説明

折箱用ポリスチレン系樹脂発泡シート及び折箱

【課題】シートの表層部だけを残してV溝加工した際に、その表層部だけでコーナー部の繰り返し屈曲動作に耐えることができる、開閉可能な折箱用ポリスチレン系樹脂発泡シートとその製造方法及び折箱の提供。
【解決手段】V溝加工した際に残されるシート表層部の引張強度が6.5〜9.0MPaの範囲内であり、該シート表層部の破断点伸度が4.25〜5.10%の範囲であり、かつシート表層部の密度が0.13〜0.17g/cmの範囲内であり、V溝加工を施す面とは反対側のシート表層面の表面硬度が65〜76の範囲内であることを特徴とする折箱用ポリスチレン系樹脂発泡シート。該シートの折箱組立時のコーナー部に相当するラインに沿って、シート表層部0.05〜0.2mmを残してV溝Bが設けられ、該V溝を折り曲げることで箱状に組み立てられてなることを特徴とする折箱。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品などの包装に用いる折箱と折箱用ポリスチレン系樹脂発泡シートに関し、特にV溝加工後に残ったシート表層部の繰り返し屈曲動作耐久性を向上せしめ、開閉可能な折箱を提供し得る折箱用ポリスチレン系樹脂発泡シート及び開閉可能な折箱に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、折箱としては、略四角形状の底板の相対向する二辺に側板がそれぞれ連設される一方、上記底板の相対向する他の二辺に妻板がそれぞれ設けられ、上記側板のいずれか一方における底板が連設されている辺に対向する辺に天板が連設され、上記底板、各側板、各妻板及び天板が発泡樹脂製板状体からなり、上記底板と各側板との連接部、および、上記側板と天板との連接部にヒンジ部がそれぞれ形成され、上記底板と各妻板との接続部に回動部が形成されると共に、上記各側板が底板に対して略垂直のとき、これら各側板の両端部が、底板に対して略垂直の上記各妻板にそれぞれ当接する組立箱であって、上記各妻板の側板端部との当接面に凸部が設けられ、その凸部と挿脱自在に嵌合する凹部が上記各側板の両端部に形成されると共に、上記妻板が底板に対して略垂直の状態から内側に倒れ込んで底板に略当接する状態までの間で回動自在となように上記回動部が形成されていることを特徴とする組立箱が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
折箱用のスチレン系樹脂押出発泡シートとしては、密度が0.05〜0.2g/cm、厚みが2〜10mmのスチレン系樹脂押出発泡シートであって、静的熱機械測定による少なくとも片面表層部の押出方向の最大収縮率が3%以上、シートの他方の片面からシート厚みの0.5mmを残して角度90°のVカットを入れた時のシートの引っ張り破断強さが14kgf/5cm(5.7MPa)以上であり、且つ上記Vカット面の表面硬度が70以下であることを特徴とするスチレン系樹脂押出発泡シートが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
スチレン系発泡樹脂シートからなる容器形成用の周側枠材としては、容器の底板形状に沿わせて折曲形成できる周側枠材であって、ポリスチレン系発泡シートにて形成されてあり、当該シートは、厚み方向にほぼ4等分し、厚みの中心部のほぼ1/2の厚みの気泡形状が、1.05≦MD/VD≦1.8、1.0≦TD/VD≦1.8、0.85≦MD/TD≦1.2を充足し、且つ両面からのそれぞれの厚みのほぼ1/4の厚みの気泡形状が、1.4≦MD/VD≦2.5、1.3≦TD/VD≦2.2、0.9≦MD/TD≦1.8(ただし、MDは押出流れ方向の気泡形状、TDはMDと直角方向の気泡形状、VDは厚み方向の気泡形状を意味する。)を満足し、前記1/2の厚みの気泡の大きさが前記1/4の表面側の気泡に比し、大きいことを特徴とする容器形成用の周側枠材が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0005】
また、帯状の合成樹脂発泡体シートに設けられているコーナー形成部の溝が、複数本の平行V字形状であることを特徴とする折箱用発泡体シート及びこの折箱用発泡体シートと底板とからなることを特徴とする折箱が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平6−37130号公報
