抵抗溶接機と抵抗溶接の良否判定方法
【課題】 外乱等による影響を極力受けることなく、実施中あるいは実施直後の抵抗溶接の良否を正しく判定できる技術を提供する。
【解決手段】 抵抗溶接機は、第1溶接電極と、第2溶接電極と、第1溶接電極と第2溶接電極の間にワークを介して溶接電流を通電する通電手段と、第1溶接電極側に設けられている超音波の送信手段と、第2溶接電極側に設けられている超音波の受信手段と、超音波送信手段が超音波を送信する時点から、超音波受信手段が超音波を受信する時点までの時間を計時する電極間計時手段を備えている。
【解決手段】 抵抗溶接機は、第1溶接電極と、第2溶接電極と、第1溶接電極と第2溶接電極の間にワークを介して溶接電流を通電する通電手段と、第1溶接電極側に設けられている超音波の送信手段と、第2溶接電極側に設けられている超音波の受信手段と、超音波送信手段が超音波を送信する時点から、超音波受信手段が超音波を受信する時点までの時間を計時する電極間計時手段を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗溶接の良否を判定する技術に関する。特に、現に実施中あるいは実施直後の抵抗溶接の良否を、超音波を利用して判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
抵抗溶接は、重畳配置した複数のワーク(被溶接材)に溶接電流を通電し、ワーク間に生じる抵抗発熱によってワークを溶融して、ワーク同士を接合するものである。抵抗溶接の接合強度は、ワーク間に形成される溶融部(いわゆるナゲット)の大きさに対応する。一般に、抵抗溶接の良否は、ナゲットの大きさに基づいて判定することができる。
現に実施中の抵抗溶接の良否を、超音波を利用して判定する技術が開発されている。例えば特許文献1には、一方の溶接電極から超音波を送信し、送信した超音波を他方の溶接電極において受信して、受信波の強度変化から形成された溶融部の大きさを推定する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平52−150760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1の技術では、溶融部を透過する超音波の強度が、溶融部の成長に伴って変化することを利用して、溶融部の大きさを推定している。しかしながら、受信される超音波の強度は、外乱等による影響を受けやすいことから、溶融部の大きさを誤って推定してしまうことがある。
本発明は、上記の課題を解決する。本発明は、外乱等による影響を極力受けることなく、実施中あるいは実施直後の抵抗溶接の良否を正しく判定できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の技術は、抵抗溶接機に具現化することができる。この抵抗溶接機は、第1溶接電極と、第2溶接電極と、第1溶接電極と第2溶接電極の間に被溶接材を通じて溶接電流を通電する通電手段と、第1溶接電極側に設けられている超音波の送信手段と、第2溶接電極側に設けられている超音波の受信手段と、超音波送信手段が超音波を送信する時点から、超音波受信手段が超音波を受信する時点までの時間を計時する電極間計時手段を備えている。電極間計時手段の用語は、超音波が電極間を伝播するのに要した時間を計時する手段の意味で用いられている。
【0005】
物質中を伝播する超音波の伝播速度は、その物質の温度によって変化する。図10はその一例を示すものであり、被溶接材(ワーク)の温度と被溶接材内における超音波の伝播速度との関係を示している。図10に示すように、被溶接材の温度が高いときほど、超音波の伝播速度は遅くなる。そのことから、被溶接材内における超音波の伝播速度に基づいて、被溶接材の温度を推定することができる。
被溶接材内に形成される溶融部の大きさ(いわゆるナゲット径)は、被溶接材の温度(特に接合面における温度)によって変化する。図11は、その一例を示すものであり、被溶接材の温度と被溶接材内に形成されるナゲット径との関係を示している。図11に示すように、被溶接材の温度が高いときほど、被溶接材内に形成されるナゲット径は大きくなる。そのことから、被溶接材の温度に基づいて、被溶接材内に形成されたナゲット径を推定することができる。
以上のことから、被溶接材内における超音波の伝播速度を知ることができれば、被溶接材内に形成されたナゲット径を推定することができる。抵抗溶接の良否は、推定されたナゲット径に基づいて判定することができる。
【0006】
この抵抗溶接機では、第1溶接電極側から超音波を送信し、その超音波を第2溶接電極側において受信して、超音波が第1溶接電極側から被溶接材を通って第2溶接電極側へと到るまでの透過時間を計時することができる。計時された透過時間は被溶接材内を超音波が伝播する伝播速度に対応するので、計時された透過時間は被溶接材の温度に対応することとなる。そのことから、計時された透過時間に基づいて、被溶接材内に形成されたナゲット径を推定することができ、抵抗溶接の良否を判定することが可能となる。抵抗溶接の良否判定は、通電中においても、通電終了直後においても可能である。
この抵抗溶接機では、第2溶接電極側で超音波を受信する場合に、超音波の強度を識別する必要はなく、超音波を受信したことを検出すれば足りる。外乱等によって超音波の受信強度が変動しても、それに追従して良否判定が変動するようなことがない。
この抵抗溶接機によると、外乱等による影響を極力受けることなく、実施中あるいは実施直後の抵抗溶接の良否を正しく判定することができる。
【0007】
上記の抵抗溶接機では、前記電極間計時手段によって計時された計時時間が、基準範囲内にあるのか否かを判定する計時時間判定手段が付加されていることが好ましい。
計時される透過時間と被溶接材内に形成されるナゲット径は略対応する。そのことから、必要とする接合強度が得られるナゲット径等に基づいて、計時されるべき透過時間の基準範囲を定めておくことができる。計時された透過時間が基準範囲内にあるのか否かを判定することによって、抵抗溶接が正常に行われたのか否かを判定することができる。
【0008】
判定手段は、電極間計時手段が溶接電流の通電前において計時した計時時間に基づいて、前記基準範囲を修正することが好ましい。
計時手段によって計時される透過時間は、被溶接材の厚さや溶接電極の長さによっても変化する。そのことから、被溶接材の厚さに製造誤差が生じている場合や、溶接電極に摩耗が生じている場合等には、透過時間に関する基準範囲を修正しておく必要が生じる。
この抵抗溶接機では、溶接電流の通電前に透過時間を計時することによって、被溶接材の温度が上昇する前の透過時間を把握する。温度上昇前の透過時間は、主に被溶接材の厚さや溶接電極の長さに応じて変化する。温度上昇前の透過時間に基づいて透過時間に関する基準範囲を修正しておくことで、被溶接材の厚さに製造誤差が生じている場合や、溶接電極に摩耗が生じている場合等でも、抵抗溶接の良否を正しく判定することができる。
【0009】
通電手段は、判定手段の判定結果に基づいて、溶接電流を増減調節することが好ましい。あるいは、判定手段の判定結果に基づいて、溶接電流の通電時間を長短調節することが好ましい。
それにより、抵抗溶接が不良のままで終了してしまうことを防ぐことが可能となる。
【0010】
上記の抵抗溶接機では、第1溶接電極側に設けられている超音波の受信手段と、第2溶接電極側に設けられている超音波の送信手段と、第1溶接電極側の超音波送信手段が超音波を送信する時点から第1溶接電極側の超音波受信手段が超音波を受信するまでの時間を計時する第1電極側計時手段と、第2溶接電極側の超音波送信手段が超音波を送信する時点から第2溶接電極側の超音波受信手段が超音波を受信するまでの時間を計時する第2電極側計時手段とが付加されていることが好ましい。
【0011】
電極間計時手段によって計時される透過時間には、第1溶接電極側の超音波送信手段と第1溶接電極の先端部との間を超音波が伝播するのに要した時間と、超音波が被溶接材を透過するのに要した時間と、超音波が第2溶接電極の先端部と第2溶接電極側の超音波受信手段との間を伝播するのに要した時間が含まれる。超音波が被溶接材を透過するのに要した実透過時間を抽出することができれば、溶接電極の温度や摩耗等に影響を受けることなく、抵抗溶接の良否をより正しく判定することができる。
この抵抗溶接機では、第1溶接電極側の超音波送信手段が送信した超音波が被溶接材を透過して第2溶接電極側へと伝播するとともに、第1溶接電極の先端部で反射して第1溶接電極側の超音波受信手段にも受信される。そのことから、第1電極側計時手段によって計時される時間は、第1溶接電極側の超音波送信手段と第1溶接電極の先端部との間を超音波が伝播するのに要する時間に対応する。同様に、第2電極側計時手段によって計時される時間は、第2溶接電極の先端部と第2溶接電極側の超音波受信手段との間を超音波が伝播するのに要する時間に対応する。
電極間計時手段によって計時された透過時間と、第1電極側計時手段によって計時された時間と、第2電極側計時手段によって計時された時間に基づいて、超音波が被溶接材を透過するのに要した時間を算出することが可能となる。
この抵抗溶接機によると、超音波が被溶接材を透過するのに要する時間を正確に把握することができるので、溶接電極の温度や摩耗等に影響を受けることなく、抵抗溶接の良否を正しく判定することができる。
【0012】
上記の抵抗溶接機では、電極間計時手段によって計時された時間と、第1電極側計時手段によって計時された計時時間と、第2電極側計時手段によって計時された時間から算出される超音波が被溶接材を透過するのに要した実透過時間が、所定の基準範囲内にあるのか否かを判定する透過時間判定手段が付加されていることが好ましい。
算出された実透過時間が基準範囲内にあるのか否かを判定することによって、抵抗溶接が正常に行われたのか否かをより正しく判定することができる。
【0013】
判定手段は、第1電極側計時手段によって計時された計時時間と第2電極側計時手段によって計時された計時時間に基づいて、算出した前記実透過時間および/又は前記基準範囲を修正することが好ましい。
被溶接材の板厚方向(通電方向)における温度分布が偏っていると、被溶接材の到達温度に対して、得られる接合強度が低くなることがある。被溶接材の板厚方向(通電方向)における温度分布は、第1溶接電極の温度と第2溶接電極の温度のバランスによって推定することができる。第1溶接電極の温度と第2溶接電極の温度のバランスが不適切である場合には、十分な接合強度が得られないことがあることから、被溶接材の到達すべき温度を高めることが必要となる。
第1電極側計時手段によって計時される計時時間が、第1電極の温度によって変化する。そのことから、第1電極側計時手段によって計時される計時時間は、第1電極の温度に略対応する。同様に、第2電極側計時手段によって計時される計時時間は、第2電極の温度に略対応する。
この抵抗溶接機では、第1電極側計時手段によって計時される計時時間と第2電極側計時手段によって計時される計時時間に基づいて、算出した超音波が被溶接材を透過するのに要した実透過時間を修正することができる。あるいは、実透過時間に関する基準範囲を修正することができる。それにより、第1電極側計時手段による計時時間と第2電極側計時手段による計時時間に基づいて、被溶接部材の板厚方向における温度分布が偏っていると推定される場合に、被溶接材の到達すべき温度を高めた上で、抵抗溶接の良否を判定することができる。
【0014】
本発明の技術は、実施中あるいは実施直後の抵抗溶接の良否を判定する方法に具現化することもできる。この判定方法は、一方の溶接電極側から超音波を送信する送信工程と、他方の溶接電極側において超音波を受信する受信工程と、送信工程で超音波を送信した時点から受信工程で超音波を受信した時点までの時間を計時する計時工程と、計時工程において計時した計時時間が所定範囲内にあるのか否かを判定する判定工程を備えている。
