説明

抗酸化性の高齢者に安全な抗虚血活性を有する物質並びにそれらの製造方法

本発明は、抗酸化性の高齢者に安全な抗虚血活性を有する、医薬分野に関連し、すなわち新規の生物学的に活性な化合物、特に2,4,6−トリメチル−3−ヒドロキシピリジン誘導体及びその塩(化合物1)に関する。化合物(1)の塩は、等モル量の2,4,6−トリメチル−3−ヒドロキシピリジンとジカルボン酸とを、低級アルコールの溶液中で60〜100℃の温度で反応させて、引き続き反応物を、有機溶剤で処理し、そして10〜15℃で2〜5時間保持することによって製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗酸化性の高齢者に安全な(geroprotective)抗虚血活性を有する、医薬分野に関連し、すなわち新規の生物学的に活性な化合物、特に低級ジカルボン酸との2,4,6−トリメチル−3−ヒドロキシピリジン塩(化合物Ia〜Id)に関する。化合物Ia〜Idは、脂質の過酸化物酸化の過程に関する抗酸化活性を示し、それは全ての3−オキシピリジン誘導体について妥当である。この特性により、化合物Ia〜Id並びにそれらの類似体、エモキシピン(塩酸2−メチル−6−エチル−3−ヒドロキシピリジン)及びメキシドール(コハク酸2−メチル−6−エチル−3−ヒドロキシピリジン)を、眼科学における医薬として、すなわち結膜下出血及び眼球出血で眼の任意の部位及び組織への医薬として、種々の病因による血管障害性網膜症、例えば糖尿病性脈絡網膜ジストロフィー、網膜中心静脈血栓症及び静脈枝合併近視、角膜ジストロフィーにおける医薬として、かつ網膜剥離を伴う手術後の高効率の光の作用下での角膜及び網膜の保護及び治療のための医薬として使用できることが想定できる。更に、明確な抗虚血活性を有する化合物Icは、おそらく、虚血性心疾患及びアテローム性硬化症の治療のために心臓病学において使用されると想定される。
【0002】
また、化合物Icは、高齢者の眼から単離される、脂肪褐色素顆粒である"老年性色素斑"によって増感される光誘導型の脂質の過酸化物酸化の活性インヒビターであることが判明しており、それは、化合物Icが、高齢者に蓄積される脂肪褐色素顆粒の毒素活性を中和することができる、すなわち高齢者に安全な作用を有することを示している。このように、化合物Icは、脂肪褐色素の毒作用を不活性化するために使用できると想定できる。現在通常認められている脂肪褐色素は、老人性網膜斑変性の発生に導く基本的因子である。老人性網膜斑変性は、60歳以上の人々に最も蔓延した眼病に属する。統計学的データによれば、全盲に導く前記疾病を、65歳以上の米国人のほぼ30%が患い、罹患した人の割合は年齢と共に急増する。
【0003】
眼の透光体と組織の抗酸化保護のための医薬であって、吸水性の可塑性添加剤と、薬剤としてエモキシピンと塩酸ピロキシジンとを含有する生体可溶性ポリマーである医薬は知られている(RU2070010,1993)。
【0004】
活性剤として、2−(2,6−ジメチル−3,5−ジエトキシカルボニル−1,4−ジヒドロピリジン−4−カルボキサミド)ペンタン二酸の塩を含有する、とりわけ高齢者に安全な活性を有する生体活性の食品添加剤、"グルタピロン"は知られている(RU95116403,1995)。
【0005】
N−(3−クロロ−1,4−ナフトキノニル)−2−グルタミン酸の二カリウム塩を、とりわけ抗虚血活性を示す剤として用いる使用も知られている。
【0006】
本発明に関する最も近い先行技術は、抗酸化作用と膜保護作用とを有する、コハク酸2−メチル−6−エチル−3−ヒドロキシピリジン(メキシドール)(M.D.Mashkovsky,"Pharmaceuticals",part II,1993,Moscow,Medicine,page 216)を表し、その際、前記物質は、2−メチル−6−エチル−3−ヒドロキシピリジンのアルコール性溶液をコハク酸と一緒に1時間にわたり加熱することによって製造される(SU509047,1973)。
【0007】
本発明の課題は、抗酸化性の高齢者に安全な抗虚血活性を有するが、眼の組織に刺激作用を示さない、3−ヒドロキシピリジンのファミリーの誘導体である新規の物質を提供することである。
【0008】
本発明の本質は、抗酸化性の高齢者に安全な抗虚血活性を有する、一般式Ia〜Id:
【化1】