【特許文献2】特許第3243332号公報
【特許文献3】特許第3234146号公報
【特許文献4】実開平5−3123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
折箱用途に使用されるポリスチレン系樹脂発泡シートは、折箱を組み立てるため各コーナー部を柔軟に屈曲させる必要があるが、ポリスチレン系樹脂発泡シートにおける強度の弱さおよびその屈曲性の悪さにより、コーナー部にシャープなV溝加工を施すと、屈曲部において割れが発生する可能性がある。従来、この割れを防ぐため、複数の溝加工を設ける等(特許文献4参照。)折箱コーナー部の形状を工夫したり、ポリスチレン系樹脂発泡シートにポリスチレンフィルムを接着することにより、表層強度を向上させることで、V溝加工による折箱の作製を可能としてきた。
最近では、折箱用ポリスチレン系樹脂発泡シートを一度屈曲させて折箱を形成した後、その形状を保持するだけでなく、V溝加工部分を0.2mm以下の厚さで残して開閉可能な箱として使用することが検討されている。しかし、前述した特許文献1〜4に記載された従来技術による折箱用ポリスチレン系樹脂発泡シート及び折箱は、開閉可能な箱を得るには不十分であった。
【0008】
特許文献1の箱は、発泡シートのV溝加工後に残されたシート表層部が繰り返し屈曲動作により破断しやすいか、あるいは開閉の際にシート表層部が硬すぎて閉じられなかったりして、開閉可能な箱を安定的に製造することが困難である。
特許文献2のシートは、0.5mmを残したV溝部のシート引っ張り破断強さ、及びVカット面の表面硬度で使用するシートを規定しているが、数回の折り曲げにより形状を完成させる折箱ではV溝加工でわずかに表層部を残すため、そのわずかな表層部が数十回の繰り返し屈曲動作により割れを生じやすく、開閉式の折箱を提供することは難しい。
特許文献3の周側枠材は、ポリスチレン系樹脂発泡シートをの厚み方向の気泡サイズ構成による屈曲性の改良を目的としているが、V溝加工における表層部強化による屈曲性の改良には至っておらず、V溝を有する折箱に用いた場合には、コーナー部の柔軟性不足及び割れが発生する可能性がある。
特許文献4の折箱用発泡体シートは、コーナー部にシートの肉厚があるため、コーナー部の直角度が損なわれるので、シートにV溝を設けてほぼ直角に曲げる組立方式の折箱を構成するのは困難である。
【0009】
本発明は前記事情に鑑みてなされ、シートの表層部だけを残してV溝加工した際に、その表層部だけでコーナー部の繰り返し屈曲動作に耐えることができる、開閉可能な折箱用ポリスチレン系樹脂発泡シートとその製造方法及び折箱の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明は、V溝加工した際に残されるシート表層部の引張強度が6.5〜9.0MPaの範囲内であり、該シート表層部の破断点伸度が4.25〜5.10%の範囲であり、かつシート表層部の密度が0.13〜0.17g/cmの範囲内であり、V溝加工を施す面とは反対側のシート表層面の表面硬度が65〜76の範囲内であることを特徴とする折箱用ポリスチレン系樹脂発泡シートを提供する。
本発明の折箱用ポリスチレン系樹脂発泡シートにおいて、V溝加工を施す面とは反対側のシート表層面の表面硬度(H)が70<H<76の範囲内であることが好ましい。
本発明の折箱用ポリスチレン系樹脂発泡シートにおいて、シート全体の密度が0.05〜0.12g/cmの範囲内であることが好ましい。
また本発明は、前述した本発明に係る折箱用ポリスチレン系樹脂発泡シートを備え、該シートの折箱組立時のコーナー部に相当するラインに沿って、シート表層部0.05〜0.2mmを残してV溝が設けられ、該V溝を折り曲げることで箱状に組み立てられてなることを特徴とする折箱を提供する。
本発明の折箱において、箱形をなす本体部と該本体部の開口を開閉可能に塞ぐ蓋とを有する構成とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の折箱用ポリスチレン系樹脂発泡シートは、V溝加工した際に残されるシート表層部の引張強度が6.5〜9.0MPaの範囲内であり、該シート表層部の破断点伸度が4.25〜5.10%の範囲であり、かつシート表層部の密度が0.13〜0.17g/cmの範囲内であり、V溝加工を施す面とは反対側のシート表層面の表面硬度が65〜76の範囲内であるものなので、このシートにV溝加工を施した際、V溝加工で残ったシート表層部だけでコーナー部を形成しても、屈曲動作、特に繰り返し屈曲動作による割れが生じ難くなり、この折箱用ポリスチレン系樹脂発泡シートにV溝加工を施して折り箱を組み立てることによって、開閉可能な折箱を提供することができる。
