説明

折板屋根の支持具

【課題】サドルに抱持された吊子を摺動させることにより折板の熱伸縮を吸収する屋根構造において、母屋の上面が屋根勾配に合わせて傾斜していない場合でも、サドル及び吊子の傾きを、任意の屋根勾配に対して容易に合致させることのできる支持具を提供する。
【解決手段】折板屋根のハゼ継ぎ部に挟着される吊子30と、吊子30の底部31を抱持して吊子30を屋根勾配方向に摺動させるサドル60と、サドル60の下部に連結されてサドル60及び吊子30を母屋1その他の屋根下地上に保持する脚部80とによって支持具70を構成する。脚部80の上部近傍に設けた水平方向のボルト部材84を介して、サドル60を、脚部80に対し回動自在に連結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の折板屋根を母屋等の屋根下地上に葺設するに際し、屋根下地に固定されて屋根材を支持する支持具に関する。
【背景技術】
【0002】
工場、倉庫、体育館などの大空間建築物や簡易な構造の小規模建築物に好適な屋根葺き構造として、金属製の折板屋根材(以下、単に「折板」という。)をハゼ継ぎして葺設する、いわゆるボルトレス式の折板屋根が広く普及している。かかる折板屋根の基本的な構造は、図4に示すように、母屋1等からなる屋根下地の上面に略台形状のタイトフレーム2を所定間隔で固定し、タイトフレーム2の頂部には吊子3を取り付け、幅方向の中央に底面部41を有する断面略谷形の折板4をタイトフレーム2の山谷形状に合わせて載置し、隣り合う折板4の側端縁に吊子3の頂部を挟み込んでハゼ継ぎするものである。排水のための屋根勾配は、折板4の長手方向(紙面に直交する方向)に沿って設けられる。
【0003】
こうして葺設される折板屋根は、激しい外気温変化や太陽輻射熱、風雨などの外的熱要因に曝されて長手方向に伸縮しようとする。そのストレスや摩擦力が蓄積されると、折板4は波うつように変形し、バックリングと呼ばれる爆烈音を発生させる。また、伸縮の繰り返しによる荷重が蓄積されると、吊子3を固定しているボルト・ナット等の締結具5が緩んだり、破損したり、最悪の場合は折板4の飛散に至る可能性もある。かかる問題は、折板4の長さが大きくなればなるほど深刻になる。
【0004】
そこで、特許文献1〜3等には、このような折板屋根の熱伸縮を吸収する屋根支持構造が開示されている。その屋根支持構造は、図5に示すように、吊子30の底部31が断面逆T字状に形成され、この底部31が、断面逆T字状の溝部61を有するサドル60によって両側から抱持されるものである。吊子30は、折板4の熱伸縮に追随してサドル60の溝部61内を勾配方向に摺動し、これによって折板4のストレスが開放される。吊子30の摺動を円滑にするため、溝部61の内側には高潤滑性樹脂材料からなるライナー材62が介装されている。
【特許文献1】特開平9−328869号公報
【特許文献2】特開平11−141061号公報
【特許文献3】特開2000−248691号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
吊子30が摺動して折板4の熱伸縮を吸収する上記の屋根支持構造においても、吊子30及びサドル60を支持するタイトフレーム2は、母屋1等からなる屋根下地上に固定される。ここで、図6(a)に示すように、母屋1等の上面が屋根勾配に合わせて傾斜している場合は、母屋1の上面に対して直立するようにタイトフレーム2を取り付けることにより、サドル60及び吊子30の傾き(吊子の摺動方向)を支障なく屋根勾配に合致させることができる。
【0006】
しかしながら、設計上または施工上の事情によっては、図6(b)に示すように、母屋1が傾斜しない状態で架設される場合がある。この場合、母屋1の上面は水平になるから、ここに従来のような形態でタイトフレーム2を取り付けても、サドル60及び吊子30の傾きを屋根勾配に合致させることができない。
【0007】
そこで、本発明は、サドルに抱持された吊子を摺動させることにより折板の熱伸縮を吸収する屋根構造において、母屋の上面が屋根勾配に合わせて傾斜していない場合であっても、サドル及び吊子の傾きを、任意の屋根勾配に対して容易に合致させることのできる支持具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するため、本発明の折板屋根の支持具は、折板屋根のハゼ継ぎ部に挟着される吊子と、上記吊子の底部を抱持して吊子を屋根勾配方向に摺動させるサドルと、上記サドルの下部に連結されてサドル及び吊子を母屋その他の屋根下地上に保持する脚部とからなり、上記サドルが、上記脚部の上部近傍に設けられた水平方向の軸部材を介して脚部に対し回動自在に連結されることにより、吊子の摺動方向が屋根勾配に応じて変更可能となされたものとして特徴づけられる。