この判定方法によると、外乱等による影響を極力受けることなく、実施中あるいは実施直後の抵抗溶接の良否を正しく判定することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、抵抗溶接の良否を工程内において正確に判定することが可能となり、製造品質の向上や製造コストの削減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
最初に、以下に説明する実施例の主要な特徴を列記する。
(形態1) 抵抗溶接機は、第1溶接電極に設けられている第1超音波振動子と、第2溶接電極に設けられて第2超音波振動子を備えている。
(形態2) 抵抗溶接機は、超音波が第1超音波振動子からワークを透過して第2超音波振動子まで伝播するのに要する透過時間の基準値を、溶接電流の通電時間の関数によって記憶している。
(形態3) 抵抗溶接機は、超音波が第1超音波振動子からワークを透過して第2超音波振動子まで伝播するのに要する透過時間に関して、抵抗溶接が正しく完了したと判定するための完了基準値を記憶している。
(形態4) 抵抗溶接機は、超音波が第1超音波振動子からワークを透過して第2超音波振動子まで伝播するのに要する透過時間に関して、溶接電流の通電開始前に対する正常値である開始基準値を記憶している。
【実施例】
【0017】
(実施例1)
本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の技術を実施した実施例1の抵抗溶接機の構成を模式的に示している。図1に示すように、本実施例の抵抗溶接機2は、第1電極10と、第1電極10に対向している第2電極20と、一対の溶接電極10、20間に溶接電流を通電する電源回路42を備えている。図示省略するが、溶接電極10、20は、例えばロボットアーム等のような移動装置に設けられている。移動装置は、一対の溶接電極10、20を溶接の施工箇所へと移動したり、一対の溶接電極10、20を互いに接近/離反したりする。移動装置は、抵抗溶接機2において必須の構成ではないが、抵抗溶接機2と同期して動作する必要があることから、抵抗溶接機2が移動装置を備える構成とするのもよい。
抵抗溶接機2は、従来の抵抗溶接機と同様に、重畳配置されているワークW1とワークW2の両側から一対の溶接電極10、20を当接させ、一対の溶接電極10、20間に溶接電流を通電する。ワークW1、W2の間に溶接電流が通電されると、ワークW1、W2(特にワークW1、W2の接触面)において電気抵抗に起因する発熱が生じる。その結果、ワークW1、W2に亘って溶融部(いわゆるナゲット)Nが生成され、ワークW1、W2が溶接されることとなる。ワークW1、W2を溶接したときの接合強度は、生成されたナゲットNの大きさによって変化する。生成されるナゲットNの大きさは、ワークW1、W2に溶接電流を流したときのワークW1、W2の到達温度に依存することが知られている。ワークW1、W2の到達温度は、例えば溶接電流や、通電時間や、溶接電極10、20をワークW1、W2に当接させる当接力等によって変化する。これらのパラメータは、ワークW1、W2の寸法(板厚)や、ワークW1、W2の材質や、必要とする接合強度等に基づいて設定される。
【0018】
図1に示すように、本実施例の抵抗溶接機2では、第1電極10側に第1超音波振動子12が設けられており、第2電極22側に第2超音波振動子22が設けられている。超音波振動子12、22は、圧電素子を用いて構成されており、入力した電気信号(振動電圧)によって振動し、超音波を送信することができる。また、超音波振動子12、22は、超音波を受信することによって振動し、電気信号(振動電圧)を出力することができる。第1超音波振動子12は第2超音波振動子22に向けて配置されており、第2超音波振動子22は第1超音波振動子12に向けて配置されている。それにより、第1超音波振動子12は、ワークW1、W2の溶接位置(ナゲットNの形成位置)や第2超音波振動子22に向けて、超音波を送信することができる。また、第1超音波振動子12は、第2超音波振動子22から送信されてワークW1、W2の溶接位置(ナゲットNの形成位置)を通過した超音波を、高い感度で受信することができる。同様に、第2超音波振動子22は、ワークW1、W2の溶接位置(ナゲットNの形成位置)や第1超音波振動子12に向けて、超音波を送信することができる。また、第2超音波振動子22は、第1超音波振動子12から送信されてワークW1、W2の溶接位置(ナゲットNの形成位置)を通過した超音波を、高い感度で受信することができる。
図1に示す第1超音波振動子12や第1超音波振動子22の取付位置は、その一例を示すものであって、これに限定されない。例えば各電極10、20が備える電極チップや、電極チップを固定するシャンク等に取付けることができる。
【0019】
抵抗溶接機2は、送信回路14と、受信回路26と、透過時間計時回路32と、判定回路38と、表示装置34と、コントローラ50等を備えている。
送信回路14は、第1超音波振動子12に接続されている。送信回路14は、第1超音波振動子12に電気信号を出力することによって、第1超音波振動子12から超音波を送信させる回路である。一方、送信回路14は、透過時間計時回路32にも接続されている。送信回路14は、第1超音波振動子12に超音波送信用の電気信号を出力するタイミングと同時に、送信タイミング信号を透過時間計時回路32へと出力する。
受信回路26は、第2超音波振動子22に接続されている。受信回路26は、第2超音波振動子22が出力する電気信号を入力することによって、第2超音波振動子22が超音波を受信したことを検出する回路である。受信回路26は、第2超音波振動子22が超音波を受信したことを検出すればよく、受信した超音波の強度を識別する必要は必ずしもない。一方、受信回路26は、透過時間計時回路32にも接続されている。受信回路26は、第2超音波振動子22から電気信号を入力したタイミングと同時に、受信タイミング信号を透過時間計時回路32へと出力する。
抵抗溶接機2では、第1超音波振動子12は超音波の送信用振動子として機能し、第2超音波振動子22は超音波の受信用振動子として機能する。図1から明らかなように、第1超音波振動子12から発信される超音波は、第1電極10とワークW1とワークW2と第2電極20を順に伝播し、第2超音波振動子22によって受信される。
【0020】
透過時間計時回路32は、第1超音波振動子12から超音波が送信された時点から、第2超音波振動子22によって超音波が受信された時点までの時間を計時する回路である。即ち、超音波が、第1超音波振動子12から、第1電極10とワークW1、W2と第2電極20を透過して、第2超音波振動子22まで到達するのに要する時間を計時する回路である。透過時間計時回路32は、送信回路14から送信タイミング信号を入力した時点から、受信回路26から受信タイミング信号を入力した時点までを計時することによって、この超音波の透過時間を計時する。
判定回路38は、透過時間計時回路32に接続されており、透過時間計時回路32が計時した透過時間を入力する。判定回路38は、透過時間計時回路32が計時した透過時間に基づいて、ワークW1、W2に施工されている溶接の良否を判定する。
【0021】
ここで、ワークW1、W2に施工されている溶接の良否を、計時された透過時間に基づいて判定する原理について、図10、図11を参照しながら説明する。図10は、ワークW1、W2の温度と、ワークW1、W2における超音波の伝播速度の関係を示すグラフである。図11は、溶接時におけるワークW1、W2の温度と、形成されるナゲットの大きさ(いわゆるナゲット径)の関係を示している。ここで、ワークW1、W2のそれぞれは、冷間圧延鋼板(SPC材)であって、それらの板厚は1.2mmである。
図10に示すように、ワークW1、W2における超音波の伝播速度は、ワークW1、W2の温度によって変化する。詳しくは、ワークW1、W2の温度が高いときほど、ワークW1、W2における超音波の伝播速度は遅くなる。従って、ワークW1、W2の板厚が同じであれば、計時された透過時間が長いときほど、ワークW1、W2における超音波の伝播速度が遅いことを示しており、ワークW1、W2の温度が高いことを意味している。このことから、計時された透過時間に基づいて、ワークW1、W2の温度を推定することが可能となる。
一方において、図11に示すように、溶接時に形成されるナゲット径は、ワークW1、W2の温度によって変化する。詳しくは、ワークW1、W2の温度が所定温度(融点)を越えた時にナゲットの生成が始まり、ワークW1、W2の温度が高くなるほど、形成されるナゲット径は大きくなる。このことから、ワークW1、W2の温度に基づいて、形成されるナゲット径を推定することができる。先に説明したように、計時された透過時間に基づいてワークW1、W2の温度を推定することが可能であることから、計時された透過時間に基づいて、形成されたナゲット径を推定することができる。詳しくは、計時された透過時間が長いときほど、ナゲット径が大きく形成されていると推定することができる。
【0022】
図1の判定回路38は、計時された透過時間に基づいて溶接の良否を判定するために、透過時間に関する基準値を記憶している。図2に、判定回路38が記憶している透過時間に関する基準値の一例を示す。図2に示すように、判定回路38は、透過時間に関する基準値を、通電時間tの関数(曲線A)によって記憶している。図2に示す曲線Aを、透過時間に関する基準推移曲線Aという。図2において、通電時間0はワークW1、W2に溶接電流の通電を開始する時点を示しており、通電時間t4は通電を終了する時点を示している。即ち、予定されている溶接電流の通電時間はt4である。通電時間の経過に伴って、ワークW1、W2の温度が上昇していくことから、透過時間の基準値も増大していく。例えば通電終了時点t4において、計時された透過時間が基準透過時間P6を超えていれば、ワークW1、W2が予定された温度に到達しており、その結果、予定された大きさのナゲットが形成されたと判断することができる。以下、溶接電流の通電開始時点t=0に対する透過時間の基準値P1を開始基準値P1といい、溶接完了時点t=t4に対する透過時間の基準値P6を完了基準値P6ということがある。
透過時間に関する基準推移曲線は、ワーク寸法やワーク材質や必要とする接合強度等によって様々に変化する。透過時間に関する基準推移曲線は、実験や計算に基づいて予め作成しておくことができる。基準推移曲線には、ワークW1、W2の温度変化に伴う超音波の伝播速度の変化や、ワークW1、W2の温度変化に伴うワークW1、W2の体積変化等が加味されている。判定回路38は、複数種類の基準推移曲線を記憶している。
【0023】
表示装置34は、判定回路38による判定結果を表示する装置であって、判定回路38による判定結果を作業者等に報知するための装置である。表示装置34は、例えば「溶接正常」や「温度未達」や「溶接異常」等を表示することができる。
コントローラ50は、抵抗溶接機2の動作を制御する制御装置である。コントローラ50は、ワークW1、W2に施工する溶接箇所毎に、溶接電流や、通電時間や、溶接電極10、20をワークW1、W2に当接させる当接力等のパラメータを記憶している。コントローラ50は、記憶している溶接パラメータ等に基づいて、抵抗溶接機2の各部の動作を制御したり、一対の溶接電極10、20が設けられている移動装置等に動作指令を与えたりする。また、コントローラ50には、判定回路38による判定結果が入力されるようになっている。詳しくは後述するが、コントローラ50は、判定回路38による判定結果に基づいて、電源回路42の動作を制御する。
【0024】
図3は、抵抗溶接機2が実施する動作の流れを示すフローチャートである。図3に示す動作フローに沿って、抵抗溶接機2がワークW1、W2に抵抗溶接を施工する際の動作の流れについて説明する。
ステップS2では、第1溶接電極10と第2溶接電極20によって、重畳配置されているワークW1とワークW2を加圧挟持する。先に説明したように、第1溶接電極10と第2溶接電極20の位置は、ロボットアーム等の移動装置によって調節することができる。移動装置は、コントローラ50の動作指令を受けて、一対の溶接電極10、20によって、ワークW1、2を加圧する。