また、シート表層部だけでシャープに形成されたコーナー部を持った折箱が作製可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のシートの一例を示す側面図である。
【図2】本発明のシートの製造に用いる押出機を例示する構成図である。
【図3】本発明に係る折箱の一実施形態を示す斜視図である。
【図4】組み立て前の折箱を示す斜視図である。
【図5】組み立て前の折箱を示す平面図である。
【図6】折箱への組み立て過程のうち妻板を立てた状態を示す斜視図である。
【図7】蓋を開いた折箱を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明に係る折箱用ポリスチレン系樹脂発泡シート(以下、シートと略記する)の一例を示す図であり、図1(a)はV溝加工したシートを示す側面図、(b)はこのシートを折り曲げた状態を示す側面図である。図1中、符号Aはシート、BはV溝、Cはシート表層部である。このシートAは、ポリスチレン系樹脂発泡体からなり、V溝加工した際に残されるシート表層部Cの引張強度が6.5〜9.0MPaの範囲内であり、かつシート表層部の密度が0.13〜0.17g/cmの範囲内であることを特徴としている。
【0014】
本発明のシートAを構成するポリスチレン系樹脂としては、通常発泡体とし得るもので、且つ剛性のある発泡体となし得るものであればいかなるものも使用できる。その例としてはスチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ジメチルスチレン、パラメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレンの単独重合体又は無水マレイン酸、アクリル酸、ブタジエン等との共重合体が使用できる。中でもポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、耐衝撃性ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体が好適に使用される。
【0015】
前記ポリスチレン系樹脂を発泡するために発泡剤が使用される。かかる発泡剤としては、二酸化窒素、炭酸ガス、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、n−ペンタン、i−ペンタン、及びこれらの2種以上混合して使用される。本発明のシートAを製造する際、ポリスチレン系樹脂に上記発泡剤を加えて発泡させるために 押出機が使用される。押出機のスクリューは単軸であってもよく2軸であってもよい。また、例えば内径90mmのものと、内径150mmのものとを2連繋いだ構成で使用できる。2連繋いだ構成の押出機はポリスチレン系樹脂と発泡剤との混練性が良く、発泡性に優れるために好んで使用される。
【0016】
図2は、本発明のシートAを製造するための押出機の一例を示す図である。この押出機Dには、樹脂流れ方向上流側に原料樹脂を押出機D内に供給するホッパーEが接続されていると共に、押出機Dの樹脂吐出端には円形の開口を持ったダイF(サーキュラーダイ)が取り付けられている。このダイFからチューブ形状に押し出された押出発泡シートHは、冷却エアー吹付け装置Gからの冷却エアーの吹き付けによって冷却される。図2中、符号T1は押出時の樹脂温度、T2はダイ先端温度を示している。
【0017】
このシートAは、V溝加工を施されて残されるシート表層部Cの引張強度が6.5〜9.0MPaの範囲内、好ましくは7.4〜8.7MPaの範囲内になっている。シート表層部Cの引張強度が前記範囲内であれば、V溝加工後にシート表層部Cからなるコーナー部を繰り返し屈曲しても、シート表層部Cに割れが生じにくくなるので、開閉可能な折箱を提供し得る。シート表層部Cの引張強度が6.5MPa未満であると、シート表層部Cの強度が弱く、V溝加工後にシート表層部Cからなるコーナー部を繰り返し屈曲すると割れを生じやすい。一方、シート表層部Cの引張強度が9.0MPaを超えると、シート表層部Cの強度が強く、V溝加工後にシート表層部Cからなるコーナー部が屈曲に対して反発し、完全に屈曲できない可能性があり、折箱の組み立てが困難になると共に、蓋を開閉する折箱の場合には蓋が閉まりにくくなる。