【0009】
この構成により、母屋等の屋根下地の上面が屋根勾配に合わせて傾斜している場合、及び傾斜していない場合のいずれであっても、サドル及び吊子の向きを任意に傾倒させて屋根勾配に合致させることができる。サドルと脚部とは、脚部の上部近傍、つまり屋根下地よりも屋根面に近い位置で連結されるので、折板屋根が伸縮するときに吊子が円滑に追従しやすい。
【0010】
さらに、本発明の支持具は、上記脚部が、底板部と起立板部とからなる略L字状の脚部半体を対にして構成され、サドルの底部に突設された垂下板部が上記脚部の両起立板部間に挟持されて、これら垂下板部及び両起立板部を貫通するボルト部材により脚部とサドルとが連結されたものとして特徴づけられる。
【0011】
この構成によれば、支持具全体の構造が簡素になって安価に製作することができ、組立てや屋根下地への固定も容易である。また、軸部材にボルト部材を用いて締結すれば、サドル及び吊子の傾きを簡単に固定することができ、かつ、締結作業が一箇所ですむため施工性にも優れる。
【0012】
本発明の支持具におけるサドル及び吊子の構成については、吊子の底部が縦断面逆T字状に形成されるとともに、サドルには上方に開口する縦断面逆T字状の溝部が設けられ、この溝部内に吊子の底部が抱持されたものとすることができる。かかる断面形態を採用すれば、折板の熱伸縮や風圧によって吊子に強い外力が作用しても、吊子を強固かつ安定的に保持することができる。
【0013】
さらに、サドルは、断面コ字状または横U字状のサドル半体を対にして構成されたものとすることができる。かかる構成は、製作コストの削減や組立て作業の効率化に有利である。
【0014】
また、サドルの溝部の内側に高潤滑性樹脂材料からなるライナー材を介装することにより、吊子をさらに円滑に摺動させることができる。
【発明の効果】
【0015】
上述のように構成される本発明の折板屋根の支持具は、該支持具を取り付ける母屋その他の屋根下地の上面が屋根勾配に合わせて傾斜していない場合であっても、サドル及び吊子の傾きを、任意の屋根勾配に対して容易に合致させ、長期にわたって安定的に吊子の摺動を担保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は本発明の実施形態に係る折板屋根の支持具の全体構成を示す斜視図であり、図2は該支持具の正面図、図3は該支持具の側面図である。なお、図5に示した従来の屋根支持構造と共通または相応する構成要素には共通の符号を付す。
【0017】
支持具70は、母屋1その他の屋根下地に固定される脚部80と、脚部80の上部に連結されるサドル60と、サドル60に抱持される吊子30とによって構成される。
【0018】
脚部80は、鋼材等からなる部材で、従来のタイトフレーム2(図5)に代わるものである。脚部80は、底板部81と起立板部82とからなる略L字状の脚部半体83を対にして構成される。脚部半体83の底板部81は、母屋1等の長さ方向に沿って母屋1等の上面に配置され、溶接またはボルト・ナット等の固着具を介して固定される。脚部半体83の起立板部82は、互いに相対して母屋1等の上面に対し略垂直に立ち上がる。両起立板部82の上部には、ボルト部材84等からなる軸部材が、母屋1と平行するように水平方向に取り付けられており、このボルト部材84にサドル60が連結される。
【0019】
サドル60は、鋼材等からなるサドル半体63を対にして、その内側にライナー材62を介装した構造を有している。例示のサドル半体63は、断面横U字状をなし、その底部から下向きに突設する垂下板部64を備えている。両サドル半体63の垂下板部64は、互いに重ね合わされた状態で脚部80の両起立板部82間に挟持され、これら両垂下板部64及び両起立板部82を貫通するボルト部材84によって連結される。これにより、サドル60は、図3に示すように、母屋1と直交する鉛直面内を自由に回動することができる。さらに、起立板部82の一方にはボルト部材84に螺合する雌ネジがタッピングされており、ボルト部材84を締着すればサドル60の角度が固定される。
【0020】
両サドル半体63の間に挟み込まれるライナー材62は、例えば、ポリオレフィン、ポリアセタール、フッ素樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ABS樹脂、ポリカーボネート、フェノール樹脂等の高潤滑性樹脂材料により成形されている。ライナー材62には、前後方向に貫通し、かつ上方に開口する縦断面逆T字状の溝部61が形成され、溝部61の開口縁部64はサドル半体63の上面に張り出している。
