説明

抗SARSコロナウイルス剤及び抗SARSコロナウイルス剤含有製品

【課題】抗SARSコロナウイルス作用に優れた抗SARSコロナウイルス剤及び抗SARSコロナウイルス剤含有製品を提供する。
【解決手段】本発明の抗SARSコロナウイルス剤は、水及び親水性有機溶媒のうちの少なくとも一種を主成分として含有する抽出溶媒により抽出されたグァバ抽出物、並びにアスコルビン酸類を有効成分として含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗SARSコロナウイルス作用に優れた抗SARSコロナウイルス剤及び抗SARSコロナウイルス剤含有製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
SARS(Severe Acute Respiratory Syndrome:重症急性呼吸器症候群)は、近年新規のコロナウイルスとして発見されたSARSウイルスにより引き起こされる感染症である。主な症状としては、38℃以上の発熱、咳、息切れ、呼吸困難などの呼吸器症状が挙げられる。また、下痢症状、頭痛、悪寒戦慄、食欲不振、全身倦怠感、意識混濁等の症状が見られることもある。現在、SARSに対する有効な根治的治療法は確立されておらず、対症療法が中心となっている。
【0003】
抗ウイルス剤であるリバビリンとステロイド剤の併用療法、インターフェロンα、β、γ、グリチルリチン等を用いた治療により治療効果が期待できるとの報告もある。また、ブドウやクランベリー等の天然物由来のプロアントシアニジンやカテキンがSARSコロナウイルスに対して抗ウイルス作用を発揮するという報告もある(特許文献1参照)。しかしながら、いまだその有効な治療法は確立されていない。
【特許文献1】特開2005−314316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、本研究者らによる鋭意研究の結果、グァバ抽出物及びアスコルビン酸類がSARSコロナウイルスに対して抗ウイルス作用を発揮することを見出したことに基づいてなされたものである。その目的は、抗SARSコロナウイルス作用に優れた抗SARSコロナウイルス剤及び抗SARSコロナウイルス剤含有製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために請求項1に記載の抗SARSコロナウイルス剤は、水及び親水性有機溶媒のうちの少なくとも一種を主成分として含有する抽出溶媒により抽出されたグァバ抽出物、並びにアスコルビン酸類を有効成分として含有することを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の抗SARSコロナウイルス剤は、請求項1に記載の発明において、前記グァバ抽出物は、グァバの葉又は茎由来であることを特徴とする。
請求項3に記載の抗SARSコロナウイルス剤は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、pHが5.4以下に調整されていることを特徴とする。
【0007】
請求項4に記載の抗SARSコロナウイルス剤は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発明において、さらに、水及び親水性有機溶媒のうちの少なくとも一種を主成分として含有する抽出溶媒により抽出された柿抽出物を含有することを特徴とする。
【0008】
請求項5に記載の抗SARSコロナウイルス剤含有製品は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗SARSコロナウイルス剤を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、抗SARSコロナウイルス作用に優れた抗SARSコロナウイルス剤及び抗SARSコロナウイルス剤含有製品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を具体化した一実施形態を詳細に説明する。
本実施形態の抗SARSコロナウイルス剤は、水又は親水性有機溶媒のうちの少なくとも一種を主成分として含有する抽出溶媒により抽出されたグァバ抽出物及びアスコルビン酸類を有効成分として含有する。グァバ抽出物の原料であるグァバ(Psidium Guajava Linn)は、バンジロウ又はバンザクロとも呼ばれる植物であって、フトモモ科、バンジロウ属に属する熱帯地方の常緑小高木である。グァバは、カリブ海沿岸、中央アメリカ南アメリカ北部、東南アジア等に自生するとともに、日本においては沖縄等の暖地で栽培されている。なお、本実施形態において使用されるグァバの産地は特に限定されるものではない。
【0011】