【0018】
またこのシートAは、シート表層部Cの密度が0.13〜0.17g/cmの範囲内、好ましくは0.14〜0.17g/cmの範囲内である。シート表層部Cの密度が0.13g/cm未満であると、シート表層部Cの強度が弱く、V溝加工後にシート表層部Cからなるコーナー部を繰り返し屈曲すると割れを生じやすい。一方、シート表層部Cの密度が0.17g/cmを超えると、シート表層部Cの強度が強く、V溝加工後にシート表層部Cからなるコーナー部が屈曲に対して反発し、完全に屈曲できない可能性があり、折箱の組み立てが困難になると共に、蓋を開閉する折箱の場合には蓋が閉まりにくくなる。
【0019】
またこのシートAは、V溝加工を施す面とは反対側のシート表層面の表面硬度が、65〜76の範囲内であることが好ましく、さらに表面硬度(H)は70<H<76の範囲内であることがより好ましい。本発明に於いて、表面硬度とは、日本ゴム協会標準規格SRISO101「膨張ゴムの物性試験」に準じて、スプリング試験機を用いて測定した値である。この表面硬度が65未満であると、シート表層部Cの強度が弱く、V溝加工後にシート表層部Cからなるコーナー部を繰り返し屈曲すると割れを生じやすい。一方、この表面硬度が76を超えると、シート表層部C強度が強く、V溝加工後にシート表層部Cからなるコーナー部が屈曲に対して反発し、完全に屈曲できない可能性があり、折箱の組み立てが困難になると共に、蓋を開閉する折箱の場合には蓋が閉まりにくくなる。
【0020】
またこのシートAは、シート全体の密度が0.05〜0.12g/cmの範囲内であることが好ましい。シート全体の密度が前記範囲内であると、V溝加工が容易で、コスト的にも有利である。シート全体の密度が0.05g/cm未満であると、シート表層部Cの強度が弱く、V溝加工後にシート表層部Cからなるコーナー部を繰り返し屈曲すると割れを生じやすい。一方、シート全体の密度が0.12g/cmを超えるとシート表層部Cの強度が強く、V溝加工後にシート表層部Cからなるコーナー部が屈曲に対して反発し、完全に屈曲できない可能性があり、折箱の組み立てが困難になると共に、蓋を開閉する折箱の場合には蓋が閉まりにくくなる。
【0021】
図1(a)に示す例示では、V溝Bを形成したコーナー部を、図1(b)に示すように直角に折り曲げるため、V溝Bの形成角度θをほぼ90°としている。しかし、このV溝Bの形成角度θは、本例示に限定されず、折箱のコーナー部の折曲角度などに応じて適宜変更可能である。
【0022】
このV溝Bは、シート表層部Cが0.05〜0.2mmの範囲内、好ましくは0.07〜0.15mmの範囲内、さらに好ましくは0.1mm±0.05mmの範囲内で残るように、シートAを研削加工して形成される。V溝加工により残されるシート表層部Cの厚さが0.05mm未満であると、このシート表層部Cが薄すぎて、シート表層部Cの強度が弱く、V溝加工後にシート表層部Cからなるコーナー部を繰り返し屈曲すると割れを生じやすい。一方、シート表層部Cの厚さが0.2mmを超えると、このシート表層部Cが厚すぎて、シート表層部Cの強度が強く、V溝加工後にシート表層部Cからなるコーナー部が屈曲に対して反発し、完全に屈曲できない可能性があり、折箱の組み立てが困難になると共に、蓋を開閉する折箱の場合には蓋が閉まりにくくなる。
【0023】
本発明のシートAは、前述した通り、V溝加工後に残すシート表層部Cの引張強度及び密度などを最適な範囲に設定したことによって、シートAにポリスチレンフィルムなどの熱可塑性フィルムを接着することなく、V溝加工後によって残るシート表層部Cの強度を向上させ、柔軟性を維持しつつ、このシート表層部Cからなるコーナー部の繰り返し屈曲動作にも耐えられる屈曲性を有している。
このシート表層部Cが弱くては、V溝加工でわずかに残されたシート表層部Cが屈曲時に割れやすくなるため、コーナー部の繰り返し屈曲動作が要求される開閉可能な折箱を提供できない。一方、シート表層部Cが強すぎると、V溝加工後に折り曲げた際、反発力が強く、完全に折り曲がらない。よって、開閉可能な折箱を提供するためには、これらを考慮に入れて最適なシート表層部Cを形成する必要がある。
