説明

抗酸化活性及び抗アレルギー活性を有する化合物並びに該化合物の製造方法

【課題】 セレフォラ ヴァイアリスThelephora vialisに含まれる抗酸化物質及び抗アレルギー物質の検索及びその化学構造を決定し、該化合物の新規用途を開発することを目的とする
【解決手段】 下記式(1)にて示されるジベンゾフラン化合物により解決する。下記式(1)にて示されるジベンゾフラン化合物は、抗酸化作用及び抗アレルギー作用を有している。
【化1】


(R1及びR2は同時に又は各々独立して炭素数2〜10のアシル基または水素原子を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗酸化活性及び抗アレルギー活性を有する化合物並びに該化合物の製造方法に関し、詳細には、担子菌類イボタケ科に属するセレフォラ ヴァイアリスThelephora vialis由来の抗酸化活性及び抗アレルギー活性を有する化合物並びに該化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
担子菌類イボタケ科に属するセレフォラ ヴァイアリス(中国名「gan-ba-jun」、和名「ツブイボタケ」)は、中国雲南省の松の木の付近に自生する茸で、古くから最も好まれる食用茸の一つである。その芳香が食欲を増進させることから、セレフォラ属茸の揮発性成分ついての研究はその芳香との関連において精力的に行われている。
【0003】
一方、非揮発性成分については揮発成分ほど研究は進んでいなかったが、近年になり生体調節機能との関連から注目されている。これまでに報告されたセレフォラ属の非揮発成分としては、例えば、抗生物質としてフェラン酸phellanic acid (フェロ メラロイカスPhello melaleucus)、色素成分として5−O−メチル−キレセリスリン5-O-methyl-xylerythrin、ペニオフォリンpeniophorinとペニオサンギンpeniosanguin (ペニオフォラ サンギネアPeniophora sanguinea) などがある。また、抗アレルギー性物質としては、帽菌目イボタケ科の食用キノコの菌糸体または子実体またはその培地から抽出した16種類以上のアミノ酸、D−グルコース、D−マンノースが、副作用の極めて少ない抗アレルギー作用を有する旨が報告されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平6−183992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、酸素の取り巻く環境下で産生されるフリーラジカルや活性酸素による急激な酸化が、食品や生体に悪影響を及ぼすとして問題になっている。そのため、ラジカル消去作用などの抗酸化活性を有する化合物は、食品の劣化防止、生体への酸化障害に対する予防及び治療などへの応用が期待されている。従って、生体調節機能物質として多様な化学構造を有する特徴ある抗酸化物質が広く求められているといえる。
【0005】
また、従来技術では、セレフォラ属のキノコが抗アレルギー物質を有していることは知られていたものの、主成分の化合物及びその構造は特定されていなかった。
【0006】
そこで、本発明は、セレフォラ ヴァイアリスに含まれる抗酸化物質及び抗アレルギー物質の検索及びその化学構造を決定し、該化合物の新規用途並びに該化合物の製造方法を開発することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、セレフォラ ヴァイアリスの乾燥子実体中に強い抗酸化活性を示す緑色物質など複数の抗酸化物質の存在を見出した。本発明はかかる知見に基づきなされたものであり、下記式(1)にて示されるジベンゾフラン化合物を提供するものである。下記式(1)にて示されるジベンゾフラン化合物は、抗酸化作用及び抗アレルギー作用を有している。
【0008】
【化1】

