説明

押出機の脱揮装置及び方法

【課題】リヤベントシリンダに設けた原料供給口から原料溶液を供給することにより、リヤベント及び排気ラインの閉塞を防止することが可能な脱気装置及び脱揮方法を提供する。
【解決手段】スクリュ2を内設したシリンダ1の外周にリヤベント8とフロントベント9及び原料供給口11とを有し、原料供給口11から供給された原料溶液10から揮発性物質をリヤベント8及びフロントベント9から除去するようにし、前記原料供給口11は、リヤベント8が設けられたシリンダ1のリヤベントシリンダ5に設けられている構成と方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出機の脱揮装置に関し、特に、リヤベントシリンダに設けた原料供給口から原料溶液を供給することにより、リヤベント及び排気ラインの閉塞を防止するための新規な改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、用いられいたこの種の押出機の脱揮装置としては、例えば、特許文献1に開示された構成を図8に示すことができる。
すなわち、図8において符号1で示されるものは二軸型のスクリュ2が回転自在に内設されたシリンダであり、このスクリュ2はモータ3及び減速機4を介して回転駆動するように構成されている。
【0003】
前記シリンダ1は、図示上は、リヤベントシリンダ5、原料溶液供給シリンダ6及びフロントベントシリンダ7の3ブロック(3ブロック以上も可)によって構成され、このシリンダ1の上流側1Aにはリヤベント8が設けられ、その下流側1Bにはフロントベント9が配設されている。
前記リヤベント8とフロントベント9との間には、原料溶液10をシリンダ1内に供給するための原料供給口11が形成されている。
【0004】
前記リヤベント8には、排気ライン12が接続されてガス等が廃棄され、前記フロントベント9には真空ポンプ等に接続された真空排気ライン13が接続され、前記スクリュ2の前記フロントベント9側には、ニーディングディスク等からなる混練部14が設けられている。
【0005】
次に、動作について説明する。前記シリンダ1内に内挿されたスクリュ2はモータ3の回転により減速機4を介して回転する。
このスクリュ2の回転により原料供給口11からシリンダ1内に供給された揮発性物質を含む原料溶液10は、この原料供給口11に対して下流側に配備したフロントベント9を通過し、図示していないシリンダ1の先端の吐出口から図示しない水中カット装置へ供給される。
【0006】
前記原料供給口11の上流側に位置するリヤベント8では、原料溶液10の供給時にこの原料溶液10から分離した揮発性物質を除去し、原料溶液10の濃縮化が行われる。
次に、前記フロントベント9では、図示していない真空ポンプによって減圧状態にされ、この原料溶液10から揮発性物質が脱揮され、原料溶液10中の揮発性物質濃度が低下する。
このフロントベント9は、図では1段であるが、押出される原料中に残留する揮発性物質濃度の効率的な低減のために多段状に配備されることもある。
この場合、各ベント8,9・・・間には、スクリュ2に混練部14を組み込み、シリンダ1内に原料溶液10を十分に充満させ、気密性を保持させて減圧状態としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−268098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の押出機の脱揮装置は、以上のように構成されていたため、次のような課題が存在していた。
すなわち、押出機にリヤベントを配備し、原料供給口から原料溶液を供給した際に分離した揮発性物質を除去し、原料溶液を濃縮している。しかし、原料溶液の組成物(プラスチック、または、合成ゴム)自体の溶融粘度が高く、揮発性物質濃度が高い場合、供給する原料溶液自体の温度と、原料供給口での圧力の変化により、原料溶液中の揮発性物質が膨張し、組成物から分離する際に、組成物を崩壊させると共に、分離した揮発性物質が組成物から熱を奪うため、組成物が粉々の粒子となり、分離した揮発性物質と共にリヤベントに輸送され、粉々の粒子がリヤベントの開口穴及び排気ラインを閉塞させてしまう問題がある。