【0024】
最適なシート表層部Cを形成するためには、シート製造時のダイ先端部温度T2と冷却エアー吹付け量とのバランスによりシート表層部Cの引張強度をコントロールすることにより決定される。つまり、シート表層部Cの引張強度は、ダイ先端部温度T2を下げるとシート表層部Cの発泡性が抑制され、シート表層部Cの引張強度が高くなり、同様に冷却エアー吹付け量をアップし、より強固なシート表層部Cを形成することでも、シート表層部Cの引張強度が高くなる。この両者の調整により最適なシート表層部Cを形成することができる。
【0025】
本発明のシートAは、V溝加工した際に残されるシート表層部Cの引張強度が6.5〜9.0MPaの範囲内であり、かつシート表層部Cの密度が0.13〜0.17g/cmの範囲内であるものなので、このシートAにV溝加工を施した際、V溝加工で残ったシート表層部Cだけでコーナー部を形成しても、屈曲動作、特に繰り返し屈曲動作による割れが生じ難くなり、このシートAにV溝加工を施して折り箱を組み立てることによって、開閉可能な折箱を提供することができる。
また、シート表層部Cだけでシャープに形成されたコーナー部を持った折箱が作製可能となる。
【0026】
次に、本発明に係る折箱の一実施形態を図面を参照して説明する。
図3〜7は本発明に係る折箱の一実施形態を示す図であり、図3は組み立て後の折箱Iを示す斜視図、図4は折箱Iの組み立て前の状態(あるいは折箱Iを戻した状態)を示す斜視図、図5は折り箱Iの組み立て前の状態(あるいは折箱Iを戻した状態)を示す平面図、図6は折箱への組み立て過程のうち妻板2・2を立てた状態を示す斜視図、図7は蓋4を開いた折箱Iを示す斜視図である。
【0027】
本実施形態の折箱Iは、前述した本発明に係るシートAからなっており、シートAの折箱組立時のコーナー部に相当するラインに沿って、0.05〜0.2mmの厚さでシート表層部Cを残してV溝Bを設け、該V溝Bを折り曲げることで、板厚が略等しい底板1、妻板2・2、側板3・3及び蓋4(天板)を組み立てて略直方体に形成されている。この折箱Iは、組み立て前の状態を示す図4及び図5に示すように、底板1の短手方向両端部1a・1aに側板3・3がそれぞれ連設される一方、底板2の長手方向両端部1b・1bの近傍に妻板2・2がそれぞれ設けられている。そして、一方の側板2の側板上端部3bに蓋4が連接されている。
【0028】
側板3の側板下端部3aの外壁は、底板1の短手方向1aの外壁にシート表層部Cにより連接されており、この連接部がヒンジ部5a(コーナー部)となっている。このヒンジ部5aには、図1(a)に示すように、外壁から内壁に向かって広がるほぼ90°のV溝Bが設けられており、図1(b)に示すように、側板3を底板1に対して略直角に折り曲げることができるようになっている。また、ヒンジ部5aは、折箱Iを組み立てる方向とは逆方向にも側板3を折り曲げることができるようになっている。従って、各側板3・3は、底板1に対して略垂直の状態から外側に倒れ込んで底板1の外壁に略当接する状態までの略270°の間で折り曲げ自在となっている。
【0029】
同様に、蓋4の短手方向端部4aの外壁は、側板3の側板上端部3bの外壁にシート表層部Cにより連接されており、この連接部がヒンジ部5b(コーナー部)となっている。このヒンジ部5bには、外壁から内壁に向かって広がるほぼ90°のV溝Bが設けられており、蓋4を底板1に対して略直角に折り曲げることができるようになっている。
【0030】
一方、妻板2の妻板下端部2aの内壁は、妻板取付部7にシート表層部Cにより連接されており、この連接部が回動部8を形成している。また、底板1の長手方向端部1b近傍の内壁には、妻板取付部7を埋め込むことが可能な深さの溝が形成されており、妻板取付部7はその溝に埋め込まれて、必要に応じて接着剤等で接着・固定されている。そして、各妻板2・2は、底板1に対して略垂直の状態となったとき、妻板下端部2aが底板1の内壁に当接するようになっている。従って、各妻板2・2は、底板1に対して略垂直の状態から外側に倒れ込むことはできず、回動部8・8により、図6に示すように、底板1に対して略垂直の状態から内側に倒れ込んで底板1の内壁に略当接する状態までの略90°の間で回動自在となっている。なお、溝は、妻板2を底板1に対して略垂直に立てたときに、例えば、妻板2の外壁と底板1の長手方向端部1bが同一面となるような位置に形成すればよい。