【0025】
ステップS4では、溶接電流を通電するに先立って、通電前における超音波の透過時間を計時する。送信回路14は、コントローラ50からの動作指令を受けて、第1超音波振動子12から超音波を送信する。同時に、送信回路14は、送信タイミング信号を透過時間計時回路32へと出力する。図4(a)に示すように、第1超音波振動子12から送信された超音波は、ワークW1、W2を透過し、第2超音波振動子22によって受信される。第2超音波振動子22が超音波を受信すると、受信回路26は受信タイミング信号を透過時間計時回路32へと出力する。透過時間計時回路32は、送信タイミング信号と受信タイミング信号に基づいて、第1超音波振動子12から第2超音波振動子22までの超音波の透過時間を計時する。透過時間計時回路32が計時した透過時間は、判定回路38へと出力される。
通電前における超音波の透過時間は、ワークW1、W2が加熱される前であることから、主に超音波振動子12、22間の距離によって変動する。従って、ワークW1、W2の板厚に製造誤差が生じていたり、溶接電極10、20に摩耗が生じていたりすると、通電前における超音波の透過時間は変動することとなる。
以下では、このステップS4における透過時間の計時値が例えばP2(図2参照)であったものとして、以降の動作フローについて説明を続ける。図2に示すように、透過時間P2は、開始基準値P1よりも長いものとする。
【0026】
ステップS6では、判定回路38が、ステップS4で計時された通電前における透過時間P2に基づいて、記憶している透過時間に関する基準推移曲線(図2中の曲線A)を修正する。図2に示すように、判定回路38は、ステップS4で計時された透過時間P2と、記憶している開始基準値P1との差分に基づいて、基準推移曲線Aを修正する。詳しくは、基準推移曲線Aが記述している透過時間の基準値に、その差分P2−P1を加算して、新たな基準推移曲線Bを作成する。それにより、完了基準値P6は、新たな完了基準値P7へと修正される。ここで、P7=P6+(P2−P1)である。このステップS6の処理によって、ワークW1、W2の板厚に生じている製造誤差や、溶接電極10、20に生じている摩耗等による影響を受けることなく、正確な判定を行うことが可能となる。
【0027】
図3のステップS8では、溶接電流の通電が開始される。電源回路42は、コントローラ50の指令に従って、一対の電極10、20間に溶接電流を通電する。ワークW1、W2は、溶接電流が通電されることによって、急速に加熱されていく。
ステップS10では、図4(b)に示すように、溶接電流の通電中における超音波の透過時間を計時する。超音波の透過時間の計時は、先に説明したステップS6と同様に行われる。後述するように、通電中における超音波の透過時間は、通電期間中に亘って繰り返し行われる。図5に、通電中における透過時間の経時変化(図中の曲線C)を例示する。図5中の曲線Bは、図2に示した修正後の基準推移曲線Bを示している。
以下では、現時点の通電時間がt3であって、透過時間の計時値が例えばPm3(図5)であったものとして、以降の動作フローについて説明を続ける。
【0028】
ステップS12では、判定回路38が、修正後の基準推移曲線Bに基づいて、ステップS10で計時された通電中における超音波の透過時間を判定する。詳しくは、透過時間を計時した時点の通電時間(ここではt3)に対して修正後の基準推移曲線Bが記述している基準値(ここではP3)に基づいて、計時された透過時間(ここではPm3)を判定する。計時された透過時間Pm3が基準値P3と略等しければ、ワークW1、W2の温度が予定通りに上昇しており、溶接が正常に進行していると判断できる。計時された透過時間Pm3が基準値P3を下回っていれば、ワークW1、W2の温度上昇が不足しており、溶接の進行が遅れていると判断できる。計時された透過時間Pm3が基準値P3を上回っていれば、ワークW1W2の温度上昇が過剰となっており、溶接の進行が過剰に進んでいると判断できる。本実施例の判定回路38は、基準値P3に対して許容幅ΔPを設定する。そして、計時された透過時間Pm3が許容範囲P3±ΔP内であれば「温度正常」と判定し、計時された透過時間Pm3が許容範囲P3−ΔP以下であれば「温度不足」と判定し、計時された透過時間Pm3が許容範囲P3+ΔP以下であれば「温度過剰」と判定する。
【0029】
ステップS14では、予定された通電時間が経過しているのか否かが判定される。予定された通電時間t4が経過していればステップS16へ進み、予定された通電時間が経過していなければステップS22へ進む。
予定された通電時間が経過しておらず、ステップS22に進んだ場合は、ステップS12の判定結果に基づいて、溶接電流を増減調節が行われる。詳しくは、「温度不足」と判定されていれば溶接電流を増大し、「温度過剰」と判定されていれば溶接電流を減少し、「温度正常」と判定されていれば溶接電流の調節を行わない。例えば図5に示すように、通電時間t3において溶接電流が増大されると、ワークW1、W2の温度上昇速度が増大することから、以降に計時される透過時間の上昇速度も増大していく。
溶接電流の調節後は、再びステップS10へと戻る。以降、予定された通電時間が経過し、ステップS14でイエスとなるまで、ステップS10、S12、S14、S22の処理が順次繰り返される。
予定された通電時間t4が経過し、ステップS16に進んだ場合は、溶接電流の通電が停止される。即ち、抵抗溶接が終了する。
【0030】
ステップS18では、ステップS12における判定結果が、表示装置34等に表示される。図5に示すように、このステップS18で表示される判定結果は、溶接完了時点t4において計時された透過時間Pm4を、完了基準値P7に基づいて判定した判定結果である。即ち、表示装置34等に表示される判定結果によって、施工された溶接が正常に行われたのか否かを知ることができる。例えば「温度不足」と表示された場合は、十分な大きさのナゲットNが形成されておらず、必要な接合強度を有していないと判断することができる。
【0031】
本実施例の抵抗溶接機2では、抵抗溶接を施工すると同時に、施工した溶接部の正常/異常を判定することができる。それにより、後工程において溶接部を検査する必要がない。また、抵抗溶接が異常に施工されたワークW1、W2が後工程に進むことを防止することもできる。
本実施例の抵抗溶接機2では、第1溶接電極10の第1超音波振動子12から超音波を送信し、第2溶接電極12の第2超音波振動子22によって超音波を受信して、その送受信の時間差に基づいて溶接の良否を判定する。それにより、第2超音波振動子22は、受信した超音波の強度を識別する必要がなく、超音波の受信の有無を識別すれば足りる。溶接の良否を判定する際に、外乱によって影響を受けやすい超音波の強度を用いることがないので、外乱に影響を受けることなく正確な判定を行うことができる。
【0032】
(実施例2)
図6は、本発明の技術を実施した実施例2の抵抗溶接機102の構成を模式的に示している。実施例2の抵抗溶接機102の一部には、実施例1の抵抗溶接機2と同一の構成が採用されている。従って、実施例1の抵抗溶接機2と同一の構成については、同一の符号を付すことによって、重複して説明することは避けるように努める。
本実施例の抵抗溶接機102は、例えば重畳配置されているワークW1とワークW2とワークW3に抵抗溶接を施工することができる。ワークW3はめっき鋼板であり、その表面にめっき層Yが形成されている。
【0033】
本実施例の抵抗溶接機102は、第1電極10と第2電極20と電源回路42を備えている。第1電極10側には第1超音波振動子12が設けられており、第2電極22側には第2超音波振動子22が設けられている。
抵抗溶接機102は、第1送信回路(実施例1の送信回路に相当する)14と、第1受信回路116と、第2送信回路124と、第2受信回路(実施例1の受信回路に相当する)26を備えている。第1送信回路14と第2送信回路124は、同一の回路で構成することができる。第1受信回路116と第2受信回路26は、同一の回路で構成することができる。第1送信回路14と第1受信回路116は、第1超音波振動子12に接続されている。第2送信回路124と第2受信回路26は、第2超音波振動子22に接続されている。従って、本実施例の抵抗溶接機102では、第1溶接電極10の第1超音波振動子12と第2溶接電極20の第2超音波振動子22のそれぞれが、超音波の送信用振動子として機能するとともに、超音波の受信用振動子としても機能する。例えば第1超音波振動子12から送信された超音波は、第2超音波振動子22によって受信されるとともに、第1超音波振動子12自身によっても受信される。また、第2超音波振動子22から送信された超音波は、第1超音波振動子12によって受信されるとともに、第2超音波振動子22自身によっても受信される。
【0034】
図6に示すように、第1送信回路14は、第1計時回路118と透過時間計時回路32のそれぞれに接続されている。第1送信回路14が出力する送信タイミング信号は、第1計時回路118と透過時間計時回路32のそれぞれに入力される。第1受信回路116は、第1計時回路118に接続されている。第1受信回路116が出力する受信タイミング信号は、第1計時回路118に入力される。
第1計時回路118は、第1送信回路14から送信タイミング信号を入力した時点から、第1受信回路116から受信タイミング信号を入力した時点までを計時する回路である。即ち、第1計時回路118は、第1超音波振動子12が超音波を送信した時点から、第1超音波振動子12が超音波を受信する時点までの時間を計時することができる。図8(a)に示すように、第1計時回路118が計時する時間は、第1超音波振動子12から送信された超音波が、第1溶接電極10の先端10aにおいて反射し、第1超音波振動子12によって受信されるまでの時間Paである。この第1電極10内を超音波が伝播する時間Paを、第1伝播時間Paとする。
【0035】
第2送信回路124は、第2計時回路128に接続されている。第2送信回路124が出力する送信タイミング信号は、第2計時回路128に入力される。第2受信回路26は、第2計時回路128と透過時間計時回路32のそれぞれに接続されている。第2受信回路26が出力する受信タイミング信号は、第2計時回路128と透過時間計時回路32のそれぞれに入力される。
第2計時回路128は、第2送信回路124から送信タイミング信号を入力した時点から、第2受信回路26から受信タイミング信号を入力した時点までを計時する回路である。即ち、第2計時回路128は、第2超音波振動子22が超音波を送信した時点から、第2超音波振動子22が超音波を受信する時点までの時間を計時することができる。図8(a)に示すように、第2計時回路128が計時する時間は、第2超音波振動子22から送信された超音波が、第2溶接電極20の先端20aで反射して、第2超音波振動子22によって受信されるまでの時間Pbである。この第2溶接電極20内を超音波が伝播する時間Pbを、第2伝播時間Pbとする。
【0036】
判定回路138は、第1計時回路118と第2計時回路128と透過時間計時回路32のそれぞれに接続されている。判定回路138は、第1計時回路118が計時した第1伝播時間Paと、第2計時回路128が計時した第2伝播時間Pbと、透過時間計時回路32が計時した透過時間を入力し、それらの計時時間に基づいて施工されている溶接の良否を判定する。
図8(a)(b)に示すように、第1計時回路118が計時した第1伝播時間Paと、第2計時回路128が計時した第2伝播時間Pbと、透過時間計時回路32が計時した透過時間Pcと、超音波がワークW1、W2、W3を透過するのに要した実透過時間Pdとの間には、次式の関係が成立する。
Pd=Pc−{(Pa/2)+(Pb/2)}
判定回路138は、上記の関係式を利用して実透過時間Pdを算出し、実透過時間Pdに基づいて溶接の良否を判定する。溶接電極10、20内における超音波の伝播速度は、溶接電極10、20の温度によって変化する。実透過時間Pdを用いることによって、溶接電極10、20内における超音波の伝播速度変化による影響を受けることなく、溶接の良否を正しく判定することができる。