[式中、
Xは、単結合である(化合物Ia、シュウ酸塩、C811NO・C224);
Xは、CH2である(化合物Ib、マロン酸塩、C811NO・C344);
Xは、CH2CH2である(化合物Ic、コハク酸塩、C811NO・C464);
Xは、基CH2CH(OH)である(化合物Id、リンゴ酸塩、C811NO・C465)]で示される、2,4,6−トリメチル−3−ヒドロキシピリジンと低級ジカルボン酸との製剤学的に認容性の塩を表す新規の化合物にある。
【0009】
本発明のもう一つの課題は、抗酸化性の高齢者に安全な抗虚血活性を有する、2,4,6−トリメチル−3−ヒドロキシピリジン塩を製造するための方法において、等モルの量の2,4,6−トリメチル−3−ヒドロキシピリジンとジカルボン酸とを低級アルコールの溶液中で60〜100℃の温度で反応させ、引き続きその反応物を有機溶剤で処理し、そして10〜15℃で2〜5時間にわたり保持する、2,4,6−トリメチル−3−ヒドロキシピリジン塩の製造方法を提供することである。
【0010】
実施例1. 2,4,6−トリメチル−3−オキシピリジンの有機塩の製造
A). 2,4,6−トリメチル−3−オキシピリジン シュウ酸塩(Ia)の製造。
【0011】
0.8g(0.00583モル)の2,4,6−トリメチル−3−オキシピリジン塩基、0.525g(0.00583モル)の無水フタル酸、及び10mlのメタノールを、磁気撹拌機と還流凝縮器とを備えたフラスコに供給する。撹拌しながら、該反応混合物を沸騰するまで加熱し、そして沸騰を0.5時間にわたり保つ。引き続き、加熱を止め、溶剤を真空中で取り除き、そして5mlのアセトンを、その反応混合物に添加し、該混合物をガラス棒で5〜10分間にわたり擦る。得られた結晶性の残留物を濾過によって分離し、そしてアセトンを用いてフィルタ上で洗浄し、そして真空中で乾燥させる。
【0012】
1.1g(理論値の83%)の塩が得られる。溶融温度は、140〜142℃である。実測値%:C53.4、H5.9。計算値%:C52.9、H5.8。
【0013】

【0014】
B). 2,4,6−トリメチル−3−オキシピリジン マロン酸塩(Ib)の製造。
【0015】
0.8g(0.00583モル)の2,4,6−トリメチル−3−オキシピリジン塩基、0.607g(0.00583モル)のマロン酸、及び10mlのメタノールを、磁気撹拌機と還流凝縮器とを備えたフラスコに供給する。撹拌しながら、該反応混合物を沸騰するまで加熱し、そして沸騰を0.5時間にわたり保つ。引き続き、加熱を止め、溶剤を真空中で取り除き、そして5mlのアセトンを、その反応混合物に添加し、該混合物を10〜15℃で3時間にわたり保持する。得られた結晶性の残留物を擦り、濾過によって分離し、そしてアセトンを用いてフィルタ上で洗浄し、そして真空中で乾燥させる。1.2g(理論値の85.3%)の塩が得られる。溶融温度は、118〜120℃である。実測値%:C55.0、H6.5。計算値%:C54.8、H6.3。
【0016】

【0017】
C). 2,4,6−トリメチル−3−オキシピリジン コハク酸塩(Ic)の製造。
【0018】
3.4g(0.025モル)の2,4,6−トリメチル−3−オキシピリジン塩基、2.93g(0.025モル)のコハク酸、及び50mlのイソプロパノールを、磁気撹拌機と還流凝縮器とを備えたフラスコに供給する。撹拌しながら、該反応混合物を沸騰するまで加熱し、そして沸騰を0.5時間にわたり保つ。引き続き、加熱を止め、そして該反応物に30mlのアセトンを段階的に添加し、その際、該材料を、10〜15℃で3時間保持する。得られた結晶性の残留物を、濾過によって分離し、そしてアセトンを用いてフィルタ上で洗浄し、そして真空中で乾燥させる。5.6g(理論値の88.5%)の塩が得られる。溶融温度は、128〜129℃である。
【0019】
実測値%:C56.5、H6.9。計算値%:C56.5、H6.7。
【0020】