(R1及びR2は同時に又は各々独立して炭素数2〜10のアシル基または水素原子を示す。)
【0009】
また、本発明は、セレフォラ ヴァイアリスThelephora vialisをアセトンで抽出し、アセトン抽出液を得る工程と、該アセトン抽出液を濃縮し、アセトン抽出液の濃縮液を得る工程と、該濃縮液をpH2.0〜4.0に調整し、溶媒抽出を行い、水層と有機層に分離する工程と、該有機層を濃縮し、中・酸性画分を得る工程と、該中・酸性画分を分離し、得られた画分を分離精製する工程と、を備えるジベンゾフラン化合物の製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
上記式(1)で示されるジベンゾフラン化合物は、ラジカル消去作用、β−ヘキソサミニダーゼ放出抑制及びTNF−α産生抑制作用を有している。従って、ラジカル消去剤、β−ヘキソサミニダーゼ放出抑制剤及びTNF−α産生抑制剤としての利用が可能である。
【0011】
ジベンゾフラン化合物及びそれらの薬理学的に許容される塩を治療目的で使用するためには、当該化合物及びその無毒性塩を有効成分とし、経口または非経口的に投与される。投与量は症状、年齢、性別、体重、投与形態等により異なるが、例えば成人に経口的に投与する場合には、通常1日量は0.1−1000mgである。
【0012】
ジベンゾフラン化合物及びそれらの薬理学的に許容される塩を製剤化するための剤型に制限はなく錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等の固形剤、溶液、懸濁液、乳剤などの液状製剤を経口的に、静脈内、筋肉内、皮下などの注射剤、坐剤、貼付剤などを非経口的に使用することができる。
【0013】
固形剤となす場合には澱粉、乳糖、グルコース、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、カルボキシメチルセルロースなどの賦形剤を用いることができ、必要であれば滑沢剤、崩壊剤、被覆剤、着色剤なども使用することができる。注射剤、及び液状製剤になす場合には安定化剤、溶液助剤、懸濁化剤、乳化剤、緩衝剤、保存剤などを含有させることができる。
【0014】
[製造例]
次に、上記一般式(1)にて示されるジベンゾフラン化合物の製造例を説明する。セレフォラ ヴァイアリスThelephora vialisの乾燥子実体420.0gを80%のアセトン8.0Lで抽出し、セレフォラ ヴァイアリスのアセトン抽出液を得た。それを真空条件下で濃縮し、アセトン抽出液の濃縮液1.6Lを得た。この濃縮液を1N塩酸でpH3.0に調整し、等量の酢酸エチルにより溶媒抽出を行い、水層と有機層に分離した。
【0015】
このうち、有機層を真空条件下で濃縮し、中・酸性画分36.5gを得た。そして、中・酸性画分のうち10.0gをSephadex LH−20カラムクロマトグラフィー(CHCl3/CH3OH=6:4)を用いて分離し、AとBの2つの画分を得た。
【0016】
A画分は、シリカゲルクロマトグラフィー(CHCl3/CH3OH=49:1)、次いで中圧液体クロマトグラフィー(CH3CN:0.15%KH2PO4(pH3.5)=6:4)により精製し、TVEA−a(160.3mg)、TVEA−b(79.8mg)、TVEA−c(87.9mg)及びTVEA−d(5.8mg)の4種の物質を単離した。
【0017】
このうち、TVEA−d(5.8mg)という化合物が本発明の化合物である。下記にTVEA−dの構造式(2)を示す。
【0018】
【化2】

【0019】
TVEA−dの分子式はC34249と与えられ、1H−NMR(600MHz、CD3OD)と13C−NMRスペクトル(150MHz、CD3OD)から20個分のHと34個分のCシグナルが与えられた。表1に物理化学的データを示し、表2に1H−NMRデータを示し、表3に13C−NMRスペクトルを示す。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【0023】
また、1H−1H COSY、HMQC、HMBCスペクトルなどの2次元NMRスペクトルの解析から、TVEA−dの化学構造は3−(4−ヒドロキシフェニル)ジベンゾフラン−1,2,4,7,8−ペンタノール1,2−O−ジフェニルアセテートと決定した。
【0024】
[比較製造例]
前記中・酸性画分10.0gをSephadex LH−20カラムクロマトグラフィー(CHCl3/CH3OH=6:4)を用いて分離して得られたAとBの2つの画分のうち、前記A画分のTVEA−cの構造式を下記式(3)に示す。TVEA−cの化学構造は、1H−1H COSY、HMQC、HMBCスペクトルなどの2次元NMRスペクトルの解析から、ガンバジュニンB (ganbajunin B) と同定した。
【0025】
【化3】

【0026】
一方、前記中・酸性画分10.0gをSephadex LH−20カラムクロマトグラフィー(CHCl3/CH3OH=6:4)を用いて分離して得られた、AとBの2つの画分のうち、B画分を、分取用高速液体クロマトグラフィー(CH3CN:0.15%KH2PO4(pH3.5)=8:2)により精製し、TVEB−b(1.0mg)、TVEB−c(3.2mg)、TVEB−d(8.2mg)及びTVEB−e(8.9mg)という4種の活性物質を単離した。
【0027】
このうち、TVEB−eの構造式を下記式(4)に示す。TVEB−eの化学構造は、1H−1H COSY、HMQC、HMBCスペクトルなどの2次元NMRスペクトルの解析から、サイクロロイコメロン(cycloleucomelone)と同定した。
【0028】
【化4】

【0029】
[試験例1]抗酸化活性の測定
TVEA−d(実施例1)をサンプルとして、以下の要領で抗酸化活性の測定を行った。0.5mM 1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル(1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl (DPPH)エタノール溶液0.5mLと0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)1.0mLの混合液に、濃度を段階的に調整したサンプルのエタノール溶液2.0mLを添加して攪拌後、遮光下にて30分間静置した。得られた反応液の517nmにおける吸光度を分光光度計により測定し、以下の式により各サンプルDPPHラジカル捕捉活性値を得た。なお、コントロールとしては2.0mLのエタノールを用いた。コントロールの50%の吸光度を示すサンプル濃度を50%捕捉濃度(EC50値)として示した。結果を表4に示す。
【0030】
DPPHラジカル捕捉活性(%)= [(B-A)/B] × 100
(A:サンプルの吸光度、B:コントロールの吸光度)
【0031】
なお、比較例として、セレフォラ ヴァイアリスの乾燥子実体から分離したTVEA−c(比較例1)及びTVEB−e(比較例2)並びにこのキノコの主要生産物であるバイアリニンA(比較例3)及び合成抗酸化剤として利用されているBHT(ブチルヒドロキシトルエン)(比較例4)を用い、上記と同様に抗酸化活性の測定を行った。
【0032】
【表4】