判定回路138は、実施例1で説明した透過時間に関する基準推移曲線Aに換えて、実透過時間Pdに関する基準推移曲線を記憶している。実透過時間Pdに関する基準推移曲線は、実施例1の基準推移曲線Aと同様に、実験や計算によって予め用意しておくことができる。
【0037】
図7は、抵抗溶接機102が実施する動作の流れを示すフローチャートである。図7に示す動作フローに沿って、抵抗溶接機102がワークW1、W2、W3に抵抗溶接を施工する際の動作の流れについて説明する。
ステップS102では、図8(a)に示すように、一対の溶接電極10、20によってワークW1、W2、W3を加圧するに先立って、溶接電流の通電前における第1伝播時間Paと第2伝播時間Pbを計時する。第1伝播時間Paや第2伝播時間Pbは、それぞれ第1溶接電極10や第2溶接電極20に生じている摩耗等によって変化する。溶接電流の通電前に第1伝播時間Paと第2伝播時間Pbを計時しておくことによって、第1溶接電極10や第2溶接電極20に生じている摩耗等を把握することができる。このとき、例えば第1伝播時間Paが所定値を下回っており、第1溶接電極10に許容レベルを超える摩耗が生じていると推定される場合には、溶接動作を中止するようにしてもよい。
ステップS104では、一対の溶接電極10、20によってワークW1、W2、W3を加圧挟持する。
ステップS106では、図8(b)に示すように、溶接電流を通電するに先立って、通電前における超音波の透過時間Pcを計時する。第1送信回路14によって第1超音波振動子12から超音波が送信され、第2受信回路26によって第2超音波振動子22が超音波を受信したことが検出される。透過時間計時回路32は、第1送信回路14から入力する送信タイミング信号と、第2受信回路26から入力する受信タイミング信号によって、超音波の透過時間Pcを計時する。
【0038】
ステップS108では、判定回路138が、ステップS2で計時した第1伝播時間Paおよび第2伝播時間Pbと、ステップS106で計時した透過速度Pcから、通電前における実透過時間Pdを算出する。
ステップS110では、判定回路138が、ステップS108で算出した通電前における実透過時間Pdに基づいて、実透過時間に関する基準推移曲線を修正する。この修正処理は、実施例1で説明した図3のステップS6の修正処理と同様に実行される。
ステップS112では、溶接電流の通電が開始される。
ステップS114では、図8(c)に示すように、通電中における第1伝播時間Paと第2伝播時間Pbが計時される。溶接電流の通電中では、溶接電極10、20の温度が上昇する。溶接電極10、20の温度が上昇することによって、溶接電極10、20内を超音波が伝播する速度が低下する。その結果、溶接電極10、20の温度上昇に伴って、通電中における第1伝播時間Paと第2伝播時間Pbは増大していく。そのことから、例えば通電中における第1伝播時間Paに基づいて、第1溶接電極10の温度を推定することができる。厳密に推定する場合は、通電前(常温)における第1伝播時間Paと通電中における第1伝播時間Paとの比に基づいて、第1溶接電極10の温度を推定するとよい。同様に、通電中における第2伝播時間Pbに基づいて、第2溶接電極20の温度を推定することができる。
【0039】
ステップS116では、図8(d)に示すように、通電中における透過時間Pcが計時される。第1超音波振動子12から送信された超音波は、ワークW1、W2、W3内に形成されている溶融部(ナゲット)Nを通過し、第2超音波振動子22によって受信される。ステップS116で計時される透過時間Pcは、ワークW1、W2、W3の温度に応じて変化する。
ステップS118では、判定回路138が、ステップS114で計時した第1伝播時間Paおよび第2伝播時間Pbと、ステップS116で計時した透過速度Pcから、通電中における実透過時間Pdを算出する。
【0040】
ステップS120では、判定回路138が、算出した実透過時間Pdの判定処理に先立って、ステップS114で計時された通電中における第1伝播時間Paと第2伝播時間Pbに基づいて、実透過時間Pdに関する基準推移曲線を再度修正する。
図9は、ワークW1、W2、W3の板厚方向における温度分布を説明する図である。図9(a)は板厚方向の温度分布が適切なときのナゲットNの形成位置を示しており、図9(b)はそのときの板厚方向の温度分布を示している。図9(c)は板厚方向の温度分布が偏っているときのナゲットNの形成位置を示しており、図9(d)はそのときの板厚方向の温度分布を示している。図9に示すように、例えばワークW1、W2、W3内の到達温度が同じTcであっても、板厚方向の温度分布によって形成されるナゲットNは異なることとなる。図9(c)に示すように、温度分布がワークW1側に偏っていると、ナゲットNがワークW1側に偏在することとなり、ワークW2とワークW3間に接合不良が生じてしまう。このような現象は、本実施例のように多数のワークを同時に溶接する場合等に生じやすい。
【0041】
本実施例の抵抗溶接機102では、第1伝播時間Paに基づいて第1溶接電極10の先端部10aの温度(ワークW1の表面温度に相当する)Taを推定し、第2伝播時間Pbに基づいて第2溶接電極20の先端部20aの温度(ワークW3の表面温度に相当する)Tbを推定する。図9(b)に示すように、推定した温度Taと推定した温度Tbが略等しければ、板厚方向の温度分布が適正であると判断できる。この場合、判定回路138は、基準推移曲線の修正は行わない。一方、図9(d)に示すように、推定した温度Taと推定した温度Tbに有意な差異が生じていれば、板厚方向の温度分布が偏っていると判断できる。この場合、判定回路138は基準推移曲線の修正処理を実行する。判定回路138は、基準推移曲線が記述している実透過時間Pdを増大させ、修正後の基準推移曲線を作成する。それにより、ワークW1、W2、W3の目標到達温度が高められることとなり、ナゲットNがより大きく形成されることとなる。図9(c)に示すようにナゲットNが偏在していても、ワークW1、W2、W3を併せて溶接することができ、必要な接合強度を得ることができる。
【0042】
図7のステップS122では、ステップS120で修正された基準推移曲線に基づいて、ステップS118で算出された実透過時間Pdを判定する。この判定処理は、実施例1で説明した図3のステップS12の判定処理と同様に実行される
ステップS124では、ステップS118で算出された実透過時間Pdが、実透過時間Pdに関する完了基準値を超えているのか否かを判定する。算出された実透過時間Pdが完了基準値を超えていれば、ワークW1、W2、W3の温度が十分に上昇しており、必要な接合強度が得られるナゲットNが形成されたと判断できる。この場合、ステップS126へ進み、溶接電流の通電を終了する。一方、算出された実透過時間Pdが完了基準値を超えていなければ、さらに溶接電流の通電を継続する必要がある。この場合、ステップS132へ進み、S122の判定結果に基づいて溶接電流の増減調節を行う。次いで、再びステップS114へと戻り、算出される実透過時間Pdが完了基準値を超えるまで、ステップS114以降を繰り返し実行する。
【0043】
抵抗溶接機102では、ワークW1、W2、W3等を超音波が透過する時間に基づいて、溶接中におけるワークW1、W2、W3内の溶接状態を逐次推定することができる。そして、抵抗溶接機102は、ワークW1、W2、W3に十分なナゲットNが形成される時点まで、溶接電流の通電を継続する。抵抗溶接機102は、判定回路138の判定結果に基づいて溶接電流の通電期間を増減調整することによって、必要な接合強度が得られる溶接をより確実に施工することができる。
抵抗溶接機102によると、各ワークの板厚に寸法誤差が生じていても、溶接電極に摩耗が生じていても、ワークの板厚方向の温度分布に偏りが生じていても、ワーク群を十分な接合強度で溶接することができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例1の抵抗溶接機の構成を示す模式図。
【図2】透過時間に関する基準推移曲線とその修正を例示する図。
【図3】実施例1の抵抗溶接機の動作の流れを示すフローチャート。
【図4】超音波の透過時間を計時する様子を示す図。
【図5】計時される透過時間の経時変化を例示する図。
【図6】実施例2の抵抗溶接機の構成を示す模式図。
【図7】実施例2の抵抗溶接機の動作の流れを示すフローチャート。
【図8】超音波の伝播時間および透過時間を計時する様子を示す図。
【図9】ワーク内における適切な温度分布と偏った温度分布を説明する図。
【図10】ワークの温度とワーク内における超音波の伝播速度の関係を示す図。
【図11】ワークの温度と形成されるナゲットの大きさの関係を示す図。
【符号の説明】
【0046】
2・・実施例1の抵抗溶接機
10・・第1溶接電極
12・・第1超音波振動子
14・・送信回路(第1送信回路)
20・・第2溶接電極
22・・第2超音波振動子
26・・受信回路(第2受信回路)
32・・透過時間計時回路
34・・表示装置
38・・実施例1の判定回路
42・・電源回路
50・・コントローラ
102・・実施例2の抵抗溶接機
116・・第1受信回路
118・・第1計時回路
124・・第2送信回路
128・・第2計時回路
138・・実施例2の判定回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗溶接の良否を判定する技術に関する。特に、現に実施中あるいは実施直後の抵抗溶接の良否を、超音波を利用して判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
抵抗溶接は、重畳配置した複数のワーク(被溶接材)に溶接電流を通電し、ワーク間に生じる抵抗発熱によってワークを溶融して、ワーク同士を接合するものである。抵抗溶接の接合強度は、ワーク間に形成される溶融部(いわゆるナゲット)の大きさに対応する。一般に、抵抗溶接の良否は、ナゲットの大きさに基づいて判定することができる。
現に実施中の抵抗溶接の良否を、超音波を利用して判定する技術が開発されている。例えば特許文献1には、一方の溶接電極から超音波を送信し、送信した超音波を他方の溶接電極において受信して、受信波の強度変化から形成された溶融部の大きさを推定する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平52−150760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1の技術では、溶融部を透過する超音波の強度が、溶融部の成長に伴って変化することを利用して、溶融部の大きさを推定している。しかしながら、受信される超音波の強度は、外乱等による影響を受けやすいことから、溶融部の大きさを誤って推定してしまうことがある。
本発明は、上記の課題を解決する。本発明は、外乱等による影響を極力受けることなく、実施中あるいは実施直後の抵抗溶接の良否を正しく判定できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の技術は、抵抗溶接機に具現化することができる。この抵抗溶接機は、第1溶接電極と、第2溶接電極と、第1溶接電極と第2溶接電極の間に被溶接材を通じて溶接電流を通電する通電手段と、第1溶接電極側に設けられている超音波の送信手段と、第2溶接電極側に設けられている超音波の受信手段と、超音波送信手段が超音波を送信する時点から、超音波受信手段が超音波を受信する時点までの時間を計時する電極間計時手段を備えている。電極間計時手段の用語は、超音波が電極間を伝播するのに要した時間を計時する手段の意味で用いられている。
【0005】
物質中を伝播する超音波の伝播速度は、その物質の温度によって変化する。図10はその一例を示すものであり、被溶接材(ワーク)の温度と被溶接材内における超音波の伝播速度との関係を示している。図10に示すように、被溶接材の温度が高いときほど、超音波の伝播速度は遅くなる。そのことから、被溶接材内における超音波の伝播速度に基づいて、被溶接材の温度を推定することができる。