【0021】
D). 2,4,6−トリメチル−3−オキシピリジン リンゴ酸塩(Id)の製造。
【0022】
0.8g(0.00583モル)の2,4,6−トリメチル−3−オキシピリジン塩基、0.782g(0.00583モル)のヒドロキシブタン二酸、及び10mlのメタノールを、磁気撹拌機と還流凝縮器とを備えたフラスコに供給する。撹拌しながら、該反応混合物を沸騰するまで加熱し、そして沸騰を0.5時間にわたり保つ。引き続き、溶剤を真空中で除去する。油状残留物を、撹拌しながらアセトンで2回洗浄し、そして溶剤をデカンテーションによって除去する。得られたものを真空に置き、0.5mmHgの残留圧力で1時間にわたり保持する。引き続き、それを48〜72時間にわたり保持して、結晶化させる。溶融温度70〜75℃を有する白色の固体化合物が得られる。
【0023】
その収量は、1.12g(理論値の70.8%)である。実測値%:C53.5、H6.4。計算値%:C53.1、H6.3。
【0024】

【0025】
実施例2. 光誘導型のヒト脂肪褐色素顆粒のリポソーム過酸化の阻害の例による、化合物1の高齢者安全性作用
リポソームを、カルジオリピン(初期濃度:5mg/ml)のメタノール溶液から、メタノールを蒸発させ、カルジオリピンをリン酸緩衝液に溶解させることによって製造する。リポソームの懸濁液と、ヒトの眼の網膜色素上皮組織から単離された脂肪褐色素顆粒とを含有する混合物を、一定の撹拌下で、強力な青色光での照射に供する。脂質過酸化産物(TBK活性産物)の濃度を、20分後、40分後、60分後、及び90分後に測定する。実験サンプルは、2mMの化合物Icの溶液、又は2mMのメキシドールの溶液を含有していた。実験結果を、第1表に列記する。
【0026】
第1表. 脂肪褐色素に誘発されるカルジオリピンの光過酸化に関する、化合物Icの阻害効果(メキシドールとの比較)
【表1】

【0027】
それらの結果は、ヒトの眼の老人性色素、脂肪褐色素顆粒の光毒性作用に関する、化合物1の保護作用を示している。これらの条件下で、メキシドールは、事実上、阻害効果を示さなかった。
【0028】
実施例3. ブタの眼の光受容細胞のアスコルビン酸塩に誘発される過酸化に関する、化合物Icの抗酸化作用
光受容細胞の外節(external segment)を、ブタの網膜から標準的な方法に従って、サッカロース密度勾配における遠心分画法を使用して得る。リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.3)、108個の節/mlの光受容細胞の外節、0.5mMのアスコルビン酸、17mMの化合物Icを含有する混合物を、暗所で、一定の撹拌をしながら、15分及び30分にわたってインキュベートした。引き続き、その工程を、15%のトリクロロ酢酸によて停止させ、そしてTBK活性産物の濃度を測定した。化合物Icを含まないサンプルを、コントロールとして使用した。得られた結果を、第2a表に示す。
【0029】
第2a表. 光受容細胞の外節のアスコルビン酸塩に誘発される過酸化に関する、化合物Icの阻害効果
【表2】

【0030】
化合物Ia、Ib、Ic及びIdの光酸化活性の比較を、第2b表に示す。これらの実験において、ブタの眼の光受容細胞の外節のアスコルビン酸塩に誘発される過酸化の速度の比較を実施し、その際、前記比較は、種々の化合物Iの塩の存在下での、TBK活性産物の蓄積に関して測定される。
【0031】
第2b表. 光受容細胞の外節のアスコルビン酸塩に誘発される過酸化に関する、化合物Ia、Ib、Ic、Idの阻害効果の比較
【表3】

【0032】
それらの結果は、全ての化合物Iの塩が、眼の光受容細胞の暗所過酸化に関する、顕著な光酸化活性を示すことを指摘している。
【0033】
実施例4. メキシドールとの比較における、化合物Icのアンチラジカル活性の測定
フリーラジカル反応のインヒビターとしての3−ヒドロキシピリジン誘導体の効力を、ヘミルミネッセント法(hemiluminescent method)によって、エチル−ベンゼンk7ペルオキシドラジカルとのそれらの反応の速度定数の測定によって測定した。
【0034】
化学発光(HL)の強度の測定は、IHF RAN USSRによって設計及び作製された装置CNK−7で実施した。光電子増倍管FAU−38を、光学受容器として使用する。イソプロピルトルエン(クモール)の酸化の間のラジカルの固定濃度は、アゾビス−イソブチロニトリルである開始剤によって制御する。
【0035】
HL発光の増大のために、活性化キレートEu(ユーロピウム トリステノイル トリフルオロアセトネートと1,10−フェナトロリン)を使用することで、遅いラジカル開始速度値(W1=10-8〜10-9モル/l.s.)で測定を実施することが可能となり、従って添加されるサンプルが少量で実施可能となった。研究用のサンプルの秤量分を、好適な溶剤(クロロベンゼン又はアセトニトリル)中に希釈し、そして少量の調製された溶液(0.1〜0.25ml)を、反応混合物(5〜6ml)に添加し、HL装置の温度制御された反応容器に配置した。発光強度の変化を記録した。得られた結果を、第3表に示す。
【0036】
第3表. エチルベンゼンペルオキシドラジカルに関する、窒素複素環のp−オキシ誘導体のアンチラジカル活性
【表4】