【0031】
また、側板3・3および蓋4に当接する妻板2の端部、即ち、妻板上端部2bおよび妻板側端部2c・2cには、妻板2を底板1に対して略垂直に立てたとき、それら端部2b・2c・2cから側板3・3および蓋4に向かって略垂直に延びる凸部10が形成されている。一方、妻板2に当接する側板3・3および蓋4の端部、即ち、側板3・3の側板側端部3c・3cおよび蓋4の長手方向端部4cには、凸部10を挿脱自在に嵌合できる凹部11…が形成されている。この凸部10の高さ及び幅は、例えばそれぞれ板厚の略半分となっている。これにより、底板1、妻板2・2、側板3・3及び蓋4を組み立てて折箱Iを形成したときに、妻板2・2に形成された凸部10・10が、側板3・3および蓋4に形成された凹部11…に嵌合して、妻板2・2、側板3・3および蓋4の折れ曲がりや回動が係止されるようになっている。なお、折箱IをなすシートAは、適度の弾力性を備えているので、凹部11…に嵌合した凸部10は、例えば、収納した物品の荷重や衝撃等が加わっても容易に凹部11から外れないようになっている。
【0032】
次に、この折箱Iの組み立て方法について説明する。図4及び図5に示すように平らなシートAから、折箱Iを組み立てるには、まず、図6に示すように、各妻板2・2を底板1に対して略垂直に立てる。次いで、図7に示すように、各側板3・3を底板1に対して略垂直に立て、妻板2・2に形成された凸部10・10を側板3・3に形成された凹部11…に嵌合させる。これにより、妻板2・2および側板3・3の折れ曲がりや回動が係止され、折箱Iの内部に物品を収納可能となる。その後、蓋4を側板3に対して略垂直に立て、妻板2・2に形成された凸部10・10を蓋4に形成された凹部11・11に嵌合させ、蓋4の回動を係止する。このようにして、図3に示すような折箱Iとすることができる。
【0033】
図3に示す折箱Iは、ヒンジ部5a・5a(コーナー部)により、各側板3・3は底板1に対して外側に折り曲げ自在となっているので、この折箱Iを使用しないときには、蓋4が連設されている方の側板3を底板1の外壁に略当接する状態まで折り曲げると共に、各妻板2・2を底板1の内壁に略当接する状態まで回動させることにより、板状体をコンパクトに折り畳むことが可能となっている。
【0034】
この折箱Iは、前述した本発明に係るシートAを用い、シートAの折箱組立時のコーナー部に相当するラインに沿って、シート表層部Cを0.05〜0.2mmの厚さで残してV溝Bが設けられ、該V溝Bを折り曲げることで箱状に組み立てられてなるものなので、コーナー部は柔軟でありながら屈曲に対して強く、繰り返し屈曲動作を行ってもコーナー部に割れを生じにくい。従って、この折箱1は、蓋4の開閉動作を繰り返し行うことができ、開閉可能な折箱Iとなる。
また、シート表層部Cだけでシャープに形成されたコーナー部を持った折箱Iが作製可能となる。
【実施例】
【0035】
[実施例1]
図2に示すように構成された押出機を用い、シートを製造した。MFR値が6.0のポリスチレン樹脂粒子(東洋スチレン社製、商品名:G−13−50B)100質量部に対し、気泡核剤として粉末タルク0.5質量部およびステアリン酸カルシウム0.1質量部を加えて均一に混合し、内径115mm−150mmの押出機に115mmホッパー部より供給した。
押出機シリンダー温度は最高設定値250℃とし、押出機の途中より発泡剤としてブタンガス(イソブタン/ノルマルブタン比=55/45)4.3質量部を溶融・混練し、押出時の樹脂温度T1=154℃にて、押出機先端部に装着したサーキュラーダイよりチューブ状にポリスチレン発泡シートを押出した。この時のダイ先端温度T2は110℃であった。
次いで、このチューブ状発泡シートを冷却機能をもったロール間を通過させ、チューブ状発泡シート内面を融着させてシートを形成した。このシートはフラット性があり、全体密度0.075g/cm、厚み7mmのシートであった。
このシートにおいて、サーキュラーダイより押し出された直後に40℃の冷却エアーを吹き付けた。この冷却エアーの吹付け量は、0℃、1気圧に換算したときの風量、すなわちノルマルm(Nm)として0.04Nm/mであった。