被溶接材内に形成される溶融部の大きさ(いわゆるナゲット径)は、被溶接材の温度(特に接合面における温度)によって変化する。図11は、その一例を示すものであり、被溶接材の温度と被溶接材内に形成されるナゲット径との関係を示している。図11に示すように、被溶接材の温度が高いときほど、被溶接材内に形成されるナゲット径は大きくなる。そのことから、被溶接材の温度に基づいて、被溶接材内に形成されたナゲット径を推定することができる。
以上のことから、被溶接材内における超音波の伝播速度を知ることができれば、被溶接材内に形成されたナゲット径を推定することができる。抵抗溶接の良否は、推定されたナゲット径に基づいて判定することができる。
【0006】
この抵抗溶接機では、第1溶接電極側から超音波を送信し、その超音波を第2溶接電極側において受信して、超音波が第1溶接電極側から被溶接材を通って第2溶接電極側へと到るまでの透過時間を計時することができる。計時された透過時間は被溶接材内を超音波が伝播する伝播速度に対応するので、計時された透過時間は被溶接材の温度に対応することとなる。そのことから、計時された透過時間に基づいて、被溶接材内に形成されたナゲット径を推定することができ、抵抗溶接の良否を判定することが可能となる。抵抗溶接の良否判定は、通電中においても、通電終了直後においても可能である。
この抵抗溶接機では、第2溶接電極側で超音波を受信する場合に、超音波の強度を識別する必要はなく、超音波を受信したことを検出すれば足りる。外乱等によって超音波の受信強度が変動しても、それに追従して良否判定が変動するようなことがない。
この抵抗溶接機によると、外乱等による影響を極力受けることなく、実施中あるいは実施直後の抵抗溶接の良否を正しく判定することができる。
【0007】
上記の抵抗溶接機では、前記電極間計時手段によって計時された計時時間が、基準範囲内にあるのか否かを判定する計時時間判定手段が付加されていることが好ましい。
計時される透過時間と被溶接材内に形成されるナゲット径は略対応する。そのことから、必要とする接合強度が得られるナゲット径等に基づいて、計時されるべき透過時間の基準範囲を定めておくことができる。計時された透過時間が基準範囲内にあるのか否かを判定することによって、抵抗溶接が正常に行われたのか否かを判定することができる。
【0008】
判定手段は、電極間計時手段が溶接電流の通電前において計時した計時時間に基づいて、前記基準範囲を修正することが好ましい。
計時手段によって計時される透過時間は、被溶接材の厚さや溶接電極の長さによっても変化する。そのことから、被溶接材の厚さに製造誤差が生じている場合や、溶接電極に摩耗が生じている場合等には、透過時間に関する基準範囲を修正しておく必要が生じる。
この抵抗溶接機では、溶接電流の通電前に透過時間を計時することによって、被溶接材の温度が上昇する前の透過時間を把握する。温度上昇前の透過時間は、主に被溶接材の厚さや溶接電極の長さに応じて変化する。温度上昇前の透過時間に基づいて透過時間に関する基準範囲を修正しておくことで、被溶接材の厚さに製造誤差が生じている場合や、溶接電極に摩耗が生じている場合等でも、抵抗溶接の良否を正しく判定することができる。
【0009】
通電手段は、判定手段の判定結果に基づいて、溶接電流を増減調節することが好ましい。あるいは、判定手段の判定結果に基づいて、溶接電流の通電時間を長短調節することが好ましい。
それにより、抵抗溶接が不良のままで終了してしまうことを防ぐことが可能となる。
【0010】
上記の抵抗溶接機では、第1溶接電極側に設けられている超音波の受信手段と、第2溶接電極側に設けられている超音波の送信手段と、第1溶接電極側の超音波送信手段が超音波を送信する時点から第1溶接電極側の超音波受信手段が超音波を受信するまでの時間を計時する第1電極側計時手段と、第2溶接電極側の超音波送信手段が超音波を送信する時点から第2溶接電極側の超音波受信手段が超音波を受信するまでの時間を計時する第2電極側計時手段とが付加されていることが好ましい。
【0011】
電極間計時手段によって計時される透過時間には、第1溶接電極側の超音波送信手段と第1溶接電極の先端部との間を超音波が伝播するのに要した時間と、超音波が被溶接材を透過するのに要した時間と、超音波が第2溶接電極の先端部と第2溶接電極側の超音波受信手段との間を伝播するのに要した時間が含まれる。超音波が被溶接材を透過するのに要した実透過時間を抽出することができれば、溶接電極の温度や摩耗等に影響を受けることなく、抵抗溶接の良否をより正しく判定することができる。
この抵抗溶接機では、第1溶接電極側の超音波送信手段が送信した超音波が被溶接材を透過して第2溶接電極側へと伝播するとともに、第1溶接電極の先端部で反射して第1溶接電極側の超音波受信手段にも受信される。そのことから、第1電極側計時手段によって計時される時間は、第1溶接電極側の超音波送信手段と第1溶接電極の先端部との間を超音波が伝播するのに要する時間に対応する。同様に、第2電極側計時手段によって計時される時間は、第2溶接電極の先端部と第2溶接電極側の超音波受信手段との間を超音波が伝播するのに要する時間に対応する。
電極間計時手段によって計時された透過時間と、第1電極側計時手段によって計時された時間と、第2電極側計時手段によって計時された時間に基づいて、超音波が被溶接材を透過するのに要した時間を算出することが可能となる。
この抵抗溶接機によると、超音波が被溶接材を透過するのに要する時間を正確に把握することができるので、溶接電極の温度や摩耗等に影響を受けることなく、抵抗溶接の良否を正しく判定することができる。
【0012】
上記の抵抗溶接機では、電極間計時手段によって計時された時間と、第1電極側計時手段によって計時された計時時間と、第2電極側計時手段によって計時された時間から算出される超音波が被溶接材を透過するのに要した実透過時間が、所定の基準範囲内にあるのか否かを判定する透過時間判定手段が付加されていることが好ましい。
算出された実透過時間が基準範囲内にあるのか否かを判定することによって、抵抗溶接が正常に行われたのか否かをより正しく判定することができる。
【0013】
判定手段は、第1電極側計時手段によって計時された計時時間と第2電極側計時手段によって計時された計時時間に基づいて、算出した前記実透過時間および/又は前記基準範囲を修正することが好ましい。
被溶接材の板厚方向(通電方向)における温度分布が偏っていると、被溶接材の到達温度に対して、得られる接合強度が低くなることがある。被溶接材の板厚方向(通電方向)における温度分布は、第1溶接電極の温度と第2溶接電極の温度のバランスによって推定することができる。第1溶接電極の温度と第2溶接電極の温度のバランスが不適切である場合には、十分な接合強度が得られないことがあることから、被溶接材の到達すべき温度を高めることが必要となる。
第1電極側計時手段によって計時される計時時間が、第1電極の温度によって変化する。そのことから、第1電極側計時手段によって計時される計時時間は、第1電極の温度に略対応する。同様に、第2電極側計時手段によって計時される計時時間は、第2電極の温度に略対応する。
この抵抗溶接機では、第1電極側計時手段によって計時される計時時間と第2電極側計時手段によって計時される計時時間に基づいて、算出した超音波が被溶接材を透過するのに要した実透過時間を修正することができる。あるいは、実透過時間に関する基準範囲を修正することができる。それにより、第1電極側計時手段による計時時間と第2電極側計時手段による計時時間に基づいて、被溶接部材の板厚方向における温度分布が偏っていると推定される場合に、被溶接材の到達すべき温度を高めた上で、抵抗溶接の良否を判定することができる。
【0014】
本発明の技術は、実施中あるいは実施直後の抵抗溶接の良否を判定する方法に具現化することもできる。この判定方法は、一方の溶接電極側から超音波を送信する送信工程と、他方の溶接電極側において超音波を受信する受信工程と、送信工程で超音波を送信した時点から受信工程で超音波を受信した時点までの時間を計時する計時工程と、計時工程において計時した計時時間が所定範囲内にあるのか否かを判定する判定工程を備えている。
この判定方法によると、外乱等による影響を極力受けることなく、実施中あるいは実施直後の抵抗溶接の良否を正しく判定することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、抵抗溶接の良否を工程内において正確に判定することが可能となり、製造品質の向上や製造コストの削減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
最初に、以下に説明する実施例の主要な特徴を列記する。
(形態1) 抵抗溶接機は、第1溶接電極に設けられている第1超音波振動子と、第2溶接電極に設けられて第2超音波振動子を備えている。
(形態2) 抵抗溶接機は、超音波が第1超音波振動子からワークを透過して第2超音波振動子まで伝播するのに要する透過時間の基準値を、溶接電流の通電時間の関数によって記憶している。
(形態3) 抵抗溶接機は、超音波が第1超音波振動子からワークを透過して第2超音波振動子まで伝播するのに要する透過時間に関して、抵抗溶接が正しく完了したと判定するための完了基準値を記憶している。
(形態4) 抵抗溶接機は、超音波が第1超音波振動子からワークを透過して第2超音波振動子まで伝播するのに要する透過時間に関して、溶接電流の通電開始前に対する正常値である開始基準値を記憶している。
【実施例】
【0017】
(実施例1)
本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の技術を実施した実施例1の抵抗溶接機の構成を模式的に示している。図1に示すように、本実施例の抵抗溶接機2は、第1電極10と、第1電極10に対向している第2電極20と、一対の溶接電極10、20間に溶接電流を通電する電源回路42を備えている。図示省略するが、溶接電極10、20は、例えばロボットアーム等のような移動装置に設けられている。移動装置は、一対の溶接電極10、20を溶接の施工箇所へと移動したり、一対の溶接電極10、20を互いに接近/離反したりする。移動装置は、抵抗溶接機2において必須の構成ではないが、抵抗溶接機2と同期して動作する必要があることから、抵抗溶接機2が移動装置を備える構成とするのもよい。
抵抗溶接機2は、従来の抵抗溶接機と同様に、重畳配置されているワークW1とワークW2の両側から一対の溶接電極10、20を当接させ、一対の溶接電極10、20間に溶接電流を通電する。ワークW1、W2の間に溶接電流が通電されると、ワークW1、W2(特にワークW1、W2の接触面)において電気抵抗に起因する発熱が生じる。その結果、ワークW1、W2に亘って溶融部(いわゆるナゲット)Nが生成され、ワークW1、W2が溶接されることとなる。ワークW1、W2を溶接したときの接合強度は、生成されたナゲットNの大きさによって変化する。生成されるナゲットNの大きさは、ワークW1、W2に溶接電流を流したときのワークW1、W2の到達温度に依存することが知られている。ワークW1、W2の到達温度は、例えば溶接電流や、通電時間や、溶接電極10、20をワークW1、W2に当接させる当接力等によって変化する。これらのパラメータは、ワークW1、W2の寸法(板厚)や、ワークW1、W2の材質や、必要とする接合強度等に基づいて設定される。
【0018】
図1に示すように、本実施例の抵抗溶接機2では、第1電極10側に第1超音波振動子12が設けられており、第2電極22側に第2超音波振動子22が設けられている。超音波振動子12、22は、圧電素子を用いて構成されており、入力した電気信号(振動電圧)によって振動し、超音波を送信することができる。また、超音波振動子12、22は、超音波を受信することによって振動し、電気信号(振動電圧)を出力することができる。第1超音波振動子12は第2超音波振動子22に向けて配置されており、第2超音波振動子22は第1超音波振動子12に向けて配置されている。それにより、第1超音波振動子12は、ワークW1、W2の溶接位置(ナゲットNの形成位置)や第2超音波振動子22に向けて、超音波を送信することができる。また、第1超音波振動子12は、第2超音波振動子22から送信されてワークW1、W2の溶接位置(ナゲットNの形成位置)を通過した超音波を、高い感度で受信することができる。同様に、第2超音波振動子22は、ワークW1、W2の溶接位置(ナゲットNの形成位置)や第1超音波振動子12に向けて、超音波を送信することができる。また、第2超音波振動子22は、第1超音波振動子12から送信されてワークW1、W2の溶接位置(ナゲットNの形成位置)を通過した超音波を、高い感度で受信することができる。