本実施形態の抗SARSコロナウイルス剤に含有されるグァバ抽出物の原料としては、特に限定されることなく、グァバの各器官やそれらの構成成分のいずれをも用いることができる。これらの各器官や構成成分は、原料として単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。ただし、抗SARSコロナウイルス作用向上の観点から、原料には、少なくとも葉又は茎が含まれていることが好ましい。こうした原料は、採取したままの状態、採取後に破砕、粉砕若しくはすり潰した状態、採取した後に乾燥させた状態、採取・乾燥後に破砕、粉砕若しくはすり潰した状態、又は採取後に破砕、粉砕若しくはすり潰し、さらに乾燥させた状態として、抽出操作を行なうことができる。なお、抽出操作の効率化の観点から、破砕した原料を用いることが好ましい。また、抗SARSコロナウイルス作用向上の観点から、生葉を原料として用いることが好ましい。
【0012】
上記原料からグァバ抽出物を抽出するための抽出溶媒としては、水及び親水性有機溶媒のうちの少なくとも一種を主成分として含有する抽出溶媒が用いられる。ここで、水及び親水性有機溶媒のうちの少なくとも一種を主成分として含有する抽出溶媒とは、溶媒中の存在割合(容量%)が最も高い成分が水又は親水性有機溶媒である溶媒を意味している。そして、溶媒中における水又は親水性有機溶媒の含有量(水及び親水性有機溶媒をともに含有する場合には両者の合計値)は、50容量%以上であることが好ましい。親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等の低級アルコール類、アセトン、酢酸エチルが挙げられる。また、抽出溶媒は、水及び各種親水性有機溶媒のうちの単独種を用いてもよいし、複数種を混合した混合溶媒を用いてもよい。なお、抽出溶媒中に、水及び親水性有機溶媒以外の溶媒が少量含有されていてもよいし、その他の添加剤、例えば、有機塩、無機塩、緩衝剤、及び乳化剤等が溶解されていてもよい。
【0013】
抽出操作は、抽出溶媒中に上記原料を所定時間浸漬させることにより行なわれる。その際、抽出溶媒は、原料に対して浴比2〜100、好ましくは5〜50、より好ましくは20〜40となるように添加されることが望ましい。なお、ここでいう浴比とは、原料1kgに対する抽出溶媒の容量(L)を意味する。また、必要に応じて攪拌操作、加温、加圧等の処理を行なってもよい。抽出操作時の抽出条件は、上記原料の状態や使用する抽出溶媒等によって異なるが、抽出温度が高い場合にはより短時間で抽出することが可能である。例えば、1〜2気圧の圧力下、常温では10日あれば十分にグァバ抽出物を抽出することができる。また、1〜2気圧の圧力下、50〜130℃の温度では、1〜200分間、好ましくは3〜60分間、より好ましくは5〜30分間の抽出処理によりグァバ抽出物を抽出することができる。
【0014】
そして、抽出操作の後に固液分離操作を行なうことにより、グァバ抽出液と上記原料の残渣とを分離する。こうした固液分離操作の方法としては、例えば、ろ過や遠心分離等の公知の分離法を利用することができる。得られたグァバ抽出液を、そのままの状態でグァバ抽出物として用いてもよいし、さらに濃縮・乾固処理して得られるグァバエキスをグァバ抽出物として用いてもよい。
【0015】
本実施形態の抗SARSコロナウイルス剤に含有されるアスコルビン酸類としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩及びアスコルビン酸エステルから選ばれる少なくとも一種が挙げられる。アスコルビン酸塩としては、例えば、アスコルビン酸ナトリウム塩、アスコルビン酸カリウム塩、アスコルビン酸カルシウム塩が挙げられる。また、アスコルビン酸エステルとしては、アスコルビン酸リン酸エステル、アスコルビン酸ステアリン酸エステルが挙げられる。本実施形態の抗SARSコロナウイルス剤において、アスコルビン酸類はグァバ抽出物(乾燥質量)に対して、質量比で1:0.05〜1:5の割合で配合されていることが好ましく、1:0.1〜1:2の割合で配合されていることがより好ましい。
【0016】
また、本実施形態の抗SARSコロナウイルス剤には、好ましくは植物素材由来の抽出物が配合されている。この植物素材としては、例えば、ブルーベリー、クランベリー、エルダーベリー等のベリー類、カシス、ブドウ、柿、茶葉、ウコン、シソ、オオバギ、ホップ、プロポリスが挙げられる。これらの植物素材の中でも、抗SARSコロナウイルス作用の促進作用向上の観点から、柿由来の抽出物を用いることが好ましい。なお、これらの植物素材由来の抽出物は、グァバ抽出物と同様の方法にて得ることができる。
【0017】