【0037】
化合物1とメキシドールのアンチラジカル活性の比較評価は、化合物1が、2倍も高いアンチラジカル活性を示すことが実証された。
【0038】
実施例5. 急性心筋虚血の場合における、虚血壊死領域のサイズに対する、化合物Icの影響の研究
その実験は、体重250〜300gを有する雑種の雄ラットに、ペントバルビタールナトリウム(40mg/kgで腹腔内)で麻酔をして行う。それらの動物について、制御呼吸に移行し、左冠状動脈の下行枝を心耳の下端のレベルで結紮することによって、心筋梗塞のモデル化を行った。
【0039】
壊死領域と虚血領域のサイズを、冠状動脈の咬合後4時間以内に識別指示薬法(differential indicator method)によって測定した。その原理は、エバンスブルー(虚血領域の指示薬)と赤色ホルマザン(壊死領域の指示薬)との別々の定量的な測定を基礎とする。
【0040】
第4表. 他の3−オキシピリジン誘導体と比較した、化合物Icの抗虚血活性(ラットの冠状動脈の咬合後4時間以内)
【表5】

【0041】
理解できるように、化合物Icは、他の3−オキシピリジン類よりもかなり高い抗虚血活性を示している。
【0042】
実施例6. 化合物Icが眼の組織にもたらす局所的刺激作用の研究
実験測定は、6匹のウサギで実施する。すべての動物に、右目に化合物1の1%溶液の単独の点眼を、そして左目にエモキシピンの1%溶液の単独の点眼を行った。眼の前部を、点眼後1分以内に20Dレンズで斜照法によって制御する。その結果、以下のことが示される:
瞼の結膜と眼球又は角膜の反応は、それらの動物の右目では検出されない;
眼球の顕著な結膜充血と下瞼の結膜の肥大が、4匹の動物の左目に観察される。他の2匹の動物は、中程度の眼の結膜充血を示す。
【0043】
従って、その結果は、本発明による化合物Ic及びそれらの塩が、抗酸化性の高齢者に安全な抗虚血活性を有し、かつ眼の組織に局所的な刺激作用を示さないことを裏付けている。
【0044】
化合物Icと、医業で広く使用されるメキシドール及びエモキシピンとの抗酸化性のアンチラジカル性の高齢者に安全な抗虚血特性の比較評価により、本発明の剤の実質的により高い効力とより低い毒性が示され、また眼科学及び心臓学の実務と他の医学分野における前記剤の使用の見込みを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗酸化性の高齢者に安全な抗虚血活性を有する、2,4,6−トリメチル−3−ヒドロキシピリジンの低級ジカルボン酸との製剤学的に認容性の塩(化合物Ia〜Id)
【化1】

[式中、
Xは、(化合物Ia、シュウ酸塩、C811NO・C224)、CH2(化合物Ib、マロン酸塩、C811NO・C344)、CH2CH2(化合物Ic、コハク酸塩、C811NO・C464)及びCH2CH(OH)(化合物Id、リンゴ酸塩、C811NO・C465)を含む群から選択される]。
【請求項2】
請求項1に記載の2,4,6−トリメチル−3−ヒドロキシピリジン塩の製造方法において、等モル量の2,4,6−トリメチル−3−ヒドロキシピリジンとジカルボン酸とを、低級アルコールの溶液中で沸点温度で反応させて、引き続き反応物を、有機溶剤で処理し、場合により10〜15℃で2〜5時間保持する、2,4,6−トリメチル−3−ヒドロキシピリジン塩の製造方法。

【公表番号】特表2009−501712(P2009−501712A)
【公表日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−520971(P2008−520971)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【国際出願番号】PCT/IB2005/003636
【国際公開番号】WO2007/017713
【国際公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(508011887)マーヴェル ライフサイエンシズ リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】Marvel LifeSciences Limited
【住所又は居所原語表記】Raebarn House, 100 Northolt Road, Harrow, Middlesex HA 2 OYJ, United Kingdom
【Fターム(参考)】