図1に示す第1超音波振動子12や第1超音波振動子22の取付位置は、その一例を示すものであって、これに限定されない。例えば各電極10、20が備える電極チップや、電極チップを固定するシャンク等に取付けることができる。
【0019】
抵抗溶接機2は、送信回路14と、受信回路26と、透過時間計時回路32と、判定回路38と、表示装置34と、コントローラ50等を備えている。
送信回路14は、第1超音波振動子12に接続されている。送信回路14は、第1超音波振動子12に電気信号を出力することによって、第1超音波振動子12から超音波を送信させる回路である。一方、送信回路14は、透過時間計時回路32にも接続されている。送信回路14は、第1超音波振動子12に超音波送信用の電気信号を出力するタイミングと同時に、送信タイミング信号を透過時間計時回路32へと出力する。
受信回路26は、第2超音波振動子22に接続されている。受信回路26は、第2超音波振動子22が出力する電気信号を入力することによって、第2超音波振動子22が超音波を受信したことを検出する回路である。受信回路26は、第2超音波振動子22が超音波を受信したことを検出すればよく、受信した超音波の強度を識別する必要は必ずしもない。一方、受信回路26は、透過時間計時回路32にも接続されている。受信回路26は、第2超音波振動子22から電気信号を入力したタイミングと同時に、受信タイミング信号を透過時間計時回路32へと出力する。
抵抗溶接機2では、第1超音波振動子12は超音波の送信用振動子として機能し、第2超音波振動子22は超音波の受信用振動子として機能する。図1から明らかなように、第1超音波振動子12から発信される超音波は、第1電極10とワークW1とワークW2と第2電極20を順に伝播し、第2超音波振動子22によって受信される。
【0020】
透過時間計時回路32は、第1超音波振動子12から超音波が送信された時点から、第2超音波振動子22によって超音波が受信された時点までの時間を計時する回路である。即ち、超音波が、第1超音波振動子12から、第1電極10とワークW1、W2と第2電極20を透過して、第2超音波振動子22まで到達するのに要する時間を計時する回路である。透過時間計時回路32は、送信回路14から送信タイミング信号を入力した時点から、受信回路26から受信タイミング信号を入力した時点までを計時することによって、この超音波の透過時間を計時する。
判定回路38は、透過時間計時回路32に接続されており、透過時間計時回路32が計時した透過時間を入力する。判定回路38は、透過時間計時回路32が計時した透過時間に基づいて、ワークW1、W2に施工されている溶接の良否を判定する。
【0021】
ここで、ワークW1、W2に施工されている溶接の良否を、計時された透過時間に基づいて判定する原理について、図10、図11を参照しながら説明する。図10は、ワークW1、W2の温度と、ワークW1、W2における超音波の伝播速度の関係を示すグラフである。図11は、溶接時におけるワークW1、W2の温度と、形成されるナゲットの大きさ(いわゆるナゲット径)の関係を示している。ここで、ワークW1、W2のそれぞれは、冷間圧延鋼板(SPC材)であって、それらの板厚は1.2mmである。
図10に示すように、ワークW1、W2における超音波の伝播速度は、ワークW1、W2の温度によって変化する。詳しくは、ワークW1、W2の温度が高いときほど、ワークW1、W2における超音波の伝播速度は遅くなる。従って、ワークW1、W2の板厚が同じであれば、計時された透過時間が長いときほど、ワークW1、W2における超音波の伝播速度が遅いことを示しており、ワークW1、W2の温度が高いことを意味している。このことから、計時された透過時間に基づいて、ワークW1、W2の温度を推定することが可能となる。
一方において、図11に示すように、溶接時に形成されるナゲット径は、ワークW1、W2の温度によって変化する。詳しくは、ワークW1、W2の温度が所定温度(融点)を越えた時にナゲットの生成が始まり、ワークW1、W2の温度が高くなるほど、形成されるナゲット径は大きくなる。このことから、ワークW1、W2の温度に基づいて、形成されるナゲット径を推定することができる。先に説明したように、計時された透過時間に基づいてワークW1、W2の温度を推定することが可能であることから、計時された透過時間に基づいて、形成されたナゲット径を推定することができる。詳しくは、計時された透過時間が長いときほど、ナゲット径が大きく形成されていると推定することができる。
【0022】
図1の判定回路38は、計時された透過時間に基づいて溶接の良否を判定するために、透過時間に関する基準値を記憶している。図2に、判定回路38が記憶している透過時間に関する基準値の一例を示す。図2に示すように、判定回路38は、透過時間に関する基準値を、通電時間tの関数(曲線A)によって記憶している。図2に示す曲線Aを、透過時間に関する基準推移曲線Aという。図2において、通電時間0はワークW1、W2に溶接電流の通電を開始する時点を示しており、通電時間t4は通電を終了する時点を示している。即ち、予定されている溶接電流の通電時間はt4である。通電時間の経過に伴って、ワークW1、W2の温度が上昇していくことから、透過時間の基準値も増大していく。例えば通電終了時点t4において、計時された透過時間が基準透過時間P6を超えていれば、ワークW1、W2が予定された温度に到達しており、その結果、予定された大きさのナゲットが形成されたと判断することができる。以下、溶接電流の通電開始時点t=0に対する透過時間の基準値P1を開始基準値P1といい、溶接完了時点t=t4に対する透過時間の基準値P6を完了基準値P6ということがある。
透過時間に関する基準推移曲線は、ワーク寸法やワーク材質や必要とする接合強度等によって様々に変化する。透過時間に関する基準推移曲線は、実験や計算に基づいて予め作成しておくことができる。基準推移曲線には、ワークW1、W2の温度変化に伴う超音波の伝播速度の変化や、ワークW1、W2の温度変化に伴うワークW1、W2の体積変化等が加味されている。判定回路38は、複数種類の基準推移曲線を記憶している。
【0023】
表示装置34は、判定回路38による判定結果を表示する装置であって、判定回路38による判定結果を作業者等に報知するための装置である。表示装置34は、例えば「溶接正常」や「温度未達」や「溶接異常」等を表示することができる。
コントローラ50は、抵抗溶接機2の動作を制御する制御装置である。コントローラ50は、ワークW1、W2に施工する溶接箇所毎に、溶接電流や、通電時間や、溶接電極10、20をワークW1、W2に当接させる当接力等のパラメータを記憶している。コントローラ50は、記憶している溶接パラメータ等に基づいて、抵抗溶接機2の各部の動作を制御したり、一対の溶接電極10、20が設けられている移動装置等に動作指令を与えたりする。また、コントローラ50には、判定回路38による判定結果が入力されるようになっている。詳しくは後述するが、コントローラ50は、判定回路38による判定結果に基づいて、電源回路42の動作を制御する。
【0024】
図3は、抵抗溶接機2が実施する動作の流れを示すフローチャートである。図3に示す動作フローに沿って、抵抗溶接機2がワークW1、W2に抵抗溶接を施工する際の動作の流れについて説明する。
ステップS2では、第1溶接電極10と第2溶接電極20によって、重畳配置されているワークW1とワークW2を加圧挟持する。先に説明したように、第1溶接電極10と第2溶接電極20の位置は、ロボットアーム等の移動装置によって調節することができる。移動装置は、コントローラ50の動作指令を受けて、一対の溶接電極10、20によって、ワークW1、2を加圧する。
【0025】
ステップS4では、溶接電流を通電するに先立って、通電前における超音波の透過時間を計時する。送信回路14は、コントローラ50からの動作指令を受けて、第1超音波振動子12から超音波を送信する。同時に、送信回路14は、送信タイミング信号を透過時間計時回路32へと出力する。図4(a)に示すように、第1超音波振動子12から送信された超音波は、ワークW1、W2を透過し、第2超音波振動子22によって受信される。第2超音波振動子22が超音波を受信すると、受信回路26は受信タイミング信号を透過時間計時回路32へと出力する。透過時間計時回路32は、送信タイミング信号と受信タイミング信号に基づいて、第1超音波振動子12から第2超音波振動子22までの超音波の透過時間を計時する。透過時間計時回路32が計時した透過時間は、判定回路38へと出力される。
通電前における超音波の透過時間は、ワークW1、W2が加熱される前であることから、主に超音波振動子12、22間の距離によって変動する。従って、ワークW1、W2の板厚に製造誤差が生じていたり、溶接電極10、20に摩耗が生じていたりすると、通電前における超音波の透過時間は変動することとなる。
以下では、このステップS4における透過時間の計時値が例えばP2(図2参照)であったものとして、以降の動作フローについて説明を続ける。図2に示すように、透過時間P2は、開始基準値P1よりも長いものとする。
【0026】
ステップS6では、判定回路38が、ステップS4で計時された通電前における透過時間P2に基づいて、記憶している透過時間に関する基準推移曲線(図2中の曲線A)を修正する。図2に示すように、判定回路38は、ステップS4で計時された透過時間P2と、記憶している開始基準値P1との差分に基づいて、基準推移曲線Aを修正する。詳しくは、基準推移曲線Aが記述している透過時間の基準値に、その差分P2−P1を加算して、新たな基準推移曲線Bを作成する。それにより、完了基準値P6は、新たな完了基準値P7へと修正される。ここで、P7=P6+(P2−P1)である。このステップS6の処理によって、ワークW1、W2の板厚に生じている製造誤差や、溶接電極10、20に生じている摩耗等による影響を受けることなく、正確な判定を行うことが可能となる。
【0027】
図3のステップS8では、溶接電流の通電が開始される。電源回路42は、コントローラ50の指令に従って、一対の電極10、20間に溶接電流を通電する。ワークW1、W2は、溶接電流が通電されることによって、急速に加熱されていく。
ステップS10では、図4(b)に示すように、溶接電流の通電中における超音波の透過時間を計時する。超音波の透過時間の計時は、先に説明したステップS6と同様に行われる。後述するように、通電中における超音波の透過時間は、通電期間中に亘って繰り返し行われる。図5に、通電中における透過時間の経時変化(図中の曲線C)を例示する。図5中の曲線Bは、図2に示した修正後の基準推移曲線Bを示している。
以下では、現時点の通電時間がt3であって、透過時間の計時値が例えばPm3(図5)であったものとして、以降の動作フローについて説明を続ける。
【0028】
ステップS12では、判定回路38が、修正後の基準推移曲線Bに基づいて、ステップS10で計時された通電中における超音波の透過時間を判定する。詳しくは、透過時間を計時した時点の通電時間(ここではt3)に対して修正後の基準推移曲線Bが記述している基準値(ここではP3)に基づいて、計時された透過時間(ここではPm3)を判定する。計時された透過時間Pm3が基準値P3と略等しければ、ワークW1、W2の温度が予定通りに上昇しており、溶接が正常に進行していると判断できる。計時された透過時間Pm3が基準値P3を下回っていれば、ワークW1、W2の温度上昇が不足しており、溶接の進行が遅れていると判断できる。計時された透過時間Pm3が基準値P3を上回っていれば、ワークW1W2の温度上昇が過剰となっており、溶接の進行が過剰に進んでいると判断できる。本実施例の判定回路38は、基準値P3に対して許容幅ΔPを設定する。そして、計時された透過時間Pm3が許容範囲P3±ΔP内であれば「温度正常」と判定し、計時された透過時間Pm3が許容範囲P3−ΔP以下であれば「温度不足」と判定し、計時された透過時間Pm3が許容範囲P3+ΔP以下であれば「温度過剰」と判定する。