【0021】
吊子30は、図5に示した従来のものと同様に、鋼板を折曲加工して形成された部材で、直立部分の頂部32が、折板4のハゼ締め部に挟着される。底部31は左右に張り出して、断面逆T字状をなしている。吊子30の長さはサドル60の長さの概ね2倍〜4倍に形成され、底部31がサドル60の溝部61内に抱持されて前後方向に摺動する。底部31の前後方向両端には、サドル60からの抜け出しを防ぐための折曲片33が設けられている。
【0022】
このように、本発明の支持具70は、サドル60及び吊子30を保持する脚部80の上部に、サドル60の傾きを調整する機構を設けたものである。したがって、母屋1の角度が図6(a)、(b)のいずれのような状態であっても、吊子30の摺動方向を任意の屋根勾配に応じて合致させることができる。サドル60と脚部80とは、脚部80の上部、つまり折板4に近い位置に配置された軸部材を介して連結されるので、折板4が伸縮する際の吊子30の追従も、脚部80の下部近傍に連結箇所を設ける場合に比べて、より円滑に行われる。また、サドル60と脚部80とを連結する軸部材は1本で足りるから、全体の構造が簡素になり、安価に製作することができるとともに、組立てや屋根下地への固定作業、傾きの調整作業も容易である。これにより、吊子30を摺動させて熱伸縮を吸収する構造の折板屋根を、従来よりも好適に実施することができる。なお、本発明は、例示の実施形態に限定されず、同様の作用をなす類似の機構を利用しても実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る折板屋根の支持具の全体構成を示す斜視図である。
【図2】上記支持具を屋根勾配方向から見た正面図である。
【図3】上記支持具の側面図である。
【図4】従来の折板屋根の基本的な構造を示す縦断面図である。
【図5】従来の、折板屋根の熱伸縮を吸収する屋根支持構造に用いられるサドル及び吊子の斜視図である。
【図6】図5の屋根支持構造における問題点を示す説明図である。
【符号の説明】
【0024】
1 母屋
30 吊子
31 底部
4 折板
60 サドル
61 溝部
62 ライナー材
63 サドル半体
64 垂下板部
70 支持具
80 脚部
81 底板部
82 起立板部
83 脚部半体
84 ボルト部材(軸部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
折板屋根のハゼ継ぎ部に挟着される吊子と、
上記吊子の底部を抱持して吊子を屋根勾配方向に摺動させるサドルと、
上記サドルの下部に連結されてサドル及び吊子を母屋その他の屋根下地上に保持する脚部とからなり、
上記サドルが、上記脚部の上部近傍に設けられた水平方向の軸部材を介して脚部に対し回動自在に連結されることにより、吊子の摺動方向が屋根勾配に応じて変更可能となされたことを特徴とする折板屋根の支持具。
【請求項2】
請求項1に記載の折板屋根の支持具において、
脚部は、底板部と起立板部とからなる略L字状の脚部半体を対にして構成され、サドルの底部に突設された垂下板部が上記脚部の両起立板部間に挟持されて、これら垂下板部及び両起立板部を貫通するボルト部材により脚部とサドルとが連結されたことを特徴とする折板屋根の支持具。
【請求項3】
請求項1または2に記載の折板屋根の支持具において、
吊子の底部が縦断面逆T字状に形成されるとともに、サドルには上方に開口する縦断面逆T字状の溝部が設けられ、この溝部内に吊子の底部が抱持されたことを特徴とする折板屋根の支持具。
【請求項4】
請求項3に記載の折板屋根の支持具において、
サドルは、断面コ字状または横U字状のサドル半体を対にして構成されたことを特徴とする折板屋根の支持具。
【請求項5】
請求項3または4に記載の折板屋根の支持具において、
サドルの溝部の内側に高潤滑性樹脂材料からなるライナー材が介装されたことを特徴とする折板屋根の支持具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−231822(P2008−231822A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74572(P2007−74572)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000207436)日鉄住金鋼板株式会社 (178)
【Fターム(参考)】