このような場合、従来装置では、図9のように、原料供給口11からリヤベント8までの空間面積A1が約0.6D (シリンダ内径)と小さいため、原料供給口からリヤベントまでのシリンダとスクリュで形成される空間容積を大きくして、原料供給口からリヤベントにかけて流れる揮発性物質のガス流体の流速を低下させる対策を取るが、単に、空間容積を大きくするだけでは不十分で、組成物が粉々の粒子を捕獲し、押出機の下流側へ搬送するスクリュの径も同時に大きくする必要がある。そのため、例え、原料溶液の脱揮処理量が少なくても大きい装置が必要となり、そのような脱揮設備を導入する場合、投資金額が高くなり、設備投資に慎重にならざるを得なかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による押出機の脱揮装置は、スクリュを内設したシリンダの外周にリヤベントとフロントベント及び原料供給口とを有し、前記原料供給口から供給された原料溶液から揮発性物質を前記リヤベント及びフロントベントから除去するようにした押出機の脱揮装置において、前記原料供給口は、前記リヤベントが設けられた前記シリンダのリヤベントシリンダに設けられている構成であり、また、前記原料供給口は、前記リヤベントシリンダの周方向で、かつ、スクリュ軸断面でスクリュフライトのスクリュフライト上部端より下方に位置する前記リヤベントシリンダの側面又は底面に配設され、前記リヤベントのリヤベント開口穴は前記リヤベントシリンダの上面に形成されている構成であり、また、前記リヤベント開口穴の開口面積は、二軸スクリュ押出機の場合で、2.0D≦A≦10D(Dは二軸スクリュ押出機のシリンダの内径)とした構成であり、また、本発明による押出機の脱揮方法は、スクリュを内設したシリンダの外周にリヤベントとフロントベント及び原料供給口とを有し、前記原料供給口から供給された原料溶液から揮発性物質を前記リヤベント及びフロントベントから除去するようにした押出機の脱揮方法において、前記原料供給口は、前記リヤベントが設けられた前記シリンダのリヤベントシリンダに設けられている方法であり、また、前記原料供給口は、前記リヤベントシリンダの周方向で、かつ、スクリュ軸断面でスクリュフライトのスクリュフライト上部端より下方に位置する前記リヤベントシリンダの側面又は底面に配設され、前記リヤベントのリヤベント開口穴は前記リヤベントシリンダの上面に形成されている方法であり、また、前記リヤベント開口穴の開口面積は、二軸スクリュ押出機の場合で、2.0D≦A≦10D(Dは二軸スクリュ押出機のシリンダの内径)とした方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明による押出機の脱揮装置及び方法は、以上のように構成されているため、次のような効果を得ることができる。
すなわち、リヤベントに直接、原料溶液を供給する原料供給口を設置し、その原料供給口は、リヤベントシリンダの周方向で、かつ、スクリュ軸断面でスクリュフライト上部端より下に位置するリヤベントシリンダの横、または下部に配備し、揮発性物質を系外に除去するためのリヤベントの開口穴は、リヤベントの上部に配備することにより、原料溶液の供給と共に分離した揮発性物質のガスが、リヤベントの開口穴全体に拡散して上昇するようになるため、ガス流体の流速を低下することができ、かつ、原料供給口が輸送スクリュが介在する位置にあり、粉々になった組成物粒子を捕獲し、押出機下流側へ搬送することができるため、粉々の粒子がリヤベントの開口穴及び排気ラインを閉塞させる問題を発生させずに、揮発性物質のみを除去することを可能にしたため、シリンダを径大化して装置を大きくする必要がなくなる。
また、リヤベントに対応して直接原料供給口を配備するため、従来、リヤベント、原料供給口、それぞれ専用のシリンダブロックが必要で機械が長くなっていたが、一体型にすることにより、シリンダブロックを1ブロック削減でき、機械の長さを短くすることも可能となる。
従来装置では、揮発性物質のガス流速は、原料供給口からリヤベントまでのシリンダとスクリュで形成される空間容積に左右され、その面積は0.6Dであったが、本発明では、従来構成と比べて揮発性物質のガス流速を、約1/3〜1/17に低下できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による押出機の脱揮装置を示す概略構成図(軸方向断面図)である。
【図2】図1における揮発性物質のガス流路及びリヤベントの開口穴面積を示す概略構成図である。
【図3】図1の原料供給口の同方向噛み合い二軸スクリュの状態を示す概略構成図である。
【図4】図3の二軸スクリュの異方向噛み合い二軸スクリュの原料供給口の状態を示す概略構成図である。
【図5】図4の各スクリュの逆方向回転の原料供給口の状態を示す概略構成図である。
【図6】本発明における二軸スクリュの他の回転状態を示す構成図である。