【0033】
[試験例2]抗アレルギー活性の測定
TVEA−d(実施例1)をサンプルとして、以下の要領で抗アレルギー活性の測定を行った。即ち、抗アレルギー試験のモデルとしてRBL−2H3細胞を用いたβ−ヘキソサミニダーゼの放出抑制試験及び炎症性サイトカインであるTNF−α産生阻害試験を行った。
【0034】
なお、比較例として、セレフォラ ヴァイアリスの乾燥子実体から分離したTVEA−c(比較例1)及びTVEB−e(比較例2)並びに免疫抑制剤として利用されているFK−506(比較例5)及びスタウロスポリン(比較例6)を用い、下記の要領で抗アレルギー活性の測定を行った。
【0035】
(1)β−ヘキソサミニダーゼの放出抑制試験
RBL−2H3細胞を抗DNP−IgE抗体で感作させ、2.0×105個/mLになるように 24-wellプレートに播種し、37℃で24時間培養した。各wellを洗浄後、試料を添加して15分間37℃で保持した。その後、DNP-BSAを加え37℃で3時間反応させた。各wellの培養上清を回収し、脱顆粒時に細胞内から放出されるβ−ヘキソサミニダーゼの遊離量から脱顆粒の抑制率を求めた。結果を表5に示す。
【0036】
(2)TNF−α産生阻害試験
(1)で得られた培養上清を用い、この培養上清中に放出されたTNF-αをRat TNF-α Immunoassay kit (Biosource社)を用いてELISA法(酵素免疫測定法)にて測定した。結果を表5に示す。
【0037】
【表5】

【0038】
(3)抗アレルギー活性の抑制経路特定試験
TVEA−d(実施例1)をサンプルとして、以下の要領で抗アレルギー活性の抑制経路の特定を行った。
【0039】
2.0×105個/mLになるように調整したRBL−2H3細胞を 24-wellプレートに播種し、37℃で24時間培養した。各wellを洗浄後、試料を添加して15分間37℃で保持した。その後、プロテインキナーゼCの活性化剤であるTPA(12-o-tetradecanoylphorbol-13-acetate phorbol ester)及びカルシウムイオノフォアーの一種であるDTBHQ(2,5-di-tert-butyl-1,4-hydroquinone)を加え37℃で3時間反応させた。各wellの培養上清を回収し、脱顆粒時に細胞内から放出されるβ−ヘキソサミニダーゼの遊離量から脱顆粒の抑制率を求め、(1)の結果と比較した。結果を表6に示す。
【0040】
なお、比較例として、セレフォラ ヴァイアリスの乾燥子実体から分離したTVEA−c(比較例1)及びTVEB−e(比較例2)を用い、上記と同様の測定を行った。
【0041】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)にて示されるジベンゾフラン化合物。
【化1】

(R1及びR2は同時に又は各々独立して炭素数2〜10のアシル基または水素原子を示す。)
【請求項2】
請求項1記載のジベンゾフラン化合物又は薬理学的に許容される塩を有効成分とする、ラジカル消去剤。
【請求項3】
請求項1記載のジベンゾフラン化合物又は薬理学的に許容される塩を有効成分とする、β−ヘキソサミニダーゼ放出抑制剤。
【請求項4】
請求項1記載のジベンゾフラン化合物又は薬理学的に許容される塩を有効成分とする、TNF−α産生抑制剤。
【請求項5】
セレフォラ ヴァイアリスThelephora vialisをアセトンで抽出し、アセトン抽出液を得る工程と、
該アセトン抽出液を濃縮し、アセトン抽出液の濃縮液を得る工程と、
該濃縮液をpH2.0〜4.0に調整し、溶媒抽出を行い、水層と有機層に分離する工程と、
該有機層を濃縮し、中・酸性画分を得る工程と、
該中・酸性画分を分離し、得られた画分を分離精製する工程と、
を備えるジベンゾフラン化合物の製造方法。


【公開番号】特開2007−70251(P2007−70251A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−256547(P2005−256547)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年3月5日 社団法人日本農芸化学会発行の「日本農芸化学会 2005年度(平成17年度)大会講演要旨集」に発表
【出願人】(598096991)学校法人東京農業大学 (85)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】