【0029】
ステップS14では、予定された通電時間が経過しているのか否かが判定される。予定された通電時間t4が経過していればステップS16へ進み、予定された通電時間が経過していなければステップS22へ進む。
予定された通電時間が経過しておらず、ステップS22に進んだ場合は、ステップS12の判定結果に基づいて、溶接電流を増減調節が行われる。詳しくは、「温度不足」と判定されていれば溶接電流を増大し、「温度過剰」と判定されていれば溶接電流を減少し、「温度正常」と判定されていれば溶接電流の調節を行わない。例えば図5に示すように、通電時間t3において溶接電流が増大されると、ワークW1、W2の温度上昇速度が増大することから、以降に計時される透過時間の上昇速度も増大していく。
溶接電流の調節後は、再びステップS10へと戻る。以降、予定された通電時間が経過し、ステップS14でイエスとなるまで、ステップS10、S12、S14、S22の処理が順次繰り返される。
予定された通電時間t4が経過し、ステップS16に進んだ場合は、溶接電流の通電が停止される。即ち、抵抗溶接が終了する。
【0030】
ステップS18では、ステップS12における判定結果が、表示装置34等に表示される。図5に示すように、このステップS18で表示される判定結果は、溶接完了時点t4において計時された透過時間Pm4を、完了基準値P7に基づいて判定した判定結果である。即ち、表示装置34等に表示される判定結果によって、施工された溶接が正常に行われたのか否かを知ることができる。例えば「温度不足」と表示された場合は、十分な大きさのナゲットNが形成されておらず、必要な接合強度を有していないと判断することができる。
【0031】
本実施例の抵抗溶接機2では、抵抗溶接を施工すると同時に、施工した溶接部の正常/異常を判定することができる。それにより、後工程において溶接部を検査する必要がない。また、抵抗溶接が異常に施工されたワークW1、W2が後工程に進むことを防止することもできる。
本実施例の抵抗溶接機2では、第1溶接電極10の第1超音波振動子12から超音波を送信し、第2溶接電極12の第2超音波振動子22によって超音波を受信して、その送受信の時間差に基づいて溶接の良否を判定する。それにより、第2超音波振動子22は、受信した超音波の強度を識別する必要がなく、超音波の受信の有無を識別すれば足りる。溶接の良否を判定する際に、外乱によって影響を受けやすい超音波の強度を用いることがないので、外乱に影響を受けることなく正確な判定を行うことができる。
【0032】
(実施例2)
図6は、本発明の技術を実施した実施例2の抵抗溶接機102の構成を模式的に示している。実施例2の抵抗溶接機102の一部には、実施例1の抵抗溶接機2と同一の構成が採用されている。従って、実施例1の抵抗溶接機2と同一の構成については、同一の符号を付すことによって、重複して説明することは避けるように努める。
本実施例の抵抗溶接機102は、例えば重畳配置されているワークW1とワークW2とワークW3に抵抗溶接を施工することができる。ワークW3はめっき鋼板であり、その表面にめっき層Yが形成されている。
【0033】
本実施例の抵抗溶接機102は、第1電極10と第2電極20と電源回路42を備えている。第1電極10側には第1超音波振動子12が設けられており、第2電極22側には第2超音波振動子22が設けられている。
抵抗溶接機102は、第1送信回路(実施例1の送信回路に相当する)14と、第1受信回路116と、第2送信回路124と、第2受信回路(実施例1の受信回路に相当する)26を備えている。第1送信回路14と第2送信回路124は、同一の回路で構成することができる。第1受信回路116と第2受信回路26は、同一の回路で構成することができる。第1送信回路14と第1受信回路116は、第1超音波振動子12に接続されている。第2送信回路124と第2受信回路26は、第2超音波振動子22に接続されている。従って、本実施例の抵抗溶接機102では、第1溶接電極10の第1超音波振動子12と第2溶接電極20の第2超音波振動子22のそれぞれが、超音波の送信用振動子として機能するとともに、超音波の受信用振動子としても機能する。例えば第1超音波振動子12から送信された超音波は、第2超音波振動子22によって受信されるとともに、第1超音波振動子12自身によっても受信される。また、第2超音波振動子22から送信された超音波は、第1超音波振動子12によって受信されるとともに、第2超音波振動子22自身によっても受信される。
【0034】
図6に示すように、第1送信回路14は、第1計時回路118と透過時間計時回路32のそれぞれに接続されている。第1送信回路14が出力する送信タイミング信号は、第1計時回路118と透過時間計時回路32のそれぞれに入力される。第1受信回路116は、第1計時回路118に接続されている。第1受信回路116が出力する受信タイミング信号は、第1計時回路118に入力される。
第1計時回路118は、第1送信回路14から送信タイミング信号を入力した時点から、第1受信回路116から受信タイミング信号を入力した時点までを計時する回路である。即ち、第1計時回路118は、第1超音波振動子12が超音波を送信した時点から、第1超音波振動子12が超音波を受信する時点までの時間を計時することができる。図8(a)に示すように、第1計時回路118が計時する時間は、第1超音波振動子12から送信された超音波が、第1溶接電極10の先端10aにおいて反射し、第1超音波振動子12によって受信されるまでの時間Paである。この第1電極10内を超音波が伝播する時間Paを、第1伝播時間Paとする。
【0035】
第2送信回路124は、第2計時回路128に接続されている。第2送信回路124が出力する送信タイミング信号は、第2計時回路128に入力される。第2受信回路26は、第2計時回路128と透過時間計時回路32のそれぞれに接続されている。第2受信回路26が出力する受信タイミング信号は、第2計時回路128と透過時間計時回路32のそれぞれに入力される。
第2計時回路128は、第2送信回路124から送信タイミング信号を入力した時点から、第2受信回路26から受信タイミング信号を入力した時点までを計時する回路である。即ち、第2計時回路128は、第2超音波振動子22が超音波を送信した時点から、第2超音波振動子22が超音波を受信する時点までの時間を計時することができる。図8(a)に示すように、第2計時回路128が計時する時間は、第2超音波振動子22から送信された超音波が、第2溶接電極20の先端20aで反射して、第2超音波振動子22によって受信されるまでの時間Pbである。この第2溶接電極20内を超音波が伝播する時間Pbを、第2伝播時間Pbとする。
【0036】
判定回路138は、第1計時回路118と第2計時回路128と透過時間計時回路32のそれぞれに接続されている。判定回路138は、第1計時回路118が計時した第1伝播時間Paと、第2計時回路128が計時した第2伝播時間Pbと、透過時間計時回路32が計時した透過時間を入力し、それらの計時時間に基づいて施工されている溶接の良否を判定する。
図8(a)(b)に示すように、第1計時回路118が計時した第1伝播時間Paと、第2計時回路128が計時した第2伝播時間Pbと、透過時間計時回路32が計時した透過時間Pcと、超音波がワークW1、W2、W3を透過するのに要した実透過時間Pdとの間には、次式の関係が成立する。
Pd=Pc−{(Pa/2)+(Pb/2)}
判定回路138は、上記の関係式を利用して実透過時間Pdを算出し、実透過時間Pdに基づいて溶接の良否を判定する。溶接電極10、20内における超音波の伝播速度は、溶接電極10、20の温度によって変化する。実透過時間Pdを用いることによって、溶接電極10、20内における超音波の伝播速度変化による影響を受けることなく、溶接の良否を正しく判定することができる。
判定回路138は、実施例1で説明した透過時間に関する基準推移曲線Aに換えて、実透過時間Pdに関する基準推移曲線を記憶している。実透過時間Pdに関する基準推移曲線は、実施例1の基準推移曲線Aと同様に、実験や計算によって予め用意しておくことができる。
【0037】
図7は、抵抗溶接機102が実施する動作の流れを示すフローチャートである。図7に示す動作フローに沿って、抵抗溶接機102がワークW1、W2、W3に抵抗溶接を施工する際の動作の流れについて説明する。
ステップS102では、図8(a)に示すように、一対の溶接電極10、20によってワークW1、W2、W3を加圧するに先立って、溶接電流の通電前における第1伝播時間Paと第2伝播時間Pbを計時する。第1伝播時間Paや第2伝播時間Pbは、それぞれ第1溶接電極10や第2溶接電極20に生じている摩耗等によって変化する。溶接電流の通電前に第1伝播時間Paと第2伝播時間Pbを計時しておくことによって、第1溶接電極10や第2溶接電極20に生じている摩耗等を把握することができる。このとき、例えば第1伝播時間Paが所定値を下回っており、第1溶接電極10に許容レベルを超える摩耗が生じていると推定される場合には、溶接動作を中止するようにしてもよい。
ステップS104では、一対の溶接電極10、20によってワークW1、W2、W3を加圧挟持する。
ステップS106では、図8(b)に示すように、溶接電流を通電するに先立って、通電前における超音波の透過時間Pcを計時する。第1送信回路14によって第1超音波振動子12から超音波が送信され、第2受信回路26によって第2超音波振動子22が超音波を受信したことが検出される。透過時間計時回路32は、第1送信回路14から入力する送信タイミング信号と、第2受信回路26から入力する受信タイミング信号によって、超音波の透過時間Pcを計時する。
【0038】
ステップS108では、判定回路138が、ステップS2で計時した第1伝播時間Paおよび第2伝播時間Pbと、ステップS106で計時した透過速度Pcから、通電前における実透過時間Pdを算出する。
ステップS110では、判定回路138が、ステップS108で算出した通電前における実透過時間Pdに基づいて、実透過時間に関する基準推移曲線を修正する。この修正処理は、実施例1で説明した図3のステップS6の修正処理と同様に実行される。
ステップS112では、溶接電流の通電が開始される。
ステップS114では、図8(c)に示すように、通電中における第1伝播時間Paと第2伝播時間Pbが計時される。溶接電流の通電中では、溶接電極10、20の温度が上昇する。溶接電極10、20の温度が上昇することによって、溶接電極10、20内を超音波が伝播する速度が低下する。その結果、溶接電極10、20の温度上昇に伴って、通電中における第1伝播時間Paと第2伝播時間Pbは増大していく。そのことから、例えば通電中における第1伝播時間Paに基づいて、第1溶接電極10の温度を推定することができる。厳密に推定する場合は、通電前(常温)における第1伝播時間Paと通電中における第1伝播時間Paとの比に基づいて、第1溶接電極10の温度を推定するとよい。同様に、通電中における第2伝播時間Pbに基づいて、第2溶接電極20の温度を推定することができる。
【0039】
ステップS116では、図8(d)に示すように、通電中における透過時間Pcが計時される。第1超音波振動子12から送信された超音波は、ワークW1、W2、W3内に形成されている溶融部(ナゲット)Nを通過し、第2超音波振動子22によって受信される。ステップS116で計時される透過時間Pcは、ワークW1、W2、W3の温度に応じて変化する。