この実施例1のシートについて、(1)引張強度、(2)破断点伸度、(3)シート表層部密度(以下、表層密度と略記する。)、(4)表面硬度、(5)発泡シートの全体密度を調べた。また、シートにV溝加工を施し、(6)V溝の表層部割れ、(7)V溝加工後の曲げについて調べた。(1)〜(7)の各項目の試験方法及び評価基準は次の通りである。結果を表1に示す。
【0036】
(1)引張強度および(2)破断点伸度
スライサー(フォーチュナ社(ドイツ)製スプリッティングマシン、型式AB−320−D)にて、試験片を表層より0.4mmの厚みにスライスしたものを、テンシロン万能試験機(オリエンチィック社製、型式UCT−10T)にて、幅50mm、長さ150mmにカットした後、試験速度10mm/minにて引張試験を行い、その引張強度(単位:MPa)及び破断点伸度(単位:%)を測定する。
【0037】
(3)表層密度
前記の引張試験と同様のスライサーにより、試験片を表層より0.4mm厚みにスライスしたものを、幅50mm、長さ150mmにカットした後、その質量と体積を測定し、下記の計算式より表層密度を算出する。
表層密度(g/cm)=試験片質量(g)/試験片体積(mm)×10
ただし、測定用試験片は、成形後72時間以上経過した試料から切り取り、23℃±2℃・50RH%±5RH%、または27℃±2℃・65RH%±5RH%の雰囲気条件に16時間以上放置したものである。
【0038】
(4)表面硬度
表面硬度の測定は、社団法人日本ゴム協会編、日本ゴム協会標準規格SRISO101「膨張ゴムの物性試験」に準じて実施し、スプリング試験機(高分子計器社製、CL−150)を用いて測定した値である。
試験機を試験片の表面に密着させ、加圧面の中心の孔からバネ圧力で突き出ている押針が試験片によって押し戻されことで表示される目盛を読み、表面硬度とする。
なお、本実施例では、V溝加工が施される面とは反対側の面について測定し、表面硬度とした。
【0039】
(5)発泡シートの全体密度
50cm以上(半硬質及び軟質材料の場合は100cm以上)の試験片を材料の元のセル構造を変えないように切断し、その質量及び体積を測定し、次式により全体密度を算出する。
全体密度(g/cm)=試験片質量(g)/試験片体積(mm)×10
ただし、測定用試験片は、成形後72時間以上経過した試料から切り取り、23℃±2℃・50RH%±5RH%、または27℃±2℃・65RH%±5RH%の雰囲気条件に16時間以上放置したものである。
【0040】
(6)V溝の表層部割れ
シートに図1(a)に示すようにV溝を切削加工により形成し、V溝加工により残ったシート表層部C(厚さ0.1mm±0.05mm)において、その部分を折り曲げた場合に割れが生じるか否かを調べた。30回の繰り返し屈曲動作に対して、シート表層部に割れを生じないものを「無」、割れを生じたものを「有」として評価した。
【0041】
(7)V溝加工後の曲げ
シートにV溝加工を施し、図6、図7に示すように折箱を組み立て、その蓋を折り曲げた直後(初回時)に、シートの自重に反発力が優って、図3中の符号αで示す角度が10°以上開く場合を「否」、10°未満の場合を「良」とする。
【0042】
[実施例2]
実施例1より、全体密度を小さく、ダイ先端温度T2を低く、冷却エアー吹付け量を下げた以外は、実施例1と同様にしてシートを製造し、同様に各試験を行った。結果を表1に示す。
【0043】
[実施例3]
実施例1よりも全体密度を小さく、冷却エアー吹付け量を下げた以外は、実施例1と同様にしてシートを製造し、同様に各試験を行った。結果を表1に示す。
【0044】
[実施例4]
実施例1よりも全体密度を小さく、冷却エアー吹付け量を下げた以外は、実施例1と同様にしてシートを製造し、同様に各試験を行った。結果を表1に示す。
【0045】
[比較例1]
実施例1よりも冷却エアー吹付け量を上げた以外は、実施例1と同様にしてシートを製造し、同様に各試験を行った。結果を表1に示す。
【0046】
[比較例2]
実施例1よりも全体密度を小さく、ダイ先端温度T2を低く、冷却エアー吹付け量を下げた以外は、実施例1と同様にしてシートを製造し、同様に各試験を行った。結果を表1に示す。
【0047】
[比較例3]
実施例1よりも全体密度を小さく、ダイ先端温度T2を高く、冷却エアー吹付け量を下げた以外は、実施例1と同様にしてシートを製造し、同様に各試験を行った。結果を表1に示す。
【0048】
[比較例4]
実施例1よりも全体密度を小さく、ダイ先端温度T2を高く、冷却エアー吹付け量を下げた以外は、実施例1と同様にしてシートを製造し、同様に各試験を行った。結果を表1に示す。