また、本実施形態の抗SARSコロナウイルス剤は、好ましくはそのpHが規定値以下となるように調整されている。抗SARSコロナウイルス剤のpHは、抗SARSコロナウイルス作用の作用亢進の観点から、5.4以下であることが好ましく、4.5以下であることがより好ましい。また、pHの下限については特に限定されるものではないが、調整の容易性の観点からpH2.0以上であることが好ましい。なお、pHの調整は有機酸を添加することにより行なわれる。このような有機酸としては、例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸が挙げられる。また、これらの有機酸を含有する果汁類(例えば、柑橘類、梅類、ベリー類、リンゴ及びブドウ由来の果汁)や食酢類(例えば、穀物酢及び果実酢)を用いてもよい。
【0018】
本実施形態の抗SARSコロナウイルス剤は、抗SARSコロナウイルス作用の発揮を目的とする製品に適用して使用することができる。こうした抗SARSコロナウイルス剤含有製品としては、例えば、医療用剤(薬剤を含む)、洗浄剤、化粧品、医療用機器、衛生材料、衛生用の製品及び飲食品等が挙げられる。上記医療用剤としては、例えば、医薬品が挙げられる。上記洗浄剤としては、例えば、洗濯用柔軟剤、洗濯用漂白剤、石鹸、入浴剤、洗剤、シャンプー、歯磨き粉等が挙げられる。上記化粧品としては、例えば、洗顔石鹸、ハンドソープ、ハンドクリーム、香水、化粧水、乳液、美容液、美容クリーム、口紅、リップクリーム、おしろい等が挙げられる。上記医療用機器としては、例えば、マスク、包帯、ガーゼ、手袋、絆創膏、綿球、診断用機械器具、手術用機械器具、治療用機械器具、病院用機械器具、歯科用機械器具、医療用の補助器具、矯正器具等が挙げられる。上記衛生材料としては、例えば、ガーゼ、脱脂綿、不織布、綿棒等が挙げられる。上記衛生用の製品としては、例えば、加湿器、エアコン、空気清浄機等が上げられる。上記飲食品としては、例えば、健康飲料、健康食品が挙げられる。なお、うがい薬やのど飴、のどスプレー、薬用石鹸、消毒液等の医薬部外品は、上記医療用剤又は上記化粧品に含まれるものとする。
【0019】
本実施形態の抗SARSコロナウイルス剤を医薬品や医薬部外品に適用して使用する場合には、服用(経口摂取)により投与する場合の他、血管内投与、経皮投与等のあらゆる投与方法、皮膚や物品等へ塗布する方法を採用することが可能である。剤形としては、特に限定されないが、例えば、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、液剤、注射剤、塗布剤等が挙げられる。また、本発明の目的を損なわない範囲において、添加剤としての賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等を配合してもよい。
【0020】
本実施形態の抗SARSコロナウイルス剤を飲食品に適用して使用する場合には、種々の食品素材又は飲料品素材に添加することによって、例えば、粉末状、錠剤状、顆粒状、液状(ドリンク剤等)、カプセル状、シロップ、キャンディー等の形状に加工して健康食品製剤、栄養補助食品等として使用することができる。上記の飲食品としては、具体的にはスポーツドリンク、茶葉やハーブなどから抽出した茶類飲料、牛乳やヨーグルト等の乳製品、ペクチンやカラギーナン等のゲル化剤含有食品、ハードキャンディやソフトキャンディ、グミ等のキャンディー類、チューイングガム、グルコースやショ糖、果糖、乳糖、デキストリン等の糖類、香料、ステビアやアスパルテーム、糖アルコール等の甘味料、植物性油脂及び動物性油脂等の油脂等を含有する飲料品や食料品が挙げられる。また、本発明の目的を損なわない範囲において、基材、賦形剤、添加剤、副素材、増量剤等を適宜添加してもよい。
【0021】
次に本実施形態における作用効果について、以下に記載する。
(1)本実施形態の抗SARSコロナウイルス剤は、水又は親水性有機溶媒のうちの少なくとも一種を主成分として含有する抽出溶媒により抽出されたグァバ抽出物及びアスコルビン酸類を有効成分として含有している。これにより、SARSコロナウイルスの過剰な増殖を抑制することができ、優れた抗SARSコロナウイルスを発揮する。
【0022】
(2)本実施形態の抗SARSコロナウイルス剤は、好ましくは植物素材由来の抽出物が配合されている。これにより、抗SARSコロナウイルス剤の抗SARSコロナウイルス作用をより高めることができる。
【0023】
(3)本実施形態の抗SARSコロナウイルス剤は、好ましくはそのpHが5.4以下に調整されている。これにより、抗SARSコロナウイルス剤の抗SARSコロナウイルス作用をより高めることができる。
【0024】
(4)本実施形態の抗SARSコロナウイルス剤に含有されるグァバ抽出物は、天然物由来であるため、安全性が高く、医薬品、飲食品に容易に適用することができる。
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
【0025】
・ 本実施形態の抗SARSコロナウイルス剤を、例えば馬、牛等のヒト以外の動物に使用してもよい。
・ 本実施形態の抗SARSコロナウイルス剤は、感染又は発病した患者に治療剤として適用することができるのみならず、健常者が感染の予防のために使用することもできる。
【実施例】
【0026】