【図7】図6の他の形態を示す構成図である。
【図8】従来の押出機の脱揮装置の概略構成図である。
【図9】図8の脱揮装置における揮発性物質のガス流路及び空間断面積を示す概略構成図(軸断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、上記のような従来の問題を解決するためになされたもので、特に、リヤベントに対応して原料供給口を設け、押出機に原料溶液を提供した際に、分離した揮発性物質を除去するリヤベントにおいて、粉々の粒子により、リヤベントの開口穴及び排気ラインを閉塞させる従来の問題を発生させずに揮発性物質のみを除去し、脱揮装置を大型にすることがない押出機の脱揮装置及び方法を提供することを目的とする。
【実施例】
【0013】
以下、図面と共に本発明による押出機の脱揮装置及び方法の好適な実施の形態について説明する。
尚、従来例と同一又は同等部分については、同一符号を用いて説明する。
図1において、符号1で示される二軸型のスクリュ2が回転自在に内設されたシリンダであり、このスクリュ2はモータ3及び減速機4を介して回転駆動するように構成されている。
【0014】
前記シリンダ1の外周には、図示上は、リヤベントシリンダ5及びフロントベントシリンダ7の2ブロック(2ブロック以上も可)によって構成され、このシリンダ1の上流側1Aの上部にはリヤベント8が設けられ、その下流側1Bにはフロントベント9が配設されている。
前記リヤベント8が設けられたリヤベントシリンダ5の前記リヤベント8と対応する位置には、原料溶液10をシリンダ1内に供給するための原料供給口11が設けられている。
【0015】
前記原料供給口11は、リヤベントシリンダ5の周方向で、かつ、スクリュ軸断面でスクリュフライトのスクリュフライト上部端20(図3、図4、図5に示す)より下方に位置する前記リヤベントシリンダ5の側面1C又は底面1Dに配設され、このリヤベント8のリヤベント開口穴8Aは前記リヤベントシリンダ5の上面にハッチング模様で示すように形成されている。
【0016】
前記リヤベント8には、排気ライン12が接続されてガス等が排気され、前記フロントベント9には真空モータ等に接続された真空排気ライン13が接続され、前記スクリュ2の前記フロントベント9側には、ニーディングディスク等からなる混練部14が設けられている。
【0017】
次に、動作について説明する。前記シリンダ1内に内挿されたスクリュ2はモータ3の回転により減速機4を介して回転する。
このスクリュ2の回転により原料供給口11から供給された揮発性物質を含む原料溶液10は、リヤベント8のリヤベント開口穴8Aから図3、図4、図5で示されるように揮発性物質が分離除去されると共に、シリンダ1内に内挿されたスクリュ2の回転により下流側へ輸送され、原料供給口11に対して下流側に配設したフロントベント9を通過し、さらに、揮発性物質を除去しつつ図示されていないシリンダ1のシリンダ先端から吐出される。
【0018】
前記原料供給口11は、前述のように、リヤベントシリンダ5の周方向で、かつ、スクリュ軸断面で前記スクリュフライト上部端20より下方に位置するリヤベントシリンダ5の横(側面1C)又は下部(底面1D)に配設され、リヤベント開口穴8Aは、シリンダ1の上部に配設されている。
【0019】
従って、前述の構成により、分離した揮発性物質のガスがリヤベント8のリヤベント開口穴8A全体に拡散して上昇するようになり、流体が流れる空間容積も拡大することができるため、分離した揮発性物質のガス流体の流速が低下して、粉々になった組成物の粒子がガス流体の流れにより浮上することなく、リヤベント開口穴8Aから揮発性物質のみシリンダ1の系外へ除去することができる。
【0020】
また、原料供給口11がスクリュ2が介在した位置であるため、粉々になった組成物の粒子をスクリュ2が捕獲して搬送することができるため、粉々になった組成物の粒子がリヤベント開口穴8Aや排気ライン12に従来のように堆積して揮発性物質の排気及び排出を妨げることはない。
【0021】
本発明におけるリヤベント開口穴8Aの形状は、シリンダ1の製作時の加工を考慮した場合、丸型もしくは四角型(図2で示す)が望ましい。また、リヤベント開口穴8Aの開口面積Aは大きければ大きいほど、揮発性物質のガス流速を低下させることができるが、シリンダ1の剛性を考慮すると、二軸スクリュ押出機の場合、2.0D≦A≦10D2(Dはシリンダ内径(mm)である)とすることが好ましいことが判明した。
【0022】