【0049】
[比較例5]
実施例1よりも全体密度を小さく、ダイ先端温度T2を高くした以外は、実施例1と同様にしてシートを製造し、同様に各試験を行った。結果を表1に示す。
【0050】
[比較例6]
実施例1よりも全体密度を小さく、ダイ先端温度T2を低く、冷却エアー吹付け量を上げた以外は、実施例1と同様にしてシートを製造し、同様に各試験を行った。結果を表1に示す。
【0051】
[比較例7]
実施例1よりも全体密度を小さく、ダイ先端温度T2を高く、冷却エアー吹付け量を上げた以外は、実施例1と同様にしてシートを製造し、同様に各試験を行った。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1の結果より、シート製造時のダイ先端温度T2や冷却エアー吹付け量を適宜調節することで、V溝加工を施されて残されるシート表層部の引張強度が6.5〜9.0MPaの範囲内であり、かつシート表層部の密度が0.13〜0.17g/cmの範囲内である本発明に係る実施例1〜4のシートが得られた。実施例1〜4のシートは、V溝加工を施されて残されるシート表層部が柔軟性を保ちつつ、繰り返し屈曲動作により割れを生じない優れた屈曲性を有していた。従って、本発明に係る実施例1〜4のシートは、開閉可能な折箱を製作するために好ましい特性を備えていた。
【0054】
一方、比較例1は、引張強度、表層密度及び表面強度が実施例1よりも大きくなり、シート表層部の強度が高まって、V溝加工後の曲げが不良となった。
また比較例2〜5は、引張強度、表層密度及び表面強度が実施例1よりも小さくなり、シート表層部の強度が弱くなり、シート表層部の繰り返し屈曲動作により割れを生じた。
また比較例6は、引張強度が実施例1よりも大きくなり、V溝加工後の曲げが不良となった。
また比較例7は、表層密度が実施例1よりも大きくなり、V溝加工後の曲げが不良となった。
【符号の説明】
【0055】
A…シート(折箱用ポリスチレン系樹脂発泡シート)、B…V溝、C…シート表層部、D…押出機、E…ホッパー、F…ダイ、G…冷却エアー吹付け装置、H…押出発泡シート、I…折箱、1…底板、2…妻板、3…側板、4…蓋、5a,5b…ヒンジ部(コーナー部)、7…妻板取付部、8…回動部、10…凸部、11…凹部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
V溝加工した際に残されるシート表層部の引張強度が6.5〜9.0MPaの範囲内であり、該シート表層部の破断点伸度が4.25〜5.10%の範囲であり、かつシート表層部の密度が0.13〜0.17g/cmの範囲内であり、V溝加工を施す面とは反対側のシート表層面の表面硬度が65〜76の範囲内であることを特徴とする折箱用ポリスチレン系樹脂発泡シート。
【請求項2】
V溝加工を施す面とは反対側のシート表層面の表面硬度(H)が70<H<76の範囲内である請求項1に記載の折箱用ポリスチレン系樹脂発泡シート。
【請求項3】
シート全体の密度が0.05〜0.12g/cmの範囲内である請求項1〜2のいずれかに記載の折箱用ポリスチレン系樹脂発泡シート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の折箱用ポリスチレン系樹脂発泡シートを備え、該シートの折箱組立時のコーナー部に相当するラインに沿って、シート表層部0.05〜0.2mmを残してV溝が設けられ、該V溝を折り曲げることで箱状に組み立てられてなることを特徴とする折箱。
【請求項5】
箱形をなす本体部と該本体部の開口を開閉可能に塞ぐ蓋とを有する請求項4に記載の折箱。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−256682(P2009−256682A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170591(P2009−170591)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【分割の表示】特願2004−42776(P2004−42776)の分割
【原出願日】平成16年2月19日(2004.2.19)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】