次に、各試験例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
<原料に関する試験>
(試験例1〜6の調製)
まず、予備試験としてグァバの各部位別の抗SARSコロナウイルス作用について評価した。グァバを果実、種子、根、茎、葉(茶葉)に分離し、これらを原料(100g)として抽出処理を行なった。固液分離処理を行ない、得られた抽出液を濃縮乾固することにより粉末状の抽出物を得た。得られた各抽出物をPBS(−)に溶解し、これらを試験例1〜6とした。各部位毎における抽出処理時の抽出条件及び各抽出物の収量を下記表1に示す。
【0027】
(治療効果に関する試験)
次に、試験例1〜6について、その抗SARSコロナウイルス作用(治療効果)を評価した。
【0028】
まず、SARS−CoV(ヒト分離フランクフルトFFM−1株)ストック液(108PFU/ml)を1%BSA含有リン酸緩衝液(Mg2+、Ca2+非含有:PBS(−)、pH7.0)で希釈して、103PFU/mlのウイルス液を調製した。
【0029】
次に、MEM−10%FBS培地を用いてVero細胞(アフリカミドリザル腎細胞由来)を6穴培養プレートに培養した。Vero細胞が70〜80%単層形成したところで、上記ウイルス液200μlを各セルに添加して、SARS−CoVをVero細胞に接種した。22℃にて1時間感染させた後、試験例1〜6をそれぞれ所定の濃度(目的とする処理濃度の2倍)に希釈した試料溶液200μlを各セルに添加し、22℃にて1時間処理した。
【0030】
処理後、各セルに0.9%メチルセルロース含有D−MEM培地(非動化5%FBS、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン)を重層した。37℃にて6〜7日間培養した後、培地を取り除くとともにPBSで洗浄し、2.5%クリスタルバイオレット液(30%エタノール、1%シュウ酸アンモニウム含有)にて、細胞の固定及び染色を行なった。その後、PBS(−)で洗浄するとともにUVを照射し、各セル中に形成されたプラーク数を測定した。そして、得られえた測定データに基づいて、試験例1〜6のそれぞれについて、プラーク数を50%減少させる濃度(50%阻害濃度:IC50)を算出した。また、抽出物の収量及び治療効果としてのIC50値から、IC50を示す試料溶液1lを作成するために必要な原料量(原料換算値)を算出した。それらの結果を下記表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
試験例1〜5の治療効果及び原料換算値から、葉>茎>>種子>根=果実の順で効率よく有効成分を抽出できることが確認された。この結果から、茎及び葉が原料として好適であることが確認された。また、試験例5及び6の結果から、乾燥状態よりも生の状態の方が原料として好適であることが確認された。さらに、データは示していないが、抽出条件として熱水抽出を用いた場合に治療効果が増大した。
【0033】
<抗SARSコロナウイルス作用に関する試験>
(抗SARSコロナウイルス剤の調製)
グァバの乾燥茶葉を浴比30、95℃、8分間の条件で熱水にて抽出処理を行なった後、固液分離処理を行なうことによりグァバ抽出液を得た。また、同様に、柿の葉茶葉(乾燥)に対して抽出・分離処理を行ない、柿の葉抽出液を得た。本試験では、グァバ抽出液及び柿の葉抽出液をそれぞれグァバ抽出物及び柿抽出物として用いた。そして、上記グァバ抽出物、上記柿抽出物及びアスコルビン酸を下記表1に示す割合となるように混合するとともに、そのpHを下記表2に示す値となるように調整した。pHの調整は無水クエン酸及び重曹を適宜加えることにより行なった。このものを95℃にて加熱殺菌して実施例1〜7を得た。また、上記グァバ抽出物のみを含有するものを調製し、これを比較例1として用いた。
【0034】
(治療効果に関する試験)
SARSウイルスに対する抗SARSコロナウイルス剤の治療効果を評価した。
治療効果の評価は、上記原料に関する試験(治療効果に関する試験)と同様の方法により行なった。なお、試料溶液は、実施例1〜7及び比較例1をそれぞれ2×n倍(nは目的とする希釈倍率)に希釈した溶液を使用した。そして、得られえた測定データに基づいて、実施例1〜7及び比較例1のそれぞれについて、プラーク数を50%減少させる濃度(50%阻害濃度:IC50)を算出した。その結果を下記表2に示す。
【0035】
(予防効果に関する試験)
SARSウイルスに対する抗SARSコロナウイルス剤の予防効果を評価した。
まず、SARS−CoV(ヒト分離フランクフルトFFM−1株)ストック液(10PFU/ml)を1%BSA含有リン酸緩衝液(Mg2+、Ca2+非含有:PBS(−)、pH7.0)で希釈して、2×10PFU/mlのウイルス液を調製した。
【0036】