ステップS118では、判定回路138が、ステップS114で計時した第1伝播時間Paおよび第2伝播時間Pbと、ステップS116で計時した透過速度Pcから、通電中における実透過時間Pdを算出する。
【0040】
ステップS120では、判定回路138が、算出した実透過時間Pdの判定処理に先立って、ステップS114で計時された通電中における第1伝播時間Paと第2伝播時間Pbに基づいて、実透過時間Pdに関する基準推移曲線を再度修正する。
図9は、ワークW1、W2、W3の板厚方向における温度分布を説明する図である。図9(a)は板厚方向の温度分布が適切なときのナゲットNの形成位置を示しており、図9(b)はそのときの板厚方向の温度分布を示している。図9(c)は板厚方向の温度分布が偏っているときのナゲットNの形成位置を示しており、図9(d)はそのときの板厚方向の温度分布を示している。図9に示すように、例えばワークW1、W2、W3内の到達温度が同じTcであっても、板厚方向の温度分布によって形成されるナゲットNは異なることとなる。図9(c)に示すように、温度分布がワークW1側に偏っていると、ナゲットNがワークW1側に偏在することとなり、ワークW2とワークW3間に接合不良が生じてしまう。このような現象は、本実施例のように多数のワークを同時に溶接する場合等に生じやすい。
【0041】
本実施例の抵抗溶接機102では、第1伝播時間Paに基づいて第1溶接電極10の先端部10aの温度(ワークW1の表面温度に相当する)Taを推定し、第2伝播時間Pbに基づいて第2溶接電極20の先端部20aの温度(ワークW3の表面温度に相当する)Tbを推定する。図9(b)に示すように、推定した温度Taと推定した温度Tbが略等しければ、板厚方向の温度分布が適正であると判断できる。この場合、判定回路138は、基準推移曲線の修正は行わない。一方、図9(d)に示すように、推定した温度Taと推定した温度Tbに有意な差異が生じていれば、板厚方向の温度分布が偏っていると判断できる。この場合、判定回路138は基準推移曲線の修正処理を実行する。判定回路138は、基準推移曲線が記述している実透過時間Pdを増大させ、修正後の基準推移曲線を作成する。それにより、ワークW1、W2、W3の目標到達温度が高められることとなり、ナゲットNがより大きく形成されることとなる。図9(c)に示すようにナゲットNが偏在していても、ワークW1、W2、W3を併せて溶接することができ、必要な接合強度を得ることができる。
【0042】
図7のステップS122では、ステップS120で修正された基準推移曲線に基づいて、ステップS118で算出された実透過時間Pdを判定する。この判定処理は、実施例1で説明した図3のステップS12の判定処理と同様に実行される
ステップS124では、ステップS118で算出された実透過時間Pdが、実透過時間Pdに関する完了基準値を超えているのか否かを判定する。算出された実透過時間Pdが完了基準値を超えていれば、ワークW1、W2、W3の温度が十分に上昇しており、必要な接合強度が得られるナゲットNが形成されたと判断できる。この場合、ステップS126へ進み、溶接電流の通電を終了する。一方、算出された実透過時間Pdが完了基準値を超えていなければ、さらに溶接電流の通電を継続する必要がある。この場合、ステップS132へ進み、S122の判定結果に基づいて溶接電流の増減調節を行う。次いで、再びステップS114へと戻り、算出される実透過時間Pdが完了基準値を超えるまで、ステップS114以降を繰り返し実行する。
【0043】
抵抗溶接機102では、ワークW1、W2、W3等を超音波が透過する時間に基づいて、溶接中におけるワークW1、W2、W3内の溶接状態を逐次推定することができる。そして、抵抗溶接機102は、ワークW1、W2、W3に十分なナゲットNが形成される時点まで、溶接電流の通電を継続する。抵抗溶接機102は、判定回路138の判定結果に基づいて溶接電流の通電期間を増減調整することによって、必要な接合強度が得られる溶接をより確実に施工することができる。
抵抗溶接機102によると、各ワークの板厚に寸法誤差が生じていても、溶接電極に摩耗が生じていても、ワークの板厚方向の温度分布に偏りが生じていても、ワーク群を十分な接合強度で溶接することができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例1の抵抗溶接機の構成を示す模式図。
【図2】透過時間に関する基準推移曲線とその修正を例示する図。
【図3】実施例1の抵抗溶接機の動作の流れを示すフローチャート。
【図4】超音波の透過時間を計時する様子を示す図。
【図5】計時される透過時間の経時変化を例示する図。
【図6】実施例2の抵抗溶接機の構成を示す模式図。
【図7】実施例2の抵抗溶接機の動作の流れを示すフローチャート。
【図8】超音波の伝播時間および透過時間を計時する様子を示す図。
【図9】ワーク内における適切な温度分布と偏った温度分布を説明する図。
【図10】ワークの温度とワーク内における超音波の伝播速度の関係を示す図。
【図11】ワークの温度と形成されるナゲットの大きさの関係を示す図。
【符号の説明】
【0046】
2・・実施例1の抵抗溶接機
10・・第1溶接電極
12・・第1超音波振動子
14・・送信回路(第1送信回路)
20・・第2溶接電極
22・・第2超音波振動子
26・・受信回路(第2受信回路)
32・・透過時間計時回路
34・・表示装置
38・・実施例1の判定回路
42・・電源回路
50・・コントローラ
102・・実施例2の抵抗溶接機
116・・第1受信回路
118・・第1計時回路
124・・第2送信回路
128・・第2計時回路
138・・実施例2の判定回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1溶接電極と、
第2溶接電極と、
第1溶接電極と第2溶接電極の間に被溶接材を通じて溶接電流を通電する通電手段と、
第1溶接電極側に設けられている超音波の送信手段と、
第2溶接電極側に設けられている超音波の受信手段と、
超音波送信手段が超音波を送信する時点から、超音波受信手段が超音波を受信する時点までの時間を計時する電極間計時手段と、
を備える抵抗溶接機。
【請求項2】
前記電極間計時手段によって計時された計時時間が、所定の基準範囲内にあるのか否かを判定する計時時間判定手段が付加されていることを特徴とする請求項1の抵抗溶接機。
【請求項3】
前記計時時間判定手段は、前記計時手段が溶接電流の通電前において計時した計時時間に基づいて、前記基準範囲を修正することを特徴とする請求項1又は2の抵抗溶接機。
【請求項4】
前記通電手段は、前記判定手段の判定結果に基づいて、溶接電流を増減調節することを特徴とする請求項1から3のいずれかの抵抗溶接機。
【請求項5】
前記通電手段は、前記判定手段の判定結果に基づいて、溶接電流の通電時間を長短調節することを特徴とする請求項1から4のいずれかの抵抗溶接機。
【請求項6】
前記第1溶接電極側に設けられている超音波の受信手段と、
前記第2溶接電極側に設けられている超音波の送信手段と、
前記第1溶接電極側の超音波送信手段が超音波を送信する時点から、前記第1溶接電極側の超音波受信手段が超音波を受信するまでの時間を計時する第1電極側計時手段と、
前記第2溶接電極側の超音波送信手段が超音波を送信する時点から、前記第2溶接電極側の超音波受信手段が超音波を受信するまでの時間を計時する第2電極側計時手段と、
が付加されていることを特徴とする請求項1の抵抗溶接機。
【請求項7】
前記電極間計時手段によって計時された計時時間と、第1電極側計時手段によって計時された計時時間と、第2電極側計時手段によって計時された計時時間から算出される超音波が被溶接材を透過するのに要した実透過時間が、所定の基準範囲内にあるのか否かを判定する透過時間判定手段が付加されていることを特徴とする請求項6の抵抗溶接機。
【請求項8】
前記判定手段は、前記第1電極側計時手段によって計時された計時時間と第2電極側計時手段によって計時された計時時間に基づいて、算出した前記実透過時間および/又は前記基準範囲を修正することを特徴とする請求項7の抵抗溶接機。
【請求項9】
抵抗溶接の良否を判定する方法であって、
一方の溶接電極側から超音波を送信する送信工程と、
他方の溶接電極側において超音波を受信する受信工程と、
送信工程において超音波を送信した時点から、受信工程において超音波を受信した時点までの時間を計時する計時工程と、
前記計時工程において計時した計時時間が、所定の基準範囲内にあるのか否かを判定する判定工程と、
を備える判定方法。
【請求項1】
第1溶接電極と、
第2溶接電極と、
第1溶接電極と第2溶接電極の間に被溶接材を通じて溶接電流を通電する通電手段と、
第1溶接電極側に設けられている超音波の送信手段と、
第2溶接電極側に設けられている超音波の受信手段と、
超音波送信手段が超音波を送信する時点から、超音波受信手段が超音波を受信する時点までの時間を計時する電極間計時手段と、
を備える抵抗溶接機。
【請求項2】
前記電極間計時手段によって計時された計時時間が、所定の基準範囲内にあるのか否かを判定する計時時間判定手段が付加されていることを特徴とする請求項1の抵抗溶接機。
【請求項3】
前記計時時間判定手段は、前記計時手段が溶接電流の通電前において計時した計時時間に基づいて、前記基準範囲を修正することを特徴とする請求項1又は2の抵抗溶接機。
【請求項4】
前記通電手段は、前記判定手段の判定結果に基づいて、溶接電流を増減調節することを特徴とする請求項1から3のいずれかの抵抗溶接機。
【請求項5】
前記通電手段は、前記判定手段の判定結果に基づいて、溶接電流の通電時間を長短調節することを特徴とする請求項1から4のいずれかの抵抗溶接機。
【請求項6】
前記第1溶接電極側に設けられている超音波の受信手段と、
前記第2溶接電極側に設けられている超音波の送信手段と、
前記第1溶接電極側の超音波送信手段が超音波を送信する時点から、前記第1溶接電極側の超音波受信手段が超音波を受信するまでの時間を計時する第1電極側計時手段と、
前記第2溶接電極側の超音波送信手段が超音波を送信する時点から、前記第2溶接電極側の超音波受信手段が超音波を受信するまでの時間を計時する第2電極側計時手段と、
が付加されていることを特徴とする請求項1の抵抗溶接機。
【請求項7】
前記電極間計時手段によって計時された計時時間と、第1電極側計時手段によって計時された計時時間と、第2電極側計時手段によって計時された計時時間から算出される超音波が被溶接材を透過するのに要した実透過時間が、所定の基準範囲内にあるのか否かを判定する透過時間判定手段が付加されていることを特徴とする請求項6の抵抗溶接機。
【請求項8】
前記判定手段は、前記第1電極側計時手段によって計時された計時時間と第2電極側計時手段によって計時された計時時間に基づいて、算出した前記実透過時間および/又は前記基準範囲を修正することを特徴とする請求項7の抵抗溶接機。
【請求項9】
抵抗溶接の良否を判定する方法であって、
一方の溶接電極側から超音波を送信する送信工程と、
他方の溶接電極側において超音波を受信する受信工程と、
送信工程において超音波を送信した時点から、受信工程において超音波を受信した時点までの時間を計時する計時工程と、
前記計時工程において計時した計時時間が、所定の基準範囲内にあるのか否かを判定する判定工程と、
を備える判定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−326656(P2006−326656A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−155328(P2005−155328)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(391009833)株式会社ナ・デックス (8)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(391009833)株式会社ナ・デックス (8)
【Fターム(参考)】
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