尚、前述のリヤベント開口穴8Aの空間面積Aの範囲は、通常に使用されるシリンダ1では、開口面積Aとシリンダ内径Dは実測値より、一般的に次の関係となる。
標準ベントの場合 :A≒2.4D
ロングベントの場合:A≒9.0D
上記の関係から、本件では開口面積Aの適用可能な範囲として、
2.0D≦A≦10D
としている。
また、流速の低減効果については、発明の効果として、「ガス流速を、約1/3〜1/17に低下できる。」としているが、この値は実験値ではなく、理論値であって、ガス流速は、以下の式で求めることができる。
V=Q/A V:ガス流速
Q:ガス流
A:開口面積
従来技術におけるAは、図9に示す空間面積A1に相当するが、ここで空間面積A1とシリンダ内径Dは実測値より、一般的に次の関係となる。
空間面積A1=0.6D
この空間面積A1と、前述の開口面積Aからガス流速Vを比較すると、Qは一定であるため
(0.6D)÷(2.0D2)=約1/3
(0.6D)÷(10D)=約1/17
即ち、ガス流速の低減は、約1/3〜1/17となることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、押出機の揮発成分の脱揮装置及び方法だけではなく、食品や薬品等の押出成形にも適用可能である。
【符号の説明】
【0024】
1 シリンダ
2 スクリュ
3 モータ
4 減速機
5 リヤベントシリンダ
7 フロントベントシリンダ
8 リヤベント
8A リヤベント開口穴
9 フロントベント
10 原料溶液
11 原料供給口
12 排気ライン
13 真空排気ライン
14 混練部
20 スクリュフライト上部端
1C 側面
1D 底面
A 開口面積

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリュ(2)を内設したシリンダ(1)の外周にリヤベント(8)とフロントベント(9)及び原料供給口(11)とを有し、前記原料供給口(11)から供給された原料溶液(10)から揮発性物質を前記リヤベント(8)及びフロントベント(9)から除去するようにした押出機の脱揮装置において、
前記原料供給口(11)は、前記リヤベント(8)が設けられた前記シリンダ(1)のリヤベントシリンダ(5)に設けられていることを特徴とする押出機の脱揮装置。
【請求項2】
前記原料供給口(11)は、前記リヤベントシリンダ(5)の周方向で、かつ、スクリュ軸断面でスクリュフライトのスクリュフライト上部端(20)より下方に位置する前記リヤベントシリンダ(5)の側面(1C)又は底面(1D)に配設され、前記リヤベント(8)のリヤベント開口穴(8A)は前記リヤベントシリンダ(5)の上面に形成されていることを特徴とする請求項1記載の押出機の脱揮装置。
【請求項3】
前記リヤベント開口穴(8A)の開口面積(A)は、二軸スクリュ押出機の場合で、2.0D≦A≦10D(Dは二軸スクリュ押出機のシリンダの内径)であることを特徴とする請求項2記載の押出機の脱揮装置。
【請求項4】
スクリュ(2)を内設したシリンダ(1)の外周にリヤベント(8)とフロントベント(9)及び原料供給口(11)とを有し、前記原料供給口(11)から供給された原料溶液(10)から揮発性物質を前記リヤベント(8)及びフロントベント(9)から除去するようにした押出機の脱揮方法において、
前記原料供給口(11)は、前記リヤベント(8)が設けられた前記シリンダ(1)のリヤベントシリンダ(5)に設けられていることを特徴とする押出機の脱揮方法。
【請求項5】
前記原料供給口(11)は、前記リヤベントシリンダ(5)の周方向で、かつ、スクリュ軸断面でスクリュフライトのスクリュフライト上部端(20)より下方に位置する前記リヤベントシリンダ(5)の側面(1C)又は底面(1D)に配設され、前記リヤベント(8)のリヤベント開口穴(8A)は前記リヤベントシリンダ(5)の上面に形成されていることを特徴とする請求項4記載の押出機の脱揮方法。
【請求項6】
前記リヤベント開口穴(8A)の開口面積(A)は、二軸スクリュ押出機の場合で、2.0D≦A≦10D(Dは二軸スクリュ押出機のシリンダの内径)であることを特徴とする請求項5記載の押出機の脱揮方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−116025(P2011−116025A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275368(P2009−275368)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】