子で充填されている、装置。
【請求項36】
請求項31に記載の装置において、
前記複数のポリマー抗血栓性抱合体粒子は、治療薬の担体としての機能を果たす、装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−73811(P2009−73811A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−178681(P2008−178681)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(597041828)コーディス・コーポレイション (206)
【氏名又は名称原語表記】Cordis Corporation
【Fターム(参考)】