次に、MEM−10%FBS培地を用いてVero細胞を6穴培養プレートに培養した。また、実施例1〜6及び比較例1をそれぞれ2×n倍(nは目的とする希釈倍率)に希釈した試料溶液と上記ウイルス液とを1:1の割合で混合した混合溶液を調製し、これを氷上にて1時間処理した。そして、Vero細胞が70〜80%単層形成したところで、上記混合溶液200μlを各セルに添加して、SARS−CoVをVero細胞に接種した。
【0037】
22℃にて1時間感染させた後、各セルに0.9%メチルセルロース含有D−MEM培地(非動化5%FBS、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン)を重層した。37℃にて6〜7日間培養した後、培地を取り除くとともにPBSで洗浄し、2.5%クリスタルバイオレット液(30%エタノール、1%シュウ酸アンモニウム含有)にて、細胞の固定及び染色を行なった。その後、PBS(−)で洗浄するとともにUVを照射し、各セル中に形成されたプラーク数を測定した。そして、得られえた測定データに基づいて、実施例1〜6及び比較例1のそれぞれについて、プラーク数を100%減少させる濃度(100%阻害濃度:IC100)を算出した。その結果を下記表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
表2に示されるように、グァバ抽出物のみを含有する比較例1と比較して、グァバ抽出物及びアスコルビン酸を含有する実施例1〜6は3倍以上の高い治療効果及び予防効果を示した。そして、その各効果はグァバ抽出物及びアスコルビン酸の濃度依存的に変化することが確認された(実施例1〜6参照)。また、本発明の抗SARSコロナウイルス剤は、そのpHを低くすることによって治療効果及び予防効果がより向上することが確認された。(実施例1、5及び6参照)。
【0040】
なお、表2には示していないが、グァバ抽出物を含有しないアスコルビン酸からなる試料溶液について、上記と同様にSARSコロナウイルスに対する治療効果及び予防効果を評価した。その結果、アスコルビン酸の濃度を300μMとした場合にも抗SARSコロナウイルス活性を示さなかった(実施例1の15倍希釈溶液におけるアスコルビン酸濃度は150μMである。)。
【0041】
さらに、グァバ抽出物及びアスコルビン酸に加えて柿抽出物を含有する実施例7は、グァバ抽出物及びアスコルビン酸を含有する実施例1よりも高い治療効果を示した。柿抽出物単独では治療効果を示さないことから(データ不添付)、柿抽出物がグァバ抽出物及びアスコルビン酸の同治療効果を促進させているものと考えられる。
【0042】
これらの結果から、グァバ抽出物及びアスコルビン酸を含有する抗SARSコロナウイルス剤は、SARSコロナウイルスの感染前・感染後のいずれにおいても高い抗SARSコロナウイルス活性を示すことが確認された。また、抗SARSコロナウイルス活性の観点から、グァバ抽出物、アスコルビン酸及び柿抽出物を組み合わせて配合する、又はpHを低くすることが有効であることが確認された。
【0043】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について記載する。
○ 前記グァバ抽出物は、グァバの生葉を原料として50℃以上の熱水又は親水性有機溶媒により抽出されたものであることを特徴とする抗SARSコロナウイルス剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水及び親水性有機溶媒のうちの少なくとも一種を主成分として含有する抽出溶媒により抽出されたグァバ抽出物、並びにアスコルビン酸類を有効成分として含有することを特徴とする抗SARSコロナウイルス剤。
【請求項2】
前記グァバ抽出物は、グァバの葉又は茎由来であることを特徴とする請求項1に記載の抗SARSコロナウイルス剤。
【請求項3】
pHが5.4以下に調整されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の抗SARSコロナウイルス剤。
【請求項4】
さらに、水及び親水性有機溶媒のうちの少なくとも一種を主成分として含有する抽出溶媒により抽出された柿抽出物を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の抗SARSコロナウイルス剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗SARSコロナウイルス剤を含有することを特徴とする抗SARSコロナウイルス剤含有製品。

【公開番号】特開2010−90066(P2010−90066A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262200(P2008−262200)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(308009277)株式会社ポッカコーポレーション (31)
【Fターム(参考)】